ある情景
- 2025/07/05 22:24:44
会社訪問をした。
食料品を扱う会社である。
この会社は今の会長が一代で築き上げ上場までして、息子に社長を譲っている。
上場会社特有の学閥があり、他の大学では採用は難しい。
まして私のような三流私立の大学出身など問題外である。
それを考えていたら訪問する会社などなく、とにかく自分が行きたい会社を当たるだけだ。
きょうはあと数社、会社訪問しなくてはならない。
もう、これまでに20社以上回った。
それなりの会社は学閥と言うものがあって、私の三流大学では採用の可能性は低い。
コネもない私は数をあたるより手がない。
とりあえず、昼ご飯を食べるため社内食堂へ行った。
社員食堂は安価なので私には本当に助かる。
だだっ広い食堂で黙々と食べてると用務員のおじさんが不思議そうに見ていた。
確かに不思議だろうな・・若い女の子が一人で食べてる。
頑張って会社訪問をして入社試験を受け面接の通知を待つ。
次から次と「このたびは・・・」の文言だ。
一社だけ面接の通知が来た。
社員食堂を利用したあの、食料品を扱う会社だ。
なけなしのお金でそろえたリクルートスーツで臨んだ。
控室で緊張して待っていた。やがて案内の社員について面接室に入った。
椅子に腰かけ姿勢を正して前を見た。
面接員が5人私のほうを見ていた。
前を見た瞬間、驚いた。
真ん中にいるのは食堂で見かけた用務員のおじさんだった。
どういうことだ。
このおじさんは用務員ではなく、会長だった。
会長は言った。
「先日あなたは、わが社の食堂で食事をされました。
食べ終わった食器を見て私は驚きました。」
「なにもかも、ごはんも、一粒も残さず綺麗に食べている。」
「食品を大切にしていると思いました。」
「出身校では面接の対象ではありませんが、あなたにもう一度会って
話がしてみたかった。」
母一人娘一人の家庭。
私を進学させるため母の苦労は並大抵ではない。
私もバイトを数件していた。
食事を残す気になれなかった。
残さず食べるのが常であった。
ただ、それだけのことだった。
おわり
これは私の創作です。
また、頭に浮かんだ物語がありましたら掲載します。
よろしくね^^
採用されるといいね。