荒野の空を〇3
- 2024/12/05 18:10:22
奴が片手で俺に対抗してたのは、奴の利腕の神経が切られているからで。奴の犯した戦争犯罪は既にそれで贖われていると。不覚にも兄貴が言ったんだ。
でもさ。納得行かねぇんだよ。俺は。だって、親父は死んじまってるし。どうしてもそれで責任が“終わり”だなんて、俺は納得できない。だから。
「無抵抗で刺される痛みをテメェも味わってみろよ。」って、俺がアイツの腹を刺した──
「…ごめん。本当にごめん。」
平謝りに謝るしかない。何つっても俺があいつを“刺した”って事実は変わらないのだから。
ロインの言う通りに、黙って聞いていた。いや、黙らざるを得なかった。言葉が出ないんだ。彼から告げられる事実に。私はロインの顔を見つめているのに、見えていない。
クロードが生きていた。でも、片腕しか動かなくて、その片腕は責任を取って奪われたものだと。私のせいだ、と思ったのも束の間。ロインが最後に言った一言で全てが覆る。
「………彼は、生きてる、よね?」
気づくと立ち上がってロインの前まで進んでいた。そして夜だと言うことも忘れて、声を出してしまう。
「殺してないよね…?彼は、…クロードはまだ生きてるよね?!、お願い、そう言って!!!じゃないと私は貴方のこと…!!」
彼の胸元を握りしめながら叫んだ後、ハッとした。私は今、何を言おうとしたんだ。「貴方を殺してやる」とでも、言おうとしたのか。私の表情を見ようとしない彼に、もしかしたらと、思ってしまう。その現実を受け止めれる程、彼の存在は私に取って軽いものではなかったし、私は強くなかった。
私はその場に崩れ落ちるように倒れた。彼の横顔が、そしてこちらを振り向き微笑む表情が一瞬目の前に映る。なんでこんな時に思い出してしまうのだろう。その幻影を目に映らないよう、私は手で顔を覆った。
「…ごめん。本当に悪かった。」
クレアの姿にロインはそれしか言えなかった。こうなることが分かっていたから…あの日街から帰ってきた時も、クレアの笑顔を見た瞬間言い出せなくなってしまった。
「よっぽどの事が無い限り、アイツは生きてるよ。刺すのに使った“イチコロ”っていう技はさ、相手を麻痺させて捕獲する技なんだ。エールボルドの村長おやっさんが言ってたように、本当は魔獣相手に使ってた技で…」
勿論人間相手だって事をわかってて使用したんだし。その分の手加減もちゃんと取っている。それに刺した後の処置も、兄貴が的確にしてくれたお陰で「人間相手でも使えるんじゃねぇか!?」と俺が錯覚する程、順調に昏睡状態に陥ってくれたし。
余程の体調急変がない限り。誰かが勝手に危篤状態と勘違いして、変な薬や心臓マッサージなんかをしなければ。問題なんて起きる筈が無いんだ。
とはいえ。結局アレ以来ヤツの姿を見ていない上、兄貴にも「キゾンで療養する」という噂しか知らないと言われた。だから、今のロインには「絶対に生きてる」なんていう無責任で烏滸がましい事を、クレアに向かって言う度量は無い。
暫く口を噤んだまま、蹲るクレアをロインは見つめていた。自分がやった事に後悔が無いから更に性質が悪いんだ、と。ロインは自分で自身の性質に苦虫を噛み潰す。
「好きなだけ、泣けばいいよ。俺は先に戻るから、さ。」
このままクレアを一人にするのは、忍びない。だが、敢えて明るく声をかけると、ロインは踵を返した。
私がここに来た理由はたった一つ。_あの人に…クロードに会うためだ。ここに来る前にリドーから彼がこの会場に来ていることを教えてもらった。彼も私のことを覚えていてくれているようで、少し安心した。馬車から降りて散らばる村人たちの中で、一番最後までその場に留まっていた。するとリドーが近づいてきた。
「…クロードは、どこにいるの?」
一応一通りの約束事を終えれば後は無礼講になるらしい。クロードはアルバレスと共に王女の傍らに立ち、不遜な輩が暴挙に出ないか、終わるまでの間眼を光らせていた。
無事に精礼祭の開幕セレモニーが済んで、迎賓館に引き上げる一行に倣って、ルアハ王女を後方から護衛する。距離を保ちつつ歩くクロードは突然、王女に声を掛けられた。
「クロード。」
それまで機嫌よく他の貴賓達との歓談していたにも拘らず、彼女は突如足を止めた。呼ばれたクロードは静かに指名を受けて、軽く頭を下げて待つ。王女の事だ。何かまた突拍子もない事を思い付いたのだろう。顔には出さないが、困ったものだと内心苦笑いしたのだが。
「貴方、今から休暇を取りなさい。」
「…は?」
あまりに唐突な命令に、クロードは戸惑った。護衛官として当然この後も王女等に付き従うつもりでいたからた。
同僚のアルバレスや他の事務官らも驚く様子はなく。よくわからないが、何か不評を買うようなことをしてしまったのか、と反省する。クロードのそんな考えを見越してか、王女は強い口調で叱咤するように言い放った。
「働き過ぎなの、貴方は。きちんと休息を取る姿を部下に見せるのは、上に立つ者として必要不可欠だと自覚しなさい。」
何のことだかわからずに、クロードは困惑する。十分に体は休めているし、任務に支障を来たすような事もない。そんな風に戸惑っていると、更に王女は詰めてきた。
「この間もその前も、休日にボランティアで部下の手伝いに回っていたじゃないの。そんなに仕事がしたいというなら、これは絶対命令よ。クロード・シーバック、今から3日間、全力で祭りを楽しんできなさい!!」
強制的にその場で服を脱がされ、護衛用の制服を取り上げられる。代わりに一般人の服装がクロードに押し付けられた。用意周到に謀られたように、宛がわれた服を着させられて。クロードは各会場で使える定額チケットを渡されると、王女一行から強引に引き剥がされていく。
そうして急遽、祭の会場へ放り出された。
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クレア様にもリドーから定額チケット渡しますので。
一応一通りの約束事を終えれば後は無礼講になるらしい。クロードはアルバレスと共に王女の傍らに立ち、不遜な輩が暴挙に出ないか、終わるまでの間眼を光らせていた。
無事に精礼祭の開幕セレモニーが済んで、迎賓館に引き上げる一行に倣って、ルアハ王女を後方から護衛する。距離を保ちつつ歩くクロードは突然、王女に声を掛けられた。
「クロード。」
それまで機嫌よく他の貴賓達との歓談していたにも拘らず、彼女は突如足を止めた。呼ばれたクロードは静かに指名を受けて、軽く頭を下げて待つ。王女の事だ。何かまた突拍子もない事を思い付いたのだろう。顔には出さないが、困ったものだと内心苦笑いしたのだが。
「貴方、今から休暇を取りなさい。」
「…は?」
あまりに唐突な命令に、クロードは戸惑った。護衛官として当然この後も王女等に付き従うつもりでいたからた。
同僚のアルバレスや他の事務官らも驚く様子はなく。よくわからないが、何か不評を買うようなことをしてしまったのか、と反省する。クロードのそんな考えを見越してか、王女は強い口調で叱咤するように言い放った。
「働き過ぎなの、貴方は。きちんと休息を取る姿を部下に見せるのは、上に立つ者として必要不可欠だと自覚しなさい。」
何のことだかわからずに、クロードは困惑する。十分に体は休めているし、任務に支障を来たすような事もない。そんな風に戸惑っていると、更に王女は詰めてきた。
「この間もその前も、休日にボランティアで部下の手伝いに回っていたじゃないの。そんなに仕事がしたいというなら、これは絶対命令よ。クロード・シーバック、今から3日間、全力で祭りを楽しんできなさい!!」
強制的にその場で服を脱がされ、護衛用の制服を取り上げられる。代わりに一般人の服装がクロードに押し付けられた。用意周到に謀られたように、宛がわれた服を着させられて。クロードは各会場で使える定額チケットを渡されると、王女一行から強引に引き剥がされていく。
そうして急遽、祭の会場へ放り出された。
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この次に必ずクレア様を見つけます!!
一応一通りの約束事を終えれば後は無礼講になるらしい。クロードはアルバレスと共に王女の傍らに立ち、不遜な輩が暴挙に出ないか、終わるまでの間眼を光らせていた。
無事に精礼祭の開幕セレモニーが済んで、迎賓館に引き上げる一行に倣って、ルアハ王女を後方から護衛する。距離を保ちつつ歩くクロードは突然、王女に声を掛けられた。
「クロード。」
それまで機嫌よく他の貴賓達との歓談していたにも拘らず、彼女は突如足を止めた。呼ばれたクロードは静かに指名を受けて、軽く頭を下げて待つ。王女の事だ。何かまた突拍子もない事を思い付いたのだろう。顔には出さないが、困ったものだと内心苦笑いしたのだが。
「貴方、今から休暇を取りなさい。」
「…は?」
あまりに唐突な命令に、クロードは戸惑った。護衛官として当然この後も王女等に付き従うつもりでいたからた。
同僚のアルバレスや他の事務官らも驚く様子はなく。よくわからないが、何か不評を買うようなことをしてしまったのか、と反省する。クロードのそんな考えを見越してか、王女は強い口調で叱咤するように言い放った。
「働き過ぎなの、貴方は。きちんと休息を取る姿を部下に見せるのは、上に立つ者として必要不可欠だと自覚しなさい。」
何のことだかわからずに、クロードは困惑する。十分に体は休めているし、任務に支障を来たすような事もない。そんな風に戸惑っていると、更に王女は詰めてきた。
「この間もその前も、休日にボランティアで部下の手伝いに回っていたじゃないの。そんなに仕事がしたいというなら、これは絶対命令よ。クロード・シーバック、今から3日間、全力で祭りを楽しんできなさい!!」
強制的にその場で服を脱がされ、護衛用の制服を取り上げられる。代わりに一般人の服装がクロードに押し付けられた。用意周到に謀られたクロードへのドッキリ企画など本人が知る由もなく…そうして急遽、祭の会場に放り出された。
1.精礼祭開幕セレモニーの一環で行われる舞踏会に参加
→クレア様ドッキリ企画。発案者、ルアハ王女。クロードから舞踏会場でクレア様にプロポーズ。物語開始時の舞踏会の再現に至る。
2.祭の会場敷地内、人混みの中で出逢う。
→A.クロードが見つける。B.クレア様が見つける。C.二人同時。
A.B.C.のどれでも、クレア様には会場案内役にリドーを付けます。
1.精礼祭開幕セレモニーの一環で行われる舞踏会に参加
→クレア様ドッキリ企画。発案者、ルアハ王女。クロードから舞踏会場でクレア様にプロポーズ。物語開始時の舞踏会の再現に至る。
2.祭の会場敷地内、人混みの中で出逢う。
→A.クロードが見つける。B.クレア様が見つける。C.二人同時。
A.B.C.のどれでも、クレア様には会場案内役にリドーを付けます。
→クロードが先にクレア様を見つけたなら、一目散に駆け寄ります。
最終的に、1.へと進んでいくかと
1.精礼祭開幕セレモニーの一環で行われる舞踏会に参加
→ルアハ王女の企画でクロードかクレア様にパートナーへ公開お誘い。物語開始時の舞踏会の再現に至る。
2.祭の会場内で偶然クロードを見かける。
→クロードが先にクレア様を見つけたなら、一目散に駆け寄ります。
…っとに、何ガキみたいなことしてんだ俺は。
自分でもわかっているだけに、ロインは歯痒かった。ちゃんとクレアの幸せを祝福してやりたい気持ちはあるのだ。グシャグシャと自分の頭を掻き、まともに顔を見せれなくてそっぽを向く。それでも自分の中の気持ちにどうにかこうにか決着をつけて、ロインは改めてクレアの方を向いた。
「会って来いよ。会って、捕まえたら絶対に離すなよ。なっ!」
最後はあっけらかんとした笑顔で応援する。やっぱりクレアには笑っていて欲しい。だから、気持ちよく送り出してやるんだ。
(クロードに盗られる)悔しさはある。けど何が一番大事なのかを考えたら、自ずと答えは出ているから。思い切って言ったら案外気持ちはすっきりした。
…っとに、何ガキみたいなことしてんだ俺は。
自分でもわかっているだけに、ロインは歯痒かった。ちゃんとクレアの幸せを祝福してやりたい気持ちはあるのだ。グシャグシャと自分の頭を掻き、まともに向き合い切れなくてそっぽを向く。それでも自分の中の気持ちにどうにかこうにか決着をつけて、ロインは改めてクレアに顔を見せた。
「会って来いよ。会って、捕まえたら絶対に離すなよ。なっ!」
最後はあっけらかんとした笑顔で応援する。やっぱりクレアには笑っていて欲しい。だから、気持ちよく送り出してやるんだ。
(クロードに盗られる)悔しさはある。けど何が一番大事なのかを考えたら、自ずと答えは出ているから。
…っとに、何ガキみたいなことしてんだ俺は。
自分でもわかっているだけに、ロインは歯痒かった。ちゃんとクレアの幸せを祝福してやりたい気持ちはあるのだ。グシャグシャと自分の頭を掻き、まともに向き合い切れなくてそっぽを向く。それでも自分の中の気持ちにどうにかこうにか決着をつけて、ロインは改めてクレアに顔を見せた。
「会って来いよ。会って、捕まえたら絶対に離すなよ。なっ!」
最後はあっけらかんとした笑顔で応援する。やっぱりクレアには笑っていて欲しい。だから、気持ちよく送り出してやるんだ。
(クロードに盗られる)悔しさはある。けど何が一番大事なのかを考えたら、自ずと答えは出ているから。
「いいんだよ。」
優しくそう声をかけた。妙にすっきりとした気持ちだった。
「怒っていいんだよ。怒鳴ったって、そんなの当り前じゃないか。」
ただ、はっきりと言えることがロインにはあった。“仕方がない”その言葉で全てを片付けて欲しくない。そんな気持ちだ。彼女にとって大切な人だったから猶のこと、沸き起こる感情があるのは当然。自分だってそうだ。だから、その気持ちは大事にして欲しい。そして、その後は。
自分の考えを伝えるように、ロインは言葉にした。
「俺はもう、アイツのこと、アイツが親父にしたこと、許してる。」
ま、腹立たしいのは今でも変わらねぇけどな。と言いながら豪快に笑った。
憎いからって何も怒り続けなくてもいい。許しても、憎いモノは憎い。
それでも何が違うのかはきっと、自分がちゃんと相手を認められるようになれたかどうかだ。
「許してくれって俺から催促するのは変だけどさ。許してくれるだけで、十分すぎるんだぜ。」
照れ隠しでぐしゃぐしゃとクレアの頭を撫で回す。あとちゃんと髪を指で梳き直すと、手のひらでクレアの両頬を優しく挟んだ。
「有り難う、な。」
真剣な眼差しと共に、ゆっくりとロインは顔を近づけ、唇でクレアの顔に触れる。本当は…唇に重ね合わせたかったけれど、流石にそいつはやり過ぎだと思って敢えてずらした。
思った以上にクレアの頬っぺたは柔らかかった。
-------------
お待たせしました。ロインは調子こいてます。
「いいんだよ。」
優しくそう声をかけた。妙にすっきりとした気持ちだった。
「怒っていいんだよ。怒鳴ったって、そんなの当り前じゃないか。」
ただ、はっきりと言えることがロインにはあった。“仕方がない”その言葉で全てを片付けて欲しくない。そんな気持ちだ。彼女にとって大切な人だったから猶のこと、沸き起こる感情があるのは当然。自分だってそうだ。だから、その気持ちは大事にして欲しい。そして、その後は。
自分の考えを伝えるように、ロインは言葉にした。
「俺はもう、アイツのこと、アイツが親父にしたこと、許してる。」
ま、腹立たしいのは今でも変わらねぇけどな。と言いながら豪快に笑っていた。
憎いからって何も怒り続けなくてもいい。許しても、憎いモノは憎い。
それでも何が違うのかはきっと、自分がちゃんと相手を認められるようになれたかどうかだ。
「許してくれって俺から催促するのは変だけどさ。許してくれるだけで、十分すぎるんだぜ。」
照れ隠しでぐしゃぐしゃとクレアの頭を撫で回す。あとちゃんと髪を指で梳き直すと、手のひらでクレアの両頬を優しく挟んだ。
「有り難う、な。」
真剣な眼差しと共に、ゆっくりとロインは顔を近づけ、唇でクレアの顔に触れる。本当は…唇に重ね合わせたかったけれど、流石にそいつはやり過ぎだと思って敢えてずらした。
思った以上にクレアの頬っぺたは柔らかかった。
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お待たせしました。ロインは調子こいてます。
涙目を浮かべる私にロインは笑いかかる。もう彼をクロードと重ねることはなかった。私の中で、ロインはロインで。クロードはクロードだ。
「……ただいま。」
か細く伝えたその後に、もう一度噛み締めるようにロインに微笑みながら伝える。
「ただいま。…ロイン。」
それから私はロインに村を出てからの出来事を話した。気づいたら森の中を歩いていたこと。野獣に襲われそうになったところをリドーに助けてもらったこと。熱を出し、リドーのもとで療養していたこと。そして、クロードが生きていることを。
「ロインがしたこと、最初からずっと怒ってないよ。…仕方なかったんだよ、こうなることは。私の探していた大事な人が、ロインの仇だっただけ、…ただ、それだけ。 …ごめんね、あの時…怒鳴ってしまって。」
-------------
遅くなってすみません、、!
明日も一つの方返します!
ああ。なんで、こうも敵わねえんだろうな。クレアの顔を見て無条件に安心する自分がいる。そばにいるだけで、その存在があるだけで、自分を、自信を取り戻せる。
いつの間に…俺はこいつのことがこんなにも好きになっちまったんだろう。
笑おうとして、変に歪んで泣きそうになった。もっと早くに出会えていれば、あんな奴(クロード)ではなく、自分が隣に並んで立って、ずっと先まで共に歩んで行けただろうに。
項垂れたままなのをいいことに、ロインはクレアに近づいた。そして。
「おかえり。」
ロインはそっとクレアを抱き締めた。軽く鼻先をクレアの首筋に埋めるととてもいい匂いがした。
耳元で囁いた声は、ともすれば震えそうだったが、懸命に堪えて気丈に明るく発したつもりだ。そして、照れながらにやけた顔でロインはクレアを真正面から見て、少しふざけ気味に言った。
「あのさ。『ごめん』とか『あの、その』よりも、まずは『ただいま』じゃね?」
そう言ってほしい。クレアの口からちゃんとそう、言葉にして欲しいとロインは願った。
「ロイン!!」
慌てて向かうと、そこには床に転がっている彼の姿があった。すぐに駆け寄り、膝をつきながら上から彼の頬を両手で包む。そして上から彼の顔を覗き込んだ。
「どっか痛いの?!大丈夫?!………っ!」
彼と喧嘩していたことなどすっかり忘れており、我に返ってハッとする。彼と目が合い、すぐに手をどかした。そして一定の距離まで後ろに下がる。
「ごめん、気安く…っ」
俯きながら反省したようにうなだれていた。勝手に村から姿を消して、その間村の手伝いもできずにいたこと。戦後まもなく、居場所がない私をここに置いてくれていたにもかかわらず、…あの日キゾンから逃げてきた私を助けてくれたにもかかわらず。
「…あの、…その…っ」
たった3文字の謝罪の言葉が、怖くて言えなかった。
______________________
遅くなってしまってすみません(..)
片方も今日中にお返事します
「………。」
何度も途中手が止まる。その度に逃げ出すか、どこかへ隠れたい衝動に駆られていた。
あの時はちゃんと心に決めて話した筈だった。だのに今は、責められるんじゃないか、大っ嫌いと見下りを叩きつ付けられるんじゃないかと、不安に押し潰されそうになる。
再び止まった手に、ロインは勢いよく立ち上がってクローゼットに潜り込もうとした。勿論入れる訳がない。渋々机に戻っては、ダッシュでベッドの下に行き、這い蹲る。そして考え直して立ち上がれば、また窓から外へ飛び出そうとする。
「うわあああああっ!!」
どうにもならず、ロインは頭を抱え込んだ。幸いなのは今ここにいるのが自分だけ、だという事だ。こんな妙ちくりんな醜態を他人の目に晒さずに済んでる事だけが、ある意味ロインの救いであった。本当にもうどうしたらいいか分からなさ過ぎて、床でゴロゴロと転がり続けてしまう。これなら子供が地面で手足をバタつかせ駄々をこねる方がマシかもしれない。
誰かーっ!! 教えてくれーっ!!
大声で叫びたいものの、醜態を曝したくはないし、兄貴に相談もできないし。アヨルには絶対「ガキんちょだ」ってバカにされるに決まってるし。もう本当にどうしたらいいんだっ、俺は!!!!
そんな訳で、ロインはたった一人で小屋の中を転げ回っていた。
それから数日、クレアはテントで療養した。今までの疲労も溜まっていたせいか、治りが悪く、思った以上に時間がかかってしまった。その間にもカーナがよく面倒を見てくれた。時折、リドーが様子を見に来てくれた。そのかいもあり、全回復。リドーに申し出をし、村へ戻るように手配してもらった。
朝方、馬車でリドーと共に村へ向かう。村に戻るのは1週間半ぶりくらいか。誰にも言わずに出てきてしまったものだから、不安な気持ちでいっぱいだった。それを見兼ねたリドーが”大丈夫”と一言だけ添えてくれた。
一番の不安はロインだった。一番気に掛けてくれて、傍にいてくれて。あの日もきっと、言いたくなかったと思う。それでも勇気を出して伝えてくれたにもかかわらず、私は酷い言葉を言いかけ、彼の勇気に報いれない態度を取ってしまった。喧嘩別れしたまま、私は彼との時間が止まったままだ。…クロードと、同じように。
しばらくすると馬車が止まった。村に着いたようだ。リドーが先に降り、私を誘導する。馬車から降りて、村の光景を目にする。変わらない姿だった。それぞれがそれぞれの作業をしていた。
その時、一人の少年がこちらを見て指差しをする。「帰ってきた!!」と。
その声に反応した他の人達がこちらを見る。リドーと私を交互に見つめて、安心した様子を浮かべてこちらに歩み寄ってきた。皆、事情を知っているようだった。
”良かった無事で…!” ”心配だったけど、リドー君がいればねって、皆で話してたの” そう声を掛けてくれるところを、苦笑いしか浮かべられなかった。そして1人がこういった。
”ロインは小屋で休んでるよ”
その言葉を聞き、私はゆっくりと彼らから離れて小屋へ向かった。どんな表情をしていいか分からない。不安しかない。けれど、彼に会わなきゃいけないと思った。
「わかった。ロインには伝えておくよ。クロードは…時間調整が必要だと思うから、もう暫く待って貰えるかな。」
そう言いながら、脱げた布団をクレアの肩にかけた。
「まずはきちんと体力を回復して。それから村へは僕が送るよ。」
もう寝なさいとクレアに促す。どのみちクロードが戻ってきたのなら、今の野暮な仕事からリドーも解放されるだろう。そうなれば時間の余裕も持てるだろうし、思っていたよりも早く村に戻れる可能性だって出てくる。リドーにとって万々歳だ。
「じゃあ僕は仕事に戻るよ。何かあったらカーナに伝えてくれればいいから。」
そう言って、リドーは立ち上がるとテントを後にした。
___________
お待たせ致しました。短くて済みません。
この後時間を進めていただいて構いません。クロードが復帰後は、リドーの護衛任務は終了します。
このまま暫く養生するもよし。ロインと仲直りしに村に戻ったもよし。村に戻る為の旅立つ所からでもよし。です。(←3番目のは、クロードとのニアミスイベントなんかできそうですね)
「わかった。ロインには伝えておくよ。クロードは…時間調整が必要だと思うから、もう暫く待って貰えるかな。」
そう言いながら、脱げた布団をクレアの肩にかけた。
「まずはきちんと体力を回復して。それから村へは僕が送るよ。」
もう寝なさいとクレアに促す。どのみちクロードが戻ってきたのなら、今の野暮な仕事からリドーも解放されるだろう。そうなれば時間の余裕も持てるだろうし、思っていたよりも早く村に戻れる可能性だって出てくる。リドーにとって万々歳だ。
「じゃあ僕は仕事に戻るよ。何かあったらカーナに伝えてくれればいいから。」
そう言って、リドーは立ち上がるとテントを後にした。
___________
お待たせ致しました。短くて済みません。
この後時間を進めていただいて構いません。クロードが復帰後は、リドーの護衛任務は終了します。
このまま暫く養生するもよし。ロインと仲直りしに村に戻ったもよし。村に戻る為の旅立つ所からでもよし
。です。(←3番目のは、クロードとのニアミスイベントなんかできそうですね)
少し眉を下げながら彼の話を聞き終える。ロインも私も、過去に囚われてるんだ。憎しみと後悔をまだ拭い切れてない。でも、今少しだけ、私の心は軽くなった気がする。
「…ロインのことは、怒っていません。彼は私の命の恩人でもありますから…。それにクロードが生きてるなら、私はもう、彼を憎むことはありません。むしろ、私が謝らなきゃ。…勝手に村を出てきちゃったから。」
少し目線を下にしながら、反省しているように落ち着いたトーンで話す。先ほどの口の聞かない様子とは一変して、元に戻ったようだった。
「ちゃんと村に戻ってロインと話したい。その後、クロードに会わせてくれませんか? 私、クロードを置いてベレアンに来てしまったから…私から、あの人に会いに行きたい。きっと…待っててくれてると、思うから。」
正直自信がない。彼が私のことを待っててくれるかどうかは。でも、約束したこと、彼が私にくれた博愛、そして元気でいることに安心しているのであれば。きっと。
「ロインが彼を『仇だ』と言っていた事は知っているよね。」
確認するように、彼女に話しかける。それからゆっくりと言葉を紡ぎ出す。
「僕達の父親は、彼に殺された。生憎だがこれは事実だ。ただ誤解しないで欲しい。戦争の中で敵味方となれば、殺し合う結果になるのは必然だと僕は思っているから。恨みが無いといえば嘘になるけれど、結果としては認めているんだよ。」
淡々と、できる限り穏やかに、調子を変える事なくリドーは話を続けた。クレアがどう感じ、どう思うかは彼女自身の問題だ。
「ただ、僕はその時の状況を詳細に弟妹に話してしまった。」
本当は、戦争が終わるか落ち着いてから、ゆっくりと言葉を選んで話せばよかった。気が動転していたのは否めないし、長兄としてそれでも考慮すべきだったと、今は思う。
「二人の前で顛末を話した所為で、弟にはちゃんと悲しむ余裕を与えてやれなかった。泣き出すアヨルを宥めるのを優先してしまったんでね。…その分、あいつは憎悪に感情を走らせてしまったんだと…思う。あいつの性格も考えてやれていれば、こうなる事はきっと避けられた。」
父親の最期の瞬間を目の当たりにして、遠くから見ているしか出来なかった自分自身、精神を保つのは容易じゃなかった。それでもその衝撃を弟に半分肩代わりさせてしまったことが、この結果を招いたと悔いている。
「弟のやってしまった事を、許してくれ、と言えた義理じゃないけれど。どうかせめてあいつの心情を、少しでもいいから汲んでは貰えないだろうか。…そして、僕からもクロードに傷を負わせた事、改めて謝罪します。」
頼み込むようにリドーは頭を下げた。最終的に決めるのはクレアである。弟の為に出来る限りの力添えになる事を願って、彼女に訴えた。
実質、弟の恋が実る確率は限りなく低い。それでもチャンスがあるなら掛けれるだけの手は打ってやりたいという兄弟心で顔を上げる
「クレアさん。起こってしまった過去は変えられない。けれどこれから先の未来は自分達の手で作り出せる。責める気持ちがあるなら、もう二度と繰り返さない為に、顔を上げて前を向いて欲しい。過去に囚われ続けるのではなくて、ね。」
そうリドーはクレアを諭す様に言った
クロードが生きている、そしてここにいる。すぐ近くにいる。その言葉に心を殴られたような衝撃とともに、我に返った。この人たちの会話は、クロードが過去の人だと思わせるような口ぶりで話していなかった。今も生きていて話を聞いたことがあると。…本当に生きているのだ、あの人が。そして会える場所に、すぐそこにいる。そして私が元気でいることを感謝している、と。ならば、彼もまた私が生きていることを知っているのだ。きっと、ずっと前から。
すぐにでも会いたい、会いたいのに…会う勇気が出ない。あんな別れ方をして、かなり時間も経っていて。お互いに生きていることを知るすべがなかったから、こうして今、偶然的にも彼を知っている人物と出会っている。それでもどんな風に彼と会っていいのか、不安の種が生まれた。
一方、事の次第を知っているリドーがロインについて、教えてくれるという。アヨルからも事情を聞いていたつもりだが、他にも何かあるのだろうか。
私はキョトンとした表情で彼を見つめることしかできなかった。
「クレアさん。まず、これだけははっきり言っておく。クロード・シーバックは生きている。彼は今、この駐屯地にいる。」
強い語調でリドーはクレアに言った。事実だし。第一しつこく、彼が『死んだ』などと吹聴されても困る。その上で、今度は少し落ち着いた口調で彼女に語り掛けた。
「もう一つ。言わせて貰えば、彼は感謝していたんだよ。貴女が元気でいる事に。それに、彼の腕の事は毒霧大戦での罪価だと聞いている。」
戦争後、初めてロインと出会ったあの日。ロインはリドーにクレアの事も話していた。クロードが二人に近づいたのも、考えてみればクレアの名前が聞こえてきたからかもしれない。リドー自身、クロードが戦犯の刑を終えて同じくベハレスコの復興に従事している話を耳にした当初は複雑な心境でいた。が、顔を合わす事も無かったので、直接顔を見るまでは忘れていた位だ。
その後、色々あってクロードの代わりを務める事になってから、彼の為人を否が応にも知り、より複雑な感情を抱く羽目になったんだが。
「今から話す事は、貴女にとって酷い内容かもしれないから、僕の独り言だと思って聞き流してくれていい。でも、どうか自分自身や…ロインを責めたりしないでくれるかな。」
出来るだけ穏やかに、リドーはクレアに笑い掛けた。ただ、本当は誰に責任があるかを捜し出しても無意味だと、客観的には思っていた。誰にも責任はあるし、ある意味皆被害者であり加害者だ。戦争、という大きな流れの中で生きる限り、それは免れない問題だと。
そう思うが故の告白である。
「ロインにあそこまでの憎しみを、彼に(対して)持たせてしまったのは、僕なんだ。」
------
リドーの告白は長くなるので、一旦この時点で切ってみますね。(次のロルで書くつもりです)
「クレアさん。まず、これだけははっきり言っておく。クロード・シーバックは生きている。彼は今、この駐屯地にいる。」
強い語調でリドーはクレアに言った。事実だし、第一しつこく彼が『死んだ』などと吹聴されても困る。その上で、今度は少し落ち着いた口調で彼女に語り掛けた。
「もう一つ。言わせて貰えば、彼は感謝していたんだよ。貴女が元気でいる事に。それに、彼の腕の事は毒霧大戦での罪価だと聞いている。」
戦争後、初めてロインと出会ったあの日。ロインはリドーにクレアの事も話していた。クロードが二人に近づいたのも、考えてみればクレアの名前が聞こえてきたからかもしれない。リドー自身、クロードが戦犯の刑を終えて同じくベハレスコの復興に従事している話を耳にした当初は複雑な心境でいた。が、顔を合わす事も無かったので、直接顔を見るまでは忘れていた位だ。
その後、色々あってクロードの代わりを務める事になってから、彼の為人を否が応にも知り、より複雑な感情を抱く羽目になったんだが。
「今から話す事は、貴女にとって酷い内容かもしれないから、僕の独り言だと思って聞き流してくれていい。でも、どうか自分自身や…ロインを責めたりしないでくれるかな。」
出来るだけ穏やかに、リドーはクレアに笑い掛けた。ただ、本当は誰に責任があるという事を捜し出しても無意味だと。誰にも責任はあるし、ある意味皆被害者で加害者だ。敢えて言うなら戦争と言う大罪を招いた時代そのものが悪、
「ロインにあそこまでの憎しみを、彼に(対して)持たせてしまったのは、僕なんだ。」
”キゾンの氷鷹”…その異名を聞けば、ベレアン国民のほとんどが嫌悪することだろう。非道な男だと恐れ、非難する者だっている。ロインもその一人だった。知らないわけではなかった、けれど。私の見ていた彼は、世間から謳われるほど、冷酷な人ではなかった。
「あの人は!!」
ガバっと布団から身体を起こした。否定したかった。彼はそんな人じゃないんだと、ただただ否定したかった。
「…あの人は、そんな名前で恐れられるような、…怖い人じゃないっ… とっても優しくて、不器用で…、…温かい、人だから…っ 」
溢れ出す涙と同じように、感情が溢れて、辛くて仕方がなかった。
「…ロインが、あの人と会ったって聞いたの。片腕が動かなくなってたことも、生きているか分からないことも、全部聞いた。…私、ずっと何も知らなかった。知らないで、…いつかきっと、会えるって。それまで元気でいようって…っ だけど、間違ってた。…ロインが手を上げたから、じゃない。…私が、…私がクロードを傷つけて、逃げなければ。…キゾンに戻るクロードを、強引にでも2人でもっと遠くに逃げていたら…!クロードは、片腕を失わずに済んだの!今も元気で、生きてたはず…なの…っ 私が、私があの人から何もかも、…奪ったの…っ 絶対、私のこと恨んでるから、…大嫌いになっちゃった、はずだから…っ」
幼い言葉遣いに、涙をボロボロと流した。
「クレア・ロバーツさん。貴女の事情は少なからず弟のロインから聞いている。妹のアヨルが行方不明になった時に必死で探してくれた事も、キゾン兵を前に暴走しかけたロインを体を張って止めくれた事も、貴女が以前キゾン王国にいた事も、僕は知っています。」
出来るだけゆっくりと、語り聞かせるようにリドーは話した。弱っている精神がまだ混乱を来たしている、とリドーは考えていた。それで確かめるべくクレアに問いかける。
「クレアさん。貴女が言ってる“クロード”という人物は、“キゾンの氷鷹”と謂われたキゾン王国騎士団長の一人、クロード・シーバックで間違いないですか?」
洪水後のアヨルが大怪我を負った時の話もロイン伝で把握している。あの時ロインが暴走したが、大事になる前に相手の兵士が自腕を盾に弟の刃を防ぎ、気絶させて収めた話も、彼がどうやら騎士であった事や、別れる前にクレアと何かやり取りをしていた事、それ以後クレアが肌身離さず持っていた短刀が見当たらない事、短刀にアヨルの御守りと同じ紋章の刻まれていた事、等々。
しかも、その短刀がどういう訳かクロード・シーバックの手元にあった。ロインが刺した後に本人の懐から転げ落ちて、ロインが信じられない位に動揺し、その理由も訊いたから、それがクレアの持っていた短刀で間違いない。
リドーはじっと、クレアの瞳を見つめ、彼女が答えるのを待った。
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クレア様の件…ノープログレム、です。つか、それも醍醐味!!ですから。
(そこからクレア様の心にどう…リドーの言葉を落とし込んでいくかが、腕の見せ所!!)
うまくクレア様に響いて頂けると嬉しいな…と思いつつ。多分そう易々とはいかぬものだと、観ておりますのでどうぞご心配なく。
十二分にこちらは楽しませてもらってますよ。
サイルは自分自身の顔は見れません。が、多分無自覚に泣いてます。
カイ様に打った薬は、数分で痺れが切れる位の弱い物なので。少し喋り難い程度まで、状態は落ち着いているかと思われます。
サイルはまだ、ハリが生きていること知らない、ですしね。
「クレア・ロバーツさん。貴女の事情は少なからず弟のロインから聞いている。妹のアヨルが行方不明になった時に必死で探してくれた事も、キゾン兵を前に暴走しかけたロインを体を張って止めくれた事も、貴女が以前キゾン王国にいた事も、僕は知っています。」
出来るだけゆっくりと、語り聞かせるようにリドーは話した。弱っている精神がまだ混乱を来たしている、とリドーは考えていた。それで確かめるべくクレアに問いかける。
「クレアさん。貴女が言ってる“クロード”という人物は、“キゾンの氷鷹”と謂われたキゾン王国騎士団長の一人、クロード・シーバックで間違いないですか?」
洪水後のアヨルが大怪我を負った時の話もロイン伝で把握している。あの時ロインが暴走したが、大事になる前に相手の兵士が自腕を盾に弟の刃を防ぎ、気絶させて収めた話も、彼がどうやら騎士であった事や、別れる前にクレアと何かやり取りをしていた事、それ以後クレアが肌身離さず持っていた短刀が見当たらない事、短刀にアヨルの御守りと同じ紋章の刻まれていた事、等々。
しかも、その短刀がどういう訳かクロード・シーバックの手元にあった。ロインが刺した後に本人の懐から転げ落ちて、ロインが信じられない位に動揺し、その理由も訊いたから、それがクレアの持っていた短刀で間違いない。
リドーはじっと、クレアの瞳を見つめ、彼女が答えるのを待った。
「クレア・ロバーツさん。貴女の事情は少なからず弟のロインから聞いている。妹のアヨルが行方不明になった時に必死で探してくれた事も、キゾン兵を前に暴走しかけたロインを体を張って止めくれた事も、貴女が以前キゾン王国にいた事も、僕は知っています。」
出来るだけゆっくりと、語り聞かせるようにリドーは話した。弱っている精神がまだ混乱を来たしている、とリドーは考えていた。それで確かめるべくクレアに問いかける。
「クレアさん。貴女が言ってる“クロード”という人物は、“キゾンの氷鷹”と謂われたキゾン王国騎士団長の一人、クロード・シーバックで間違いないですか?」
洪水後のアヨルが大怪我を負った時の話もロイン伝で把握している。あの時ロインが暴走したが、大事になる前に相手の兵士が自腕を盾に弟の刃を防ぎ、気絶させて収めた話も、彼がどうやら騎士であった事や、別れる前にクレアと何かやり取りをしていた事、それ以後クレアが肌身離さず持っていた短刀が見当たらない事、短刀にアヨルの御守りと同じ紋章の刻まれていた事、等々。
しかも、その短刀がどういう訳かクロード・シーバックの手元にあった。ロインが刺した後に本人の懐から転げ落ちて、ロインが信じられない位に動揺し、その理由も訊いたから、それがクレアの持っていた短刀で間違いない。
リドーはじっと、クレアの瞳を見つめ、彼女が答えるのを待った。
「クレア・ロバーツさん。貴女の事情は少なからず弟のロインから聞いている。妹のアヨルが行方不明になった時に必死で探してくれた事も、キゾン兵を前に暴走しかけたロインを体を張って止めくれた事も、貴女が以前キゾン王国にいた事も、僕は知っています。」
出来るだけゆっくりと、語り聞かせるようにリドーは話した。弱っている精神がまだ混乱を来たしている、とリドーは考えていた。それで確かめるべくクレアに問いかける。
「クレアさん。貴女が言ってる“クロード”という人物は、“キゾンの氷鷹”と謂われたキゾン王国騎士団長の一人、クロード・シーバックで間違いないですか?」
洪水後のアヨルが大怪我を負った時の話もロイン伝で把握している。あの時ロインが暴走したが、大事になる前に相手の兵士が自腕を盾に弟の刃を防ぎ、気絶させて収めた話も、彼がどうやら騎士であった事や、別れる前にクレアと何かやり取りをしていた事、それ以後クレアが肌身離さず持っていた短刀が見当たらない事、短刀にアヨルの御守りと同じ紋章の刻まれていた事、等々。
しかも、その短刀がどういう訳かクロード・シーバックの手元にあった。ロインが刺した後に本人の懐から転げ落ちて、ロインが信じられない位に動揺し、その理由も訊いたから、それがクレアの持っていた短刀で間違いない。
リドーはじっと、クレアの瞳を見つめ、彼女が答えるのを待った。
ダリルはクレアの姿を見て、ため息をつく。全く何も話す気は無さそうに見える。きっとカーナとも何も話せていないのだろう。何を頑なに拒んでいるのか、何故、そんな切ない表情を浮かべるのか。しかしふと、その表情が先ほどのクロードの表情と重なって見えた。彼もまた、彼女の名前を聞いて同じような表情を浮かべていた。
「…ちょっとだけ、待ってくれ。」
そうリドーに声を掛けると、ダリルはクレアに近づいた。
「…クロードは、あんたの名前を知っていたよ。クレア・ロバーツ。」
その言葉を聞き、クレアは目を見開いた。辛そうなまま、一点を見つめていた。ダリルは続けようとしたが、これ以上何も言えない気がして口を閉じた。そして立ち上がり、リドーにその場を譲る。
「…さぁ、どうぞ?」
そう言ってダリルが部屋を後にしようとしたとき、「もう、やめて」とか細い声が聞こえる。クレアが零した言葉だった。
「生きてる、はずがない。…覚えてる、わけない。…私があの時、見殺しにしたから。生きてまた会おうだなんて、…馬鹿げた約束を、勝手に信じて。必ず会いに行くなんて、探しにさえしてなくて。誰でもない、…私が、あの人を殺した。」
彼女は何を言っているんだ、クロードは生きている。…もしかして俺が知っているクロードと別人なのか?彼女に問いかけようとしたが、リドーと目が合い、封じされた。俺はそのまま部屋を出ることしかできなかった。
丁度ダリル達も戻ってきたので、一旦洗濯に出す服や替えの着替えを取りに席を離れる。すれ違い様にダリルからアイコンタクトで元気を貰って、カーナはテントの外へ出た。
リドーはクレアを一瞥すると、小声でダリルに話しかける。
「悪いがもう一度、彼女と二人だけで話をさせてもらえないですか。」
多分ダリルが自分を呼んだのは、先刻のやり取りの内容を確認したかったからだろう。けれど実際、あまり詳しく話たくない。どうやら彼もクロードの事は知っているようだった。なのでいずれはバレる話かもしれないが、ロインを巻き込んでのゴタゴタをこれ以上広げたくないのだ。
-------
クレア様とのお話は、後でも先でも大丈夫です。ダリル様に先刻の件を話してからでも良いですよ。
「…悪い、何でもない。…キゾンの知り合いにベレアンの女を紹介してくれ!…なんて、言われてたもんで…、ちょっと聞いてみただけなんだ。…勿論、カーナは紹介したくない、…しな。」
少し恥ずかしそうに言いながら、かなり大雑把な台詞を叩いてみせた。
「俺はカーナのところへ戻る、…お前も来てくれ。」
そう言ってリドーに声を掛けた。
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身体の火照りと関節痛はだいぶなくなってきた。やはり薬がよく聞いているのだろう。ただ、心は凍ったままだった。せっせと看病をしてくれる少女に感謝を伝えることさえも、気持ちが拒んでいた。
”クロードは生きている。彼は、生きているよ。”
その言葉が頭の中で繰り返された。繰り返される度に、心が凍っていくように沈んでいく。信用できなかった。私の気持ちを安心させようと、心をこじ開けようと嘘を付かれているような心地になって。本当は存在しない希望を抱かせられているような気がして。彼を思い出すたびに、素敵な思い出であればあるほど、思い出すことさえ苦痛だった。…彼を忘れられるなら、どれだけ楽だろう。
”生きてまた会おう”
「…あんな約束、…しなきゃよかった」
乾ききった瞳から一粒の涙をこぼして、か細く呟いた。
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遅くなってすみません、、もう一つは夜返しますね
丁度ダリル達も戻ってきたので、一旦洗濯に出す服や替えの着替えを取りに席を離れる。すれ違い様にダリルからアイコンタクトで元気を貰って、カーナはテントの外へ出た。
リドーはクレアを一瞥すると、小声でダリルに話しかける。
「悪いがもう一度、彼女と二人だけで話をさせてもらえないですか。」
多分ダリルが自分を呼んだのは、先刻のやり取りの内容を確認したかったからだろう。けれど実際、あまり詳しく話たくない。どうやら彼もクロードの事は知っているようだった。なのでいずれはバレる話かもしれないが、ロインを巻き込んでのゴタゴタをこれ以上広げたくないのだ。
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クレア様とのお話は、後でも先でも大丈夫です。ダリル様に先刻の件を話してからでも良いですよ。
丁度ダリル達も戻ってきたので、一旦洗濯に出す服や替えの着替えを取りに席を離れる。すれ違い様にダリルからアイコンタクトで元気を貰って、カーナはテントの外へ出た。
リドーはクレアを一瞥すると、小声でダリルに話しかける。
「悪いがもう一度、彼女と二人だけで話をさせてもらえないですか。」
多分ダリルが自分を呼んだのは、先刻のやり取りの内容を確認したかったからだろう。けれど実際、あまり詳しく話たくない。どうやら彼もクロードの事は知っているようだった。なのでいずれはバレる話かもしれないが、ロインを巻き込んでのゴタゴタをこれ以上広げたくないのだ。
だが遮るようにリドーがダリルの言葉を補足する。
「クレア・ロバーツ。知ってますか。」
尋ねるような物言いだが、その目つきは『(お前は)当然知っている』と断定する鋭さだった。その強さに、すぐにはクロードも返答できずに息を飲む。
「…ああ。知っている。」
その気迫の理由がわからず、クロードは一先ずそう答えた。
「貴方に起因する心労が原因で、彼女は今体調を崩してましてね。」
淡々とした口調でリドーは言った。だから彼女に近づくな、と口では言わぬものの、眼差しは強くクロードを非難する。
忘れもしない姿に身体が引き締まるのを感じた。俺たちがキゾンに捕まることになったのも、こうして生きていられることも、きっかけはこいつのせいだからだ。忘れるはずはない。
すると隣でリドーが珍しく険しい表情でクロードを見つめていた。火花が散る音が聞こえる。一体何があったかは分からないが、想像してみたら容易だった。単純に彼らの性格は合わないだろう。
「…久しいな、」
俺は一度彼と理解し合えたと思っている。戦争の真っただ中、俺らの敗北が決まったあの瞬間に。忘れるはずもない。だからこそ、敵対心は沸かなかった。
「…ちょうどよかった、お前に聞きたいことがあったんだ。」
不思議そうな表情を浮かべ、こちらを見つめるクロードに口を開く。
「お前、…ベレアン出身の、女の知り合いがいたりするか? 勿論、カーナ以外に。」
クロードはゆっくりと話している二人に近づいた。両方とも気付いたらしく此方を見てくる。それでもう一人がリドーであると気付いた。こうして二人が普通に居る事を考えれば、罪に問われずに済んだとみてもいいのだろう。少しばかりクロードは胸を撫で下ろし、再度二人に近づいた。リドーとは1カ月ぶりだが、ダリルは果たして覚えているだろうか。
一瞬足を止めたクロードに険しい目をしたまま、リドーは先程の質問の答えをダリルに返す。
「彼、がそうです。」
同僚扱いになっているが。復興に従事した当初は黒く髪を染めていた。騎士団長だった頃は随分厳しかった様だが、比べて今は随分柔和で、あの髪の色が無ければ気づかない人間も多いようだ。実際、リドー自身がそうだった。動かない腕の理由を聞いてなければ、彼が何故髪を染めていたのかさえも分からなかったが。
あの『キゾンの氷鷹』だから、ベレアン民の前で蒼銀髪を晒す訳にいかなかった。
「髪は染めなくて良いんですか。クロード。」
「ああ。後で染め直すつもりだ。」
そう言って笑うクロードを何処となくリドーは冷やかに見つめた。
クロードはゆっくりと話している二人に近づいた。両方とも気付いたらしく此方を見てくる。
すると肩越しにリドーの姿が目に入る。視線でこちらに合図を送っていることに気付いた。カーナもいるこの場に来ないということは、俺にだけ話があるということか。カーナに彼女に事情を問わないようにと、そしてただ彼女の回復を支援することに専念するように伝え、彼女をカーナに任せることとした。
俺はリドーのもとへ駆け寄る。寝ている彼女の様子を聞かれたため、ざっくりと説明した。
「熱はある。安静にさせて、様子見ってところだ。…目は覚めたが、何も話してくれない。こちらを警戒しているよう…に見えたが。…なぁ、あの子は誰だ?」
そうリドーに問う。その答えをリドーは教えてくれた。彼女は自分の弟と村で暮らしているベレアンの人間であること。弟から彼女がいなくなったと連絡を受け、救助の支援に向かっていたところ野獣に襲われ駆けている彼女を見つけたという。リドーにとっては顔見知り程度の女性であることを教えてもらった。どうして突然いなくなったのか、雨の中一人でいたのか。それは本人に聞くしかないだろう。
「…とりあえず、経緯は分かった。…それから、知っていたら…だが。あの子、クロードという人間を探しているようだった。生きているのか、また会えるのかと…。人違いならいいんだ、あの、…お前の同僚に、同じ名前の男が…」
その時、俺の名前が呼ばれる。振り返ればそこに、クロードの姿があった。
少なくとも、ダリルにはちゃんとした話をしておかなくてはいけない。リドー自身、クロードと直接面合わせをしたのはあのロインガ起こした騒動の時だが、恐らくダリルもクロードとは顔を合わせている。あれだけ牢内に声が響いていたのだから。
まあ、クレアとクロードの関係は知らないだろうし、今のクレアの精神状態を考えると、彼女の前では余計な話はしないよう注意しておかないと。
表情には出さないものの、色々と思案しながら一旦宿舎から外へと出る。そしてダリルが来るのを待った。
-------
ひとまずクレア様のことはカーナに任せる形で、ダリル様にはリドーと直接話して頂く方が良いかと思っております。
クロードは登場しますが、まだこの時点ではクレア様に会わせるつもりはございませんので、安心して下さい。←リドーが阻止します。
一応、リドーと二人で話している所へクロードが現れるという想定をしております
「その節は、大変御迷惑をお掛けして申し訳ございません。御尽力頂いたお陰で、この通り無事回復致しました。」
「いえいえ。容体が急変しないか様子見しただけですから。」
対応した医務官は恐縮していた。実際運ばれて来るまでに成された処置が完璧で、しかも行ったのは只の軍の捕虜だという。医師としてほぼ出る幕は無かったのである。
「それで。最初に処置をして頂いた人物にも感謝を申し上げたいのですが。その後の彼について何か伺われている事はございませんか。」
クロードはそれとなくリドーの事を尋ねた。あの後、彼と彼の弟の処遇はクロードの耳にまで届いてはいない。周囲が気を使っていることは肌で感じ取っていた。意識が無くなる最後の最後まで二人が罪に問われないよう訴えたが、果たしてどこまで届いているか、謎であった。
結局医局では情報を得られなかったものの、今度は主のルアハ姫の元へと赴き、クロードは復帰の挨拶に伺う。もし二人が何かしらの罰を受けているようならその陳情を行うつもりでいた。
だが、生憎王女は不在であった。代わりに王女付きの侍従に挨拶をし、そのまま各部署の様子を見て回る。自分が離れていた間の進捗や情報を確認し、すぐに対応できるようにする為であったが。
直接顔を見るのは、王城での牢以来か。誰かと話をしているダリルを見つけ、その後が気になっていた事もあり思わずクロードは声をかけてしまった。
「オーマン隊長!」
クロードはゆっくりと話している二人に近づいた。両方とも気付いたらしく此方を見てくる。
少なくとも、ダリルにはちゃんとした話をしておかなくてはいけない。リドー自身、クロードと直接面合わせをしたのはあのロインガ起こした騒動の時だが、恐らくダリルもクロードとは顔を合わせている。あれだけ牢内に声が響いていたのだから。
まあ、クレアとクロードの関係は知らないだろうし、今のクレアの精神状態を考えると、彼女の前では余計な話はしないよう注意しておかないと。
表情には出さないものの、色々と思案しながら一旦宿舎から外へと出る。そしてダリルが来るのを待った。
-------
ひとまずクレア様のことはカーナに任せる形で、ダリル様にはリドーと直接話して頂く方が良いかと思っております。
クロードは登場しますが、まだこの時点ではクレア様に会わせるつもりはございませんので、安心して下さい。←リドーが阻止します。
一応、リドーと二人で話している所へクロードが現れるという想定をしております
ひとまずクレア様のことはカーナに任せる形で、ダリル様にはリドーと直接話して頂く方が良いかと思っております。
クロードは登場しますが、まだこの時点ではクレア様に会わせるつもりはございませんので、安心して下さい。←リドーが阻止します。
時間軸はクロードが来る前に戻って頂いても全く構いません。(一応、リドーと二人で話している所へクロードが現れるという想定をしております)
クロードは登場しますが、まだこの時点ではクレア様に会わせるつもりはございませんので、安心して下さい。←リドーが阻止します。
ひとまずクレア様のことはカーナに任せる形で、ダリル様にはリドーと直接話して頂く方がよいかと思い…
時間軸はクロードが来る前に戻って頂いても全く構いません。(一応、リドーと二人で話している所へクロードが現れるという想定をしております)
ひとまずクレア様のことはカーナに任せる形で、ダリル様にはリドーと直接話して頂く方がよいかと思い…
「その節は、大変御迷惑をお掛けして申し訳ございません。御尽力頂いたお陰で、この通り無事回復致しました。」
「いえいえ。容体が急変しないか様子見しただけですから。」
対応した医務官は恐縮していた。実際運ばれて来るまでに成された処置が完璧で、しかも行ったのは只の軍の捕虜だという。医師としてほぼ出る幕は無かったのである。
「それで。最初に処置をして頂いた人物にも感謝を申し上げたいのですが。その後の彼について何か伺われている事はございませんか。」
クロードはそれとなくリドーの事を尋ねた。あの後、彼と彼の弟の処遇はクロードの耳にまで届いてはいない。周囲が気を使っていることは肌で感じ取っていた。意識が無くなる最後の最後まで二人が罪に問われないよう訴えたが、果たしてどこまで届いているか、謎であった。
結局医局では情報を得られなかったものの、今度は主のルアハ姫の元へと赴き、クロードは復帰の挨拶に伺う。もし二人が何かしらの罰を受けているようならその陳情を行うつもりでいた。
だが、生憎王女は不在であった。代わりに王女付きの侍従に挨拶をし、そのまま各部署の様子を見て回る。自分が離れていた間の進捗や情報を確認し、すぐに対応できるようにする為であったが。
直接顔を見るのは、王城での牢以来か。誰かと話をしているダリルを見つけ、その後が気になっていた事もあり思わずクロードは声をかけてしまった。
「オーマン隊長!」
「……………っ…」
ぼんやりと目の前の景色を認識するのに数秒かかってしまった。薄っすら目を開ける。身体は火照り、熱があるのが自分でもわかった。しかし額に置かれている濡れたタオルのおかげで苦しさはだいぶ紛らわれていた。悪寒も何重にも掛けられているブランケットのおかげで抑制されていた。
「…目、覚めたか?」
隣から聞こえてきた声に目線だけ送る。そこには見慣れない男女の姿があった。男性の後ろに隠れるようにしながらこちらを見つめる女性を見て、この人たちは悪い人ではないと直感的に思った。一体誰なのか、声を出して問いたいところだったが、口が鉛のように重く開かない。沈んだ心がそうさせているようだった。
「…ここはベレアン中央区の市街地だ。安心しろ、君に危害を加えたりはしない。…具合は大丈夫か?」
落ち着いたトーンで男性から声を掛けられる。しかし答える気になれず視線を逸らした。態度が悪いことは十分承知の上だ。ただ今は何も答えたくなかった。蝕まれる不調と固く閉ざされた心でいっぱいいっぱいだった。
ダリルは呆れた表情を浮かべる。彼女が気を失うように眠る前に聞いた”クロード”という名前。俺の知っている人間と同一人物なのだろうか。しかし彼女はベレアン国の人間。それは容姿の系統と着ていた服で分かった。キゾン国のクロードと接点があるようには思えない。
「…クロードと、知り合いなのか?」
その言葉に一瞬反応した様子に見えたが、彼女は何も口を開かなかった。これはリドーを待つしかないのだろうか。後ろで困惑するカーナと目を合わせ、どうしたものかと首を傾げた。
「きっと生きてるわ。だから絶対に会える。」
都合よく解釈してクレアにそう声掛けをした。
その頃ロインは黙々と作業をしていた。できる限りいつもと変わらぬように装いながら。けれど内心そうはいかない。口数が減る中、漸く兄貴からの返信が上空を横切っていく。咄嗟にロインは道具を放り出して、後を追いかけた。
戻ってきた小鷹が掴んでいたカプセルには、「カクホ」と書かれた紙切れが入っていた。併せて女性を示す記号とキゾン王国の簡易紋章も記されている。それを見て、恐らくは理解してくれたとロインは胸を撫で下ろし、肩の力を抜いた。ちゃんと兄貴がクレアを助けてくれたんなら、心配はない。詳しいことは何一つわからないが、いずれ近い内に会いに行けば様子がわかる。今は…そっとしておこうと、小鷹に餌を与えてヨイコラショと重かった腰をあげた。
「きっと生きてるわ。だから絶対に会える。」
都合よく解釈してクレアにそう声掛けをした。
その頃ロインは黙々と作業をしていた。できる限りいつもと変わらぬように装いながら。けれど内心そうはいかない。口数が減る中、漸く兄貴からの返信が上空を横切っていく。咄嗟にロインは道具を放り出して、後を追いかけた。
戻ってきた小鷹が掴んでいたカプセルには、「カクホ」と書かれた紙切れが入っていた。併せて女性を示す記号とキゾン王国の簡易紋章も記されている。それを見て、恐らくは理解してくれたとロインは胸を撫で下ろし、肩の力を抜いた。ちゃんと兄貴がクレアを助けてくれたんなら、心配はない。詳しいことは何一つわからないが、いずれ近い内に会いに行けば様子がわかる。今は…そっとしておこうと、小鷹に餌を与えてヨイコラショと重かった腰をあげた。
「……おい、カーナ……ん?」
リドーが戻ってきたことでダリルはテントに戻ってきた。帰ってきたリドーからカーナに仕事を任せていると聞き、どうすればいいのか困っているんじゃないかと手を貸しにやって来たところだった。すると横たわりぐったりしている女性が目に入り、驚く。リドーが任せた仕事というのは彼女の救護だろうか。
「彼女は?」
着替え挟んでおり、まだ残っている顔や髪の毛の汚れを拭いているカーナに問う。彼女も良くわかっていないようだった。リドーが運んできたと、それだけ。つまり彼女は謎の人物、ということになる。全く見覚えのない顔だった。俺は彼女の首元に手を当てる。
「……熱がある、呼吸も荒いな。…冷やした布と、余っているブランケットを持って来てくれ。」
カーナにそう指示したその時、クレアが口を開く。
「……クロー…ド…」
「ん?クロード?」
「クロード…生き、…てる…?……また、…あえ、る…?」
弱々しく言葉を漏らした。
緊張した状態から気持ちも解れて仲間がいる駐屯地まで戻ると、リドーはまずカーナを探し出し、馬を降りた。
「カーナ! 手伝ってくれ!」
いきなり名前を呼ばれたカーナはびっくりして、呼ばれた方に振り返った。見るとリドーが女性を抱いて此方へ歩いてくる。途中で抜けたと思ったらの…この状況に、怒るよりも驚きの方が勝ってしまって、ポカンと口を開いていた。
「少し体力を遣いすぎたんだと思う。ゆっくり休ませれば回復するだろうから、後は頼めるか?」
「いいけど…、」
どうすればいいのか、戸惑うカーナに笑ってリドーは指示を出した。
「取り敢えず、服を着替えさせてやってくれ。結構濡れてしまってね。」
こうだ、という道筋さえあればちゃんとやり通すバイタリティはあるカーナだけれども。咄嗟の判断や応用が利かない弱点は相変わらずだな、と苦笑いを浮かべた。
そうしてクレアを彼女に託し、リドーは馬を返すのと弟に連絡を入れる為にその場を後にする。託されたカーナはひとまず宿舎になっているテントへ、どうにかクレアを担いで移動した。
ひとまず部屋でクレアの体を横たえらせる。濡れた服を着替えさせようとして手をかけたカーナは、クレアの体が随分冷えている事に気が付いた。その割に顔やおでこはひどく熱い。髪も体も結構汚れてるみたいだし、本当はお風呂に入れてあげた方がいいかも、なんだけれど。
実際地面に倒れた時の泥や土が顔にまだ付いていて、髪も同じくべとついていた。
「ねえ、しっかりして。もう大丈夫だから…」
湯に浸して温めた布で、軽くクレアの顔を拭っていく。何が何だかわからないまま、カーナはクレアに声を掛けつつ、全身をゆっくりと拭いていった。
-------
風邪っぴきじゃあお風呂はダメですね。。。
緊張した状態から気持ちも解れて仲間がいる駐屯地まで戻ると、リドーはまずカーナを探し出し、馬を降りた。
「カーナ! 手伝ってくれ!」
いきなり名前を呼ばれたカーナはびっくりして、呼ばれた方に振り返った。見るとリドーが女性を抱いて此方へ歩いてくる。途中で抜けたと思ったらの、この状況に怒るよりも驚きの方が勝ってしまって、ポカンと口を開いていた。
「少し体力を遣いすぎたんだと思う。ゆっくり休ませれば回復するだろうから、後は頼めるか?」
「いいけど…、」
どうすればいいのか、戸惑うカーナに笑ってリドーは指示を出した。
「取り敢えず、服を着替えさせてやってくれ。結構濡れてしまってね。」
こうだ、という道筋さえあればちゃんとやり通すバイタリティはあるカーナだけれども。咄嗟の判断や応用が利かない弱点は相変わらずだな、と苦笑いを浮かべた。
そうしてクレアを彼女に託し、リドーは馬を返すのと弟に連絡を入れる為にその場を後にする。託されたカーナはひとまず宿舎になっているテントへ、どうにかクレアを担いで移動した。
濡れた服を着替えさせようとして手をかけたカーナは、クレアの体が随分冷えている事に気が付いた。
これじゃあ先にお風呂に入れた方がいいかしら。結構体も汚れてるみたいだし。
実際地面に倒れた時の泥や土が顔にまだ付いていて、髪も同じくべとついていた。
「あの、済みません。しっかりして下さい。」
湯に浸した布で、軽くクレアの顔を拭っていく。そうしながらカーナはクレアに声を掛け続けた。
「……ロ、…インの… お、…お兄…様……っ…」
振り絞って発せられた回答は雨音でかき消されてもおかしくない程のか細い声だった。ゆっくりと頷くリドーを見て、光の戻った瞳から大粒の涙を流し始めた。転んで泥だらけになった頬に涙が伝っていき、痕を残す。無意識に乱れた呼吸を整えようと身体が働き始めていた。それから、まるで子供のような泣き顔で口を開き始めた。
「クロードの…こと、…知ってる、の? …クロードは、…生きて、るの…? 全部、…本…」
その時、何とか保たれていた意識がぷつっと切れた。激しい頭痛と眩暈に自分で身体を支えられなくなり、リドーの方に身体が倒れる。リドーが強い力で肩を掴んでいるおかげで地面に倒れていない。半分意識のない状態だった。
緊張した状態から気持ちも解れて仲間がいる駐屯地まで戻ると、リドーはまずカーナを探し出し、馬を降りた。
「カーナ! 手伝ってくれ!」
いきなり名前を呼ばれたカーナはびっくりして、呼ばれた方に振り返った。見るとリドーが女性を抱いて此方へ歩いてくる。途中で抜けたと思ったらの、この状況に怒るよりも驚きの方が勝ってしまって、ポカンと口を開いていた。
「少し体力を遣いすぎたんだと思う。ゆっくり休ませれば回復するだろうから、後は頼めるか?」
「いいけど…、」
どうすればいいのか、戸惑うカーナに笑ってリドーは指示を出した。
「取り敢えず、服を着替えさせてやってくれ。結構濡れてしまってね。」
こうだ、という道筋さえあればちゃんとやり通すバイタリティはあるカーナだけれども。咄嗟の判断や応用が利かない弱点は相変わらずだな、と苦笑いを浮かべた。
そうしてクレアを彼女に託し、リドーは馬を返すのと弟に連絡を入れる為にその場を後にする。託されたカーナはひとまず宿舎になっているテントへ、どうにかクレアを担いで移動した。
濡れた服を着替えさせようとして手をかけたカーナは、クレアの体が随分冷えている事に気が付いた。
これじゃあ先にお風呂に入れた方がいいかしら。結構体も汚れてるみたいだし。
実際地面に倒れた時の泥や土が顔にまだ付いていて、髪も同じくべとついていた。
「あの、済みません。しっかりして下さい。」
湯に浸した布で、軽くクレアの顔を拭っていく。そうしながらカーナはクレアに声を掛け続けた。
「クロードは生きている。彼は、生きているよ。」
クレアの両肩を簡単に振り解けないような強さで支え、リドーは言い聞かせるように彼女に耳元へ囁いた。まずは落ち着かせるのが先だ。その為にリドーは彼女に自分の事を認識して貰わねばならないと、腰を落ち着かせる。
「僕が誰だかわかるかい。クレア・ロバーツ?」
今度はちゃんと彼女の眼を見て話す。フルネームはうろ覚えだったが、多分合っている筈だ。リドーは真っすぐにクレアを見つめ、彼女が目を逸らせたり顔を背けるのを拒んだ。
彼女の体調の悪さやまだ周辺に屯しているであろう野獣の事を考えると、できる限り早く街まで戻るに越したことはないのだから。それを踏まえ、馬に乗せる前にある程度認知させておきたい。
こうして直接話すのはほぼ初めてだが、先の会合の際の様子やロインから聞いていた話で、リドーはクレアの強さを信じられた。だから今の状況を絶対に乗り越えられる。
---------
一応馬の上で暴れられても困るので。「ロインじゃない」という認識の確認ができ次第、意識白濁状態(であろう)クレア様を街のお風呂までお運びします。お風呂の中はカーナがお世話します。
短いですが、どうぞ宜しくお願いします。
※ なお、ココも短いロルでも大丈夫ですよ
しばらくして、逃げ切れたのか速度が遅くなる。覆われていた頭も解放され、相手を確認することができた。しかし私は見間違えていた。混濁した意識のせいで、彼をロインと見間違えてしまった。
「!?……触らないで!!」
そうリドーを払い退ける。その反動で彼が私を手放してくれたおかげで地面に着地できた。しかし、自力で立ち上がる気力と体力は残っていなかった。その場で、まるで悪霊に取りつかれたかのように言葉を吐き散らかした。
「私なんか助けるなら!!クロードを助けてよ!!クロードを!!…殺さない、でよ…っ 」
その言葉を吐き切ると、途端に激しい動悸と吐き気、頭痛に襲われる。乱れた呼吸をし始め、その場から動けなくなってしまった。
_______________________________
あけましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いいたします。
雨の中、高ストレスの状態で森を彷徨っていたので本人の気付かないうちに風邪をひいてしまったようです。リドー様、カーナ様での救護をどうかよろしくお願いいたします。
「クロードは生きている。彼は、生きているよ。」
クレアの両肩を簡単に振り解けないような強さで支え、リドーは言い聞かせるように彼女に耳元へ囁いた。まずは落ち着かせるのが先だ。その為にリドーは彼女に自分の事を認識して貰わねばならないと、腰を落ち着かせる。
「僕が誰だかわかるかい。クレア・ロバーツ?」
今度はちゃんと彼女の眼を見て話す。フルネームはうろ覚えだったが、多分合っている筈だ。リドーは真っすぐにクレアを見つめ、彼女が目を逸らせたり顔を背けるのを拒んだ。
彼女の体調の悪さやまだ周辺に屯しているであろう野獣の事を考えると、できる限り早く街まで戻るに越したことはないのだから。それを踏まえ、馬に乗せる前にある程度認知させておきたい。
こうして直接話すのはほぼ初めてだが、先の会合の際の様子やロインから聞いていた話で、リドーはクレアの強さを信じられた。だから今の状況を絶対に乗り越えられる。
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一応馬の上で暴れられても困るので。「ロインじゃない」という認識の確認ができ次第、意識白濁状態(であろう)クレア様を街のお風呂までお運びします。お風呂の中はカーナがお世話します。
短いですが、どうぞ宜しくお願いします。
※ なお、ココも短いロルでも大丈夫ですよ
「クロードは生きている。彼は、生きているよ。」
クレアの両肩を簡単に振り解けないような強さで支え、リドーは言い聞かせるように彼女に耳元へ囁いた。まずは落ち着かせるのが先だ。その為にリドーは彼女に自分の事を認識して貰わねばならないと、腰を落ち着かせる。
「僕が誰だかわかるかい。クレア・ロバーツ?」
今度はちゃんと彼女の眼を見て話す。フルネームはうろ覚えだったが、多分合っている筈だ。リドーは真っすぐにクレアを見つめ、彼女が目を逸らせたり顔を背けるのを拒んだ。
彼女の体調の悪さやまだ周辺に屯しているであろう野獣の事を考えると、できる限り早く街まで戻るに越したことはないのだから。それを踏まえ、馬に乗せる前にある程度認知させておきたい。
こうして直接話すのはほぼ初めてだが、先の会合の際の様子やロインから聞いていた話で、リドーはクレアの強さを信じられた。だから今の状況を絶対に乗り越えられる。
リドーはクレアを担ぎ上げつつ、指示をするように声をかけた。
「目を閉じて口鼻を覆って。」
言うと同時に先程と同じ忌避剤の入った球を地面に叩き付けて割る。その立ち上る煙を纏わせる様に浴びると、彼女を担いだまま再び走り出した。
雨なのは分が悪い。できる限り早く木々を抜けないと。
ここは野獣達の領域である。彼らの嫌う臭いで距離を取るようにしているものの、湿気を帯びた空気では思うような効果は期待できない。リドーはクレアを気遣いながらも全速力で街道まで戻る。球を多用する手もあるが、刺激の強い物に変わりはない。目や喉などの粘膜に付けば、個人差はあれど炎症を起こすので、クレアの為にも数多くは使いたくないのだ。
あと一度だけ、地形的に野獣が回り込みやすい段差で忌避球を根幹に投げ付け、立ち上る煙に突っ込む。一応クレアの頭を覆うようにして、彼女の顔には掛からないようにリドーはその場を駆け抜けた。そのお陰か無事に野獣達を吹っ切ったようだった。
「いきなりでごめんよ。大丈夫かい?」
一息つけるのを確認して、リドーはクレアに声を掛けた。
---------
月並みですが、明けましておめでとうございます。今年もどうぞ宜しくお願い致します。
一先ず、クレア様確保、というところです。この後の予定として一旦ダリル隊の元に連れ帰るつもりでおります(リドー談) 弟ロインへの連絡は兄リドーがしますので、その点はご心配無く。
数日、ロインとは離れてクレア様に気持ちの整理をして頂けたらとリドーは考えておりますので、近々のロル展開はそんな感じになるかなと思ってます。(その間多分カーナが世話を焼きそうな・・・)
クロードとの引き合わせは、祭の開幕辺りとかになるかと考えてますが。その前にリドーからフェルマー家事情の告白をさせたいと望んでますので、暫しお付き合い願えれば幸いです。
リドーはクレアを担ぎ上げつつ、指示をするように声をかけた。
「目を閉じて口鼻を覆って。」
言うと同時に先程と同じ忌避剤の入った球を地面に叩き付けて割る。その立ち上る煙を纏わせる様に浴びると、彼女を担いだまま再び走り出した。
雨なのは分が悪い。できる限り早く木々を抜けないと。
ここは野獣達の領域である。彼らの嫌う臭いで距離を取るようにしているものの、湿気を帯びた空気では思うような効果は期待できない。リドーはクレアを気遣いながらも全速力で街道まで戻る。球を多用する手もあるが、刺激の強い物に変わりはない。目や喉などの粘膜に付けば、個人差はあれど炎症を起こすので、クレアの為にも数多くは使いたくないのだ。
あと一度だけ、地形的に野獣が回り込みやすい段差で忌避球を根幹に投げ付け、立ち上る煙に突っ込む。一応クレアの頭を覆うようにして、彼女の顔には掛からないようにリドーはその場を駆け抜けた。そのお陰か無事に野獣達を吹っ切ったようだった。
「いきなりでごめんよ。大丈夫かい?」
一息つけるのを確認して、リドーはクレアに声を掛けた。
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月並みですが、明けましておめでとうございます。今年もどうぞ宜しくお願い致します。
一先ず、クレア様確保、というところです。この後の予定として一旦ダリル隊の元に連れ帰るつもりでおります(リドー談) 弟ロインへの連絡は兄リドーがしますので、その点はご心配無く。
数日、ロインとは離れてクレア様に気持ちの整理をして頂けたらとリドーは考えておりますので、近々のロル展開はそんな感じになるかなと思ってます。(その間多分カーナが世話を焼きそうな・・・)
クロードとの引き合わせは、祭の開幕辺りとかになるかと考えてますが。その前にリドーからフェルマー家事情の告白をさせたいと望んでますので、暫しお付き合い願えれば幸いです。
リドーはクレアを担ぎ上げつつ、指示をするように声をかけた。
「目を閉じて口鼻を覆って。」
言うと同時に先程と同じ忌避剤の入った球を地面に叩き付けて割る。その立ち上る煙を纏わせる様に浴びると、彼女を担いだまま再び走り出した。
雨なのは分が悪い。できる限り早く木々を抜けないと。
ここは野獣達の領域である。彼らの嫌う臭いで距離を取るようにしているものの、湿気を帯びた空気では思うような効果は期待できない。リドーはクレアを気遣いながらも全速力で街道まで戻る。球を多用する手もあるが、刺激の強い物に変わりはない。目や喉などの粘膜に付けば、個人差はあれど炎症を起こすので、クレアの為にも数多くは使いたくないのだ。
あと一度だけ、地形的に野獣が回り込みやすい段差で忌避球を根幹に投げ付け、立ち上る煙に突っ込む。一応クレアの頭を覆うようにして、彼女の顔には掛からないようにリドーはその場を駆け抜けた。そのお陰か無事に野獣達を吹っ切ったようだった。
「いきなりでごめんよ。大丈夫かい?」
一息つけるのを確認して、リドーはクレアに声を掛けた。
リドーはクレアを担ぎ上げつつ、指示をするように声をかけた。
「目を閉じて口鼻を覆って。」
言うと同時に先程と同じ忌避剤の入った球を地面に叩き付けて割る。その立ち上る煙を纏わせる様に浴びると、彼女を担いだまま再び走り出した。
雨なのは分が悪い。できる限り早く木々を抜けないと。
ここは野獣達の領域である。彼らの嫌う臭いで距離を取るようにしているものの、湿気を帯びた空気では思うような効果は期待できない。リドーはクレアを気遣いながらも全速力で街道まで戻る。球を多用する手もあるが、刺激の強い物に変わりはない。目や喉などの粘膜に付けば、個人差はあれど炎症を起こすので、クレアの為にも数多くは使いたくないのだ。
あと一度だけ、地形的に野獣が回り込みやすい段差で忌避球を根幹に投げ付け、立ち上る煙に突っ込む。一応クレアの頭を覆うようにして、彼女の顔には掛からないようにリドーはその場を駆け抜けた。そのお陰か無事に野獣達を吹っ切ったようだった。
「いきなりでごめんよ。大丈夫かい?」
一息つけるのを確認して、リドーはクレアに声を掛けた。
2024/12/28 17:05
「…それまでちゃんと仕事片付けろよ、カーナ。」
調子に乗っていそうな彼女を上司として一喝する。しかし、周りの人間はニヤニヤと顔を綻ばせていた。その視線に注目もせず、俺は淡々と作業に努めた。別に浮かれて居ないわけではない。戦争が終わってから、気晴らしになりそうな行事など無かったからだ。その時間を有意義に過ごすためにも、…それを彼女と過ごすためにも、今は全力でタスクを片付ける。そう、燃えていた。
________________________________
村を出てからどれほど歩いたのだろう。今が何時なのか、朝なのか夜なのか分からない。目の前に広がっているのは変わらず木々たちだった。街の方へ歩いているはずなのに一向に辿り着かない。どこかで道を間違えたのだろうか。あんなにほぼ毎日といっていい程通い詰めていた場所の経路さえ、覚えていないなんて、情けない。
よろめく足元に木の根が引っかかる。耐えられるはずもなく、地面に倒れた。
頬の痛みと水溜まりを見て、やっと今、雨が降っていることに気が付く。空が暗いから、気づかなかったんだな。痛いと思った頬を手で覆う。その時また、思い出してしまった。
彼が私の殴られた頬に優しくキスをしてくれたことを。心配そうに見つめる彼の瞳がまた脳裏をよぎった。
「もうやめて…思い出したく、……ない…っ…」
冷たい雨の中、体温がどんどん奪われていく。今にも心臓が破裂しそうなほど苦しくて仕方ない。このまま雨と一緒に流れて楽になりたい。
雨の音と自分で精いっぱいだった。周りを野獣に囲まれていることなど、気づきもしなかった。
「頼んだぜ…、」
空高く飛んでいく小鷹を、祈るような思いでロインは見つめた。
その頃リドーは、いつもの詰所で仲間と共に作業していた。
「もうすぐ精礼祭なのよね。どれを着て行こうかな。」
実質デートのカーナ=フィレスは、まだ3週間は先の祭りが待ち切れずにウキウキしている。精霊の力を信仰するフーゴンでは最大ともいえる大祭だ。技巧の礎となる精霊に礼を尽くす祭であり、職人達にとっての直接的な売り出しの場である。行われる期間も1カ月と長い。
祭の規模と距離の近さから、かつてはベハレスコの住民もよく参加していた。此度戦争が終わったことと、復興に遵ずる全ての市民の労いと希望を込めて、ルアハ王女から特別に定額チケットが配られている。一定金額まで自由に買い物ができ、市街地同士を結ぶ送迎馬車まで無料で運行される、至れり尽くせりのサービスだ。
「ん?」
作業の合間に空を見上げれば、見覚えのある小鷹が飛んでいた。その動きは緊急連絡時の『保護』を示しているように思えた。『帰還』でもなく『退避』でもない。余程でない限り弟のロインがそんなものを飛ばしてくるとは思えない。
「悪いが急用で抜けます。」
手短に管理者にそう伝え、リドーは村に近い郊外へと馬を駆りて走らせた。
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精礼祭は、年末恒例蚤の市みたいなものと思っていただければ。クレア様回収まで至らず済みません。リドーが拾いに行きます。で、ダリル隊面々の元で保護する予定。
「頼んだぜ…、」
空高く飛んでいく小鷹を、祈るような思いでロインは見つめた。
その頃リドーは、いつもの詰所で仲間と共に作業していた。
「もうすぐ精礼祭なのよね。どれを着て行こうかな。」
実質デートのカーナ=フィレスは、まだ3週間は先の祭りが待ち切れずにウキウキしている。精霊の力を信仰するフーゴンでは最大ともいえる大祭だ。技巧の礎となる精霊に礼を尽くす祭なので、行われる期間も1カ月と長い。
祭の規模と距離の近さから、かつてはベハレスコの住民もよく参加していた。此度戦争が終わったことと、復興に遵ずる全ての市民に労いと希望を込めて、ルアハ王女から特別に定額チケットが配られている。一定金額まで自由に買い物ができ、市街地同士を結ぶ送迎馬車まで無料で運行される、至れり尽くせりのサービスだ。
「ん?」
作業の合間に空を見上げれば、見覚えのある小鷹が飛んでいた。その動きは緊急連絡時の『保護』を示しているように思えた。『帰還』でもなく『退避』でもない。余程でない限り弟のロインがそんなものを飛ばしてくるとは思えない。
「悪いが急用で抜けます。」
手短に管理者にそう伝え、リドーは村に近い郊外へと馬を駆りて走らせた。
「頼んだぜ…、」
空高く飛んでいく小鷹を、祈るような思いでロインは見つめた。
その頃リドーは、いつもの詰所で仲間と共に作業していた。
「もうすぐ精礼祭なのよね。どれを着て行こうかな。」
実質デートのカーナ=フィレスは、まだ3週間は先の祭りが待ち切れずにウキウキしている。精霊の力を信仰するフーゴンでは最大ともいえる大祭だ。技巧の礎となる精霊に礼を尽くす祭《もの》なので、行われる期間も1カ月と長い。
祭の規模と距離の近さから、かつてはベハレスコの住民もよく足を運んでいた。此度戦争が終わったことと、復興に準ずる全ての市民に労いと希望を込めて、ルアハ王女から特別に定額チケットが配られている。一定金額まで自由に買い物ができ、市街地同士を結ぶ送迎馬車まで無料で運行される、至れり尽くせりのサービスだ。
「ん?」
作業の合間に空を見上げれば、見覚えのある小鷹が飛んでいた。その動きは緊急連絡時の『保護』を示しているように思えた。『帰還』でもなく『退避』でもない。余程でない限り弟のロインがそんなものを飛ばしてくるとは思えない。
「悪いが急用で抜けます。」
手短に管理者にそう伝え、リドーは村に近い郊外へと馬を駆りて走らせた。
「頼んだぜ…、」
空高く飛んでいく小鷹を、祈るような思いでロインは見つめた。
その頃リドーは日課となっているような、各部署への連絡周りに行っていた。クロードの代理兼捕虜としての強制労働も行っている。もっとも、強制労働といっても今は肉体関係というより事務作業に徹している感じだが。中には本当に自分がやってしまっていいんだろうかと訝る案件も、ちょくちょく挟まれているので、ある意味裏事情には詳しくなってしまった。
「頼んだぜ…、」
空高く飛んでいく小鷹を、祈るような思いでロインは見つめた。
「頼んだぜ…、」
ロインがかけてくれた言葉が何も聞こえなかった。ただ、彼は私を置いて先に戻ったことだけは何とか把握できた。しばらく蹲り、泣き続けていた。現実の認識と感情の整理が全く追いつかなかった。クロードが生きているかどうか分からない、生きていても片腕を奪った私なんて覚えていないだろう。いや、彼が私を覚えていなくても、私を恨んでいてもどうだっていい、彼が生きてさえいればいいんだ。そう望みを抱くとロインの話が頭の中で再生された。何度も、何度も。
激しい頭痛が襲ってきて、呼吸がしづらくなった。泣き喚く声が遠く聞こえる中、この苦しみと、現実から目を背けたくて、感情を落ち着かせたくて、必死に思考を巡らせた。悶え苦しむその限界がやってきたのか、気がつくとピタッと泣き止み、身体を起こした。
「………食糧、調達…しないと。……村の家も、綺麗に…しなくちゃ。」
覚束無い足取りで歩き始める。ここから市街地なんて、酷く距離がある。馬を使うのが必須なはずなのに、私は馬小屋に寄ることもなく、真夜中にもかかわらず、街の方角に向かって歩き始めたのだった。意識はほぼない。光の宿らない瞳で街の方角だけ見つめていた。何も考えないように、いつもの行動をやろうとした結果だろう。
私は誰にも伝えることなく、村を離れて行った。
------------------------------------
一旦家出させてください…っ
それから可能ならリドー様にクレアを拾っていただけないでしょうか…?
彼女は現在、眠らないまま休憩も取らずに夜の森を歩き続けています。
どこでも構わないですが、リドー様にクレアを拾っていただき、
何かしらの形でクロードがちゃんと生きていることを伝えていただきたいです。
考えているのは、リドー様引率で遠くからクロード様の姿を見せてもらうか、
リドー様からクロード様が昔いた女性のこと(=クレアのこと)を聞いており、クロード様から聞いて話をクレアに聞かせるとかで、クレアを正気に戻して欲しいなと…
最終的にはクロード様に会いに行く前にちゃんと村に戻ってロイン様と和解させてください