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꙳レオナルド・ルーチェ×イヴ・カルジェロ

投稿者:うるるん


1コメお願いいたします(* ॑꒳ ॑* )



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2025/05/02 22:09
「久し、振り。怪我はもう塞がってるし、少しは動けるようになったから…うん、問題ないよ。」

2週間振りに見た彼は、顔色が冴えないように思える。教会の家族にも会えず、外にも出れないのだから仕方ない。
ただ、心が痛い。彼にこんな生活を強いることになってしまった事を申し訳なく思うと同時に、私はある問題に直面していた。
(今の状況、正直物凄く…気まずい)
理由は2週間前、私は彼の前で号泣し、みっともない姿も晒してしまったこと。つまるところ、私は彼と顔を合わせるのがうら恥ずかしいのだ。
いつも冷静さを保ち、誰にも舐められないように生きてきた。自分の感情を押し殺すことで世界はつまらなくなったが、その方が生きるのが楽だった。
けれどこの人に出会ってから、私は段々と感情を取り戻し始めている。自分でも自覚出来る程に。
そして2週間前、情緒が不安定だった私は彼の前で幼子のように号泣してしまった事も大人として恥ずかしい、と感じていた。
(顔を合わせるまでは何とも無かったのに…、感情なんて、捨てたと思ってたけれど。
 私もやっぱりただの人間なんだな。)
数十年間感情を抑えて生きてきたから、今も辛うじてこの動揺は隠せている…はずだ。彼の声を聞き、顔を見た途端に出たこの不整脈も、きっと号泣した姿を見られた事が恥ずかしいと感じているからだろう。

「っえ、あ、いや…、その……………………し、心配で」

ぐるぐると思考を巡らせていたが、『何かあった?』という彼の声で思考は強制的に途切れた。それに動揺してつい言葉が詰まってしまった事でさえ情けなくて、また恥ずかしい気持ちが増してしまう。

「全く外に出てないと聞いた。あんな事があったから、君を守るために誰かがそう指示したと聞いたけれど、
 ……人と話さず、部屋に籠ってばかりなのも良くない、だろ。
 私も少しは動いた方がいいと医者に言われたから、…よかったら裏庭に一緒に行かないか?」
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2025/02/09 00:28
ノック音が聞こえ、顔を上げる。椅子に座って本を読んでいたところだった。栞を挟み、ゆっくりと立ち上がって扉を開ける。

そこに立っていたのはやはり彼女だった。声で分かっていたが、それでも彼女に会えたことは嬉しかった。

「……久しぶり、イヴ。」

優しい声色で彼女の名前を呼んだ。あの一件から外出は禁じられてしまい、屋敷の中でさえも誰かがそばにいなければ出られなかった。イヴは怪我の完治に向けてリハビリをしていると聞いていた。イヴが付き添い人だったら嬉しかったな、なんて図々しくも思ってしまったが、口に出すことはしなかった。
やがて、俺も部屋から出ることを控えるようになった。教会のみんなに会いに行けないだけでなく、彼女にも会えない。仕方ないこととは認識していても、悲しい気持ちでいっぱいだった。

そんな中、彼女が訪れてくれたのだ。嬉しいに決まっている。

「怪我は大丈夫?…リハビリしてるって、聞いた。無理しすぎは、ダメだからな?」

これくらいの釘を刺すことくらいは許されるだろう。
それから、彼女が訪れてくれて理由が知りたかった。しばらく彼女の顔を覗き込んだ後、尋ねる。

「……何か、あった?」
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2025/01/25 17:20

私は車の中で起きた出来事について簡潔に話す。助手席に座るエドの表情は見れなかったが、彼に吐いた溜息を耳にした。好転しない状況に心労も絶えないだろう。ふと、横に目をやると青年は目を瞑り眠っている様子だった。
(昨晩、あまり眠れなかったかな。…ぐっすり眠れる訳も、無いか。)
一瞬過った昨晩の記憶。彼にとっては恐ろしい出来事できっと思い出したくも無いだろう。私自身も、昨晩の事に恐怖を感じなかったと言えば嘘になる。けれど不思議と、私は昨日の夜を思い出すと自然と穏やかな気持ちになれた。
────────────
「"酷い怪我"…? …はぁ、…ああ。必ず医者に見せる。」

レオナルド。この屋敷で一時的に匿っている男だ。そんな彼の口から俺の従姉妹であるイヴが酷い怪我をしていると告げられる。
(確かに身体の動きがぎこちなかった。何かしら怪我を負ってはいると分かっていたが…)
怪訝そうにじっと彼女に目をやると、表情にこそ出てないが明らかに焦っている雰囲気を見せた。しかも絶対に目を合わさないよう逸らしている。
(…隠そうとしていたな)
1人で抱え、解決しようとする。彼女にはそういう癖がある。今回も彼が何も言わなきゃ大きな怪我をしている事を隠し続けていただろう。
呆れた様子で溜め息を吐いた後、俺は真っ直ぐ彼の目を見て、必ず医者に見せる事を誓った。

────────────────
あれから2週間。
シュルシュルと腹部に巻かれた包帯を解く。撃たれた傷口は一先ず塞がり、完治とは言えないが何とか体も動かせるようになった。
あの日屋敷に帰宅してから直ぐに医者に連れて行かれ、更にボスであるエドからは散々お叱りを受け、挙句の果て傷口が塞がるまでは仕事も外出も禁止。ベッドで安静にしろと言われる始末。
(…レオも、外に出ていない)
組織員から聞いた話では、レオにも外出をしないよう伝えたようだ。あんな事があったのでは仕方ないが、それでもただ閉じ込められるだけの生活は心身に良くない。

「…?…、……レオ。いる?」

傷も塞がり自由に動けるようになった私が1番初めに来たのは彼の部屋の前。ノックをしようと腕を上げるが、何故か心拍数が上がっているような。ただあまり気に留めず、私は部屋をノックした後、扉越しに彼に声を掛けた。
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2025/01/07 20:04
不安ながらに車を走行させていたが、イヴが的確に指示してくれたおかげで事故無く運転できていた。しかし車の限界が来てしまったのか、エンジンが止まってしまった。見ればメーターもガソリン切れであることを示していた。
彼女の提案通り歩くために車から降りた、その時。彼女の名前を呼ぶ声が聞こえる。

「!!…っ」

彼女のもとへ駆け寄るとその声の主が目の前に居る。反射的に彼女を庇うように彼と彼女の間に盾となるように立ちふさがった。しかし相手は不思議そうな表情を見せる。自分もまた困惑するしかなかったが、彼女から彼の正体を聞かされ、敵ではないことを聞くと酷く安堵した。そのまま彼女の怪我を案じて彼女を支えながら車に乗り込む。安心できる場所に久々に居られたからだろうか。ボスがいるというのに、俺は車の中で意識を飛ばす様に眠ってしまった。

________________________________


しばらくして屋敷に到着する。ふと目が覚めて辺りを見回した。無事に屋敷に付いたんだと安堵しながら車を降りた。そして彼女が降りるところを確認すると、ボスに声を掛ける。

「イヴ、酷い怪我なんです。…俺を庇ってくれて…。応急処置はしてあるけれど、…すぐ医者に連れて行ってください。…お願いします。」

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2025/01/02 15:40
彼は予想通り私の怪我を案じてくれたが、不安げな様子の彼にこのまま任せても良いものか。運転に自信のある私に任せた方が、彼もずっと安心して過ごせるかもしれない。けれど私はこのまま彼の厚意に甘える事にした。どうしてか彼の真っ直ぐな姿がとても心強く見えたから。

「………、………駄目そう」

暫くの間私の指示で車を走らせていたが、道中車のエンジンが突然止まってしまった。だが元々ボロボロの車だったので、寧ろ此処まで走れたのが奇跡みたいなものだろう。一度ボンネットを開きエンジンを見てみたが、私ではどうにか出来そうもない様子だ。それでも中々の距離は移動出来た。此処から屋敷までなら徒歩移動でも問題無い。

「…しょうがない、車は置いていこう。此処からは徒歩で────」

「イヴ‼︎」

突然、距離の離れた場所から私の名前を呼ぶ声が聞こえる。けれど然程驚きはしなかった。あまりにも聞き慣れたその声。表情に出ることは無かったが、心内の私は安堵していた。

「──エド」

声の主はマフィア『カルジェロ』のボス…そして、私の従兄弟であるエドアルドだった。黒塗りの車から部下と降車した彼は私とレオナルドの方へ足早に向かっている。レオナルドからすれば初対面の相手だ。けれどエドも私と同じでシルバーブロンドの髪に、蒼い瞳を持つ。珍しい髪色と瞳色だから、私と彼が親族だと薄々気付いているかもしれない。

「カルジェロのボスだよ」

レオナルドが困惑の表情を浮かべていたため、ひとまず彼がボスである事のみ耳打ちしておいた。

「…ひとまず、帰りながら話を聞く。2人ともあの車に乗れ」

私とレオナルドはエドに言われた通り、黒塗りの車へ乗り込み屋敷へと戻ることになった。
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2025/01/01 16:25
彼女に言われた通りに示された車のところへ向かう。彼女に教えてもらった通りにエンジンをかけてみる。1つ目はハズレだったが、もう1つは彼女自身が助手席から慣れた手つきでエンジンをかけてみる。するとエンジンのふかす音が鳴り始め、うまくエンジンがついた。「よし!」と思わず声を上げてしまった。

すると思いもよらなかった質問に動揺してしまった。

「え?!え、え、う…運転はそんな経験ない… 運転経験も2回…?くらいだから…」

怖気付くように言葉を紡ぐ。正直自信がない、これでもし事故にあって彼女を守れなかったら、と思ったゾッとするくらいだ。しかし彼女は怪我をしている。そんな彼女に運転させて辛い思いはさせたくない。

「でも!でも、そんな怪我で運転なんて無理だ!危険だし、傷口が開いたらどうするんだ?」

自信はないけれど、事故は起こさず多少はできた記憶がある。その微かな記憶を自信に紐づけて、俺は運転席に乗り込んだ。彼女がエンジンをつけてくれているから、あとはサイドブレーキをおろしてアクセルを踏むだけだ。

「君は道案内だけ頼む。もし具合が悪くなったりしたらすぐ止まるから、絶対教えてくれ。」
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2024/12/31 20:14
彼の背から感じる体温が私を暖める。物理的に身体が温まるだけでは無く、心までも。
(このフワフワした気持ちは一体何なの…)
それは酷く心地良くて、昨夜もこのフワフワした気持ちのおかげですっかり熟睡してしまった。私が今、レナオルドを友好的に感じているのは自分でも理解している。でも、このフワフワは友達に感じる感情なのだろうか?…友達をまともに作ったことのない私には理解出来そうもない。暖かくて、柔らかくて、心地いい。ポカポカ太陽の下で昼寝でもしている気分になる。
このフワフワが一体どんな名前を持つ感情なのか。それを気にならないと言えば嘘だが、今のイヴにとってはそれほど重要な疑問では無かった。ただこの暖かさに触れていられるのなら、この感情の名前などどうでも良かったのだ。
裏路地に着くと、何台か車が乗り捨てられている光景が広がる。パッと見ただけでも明らかに駄目そうな車が多かったが、数台は可能性があるように見える。

「っ、…レオ。あれと、あとそこの車。多分、動くはず。」

目星を付けた車を指差すため腕を上げた。その動作でさえ傷に僅かに響く。反射的に表情を歪めたが、背負われている今なら彼に気付かれる事は無い。
私が指を刺した車を確認すると、1台は一度はエンジンが付いたものの直ぐにエンジンが切れてしまった。最後に確認したもう1台を確認すると、こちらも無事にエンジンが付く。

「…うん、これなら動きそう。これに乗っていこうか。
 ところで…レオ、君運転の経験は?」

私自身は運転経験もあるし、この車も問題無く運転出来るだろう。怪我はしているが、痛みを耐えれば運転くらい可能だ。ただレオが怪我人の私に運転をさせてくれるかが懸念点だ。

「私なら運転出来る。君が運転出来なかったら私に任せてくれれば良い」

それは駄目だ。とキッパリ断られる未来が見えつつも私の意見を伝えてみることにした。
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2024/12/31 14:48
「ん?」

ふと気がつけば彼女が俺の服の裾を掴んでいた。いつもの彼女らしく見えないのは、きっと昨夜の彼女を見たからだろうか。普通の女の子なんだ。黒服を着ていたって、拳銃を握っていたって、マフィアだからって。この子を、守らないと。

「分かった。昨日ここに来る前に、いくつか廃車を見かけたんだ。…どれか動くものがないか、探そうか。」

そう言って彼女をおんぶして担ぐ。本来なら腹部の傷に触らないようにお姫様抱っこで抱えたかったが、流石に周りに見られてしまう。注目の的になりかねない。それは互いに危険で、昨日仕留めしれなかったと敵に見つかってしまう可能性があるからだ。彼女をしっかりおぶると、ゆっくり歩き出した。

「…俺の背中で申し訳ないけど、もう少しだけ辛抱してて、な?」



しばらくすれば、大通りの裏路地に差し掛かる。いくつか車が無造作に乗り捨てられている。動くかどうかのわからないような車達だが、当てがないよりはマシかもしれない。

「一個ずつ見ていこう、…動くのがあったら、ラッキーだな」
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2024/12/29 18:40
私とレオは昨日、屋敷に連絡もしないままこの隠れ家へと逃げ込むことなった。つまり、屋敷に残っている者なら当然私たちに何か不測の事態が起きたのだと察しているはず。従兄弟であり今はマフィアのボスであるエドも…賢い子だから、きっと状況を理解して今頃私とレオを探しているに違いない。この家を出て、可能であれば彼の言う通り車を拾えたらかなり移動が楽になる。もし徒歩移動だとしても、街中を探し回っている仲間にいずれ見つけてもらえるだろう。こんな明るい時間帯だ。きっと奴らもそうそう手出しはしない。
彼の視界に入らない場所で服を着替えて戻ると、彼は外の様子を窺っているようだった。これから屋敷へと戻るんだと、改めて実感が湧いた。

「───、?」

(…あれ、なんで…)
あまりにも無意識な状態で、私は彼着ているシャツの裾を握っていた。彼は困惑したような表情を見せたが、自分自身も同じくこの状況に驚いていた。どうして彼のシャツなんか突然握ってしまったんだろう。まるで縋る子供のようだ。

「…出来る限り、車を探そう。移動も楽になる。
 仲間も恐らく私たちを探しているだろうから、きっと安全に屋敷まで戻れるはずだ」

パッと手からシャツを離し、私はまるで何事も無かったかのように振る舞った。

(本当は、分かってる。私はこの"平穏"が恋しいんだ)

たった数時間だとしても、こんなにも穏やかな気持ちでいられたのは久しぶりだった。だからきっと、この家から出てしまうのが少し寂しくて、恋しくなったんだろう。

「…担いでもらうのは…申し訳ないけれど、頼んで、良いかな」

家を出る準備も万端。少し言葉を詰まらせながらも担いでもらうよう彼に言葉を掛ける。
この家で過ごした時間は短かったが、私には大きな影響を与えてくれた。今までは守るべき市民だと線を引いてきたこの青年を、レオを、友人のように感じる自分が居た。
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2024/12/08 23:39
俺の作ったスープを飲んで、美味しいと言って笑ってくれた彼女の笑顔につられ、俺も笑顔を溢した。本当の彼女はこんな風に笑うんだなと嬉しくなった。2人で一緒にスープを食べ終わると俺は彼女の皿を受け取り、片付けを始めた。彼女に動いてもらう必要はない、これくらいしかできないが、彼女の役に少しでも立ちたいのだった。

「わかった。すぐに出れる準備するな。……どこかで車を拾えないかな…、あ、無理して歩かなくていいからな?傷、開くかもしれないから。」

俺が担ぐよ、と言葉を添えた。
彼女が断ろうとも俺は彼女に無理をさせたくない。応急処置を施し、傷からの出血も落ち着いているからと言って油断はできないからだ。傷が開けば致命傷になりかねない。彼女を安全に屋敷まで届けるために、今度は俺が頑張らないと。

最低限乾いた服を再度着て、一旦扉を少し開けて外を見つめた。昨日の雨が嘘のように晴れており、周りにも怪しい影は見当たらなかった。

「外は大丈夫そうだ。」
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2024/11/17 22:22
どうやら朝食を作ってくれていたらしい。自分も準備を手伝おうと動き出そうとしたが彼にそれを止められる。その言葉に甘えて準備は彼に任せきりになってしまった。
ベッド脇まで運んでもらい、渡されたスープを受け取った。何だろう、懐かしい気持ちだ。まだ私がマフィアでは無かった頃の気持ち。母との思い出は無いけれど、父は優しい人だった。熱を出した時は1日中付き添ってくれるような人だった。…マフィアになってからは、無意識に思い出さないようにしていたのかな。自分が弱くなってしまう気がして。

「……うん、美味しい。とっても。」

勧められた後、私もスープを口へ運ぶ。そして柔らかな微笑みを彼へ向けた。今までできっと一番自然な笑顔。
この隠れ家を出るまではなりたい私で居てもいいと、彼が思わせてくれた。
今この時はかりそめの日常だけれど、私はそれでも良いんだ。この瞬間だけで十分救われている。
マイフィアになってからこんなに穏やかな気持ちになれたのは初めてだったから。
私は続けてそのスープを口に運ぶ。スープが身体の内からじんわりと私を温める。身体だけではなく、まるで心も暖めてくれている気がした。

「ごちそうさま。片付けまでありがとう。
 …じゃぁ、そろそろ家を出る準備をしよう」

食事が終わった後も手伝いをと思ったが案の定また彼にそれを止められてしまう。私はまたもや彼の言葉に甘え、片付けの最終は帰りのルートを頭の中でひたすら模索していた。
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2024/11/16 00:36
鍋を煮立たせ、コトコトと音を鳴らしながらスープを温めていく。その時、背後から物音がして後ろを振り返る。彼女が目を覚ましたようだ。「おはよう」と優しく声を掛けた。

「ちょうどよかった。備蓄で作ってみたんだ。…限られた食材と調味料しかないから、味は保証できないけど、食べれるかい?…あ!そのままでいいよ、傷に障るだろ?」

此方の方へ動き出そうとしている彼女を見て、咄嗟に声を掛ける。それから戸棚から深めの皿を2つ取り出し、軽くゆすいでからスープを盛りつけた。2つ分盛り付けを終えると、彼女のベッド脇まで運んだ。スプーンとスープを彼女に渡すと、まずはスプーンでひと掬い、自分で口にして見せる。無論、毒なんて入れていないが、出会った頃に彼女がこうやって食べれるところを見せてくれたことと同じようにやって見せた。

「んーー…まぁまぁ、かな?」

苦笑いを浮かべながら彼女の方へ笑いかける。とっても美味しいというわけではないのは、自分でも分かっている。毎日マフィアからあんな優しくて美味しい料理を頂いているんだ。だんだん俺の舌も肥えてきたのだろうか。こんな浅はかな味わいじゃ満足できなくなっている。

「よかったら、食べてみて?…一応ね、君が元気になる様にって、まじないを込めてみたんだ。」

冗談を言うようにはにかんで見せた。
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2024/11/10 01:16
とても不思議な夢を見た気がする。女性らしい格好をした私が教会の子供たちと遊んでた。走り回ったり、花冠を作ったり、一緒に昼寝をしたり。子供たちも私もいっぱいの笑顔を咲かせている。とても幸せそうだった。そして隣には…青年の、レオの姿があった。子供たちだけではなく私にもその手を伸ばしてくれる。夢の中の私はその手を取っても良いものかと迷っていたけれど、彼が私の手を握って引いてくれたのだ。とても、とても不思議で暖かい夢だった。

「…?…っ?!」

瞼がゆっくりと開く。視界は明るく、朝が来たとぼんやりと認識出来た。私はぐっすり眠ってしまったようだが、彼もよく眠れただろうか…とソファの方へ視線を向けたがそこに青年の姿は無い。一気に顔が青ざめ、慌てて身体を起こす。痛みに一瞬身体が固まるが直ぐにベッドから降りたところ、台所の方から音が聞こえた。

「‼︎…、…おはよう」

慌てて足を向けると、そこには調理をしている青年の姿があった。私が寝ている間に攫われたかも、とつい早とちりをしてしまったらしい。彼の身が無事だった事にホッと息を吐く。青ざめていた顔色も少しずつ正常な顔色へと戻りつつあった。
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2024/10/31 23:17
彼女に愛称で名前を呼んでもらい、心がフワッと温かく舞い上がる。少しだけかもしれないが、彼女のことを知れて、彼女が心を開いてくれたような気がした。俺の名前を呼んだあとはストンと眠りについた。安心したような表情に、俺も安心する。

「………おやすみ、イヴ。」

そう呟くように言葉を吐くと、俺にも睡魔がやって来る。この家に辿り着くまで思い出したくもないような出来事が重なってしまった。自分自身が思っているよりも相当気を張っていたのだろう、強い睡魔に襲われた。ソファの方へ戻ろうとしたが辿り着く前に身体と瞳が限界を迎えた。
そして俺はソファに戻ることができないまま、彼女の隣で横になり、そのまま眠ってしまった。

_________________________

それから数時間後、頬に当たった柔らかい陽の光によって目が覚める。どうやら雨は上がり、朝日がゆっくりと昇ってきているようだ。はっと意識を取り戻し、彼女を見る。安心した様子で眠っている。傷口からの出血も収まっているようだ。俺は起き上がり、そっとベッドから降りた。

向かったところは台所。限られた食材しかないが、彼女の身体を温められそうなスープは作れそうだ。教会の頃はよく作っていたが、最近は包丁さえも握っていない。ただ長年の感覚が身体にしみこんでいるのか、手際よく料理を始めていた。
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2024/10/28 13:42
「私は平気─っ、ちょ…」

この人の事だからきっと一度はNOと返事をされる事くらい分かっていた。でもまさかこういう形で強行されるとは…。突然抱き上げられて、彼はベッドの方まで向かい始める。多少強引だったけれど、傷に響かないように気を遣ってくれる彼の動作に優しさを感じられて、それが何だかくすぐったい。結局私は何も言えなくなって、そのまま彼に運ばれてしまった。そうしてベッドに下された訳だが、彼は動かずじっと私を見つめている。私からすると目の前には天井と彼の顔がある状況。側から見れば押し倒されている体制だが、私は不思議とこの状況で危機感を覚える事は無く、寧ろ安心していた。彼は酷い事をしない人だと分かっているから。
内に秘めた本音を吐いたおかげか、彼との距離は近付いているような気がしていた。でもそれは私の感覚だけではなくて、彼も同じなのかもしれない。私を"イヴ"と呼び、自分も愛称で呼んで欲しいと言ってくれる。

「ありがとう、レオ…」

こくりと小さく頷き、私は彼を"レオ"と呼んだ。彼の笑顔に釣られてつい私まで表情が緩む。でも彼の前ではそれでも良いと思えた。誰かが側に居てこんなに安心出来たのはいつ振りだろう。フワフワとした心地のまま、睡魔によって自然と瞼が落ちる。私はそのまま沈み込むように眠り、静かに寝息を立てた。
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2024/10/25 22:52
声を上げて泣く彼女は、年相応…いやそれ以上に子供っぽく見えてしまった。まるで頼るように俺の手を握り締める彼女を、すごく守りたくなった。かといって、何もしてやれることはなかった。ただただ涙を流す彼女のそばにいることしかできなかった。
でも良かった。彼女が少しでも吐き出してくれたことが、彼女ほどではないが、俺の心も前よりスッと軽く感じる。しばらくすると彼女は謝ってきたため、首を左右に振って否定する。そして次に聞こえた彼女の言葉に目を丸くする。…初めて、彼女から名前を呼んでもらえた。それがあまりにも嬉しくて、少しくすぐったくて、ニコッと微笑み返してしまった。

「……ダメ。君は怪我をしてるんだから、こんなところで寝かせない。」

そう言って包まっていた毛布ごと、彼女を抱き上げる。なるべく傷に響かないようにゆっくり持ち上げて、揺れを控えながらベッドへと連れていく。そしてゆっくり下ろし、そのまま動かず彼女を見つめた。傍から見れば彼女を押し倒したような姿勢になっている。

「それから、レオって呼んでほしいな。…イヴ。」

そう言って微笑みかけた。
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2024/10/19 22:43
あぁ駄目だ。全然涙が止まらない。私は子供のように顔を歪めて泣いていた。今まで私の中に溜め込んできた何かが破裂して、涙として溢れ出ている。この人の優しい声色と暖かい手のひらが、凍りついた私の心をじんわり溶かしてくれているんだろう。

「…ん、うんっ…!」

声が詰まって思うように言葉を出せない。今の私には"うん"と返事をするので精一杯だった。戦いたくない、傷つけなくない。可愛いものだって本当は大好きなの。私は頬にある彼の手に自身の手も添え重ねぎゅっと彼の手を握った。私を"ただの女の子"として受け止めれくれる彼に縋るように。部屋の中には抑えきれずに溢れた私の泣き声と強い雨音が響いていた。

───────────────

「…ごめんなさい、みっともなく泣いてしまって」

暫く涙を流し続けてようやく気持ちが落ち着いた時、私は手をすっと離し、顔を拭いながらはぽつりぽつりと彼に話し始めた。こんなに泣いたのはいつ振りだろうか?もやは記憶にも無いレベルだ。ただこんなに泣いたからは、妙にスッキリとした気持ちだ。押さえ込んでいた感情を出すことでこんなにも胸が軽くなるとは思わなかった。泣いたからと言って、自身を胸を内を吐き出したからと言って、私がマフィアである現状が変化することは無い。明日からはまた"マフィアのイヴ"に戻るだけ。

「…ありがとう、レオナルド」

何だか自分の口から初めて彼の名前を呼んだ気がする。私と彼の関係は普通では無いけれど、今この瞬間は"ただのイヴ"でいられるような気がした。

散々泣いて疲れたからか一気に力が抜けたからなのか、突然強い睡魔が私を襲った。ふぁ、と小さく欠伸を漏らしたタイミングで、先ほど私を「ベッドまで運ぶ」と彼が言ったことを思い出した。

「私、…このままこのソファで寝るから、あそこのベッドは君が使って。」

態々移動させるのも申し訳ない。それに私はこのソファでも十分だ。そう思い彼にベッドで寝るように勧めることにした。
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2024/10/19 00:02
彼女の言葉が重く心にのしかかった。俺はマフィアのことなんて全く知らないし、彼女がこれまでどんな生活を送ってきたかなんて、想像もできない。大変で辛かった、なんて安易な言葉で表せない程の壮絶な人生だったに違いない。彼女が零した言葉を聞き終え、彼女を見る。…声色から分かっていたが、涙を流していた。

「……いっぱい、泣いて良いよ。」

そう言いながら、彼女の頬から流れている涙を人差し指で救うように拭った。それから彼女の頬を覆うように手のひらを当てて頬を撫でた。

「……戦いたくないよね、傷つけたくないよね。…君は優しい人だから、…こんなこと、本当はしたくないよね。」

そう言葉を零しているうちに、俺まで涙が零れそうになったが、今は我慢した。
彼女の瞳を見つめながら優しいトーンで言葉を続ける。

「イヴさんってさ、本当は可愛らしいものとか好きでしょ?…分かりやすいくらい顔に出てた。いつもは我慢しているんだなって思ってたけど、…女の子はすぐ顔に出る、…イヴさんもその一人だよ。俺からしたら、マフィアだからと我慢している姿も、我慢できずに笑顔を零している姿も、…可愛らしい女の子だなって思ってる。」
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2024/10/14 19:28
そう。マフィアは怖くて恐ろしい。マフィアに所属してる私自身も、マフィアは怖いと思う。子供の頃、父の事は好きだったけれど、父の所属しているマフィアの存在は好きとは言えなかった。父がマフィアの抗争で亡くなったことを知った時は、マフィアの存在を恨んだ。初めて銃を手に取って母を殺した時は酷く身体が震えた。私も"普通"では無いんだと思った。ならせめて父が大切にしていたこのマフィアと、弟のような存在である彼を守ろる存在で居ようと15の頃に決めた。それで良いと思っていた。周囲からも突き放される方が楽だった。…でもこの人は助けたのが私で良かった、なんて言ってくれる。私のことを突き放さないで居てくれる。この人の優しさに触れているとどうしようもなく泣きたい気持ちになるのは何でだろう。苦しくなるのはどうしてだろう。

「私は感謝されるような立場じゃない。…君が想像する以上に人を、傷付けて生きてきた」

感謝されて嬉しいはずなのに、私はまた青年を突き放すような言葉を放つ。

「でも」

きっとこの先は口にしてはいけない。"マフィアで居る"という自分の覚悟が緩んでしまう気がしたから。…頭の中ではそう分かっている。だが今の私は彼になら言ってしまっても良いんじゃないかと思えるくらい、この青年に心を許してしまっていた。

「……でも、本当はこの仕事嫌いなんだ。できるなら誰も傷付けたくない。戦いたくもない。
 理由があってマフィアになったけど、本当は"普通"で居たかった。
 なのに、…君と居ると何だか自分が普通になれた気がした。
 子供達と遊んだり、笑ったり、マーケットに行ったり、誰かと朝食を食べたり…嬉しかった、んだ」

心ではずっと思い続けてきた言葉をようやく口に出したからだろうか。涙腺が緩み、静かに頬に涙粒が伝った。
普通で居たかった。でも沢山人を傷付け、殺してきた私にそれが許される筈もない。だから彼と一緒に居ると罪悪感に苛まれて苦しかったんだ。
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2024/10/12 08:35
そんな小さい時からマフィアにいたなんて。そんな言葉を返すことはできなかった。15歳なんて遊びたい盛りだろうし、女の子としてもオシャレや可愛いものに夢中になる時期だろう。教会に同じ年頃の女の子がいたときはそんな感じだった。しかしそんな頃にはもう、彼女は銃の使い方を覚え、人の倒し方を身につけていたのだろうか。平気で人の死体を見るような経験もいっぱいしてきたのだろう。酷い傷にも狼狽えることなく対処する姿も見て、マーケットで見た彼女の悲しそうな表情が思い起こされた。

そんな時、彼女から質問を返される。驚きを隠さずにいたが、ゆっくりと口を開いた。

「…怖くて恐ろしい人たち、関わりは避けた方がいいと…ずっとそう思ってたよ。」

正直に言っていいと言われた言葉に素直に答える。ここで取り繕う必要はない、彼女に嘘はつきたくなかった。

「でも組織の人たちや、…君と話をして。意外と怖い人達じゃないかも、って思うことが増えたんだ。まあ見た目は怖い人達ばかりだけど、怯えて塞ぎ込んでた俺と、一緒にご飯を食べてくれたり、話し相手になってくれたりさ。…それに、君は教会の子供達とも遊んでくれた。俺のことを、守ってくれた。」

一呼吸置いてから彼女を見た。

「…だからあの日、図々しいけど…助けてくれたのがイヴさんで良かったと思ってる。」

これはマフィア関係ないかってハハっと笑ってみせた
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2024/10/12 00:30
「…15の時。8年前から」

ふと彼から質問が投げ掛けられる。何か気になっている事があるようだったら、彼に伝えると決めていたので私は素直に答えた。改めて口に出すと『8年も居るのか』と自分でもびっくりする。体感はまだ2〜3年の気分だが、マフィアになってからは時の流れがとても早く感じたからだろう。

「じゃぁ次は私。……マフィアのこと、どう思う?」

「正直に言っていい」と言葉を付け加え、今度は私から彼に問いかけてみた。私も気になっていたことだったから。マフィアという存在はこの街で認められているものの、関わりたいと思う人はそうそう居ない。彼自身も多分私たちとは関わりたく無かっただろう。だから"嫌い"だと、"本当は関わりたくない"と言われる覚悟もある上でこの質問を選んだ。どれだけこの街のために何かをしたとしても所詮マフィアだから、汚れ仕事ばかりしているのだから、嫌われてしまうのは仕方のない事だと私は思っている。
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2024/10/08 23:21
沈黙を破ったのは彼女からの問いで、俺はすぐに耳を傾けた。先ほど襲撃してきたのは別のマフィア「ラベンツァーノ」らしい。その名前を知らないはずがなかった。この街を統制する大組織だ。彼らに狙われるようなことをした覚えがなさ過ぎて困惑する。彼女も未だに俺が狙われている理由が分からないのだろう。他の人達も口々にそう喋っていたのを聞いたことがあったからだ。

「…ごめん、彼らに狙われるようなことをした記憶が、俺には全くないんだ。…耐えて欲しいなんて、俺のせいで、君に辛い思いをさせてしまっている。なのに、俺にはどうしようもできなくて、君たちを頼ることしかないんだ。…だから、俺の方こそ…」

彼女が怪我をしてしまったのも、痛い思いをさせてしまったのも俺のせいだ。俺の方こそ、耐えて欲しいと言いたくなるが、それ以上言葉を紡ぐことはできなかった。より一層、自分が何もできないことを痛感させられてしまうのを避けたくて。

「…ずっと気になってたんだけどさ、君はいつからこの組織に居るんだ?」

自分の気を紛らわせようと、別の話を持ち出す。それはずっと彼女に聞いてみたかった話の一つだった。彼女のことを何も知らないからこそ、一つ一つ知っていきたいと思った。
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2024/10/05 20:09
治療の終わり掛け、青年が私に毛布を手渡す。怪我をしても私はいつも1人で耐えてきたから、こういうのを優しさって言うんだろうか。彼の行動を予想だにしなかったため、つい無言でそれを受け取ってしまったが、私の心はポワンと和やかな気持ちだった。私は一度身体をゆっくり休めようと、上半身を毛布で覆いながら再びソファに横になった。

───ザアァ、と強い雨音だけが耳に入る。私と彼は特に喋ることなく数十分の間、無言のままだった。脇腹の血は恐らく止まったが、痛みが腹部から全身へジンジンと響く。まるで身体全部が脈打っているようだ。此処までの怪我は久しいので、痛みへの耐性が弱まっているのかもしれない。

「ねぇ、…少し、このまま…話さない?
 喋ってた方が、楽になれそうだから…」

雨音の中に声が混じる。勿論声を掛けた先は側に座る青年へ。私は視線を天井に向けたまま口を開いた。
特別何か話たい事があるわけでは無い。けれど会話することでこの痛みも少しは紛れるような気がして。

「…さっきの襲ってきたのは、ラベンツァーノの連中、だった」

やっぱり彼はラベンツァーノから狙われている。だが彼が狙われる理由が本当に見当たらないのが不思議な点だ。連中がそこまでして彼を狙う理由は一体何なのだろうか。

「絶対に、君を家に帰すから…もう少し、耐えてほしい」

1日も早くあの教会へ、平和だった日常へ彼を戻す。それが私の使命だ。私のようにこの世界に足を踏み入れてはいけない。こんな優しい人を、これ以上巻き込ませてはいけない。そして家に帰した後は私も元通りの日常へ戻るんだ。この人の優しさに触れると、自分が弱くなってしまう気がしたから。
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2024/10/04 13:34
彼女に言われた通り、薬箱を探して持ってくる。夥しい血の量に彼女が死んでしまわないか不安になってしまう。そんな気持ちでいっぱいにも関わらず、彼女は冷静に自分の怪我を対処していた。こういう場面をたくさん経験しているのだろうか。自分と年の離れていないような女性が。その事実に深く心が痛む。

「あ!!す、すいません…」

彼女が着替えるから後ろを向いていて欲しいと言われ、ハッと我に帰った。それから彼女の言われた通りに後ろを向く。そのまま彼女に示してもらった棚まで向かうと毛布を一つ手に取った。彼女に助けてもらってばっかりで、指示をもらって動くことしかできない自分に申し訳なさを感じる。かと言って、彼女の役に立てることなんて何もできなくて、落胆するばかりだ。

俺は棚に置いてあった毛布を全部取り出し、彼女のところへ持ってくる。もちろん彼女の体は見ないようにしながら、彼女に毛布を渡した。

「服、そのまま着ないでこれ使おう。…濡れたままじゃ、風邪引くだろ?少し楽になったらベットまで運ぶ。…酷い怪我なんだ。君こそしっかり休んでくれ。」

そういうと彼女方を見ないようにしながら、まるで彼女を守る狛犬かのようにソファの近くに座り込んだ。
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2024/09/28 20:14
暫く走ったあと、徐々に脇腹の痛みを強く感じ始めていた。先程は興奮状態でアドレナリンも出ていたため、痛覚が麻痺していたが、もう時間も経過してしまい痛みが如実に現れている。血も流し続けて貧血になり始めているのかやや視界がぼんやりとしていた。そんな自分を見かねたのか青年は私を抱え、方向を指示してほしいと言った。『絶対、大丈夫だから』という言葉が不思議と私の中にストンと落ちて、彼になら任せて大丈夫だと思えた。そうして私は向かうべき方へ指を差し、青年は足を進めた。
向かった先は小さな民家。うちの組織で使っている隠れ家の1つだ。こういう時に逃げ込む用としても使えるように薬品は揃っており、食料も少しだが置いてある。今夜は此処で過ごし、明日屋敷に戻るのが得策だろう。
彼は私をソファに寝かせ圧迫止血を試みている。まずは血を止める事が先決だと考えていたためとても有り難かった。

「っぃ!…だ、大丈夫、そのまま押さえてて…」

痛みでつい声が漏れるが、彼にはそのまま続けるように促した。そうして暫くして、血がかなり止まり始めている事が分かる。私は彼に薬箱のある場所を伝え、それを取ってもらうように頼んだ。塗り薬の止血剤、ガーゼと包帯もある。血もかなり落ち着いているし、薬を塗ってからガーゼで暫く押さえ、包帯で巻いておけば一先ず応急処置としては問題無いだろう。

「…色々、疲れたでしょう。もう休んでて大丈夫。
 服も、…駄目にしてごめんなさい。あの棚に毛布があるから、寒かったらそれ使って。」

上半身を軽く起こし、彼から薬箱を受け取った際そう伝えた。私はこういった状況に慣れているが、彼にとってはショックな出来事ばかりだっただろう。

「……あと、服脱いで包帯巻くから…少しの間あっちの方向いてくれると助かる。」

私の言葉を聞き、指差した方向へきちんと青年は顔を向けてくれる。本当に素直で良い人だな、なんて心の中で思いながら私は上半身の服を脱ぎ、怪我の治療を初めた。
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2024/09/15 23:22
彼女に言われた通り、車の中で低い姿勢を保っていた。その間に聞こえる何発かの銃声。雨音に紛れているとはいえ、その音ははっきりと聞こえた。銃撃戦が繰り広げられているのだ、彼女は無事だろうかと少し姿勢を起こして外を見ようとしたとき、ドタバタと雑な足音が聞こえてきて車の扉が開く。そこにいたのは彼女だった。しかし、彼女の頬に滲み出ている血と、脇腹に大きく染みている血の色に息を呑む。それでも彼女は気に留めていないように俺に指示をする。
すぐに外に出てきて彼女が進む方向へ一緒に走っていった。


しばらくすると後ろから聞こえてきた銃声は消え、追手から逃れられたと認識する。一緒に出て行った運転手がいないということは…。嫌な想像をしてしまった。その時、彼女の足が止まる。顔が青白くなっており、足元もふらついている。重症に違いない、きっと弾が当たってしまったんだ。
俺は彼女を抱きかかえると揺れを最小限にしながら小走りで道を走った。

「…方向だけ!指差しててほしい。…絶対、大丈夫だから。」

彼女が指さしてくれる方向へ走っていき、やがて小さな民家に辿り着く。ここで大丈夫なのだろうか。彼女の指さす民家のドアを開けると中はこじんまりとした一室となっていた。ベッドやソファなどもある。俺はすぐに彼女をソファに寝かせた。濡れたままベッドに寝かせるよりかは一度ソファの方がよいだろう。それから着ていた服を脱ぎ、彼女の患部に強く押し当て、止血を試みた。
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2024/09/14 20:41
十中八九彼を狙った者の仕業だと、頭の中で瞬時に理解した。パンクした車じゃ逃げれない。雨の日じゃ痕跡も証拠も残りにくい。もし此処で青年を攫われてしまえば取り返す事はかなり困難するだろう。今此処で出来る事は、戦って彼を守る事だけだ。

「…ふぅ、…大丈夫。そのままの姿勢で此処にいて。」

軽く深呼吸をし、ジャケットの下に携えていた拳銃を取り出す。そして青年の肩にポン、と軽く手を置き言葉を伝えた。その後運転席の彼にアイコンタクトを取り、外の音に警戒しつつハンドサインを送り、2人で一斉に車の外へ飛び出した。視界に捉えたのは細身の男1人。ガタイのいい大男が1人。かなり奥の方には傘をさしている赤い服を身に纏った女性の姿。女性に傘のせいで顔は見えない。ただそんな女性に気を取られている暇はない。刺客と思われる彼らと同じタミングで銃を構え、さらに同タイミングで雨の音に混じりながら鈍い銃声が辺りに鳴り響くいた。
そしてバタン、と倒れる音が2つする。…1人は運転席にいたうちの構成員だ。もう1人は私が銃口を向けた大男。細身な男と私だけがまだこの場に立ち残っている。後は細身の男を倒せば問題ない。…だが、そう簡単な話でもないらしい。

「っクソ…!」

今は倒れている大男だが、倒れる前の奴に左脇腹を撃ち抜かれた。鈍いハンマーで殴れたような激痛に襲われ、どうする事も出来ず姿勢がふらつく。チャンスだと思ったのか、細身の男が銃口を向けてきた。ただ此処でやられる訳にはいかない。それに、拳銃は私が1番得意な武器だ。私もふらつく体勢のまま銃口を奴に向ける。お互い銃声を響かせた結果、相手の弾は幸い私の頬を掠めた程度だった。そして私の弾は相手の足首を撃ち抜いていており、男はその場に膝をついた。
(っ今しかない‼︎)

「っ逃げよう!!」

この近くに行く宛があるのだ。まずは安全な所で身を潜めるべきだと考え、車の中にいる青年にそう伝え、2人で走り移動を始めた。脇腹の痛みは尋常では無いが、銃で撃たれるのは初めてじゃない。細身の男は足が動かせず追いかけてこられないようだが、ムキになって銃声を何度も何度も響かせるものの、それが私たちに当たることはなかった。
幸い雨のおかげで痕跡は辿りにくい。私と彼は大雨の中を必死に走り抜けていった。
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2024/09/12 22:54
確かにひどい雨だった。そのせいでいつもだったらもう少し明るい時間帯なのに、うんと暗くて気持ちまでどんよりしてしまう。まるで、早く帰れと急かすような雨音に聞こえた…その時だった。

「うわぁっ!!!」

雨音よりも甲高い銃声音が聞こえる。それと同時に車に大きな衝撃を受ける。ハンドルの利かなくなったように揺れ動きながら、車は何とか停止した。

「な、何事ですか?!」

突然の出来事に狼狽える。それは運転手も同じようで、どうやら車のタイヤをパンクさせられてしまったらしい。迫り寄る雨音に紛れた革靴の音に恐怖を感じていく。俺はすぐに姿勢を低くし、頭を押さえた。そしてなるべく後ろの窓ガラスに姿が映らないように後部座席で身体を小さくさせた。

「ど、どうしよう…!い、一体何が?!」

すぐにドアを開けて逃げ去りたい気持ちだった。ただ、前に彼女に「外出中、危険なことが起こったら私から離れないで」と言われていたため、ドアを開けることなく彼女の約束通りに動かないでいた。銃なんて持っていないし戦えるほどの格闘技もない。彼女に頼るしかない惨めな姿で申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
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2024/09/11 22:05
青年の表情を見て私は心を咎める。教会の子供たちも、シスターにも。今日は前より長く此処に居て、少し思った事がある。多分私は思っているよりも子供が好きらしい。コロコロと表情を変える姿、素直で無垢な姿は愛らしい。何を考えているのか分からない…予測不可能な点は苦手ではあるが、それを補う程子供たちを愛しいと思えた。
(…だからもう、この教会には来れない。)
マフィアの人間である私にとっては、大切なものが全て弱点となる。ここの人を全員守り切れれば問題無い。でも私には守り切れる自信が無かったのだ。カルジェロとこの子達を天秤に掛けられた時、私はきっとカルジェロを取るだろう。亡くなった父が心から大切にしていたから、私もそれを守りたい。今までもそうやってこの場所で生きてきたから。それに私と関わっていてもこの子達に利点なんか無い。マフィアと親密に関わるべきでは無いのだ。青年がこの場所に帰れるようになって、私も他の構成員も此処に訪れなくなれば自然に忘れていくだろう。

扉を開けると、まだ数分しか経っていないのにさらに雨が強まっているようだった。予め呼んでおいた迎えの車に私と青年は乗り込んだ。そして車が走り出して少し経った頃だろうか。

「いやぁ、すごい雨ですね!こんなに降る事そうそう無いのでびっくりですよね〜」

運転席にいる構成員が私と青年にそう声を掛ける。雨音が大きい為か彼も声を張って喋っているようだった。そして彼が言葉を言い終えたその時だった。後方から大きな雨音に紛れてバンッと鈍い音がする。途端に車体がぐるんと大きくスリップした。キーッ‼︎と急ブレーキが掛かり何とか車は事故をせず止まったものの、運転席の男が「やられました‼︎パンクさせられた‼︎」と焦った様子で声を荒げていた。
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2024/09/10 23:26
時間を忘れるようにたくさん子供たちと遊んでいたが、だんだん外の雨音が大きく聞こえ始めていた。最初からどんよりとした曇り空だったが、まさかこんなにひどい雨になるとは思っていなかった。
その束の間、稲光を走らせながら雷がゴロゴロと音を鳴らす。まだ光ってから音が鳴るまで時差がある。時期にここまで雷雲も近づいてきそうだ。

「う、うん……そう、だね」

彼女からそろそろ帰ろうと声を掛けられ、それに同意するしかなかった。「レオ!行っちゃうのやだ!!」「泊ってって欲しい!!」と服の裾を掴んで懇願する子供たちを宥めることしかできない。それは彼女も同様で、「もう少しいて欲しい」と縋る女の子の姿もある。彼女の困った表情も見兼ねて、子供たち全員に聞こえるような声で声を掛けた。

「また必ず来るから!その時は、…今日よりもいっぱい皆と居れるようにするよ!…ほら、今日は天気が悪かったしさ、次は晴れてるときに!…庭でピクニックでもしようか!」

あまり遠出ができない分、よく庭にシートを敷いて皆でサンドウィッチやスープ、フルーツなどを食べたりしていた。屋内で食べるのとはまた別の心地よさと特別感がある。子供たちも皆大好きなイベントだった。次来るときは自分が料理でもして子供たちに振る舞おう。その時、彼女も居てくれたら嬉しいな、なんて。

「……行こっか。」

少し名残惜しそうに眉を下げながら彼女に声を掛けた。
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2024/09/08 17:42
ガチャリと扉を開けて部屋に入る。真っ先に目に付くのは『お帰り!』と言葉を掛けてくれる青年の顔だった。だが直ぐに視線は足元へと移る。教会の子供達が数人私の方へ近付いて来たからだ。子供というのはやっぱりよく分からない。私よりも彼と遊ぶ方がきっと楽しいだろうに。

「…私を? …………、そう。
 そうだね、その話もまた帰りにするよ」

青年からこの子供たちが私を待っていたんだと聞かされて、私は目をぱちくりとさせやや驚いた表情を見せた。
花冠がそんなに気に入ったのかな。子供だから好奇心旺盛なんだろうか。と少し考えてみたが、マフィアの自分にとっては気にしても無駄な事だろうと思い、途中で考える事を放棄した。シスターとの会話内容も彼に話しても特に支障はないと判断し、帰路で伝える事に。
先程よりも段々と雨が強まる中、私と青年、そして子供たちは室内で遊び始めた。

──────────────

ゴロゴロゴロ…
低く大きな音が空に鳴り渡る。昼頃からだろうか。雷が鳴るようになり、何度も空に稲光が走っている。雨も以前強いままだ。子供の中には雷が苦手な子もいるようだ。雷が苦手だというこの少女は先程から私の側を離れようとはしなかったが、もう時刻は夕方。天気のお陰で外はもう夜の様にどっぷりと暗さを増していた。

「……これ以上雨が強くなったら帰れないし、今日はそろそろ帰ろうか」

少女は泊まって行ってと懇願するが、青年を此処に残す訳には行かない。此処にアイツらが来た時、シスターや子供たちにも危害が及んでしまう可能性があるから。

「君も、それでいいよね」

彼自身も自分の置かれている状況は分かっているだろう。私は青年の方へ顔を向け言葉を掛けた。
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2024/09/08 08:25
子供達と遊んでいる中、俺の頭の中はシスターと彼女の会話でいっぱいだった。何を話したいるんだろうか、シスターに用事が?いやシスターがマフィアと関わるわけがないし…。考え込んだ表情であると子供達に怒られた。遊んだいるのに表情はそっちの気というようにボーッとしていたからだろう。悪い悪い!と謝りながら子供達と遊んでいた。

するとしばらくして彼女が戻ってくる。彼女の姿を見つけて自然と笑顔が溢れてしまった。

「お帰り!シスターとは……」

彼女のところへ行って話を聞こうとしたその時、「お姉さんだ!!」「待ってたんだよ!」「こっちで一緒に遊ぼう!!」なんて言いながら子供達が彼女に夢中になってしまう。この前遊んでくれたお姉さん、という位置付けで子供達も彼女に好意を抱いているようだった。前よりも子供との接し方に慣れたのだろう。数人が、彼女に近づいてきても酷く警戒している様子はなかった。
少しずつ彼女も成長しているんだなと、遠くから見て思った。俺は落ち着きを取り戻すと彼女の元は向かう。

「…こいつら、ずっと君のことを待ってたんだ。…たくさん遊んであげて欲しい。今日シスターと何話したとかは、帰りの車で教えてくれ。」
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2024/09/07 21:24
青年と子供達が奥へ行った事を目で確認し、この場には私とシスターだけが残った状態になる。彼女は言葉は発していないものの、その表情から不安を抱えている事は分かった。

「…1つ、お聞きしたい事があります。」

私は彼女に改めて説明をした。青年が狙われている理由探しに行き詰まっている事。少しでも情報を知りたいので、彼がこの教会に残された当時…約20年前のことが知りたいこと。何かこの街で変わったことは無かったか。私の言葉を聞き終えた後、考え込む表情をする彼女だがすぐに思い付く様子は無かった。「今よりも治安は悪い街だった」と言われたが、私もそれは知っている。カルジェロという組織の歴史を聞いた際、今より2〜30年前はかなり街が荒れていたと言われたから。だがそれが彼が今狙われている理由とか関連付けられる気がしない。もっと何か他の情報は無いかと思っていたその時だった。

「…あ、そうえいば。丁度レオがこの教会に来た年だったと思うんですが、少し変な噂がありました。
"不死の体を手に入れられる"だとか…突拍子もない噂なので私は勿論信じていなかったのですが…その噂を信じている方が沢山いらしたんです。教会に祈りを捧げる方の中にも、その噂を信じている方は沢山いました。時には私に不死になる方法を教えて欲しいと仰る方も居て……不思議でしょう?
無垢な子供たちが信じてしまうのは仕方のない事かもしれませんが…老若男女問わず、この噂を信じている方が多かったのです。」

私も初めて聞く話だ。そんな可笑しな噂がこの街に流れていたのか。シスターによると、この噂は長く続いた訳ではなく気が付けば誰も口にする事は無くなったという。確かに、大人なら不可能な夢物語だと理解出来る内容。どうして彼らは根拠もないその噂を信じたのだろうか───?
だが、これも青年が狙われている事とは無関係だろう。

「参考になります。ありがとうございました。
 …少しでも早く、彼が此処に帰れるよう努力します」

私はシスターにそう伝えると、青年と子供達が居るであろう奥の部屋へと向かい足を進めた。
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2024/09/04 21:35
あまり良さそうな反応ではなかった。最近会う時間が少ないからと言って行き過ぎた提案だったのかもしれない。彼女は俺と違ってたくさんの仕事を、危険な仕事を抱えているからこんな場所にいる暇はないのだろう。でも、だからこそ彼女には少しでも長く、危険から遠い場所に居て欲しかった。自分に厳しそうな彼女、だから。

その時、女の子が1人彼女の元へとやってくる。あの花冠を作っていた女の子だ。こちらの空気をお構いなしに無邪気に彼女と接している。あの時と同じように微笑ましい様子だった。

「え?…ほ、本当に!?」

そんな微笑ましい光景に気を取られていたせいで彼女の返答でハッと我に返る。加えて彼女から承諾を得られたことに酷く驚いてしまった。反応し終えてから「あ、ご、ごめん」と言葉を何とか絞り出した。
彼女と居られる、そう思うだけで表情が綻んでしまう。何してあげよう、料理を作るとか…いや、屋敷で出してもらっている美味しさに敵う料理なんて作れないし…。
そんなことを考えてた折、彼女がシスターと話したいという。珍しい要求にクエスチョンマークが頭に浮かんだが、あとで聞いてみようと思い、「わかった」と言葉を添えると子供たちとともに遊び場へ向かっていった。
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2024/08/31 18:43
教会を訪れるとシスターに迎えられる。奥の方では子供たちも青年を歓迎している様子を見せていた。そんな中青年から今日は教会に長居しないかという提案をされ、私は数秒黙り込む。
(今日は帰ったら仕事するつもりなのよね)
彼も仕事があるなら無理にとは──と言ってくれているし、今日は長居出来ないと伝えようとした時だった。奥の方で以前花冠の作り方を教えた女の子がパタパタと足音を立てながらこちらへ走り寄ってくる。

「お兄ちゃんお帰りなさいっ!おねえちゃんも!!また会えて嬉しいっ!
 今日はいっぱい一緒にあそべるの?!」

無垢な笑顔とキラキラと輝かせた瞳で私たちにそう言う。女の子の言葉を聞いた他の子供たちも「今日いっぱい遊べるって!」「やった〜!」と喜んでおり、何故か既に長居することが決まっているような流れになっている。

「………うん、今日はいつもより長居しよう。雨もかなり強くなるだろうしね」

(…仕事は急ぎじゃないし、また明日でも問題ないか)
私は頷いて彼の提案を受け入れることにした。此処は心地いい場所で、私もそこに入れてもらえる事が嬉しいんだと思う。それに子供達の笑顔にはどうも弱い。

「ただ私は少しシスターと話をしたいから…後でゆっくり遊ぼう。
 君も、先に子供たちと遊んでいて。シスターとは2人で話がしたいから。」

小さな彼女の頭にポンッと手を乗せて後から遊ぼうと告げた後、今度は青年に先に奥の部屋へ行くように伝えた。
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2024/08/18 13:26
久々の彼女との外出に心が躍ってしまった。外出する前に何度も鏡の前で身なりを整える。いつもならこんなことしないはずだが、心の中で「今日は教会に行くからな、みすぼらしい姿を見せて皆を心配させたくないし」と適当な理由をつけて鏡の前に立つ自分を正当化していた。

下へ降りて玄関の扉をあけた。そこにはすでに彼女が待っていて、自分のせいで彼女を待たせてしまったことに不甲斐なさを感じる。そして手に持たれている2つの傘を見て空を見上げた。いつもとは違うどんよりとした天気で今にも雨が降ってきそうだった。彼女はそれを予知して用意してくれたのだろう。

「ごめん!お待たせ…! 雨、降りそうだな…。振り出さないうちに教会に行こうか。」

そう言って彼女に声を掛けると車に乗り込み、教会へと向かった。

________________________

教会につく頃には少しずつ雨が降り始めていた。ポツポツと地面に落ち、丸い模様を作っていく。教会の前に車を止めてもらうと、彼女と一緒に傘を持って教会の玄関口まで小走りした。扉をノックするとシスターが出てきて「お帰り」と迎え入れてくれた。今日子供たちも中で遊んでいるらしい。こんな雨の日だからこそ俺や彼女に子供たちの相手をして欲しそうだった。

「…きっとこれから本降りになるし、…ちょっと今日は教会に長居して行かないか?…仕事が合って無理なら構わないけど…!」
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2024/08/14 21:20
扉を開けると、そこには眩しい笑顔を浮かべる彼の姿があった。この眩しさには相変わらず慣れない。ただあれ以外長い時間彼と過ごす事は無かったので、あの日のように昔を思い出すことはこの2週間無かった。時々短い時間、一緒に朝食を摂るというこの距離感が自分にとって丁度良かったんだと思う。ただ今、彼から一緒に教会へとの誘いがあった。本当なら断りたい所だが、実はシスターに尋ねてみたい事があった。あくまで個人的にだ。青年が教会の前に捨てられた日について何か知っている事が無いか。彼が教会に捨てられた日はカルジェロでも把握していない。青年はもしかすると知っているかもしれないが…それを本人に聞くのも酷だろう。
それに、シスターなら当時の街の様子を何か知っているかもしれない。

「分かった。私も丁度教会に用があったから一緒に行こう」

軽く頷き、私は彼の要望を聞き入れることにした。

────────────────

朝食を終えた後、それぞれ屋敷を出る準備をして玄関先で待ち合わせる事にした。
スーツを着るとまた堅苦しいと言われる予感がしたので普段を着て、カルジュアルなジャケットを羽織いその下に拳銃を1丁携える。勿論使う気は無いが、携帯していないと逆に不安になってくるのだ。そうして準備を終えて玄関先に着いたがまだ青年は来ていないらしい。ふと空色に目が映る。まだ午前中だというのに暗い空だ。まるで嵐が来る前の空のよう。一応傘は持って出かけよう考え、私と青年、2人分の傘を持って彼が来るのを待っていた。
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2024/08/11 10:59
保護されてから2週間。ここの生活にもだいぶ慣れてきた。それまで恐ろしい人間の集団だと思っていたマフィアたちだったが、話をしてみれば意外と気さくで仲間想いで案外悪い人たちではなかった。それに今では慣れ親しんだ呼び名で呼んでくれるようにもなった。
一方、彼女と関わる機会は少なくなってしまった。度々教会に帰らせてもらっていたが、その付き添いに彼女が携わってくれることはなかった。周りの人に聞くと「彼女はただでさえ忙しいお人なんだ」とのこと。自分にあれ程時間を割いてくれたことさえ、酷く珍しいことだったらしい。その事実を聞いて申し訳なくなったが、まだまだ彼女のことを知らない自分を突きつけられたような心地になった。

______________________

そして今日朝、起きるとドアがノックされて彼女が朝食を持って立っていた。数日に1回は会えてるとはいえ、やはり彼女に会えると気持ちがホッとする。自分の警戒心を解いてくれたのが彼女だからかもしれない。

「おはよう!勿論、一緒に食べよう!」

そう言って彼女と席について朝食を取り始めた。

「今日の夕方ごろ、教会に行きたいんだ。…君と一緒に行けたら皆も喜ぶと思うんだけど、忙しいかな?」
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2024/08/11 00:36
待って、という彼の言葉に私の足はピタリと動きを止めた。振り返る事はせず、彼の言葉を聞き終えた後は再び足を進めた。急足で向かった先は屋敷にある自室。バタンと勢い良く扉を閉めて中に入った後、扉に背をつけたままずるずると床に座り込んだ。

何者かに狙われ、マフィアに匿われる事になった青年。そんな彼はどこまでも眩しい人だと今日で実感した。私のような人間に感謝をして、しかも"また一緒に行けたら嬉しい"なんて彼は言うのだ。優しくて真っ直ぐで、太陽のような人だ。彼が光だとすれば、私は暗い影のような存在だろう。陽の光が強ければ強いほど、影は濃くなる。今日のように彼と一緒に居れば、私の"影"は色濃く映し出される。きっとまた苦しくなる。

これ以上彼の眩しさに魅入ってはいけない。私と彼では住む世界が違いすぎるのだから。

────────────────

あれから2週間の時間が過ぎた。彼の件に関しては進捗が無く、調査も停滞している状態だ。この2週間で彼と顔を合わせたのは仕事が忙しいのもあり、片手で数える程度。ただ数日に1回は一緒に朝食を取るようにはしていた。教会には度々帰っているらしい。その際、護衛についた構成員はすっかり彼を気に入ったのか「レオ!」と気軽に声を掛けている。年の近い者を選んだので関わりやすかったのだろうか。

「入っていい?」

私はコンコン、と彼のいる部屋の扉を2回ノックする。今日は都合があったので彼と朝食を取ろうと思い、ワゴンに2人分の朝食を乗せて来たのだ。
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2024/08/10 18:33
しばらくすれば屋敷の前に到着する。ほとんど彼女と会話をすることはなく、到着してしまった。今日は自分の我儘に彼女を突き合わせてしまった。楽しそうな表情は見れたものの、彼女の悲しそうな寂しそうな表情が忘れられない。そちらの方が印象に残っている。正直彼女のことは何も分からない。知ろうとして踏み入っていいような雰囲気にはなれなかったからだ。まだまだ彼女の心は本当の意味で閉じられているように感じる。

「……………ま、待って!」

自分を送り届けてどこかへ行ってしまいそうな彼女の背中に大きな声を掛けた。

「今日は俺の我儘に付き合ってくれてありがとう。…でも、すごく楽しかった!!教会の皆にも会えて…。また、君と一緒に行けたら嬉しい。」

最後の方は少し恥ずかしくなってしまって声が小さくなってしまったが、彼女には十分届いているだろう。彼女にとってはこれが仕事の一つかもしれないが、自分の存在が負担にならないように。少しでも気離しに慣れたら嬉しい。あのマーケットで見せた悲しそうな顔も、いつかは笑顔に変えられるだろうか。

自分の言葉を聞き終えると彼女はまた歩き始めてしまったので、俺もまた屋敷の中に戻っていった。
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2024/08/04 00:51
あの日からもう8年も経っているんだ。こんな時くらい適当に『じゃあこれで』と言ってしまえば良かった。でもそれが出来なかった。8年も前の出来事に、私は呪われ続けているから。

結局私は視界に入った適当なカーディガンを彼にプレゼントしてもらった。使い勝手も良さそうなシンプルなものだ。こうして買い物は終わり、迎えに来た構成員の車に2人で乗り込んだ。私は帰り時の途中、車の中で外の流れる景色を見つめながら今日1日を振り返っていた。教会で子供と遊び、次はマーケットで買い物。仕事のない日は大抵、自分の部屋で寝尽くしているか、結局仕事をしてしまう日ばかりでこうも充実した日は覚えてないくらい久しぶりのことだ。
ただ彼といると昔の自分を思い出してしまう。だから充実した今日を『いい日だった』と思う自分が居れば、『昔を思い出して息苦しかった』と思う自分も居た。

「着きました。お二人は先にどうぞ」

屋敷の前に車が停まる。運転席に座る構成員に声を掛けられた後、私と青年のだけが下車し玄関へと足を進めた。

「また外出したい時、伝えてくれれば連れて行くから。」

私は青年へそう声を掛けた。ひとまずは現状、向こうの組織も動きはないようなので、明るい間で警護を付ければ外出は問題が無さそうだと判断した。

「…じゃあ」

屋敷の中へと入り彼を部屋の前まで見届けた後、私は軽い別れの挨拶を告げた後背を向け歩き始めた。
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2024/07/28 22:04
「あっ……ご、ごめん……」

彼女の暗い瞳を見て謝ることしかできなかった。光のない瞳に彼女の闇に触れた気がした。可愛いものが苦手という彼女が教会で花冠を貰ってあんな優しい表情を見せるわけがない。だから彼女の放った言葉を信じ切ることができなかった。ただ、その真意を突き詰めることも、理由を教えて欲しいと伝えることはしなかった。彼女の逆鱗に触れて殺されるかもしれないという恐怖がまだある。

「………よし、他のところも見に行こうか」

彼女にそう優しく声を掛けることしかできなかった。
その後、その店は離れて他の店を巡った。華やかが売りのマーケットにはシンプルなものはなかなか売っていなかった。他にいい物は無いかと探し廻るも見つからず、どうしようかと困惑していたところ、彼女が気を使っていくれたのか”あれがいい”と指さしたカーディガンがあった。紺色でどんな服装にも似合いそうな無難なものだったが、彼女が欲したものだと腑に落としそれを購入して彼女にプレゼントした。

気が付けば夕方になっており、そろそろ家に戻ろうと今日一日の外出は終わってしまった。
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2024/07/28 17:12
しばらく足を進めていると、途中ついて来る様にと青年から声が掛かる。向かった先は花の小物やアクセサリーが売られている可愛らしい店。どれも丁寧に作られているようだが、小ぶりな物は比較的安価なもの多く手に取りやすい。

(…可愛い。)
女性へのプレゼントとしては良い店だが、私には似合わない店だ。値段という意味では無く、こんなにも女性らしくて可愛らしい物、私には似合う筈がないから。

「……え、」

彼の言葉に動揺して瞳が揺れた。
青年は私に『花が似合いそうだなと思った』なんて言う。私のような汚れた人間に、こんな綺麗な花が似合う筈がないのに。彼は私が人を殺している現場にも鉢合わせているから、私が普通ではない事も知っている。なのにどうして、花が似合いそうだなんて言ってくれるの?
母を殺したあの日から、この裏社会で生き抜くために自分の気持ちを殺そうと決めた。でないと、弱い女である私はすぐ死んでしまうに違いないから。今だってその気持ちは変わらない。こんな可愛らしい物、マフィアである私には不要な物だ。

「…悪いけど、こういう可愛いもの苦手だから…他の店に行こう」

私は向日葵のピアスに伸ばしかけた手をゆっくり引き戻すことにした。
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2024/07/27 00:31
彼女に腕を放してもらい身体が軽くなったように感じた。今まで全身に力を入れていたせいで身体のそこかしこで重さを感じていたところだった。しかし気持ちはどこか寂しくて、俺はこの感情の出所を理解できずにいた。しかし情けない姿を見せてしまった。振る舞いからして彼女はきっと男性と接することに慣れているんだろう。腕の組み方も離れ方も、ぎこちないところが一切なくスムーズだったし。もう一旦このことを考えるのは辞めようと頭を左右に振って深呼吸した。

それからしばらく歩いていると、とある店が目に入る。「あっ」と声を上げ、彼女を見る。

「ちょっと付いてきて!」

そう言って彼女を誘うと1つの出店に立ち寄った。そこには小物やアクセサリーなどが売られていた。そのどれもが花をモチーフにしたものばかりだった。

「ここなんてどう?ピアスとか、ブローチ辺りなら、…良くない?!」

ネックレスや指輪、ブレスレットもあるが、自分の持ち金では手が届きそうにない金額だった。しかし小ぶりのピアスやブローチもあって、それであればプレゼントできそうだった。そんな内心を必死に隠そうと幼稚な言葉になってしまったが。

「さっき教会で君を見たとき、花が似合いそうだなと思ったんだ。…バラ、チューリップ…ガーベラも色鮮やかでいいけど……あ!このピアスとかどう?」

選んだのは映える黄色があしらわれた向日葵のピアスだ。彼女に提案してからハッと気づく。

「ご、ごめん!俺の意見ばっかで!…これは気にせず…君はどれか気になる物はある?」
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2024/07/21 23:12
店を見るフリをして周りに怪しい者がいるか確認してみるが、一先ず近場は安全のように思える。あの穏やかな教会で平凡に育った彼を狙う理由とは一体何なんだろうか。トラブルを起こすような青年でも無かったようだし、教会の人物も問題を起こすような人物は居ない。となると、考えられる可能性は青年の"家族"。教会の家族のことでは無く、レオナルドの実の両親が関わっている可能性があるのだ。だがレオナルドは赤ん坊の頃に教会に捨てられており、手掛かりはゼロ。構成員の方でもそこについて調査は続けているが、いまだ収穫は無い。もし彼の両親が関わっているという仮説が合っているのなら、彼の両親は何者なんだろうか。平凡に過ごす子供を消す意味とは?一体、君は何に巻き込まれているんだ───?

人混みを歩きながらそんな思考に走っていたが、隣から動揺した声色が聞こえる。どうしたのかと思い視線を向けると、明らかに落ち着きのない様子だ。

(ああ、…これか)
どうやら腕を組んでいるこの状況に困惑しているようだ。潜入やパーティーのエスコートでは腕を組む機会もそこそこあるので私自身は気にしていなかった。カルジェロではこんな初心な反応を見せる人は居ないので中々新鮮な反応だったが、ふと昔を思い出す。弟のように思っているボスの事だ。まだ私も彼もマフィアになる前、彼は時期相応な子供で初心だったため、美麗な女性に初めて囲まれた時はあんな反応を見せていた事を思い出す。

「っふ」

あの時は私が彼を大笑いしていじってしまって、大喧嘩になった事を覚えている。その時の彼を見ているようでこの思い出し笑いを堪えることが出来ず、青年には顔を背けながら笑いを小さくこぼした。

「悪い、突然失礼だった」

仕事としては正解かもしれないが、彼が嫌がる事は避けた方がいいと思いするっと組んだ腕を離した。
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2024/07/21 01:02
長い沈黙に俺はすごく焦っていた。彼女に何を言われるの怖かったのもあるが、彼女に図々しい態度を取ってしまったんじゃないかと不安になったからだ。何を上から目線に言っているんだと、今すぐに銃口を向けられて殺されるんじゃ…いや、彼女がそんなことするように思えなくて。これは一種の勘なんだろうが。
しかし彼女の答えが返ってきて、ようやく息を吐けた。
彼女はシンプルなものが好きと言った。確かに今日の私服もシンプルでクールな印象を受ける。きっとスカートなんて履かないんだろうな、と思ってしまう程にパンツスタイルがよく似合っている。しかし先ほど教会で見た姿から、もっと女の子らしい物も合うんじゃないだろうか?

マーケットに付き、彼女とともに歩く。急に彼女が腕を組んでくるものだから思わず身体がぎゅっと引き締めてしまった。近くに居て欲しいとは言ったが、触れ合うまでは言っていない。というか予想外過ぎて思考が追い付いていなかった。

「あの…その…、あ、歩きづらくない?…いつでも、離してもらっていいから…」

そんなぎこちない言葉しか返せなかった。俺が意識しすぎなのか?いやいや男児ならば誰でもこうなるだろう。自分から彼女を離すことはないし、彼女がこちらの方がよいのであれば、このままでも問題ない…だろう。それから緊張を誤魔化す様にあたりをオロオロと眺めていた。この状況下であっても、彼女が好きそうなもの、彼女に似合いそうなものを探していたのだった。
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2024/07/14 18:07
(…プレゼント?私に?)
彼の予想外の言葉を聞き、微弱だが表情が驚いている様へと変わった。不思議だった。彼は知らずのうちに"何か"に巻き込まれ、唐突に命を狙われて、今度はマフィアの屋敷でほぼ監禁されていたというのに。寧ろ私を恨んでも良い立場だ。それなのに『私に助けられたから』と言うのだ。私のような人殺しを…普通では無い私を、彼は怖くないのだろうか。私に取り入ろうとしている?何かメリットでもあるというか?
────いや、きっと彼はただ単純に私に恩を感じていて、それを返したいだけ。まだ数日しか彼のことは見ていないが、分かりやすくて裏表のない人物だと知っているから。取り入るとか、メリットとか、多分そんな事は微塵も考えていない。寧ろこんな想像ばかり膨らむ私の方がおかしいんだ。

「……………シンプルな物が好き。
 ……何かいい物を見つけたら君に買ってもらうよ」

長い沈黙の末、『シンプルなものが好き』と私は答えた。嘘ではない。服装も部屋も基本的にシンプルな物で揃えている。無個性で目立たないような物しか身に付けないのだ。…普通だった時は、可愛い物や動物、甘い物も好きだったが、マフィアの私にそれは必要ないから。
そして彼とマーケットへと足を再び進めて行った。賑わっているマーケットは敵が潜んでいる可能性も十分ある。これまで夜に行動していた奴らが突然明るい時間帯に大胆な真似をするとも思えないが、人混みに紛れて相手を刺す、という可能性もある。だが隣にカルジェロである私が居れば手を出しにくいのは事実だろう。私は自身の存在感を居るかも知れない敵に見せつけるため、わざと青年の腕に自分の腕を絡ませる。こうして片時も離れなければ相手方もそうそう手は出せまい。と、真剣に青年と腕を組むことになったが、青年にどう思われているかは特に気にしていなかったので、彼には何も言わず無表情のままそれをしている。
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2024/07/14 08:59
マーケットらしい華やかで明るい光景が広がっている。ここに来たのはいつぶりだろうか。少し教会から離れている場所でもあるし、一緒に行こうとなる友人も少ない。ただ数回シスターに連れてきてもらった記憶のままで終わっている。
その時、目当ての品があるのかと聞かれて彼女に答えた。

「…君への、プレゼントだ。」

そうはっきりと答える。その後、ハッと我に帰る。恥ずかしそうに頭をかきながら言葉を続けた。

「あ、いやあの… 君に助けてもらったのに、何もできてないからさ。…変わりじゃないけど、何か選んであげれたらと思って…。でも、俺が持ってる金は限られてるから、高価なものはあげられないけど…気持ち程度に受け取ってくれたら、と…。まあお金は君の方が持ってるのは分かってるんだけど、さ。」

途切れ途切れに言葉を伝えるがすごく恥ずかしい。ただ本心を伝えているからこその言葉だった。でもこんな言い訳ばっかりなんて男らしくないなとまた内心反省する。

言葉を言い終えたそのタイミングでマーケットの近くに到着する。くるから降ろしてもらい、マーケットの入り口に進む。そして彼女の方を向く。

「…だから、君の好きなものを教えて欲しい。」
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2024/07/14 01:29
「…そうね」

運転席に座る部下へと行き先を伝え、車は走り出す。シスターや他の子供たちについても既に調査済みなので、彼女達がマフィアと関係を持っている可能性は無い。それでも見落としがあるかも、なんて考えていたが私が浅はかだった。本当に暖かくて、心地のいい場所。あそこに私の居場所は無いのが少し、悲しく思えるのは何でだろう。

車を走らせて10分程度。私たちはマーケットが開かれている場へ到着した。港近くで開催されており海が近いのもあって潮風が気持ちいい。活気ある市場はガヤガヤと多くの人で賑わっていた。私はと青年は車を降り、2人で足を進めた。それぞれ売りたいものを売っているので色々な店がある。時には掘り出し物なんかもあるだろう。

「欲しいものとか必要なものがあったら言って。」

屋敷で警戒しきった青年ではなく、家族と会って明るく喋る姿を見たからなのか、少し彼に話しかけやすい。最初は怯えられないように必死に言葉を選んで、会話することに躓いていたがこれからはスムーズに会話が出来そうだ。そう思いながら口を開き、彼に言葉をかける。彼は私達にほぼ誘拐されたと言ってもいいので、お金もほんの少ししか持っていなかったそう。このマーケットで欲しいものがあっても金額的に難しいものもあるだろう。勿論、カルジェロで匿う間は必要なものを全てこちらで揃えるつもりなので、そういった意味合いで彼に言葉をかけた。

「…何か、目当ての品が?」

普段は雑談なんてする柄じゃ無いのに、続けて彼に言葉をかけた。久しぶりに"普通の人"の感性に触れたからだろうか。それとも、私が"普通"になりたがっているからだろうか。
教会へは家族に会うのが目的。ならばマーケットも何か理由があるのかと思い問いかけてみた。
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2024/07/13 08:49
彼女と子供たちの様子を微笑ましく見つめていた。彼女の柔らかい対応と女の子らしい所作が見られて笑みをこぼさない方が難しい。それから彼女と一緒に車へ向かった。シスターや子供たちが見送りにやってくる。一つ一つの言葉を聞くたびに帰りたくない気持ちが強くなってしまう。
けれど、また安全に戻って来れるように。自分がいると彼らに危険が及ぶかもしれない状況なのだから、自分はここにいない方がいいのだ。そう言い聞かせて彼女の隣を歩く。

すると子供達が彼女に声をかけ、彼女がその言葉に力強く答えていた。その言葉がぐっと心に刺さる。彼女の存在が少しずつ安心するものに変わっているのひしひしと感じていた。

「…皆んな、また帰ってくるよ。必ず。…その時はお姉さんも一緒だと思うから、また皆んなで遊ぼうな。…じゃあ行ってくるよ、シスター。」

そう声をかけて車に乗り込んだ。発車して少しずつ遠くなる彼らの姿に込み上げてきそうな気持ちをグッと堪えて前を向いた。また戻ってくる、また会える、必ずだ。

「……ここに連れてきてくれてありがとう。みんなが元気そうで、安心した。……じゃあ次!次はマーケットに行こう!」

そう気持ちを切り替えて明るく言葉を発した。
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2024/07/12 22:48
小さな彼女に気を取られていた所為か、後ろから近づく青年の存在に声を掛けられるまで気付くことが出来なかった。突然青年の顔が近くに現れた気がしてドッと心臓が一度大きく跳ねたが、それが表情に出ることは無かった。慣れた様子で小さな彼女を褒める青年を見るとやはり"家族"だと感じる。物理的には今私も側に居るというのに、彼らが眩しくて、酷く遠くに居るような気になっていた。
そして今度は青年が私の方へと話しかけて来る。家族の元へはまだ帰れないと決まっている手前、長く過ごせば別れ難くなる気持ちは理解できる。そろそろ行かないと、と言った彼の表情は寂しげに見えた。

「そう、分かった。…じゃあこれは貴方にあげる。交換ね。」

それをすぐに了承すると、自分の手に持っていた花冠をじっと見つめる。少女に教えるために自分でも1つ作っていたのだ。私はその完成した花冠を少女の頭にポスっと乗せた。少女は嬉しげに「ありがとう!!」とお礼を伝えてくれた。そして私はスッと立ち上がり、青年と共に再び教会の入り口の方へと向かい足を進めた。
教会前に待たせていた車に乗り込む前、シスターと子供たちが青年を見送りに側まで足を運んでいる。「またいつでも帰って来るんですよ」と優しく微笑むシスター。子供達は勿論、「もう行くのかよ!」「お兄ちゃん帰らないで!!」と青年と別れを悲しんでいたが、何故か「お姉ちゃんもまた来てね!」「次は負けねーぞ!」と私に声を掛けてくれていた。胸がギュッと締め付けられるような、でもじんわり心が暖まるような不思議な感情だ。

「……うん、また来るよ。君たちのお兄さんのことは、私が絶対、守るから」

彼が狙われている理由を突き止め、問題を解決し、早く青年を解放して家族の元へ返す。絶対に。
改めてそう心に決め、私は車へと乗り込んだ。
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2024/06/23 23:42
少女と彼女のやり取りを一部始終見ていた。教会に来たときは子供との接し方に戸惑っている様子だったが、どうやら少し慣れてもらえたのだろう。そして女の子2人が愛らしい手遊びで話している光景が何とも微笑ましかった。少女に見せていた彼女の柔らかい表情は、一緒にご飯を食べたときに見せてくれた表情と似ていた。マフィアだと思えない程、普通の年相応の女の子がそこにいたのだ。

(普通の女の子、なんだよな…。)

俺はそっと彼女たちに近づき、後ろからイヴの左側に顔をのぞかせた。

「いいじゃん!よく似合ってるね。……これ、お姉ちゃんに作ってあげたの?」

元気のいい明るい声で彼女に声を掛ける。その後、少女の方を向いて問いかけた。少女は嬉しそうに「うん!お姉ちゃんに教えてもらったの!」と言うので、少女の頭に手を乗せて優しく撫でながら言葉を返す。

「そりゃよかったなぁ!うん、…上手にできてる。…またお姉ちゃんが来たとき、作ってあげような?」

その言葉にも元気よく答えた少女を見て微笑みかけた。それから天使のような彼女の方を向き、言葉を続けた。

「この子たちの面倒を見てくれてありがとう。おかげでシスターとも話せたよ。…これ以上長居すると、…ずっとここに居たくなるからさ、…そろそろ行かないかなぁと、…思って。」
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2024/06/23 23:42
少女と彼女のやり取りを一部始終見ていた。教会に来たときは子供との接し方に戸惑っている様子だったが、どうやら少し慣れてもらえたのだろう。そして女の子2人が愛らしい手遊びで話している光景が何とも微笑ましかった。少女に見せていた彼女の柔らかい表情は、一緒にご飯を食べたときに見せてくれた表情と似ていた。マフィアだと思えない程、普通の年相応の女の子がそこにいたのだ。

(普通の女の子、なんだよな…。)

俺はそっと彼女たちに近づき、後ろからイヴの左側に顔をのぞかせた。

「いいじゃん!よく似合ってるね。……これ、お姉ちゃんに作ってあげたの?」

元気のいい明るい声で彼女に声を掛ける。その後、少女の方を向いて問いかけた。少女は嬉しそうに「うん!お姉ちゃんに教えてもらったの!」と言うので、少女の頭に手を乗せて優しく撫でながら言葉を返す。

「そりゃよかったなぁ!うん、…上手にできてる。…またお姉ちゃんが来たとき、作ってあげような?」

その言葉にも元気よく答えた少女を見て微笑みかけた。それから天使のような彼女の方を向き、言葉を続けた。

「この子たちの面倒を見てくれてありがとう。おかげでシスターとも話せたよ。…これ以上長居すると、…ずっとここに居たくなるからさ、…そろそろ行こうか。」
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2024/06/23 16:50

「ねえこれはどうやるのっ?」
「あたしも教えて!」

「ああ、これは次この輪っかに通して…」

遡ること数十分前。
教会裏へと連れて来られた私は、子供たちと何故かかけっこをして遊ぶことになっていた。
「最初はかけっこして遊ぼう!お姉ちゃん鬼ね!スタート!」と半ば無理やり遊びが始まってしまったのだ。断る隙なんて無く、一目散に子供達が散ってしまうので、これはもう捕まえた方が早いと思ったのだ。
だが私は身体能力には自信があったので、すぐに全員を捕まえてしまう結果に。子供達に泣かれないかヒヤヒヤしたが逆にそれが面白かったようで、「もう1回!」を繰り返され、この数十分はひたすら子供たちとかけっこをしていた。流石の子供達も疲れたのか、草むらに座ったり寝転んだりと休憩している中、私を最初に誘った女の子が「お姉ちゃん、お花の冠、作れる?」と問いかけてきたのだ。
こうして今は子供らに花冠の作り方を教えている最中という訳である。

昔は私も女の子らしい趣味が好きで、花冠をよく父や従兄弟に作っていた。作り方なんてもう覚えていないと思ったが、やってみれば意外と体は覚えているものだ。そうして作り方を教えながら子供達と私は花冠を完成させた。

「っ出来た〜!!!見て!見て!」

「…うん、よく出来てる。」

子供が苦手なはずなのに、この子たちは昔の従兄弟と姿が重なって見えた。小さくて幼くて、守らなければいけない存在。この無邪気な笑顔を守ることも私の仕事の1つ何だろう。

「ほんと?じゃあお姉ちゃんにあげるね!教えてくれてありがとう!」

嬉しそうに笑ったこの子は私の頭に出来上がった花冠を添えた。子供達は本当の私を知らないからこそ、こんな風に純粋に接してくれている。

「…ありがとう」

胸が締め付けられながらも、私は柔らかな表情で小さな彼女にお礼を伝えた。
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2024/06/22 00:46
「…ありがとう、シスター。また必ず、生きて帰ってくるよ。」

命を狙われている以上、いつどこで何が起こるか分からない。毎日当たり前の様に顔を合わせていた人が次の日になって遺体で見つかるなんてこともある。そんな街なんだ。そして俺が狙われている組織は巨大で、恐ろしい。同じくらい大きな組織に守られているが、また帰って来られる様に。その時はシスターもみんなも元気なことを願うばかりだった。

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ある程度シスターとの話が終わり、広間に戻ってくる。すると彼女の姿がなくなっていることに気づく。辺りを見回して見るが、見当たらない。まさか自分をここに戻して自分だけ帰ってしまったのか…?いや、彼女に限ってそんなことはないはず。それに子供達の姿がない。彼女が自分の代わりに彼らを攫った…いや、それも考えにくい。こんなは発想が生まれてしまうのも、まだまだ俺は組織のことも、彼女のことも、信用しきれて居ないのだろう。
すぐ後、シスターもやってくる。子供達は最近よく教会裏で遊んでいるらしい。今もちょうどいるかもしれないと言うので、教会裏へと向かった。
心地よい気候でお天道様も温かみを与えてくれている。そして時折吹くそよ風が何とも心地いい。ゆっくり足を進めると次第に子供達の明るい声が聞こえてきて、攫われては居なかったことに安堵した。見ると子供達は数人で彼女を取り囲んでいる。

彼女に声を掛けようともう少し近づいてみることにした。
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2024/06/15 18:25
「…ふふ。そう。レオがそう言うのなら、きっと本当に大丈夫なんでしょうね」

多くの言葉を並べたレオナルドを見て一瞬驚いた表情を浮かべたシスターだったが、今度は小さく微笑みを浮かべた。

「…レオが居なくなった夜、カルジェロの方が訪れて、貴方のことについて説明されました。
"彼は何者かに命を狙われているので、こちらで預かり彼のことを守らせてほしい"…と。
子供達には、レオは危険なことに巻き込まれているので少しの間別の場所で暮らすことになった、と伝えています。
…確かに彼らはこの街を守っていますが、やはりマフィアです。もしかしたらレオが酷い目に遭っているのではと…っ心配だったんですよ。
…だから、こうして元気な様子を見れて本当に良かった」

息子同然のレオが無事な様子を見て酷く安心してしたのか、涙を浮かべながらシスターは嬉しそうに笑っていた。

────────────────

優しいシスター。慕ってくれる子供達。血の繋がりはなくても、彼らが"本当の家族"のように感じた。あれが幸せというものなんだろう。
(…シスターのような"母"が居たら、私も人殺しになる道なんて選ばなかったんじゃないか)

「っ…嫌な記憶」

ふと昔のことを思い出した私は表情を歪める。暖かい家族なんて私には必要ない。私は生涯、この身をカルジェロのために捧げられたらそれで───

「ねえ」

上の空だったせいか、その小さな存在に全く気が付かなかった。足元で幼女が不思議そうに私を見上げている。
私はビクッと肩を揺らした後、その小さな存在に視線を向けた。

「どこか痛いの?」

…私の表情を見て、苦しそうだと思ったんだろうか。子供はこういうのに意外と敏感だったりすると聞く。

「…いや、別に…元気だ」

「じゃああっちで一緒に遊ぼう!!」

返答をした瞬間、幼女はパッと嬉しそうに満面の笑みを浮かべ私の手首を小さな両手で掴み教会裏へと向かって走り始めた。戸惑う私のことなんてお構いなし。…だから子供は苦手なんだ。
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2024/06/04 22:23
「私は、守りたいんだ」と言った彼女の表情に呆気取られる。温かな柔らかい表情をしていた。子供たちを安心させるためなんだろう。俺にとっては頼もしくて、安心感を与えてくれる。笑えば優しい人なんだ。いつもどこか緊張していて、何とか表情を取り繕っているように見えていたから。もっと笑えばいいのに、なんて思ってしまった。

「シスター…!!」

すると俺の名前を呼ぶ聞き慣れた声にすぐさま反応する。俺が一番会いたかった人物だ。涙目になっている彼女の元へすぐ駆け寄る。彼女にどれほど心配をかけてしまったんだろう。彼女の表情に俺までもらい泣きしてしまいそうだった。
それから子供たちと彼女に時間を作ってもらい、シスターと2人きりで話すこととなった。

_______________________

「…ごめん、シスター。 俺、言いつけ守らずに夜に外に出てしまったから…。すごく、心配かけてしまって…。」

あの日、夜に外出しなければこうもシスターや子供たちに心配をかけることもなかったんだ。自分の行いに深く反省しつつ、言葉を続ける。

「でも、彼女が助けてくれたおかげで…こうして生きてる。部屋も食事も用意してくれて、…ご飯、すごく美味しかったんだ!今度、帰ってくるまでにレシピを聞いて、皆にも作ってあげたいくらいに!…最初は怖くて、不信感もいっぱいで…苦しかったんだけど、…彼女が献身的に俺の世話を見てくれたから…。今日も俺の我儘に付き合ってくれてるし…。だから、元気だよ。大丈夫。」

つまりは自分は元気であることを伝えたくて、たくさんの言葉を並べた。
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2024/06/01 17:16
「…!……そう、ね。
 君たちのお兄さんを、…私は、守りたいんだ」

今は適当にあしらって、後から子供達に私が危険な人物だと伝えると思っていた。だから彼の口から"悪い人じゃない"と言われるとは思っていなかったのだ。子供達も納得したのか「へえ〜」と声を漏らしつつ再び私をじっと見つめる。先ほどまで子供らの視線に含まれていた恐怖や不安といった感情は、青年の言葉ですっかり無くなっているように感じた。それほどこの子たちは彼のことを信頼しているんだろう。けれど今度は子供たちが好奇心をたっぷり含んだ視線を向けているように感じるのは気のせいだろうか。
そんな時、教会の扉から修道服を身に纏った女性が出てくる。彼女がシスター・アウロラだろう。青年を視界に入れると目尻に涙を浮かべて足早にこちらに駆け寄ってきた。

「レオ!…おかえりなさい。
 貴方がイヴさん、ですね。レオを守ってくださって…ありがとうございます。
 よろしければイヴさんも中へどうぞ」

シスターには他の構成員から今回の件について、粗方事情は説明してある。彼女の丁寧で柔らかな口調、そして雰囲気が"優しい人"だと直感的に思うことが出来た。

「はい、イヴと申します。…いえ、そんな。
 私は…ここに居ますので。ゆっくり皆さんで過ごしてください」

「…分かりました。ではレオ、少し2人で話をしましょう」

そしてシスターは子供らに「みんなは向こうで遊んでいて」と伝える。すると皆素直にそれを受け入れ、「また後でね!」「あとで遊ぼう!」とレオに伝えた後に裏庭へと再び戻っていった。青年と同じく、シスターも子供らから絶大な信頼を得ているんだろう。こうして青年とシスターが建物の中へと入り、私は教会前で1人待つ形となった。

───────────────

全員で食事を取る食堂。椅子がずらりと並んでいる中、正面になるようにレオナルドとシスターが席に座っている。

「レオ、一時的ではあるけれど…よく無事に帰ってくれくれました。
 マフィアに連れて行かれたと聞いた時は驚きましたよ」
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2024/05/31 19:48
「ってぇなぁ…たく、そんな飛びつくなよ!びっくりするじゃねえか!!…でも、元気そうでよかった。」

急に飛びついてきた子供達の衝突を受け止める。自分が知ってた頃の彼らと変わらぬ様子で酷く安心した。たった数日でも心配になってしまうほどとは、…当たり前に会えていた時間を見直さなくては。彼らの元気を当てられて、俺の心も少しずつ晴れていく。知り合いに会えるのはどれほど嬉しいことなのか。
そんな時、隣にいる彼女に子供達の意識が向く。子供達は敵意剥き出しで彼女を見つめていた。彼女もまた彼らの敵意に対抗することなく、どう対処すればいいのかと困っていそうだった。子供相手に威圧的に抑えつけようとする輩だっている。そして彼女はマフィアだ、やりかねないと思っていたが様子を見て、やはり悪い人では無さそうだ。

「落ち着けお前ら、…この人はな、俺を助けてくれたんだ。怖い人に襲われそうになったところを命張って守ってくれたんだよ。だから、お前達が思ってるような悪い人じゃないんだ。」

子供達の目線に合うようにしゃがみ込み、彼らの腕を掴みながら真っ直ぐ目を見て説明する。彼らも落ち着きを取り戻したように、そして少し驚いなたような表情を見せながら彼女のことをもう一度見つめた。

「…な?そうだろ?」

そして俺もまた彼女に認識相違がないことを確認した。
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2024/05/25 19:33

「…見せない」

(安全ならね)

彼の不安そうな言葉にキッパリと言い返したが、心の中では一言付け加える。今から向かう教会が安全かは行ってみないと分からない。青年が教会へ行く事をリークした相手組織が再び彼を襲いに来る可能性も決してゼロでは無いから。

車を走らせて10分程度。教会へと辿り着いた。私は信者ではないが、まだマフィアでは無かった幼い頃に数回訪れた事はある。

「今日来ることは既に伝えているから──────

「「「お兄ちゃん!!!」」」「「「レオー!!」」」」

教会の裏庭から10歳ごろの少年少女たちが5、6人だろうか。私の言葉を遮り、嬉々とした表情と声色で声を揃えながら、青年へ向かって走り飛びつくように彼に抱きついていた。

「心配してたんだから!」
「お兄ちゃんおかえりーー!!」
「レオいないとつまんねーよー!」

皆それぞれ彼に言いたい事があるようで、各々一気に言葉を彼にぶつけている。"お兄ちゃん"と言っている子供も居るし、この青年は教会では兄のような大事な存在だったようだ。そして言いたい事を言い終えたのか、子供らの視線は今度は私へと移される。

「お兄ちゃん、この人だれ?」
「お前だれ!!」
「レオを連れてったのはお前か!!」

向けられる視線に含まれている感情は怒り、恐怖、不安。この子らにとって大事な兄を奪っていた私は悪者以外の何者でもないだろう。私を嫌悪するのも納得できるし仕方のない事だ。ただ此処で1つ困り事がある。
(……なんて返すのが良いんだろう)
私は子供が苦手だ。何を考えているのか分からないからだ。それに子供も関わる機会もこれまで無かった。別にこの子らを怖がらせたい訳でもない。出来ればマフィアには良い印象を持ってもらえたら嬉しいが、私は上手く笑うことも、面白い話をすることも出来ない。結局はこの子達にさらに恐怖感を与えてしまうだけ。
子供達が私に視線を向ける中、私は心の中で戸惑いながらも言葉を発せずにいた。
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2024/05/22 00:09
彼女は自分の提案を呑んでくれたのか黒スーツから着替えてくれた。大人っぽい服装で可愛らしいよりも美しいに近いだろう。でもどことなく可愛らしい服装の方が似合うんじゃないかなと思ったが、言葉にはしなかった。

それから彼女とともに屋敷を出て、玄関で待機してくれている黒い車に乗り込んだ。あの夜自分を連れてきてくれた車と同じものだった。マフィアは統一して同じ車種・車色なのだろう。久々の外の空気は心地が良かった。今まで当たり前すぎて外に出られることにここまで感動したことがなかった。そして運よく快晴で、太陽の陽だまりが何とも温かい。
彼女と車に乗り込み、運転手が車を走らせる。彼女が事前に伝えてくれたのだろう。彼女に「例の教会で問題ないですね?」と尋ねていた。彼女も問題ないと返答し、行き先が確定する。一番初めにシスターのところに行けるのは嬉しかった。子供たちも含めてみんな元気なことを願うばかりだ。

「…教会についても、武器とか見せないでくれよな…?」

念のための確認だった。もしかしたら俺は彼女の言葉に乗せられて、教会に付けばシスターも子供たちも人質にとって何かを要求してくるかもしれない。かといって、何もできないし何も与えられないが。こちらもまだ警戒心を解いたわけじゃないことを伝えるためにも釘をさす様に言う。
しかし、彼女への信頼は少しずつ芽生えていることは確かだった。

___________________

わざわざご連絡ありがとうございます!
承知しました!
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2024/05/19 17:30
(普段着………)
彼からの思わぬ提案に食事を進めている手をぴたりと止めた。視線を下に向け、黙ったまま考える。私はマフィアとして街でも割と顔が知れている方ではあるが、確かにスーツ姿で彼と出掛けたらあからさますぎて目立つかも知れない。

「そうだね。分かった」

下に向けて居た視線を彼へと戻し、無表情ではあるものの納得した様子で軽く頷いて彼の意見を了承した。そして再び食事をする手を動かした。

お互い食事を終えると彼には少し部屋で待ってもらうように伝えた。2人分の食事を終えた食器を片付けた後、自室へと戻る。クローゼットには必要最低限のスーツばかりだが、数着だけ、普段着も収納されている。普段着…とは言ってもカジュアルでシンプルなシャツとパンツくらい。それでもスーツ姿よりはずっとマシだろう。
そうしてスーツから、首元が少し開いた淡い青のシャツとグレーのパンツへと着替える。いつもの癖が袖は腕まくりをする形にし、長い髪は低い位置で一括りにまとめた。
そして再度彼の部屋へと戻り、2回ノックをして扉を開ける。

「車、外に待たせてるから行こう」

青年にそう伝えて2人で部屋出た。


────────────────
いつもお世話になっております!
教会のサブキャラの方達についてなんですが、私の方で回させて頂きます(* . .)⁾⁾
お伝えしていなかったので、こちらで突然ご連絡してしまいすみません;;
よろしくお願いいたします✿*
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2024/05/18 14:52
昨日と同じように彼女と向かい合って朝食を取る。本当に美味しい、今度レシピを教えて欲しいくらいだった。この数日間、朝食が美味しいとちゃんと味わえたのは今が初めてだ。そう噛み締めながら食事をとっていると何やら視線を感じる。見てみると自分の方をじっと彼女が見つめていた。何か気になることでもあるのだろうか。そこまで見られると若干恥ずかしい。その時、彼女の服装に目がいく。今日はこの格好で付き添ってくれるのだろうか。

「…今日だけはスーツ、やめないか?…なんか、ボディーガードが付いてます!って感じで、逆に目立ってしまいそうだし…。堅苦しくない、普段着だと嬉しいな。」

苦笑いを浮かべながら彼女に問いかける。マフィアの制服である黒スーツは、確かにかっこよくて彼女も似合っているのだが、それで今日一日一緒にいるには似合っていない。それに悪目立ちもしてしまって余計に目立ってしまいそうだと思った。ただでさえマフィアと一般市民が一緒にいるなんて余計に怪しまれてしまう。

「どうしても…とか、ルールがあるなら…今の言葉は無視してくれ。」
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2024/05/11 19:40
翌日の朝、いつも通りのスーツを着て2人分の朝食を受け取りにキッチンへと向かう。小さい時は可愛いものや綺麗なものが好きで、スカートやワンピースを来たりとそれなりに"普通の女の子"だったと思う。でもマフィアに所属してからは男が強いこの社会で生きるためにスーツだけを着るようにした。誰にも隙を見せたくなかったから。

朝食を持って青年の部屋に訪れると、服装がこちらの用意したものに変わっている。もしかすると着ないかもしれない懸念していたが問題なかったようだ。

「おは、よう……問題ないなら…良かった。」

昨夜、言葉を交わしたからだろうか。こちらの様子を伺っているようには見えるが、怯えているようでは無さそう。信用したい、とは言ってくれたが結局私は彼にとって恐怖する対象であることに変わりはないと思っていたので、砕けた挨拶をされたことに驚き、ぎこちない挨拶を返してしまった。

そして2人で昨夜のように、向かい合わせに椅子荷座ると朝食を食べ始める。彼も食事を摂っているようで安心だ。
(それにしても、美味しそうに食べるな)
昨日は部屋も暗く分かりにくかったが、改めて彼の様子を見ると一口食べる度に"美味しいです!"と顔に書いてあるように見える。ここの食事を美味しく思ってくれるのは私自身喜ばしい。
(…なんか、………いつもより美味しい、気がする)
前に誰かが言っていた。1人で食事を摂るよりも、誰かと一緒の方が美味しいって。マフィアになってからは警戒心も強く効率ばかり求めていたので、1人自分の部屋で食べるか、移動中に軽く済ませたり、むしろ食べない事もある。実はこうしてゆっくり食事を摂るのも昨夜が久しぶりのことだった。
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2024/05/06 10:15
彼女は俺の提案をすぐに呑んでくれた。緊張したがちゃんと伝えられてよかったと息を吐く。同時に明日には外に出られるのだと興奮してしまった。今まで当たり前にできていたことが酷く制限されてから、そんな些細なことでさえも嬉しく思ってしまう。彼女が部屋を後にした後、緊張の荷が解けたのか、お腹が満たされたせいなのか、すぐに睡魔がやってきた。そして今日初めて彼らが用意してくれた部屋のベッドに横になって眠りについた。

___________________________

翌日、部屋のドアが開く音で目覚めた。どうやら使用人らしい人が今日外に出るための服装を持ってきてくれたらしい。普段着にしてはいい布が使われていて、袖を通すのに気後れした。それから数分後に彼女がやって来る。美味しそうな朝食の匂いにすぐに食欲が湧いた。今までここに来てから、朝食がこんなに待ち遠しかったことはない。それに香りが昨日の夕食と似ていた。きっと昨日と同じ人物が作ってくれたのだろう。

「…おはよう。…この服も、用意してくれたんだろ?ありがとう。」

これまでとは違う砕けた声色で挨拶をした。今日の彼女はどうだろうか?初めて会った時のような怖い表情なのか、昨日のような年相応の優しい表情なのか、少し見るのが怖い。ただ守ってもらっている以上こちらから心を開くべきだと思い、俺から声を掛けた。
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2024/05/05 17:33
「分かった」

青年の希望は出来るだけ汲んであげたかったので、迷う事なく了承の返事をした。教会に行きたいのは当然の事だろうし、マーケットのような賑やかで活気のある場所に行けば彼の気も少しは晴れるかもしれない。ここ数日閉じ込めたままにしてしまったので、出掛けられる日は青年が楽しんで過ごせたらいい。

「それじゃあ…明日の朝、食事を終えたらいこう。
 ……また、明日。」

私が食事を摂り終わると丁度彼も食事を終えているようだったので、私は食事を終えた皿を重ね、それを持ち席を立つ。彼に声を掛けた後はすぐに部屋の外へと足を運んだ。そのままキッチンへと向かうのだが、途中私に"青年が食事を取らない"と伝えてくれた男が現れる。"説明もしたし彼も食事を摂った"と伝えると安心したような表情を見せた。
マフィアだからといって全員が冷徹な訳ではない。うちのマフィアは特に、家族は大切にするし普通の一般市民には親切な者が多い。ただ敵対人物に対しては心が無いのは事実。
でも今回に限っては、青年の事情はマフィア内で共有されているし、彼は一般市民なので丁重に扱うように、とボスからも言い渡されているので彼を無碍にするような奴は居ないだろう。
なので明日は私が付き添い役ではあるが、もし問題なさそうであればもっと話しやすい人に外出の付添役を頼むのも良いかと思った。
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2024/05/03 23:36
(あ、笑った)
美味しいと漏らしてしまった言葉に彼女も反応する。その時見せた彼女の表情が今まで見た中で一番柔らかかった。彼女の返してくれた言葉と表情が俺の心を温かくする。優しくてどこか懐かしい味、好みが似ると嬉しくなるのは人間の性質なのだろうか。

「…できることなら、シスターに会いに行きたい。…無理なら、いいんだ。」

彼女から提案されたことについて、最初に頭に浮かんだのはシスターだった。小さい頃からたくさんお世話になっていて、彼女から事情を伝えてもらっているからと言っても、俺自身が心配でならなかった。彼女も教会のみんなも元気だろうか。少しでもあって元気であることを確かめたいし、俺も元気なことを伝えたい。それができるだけでもだいぶ心が落ち着くと思うのだ。

「それから…マーケットに行きたい、かな」

明日はちょうど朝から広場でマーケットが行われる。庶民向けの活気ある市場が仮設置される。野菜や果物だけでなく骨董品やちょっとしたアクセサリーなども売られる。いつもだとなかなかいかない場所だが、少し明るくて賑やかな場所に居たいと思った。とはいえ、彼女としては気後れする場所かもしれない。彼女が嫌なのであれば、全然別の場所でいい。少しだけでも外の空気を吸えたらシスターのところ以外、どんな場所でも嬉しい。
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2024/05/03 20:46
先代のボス達の努力の末、今でこそマフィアは"この街の治安維持をしてくれている"と住民から評価されており外に出れば友好的な住民が多い印象だ。それでもそれは表面的な話に過ぎない。結局は『マフィア』だから。私たちに殺されないか、目をつけられないか気にして過ごしているだろうし、青年のような状況なら尚更私たちへの不信感は募るばかりでしょうに。それなのに彼は私の提案を受け入れてくれた。今時不思議な人だと思う。
(マフィアは怖いけど、私は違うんじゃないか…か)
彼にそう思ってもらえるのは何かと都合が良い。…こんな思考回路になってしまうほど、私はやはりどこまで行ってもマフィアだ。信用されるような人間じゃない。それなのに、この青年の言葉が嬉しいと感じている私も居るような気がした。

青年が食事を食べる様子を見ると、私は彼に気付かれないように安堵の息を吐いた。食事も口にあったようで何よりだ。食事はこの屋敷の家政婦が作っている。昔からいる家政婦で、幼い頃から私も彼女の食事を食べているのでまさに実家の味のようなものだ。彼女はとても良い人で私も心を許している数少ない1人のため、彼女の料理を褒めてもらえた事が嬉しくてほんの少し、周りには分からぬ程度に口元を緩めた。

「……ここの家政婦が、作ってる。
 私も…美味しいと、思う」

そうして食事を終えた後、再び口を開き彼の方へ顔を向けた。

「……どこか、行きたい場所があるなら……明日、行こうか。」

明日は仕事を休むよう予め周りに伝えてあったので、明日ならどこへでも彼の行きたい場所へ連れて行けると思いそう告げた。
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2024/05/01 21:00
「なんでそんな悲しいことをいうの?」

彼女の言葉に反射的に言葉がこぼれてしまった。言葉だけではない。彼女自身も悲しそうな、申し訳なさそうな表情を浮かべている。なぜそう暗い表情ばかりなのか。

「…あ、ごめん…。…こちらこそ、俺の希望を受け入れてくれてありがとう。
 勿論一人で出歩くなんて、…昼間でも怖いしさ、やっぱり。…だから、君が居てくれるのは心強いんだ。
 マフィアは怖い、今でもそう思っているけど…君は違うんじゃないかって、少し思ってる。」

ゆっくりと少しずつ言葉を紡ぐ。本心を伝えたかった。彼女なりに自分へ歩み寄ってくれようとしているのが酷く伝わったから。こうしてここへ一緒にご飯を食べに来てくれたことも、守ろうとしてくれることも、彼女なりの誠意だと信じたい。そして今度は俺から少しずつ歩み寄れるようにしたい。止まっていた歯車がゆっくり動き出したような心地になった。

「…い、いろいろと言ってごめん!!…や、やっとお腹空いてきた!なので頂きます…!」

場の空気を少しでも軽くしようとハキハキした喋りでご飯を頬張った。彼女が食べていたから毒は入っていないだろう。それに自分が作る料理よりも全然美味しくて驚いてしまった。「え、美味しい」と思わずこぼれてしまう程に。
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2024/05/01 20:57
「なんでそんな悲しいことをいうの?」

彼女の言葉に反射的に言葉がこぼれてしまった。言葉だけではない。彼女自身も悲しそうな、申し訳なさそうな表情を浮かべている。なぜそう暗い表情ばかりなのか。

「…あ、ごめん…。…こちらこそ、俺の希望を受け入れてくれてありがとう。
 勿論一人で出歩くなんて、…昼間でも怖いしさ、やっぱり。…だから、君が居てくれるのは心強いんだ。
 マフィアは怖い、今でもそう思っているけど…君は違うんじゃないかって、少し思ってる。」

ゆっくりと少しずつ言葉を紡ぐ。本心を伝えたかった。彼女なりに自分へ歩み寄ってくれようとしているのが酷く伝わったから。こうしてここへ一緒にご飯を食べに来てくれたことも、守ろうとしてくれることも、彼女なりの誠意だと信じたい。そして今度は俺から少しずつ歩み寄れるようにしたい。止まっていた歯車がゆっくり動き出したような心地になった。
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2024/04/30 16:59
拒絶されるかもしれないことを言っているのは分かっていた。それでも青年がこの提案を受け入れた事に私は安堵した。それと同時に、ただの一般人を巻き込んでいる事に強い罪悪感を覚えた。
彼は、私のようにこちら側には絶対にこさせない。平和な日常に必ず帰すんだ。

「……受け入れてくれて感謝する。
 外出は…、……………私が、付き添う形なら、構わない。
 君は監視されているようで気分が悪いと思うが……勝手に守らせてもらうだけ、だから
 私は、居ないものとして考えてくれれば…」

彼から伝えられた外出許可については受け入れてあげたいと思った。マフィアに要望を伝えるもの一般人ならかなりの勇気がいるだろう。正直1人での外出は許可をするのが難しいが、自分が付き添う形なら問題はない。けれどマフィアに嫌悪感があるであろう彼は私なんかと外出をすることも好ましくない筈だ。可能な限り距離は離して遠くから私が見守る形なら彼も少しは気が楽になるんじゃないかと思い提案をする。
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2024/04/29 20:07
彼女の話を一通り聞き終えて、俺は黙り込んでしまった。彼女が来てくれたからてっきり俺を解放してくれるんじゃないかと思っていた。しかし結論は真逆で、正直心により一層重しが乗ったような心地になった。こんな生活が続くなんて考えるだけで具合が悪くなる。毒入りじゃないことが分かっていても、箸を進める気にはなれなかった。一方で、嘘を付かれているわけではないことが伝わった。脅すような威圧的な言葉ではなく、対等に目線を合わせて伝えてくれた彼女。やっぱり、悪い人じゃなさそうだ。

「…俺はまだ、君たちを信用できない。…でも、君のことは信用…したいと思った。だから、君が答えを見つけてくれるまで、ここに残るよ。」

彼女の言葉に合わせて、俺も素直な言葉で返した。

「…ただ、俺もずっとこの空間じゃ苦しい。君を待ちたくても、先に気持ちが壊れてしまいそうになるんだ。…だからお願い。少しだけでいいから、外に出る機会を与えて欲しい。」

ダメ元なのは分かっている。けれどこちらの条件も飲んでもらわないと割に合わないんじゃないか。相手はマフィアだ。どんなことを言われるか、または暴力を振るわれるか、分からない。けれど自分を守るためにもちゃんと伝えたいことは伝えないといけないと思った。
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2024/04/28 21:20
呼び掛けに反応を見せてくれるか心配だったが、少し時間を置いから青年は席へ着いてくれたことにホッとする。彼には伝えなければいけない事が多い。何から話せば良いだろうか、と考えている際中だった。

「…!…別に─、……ここ数日、少し忙しかっただけ……大丈夫。」

表情には出していないつもりだったので、青年に寝不足と言い当てられたことに驚いた。『別に問題ない』と軽くあしらおうと思ったが、そんな態度では更に彼に警戒心を与えてしまうと思い、ぎこちない喋り方にはなってしまったが、なるべく丁寧に返答をした。

「……申し訳ないけど、君のこと…勝手に調べさせてもらった。
 …君が本当に、あの件について何も知らないというのもこちらは分かっている。
 なのに…何も伝えず、…閉じ込めたままにして、しまって…悪かった。」

少しの沈黙の後、私が口を開き謝罪すると同時に椅子に腰をかけたまま青年に頭を下げた。
そして顔を上げて、また言葉を続ける。

「でも、君を教会に帰さない方がいい……と、私は思ってる。
 君を襲った奴はラベンツァーノの人間だ。…だから、君があのマフィアと関わりがあるんだと踏んでいた。
 でも、君は何も関係なんてなかった。でも何故か、奴らは関わりのない君を狙っている。
 …何か、理由があるはずなんだ。
 その理由は分からないが、今君を解放したところで今度こそ彼らに殺されるかもしれない。
 …私もマフィアだけれど、市民を守るのも私たちの役目だと、思っているし
 君が狙われる理由も突き止める必要がある。だから……君が、…私たちを、信じてくれるなら…
 まだ、しばらくここに…残って、…くれないか。」
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2024/04/19 22:55
突然ノックが聞こえて身体をビクッと震わす。そこに現れたのは数日前の彼女だった。あれから一度も姿を現さなかった彼女に少しだけ心の荷が解ける。しかしすぐに顔を背ける。少し知っている人が来たからってなんだ。そんなことで俺を釣ろうとしているのか、と在りもしない予測をしていた。そんな予測が大外れだと分かったのは彼女が不器用ながらに紡いでくれた言葉だった。まるで片言のような台詞にちらっと彼女を見る。…少しだけ、俺が見たときの彼女じゃない様子だった。

彼女の言葉からしばらくして、俺は彼女が声を掛けてくれた通りにテーブルへと向かう。席に着くと、目の前には同じ食事が2つ並んでいた。それを確認してから彼女の顔を見つめる。そして少し目を伏せながら、口を開ける。

「……顔色、悪いけど、……寝れてない?」

彼女が恐る恐る言葉を紡いだように俺も恐る恐る言葉を吐く。先日見た彼女の表情よりもどこか暗くて、疲れてそうに見えたからだ。教会で色んな人を見ている。大人や子供、困っている人や病気を患っている人は特に顔に出やすい。そんな人を日々日常で見てきたからこそ、1回しかあっていない彼女の状態も読み取ることができた。
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2024/04/13 18:43
青年を家に連れ帰ってから丸一日が経過した。青年の調べが終わったらしく、私は車内で彼についてまとめられた資料を読んでいた。
名前はレオナルド・ルーチェ。捨て子で赤ん坊の頃から教会で育っているらしく、近所の住民からも見守られ育ったようだ。マフィアと関わっている可能性はゼロというのが調査員からの結論。
(…じゃあ何でマフィアから狙われる?)
この疑問に関しては引き続き調査をしているが、一先ず青年は完全に白と思って問題は無いだろう。
今彼を解放することも出来るか、今度こそ奴らに殺される可能性の方が高い。やはり此処にいた方が安全だと思い、彼を解放するという判断はしなかった。

さらにあれから2日が経過した。ここ数日忙しくまともに屋敷に帰宅出来なかったが、ようやく仕事が落ち着き帰宅することが叶った。丁度夕食どきの時間帯で食事を摂っている仲間も少なくない。私も何か食べるものを貰おうとキッチンへ向かう途中、彼の世話を頼んでいた男に呼び止められた。内容を簡潔にすると、青年が食事をまともに摂っていないとのこと。…それもそうだ。一般市民で、訳も分からないまま不安と恐怖に支配されている中食事なんてとれる訳がない。
私は男に自分が代わりに向かうことを伝えると、2人分の食事を手に持ち青年のいる部屋へと向かった。
青年の部屋の前に辿り着いた後、私はトントン、2回ノックを鳴らし扉を開けた。

「………食事、摂ってないって聞いた」

部屋の隅でうずくまる青年を見て罪悪感が湧く。これが青年のためだと思ってやっていたとしても、マフィアでは無い彼がストレスを感じることなんて当たり前だった。
心のどこかではそんな事に気がつく事が出来ないほど日々、"マフィア"に染まり続ける自分が嫌になった。

私は2人分の食事をテーブルに置くと、二つある椅子のうち片方に腰をかけた。

「……君と、話がしたい。……こっち来…て、もらえないか」

何とか相手に警戒されないよう、なるべく自分が思いつく丁寧な言葉で彼に声をかけた。
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2024/04/11 22:05
あれから2、3日が経過した。窓から差し込む月明かりは、あの日の出来事を呼び起こす。呼び起こされる度に恐怖に襲われた。あれから一歩も外に出ていない。この真四角な空間の中にだけずっと居続けた。外出も止められている。昼間だろうとも関係なかった。まぁどの道外に出る気力するら残っていない。定期的に食事を運んでくる大柄の男がいたが、その風貌からして俺に銃口を向けてきた男の姿を重ねてしまって食事すらまともに取れなかった。空腹なのに何も食べたくない。食欲があるとないとではこんなに気分も違うのかと、人生で初めて心が潰されるような感覚だった。

今日もまた本棚とベットの隙間に身を寄せる。少しだけ背伸びして窓から恐る恐る外を覗く。何台もの黒い車が停車しており、複数の男がうろちょろしている。警備なのか、誰かを待っているのか分からない。
あの少女の姿は見えないから、きっとどこかに出かけているのだろう。あんなに若いのにこんな世界にいるなんて、そして生き続けられているなんてどんな強靭な心の持ち主なんだろうか。住む世界が違うとはこういうことなのかもしれない。

今日も今日とて、俺は蹲りながらこの夜が明けるのを待っていた。
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2024/04/07 19:37
"早くシスターに伝えてくれくれ"
私はその言葉を聞いた後特に返事をすることもなく彼を部屋に残し廊下へと出た。廊下には既に組織員が複数人私が出てくるのを待っていたようだった。階段を降りながら私は彼らにこう指示した。

「あの青年の素性を調べて。ラベンツァーノと関わりがあるかもしれない。
 ユラ、君は教会へ行って。しばらく彼は此処で匿うことになったからシスターに事情を説明するように。
 桃色の髪の青年と言えば多分伝わる。丁重に扱うとも言っておいて」

(…丁重に扱うのは彼が本当に何も知らないただの一般人なら、だけど)
ただ一般市民にそこまで伝える必要はない。今は青年の家族に安心してもらうため、そしてこの組織の評判を落とさないためにもそう伝えるのが1番だと判断した。ユラは元気がよく素直で印象もいい青年だ。怖い顔した他の者が向かうより言伝役は彼が適任だろう。青年の名前を本人の口から聞く事は出来なかったが、これもこれから組織員が調べればすぐに分かる情報だ。

こうして今夜の異常な事件についてそれぞれが動き出す。
私もまた、今夜の件について従兄弟でありこの組織のボスである「エドアルド」へ伝えることにした。
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2024/03/31 12:05
「……言いたくない。」

警戒するような鋭い瞳で彼女を見つめる。俺を殺そうとした男は俺の名前を知っていた。どうして知っていたのか分からないけれど、名前を知られていると怖い目に遭った。マフィアに名前を知られてはいけない、その時は殺される合図だと今回の件でよく理解した気がする。だからこそ、彼女にもそう容易く教えられない。彼女が名前を教えてくれたからって、それだけを信用する材料にしては浅はかだ。

「早く、シスターに伝えてきてくれ。」

そう言って彼女をこの場から居なくさせようとした。今は匿ってくれるからと言って彼らを完全信用できないし、何より落ち着く場所がないんだ。心臓の胸打つ音が酷くて鳴りやまない。落ち着けと何度唱えても震えが止まらないのだ。だからこそ今、早くひとりになりたかった。

彼女が俺の言葉を聞いて部屋を後にしたのを確認すると、その場からすぐに部屋の奥へと移動した。ベッドと本棚の角に背を持たれ、蹲る。狭い空間は安心した。それから何も言うことなく、俺はずっと黙っていた。
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2024/03/31 01:46

「…分かった。必ず伝える」

私は椅子から立ち上がり、扉の方へと足を進める。
マフィアの仕事の中でも、私は同業者を相手にする仕事が大半だ。つまり一般市民と関わる事は滅多に無い。彼が本当にただの一般市民であれば、こんな風に訳も分からないまま恐怖に包まれるのは私では想像が出来ない程不安で仕方ないのだろう。本来なら私のような人間とは一生関わる事が無いであろう彼をこちらの事情で巻き込んでしまった事を心苦しく思った。

「… イヴ。私の名前。
 屋敷に滞在する間何か問題があれば私に言うように。」

別の組織員を彼の見張りにつけてもいいのだが、彼が極めて重要人物である可能性が高いため暫くは私が直接この青年を見張ることになるだろう。呼ぶ時困らぬようにと自己紹介を済ませた後、今度は彼に質問を投げかける。

「君の名前は?」
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2024/03/29 00:04
「シスターのことまで…知っているのか…」

俺は益々怯えた。そうそう彼女たちがシスターのことを知るわけがないと思っていたからだ。その口ぶりからして元々知っていたようにも見える。ここで初めて、この暮らしの情報は全てマフィアに筒抜けなんだと思い知った。マフィアに監視されている、今までそんな感覚味わったことがなかったが、今理解してゾッとした。
今すぐ教会に帰りたかった。子供たちがお腹を空かせている、夕飯を完成させてあげなきゃいけないんだ。なのにここから出られないし、出られたところでいつ頭を撃ち抜かれるか分からない。俺の安全地帯はどこにもなかった。俺はその場にしゃがみ込み、震える身体を自分で抱きしめるように体を包んだ。知らない場所に知らない人、命を狙われているという恐怖に負けてしまった。

「シスターと子供たちには…夕飯、作ってやれなくてごめんなって…伝えてくれ。」

小さく今にも切れそうな細い糸を辿るような声で彼女に伝言を頼んだ。最後の言葉になるかもしれないけれど、そんなありふれた言葉の方が彼らに安心を与えるだろうと思って。それだけ言うと、俺はすぐ近くの壁と棚の角にうずくまるように座り込んだ。今はもう、彼女の言葉に従ってここに居るしかないのだ。沈んだ表情のまま、黙り込んだ。
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2024/03/24 15:32
(…益々意味が分からない)
青年はラベンツァーノとの関わりは無いらしい。無論嘘の可能性もまだ捨てきれないが、彼が言った『教会に帰してくれ』という言葉に少し反応する。マフィアでも信仰者はいて教会に定期的に祈りに行く者も少なく無い。かくゆう私も、幼い頃よく祈りに教会へ足を運んでいた時期がある。以前、組織員から教会で小さな子供とよく遊び相手をしている青年がいる、と小耳に挟んだ事があるがもしかするとこの青年の事なのかもしれない。

「…君を帰すことは出来ない。君が命を狙われているのは十分理解しているでしょう。
 この街の治安を守る事もこの組織の仕事。君が殺されないためにも、しばらくはこの屋敷に滞在してもらう。教会に住んでいるのであればシスターアウロラにはこちらから君の状況について伝える。」

本来はボスに確認を取るべきだが今回は特例だ。もしもラベンツァーノが何か目的を持ってただの一般市民を殺そうとしているのであればそれは必ず阻止するべきで、この青年がまだ狙われている可能性が高いのであればこの屋敷で匿うのが今1番の解決案だと、むしろそれしか無いと考えた。
もし教会に帰した所で家族ごと殺されることも考えられる。だからこそ青年はここに滞在し、教会に関してはカルジェロから教会に警備役を配置させる。標的がいないのであれば教会の人間に手を出すことも無いだろうが念を考えての措置だ。
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2024/03/24 10:21
”カルジェロ”という名前を聞いて身体がビクッと反応した。昔からこの街を支配しているマフィアの名前だ。勿論知っているが、カルジェロに属している人…つまりマフィアを実際に見たことも関わったこともなかったため未だに目の前の状況把握に頭が追い付かない。そしてラベンツァーノも知っている。同じくこの街を支配するマフィアだ。その2大強勢と俺は何で関わることになっているんだ。
しかし俺とほぼ同年代位の彼女のような少女でさえ、こんな裏社会に属しているなんて。言えないが”可哀そう”と思ってしまった。

「し、知らない!俺は、マフィアに因縁を持たれるようなこと…した記憶なんてない…。大体、なんで俺がマフィアに殺されかけなきゃならないんだ…! こっちが知りたいわ!!」

彼女の問いかけに震えた声で答えるしかできなかった。でも伝えた内容はまさに本心であって。狙われる理由も殺されないといけない理由も何もかも知らないんだ。訳の分からない状態で、恐ろしい組織の屋敷に連れ込まれて、これから何をされるか分からない。また”分からない”ことが増えてパンクしそうなのだ。

「俺は本当に、…本当に何も知らないんだ!だから、家に…教会に帰してくれ…!」

こんな場所から早く居なくなりたい。その一心で訴えるように言葉を吐いた。
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2024/03/24 00:29
「…そう」

先ほどの現場近くで地面に転がった食材があったのは目にしている。この怯え方からしてもやはりただの一般人だとしか思えない。でも、マフィアが一般人を狙う理由なんて無い筈。彼が危ない事に関わっているのであれば話は違うが…関わっているような人物には見えないし、そもそもこの街でマフィア以外が裏の世界に関わっていればカルジェロにも話しが入ってくるだろう。今の所この青年は限りなく白に近いが、詳細に調べてみないと真実は分からない。

「………カルジェロ。この街の人間なら知っているでしょう。ここはカルジェロの屋敷。
 …で、君をさっき殺そうとした男はラベンツァーノの構成員」

怯える青年に構うことなく、私は淡々と簡潔に言葉を並べた。
こちらとしては、以前からラベンツァーノ構成員であるあの大男が不審な動きでカルジェロの力が強い西側の街を出歩いていると情報を貰っていた。これまでは逃げられていたが今回こそと思い駆け付けた所、青年が殺されかけていた…というのが事の顛末。本来は大男を捉えるべきだったが、私が撃たなければ青年が死んでいただろう。

「君はラベンツァーノと関わりがあるのか?」

一般市民である彼がどうしてラベンツァーノに狙われているのか。ただその理由を知るために質問を投げかけた。
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2024/03/21 23:00
知らない車に乗せられ、知らない屋敷へと案内された。完全に誘拐された。しかしここから逃げられることもできない。拘束されていないとはいえ、踵を返して一目散に走るなんてことも考えられたが、身体が反射的にその行動を許さなかった。そのまま彼女の指図されるままに足を進めた。
屋敷の中にはいるとその広さに唖然とする。天井も高く、大きな階段が上へと繋がっていた。彼女の正体など知る由もなかったが、一人で住むには大きすぎるし、じゃぁあの車を運転してくれていた男性と二人暮らしなのかと言われたらそれも違いそうだった。もっと大所帯が使うような広さであるが、その割には殺風景で生活感もあまり感じられなかった。一般家庭とは違う異様な雰囲気だけは感じられたが。

その後、彼女の案内されるまま階段を上り奥の部屋へと進んだ。豪勢な部屋にこれまた呆気にとられるが今度はすぐに意識を戻した。俺はその部屋のドア近辺から動くことができず、ただただ立ち尽くしていた。そんな俺にお構いなく、彼女は椅子に腰を下ろす。

「…市場に…っ…夕食の、食材が足りなくて……それで…」

ゆっくりと恐る恐る彼女の問いに答えた。正直、質問したいのはこっちだった。なぜ自分を助けてくれたのか、屋敷に連れて来たのか。聞きたいことの方が頭の中に溢れかえるが、それを口にすることなどできなかった。
あぁ早く帰りたい。シスターやみんなのところに帰りたい。気が付けば武者震いのように体が小刻みに震えていた。
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2024/03/17 16:52
抵抗する事無く素直に指示に従ってくれた事に内心安堵しながらも、近くの路で待たせていた車まで歩いた。
運転席には同じマフィアの組織員が乗り込んでいる。後部座席側へ指を差し、青年に「乗って」と伝え彼が乗り込む所を見届けた後、自分も反対側のドアから彼の隣の後部座席へと乗り込んだ。車は直ぐに発信し私たちの屋敷へと向かう。こちらの出発と入れ違いで車が1台到着するが、同じマフィアの人間だ。"片付け"をしに来たんだろう。
車の中は終始無言のまま、数十分車を走らせると街の西側に在る私たち…マフィア『カルジェロ』の屋敷へと到着した。敷地は大きな塀で囲まれており、車のまま最初の門をくぐると、屋敷前に広がる庭に迎えられる。駐車はまた別の所のため、屋敷前で車が1度停車した。「降りて」とまた青年に伝え、私と彼が降車すると車は駐車場所まで向かい再発進した。

「こっち」

短く一言、青年に言い放った後彼が後ろから着いてくる事を確認しつつ屋敷の中へと足を踏み入れる。外に出払っている人間が多いのか、今日の屋敷は随分静かに感じた。屋敷の最高階の3階まで階段を上り、1番端にある部屋の扉前まで辿り着くと青年を中へと通した。ここはゲストルームだ。客人を泊めるための部屋のため質素ではなく豪勢な仕様になっている。そんな部屋で青年は困惑した表情のまま立ち尽くしている所、私は椅子に腰を下ろし脚を組んだ後、冷静な表情で彼に問いを投げ掛ける。

「夜に出歩いていた理由は?」
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2024/03/16 09:01
すると男は何気なくジャケットへ手を伸ばすと拳銃を取り出し、何気なくこちらに銃口を向けた。何が起こったのか一瞬分からず硬直してしまう。しかしカチャッという音を聞き恐怖が襲ってきた。反射的に体を回転させ走り出す。「撃たれる」「殺される」「怖い」…色んな感情が一気に襲ってくる。俺が何をしたっていうんだ、そもそもなんであいつは俺の名前を口にしたんだ。…いや死ぬ前にこんな考えを思い浮かべるなんて。もっとシスターへの感謝とか伝えたいのにそんな余裕が1mmも持てなかった。

そんなとき、大きな女性の声が聞こえる。その言葉を飲み込む間もなく、反射的にその言葉に従う。その場にしゃがみこみ頭を両手で押さえた。その時、乾いた拳銃の音が響き渡る。細い路地では尚更大きく聞こえた。その数秒後、ドスッと重い音が聞こえる。振り返るとそこには先ほど銃口を向けていた男が頭から血を流して倒れている。

「うわぁぁぁぁ!!!」

今目の前で人が殺され、目を逸らしたくなるような光景と鼻を突くような強い血の匂いにパニックになってしまった。手だけじゃなく身体も震えが止まらない。その時、一人の女性の声が聞こえてそちらに顔を向ける。自分とは真逆に落ち着いた表情を浮かべている少女が「着いてきて」と。今目の前の男を殺した人だ、これで着いてこいと従う方が怖い。だけど何故だろう、彼女の声なら”大丈夫”と思えた。

「………は、…はい…。」

俺は立ち上がり、彼女と少し距離を取りながら歩き始めた。
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2024/03/15 23:01
青年が問い掛けを肯定した後、大男はごく自然ににジャケットの内側へと手を伸ばす。ジャケットから出てきた右手には拳銃が握られていた。そして迷うことなく青年へと銃口を向けるが、青年は慌てて逃げようと駆け出す。逃げる様子の青年を見ても大男は決して焦る様子も無く、ただ冷静に青年へと銃口を向け直し狙いを定めていた。静かで街灯も少ない細道、聞こえてくるのは青年の荒い息遣い。
大男はすでに指を引き金にかけている。そんな差し迫った状況の中で、女性の声が細道に響いた。

「伏せろ!」

女の声が青年にも届いたのか、青年は反射的に身を地面へと伏せる。
その後すぐに重い金属的な衝撃音が二度、街に響いた。

────────────────

「………」

いつからだろう。自分を押し殺し、この生活に慣れてしまったのは。
目の前には先程私の目の前で背を向けており青年に銃口を向けていた大男がうつ伏せの状態で倒れている。
いや、頭を狙ったからもう息は無いだろう。私は右手に握っていた拳銃をすぐがショルダーホルスターへとしまう。
青年は建物の隙間から月明かりに照らされ、怯え、そして今の状況に困惑している様子がよく分かった。
…見るからに一般人。彼の素性は誰かに調べてもらうとして、正直"こちら側"とは無縁に生きていそうな雰囲気をしている。…まあ、人は見かけにはよらない。一旦ここは離れ別の場所で話を聞く必要があると思った私は青年に一言伝える。

「…ここは危ないから、着いてきて」
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2024/03/15 22:44
青年が問い掛けを肯定した後、大男はごく自然ににジャケットの内側へと手を伸ばす。ジャケットから出てきた右手には拳銃が握られていた。そして迷うことなく青年へと銃口を向けるが、青年は慌てて逃げようと駆け出す。逃げる様子の青年を見ても大男は決して焦る様子も無く、ただ冷静に青年へと銃口を向け直し狙いを定めていた。静かで街灯も少ない細道、聞こえてくるのは青年の荒い息遣い。
大男はすでに指を引き金にかけている。そんな差し迫った状況の中で、女性の声が細道に響いた。

「伏せろ!」

女の声が青年にも届いたのか、青年は反射的に身を地面へと伏せる。
その後すぐに重い金属的な衝撃音が二度、街に響いた。

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「………」

いつからだろう。自分を押し殺し、この生活に慣れてしまったのは。
目の前には先程私の目の前で背を向けており青年に銃口を向けていた大男がうつ伏せの状態で倒れている。
いや、頭を狙ったからもう息は無いだろう。私は右手に握っていた拳銃をすぐがショルダーホルスターへとしまう。
青年は建物の隙間から月明かりに照らされ、怯え、そして今の状況に困惑している様子がよく分かった。
…見るからに一般人。彼の素性は誰かに調べてもらうとして、正直"こちら側"とは無縁に生きていそうな雰囲気をしている。…まあ、人は見かけにはよらない。一旦ここは離れ別の場所で話を聞く必要があると思った私は青年に一言伝える。

「…ここは危ないから、着いてきて」

無論、拒否権は無い。強い圧をかけた声色を
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2024/03/10 23:33
突然、目の前に男が現れる。黒いスーツの大柄な男性だ。最初は突然の出来事にキョトンとするしかなかったが、見知らぬ目の前の男性から俺の名前が発せられて背筋が凍るような感覚になる。こんな人、知り合いだっただろうか?少なくとも俺にはその記憶はない。けれど、相手の威圧感と友好的ではないその様子に意識よりも体が警告を出しているようだった。それは本能というものなのだろうか。”早く逃げろ”と身体が叫んでいる。なのにどうしても足を動かせない。恐怖に撒けているのだとすぐに覚った。
この時、あることを思い出す。シスターから言われた言葉だ。

”いいかい。暗くなったら外に出てはいけないよ。この街の守り神たちが、現れる時間だからね。”

あの時、まるでお伽噺のような言い方で俺を怖がらせないように、でも忠告をしてくれていたのだろう。あぁきっと俺が夜の世界をあまり怖がらなかったのはこの言葉のせいかもしれない。

「……は、はい。……そうです、けど……」

少し困惑したような声色でそう答えた。ここで嘘を付いてもよかった。でも嘘がバレたとしたら何をされるか分からない。相手が何故俺の名前を知っているのか知らないけれど、俺は今そう答えることしかできなかった。

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2024/03/09 16:24
ここはヨーロッパにあるとある街「ヴェルーナ」。海が近く、交易も盛んで人が多く行き交う街だが此処は少し変わっている街でもある。
2つのマフィア組織が強い力を持っており街を支配しているのだ。
街を支配している2つのマフィアの名は「カルジェロ」「ラベンツァーノ」。
歴史の長いカルジェロと、ここ数年で勢力を拡大したラベンツァーノ。どちらも 街の平和を保つ組織ではあるものの、彼らの"マフィア"としての顔を知る者は少ない。知っていたとしても決して口を開かない。
口止めをされているからなのか、
それとも…すでにこの世には居ないからなのか。

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陽も落ち辺りが暗くなった時間帯。黒いスーツに身を包み、黒い中折れハットを被った大男が道を歩いていた。
この街では夜に外を出歩く人間がかなり少ない。夜は"マフィア"が活発的に動く時間帯でもあるからだ。
大男は辺りを見渡し何かを探しているように見える。そしてその大男はやや紫みのある桃色の髪をした青年に目を留めるとその青年の正面に立ちはだかる。

「おい、お前がレオナルド・ルーチェか」

帽子を深く被り表情も読み取れない大男は低く圧のかあった声色で一言そういった。
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2024/03/04 21:58
「やっべちょっと足りない……」

いつも通り俺は夕食づくりをしていた。今日の献立は具沢山のシチューとパンの予定だ。パンはすでに釜土から取り出していてバターのいい香りが漂っていた。焼き立てのパンもいいのだが、焼き立てだとすぐに食べきってしまう子供たちが多いため、少し冷ましてから出す様にしている。少し前から煮込み続けていた野菜たちへ味付けをしようと牛乳やブイヨンなどを入れてたところ、牛乳の量が足りないことに気付く。このままでは完成させられない。外を見るとだいぶ陽が落ちてしまっていた。

この町ではマフィアが統治している。先日、その争いに巻き込まれて亡くなった人だっていた。そのせいか夜に外に出ないようにと強く注意喚起されている。こんなゾッとする話でもこれが日常茶飯事になると少しずつ危機感も薄れてしまう。現に俺も巻き込まれたりその現場を目撃したことはなくて、浮世離れしていたんだなと後になって後悔する。

市場は近いから走れば間に合う!

そう思った俺はシチューを煮込んでいた鍋の火を止め、財布を持って外へ出た。まだ遠くの方で夕日が赤く強調しているのが見える。その一刻でも逃すまいと走って市場へ向かった。

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しかし戻ってくる頃にはとっくに日は落ちて月が替わりに照らしている。でも欲しい分の牛乳は買えた。あとは戻るだけだ。幸いにもここまでの道のりで何も起こらなかったから、俺は少しでも早く帰れるようにと近道のできる細い道を選んだ。これだと大通りを通るよりもずっと早く帰れる。
そう思い、街灯の少ない細道を歩いていた。



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