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読書生活報告トピ 21

投稿者:ヘルミーナ

読んだ本や著者、かんたんな感想や評価を書き込むトピです。
基本的には各自ブログで書き込むのですが、
ブログでは恥ずかしい方は感想もこちらへどうぞ。

本に関係する雑談などもこちらで好いかと思います。
思いっきり話題がそれまくりでなければふつうの雑談も好いかと。

(前トピが埋まったら使ってくださいね)

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2025/05/11 21:53
ヘルマン・ヘッセ 『車輪の下で』  松永 美穂(訳) 光文社古典新訳文庫 2007年
(電子版)


おととしの六月に買った電子本です。

古くから『車輪の下』の邦題で知られていますね。
わたしは小学生のころ、
児童向けの抄訳で読んだことがあります。

そのときは、ただただ、
ハンスが気の毒だなと感じたものでした。

大人になってから岩波文庫版で再読しましたけど、
細かい部分はほとんど忘れていました。

わたしは結末でハンスが自殺したものと思ってたんです。
じっさいには事故か自殺か定かじゃないんですね。
酔って川に落ちて、というところから先について、
ヘッセは具体的な描写を控えています。

あと今回、強く印象に残ったのは、
神学校でハンスと親しくなるハイルナーの存在です。
反抗的な文学青年として描かれており、
問題を起こして退学させられてしまいます。

自伝的な要素が強いといわれる本作でヘッセは、
ハンスとハイルナー、
双方を登場させないわけにはいかなかったのでしょう。

エリートコースに挫折したハンスと、
苦労しながらも成功を掴むハイルナー。
ふたりともヘッセの分身ですし、
ハンスには死んでもらう必然性があったと思います。

そう読むと、ハイルナーがハンスに接吻する場面など、
非常に意味深な雰囲気を帯びてきますね。

この小説は過度な競争を強いる、
歪んだ学校教育への批判の書として読まれがちです。
わたしは、それが間違っているとは思いません。

同時に繊細なハンスが心を病んでいく過程や、
ハンスの郷里の自然描写が美しいことなど、
学校や教育への批判の枠に収まらない部分も多々あります。

今回、読み返してみて「枠に収まらない部分」にこそ、
ヘッセ固有の魅力が多く含有されていると感じました。
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2025/05/04 14:47
 夢野久作さんのあの歌集、『猟奇歌《りょうきうた》』(中公文庫刊)を読み終えました。
 
 これたぶん全集の類をのぞけば唯一の夢野久作歌集だと思うのですが、やっと猟奇歌の全貌が知られてよかったです。
 かなり昔のインダストリアル系バンドにYBO2っていましたが、彼らのアルバム『ALIENATION』に『猟奇歌』というナンバーがあり、その歌詞でしか夢野さんの短歌しか知らなかったんですよ。
 
 本の帯にはホラー作家の梨さん(←知らなかったです)の言葉が惹句として載ってますが、闇に満ちたとか幻惑、悪夢という表現はちょっとベクトルが違うんじゃないかと思います。
 そこまで暗黒でもなく、なんというかブラックユーモアだと思うんです……ユーモアのほうに振った。
 
 たとえば、
 「ニセ物のパスで/電車にのつてみる/超人らしいステキな気持ち」
 凄く同感で、つい笑っちゃう、そんな感じ。
 
 YBO2の曲でも採用されていた、
 「監獄に這入らぬ前も出た後も同じ青空同じ日が照つてゐる」
 
 なんとなくこれは春日井建さんの短歌を彷彿とさせます。
 
 「致死量の睡眠薬を/看護婦が二つに分けて/キヤツキヤと笑ふ」
 
 いいなあこれも。
 
 「たはむれに/タンポゝの花を引つ切れば/牛乳のやうな血しほしたゝる」
 
 と、短歌としても夢野久作さんの作品という側面からも楽しい一冊。
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2025/05/03 19:24
許 光俊 『決定版 交響曲の名曲・名演奏』 講談社現代新書 2025年


図書館で借りました。
四百ページ近いボリュームがあります。
お値段も新書としては高めです。

わたしがいちばん笑わされて
(ごめんなさい許さんw)、
かつ身につまされるように感じたのは、
以下のくだりを読んだときでした。

チェリビダッケが指揮するミュンヘン・フィルで、
チャイコフスキーの五番を聴いたときのこと。
もっとも深く感動したコンサートだったといいます。

許さんの近くにいた日本人の女性が
「やっぱりこの曲は青春の曲よねえ」。
身体を動かしてリズムを取ろうとしていたそうです。

「鈍感で愚かな人間は、ほんとうにどうしようもない」。
その様子に激しい怒りと軽蔑と殺意すら抱いた……と。

チャイコフスキーやチェリビダッケは、
間違っても「青春」の音楽じゃありません。
すこし注意深く聴けば感得できるはずです。

まぁ音楽がわからないってだけの理由で、
殺されちゃ困るけどさぁw

いや、わたしも身に憶えが売るほどあるのね。
ものの値打ちのわからない人物への怒り憤り。
殺意まで抱いたかは……ここでは書かないけどw

こういう救いようのない勘違いが、
何か新しいものを生む可能性も……
億にひとつくらいは存在する……のかしら。
全否定だけはしないでおきましょう。

ともあれ許光俊さんの良いところは、
評価するしないや好き嫌いを、
自分の言葉で筋道を立てて書く点でしょう。

嫌いなカラヤンに対しても、
優れた指揮者だとは認めており、
良い演奏は積極的に取りあげています。

自らの嗜好や審美眼に、
きわめて自覚的な書き手です。
そのぶん好き嫌いは分かれるでしょうね。

ある意味では宇野功芳さんとよく似ていて、
意識している部分があるのかもしれません。

読者が自分自身の名曲や名演奏を見つけていくうえで、
良き伴走者になってくれる本だと思います。
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2025/04/30 17:28
 堀越英美先生の『エモい古語辞典』(朝日出版社刊)を読み終えました。
 
 辞典は辞典なのでよくパラパラと中身を読んでいたのですが、少し前から隙間時間などに最初から通して読んでいたのです。
 
 中身? 面白いに決まってるじゃないですか! 嗚呼、こんんな素敵な語があったのか……と讃嘆することほぼ見開きごと。
 帯によると1654語収録、とのことですが、倍ぐらいに増量して、なおかつ用例を全語につけて欲しかったです。
 
 あと、先日、保田與重郎《よじゅうろう》先生の本を読んでから、俳句というのもいいものだな……と思いはじめております(「自由律俳句」のぞく)。
 本書の中で、けっこう印象的な紹介に、俳句からの語が多いし、それがまたいちいち素敵なのですよ。
 
 たとえば、「薔薇《そうび・しょうび》」なら、
 「冬薔薇《そうび》星のひとつを受信せり」大西泰世
 
 とか、「巫《かんなぎ》」なら、
 「巫女《かんなぎ》に狐恋する夜寒《よさむ》かな」与謝蕪村
 
 短歌からもなかなかいい一首が。「|碧瑠璃《へきるり》」
 「自《みづから》らは半人《はんじん》半馬《はんば》降《ふ》るものは珊瑚《さんご》の雨と碧瑠璃《へきるり》の雨」与謝野晶子
 
 また、惜しくもお墓が関東大震災で壊れてしまったという、「書籍姫」。東京、四谷の全勝寺にお墓があったのですが、読書がお好きなお姫様だったぐらいしか素性がわからず、お墓があった往時には、お墓に耳をつけると書籍姫様が本を朗読する声が聞けたのだとか。
 
 また表紙や挿画の海島千本さんの楚々とした絵も素敵です。
 
 蛇足ながら、俳句や短歌、文学の中でも瞬間を切り取ることもまたは五七五や三十一文字《みそひともじ》の中にひとつの宇宙をも込められるこれらの形式、最近ちょっと惹かれてきています。短歌は以前から詠んでおりますが、俳句もいいなあ、と。
 
 ちょっと頭の具合が悪い(以前からいつもそうだろ、というのは置いておいてw)のもあって、小説が書けなかったり、ふだんの生活の中でもなんというかハリがなかったり、読書をしてもそれが続かなかったり……そこで歌集や句集を手にする、というのもいいかもしれませんね。
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2025/04/27 13:21
 辻邦生さんの『小説を書くということ』(中公文庫刊)を読み終えました。辻邦生さんもあまり読まれなくなった作家のひとりですが、壮大な短編連作『ある生涯の七つの場所』、ユーモアと軽めの風刺を混ぜた『天使の鼓笛隊』などなど、今読んでも面白いと思うのだけど。
 
 本書は文字どおり、小説作法本です。わたしが敬愛している編集者(物故されておりますが)安原|顯《あきら》さんが編集や企画を立てていた本、それも書評の雑誌『リテレール』で、創作セミナーを開いたときの一連の講演の文字起こしも収録されております。
 
 長いけれど引用します。
 
 「いいですか。このことを忘れてはいけません。あなた方一人ひとりの大事な一回こっきりの人生ですからね。一回こっきりですよ。二度も三度も生まれてこないんですから、一回こっきりの大事なきょうのこのときだと思うんですよ。こんなに大事なときに、あしたもあればあさってもあれば、きのうもあったしきょうなんてどうでもいいや、ではダメなんです。この一回こっきりの自分というもの、自分のいまの世界を本当に大事にしてください。刻々とそこからしか生命のシンボルはつかめないし、本当の想像力も生まれてきません。これは肝に銘じて、ほかのことは忘れてもいいから、あなた方の行きているという大事さを、今夜寝るときに一人でよく考えてください」
 (本書57ページ)
 
 もちろん具体的な小説の指南もあるのですが、安原顯さんに「少年の心を忘れない大人《たいじん》の風格」(今その本が見つからないので要旨だけ)を備えているとまでベタ惚れさせた作家です>辻邦生さん そんな方がこうまで無防備な言葉で小説を書きたい人へ熱いメッセージを送っている。それだけでわたしはこの本を買ってよかったと思います。
 
 小説指南本といえば、名前は出しませんが(すごく出したいんですが……)「作家のこの人の小説を読むと程度の低さにがっかりする」みたいな人もいます。
 そんな人が小説指南本で稼いでいるのは正直国辱ものだと思うし、またそんな本をほいほい買ってしまう方にもがっくりきます。
 
 先に引用した箇所ですが、ここだけでも小説に行き詰まったときや元気づけられたいとき、などなど繰り返し読んで自分を鼓舞するとってもよい言葉だと思います。
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2025/04/25 15:36
 先日、神田神保町で買った、キース・ロバーツ作『パヴァーヌ』(サンリオSF文庫→扶桑社刊)を読み終えました……これで神保町で買った本はすべて読了……。
 
 いわゆるスチーム・パンクとも違う、でも、科学技術の進歩を認めず、むしろ抑えつける(自分たちの優位を守るため)ローマ・カトリックがその栄華を誇る世界。
 ただし、描かれるのは……それも緻密に……イギリスだけ。本書は長編とも連作短編とも取れる作品です。
 
 「もう一つの歴史」を描いたSFなのですが、世界観と描写は圧倒的です。話も続きが気になる。だけど……スレた読者としては、なんというのかな、そのもう一つの歴史の中の要素にもっと綺想が欲しかったというところでしょうか。
 本作はかなり評判がいいみたいなので、これはたぶんわたしがよくない。
 
 フィリップ・K・ディックの最高傑作で、なにを挙げるかでその人の読書すれっからし度がわかると思うのですが、そこで『高い城の男』を挙げた人なら『パヴァーヌ』はめちゃくちゃ楽しめると思います。
 
 でも、あえてそういうスレた読者の独断と偏見でものをいえば、『高い城の男』も、あの世界観の構築が凄い、それは認めるんだけど、『高い城の男』も『パヴァーヌ』も、その異常なまでの世界の構築に、もったいないのですが人物の動きがついていってない。というのもリアルさを意識するとだいたいはこうならざるを得ない。
 
 それにディックの場合は、「崩壊する現実の感覚」という綺想でほぼ作品が塗りたくられてます。
 『パヴァーヌ』でも、禁忌である電気を使って照明とするシーンなどなど、ここはなかなか……! と唸る箇所も点在するのですが、個人的には本を通して読むとちょっと……という感じでした。ほんと、かなり評価の高い『パヴァーヌ』、一読の価値はあると思います。
 
 いや、一つ書き漏らしておりました。カトリックの中央集権体制に否を叩きつけたマルティン・ルターがどれだけ世界を変えてしまったのか……たとえばいまでも「人は(神への感謝のため)労働するために産まれてきた」みたいな価値観はプロテスタンティズムはおろか現代の日本にまで影響をおよぼしてます。ルターの出現は本当に凄かったんだな……と思いましたね。
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2025/04/24 13:29
 こんばんは。ロベルト・ムージル(この本ではローベルト・ムシル表記)の戯曲集(河出書房新社刊)を読み終えました。
 ……これがまた観念的な会話が続いて難しい……;;
 
 二篇収録なのでが、タイトル作が本の2/3を占めていております。タイトル作がドラマとすれば、もう1/3の『ヴィンツェンツとお偉方の女友達』はファルスと帯に書いてあるのですが、どちらも濃厚すぎるドラマではないかと。
 
 『夢想家たち』には一応のプロットがあります。消息を絶っていたアンゼルムがレギーネの前に現れて彼女の心を掴みます。そして夫ヨーゼフとは離婚をしようか、と。レギーネの姉マリーアとその夫トーマスがレギーネの家にやってきます。
 その家ではかつてレギーネに恋をしていたヨハネスが自殺しており、レギーネはまるで今でもヨハネスが生きているかのように振る舞います。
 しかしアンゼルムはレギーネよりもその姉マリーアに言い寄りはじめ……。
 
 なんですが、戯曲だというのに、これも読者、あるいは舞台を見に来た客に対してまったく(またも……)忖度なし。
 人間にはディスコミュニケーションしかありえないと断言するように、会話は、ことごとく噛み合いません。かと思えば、それぞれの登場人物が、「合一」というヴィジョンに惹かれるんです。
 このあたりは岩波文庫に収録されたムージルの『愛の完成』のように、なんだか文学版の人類補完計画みたいなんですよ……。
 
 さて、ムージルといえば、未完の大作、『特性のない男』ですが、これはかなり前から品切れになっており、岩波文庫ではこれまで二冊のムージル作品が出ているので、できたら『特性のない男』を岩波文庫で出してはくれないものか……。
 
 なお、光文社古典新訳文庫には、やはりムージルの『寄宿生テルレスの混乱』が出てるので、こちらも読みたいですねー。
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2025/04/20 20:38
サマンタ・シュウェブリン 『救出の距離』 宮﨑真紀(訳) 国書刊行会 2024年


図書館で借りた本を読了しました。

国書刊行会の〈スパニッシュ・ホラー文芸〉三冊目。
標題は「幼い子の身に何かあったとき、
即座に救けられる距離」くらいの意味。

この叢書では、これがいちばん愉しめました。
きのう通院先へ持ってって半分くらい読んだんです。
少々とっつき難いけどグリップが強く、
いちど捕まると本を手放せなくなります。

はじめはカウンセリングの情景かと思いました。
ベッドに横たわるアマンダの言葉に、
少年ダビが耳を傾けつつ先を促します。

アマンダは幼い娘ニナを伴い、
首都ブエノスアイレスから車で数時間かかる、
田舎の村へやってきました。

現地で美しい女性カルラに出会って親交を結びます。
冒頭から出てくるダビはカルラの息子です。

不穏な緊張感は終始とぎれません。
やがてカルラはアマンダに、
ダビの身に起こったある異変について語りはじめます。

いまでも南米の田舎では日常の一部だという呪術医。
アルゼンチンでは深刻な社会問題の農薬汚染。
思いもかけないことがらが絡みあった末に……

心理サスペンスとしても優れた小説です。
幻想小説や怪奇小説として読んでも、
期待を裏切ることはありません。

また農薬やマチズモなどの社会問題も題材にしつつ、
まったく破綻が感じられないんだから偉い。
言葉の本来の意味での「文学」って、こういうものでしょ。

もっかい読み返して、
それでも手もとに置きたかったら買ってしまおうか。
そのくらい気に入りました。

「シャーリイ・ジャクスン賞中長篇部門受賞作」だそうです。
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2025/04/20 09:46
 アンナ・カヴァンの短編集『ジュリアとバズーカ』(サンリオSF文庫→文遊社刊)を読み終えました。
 
 ……Don't be.……居場所のなさと存在そのものの不快……そこから脱出するための、ただしそれほどたくさん描写はされないヘロイン摂取……注射器は汚れていても気にしないのに、それ以外のすさまじい潔癖症……。
 
 カフカとエミール・シオラン、不条理そして負のカリスマであるこの二人を混ぜて、ヘロインをまぶし、女性による話者として産まれたテクスト群が本書だといってもおかしくはないでしょう。
 
 極端なまでネガティヴを貫いた先のほんのつかのまの安らぎ、たとえば『英雄たちの世界』で他者なのに惹かれてしまう、死と速度と隣合わせのレーサーたちとの交流。
 学校生活への乾いた怨嗟が綴られる……テニスという球技と審判という絶対的な反感、体育の授業、それも球技が死ぬほど嫌いだったわたしとしてはなんだか共感してしまった『はるか離れて』。
 
 そして……! 珍しく他者への不快感や猜疑心がないのか、fragile《こわれもの》そのものではあるものの、交流が続く……けれど……という『縞馬』。十二歳年上の彼の言動は最初からそうなのか、あるいは途中から話者の感情がやはり他者を受け入れる余裕などなくなってしまったのか……。
 
 孤独……それも絶対零度のような……語弊のある書き方をすると、いわゆる「陰キャ」なら本書はまるで自分のことを……ただし、その負のエネルギーが強すぎるために、「文学的耐久性」のある者しか読めないかもしれません……自分が陰キャやチー牛だとしても、本書にその負の代弁者になってもらおうという企みは、アンナ・カヴァンの鋭利すぎる筆にはついていけないのではないか。
 
 わたしもときにはついていけなさそうになりました。でも、なにか共鳴する箇所があった……のだと思います。それはアンナ・カヴァンの徹底的な潔癖症の文章からして、読者がついて来られるかどうかはまったく忖度していないテクストの強度、これは全編凄いものがありました。
 
 サンリオSF文庫版と訳は一緒なのかな? 文遊社版もいいのですが、調べたらサンリオSF文庫版の表紙がほんと素敵で。
 あ、でも単行本のも本書だけの(?)フォントを使っているようなのも造本的にとてもよき。
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2025/04/19 12:34
 ロジャー・ゼラズニイの『ドリームマスター』(ハヤカワSF文庫刊)を読み終えました。筒井康隆先生の『パプリカ』みたいのを想像してましたが全然ちがう……。
 
 ロボット子宮なる装置で、クライアントの夢の世界に入ったり、あるいは望む夢の世界を創ったりして、神経症的な異状を直してゆくシェイパー。
 そのシェイパーでもっとも優秀なひとり、レンダーが、盲目の美女精神科医シャロットの治療を受け持ちます。順調に行くかと思われたそのセッションから以降は……。
 
 という感じで、あまりプロットとしては複雑ではありません。でもそれがまた効果を上げているのかも。
 それは、初期ゼラズニイの長編作品はけっこう神話をベースに構築するパターンが多く、本作品は神話ではないにせよ、ファウスト博士の物語や『トリスタンとイゾルデ』、それにテニソンやウェルギリウス、などなど、さらにはカバラなど神秘主義系の思想まで、細かいところにも象嵌された象徴の数々が光っています。
 
 なのでこの小説は一回読むだけではもったいないのかも。それに、ゲーテと『ドイツ民衆本の世界』(国書刊行会刊)のファウストはともかく、『トリスタンとイゾルデ』は未読ですし、そこらを念頭に置いて読むとまた全然違うかと。
 
 できたら、本書はあの大瀧啓裕先生の翻訳と、詳細な訳注で読みたかったという話も。あの『ヴァリス』(P・K・ディック著 サンリオSF文庫→創元SF文庫刊)の訳注、あれのように。
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2025/04/18 20:11
米原万理 『ヒトのオスは飼わないの?』 文春文庫 2005年
 (初出は文藝春秋 2001年)


先月に買った電子本。
『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』の、
米原万理さんが猫や犬との暮らしを綴ったエッセイ集です。

捨てられて殺されるのを待つばかりのハスキー犬
「ルルちゃん」を雑誌の記事で知った万理さん。
どうにか引き取れないかと気を揉みます。

結局ルルちゃんには新しい飼い主が現れました。
そして万理さんの前には雑種の迷い犬「ゲン」が出現。
このゲンさん、おっそろしく気立ての良い名犬なんですよ。

さらに捨てられたとおぼしき仔猫二匹と遭遇。
万理さんは仔猫たちを連れ帰って「無理」「道理」と命名。
面倒を見ることにします。

この仔猫を見つけたのが通訳の仕事で出かけた先でした。
アメリカやロシアやウクライナの要人たちが、
みんなして猫を心配してくれたそうです。

醜悪な争いや殺戮の続く昨今だけに……
仔猫をめぐって協力しあうエピソードに、
いろいろ考えさせられました。

結局、万理さんちでは猫が四匹、
犬が一匹の多頭飼いに……
だいたい三十年くらい前のできごとです。

こんにちでは動物をめぐる事情が、
だいぶ変わってきてることにも気づかされます。
わたしが暮らしてる地域だと、
犬はもちろん猫の放し飼いなど目にしなくなりました。

ゲンが雷の晩に行方不明になり、
懸命に探しても見つからなかった話に胸が痛みます。
どこかで元気に暮らしてたものと思いたいです。

あとねぇ。
この本、文庫版のカバー絵が凄いのよ。
ゲンの似顔絵なんだけど。

さらっと描いたように見えて、
ゲンさんの犬柄まであますところなく表現されてる逸品ですw
誰の絵なんだろう。
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2025/04/17 13:36
 斎藤茂吉先生の『万葉秀歌』(下巻 岩波新書刊)を読み終えました。これ、上下セットで買ったのではなく、上下ともにばらで買った模様です。
 上巻は現代のかなづかいと漢字なのですが、下巻が正仮名づかひに正漢字なのです。上巻も正仮名正漢字本欲しい。
 ちなみに、ある書店にはまだあったりします>万葉秀歌 もちろん現在の岩波新書としてなので、コート紙のカバーのついた。
 
 下巻には、作者不詳や東歌、防人の歌がかなり多いです。いきおい、収録された歌も上巻の華やかな宮廷から生まれたカラフルな印象の和歌ではなく、どことなくモノクロームでちょっぴり野趣のある和歌が多いですね。
 
 ある歌の解説で茂吉先生は、「和泉式部がどうの、小野小町がどうのと云つても、もう間接な機知の歌になつてしまつてゐる」とバッサリ。
 和泉式部も小野小町の歌もいいのはいいのですが、やはり飾らない、自然そのままの写生、実相観入、これが大事だし、いちばんこれらを味わえるのは、たしかに万葉集だなと思います。
 
 個人的に気に入っている歌をいくつか……と思ったのですが、できればまだ横になっていたいので(これを書いたときには酷い喉風邪をひいておりました……)一首だけ。
 
 「筑波嶺《つくばね》のさ百合《ゆる》の花の夜床《ゆどこ》にも愛《かな》しけ妹《いも》ぞ晝《ひる》もかなしけ」(巻二十・四三六九 防人)
 
 上丁《じやうてい》大舎人部千文《おほとねのちぶみ》作のこの歌、茂吉先生の解説を読んでびっくり。
 「夜の床でも可哀いい妻だが、晝日中でもやはり可哀いくて忘れられない」
 凄いですね。こういう歌は宮廷の歌人からはなかなか出てこないのかも。
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2025/04/15 17:30
 ニーチェの『悲劇の誕生』(岩波文庫刊)を読み終えました。いずれ岩波文庫から出ているニーチェの本をすべて手元に集め、読破したいと考えています。
 
 なぜこの本を買ったかというと、(たぶん若き日の)三島由紀夫さんがずいぶん傾倒していたそうで……。で、読んでみた感想は、なんだか浅田彰さんの『逃走論』(ちくま文庫刊)のスキゾフレニー逃走(あるいは闘争)のようだ、ということでした。
 
 パラノとスキゾのように、『悲劇の誕生』では、アポロとディオニュソスがほぼ対立する二柱の神の特性のもとに、ディオニュソスへの讃歌が語られます。
 いろいろとアポロとディオニュソスの特性はありますが、冷静な自己抑制のアポロと、陶酔、狂気のディオニュソス……。
 アポロの秩序、ディオニュソスの陶酔と狂気、の対比がパラノ型とスキゾ型のように響きあうのですね。
 アポロ的世界は秩序と個別化を象徴し、ディオニュソス的世界は陶酔と超越を象徴する。ニーチェは、これら二つが対立するだけでなく、芸術において統合される可能性をも示唆しております。
 
 先日、読書日記でとりあげた白水社の文庫クセジュのラブレーのようにディオニュソス的特性が語られていきます。
 キリスト教的絶対道徳の前では、生はもともと本質的に非道徳なものであり、生はいつでも間違ったものとされざるを得ない。
 そんな生への復権、人間の生や肉体への賛美。
 
 p78から、「ディオニュソス的人間はハムレットに似ている。事物の本質を見抜く。そして行動したところで、事物の本質は変わらない。『あこがれは世界を飛び越え、神々さえ飛び越えて死に向かう』。意志の最大の危機。それを救うのが芸術である。『芸術だけが、生存の恐怖あるいは不条理についてのあの嘔吐の思いを、生きることを可能ならしめる表象に変えることができるのである』」。

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2025/04/15 17:30

 
 わたしは以前からニーチェを読むとなにかしら元気づけられるような感覚を味わっていたのですが、なるほどな……と、生、そして混沌、狂気、陶酔……。
 
 ニーチェ学者などの読解には及びませんが、このディオニュソスを通しての人間賛揚が、ニーチェ初の著作からあったとは。
 それにしても、ニーチェ専門ではないけれど、B層の研究でおなじみ適菜《てきな》収《おさむ》さんの著作を読んだときに、同じニーチェの文章でも、プロと素人ではこんなに読解に差がつくのか……とびっくりしたことがあります。
 
 ニーチェを一、二回読んだだけでその精髄をつかむのは難しいと思います。実際、適菜収の著作を読んだときに、同じニーチェの文章でも、専門家と素人とではこんなにも読解に差が出るのかと驚かされたぐらいですし。
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2025/04/13 20:36
天沢 退二郎(編) 『新編 宮沢賢治詩集』 新潮文庫 1994年


図書館のリユース文庫からもらってきて、
持ち歩いて読んでた本です。

宮沢賢治っていうと押しも押されぬっていうか、
日本文学史上に不動の位置を得ちゃった感があります。

わたしは六つか七つのころ、
はじめて彼の童話を読んでから、ずっと好きです。
「ほんとうの、すきとおった食べもの」って、
どんな味がするものか興味津々だったのを憶えていますw

いまだにっていうか、
大人になったら涙腺が緩くなって
「よだかの星」って聞いただけで、なんかもうダメ。
「キシキシキシキシ!」って鳴くところで、
かならずヤられます。

彼の童話には優れたものが目白押しですけど、
より本心を吐露しているのが詩。
わたしには、そう感じられました。

へたくそに言葉を並べるより、
どうか彼の詩に、じかに触れてみてください。
そうとしか言えない。

透明な鉱物質の……いえ、やめておきましょう。

ひとつだけ言わせろ。
「青森挽歌」なる長い詩に
「ギルちゃん」っていう、なにものかが出てきます。


 《ギルちやんまつさをになつてすわつてゐたよ》

 《ギルちやん青くてすきとほるやうだつたよ》

 《鳥がね、たくさんたねまきのときのやうに
   ばあつと空を通つたの
   でもギルちやんだまつてゐたよ》

 《ギルちやんちつともぼくたちのことみないんだもの
   ぼくほんたうにつらかつた》

 《どうしてギルちやんぼくたちのことみなかつたらう
   忘れたらうかあんなにいつしよにあそんだのに》


ギルちゃんの正体については諸説あるみたい。
早逝した妹のイメージを
「ギルダ」という異国の少女に重ねたもの……

まじめに解釈すると、そういう線が濃厚なのかな。

だが、しかし。
わたしは「青森挽歌」を読んで居って、だ。
脳内に毛の生えたギルちゃんが輪舞しやがって!
しやがって困ったんだよ(U`ェ´)ピャピャピャーッ!!

そう、ヤツは犬だッ犬畜生だッ(U`ェ´) ケッピャピャピャーッ!!
耳!!!!!
耳、噛ませろおぉぉーーーーッ(U`ェ´) ケッピャピャピャーッ!!
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2025/04/11 19:48
ヘルマン・ヘッセ 『ペーター・カーメンツィント』  猪股和夫(訳)
 光文社古典新訳文庫 2019年(電子版)


おととしの六月に買ったままになってた本。

ヘルマン・ヘッセのデビュー作です。
いかにもドイツ文学なビルドゥングス・ロマン長編。
主人公の成長を追い、
人間的な成熟にいたる過程を描く小説です。

トーマス・マンの『トニオ・クレーガー』と比べると、
両著者の資質の違いがよく見えるように感じられました。

本作の主人公ペーターはスイスの寒村で生まれ育ち、
やがてギムナジウムに進みます。
長じて文筆で身を立てるようになりますけど、
都会や教養あるひとびとに対し、
なじみきれない違和感を抱き続けて……

野性味のあるペーターの人物像は、
学校をドロップアウトした元秀才ヘッセにとって、
ある種の憧れの具現化だったのでしょうか。
『車輪の下』と対になるような印象を受けました。

不器用でぐずぐずしてて失恋を重ねるんだけど、
変な引きずりかたしない素朴なペーター。

やがて重い障害を負ったボッピと友情を育み、
親友として同居するまでになります。
偏見からボッピを避けていた自分を恥じ、
その人柄に敬意を抱く過程に涙腺を決壊させられました。

あとスイスの山里なんかの、自然描写が美しいんですよ。
日本ではヘッセというと『車輪の下』。
あまり読まれない作品ですけど、
もっと親しまれ愛される価値があると思います。

古くは『郷愁』という邦題で出ていたそうですね。
老境にさしかかりつつある主人公が、
来し方を顧みる懐かしさが感じられる本作には、ふさわしいかも。
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2025/04/10 21:53
 『ダークツーリズム入門』(風来堂編 イースト・プレス刊)を読み終えました。
 
 ダークツーリズムとは、日本でいえば、福島(原発)、広島長崎、連合赤軍山岳ベース、長島愛生園などなど。海外でいえばアウシュヴィッツ収容所、チェルノブイリ原発とそこで働く人達の街として作られたプリピャチ市街、ベルリンの壁、ルワンダ内戦、カンボジア内戦……と、「歴史に残る負の遺産」を巡る旅行のことです。
 
 これは先日、神田神保町のあるお店の店頭ワゴンから入手した本なのですが、資料にいいかな……と思って買ってはみたものの、そんな軽い気持ちを吹き飛ばすような、人類が残した負の遺産から、いろいろと考えさせられる本でした。
 
 で、日本人としては、広島の原爆ドーム、沖縄のアブチラガマ(空爆や上陸してきた米兵から逃れる洞窟)、今でも一部は米軍によって返還されていない沖縄の伊江島、そして……アメリカ、カリフォルニア州のマンザナ日系人強制収容所は、読んでいて、米国へのヘイトが感情を刺激してきます。
 
 そんな「真っ黒」じゃないダークツーリズムのスポットとしては、北キプロス・トルコ共和国という国家の存在でしょうか。
 そんな国あるのか、と皆様思うかと存じますが、これ、キプロス島でトルコ側が軍事行動をおこし、キプロス島の北半分が北キプロス・トルコ共和国として独立……したはずなのですが、トルコ以外にどこの国からも独立した国家とみなされておらず、当然地図にも書き込まれていない、未承認国家ということなんです。
 
 なんというか、語弊のある言い方をすると、歴史と地理の面白さなどを感じる一冊でした。中国の文化大革命や天安門事件などは、正直行けないのでしょうね。そこらも載っているとよかったのに。
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2025/04/08 20:26
板垣千佳子(編・著) 『ラドゥ・ルプーは語らない。』 アルテスパブリッシング 
 2021年


図書館で借りた本。

二十二年に亡くなったルーマニアのピアニスト、ラドゥ・ルプー。
親交のあったひとびとが語る、
ルプーの印象やエピソードをまとめた一冊です。

ルプーは九十三年に録音をドロップアウト。
大のインタビュー嫌いとしても知られていました。
実像に迫るには、
素顔を知る相手にあたるしかなかったんですよね。

どうやら気難しい反面、茶目っ気もあって実直で、
狡く立ち回る人物ではなかったみたい。

わたしはクラシック音楽に親しみはじめたころから、
ルプーさんの録音にお世話になりました。
はじめて買ったシューベルトやブラームスのアルバムは、
彼がデッカに録音した盤です。

「千人にひとりのリリシスト」。
その通り名どおりの抒情的で繊細な音楽でした。

実演に接する機会にも恵まれ、
たしか三回ステージを観ています。

生で聴く音色の美しさ、いぶし銀の真珠みたいでした。
楽曲へ没入する集中力が圧倒的で、
録音にはない凄みを感じさせられたことが忘れられません。

ルプーさん、もとは作曲家志望だったんだって。
ピアノが「なぜか巧く弾けてしまった」から、
演奏家として成功したけど……

録音もインタビューも避けまくってた様子からすると
「やっぱり売れなくても作曲家が良かったかなぁ」
とか思ってたのかな?
どーだろうかw
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2025/04/08 20:25
板垣千佳子(編・著) 『ラドゥ・ルプーは語らない。──沈黙のピアニストをたどる20の素描』
 アルテスパブリッシング 2021年


図書館で借りた本。

二十二年に亡くなったルーマニアのピアニスト、ラドゥ・ルプー。
親交のあったひとびとが語る、
ルプーの印象やエピソードをまとめた一冊です。

ルプーは九十三年に録音をドロップアウト。
大のインタビュー嫌いとしても知られていました。
実像に迫るには、
素顔を知る相手にあたるしかなかったんですよね。

どうやら気難しい反面、茶目っ気もあって実直で、
狡く立ち回る人物ではなかったみたい。

わたしはクラシック音楽に親しみはじめたころから、
ルプーさんの録音にお世話になりました。
はじめて買ったシューベルトやブラームスのアルバムは、
彼がデッカに録音した盤です。

「千人にひとりのリリシスト」。
その通り名どおりの抒情的で繊細な音楽でした。

実演に接する機会にも恵まれ、
たしか三回ステージを観ています。

生で聴く音色の美しさ、いぶし銀の真珠みたいでした。
楽曲へ没入する集中力が圧倒的で、
録音にはない凄みを感じさせられたことが忘れられません。

ルプーさん、もとは作曲家志望だったんだって。
ピアノが「なぜか巧く弾けてしまった」から、
演奏家として成功したけど……

録音もインタビューも避けまくってた様子からすると
「やっぱり売れなくても作曲家が良かったかなぁ」
とか思ってたのかな?
どーだろうかw
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2025/04/08 13:50
 小栗虫太郎の『女人果《にょにんか》』(春陽堂書店 春陽文庫刊)を読み終えました。うーん。小栗虫太郎晩年の作品なので覚悟はしておりましたが……。
 
 初期の法水《のりみず》ものの長短編や先日も紹介した『白蟻』のような、衒学趣味《ペダントリー》のぶちまけや、威圧的というか過剰な電圧を帯びた文章、それに毒気、そういうものがばっさりと切り捨てられている。そんな印象でしたね。
 面白いのは面白く、あっという間に読めてしまったのですが、そういうのを小栗虫太郎作品に求めてないのも事実。
 
 客船、穂高丸に某国の間諜《スパイ》が乗り込んでいるという報せからはじまるのですが、二等運転士にして本作主人公(……かな?)の西塔《さいとう》靖吉《やすきち》は、船の灯火管制に従わない社長令嬢、三藤《みふじ》弓子の件で強硬手段に出ます。
 そして舞台は中国に。といっても弓子の世話係の伸子《のぶこ》の書いた、長い長い手記。子岐《しき》と伸子の地上ではこれ以上のことはできないかのような清らかな愛。かと思うと伸子の母の完全犯罪……ちなみにこの完全犯罪のトリックと動機は、小栗虫太郎のデビュー作『完全犯罪』からの使い回しという……。
 そしてポーランド人のディタとヘッダのザルキント姉妹。かなり長い伸子の手記パートを終え、いよいよ最終パートに……。
 
 繰り返しますが、面白いのは面白いのです。
 ただ、小栗虫太郎さんの作品にこういうのを求めていないのも事実で……どう形容してみたらいいのやら。
 だいたい、初めて読む小栗作品としてこれは……とも思います。でも、いきなり『黒死館殺人事件』を読めとも言えませんし。となると法水ものの短編か、『白蟻』でしょうかね。
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2025/04/07 20:24
 ちょっと具合が思わしくないのでざっと。『ラブレーとルネサンス』(マドレーヌ・ラザール 白水社クセジュ文庫刊)を読み終えました。
 
 1436年のグーテンベルクによる印刷術の発明は、人間の歴史の中でもかなりの爆発力があったでしょう。実際に知のエリートから、ブルジョワ階級とはいえど、それでも一応は市民に「知」が解放されたのです。
 
 フランソワ・ラブレーの著作は当時としてはかなり危険だったので(涜神、異端など、宗教的な問題で)、イタリアに逃げたことも。
 そして逃亡した現地でのウェルギリウスやキケロなどを礼賛し、また百科全書的な知識への渇望、古典時代の崇拝、そしてもともと医者だったラブレーによるヒポクラテスの原典の校訂作業。また、ラブレーは法曹家としても活躍しました。
 
 そして、ラブレーの作品は、人間存在への信頼行為である、と。人間の裡に悲惨と無力しか見ようとしない態度を拒否し、人間の尊厳を高めることを意図してました(これはラブレーだけでなく他のユマニストもそう)。
 なので、人間の弱さを強調したがるキリスト教とは衝突せざるを得ませんでした。キリスト教では罪とみなす、肉体の復権。人間は精神や魂だけでなく、肉体もまた重要なのです。
 
 少し前に、岩波文庫でもラブレーの『ガルガンチュア 第一之書』から『パンタグリュエル 第五之書』まで再版しましたね。
 『ガルガンチュア 第一之書』と『パンタグリュエル 第二之書』だけでもお勧めです。メモをとりつつ読んだのをそのまま載っけてるような今回の拙エッセイですが……ええと、すみません;;
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2025/03/30 13:31
 澁澤龍彦さんのセレクションによる『暗黒のメルヘン』(河出文庫刊)を読み終えました。すでに読んだことのある作品、正反対に著者名すら知らなかった作品、どれも粒ぞろいの幻想文学中短編アンソロジーでした。
 
 収録作品
龍潭譚      泉鏡花
桜の森の満開の下 坂口安吾
山桜       石川淳
押絵と旅する男  江戸川乱歩
瓶詰の地獄    夢野久作
白蟻       小栗虫太郎
零人       大坪砂男
猫の泉      日影丈吉
深淵       埴谷雄高
摩天楼      島尾敏雄
詩人の生涯    安部公房
仲間       三島由紀夫
人魚紀聞     椿實
マドンナの真珠  澁澤龍彦
恋人同士     倉橋由美子
ウコンレオラ   山本修雄
 
 ちなみに表記は泉鏡花だけが正仮名です。
 さて、以上16作品、粒ぞろいではありますが、個人的な好みだと、ダントツで小栗虫太郎の『白蟻』、それを追いかけるかのように、夢野久作、日影丈吉、埴谷雄高、椿實、澁澤龍彦……ですかね。あ、坂口安吾も!
 
 さて、その『白蟻』ですが、というより小栗虫太郎さんの文章について、みな判で押したように悪文悪文……と。衒学趣味《ペダンティズム》と蘊蓄を傾けまくった文章はただ物語の骨組みを飾るものではなく、むしろ小栗虫太郎の場合は、衒学趣味と蘊蓄のためにそれを盛る器、物語があると。
 凄い転倒というか倒錯ではありますが、そんな狂った小説を読みたくて小栗虫太郎の小説を買うのです。
 
 ──馬霊教の開祖、騎西《きさい》家の末路。瘴気漂う山中に住んでいる騎西家の人たち、主人公滝人《たきと》(女性です)が産んだ奇形児の稚市《ちごいち》やら白痴やら……。
 そして、トンネル工事に遭って顔どころか内面までも違ってしまった滝人の良人、十四郎。滝人はじつは同時に事故にあった鵜飼邦太郎ではないかと疑惑の目を向け、証拠集めや類推にいそしみます。が……という内容です。
 
 かなり威圧的な文体、グロ風味、そして騎西滝人のまるで法水倫太郎が乗り移ったかのような推理。
 
 やっぱり小栗虫太郎の人工的な文体はたまりません。
 他作品の紹介が出来ませんでしたが、なかなか他の本では読めない作品も多いのでお勧めします。
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2025/03/27 19:34
瀬戸内 寂聴、堀江 貴文 『生とは、死とは』 角川新書 2016年


お正月にブックオフで88円になってて、母のおみやげに買った本です。
「おもしろいから読んでみろ」と薦めてくるので、
わたしも通院のおともに、ちびちび読んでみました。

瀬戸内寂聴さんにホリエモン。
異色の対談に思えますけど、
寂聴さんからのご指名だったそうです。

話が嚙みあってるのか噛みあってないのか、
微妙な感じですけど、ふたりとも楽しそう。

河合隼雄さんとよしもとばななさんの
『なるほどの対話』を想起させられました。

「講演会にピンクのシャツを着て出たら、
苦情が来た」というホリエモンの話があります。
日本の同調圧力の根深さを、
あらためて垣間見せられた気がしました。

世の中に出てきたころのホリエモンは、
ギラギラした上昇志向を発散させていて嫌いでした。
ただ、この本などで彼の発言を見ていると、
常識や前例にとらわれない良さがあります。

この点は寂聴さんも、そうですね。
良い意味で非常識なものどうし、
波長が合ったということでしょうか。

最後のほうで日本の検察の怖さ危険さ、
悪質さについて触れたくだりがありました。
この国で刑事告訴されてしまうと、
ほぼ有罪が確定するのは周知の事実ですね。

検察の体質に疑問を抱くものが少なく、
問題点が議論の俎上にのぼることも稀なのは、
日本社会の特異性のひとつなのでしょうか。

「羊のようにおとなしく管理しやすい日本人」。
特殊詐欺の組織で、
そう高く評価されてるといいますけど……w
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2025/03/27 17:07
瀬戸内 寂聴、堀江 貴文 『生とは、死とは』 角川新書 2016年


お正月にブックオフで88円になってて、母のおみやげに買った本です。
「おもしろいから読んでみろ」と薦めてくるので、
わたしも通院のおともに、ちびちび読んでみました。

瀬戸内寂聴さんにホリエモン。
異色の対談に思えますけど、
寂聴さんからのご指名だったそうです。

話が嚙みあってるのか噛みあってないのか、
微妙な感じですけど、ふたりとも楽しそう。

河合隼雄さんとよしもとばななさんの
『なるほどの対話』を想起させられました。

「講演会にピンクのシャツを着て出たら、
苦情が来た」というホリエモンの話があります。
日本の同調圧力の根深さを、
あらためて垣間見せられた気がしました。

世の中に出てきたころのホリエモンは、
ギラギラした上昇志向を発散させていて嫌いでした。
ただ、この本などで彼の発言を見ていると、
常識や前例にとらわれない良さがあります。

この点は寂聴さんも、そうですね。
良い意味で非常識なものどうし、
波長が合ったということでしょうか。

最後のほうで日本の検察の怖さ危険さ、
悪質さについて触れたくだりがありました。
この国で刑事告訴されてしまうと、
ほぼ有罪が確定するのは周知の事実ですね。

「羊のようにおとなしく管理しやすい日本人」。
特殊詐欺の組織で、
そう高く評価されてるそうですけど……w

検察の体質に疑問を抱くものが少なく、
問題点が議論の俎上にのぼることも稀なのは、
日本社会の特異性のひとつなのでしょうか。

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2025/03/27 17:05
瀬戸内 寂聴、堀江 貴文 『生とは、死とは』 角川新書 2016年



お正月にブックオフで88円になってて、母のおみやげに買った本です。
「おもしろいから読んでみろ」と薦めてくるので、
わたしも通院のおともに、ちびちび読んでみました。

瀬戸内寂聴さんにホリエモン。
異色の対談に思えますけど、
寂聴さんからのご指名だったそうです。

話が嚙みあってるのか噛みあってないのか、
微妙な感じですけど、ふたりとも楽しそう。

河合隼雄さんとよしもとばななさんの
『なるほどの対話』を想起させられました。

「講演会にピンクのシャツを着て出たら、
苦情が来た」というホリエモンの話があります。
日本の同調圧力の根深さを、
あらためて垣間見せられた気がしました。

世の中に出てきたころのホリエモンは、
ギラギラした上昇志向を発散させていて嫌いでした。
ただ、この本などで彼の発言を見ていると、
常識や前例にとらわれない良さがあります。

この点は寂聴さんも、そうですね。
良い意味で非常識なものどうし、
波長が合ったということでしょうか。

最後のほうで日本の検察の怖さ危険さ、
悪質さについて触れたくだりがありました。
この国で刑事告訴されてしまうと、
ほぼ有罪が確定するのは周知の事実ですね。

「羊のようにおとなしく管理しやすい日本人」。
特殊詐欺の組織では、
そう高く評価されてるそうですけど……w

検察の体質に疑問を抱くものが少なく、
問題点が議論の俎上にのぼることも稀なのは、
日本社会の特異性のひとつなのでしょうか。
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2025/03/26 21:05
許 光俊(きょ・みつとし) 『最高に贅沢なクラシック』 講談社現代新書 2012年


図書館で借りた本。

人生を、見方によっては生命をも賭けた、
壮大な毒見の記録です。
ほんとよ?

クラシック音楽の評論家は何人もいますけど、
ここまで正直に書いた前例はなかったのでは。

だって冒頭に置かれてるのが
「学生食堂なんかでご飯を食べてたら、
プルーストはわからないよ」。

そう口にして周囲の反感を買いまくった、
学生時代の友人のエピソードなんです。

著者は、この友人の言葉を肯定します。
良し悪しはまったく別として、
わたしも心底から同感です。

この本ではヨーロッパの上流階級が育てたという、
西洋クラシック音楽本来の出自を愚直に追及しています。
現地で聴いた名門オーケストラを、
ゆかりの地の歴史と絡めて紹介する内容が縦糸です。

そこへ美食や自動車についての横糸を絡めることで、
西欧文化に共通する特質を炙り出そうという試み。

表層だけ見てると俗っぽい贅沢自慢の本なのよw
じっさいネット上には、
そういう文脈で捉えた批判も散見されます。

え、でもさぁ。
とんでもない時間と労力とお金をかけて現地に赴いて、
いわば毒見してきてくれてるわけでしょ?
それを公に開いてて親切だよ。

ほとんどの日本人には真似できない実践ですし、
無理して真似する必要もないでしょう。
わたしなんか死んでも無理よw

ただ著者が後書きで触れてる、
こういう問いかけは、ほんとうに大切だと思う。
許さん、ただのエピキュリアンじゃないね。

「豊かさ」を突きつめていくと
「人間はいかに生きるべきか」っていう、
倫理的な問いかけを孕んでくる。

人類の文明が絶対的に正しいものではなくても。
豊かさと余裕のなかで熟成した甘露、
この世に生まれてきたからには、
それを胸にしみこませてほしい。

これらこそ西洋クラシック音楽から、
わたしたちが学ぶことのできる、
最良の価値への指針では、なかろうか。
わたしは、そう思うんだけどな。
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2025/03/26 20:30
許 光俊(きょ・みつとし) 『最高に贅沢なクラシック』 講談社現代新書 2012年


図書館で借りた本。

人生を、見方によっては生命をも賭けた、
壮大な毒見の記録です。
ほんとよ?

クラシック音楽の評論家は何人もいますけど、
ここまで正直に書いた前例はなかったのでは。

だって冒頭に置かれてるのが
「学生食堂なんかでご飯を食べてたら、
プルーストはわからないよ」。

そう口にして周囲の反感を買いまくった、
学生時代の友人のエピソードなんです。

著者は、この友人の言葉を肯定します。
良し悪しはまったく別として、
わたしも心底から同感です。

この本ではヨーロッパの上流階級が生み育てたという、
西洋クラシック音楽本来の出自を愚直に追及しています。

美食や自動車と並べて記述することで、
西欧文化に共通する特質を炙り出そうという試みです。

表層だけ見てると俗っぽい贅沢自慢の本なのよw
じっさいネット上には、
そういう文脈で捉えた批判も散見されます。

え、でもさぁ。
とんでもない時間と労力とお金をかけて現地に赴いて、
いわば毒見してきてくれてるわけでしょ?
それを公に開いてて親切だよ。

ほとんどの日本人には真似できない実践ですし、
無理して真似する必要もないでしょう。
わたしなんか死んでも無理よw

ただ著者が後書きで触れてる、
こういう問いかけは、ほんとうに大切だと思う。
許さん、ただのエピキュリアンじゃないね。

「豊かさ」を突きつめていくと
「人間はいかに生きるべきか」っていう、
倫理的な問いかけを孕んでくる。

人類の文明が絶対的に正しいものではなくても。
豊かさと余裕のなかで熟成した甘露、
この世に生まれてきたからには、
それを胸にしみこませてほしい。

これらこそ西洋クラシック音楽から、
わたしたちが学ぶことのできる、
最良の価値への指針では、なかろうか。
わたしは、そう思うんだけどな。
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2025/03/23 13:01
 『きみはメタルギアソリッドV:ファントムペインをプレイする』(ジャミル・ジャン・コチャイ著 河出書房新社刊)を読み終えました。
 
 作者はパキスタン難民キャンプで生まれたアフガニスタン系の人で現在は米国在住。
 本の帯にイスラム・マジックリアリズム、と書いてありますが、この惹句はそのとおり。微熱を帯びた文章、とか電圧の高い文章、みたいなレトリックが必要な作品はありますが、本作品集(短編集です)もそんな感じ。
 
 表題作は『メタルギアソリッドV:ファントムペイン』を遊びながら、父祖が戦火に巻き込まれた記憶と歴史が極端に短い文章で綴られていくという趣向。一人称視点のゲームだそうなので、その一人称視点を表現するのに、作中の人称がなんと二人称。
 
 医師同士の夫婦のもとに息子イスミアルの指からはじまって、彼の身体が137個にばらばらにされ、それを縫ってイスミアルの身体を回復させようとする『差出人に返送』。
 
 作者と同様のアフガニスタン移民ランギーナが、過去の記憶、現在の隣人への不満、自分自身の病などなどに、とにかく怒りを爆発させ、その文章がまさに「怒り」をテクストとして読者にぶつけられる……長い長い文章がずっと読点だけで11ページも続きようやく作品ラスト近くで句点が打たれ、その怒りから解放される『もういい!』。
 
 個人的には、イスラムの教えや礼拝などを軽んじたために猿へと変身させられたものの、動物園への強制収監(っていうのかな?)から、猿だけでなく人間まで巻き込んでの反乱軍結成とその顛末を描く『猿になったダリーの話』。これがいちばん好き。
 
 マジックリアリズムと書きましたが、作者の感じるアフガニスタンの戦禍や現代アメリカのいびつな側面、これらが神話的に語られていきながら、おびただしく登場するTwitterやYouTube、Facebook、4chan、reddit……。
 おまけにはセーラームーンやトトロやナルトまで。
 
 本作品集はホラーではないのだけれど、どことなく以前読んだ、エルビラ・ナヴァロの『兎の島』(国書刊行会刊)のような読後感でした。
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2025/03/21 20:37
 こんばんは。古川順弘先生の『紫式部と源氏物語の謎55』(PHP文庫刊)を読み終えました。正直、去年の大河ドラマの副読本みたいな感じで読むのがいいのかな。わたしのとこにはテレビがないので、純粋に「謎本」として楽しめました。
 
 なんだかんだで紫式部の正体もわかりませんし。『源氏物語』の構成についても紫式部がすべて書いたわけではない説(どころか紫式部は監修役でしかない説まで)なども。
 
 これ、本居宣長のような国学の大物や、折口信夫までが複数で『源氏物語』を書いたという自説を発表していて、国学や折口学の世界からそう言われたら、もうそうなんだろう、と。
 
 とはいえ、瀬戸内寂聴先生は「紫式部単独執筆」説を唱えており、たしかにこれもわかるような気がします。
 というのも歴史上、こんな業績一人でできたのか!? と驚くような人物も存在するからです。たとえばレオナルド・ダ・ヴィンチとか。
 
 でも単独説だと、あからさまにあとで接ぎ木したような巻があり(第四十二巻『匂宮』、第四十三巻『紅梅』、第四十四巻『竹河』)、とくに『竹河』の文章は他の巻と比較すると杜撰な点が目に付くなど、この三つだけは瀬戸内寂聴さんもちょっとあやしいかも……と。
 
 誰々訳~(与謝野晶子、谷崎潤一郎などなど)で『源氏物語』を読んでます、という人間ではないのですが、これまで読んできた『源氏物語』の貧弱な知識だけでも本書は面白かったです。
 ちょっと文章が硬いかなとは思いますし、つねに「テキスト」表記なのも……(文脈上、ここは「テクスト」表記でいいんじゃないかという箇所も)。
 
 あと、本の構成上、すきま時間に愉しめるのもいいですね。
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2025/03/20 21:40
 こんばんは。須永朝彦先生の編集、翻訳(リライト)の『王朝奇談集』(ちくま学芸文庫刊)を読了しました。
 
 ちょうどいろいろあって、すきま時間的にぴったりくる本、ということで、ずーっと積んであった本書を選んだのです。
 
 文字通り、平安時代から鎌倉時代までの説話集の中から、幻想味、諧謔味のある挿話をリライト、そういった文章をまとめた一冊です。
 
 芥川さんがそういう挿話を現代の小説として再生させたように、本書で語られたある挿話を、たとえ拙くても、「小説」として書けないものかな……って思ってます。
 どの挿話を小説としてリライトリメイクしたいのか……は秘密。
 
 興味深い、そしてびっくりしたのが、今昔物語集の『巨人の屍』が、J.G.バラードの初期傑作短編『溺れた巨人』と同じような話なのですよ!
 そんなことある……!? と思ったのですが、さすがバラード、彼の愛好するシュルレアリスム的な着想は、集合的無意識から今昔物語集の挿話とそっくりなものをサルベージしたのでしょう。
 
 宇治拾遺物語からは、『稚児の空寝《そらね》』、これ、小学校のとき教科書かなんかで読んだことあるんですよね……もちろん子供向けリライトですが。
 稚児さんが寝ちゃった(と思われて)、みんなでおはぎを食べよう、じゃあ稚児さんも起こして……だとがっついているように思われないかと、ちょい自意識過剰な稚児さん。一回では起きず、二度目に起こされたら~と思っていたら二度目がない。それで稚児さんどうする……、というちょっとかわいらしい話。
 
 本書は、王朝ものの変わった話、奇妙な味わいや発想を、須永朝彦さんの擬古的な筆で気軽に読めるいい一冊です。リライト、というのはこのぐらいのレベルまでやってほしい。
 
 鷗外の『魚玄機』といい、よいリライトものが続きましたね。
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2025/03/18 21:02
シヴォーン・ダウド 『十三番目の子』  池田 真紀子(訳) 小学館 2016年


図書館で借りました
著者の没後に刊行された作品です。
もっと手を入れてから世に出すつもりだったのかな。

̪シヴォーン・ダウドはイギリスの小説家で、
ヤングアダルト向けの本を主に手がけていました。
惜しいことに四十七歳の若さで亡くなっています。

ケルトの神話や昔話を思わせるお話です。
十三歳の誕生日が来ると、
暗黒の神ドンドの生贄に捧げられる。

生まれたとき、
そう決められてしまった少女ダーラが主人公。
運命の誕生日がやってくる直前、
双子の兄バーンが彼女を訪ねてきます。

空の神ルグのはからいで、
自分たちの出生の秘密を知ったダーラとバーンは……

因習と偏見に浸かりきった村人たちの姿には、
著者の怒りが込められているように感じました。

全体にあっさりした筆致で読みやすいのですけど、
やや掘り下げが甘く物足りない印象も残ります。

お話に決着はつくんです。
同時に先の展開を予感させる幕切れでもあって……
やはり推敲中の作品だったのでしょうか。

ジブリのアニメみたいとか、
結末が「俺たちの戦いはこれからだ!」になってるとか……
ネット上の指摘には笑わされつつ頷かされました。

挿絵がふんだんに盛りこまれており、
絵物語としても楽しめる美しい一冊です。
ダウドさんの本、もっと読んでみたくなりました。
***このコメントは削除されています***
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2025/03/18 20:59
シヴォーン・ダウド 『十三番目の子』  池田 真紀子(訳) 小学館 2016年


図書館で借りました
著者の没後に刊行された作品です。
もっと手を入れてから世に出すつもりだったのかな。

̪シヴォーン・ダウドはイギリスの小説家で、
ヤングアダルト向けの本を主に手がけていました。
惜しいことに四十七歳の若さで亡くなっています。

ケルトの神話や昔話を思わせるお話です。
十三歳の誕生日が来ると、
暗黒の神ドンドの生贄に捧げられる。

生まれたとき、
そう決められてしまった少女ダーラが主人公。
運命の誕生日がやってくる直前、
双子の兄バーンが彼女を訪ねてきます。

空の神ルグのはからいで、
自分たちの出生の秘密を知ったダーラとバーンは……

因習と偏見に浸かりきった村人たちの姿には、
著者の怒りが込められているように感じました。

全体にあっさりした筆致で読みやすいのですけど、
やや掘り下げが甘く物足りない印象も残ります。

お話には決着がつきますけど、
先の展開を予感させる終わりかたです。
やはり推敲中の作品だったのでしょうか。

ジブリのアニメみたいとか、
結末が「俺たちの戦いはこれからだ!」になってるとか……
ネット上の指摘には笑わされつつ頷かされました。

挿絵がふんだんに盛りこまれており、
絵物語としても楽しめる美しい一冊です。
ダウドさんの本、もっと読んでみたくなりました。
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2025/03/18 20:59
シヴォーン・ダウド 『十三番目の子』  池田 真紀子(訳) 小学館 2016年


図書館で借りました
著者の没後に刊行された作品です。
もっと手を入れてから世に出すつもりだったのかな。

̪シヴォーン・ダウドはイギリスの小説家で、
ヤングアダルト向けの本を主に手がけていました。
惜しいことに四十七歳の若さで亡くなっています。

ケルトの神話や昔話を思わせるお話です。
十三歳の誕生日が来ると、
暗黒の神ドンドの生贄に捧げられる。

生まれたとき、
そう決められてしまった少女ダーラが主人公。
運命の誕生日がやってくる直前、
双子の兄バーンが彼女を訪ねてきます。

空の神ルグのはからいで、
自分たちの出生の秘密を知ったダーラとバーンは……

因習と偏見に浸かりきった村人たちの姿には、
著者の怒りが込められているように感じました。

全体にあっさりした筆致で読みやすいのですけど、
やや掘り下げが甘く物足りない印象も残ります。

お話には決着がつきますけど、
先の展開を予感させる終わりかたです。
やはり推敲中の作品だったのでしょうか。

ジブリのアニメみたいとか、
結末が「俺たちの戦いはこれからだ!」になってるとか……
ネット上の指摘には笑わされつつ頷かされました。

挿絵がふんだんに盛りこまれており、
絵物語としても楽しめる美しい一冊です。
ダウドさんの本、もっと読んでみたくなりました。



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2025/03/18 20:55
シヴォーン・ダウド 『十三番目の子』  池田 真紀子(訳) 小学館 2016年


図書館で借りました
著者の没後に刊行された作品です。
もっと手を入れてから世に出すつもりだったのかな。

̪シヴォーン・ダウドはイギリスの小説家で、
ヤングアダルト向けの小説を主に手がけていました。
惜しいことに四十七歳の若さで亡くなっています。

ケルトの神話や昔話を思わせるお話です。
十三歳の誕生日が来ると、
暗黒の神ドンドの生贄に捧げられる。

生まれたとき、
そう決められてしまった少女ダーラが主人公。
運命の誕生日がやってくる直前、
双子の兄バーンが彼女を訪ねてきます。

空の神ルグのはからいで、
自分たちの出生の秘密を知ったダーラとバーンは……

因習と偏見に浸かりきった村人たちの姿には、
著者の怒りが込められているように感じました。

全体にあっさりした筆致で読みやすいのですけど、
やや掘り下げが甘く物足りない印象も残ります。

お話には決着がつきますけど、
先の展開を予感させる終わりかたです。
やはり推敲中の作品だったのでしょうか。

ジブリのアニメみたいとか、
結末が「俺たちの戦いはこれからだ!」になってるとか……
ネット上の指摘には笑わされつつ頷かされました。

挿絵がふんだんに盛りこまれており、
絵物語としても楽しめる美しい一冊です。
ダウドさんの本、もっと読んでみたくなりました。
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2025/03/18 16:00
シヴォーン・ダウド 『十三番目の子』  池田 真紀子(訳) 小学館 2016年


図書館で借りました。
著者の没後に刊行された作品です。
もっと手を入れてから世に出すつもりだったのかな。

̪シヴォーン・ダウドはイギリスの小説家で、
ヤングアダルト向けの本を主に手がけていました。
惜しいことに四十七歳の若さで亡くなっています。

ケルトの神話や昔話を思わせるお話です。
十三歳の誕生日が来ると、
暗黒の神ドンドの生贄に捧げられる。

生まれたとき、
そう決められてしまった少女ダーラが主人公。
運命の誕生日がやってくる直前、
双子の兄バーンが彼女を訪ねてきます。

空の神ルグのはからいで、
自分たちの出生の秘密を知ったダーラとバーンは……

因習と偏見に囚われた村人たちの姿には、
著者の怒りが込められているように感じられました。

全体にあっさりした筆致で読みやすいのですけど、
やや掘り下げが甘く物足りない印象も残ります。

お話には決着がつきますけど、
先の展開を予感させる終わりかたです。
たぶん推敲中の作品だったのでしょう。

ジブリのアニメみたいとか、
結末が「俺たちの戦いはこれからだ!」になってるとか……
ネット上の指摘には笑わされつつ頷かされました。

挿絵がふんだんに盛りこまれており、
絵物語としても楽しめる美しい一冊です。
ダウドさんの本、もっと読んでみたくなりました。
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2025/03/18 15:58
シヴォーン・ダウド 『十三番目の子』  池田 真紀子(訳) 小学館 2016年


図書館で借りました。
著者の没後に刊行された作品です。
もっと手を入れてから世に出すつもりだったのかな。

̪シヴォーン・ダウドはイギリスの小説家で、
ヤングアダルト向けの本を主に手がけていました。
惜しいことに四十七歳の若さで亡くなっています。

ケルトの神話や昔話を思わせるお話です。
十三歳の誕生日が来ると、
暗黒の神ドンドの生贄に捧げられる。

生まれたとき、
そう決められてしまった少女ダーラが主人公。
運命の誕生日がやってくる直前、
双子の兄バーンが彼女を訪ねてきます。

空の神ルグのはからいで、
自分たちの出生の秘密を知ったダーラとバーンは……

因習と偏見に囚われた村人たちの姿には、
著者の怒りが込められているように感じられました。

全体にあっさりした筆致で読みやすいのですけど、
やや掘り下げが甘く物足りない印象も残ります。

お話には決着がつきますけど、
先の展開を予感させる終わりかたです。
推敲中の作品だったのでしょう。

ジブリのアニメみたいとか、
結末が「俺たちの戦いはこれからだ!」になってるとか……
ネット上の指摘には笑わされつつ頷かされました。

挿絵がふんだんに盛りこまれており、
絵物語としても楽しめる美しい一冊です。
ダウドさんの本、もっと読んでみたくなりました。
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2025/03/18 15:58
シヴォーン・ダウド 『十三番目の子』  池田 真紀子(訳) 小学館 2016年


図書館で借りました。
著者の没後に刊行された作品です。
もっと手を入れてから世に出すつもりだったのかな。

̪シヴォーン・ダウドはイギリスの小説家で、
ヤングアダルト向けの本を主に手がけていました。
惜しいことに四十七歳の若さで亡くなっています。

ケルトの神話や昔話を思わせるお話です。
十三歳の誕生日が来ると、
暗黒の神ドンドの生贄に捧げられる。

生まれたとき、
そう決められてしまった少女ダーラが主人公。
運命の誕生日がやってくる直前、
双子の兄バーンが彼女を訪ねてきます。

空の神ルグのはからいで、
自分たちの出生の秘密を知ったダーラとバーンは……

因習と偏見に囚われた村人たちの姿には、
著者の怒りが込められているように感じられました。

全体にあっさりした筆致で読みやすいのですけど、
やや掘り下げが甘く物足りない印象も残ります。

お話には決着がつきますけど、
先の展開を予感させる終わりかたです。
推敲中の作品だったのでしょう。

ジブリのアニメみたいとか、
結末が「俺たちの戦いはこれからだ!」になってるとか……
ネット上の指摘には笑わされつつ頷かされました。

挿絵がふんだんに盛りこまれており、
絵物語としても楽しめる美しい一冊です。
ダウドさんの本、もっと読んでみたくなりました。

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2025/03/18 15:54
シヴォーン・ダウド 『十三番目の子』  池田 真紀子(訳) 小学館 2016年


図書館で借りました。
著者の没後に刊行された作品です。
もっと手を入れてから世に出すつもりだったのかな。

̪シヴォーン・ダウドはイギリスの小説家で、
ヤングアダルト向けの小説を主に手がけていました。
惜しいことに四十七歳の若さで亡くなっています。

ケルトの神話や昔話を思わせるお話です。
十三歳の誕生日が来ると、
暗黒の神ドンドの生贄に捧げられる。

生まれたとき、
そう決められてしまった少女ダーラが主人公。
運命の誕生日がやってくる直前、
双子の兄バーンが彼女を訪ねてきます。

空の神ルグのはからいで、
自分たちの出生の秘密を知ったダーラとバーンは……

因習と偏見に囚われた村人たちの姿には、
著者の怒りが込められているように感じられました。

全体にあっさりした筆致で読みやすいのですけど、
やや掘り下げが甘く物足りない印象も残ります。

お話には決着がつきますけど、
先の展開を予感させる終わりかたです。
推敲中の作品だったのでしょう。

ジブリのアニメみたいとか、
結末が「俺たちの戦いはこれからだ!」になってるとか……
ネット上の指摘には笑わされつつ頷かされました。

挿絵がふんだんに盛りこまれており、
絵物語としても楽しめる美しい一冊です。
ダウドさんの本、もっと読んでみたくなりました。
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2025/03/16 17:54
トーマス・ベルンハルト 『寒さ ひとつの隔離』 今井 敦(訳)2024年 松籟社


図書館で借りた本。
二十世紀オーストリアの小説家、
トーマス・ベルンハルトの「自伝五部作」最後の一冊です。

あまり長い本じゃありません。
本文は百二十ページちょっと。

娯楽的なおもしろさは皆無です。
結核で収容された療養所の陰惨な日常が、
ひたすら淡々と綴られます。

ベルンハルトは
「私が書くのは、いつも内面風景ばかりだ」
と述べていたといいます。

『寒さ』で描かれる希望のない療養所の生活。
事実を踏まえているのと同時に、
著者の内面を投影したものと読むのが妥当なのでしょう。

死に魅入られた「私」の独白が延々と続く『寒さ』。
両親の愛情に恵まれず、
無名の作家だった祖父のみを理解者として育った……

そういうベルンハルトの生い立ちを頭に入れると、
彼にとって人生や世界は、
病に蝕まれながら横たわる療養所と大差ないもの……
だったのかも、しれません。

目を背けてるだけで、
わたしたちの誰もが療養所にいるようなもの……
かも、しれないよ。
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2025/03/16 14:56
 森鷗外の『山椒大夫・高瀬舟 他四篇』(岩波文庫刊)を読み終えました。
 
 けっこう前に橋川文三の『三島由紀夫』(中公文庫刊)を読んで、そのなかに三島由紀夫さんの言葉として「もっと鷗外を読み、勉強しないと」的な言葉が載っていて、改めて今鷗外を読んだ、そんな感じです。
 
 本書はもうXX年前に一度読んでいるはずなのですが、ほぼ忘れておりました。というかその頃の自分には、本作品集を読んで愉しむだけの準備がなかったからかも。
 
 で、全部の作品が素晴らしいのですが、やはり傑作なのは『魚玄機《ぎょげんき》』です。本の表題になっていないのが不思議なレベル。あ、鷗外の「歴史もの」の一つです。
 
 唐の時代、長安で生まれた少女、魚玄機。彼女は幼いころから詩作に優れており、詩作を習ったり妾となったりして、最終的には女道士となります。ただ、作品自体は優れていても、その才能ゆえに孤立したり、妾と書いたけども、女性としてそれを味わうこともできませんでした。
 ただ、女性の道士となってようやく魚玄機は女性として目覚め、喜びを感じることもできてきたのです。ただ、ある男性との七年にわたる交際のなかで、緑翹という同性の婢を嫉妬で殺害し、法によって斬殺されます。
 
 かなり切ない、やりきれない作品です。
 それなのに、作中の漢詩はどれも見事です。鷗外による漢詩(元詩があるのかな?(あるそうです))だと思うのですが、見事、の一言に尽きます。ちなみに漢詩の逐語訳、もっと読みやすい解釈も巻末にあるのでご安心を。
 
 なお、作品の最後に参考資料一覧が載っているのですが、たぶん読めないでしょう。おそらく全部漢語ですよ……。わかりやすい邦訳でもあれば別でしょうが、どうもないっぽい。
 今、ちょっと資料で挙げられている『唐才子伝』をヤフったら、やはり漢語のようです。古典の漢文の問題~という質問がでてきました。
 
 こういうのを読むと、三島由紀夫さんのような天才がそこまで言うほどの才能の持ち主であることが痛感できます>森鷗外。
 本書は入手しやすいです。今、岩波書店で販売中なのを確認しました。
 『魚玄機』以外の作品も傑作揃いなのでお勧めです。
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2025/03/15 14:16


 斎藤茂吉の『万葉秀歌』(上巻 岩波新書)を読み終えました。この本はけっこう前から隙間時間や寝る前などに読んでいたもの。
 
 ちなみにこの本、岩波新書のシリーズ5番です。Googleの生成AIによると、
 
 「岩波新書は、1938年に岩波書店が創刊した新書のレーベル名です。第1回刊行作品は、クリスティーの『奉天三十年』上下巻、斎藤茂吉の『万葉秀歌』、小倉金之助の『家計の数学』など全20点でした」
 
 いきなり20冊も出したんですね……。
 
 内容はもう言うことがありません。なんだかんだいって、おのずからの精神、実相観入、写生としての歌……やはり万葉集に尽きるなあ、と思わせるに足るだけの名著です。
 
 今回読み直して、やっぱり柿本人麿や大伴旅人の歌はいいんです。なのですが、高市黒人《たけちのくろひと》、額田王、大津皇子などなどの歌が胸に迫るものがあるのです。
 
 百伝《ももづた》ふ磐余《いわれ》の池に鳴く鴨を今日のみ見てや雲隠《くもがく》りなむ
 
 ちなみに「雲隠れ」は死の言い換えで、自分自身の死について使うのはちょっとおかしい(敬語的表現として)ので、偽作説もあるそうです。
 そして天皇家に謀反を企てた、のが死の理由ですが、具体的な記録もないのですよね。
 
 こういう説などを読むと、長野県松本市にあった古書店、慶林堂さんでもっと短歌、和歌の研究書を買っておけばよかった……と、書痴としては慙愧の念に堪えません……いや大げさでなく……古書店ではなく新刊の版元ですが、あの八幡書店のトップページに書かれていた「いつまでもあると思うな親と本」の言葉が刺さります……。
 
 そしてなにげなくネット徘徊していたら、その題も『大津皇子』(生方たつゑ著 角川選書刊)という本が「日本の古本屋」さんにあるのを発見……。
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2025/03/14 13:21
 大藪春彦さんをここのところ読んでおりますが……三菱銀行人質事件(←Wikipediaの項目名です)(1979)を思い出します。
 
 この事件のノンフィクション本『三菱銀行人質強殺事件』(福田洋著 社会思想社 現代教養文庫刊)を持ってて、何度か読み直しているんです。
 
 本事件の犯人、梅川昭美《あきよし》は15歳(処罰が変わる16歳誕生日直前(なお当時の少年法です))のときに、お金目当ての人殺しをしてて、にも関わらず猟銃所持が認められ犯行に至ります。
 
 で、なにが大藪なのかというに、犯人の梅川はガンマニアでなおかつ大藪さんの小説を愛読していたと。ほかにも、けっこう読書家だったり……本代が月に一万かかる、とか……だそうで。今はちょっと本を買えばあっというまに本のお金が一万を超えますが、当時で月一万は相当なものでは?
 
 高橋伴明監督の映画、『TATTOO<刺青>あり』(1982)はこの犯人の子供時代から犯行直前まで撮った傑作で、かなり忠実に映画にしております。映画もなかなかの出来ですよb
 
 で、話を本書、『三菱銀行人質強殺事件』に戻すと、ときどき登場人物の心内語が勝手に挿入されるのですよ。
 たとえば本当に犯人、梅川が唯一愛していたであろう女性が彼との生活に耐えきれず出奔してしまったときも、「大藪の小説をみてみい、逃げた女を思い出してメソメソしてる奴なんかおらへん」(だいたいこんな感じ)とか……。
 
 それが実際の籠城のあたりを書いていても、「長いトンネルの先に光が見えてきたようや。俺は、このために生まれてきたんかもしれん。太く短くや」とかいいのか勝手にそんなこと書いて……という妙な面白さがある一冊です。
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2025/03/13 19:39
マルレーン・ハウスホーファー 『人殺しは夕方やってきた』  松永美穂(訳)
 書肆侃侃房 2024年


図書館で借りてきた本です。

身近でささやかなできごとを題材に、
人生の深さ怖さを垣間見せます。
美しい短編集です。
短めの作品が多く、どれもが粒ぞろいです。

マルレーン・ハウスホーファーは、
一九二〇年生まれのオーストリアの小説家。
七〇年に亡くなっています。

没後しばらく忘れられていましたけど、
長編『壁』の復刊で母国では広く認知されたそうです。

この短編集は「少女時代の思い出」
「大人の生活」「戦争の影」の三章に分かれています。

いずれの作品も優れたもので甲乙つけ難いのですけど、
読後に深く強い印象を残していくのが戦争を題材としたもの。
万人が共通して抱える郷愁に訴えるのが、少女時代もの……
という印象を、わたしは受けました。

平穏な日常のなかに突如、暴力の邪悪で不穏な影がさす。
ハウスホーファーさんは人生を、
そういうものとして捉えていたのかもしれません。

抒情と諦念。
翻訳もの、特に欧州の短編がお好きなら、
手に取って損はしないと思いますよ。
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2025/03/10 18:15
 大藪春彦さんの『非情の女豹』(角川文庫刊)を読み終えました。
 たぶん初の(?)女性キャラが主人公です。が、ちんけなハニートラップとかやらず、結局のところ銃と車で任務をこなす小島恵美子さんが恰好よすぎです!
 
 この『女豹』シリーズには、SPRO(スプロ:スペシャル・プロフィット・アンド・リヴェンジ・アウトフィッターズ)という架空の復讐代行サービスなどを請け負う組織がでてきます。
 小島恵美子さんはそのスプロ所属の日本支部エースです。
 
 長編じゃなくて、短編(てほど短くないですが)連作なのもいいところ。逆に銃の蘊蓄傾けはいいんですが、車の蘊蓄傾けはちょっとわからない……;;
 
 そのスプロという組織が組織なので、やはり三篇ともスカッとするエンディングがいいですね。
 第三話には、大藪ファンなら(ニワカだけど……)ご存知の方がちらっと登場するのも嬉しい。
 
 最近は大藪さんからはじまって、駿河屋で買った『Gun』誌のバックナンバーとか、銃器系にハマってもうあぶない人ですわ。
 そうそう、『Gun』誌といえば、映画やドラマで使われるプロップガンで、『あぶない刑事リターンズ』で使われてたカスタムガンの再現モデルとか、そういうのもあるのかと。それ見たさに『あぶない刑事リターンズ』とか観始めたら……もうおしまいかもしれませんw
 
 そうそう、先日駿河屋で買ったもう一冊の大藪さんの作品ですが、かなり車(F1)やオートバイに振った作品のようで、読むのをためらってます。
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2025/03/07 22:03
 カフカの『変身 他一篇』(岩波文庫)を読み終えました。
 他作品ならとにかく、『変身』はかなり久しぶりのような気が。個人的にはそれほどすぐれた作品かな……とは思います。というよりも他の短編や長編が素晴らしすぎる。
 
 現に、岩波文庫の他一篇は『断食芸人』が収録されていて、やっぱりそっちのほうが面白いんですよ……。
 
 とはいえ、これまでたくさんの人を魅了した『変身』、実存主義的、家族や社会論的、資本主義的、宗教・神秘主義的、心理学的、アンディティティ論的、いろいろな受け止め方があるでしょうね。ちなみにこれはchatGPTから拾ってきた受け止め方のいくつかです。
 
 あえてわたしは「ユダヤ性」みたいなところを読みとっています。資本主義、近代~現代のなかの「ユダヤ性」、差別とか、あるいはユダヤ教的な「犠牲」みたいなの……。
 
 これはアレです。邦訳はまだだと思うのですが、ユダヤ教が色濃く出てる版の『審判』があるそうなので、それと近いのかなー、という「読み」ですね。
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2025/03/06 22:01
 こんばんは。少し前に駿河屋で買った、大藪春彦先生の『凶銃ルーガーP08』(角川文庫)を読了しました。
 いやー、銃の蘊蓄傾けだとか、ガンアクションシーンとかもう最高です。ノワールっぽいのを書くときのいい参考になりますね。銃ありきですが……。
 
 本書は、同じルガーP08が4人の手にわたって、それぞれの人生を狂わせ破滅させるという趣向の連作短編四篇で構成されております。
 
 報復、金のためのデパートカチコミなどなど……いいですね! なんというか凶銃と狂人との相乗効果。
 
 168ページに、「大藪というガン・マニアの作家が~」という科白があってw
 
 名銃ですが、正直わたしはルガーP08についてろくに知らなかったんです(ガバメント、デザートイーグルは実銃系FPSゲームでおなじみでしたが)。
 で、wikiでルガーP08を検索したりしてびっくり、なかなか恰好いいハンドガンじゃないですか!!
 
 これ欲しいなー(実銃じゃなくてモデルガンですよ!)と思ったのですが、けっこうなお値段しますね。
 
 そして今は、カフカの『変身』と、新紀元社さんの図解シリーズ、『図解ハンドウェポン』(大波篤司著)とを交互に読んでます。もともと銃器を描くときの参考文献ではあるのですが、ちゃんと最初から通して銃の知識を増やしていくのもいいですね。
 
 それにしても、大藪作品は今でも読まれていいと思うのですが。若者の銃離れwなのでしょうかね。
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2025/03/05 11:23
 ごきげんよう。未苑真哉先生の『人生投影式』(22世紀アート刊)の精読した上での感想を書いてみます。先生とか書いておりますが、エブリスタの大のなかよしさんですよ!!
 最初は……Xでの配信のときに……一篇が4000文字(だったかな?)という縛りがあるときいて、一篇一篇をもっと濃厚濃密に書いてほしかった、というのがあったんです。
 
 ですが、もう一度読んだときに、すぐれた連作短編集でなおかつこれは長編でもあるのか……!! と気付いたんですね。勝手な「読み」かもしれませんが。
 
 舞台になるのは仕事の大半がAIによって処理されている時代。
 とはいえまだトラックなどの自動運転は実現化されておらず、人が運転しないとだめなレベル。
 一篇一篇の感想を書いていきたいぐらいなのですが、長くなりすぎるので、なんだか長編のように感想を書いていきますが、毒親(母でも父でも。父はどこにあった……? という方もいるかもですが、わたしは似たようなことを受けたことがあるので、「運動部に入れ」という『名も知らぬ隣人のお葬式』は読んでて嗚呼……と思いました)だったり、音楽の起源《オリジン》性、ドローン技術の発達、ホログラム……などなど。
 
 で、『アロマじかけの救世主《メサイア》』ですが、ここでタイトルの元になったキューブリックの『時計じかけのオレンジ』よろしく、スクリーンのなかの杉浦は、『雨に唄えば』だったのかな……とか。
 Xでの配信のときに、22世紀アートの向田社長か未苑さんかどちらがおっしゃったのか失念しましたが、やはり小説を書くぐらいなら、キューブリックは通過してこないと、という。
 
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2025/03/05 11:23

 『凍るような温もりの記憶』ここらから徐々にいままでに散りばめられた要素がだんだんと収束していきます。ガル=伊坂龍一のスパッと任務としてつけない人間味とか……なんだか切なかったなあ……。
 
 そして! まさかジャック・ラカン、それも後期(というか晩年かな?)の、象徴界《サンボリック》でもう受け止められなくなり、その存在がトラウマであるような現実界《レエル》について、あるいはラカン理論の根本、シェーマRSIについての箇所はもうそれだけで現代思想おたくには嬉しかったです。
 
 そして、すべての事象が統合されていく、P・K・ディックの長編タイトルをもじった、『流れよ黒き涙、と博士《せんせい》は言った』の昏いカタルシスといったら……!!
 室屋テツとダイ、野原充子、伊坂龍一、高宮博士……。
 そして、『ささくれたエンドロール』での謎がここで回収されます。
 
 『スクリーンは黄金色』での引き潮のような静謐さ。
 話者は室屋テツ。梨園の美園《みその》さんが最初から二番めの作品、『最後のFirst Song』で出てきたJUNとYUMAの曲を梨畑に流す……。
 
 ちなみに新型コロナのパンデミックはどうやら起きた世界のようです。
 
 中井英夫先生、小川洋子先生、辻邦生先生……短編連作はとにかく好きで読んでてたまらないのですが、この一冊もまた愉しめる素敵な一冊でした。メモをとりながらだと、この本はより愉しめるかと思います。神は細部に宿る、を地でゆく作品群です。
 ──凄い読書体験でした。
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2025/03/03 20:18
許 光俊(きょ・みつとし) 『はじめてのクラシック音楽』 講談社現代新書
 2023年


図書館で借りてきました。

かつて露悪的、挑発的な筆致で、
何冊もクラシック批評の本を出してた許光俊さん。

おととし講談社現代新書から上梓した、
この本では文体が別人みたいに丸くなってます。

毒はオブラートに包んだかたちで、
わかる読者に届けばいい……っていうスタンス。

この本「おわりに」で書かれてることが、凄くいいのね。
いわく。

クラシックがわからなくても、いいのです。
なんとなく聴いて楽しければ充分。

利害や打算いっさい抜きにして、
好きなことを語りあえるのは素晴らしいことです。
クラシック音楽は私にとって、
そういう友人に恵まれるきっかけとなってくれました。

良い意味でのアマチュア性が、
許さんの評論の核心にあるものだと感じました。

あと美学を学んで芸術批評を専門にしてるだけあって、
許さんの音楽評は感覚的に鋭くて的を射ています。
これは他の評論家に感じたことのない美質です。

欧州の歴史と、建築や美術の話題を絡めて、
読み手に広い視野を提供しようとするあたりにも、
わたしは好感を抱きました。

趣味なんだから好きなものを好きに聴いてれば、
それで充分だし幸せ。
わたしはブラームスの作品114ばっか聴いてますけど!

視野が狭くなるのは損なことなんですよ。
バルトークなんかギコギコうるせーばっかで、
何がおもしろいやら。

そう思ってたけど許さんが非常に褒めてるのを読むと、
どこかで聴きなおしてみようかなという気にもなれます。
ときどき自分の視野をアップデートしたほうが、
幸せな人生を送れるんじゃないかなぁ。
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2025/02/27 19:55
泉谷 閑示 『仕事なんか生きがいにするな 生きる意味を再び考える』
 幻冬舎新書 2017年(電子版)


著者は精神科医ですけど、
エコール・ノルマル音楽院に留学の経験があるそうです。

臨床での経験と芸術への造詣との双方の視点から、
おもに仕事をめぐる現代日本人の実存について、
考察をめぐらせたエッセイ集。

ニーチェやフロムはともかく、
チェリビダッケや武満徹の名前にはちょっと驚かされました。

いまだ勤勉や忍耐を美徳とする、
マゾヒスティックな労働観が幅をきかせ続ける日本。
これは人間を不幸にする片道切符です。

わたしたちはもっと人生を味わい愉しんでいいし、
むしろ積極的に、そうしないといけない。
さもないと自分自身をどんどん見失っていくばかりですから。

日ごろ、わたしの抱えている問題意識に対して裏づけを与え
「あなたは正しいよ」とエールを贈ってくれるような本でした。
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2025/02/21 21:07
ロアルド・ダール 『王女マメーリア』  田口 俊樹 (訳) 
 ハヤカワ・ミステリ文庫 1999年(電子版) 初出は1990年 早川書房


日本オリジナルで編まれた、
ロアルド・ダールの短編集です。

つくづくダールさん小説が巧いね!
エミリー・ブロンテの百倍くらい上手です。
あ、エミリーさんには必殺技があるから、
あれでいいのよ(U`ェ´) ケッピャッハーッ!!

多くの作品に悪党が出てきます。
もっと悪いヤツを出し抜くものあり。
悪事に失敗して没落していくものあり。
手に入れたものに驕って酷い目に遭うものも。

いずれも半世紀くらいは前の作品なのかな。
悪事の手口が昔懐かしめですけど、
人間の心理そのものは変わってないんですよね。

ネットの世界向けにアレンジして、
この本に出てくる悪事を試すヤツが現れても、
おかしくはなさそう。

わたしはダールさんの本、
何冊か読みましたけど。
これがいちばん愉快でしたわー。
ぷぷっぴどぅ(ᐡ ´ᐧ ﻌ ᐧ ᐡ)きゅーん
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2025/02/21 21:05
ロアルド・ダール 『王女マメーリア』  田口 俊樹 (訳) 
 ハヤカワ・ミステリ文庫 1999年 初出は1990年 早川書房


日本オリジナルで編まれた、
ロアルド・ダールの短編集です。

つくづくダールさん小説が巧いね!
エミリー・ブロンテの百倍くらい上手です。
あ、エミリーさんには必殺技があるから、
あれでいいのよ(U`ェ´) ケッピャッハーッ!!

多くの作品に悪党が出てきます。
もっと悪いヤツを出し抜くものあり。
悪事に失敗して没落していくものあり。
手に入れたものに驕って酷い目に遭うものも。

いずれも半世紀くらいは前の作品なのかな。
悪事の手口が昔懐かしめですけど、
人間の心理そのものは変わってないんですよね。

ネットの世界向けにアレンジして、
この本に出てくる悪事を試すヤツが現れても、
おかしくはなさそう。

わたしはダールさんの本、
何冊か読みましたけど。
これがいちばん愉快でしたわー。
ぷぷっぴどぅ(ᐡ ´ᐧ ﻌ ᐧ ᐡ)きゅーん
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2025/02/16 20:03
川口かおる 『中学生からの絵本のトリセツ』 岩波ジュニアスタートブックス
 2024年


図書館で借りた本。
十代前半の読者を想定して書かれたものですけど、
大人の読者にも十二分に響くのでは、なかろうか。

絵本は小さい子だけのものと思われがちですけど……
常識から読者を解放してくれる力があります。

わたしは十代のころ、否定され悪意を向けられるばかりの、
二度と戻りたくないマイルドな地獄を生きていました。

いまの中高生も、あまり変わっていないようで、
心から気の毒に思います。
この国では学校に通うようになると無理やり
「大人(ダメな意味でのよ)」にされちまうんだよな。

「もっと上を」「もっと大きく」「もっと強く」。
そういう競争社会の価値観とは正反対の大切なものを、
絵本は手渡してくれるんですよ。

ああ、これは、
わたしが音楽に惹かれた理由といっしょだな。
読んでいて、あらためて、そう気づかされました。

眺めてよし飾ってよし、読みこんでよし。
取り扱いは読者しだいな鷹揚さも絵本の魅力ですね。
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2025/02/15 14:47
日高 敏隆 『人間はどういう動物か』 ちくま学芸文庫 2013年(電子版)
 初出は2008年 ランダムハウス講談社刊


動物行動学者によるエッセイ集です。

非常に平易ですけど、
日ごろ自然科学に接する機会のない身としては、
いろいろ蒙を啓かれるところがあります。

まず動物行動学のパラダイム・シフト。
個体が自分の損得だけを考えて行動することが、
長い目で見たとき種の保存に貢献しているのだそうです。

あ、もちろん人間の勝手な損得勘定は例外ですよ?

かつての動物行動学では種というものを、
放っておいても自然に調和すると捉えていました。
しばしば目にする「利己的遺伝子」という概念が、
これを転倒させてしまったのだとか。

あと核心を衝いてると唸らされたのが、
コンラート・ローレンツの言葉です。

「人間は歴史から何も学ばないということを、
わたしたちは歴史から学んだ」。

昨今の世界情勢など見ていますと特に……

やれやれだぜ。
人間なんてうんこ(´ェ`U(   *   ) ケツピャー!

あ、こんなこと言ったら、
うんこさまに対して失礼にあたりますね。
***このコメントは削除されています***
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2025/02/15 14:43
日高 敏隆 『人間はどういう動物か』 ちくま学芸文庫 2013年(電子版)
 初出は2008年、ランダムハウス講談社刊


動物行動学者によるエッセイ集です。

非常に平易ですけど、
日ごろ自然科学に接する機会のない身としては、
いろいろ蒙を啓かれるところがあります。

まず動物行動学のパラダイム・シフト。
個体が自分の損得だけを考えて行動することが、
長い目で見たとき種の保存に貢献しているのだそうです。

あ、もちろん人間の勝手な損得勘定は例外ですよ?

かつての動物行動学では種というものを、
放っておいても自然に調和すると捉えていました。
しばしば目にする「利己的遺伝子」という概念が、
これを転倒させてしまったのだとか。

あと核心を衝いてると唸らされたのが、
コンラート・ローレンツの言葉です。

「人間は歴史から何も学ばないということを、
わたしたちは歴史から学んだ」。

昨今の世界情勢など見ていますと特に……

やれやれだぜ。
人間なんてうんこ(´ェ`U(   *   ) ケツピャー!

あ、こんなこと言ったら、
うんこさまに対して失礼にあたりますね。
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2025/02/13 20:11
 こんばんは。東里胡先生の……ってじつは本を出す前からエブリスタのお友達なのですが……『さよならまでの7日間、ただ君を見ていた』(アルファポリス文庫)を読み終えました。
 
 この作品、わたしはリコさんの初期作品のなかでいちばん好きな作品だったりします。原題『君といた夏』のときに、連載を楽しみにしていた日々がなつかしいですね。
 
 偶然、金髪切れ長ツリ目の成仏できてない男子に取り憑かれ……とも違うけど、まあ、まとわりつかれて、主人公、斎藤結夏《ゆいか》、とレイくんというか本名|慶《けい》くん(本当に幽霊です)との、慶くんの家族や現況などを探す七日間。
 
 同じアルファポリス文庫から刊行された『この心が死ぬ前にあの海で君と』もそうでしたが、そこにさらっと重いテーマや現代的なテーマを絡め、お汁粉に塩、みたいな「深さ」を演出させているあたり、リコさん凄いなあ……と唸ることしかできません。
 
 で、またなんというかピュアな感覚が全編にわたって発揮されていて、読んでいて涙ぐみそうになるぐらい。
 自分は書けないですが、ライト文芸というのもいいものですね。
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2025/02/13 14:10
エミリー・ブロンテ 『嵐が丘(上・下)』  小野寺 健(訳) 
 光文社古典新訳文庫 2010年(電子版)


数年前の暮れに買った電子書籍です。
いつか読もうと思いながら、
長いこと積んだままにしてきました。

とっつきが良くない本なんだけど……
いやぁ読んで良かったわぁー!
メチャクチャおもしろかったんです。

舞台は十九世紀イングランド北部の片田舎、
ヨークシャー地方
(豚さんの品種に名前が残ってますね)。

「嵐が丘」邸の主人アーンショウ氏が、
リヴァプールで出会ったみなし子を連れ帰り、
ヒースクリフと名づけます。
***このコメントは削除されています***
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2025/02/13 14:09
エミリー・ブロンテ 『嵐が丘(上・下)』  小野寺 健(訳) 光文社古典新訳文庫
 2010年(電子版)


数年前の暮れに買った電子書籍です。
いつか読もうと思いながら、
長いこと積んだままにしてきました。

とっつきが良くない本なんだけど……
いやぁ読んで良かったわぁー!
メチャクチャおもしろかったんです。

舞台は十九世紀イングランド北部の片田舎、
ヨークシャー地方
(豚さんの品種に名前が残ってますね)。

「嵐が丘」邸の主人アーンショウ氏が、
リヴァプールで出会ったみなし子を連れ帰り、
ヒースクリフと名づけます。
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2025/02/13 14:06
アーンショウ氏には息子と娘がいました。
息子ヒンドリーはヒースクリフを憎み、
娘キャサリンはヒースクリフを愛します。

やがて……出奔したヒースクリフは、
見違えるような紳士に成長して帰郷。
目的はアーンショウ家への復讐です。

あまり洗練されてない、
若書きの気配すら感じられる小説です。
著者はこれを完成させてまもなく、
三十歳を目前に没しています。

読みやすさでいったら、
日本の書店に並んでるエンタメ小説の、
たぶん足もとにも及びません。

ですけど桁違いの生命力と、
読み手の魂を鷲掴みにして離さない魔力!
なるほど世界文学です。

『リア王』や『白鯨』など、
狂気に憑かれた人物を描く英米文学の系譜。
その流れを汲む作品だと感じました。

信仰や世俗の常識などから逸脱した、
人間の根源に息づく何か。
エミリー・ブロンテというひとは、
その何かを捉えて自らの作品に固定しようと。
短い生涯を賭けたのでは、ありますまいか。

彼女の試みは見事に成功していると感じられました。
ありがとうエミリーさん。

『エヴァンゲリオン』が社会現象だったころ
『失楽園』という小説が話題になりました。
評判を呼んでドラマや映画になったと記憶しています。

たしか中年の主人公たちが不倫の恋にのめりこみ、
最後は心中する話だったかな。
ベッドシーンが多いのを、
若い芸能人が揶揄してたのが記憶にあるんですよね。

世俗の常識やモラルなんかから解放された、
人間の本質を描きたい。
原作者が、どこかでそんなこと言ってたような。

ですけど『失楽園』は、
一種のソフトポルノとして消費されて終わりでした。
いま手に取る読者はほとんどいないでしょう。

フィクションで性や暴力を扱えば本質に迫れる……
たぶん人間って、そこまで簡単じゃないんです。
ただ煽情的なだけのものは、すぐ忘れ去られます。

『嵐が丘』がほんとうに凄いのは、
過激さに頼らず人間の闇を描出できたことでしょう。

終盤でヒースクリフが漂わせる、
ある種の浄福感には言葉に載せきれない凄みが感じられました。
「救い」や「赦し」って、なんだろうね。
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2025/02/11 14:55
ヘルマン・ヘッセの隠れた超傑作『ガラス玉遊戯』(角川文庫刊)を(やっと)読み終えました!
 
 主にカスターリエンという大規模で世俗から隔絶された精鋭の教育・美術の施設が舞台です。でかいサナトリウムというか……。
 タイトルのガラス玉遊戯とは、具体的に描写されていないのですが、学問、美への崇拝および瞑想という三つを統合したもの、みたいな文章がありました。
 
 主人公のヨーゼフ・クネヒトはカスターリエンにやってきて、いろいろな人で出会い、ガラス玉遊戯の名人にまでなるのですね。
 だけど、この知識、学芸、精神の修養の世界、それにクネヒトは疑問を抱くようになるんです。
 そこまで読むのに時間もかかるんですが、この小説はもうネタバレしようと価値が減衰するものではないと思います。
 なにかこう電圧のかかったような文章、慣れないと10ページぐらい読むと疲れます。
 
 本当に哲学、象徴、現実、さまざまな層でいろいろな読み取りや解釈ができるんです。
 
 そして、最後の『履歴』という章は三つの短編で出来上がっているのですが、それがどういう経緯で書かれているのかもわかりません。
 
 ちなみに本書はヘッセのノーベル文学賞のきっかけになったと言われています。
 気軽に読める作品ではないですが、教養小説《ビルドゥングスロマン》(マンの『魔の山』とか)やメガ・ノヴェルの先取り(ピンチョンの『重力の虹』みたいな)に興味があったり触れたりしておられるのならぜひ!
 
 人間ドラマとしても深いあたりはさすがヘッセだと思います。
 ただ、現在は角川文庫でも新潮文庫でも入手困難なので、古書や図書館頼みになるかと思います。
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2025/02/03 14:39
 ロス・マクドナルドの『さむけ』(ハヤカワ・ポケットミステリ刊)をちまちまと読みすすめ、やっと読了しました。
 
 例のディーン・R・クーンツの本で知った作家です。もうコテコテのミステリですね。わたしは謎解きなど最初からしないで読むのですが……たとえば例外のように好きな岡本綺堂の『半七捕物帳』やG・K・チェスタトンの『ブラウン神父』とかもそう……やはり面白かったです。
 
 作中時からの二つの殺人事件と、二十年以上昔へ遡る、当時は自殺か事故と判断された殺人事件、この三つの解決のため、ロス・マクドナルドのこしらえた私立探偵、リュウ・アーチャーが地道に推論を下しながら、あちこちを巡り、最終的にはその三つの殺人事件の謎を解いていきます。
 
 ネタバレなしのあらすじを、chatGPTに聞いたら、珍しくハルシネーションも起こさずに書いてくれました。引用します。
 
 ----------
 
 大学教授の妻が突然失踪したことで始まる物語です。夫からの依頼を受けた探偵リュウ・アーチャーは、女性の足取りを追ううちに、20年前に起きた未解決の殺人事件に行き着きます。その事件は、現在の失踪劇と奇妙に絡み合い、二つの時代をまたいだ複雑な謎が浮かび上がります。

調査が進むにつれ、隠された家族の秘密、愛憎、過去の犯罪が次々と明らかになります。アーチャーは事件の背後に潜む真実を解き明かそうとする中で、人々の心の奥底に潜む「冷たさ」に触れます。
 
 ----------
 
 ちなみに本書タイトルの『さむけ』の原題は『The Chill』であり、put the chill on (someone)で人を殺す、というスラングにもなるのだとか。
 
 プロットは緻密だし、いいミステリ読者じゃないので評価はあてになるかわかりませんが、人が持っている、いや、背負っているような秘密や罪、これらへのロス・マクドナルドの筆がなかなか人間臭いのです。
 
 なので思わず続きが気になってページをめくってしまうのでしょう。
 
 関係ありませんが、本書はハヤカワのポケットミステリ版です。通称銀背。銀背はだいぶ昔にハヤカワのSFで何度か手にとったことはありますが、当時は図書館。自分の本ではこのポケミスがはじめてです。
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2025/02/02 17:45
 ごきげんよう。シャルル・ボオドレールの詩集『悪の華』(岩波文庫刊)を読み終えました。ステファヌ・マラルメのルーツにしてフランス象徴《サンボリスム》派の巨大な起爆、言葉の臨界点に迫る詞華の数々。
 
 なお、翻訳が辰野隆《ゆたか》と一緒に東大仏文科を活性化させたあの鈴木信太郎先生です……弟子や影響を与えた人物といえば、渡辺一夫、伊吹武彦、小林秀雄と……。
 
 それで、本詩集は……八幡書店の文献復刻のように……鈴木信太郎先生の訳のまま、正漢字正仮名遣ひなのが本当に貴重ですし、岩波文庫編集部の高い見識がうかがわれますね。
 
 どうしよう、とくに好きな詩の一節を引用したいのですが、正直、この詩集はできるだけの方々に読んでいただきたいな……と思います。あ、引用したいけれど、けっこう長いので……;;
 
 「病的であらうと溌剌過ぎようと、お前の全ては俺の快楽だ」
 (本書P120 『妖魔に憑かれた男』)
 
 「可愛い魔女よ、地獄に堕ちた人間がお前は好きか言へ/赦し得ぬ罪をお前は知つてゐるか」
 (本書P173 『取返し得ぬもの』)
 
 ちなみに、本書P407の『旅』の作中には「残酷な天使のやうだ」というフレーズがあり、またP316『葡萄酒の魂』には「|繰返句《ルフラン》」の語があります……まさか、ここからとってきた……!?>『残酷な天使のテーゼ』と『魂のルフラン』
 
 さらに、本書P463の年譜によると、ボオドレールは1864年5月に、フェリシアン・ロップス宅へ訪れているのですね。なんだかこう個人的なシンクロを感じます。
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2025/02/01 19:31
司馬遼太郎 『北方の原形 ロシアについて』 文春文庫 2017年(電子版)
 (初出は1986年、文藝春秋刊)


触るのも厭というくらい、
敬遠しまくってきた司馬遼太郎です。

「昭和のサラリーマンのバイブル」
的な読まれかたが大嫌いだとか、
嫌いな知人が自称・司馬読者だったとか……

司馬さんが悪いというより、
間接的な理由でこれまで遠ざけてきました。

あまり読まず嫌いなのも、もったいないかと。
このエッセイ集を買ってみたのが、
去年の十一月のことです。

剣呑なことを起こしてるロシアについて、
理解の一助を得られたら……くらいの動機で。

結果、読みやすくてためになる良い本でした。
著者の関心の中心には常に日本があったようです。
日本との関係においてロシアを把握しよう、
という態度が特徴でも限界でもあります。

長いスパンでロシア特有のありようを捉えて
「原形」という言葉で表現していました。
その社会に固有の内政、外交のありよう……
くらいのニュアンスでしょうか。

ロシアは外に向かって強硬な態度を取りがち、
領土問題に固執しがちです。
モンゴル人に残酷なやりかたで支配されてきた
「タタールのくびき」に遠因を求めるのが、
著者の解釈。

あとロシア側の日本に対する関心は、
常にシベリア開発(おもに食料の確保)
とセットになってたのだといいます。

もとはソ連時代の1986年に出た本だそうですけど、
現在でも古さを感じさせません。

わたしが好感を抱いたのは、
狡猾さを嫌い公正さを賞揚する著者の姿勢です。

旧ソ連領を訪れた際、
通訳してくれた女子学生が
「ソ連はいい国です」と言ってた……
というエピソードが心に残りました。

良い本でしたけど、この先、
司馬さんの小説は……わたし読まないだろうな。
***このコメントは削除されています***
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2025/02/01 15:58
司馬遼太郎 『北方の原形 ロシアについて』 文春文庫 2017年(電子版)
 (初出は1986年、文藝春秋刊)


触るのも厭というくらい、
敬遠しまくってきた司馬遼太郎です。

「昭和のサラリーマンのバイブル」
的な読まれかたが大嫌いだとか、
嫌いな知人が自称・司馬読者だったとか……

司馬さんが悪いというより、
間接的な理由でこれまで遠ざけてきました。

あまり読まず嫌いなのも、もったいないかと。
このエッセイ集を買ってみたのが、
去年の十一月のことです。

剣呑なことを起こしてるロシアについて、
理解の一助を得られたら……くらいの動機で。

結果、読みやすくてためになる良い本でした。
著者の関心の中心には常に日本があったようです。
日本との関係においてロシアを把握しよう、
という態度が特徴でも限界でもあります。

長いスパンでロシア特有のありようを捉えて
「原形」という言葉で表現していました。
その社会に固有の内政、外交のありよう……
くらいのニュアンスでしょうか。

ロシアは外に向かって強硬な態度を取りがち、
領土問題に固執しがちです。
モンゴル人に残酷なやりかたで支配されてきた
「タタールのくびき」に遠因を求めるのが、
著者の解釈。

あとロシア側の日本に対する関心は、
常にシベリア開発(おもに食料の確保)
とセットになってたのだといいます。

もとはソ連時代の1986年に出た本だそうですけど、
現在でも古さを感じさせません。

旧ソ連領を訪れた際、
通訳してくれた女子学生が
「ソ連はいい国です」と言ってた……
というエピソードが心に残りました。

良い本でしたけど、この先、
司馬さんの小説は……わたし読まないだろうな。
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2025/02/01 14:32
司馬遼太郎 『北方の原形 ロシアについて』 文春文庫 2017年(電子版)
 (初出は1986年、文藝春秋刊)


触るのも厭というくらい、
敬遠しまくってきた司馬遼太郎です。

「昭和のサラリーマンのバイブル」
的な読まれかたが大嫌いだとか、
嫌いな知人が自称・司馬読者だったとか……

司馬さんが悪いというより、
間接的な理由でこれまで遠ざけてきました。

あまり読まず嫌いなのも、もったいないかと。
このエッセイ集を買ってみたのが、
去年の十一月のことです。

剣呑なことを起こしてるロシアについて、
理解の一助を得られたら……くらいの動機で。

結果、読みやすくてためになる良い本でした。
著者の関心の中心には常に日本があったようです。
日本との関係においてロシアを把握しよう、
という態度が特徴でも限界でもあります。

同時に長いスパンでロシア社会の特徴を捉えており
「原形」という言葉で表現しています。
その社会に固有の内政、外交のありよう……
くらいのニュアンスでしょうか。

ロシアは外に向かって強硬な態度を取りがち、
領土問題に固執しがちです。
モンゴル人に残酷なやりかたで支配されてきた
「タタールのくびき」に遠因を求めるのが、
著者の解釈。

あとロシア側の日本に対する関心は、
常にシベリア開発(おもに食料の確保)
とセットになってたのだといいます。

もとはソ連時代の1986年に出た本だそうですけど、
現在でも古さを感じさせません。

旧ソ連領を訪れた際、
通訳してくれた女子学生が
「ソ連はいい国です」と言ってた……
というエピソードが心に残りました。

良い本でしたけど、この先、
司馬さんの小説は……わたし読まないだろうな。
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2025/01/27 20:26
川上 弘美 (編)『精選女性随筆集 第八巻 石井桃子 高峰秀子』
 2012年 文藝春秋


年明けにブックオフで買ってきた本。
「精選女性随筆集」という叢書の一冊です。

これを手に取らなければ、
彼女たちのエッセイを知らないままだったはず。
本との出会いというのは、
なんとも素敵で不思議なものですね。

児童文学の研究者、翻訳家だった石井桃子と、
子役出身で大女優として知られた高峰秀子。
いずれも余技と片づけてしまうには惜しい、
優れたエッセイの書き手たちでした。

おもしろいのは成育歴が対照的なこと。
両親やお姉さんたちなどの大家族に囲まれ、
すくすく育ってきたことが窺える石井桃子さん。

『幼ものがたり』は明治末生まれの石井さんが、
古希を過ぎてから幼時の体験について書いたものです。
著者の記憶のみずみずしさに驚かされます。
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2025/01/27 20:22
特に気に入ってるのは、
あちこちで動物が顔を出すことなのね。

わたしの魂を鷲掴みにしやがったのが「ねずみ」。
すぐ上の姉に伴われて、
近所の家を訪れたときのお話です。
石井さんがお姉さんに、ひとつの告白をするんですよ。

「あたしの背中に、このねこ
(引用者注:訪問先の飼い猫のこと)
くらいのものがいるんだけど。
あたしは、おとなしいから、がまんしているんだよ」。

お姉さんは大慌てで著者を家に連れ帰り、
家人に事情を話します。
大人たちが脱がせた着物のなかから
「うすぐろいねずみ」が縁の下へ逃走しました。

どうも、うっかり着物に入りこんで、
出られなくなってたらしいのね。

ねずみのトボけた挙動もいい味わいだけど
「おとなしいから、がまんしているんだよ」。
なんとも可愛らしい石井桃子さん!
クレバーなしっかり者という印象が、
良い意味で裏切られましたw

いっぽう高峰秀子さんはというと、
物心ついてまもなく子役として働くことに。
大人に囲まれて育ち、
ほとんど学校に通うこともなかったそうです。

高峰さんの書いたもののうち、
いちばん強く印象に残ったのが
「白っ子(しらっこ)」の話でした。

子役時代、近所にアルビノの女の子がいたそうです。
高峰さんより年長で、
いつも年下の子をおぶって面倒を見ていました。

彼女は人目のない時間を選んで路上に現れます。
仕事の往き帰りの高峰さんとすれ違うと、
微笑みかけてきたのだとか。

この子も「ふつうの子」じゃないんだな。
アルビノの女の子は、
そう理解して親しみを示していたのでは。
わたしには、そう感じられました。

石井さん高峰さんに共通する美質は、正直なところ。
自分を大きく見せようとしたり、
ことさら卑下したりすることがありません。

商売っ気とかプロの臭みみたいなものと、
良い意味で無縁なのね。

エッセイ以外に生業を持っていたこと以上に、
持って生まれた気質によるものでは、なかろうか。
わたしは、そう思います。
繰り返しになるけど良い出会いに恵まれました。
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2025/01/22 19:36
タリアイ・ヴェーソス 『氷の城』 
 朝田千惠/アンネ・ランデ・ペータス (訳)国書刊行会 2022年(電子版)


この本を通読したのは三回目になるのかな。
冬のうちに読んでおきたかった一冊です。

当初ほかの作品も翻訳、刊行される話だったのに……
よっぽど売れなかったのでしょうか(涙)。

十一歳の少女シスの学級に、
あるとき転校生のウンがやってきます。

遠慮しあい警戒しあいながらも、
ふたりはおたがいに惹かれあうことに。

シスがはじめてウンの家を訪ねた翌日。
ウンはひとりで「氷の城」へ行って、
そのまま消息を絶つことに……

氷の城はおとぎ話やファンタジーの魔宮ではなく、
ノルウェーの厳しい冬に結氷した滝のことです。

シスとウンの身に起こったことは、
成長していくうえで避けられない喪失とも、
ドッペルゲンガー的なものとの関係とも読めます。

作中で少女たちの身に起こるできごとは、
内界の事件を象徴するものでもあるんです。

深い示唆に富む作品です。
同時に凛と冷たい、
冬の詩的なイメージで溢れています。

この本が日本でも、
もっと読まれて愛されてくれたら嬉しいのですけど。
***このコメントは削除されています***
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2025/01/22 19:35
タリアイ・ヴェーソス 『氷の城』 朝田千惠/アンネ・ランデ・ペータス (訳)
 国書刊行会 2022年(電子版)


この本を通読したのは三回目になるのかな。
冬のうちに読んでおきたかった一冊です。

当初ほかの作品も翻訳、刊行される話だったのに……
よっぽど売れなかったのでしょうか(涙)。

十一歳の少女シスの学級に、
あるとき転校生のウンがやってきます。

遠慮しあい警戒しあいながらも、
ふたりはおたがいに惹かれあうことに。

シスがはじめてウンの家を訪ねた翌日。
ウンはひとりで「氷の城」へ行って、
そのまま消息を絶つことに……

氷の城はおとぎ話やファンタジーの魔宮ではなく、
ノルウェーの厳しい冬に結氷した滝のことです。

シスとウンの身に起こったことは、
成長していくうえで避けられない喪失とも、
ドッペルゲンガー的なものとの関係とも読めます。

作中で少女たちの身に起こるできごとは、
内界の事件を象徴するものでもあるんです。

深い示唆に富む作品です。
同時に凛と冷たい、
冬の詩的なイメージで溢れています。

この本が日本でも、
もっと読まれて愛されてくれたら嬉しいのですけど。
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2025/01/20 19:50
 ごきげんよう。ウォルター・デ・ラ・メアの『トランペット』(白水uブックス刊)を読み終えました。初デ・ラ・メアの本です(短編集)。
 英国産というだけあって、サキやイーヴリン・ウォーのようないじわる笑いがあるのかと思ったけれど、英国風味を強けれど、笑いはなかったですね。
 
 それと本書は、その直前に小川哲先生の『スメラミシング』(河出書房新社刊)を読んじゃっていたので、頭のなかのモード切り替えに手間取り、『トランペット』前半のよさをきちんと味わっていないのかも。
 
 実際、とりあえず通読して、面白かったのは後半の作品だったのですね。主人公のフィリップが父より確保してやった会社の(閑職だけど)職務にとにかく12ケ月務めないともうお金は支援しないと通告され、それでやけになったフィリップが大型百貨店でピアノをはじめ凄まじいお買い物をしちゃうという『お好み三昧──風流小景』これはおかしかったです。
 
 キリスト教の教母制度で主人公アリスのために、郊外に住む教母がめちゃくちゃでかい洋館とそのなかのもの、さらには現在雇っている召使やらを込みで譲ろうとする、『アリスの代母さま』。
 
 ラストを飾る、廃墟のようなこれまた洋館に侵入し、そこの姫君の肖像画に恋をしてしまった「わたし」と洋館の主の老嬢……『姫君』。
 
 などなど、やっぱりこう書いてくると英国流のいじわるさがありますね。もともとは児童文学の大家なのですが、この『トランペット』はよかったです。
 この作品集の前に『アーモンドの木』というデ・ラ・メアの本もあるのでそちらも読みたいところ。
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2025/01/16 19:32
小長谷 正明 『ヒトラーの震え 毛沢東の摺り足 神経内科からみた20世紀』
 中公新書 1999年(電子版)


たいへん平易かつおもしろく、ためになる良い本です。
神経内科のお医者さんが、
前世紀の著名人、特に政治家について、
残されている記録を参照して診断をくだします。

わたしは他人の上に立ちたがる人物が、
死ぬほど大嫌いです。
嫌いすぎて気になります。
それで独裁者を扱った本を読みたくもなります。

で、神経内科の話。
精神科の領域とは異なり、
あくまで脳の器質的な問題に絞って関わります。

指導者の健康状態が政情に影響する場合が、
古今東西どこの国にも見られますよね。
言うまでもなく独裁の場合は顕著になります。

これを、もっとも強く体現していたのがヒトラー。
第二次大戦後半の無謀な負け戦は有名です。

パーキンソン病の影響で「保続性」が強く現れ、
頑固になって周囲の意見に耳を貸さなかったのでは……
そう著者は指摘していました。

やっぱり独裁はリスキーですね。
一時的に効率良く運ぶ場合もあるけど、
独裁者もわたしたちと変わらない人間です。

リーダーの判断の誤りを誰も正せない社会の、
なんと怖ろしいこと!
スターリンや毛沢東の項でも痛感させられました。

四半世紀上前に出た本ですけど、
昨今の世界情勢に照らして広く読まれるべきでしょう。

作曲家のラヴェルなど、
政治家以外の人物についての所見も収められています。
***このコメントは削除されています***
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2025/01/16 19:31
小長谷 正明 『ヒトラーの震え 毛沢東の摺り足 神経内科からみた20世紀』
 中公新書 1999年(電子版)

たいへん平易かつおもしろく、ためになる良い本です。
神経内科のお医者さんが、
前世紀の著名人、特に政治家について、
残されている記録を参照して診断をくだします。

わたしは他人の上に立ちたがる人物が、
死ぬほど大嫌いです。
嫌いすぎて気になります。
それで独裁者を扱った本を読みたくもなります。

で、神経内科の話。
精神科の領域とは異なり、
あくまで脳の器質的な問題に絞って関わります。

指導者の健康状態が政情に影響する場合が、
古今東西どこの国にも見られますよね。
言うまでもなく独裁の場合は顕著になります。

これを、もっとも強く体現していたのがヒトラー。
第二次大戦後半の無謀な負け戦は有名です。

パーキンソン病の影響で「保続性」が強く現れ、
頑固になって周囲の意見に耳を貸さなかったのでは……
そう著者は指摘していました。

やっぱり独裁はリスキーですね。
一時的に効率良く運ぶ場合もあるけど、
独裁者もわたしたちと変わらない人間です。

リーダーの判断の誤りを誰も正せない社会の、
なんと怖ろしいこと!
スターリンや毛沢東の項でも痛感させられました。

四半世紀上前に出た本ですけど、
昨今の世界情勢に照らして広く読まれるべきでしょう。

作曲家のラヴェルなど、
政治家以外の人物についての所見も収められています。
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2025/01/15 22:29
ニコライ・ゴーゴリ 『鼻/外套/査察官』 浦 雅春(訳) 
 光文社古典新訳文庫 2006年(電子版)


わたしは青空文庫で読める平井肇訳に愛着があるけど、
古典新訳文庫版の落語調もいいものです。

ゴーゴリ作品のトボけた側面を引き出してて
「おバカなホラ話」として素直に笑えます。

それにしてもゴーゴリは俗物を俗物として描くことが、
ほんとうに巧みです。

鼻が顔を離れて歩きまわることで、
持ち主がいかに卑俗なのか浮き彫りになるんですよ。

あるいは……
気の毒な小役人が外套の新調に一喜一憂したり。
見栄っ張りの若造が、
脛に傷もつ田舎町の市長と取り巻きを喰いものにしたり。

あっちで肩書の序列に大騒ぎしてるかと思えば、
こっちで袖の下を掴ませたり掴ませられたりに余念なく。

かつて帝政への不満を持つ急進的な知識人たちは、
ゴーゴリの作品を「風刺文学」として受容したそうです。

ところがゴーゴリ自身の政治観、社会観は、
視野が狭く保守的なものだったのだとか。

そろそろイデオロギーを離れて、
読まれてほしいんだけどなー。
ゴーゴリの俗物いじり最高!
それだけで、わたしには充分です。

わたしは肩書や持ち物で人間を判断するような連中が、
心の底から大っ嫌いですけど!

あんまり残酷な目に遭うお話だと、
さすがに理不尽に感じられなくもありません。

ゴーゴリが、この本で書いてるくらいの、
そこそこ酷い目に遭わされてるのが痛快なんですよね。
***このコメントは削除されています***
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2025/01/15 22:26
ニコライ・ゴーゴリ 『鼻/外套/査察官』 浦 雅春(訳) 
 光文社古典新訳文庫 2006年(電子版)


わたしは青空文庫で読める平井肇訳に愛着があるけど、
古典新訳文庫版の落語調もいいものです。

ゴーゴリ作品のトボけた側面を引き出してて
「おバカなホラ話」として素直に笑えます。

それにしてもゴーゴリは俗物を俗物として描くことが、
ほんとうに巧みです。

鼻が顔を離れて歩きまわることで、
持ち主がいかに卑俗なのか浮き彫りになるんですよ。

あるいは……
気の毒な小役人が外套の新調に一喜一憂したり。
見栄っ張りの若造が、
脛に傷もつ田舎町の市長と取り巻きを喰いものにしたり。

あっちで肩書の序列に大騒ぎしてるかと思えば、
こっちで袖の下を掴ませたり掴ませられたりに余念なく。

かつて帝政への不満を持つ急進的な知識人たちは、
ゴーゴリの作品を「風刺文学」として受容したそうです。

ところがゴーゴリ自身の政治観、社会観は、
視野が狭く保守的なものだったのだとか。

そろそろイデオロギーを離れて、
読まれてほしいんだけどなー。
ゴーゴリの俗物いじり最高!
それだけで、わたしには充分です。
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2025/01/09 21:59
高坂 正堯 『世界地図の中で考える』 新潮選書 2016年(電子版)
 初出は1968年 


昭和の国際政治学者による文明論集で、
いまから半世紀以上前に書かれた本です。

導入に置かれたタスマニア先住民や、
固有の動物たちの悲劇の話が印象に残りました。

中核となる部分では主にイギリスとアメリカの、
覇権国家としてのふるまいを論じています。

ものごとの善悪などの価値判断は、
時代や場所や個々人に大きく依存したものです。
著者はそう主張して多様性の大切さを訴えます。
西洋の価値観がすべてじゃない、っていうのね。

同時に著者は根底の部分で、
自由、平等、平和に普遍的な価値を見出してもいます。
わたしが著者の主張を信頼に値すると感じたのは、
この態度に拠る部分が大きいです。

それから半世紀以上前に書かれた本なのに、
こんにちの世界情勢を予見している部分がありました。

たとえば陰謀論の跳梁跋扈や、
AIが影響力を増すことなど……

わたしは著者の慧眼に、
ずいぶんと感心させられました。
世の中には聡明なひとがいたものですね。
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2025/01/02 20:03
カート・ヴォネガット・ジュニア 『猫のゆりかご』 伊藤 典夫(訳) 
 ハヤカワ文庫SF 2012年(電子版)初出は1968年、早川書房刊


なんとも冷笑的で、
同時に優しくも哀しい独特な肌合いの小説です。

あ、猫は出てきませんからね。
猫好きさんは期待しちゃダメよ?

標題の「猫のゆりかご」は、あやとりのこと。
人間の愚かな営為の絡みあいを暗示しているみたい。

とっても軽妙な語り口で、人類の滅亡が綴られます。
ポップで愉快に読めるんですよ。
ほんとよ?

原爆の開発に関わったという科学者が、
核をしのぐ最終兵器「アイス・ナイン」を発明します。

語り手ジョーナはアイス・ナインの謎を追い、
科学者の娘と息子たちが暮らすサン・ロレンゾ島へ。

作品の鍵になってるのは「ボコノン教」。
ヴォネガットの創案になる架空の宗教ですけど、
これが、じつにトボけてて良い味を出してます。

ただ、ふざけてるだけじゃなく、
一神教的な道徳観への皮肉になってるんですよ。

六十年代のアメリカで大学生たちから人気を集めたという、
この本はいろいろ時代を感じさせますけど……

こんにちの世界情勢と妙にフィットしてるのが怖いところ。
ドナルド・トランプ次期米大統領なんか、
作中人物として登場してきても違和感ありませんもんw
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2025/01/01 21:27
あけましておめでとうございます(ᐡ ᐧ ﻌ ᐧ ᐡ)ワンッ☆彡

去年に読んだ本のなかから、
ベスト3を選んでみました
(はい管理人ミーナちゃんの真似です)。

( ´◕ω◕)<選考基準は独断と偏見な!


1位 クレア・キーガン『ほんのささやかなこと』

2位 ヨン・フォッセ『誰か、来る』

3位 アンソニー・ドーア『すべての見えない光』

番外 シルヴィア・プラス『ベル・ジャー(新訳版)』


1位、詩情と憤り、哀しみの均衡。
卵の殻の切り口を歩いてるみたいなバランスで。

2位、墨絵のように禁欲的でミニマルな世界。
平凡な日常が、神話的な世界へといつしか変貌。

3位、これは優れた長編の力技。
読んでるあいだ、主人公たちの人生にお邪魔できました。

番外、わたしにとって大切な本の新訳。
内容を知ってた本だから番外に置きました。
***このコメントは削除されています***
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2025/01/01 21:05
こばわん子(ᐡ ᐧ ﻌ ᐧ ᐡ)ワンッ☆彡

去年に読んだ本のなかから、
ベスト3を選んでみました
(はい管理人ミーナちゃんの真似です)。

( ´◕ω◕)<選考基準は独断と偏見な!


1位 クレア・キーガン『ほんのささやかなこと』

2位 ヨン・フォッセ『誰か、来る』

3位 アンソニー・ドーア『すべての見えない光』

番外 シルヴィア・プラス『ベル・ジャー(新訳版)』


1位、詩情と憤り、哀しみの均衡。
卵の殻の切り口を歩いてるみたいなバランスで。

2位、墨絵のように禁欲的でミニマルな世界。
平凡な日常が、神話的な世界へといつしか変貌。

3位、これは優れた長編の力技。
読んでるあいだ、主人公たちの人生にお邪魔できました。

番外、わたしにとって大切な本の新訳。
内容を知ってた本だから番外に置きました。
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2024/12/21 17:19
 ごきげんよう。凄い小説を読んでしまいました……。反時代的とかなんとか言って、現代日本の作家はほとんど読まなかったわたしですが、いや、もう少しは読んでみようじゃないか……と思ったところへ、凄まじい作品集を見つけてしまいました。
 
 それが小川哲《さとし》先生の『スメラミシング』(河出書房新社刊)です。もしかしたらすでにお読みの方いるかも。奥付だと発行日が今年の10月30日なので、わたしにしては珍しく出たての本を買ってすぐ読んだことになります。
 
 冒頭のアッパーな一撃、『七十人の翻訳者たち』でもう完璧に殺られました。この作品、まずヘブライ語からギリシャ語へ翻訳された聖書(|七十人訳聖書《セプトゥアギンタ》は死海文書などをのぞけば最古の聖書です)を巡る歴史ものかと思えば、2036年に時代が飛び、以降七十人訳聖書の時代と近未来が交互に描かれます。
 物語ゲノムやらVON関数(VONは|語り手の速度《ベロシティ・オブ・ナラティヴ》)などの概念も面白く、落ちはそうくるか……!! という。これだけで奇想系SFがお好きな方には刺さるどころか身体が真っ二つにされるぐらいの傑作です。
 とくに小説を書いている方であればこの作品(集)に満腔の嫉妬をおぼえるのでは……?
 
 全部メモを取りつつ読んだのですが、最後から二番目の『啓蒙の光が、すべての幻を祓う日まで』はちょっと今いち。わたしの程度が追いついてないだけかもですが。
 
 あとはもう『文藝』誌に載ったというSFじゃないんですが、この奇想、このセンス・オブ・ワンダーは立派なSFです。
 
 タイトル作である『スメラミシング』も強烈でした。陰謀論者全開っぷりの人たちが集まる反ワクのデモの話なのですが、言葉で要約するとこれなのに、作品そのものはなんとみずみずしい狂気と鋭い理性と、この二つの極を行き来できるのか。
 
 まだ今年は一ヶ月弱ありますが、もしかしたら今年読んだベスト3は、
 
 『日没』桐野夏生(岩波書店)
 『さらば、シェヘラザード』ドナルド.E.ウエストレイク(国書刊行会)
 『スメラミシング』小川哲(河出書房新社)
 
 になるかと思います。
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2024/12/17 20:56
小宮 輝之 『物語 上野動物園の歴史』 中公新書 2010年(電子版)


「園長が語る動物たちの140年」と副題にあります。
明治時代から続いてるんですね。
開園は1882年、まだブラームスが生きていたころです。

資料を踏まえて飼育動物や施設の変遷を追う構成で、
動物園と社会の関わりの変化が理解できました。

当初は見世物的な性格が強かったんですね。
しだいに希少動物の繁殖などを通して、
保護や環境との関わりの比重が大きくなっていきます。

それにしても動物園の歴史の前半では、
連れてこられた動物が片端から死ぬこと死ぬこと。

知識や飼育技術、飼育環境の未熟さゆえで、
悪意からではなかったのでしょう。
でも気の毒ですね。

さらに言い訳できない悪事が、
戦時下での猛獣の殺処分です。
有名な『かわいそうなぞう』の話には、
フィクションが含まれているそうですけど……

人間の身勝手に翻弄されて、
生命を奪われた動物が不憫でなりません。

反面、近年では保護や繁殖にも一役買っており、
動物園の存在そのものが悪いとは言えなさそう。

あと、わたしが個人的に強く思ったのはだ。
パンダとかライオンとか、
どうしてもスター動物が注目されるんですよ。
動物園って。

地味な動物にも、
関心が集まって愛されてくれたら嬉しいのにな。
狸さんとか。

(๑・㉨・๑)ポンポンたぬきだポン!
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2024/12/15 17:22
 ごきげんよう。橋川文三の『三島由紀夫』(中公文庫刊)を読み終えました。一時《いっとき》は日本共産党に入党してたりもしたのですが(橋川文三が結核にかかって疎遠になったところで)、党のほうから除籍処分になってしまったとか。
 『日本浪曼派批判序説』をだいぶ前に読んで、かなりユニークな論客と思い、そんな人が三島由紀夫さんをどう料理するのかと思って買ってみた本。
 
 橋川文三自身は、三島由紀夫さんの文学的な側面をほぼ無視し、戦後の精神史のサンプルのように三島さんの書かれるものに当たってきたとか。
 もっともそんなスタンスでも、三島さん御本人様が自伝や文庫解説などをお願いしてきたそうなのですけどね。
 
 包括的なまとめはわたしにはちょっと荷が重いので、引用された三島さんの言葉を二つ挙げておきます。
 
 「そうだ、そのためには、もっともっと鴎外を読もう。鴎外のあの規矩の正しい文体で、冷たい理知で、抑えて抑えて抑えぬいた情熱で、自分を鍛えてみよう」
 
 ……三島さんがそこまで言うのなら、鴎外をもちゃんと読みたくなりますね。漱石だけではなくて……。
 続いて、ちょっと長くなりますが……。
 
 「弱い人間というが、『人間はみな弱い』という考え方もありましょう。そのとき文学が概念的に浮かんでくる。つまり自分を表現したらどうだろうか、自分が救われるのではないだろうか。だけれども、それが第一段階の文学で、文学の第二段階は製作過程に入るとことばにぶつかると思う。ことばは絶対に克己心を教えますね。それでことばにというものにぶつかったときに、つまり文学というのは、己れの弱さをそのまま是認するものではない。文学の世界に言葉があって、われわれに克己心を要求するのだということを学んだような気がする。それは自制の心というか……」(本書P160)
 
 三島さんのような壮麗な文章を書く人でこれです。襟を正される思いですね。
 というわけでちょうど駿河屋がクリスマスセールなので探してみようかしら。
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2024/12/10 21:47
ヨン・フォッセ 『三部作【トリロギーエン】』 
 岡本 健志、安藤 佳子(訳) 早川書房 2024年


図書館で借りてきた本。
2023年にノーベル文学賞を受けた、
ノルウェーのヨン・フォッセによる連作中短編集です。

色彩感を抑えた墨絵のような描写で、
反復を多用しながら市井のひとびとの日常が綴られます。

冒頭に置かれた「眠れない」では、
アスレとアリーダという十七歳のカップルが登場。
貧しいふたりは郷里を離れます。

続く「オーラヴの夢」では、
アスレが大きな街ビョルグウィンへ向かいます。
アリーダの制止をふりきって出てきた結果……

最後の「疲れ果てて」はアリーダの死後のできごと。
彼女の娘アーレスの目を通しながら、
ビョルグウィンを離れた顛末が綴られます。

わたしがこれまで読んだフォッセ作品とは異なり、
この本には、それなりに劇性が備わっています。
平凡な営為が神話的な色彩を帯びる、
フォッセの魔法はもちろん健在です。

アリーダが浜辺で腕輪を拾うくだりで、
わたし涙きそうになったよ。
まさかフォッセ作品で泣かされるとは……

これまでに読んだ作品は、もっと淡々としてたのです。
***このコメントは削除されています***
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2024/12/10 21:45
ヨン・フォッセ 『三部作【トリロギーエン】』  岡本 健志 , 安藤 佳子(訳)
 早川書房 2024年


2023年にノーベル文学賞を受けた、
ノルウェーのヨン・フォッセによる連作中短編集です。

色彩感を抑えた墨絵のような描写で、
反復を多用しながら市井のひとびとの日常が綴られます。

冒頭に置かれた「眠れない」では、
アスレとアリーダという十七歳のカップルが登場。
貧しいふたりは郷里を離れます。

続く「オーラヴの夢」では、
アスレが大きな街ビョルグウィンへ向かいます。
アリーダの制止をふりきって出てきた結果……

最後の「疲れ果てて」はアリーダの死後のできごと。
彼女の娘アーレスの目を通しながら、
ビョルグウィンを離れた顛末が綴られます。

わたしがこれまで読んだフォッセ作品とは異なり、
この本には、それなりに劇性が備わっています。
平凡な営為が神話的な色彩を帯びる、
フォッセの魔法はもちろん健在です。

アリーダが浜辺で腕輪を拾うくだりで、
わたし涙きそうになったよ。
まさかフォッセ作品で泣かされるとは……

これまでに読んだ作品は、もっと淡々としてたのです。
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2024/12/08 20:45
ロアルド・ダール 『キス・キス(新訳版)』  田口 俊樹(訳)
 ハヤカワ・ミステリ文庫 2014年(電子版)
 

ダールさん三冊目の短編集だそうです。

安定した底意地の悪さに、
わたしは大いに愉しませてもらいました。

とにかく俗物と成金が大嫌いなことが、
行間からひしひしと伝わってきます。

ただ嫌いなタイプの人物をいじめれば、
おもしろい小説ができるかといったら……
もちろん、そんなことないですよね。

半世紀以上前に書かれた作品ばかりですから、
いろいろ時代は感じさせますけど。
皮肉や悪意の扱いかたは絶品です。

ケチな家具商人が掘り出しものを見つける
「牧師の愉しみ」。

ピアニストの女性宅に現れた、
猫は作曲家リストの生まれ変わり?
「勝者エドワード」。

成金地主の裏をかこうとする密猟者たちの秘策とは?
「世界チャンピオン」。

以上が特に愉快だったかな。

なんとも奇特な読後感を残していったのが「豚」。
世間知らずのお人好しが酷い目に遭う話を書こうと……
結末を考えずに手をつけたのでは、あるまいか。
こんにちではコンプライアンス的に無理そうw

ともあれ。
良く書けたブラックユーモアのお手本みたいな短編集です。
***このコメントは削除されています***
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2024/12/08 20:45
ロアルド・ダール 『キス・キス(新訳版)』  田口 俊樹(訳)
 ハヤカワ・ミステリ文庫 2014年(電子版)
 

ダールさん三冊目の短編集だそうです。

安定した底意地の悪さに、
わたしは大いに愉しませてもらいました。

とにかく俗物と成金が大嫌いなことが、
行間からひしひしと伝わってきます。

ただ嫌いなタイプの人物をいじめれば、
おもしろい小説ができるかといったら……
もちろん、そんなことないですよね。

半世紀以上前に書かれた作品ばかりですから、
いろいろ時代は感じさせますけど。
皮肉や悪意の扱いかたは絶品です。

ケチな家具商人が掘り出しものを見つける
「牧師の愉しみ」。

ピアニストの女性宅に現れた、
猫は作曲家リストの生まれ変わり?
「勝者エドワード」。

成金地主の裏をかこうとする密猟者たちの秘策とは?
「世界チャンピオン」。

以上が特に愉しめたかな。

なんとも奇特な読後感を残していったのが「豚」。
世間知らずのお人好しが酷い目に遭う話を書こうと……
結末を考えずに手をつけたのでは、あるまいか。
こんにちではコンプライアンス的に無理そうw

ともあれ。
良く書けたブラックユーモアのお手本みたいな短編集です。
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2024/12/06 22:24
 亡くなった今でもわたしの敬愛する編集者、安原顯、通称ヤスケンの仕事、『リテレール増刊③ 映画の魅惑』(メタローグ刊)を読み終えました。
 
 それぞれの立ち位置に合わせて、たとえばサイレント映画からノンジャンルまで、書き手のジャンル別ベスト50を選出、合計1,000本の映画の紹介本です……!
 
 当然それだけの本数なら未見の面白そうな作品が多く、ヤスケンの本でありがちな付箋の嵐です。
 
 それにしても、このヤスケンが比較的晩年に手がけた出版社、メタローグは、こんなに「濃い」本を次から次へと出していたのに売れなかったとは……!!
 
 じつはメタローグのあたりからわたしもヤスケンの仕事をリアルタイムでちょっとは追っていたのです。メタローグの主な仕事、書評誌『リテレール』も買っておりましたから。
 わたしはそれほど思っておりませんでしたが、当時、ちょっとした友人が編集の仕事を目指していて、ヤスケンや彼の紹介する本、映画などなどの会話をよく交わしていたのをおぼえております。
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2024/12/05 17:24
 イーヴリン・ウォーの『大転落』(岩波文庫刊)を読み終えました。
 
 ウォーの小説はもっと難しめ+ブラックユーモア満載かと思っていたのですが、本書は小難しいことは抜きで楽しめます。
 ユーモアはブラックユーモアではないものの、でも随所でクスっときますよ! ユーモアセンスが壊滅的なわたし……エブリスタでも「#笑える」ハッシュタグつきの作品であまりクスっとしないわたしでも……ちょこちょこ笑ってしまいました。
 
 主人公、ポール・ペニーフェザーくんの強制(大学)退学からはじまってムショ入りまでしちゃう転落人生ものですが、ペニーフェザーは徹底的に受け身キャラというかなんというかで、なにか起きてもそんなに動揺どころか慌てたりしない、妙なマイペースキャラなのがまず笑かすなあ……と。
 
 ちなみに、脇役もなかなか曲者ぞろいでなかでもとくにおかしいのはジレーヌス教授です。科白での彼のベシャリのおかしさだけでも必読かもしれませんw
 
 それにしてもペニーフェザーがそういう性格なのであまり感じないのですが、夢とか希望とか愛とか、そういうのがありません。それなのに笑える文章で攻めてくるイーヴリン・ウォーは凄いです。や、これは読んでよかったです。
 
 あと、本書の191ページに、「胸キュン」って言葉があって度肝を抜かれましたw 岩波の刊行物で唯一ではないかしら、こんな言葉が採用されているの。
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2024/12/03 18:57
 ごきげんよう。大塚ひかり先生の『カラダで感じる源氏物語』(ちくま文庫刊)を読み終えました。
 
 これは……ドラマから流れてきた人やゼロから源氏物語を知りたい人にはあかんやつや……。
 
 古典エッセイスト(ニッチなところで勝負かけてますよね……)の大塚ひかり先生、身体論というか、もっとあけすけに源氏物語を貫くエロス(というかもっと即物的なエロ)や病気、ブス、劣等感[1]、宮中でのストレス……などなど、そういう方面から書かれた箇所を、かなりフランクな文体で解説しております。
 でも偽悪趣味みたいに書いているわけじゃないので、読みやすく、面白いですよ!
 
 [1] 本書内では「コンプレックス」。ただこの語だけだと劣等感という意味はありません。ただの「複合体」=コンプレックス。劣等感は「インフェリオリティ・コンプレックス」です。
 
 「普通と違って、面倒な事情のある人に、必ず心がひかれる癖がある人だから」と光源氏のことを書いております。
 言われてみれば末摘花なんかに関わったりは普通しなさそうなんですけどね……。
 ちなみにその劣等感なのですが、光源氏といいその他の人物といい、劣等感をかかえた「等身大」のフィクションの人物像は『源氏物語』がはじめてだそうで……。
 
 身体論的な、そして、まぁ、身も蓋もない大塚先生の筆致がシンクロするなら「買い」かと思います……が、本書も入手困難かも。これまたわたしは神田神保町の愛書館中川書房で購入したんです。好みはわかれるところでしょうが、わたしは好きです。
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2024/12/02 18:59
 『それでも作家になりたい人のためのブックガイド』(絓《すが》秀実+渡部直己著 太田出版刊)を隙間時間などで再読(再再再……もっとかな?)しました。
 
 わたしが持っているのは93年11月初版ですが、この本はけっこう売れたそうです(あの太田出版ですしね)。
 ってことはかなりの人が本書のドクジタwっぷりにやられたということで……。
 
 本書は、冒頭と最後の小説製作をめぐる絓秀実と渡部直己の対談、そこにはさまれて、さまざまな作家のさまざまな作品がたいていはけちょんけちょんにくさされてます。
 正直、猛毒注意です。
 作例として「よい」とされているのは三島由紀夫、古井由吉、笙野頼子、蓮實重彦、中上健次、尾辻克彦ぐらいじゃないでしょうか。
 林真理子の例なんか本当に酷すぎます(でも直木賞受賞しているというのが……)。
 
 結局のところ、読書体験に尽きる、というのが本書の要約でしょうか。ただ、今になって読み返すと、雑な箇所も見えてくるのは事実。
 「すべからく」の誤用、「ハイデカー」などの誤字。
 とはいえ、本書が出た当時は、やっとまともで読むに足る小説指南本が出た……とは思いました。
 
 この後、渡部直己は『本気で作家になりたければ漱石に学べ!』(これも太田出版刊)を出したり、また『必読書150』(これも太田出版刊です)にも参加したり……。
 
 余談ですが、太田出版はアレな本もけっこう出しているので、あまり知らない人にはだめな版元扱いされたりもしてますが、以上の本のように有意義な本も出しております。
 小説創作とは関係ないんですが、800円本シリーズもわたしは好きでした>太田出版
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2024/12/02 14:49
クレア・キーガン 『ほんのささやかなこと』  鴻巣 友季子 (訳)
 早川書房 2024年


一週間くらい前に大騒ぎして買ってきた、
クレア・キーガンの中編小説
『ほんのささやかなこと』を読了できました。

紙の本だと140ページちょっとで、2,420円。
数字だけ見ると割高ですけど、
ほんとうに素敵な読書だったんです。
これは読み返したいな。

八十年代なかばの愛蘭が舞台です。
主人公は石炭販売を営む中年男、
ビル・ファーロング。

忙しい毎日だけれど仕事は順調だし、
五人の娘たちも元気に育っています。
ビルが聡明さに一目置く妻、
アイリーンとも円満で申し分ありません。

クリスマス前に石炭を届けて回るなか、
ビルは女子修道院で見慣れない人物に出会い……

今回、新しい作品を読んで痛感したこと。
キーガンさん、おっそろしく小説が巧いのね。
言葉のひとつひとつにこだわって丁寧に、
心をこめて書いていることが感じられます。

クリスマス前のアイルランドの風物が美しいし、
主人公ビルの人物造形も周到です。
ちょっと事情のある生いたちで、それゆえでしょうか。
ひとの痛みに敏感で見過ごせないのね。

まじめにこつこつ働いてるけど、
仕儀するだけの機械のような人物ではありません。
やがて小説の核心が現れるにつれ、
そういうビルの人物像がある種の重みを伴ってきます。

ビルの前には「社会の闇」が横たわってるんだけど、
著者は声高に告発したりはしません。
それで、かえって静かな怒りが伝わってきます。

ビルの選択が彼や家族に、
はたして何をもたらすことでしょう。
ひとことも作中で語られないだけに、
よけい考えさせられます。

最後に。
クリスマスに飾られたろばの像に雪が積もってて、
身寄りのない少女が払ってあげる場面が好きです。
「可愛いよね?」って言うんだよ。
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2024/12/01 20:48
池田 健二 『イタリア・ロマネスクへの旅』 中公新書 2009年


十世紀から十二世紀にかけイタリアで作られた、
ロマネスク様式の教会をめぐる本。
判型の都合で小さめだけど、写真がたくさん載ってます。

全体に素朴な印象の建物が多いです。
本文は教会建築の話で、わたしにはちんぷんかんぷん。
飛ばし読みしちゃったよ。

それでも買ってきたのは、
建物の柱やなんかの彫刻に、
トボけた動物がけっこういるからw

「ライオン」とか「馬」とか、
ぎりぎり判別できるヤツもいるんだけど。

おまえは何物かと、小一時間。
ツッコミ入れたくなる正体不明も存在しますw

あと須賀敦子さんが感銘を受けたという、
聖母の壁画が載ってて。
それを、ゆっくり眺めたかったのね。

ともあれ視野が狭くならないように、
ときどき知らない分野に触れることも大事ですね。

決まった範囲の本ばっか読んでると、
自分が賢くなったと錯覚しがちだけど!
それ、アホになってる証左でしかないんだよなーw

ロマネスク動物、ネットで画像が拾えないか探してみよう。
アバター
2024/11/30 20:47
小林 和男 『頭じゃロシアはわからない』 大修館書店 2023年


図書館で借りてきた本。
NHKのロシア特派員を長く務めた著者が、
ことわざを通して彼の地のあれこれを紹介するエッセイ集です。

ロシアやロシア人に対して好意的な記述が多く
『ロシアを決して信じるな』あたりとは対照的です。
ただしウクライナ侵攻に対しては、
一貫して批判的なトーンで書いています。

ともあれ個々人の資質やめぐりあわせによって、
人間も社会もいろいろな顔を見せてくるのでしょうね。

「時間にルーズな、大きな田舎」というのが、
良くも悪くも、この本から伝わってきた印象です。

意外だったのはロシア人一般が、
日本に対して良い感情を持っているという話でした。
いまの日本社会での対露感情はというと……

ともあれ万事につけ杓子定規なようでいて、
意外なところに緩い穴がある社会だといいます。
ここは日本とよく似ているかもしれません。

わたしを含めて多くの日本人は「ロシア人」と、
ひと括りにして決めつけがちですけど……

本質的なところでは、わたしたちと変わらない、
多様な個人の集まりであることを忘れてはいけませんね。
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2024/11/28 16:53
 ごきげんよう。東里胡《あずま りこ》先生の『訳ありイケメンと同居中です!! 推し活女子、俺様王子を拾う』(小学館ジュニア文庫刊)を読み終えました……さりげなく書きましたが、この本は小説投稿サイト、エブリスタで知り合った方の単著です……凄すぎる。
 
 アイドルグループ、騎士《ナイト》のジュノくん推しの桜井花音《かのん》ちゃん(中学1年生)。が、ジュノくんクリソツな、だけど性格が悪すぎて魔法の国を追放されたルカ王子とひょんなことから同居……な話です。
 しかもルカ王子は呪いをかけられて基本身長15cmだし。
 
 そして、ここまで書いたなかでも設定とか展開初期のことを活かしたりで物語が進んでいくのが、すごいしっかりしていて良いのです。
 
 「推し」そのものとの物語じゃないあたりが巧いんですよ。テンプレあらすじではなく、すごくあらすじというか物語が生き生きしている。またはみずみずしいというか。ほんと、可愛い感じの作品で、これがジュニア文庫小説賞受賞作なのは納得です。
 
 わたしも一箇所、僭越ながらお? と思ったのはカノンちゃんのお母様は亡くなっていて、最後のほうをのぞくと(ネタバレになるので書けません)カノンちゃんの母性みたいなものが自然と浮き上がってくるところですね。いい子なんですよ、カノンちゃん。
 
 とくにお父様との生活をめぐるパートでの筆致も冴えてますしねb とにかく飽きさせません。カノンちゃんとルカ王子の成長物語でもあるという。
 ハラハラドキドキしちゃう箇所もあり、ああこういう危機を過ごすと仲良くなっちゃうよね……的な!
 
 さらに表紙や挿絵も可愛いのです!!
 そして、文庫と銘打っておきながら、コミックスサイズ。わたしはこの判型や新書判で小説、ってなぜか好きで。ほんと、いろな意味で可愛い一冊なので、ぜひ!
 
 それにしても小説の勉強のように読んでしまってます。
 第2巻あるなら読みたいですねb
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2024/11/26 20:28
竹中亨 『ヴィルヘルム2世』 中公新書 2019年 電子版


ドイツ最後の皇帝、ヴィルヘルム二世の評伝です。
大変な目立ちたがりで気分屋。
矛盾だらけの特異な人物という印象を受けました。

目の前にいる相手の歓心を買いたいあまり、
コロコロ言動が変わって舌禍を招くこと、しばしば。
また表面ではマッチョを装ってましたけど、
芯は繊細で感じやすい気質の持ち主だったとか。

ひらたく形容しちゃうと「厨二病の王さま」です。
自意識過剰なまま歳だけ重ねちゃった感じ。

問題山積の人物に見えますけど、
出自を見ると気の毒でもあります。

出産時の事故で左腕に障害を負ってしまい、
克服のために苛酷な療育を受けたそうです。
こんにちの基準に照らせば虐待でしかないような……
両親とも折り合いが悪かったといいます。

「国民皇帝」をめざしたヴィルヘルム二世ですけど、
時代の流れに翻弄され、
最後は見捨てられるかたちとなりました。

時代と個人との関係は相互依存的ながら、
ときとして皮肉な結果を招きもします。
晩年のヴィルヘルム二世とナチスの同床異夢など、
いろいろ考えさせられるところがありますね。

こんにちの政治家や時代状況を想起させる部分もあり、
興味の尽きない読書でした。

歴史を知ってもお金にはならないけど(笑)、
現在を理解する補助線が手に入ります。

ネットで読める著者のインタビューも、おもしろかったです。

https://www.chuko.co.jp/shinsho/portal/109970.html
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2024/11/24 17:37
 ごきげんよう。先日、神保町の東京堂書店で買ってきた、蓮實重彦先生の『映画崩壊前夜』(青土社刊)を読み終えました。
 
 冒頭の映画崩壊前夜や黒沢清作品への文章をのぞけば、本書は西暦2,000年代に公開された「映画時報」な現代的映画論集です。ほぼ数ページで封切りされた映画を蓮實節で語っていくのですが、あいかわらずこれは観たい、と「シネマの扇動装置」(過去の蓮實重彦本タイトルです)っぷりは健在。
 
 映画は誕生してからもうとっくに100年は経っているのですが、その誕生から現代まで、映画は「完成に向かっている」のではなく、リュミエール兄弟らの作った映画から、すでに完成していると、蓮實先生はいうのです。つまり、すでに映画というのは長い長い崩壊の前夜にある、と。
 
 また、冒頭の黒沢清をめぐる文章にもやられました。こんな感じで書かれたら、もう観ないわけにはいかないでしょう。さっそくTSUTAYAのDISCASに、黒沢清監督の『回路』とかリストに入れちゃいました。
 
 あとはアッバス・キアロスタミの評価が高かったのも嬉しいところです。わたしは『黄桃の味』しか観てないのですが(しかも内容をほぼ覚えていませんし……)。
 
 最近刊行された『ショットとは何か』も読みたいですね──いや、まずは映画をもっと観なくちゃ。
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2024/11/23 20:10
アンソニー・ドーア 『すべての見えない光』 藤井 光(訳) 
 ハヤカワepi文庫(電子版) 2023年
 (初出は新潮クレスト・ブックス 2016年刊)


短編で世に出たアメリカの小説家、
アンソニー・ドーアが十年の月日をかけた長編です。
紙の本だと五百数十ページに及ぶ大作。

ちびちびちんたら読んでたぶん、
登場人物みんなに愛着がわきました。
なんだか昔からの友達みたいに感じて、
本を読み終えるのが、さびしかったです。

第二次大戦中のフランスがおもな舞台です。
フランス人とドイツ人の主人公が、
それぞれ、ひとりづつ登場します。
いずれも十代なかばです。

視力を失ったフランス人の少女、マリー=ロール。
自然科学と機械に非凡な才を示すドイツ人の少年、
ヴェルナー。
ふたりの生活は否応なく戦争に翻弄され、やがて……

ドーアの磨きぬかれた文体の美しさに、
わたしは溜息を吐きまくらされました。
短いセンテンスを多用して、
視覚的かつ詩的なイメージを提出してきます。

翻訳でこれだけ魅力的なのですから、
ネイティヴが原文に接したなら、さぞや。

それから人物造形の見事なこと。
口癖や特徴を巧みに配置。
多くを語らずして人物像を惹起させます。
卓抜した画家のスケッチみたいだわ。

ひとりひとりに非常に存在感があるんです。
単純な善人や悪人は(脇役を除けば)登場しません。
彼らが、いまもすぐ身近で呼吸してるような感じ。

人間の醜さ愚かさと美しさを、
戦争というおぞましい営為を背景に描ききった大作です。

誰の、どんな人生にも「星の時間」がある。
マリー=ロールとヴェルナーの人生につきあいながら、
わたしは、この言葉を反芻せずにはいられませんでした。
***このコメントは削除されています***
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2024/11/23 20:07
アンソニー・ドーア 『すべての見えない光』 藤井 光(訳) 
 ハヤカワepi文庫(電子版)
 2023年(初出は新潮クレスト・ブックス 2016年刊)


短編で世に出たアメリカの小説家、
アンソニー・ドーアが十年の月日をかけた長編です。
紙の本だと五百数十ページに及ぶ大作。

ちびちびちんたら読んでたぶん、
登場人物みんなに愛着がわきました。
なんだか昔からの友達みたいに感じて、
本を読み終えるのが、さびしかったです。

第二次大戦中のフランスがおもな舞台です。
フランス人とドイツ人の主人公が、
それぞれ、ひとりづつ登場します。
いずれも十代なかばです。

視力を失ったフランス人の少女、マリー=ロール。
自然科学と機械に非凡な才を示すドイツ人の少年、
ヴェルナー。
ふたりの生活は否応なく戦争に翻弄され、やがて……

ドーアの磨きぬかれた文体の美しさに、
わたしは溜息を吐きまくらされました。
短いセンテンスを多用して、
視覚的かつ詩的なイメージを提出してきます。

翻訳でこれだけ魅力的なのですから、
ネイティヴが原文に接したなら、さぞや。

それから人物造形の見事なこと。
口癖や特徴を巧みに配置。
多くを語らずして人物像を惹起させます。
卓抜した画家のスケッチみたいだわ。

ひとりひとりに非常に存在感があるんです。
単純な善人や悪人は(脇役を除けば)登場しません。
彼らが、いまもすぐ身近で呼吸してるような感じ。

人間の醜さ愚かさと美しさを、
戦争というおぞましい営為を背景に描ききった大作です。

誰の、どんな人生にも「星の時間」がある。
マリー=ロールとヴェルナーの人生につきあいながら、
わたしは、この言葉を反芻せずにはいられませんでした。
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2024/11/23 20:06
アンソニー・ドーア 『すべての見えない光』 藤井 光(訳) 
 ハヤカワepi文庫(電子版)
 2023年(初出は新潮クレスト・ブックス 2016年刊)


短編で世に出たアメリカの小説家、
アンソニー・ドーアが十年の月日をかけた長編です。
紙の本だと五百数十ページに及ぶ大作。

ちびちびちんたら読んでたぶん、
登場人物みんなに愛着がわきました。
なんだか昔からの友達みたいに感じて、
本を読み終えるのが、さびしかったです。

第二次大戦中のフランスがおもな舞台です。
フランス人とドイツ人の主人公が、
それぞれ、ひとりづつ登場します。
いずれも十代なかばです。

視力を失ったフランス人の少女、マリー=ロール。
自然科学と機械に非凡な才を示すドイツ人の少年、
ヴェルナー。
ふたりの生活は否応なく戦争に翻弄され、やがて……

ドーアの磨きぬかれた文体の美しさに、
わたしは溜息を吐きまくらされました。
短いセンテンスを多用して、
視覚的かつ詩的なイメージを提出してきます。

翻訳でこれだけ魅力的なのですから、
ネイティヴが原文に接したなら、さぞや。

それから人物造形の見事なこと。
口癖や特徴を巧みに配置。
多くを語らずして人物像を惹起させます。
卓抜した画家のスケッチみたいだわ。

ひとりひとりに非常に存在感があるんです。
単純な善人や悪人は(脇役を除けば)登場しません。
彼らが、いまもすぐ身近で呼吸してるような感じ。

人間の醜さ愚かさと美しさを、
戦争というおぞましい営為を背景に描ききった大作です。

誰の、どんな人生にも「星の時間」がある。
マリー=ロールとヴェルナーの人生につきあいながら、
わたしは、この言葉を反芻せずにはいられませんでした。



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2024/11/23 20:05
アンソニー・ドーア 『すべての見えない光』 藤井 光(訳) ハヤカワepi文庫
 2023年(初出は新潮クレスト・ブックス 2016年刊)


短編で世に出たアメリカの小説家、
アンソニー・ドーアが十年の月日をかけた長編です。
紙の本だと五百数十ページに及ぶ大作。

ちびちびちんたら読んでたぶん、
登場人物みんなに愛着がわきました。
なんだか昔からの友達みたいに感じて、
本を読み終えるのが、さびしかったです。

第二次大戦中のフランスがおもな舞台です。
フランス人とドイツ人の主人公が、
それぞれ、ひとりづつ登場します。
いずれも十代なかばです。

視力を失ったフランス人の少女、マリー=ロール。
自然科学と機械に非凡な才を示すドイツ人の少年、
ヴェルナー。
ふたりの生活は否応なく戦争に翻弄され、やがて……

ドーアの磨きぬかれた文体の美しさに、
わたしは溜息を吐きまくらされました。
短いセンテンスを多用して、
視覚的かつ詩的なイメージを提出してきます。

翻訳でこれだけ魅力的なのですから、
ネイティヴが原文に接したなら、さぞや。

それから人物造形の見事なこと。
口癖や特徴を巧みに配置。
多くを語らずして人物像を惹起させます。
卓抜した画家のスケッチみたいだわ。

ひとりひとりに非常に存在感があるんです。
単純な善人や悪人は(脇役を除けば)登場しません。
彼らが、いまもすぐ身近で呼吸してるような感じ。

人間の醜さ愚かさと美しさを、
戦争というおぞましい営為を背景に描ききった大作です。

誰の、どんな人生にも「星の時間」がある。
マリー=ロールとヴェルナーの人生につきあいながら、
わたしは、この言葉を反芻せずにはいられませんでした。
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2024/11/21 10:40
 穂村弘先生の『手紙魔まみ、夏の引越し(ウサギ連れ)』(小学館文庫刊)を読み終えました。
 恥ずかしいことに、エブリスタに登録して「自由律俳句」なるものの実態(?)を知りました。
 
 わたしは短歌をときどき詠みますが、正仮名遣ひ+五七五七七の韻律はできるかぎり壊さぬように詠んでおります。この韻律こそが短歌であるから。
 だからか、自由律俳句というものが正直わかりません。
 短歌も、けっこう前衛短歌、の巨匠たちがいるにはいるのですが、やはり韻律破壊がなかなか凄くて、今のわたしの趣味には合いません。
 
 で、本書の話ですが、「手紙魔まみ」が穂村弘のもとへ送ってきた詠草の数々が「本文」です。
 もちろん、本文の短歌は、穂村弘先生の短歌で、「まみ」ちゃんからではありません。
 いくつぐらいの歳の設定なのかなあ、手紙魔まみちゃん。
 
 「兎の眼を通じてまみのSEXが宇宙に実況中継される」
 
 「いちばん美人のかたつむりにくちづけて、命名ヴィヴィアン・ウェストウッド」
 
 「顔中にスパンコールを鏤《ちりば》めて破産するまで月への電話」
 
 引用したまみちゃん詠草(しつこいようですが、実際に詠んでいるのは歌人の穂村弘さんですよ)のなかで、最後のは韻律を守ってます。じゃあ、苦手になったはずの破調な詠草がやっぱりダメかというと、成功しているものもあり、失敗している歌もあり、な気がします。
 
 ここらをもう少し掘り下げてみると、現代、あるいは前衛短歌の問題ももっと目の前に迫ってくるかもしれません。
 たとえば塚本邦雄先生とか以前はめちゃくちゃ好きでしたが、今はそれほど……なんです。
 
 とはいえ、なんだかもう最近は散文的に脳が固まってしまって、短歌は詠めませんね。
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2024/11/19 12:16
W.H.ハーヴィー 『五本指のけだもの』 横山茂雄(訳) 国書刊行会 
 2024年


図書館で借りた本です。
活字が小さめで読みとおすのに難儀しました。

ウィリアム・フライアー・ハーヴィーは、
十九世紀後半に生まれ前世紀前半に活動したイギリスの小説家です。
おもに怪奇小説やミステリを手がけました。

ハーヴィーっていうと本邦では、
なんといっても「炎天」でしょう。
これ一作のみで知られるともいえるけど、
名作であることには疑いありません。

原題は¨August Heat¨。
「炎天」は平井呈一さんの訳によるもので、
わたしは中学生のころ出会いました。

猛烈に暑い八月のある日。
ひとりの画家が、ふと思いたち一枚のデッサンを描きあげます。
それは法廷の被告席に立つ男の姿でした。

絵の出来が気に入った画家は、作品をポケットに入れて散歩に出かけます。
道に迷った先で一軒の石屋を見つけました。
そこにはポケットの素描にそっくりな風貌の主人がいて……

幽霊も怪物も登場しませんけど、じつに薄気味悪い話です。
それでいて奇妙にトボけた味わいもあり、
不条理劇の先駆のようにも解釈できます。

今回の『五本指のけだもの』では巻頭に収められ
「炎暑」という邦題がつけられていました。
訳者は横山茂雄さんです。

学生時代に出入りしていたサークルで
「いちばん怖かった小説」が話題になったことがあります。
その場にいたうちの何人かが「炎天」を挙げ、
わたしも、これを推しました。

簡潔なばかりでなく何か人間の抱える根源的な不安とか、
深いところへ訴えかけてくる作品なのかも。

ハーヴィーの怪奇小説には超自然が鍵を握るものが少ないです。
異常心理を扱ったサスペンスに近い作風と感じました。
ちょっと物足りなく感じたのが正直な印象。

「炎暑」以外だと標題作が愉しめました。
ただ著者の発想が良くも悪くも合理的で、
怪奇小説としては地に足が着きすぎかも?

けだものに宿った悪意についての説明が、
作中で披露されてるんだけど……
わたしには、やや興醒めに感じられてしまいました。

いずれにせよ従来、まとまった形では読めなかった作家です。
国書刊行会さん、ありがとう。
***このコメントは削除されています***
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2024/11/19 12:08
W.H.ハーヴィー 『五本指のけだもの』 横山茂雄(訳) 国書刊行会 
 2024年


図書館で借りた本です。
活字が小さめで読みとおすのに難儀しました。

ウィリアム・フライアー・ハーヴィーは、
十九世紀後半に生まれ前世紀前半に活動した、
イギリスの小説家です。
おもに怪奇小説やミステリを手がけました。

ハーヴィーっていうと本邦では、
なんといっても「炎天」でしょう。
これ一作のみで知られるともいえるけど、
名作であることには疑いありません。

原題は¨August Heat¨。
「炎天」は平井呈一さんの訳によるもので、
わたしは中学生のころ出会いました。

猛烈に暑い八月のある日。
ひとりの画家が、ふと思いたち一枚のデッサンを描きあげます。
それは法廷の被告席に立つ男の姿でした。

絵の出来が気に入った画家は、作品をポケットに入れて散歩に出かけます。
道に迷った先で一軒の石屋を見つけました。
そこにはポケットの素描にそっくりな風貌の主人がいて……

幽霊も怪物も登場しませんけど、じつに薄気味悪い話です。
それでいて奇妙にトボけた味わいもあり、
不条理劇の先駆のようにも解釈できます。

今回の『五本指のけだもの』では巻頭に収められ
「炎暑」という邦題がつけられていました。
訳者は横山茂雄さんです。

学生時代に出入りしていたサークルで
「いちばん怖かった小説」が話題になったことがあります。
その場にいたうちの何人かが「炎天」を挙げ、
わたしも、これを推しました。

簡潔なばかりでなく何か人間の抱える根源的な不安とか、
深いところへ訴えかけてくる作品なのかも。

ハーヴィーの怪奇小説には超自然が鍵を握るものが少ないです。
異常心理を扱ったサスペンスに近い作風と感じました。
ちょっと物足りなく感じたのが正直な印象。

「炎暑」以外だと標題作が愉しめました。
ただ著者の発想が良くも悪くも合理的で、
怪奇小説としては地に足が着きすぎかも?

けだものに宿った悪意についての説明が、
作中で披露されてるんだけど……
わたしには、やや興醒めに感じられてしまったんです。

いずれにせよ従来、まとまった形では読めなかった作家です。
国書刊行会さん、ありがとう。
***このコメントは削除されています***
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2024/11/19 12:08
W.H.ハーヴィー 『五本指のけだもの』 横山茂雄(訳) 国書刊行会 2024年


図書館で借りた本です。
活字が小さめで読みとおすのに難儀しました。

ウィリアム・フライアー・ハーヴィーは、
十九世紀後半に生まれ前世紀前半に活動した、
イギリスの小説家です。
おもに怪奇小説やミステリを手がけました。

ハーヴィーっていうと本邦では、
なんといっても「炎天」でしょう。
これ一作のみで知られるともいえるけど、
名作であることには疑いありません。

原題は¨August Heat¨。
「炎天」は平井呈一さんの訳によるもので、
わたしは中学生のころ出会いました。

猛烈に暑い八月のある日。
ひとりの画家が、ふと思いたち一枚のデッサンを描きあげます。
それは法廷の被告席に立つ男の姿でした。

絵の出来が気に入った画家は、作品をポケットに入れて散歩に出かけます。
道に迷った先で一軒の石屋を見つけました。
そこにはポケットの素描にそっくりな風貌の主人がいて……

幽霊も怪物も登場しませんけど、じつに薄気味悪い話です。
それでいて奇妙にトボけた味わいもあり、
不条理劇の先駆のようにも解釈できます。

今回の『五本指のけだもの』では巻頭に収められ
「炎暑」という邦題がつけられていました。
訳者は横山茂雄さんです。

学生時代に出入りしていたサークルで
「いちばん怖かった小説」が話題になったことがあります。
その場にいたうちの何人かが「炎天」を挙げ、
わたしも、これを推しました。

簡潔なばかりでなく何か人間の抱える根源的な不安とか、
深いところへ訴えかけてくる作品なのかも。

ハーヴィーの怪奇小説には超自然が鍵を握るものが少ないです。
異常心理を扱ったサスペンスに近い作風と感じました。
ちょっと物足りなく感じたのが正直な印象。

「炎暑」以外だと標題作が愉しめました。
ただ著者の発想が良くも悪くも合理的で、
怪奇小説としては地に足が着きすぎかも?

けだものに宿った悪意についての説明が、
作中で披露されてるんだけど……
わたしには、やや興醒めに感じられてしまったんです。

いずれにせよ従来、まとまった形では読めなかった作家です。
国書刊行会さん、ありがとう。
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2024/11/19 12:04
図書館で借りた本です。
活字が小さめで読みとおすのに難儀しました。

ウィリアム・フライアー・ハーヴィーは、
十九世紀後半に生まれ前世紀前半に活動した、
イギリスの小説家です。
おもに怪奇小説やミステリを手がけました。

ハーヴィーっていうと本邦では、
なんといっても「炎天」でしょう。
これ一作のみで知られるともいえるけど、
名作であることには疑いありません。

原題は¨August Heat¨。
「炎天」は平井呈一さんの訳によるもので、
わたしは中学生のころ出会いました。

猛烈に暑い八月のある日。
ひとりの画家が、ふと思いたち、
一枚のデッサンを描きあげます。
それは法廷の被告席に立つ男の姿でした。

絵の出来が気に入った画家は、
作品をポケットに入れて散歩に出かけます。
道に迷った先で一軒の石屋を見つけました。
そこにはポケットの素描にそっくりな風貌の主人がいて……

幽霊も怪物も登場しませんけど、じつに薄気味悪い話です。
それでいて奇妙にトボけた味わいもあり、
不条理劇の先駆のようにも解釈できます。

今回の『五本指のけだもの』では巻頭に収められ
「炎暑」という邦題がつけられていました。
訳者は横山茂雄さんです。

学生時代に出入りしていたサークルで
「いちばん怖かった小説」が話題になったことがあります。
その場にいたうちの何人かが「炎天」を挙げ、
わたしも、これを推しました。

簡潔なばかりでなく、
何か人間の抱える根源的な不安とか、
深いところへ訴えかけてくる作品なのかも。

ハーヴィーの怪奇小説には超自然が鍵を握るものが少ないです。
異常心理を扱ったサスペンスに近い作風と感じました。
ちょっと物足りなく感じたのが正直な印象。

「炎暑」以外だと掉尾に置かれた標題作が愉しめました。
ただ著者の発想が良くも悪くも合理的で、
怪奇小説としては地に足が着きすぎかも?

けだものに宿った悪意は、どこから来たものだったのでしょう。
主人公の祖先にあたる邪悪な人物では……
という推測が作中で披露されてるんだけど。
わたしには、やや興醒めに感じられてしまったんです。

いずれにせよ従来、まとまった形では読めなかった作家です。
国書刊行会さん、ありがとう。
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2024/11/15 16:33
杉浦さやか『わたしのすきなもの』祥伝社

杉浦さやかさんの
イラストエッセイを
読み終えました。

文章とイラストで
構成されています。

大切に大切に読んでいました。

杉浦さんの本は、
イラストも文章も
ほんわかとしていて、
でも芯はしっかりとしているので、
とても好きです。

どんな季節、
どんなお天気でも
まるっと楽しんでしまう
杉浦さんは、
私にはないものを
たくさん持っています。

(でも、共通点もあるのですよ。
しまむらに行くのが
ちょっとしたイベントに
なっているとかね笑)

平成21年に刊行された本なので
情報が古いところもありますが、
そんなところも
味に思えてくる杉浦マジック(?)
で、終始楽しく読めましたし、
この方はきっと、
とても可愛いおばあちゃんに
なるだろうなと思っています。

私は旅行や変化が
苦手でしかたがないので
こういう生き方は
出来ないだろうけれど、
毎日を少しずつ
楽しんで生きること、
自分からすすんで、
楽しみを見つけにいくこと。

ほんのちょっとでも、
真似していきたいです(´∀`)



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