Nicotto Town


黄昏流星群

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ある情景(別冊)

中年の男性が駅のホームで電車を待っている。
出勤の時間としては早いので、電車待ちの客は少ない。
空はどんよりとして、今にも雨が降ってきそう。
並んでいるおばさんは忙しそうに鞄の中をのぞいている。
女高生はメールを打つのにいそがしそうだ。
会社員風の男は眠そうな様子。

今の世の中他人には無関心だ。
みんな、自分の世界に入り込んでいる。
むしろ、かかわらないほうがいいのかもしれない。
下手にかかわると、とんでもない災難がふりかかってくる、無難が一番。
中年男性はそう思うのであった。

しばらくすると、鳩が飛んできて線路のほうをうろうろとしている。
エサを探しているのだろうか。
何もこんなところでエサを探さなくても、どこかもっと効率がいいところがありそうな気がする。
鳩は一羽ではなく数羽いた。
一つのグループなのだろう。
やがて、一羽の鳩の歩き方が変なのに気がついた・・・
よく見ると、片足が無い。
ネコや犬、カラスにでも襲われたのか、事故かもしれない。
野生の動物にとってケガは致命的だ。
すぐに死に直結する。
いずれ遠くない将来、この鳩はそういう現実に出逢うのだろう。

みんなが電車待ちしてるほうへ鳩が近づいてきた。
おばさんが鞄の中からお菓子を出して鳩のほうへ投げた。
片足の鳩は動きが遅く、先に他の鳩にお菓子を取られてしまっている。
おばさんは片足の鳩を気の毒に思い、その鳩がいるほうへお菓子を投げるのだが、それでも他の鳩に取られてしまう。

その様子を見ていた中年男性が言った。
「その鳩のすぐ前に投げないと食べれないかも、僕がやってみましょうか」
中年男性がお菓子を投げてみた。
やはり、だめだった。
もともと、片足を失った鳩は動きが悪く、元気も無いのだ。
そのうち女子高生や会社員風の男も加わってきた。
「あ~そこそこ」「そっちそっち~」
掛け声がたくさん出て、やっとその鳩もお菓子を食べることができた。

「きょうはなんとかエサを食べることができたけど、この鳩って
生きてる意味があるのかしら」
おばさんは、そう思った。

中年おじさんは、おばさんと違ったことを思った。
仲間の鳩は、この鳩と一緒にいれば
エサにありつけることができるのを知って一緒にいるのだ。
片足を失った鳩が一生懸命生きる姿は、大なり小なりみんなが持っている心の傷に語りかけるものがある。
手を差し伸べずにはいられないのだ。
もう一つ奇跡を起している。
短い時間にせよ、廻りに無関心な人たちのこころを結び付けたではないか。

この鳩は足を失ってから特別な運命を背負ったのだ。
中年おじさんは、そう思った。

おわり




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設立日
2010年03月29日

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