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〖1:1〗オリチャ
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(1)向坂 洸× 佐倉 絃
2024/02/17 21:37:35
投稿者:
うるるん
1コメお願いいたします(*ᴗˬᴗ)⁾⁾
紫雨
2025/02/09 01:51
「な、ない…だいじょぶ…」
何とか洸に返事がしたが、俺の心の中は滝のように涙を流し続けていた。この"展開"になってしまった事に。
(知ってんだよ…ゲームをクリアしてる俺は知ってる…この二人はマジで相性が最悪って事を──‼︎)
恋愛ゲームでは攻略対象と主人公の邪魔をする悪役キャラクターが存在したりする。BLゲーム「らぶスタ」も例外では無い。
例えば向坂洸ルートだと、別の攻略キャラクターが弊害となる訳だが、この早乙女琥太郎ルートでは、向坂洸の存在が弊害となる訳だ。
(これに関しては向坂洸が何かしたとかじゃなくて、主人公と向坂洸が友達として仲良いだけなのに
早乙女が異常に嫉妬する…みたいな展開だったけどな…)
あれは流石に向坂洸が不憫だったが、彼も優しいだけのキャラでは無いので、早乙女ルートでの二人はそれはもうしっかり仲が悪い。
最終的に主人公に宥められた(?)早乙女が心から反省して向坂洸に謝ることで何とか関係が修復するのだが…
(でも今ここにその肝心の主人公が居ないし…‼︎
…ん?でも待てよ。この二人が喧嘩するって事はもしかすると主人公は今早乙女ルートを進んでるって事か─⁉︎)
そんな時、タイミングよく廊下の奥の方に主人公"七海 優"の姿を捉えた。ここで喧嘩の仲裁に入るのならそれは確実に───
期待を胸に秘めたその時、七海優はチラッとこちらに目を向けたものの、全く興味のなさそうな表情ですぐに教室に入り、姿を消してしまった。
(───ですよね‼︎)
ここはゲーム通りの世界じゃない。各々が"生きている"世界。まず俺の存在がイレギュラーなのだから、主人公が喧嘩の仲裁に入らないのだって当たり前だ。少しでも希望を抱いた俺が馬鹿だったのかもしれない。
涙が止まらなくてそろそろ心の中で湖でも出来そうな気分だ。
(でもそうか…!ゲーム通りじゃ無いなら、案外この二人相性良かったり…!)
「─ あ゙?」
ドスのきいた威圧感のある低音。怒りの混じった声色。俺に向けられたものでは無いのに、ただ怖いと思った。
ゲーム通りなら根は悪い人ではないと知っている、つもりだが、ただタイプ的に俺とは合わないんだろう。それに性格は恐らくゲームの通りで、この様子なら向坂と相性が良いってことも無い。
違反申告
紫雨
2025/02/09 01:50
早乙女は今にも殴りかかって来そうな険相を浮かべている。周りの空気もピリついているのに、洸は少しも早乙女を気にしている様子を見せない。…それが逆に、この男を怒らせる。自分に興味のない主人公につきまとって恋人にまでなった男だ。
(本当なら主人公が止め…っいやそうじゃないだろ俺‼︎)
ここで関係のない七海優を巻き込むのは選択外。けれど誰かが止めなきゃ早乙女が暴走する可能性もあり得る。
だから、俺は───
────────────────
「─ あ゙?」
(…は?コイツ俺の言葉無視しやがった。)
俺の言葉を無視した奴なんて今まで居ない。この状況が俺にとっては絶対に有り得ない展開だったからか、すぐに"無視された"事実を飲み込むことは出来なかった。
だが、段々と怒りが込み上げ始める。冷たい水が沸かされ湯になるように、俺の怒りも熱を帯び始めた。
(しかも何が"ちゃんと前見て歩きな"だよ、煽りのつもりかよクソが‼︎)
無視された挙句自分の行いを指摘された恥、全く相手にされていない事への焦り。この感情を覆い隠すように増殖する怒り。抑えきれず行き場のない怒りを昇華する方法は様々だが、早乙女琥太郎はそれを暴力に変換しがちな男であった。甘やかされて生きていた16年間。それを真正面から注意する大人が彼の近くには居なかった。
指を刺していた腕をだらんと下し、力強く拳を握りしめた時だった。
この腕を振り上げるよりも先に、さっきぶつかったチビの男が向坂洸と俺の間に突然入り込んできた。
違反申告
紫雨
2025/02/09 01:50
「あっ!…あ、あの…!…、えっと…」
緊張しているのか、最初のは「あ」は声がひっくり返っていた。…いや、緊張というより明らかに俺を怖がってる。顔を見ると半泣きだし、声も少し震えてる。言葉に詰まっているのか困った様子を見せながらも、向坂の前から退こうとはしない。
(…?…コイツと喋ったことねぇよな?)
この学校に来てから1ヶ月。"まだ"暴力沙汰起こした事ねぇし、"割と"行儀良く過ごしてるって自信はある。今だって腕振り上げた訳じゃねぇ。
それなのにここまで俺を警戒して怖がるっていうのも、少し違和感があった。
(─まぁ、めちゃくちゃビビりってだけか。)
────────────────
(思わず前出ちゃったし声裏返ったし、この先何言うか考えてねぇし──‼︎)
俺は、早乙女が暴力を振るう可能性が高いと思った。腕を下ろして拳を握りしめた時、それはほぼ確信へと変わり、反射的に洸の前に出てしまっていた。
(暴力止めて…ってまだ暴力振るう前だったし、喧嘩しないで…は早乙女と初対面の俺が言っても響かねぇだろうし‼︎どうするどうする…‼︎)
ゲームの知識なんてあっても無いようなもの。例え主人公と同じセリフ•行動を取ったって"俺"ではきっと意味が無い。ただこの場を上手く乗り切れるような魔法の言葉もこの状況では思いつかず、困り果てている時だった。
「ば〜‼︎……クッソ、もう良いわ。」
そこに怒りは残っているように見えたが、彼は腕を振り上げる事は無く、ただ不機嫌そうにそう言った。
俺たちに背を向け、勝手にこの場から立ち去っていく。
(え、助かった、けど…絶対殴ると思った。…ゲームと違って手は出さない奴とか…?)
遠巻きに見ていた生徒たちもホッと安堵した様子を見せており、真は「おい大丈夫か二人とも‼︎」と必死に小声で声を張り、賢人は「ヤバいだろアイツ…」と驚いている様子だった。
◦⊹⋯⋯⋯⊹◦◦⊹⋯⋯⋯⊹◦
ここはなるべく穏便に済ませたかったので、こちらで収拾つけてしまいました、すみません;
そして本当に長くなって申し訳無いです…m(_ _)m
ご質問などについては、相談板の方でお返ししてます‼︎
違反申告
陽良
2025/02/03 03:37
____________________________
ひとつお伺いしたいのですが、よろしいでしょうか?
早乙女くんの恋愛対象は『女性』とありますが、
この転生された世界線では、あくまでも主人公は紘くんです
そんな紘くんを巡って、向坂くんと三つ巴になる展開などはありますか?
当初、此方では向坂くんと紘くんのみのカップリングですとお聞きしていますので、この質問は不要かもしれませんが……。
何だかこの早乙女くんの性格からして、敢えて『ちょっかい』をかけてきたりする展開ってあるのかなー、なんて思ったりもして。
また、向坂くん自身に『未だ』確信はないものの、紘くんへの思いに、少なからず早乙女くんや今後新しいキャラが気づく事はありますか?
上記について、どこかで既出だったら大変申し訳ないです…。
お時間あります時に此方にでも、ご相談板にでも、
ご回答いただけたら嬉しいです◎
違反申告
陽良
2025/02/03 03:26
今日も今日とて、俺たちは『いつもの四人』で、今は次の授業を受ける教室に移動していた。
何気ないんだけど、この移動教室の時の僅かな時間でも、こうして彼らとくだらないことで駄弁って笑えるのが、俺は存外好きだった。
今じゃ、学園生活においてのプチお気に入り、ってヤツだ。まぁ、俺以外には勿論内緒だけど。
…(にしても、まぁこの二人は仲良いよな~…。)
と、俺はケラケラ笑う真と、そんな真をじとっと見ながらも決して不快だという訳ではなさそうな、賢人をちらりと見やる。
きっと彼らみたいに、付き合いが長いからこその、こういった気安さというか、お互いに気を張らなくて済むような、何て言うか…『気の置ける関係』ってのが、出来るんだろうな。
俺はそれをいつも微笑ましいと思いつつ、どこかでは少しだけ羨ましいと思っていた。
…(ここに来る前って、俺にも仲良い友達とか…居たっけかな?でも、………)
多分、俺が今こうして笑い合ったり、他愛ない会話や時間をして過ごしたり、一緒にご飯を食べたり、遊んだりしたいと思うのは。
“過去”の友人よりも、目の前にいる彼らなんだろう。
いつの間にか、俺の中で彼らと過ごす時間は、大きくてそして何よりも大切なものになっていたらしい。
そんな風に少しばかり感慨に耽っていたものだから、賢人から「洸!!お前、さては俺の話を聞いてないだろっ!!」と、ご指摘を受けてしまった。
「はは、ごめんごめん。…で、賢人の………っと!?」
そんなやり取りをしていると、俺の隣を歩いていた紘に“何か”が思いきりぶつかった。
よろめく紘に咄嗟に手を伸ばして、さり気なくそんな彼を支えてやる。
違反申告
陽良
2025/02/03 03:26
幸い、大事には至らなかったもののその後に耳にした1ミリだって悪いと思っていないだろう、謝罪の一言。
どんな屈強なヤツが、と其方に目を向ける。
(…おっと。なかなかに…ていうか、俺と変わらないな、身長。体格もそこそこだし、ひとまず紘に怪我がないかの確認を………ん?)
どうやら向こうも俺の方を見てたみたいで、バチッと目が合ってしまった。
…どうする、ガンでも飛ばしたと勘違いされる前に逸らすべきかと考えた、この間僅か0.2秒。
その男は、俺をビシッと指差して「お前、向坂だっけ?」みたいな、興味があるんだかないんだか、よく分からない問いかけをされた。
とりあえず、その問いに頷いてみると、途端に注がれる無遠慮な“値踏み”の視線。
俺の中で先ほどからずっと感じていたものがようやく確信へと変わった。
…(俺、コイツの事……苦手だ!!)
辛うじて、『嫌い』だって決め付けなかった自分を褒めてほしいくらいなんだけど、それはさておき。
どうやら目の前の彼の中で、俺は何かにハマったらしく、『良い友達』だの、自分の事は知ってて当然、という何とも俺様な態度。
そんな彼に、俺は少しだけ逡巡した後。
差し出された手をすり抜けて、彼の目にかかる赤い髪へと手を伸ばした。
「君、随分と前髪が長いんだね。あ、だから見えてなかったのかな、ちゃんと前見て歩きな?」
それは悪意とかじゃなくて純粋に100%の善意。
俺はすぐに彼から手を離すと、紘に「怪我は?」と聞いた。
____________________________
新しいキャラの登場にドキドキでワクワクです…!!
とりあえず、早乙女くんのファーストコンタクトは失敗(?)した感じに、してみたんですが如何でしょうか……!!
意外にも、向坂くんにもちゃんと『好き嫌い』はありました笑
これからの展開に、ますます楽しみが止まりません!!
そして今回も、2つに分けちゃう形となりました…!!
見にくかったら申し訳ないです(o;ω;o)、、
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***このコメントは削除されています***
陽良
2025/02/03 03:21
今日も今日とて、俺たちは『いつもの四人』で、今は次の授業を受ける教室に移動していた。
何気ないんだけど、この移動教室の時の僅かな時間でも、こうして彼らとくだらないことで駄弁って笑えるのが、俺は存外好きだった。
今じゃ、学園生活においてのプチお気に入り、ってヤツだ。まぁ、俺以外には勿論内緒だけど。
…(にしても、まぁこの二人は仲良いよな~…。)
と、俺はケラケラ笑う真と、そんな真をじとっと見ながらも決して不快だという訳ではなさそうな、賢人をちらりと見やる。
きっと彼らみたいに、付き合いが長いからこその、こういった気安さというか、お互いに気を張らなくて済むような、何て言うか…『気の置ける関係』ってのが、出来るんだろうな。
俺はそれをいつも微笑ましいと思いつつ、どこかでは少しだけ羨ましいと思っていた。
…(ここに来る前って、俺にも仲良い友達とか…居たっけかな?でも、………)
多分、俺が今こうして笑い合ったり、他愛ない会話や時間をして過ごしたり、一緒にご飯を食べたり、遊んだりしたいと思うのは。
“過去”の友人よりも、目の前にいる彼らなんだろう。
いつの間にか、俺の中で彼らと過ごす時間は、大きくてそして何よりも大切なものになっていたらしい。
そんな風に少しばかり感慨に耽っていたものだから、賢人から「洸!!お前、さては俺の話を聞いてないだろっ!!」と、ご指摘を受けてしまった。
「はは、ごめんごめん。…で、賢人の………っと!?」
そんなやり取りをしていると、俺の隣を歩いていた紘に“何か”が思いきりぶつかった。
よろめく紘に咄嗟に手を伸ばして、さり気なくそんな彼を支えてやる。
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***このコメントは削除されています***
陽良
2025/02/03 03:21
幸い、大事には至らなかったもののその後に耳にした1ミリだって悪いと思っていないだろう、謝罪の一言。
どんな屈強なヤツが、と其方に目を向ける。
(…おっと。なかなかに…ていうか、俺と変わらないな、身長。体格もそこそこだし、ひとまず紘に怪我がないかの確認を………ん?)
どうやら向こうも俺の方を見てたみたいで、バチッと目が合ってしまった。
…どうする、ガンでも飛ばしたと勘違いされる前に逸らすべきかと考えた、この間僅か0.2秒。
その男は、俺をビシッと指差して「お前、向坂だっけ?」みたいな、興味があるんだかないんだか、よく分からない問いかけをされた。
とりあえず、その問いに頷いてみると、途端に注がれる無遠慮な“値踏み”の視線。
俺の中で先ほどからずっと感じていたものがようやく確信へと変わった。
…(俺、コイツの事……苦手だ!!)
辛うじて、『嫌い』だって決め付けなかった自分を褒めてほしいくらいなんだけど、それはさておき。
どうやら目の前の彼の中で、俺は何かにハマったらしく、『良い友達』だの、自分の事は知ってて当然、という何とも俺様な態度。
そんな彼に、俺は少しだけ逡巡した後。
差し出された手をすり抜けて、彼の目にかかる赤い髪へと手を伸ばした。
「君、随分と前髪が長いんだね。あ、だから見えてなかったのかな、ちゃんと前見て歩きな?」
それは悪意とかじゃなくて純粋に100%の善意。
俺はすぐに彼から手を離すと、紘に「怪我は?」と聞いた。
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紫雨
2025/01/25 17:24
────────────────
↓1コメントに抑えられず2コメントに分けていますm(_ _)m
見にくかったらすみません;;
*新キャラ早乙女→俺の事知ってるだろ、とか言っていますが
全然知らないって跳ね除けちゃっても大丈夫です…(´︶` )
違反申告
紫雨
2025/01/25 17:23
「んでさ、その時の賢人の反応がマッジでオモロいの‼︎」
「お〜い…」
腹の底からケラケラと笑う真と、照れつつも怒りの混じった声色でじっと真を睨みつける賢人。それを聞く俺と洸。俺達4人は今、談笑しながら次の授業を受ける教室へ向け移動している最中だ。真の屈託ない様子を見ている時だけは、俺もあまり考え込まず彼らと接することが出来ていると思う。
それでもまだ俺のこの気持ちは整理しきれていなかった。
「はは…ッ?!っと…」
突然だった。俺の背中にドンっと大きな何かがぶつかってきた衝撃を感じる。バランスが一瞬崩れるも、足が踏ん張り廊下で盛大に転ける展開だけは避ける事が出来た。
(ビ、ビビった…‼︎猪か牛とかがぶつかって来たかと思った…‼︎)
人間がちょっとぶつかってきたような衝撃では無かったと思ったけれど、流石に校内じゃそんなデカい動物居る筈がない。
「あ、わり。」
(…え、ちょ、この、声って…)
背の方から聞こえてくる怠そうな低い声色。悪いとは言っているが1ミリも反省の心がこもって無さそうなその口調。ドクンと大きく心臓が跳ね、恐る恐る後ろを振り返ると、俺の想像していた人物がそこに居た。
("早乙女 琥太郎"…‼︎)
向坂洸と同じく、このゲームのメイン攻略対象。俺たちと同じ高校1年。強引で自分本位な性格だが、独占欲の強さや男らしさ、加えて恋人になった後の従順さ、特別扱いが堪らないとゲームでも人気なキャラクターだった。
(でも俺は苦手…)
荒々しく語気が強い人物なので、苦手…と言うより怖いのかもしれない。ゲームのキャラとして見る分には問題なかったが、こうして対面すると…勿論美男ではあるのだが、それ以上に高圧的に感じた。
事実、この学園で過ごして1ヶ月の間であまり良くない噂を何度か耳にしている。
「や、…いや、大丈夫なんで…」
(この人を刺激するのは良くない、本当に‼︎)
何とかこの場を穏便に済ませようと、キュッと心臓を縮めながら苦笑いを浮かべた。
俺はさっさと此処から離れてしまいたくて足を踏み出したが、あろうことか早乙女が再び口を開いた。
────────────────
違反申告
紫雨
2025/01/25 17:23
────────────────
移動教室の途中、クラスメイトとゲラゲラと大笑いしながら歩いていたら誰かにぶつかった。男にしちゃ身長の低い奴だ。ちょっと勢いがあったからか、周りの奴は心配そうにこのチビを見ていたけど、コイツは大丈夫って言ってる。
(それよりも、隣のコイツ…)
俺が気になっていたのは、ぶつかったこのチビでは無く、こっちの"向坂洸"という男だった。じっとまるで観察するようにこの男を見つめた。
コイツはどうやら顔良し、頭良し、運動も出来て態度も良いらしい。この学園での生活が始まって1ヶ月…何故か俺ではなく、コイツの噂ばかりが俺の耳に届いた。
それがどうしようもなく、俺の癇に障る。今までじゃいつだって俺が中心人物だった。俺の話題で持ちきりだし、教師だって俺に良い顔する。少し悪いことしたって皆笑って許してくれたもんだ。
…それなのに、この学園に来てからと言うものの、俺はコイツと比べられる事が多い。
『どっちも顔は良いけどよ、早乙女はマジでヤバいよな〜!自分勝手すぎ‼︎
まぁもし性格良かったとしても、結局向坂には誰も敵わねぇよなぁ〜』
別に陰口なんてのは気にしちゃ居ない。どうせ負け犬の遠吠えだ。俺にはどうやったって勝てねぇからそういうダセェことをする。だけど"結局向坂には誰も敵わない"ってのが気に入らねぇ。俺は俺が1番で有り続けたい。だからこの男にはその内声を掛けようとは思っていた。
今ここで接近したのは偶然ではあるが、まず外見で俺がこの男に敵わない理由が理解出来ない。
(何つーか…弱そうな奴。こんな奴普通に俺以下だろ)
「……あー、向坂?だっけ。」
ビシッと男を指刺して、気怠い様子を見せる。肯定されれば「ふ〜ん」とマジマジと数秒、向坂を再び観察した。
俺以下ではあるが、そこそこイケてる奴だとは認めよう。
「うん、お前なら"良い友達"になれるかもな。
お前も俺の事は知ってるだろ?」
スッと握手を求める右手を差し出す。コイツも俺を引き立てる"良い友達"になれるだろうと思ったからだ。
俺を知っていて当然だろう、と言う気持ちで敢えて名前は名乗る事はしなかった。
違反申告
陽良
2025/01/08 22:43
紘があの日、“何か”に思い詰めて。
結果、見事に体調を崩して熱を出した日から、もう早くも数週間が経とうとしていた。
起床後、まずは自身の携帯を確認することが日課となりつつある俺は、今日もまずは携帯へと手を伸ばした。
日付の確認、それから友人たちとのメッセージなどの確認、など。
幸い、俺が通うこの学園は全寮制であるだけに、正直なところあまり天気などは気にしていない。まあ困ることといえば、体育などといった実技テスト授業が潰れて、教室で箱詰めになりながら、机に向かってテキストをこなすことだろうか。
俺は別に勉強することが、嫌いではない。
とはいえ、特別得意であるとか、何かに秀でているとか、そういうのでもなく。
ただ漠然と、勉強するしか時間を潰す方法を知らなかった、というのが正しいのかもしれない。
父親は自分に厳しく、そして他人にも厳しかった。当然、俺だって父親に叱責された経験は一度や二度ではないと思う。
けれど、それが変だと思ったことはなくて、むしろそれが男親と息子の距離感なのだと思った。
…(叱られるのは、俺が至らなかったからだ。)
いつからか、そう思うようになっていった俺は、勉学に励むようになったのも、とても自然なことのように感じられた。
『友達』という存在に、憧れを抱いたことがある。くだらないことでお互いにバカみたいに笑い合って、時にはケンカしたりして。
競い合ったり、泣いたり笑ったり。
気兼ねなくて、親しみを持てる存在…それが『友達』。
だからこそ、“失いたくない”。
紘との時間、真や賢人たちとの時間。
たった1ヶ月、されど1ヶ月。
俺にとって、彼らとの時間は何よりも『かけがえのないモノ』になっていた。
違反申告
紫雨
2025/01/02 15:39
俺が熱を出したあの日から数週間、この高校に入学してからは約1ヶ月の時間が過ぎ去ろうとしていた。勉学については不安があったが、何とか授業にはついていけてる。教室では向坂洸、そして相原真や町田賢人の4人で絡んでいることが多い。だがあの日から俺と洸の関係は…何というか、ギクシャクしている。決して仲が悪い訳では無い。程よい距離のクラスメイトって感じだ。けれど以前俺の部屋でゲームをした時はあんなにも自然に会話が出来たのに、今は2人になると俺が吃ってしまう。推しで緊張するから、とかそんな理由じゃない。
(……どう、喋ればいいか分かんねぇ)
前世、29歳で死んだ"俺"として接するべきなのか、それとも"佐倉絃"として接するべきなのか。どちらも俺自身であるはずなのに、どちらも俺では無いような。最近はこんな事ばかり考えている。つまりは俺にとっての自然体が何なのか分からなくなってしまって、向坂洸だけに限らず、誰と関わるにもぎこちなくなっている状態だった。
────────────────
いつもお世話になっております。こちらから失礼します。
今後↓こんな感じの展開で進めたいなと思っておりますm(_ _)m
佐倉絃▶︎現状向坂洸と友人になりたいと思いながらも、まだ今の状況や佐倉絃としての自分を受け止めきれず、周囲の人間と一線を引いてしまっている。
クラスメイトとして程良い距離感を保ちつつも、2人の間にはどこか壁がある状態だった。
>ここから、以前お伝えした展開(別攻略キャラの登場)をやっていこうかなと思っております…!
別キャラが悪役となって向坂洸に色々とするんですが、最初は受け流し穏便に済まそうとして頂ければ;
向坂洸に全く相手にされない事で怒りを爆発させた別キャラ/向坂洸を庇う佐倉絃…みたいな展開になればと!
最終的には向坂洸と佐倉絃の距離を縮めてちゃんと友達!みたいな関係に進められたらと思ってます◎
別キャラはこちらで動かす予定です!!
次ロルから新しいキャラ出していこうと思います◎
よろしくお願いいたします(* . .)⁾⁾(お返事不要です*ご質問あれば遠慮なく仰ってください‼︎)
違反申告
陽良
2025/01/01 01:47
あの後、俺と紘の間には妙な空気が流れていた。気のせいとかではなくて、本当に。
それもこれも、自分の行動に非があるのだというのは、勿論分かっている。
たとえ無意識だったとはいえ、出会って間もない相手に、ベタベタされたら、いくら紘が超が付くほどのお人好しだとはいえど、良い気はしないだろう。
だからこそ、彼の“あの反応”は至って普通であり、それが正常なのである。
(…なんで、あんな気持ちになったんだろう。)
自室のベッドに寝転がりながら、俺は天井を見つめて、そして先ほどまでの紘とのやり取りをふと思い返してみる。
今思えば、自らの行動に不可解な点はいくつかあるのだ。そしてそのどれもが、『自分の意思とは関係なく』…つまりは、無意識だったり、はたまた無自覚だったりする事が多いのに気付く。
自分を過大評価するでもないが、だがしかし俺はその辺の人と比べれば。まあ、見目は悪くない。
じゃあ、彼のことは?
(紘だって見目は整ってる、だろうな。人の美醜は正直気にしたことはないけど…。)
それにしたって。それにしたって、だ。
俺はあまりにも彼の一挙一動に対して、過敏になりすぎている節があるのは否めない。
…このままでは、彼に嫌われる、かもしれないと。
そんな思いが過れば、不思議と俺の胸はチクリと針で刺されたみたく、僅かに痛む。
『この感情』に、俺はまだ名前を付けられない。
だけど多分、俺は彼と共に過ごす時間を、失いたくはないのだろう。
そんな漠然とした彼への思いを改めながら、俺は眠れないままに、その意識を無理やり闇の中へと落とすことにした。
____________________________
新年、謹んでお慶びを申し上げます(ΘvΘ♡♡)
昨年は大変お世話になりました!!
稚拙なロルも、管理人様との日々のおりちゃによって、
少しは精進出来ておりますでしょうか…!?(ドキドキ)
まだまだ伸び代があると信じて励ませていただくと共に、
『楽しめるおりちゃ』を改めて信条として掲げ、
管理人様との時間をひとつひとつ大切にしていけたらと存じます♡
今年もよろしくお願い致します(*´ω`*)!!
違反申告
紫雨
2024/12/29 18:51
「っはあぁ…」
ボスっと自分の枕に顔を埋め大きなため息をついた。結局俺が彼の髪を触ったりなんかしたせいで、寮へ戻るまでの道中、変な空気感になってしまった。ギクシャクという擬態語が実際に聞こえたような気もした。せっかく下がった熱も上がりそうだ…。
ゴロンと体を仰向けに変え、天井の一点をじっと見つめながら考えることは向坂洸の事ばかりだ。友達になりたいのに、どうにも彼の前だと落ち着いた自分で居られない。理由は分かってる。彼が推しかどうかという点は置いておいて、まず彼は顔が美形すぎるのだ。流石攻略対象のキャラクターとも言える。そして、俺が自分に自信が無さすぎるのが原因だろう。
グッと体を起こし、部屋の中にある鏡に映る自分を見つめた。男らしい…とかじゃないけど、顔は整っている方だろう。少なくとも前の平凡な俺の顔と比べたら断然整ってる。それでも自信が無いと思ってしまうのは、前世の俺の人格と佐倉絃の人格が大きく乖離しており、俺がまだ自分を佐倉絃だと受け止めきれていないからだ。
"佐倉絃"としての記憶はあるし、この身体にも染み付いてる。だからふと、佐倉絃として無意識に身体が動く事がある。…さっき洸の髪を触ったのもそうだ。前の俺なら急に相手の髪を触ったりなんかしなかったと思う。
「……俺は」
俺と、佐倉絃としての人格が対立せず混ざり合えば、俺はもっと自分に自信が持てて、彼にも堂々と接する事が出来るだろうか?
────────────────
翌朝、熱はすっかり下がったようで身体もすっかり軽さを取り戻していた。けれど気持ちは重たいまま。
どうすればこの乖離埋めることが出来るだろうか。
そんな事を考えながら登校の支度を始めた。
違反申告
陽良
2024/12/09 19:22
____________________________
1コメントにおさまらず、
1000文字を超過しました為、2つに分けました
見づらいなどあったら申し訳ないです。。
違反申告
***このコメントは削除されています***
陽良
2024/12/09 19:21
____________________________
1コメントにおさまらず、1000文字を超過しました為、2つに分けました
見づらいなどあったら申し訳ないです。。
違反申告
陽良
2024/12/09 19:20
…(反応がネコちゃんみたい。)
俺の内心はそんな気持ちでいっぱいだった。
こんな風に、俺が少し触れただけでその体を跳ねさせては、時折不安げなのが混ざったような、少し戸惑ったような表情を見せる彼。
何となく、自分はここに来てからというものの、こうして紘と顔を付き合わせて取り留めのないやり取りをする度に、そんな表情ばかり見ている。…気のせい、かと思ったけれど、どうやら俺はこの目の前の彼を困らせることには、上手くなりつつあるようだ。
(…って、何だそれ。嬉しくねぇわ。どうせなら、もっと……。)
ハタッ…と、そこまで考えて気付いた。
俺は今、彼の“どんな表情(かお)”を思い浮かべた??
それを自覚した時には、俺は自らの頬を引っ叩き、
そして慌ててブンブンと顔を横に振った。
そんな彼はというと、俺の苦しまぎれの言い逃れにだって
こうして真面目に一緒になって応えてくれる。
「へぇ、市販…市販ねぇ。あれかな、元々の髪質とかやっぱりあるんだろうか?俺てっきり、この学園は全寮だって聞いてたからさ、そういう日用品とかって支給されるんだと思ってたんだよね~…。」
ははは、と少し苦みを含めた苦笑を漏らしてみせれば、
そんな彼はふと俺の髪に触れる。
「ッッ、うおぉ!?」
え、何何コレは一体どういう意味合いの触れ合い!?
と少し驚きつつも、『ああ、なるほどさっきの俺への仕返しか。』とすぐに合点がいったので、取り乱すこともなく…。
彼とこうして過ごすことが増えつつあるこの学園生活で、俺は今まで目を向けることがなかった、“自分自身の在り方”について、
時折思い耽ることがままあった。
違反申告
陽良
2024/12/09 19:19
ひとつ、分かったのは俺はとにかく『予想外の展開に弱いこと』。
紘は、奇想天外だとか、奇天烈な人柄だったり、性格をしているという訳ではないのだが、如何せん、彼は俺や周囲の人間とのボーダーラインを軽々と超えてくる事があった。
実際、彼自身にも俺を含めた周囲の人間との距離感や付き合いには、一定のラインがあるらしく、俺はどうにもそんな彼に見えない壁のようなものを感じている。
…(いつか、俺にも。心を開いてくれる時が、来るのかな…。)
きっと今はその時じゃない、俺も彼も、まだお互いに手探りで。
互いの在り方と寄り添い方を準備をしているところなのだろう。
今は、それで…いい。まだ、焦る時じゃない。
勢い任せに帰路を再び歩き始めた彼の隣を、俺は彼の歩幅に合わせるようにして、共に歩んだ。
違反申告
紫雨
2024/11/24 17:21
どうやら俺が髪を気にしていた様子に気が付いたらしい。
この数日度々感じたが、彼は本当に細かいところまでよく気が付く人だと思う。
ゲームの画面越しでは分からなかった彼の観察力の凄さにはつい驚かされる。
「え?いや、別に嫌とかじゃぁ…⁉︎」
そしてまた彼が俺の髪に手を添えてくるものだから、ついビクッと驚いた猫のような表情を見せる。
髪を撫でられるこの数秒間、俺はこの場に硬直することしか出来なかった。
(な、何だ…?髪、なんか付いてるのか?!それともやっぱ寝癖か?!)
一体どうして髪を触られているのか。その理由が気になると同時に、何となくこの状況がうら恥ずかしく思えてきた。
ただ髪を触られているだけで恥ずかしいことは何もないのに。
彼の触れ方がとても丁寧で、まるで大切なモノに触れているかのように感じてしまったから。
「ん!?あ、…ケア?」
彼に髪を撫でられることに心地良さを感じ始めていたその時、丁度彼の手が離れていった。
ぼうっとしていた意識が彼の声によって引き戻される。
(ほ〜、ケア…あんまり美容意識してるキャラってイメージ無かったけど…。ま、ゲームには出てないだけで実際はちゃんとそういうの気にしてんだな。)
これも俺が知らない新たな彼の一面と言えるのかもしれない。
「別にケアとかは何も…シャンプーとかも普通の市販のだよ。
んな事言ったら洸の方がよっぽど綺麗だしフワフワ…」
俺なんかよりも洸の方がよっぽど良い髪質だろうと。俺は思うがまま自然と彼の髪へと手を伸ばしていた。
毛先にそっと触れてみると、想像以上の柔らかな毛質に「おぉ…」と小さな声を漏らす。
最初は髪ばかりに目を向けていたから平気だったけれど、ふと彼と俺の視線がパチっと合わさった瞬間、(何してんだ俺‼︎)と心の中で叫びながら慌てて手を離す。
「悪いっ俺もつい気になっちゃ、って…早く帰ろ‼︎」
髪に触れる、ただそれだけの事。恥ずかしがる必要なんて無いのに、俺はどうしてか頬を染めていた。
そして勢い任せに足を踏み出し、俺と洸は寮への帰路についた。
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陽良
2024/11/16 01:29
「…髪、イヤだった?」
彼の手を半ば強引に掴んで保健室を出てから、何となくだけど彼は、しきりに自分の頭…さしずめ、髪の毛を気にしているように思えた。
思い当たるのは、どう考えても先ほどの俺の行動だろう。
…迂闊だった。てっきりあの時はそんな素振りなかったし、紘だって気にした様子もなかったから、そのままなかったことにされると思っていた。…のは、どうやら考えが甘かったらしい。
(あー…。でも紘の髪の毛、フワフワだったし、ちょっと気持ちよかった。猫っ毛?むしろ少し癖っ毛、なのか?特別セットとかしてるようには思わないけど…。)
なんてことを考えていたら、どうやら俺はまたもや無意識の内に彼の頭に手を添えて、フワフワと髪の毛を梳くように撫でていた。
もう一度言おう、完全に無意識である。
「あ。あー…。はは、悪い悪い。ベタベタ触られるのはさすがにイヤだよな。んー…そうそう!!随分と髪の毛がフワフワだったから、何かケアとかしてるのかなって!!それ、それが気になったんだよなー、ハハハ。」
ん、んー!!!!我ながらコレはさすがにない!!
めちゃくちゃ苦しい誤魔化し方ではあるけれど、もしかしたら…。
紘って、一見鈍感そうで抜けてるように見えるけど、その実、周りのことはよく見てるし、気にもかけてて、気配りも出来る。
おまけに勘も鋭いのか、時折虚を突くように、確信に核心に迫る時がある。が、しかしだ。正直、今はそれだけは困る、とても困る。
俺は半ばお祈りするような面持ちで、紘の方を見た。
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紫雨
2024/11/10 01:16
「…は」
思いがけない内容に、言葉にならない声だけが漏れる。
嫁ぐ、と。確かに萌黄はそう言った。
何となくだが、きっとあの両親が萌黄の意見も聞かずに勝手に取り決めたに違いないと思った。
いや…そうであって欲しいと、願っているのかも。
「ひとり息子って、誰?どこの人?」
顔を下へ俯ける。
今の俺、どんな表情になっているだろう。自分のことなのに今はよく分からない。
もし酷い顔をしていたら見せたくない、少しでも冷静を装いたいという気持ちから
片手で口元を覆い隠した。
嫁がなきゃいけない、そう既に決定しているのならかなり前から話は進んでいたのだろうか?
沸々と何か嫌な感情が沸き始める。
「もう、会ったことあるのか?」
萌黄が拒否することは難しい立場だと言うのも分かっている。
そして結局は俺が必ず口出しする事を分かっていたからこそ、両親は俺にさえ秘密裏にこれを進めていたのかもしれない。
「お前は、……萌黄はそれで、良いのか?」
少しだけ声が震えた。
俺たちが離れ離れになるべきのかまだ揺れている今、萌黄に縁談が来ているこの現実が
「俺たちは離れるべき」と言っているようにも思えてしまった。
それでも、1番は萌黄がどう思っているのか。どうしたいと考えているのかが俺に取っては1番重要だった。
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紫雨
2024/11/10 01:16
(ん?!)
迎えにも来てくれた訳だし、このまま一緒に帰って貰おうと思っていた矢先、
彼に手を握られ…いや、握られてるっつうか…"掴まれた"の表現の方が近いしいかも。
まるで逃がさんと言わんばかりだ。
多分、俺が遠慮がちな人間だと彼には知られているので今朝保健室に行く時ように
俺が1人で行くと言い出すと思ったのかもしれない。
「あ、ありがとうございました。失礼します」
養護教諭の先生も俺と洸が一緒に帰ることで安心したのか、『はい気を付けてね』と俺たちに告げる。
荷物を持った俺はそのまま2人で下駄箱へと向かった。
何と言うか、彼が世話焼きな性格なのは理解しているつもりだが
それにしても俺に対しては特に面倒を見てくれているような。
この世界に来てからは俺がドジをしてばかりなので彼が手を焼いてくれているんだろうが、
俺としては何だか大人として少し情けない気持ちにもなる。
それに、髪を触られたアレは何だったんだろう。
唐突だったのでびっくりした表情で洸を見たが、楽しそうな彼の表情が見れただけでワケは分からなかった。
寝癖とかだったら恥ずかしいな、と思い俺はつい自分の髪を抑えるように撫でた。
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陽良
2024/11/01 05:16
「お~」と力無い声を出しながら、軽く手を振った。
なんとも萎びた声だ、聞いているこっちが思わず脱力してしまいそうである。
調子は、と聞こうとした俺を汲み取ってくれたかのように
彼から、熱は結構下がって、当初ほどの辛さやしんどさは軽くなったらしい。
まあ言われてみれば、顔色は随分と和らいできたように思う。
ただ少しだけ、発熱した時特有の何とも言えないような、気怠い空気というか雰囲気を纏う彼に、何となしに胸の内が僅かにざわついた。
(なんか…猫ちゃん、みたいだな。)
そう思うやいなや、気付けば俺は彼の髪の毛を少しだけ梳くように
頭を撫でた。…うわ、髪の毛ふわふわだ。
すぐにその手は引っ込めて、取り繕うようにひらひらと手を軽く振りながらおどけたように笑ってみせた。
特に理由はない、というのが伝わったのか彼自身もさして気にした様子もなく、俺が渡したペットボトルのスポーツ飲料を半分程流し込んでから、喉を潤した。…よっぽど喉が渇いていたらしい、これは持ってきて正解だな。
「こらこら、無理するなよ。君、さっきまで熱があって寝てたんだから。言っとくけど、死んだ魚よりひどい顔してたからな?信じられないなら、賢人と真にも聞いてみな。俺と同じこと言うから」
実際、あの時の彼はとてもひどい顔をしていて、
どこか思い悩んでいるようにも感じられた。
内容は分からないけど、随分と夢に魘されていたようにも思える。
(どんな夢を見ていた、って聞きたいけど…
それは流石に踏み込みすぎなのかな?あー、分からねぇ。)
こういう時の、“友達”としての距離感が本当に分からない。
それに彼とはここに来て、まだ知り合って間もないのだ。
友達だって言っても、半ば俺の方から強引に距離を詰めていった感じは否めない。…あれ?これって人によっては嫌われるヤツ、だよな?
幸い、紘にも、それからあの二人にも嫌われてしまったような素振りはないものの、やはり適度な距離感を保つことはなかなか重要らしい。
「あー………佐倉くんは俺が部屋まで送ります。先生、ありがとうございました」
心配する声をかける養護教諭に、俺はニコリと笑みを浮かべて
紘の手をガシッと掴んだ。
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紫雨
2024/10/28 13:42
そのまま保健室に残っていると、後方からガラッと扉の開く音がする。其方へ顔を向けると訪れていたのは洸の姿だった。「お〜」と力の無い声を出しながら軽く手を振った。
「熱は結構下がって、っめた…でも気持ちいー…」
頬に当てられた冷たさに最初は少し驚くも、その冷感がじんわりと気持ちよくて、ペットボトルを受け取った後も少しの間頬に当てたままにしていた。
「これも、荷物も…ありがとな。熱はもう微熱くらいで…体調は結構良くなったよ」
ずっと寝ていて喉が乾いていた俺はペットボトルの蓋を開け、スポーツドリンクで喉を潤した。蓋を閉めてからベッドを降りようと足を床に付けて立ち上がる。すると少しだけ身体がフラついた。
「っと、…はは、まだ…本調子では無さそう」
何とかバランスを取ってフラついた体勢を整えた後、うーんと困ったような笑みを浮かべる。
その様子を見た養護教諭からも「大丈夫?寮まで帰れそう?」と声を掛けられてしまう次第だ。
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陽良
2024/10/20 11:57
紘にメッセージを送ったあと、その画面を見つめながら、しばし俺はその場に足を止めていた。壁に寄りかかるようにしながら、時折、トントン…と携帯の背面部分を指先で軽く叩く。
誰もが見目が整っていると頷くであろう洸のその姿は、それだけで絵になるらしく、授業を終えて、まばらに教室を出て各々の時間を過ごし始める生徒たちの目を妙にひいていた。
ちなみに、当の本人はちっとも気付いていなかった。
(こういう時って、どうするのが正しいのか分からねぇな…)
と、ようやく彼からの返事を知らせる通知音が鳴った。
すぐにメッセージアプリを開いて確認すると、どうやら自分の荷物やら鞄やらが教室にあるだろうから、それを持ってきてくれ、との事だった。
えー…これは暗に余計な気遣いはいらない、と拒まれたのか?
ここでもし、何かしら見舞いになりそうなものを持っていけば、かえって彼に気を遣わせる羽目になるのだろうか?
「…もうちょっと頼りにしろよなー…つか、わがまま?言えばいいのに。」
俺は誰に言うでもなく、一人ごちてから、とりあえず保健室に向けていた足を教室へと向けることにした。
先ほどから行ったり来たり、やけに落ち着きがない俺を遠巻きに他の生徒たちが、不思議そうに見ていた。
(…紘の荷物、荷物。…とと、あったあった。これか)
見た感じ、誰かに何かされたような形跡はないのを確認して、俺は少しだけ安堵の息を吐いた。つーか、財布とかもここに置きっぱなしだったのか?
携帯は肌身離さず持っていたみたいだが、さすがに不用心すぎるのでは?
ともかく、俺は紘に頼まれた荷物と、
自分の荷物を持ってから、再び教室を出た。
途中、自販機で適当にスポーツ飲料をひとつ買ってから、
俺は保健室に向かう。
「…失礼しまーす。佐倉くんの様子見に来たんですけどー…お、起きてるじゃん。気分とか、どう?あ、これあげる。水分はちゃんと摂っておけよ」
俺は紘のいるベッドに向かえば、ひたっ…と先ほど買ったばかりの
スポーツ飲料のペットボトルを彼の頬に当てた。
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紫雨
2024/10/19 22:43
横たわった身体をゆっくりと起こし、両腕を天井へ向けぐ〜っと身体を伸ばした。
うん、まだ少し怠い感じはあるけど朝よりはずっとマシだ。頭の中も結構スッキリしてる。
目が覚めたことを養護教諭に伝えると、念の為もう1度熱を測ってみることに。
脇に体温計を挟み、保健室のベッドに腰を掛けて暫くの間じっと動きを止めている時だった。
ズボンのポケットに入れていたスマホが小さくバイブを鳴らす。体温計を挟んでいない方の腕でスマホを取り出し画面を確認すると、向坂洸からメッセージの通知が来ていた。
これからこっちに来てくれるという内容。そういえば丁度今日の授業も全部終わる時間だ。
まず単純に、有難いと思うと同時に嬉しいとも思った。こういう"優しさ"に勘違いしてしまう人が出てしまうのも仕方ない気がする。
優しいあまり、悪気なく相手に勘違いをさせてしまう事があったと見たことがある。
こんなに優しくしてくれるのは、彼にとって自分が"特別"だからと。
…危なかっった!そもそも(精神年齢的に)高校1年生と恋愛するつもりはないけど、洸の性格を知らなかったら俺も勘違いしてたかもな…
結局俺は『申し訳ないけど鞄とか荷物が多分教室にあるから、持ってきて欲しい。』と彼に返信をすることにした。
丁度そのタイミングで体温計もピピッと音を鳴らす。結果は37.4度。微熱はあるもののかなり熱は下がっていた。
やっぱり寝不足や疲れが1番の原因だったのかもしれない。
部屋に戻れば市販の薬もあるし、それを飲んでもう一眠りするかな。
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陽良
2024/10/16 01:55
…なぁにが、「寂しくて泣くなよ」だよ!!
泣きそうになってるのは、紛れもなく俺の方じゃないか!!
いや、正しくは実際に涙を流しているわけでなくて。
けれども俺の心中は、まさしく荒れくるう大海原のように、
まるで嵐の中にいるみたいに、吹き荒れては、さながら暴風雨だ。
とどのつまり、俺は今、胸の内で大泣き状態ということである。
あれから、ひとまず紘を養護教諭に任せることにして教室に戻った俺は、教鞭を執っていた教師に、大丈夫だったか、という言葉をかけられて、「あー、しっかり休めば問題ないって事らしいです」なんて、ヘラりと返してから、自分の席についた、はずだった。
ちなみに、そんな俺に町田と、あの後ちゃんと登校してきたらしい相原が、「無理すんなよ」みたいな生温かい視線を送ってきた。
実際は、気遣いのものであることに気付いたのはその後二人から、「洸、お前すごい顔してたぞ」と指摘されたからだった。
人のこと見るなり、すごい顔ってなんだよ、とは思いながらも、ほとんど頭に入ってこない授業内容を右から左へと流していた俺は、終了のチャイムだけは聞き逃さなかった。
授業が終わったと同時に、すぐさま席を立ち上がった俺は、少しだけ早足で目的の場所へと向かう。
どこに行くのか、だって?決まってる、保健室にいる彼のところだ。
(あれから気になって何も手につかなかった…あ、やばい。手ぶらだとマズいかな?つっても、わざわざ何か持っていけば、かえって気を遣わせるだけだよな…んー、どうしたものか…)
こんな時、本当の友達としての距離感とかが未だに分かっていない俺は、気の今日で仲良くなったばかりの友人が、体調を崩したときに、行うべき行動に、その頭を悩ませることになってしまった。
ひとまず、保健室に向かう足を止めた俺は、制服のポケットから携帯を取り出すと、登録したばかりの紘の連絡先にメッセージを送った。
『今からそっち行くけど。何か必要なものとか、あるか?』と。
とまあ、悩みに悩んだ末、俺は本人に確認を取るのが一番早いし確実だという結論に至り、紘にメッセージを送付したのだった。
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陽良
2024/10/16 01:55
…なぁにが、「寂しくて泣くなよ」だよ!!
泣きそうになってるのは、紛れもなく俺の方じゃないか!!
いや、正しくは実際に涙を流しているわけでなくて。
けれども俺の心中は、まさしく荒れくるう大海原のように、
まるで嵐の中にいるみたいに、吹き荒れては、さながら暴風雨だ。
とどのつまり、俺は今、胸の内で大泣き状態ということである。
あれから、ひとまず紘を養護教諭に任せることにして教室に戻った俺は、教鞭を執っていた教師に、大丈夫だったか、という言葉をかけられて、「あー、しっかり休めば問題ないって事らしいです」なんて、ヘラりと返してから、自分の席についた、はずだった。
ちなみに、そんな俺に町田と、あの後ちゃんと登校してきたらしい相原が、「無理すんなよ」みたいな生温かい視線を送ってきた。
実際は、気遣いのものであることに気付いたのはその後二人から、「洸、お前すごい顔してたぞ」と指摘されたからだった。
人のこと見るなり、すごい顔ってなんだよ、とは思いながらも、ほとんど頭に入ってこない授業内容を右から左へと流していた俺は、終了のチャイムだけは聞き逃さなかった。
授業が終わったと同時に、すぐさま席を立ち上がった俺は、少しだけ早足で目的の場所へと向かう。
どこに行くのか、だって?決まってる、保健室にいる彼のところだ。
(あれから気になって何も手につかなかった…あ、やばい。手ぶらだとマズいかな?つっても、わざわざ何か持っていけば、かえって気を遣わせるだけだよな…んー、どうしたものか…)
こんな時、本当の友達としての距離感とかが未だに分かっていない俺は、気の今日で仲良くなったばかりの友人が、体調を崩したときに、行うべき行動に、その頭を悩ませることになってしまった。
ひとまず、保健室に向かう足を止めた俺は、制服のポケットから携帯を取り出すと、登録したばかりの紘も連絡先にメッセージを送った。
『今からそっち行くけど。何か必要なものとか、あるか?』と。
とまあ、悩みに悩んだ末、俺は本人に確認を取るのが一番早いし確実だという結論に至り、紘にメッセージを送付したのだった。
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紫雨
2024/10/14 19:27
ベッドで仰向きに寝転がる。姿勢を変えたせいかもっと脳みそがグラグラと揺れている気がする。ぼんやりとした意識の中、洸が俺に声を掛けてくれた気がした。声を出すことは出来なかったがヘラりと笑って小さく頷いてみせた。その後養護教諭が周囲のカーテンを閉めてくれる。俺はゆっくりと瞼を閉じて、そのまま沈み込むように寝入った。
───────────────
少しだけ夢を見た。また前世の俺の夢だ。けれど教室で見た不安げな夢ではなく、ゲームを楽しそうにプレイする俺の姿が映っていた。そんな中俺が『出た〜!蓮様!』と口に出している。彼もゲーム内の攻略対象の1人。ちなみに向坂洸と同学年で彼に対抗心を燃やしているキャラクターだ。実はクラス分けの張り紙を見ている時にチラッと見かけている。向坂洸とは思わぬ出会い方をしてしまったが、"蓮様"は別クラスなのでこの先モブの俺が彼と関わる事は有り得ないだろう。…有りない筈なのに、不安になるのはどうしてだろうか。そうだ、確か入学から1ヶ月後に洸と蓮様が関わるイベントがあったような。う〜ん、何だっけな。喉まででかけてるんだけど…
「ん〜…、ん〜?…ん…⁉︎」
現実でも唸っていた俺だが、夢の中で(あれ、そういえば俺今保健室に居たよな)と思い出しハッと目を覚ました。カーテンの隙間から壁掛け時計が見えたので今の時間を確認をすると、現在夕方であることが分かる。どうやら俺はこんな時間まですっかり眠ってしまっていたらしい。
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陽良
2024/10/12 03:49
肩だけ借りてもいいか、なんて聞いてくる彼に、俺は何なら担いでやってもいいけど、とは思いながらも、彼の態度を見る感じ、どうやらそれはあまり好ましくないようだった。
まあ、初日に階段から降ってきた男に、ひたすら謝られた挙げ句、有無を言わさず担ぎ上げられて、保健室に運ばれた、という前科がある。
あれ?そう考えると、俺ってなかなかにとんでもないことをしているのでは?別に紘だって、何も華奢すぎる体躯をしている訳じゃない。
どちらかといえば、しっかりと男の子だと思わせるほどには、つくとこにはちゃんとついてるし、いかにも健康的な“男子高校生”といったものだ。
ただまぁ、敢えて言うならそんな彼より俺の方が体躯には恵まれている、それだけのことだった。
ひとまず、紘を保健室に運んでいき、在席していた養護教諭に事情を話す。熱を測ったところ、38度以上という、まごう事なき高熱を示す数字を叩き出した。…ちなみに紘は、その数字を表示した体温計を見るなり更にその顔色を悪くさせていたのだが。分かるよ、自覚するともっとしんどいよな。
養護教諭に、「あとは自分が付いているから貴方は戻りなさい」と言われ、紘にも、「ありがとう、ちょっと休んでくる」と、暗にお前は教室に戻れというニュアンスのお達しを貰ってしまい、ひとまず俺は一度この場を離れることにした。…けれど、どうしたって気になるものは気になるわけで。
俺は踵を返したものの、一度振り返るとベッドに横たわる紘をもう一度見た。
「……授業、終わったらまた見に来る。寂しくて、泣くなよ。じゃあな」
そんな不器用な気遣いと、ほんの少しの揶揄いの交じった言葉。
俺は、いつもみたく人好きのする笑みを浮かべてから、ひらひらと手を振って、改めて養護教諭に「じゃあ、後はお願いします」と頼んでから、俺は保健室を退出したのだった。
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陽良
2024/10/12 03:48
肩だけ借りてもいいか、なんて聞いてくる彼に、俺は何なら担いでやってもいいけど、とは思いながらも、彼の態度を見る感じ、どうやらそれはあまり好ましくないようだった。
まあ、初日に階段から降ってきた男に、ひたすら謝られた挙げ句、有無を言わさず担ぎ上げられて、保健室に運ばれた、という前科がある。
あれ?そう考えると、俺ってなかなかにとんでもないことをしているのでは?別に紘だって、何も華奢すぎる体躯をしている訳じゃない。
どちらかといえば、しっかりと男の子だと思わせるほどには、つくとこにはちゃんとついてるし、いかにも健康的な“男子高校生”といったものだ。
ただまぁ、敢えて言うならそんな彼より俺の方が体躯には恵まれている、それだけのことだった。
ひとまず、紘を保健室に運んでいき、在席していた養護教諭に事情を話す。熱を測ったところ、38度以上という、まごう事なき高熱を示す数字を叩き出した。…ちなみに紘は、その数字を表示した体温計を見るなり更にその顔色を悪くさせていたのだが。分かるよ、自覚するともっとしんどいよな。
養護教諭に、「あとは自分が付いているから貴方は戻りなさい」と言われ、紘にも、「ありがとう、ちょっと休んでくる」と、暗にお前は教室に戻れというニュアンスのお達しを貰ってしまい、ひとまず俺は一度この場を離れることにした。…けれど、どうしたって気になるものは気になるわけで。
俺は踵を返したものの、一度振り返るとベッドに横たわる紘をもう一度見た。
「……授業、終わったらまた見に来る。寂しくて、泣くなよ。じゃあな」
そんな不器用な気遣いと、ほんの少しの揶揄いの交じった言葉。
俺は、いつもみたく人好きのする笑みを浮かべてから、ひらひらと手を振って、改めて養護教諭に「じゃあ、後はお願いします」と頼んでから
俺は保健室を退出したのだった。
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紫雨
2024/10/12 00:31
「…まだ歩けそうだから、肩だけ借りていいか?」
身体に力が入らない感じはするが歩けない程でもない。
担いで貰えばそれは楽だろうが、彼と出会った初日の記憶が過ぎる。
彼に担がれるという緊張感に俺は耐えられる気がしなくて肩だけ貸してもらいたいと伝え、ゆっくりと身を起こして立ち上がってから、彼の肩を借りて保健室まで向かった。
保健室に着き体調が悪いことを養護教諭に伝え熱を測ったところ、38度以上の熱が出ている事が分かった。
それは身体も怠いはずだ。
測る前までは微熱くらいは出ているかな、と思っていたのに実際この体温計を見た後だと余計身体が辛く感じる。
「寮まで1人で戻れそう?」と聞かれたが絶対に今は無理だと確信した俺はひとまず保健室のベッドで休ませてもらう事にした。
恐らく寝不足も重なっておりここまで体調を崩しているような気がしているので、1度寝てしまえば多少は回復するだろう。
昨日の事も解決したから今はスッキリした気持ちで眠れそうだ。
「ほんと…ありがとう、着いてきてくれて。ちょっと休んでくる」
俺は弱々しく笑みを浮かべながら、教室に戻る彼に言葉を掛けた。
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陽良
2024/10/09 02:25
『どういう事だ?』という確かな疑問と、二人の間に生まれた謎のすれ違い。
あー、そういえばこんな芸風の芸人をテレビで見かけた気がする。
俺と紘、互いに顔を見合わせては謎の沈黙の時間を作る。
そんな空間もつかの間、沈黙を破ったのは、
意外にも紘の口から漏れた笑い声だった。
何だかおかしそうに笑う彼は、けれど今が授業中であることに気がついて、慌てて声のボリュームを落とした。
「いや別に。虫は全くこれっぽっちも、関係ない…ていうか、俺はむしろきみにこそ嫌われたんだと思ってた。…だって、あんな態度とっちゃったし。気を悪くさせたと思って…その、ごめんな?」
やっと言えた、彼に対する謝罪の言葉。
昨晩からずっとずっと頭の中で何度もシミュレーションして、
どうやって紘と仲直りしようかと思ってた。
けど実際は、別に喧嘩もしていなければお互いに変に気を回してすれ違っていた、という何とも陳腐で単純なものだった。
そんな折、ふいに彼が随分と弱々しい声を漏らす。
そうだった、俺たちは今具合の悪い紘を保健室へと連れて行く途中だった。
「そりゃ勿論…つーか、動ける?やっぱり俺が担いでいこうか?」
自分の方が彼よりガタイもいいし、タッパもある。
正直、彼ひとり担いでいくくらいなら造作もないと思っての申し出だった。
違反申告
紫雨
2024/10/05 20:08
「え?いや、俺は虫別に…そんな苦手とかじゃない…、…?」
この瞬間、俺と彼、どちらの頭にも大きなクエスチョンマークが浮かんでいただろう。
寧ろ顔にもお互い『どういう事だ?』と書いてあるようにさえ思える。
俺と彼は数秒間、無言で顔を見合わせる謎の時間が生まれた。
ただこの数秒間でちゃんと理解した。俺と洸は何だか大きなすれ違いをしていたと。
彼の反応を見る限り恐らく虫も関係がないらしい。
彼に突き放されたとばかり思っていた俺だったが結局はそれも勘違いで、今は何故か虫の話をしているこの謎の時間が絶妙に面白くて、俺の笑い声がこの沈黙を破った。
「…ッふは、はは!
ぁ、ごめんごめん…俺、何かすごい勘違いしてたみたいだな。
俺が嫌われたか、違うなら虫を倒そうとしてたんだろうなと思って」
今が授業中である事を思い出すと慌てて声のボリュームを下げた。
だがこうなると、彼がした行動は何が原因だったのか純粋に気になる。
自分が悪いんだと洸は言っていたが、一体何が彼をそうさせたのだろうか?
でも今は正直それを聞く余裕は無さそうだ。
「はは、はぁ………ごめ、…やっぱ保健室、着いてきてもらっていいか…?」
笑いが落ち着いた所で、身体がより重くなるのを感じた。
笑って余計に体力を使ってしまっただろうか。
彼に嫌われていないんだと安心したから、ほっとして必死に堪えていた糸が緩んだのかもしれない。
俺は彼の目の前にしゃがみ込んで、抱えた膝に額を付けながら顔を俯ける。
違反申告
陽良
2024/10/03 14:22
は?はああああ!?いやいやいや、待て待て!!
それって、つまり彼は、『自分が馴れ馴れしい態度をとったから俺に嫌われたと思った、だから、俺から突き放される前に自分から距離を置いて逃げようとした』…ってこと、だよな?
その場にしゃがみ込んだままの俺は、ますます彼の顔が見れなくなってしまった。俺の邪な思いや気持ちが全て彼にバレてしまうと思ったから。
(落ち着け、落ち着け。俺、クールになれ。ということは、俺は別に紘に嫌われてしまったワケじゃないってことで、いいんだよな?)
ひとまず、目下、最重要な疑問は消化することができた。
となると、次の疑問が生まれるワケで。
なら、どうして紘は俺をわざわざ遠ざけて、避けようとしたんだ?
俺に嫌われたくないのは、この学校に来てすぐに出来た友達だから?
それとも…他に何か理由があるのだろうか?
悶々と頭を悩ませていると、ふいに彼の口から、「居たのか?本当に、虫が…」なんて小さな呟きが聞こえた。
「…え?何、虫?紘は虫が苦手なのか?」
いや、別に虫が居たとかじゃないけど。
彼の口から、まるでつい漏れてしまった、みたいな感じだったから
何となく気になったのだ。
断じて、そのことで彼を揶揄ったりしようとか思ってるワケじゃない。
ただ、ほんの少しの好奇心からの、素直な問いかけだった。
俺はしゃがみ込んだまま、顔だけあげて、少し上にある紘に目を向けた。
違反申告
紫雨
2024/09/28 20:15
「…ん?」
予想外な内容が耳に入り、踏み出した足は1歩目で止まった。
優しい人だからもしかしたら引き留められるかも、とまでは予想が付いていたが…昨日のこと、どうやら俺が原因では無いらしい…?
「…ちょ、ん?待って…俺が馴れ馴れしくしちゃったから、それが嫌で…って事じゃなかったって事…?」
俺はまだぼんやりとする脳みそをフル回転させた。
先に進めようとしていた足は彼の目の前まで戻り、しゃがみ込んでいる彼の頭を上からじっと見つめた。
俺は前からすぐに自衛をしてしまう癖がある。
"あ、この人俺の事嫌いかもな"と思ったらすぐに離れてしまうのだ。相手の言葉や態度からジワジワとそれが現れるのが怖いから。
今回も同じだった。嫌われたと思ったから、離れる選択をした。つまり逃げようとしたのだ。
だがそれは俺の勘違いだったようで、安堵する気持ちと共に勝手に解釈をしてしまった事を反省した。
「じゃあ昨日のは……居たのか?本当に虫が…」
俺はボソッと小さく言葉を呟く。
彼の行動の原因として、俺の考えうるパターンは2つ。1つは俺の何かしらの態度や行為で嫌な思いをさせてしまったから。もう1つは虫が居たからそれを殺そうとしたのか。…正直違和感はあるが、それ以外の理由が俺には本当に思いつかず、つい心の声が口に出てしまった。
違反申告
陽良
2024/09/16 03:38
…どうして。どうして、そうやって、すぐに一人になろうとするんだ。
苦しいとき、辛いとき、しんどいとき。そんな時は、誰かに頼ることは、恥ずかしいことなんかじゃないって、俺は知ってる。
当然、彼だって知ってるはずなのに。…いや、知っているからこそ、この人はこうして一人になりたがるんだろう。
自分のせいで、周りが傷ついたり、迷惑をかけたりすることを極端に嫌がり、そして極端に怖がるような素振りを見せる。
たった数日だけだが、俺はすでに彼のことをおおよそ、“理解”は出来ているような気がした。いや、違うな。これはきっと、俺が“理解”しているのではなくて、彼が…紘が、彼自身が“そうなるように”、仕向けている?
(…また、だ。この、何とも言えない…漠然とした、焦燥感と不安。不安定な宙に浮いているような、浮遊感…俺は、これが……苦手だ)
この胸の内に時折巣食う、この思いを、俺はいっそのこと彼に打ち明けてみたいと思った。だけど…彼が、それを望んでいない。
誰にでも人当たりのいい彼は、だけどいつもどこかで、一線を引いては、それを飛び越えてくる存在を許そうとはしない。
いつも、俺たちと彼の間には、見えない壁があるように思えて、仕方ない。
「……だめ。俺が連れてくって決めたから、ちゃんと俺にさせて。それに…そんな、今にも死にそうな顔してるのに、そんなヤツをここに放っていくとか、紘は俺のことを薄情な人間にしたいの?」
我ながらずるい言い方をしているのは、自覚している。
でも、こうでも言わないと彼は絶対に一人で何とかしようとするし。
っていうか、今俺はとんでもないことを言われたよな…?
「待て待て、待って!!昨日のことは、俺が悪くて!!紘は悪くないっていうか、全く、これっぽっちも、きみは悪くないから!!
…~、ああ…もう。どうして紘が先に謝っちゃうかなぁ~…俺昨日のこと凄い後悔してて…めちゃくちゃ考えてたのにさ~…」
へなへな、と俺は思わずその場にしゃがみ込んでしまった。
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紫雨
2024/09/14 20:41
「わ、⁉︎」
俺の様子を見かねたのか、彼に連れられ保健室へ向かう事になった。
優しい"向坂洸"なら確かに分かる行動だが…昨日の件、てっきり嫌われたんだと思っていた。
洸がゲームの中のキャラではなく、ただの16歳の男子高校生だ。
俺はきっとこの世界にゲーム通りになる事なんて無いんだと認識し始めている。
ゲームの中とは少し違う、自由な世界のような気がする。
だからこそ、昨日嫌われた時点でどうして話しかけられたのか、どうして今こうして保健室まで連れて行かれているのか俺はさっぱり分からない。
ただ彼の言葉は正論だ。よっぽど俺の顔色は悪いんだろう。
それじゃぁ教師に声を掛けられる可能性も十分にあったし、身体もじんわりと熱い。
多分熱も出てるんだろうな。
もし嫌いだったとしても、彼はただ放っておけなかったんだろう。
「こっからは1人で保健室行くよ。
だから教室、戻ってて。授業遅れちゃうだろうし」
道のりの途中、俺は足を止めた。無理して気を遣わせてしまうのは良くないと思ったから。
移動出来ない事はない。保健室まではまだ少しあるし、俺に付き合わせて授業に遅れてしまうくらいなら、先に戻ってもらおうと思った。
「………それに…昨日俺が…嫌な事、しちゃった…よな。
昨日はごめん。…今日声、掛けてくれてありがとう…じゃ」
ただやっぱり昨日の事が心残りで。顔を俯かせていたので彼の表情を見ることは出来なかった。
きっともう仲良くなる事はないだろうが、せめて謝罪だけでもと思ったのだ。
そして俺は言葉を言い終えた後、すぐに逃げるように足を踏み出した。
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陽良
2024/09/13 17:21
目の前の彼の口からこぼれたのは、そんな素っ気ない言葉だった。
俺はそんな彼が、まるで自分以外を拒んでいるような気がして、なんとなく危うさを覚えた。同時に、胸に巣食うのは、焦燥と不安。
昨日と今日で、まだ知り合って間もない人間のことを信用しろなんて到底無理なのは分かっていた、はずなのに。
どうしてか、彼に拒絶されてしまったような気がした俺は、まるで大海原に身ひとつで投げ出されて、漂流しているような心地さえした。
(…分かってる。紘がこんな態度をとるのは、確実に昨日の俺の振る舞いのせいだ。分かってはいる、けれど…)
ただ、それだけではないように思えた。
彼の元に行き、呻くような声を漏らしながら、魘されていた。
それはきっと、彼にとって忘れたくても忘れられないような、脳裏にこびりついた、辛い過去の記憶。はたまた、何か悪夢でも見たのだろうか?
“何か夢を見ていたのか?”…そんな風に、聞けたらどんなにいいか。
でも俺は分かった、分かってしまった。
笑顔を取り繕い、『大丈夫』だとしきりに笑ってみせる彼は、暗にこれ以上この話題に踏み込んでくるな、ということだ。
明らかな心の壁を感じた俺は、柄にもなくショックのようなものを受けていた。昨日の今日で、一方的に紘が俺のことを拒んだからって、勝手に落ち込んで、勝手にショックを受けるなんて、あまりにも身勝手がすぎる。
(でも…!!やっぱり放っておけないし、今紘を助けられるのは俺だけだろ…!!)
そう結論づけた俺は、おもむろに紘の少し華奢な腕を掴んだ。
「紘、保健室に行こう。そんな顔で授業なんて出たら先生も心配する」
半ば強引に彼を立たせると、町田の方を振り返った。
「賢人、悪いけど俺と紘は授業遅れるって言っといて!!」
俺はそう言うなり、紘を連れて、今来たばかりの教室を飛び出した。
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紫雨
2024/09/11 22:06
顔を上げてからワンテンポ遅れて洸の存在に気が付く。
彼の顔を見た途端、色々を頭の中で思考が巡る。
『昨日の事どう思ってるかな』『今日話しかけられると思ってなかった』
『俺ってそんな顔色悪いか?』『朝だしおはようって言うべきか?』
「………いや、…うん、平気。」
色々考えた上で、俺の口から出たのはそんな素っ気ない言葉だった。
体調が悪いのは事実。愛想よく返事をした方がいいのも分かってる。
でもそれよりも先程の夢の内容で頭がいっぱいだった。
今鮮明な記憶もきっと薄れていくような気がした。前世のこと、"俺"のこと、いつか全部忘れてしまうんじゃ無いかって不安だった。
佐倉絃だってちゃんと俺自信ではあると自覚してる。
前世を思い出してからは、佐倉絃と"俺"の2つの魂がそれぞれ存在しているような不思議な感覚がある。
もしも俺が全て消えてしまった時、どうなるんだろうか。
向坂洸と友達になりたいと思った俺も消えてしまうんだろうか?
「…じっと座ってれば多分良くなるから…気にしなくて大丈夫」
不安げな表情の彼が視界に入る。
(…大人びててもまだ16歳の子供、だもんな…)
絃としては同い年だが、精神的に言えば俺の方がずっと年上。
あまり素っ気ない態度ばかりだと余計心配させてしまうだろうと思い、俺は眉尻を下げながらも笑顔を繕い『大丈夫だ』と彼に伝えた。
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陽良
2024/09/11 01:56
「あ、ああ。そう…なんだ」
なんというか、それこそ知り合って間もない間柄ではあるものの、こうして町田から話を聞く限り、相原は“そういう奴”なんだろうと思った。
だがまあ、決して悪い奴ではないし、むしろ気のいい奴であることは、先日のことでよく分かったので、ひとまず相原のことについては、町田の言うことを信じることにした。
(…紘、の。そうだ、俺は今最重要任務が課せられているんだ…!!早いところ、紘に昨日のことを謝って、誤解を解いておかないと…)
と思い、俺は紘のいる席へと視線を向けた。
真面目な彼のことだから、きっと早くにここにも登校したのだろう。けれど、そんな彼は今、自身の机に突っ伏して微動だにしない。
(え?寝てる、のか?もしかして、具合がわるいとか…じゃないよな?)
即座によぎる、心配と不安。
俺はすぐさま、彼の席まで駆け寄ると、「紘、紘」と声をかけた。
深く寝入っているのか、はたまた本当に具合が悪いのか、なかなか反応がない。どうしたものか、と思いつつも、声をかけて駄目なら、体を揺すってみようと手を伸ばした俺は、すぐに、はた…とその手を止めた。
…小さな、呻くような声が聞こえた。まるで、魘されているような。
どこか苦しそうにも思えた俺は、とにかく紘を起こそうと、今度こそその体に手を伸ばした。…と、同時に。
彼が飛び跳ねるみたいに、体を起こした。
そしてその後に、すぐに自身の頭を押さえた。
「…び、っくり…した。紘、大丈夫か?何だか、辛そうにしてたから何度も起こそうとしたんだけど…って、おい!?顔色、真っ青だぞ!?」
もうすぐ担当の教師がやって来て、今日の授業が始まる。
だが俺は、そんなこと気にしていられなかった。目の前の彼を、すぐにでも保健室に連れて行き、休ませなければという思いでいっぱいだった。
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紫雨
2024/09/08 17:41
突然しゃがみ込む向坂を見て、声は出さないものの町田の頭の上にはクエスチョンマークが浮かび上がっていた。
だが直ぐに立ち上がって笑顔で挨拶をしてきたので(…まぁいいか)と先程の事についてこれ以上考える事はしなかった。
「あぁ…あいつ中学の頃からいつも遅刻ギリギリで登校するから…多分その内来ると思う」
始業のチャイムまでは後10分程。「チャイム鳴る寸前とかに来ると思うよ」と付け加えて向坂に説明をした。
──────────
『ご飯出来たよ〜』
…? 子供の頃の記憶だろうか。母の声がする。
呼ばれてリビングに行って、皆で食事をして…
『そうえば██、明日は高校の入学式だろ。気を付けて行くんだぞ』
父さん…うん、分かってる。気を付けるよ。
…あれ?この声が父さんだと、さっきの声も母さんだと分かるのに、2人の顔が鮮明に思い出せなかった。
それに、俺の名前… ██?あれ、俺ってどんな名前だっけ──、
「ぅ……ったぁ…」
ハッと目を覚ました。すると頭にズキンズキンと痛みが走る。まるで何かに刺されてるような痛みだ。
変な所で寝てしまった所為だろうか、それとも可笑しな夢のせい?
どちらにせよ頭痛がする事実は変わらない。俺は突っ伏していた顔を上げ、固まった身体をゆっくりと動かした。
(…母さんも父さんも…うん、自分の名前も……うん、覚えてる。)
両手で顔を覆い隠し、肘を机につけた状態で俺はゆっくりと前世の記憶を巡らせた。
両親の顔、声、名前も覚えているし、勿論自分自身の事だってきちんと覚えていた事にほっとする。
やっぱり変な夢だったんだ。
…でも何故かただの夢とは思えない自分も居た。漠然とした恐怖が俺の心の奥底に沈んでいく。
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陽良
2024/09/08 02:35
気分はまさしく戦場に向かう武士の如く!!なーんて、言えば聞こえはいいけど実際のところは、先も言ったが、断頭台に向かうような気持ちでいっぱいだ。それはまさに俺は罪を犯した極悪人、そして紘はそんな俺を裁く裁判人。今か今かと下される彼の判決を、俺は果たして受け入れることが出来るだろうか?なんて鬱々と考えながらも、教室の扉を引いた。
(…ええい、こうなったらままよ!!)
さあ、いざ参る!!と覚悟を決めて開いた扉の先には、俺たちの事情なんて毛の先ほども知らない、町田賢人の姿があった。
瞬間、俺は思わず全身の力が抜けていって、その場にしゃがみ込んだ。いや、彼には悪いけどさっきまでの俺の覚悟を返してくれ、という気持ちだ。
(…そりゃそうだよな。扉を開けた先には、紘がいて、彼の方も俺に何か言いたいことがあって、俺の登校を待ってた、とかそんな都合よく行くわけ、ないよなぁぁぁ…ッッ!!)
ひとまず、このままこうしていても仕方ないので、俺はゆっくりと立ち上がると、町田の方を見てにこりと笑顔を浮かべた。
「よう、賢人。おはよう」
町田に挨拶を返しつつ、視線は教室の中へと向ける。
紘の座席の方に目を向ければ、どうやら彼はすでに登校してきていたようで、席につく紘の姿があった。…机に突っ伏しているのは、寝ているだけか?もしかして、体調が悪いとか?
置物みたいにぴくりとも動かないので、心配になった。
あとで、紘の安否もちゃんと確認するとして。
教室も次第に人が増えてきて、ザワザワと賑やかになりつつある。
そんな中、先日友人になったばかりの、相原の姿が見当たらない。
てっきり、今目の前にいる町田と一緒に登校してきたものだと思っていたが…
「ん?そういや、真はどうした?あいつは今日休み?」
純粋に浮かんだ疑問を、俺は迷うことなく町田に投げかけた。
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紫雨
2024/09/07 21:23
むくりと上半身をベッドから起こす。外では軽やかな鳥の鳴き声が聞こえるが、俺は朝には似合わぬゲッソリとした面持ちをしていた。重い瞼をシバシバと瞬きさせながら、俺は身支度を始めた。
昨夜は彼の行動の意味を考えてしまい中々寝つきが悪くあまり睡眠が取れていない。
というか…寝つきが悪いのは昨夜だけでなく、前世を思い出してからだ。
初めて"俺"を思い出した日はまともに寝れていないし、それからも不安な事が多くきちんと身体を休めていない。
昨日は入学式を無事終えて友人も出来て、ようやくこの世界に慣れて来たのでゆっくりと眠れると思っていたが…それは結局叶わなかった。
この不調は睡眠不足やストレスで疲労が身体に溜まっているからだろう。
ゆっくりと登校するため、俺は早い時間帯に寮を出た。教室を扉を開けてもまだ誰もいない時間帯。
俺は席に座り、特にする事もないので机に突っ伏し、自分の腕枕に顔を埋める。
(……洸は今日、俺と話してくれるかな)
まだ空の状態の、彼の席を見る。
昨日で嫌われたなら、もう話たりはしないかもな。
向坂洸の友達になる…なんて、やっぱり俺じゃ無理か。
睡眠不足のせいか段々と眠気に襲われて瞼が次第に閉じ始める。
まだ春先で肌寒い時期だと思うが眠いからだろうか?身体がポカポカと暖かい気がしていた。
──────
「あ、おはよう洸。」
向坂洸が扉を開いたすぐ先に居たのは、先日友人になったばかりの町田賢人の姿だった。
教室も次第に人が増えておりザワザワと賑わい始めている。
相原真の姿はまだ教室になく、佐倉絃は自分の席で突っ伏したままの状態。ぴくりとも動かない事から恐らく寝ていると思われる。
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陽良
2024/09/04 11:51
翌朝。
俺はまさしく背中におばけでも背負ってるのか、ってくらいに非常に暗い面持ちで学園への道を歩いていた。
とは言っても、学生寮から校舎まではそんなに離れてはいない。しかしまあ、この学園はどこもかしこも広いから普通の学校に比べれば多少は気後れするのかもしれないけど。…そんな中、俺はまるで今から処刑場に向かっているが如く、とんでもない憂鬱さを抱えているわけだが。
本当はいっそのこと休んでしまおうかとも思ったくらいだ。
しかし昨日の今日、更に初日からたった数日目でいきなり学校を休むなんて、理由を知られれば反感の嵐待ったなしだろう。
サボりで休む、というのだけは俺としても避けたかった。
片親だった俺にとって、学校というのは、通えるだけですごいことだった。だからこそ、勉強だって運動だってそれなりに成果を残してきた。
父親はとかく厳格な人で自身の感情を表に出すことが苦手な人だったから、手放しに褒めてくれることはなかったけど、それでもどこか嬉しそうにはしてくれていたから、きっと俺のしたことは間違ってはないんだろう。
さて、これからのことを軽くシミュレーションしてみる。
昨晩もあの後一睡も出来ず、ベッドで布団に潜り込みながら何度も何度も脳内で反芻してきたことを、今一度おさらいする。
まず、教室についたら、とにかく紘を探して声をかける。
彼のことだから絶対気まずそうにするはず、けど俺はそれを敢えて有耶無耶にはしないで、なんて言うかこう…当たり障りがない理由を付けて、誠心誠意謝ろうと思っていた。
本音は、ちゃんと昨日のことを包み隠さずに打ち明けるのが筋なんだけど、よもや同性の男に対して、やれ笑顔がカワイイだの、紘のその笑顔にドキッとしただのと言ってみろ。この世のゴミ虫を見るような冷ややかな目で見られて、ドン引きされて以降、友達にも戻れないまま終わるのがオチだ。
それは!!それだけは!!なんとしても避けたい!!
俺は何度目かの深呼吸をしてから、教室の扉の取っ手に手をかける。
「………っ、よし。俺ならできる、俺ならできる」
そして、俺は覚悟を決めて扉を開けた。
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紫雨
2024/09/03 22:25
(⁉︎)
ダンッ‼︎と突然響いた大きな音。どういう事なのか直ぐには理解出来ずキョトンとしてしまった。
少しして彼が床を叩いた音だったと理解は出来た。
(いきなり床なんて殴ってどうしたんだ?…虫が居たとか!…な訳ないか)
多分、俺の態度が気に障ったんだろう。
久しぶりの高校生活。初日から友人も出来て、友達と好きなゲームを一緒に遊んで…前世含めてもこんなに充実した1日はこれまで無かったから、きっと調子に乗ってしまったんだ。
あまりにも楽しくてつい馴れ馴れしく接してしまったかもしれない。
「ぁ、………うん」
キョトンとしていた俺は彼が颯爽の部屋を出ていくこの瞬間に口を開くことが出来ず、既に彼が出て行った後の扉を見つめながら、小さく「うん」と静かな部屋で呟いた。
別に傷ついちゃいない。
前世含めば俺は中々年齢を重ねているし、こんな事で傷ついても自分が疲れるだけだって知っている。
床を叩いた理由だって実は本当に虫が居たのかも!
(じゃぁなんであんなに慌てて逃げるように出て行った?)
自問自答が繰り返される。
…もう考えるのはよそう。良い答えなんて出やしない。
何だか食欲も一気に失せて、俺はうつ伏せになるようにベッドに身体を沈ませた。
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陽良
2024/09/02 04:06
…何だそれ、何だよその笑顔。
ていうか、紘だってそういう風に笑えるんじゃん。
てっきり、彼は何かを我慢したりして、自分の気持ちを表に出すのが苦手なんだとばかり思っていた。俺らといるときだって、なんとなく無理してる感じがして、まるで愛想笑い…してた、みたいな。
だからかな。彼のそんな無邪気な屈託のない笑顔を見た俺は、
何故だか、胸の辺りがじんわりとあったかくなって、少しドキドキした。少しだけ、本当に少しだけ…彼が、カワイイと…思った。
(…ッはああぁぁぁ!?!?待て待て待て!!何だそれ、何だそれ!!いくらなんでもそれはさすがにないだろ!!俺は男で、紘も男で…確かに顔立ちはどっちかというと少しだけ可愛げがある………ッじゃなくて!!これはマズいだろ!?)
落ち着け、落ち着け俺。クールになれ、向坂洸!!
違う、違うって!!これは何かこう…吊り橋的な、そういうヤツで…
って、おい!!!!それも違うだろ!!
脳内で壮絶なひとり会議を繰り広げていた俺は、思わずダンッ!!と拳で床を殴るように叩いてしまった。あ、やばい。明日、下のヤツに怒られるかも。
ていうか、それより紘のことを怖がらせて…
「…ッ、あー…あー!!悪い!!俺、そろそろ戻るわ!!ごめんな、こんな時間まで紘のこと拘束しちゃって!!ご飯は…また今度!!んじゃ、おやすみ!!」
バタバタ、と俺は少しだけ慌ただしくも言いたいことだけ、捲し立てるように彼に言ってから、返事も待たずに彼の部屋を飛び出した。
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紫雨
2024/08/31 18:44
「ん〜‼︎惜しい‼︎俺も最初はここ全然クリア出来なくてさ〜…
いやでも洸ゲームめっちゃ上手いな!!センスある!」
俺は天井を仰ぎ見る彼にニッと無邪気な笑顔を向ける。
教えた分スポンジのように吸収していく彼はかなり良い所までゲームを進めていた。
俺は見て教えるだけだったけれど不思議と一緒にプレイしているような気分だった。
この時間がとても楽しくて、つい俺までゲームに没頭して興奮している。
最初は2人だけの空間に緊張していたのに今はゲームの盛り上がりが上回り、すっかり緊張なんてどこかへ飛んで行ってしまった。
「あ…待って、もうこんな時間か?!」
ははっと笑いながらふと窓の外に視線をやると、外はすっかり暗くなっている事にようやく気が付いた。
今さっきまで夕方だったのにもうこんなに暗いのか…と今度は部屋の中にある壁掛け時計に目をやると、1時間時間が経っていた。
(1時間?!体感だと10分くらいだったのに…!)
楽しい時間というのはあっという間で、自分の想像以上に時間が流れていたのだ。
俺はこんな風に誰かとゲームをして盛り上がるのが前世含めても初めてのことだった。
「夜ご飯食べに行かないと食堂閉まっちゃうな…。
………じゃあそろそろゲームは終わりにしてご飯食べに行こうぜ」
とても楽しい時間だからこそ、少し名残惜しい。本当は「また続きをやろう」と声を掛けたかった。
でも、俺の口からその言葉が出ることは無かった。
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陽良
2024/08/18 13:56
男の子と言う生き物は、外で遊んだりゲームをして遊ぶのが好き。それが普通の、健全な男の子であれば抱く感情なのが、当たり前。
それはあくまで俺が客観的に見ていて判断したひとつの観察結果の材料みたいなものだった。では俺は、“向坂洸”はどうなのか。
別に俺は娯楽に全く興味がないみたいな、変に大人ぶったマセたガキというわけではなかったことは予め言っておく。
勘違いしないでほしいのは、別に自分の両親や身内が毒親だったからとか、そういうわけじゃない。むしろ、俺は家族には感謝しているからだ。
では、どうして俺はこんなにも淡白じみているのか。
その理由は割と単純明快で、純粋に自分が心から楽しいと思えるものに出会えなかったからだ。だからなのか、多感な年頃に、周囲が恋だの惚れただのとやたらと色めき立つような状況の中でも、俺は誰か一人に夢中になるようなことはついぞなかったわけだ。だから、自分はいつしか“そういうもの”なんだろうと、己を俯瞰してはそしてとうとう諦めてしまったのだ。きっと自分には、そういった何かに熱中できるような欲も熱量もないのだと。
…結論からいうと、そう決めつけるのはあまりにも浅慮だったということが判明した。
…“佐倉紘”、彼の存在がゆるりゆるりと、けれど着実に俺の中の何かを変えていこうとしているのが手に取るように分かったからだ。
こんな風に、己の脆い部分やデリケートな部分を弄くりまわすようなことをされれば、拒絶反応を起こしてその相手とは関わりたくない、と思うはずなのだ。だけど、俺は不思議と彼に対する嫌悪感などは全くなかった。
それどころか、俺の中にふつふつと湧き上がるのは今まで感じたことのないような探究心と純粋な好奇心。
“佐倉紘という人間を知りたい”…それは、既に俺の中で定着しつつあるもので、どうしてここまで彼という存在に惹かれるのかと、自分自身の明らかな変化にだんだん興味が湧いたのだ。
(知識欲は、際限なく湧くもの…どこかの研究者がよく言ってたな)
そんなこんなで、俺は彼との時間に没頭して気付けば、窓の外から見える空の色が茜色から夜の帳をおろしたような闇色に染まっていた。
「あーっ!くっそー…今のは絶対いけたと思ったのに!!」
何度目かの‘you lose’の画面に思わず天井を仰ぎ見た。
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***このコメントは削除されています***
陽良
2024/08/18 13:55
男の子と言う生き物は、外で遊んだりゲームをして遊ぶのが好き。それが普通の、健全な男の子であれば抱く感情なのが、当たり前。
それはあくまで俺が客観的に見ていて判断したひとつの観察結果の材料みたいなものだった。では俺は、“向坂洸”はどうなのか。
別に俺は娯楽に全く興味がないみたいな、変に大人ぶったマセたガキというわけではなかったことは予め言っておく。
勘違いしないでほしいのは、別に自分の両親や身内が毒親だったからとか、そういうわけじゃない。むしろ、俺は家族には感謝しているからだ。
では、どうして俺はこんなにも淡白じみているのか。
その理由は割と単純明快で、純粋に自分が心から楽しいと思えるものに出会えなかったからだ。だかなのか、多感な年頃に、周囲が恋だの惚れただのとやたらと色めき立つような状況の中でも、俺は誰か一人に夢中になるようなことはついぞなかったわけだ。だから、自分はいつしか“そういうもの”なんだろうと、己を俯瞰してはそしてとうとう諦めてしまったのだ。きっと自分には、そういった何かに熱中できるような欲も熱量もないのだと。
…結論からいうと、そう決めつけるのはあまりにも浅慮だったということが判明した。
…“佐倉紘”、彼の存在がゆるりゆるりと、けれど着実に俺の中の何かを変えていこうとしているのが手に取るように分かったからだ。
こんな風に、己の脆い部分やデリケートな部分を弄くりまわすようなことをされれば、拒絶反応を起こしてその相手とは関わりたくない、と思うはずなのだ。だけど、俺は不思議と彼に対する嫌悪感などは全くなかった。
それどころか、俺の中にふつふつと湧き上がるのは今まで感じたことのないような探究心と純粋な好奇心。
“佐倉紘という人間を知りたい”…それは、既に俺の中で定着しつつあるもので、どうしてここまで彼という存在に惹かれるのかと、自分自身の明らかな変化にだんだん興味が湧いたのだ。
(知識欲は、際限なく湧くもの…どこかの研究者がよく言ってたな)
そんなこんなで、俺は彼との時間に没頭して気付けば、窓の外から見える空の色が茜色から夜の帳をおろしたような闇色に染まっていた。
「あーっ!くっそー…今のは絶対いけたと思ったのに!!」
何度目かの‘you lose’の画面に思わず天井を仰ぎ見た。
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紫雨
2024/08/14 21:19
彼についての情報はゲームで出てきた知識に限られていたが、どうやら本当にゲームの類いはあまり経験が無いらしい。
(ゲーム本当にあんまりやったこと無かったのか。
別に興味なさそうでは無いし……親が厳しかった、とか?)
彼の両親…というか家族構成なんかは何も知らない。ゲームでそれについて語られる場面は無かったから。
俺が知っているのは『高校に進学し、主人公と出会った向坂洸』。
それ以前の彼についての情報は無いに等しいので、何だか新鮮な感じだ。
(俺なんか気付いたらゲームばっかりしている子供だったし、
佐倉絃も…基本外で遊ぶのが好きな子供だったけど、ゲームも割と好きでそれなりに遊んでるしな…)
彼の家庭環境について追求する気は無いが自分がゲーム大好き人間である手前、隣にいるまだ16の少年がゲームを思う存分やった事が無い事実に内心涙ぐんでいた。
『俺だったら絶対耐えられない』と…
勿論、全世界の人間がゲーム好きである訳じゃない。
実際やってみれば彼に合わないことも全然あり得る。ただ今はこの少年にゲームの面白さを少しでも伝えようと心をメラメラと燃やしていた。
─────────
「っあ、次そこ右、右!上ボタン!」
俺の部屋に来てから1時間程経っただろか。窓の外は茜色からすっかり夜の暗さに移り変わっていた。
この1時間で操作を彼に教えつつ、俺もすっかりゲームの夢中になっていた。
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陽良
2024/08/11 02:44
(…やっぱり、まだ緊張してるのかなぁ。俺相手だったら、他の二人よりもう少し楽な感じで居てもらえると思ってたけど…さすがにそれは過信がすぎたか)
少なからず、自分には少しくらいは気を許してもらえてる、と勝手に思っていただけにそんな自意識過剰じみた思考を持っていた自分が何だか恥ずかしくて、同時にいたたまれなくなってしまった。
そりゃまだ出会って間もないんだし、と思う反面、出会い方が割と、というか確実に普通とは随分と違っていたから、その分彼には意識してもらえてるんだと思っていたのだが。
…むしろ、その出会い方がまずかったのかもしれない。
(ファーストコンタクトは大事だって、言うもんなぁ…)
…はた、とそこで俺はまた思考の渦に飲まれてるのに気付いた。
こんな風に、ドツボにハマったり、周囲が見えなくなるくらいに変に考え込みすぎることは今までなかったハズだ。
どうしてか、彼の…紘のことになると、いい加減にはしたくなくて、蔑ろにはしたくなくて、同時に彼のことをもっと知りたいと思った。
だからこそ、今こうして彼の部屋で二人で肩を並べて、ゲームをしようなんてことになってるんだけど。
正直、理由なんて何だってよかったんだろう。
きっと、俺が紘のことを知りたいと思ったから、果たしてそこに下心みたいなのが僅かでもないのかと問われれば、それは今は割愛したい。
聞きたいことは、たぶん他にもある。けど今はその時じゃない気がした。
ならば、彼がいつか自分に心を開いてくれて、その胸の内を明かしてくれるとなった時には、俺は彼の全てを受け入れてやろうと思う。
「モンスター、狩るの?へぇ~…面白そうじゃん!!
俺、ゲームとかあんましやったことないからさ…お手柔らかにな?」
そう言って、俺はにまっとどこかいたずらっ子じみた笑みを浮かべてから彼からゲームの軽い説明を受けつつ、ゲーム画面を見つめた。
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紫雨
2024/08/11 00:35
(…なんか、俺気にし過ぎだよな。いやまぁ、向坂洸相手だと仕方ないんだけど…)
俺が緊張しているのとは反対に、いつも通りの輝かしい笑顔を浮かべる洸。
緊張してしまうのは正直仕方ないと割り切れるんだが、いつでも余裕がある彼を見ていると自分が恥ずかしい。
前世を合わせた年齢だと、俺の方が彼よりもうんと年上な筈なのになぁ。
「あ、でも俺これ1個しか持って無いから…
…このゲーム、俺は散々やった事あるし、やってみる?」
俺がこの寮に持って来ているのは、持ち運びの出来る携帯型ゲーム機1つ。
2機あれば通信出来たり、据え置き型のゲーム機なら一緒に遊べたりもするんだが、現状それは難しそうだ。
一緒にゲームをすることは出来ないが、あまりゲームをしている印象のない彼にゲームの楽しさを少しでも伝えられたらそれで良いと思った。
「モンスター出てきて狩るって感じのゲームだけど、案外操作簡単だし初めてでも全然いけるし…
……あ、有名なゲームだしやった事あるかもか!」
言葉で軽く説明しながらゲーム機の電源を付け、ゲームを起動していく。
ただ俺はここで、向坂洸がゲームをしている描写が無かった=ゲーム経験が無いと勝手に解釈して話をしていたことに気がつく。だが早い段階で気がつけたため、違和感のないように言葉を付け足した。
彼がゲーム初心者だと判断できる情報は佐倉絃としては持っていない。
むしろ、ゲームでは描写されていないだけで実際はゲームが好きなのかもしれない。
BLゲーム"らぶスタ"の大ファンだった俺にとって、あのゲームは俺の一部と言っても過言ではない。
だからどうしてもあのゲーム内の情報は頭に過ぎる。
(俺が向坂洸と主人公の出会いをぶち壊してるから…ゲームとは違う世界線なんだろうし、
それにこの世界の人みんな、"キャラクター"じゃなくて、"生きてる"んだって…頭では分かって入るのに…)
この状況に少しは慣れたと思ったが、やっぱりまだ混乱している。
前世の記憶がある内は心からこの世界に溶け込めるような気がしない。
自分の全てを曝け出せる相手なんて出来ないような気がした。
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陽良
2024/08/04 12:10
彼の口から発せられた、「ハンティング系のゲームが好き」という言葉。
なんだ、やっぱりさっきのは俺の考えすぎだったみたいだ。
そりゃそうだよな、どこからどう見たって目の前にいる、彼は俺と同じ学生なのだ。
年不相応、なんて感じたのはきっと俺が多感な年頃だからだろう。
別に達観しているとは言わないが、やはりこの年齢の男女はいろいろなことに
興味を持ち始める傾向が著しいのだ。
女の子なら噂話とか、メイクだったりファッションだったり、何より恋愛だったり。
男だって女の子と大して変わらないが、思春期というものを迎えれば
自ずと話題の種はそういった会話になりがちである。
俺だって、全くそういう場面に出くわしたことがなかった訳じゃない、ただいつもは
何となく、なあなあに、お得意の笑みを浮かべてはやり過ごしていた。
…まずい。
先ほどまで四人で駄弁りながらごはんを食べていた時とは違って、今は彼と二人だけ。
しかも、ここは彼の部屋であるという、まあ何ともお誂え向きな状況なのである。
(…いやいやいや!!いくら絃が他の奴らとは違って見えるからって、別にそういうのじゃない。
大体俺はこれまでだって、これからだって、恋愛対象は女の子のはずで…)
俺はれっきとした男、もちろん目の前にいる絃だって俺と同じ男だ。
せっかく彼が俺にいろいろと気を利かせてくれているのに、それを無下にする訳にはいかない。
というか、こんな風に変に緊張してるのも多分俺だけなんだろうな。
そう思うと、なんだか悔しいなという気持ちと、その緊張が彼に伝わりませんようにと
願うような気持ちとで、ぐるぐる考えてしまった。
(ダメだ、ダメだ!!何となく、何となくだけどこのままこの思考にハマるのは良くない!!)
俺がこれまでに身につけた勘がそう言っているから、それならばと。
俺は笑顔を浮かべると、努めて明るい声で彼に言った。
「絃の好きなゲームして、遊ぼうぜ!!」
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うるるん
2024/08/04 00:49
「そう、家にあったやつ持ってきた。
俺結構…ハンティング系とか好きでさ!」
(危ない、向坂洸にBLゲームが好きとは言えない…‼︎)
好きなゲームと言えばBLゲーム。頭の中に当たり前にポンと浮かんで、一度はそのまま口に出そうとする。
だが関係値の浅い人には伝えにくい趣味だし、そもそもそのBLゲームの攻略キャラクターである彼自身にこの趣味を伝えるのは何とも…。
そう思いすぐに口をつぐんで違う答えを用意した。
勿論嘘ではない。某ハンティング系ゲームは俺自身好きだし、何なら佐倉絃でもこの系統のゲームはしている。
ただ佐倉絃としてこの趣味を共有出来る友達を作るのは難しそうだ、と内心肩を落としていた。
「あ、ここ。俺の部屋」
俺は1つの扉の前でぴたりと足を止める。
扉を開いた先は、皆変わりない間取りの部屋なので特に目新しさも無い。
置くものでそれぞれ個性は出るだろうが、まだ寮に入って数日じゃどの部屋も似たような印象だろう。
(…なん、か………俺やったか?!)
2人で部屋の中に入り、俺はベッドに腰を下ろした。対して向坂洸は床に腰を下ろしている。
そんな中で俺の意識は緊張の渦に取り込まれ始めていた。
先ほど4人で居た時は初めての出来事に多少の緊張はあれど、落ち着いていられたと思う。
ただやっぱり、彼と2人で居るこの状況にはまだ緊張をしてしまうようだ。
「………な、何かゲーム、する?!」
(というか、あんまこういうゲーム好きじゃ無いかもだよな…)
けれどゲーム内では向坂洸がゲーム機で遊んでる場面は1度も無かった。
正直これに関しては好き嫌いはわからず、不安に思いながらも俺はゲーム機を手に持って彼に提案をしてみる。
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陽良
2024/07/28 19:35
何だろう、面と向かって告白するより恥ずかしい気がしてきた。
いやまあ、これもひとつの告白じみた事ではあるのだろう。
君と一緒に居たい、とか、そういうのではないにしても、それにしたって
「君のことをもっと知りたい」なんて、今の時代の、ましてや男子高校生が言うだろうか。
けど、多分ここで変に回りくどい言い方をすれば、かえって彼のことを困らせるのは分かっていた。
彼はどこか抜けていて鈍感に見えるだろうが、その実かなり鋭い部分もある。
何より、彼はどちらかというと自身の気持ちより他人の感情の機微に凄く敏感だ。
無意識なのかは分からないが、周りのこともちゃんと見てる、落ち着きもある。
それはまさしく、"年不相応"だと、感じるくらいに。
…考えすぎか。
今俺の目の前にいる彼は紛れもなく、俺と同い年のごく普通な男子高校生であり、
これからきっと俺やあの二人と苦楽を共にできる程の友人になれるだろう。
だからこそ、時折彼がふとした時に見せるどこか憂いを帯びた表情や、やけに達観した
言動をするのは、単純に、彼の生きてきた環境にあるのだろう。
今ここで、仮に俺がそのことについて聞いたって彼はいつもみたいに少し困ったような、
でもどことなく嬉しそうな、何とも言えない不思議な顔しながら誤魔化すんだろう。
何より、今から彼のことが知りたいって言ってる俺が、いきなりそんな質問をするのは
あまりに相手の事情に踏み込みすぎだし、俺としてもナンセンスだった。
(時間は…ある。ここでの生活だってまだ始まったばかりだし。こいつと過ごす時間だって、
何もこれが最後ってわけじゃない。少しずつ、絃のことを知っていきたい)
「…本当に?よかったー、突然だったから断られるかと思ってたよ。
勿論、絃の部屋で構わないよ。へぇ、そのゲームは家から持ってきたのか?」
俺はにっこりと笑みを浮かべながら、とりあえず当たり障りのない質問を彼にしてみた。
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うるるん
2024/07/28 17:11
予想外の言葉に、俺は目を丸くした。
とても真剣な表情をしていたし、何だか緊張感のある空気だったせいで『問い詰められるかも』なんて考えてしまっていた。
けれど俺が過剰に不安になっていただけで、無用な心配だったようだ。
ひとまず予想していた内容では無かった事で身体の力がフッと抜けた。
(…俺のことをもっと知りたい?)
子犬のような表情の推しにこんな事を言われて舞い上がらない筈もなく、俺の心臓はバクバクと大きく跳ねていた。
けれどお人好しな向坂洸の事だ。そこに他意は一切無く、ただ俺に気を遣ってくれているに違いないだろう。
ゲーム内でも彼は優しすぎるあまり、相手に勘違いさせてしまう出来事もあった。
彼と友人になりたい俺にとって、前世の記憶は不要なものでしかないが、こういう時は正直前世の記憶があって助かった。彼の事を知っていなければ危うく勘違いをして、恋に落ちてしまう所だった。
(なんか、こういうの初めてだ)
前世で友人はほんの数人いる程度だったが、自身含め活発的な人間は居らず、休日に遊んだりする友人は居ないに等しかった。だから今日いきなりご飯をみんなで食べたり、今こうやって仲良くなろうと言葉を掛けてくれる事も俺にとっては初めての経験で、不思議な気持ちだった。
「…確かにな、俺たちまだ会ったばっかりで…お互い、良く知らないし。
それじゃあ一旦俺の部屋来る?ゲームくらいしかないけど…」
彼の友人になりたい俺としては、気遣いだったとても嬉しい言葉だった。
『お互い良く知らない』と嘘をついていることに罪悪感を感じつつも、自分の部屋に来ないかと提案をしてみることにした。
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陽良
2024/07/22 01:08
正直、ここで調子に乗っておちゃらけてみせるのもいいかと、少し後悔した。
彼の、絃の、こんな顔を見てしまったから。
おそらく、彼の中で、先ほどの会話が何やら尾を引いているんだろう。
…やはり、今ここで彼に聞くべきなんだろうか。
(…落ち着け俺、これは確実に絃はそれを望んではいないだろ。選択を、間違えるな)
今までだって、俺は何度も選択をしてきた、はずだ。
人生において、いつだって選択の連続。後悔をしない選択をしなさい。
なんて、俺よりいい年して大人ぶった奴らが口を揃えて言う、言葉だ。
後悔、なんてそんなもの後からついてくるから後悔なんだろうが。
先回りして、結果が分かっていればそれなりに、上手に立ち回れるだろう。
けれど、それではつまらないんじゃないか?人生が面白くないんじゃないか?
たった一度の人生だから、悔いがないように生きたい、それは誰しもが思うことだろう。
それは俺だって、そして勿論目の前にいる彼だってきっとそうだ。
人生はイージーモード、敷かれたレールの上をただ歩くだけじゃそれは俺の人生とはいわない。
自分の道は、自分で決める。やりたいことは、やれるうちにやる。
なら、今の俺がするべきことは……
いつになく真剣な眼差しで彼を見つめた俺は、僅かに息を詰まらせた。
言いたいことは、もうとっくに決まってる。
こんな風に躊躇したことなんて、今まで一度だってなかった。
いつだってそうだった、それはまるで…『俺の口から言葉がこぼれ落ちるように』と。
すうっ…と俺は息を吸って、そしてゆっくり吐いていく。
「いや、その……あーほら!!俺たちってまだお互いのことあんまり知らないなって、思って!!
なんていうか…俺としては、絃のことをもっと知りたいかな~…みたいな、さ」
駄目か?みたいな目を、俺は彼に向けた。
それはまさしく、捨てられた子犬みたいに、どこか所在なさげで、不安に瞳が揺れて。
まるで下される判決を待つみたいに、俺は彼からの返答を、緊張した面持ちで待っていた。
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うるるん
2024/07/21 23:12
勘違いなんて良くある話だ。
あの人がこういう風に言っていた!、と思っていたが実は違った。なんて全然ある。
だから俺も今、動揺してはいけなかった。ケロッと「そうだっけ?」と言ってしまえば良かった。
けれど俺は上手にこの動揺を隠すことが出来なくて、咄嗟に繕った笑顔も不自然だったかもしれないと心配だった。
だが彼はそんな気がしてきたかも、と優しい対応を見せてくれる。
俺は内心ホッとした。俺が気にしすぎているだけで、彼からすれば俺が何か勘違いしているかも、程度にしか考えていないのかもしれない。
「ははっそうだな…!」
(…助かった。これからは絶対気をつけねえと。)
『塵も積もれば山となる』なんて言葉だってある。もし小さな違和感を重ねてしまえば、彼は次に俺という存在に違和感を持ちかねない。
佐倉絃としてこの世界を平和に暮らしたいのなら、前世の記憶を、ゲームの知識を引き出してはいけない。
こんな風に佐倉絃として生きる前は、どうすれば相手からの好感度が上がるか完全把握しているから、ゲームの中に入ったら面白いだろうな〜なんて呑気に思っていた。
だが実際は、この『前世』が呪いのように感じた。向坂洸を人として好きになってしまったから。
友人になりたいからこそ、俺は彼に全てを打ち明けることはきっと出来ない。
今日また夜寝る前に1度頭の中を整理しよう、なんて思っていた矢先、『なあ、絃』と彼から声が掛かる。
安心し切っていた俺の心臓が再び大きく跳ね出した。
もしかして、やっぱり違和感を感じたんだろうか。問い詰めたれたり、するんだろうか。
どんな顔をしてどんな風に誤魔化せばいい?
「……、…あ、ああ!あるけど…どうした?」
俺は笑顔のまま少し首を傾けた。
若干言葉には詰まったが、普通に返事をした…はずだ。
ただあまりにも真剣な表情で彼が俺を見ているものだから、緊張してまた一段階心臓が大きく跳ねた。
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陽良
2024/07/14 19:38
俯かせた顔をすぐにあげられなかった様子の彼は、ようやくその顔を
あげたかと思えば、俺に見せた笑顔は、まるで取り繕うようなものだった。
瞬間、俺の胸の奥が、ちくりと何か針に刺されたみたいな痛みを覚えた。
(どうして、なんて聞いたら…お前はこたえてくれるのかな。それとも、)
ほんの一瞬、ここでもし彼にこの笑顔の理由(ワケ)を問いただしていれば
俺たちの関係は変わっていたのだろうか。
けれどこの時の俺は、そんな自分の中にできた僅かなわだかまりと、彼への疑念に
無理やり蓋をしてしまった。
この選択が、今の自分にとって最良だったと、正しいことだったのだと、俺は
俺を納得させることに必死で、彼のことに、本当の意味で気付けなかったのかもしれない。
「……そっか!!たしかに、そう言われるとそんな気がしてきたかもなー。
別に絃になら知られてても不都合とかないし、同じ階ならこれからも気軽に遊びに行けるな」
当然、そこには今日知り合ったばかりの相原と町田の顔も思い浮かんだ。
きっと、これから俺と絃とそれから相原と町田の4人でつるんでいくんだろうなって。
正直、学園生活が始まってすぐに交流関係を持つことは難しいことだ。
それこそ、今の自分たちみたいに気軽に、軽口なんかも叩けるような友達と呼べる、
そんな存在を作れたことは、これからの俺のめくるめく学園生活に大きく影響するだろう。
(なんだろ…柄にもなくテンションがあがってる?何となくこのまま、部屋に戻るのが惜しい…)
お互いの自室がある3Fに戻る道を歩きながら、俺は頭を悩ませた。
『もうちょっと君と一緒にいたい』…いや、これは駄目だな。恋人でもあるまいし。
『なあ、ゲームでもして遊ばないか』…そこまで悪くないけど、そもそも絃の好きなものとか
俺はまだ知らないことが沢山あるしな…と、そこまで考えてからハッとした。
知らないなら、知ればいい。
知らないことを、知らないままで終わらせるのはよくない。
やらないで後悔するなら、やって後悔するほうがいい。
「…なあ、絃。……このあと、時間…ある?」
俺は彼の目を真っ直ぐに見つめて、いつになく真剣な面持ちでそう訊ねた。
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うるるん
2024/07/14 18:07
俯いた顔を直ぐにあげる事が出来なかった。
俺はこの世界の人に『ここはゲームの中の世界で、俺は前世の記憶がある』だなんて言うつもりは無い。
普通に考えて頭がおかしい奴と思われるだろうし、この世界をゲームの中という言葉では片付けられないからだ。
それなのに、俺がやたら自分のことを知っていると向坂洸が気が付いたらどんな感情を向けられるだろうか。
彼とはゲームの人物としてではなくて、平凡な佐倉絃として良い友人になれたら…なんて、今の俺は思っている。
だから、彼には決して悟られてはいけない。そんな中早速口を滑らせてしまったが、彼は驚いた様子を見せながらもあまり追及はしないでくれた事に俺は酷く安堵した。
「……あ、あれ…なんか同じ階って聞いた気がして!
俺の気のせいだったかも!…悪い」
パッと顔を上げた俺は笑顔を繕った。彼の事を勝手に知ってしまっている事も、こうして何も知らないフリをしてることも、優しい彼を騙しているようだ。
俺は気まずくなり最後は視線をずらしながら申し訳無さそうに謝った。
そしてお互い3Fにある自室へと戻るため再び足を進めた。
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陽良
2024/07/14 10:29
そんなこんなで、男子高校生なりの、ゆるやかーな、和やかーな、
ともすれば男同士が集まれば、特有の空気感の中での昼食会は滞りなく終わった。
もちろん、その時間の中で今回新しく交流ができた相原や町田とも
随分と仲良くなれたように思う。…それはあくまで俺の憶測に過ぎないかもしれないが。
ともあれ、俺からしてみれば、有意義な時間を過ごせたことには変わりないので
まあ、今後ともこんな感じでゆるくこいつらと付き合っていけたらいいなと漠然と思った。
(強引に誘ったけど…絃のやつも楽しそうにしてたもんな。よかった、よかった)
ちらっ、と絃のほうを盗み見れば、彼は相原と町田を見ながら、何やら不思議な表情を
浮かべては、少し落ち着きがないように思えたがそれは特段気にすることでもないだろう。
仮に何か悩んでるなら、タイミングを見て俺から話を聞いてやればいいし。
その後も、だらだらととりとめのない雑談をしながら駄弁っていると
気付けば外はすっかり日が傾いて茜色に染まり始めていた。
一旦解散、という流れになり相原の部屋にお邪魔する形だった俺たちは
相原の部屋をお暇することになった。
それぞれ自分の部屋に戻る際に、改めて思うがここは本当に敷地内がバカ広い。
ここ1年棟だけでも各々の部屋自体は3F~5Fにあるわけだが。
相原は4F、町田は階段を上がっていったのを見たからおそらくは5Fだろう。
俺は3Fなので、と階段をおりようと足を向けた際に絃から出た言葉。
俺は思わず目を瞬かせてから、そして目をまん丸にした。
「俺…お前に自分の部屋のこと話したことあったっけ…?あーいや、別に
大したことでもないから、忘れてるだけかもだけど…ちょっと驚いたなって」
俺は本当に気にしたわけでもなく、ただ絃が俺のことに関して少しでも
興味を持ってくれているのが嬉しいな、なんて思いながら
それ以上は深く追及することはなかった。
…もし、ここで彼にもう少し踏み込んでいれば、この先の未来は変わったのだろうか。
この時の俺はそんなこと知る由もなかった。
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うるるん
2024/07/14 01:27
そんなわけで色々とあったが、俺達の昼食会は無事に終わった。
相原は粗暴な所もややあるが根は悪い人では無さそうだ。意外と人情に熱いことも知れたし、町田に関してはクール…だがどこか可愛げもある礼儀正しい人という印象。
タイプの違う2人、幼馴染。顔も整っている2人を見ると俺の腐男子センサーが反応して『もしかするとこの2人…?!』なんて一瞬考えた。
ここは一応BLゲームの世界…ではあるので十分あり得るが、折角出来た友達なのに俺の頭の中で勝手に妄想するのは失礼だろう。
(もし、もしそういう関係なら…最高です!)
俺はグッと涙を堪え、それ以上の考えを持つことをすぐに辞めた。
食事も終わってダラダラと話すうちに外は茜色に染まり始める。
一旦解散するかという話になり、俺と向坂と町田は相原の部屋を出ることになった。
「ま、寮だし多分またその辺で会うだろうけど…一旦またな!洸!絃!
賢人もまた後でなー」
「はいはい。じゃ、2人ともまた」
「ああ…ありがとな。また…」
相原が笑顔でひらひらと手を振ふり、町田は呆れたような返事をした後、俺と向坂にも別れを告げる。
俺はも小さく手を振って、部屋へと向かう彼の背を見送った。
この寮は1年棟で、俺たちの代しか住んでしない。部屋自体は3〜5Fにある。
相原の部屋は4F。町田は階段を登って行ったのできっと5Fに住んでいるんだろう。
俺は3Fに部屋があるので階段の方へと足を進めようとした。
「そうえば俺らは階いっしょだよな」
そう、向坂洸も部屋は3Fなのだ。どうせ戻る方面は一緒だし、黙ったままというのも気まずい。
手軽にあった『同じ階』という話題を口にしてみたが、俺はすぐにハッとする。
彼の口から、住んでる階など聞いていないからだ。
知っているのはゲーム内でそういう"設定"だったからに過ぎなかった。
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陽良
2024/07/13 01:38
男子高校生の舌に馴染みやすい、素朴でありながらもけれど確かに
俺たちの腹を満たしてくれて、そんな楽しい食事の時間を堪能しつつあった俺は、
相原が感心したような面持ちで、俺の容姿について称賛の言葉を口にした。
ごく自然だったけど、どうやら先ほど自分が提案した、「よろしくするなら名前呼びで」という
突拍子もない発言は見事採用されたらしい。
ひとまずそのことには若干の安堵を感じつつ、先ほどの相原の発言を噛み砕いていく。
(…えーと、これは…嫌味?いや、でもそれにしては悪意のようなものは感じないし…うーん、…)
なんて思案を巡らせていたら、今度は町田からも追撃を喰らう羽目になった。
"芸能人"とは、これまた随分と自分の評価が持ち上げられてしまったようだ。
さて、ここでこういった場合に、どういう反応をするのが最適解なのかと
俺は瞬時に脳内をフル回転させることにした。
幸い、俺はこういう場面であってもお互いに角が立たないように、波風を立たせないように
のらりくらりとかわすことは特段苦手というわけではない。
というか、「冷酷な奴か確かめるため」って、おいおい。
たしかに世の中にいる、所謂イケメンというステータスを保持する奴には
自分の容姿を鼻にかけては、何かと突っかかってくる面倒なのもいるらしい。
相原のいうこの言葉も、大方、俺が己の見目の良さゆえに周囲の奴らを見下しているんだろう、
なんてことを考えていたんだろう。
再三言うが、俺は別に変に敵を作りたい訳じゃない。
ただ、分け隔てなく接するから、時折勘違いさせてしまうこともあるけど、
基本的には友好的だと思うし、友達は大事にしたいし、困ってる人がいれば助けたい。
それがごく普通のことで、当たり前なのに、けれどそれが出来ない人も中にはいるわけで
全ての人が純粋な善意だけで生きているわけじゃないのは分かっていた。
でもどうしてかな、だからこそ絃の今の言葉はストンと真っ直ぐに俺の胸に落ちた。
俺は知らず、そんな絃のことを、つい、愛おしさを込めた目で見つめてしまった。
「はは、どうかな。俺はあんまり自分がどうとか、どう見られてるとかは気にしたことないかな。
けど…お前らの言ってくれたことは、素直に嬉しいと思うよ。ありがとな」
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うるるん
2024/07/12 22:48
食事を堪能しつつも俺達は4人で和やかな雑談を交わす。
前の友達が少なかった"俺"では、入学早々友達を作りこんな風に楽しく時間を過ごせるだなんて想像も出来なかった。
「いや〜それにしても、ほんっと顔整っとるよな、洸!」
食事の最中、相原が感心したような表情で向坂へそう伝える。どうやら名前呼びを互いに了承したらしく「洸」と呼んでいるようだ。
「普通に芸能人かと思ったしな、最初。
別のクラスにも何か派手な芸能人っぽい奴居たよな」
続いて町田。彼が言っている"派手な芸能人っぽい奴"は多分他の攻略キャラクターのことだろう。やはり彼らは特別容姿が整っているようだ。俺と同じく皆もその認識らしい。
「イケメンすぎるからどんな冷酷や奴かと思えば洸いい奴だしよ!!
勝手に疑って悪かった!
欠点はないのかイケメンに!!なあ、絃は知らんかこいつの欠点!!」
悶絶した様子でそう語る相原。最初に向坂へ話しかけたのは『どれほど冷酷な奴か確かめるため』だったようだ。全然失礼ではあるが本人もそれは自覚しているようで申し訳なさそうな表情を浮かべている。
これだけ顔が良いと確かにそういう目線でも見られることも少なくないんだろう。
イケメンの宿命か…なんて呑気に思いながら食事を進めていたところ、突然名指しをされる。
別に許可を取ってもらう必要もないが、俺も下の名前で呼ぶことになっているらしい。
「け、欠点……欠点か…?んー…?」
向坂洸の欠点。ゲームプレイヤーの目線で言えばあるかもしれないが、それを答えるのは違うだろう。
ちゃんと俺の目で見た、まだ出会って少しの彼の欠点を、数秒唸りながら考えた結果
「俺も洸と知り合って少しだから、欠点とかは分かんない…けど、
…本当にいい奴だとは思う」
心の底から、"いい人"という回答しか出てこず、ご希望の欠点を見つけることは出来なかった。
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陽良
2024/06/24 01:29
今日はどうやらお昼の食堂はお休みらしい。
なので、4人で肩を並べながら寮へと戻り、そのまま今回は相原の部屋に集まって
みんなで仲良く昼食をとることになった。
改めて、この寮の設備について俺は驚かされる。
ここに来た初日に荷ほどきついでに簡単に自分の部屋については一通り目を通してはいたものの、
やはり簡易的とはいえ、部屋に台所まで備え付けられているのは、正直有り難すぎると思った。
いろいろあって、成り行きでこの学校に通うことになり、なあなあで寮生活をすることになったが、
これならそこまで苦労はせずにやっていけそうだと思った。
さて、肝心の昼食はどうするかとなったところで、どうやら今回集まったメンバーから、
町田が料理上手だというので、「簡単なものでいいなら」とテンプレートみたいな前置きを挟みつつ、
彼が手料理を振る舞ってくれることになった。
そんな町田に食事を作ってもらっている最中、相原のほうから改めて2人について自己紹介があった。
いいなー、幼なじみか。生憎と俺にはそんな親しくも腐れ縁と呼べるような人物はいないので、
ちょっとだけ相原と町田の関係が羨ましいな、と思ってしまった。
「なあなあ、小中の相原くんと町田くん…あー、これからよろしくするなら真と賢人って呼んでいい?」
もちろん、俺のことも「洸」って呼んでくれたら嬉しいな、とにこっと笑みを浮かべた。
こういう場合、やっぱり何より最初が肝心だと思うんだよね。
おそらく、彼らは絃とは違って対人関係を築く力なんかは強いんだと思うから、
まずはお互いにある程度距離を詰めておくのも仲良くなる手法としては悪くないだろう。
あくまでこれは俺の持論だから、合わないならその時は相手に合わせなくてはならないのだが。
そんな雑談をしていると、これはなんとも鼻腔を…というか、空腹を刺激するいい匂いがしてくる。
見れば、これまた育ち盛りの男子高校生には嬉しい炒め物にチャーハンときたではないか。
なるほど、これは町田は胃袋から掴みに来るタイプと見た、と思わず俺は冷静に分析してしまった。
冷めないうちにと料理を口に運べば素朴ながらもしっかりとした味わいが
口いっぱいに広がる。
「さっすが…やっぱり、これって感じー」
絃と同じく俺も素直に称賛の言葉を述べた。
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うるるん
2024/06/23 16:49
4人で寮へと戻り、今日は昼の食堂が休みということで相原の部屋に集まり昼食を取ることとなった。
この寮は部屋にコンパクトだが台所が備え付けられているため、簡単な料理であれば部屋で作ることも可能だ。
食堂が休みの日は自身の部屋で簡単に食事を済ませる者もそれなりにいるだろう。
どうやら町田君が料理上手とのことで、「簡単なものでいいなら」と振る舞ってくれる話になった。
食事を作ってもらっている最中、相原から改めて2人について自己紹介をしてもらった。
フルネームは相原真、そして町田賢人。
相原と町田は小中と同じ学校に通っていたらしく、所謂幼馴染のようだ。
最初こそ、コミュ力が高くキラキラしてるこの2人と仲良くなれる気がしなかったが、実際話をしてみると
相原は本当に気さくな人物で、町田はクールではあるが気遣いの出来る人物に思える。
人を第一印象だけで判断し切ってはいけないと心の底で俺はそっと反省をした。
そんな雑談をしていると料理が出来上がったらしい。ウィンナーや卵、千切りキャベツの炒め物にチャーハン。
素朴ではあるが、匂いからして"絶対に美味しい"と確信出来る品だった。
「いただきます…!」
腹の減っていた俺は目を輝かせてスプーンを手に取りチャーハンを口へ運ぶ。
「ん〜うっま!」
「ん…本当に美味い!町田くん料理上手なんだな」
相原は満面の笑みを浮かべて満足そうに食事を味わっている。俺も想像を超えた美味しさに驚き、町田へ思わず尊敬の眼差しを向けていた。
「…いや、別にそんな」
口では"別に"なんて言っている町田だが、嬉しそうに口角が少し上がっているのがわかる。
何だか年相応らしい反応に俺はつい微笑ましくなって小さく笑みを漏らした。
違反申告
陽良
2024/06/16 18:25
やっぱりまだどこか遠慮しているような感じはしたけれど、
それでも俺は、彼のこうしたふとしたときに見せる、
ほんの少しぎこちなくて照れたようにはにかむような笑顔が好きだった。
正直なところ、こうして俺といるときみたいにもう少し笑ったりすれば
きっと周りからもとっつきやすい奴なんだろうなと思ってもらえるだろう。
彼だって容姿というか見た目は醜悪というわけでもないし、むしろ整っているほうだ。
それにどことなく可愛げだってあるから、愛想よくさえすれば
友達を作ることだってできるはず…
けれど、俺はそこまで考えたところで何だか胸の奥がもやもやした。
彼が友達に囲まれて楽しそうにしているのはどう考えたって良いことのはずなのに、
俺はなんだかそれがひどく気に入らなかった。
(…俺は、絃にとってどういうポジションの人間なんだろう。
変に絡んでくる面倒くさい奴とか?それとも胡散臭いお節介な奴、とか?)
"友達"…になれたらいいなって思って、俺はあの日の出来事があってから
ことあるごとに彼に構うようになった。
でもそれは俺の一方的な気持ちの押し付けになっていないだろうか?
「…気にすんな。むしろお礼を言うのは俺のほうだから」
…―(…少し、自分の身の振り方を考え直したほうがいいのかもしれないな)
そんな胸の内は誰にも明かすことなく、俺は支度を済ませて鞄を持ち、
彼と一緒に相原と町田が待つほうに足を向けたのだった。
違反申告
うるるん
2024/06/15 18:24
帰り支度をしている最中、向坂が申し訳なさそうな表情を浮かべて俺に声を掛けてきた。
やはり彼としては、良かれと思って俺を誘ってくれたらしい。
『お前もいたらもっと楽しいだろうなと思って』
彼が推しだから。とかそういうのは関係なく、こんな言葉を言ってもらえて嬉しくない訳がなかった。
少なくとも、"前"の俺ではこんな言葉を誰かに言ってもらえたことは無い。
向坂洸は本当にいい奴で、こんな人が友人ならきっと毎日楽しく過ごせるんだろう。
正直まだ、本当の主人公と向坂洸の大事な出会いを俺が奪ってしまって、この先2人が絡むことが俺のせいでなくなってしまったのでは無いか、という懸念はある。
本当なら向坂とはもう関わらない方がこの世界としては正しい判断だと分かっているのに
彼の優しさに徐々に心動かされている俺が居た。
「…よ、用事とか全然無い!大丈夫!
…俺、友達とか作るの昔から苦手だから…逆になんか、…ありがとう」
慌てて首を横にブンブンと振り俯きがちにそう答えたのち、彼の方を見て照れくさそうに小さく笑った。
「じゃあ行こうぜー!」
そして教室の前扉の方から相原が声を掛ける。相原と町田は既に準備を終えているようだった。
俺も再度鞄を持ち直し、向坂と一緒に彼らの方へと足を向けた。
違反申告
陽良
2024/06/03 02:14
俺としてはこの教室にいるクラスメイトたちと親睦を深めることも
大事だと思っているが、何より何かと気になる彼を
この機会に誘わない訳にはいかないだろうと思い。
しかしながら、半ば無理やりというかほとんど強制連行みたいなものだったので
これはもしかしたらむしろ、絃との距離はあいてしまった感じも
若干否めないが、まあそこは追々修復していけばいいだろう。
何もこれが今生の別れというわけでもあるまいし、これからいくらでも時間はある。
幸い、俺も絃もまだまだうら若き学生の身分だからね。
唐突な俺の提案にも関わらず、快く受け入れてくれた相原くんと町田くんに感謝しつつ、
どうやら食事は寮に戻ってとるらしいので、俺も帰る支度をした。
「絃、無理に誘っちゃったけどもしかして用事とかあったか?
正直、俺としてはお前もいたらもっと楽しいだろうなって思ってさ…」
まあ、お前の意見も聞かずだったからアレだけど、と
俺は少し眉を下げて、困ったように笑いながらぽりぽりと指で頬を掻いた。
違反申告
うるるん
2024/06/01 17:15
「?!?!」
驚きすぎて声が出ない、というのはこの事を言うんだろう。
ひっそり教室から退散しようと思っていたその時、唐突に腕が掴まれる。
そんな事をする人物は1人しか思いつかない。視線を向けた先にいたのは、想像通り向坂の姿だった。
彼は困惑した俺をそのままずるずるとあの2人の生徒の方へ連れていくのだ。
そしてどんな提案をしてくるのかも、大体想像できてしまっていた。
「ん?あ、佐倉くん?で名前合ってるよな?俺は全然いーよ!」
「俺も」
俺を含めて4人で食事をすることを提案した向坂に対して、相原と町田は顔を頷かせ
快く承諾しているように見えた。
(俺が…此処に混ざるのか?)
心内は頭を抱えている俺だが、態々誘ってもらったのにそれを断る勇気は持ち合わせていない。
それに、お人好しな彼のことだ。向坂としては1人で居る俺が可哀想だから誘ってくれたんだろう。
その優しさを無碍にすることも出来ない。
「…じゃ、じゃあ…是非」
はは、と軽く笑みを浮かべながら俺も彼の誘いに乗ることにした。
「オッケ!まあ昼飯っつても俺ら金あんまないし、寮戻って食べるつもりなんだけどね」
「とりあえず全員で帰るか」
考えていることは皆同じようで、今日へ一先ず寮へ戻る生徒が多いようだ。
こうして2人が帰り支度を始め、向坂も同じく寮へ戻るために帰り支度を始めて
違反申告
陽良
2024/05/26 13:45
クラスの全員の自己紹介が一通り終わった後、教師から
明日からの授業の日程だったり、時間割や教科書などの確認事項など諸々の説明がされた。
どうやら今日はこのあと授業などもないらしく、午前中で解散する日程らしい。
ちらっ…と時計に目線を向けると、時刻はお昼の12時前。
俺がこれからお世話になるこの学校は全寮制なので、今日は各々寮に戻って食事を摂るか、
もしくは外食をすることになるのだろう。
教師が一通りの説明を終えてから、「明日からよろしく」と教室を退出した。
とたん、教室内は再び騒がしくなる。
何とはなしに周りを見てみると既にいくつかグループなんかも出来ているみたいで、
「ご飯食いに行こうぜ~」みたいな会話も聞こえた。
さてそんな中、俺はどうしようかなと思案を巡らせた。
生憎、外食などという贅沢なことを気軽にできるほど金銭的に余裕があるわけでもなく。
まあその辺りに関しては追々バイトなんかを検討していた。
とまあ、そんなわけだから自然と今日の昼は寮に戻って摂るかという結論に至るわけで。
必要なものを買い出ししてから自足するか、と思いながら席を立とうとすると
見るからにチャラそうというかまあ雰囲気の軽そうな生徒二人が俺に声をかけた。
内容は極めてよくある「一緒にお食事でもどうですか」みたいなありきたりなお誘い。
正直、俺は悩んだけどここで断るのも気が引けるし、交遊関係を作るのは大事なことだし、と
俺は了承の返事をしかけてふと彼のほうを見ると、こそこそと一人で帰ろうとしてた。
(……そうだ、いいこと思いつーいた)
俺はこそこそと帰ろうとする彼の腕を掴むと、ずるずると引きずるように連れてきて
相原くんと町田くんの前に戻ってきた。
「こいつも一緒に連れていっていいなら、四人でご飯食べに行こうよ」
俺はそう言って、にこっと人好きのする笑みを浮かべてみせた。
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うるるん
2024/05/25 19:32
クラス全員の自己紹介が終わった後は、教師の方から明日から始まる授業の日程や
時間割、教科書等の確認事項について説明をされた。
今日は授業も無く、午前中で解散する日程らしい。
今は12時前で丁度お昼頃だ。この学校は全寮制なので、今日は寮へ戻って昼食を食べるか
もしくは外食しに行く人も居るだろう。
教師が説明を終え「じゃあまた明日からよろしくな」と教室から出て行った後
教室内がワッ盛り上がりを見せる。
初日にも関わらず既にもう数人でまとまり「なんか食べに行こうぜ〜」と会話をしている人もちらほら。
そんな中、チャラついた雰囲気の2人の生徒が向坂洸の席へと近付いていく。
「向坂くん!俺相原っていうんだけど、よかったらこれから一緒に飯食わねー?」
「俺町田。暇だったら一緒に行こうぜ」
流石に向坂洸には劣っているものの、それなりに外見は整っている、と思う。
ただゲームでは見たことのない顔と名前。彼らも俺(佐倉絃)と同じサブキャラクターなんだろう。
(コミュ力強いなこの人たち。…だが俺にはそんなコミュ力は無い!)
隣の会話に耳だけは傾けていたが、もちろんそこに混ざる気は無い。
類は友を呼ぶ、なんて言うし。きっと向坂にはこういうコミュ力が高いやつの方が一緒に居て楽だろう。
クラスの数人がそれぞれ1人で教室から出ていくこの自然な流れを見て、(よし今帰ろう)と
話かけられる向坂を横目にしながらも、鞄を持ち席から立ち上がった。
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陽良
2024/05/19 20:00
聞かれてもないことをぺらぺらと喋ったおかげで、
俺はそこそこ注目の的になってしまったようだ。
俺としては、周囲のクラスメイトたちに自分のことを知ってほしい、というより
これはほとんど彼に向けて自己紹介をしたようなものだ。
純粋に思ってしまったのだ、彼にはもっと自分のことを知ってほしい、と。
そして叶うなら、彼の事を俺に教えてほしい、って。
正直、少し絡みがあったくらいで友人だなんて呼べる間柄になれたかどうかは怪しい。
何なら、俺はそう思っているだけで彼のほうは単なる他人だと思っている可能性だってある。
俺はきっと彼の事がもっと知りたいんだろう。
これが特別な感情なのかどうかはまだ俺にも分からないけれど、
きっと他のクラスメイトたちに抱くものとは違う気がする。
俺の自己紹介が終わり、次は彼の番だ。
どんな自己紹介をするのだろう、と俺の視線は自然と彼に向いた。
(好きなことはゲーム…男の子だな。甘いもの、好きなんだ…甘党なのかな?)
あとで一通り落ち着いたら、彼に聞いてみようかな。
俺もゲームは別に嫌いじゃないし、好き嫌いはしないから甘いものも平気。
もしかしたら、彼と共通の趣味ができるかも、と思いながら時間が過ぎるのを待った。
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うるるん
2024/05/19 17:29
無難に自己紹介を終わらせる人もいれば、個性的な自己紹介をする人も居た。
だがやはり、このクラスで1番注目を浴びているのは向坂洸であるようだ。
向坂洸へと順番が周り、彼が口を開くまでの少しの合間でクラスメイトの視線は自然と集まる。
集まる視線の中の多くは、『彼が一体どんな自己紹介をするのか』と興味を寄せているように思えた。
黙っていると儚げな美青年に見える彼が人懐こい表情を浮かべるので、クラスメイトからは良い印象を持たれているように見えた。
俺もゲーム初見の時はどんな儚げ青年なんだと思ったが、実際は人当たりの良い人物でギャップを感じたことを思い出す。
今自己紹介を聞いた彼らも似たような心境になっているんだろう。
そうして向坂洸が自己紹介を終え着席したところで、教師が俺へ『次は君の番だよ』という意味を含んだ視線を向ける。
(俺の番か…はあ、)
注目されるのはやはり苦手だ。先程までは抑えられていた緊張がやや高まるのを感じながら、席を立ち上がり、口を開く。
「…佐倉絃です。好きなことは……ゲーム。あと甘い物も好きです。
よろしくお願いします」
無難に好きなものを言っておけば間違いないだろう、と思うが頭に浮かぶのは『BLゲーム』。
だがここでBLゲームが好きです、なんて言う勇気は俺には当然無かった。
そして目立ちもしない無難で普通な俺の自己紹介タイムを無事に終えることが出来た。
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陽良
2024/05/11 22:28
入学式にはありがちなよくある校長先生のありがたーい長話を
聞いているフリをしながら、実際は右から左に流しつつ。
早く終わらないかなー…なんて思いながら、手慰みに自分の髪の毛の毛先を
指に絡めたりして、気もそぞろになり始めた頃、ようやく入学式が終わった。
教室に戻れば、新入生らしい会話で周囲は賑やかになる。
お前どこ中?だの、好きな女の子のタイプはー?だの、まあ男子高校生なら
よくある、ありがちな反応。
青春してんなー、なんてどこか他人事のように思いながらも、俺の視線は
自然と彼のほうに向いた。
そんな中、担任の先生が教室に入ってくれば騒がしかった教室内も少し静かになる。
だがそんなものもつかの間、一人ずつ自己紹介を、なんて言うものだから
また少し生徒たちが騒ぎ始めた。
自己紹介、自己紹介かー…嫌いとか苦手とかそういうのはないけど、
こういうのって初めが肝心だっていうよな。
無難にいくのか、ちょっとはっちゃけてみたりして周りの興味を引くようなことを
織り交ぜてみるのか、自分を言い表す方法なんて人それぞれだ。
とりあえず自分の番が回ってくるまで、他の生徒の自己紹介を聞いてみた。
やっぱり無難に最低限の紹介で済ませる者もいれば、
中には聞いてもいないのに好きな女の子のタイプとかを暴露する生徒もいた。
そして、とうとう自分の番が回ってきた。
俺はガタッと少し音を立てて、椅子から立ち上がるとすぅ…と息を吸って少し間を置く。
自然と周りの視線は俺に集まる。
「…俺は向坂洸っていいます。食べ物の好き嫌いはあんまりしないかなー、犬より猫派。
可愛い子には甘やかしたいより実は甘やかされたいタイプ。仲良くしてねー」
そう言って、お得意の人好きのする笑みを浮かべれば、
俺の元々の容姿の良さも相まって、周囲の熱がなんとなく上がったような気がした。
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うるるん
2024/05/11 19:38
入学式を終えて教室へと戻り、クラスメイト全員が自分の席へと着席する。
周囲をチラッと観察してみると、誰とも会話をしていない俺のようなタイプもいれば、「お前どこの中学だった?」なんて新入生にありがちな会話を弾ませている奴もいるようだ。
前の人生では俺は緊張しまくりで誰とも話さず、精神的に疲弊した1日だった事を今でも鮮明に覚えている。
こういう時、自然と会話を弾ませる事が出来る…向坂のような奴が近くの席だと俺みたいな奴には嬉しいだろうな。
それからすぐに担任の教師が挨拶を始めた。それに合わせて雑談の声も収まっていく。
そして教師の挨拶後、「それじゃあ全員、1人ずつ自己紹介していこうか」と発言をした途端、またザワザワと教室が若干賑やかになった。
(っげ…自己紹介…)
人に注目されて発言する。俺の苦手なことの1つだ。前の人生でも自己紹介をする機会はあったが、緊張しすぎているせいなのかその時何を言ったのかはよく覚えていない。
でも今の俺はこの教室にいる生徒たちよりかは長く生きている身。
自己紹介なんてものは、軽く名前と好きなことなんかを言ってしまえばすぐに終わるし、こんな事では緊張はもうしないな、とやっぱり多少なりとも気持ちに余裕を持つ事ができた。
名簿の順番に1人ずつ立ち上がって名前や好きな事、趣味など各々自己紹介をしていく。
名簿の順だと、向坂洸の後に俺が自己紹介をする流れだ。
そしてついに自己紹介は、向坂洸まで順番が回ってきていた。
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陽良
2024/05/05 19:25
彼の緊張をほぐしてやろうかな、なんて余計なお世話かもしれないことを考えて
何気ない話題を振ってみたのだが。
もしかしてかえって彼に緊張を与えてしまっただろうか、と少し反省した。
彼はきっとこうして人との距離感を慎重に見極めることが何より大事なのだと、
たぶんだけど節度とか大切にするタイプなんだと思う。
となれば、もしかすると現在進行形で俺の接し方は悪手なような気がする。
純粋に彼のことが気になった、出会いこそそれなりに刺激的ではあったものの、
これから親しい友人として付き合っていけたらいいなと思うくらいには。
が、しかしここでふと考える。
これは俺の単なる一人相撲なんじゃないかと。
俺は彼と仲良くなりたいと思ってはいるけれど、彼はそうじゃないかもしれない。
むしろ最初に感じたように、彼はどこか俺と距離を置きたがっているように思えたのだ。
(…だからって、友達になれないわけじゃ…ない、よな)
俺は他者の懐に入り込むのはまあまあ得意なほうではある。
きっと少しずつだけど、彼だって俺に心を開いてくれるはず、そんな期待を込めた。
そんな俺の憂いもよそに、新入生には切っても離せない入学式の時間だ。
この学校のお偉いさんのありがたーいお話をなんとなく右から左に聞き流しつつ、
なんとなく彼のほうに目を向けた。
「…ふは、絃のやつ、退屈そうな顔してる。真面目くんかと思ったけど意外とそういう感じなのな」
思わず小さく吹き出して、ぽしょぽしょと呟いたもんだから
隣にいた奴なんかには、何だこいつ、みたいな目で見られてしまった。
そんなこんなで入学式も無事に終えて、軽く伸びをしながら俺は自分の教室へと足を向けた。
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うるるん
2024/05/05 17:33
「そ、うだよな。うん…本当にそう…」
彼が先に席に着く様子を見て、自然と自分も彼の隣の席へと座った。
すると彼が"気になる子と席が隣同士だったら"なんて言うものだから、一瞬自分の事を言い当てられたのかと思い緊張して言葉に詰まったが、彼の様子を見ると特に俺のことを言い当てている訳ではなくただの雑談であると理解した。
でも彼の言葉にはしみじみと同感した。今の俺がまさにその状況だったからだ。
画面越しに見ていた俺の推しと喋れるというだけで昨日十分緊張したというのに、今後は席が変わるまでずっと彼の隣で授業を受けるということだ。
俺は遠くから見守っていたいタイプの人間なので今でさえ、現在進行形で心臓バクバクと大きく脈を立てていた。
その後、入学式のため体育館へ移動する時間となる。
新入生は担任の教師に引率され体育館へ移動をした。
前の人生と合わせれば2回目になる高校の入学式だからだろうか、案外あっさりと入学式は終わったように感じた。
入学式ではゲームの主要人物を数人見かけ、(やっぱりここはゲームの中の世界なんだな)と改めて実感をした。
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陽良
2024/05/04 04:42
彼と並んで教室に向かう際、時折視線を感じた。
なんていうか、こういうのって自分で言うと僻まれるらしいのだが
俺は外見だけはそれなりに整っているほうだと思う。
別にだからといって、自分の容姿を鼻にかけるようなことはするつもりもないが、
だからこそ俺の周りには割と人が自然と集まってくる。
しかし、そういう奴らは大抵俺の"見た目"しか見ていないので、チャラい奴だったり、
ノリが軽いお調子者だったり、所謂陽キャラとかいう奴が寄ってくる。
(だからかな…無性に俺がこいつのこと、気になるのって…)
正直、絃はそういう見た目だけで寄ってくる奴らとは全く違う。
むしろ俺の内面を見てくれたというか、俺の性格にも気にかけてくれてるような気がする。
だからこそ、俺は彼と一緒にいるのがなんとなく心地いいような気がした。
今すぐには無理でも、少しずつ彼と仲良くなれたらいいなと思うほどには。
そんなことを考えながら、教室に着く。
自分の席は、と黒板に貼られた座席順を見るとどうやら彼とは隣らしい。
まあ名前も近いし、当然といえば当然だろう。
「こういうのってさ、気になる子と席が隣同士だったらちょっとドキドキするよな」
自分の席の椅子に腰かけて、体を彼のほうに向けて、
片腕は頬杖をつきながら、くすくすと笑った。
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うるるん
2024/05/03 20:46
クラス分けを確認する人混みを抜けた後、俺と彼は並んで教室へと向かう。
しかしなんと言うか、やはりこのゲームの主要人物キャラクターはこの世界でも目立つ存在のようだ。
先ほどクラス分けの発表を確認している際にも、ちらっと"向坂洸"以外の主要人物を見かけたからこそ、そう思う。
主要人物である彼らは外見が整っている。だからこそ、周囲から一際目立つ存在なのだ。
この世界でもその認識は共通なようで、彼らを目に留めてしまう人が多いようだ。
昨日少し会話をしてみて向坂洸はいい奴だと思ったが、今はこうやって並んで歩いていると
やっぱり俺とは全く違う世界を生きているように思えた。
教室に辿り着き、前扉から2人で中へと入る。
こうした入学式の日なんかは、大抵席の近い奴と会話をするものだ。
…俺はそもそも緊張して誰とも話さずに初日を終えた記憶があるが。
ともかく、彼も席に着けば自然と近い人と会話を弾ませるだろう。そうして仲のいい奴を見つけてくれればいい。
そう思いながら黒板にはられた席順を見る。
「っと席は…………、……隣、だな」
名簿順が前後だったので正直席が近い気はしていた。
なので「佐倉絃」と「向坂洸」が隣の席だったとしても何ら不思議はない。
どうやら俺が掲げたばかりの目標を達成することは難しいようだ。
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陽良
2024/04/30 18:27
(なんだ?こいつ、まだ俺に緊張してるのかな…)
たしかに彼の印象としては、俺みたいに進んで人と関わるような性格ではないことは
なんとなく、というか、おおよそ分かってはいた。
というより、どことなく他人と関わることを避けているような素振りだとも思う。
気のせいであればいいのだが、むしろ他人、というより、俺と関わることを
極力避けようとしているような…
え、それはそれで素直に傷付くんだけど、俺はまた無意識に彼に何か嫌なことを
してしまっていたのだろうか?…うーん、心当たりはないけど。
自分と同じクラスだと分かったからか、はたまた、こうしてまた彼と関わりを持つことが
できたのが嬉しかったのか、俺の内心は浮き足立っていた。
まるで好きな人と一緒になれたみたいな…って、いやいや!!彼は別にそういうのじゃないし。
それに俺も彼も男だし同性だし、そもそも俺の恋愛対象はれっきとした女の子。
これはたぶんちょっとした相乗効果みたいな、俗にいう吊り橋効果、みたいな。
なんてひとりで脳内論争を繰り広げつつ、とりあえず彼と一緒に教室に向かおうと
声をかけようとしたら、なんと彼のほうからお誘いをしてくれた。
「…ふはっ、俺もちょうどお前と教室に行こうぜって言おうと思ってたとこ。んじゃ、行くか」
こみ上げる嬉しさを少し抑えつつ、彼と並んで教室へと向かった。
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うるるん
2024/04/30 16:58
さっさと自分のクラスに行ってしまおう、と足を一歩踏み出したその時だった。
後ろから耳慣れた声が聞こえる。まさしく今頭の中で考えていた彼が側に立っていた。
「っお…はよ。いや俺も、あんまり…」
唐突な事に驚いたが、はは、と軽く笑顔を作りながら挨拶を交わした。
ゲームの登場キャラクターとは極力関わらないと目標を掲げている俺にとってはこの状況は
あまり望ましくない。
周りは人も多くガヤガヤと騒がしいし、この騒がしさに乗じて1人でサッと教室まで行こうかと
考えていたが、それは向坂洸に肩を抱かれた事によって阻止される。
「っ?!あ、あー…そ、そうだな。こちらこそ…よろしく…」
暗い性格な俺はこんな風にフランクな友達が居た経験がない。彼の行動に深い意味は無いんだと
理解はしているが、これは自分と同様、誰でもときめいてしまうだろう。
しかもそんな笑顔向けられたら誰だってイチコロだ。
俺がまだ正真正銘の高校1年生だったらこの時点でちゃんと向坂洸に惚れていたかもしれない。
前世では29歳まで生きており精神的にはもうおじさんと言われても良い年齢だからこそ
高校生の彼を恋愛対象としては見れないし、この状況も「推しがカッコいい」という感情までで抑えられるんだろう。
「…とりあえず、人…多いし教室まで行こうぜ」
同じクラスだと彼も認識した上でバラバラで行こうぜ!とは流石に言いにくい。
ひとまず教室までは一緒に向かおうと思い彼に声をかけた。
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陽良
2024/04/29 00:48
彼と別れたあとは、適当に食事を済ませて早々に部屋に戻った。
ベッドに潜り込んだはいいものの、それからなかなか寝付けなくて
結局眠りについたのは、夜中になる頃だった。
翌朝、遮光カーテンの隙間から差し込む日差しと、念のためとかけておいたアラームの音で
俺は目を覚ました。
ゆっくりと緩慢な動きで体を起こして、まずは体を軽く伸ばす。
少し寝不足気味な頭で、今日の予定を見直してから、朝のルーティンに入った。
朝ごはんを流し込むようにしてから、身支度を済ませて制服に袖を通す。
入学初日から遅刻なんてことは勘弁したいため、少し早めに余裕を持って寮を出た。
新しい友達ができるかな、とか、勉強大丈夫かな、とか浮き足立つ生徒たちに紛れて俺も登校。
まずは下駄箱前に張り出されたクラス分けの表を確認しようと、其方に向かうと
見慣れたばかりの後ろ姿が見えた。
「よう。おはよう、絃。ふわ~…ぁ。俺ちょっと眠れなくてさ…お前はちゃんと寝れた?」
そういえばクラス分けは、と彼の隣に並んで表に目を向けて自分の名前を探す。
すると、なんという偶然なのか、自分の名前のすぐ後ろに彼の名前があるじゃないか。
俺はつい嬉しくなって、思わず彼の肩を抱く。
「おー、おんなじクラスじゃん。よろしくなー」
そう言って、にぱっと人好きのする笑みを浮かべた。
違反申告
うるるん
2024/04/28 21:20
朝目を覚ますと、頭の中は昨日よりも冷静だった。ほんの少し、今の状況を飲み込めたからだろう。
サラリーマンだった俺は死んで、これからは佐倉絃として生きていかなければいけないと。
そしてゲームの登場人物とは極力関わらず、完璧なモブとして過ごしていこうと俺は決心をしていた。
俺みたいにゲーム内容を知っているやつが彼らに介入して主人公ポジションを奪う、というのは俺自身が許せないし、出来れば向坂洸と主人公が無事に結ばれてくれるのが個人的には1番嬉しいからだ。
向坂洸とは友人…のような関係にはなったが、もしこの先喋ることがあっても適度な距離感を保てば問題ないだろう。
ハンガーにかけられた新しい制服に袖を通し入学式へと向けて支度を始める。
まだ沢山不安は多いものの、前世では29歳だった俺がまた今日から3年間勉強の日々を送ることが実は今の所1番憂鬱ではあった。
寮から多くの人が登校する人ごみに俺も紛れる。まずは下駄箱前に張り出されたクラス分けを確認して1度教室に向かうらしい。多くの人で溢れる下駄箱前で俺も自分の名前がどこにあるか必死に探す。
(A組…ない。B……もない。C組…、さ…さ…佐倉あった……向坂洸?!)
1年C組に自分の名前があることを確認したが、俺のすぐ真上に「向坂洸」と名前が書かれていたのだ。
これからゲームの登場人物とは極力関わらないつもりだったが、既に関わりのある向坂洸が同じクラスであることに焦りを感じる。
(……い、や。いやいや…同じクラスだからって何も問題ないだろ。
結局は俺みたいな暗い奴なんかじゃなくてもっと明るいクラスメイトと絡むに違いないし俺はひっそりと目ただず生きるんだ…)
そう自分には言い聞かせるものの、心臓はバクバクと大きく跳ねていた。
違反申告
陽良
2024/04/14 02:32
腹の音をきかれてしまったことと、それまで自分が彼に対して考えていたことと
合わせて、なんだか照れくさくなって、変に意識してしまった。
こういうのって一度意識してしまうと、どうにも其方にしか気が向いてしまいがちだ。
(相手は男、相手は男…)
まるで自分に言い聞かせるように、何度も心の中でそんなことを唱えては
この妙に落ち着きのない感情を振り切るように、必死に見ないフリをした。
俺がずっとそこに居るからか、それとも彼なりに気を遣ってくれたのか、
彼は一歩踏み出して、俺に食堂に行くように促した。
彼に大事がなかったことからの安堵と、自分自身にあまりお咎めがなかったことへの
安堵の両方なのか、俺のお腹は尚も空腹を訴える。
早いところ、この腹の虫をおさめるためにも、俺は食堂に向かうことにした。
「じゃあな。明日の入学式、寝坊すんなよ。…んじゃ、ゆっくり休んでくれ。おやすみ」
ひらひら、と手を振ってから俺は彼と別れて食堂へと向かったのだった。
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うるるん
2024/04/13 18:42
安心した様子で笑う彼の腹の音が俺の耳にも入る。丁度夕食どきだし腹が空くのも当然だ。
彼は俺のことも心配してくれていたから、余計に安心したんだろう。
俺がもし彼の立場だったら相手が大怪我をしないか不安に思っただろうから、その感情はよく理解できる。
「食堂、閉まる前に行ってこいよ。
俺は…部屋戻って休むから…………色々、ありがとな。…じゃあ」
向坂洸が本当にいい奴なんだと対面で実感したためか、彼の和やかな雰囲気につられて俺も軽く笑みを浮かべた。
俺が動けば彼も食堂へ気軽に向かえるだろうと思い一歩を踏み出す。
だが数歩歩んだ後、さっと振り返り改めて彼に感謝を告げ今度こそ自室へと向かった。
結局ゲームに出てきた"詫び"の件も無く、これで向坂洸と俺が今後そうそう関わる機会は無いだろう。
そこにホッと安堵はしているはずなのに、何故かすっきりとしない心持ちだった。
(……何がモヤモヤすんだ?…ああ、主人公との出会いを潰しちゃったから…か?)
本来の主人公との出会いを潰したことに罪悪感は確かに残っていたが、それだけでは説明しきれないような複雑な感情。多分、俺は向坂洸ともっと話をしてみたかったんだと思う。
(……図々しいか、流石に)
ゲームにも登場しないサブキャラクター。俺は彼のような華のある人物と関われる立場じゃないだろう。
自室に戻った俺はベッドに身を投げ、ゆっくりと時間をかけてこの状況に整理をつける。
明日の入学式は特に何事もなく、平和に1日が終わるようにと祈り眠りについた。
違反申告
陽良
2024/04/08 02:22
「いい名前だな」
そう言って、彼はおそらく無意識だったのだろうが笑みを溢した。
たぶん、今日彼に出会って、初めて彼の笑顔というものを見たような気がする。
だって今まで見てきた顔といえば、赤くなったり青くなったり、
緊張しているような強張った表情ばかりだったから。
なんだろう、そう思うと彼のことをもっと笑顔にしたいと思った。
そしてそれは叶うなら、誰でもない自分が。
どうしてこんな思いを抱いたのか、今の俺には分かるはずもなかった。
当然だ、出会ったばかりの人間の笑顔に心を奪われたような気がしただなんて。
そんな、運命みたいな、あるはずもないことを思ってしまったから。
彼は人と関わることは苦手ではあるけれど、嫌いじゃないと言った。
それは単なる俺の質問に対する体裁のようなものかもしれないけれど、
もし、もしそうならば、これからだって俺と接する機会だってあるのかな。
なんていうか、俺は純粋に彼のことを放っておけなくなってしまったのだ。
別に世話がかかるからとか、危なっかしくて目が離せないとかじゃなくて、
ただ、彼のことを目で追っていたい、彼のことをもっと知りたいと思ったから。
どうしよう、それとなく伝えるべきかと悩んでいたら、
彼からそういえば俺は夕飯を食べに行くところだったんだろうと指摘された。
「…あー、うん。はは、なんか…安心したら腹減ったな」
そう言って笑う俺のお腹が、空腹を訴えるようにきゅるる、と小さく音を鳴らした。
違反申告
うるるん
2024/04/07 19:36
「苦手だけど…別に嫌いじゃないって感じ、かな。
……うん、俺も…そう思う」
佐倉絃は人と関わる事が好きだと答えるだろうが、俺は苦手なタイプの人間。だが人間1人では生きていけないと思うし、気の合う人間とは一緒に居て心地良いものだ。ただ彼の言う通りそういった人間と出会って関係を築くことは案外難しいとも思う。
「…そう、なんだ」
深く考えず質問返しをしてしまった訳だが、彼は自分の名前の由来を俺に教えてくれる。
これはゲームでは出てきたことのない、初めて耳にする情報だった。
「…いい名前だな」
無意識に自然と笑みが溢れる。向坂洸は丁寧で真面目で、主人公にも他のキャラクターにも心が広くとても優しい人物だ。そんなゲームでの彼を知っているからか、心から彼に似合っている名前だと思った。
そんな会話をしている最中、保健室の扉が開く音がする。目を向けるとそこには保険医の姿があった。
頭に氷袋を当てている俺を見て慌てて駆け寄ってきた保健医に俺と洸で経緯を説明する。
ぶつけた頭を見てもらったところ、たんこぶにはなっているがそれ以外は特に問題はないらしい。
もし痛みが治らなければすぐに保険医に伝えるようにとのことだった。
「…ありがとうございました、失礼します…
…そうえば、夕飯食べに行く途中だったんじゃ…まだ時間あるし食堂、行ってきたら?
俺はちょっと部屋で休みたいから戻る、けど…」
保健室から2人で出た後、思い出したように彼に夕飯のことを伝える。
佐倉洸もだが、お互い食堂へ向かう途中だったのだ。俺としては食欲が湧かず自室に戻り1人でこの状況の整理をしたいと考えていた。
違反申告
陽良
2024/03/31 04:06
何気なしに問いかけてみた質問だったのだが、さすがに踏み込みすぎただろうか。
しかしもう彼に問いかけてしまったことには変わりないし、後には引けない。
とりあえず彼の返答を待ってみて、反応次第では謝ろう。
そう思っていたのだが。
(…人との繋がりを、大事に出来るように)
彼の名前である、"絃"にはそんな意味が込められているらしい。
ずいぶんと素敵な親御さんだと思った。
人は生きていれば、必ずどこかで人と出会って、そして繋がりが出来るもの。
その一期一会の出会いを大切に出来るかどうかで、
人との接し方だったり、いわば知り合いだったり友達だったりができていくわけだ。
人との繋がりは切っても切れない、確かなもの。
なるほど、彼の名前には、そんな大切な意味が込められていて、
そして彼の両親はそんな風に生きてくれたら、と願ったのだろう。
「…なんか、いいな。そういうの…お前はさ、人と接することは、好き?
誰かと出会って、その人のことを知って、友達になったり、恋人になったり、家族になったり。
繋がりってさ、当たり前のように見えるけど案外難しいもんだよな」
そう言って、にへら、と俺は少しはにかむように笑みを浮かべた。
照れ臭いなって思ったけど、これが今の俺の本心だから、ちゃんと伝えておこうと思った。
「俺の名前、か…そうだな…洸ってさ、水を連想させる漢字らしくてさ。
水が沸き立つさま、とか、水が広く深いさま、とか。だから…なんていうか。
心の広くて優しいやつになってくれ、って意味があるらしくてさ」
ぽりぽり、と指で自分の頬を軽く掻きながら、少し眉を下げて困ったように笑った。
違反申告
うるるん
2024/03/31 01:45
(名前の、意味…)
彼は特に深い意味は無く質問をしたのだろう。
問われた後、俺の中にある佐倉絃の記憶がぼんやりと浮かんでくる。
まだ小学生の頃だ。"自分の名前の由来を調べよう"という授業があり母と父に意味を聞いたことがあった。
色々言われたような気もするが流石に記憶が朧げで。でもこれだけはしっかりと覚えていた。
「……人との繋がりを大事に出来るように」
"いと"は人との繋がりという意味もあって、これから出会う人々との繋がりを大事に出来る真っ直ぐな
人間になって欲しいという願いからこの名前は付けられた。
明るく活発で友人も多い"佐倉絃"は、両親が願っていたように人との繋がりを大事にしている人間だと思う。
「…って、意味。……絃って珍しい名前、だよな」
願いを込められたからそう生きなければならない。…とは思わないが
記憶に在る優しい両親の願いに応えてあげられたら、とは思っていた。
「……こ、洸は…なんか意味とかあったり、すんの?」
少しの沈黙にも耐えられなかった俺は言葉につまずきながらも彼に同様の問いかけをしてみた。
違反申告
陽良
2024/03/24 15:53
いきなり名前で呼んでくれ、なんてなんとも馴れ馴れしいことこの上ない
提案ではあったものの、彼は俺のこの提案を飲んでくれた。
どうやらこの佐倉絃という人物は押しに弱いらしくて、おそらくだが
人からの頼みごとを断ることが苦手なんだろうなと思った。
(…まあそこにつけこんだようなものだよな、俺だって。でも―)
なんとなく、彼には俺のことをただの同学年の生徒、としてではなくて
向坂洸として、認識してほしかった。
正直なところ、どうしてこんな風に思うのかは俺にもまだ分からない。
けれど悪い気持ちはしないし、どうせなら友達は作っておいて損はないだろう。
とはいっても、彼のほうはまだ遠慮というか緊張しているようだが。
「改めてよろしくな…絃。にしても、佐倉はそんなに珍しい名字でもないけど
絃って名前はあんまり聞かないよな。なんか特別な意味が込められてたりすんの?」
親は子に名前をつけるときに、こうなってほしい、こうでありたい、などといった
願いや祈りを込めることがある、らしい。
ふとそんなことが頭の中に浮かんだので、なら彼も何か意味があるのかなと思って
少しだけ踏み込んだ問いかけをしてしまった。
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うるるん
2024/03/24 00:28
向坂洸から"洸でいい"と距離を縮めるような言葉を掛けられた。
名字呼びは誰に対しても通常運転だが、同い年である向坂洸に敬語を使っているのはズバリ緊張からであった。
いつも画面上で見ていた好きなキャラクターとごく自然に、気軽に接するだなんて小心者の俺には難しい話だった。
だが付け加えられた"駄目か?"という言葉。
俺はこういった類の言葉には弱い人間で、所謂『押しに弱い・頼み事を断るのが苦手』なタイプだ。
駄目かと聞かれるとこの頼みを断る都合のいい理由など思い付かない。
(駄目な理由もないし、呼び方と話し方がタメ口に変わるだけだし問題ない…よな?)
「いやッ全然!…じゃあ、洸…って呼ぶわ。
俺も佐倉とか、絃…で大丈夫」
首を小さく横に振った後、何だか名前呼びが恥ずかしくて少し照れくさそうに彼の名前を呼んだ。
それなら俺も同じような呼び方で、と思い自分の名前を口にする。
つい彼の要望を聞き入れてしまったが、推しとタメ口で話せて名前も呼べるだなんて前世、ゲームをしていた俺からすれば歓喜でしかない。
無論今の状況では緊張の所為で喜ぶにも喜べない訳だが。
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陽良
2024/03/17 17:22
きっと彼は、俺のこの突然の問いかけにひどく困惑したことだろう。
それもそのはずだ。何かしたのかなんてまるで問い詰めるような真似をしてまで
俺はなんとなく彼との関わりをここで途絶えさせたくはなかった。
(何故?それは俺にも分からない…けれど、どうしてこんなに胸の辺りがざわつくんだろう?)
彼とは今回が初対面であり、何かあったとすれば先ほどのことくらいだ。
だのに、このような問いかけをする俺に明らかに困惑している様子の彼は
何かを考え込んでから、ハッとしたような表情を浮かべた。
俺が何かしたわけじゃない。彼はそう言った。
でもさっきのことは、確実に俺が何かしたっていうか、まあ言ってしまえば事故だけど。
狙ってしたことじゃないし、故意のような感情があったわけでもない。本当に偶然だ。
たまたま俺の足元がふらついて、階段から落ちて、そしてたまたまそこに彼がいた。
それだけ、ただそれだけ。なのに…
「…洸でいい。呼び方、名字って何か慣れないし。お前とはタメだし。…駄目か?」
いきなり名前呼びは馴れ馴れしいかな、とは思いつつも
なぜだか彼には自分のことを名字ではなくて名前で呼んでほしかった。
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うるるん
2024/03/16 21:39
俺的には最大限の努力をして彼になるべく不快な思いをさせぬようにと努めていたつも
「?何かって…」
自己紹介も一旦終えこれで彼との話は終わりかと思った手前、突然『俺、お前に何かした?』と問いかけられ俺の頭の中に疑問符が浮かぶ。
佐倉絃の記憶を俺は引き継いでいるからこそ、向坂洸との先程の出会い…階段での件は確実に初対面だと言い切れる。
彼が俺に何かしたというのならば階段で下敷きになった件くらい。彼だってそれは分かっていると知っているからこそのような問いかけた投げられた事に一瞬困惑したものの、俺は数秒後に直ぐに気がつくことになる。
(待てよ、俺の態度のせいか…?!)
佐倉絃は温厚で友人も多い人あたりの良い性格だったが、"俺"は暗くて友達も少ない。交流自体もあまり得意では無い人間だ。
俺の根暗な性格に加え怒濤の困惑的な展開により冷静になれていない俺の態度が彼を困らせていたことをようやく自覚し、ハッと気がついた表情を浮かべた後俺は慌てた様子で口を開く。
「っいや…!!何もしてない!してないっす!!
……俺、ちょっと…他の事、で色々悩んでて。向坂…くんがとか全然そういう訳では無いから…」
自分でも整理出来ていないこの状況を誰かに説明出来る訳もなく、ざっくりとではあるが事実を伝えるため他に悩みごとがあったと口にした。
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陽良
2024/03/12 01:07
警戒…もとい、相手に緊張を与えないために浮かべていた笑顔が
若干ひきつる。ううん、崩してはいけない、崩してはいけないぞ、俺!!
なんとか右手はとってもらえたものの、それも俺が差し出したから
とりあえず握っておくか、みたいな、仕方ないな感がとても拭えない。
(うーん、やっぱり俺嫌われてるのかな…おかしいな、何かした覚えないんだけどな…)
いやまあ、何かしたかしてないかで言えばしたのだろうけど、
どことなく彼からは距離を感じる。
距離感バグってる、って言われるみたいに仲良くなれたらいいなとまでは言わないけど
たぶん最低限の付き合いくらいはあるだろうし、できれば仲良くしておきたい。
俺はどうしたものかと頭を少し悩ませる。
このまま仮に「お詫びさせてくれ」なんて言っても彼のこたえは絶対ノーだ。
少し時間を置く?でもそれこそ本当に関わり自体なくなりそうだし…
…ていうか、そもそもの話だ。
なぜ俺はここまでしてこの目の前の彼にこだわるのだろう?
これが異性とかであれば、介抱してもらった恩だの何だのと何かが始まるかもしれない。
けれど相手はれっきとした男だ、間違いなく俺と同性である。
そして余談だが、俺の恋愛対象は"女性"である。
「うぅーん……なぁ、この際だからもう聞いちゃうけど。俺、お前に何かした?」
俺は彼と向き直り、そして彼の目を見つめてそう問いかけた。
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うるるん
2024/03/10 16:36
実際のゲームの展開としては気絶した主人公が向坂洸に運ばれ、俺がいるこの部屋で目を覚ましたところ
向坂洸から謝罪と詫びをさせて欲しいと言われる。優しい主人公は一度は断りながらもその後提案を受け入れ
そこから2人の接触が増える…という流れだった。
だがしかし俺はまず気絶をしておらず、今"詫び"を言われる前に問題ないと相手にも伝えることが出来た。
これでゲーム展開とは大きく流れも変わるはず。…だが主人公と向坂洸の接触の機会を奪ってしまった俺は罪悪感でいっぱいだった。この先2人はどうなるのだろうか。俺の推しキャラ2人が出会うことはもう無いのだろうか。そう考えていた最中、彼が自分に対して名前を名乗る。
…ゲームと全く同じセリフではないが、ゲーム中でも主人公に名前を名乗り詫びをすると言っていた場面がある。今差し出されている手を握ってしまったらそれは何か始まってしまうのではないだろうかと危惧する。
でも彼は善意でこの行動をしてくれているというのに、この手を取らず「いやそういうの別に良いんで…」とか俺は言うのか?言えるのか?!
だがそうすれば俺は向坂洸からの印象は超最悪になり確実に今後接触する機会はなくなるだろう。
それなら俺は────
「…佐倉、絃です。色々あざす…」
いやそんな相手の善意を無碍に出来る訳が無いだろ!
特に推しの善意だ。それにこの手を握らなかったら俺は多分一生後悔する。
心の中は半泣き状態。俺は肝を冷やしながらも笑顔を作り、彼の右手を軽く握った。
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陽良
2024/03/10 09:45
んー…なんとなく彼に違和感を感じる。
この状況を受け入れていないような…むしろ、この状況を納得していないように見える。
(…もしかして、俺、こいつに嫌われてる…?)
そりゃそうだよな、初対面だし顔も合わせたこともなければ話したこともないやつに
突然抱えられて、保健室まで運ばれて、挙げ句あれよこれよと世話を焼かれても
なんだこいつってなるよな、と思いつつ、ちらっ…と彼を見る。
自分は割かし他人の顔色を窺って相手の心境なんかを汲むのが得意なほうだと
思っていたが、今回ばかりはそうでもなかったらしい。
良く思われていないのなら、あまりつつき回すのも良くないよな、と思い直して、
うん、とひとつ頷くと彼のほうに向き直る。
「俺、向坂洸っていうんだけど。お前、名前は?見た感じ多分俺とタメだよな?
だったら多分これから顔も合わす機会あると思うし。あ、もし今回のことで何かあったら
言ってくれ。お詫びとか、俺にできることならするし」
少々矢継ぎ早にはなってしまったが、とりあえず名前だけは名乗っておいた。
これで、名前も知らないやつから変な気を回された、なんてことにはならないはずだ。
よろしく、という意味を込めて、すっ…と右手を差し出して握手を求めてみる。
もちろん、警戒というか緊張されないように、俺は人好きのする笑みを浮かべていた。
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陽良
2024/03/10 09:43
んー…なんとなく彼に違和感を感じる。
この状況を受け入れていないような…むしろ、この状況を納得していないように見える。
(…もしかして、俺、こいつに嫌われてる…?)
そりゃそうだよな、初対面だし顔も合わせたこともなければ話したこともないやつに
突然抱えられて、保健室まで運ばれて、挙げ句あらよこれよと世話を焼かれても
なんだこいつってなるよな、と思いつつ、ちらっ…と彼を見る。
自分は割かし他人の顔色を窺って相手の心境なんかを汲むのが得意なほうだと
思っていたが、今回ばかりはそうでもなかったらしい。
良く思われていないのなら、あまりつつき回すのも良くないよな、と思い直して、
うん、とひとつ頷くと彼のほうに向き直る。
「俺、向坂洸っていうんだけど。お前、名前は?見た感じ多分俺とタメだよな?
だったら多分これから顔も合わす機会あると思うし。あ、もし今回のことで何かあったら
言ってくれ。お詫びとか、俺にできることならするし」
少々矢継ぎ早にはなってしまったが、とりあえず名前だけは名乗っておいた。
これで、名前も知らないやつから変な気を回された、なんてことにはならないはずだ。
よろしく、という意味を込めて、すっ…と右手を差し出して握手を求めてみる。
もちろん、警戒というか緊張されないように、俺は人好きのする笑みを浮かべていた。
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うるるん
2024/03/09 16:22
どうにか彼を、いやこの展開を止めようと必死になってみたもののその努力は報われず。
俺は保健室まで運ばれ今はベッドに下ろしてもらっている状態だ。
実際のゲーム中の展開とは違い俺が気絶している訳では無いが、ほぼゲーム通りの展開だと言える。
「っあ…ざす…頭ちょっとぶつけただけで後は全然…」
未だ状況を整理しきれず混乱していた中、彼が氷袋を包んだハンカチを患部に当てたことで
意識がハッと戻される。
少し言葉が詰まるが礼を伝えた後、自分の体に視線をズラし特に怪我が無いことを確認しつつ
問題無いことを伝える。
その直ぐ後、彼に氷袋を持たせたままにするのも申し訳なく思い「自分で持つんで…」と
彼の手から氷袋を受け取り、自身で患部を冷やした。
「…あの、お…・俺ここの人来るの待ってるんで…多分夜飯、食べに行くところだった…すよね。
全然行っていいただいて大丈夫なんで…運んでもらってすみません…」
相手の顔を見て話そうと視線を向けるが美麗な容姿にまた言葉が詰まりほんの少し沈黙が生まれた。
だが直ぐにまた喋り出し自分が平気な事を伝えるがやはり伏目がちになってしまう。
こんなに綺麗な人と会話することなんて人生で初めてだよ!緊張だってするに決まってるだろ!と
心の内は大慌て状態である。
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陽良
2024/03/04 09:38
なんか急に元気になったな、こいつ…
とは思いながらも、やはり先ほど見た感じ頭を打ったように思えるし
念には念を、と保健室で診てもらったほうがいいのではないかというのが俺の判断だった。
とはいえ、無理強いをするのもなんだか可哀想になってきた。
彼はというと、わたわたと手足をばたつかせながら、必死に俺に何かを伝えようとしている。
ていうか、そんなに暴れたら落としそうで困るんだけど。
できれば大人しく運ばれててほしい、目の前の彼は一応怪我人なわけだし。
「ちょ…っそんなに暴れたら落としちゃうから大人しくしててよ。もうすぐ着くし」
じたじたする彼をなんとか宥めつつ、俺は目的地である保健室へと急ぐ。
保健室の扉をガラガラと開けて、声をかけるが中から反応はない。
もしかして、保険医は離席しているのだろうか?困ったな…
とりあえず彼を、保健室のよくあるちょっと固いベッドにおろすと、
保健室の中をぐるりと見て回る。
「とりあえず頭冷やそうか。他に怪我してるところとかないか?」
正直、勝手に物品を拝借するのは気が引けるがやむを得ない。
冷やすものを、と氷をいくつか袋にいれてそれを持参していたハンカチにくるむ。
傷に響かないように気を付けながら、それを彼の打ち付けた患部に優しく当てた。
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うるるん
2024/03/03 21:25
此処が本当にゲームの中の世界なら、これから俺と向坂洸が恋をするとでもいうのだろうか。
だがそれは避けたい。何故なら俺は「向坂洸×七海優」の2人が推しであるからだ。
「向坂洸」も魅力的なキャラクターであると思っているが自分がそんな彼と恋をするだなんて非現実的で想像がつかない。
でも、現状実際のゲーム内容とは違う点がある。
下敷きにされた俺が気を失っていない事だ。本来は気を失った七海優を向坂洸が保健室まで運ぶ…という展開。
俺は気を失っていない、頭は…若干痛いが保健室に行く程度でもない。
実際のゲーム展開と少しでも内容が違うのであれば特に恋に発展することも無いのではないか。
必死に今の状況を整理しようと頭の中で考えていたところ、向坂洸が声を掛け俺に手を伸ばす。
優しい人物である彼がこういった行動を取るのも理解は出来るが、この手を取ってしまったらそれこそ何か始まってしまうのでは…と手を取れずにいた。
俺が反応せずにいた所為か、次の瞬間ふわりと身体を持ち上げられる。
「…?…ん?!」
一瞬全く理解が追い付かなかったが直ぐにこの状況を理解した。
おそらく保健室まで運んでくれているんだろう。好きなキャラクターにこんな事をしてもらうだなんて勿論至福なのだがこのままゲーム通り進んでしまうと俺が困る。
「っちょま…待て!!本当に!大丈夫っすマジで一旦下ろして…!!」
もうすぐ保健室へ辿り着く、という所で俺は彼に焦った様子で彼にそう伝えた。
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陽良
2024/03/03 09:27
若干どもりながらも、「大丈夫」だと言う目の前の彼にひとまず胸を撫で下ろした。
のだが、先ほどから目の前の彼がやけに忙しない。
別に急いているとかそういうわけではなくて、なんていうか、表情が忙しない。
赤くなったり青くなったり、そんな彼のことがなんというか心配になってくる。
もしかして、さっき彼のことを下敷きにしたときに打ちどころでも悪かったのか?
たぶんだけど彼は頭を打ち付けていたような気がする。あまりよく確認できなかったけど。
ということは、その衝撃で何らかの影響が出たのだろうか。
俺は胸を撫で下ろしたのもつかの間、そろり…と目の前の彼に手を伸ばしてみる。
「あの、さ…やっぱり保健室とか行ったほうがいいんじゃない?顔色も悪いし…」
もちろんそれは紛れもなく俺のせいなので、彼を保健室に連れていくくらいはするつもりだ。
そこまで甲斐性なしじゃない、はず。ていうか、そうでもしないと良心が痛む。
ここは人通りも多い場所だったようで、だんだん人が集まってくる。
できれば、こんな初っぱなから注目の的にはなりたくないし、できれば穏便に事を済ませたい。
なので、彼には少し申し訳ないが強行手段に出ることにした。
「……ちょっと、ごめんね」
そう一言断りを入れてから、ひょいっと彼の体を横抱きにした。
同じ男なのに、やけに軽いなと思ったのだが、
そういえばそこまでタッパがあったようにも見えなかった。
ますます心配になってきて、人混みをかき分けるようにして俺は足早に
彼を連れて保健室へと向かった。
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うるるん
2024/03/02 20:26
頭の整理が全くつかなかった。"俺"は来年三十路の普通のサラリーマンで、確か今日も会社から帰っている途中で…そう、その途中で確かトラックに轢かれそうになって──────
ぼんやりとではあるが、俺はトラックに轢かれて死んでしまったんだと思った。…それで佐倉絃として生まれ変わった?漫画やアニメでよくある"転生"だとでも言うのだろうか。俺がゲームの中へ転生したって?無い無い!…と思考を放棄したくなるがそう出来ない程に"佐倉絃"の記憶が生々しい。サラリーマンをしていた"俺"も、"佐倉絃"も俺自身であると思える。何よりあの「向坂洸」が目の前に存在しているのだ。
顔ちっさ、顔面かっこよ…なんてIQの低い思考に段々と脳内がとらわれている時、「向坂洸」が俺に声をかけてきた。
「!!だっ…だい、じょうぶ…です…、……ん?」
驚き肩をビクッと揺らす。綺麗な顔をした彼にじっと見られるが耐性なんてあるはずがなく、ゆっくりと視線を横へズラしつつ問題ないことを伝えたが、そこで思い出す。
ゲーム内のプロローグで似たような…いや、全く同じイベントがあったことを。
主人公「七海優」が階段から落ちた「向坂洸」に下敷きにされる形で一緒に落下。気を失った七海優を運ぶ向坂洸…これが一番最初の2人の出会いなのだ。だが今下敷きにされたのは俺。でも俺は「七海優」じゃない。
───ある嫌な予感がした俺は、バッと周りを見渡す。
多くの人が1Fの食堂へ向かう途中だったため人通りが多く、落下した俺達を心配して集まった集団の中に"七海優"の姿があったのだ。
「…?…?!」
なんとなくだが理解をした。否してしまった。
本来2人が出会うはずだったこの大事なイベント、俺が主人公の立場とすり替わってしまていることを。
多分だがとんでもない事をしでかしたんだと思った。いや、俺もさっきまでは前世とか知らずにただ夕食を食べに行っていただけなんだが…いや、それでも…
いまだに自分のことを整理しきれていないこと、中途半端に理解をしてしまい不安が募っていることから俺はただ顔を青くしていた。
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陽良
2024/02/25 03:10
あー…人って落ちるときってやけにゆっくりなんだな。
なんて、頭ではどうでもいいことを考えていた俺は、当然そのまま階段から
ギャグ漫画よろしくなほど盛大に落下した。
先ほど一瞬見えた人影…願わくば気のせいであってほしいと思っていたが
どうやらそういうわけにもいかなかったらしい。
まずい、見事に人を巻き込んでしまったみたいだ。
しかも運が悪いことに俺がその人影を下敷きにするという一番よくない形で、だ。
すぐに退けばよかったのだが、突然のことで頭が追い付かなかったのと
大した怪我はなかったけれど、下手に動いて相手のほうにもし何かあったらと思うと
どうしてか動けなかった。
とりあえず下敷きにしてしまった人影のほうに目を向けて、声をかけようとした俺は
どうやら相手も此方を見ていたようで目と目が合ってしまった。
「っあ~…ごめん、完全に俺の不注意だった、怪我とかない?」
ばっちり目が合ってしまったので、なんとなく逸らすわけにもいかなくて、
じーっとその相手のことを見つめながら、まずは安否を確認することにしたのだった。
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うるるん
2024/02/24 17:55
ふんふ〜ん、と小さな鼻歌を交えながら軽い足取りで階段を降りていく。
数日前から始まった寮生活。部屋の整理や明日から始まる高校生活の準備でまだ友人は作れていないが新しい環境に俺はワクワクが止まらなかった。
明日からは沢山友達も作って勉強も頑張って、高校生活を思う存分に満喫してやろうと俺は意気込んでいた。
「今日の夕飯のメニューは何かな〜…ッわ?!」
ニマニマと口元を緩めながら今日の食堂で出る夕飯について想像を膨らませていた瞬間、後ろから重みを感じる。
誰かが自分より上の段から転倒したんだと頭では理解出来たのだが、あまりに咄嗟のことで受け身を取ることも出来ず、俺は後ろから落ちてきた奴の下敷きになる形でそのまま階段の踊り場まで転倒した。
踊り場に落ちたと同時にゴンッと鈍い音を立て頭に痛みが走る。
脈をうつようなズキズキする痛みと脳みそがグワングワンと揺れている感覚の中、俺は長い夢を見た。
陰気そうな男の話だった。友人はほとんど居らず、暗く大人しい男だがとある趣味があった。
腐男子で「BLゲーム」にのめり込んでいたのだ。男はゲーム攻略をすることが趣味で社会人になってからも帰宅後が必ずプレイするほど。その中でも一番お気に入りだった作品は「らぶスタ」というBLゲームの中でもかなり人気のあった有名ゲームだ。王道の学園ものでありながらもストーリー展開がそれはもう最高なのだ。
特に〝俺〟の推しは主人公である七海優とメイン攻略キャラの向坂洸。この2人のルートがそれはもう最高で…
「……〝俺〟?…ッてぇ〜…」
痛みが落ち着いてきてゆっくりと目を開く。ずいぶん長い夢を見ていたように感じたが、時間にしてはほんの一瞬だったらしい。
頭をぶつけた箇所を手で摩りながらゆっくりと上半身を起こし、俺を下敷きにして落ちてきた奴の顔を見てやろうと相手の顔に視線を移動させた。
「…は?」
思わず小さく声が漏れる。目の前にいたのは先ほど夢で見た…いや、夢ではない。
〝俺〟がプレイしていたBLゲーム。そのゲームの攻略キャラクターである「向坂洸」がそこに居たのだ。
違反申告
陽良
2024/02/19 09:08
突然だが、俺の母親は俺が幼い頃に他界している。
それからはずっと父親と暮らしていた。
不器用ながらも、男手ひとつで俺のことを育ててくれた父親には感謝している。
最初はすれ違うことも多くて、なかなか踏み出せずにいたが
今はなんだかんだ上手くやれている、と思う。家族関係は良好というやつだ。
そんな俺は、今とある郊外にある緑山高等学校というところに入学した。
ここは全寮制の学校、敷地内も整備されているし、必要なものは全て完備されている。
そんな緑山高校の入学式も明日に迫ろうとしている中、
自分の部屋の荷ほどきなども粗方終えて一段落ついた俺は、
何となく学校内を見て回っていた。
「…はー、にしても広いなここ…慣れるまで迷いそう…」
ここ数日、緊張やら何やらで気を張りつめていた俺はろくに寝れてなかった。
そんな風に気が緩んだのがいけなかったみたいだ。
ぐらっと頭が揺れて、足元がぶれる。
あ、やばい。…落ちる。
とっさに踏ん張ろうとしたけど、重力に抗えずに俺はそのまま階段から落ちた。
…一瞬、人影が見えたような気がしたけど、それは気のせいだと思いたい。
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管理人
紫雨
副管理人
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停止中
公開
メンバー公開
カフェの利用
利用しない
カテゴリ
自作小説
メンバー数
4
人/最大100人
設立日
2024年02月10日
何とか洸に返事がしたが、俺の心の中は滝のように涙を流し続けていた。この"展開"になってしまった事に。
(知ってんだよ…ゲームをクリアしてる俺は知ってる…この二人はマジで相性が最悪って事を──‼︎)
恋愛ゲームでは攻略対象と主人公の邪魔をする悪役キャラクターが存在したりする。BLゲーム「らぶスタ」も例外では無い。
例えば向坂洸ルートだと、別の攻略キャラクターが弊害となる訳だが、この早乙女琥太郎ルートでは、向坂洸の存在が弊害となる訳だ。
(これに関しては向坂洸が何かしたとかじゃなくて、主人公と向坂洸が友達として仲良いだけなのに
早乙女が異常に嫉妬する…みたいな展開だったけどな…)
あれは流石に向坂洸が不憫だったが、彼も優しいだけのキャラでは無いので、早乙女ルートでの二人はそれはもうしっかり仲が悪い。
最終的に主人公に宥められた(?)早乙女が心から反省して向坂洸に謝ることで何とか関係が修復するのだが…
(でも今ここにその肝心の主人公が居ないし…‼︎
…ん?でも待てよ。この二人が喧嘩するって事はもしかすると主人公は今早乙女ルートを進んでるって事か─⁉︎)
そんな時、タイミングよく廊下の奥の方に主人公"七海 優"の姿を捉えた。ここで喧嘩の仲裁に入るのならそれは確実に───
期待を胸に秘めたその時、七海優はチラッとこちらに目を向けたものの、全く興味のなさそうな表情ですぐに教室に入り、姿を消してしまった。
(───ですよね‼︎)
ここはゲーム通りの世界じゃない。各々が"生きている"世界。まず俺の存在がイレギュラーなのだから、主人公が喧嘩の仲裁に入らないのだって当たり前だ。少しでも希望を抱いた俺が馬鹿だったのかもしれない。
涙が止まらなくてそろそろ心の中で湖でも出来そうな気分だ。
(でもそうか…!ゲーム通りじゃ無いなら、案外この二人相性良かったり…!)
「─ あ゙?」
ドスのきいた威圧感のある低音。怒りの混じった声色。俺に向けられたものでは無いのに、ただ怖いと思った。
ゲーム通りなら根は悪い人ではないと知っている、つもりだが、ただタイプ的に俺とは合わないんだろう。それに性格は恐らくゲームの通りで、この様子なら向坂と相性が良いってことも無い。
(本当なら主人公が止め…っいやそうじゃないだろ俺‼︎)
ここで関係のない七海優を巻き込むのは選択外。けれど誰かが止めなきゃ早乙女が暴走する可能性もあり得る。
だから、俺は───
────────────────
「─ あ゙?」
(…は?コイツ俺の言葉無視しやがった。)
俺の言葉を無視した奴なんて今まで居ない。この状況が俺にとっては絶対に有り得ない展開だったからか、すぐに"無視された"事実を飲み込むことは出来なかった。
だが、段々と怒りが込み上げ始める。冷たい水が沸かされ湯になるように、俺の怒りも熱を帯び始めた。
(しかも何が"ちゃんと前見て歩きな"だよ、煽りのつもりかよクソが‼︎)
無視された挙句自分の行いを指摘された恥、全く相手にされていない事への焦り。この感情を覆い隠すように増殖する怒り。抑えきれず行き場のない怒りを昇華する方法は様々だが、早乙女琥太郎はそれを暴力に変換しがちな男であった。甘やかされて生きていた16年間。それを真正面から注意する大人が彼の近くには居なかった。
指を刺していた腕をだらんと下し、力強く拳を握りしめた時だった。
この腕を振り上げるよりも先に、さっきぶつかったチビの男が向坂洸と俺の間に突然入り込んできた。
緊張しているのか、最初のは「あ」は声がひっくり返っていた。…いや、緊張というより明らかに俺を怖がってる。顔を見ると半泣きだし、声も少し震えてる。言葉に詰まっているのか困った様子を見せながらも、向坂の前から退こうとはしない。
(…?…コイツと喋ったことねぇよな?)
この学校に来てから1ヶ月。"まだ"暴力沙汰起こした事ねぇし、"割と"行儀良く過ごしてるって自信はある。今だって腕振り上げた訳じゃねぇ。
それなのにここまで俺を警戒して怖がるっていうのも、少し違和感があった。
(─まぁ、めちゃくちゃビビりってだけか。)
────────────────
(思わず前出ちゃったし声裏返ったし、この先何言うか考えてねぇし──‼︎)
俺は、早乙女が暴力を振るう可能性が高いと思った。腕を下ろして拳を握りしめた時、それはほぼ確信へと変わり、反射的に洸の前に出てしまっていた。
(暴力止めて…ってまだ暴力振るう前だったし、喧嘩しないで…は早乙女と初対面の俺が言っても響かねぇだろうし‼︎どうするどうする…‼︎)
ゲームの知識なんてあっても無いようなもの。例え主人公と同じセリフ•行動を取ったって"俺"ではきっと意味が無い。ただこの場を上手く乗り切れるような魔法の言葉もこの状況では思いつかず、困り果てている時だった。
「ば〜‼︎……クッソ、もう良いわ。」
そこに怒りは残っているように見えたが、彼は腕を振り上げる事は無く、ただ不機嫌そうにそう言った。
俺たちに背を向け、勝手にこの場から立ち去っていく。
(え、助かった、けど…絶対殴ると思った。…ゲームと違って手は出さない奴とか…?)
遠巻きに見ていた生徒たちもホッと安堵した様子を見せており、真は「おい大丈夫か二人とも‼︎」と必死に小声で声を張り、賢人は「ヤバいだろアイツ…」と驚いている様子だった。
◦⊹⋯⋯⋯⊹◦◦⊹⋯⋯⋯⊹◦
ここはなるべく穏便に済ませたかったので、こちらで収拾つけてしまいました、すみません;
そして本当に長くなって申し訳無いです…m(_ _)m
ご質問などについては、相談板の方でお返ししてます‼︎
ひとつお伺いしたいのですが、よろしいでしょうか?
早乙女くんの恋愛対象は『女性』とありますが、
この転生された世界線では、あくまでも主人公は紘くんです
そんな紘くんを巡って、向坂くんと三つ巴になる展開などはありますか?
当初、此方では向坂くんと紘くんのみのカップリングですとお聞きしていますので、この質問は不要かもしれませんが……。
何だかこの早乙女くんの性格からして、敢えて『ちょっかい』をかけてきたりする展開ってあるのかなー、なんて思ったりもして。
また、向坂くん自身に『未だ』確信はないものの、紘くんへの思いに、少なからず早乙女くんや今後新しいキャラが気づく事はありますか?
上記について、どこかで既出だったら大変申し訳ないです…。
お時間あります時に此方にでも、ご相談板にでも、
ご回答いただけたら嬉しいです◎
何気ないんだけど、この移動教室の時の僅かな時間でも、こうして彼らとくだらないことで駄弁って笑えるのが、俺は存外好きだった。
今じゃ、学園生活においてのプチお気に入り、ってヤツだ。まぁ、俺以外には勿論内緒だけど。
…(にしても、まぁこの二人は仲良いよな~…。)
と、俺はケラケラ笑う真と、そんな真をじとっと見ながらも決して不快だという訳ではなさそうな、賢人をちらりと見やる。
きっと彼らみたいに、付き合いが長いからこその、こういった気安さというか、お互いに気を張らなくて済むような、何て言うか…『気の置ける関係』ってのが、出来るんだろうな。
俺はそれをいつも微笑ましいと思いつつ、どこかでは少しだけ羨ましいと思っていた。
…(ここに来る前って、俺にも仲良い友達とか…居たっけかな?でも、………)
多分、俺が今こうして笑い合ったり、他愛ない会話や時間をして過ごしたり、一緒にご飯を食べたり、遊んだりしたいと思うのは。
“過去”の友人よりも、目の前にいる彼らなんだろう。
いつの間にか、俺の中で彼らと過ごす時間は、大きくてそして何よりも大切なものになっていたらしい。
そんな風に少しばかり感慨に耽っていたものだから、賢人から「洸!!お前、さては俺の話を聞いてないだろっ!!」と、ご指摘を受けてしまった。
「はは、ごめんごめん。…で、賢人の………っと!?」
そんなやり取りをしていると、俺の隣を歩いていた紘に“何か”が思いきりぶつかった。
よろめく紘に咄嗟に手を伸ばして、さり気なくそんな彼を支えてやる。
どんな屈強なヤツが、と其方に目を向ける。
(…おっと。なかなかに…ていうか、俺と変わらないな、身長。体格もそこそこだし、ひとまず紘に怪我がないかの確認を………ん?)
どうやら向こうも俺の方を見てたみたいで、バチッと目が合ってしまった。
…どうする、ガンでも飛ばしたと勘違いされる前に逸らすべきかと考えた、この間僅か0.2秒。
その男は、俺をビシッと指差して「お前、向坂だっけ?」みたいな、興味があるんだかないんだか、よく分からない問いかけをされた。
とりあえず、その問いに頷いてみると、途端に注がれる無遠慮な“値踏み”の視線。
俺の中で先ほどからずっと感じていたものがようやく確信へと変わった。
…(俺、コイツの事……苦手だ!!)
辛うじて、『嫌い』だって決め付けなかった自分を褒めてほしいくらいなんだけど、それはさておき。
どうやら目の前の彼の中で、俺は何かにハマったらしく、『良い友達』だの、自分の事は知ってて当然、という何とも俺様な態度。
そんな彼に、俺は少しだけ逡巡した後。
差し出された手をすり抜けて、彼の目にかかる赤い髪へと手を伸ばした。
「君、随分と前髪が長いんだね。あ、だから見えてなかったのかな、ちゃんと前見て歩きな?」
それは悪意とかじゃなくて純粋に100%の善意。
俺はすぐに彼から手を離すと、紘に「怪我は?」と聞いた。
____________________________
新しいキャラの登場にドキドキでワクワクです…!!
とりあえず、早乙女くんのファーストコンタクトは失敗(?)した感じに、してみたんですが如何でしょうか……!!
意外にも、向坂くんにもちゃんと『好き嫌い』はありました笑
これからの展開に、ますます楽しみが止まりません!!
そして今回も、2つに分けちゃう形となりました…!!
見にくかったら申し訳ないです(o;ω;o)、、
何気ないんだけど、この移動教室の時の僅かな時間でも、こうして彼らとくだらないことで駄弁って笑えるのが、俺は存外好きだった。
今じゃ、学園生活においてのプチお気に入り、ってヤツだ。まぁ、俺以外には勿論内緒だけど。
…(にしても、まぁこの二人は仲良いよな~…。)
と、俺はケラケラ笑う真と、そんな真をじとっと見ながらも決して不快だという訳ではなさそうな、賢人をちらりと見やる。
きっと彼らみたいに、付き合いが長いからこその、こういった気安さというか、お互いに気を張らなくて済むような、何て言うか…『気の置ける関係』ってのが、出来るんだろうな。
俺はそれをいつも微笑ましいと思いつつ、どこかでは少しだけ羨ましいと思っていた。
…(ここに来る前って、俺にも仲良い友達とか…居たっけかな?でも、………)
多分、俺が今こうして笑い合ったり、他愛ない会話や時間をして過ごしたり、一緒にご飯を食べたり、遊んだりしたいと思うのは。
“過去”の友人よりも、目の前にいる彼らなんだろう。
いつの間にか、俺の中で彼らと過ごす時間は、大きくてそして何よりも大切なものになっていたらしい。
そんな風に少しばかり感慨に耽っていたものだから、賢人から「洸!!お前、さては俺の話を聞いてないだろっ!!」と、ご指摘を受けてしまった。
「はは、ごめんごめん。…で、賢人の………っと!?」
そんなやり取りをしていると、俺の隣を歩いていた紘に“何か”が思いきりぶつかった。
よろめく紘に咄嗟に手を伸ばして、さり気なくそんな彼を支えてやる。
どんな屈強なヤツが、と其方に目を向ける。
(…おっと。なかなかに…ていうか、俺と変わらないな、身長。体格もそこそこだし、ひとまず紘に怪我がないかの確認を………ん?)
どうやら向こうも俺の方を見てたみたいで、バチッと目が合ってしまった。
…どうする、ガンでも飛ばしたと勘違いされる前に逸らすべきかと考えた、この間僅か0.2秒。
その男は、俺をビシッと指差して「お前、向坂だっけ?」みたいな、興味があるんだかないんだか、よく分からない問いかけをされた。
とりあえず、その問いに頷いてみると、途端に注がれる無遠慮な“値踏み”の視線。
俺の中で先ほどからずっと感じていたものがようやく確信へと変わった。
…(俺、コイツの事……苦手だ!!)
辛うじて、『嫌い』だって決め付けなかった自分を褒めてほしいくらいなんだけど、それはさておき。
どうやら目の前の彼の中で、俺は何かにハマったらしく、『良い友達』だの、自分の事は知ってて当然、という何とも俺様な態度。
そんな彼に、俺は少しだけ逡巡した後。
差し出された手をすり抜けて、彼の目にかかる赤い髪へと手を伸ばした。
「君、随分と前髪が長いんだね。あ、だから見えてなかったのかな、ちゃんと前見て歩きな?」
それは悪意とかじゃなくて純粋に100%の善意。
俺はすぐに彼から手を離すと、紘に「怪我は?」と聞いた。
↓1コメントに抑えられず2コメントに分けていますm(_ _)m
見にくかったらすみません;;
*新キャラ早乙女→俺の事知ってるだろ、とか言っていますが
全然知らないって跳ね除けちゃっても大丈夫です…(´︶` )
「んでさ、その時の賢人の反応がマッジでオモロいの‼︎」
「お〜い…」
腹の底からケラケラと笑う真と、照れつつも怒りの混じった声色でじっと真を睨みつける賢人。それを聞く俺と洸。俺達4人は今、談笑しながら次の授業を受ける教室へ向け移動している最中だ。真の屈託ない様子を見ている時だけは、俺もあまり考え込まず彼らと接することが出来ていると思う。
それでもまだ俺のこの気持ちは整理しきれていなかった。
「はは…ッ?!っと…」
突然だった。俺の背中にドンっと大きな何かがぶつかってきた衝撃を感じる。バランスが一瞬崩れるも、足が踏ん張り廊下で盛大に転ける展開だけは避ける事が出来た。
(ビ、ビビった…‼︎猪か牛とかがぶつかって来たかと思った…‼︎)
人間がちょっとぶつかってきたような衝撃では無かったと思ったけれど、流石に校内じゃそんなデカい動物居る筈がない。
「あ、わり。」
(…え、ちょ、この、声って…)
背の方から聞こえてくる怠そうな低い声色。悪いとは言っているが1ミリも反省の心がこもって無さそうなその口調。ドクンと大きく心臓が跳ね、恐る恐る後ろを振り返ると、俺の想像していた人物がそこに居た。
("早乙女 琥太郎"…‼︎)
向坂洸と同じく、このゲームのメイン攻略対象。俺たちと同じ高校1年。強引で自分本位な性格だが、独占欲の強さや男らしさ、加えて恋人になった後の従順さ、特別扱いが堪らないとゲームでも人気なキャラクターだった。
(でも俺は苦手…)
荒々しく語気が強い人物なので、苦手…と言うより怖いのかもしれない。ゲームのキャラとして見る分には問題なかったが、こうして対面すると…勿論美男ではあるのだが、それ以上に高圧的に感じた。
事実、この学園で過ごして1ヶ月の間であまり良くない噂を何度か耳にしている。
「や、…いや、大丈夫なんで…」
(この人を刺激するのは良くない、本当に‼︎)
何とかこの場を穏便に済ませようと、キュッと心臓を縮めながら苦笑いを浮かべた。
俺はさっさと此処から離れてしまいたくて足を踏み出したが、あろうことか早乙女が再び口を開いた。
────────────────
移動教室の途中、クラスメイトとゲラゲラと大笑いしながら歩いていたら誰かにぶつかった。男にしちゃ身長の低い奴だ。ちょっと勢いがあったからか、周りの奴は心配そうにこのチビを見ていたけど、コイツは大丈夫って言ってる。
(それよりも、隣のコイツ…)
俺が気になっていたのは、ぶつかったこのチビでは無く、こっちの"向坂洸"という男だった。じっとまるで観察するようにこの男を見つめた。
コイツはどうやら顔良し、頭良し、運動も出来て態度も良いらしい。この学園での生活が始まって1ヶ月…何故か俺ではなく、コイツの噂ばかりが俺の耳に届いた。
それがどうしようもなく、俺の癇に障る。今までじゃいつだって俺が中心人物だった。俺の話題で持ちきりだし、教師だって俺に良い顔する。少し悪いことしたって皆笑って許してくれたもんだ。
…それなのに、この学園に来てからと言うものの、俺はコイツと比べられる事が多い。
『どっちも顔は良いけどよ、早乙女はマジでヤバいよな〜!自分勝手すぎ‼︎
まぁもし性格良かったとしても、結局向坂には誰も敵わねぇよなぁ〜』
別に陰口なんてのは気にしちゃ居ない。どうせ負け犬の遠吠えだ。俺にはどうやったって勝てねぇからそういうダセェことをする。だけど"結局向坂には誰も敵わない"ってのが気に入らねぇ。俺は俺が1番で有り続けたい。だからこの男にはその内声を掛けようとは思っていた。
今ここで接近したのは偶然ではあるが、まず外見で俺がこの男に敵わない理由が理解出来ない。
(何つーか…弱そうな奴。こんな奴普通に俺以下だろ)
「……あー、向坂?だっけ。」
ビシッと男を指刺して、気怠い様子を見せる。肯定されれば「ふ〜ん」とマジマジと数秒、向坂を再び観察した。
俺以下ではあるが、そこそこイケてる奴だとは認めよう。
「うん、お前なら"良い友達"になれるかもな。
お前も俺の事は知ってるだろ?」
スッと握手を求める右手を差し出す。コイツも俺を引き立てる"良い友達"になれるだろうと思ったからだ。
俺を知っていて当然だろう、と言う気持ちで敢えて名前は名乗る事はしなかった。
結果、見事に体調を崩して熱を出した日から、もう早くも数週間が経とうとしていた。
起床後、まずは自身の携帯を確認することが日課となりつつある俺は、今日もまずは携帯へと手を伸ばした。
日付の確認、それから友人たちとのメッセージなどの確認、など。
幸い、俺が通うこの学園は全寮制であるだけに、正直なところあまり天気などは気にしていない。まあ困ることといえば、体育などといった実技テスト授業が潰れて、教室で箱詰めになりながら、机に向かってテキストをこなすことだろうか。
俺は別に勉強することが、嫌いではない。
とはいえ、特別得意であるとか、何かに秀でているとか、そういうのでもなく。
ただ漠然と、勉強するしか時間を潰す方法を知らなかった、というのが正しいのかもしれない。
父親は自分に厳しく、そして他人にも厳しかった。当然、俺だって父親に叱責された経験は一度や二度ではないと思う。
けれど、それが変だと思ったことはなくて、むしろそれが男親と息子の距離感なのだと思った。
…(叱られるのは、俺が至らなかったからだ。)
いつからか、そう思うようになっていった俺は、勉学に励むようになったのも、とても自然なことのように感じられた。
『友達』という存在に、憧れを抱いたことがある。くだらないことでお互いにバカみたいに笑い合って、時にはケンカしたりして。
競い合ったり、泣いたり笑ったり。
気兼ねなくて、親しみを持てる存在…それが『友達』。
だからこそ、“失いたくない”。
紘との時間、真や賢人たちとの時間。
たった1ヶ月、されど1ヶ月。
俺にとって、彼らとの時間は何よりも『かけがえのないモノ』になっていた。
(……どう、喋ればいいか分かんねぇ)
前世、29歳で死んだ"俺"として接するべきなのか、それとも"佐倉絃"として接するべきなのか。どちらも俺自身であるはずなのに、どちらも俺では無いような。最近はこんな事ばかり考えている。つまりは俺にとっての自然体が何なのか分からなくなってしまって、向坂洸だけに限らず、誰と関わるにもぎこちなくなっている状態だった。
────────────────
いつもお世話になっております。こちらから失礼します。
今後↓こんな感じの展開で進めたいなと思っておりますm(_ _)m
佐倉絃▶︎現状向坂洸と友人になりたいと思いながらも、まだ今の状況や佐倉絃としての自分を受け止めきれず、周囲の人間と一線を引いてしまっている。
クラスメイトとして程良い距離感を保ちつつも、2人の間にはどこか壁がある状態だった。
>ここから、以前お伝えした展開(別攻略キャラの登場)をやっていこうかなと思っております…!
別キャラが悪役となって向坂洸に色々とするんですが、最初は受け流し穏便に済まそうとして頂ければ;
向坂洸に全く相手にされない事で怒りを爆発させた別キャラ/向坂洸を庇う佐倉絃…みたいな展開になればと!
最終的には向坂洸と佐倉絃の距離を縮めてちゃんと友達!みたいな関係に進められたらと思ってます◎
別キャラはこちらで動かす予定です!!
次ロルから新しいキャラ出していこうと思います◎
よろしくお願いいたします(* . .)⁾⁾(お返事不要です*ご質問あれば遠慮なく仰ってください‼︎)
それもこれも、自分の行動に非があるのだというのは、勿論分かっている。
たとえ無意識だったとはいえ、出会って間もない相手に、ベタベタされたら、いくら紘が超が付くほどのお人好しだとはいえど、良い気はしないだろう。
だからこそ、彼の“あの反応”は至って普通であり、それが正常なのである。
(…なんで、あんな気持ちになったんだろう。)
自室のベッドに寝転がりながら、俺は天井を見つめて、そして先ほどまでの紘とのやり取りをふと思い返してみる。
今思えば、自らの行動に不可解な点はいくつかあるのだ。そしてそのどれもが、『自分の意思とは関係なく』…つまりは、無意識だったり、はたまた無自覚だったりする事が多いのに気付く。
自分を過大評価するでもないが、だがしかし俺はその辺の人と比べれば。まあ、見目は悪くない。
じゃあ、彼のことは?
(紘だって見目は整ってる、だろうな。人の美醜は正直気にしたことはないけど…。)
それにしたって。それにしたって、だ。
俺はあまりにも彼の一挙一動に対して、過敏になりすぎている節があるのは否めない。
…このままでは、彼に嫌われる、かもしれないと。
そんな思いが過れば、不思議と俺の胸はチクリと針で刺されたみたく、僅かに痛む。
『この感情』に、俺はまだ名前を付けられない。
だけど多分、俺は彼と共に過ごす時間を、失いたくはないのだろう。
そんな漠然とした彼への思いを改めながら、俺は眠れないままに、その意識を無理やり闇の中へと落とすことにした。
____________________________
新年、謹んでお慶びを申し上げます(ΘvΘ♡♡)
昨年は大変お世話になりました!!
稚拙なロルも、管理人様との日々のおりちゃによって、
少しは精進出来ておりますでしょうか…!?(ドキドキ)
まだまだ伸び代があると信じて励ませていただくと共に、
『楽しめるおりちゃ』を改めて信条として掲げ、
管理人様との時間をひとつひとつ大切にしていけたらと存じます♡
今年もよろしくお願い致します(*´ω`*)!!
ボスっと自分の枕に顔を埋め大きなため息をついた。結局俺が彼の髪を触ったりなんかしたせいで、寮へ戻るまでの道中、変な空気感になってしまった。ギクシャクという擬態語が実際に聞こえたような気もした。せっかく下がった熱も上がりそうだ…。
ゴロンと体を仰向けに変え、天井の一点をじっと見つめながら考えることは向坂洸の事ばかりだ。友達になりたいのに、どうにも彼の前だと落ち着いた自分で居られない。理由は分かってる。彼が推しかどうかという点は置いておいて、まず彼は顔が美形すぎるのだ。流石攻略対象のキャラクターとも言える。そして、俺が自分に自信が無さすぎるのが原因だろう。
グッと体を起こし、部屋の中にある鏡に映る自分を見つめた。男らしい…とかじゃないけど、顔は整っている方だろう。少なくとも前の平凡な俺の顔と比べたら断然整ってる。それでも自信が無いと思ってしまうのは、前世の俺の人格と佐倉絃の人格が大きく乖離しており、俺がまだ自分を佐倉絃だと受け止めきれていないからだ。
"佐倉絃"としての記憶はあるし、この身体にも染み付いてる。だからふと、佐倉絃として無意識に身体が動く事がある。…さっき洸の髪を触ったのもそうだ。前の俺なら急に相手の髪を触ったりなんかしなかったと思う。
「……俺は」
俺と、佐倉絃としての人格が対立せず混ざり合えば、俺はもっと自分に自信が持てて、彼にも堂々と接する事が出来るだろうか?
────────────────
翌朝、熱はすっかり下がったようで身体もすっかり軽さを取り戻していた。けれど気持ちは重たいまま。
どうすればこの乖離埋めることが出来るだろうか。
そんな事を考えながら登校の支度を始めた。
1コメントにおさまらず、
1000文字を超過しました為、2つに分けました
見づらいなどあったら申し訳ないです。。
1コメントにおさまらず、1000文字を超過しました為、2つに分けました
見づらいなどあったら申し訳ないです。。
俺の内心はそんな気持ちでいっぱいだった。
こんな風に、俺が少し触れただけでその体を跳ねさせては、時折不安げなのが混ざったような、少し戸惑ったような表情を見せる彼。
何となく、自分はここに来てからというものの、こうして紘と顔を付き合わせて取り留めのないやり取りをする度に、そんな表情ばかり見ている。…気のせい、かと思ったけれど、どうやら俺はこの目の前の彼を困らせることには、上手くなりつつあるようだ。
(…って、何だそれ。嬉しくねぇわ。どうせなら、もっと……。)
ハタッ…と、そこまで考えて気付いた。
俺は今、彼の“どんな表情(かお)”を思い浮かべた??
それを自覚した時には、俺は自らの頬を引っ叩き、
そして慌ててブンブンと顔を横に振った。
そんな彼はというと、俺の苦しまぎれの言い逃れにだって
こうして真面目に一緒になって応えてくれる。
「へぇ、市販…市販ねぇ。あれかな、元々の髪質とかやっぱりあるんだろうか?俺てっきり、この学園は全寮だって聞いてたからさ、そういう日用品とかって支給されるんだと思ってたんだよね~…。」
ははは、と少し苦みを含めた苦笑を漏らしてみせれば、
そんな彼はふと俺の髪に触れる。
「ッッ、うおぉ!?」
え、何何コレは一体どういう意味合いの触れ合い!?
と少し驚きつつも、『ああ、なるほどさっきの俺への仕返しか。』とすぐに合点がいったので、取り乱すこともなく…。
彼とこうして過ごすことが増えつつあるこの学園生活で、俺は今まで目を向けることがなかった、“自分自身の在り方”について、
時折思い耽ることがままあった。
紘は、奇想天外だとか、奇天烈な人柄だったり、性格をしているという訳ではないのだが、如何せん、彼は俺や周囲の人間とのボーダーラインを軽々と超えてくる事があった。
実際、彼自身にも俺を含めた周囲の人間との距離感や付き合いには、一定のラインがあるらしく、俺はどうにもそんな彼に見えない壁のようなものを感じている。
…(いつか、俺にも。心を開いてくれる時が、来るのかな…。)
きっと今はその時じゃない、俺も彼も、まだお互いに手探りで。
互いの在り方と寄り添い方を準備をしているところなのだろう。
今は、それで…いい。まだ、焦る時じゃない。
勢い任せに帰路を再び歩き始めた彼の隣を、俺は彼の歩幅に合わせるようにして、共に歩んだ。
この数日度々感じたが、彼は本当に細かいところまでよく気が付く人だと思う。
ゲームの画面越しでは分からなかった彼の観察力の凄さにはつい驚かされる。
「え?いや、別に嫌とかじゃぁ…⁉︎」
そしてまた彼が俺の髪に手を添えてくるものだから、ついビクッと驚いた猫のような表情を見せる。
髪を撫でられるこの数秒間、俺はこの場に硬直することしか出来なかった。
(な、何だ…?髪、なんか付いてるのか?!それともやっぱ寝癖か?!)
一体どうして髪を触られているのか。その理由が気になると同時に、何となくこの状況がうら恥ずかしく思えてきた。
ただ髪を触られているだけで恥ずかしいことは何もないのに。
彼の触れ方がとても丁寧で、まるで大切なモノに触れているかのように感じてしまったから。
「ん!?あ、…ケア?」
彼に髪を撫でられることに心地良さを感じ始めていたその時、丁度彼の手が離れていった。
ぼうっとしていた意識が彼の声によって引き戻される。
(ほ〜、ケア…あんまり美容意識してるキャラってイメージ無かったけど…。ま、ゲームには出てないだけで実際はちゃんとそういうの気にしてんだな。)
これも俺が知らない新たな彼の一面と言えるのかもしれない。
「別にケアとかは何も…シャンプーとかも普通の市販のだよ。
んな事言ったら洸の方がよっぽど綺麗だしフワフワ…」
俺なんかよりも洸の方がよっぽど良い髪質だろうと。俺は思うがまま自然と彼の髪へと手を伸ばしていた。
毛先にそっと触れてみると、想像以上の柔らかな毛質に「おぉ…」と小さな声を漏らす。
最初は髪ばかりに目を向けていたから平気だったけれど、ふと彼と俺の視線がパチっと合わさった瞬間、(何してんだ俺‼︎)と心の中で叫びながら慌てて手を離す。
「悪いっ俺もつい気になっちゃ、って…早く帰ろ‼︎」
髪に触れる、ただそれだけの事。恥ずかしがる必要なんて無いのに、俺はどうしてか頬を染めていた。
そして勢い任せに足を踏み出し、俺と洸は寮への帰路についた。
彼の手を半ば強引に掴んで保健室を出てから、何となくだけど彼は、しきりに自分の頭…さしずめ、髪の毛を気にしているように思えた。
思い当たるのは、どう考えても先ほどの俺の行動だろう。
…迂闊だった。てっきりあの時はそんな素振りなかったし、紘だって気にした様子もなかったから、そのままなかったことにされると思っていた。…のは、どうやら考えが甘かったらしい。
(あー…。でも紘の髪の毛、フワフワだったし、ちょっと気持ちよかった。猫っ毛?むしろ少し癖っ毛、なのか?特別セットとかしてるようには思わないけど…。)
なんてことを考えていたら、どうやら俺はまたもや無意識の内に彼の頭に手を添えて、フワフワと髪の毛を梳くように撫でていた。
もう一度言おう、完全に無意識である。
「あ。あー…。はは、悪い悪い。ベタベタ触られるのはさすがにイヤだよな。んー…そうそう!!随分と髪の毛がフワフワだったから、何かケアとかしてるのかなって!!それ、それが気になったんだよなー、ハハハ。」
ん、んー!!!!我ながらコレはさすがにない!!
めちゃくちゃ苦しい誤魔化し方ではあるけれど、もしかしたら…。
紘って、一見鈍感そうで抜けてるように見えるけど、その実、周りのことはよく見てるし、気にもかけてて、気配りも出来る。
おまけに勘も鋭いのか、時折虚を突くように、確信に核心に迫る時がある。が、しかしだ。正直、今はそれだけは困る、とても困る。
俺は半ばお祈りするような面持ちで、紘の方を見た。
思いがけない内容に、言葉にならない声だけが漏れる。
嫁ぐ、と。確かに萌黄はそう言った。
何となくだが、きっとあの両親が萌黄の意見も聞かずに勝手に取り決めたに違いないと思った。
いや…そうであって欲しいと、願っているのかも。
「ひとり息子って、誰?どこの人?」
顔を下へ俯ける。
今の俺、どんな表情になっているだろう。自分のことなのに今はよく分からない。
もし酷い顔をしていたら見せたくない、少しでも冷静を装いたいという気持ちから
片手で口元を覆い隠した。
嫁がなきゃいけない、そう既に決定しているのならかなり前から話は進んでいたのだろうか?
沸々と何か嫌な感情が沸き始める。
「もう、会ったことあるのか?」
萌黄が拒否することは難しい立場だと言うのも分かっている。
そして結局は俺が必ず口出しする事を分かっていたからこそ、両親は俺にさえ秘密裏にこれを進めていたのかもしれない。
「お前は、……萌黄はそれで、良いのか?」
少しだけ声が震えた。
俺たちが離れ離れになるべきのかまだ揺れている今、萌黄に縁談が来ているこの現実が
「俺たちは離れるべき」と言っているようにも思えてしまった。
それでも、1番は萌黄がどう思っているのか。どうしたいと考えているのかが俺に取っては1番重要だった。
迎えにも来てくれた訳だし、このまま一緒に帰って貰おうと思っていた矢先、
彼に手を握られ…いや、握られてるっつうか…"掴まれた"の表現の方が近いしいかも。
まるで逃がさんと言わんばかりだ。
多分、俺が遠慮がちな人間だと彼には知られているので今朝保健室に行く時ように
俺が1人で行くと言い出すと思ったのかもしれない。
「あ、ありがとうございました。失礼します」
養護教諭の先生も俺と洸が一緒に帰ることで安心したのか、『はい気を付けてね』と俺たちに告げる。
荷物を持った俺はそのまま2人で下駄箱へと向かった。
何と言うか、彼が世話焼きな性格なのは理解しているつもりだが
それにしても俺に対しては特に面倒を見てくれているような。
この世界に来てからは俺がドジをしてばかりなので彼が手を焼いてくれているんだろうが、
俺としては何だか大人として少し情けない気持ちにもなる。
それに、髪を触られたアレは何だったんだろう。
唐突だったのでびっくりした表情で洸を見たが、楽しそうな彼の表情が見れただけでワケは分からなかった。
寝癖とかだったら恥ずかしいな、と思い俺はつい自分の髪を抑えるように撫でた。
なんとも萎びた声だ、聞いているこっちが思わず脱力してしまいそうである。
調子は、と聞こうとした俺を汲み取ってくれたかのように
彼から、熱は結構下がって、当初ほどの辛さやしんどさは軽くなったらしい。
まあ言われてみれば、顔色は随分と和らいできたように思う。
ただ少しだけ、発熱した時特有の何とも言えないような、気怠い空気というか雰囲気を纏う彼に、何となしに胸の内が僅かにざわついた。
(なんか…猫ちゃん、みたいだな。)
そう思うやいなや、気付けば俺は彼の髪の毛を少しだけ梳くように
頭を撫でた。…うわ、髪の毛ふわふわだ。
すぐにその手は引っ込めて、取り繕うようにひらひらと手を軽く振りながらおどけたように笑ってみせた。
特に理由はない、というのが伝わったのか彼自身もさして気にした様子もなく、俺が渡したペットボトルのスポーツ飲料を半分程流し込んでから、喉を潤した。…よっぽど喉が渇いていたらしい、これは持ってきて正解だな。
「こらこら、無理するなよ。君、さっきまで熱があって寝てたんだから。言っとくけど、死んだ魚よりひどい顔してたからな?信じられないなら、賢人と真にも聞いてみな。俺と同じこと言うから」
実際、あの時の彼はとてもひどい顔をしていて、
どこか思い悩んでいるようにも感じられた。
内容は分からないけど、随分と夢に魘されていたようにも思える。
(どんな夢を見ていた、って聞きたいけど…
それは流石に踏み込みすぎなのかな?あー、分からねぇ。)
こういう時の、“友達”としての距離感が本当に分からない。
それに彼とはここに来て、まだ知り合って間もないのだ。
友達だって言っても、半ば俺の方から強引に距離を詰めていった感じは否めない。…あれ?これって人によっては嫌われるヤツ、だよな?
幸い、紘にも、それからあの二人にも嫌われてしまったような素振りはないものの、やはり適度な距離感を保つことはなかなか重要らしい。
「あー………佐倉くんは俺が部屋まで送ります。先生、ありがとうございました」
心配する声をかける養護教諭に、俺はニコリと笑みを浮かべて
紘の手をガシッと掴んだ。
「熱は結構下がって、っめた…でも気持ちいー…」
頬に当てられた冷たさに最初は少し驚くも、その冷感がじんわりと気持ちよくて、ペットボトルを受け取った後も少しの間頬に当てたままにしていた。
「これも、荷物も…ありがとな。熱はもう微熱くらいで…体調は結構良くなったよ」
ずっと寝ていて喉が乾いていた俺はペットボトルの蓋を開け、スポーツドリンクで喉を潤した。蓋を閉めてからベッドを降りようと足を床に付けて立ち上がる。すると少しだけ身体がフラついた。
「っと、…はは、まだ…本調子では無さそう」
何とかバランスを取ってフラついた体勢を整えた後、うーんと困ったような笑みを浮かべる。
その様子を見た養護教諭からも「大丈夫?寮まで帰れそう?」と声を掛けられてしまう次第だ。
誰もが見目が整っていると頷くであろう洸のその姿は、それだけで絵になるらしく、授業を終えて、まばらに教室を出て各々の時間を過ごし始める生徒たちの目を妙にひいていた。
ちなみに、当の本人はちっとも気付いていなかった。
(こういう時って、どうするのが正しいのか分からねぇな…)
と、ようやく彼からの返事を知らせる通知音が鳴った。
すぐにメッセージアプリを開いて確認すると、どうやら自分の荷物やら鞄やらが教室にあるだろうから、それを持ってきてくれ、との事だった。
えー…これは暗に余計な気遣いはいらない、と拒まれたのか?
ここでもし、何かしら見舞いになりそうなものを持っていけば、かえって彼に気を遣わせる羽目になるのだろうか?
「…もうちょっと頼りにしろよなー…つか、わがまま?言えばいいのに。」
俺は誰に言うでもなく、一人ごちてから、とりあえず保健室に向けていた足を教室へと向けることにした。
先ほどから行ったり来たり、やけに落ち着きがない俺を遠巻きに他の生徒たちが、不思議そうに見ていた。
(…紘の荷物、荷物。…とと、あったあった。これか)
見た感じ、誰かに何かされたような形跡はないのを確認して、俺は少しだけ安堵の息を吐いた。つーか、財布とかもここに置きっぱなしだったのか?
携帯は肌身離さず持っていたみたいだが、さすがに不用心すぎるのでは?
ともかく、俺は紘に頼まれた荷物と、
自分の荷物を持ってから、再び教室を出た。
途中、自販機で適当にスポーツ飲料をひとつ買ってから、
俺は保健室に向かう。
「…失礼しまーす。佐倉くんの様子見に来たんですけどー…お、起きてるじゃん。気分とか、どう?あ、これあげる。水分はちゃんと摂っておけよ」
俺は紘のいるベッドに向かえば、ひたっ…と先ほど買ったばかりの
スポーツ飲料のペットボトルを彼の頬に当てた。
うん、まだ少し怠い感じはあるけど朝よりはずっとマシだ。頭の中も結構スッキリしてる。
目が覚めたことを養護教諭に伝えると、念の為もう1度熱を測ってみることに。
脇に体温計を挟み、保健室のベッドに腰を掛けて暫くの間じっと動きを止めている時だった。
ズボンのポケットに入れていたスマホが小さくバイブを鳴らす。体温計を挟んでいない方の腕でスマホを取り出し画面を確認すると、向坂洸からメッセージの通知が来ていた。
これからこっちに来てくれるという内容。そういえば丁度今日の授業も全部終わる時間だ。
まず単純に、有難いと思うと同時に嬉しいとも思った。こういう"優しさ"に勘違いしてしまう人が出てしまうのも仕方ない気がする。
優しいあまり、悪気なく相手に勘違いをさせてしまう事があったと見たことがある。
こんなに優しくしてくれるのは、彼にとって自分が"特別"だからと。
…危なかっった!そもそも(精神年齢的に)高校1年生と恋愛するつもりはないけど、洸の性格を知らなかったら俺も勘違いしてたかもな…
結局俺は『申し訳ないけど鞄とか荷物が多分教室にあるから、持ってきて欲しい。』と彼に返信をすることにした。
丁度そのタイミングで体温計もピピッと音を鳴らす。結果は37.4度。微熱はあるもののかなり熱は下がっていた。
やっぱり寝不足や疲れが1番の原因だったのかもしれない。
部屋に戻れば市販の薬もあるし、それを飲んでもう一眠りするかな。
泣きそうになってるのは、紛れもなく俺の方じゃないか!!
いや、正しくは実際に涙を流しているわけでなくて。
けれども俺の心中は、まさしく荒れくるう大海原のように、
まるで嵐の中にいるみたいに、吹き荒れては、さながら暴風雨だ。
とどのつまり、俺は今、胸の内で大泣き状態ということである。
あれから、ひとまず紘を養護教諭に任せることにして教室に戻った俺は、教鞭を執っていた教師に、大丈夫だったか、という言葉をかけられて、「あー、しっかり休めば問題ないって事らしいです」なんて、ヘラりと返してから、自分の席についた、はずだった。
ちなみに、そんな俺に町田と、あの後ちゃんと登校してきたらしい相原が、「無理すんなよ」みたいな生温かい視線を送ってきた。
実際は、気遣いのものであることに気付いたのはその後二人から、「洸、お前すごい顔してたぞ」と指摘されたからだった。
人のこと見るなり、すごい顔ってなんだよ、とは思いながらも、ほとんど頭に入ってこない授業内容を右から左へと流していた俺は、終了のチャイムだけは聞き逃さなかった。
授業が終わったと同時に、すぐさま席を立ち上がった俺は、少しだけ早足で目的の場所へと向かう。
どこに行くのか、だって?決まってる、保健室にいる彼のところだ。
(あれから気になって何も手につかなかった…あ、やばい。手ぶらだとマズいかな?つっても、わざわざ何か持っていけば、かえって気を遣わせるだけだよな…んー、どうしたものか…)
こんな時、本当の友達としての距離感とかが未だに分かっていない俺は、気の今日で仲良くなったばかりの友人が、体調を崩したときに、行うべき行動に、その頭を悩ませることになってしまった。
ひとまず、保健室に向かう足を止めた俺は、制服のポケットから携帯を取り出すと、登録したばかりの紘の連絡先にメッセージを送った。
『今からそっち行くけど。何か必要なものとか、あるか?』と。
とまあ、悩みに悩んだ末、俺は本人に確認を取るのが一番早いし確実だという結論に至り、紘にメッセージを送付したのだった。
泣きそうになってるのは、紛れもなく俺の方じゃないか!!
いや、正しくは実際に涙を流しているわけでなくて。
けれども俺の心中は、まさしく荒れくるう大海原のように、
まるで嵐の中にいるみたいに、吹き荒れては、さながら暴風雨だ。
とどのつまり、俺は今、胸の内で大泣き状態ということである。
あれから、ひとまず紘を養護教諭に任せることにして教室に戻った俺は、教鞭を執っていた教師に、大丈夫だったか、という言葉をかけられて、「あー、しっかり休めば問題ないって事らしいです」なんて、ヘラりと返してから、自分の席についた、はずだった。
ちなみに、そんな俺に町田と、あの後ちゃんと登校してきたらしい相原が、「無理すんなよ」みたいな生温かい視線を送ってきた。
実際は、気遣いのものであることに気付いたのはその後二人から、「洸、お前すごい顔してたぞ」と指摘されたからだった。
人のこと見るなり、すごい顔ってなんだよ、とは思いながらも、ほとんど頭に入ってこない授業内容を右から左へと流していた俺は、終了のチャイムだけは聞き逃さなかった。
授業が終わったと同時に、すぐさま席を立ち上がった俺は、少しだけ早足で目的の場所へと向かう。
どこに行くのか、だって?決まってる、保健室にいる彼のところだ。
(あれから気になって何も手につかなかった…あ、やばい。手ぶらだとマズいかな?つっても、わざわざ何か持っていけば、かえって気を遣わせるだけだよな…んー、どうしたものか…)
こんな時、本当の友達としての距離感とかが未だに分かっていない俺は、気の今日で仲良くなったばかりの友人が、体調を崩したときに、行うべき行動に、その頭を悩ませることになってしまった。
ひとまず、保健室に向かう足を止めた俺は、制服のポケットから携帯を取り出すと、登録したばかりの紘も連絡先にメッセージを送った。
『今からそっち行くけど。何か必要なものとか、あるか?』と。
とまあ、悩みに悩んだ末、俺は本人に確認を取るのが一番早いし確実だという結論に至り、紘にメッセージを送付したのだった。
───────────────
少しだけ夢を見た。また前世の俺の夢だ。けれど教室で見た不安げな夢ではなく、ゲームを楽しそうにプレイする俺の姿が映っていた。そんな中俺が『出た〜!蓮様!』と口に出している。彼もゲーム内の攻略対象の1人。ちなみに向坂洸と同学年で彼に対抗心を燃やしているキャラクターだ。実はクラス分けの張り紙を見ている時にチラッと見かけている。向坂洸とは思わぬ出会い方をしてしまったが、"蓮様"は別クラスなのでこの先モブの俺が彼と関わる事は有り得ないだろう。…有りない筈なのに、不安になるのはどうしてだろうか。そうだ、確か入学から1ヶ月後に洸と蓮様が関わるイベントがあったような。う〜ん、何だっけな。喉まででかけてるんだけど…
「ん〜…、ん〜?…ん…⁉︎」
現実でも唸っていた俺だが、夢の中で(あれ、そういえば俺今保健室に居たよな)と思い出しハッと目を覚ました。カーテンの隙間から壁掛け時計が見えたので今の時間を確認をすると、現在夕方であることが分かる。どうやら俺はこんな時間まですっかり眠ってしまっていたらしい。
まあ、初日に階段から降ってきた男に、ひたすら謝られた挙げ句、有無を言わさず担ぎ上げられて、保健室に運ばれた、という前科がある。
あれ?そう考えると、俺ってなかなかにとんでもないことをしているのでは?別に紘だって、何も華奢すぎる体躯をしている訳じゃない。
どちらかといえば、しっかりと男の子だと思わせるほどには、つくとこにはちゃんとついてるし、いかにも健康的な“男子高校生”といったものだ。
ただまぁ、敢えて言うならそんな彼より俺の方が体躯には恵まれている、それだけのことだった。
ひとまず、紘を保健室に運んでいき、在席していた養護教諭に事情を話す。熱を測ったところ、38度以上という、まごう事なき高熱を示す数字を叩き出した。…ちなみに紘は、その数字を表示した体温計を見るなり更にその顔色を悪くさせていたのだが。分かるよ、自覚するともっとしんどいよな。
養護教諭に、「あとは自分が付いているから貴方は戻りなさい」と言われ、紘にも、「ありがとう、ちょっと休んでくる」と、暗にお前は教室に戻れというニュアンスのお達しを貰ってしまい、ひとまず俺は一度この場を離れることにした。…けれど、どうしたって気になるものは気になるわけで。
俺は踵を返したものの、一度振り返るとベッドに横たわる紘をもう一度見た。
「……授業、終わったらまた見に来る。寂しくて、泣くなよ。じゃあな」
そんな不器用な気遣いと、ほんの少しの揶揄いの交じった言葉。
俺は、いつもみたく人好きのする笑みを浮かべてから、ひらひらと手を振って、改めて養護教諭に「じゃあ、後はお願いします」と頼んでから、俺は保健室を退出したのだった。
まあ、初日に階段から降ってきた男に、ひたすら謝られた挙げ句、有無を言わさず担ぎ上げられて、保健室に運ばれた、という前科がある。
あれ?そう考えると、俺ってなかなかにとんでもないことをしているのでは?別に紘だって、何も華奢すぎる体躯をしている訳じゃない。
どちらかといえば、しっかりと男の子だと思わせるほどには、つくとこにはちゃんとついてるし、いかにも健康的な“男子高校生”といったものだ。
ただまぁ、敢えて言うならそんな彼より俺の方が体躯には恵まれている、それだけのことだった。
ひとまず、紘を保健室に運んでいき、在席していた養護教諭に事情を話す。熱を測ったところ、38度以上という、まごう事なき高熱を示す数字を叩き出した。…ちなみに紘は、その数字を表示した体温計を見るなり更にその顔色を悪くさせていたのだが。分かるよ、自覚するともっとしんどいよな。
養護教諭に、「あとは自分が付いているから貴方は戻りなさい」と言われ、紘にも、「ありがとう、ちょっと休んでくる」と、暗にお前は教室に戻れというニュアンスのお達しを貰ってしまい、ひとまず俺は一度この場を離れることにした。…けれど、どうしたって気になるものは気になるわけで。
俺は踵を返したものの、一度振り返るとベッドに横たわる紘をもう一度見た。
「……授業、終わったらまた見に来る。寂しくて、泣くなよ。じゃあな」
そんな不器用な気遣いと、ほんの少しの揶揄いの交じった言葉。
俺は、いつもみたく人好きのする笑みを浮かべてから、ひらひらと手を振って、改めて養護教諭に「じゃあ、後はお願いします」と頼んでから
俺は保健室を退出したのだった。
身体に力が入らない感じはするが歩けない程でもない。
担いで貰えばそれは楽だろうが、彼と出会った初日の記憶が過ぎる。
彼に担がれるという緊張感に俺は耐えられる気がしなくて肩だけ貸してもらいたいと伝え、ゆっくりと身を起こして立ち上がってから、彼の肩を借りて保健室まで向かった。
保健室に着き体調が悪いことを養護教諭に伝え熱を測ったところ、38度以上の熱が出ている事が分かった。
それは身体も怠いはずだ。
測る前までは微熱くらいは出ているかな、と思っていたのに実際この体温計を見た後だと余計身体が辛く感じる。
「寮まで1人で戻れそう?」と聞かれたが絶対に今は無理だと確信した俺はひとまず保健室のベッドで休ませてもらう事にした。
恐らく寝不足も重なっておりここまで体調を崩しているような気がしているので、1度寝てしまえば多少は回復するだろう。
昨日の事も解決したから今はスッキリした気持ちで眠れそうだ。
「ほんと…ありがとう、着いてきてくれて。ちょっと休んでくる」
俺は弱々しく笑みを浮かべながら、教室に戻る彼に言葉を掛けた。
あー、そういえばこんな芸風の芸人をテレビで見かけた気がする。
俺と紘、互いに顔を見合わせては謎の沈黙の時間を作る。
そんな空間もつかの間、沈黙を破ったのは、
意外にも紘の口から漏れた笑い声だった。
何だかおかしそうに笑う彼は、けれど今が授業中であることに気がついて、慌てて声のボリュームを落とした。
「いや別に。虫は全くこれっぽっちも、関係ない…ていうか、俺はむしろきみにこそ嫌われたんだと思ってた。…だって、あんな態度とっちゃったし。気を悪くさせたと思って…その、ごめんな?」
やっと言えた、彼に対する謝罪の言葉。
昨晩からずっとずっと頭の中で何度もシミュレーションして、
どうやって紘と仲直りしようかと思ってた。
けど実際は、別に喧嘩もしていなければお互いに変に気を回してすれ違っていた、という何とも陳腐で単純なものだった。
そんな折、ふいに彼が随分と弱々しい声を漏らす。
そうだった、俺たちは今具合の悪い紘を保健室へと連れて行く途中だった。
「そりゃ勿論…つーか、動ける?やっぱり俺が担いでいこうか?」
自分の方が彼よりガタイもいいし、タッパもある。
正直、彼ひとり担いでいくくらいなら造作もないと思っての申し出だった。
「え?いや、俺は虫別に…そんな苦手とかじゃない…、…?」
この瞬間、俺と彼、どちらの頭にも大きなクエスチョンマークが浮かんでいただろう。
寧ろ顔にもお互い『どういう事だ?』と書いてあるようにさえ思える。
俺と彼は数秒間、無言で顔を見合わせる謎の時間が生まれた。
ただこの数秒間でちゃんと理解した。俺と洸は何だか大きなすれ違いをしていたと。
彼の反応を見る限り恐らく虫も関係がないらしい。
彼に突き放されたとばかり思っていた俺だったが結局はそれも勘違いで、今は何故か虫の話をしているこの謎の時間が絶妙に面白くて、俺の笑い声がこの沈黙を破った。
「…ッふは、はは!
ぁ、ごめんごめん…俺、何かすごい勘違いしてたみたいだな。
俺が嫌われたか、違うなら虫を倒そうとしてたんだろうなと思って」
今が授業中である事を思い出すと慌てて声のボリュームを下げた。
だがこうなると、彼がした行動は何が原因だったのか純粋に気になる。
自分が悪いんだと洸は言っていたが、一体何が彼をそうさせたのだろうか?
でも今は正直それを聞く余裕は無さそうだ。
「はは、はぁ………ごめ、…やっぱ保健室、着いてきてもらっていいか…?」
笑いが落ち着いた所で、身体がより重くなるのを感じた。
笑って余計に体力を使ってしまっただろうか。
彼に嫌われていないんだと安心したから、ほっとして必死に堪えていた糸が緩んだのかもしれない。
俺は彼の目の前にしゃがみ込んで、抱えた膝に額を付けながら顔を俯ける。
それって、つまり彼は、『自分が馴れ馴れしい態度をとったから俺に嫌われたと思った、だから、俺から突き放される前に自分から距離を置いて逃げようとした』…ってこと、だよな?
その場にしゃがみ込んだままの俺は、ますます彼の顔が見れなくなってしまった。俺の邪な思いや気持ちが全て彼にバレてしまうと思ったから。
(落ち着け、落ち着け。俺、クールになれ。ということは、俺は別に紘に嫌われてしまったワケじゃないってことで、いいんだよな?)
ひとまず、目下、最重要な疑問は消化することができた。
となると、次の疑問が生まれるワケで。
なら、どうして紘は俺をわざわざ遠ざけて、避けようとしたんだ?
俺に嫌われたくないのは、この学校に来てすぐに出来た友達だから?
それとも…他に何か理由があるのだろうか?
悶々と頭を悩ませていると、ふいに彼の口から、「居たのか?本当に、虫が…」なんて小さな呟きが聞こえた。
「…え?何、虫?紘は虫が苦手なのか?」
いや、別に虫が居たとかじゃないけど。
彼の口から、まるでつい漏れてしまった、みたいな感じだったから
何となく気になったのだ。
断じて、そのことで彼を揶揄ったりしようとか思ってるワケじゃない。
ただ、ほんの少しの好奇心からの、素直な問いかけだった。
俺はしゃがみ込んだまま、顔だけあげて、少し上にある紘に目を向けた。
「…ん?」
予想外な内容が耳に入り、踏み出した足は1歩目で止まった。
優しい人だからもしかしたら引き留められるかも、とまでは予想が付いていたが…昨日のこと、どうやら俺が原因では無いらしい…?
「…ちょ、ん?待って…俺が馴れ馴れしくしちゃったから、それが嫌で…って事じゃなかったって事…?」
俺はまだぼんやりとする脳みそをフル回転させた。
先に進めようとしていた足は彼の目の前まで戻り、しゃがみ込んでいる彼の頭を上からじっと見つめた。
俺は前からすぐに自衛をしてしまう癖がある。
"あ、この人俺の事嫌いかもな"と思ったらすぐに離れてしまうのだ。相手の言葉や態度からジワジワとそれが現れるのが怖いから。
今回も同じだった。嫌われたと思ったから、離れる選択をした。つまり逃げようとしたのだ。
だがそれは俺の勘違いだったようで、安堵する気持ちと共に勝手に解釈をしてしまった事を反省した。
「じゃあ昨日のは……居たのか?本当に虫が…」
俺はボソッと小さく言葉を呟く。
彼の行動の原因として、俺の考えうるパターンは2つ。1つは俺の何かしらの態度や行為で嫌な思いをさせてしまったから。もう1つは虫が居たからそれを殺そうとしたのか。…正直違和感はあるが、それ以外の理由が俺には本当に思いつかず、つい心の声が口に出てしまった。
苦しいとき、辛いとき、しんどいとき。そんな時は、誰かに頼ることは、恥ずかしいことなんかじゃないって、俺は知ってる。
当然、彼だって知ってるはずなのに。…いや、知っているからこそ、この人はこうして一人になりたがるんだろう。
自分のせいで、周りが傷ついたり、迷惑をかけたりすることを極端に嫌がり、そして極端に怖がるような素振りを見せる。
たった数日だけだが、俺はすでに彼のことをおおよそ、“理解”は出来ているような気がした。いや、違うな。これはきっと、俺が“理解”しているのではなくて、彼が…紘が、彼自身が“そうなるように”、仕向けている?
(…また、だ。この、何とも言えない…漠然とした、焦燥感と不安。不安定な宙に浮いているような、浮遊感…俺は、これが……苦手だ)
この胸の内に時折巣食う、この思いを、俺はいっそのこと彼に打ち明けてみたいと思った。だけど…彼が、それを望んでいない。
誰にでも人当たりのいい彼は、だけどいつもどこかで、一線を引いては、それを飛び越えてくる存在を許そうとはしない。
いつも、俺たちと彼の間には、見えない壁があるように思えて、仕方ない。
「……だめ。俺が連れてくって決めたから、ちゃんと俺にさせて。それに…そんな、今にも死にそうな顔してるのに、そんなヤツをここに放っていくとか、紘は俺のことを薄情な人間にしたいの?」
我ながらずるい言い方をしているのは、自覚している。
でも、こうでも言わないと彼は絶対に一人で何とかしようとするし。
っていうか、今俺はとんでもないことを言われたよな…?
「待て待て、待って!!昨日のことは、俺が悪くて!!紘は悪くないっていうか、全く、これっぽっちも、きみは悪くないから!!
…~、ああ…もう。どうして紘が先に謝っちゃうかなぁ~…俺昨日のこと凄い後悔してて…めちゃくちゃ考えてたのにさ~…」
へなへな、と俺は思わずその場にしゃがみ込んでしまった。
俺の様子を見かねたのか、彼に連れられ保健室へ向かう事になった。
優しい"向坂洸"なら確かに分かる行動だが…昨日の件、てっきり嫌われたんだと思っていた。
洸がゲームの中のキャラではなく、ただの16歳の男子高校生だ。
俺はきっとこの世界にゲーム通りになる事なんて無いんだと認識し始めている。
ゲームの中とは少し違う、自由な世界のような気がする。
だからこそ、昨日嫌われた時点でどうして話しかけられたのか、どうして今こうして保健室まで連れて行かれているのか俺はさっぱり分からない。
ただ彼の言葉は正論だ。よっぽど俺の顔色は悪いんだろう。
それじゃぁ教師に声を掛けられる可能性も十分にあったし、身体もじんわりと熱い。
多分熱も出てるんだろうな。
もし嫌いだったとしても、彼はただ放っておけなかったんだろう。
「こっからは1人で保健室行くよ。
だから教室、戻ってて。授業遅れちゃうだろうし」
道のりの途中、俺は足を止めた。無理して気を遣わせてしまうのは良くないと思ったから。
移動出来ない事はない。保健室まではまだ少しあるし、俺に付き合わせて授業に遅れてしまうくらいなら、先に戻ってもらおうと思った。
「………それに…昨日俺が…嫌な事、しちゃった…よな。
昨日はごめん。…今日声、掛けてくれてありがとう…じゃ」
ただやっぱり昨日の事が心残りで。顔を俯かせていたので彼の表情を見ることは出来なかった。
きっともう仲良くなる事はないだろうが、せめて謝罪だけでもと思ったのだ。
そして俺は言葉を言い終えた後、すぐに逃げるように足を踏み出した。
俺はそんな彼が、まるで自分以外を拒んでいるような気がして、なんとなく危うさを覚えた。同時に、胸に巣食うのは、焦燥と不安。
昨日と今日で、まだ知り合って間もない人間のことを信用しろなんて到底無理なのは分かっていた、はずなのに。
どうしてか、彼に拒絶されてしまったような気がした俺は、まるで大海原に身ひとつで投げ出されて、漂流しているような心地さえした。
(…分かってる。紘がこんな態度をとるのは、確実に昨日の俺の振る舞いのせいだ。分かってはいる、けれど…)
ただ、それだけではないように思えた。
彼の元に行き、呻くような声を漏らしながら、魘されていた。
それはきっと、彼にとって忘れたくても忘れられないような、脳裏にこびりついた、辛い過去の記憶。はたまた、何か悪夢でも見たのだろうか?
“何か夢を見ていたのか?”…そんな風に、聞けたらどんなにいいか。
でも俺は分かった、分かってしまった。
笑顔を取り繕い、『大丈夫』だとしきりに笑ってみせる彼は、暗にこれ以上この話題に踏み込んでくるな、ということだ。
明らかな心の壁を感じた俺は、柄にもなくショックのようなものを受けていた。昨日の今日で、一方的に紘が俺のことを拒んだからって、勝手に落ち込んで、勝手にショックを受けるなんて、あまりにも身勝手がすぎる。
(でも…!!やっぱり放っておけないし、今紘を助けられるのは俺だけだろ…!!)
そう結論づけた俺は、おもむろに紘の少し華奢な腕を掴んだ。
「紘、保健室に行こう。そんな顔で授業なんて出たら先生も心配する」
半ば強引に彼を立たせると、町田の方を振り返った。
「賢人、悪いけど俺と紘は授業遅れるって言っといて!!」
俺はそう言うなり、紘を連れて、今来たばかりの教室を飛び出した。
彼の顔を見た途端、色々を頭の中で思考が巡る。
『昨日の事どう思ってるかな』『今日話しかけられると思ってなかった』
『俺ってそんな顔色悪いか?』『朝だしおはようって言うべきか?』
「………いや、…うん、平気。」
色々考えた上で、俺の口から出たのはそんな素っ気ない言葉だった。
体調が悪いのは事実。愛想よく返事をした方がいいのも分かってる。
でもそれよりも先程の夢の内容で頭がいっぱいだった。
今鮮明な記憶もきっと薄れていくような気がした。前世のこと、"俺"のこと、いつか全部忘れてしまうんじゃ無いかって不安だった。
佐倉絃だってちゃんと俺自信ではあると自覚してる。
前世を思い出してからは、佐倉絃と"俺"の2つの魂がそれぞれ存在しているような不思議な感覚がある。
もしも俺が全て消えてしまった時、どうなるんだろうか。
向坂洸と友達になりたいと思った俺も消えてしまうんだろうか?
「…じっと座ってれば多分良くなるから…気にしなくて大丈夫」
不安げな表情の彼が視界に入る。
(…大人びててもまだ16歳の子供、だもんな…)
絃としては同い年だが、精神的に言えば俺の方がずっと年上。
あまり素っ気ない態度ばかりだと余計心配させてしまうだろうと思い、俺は眉尻を下げながらも笑顔を繕い『大丈夫だ』と彼に伝えた。
なんというか、それこそ知り合って間もない間柄ではあるものの、こうして町田から話を聞く限り、相原は“そういう奴”なんだろうと思った。
だがまあ、決して悪い奴ではないし、むしろ気のいい奴であることは、先日のことでよく分かったので、ひとまず相原のことについては、町田の言うことを信じることにした。
(…紘、の。そうだ、俺は今最重要任務が課せられているんだ…!!早いところ、紘に昨日のことを謝って、誤解を解いておかないと…)
と思い、俺は紘のいる席へと視線を向けた。
真面目な彼のことだから、きっと早くにここにも登校したのだろう。けれど、そんな彼は今、自身の机に突っ伏して微動だにしない。
(え?寝てる、のか?もしかして、具合がわるいとか…じゃないよな?)
即座によぎる、心配と不安。
俺はすぐさま、彼の席まで駆け寄ると、「紘、紘」と声をかけた。
深く寝入っているのか、はたまた本当に具合が悪いのか、なかなか反応がない。どうしたものか、と思いつつも、声をかけて駄目なら、体を揺すってみようと手を伸ばした俺は、すぐに、はた…とその手を止めた。
…小さな、呻くような声が聞こえた。まるで、魘されているような。
どこか苦しそうにも思えた俺は、とにかく紘を起こそうと、今度こそその体に手を伸ばした。…と、同時に。
彼が飛び跳ねるみたいに、体を起こした。
そしてその後に、すぐに自身の頭を押さえた。
「…び、っくり…した。紘、大丈夫か?何だか、辛そうにしてたから何度も起こそうとしたんだけど…って、おい!?顔色、真っ青だぞ!?」
もうすぐ担当の教師がやって来て、今日の授業が始まる。
だが俺は、そんなこと気にしていられなかった。目の前の彼を、すぐにでも保健室に連れて行き、休ませなければという思いでいっぱいだった。
だが直ぐに立ち上がって笑顔で挨拶をしてきたので(…まぁいいか)と先程の事についてこれ以上考える事はしなかった。
「あぁ…あいつ中学の頃からいつも遅刻ギリギリで登校するから…多分その内来ると思う」
始業のチャイムまでは後10分程。「チャイム鳴る寸前とかに来ると思うよ」と付け加えて向坂に説明をした。
──────────
『ご飯出来たよ〜』
…? 子供の頃の記憶だろうか。母の声がする。
呼ばれてリビングに行って、皆で食事をして…
『そうえば██、明日は高校の入学式だろ。気を付けて行くんだぞ』
父さん…うん、分かってる。気を付けるよ。
…あれ?この声が父さんだと、さっきの声も母さんだと分かるのに、2人の顔が鮮明に思い出せなかった。
それに、俺の名前… ██?あれ、俺ってどんな名前だっけ──、
「ぅ……ったぁ…」
ハッと目を覚ました。すると頭にズキンズキンと痛みが走る。まるで何かに刺されてるような痛みだ。
変な所で寝てしまった所為だろうか、それとも可笑しな夢のせい?
どちらにせよ頭痛がする事実は変わらない。俺は突っ伏していた顔を上げ、固まった身体をゆっくりと動かした。
(…母さんも父さんも…うん、自分の名前も……うん、覚えてる。)
両手で顔を覆い隠し、肘を机につけた状態で俺はゆっくりと前世の記憶を巡らせた。
両親の顔、声、名前も覚えているし、勿論自分自身の事だってきちんと覚えていた事にほっとする。
やっぱり変な夢だったんだ。
…でも何故かただの夢とは思えない自分も居た。漠然とした恐怖が俺の心の奥底に沈んでいく。
(…ええい、こうなったらままよ!!)
さあ、いざ参る!!と覚悟を決めて開いた扉の先には、俺たちの事情なんて毛の先ほども知らない、町田賢人の姿があった。
瞬間、俺は思わず全身の力が抜けていって、その場にしゃがみ込んだ。いや、彼には悪いけどさっきまでの俺の覚悟を返してくれ、という気持ちだ。
(…そりゃそうだよな。扉を開けた先には、紘がいて、彼の方も俺に何か言いたいことがあって、俺の登校を待ってた、とかそんな都合よく行くわけ、ないよなぁぁぁ…ッッ!!)
ひとまず、このままこうしていても仕方ないので、俺はゆっくりと立ち上がると、町田の方を見てにこりと笑顔を浮かべた。
「よう、賢人。おはよう」
町田に挨拶を返しつつ、視線は教室の中へと向ける。
紘の座席の方に目を向ければ、どうやら彼はすでに登校してきていたようで、席につく紘の姿があった。…机に突っ伏しているのは、寝ているだけか?もしかして、体調が悪いとか?
置物みたいにぴくりとも動かないので、心配になった。
あとで、紘の安否もちゃんと確認するとして。
教室も次第に人が増えてきて、ザワザワと賑やかになりつつある。
そんな中、先日友人になったばかりの、相原の姿が見当たらない。
てっきり、今目の前にいる町田と一緒に登校してきたものだと思っていたが…
「ん?そういや、真はどうした?あいつは今日休み?」
純粋に浮かんだ疑問を、俺は迷うことなく町田に投げかけた。
昨夜は彼の行動の意味を考えてしまい中々寝つきが悪くあまり睡眠が取れていない。
というか…寝つきが悪いのは昨夜だけでなく、前世を思い出してからだ。
初めて"俺"を思い出した日はまともに寝れていないし、それからも不安な事が多くきちんと身体を休めていない。
昨日は入学式を無事終えて友人も出来て、ようやくこの世界に慣れて来たのでゆっくりと眠れると思っていたが…それは結局叶わなかった。
この不調は睡眠不足やストレスで疲労が身体に溜まっているからだろう。
ゆっくりと登校するため、俺は早い時間帯に寮を出た。教室を扉を開けてもまだ誰もいない時間帯。
俺は席に座り、特にする事もないので机に突っ伏し、自分の腕枕に顔を埋める。
(……洸は今日、俺と話してくれるかな)
まだ空の状態の、彼の席を見る。
昨日で嫌われたなら、もう話たりはしないかもな。
向坂洸の友達になる…なんて、やっぱり俺じゃ無理か。
睡眠不足のせいか段々と眠気に襲われて瞼が次第に閉じ始める。
まだ春先で肌寒い時期だと思うが眠いからだろうか?身体がポカポカと暖かい気がしていた。
──────
「あ、おはよう洸。」
向坂洸が扉を開いたすぐ先に居たのは、先日友人になったばかりの町田賢人の姿だった。
教室も次第に人が増えておりザワザワと賑わい始めている。
相原真の姿はまだ教室になく、佐倉絃は自分の席で突っ伏したままの状態。ぴくりとも動かない事から恐らく寝ていると思われる。
俺はまさしく背中におばけでも背負ってるのか、ってくらいに非常に暗い面持ちで学園への道を歩いていた。
とは言っても、学生寮から校舎まではそんなに離れてはいない。しかしまあ、この学園はどこもかしこも広いから普通の学校に比べれば多少は気後れするのかもしれないけど。…そんな中、俺はまるで今から処刑場に向かっているが如く、とんでもない憂鬱さを抱えているわけだが。
本当はいっそのこと休んでしまおうかとも思ったくらいだ。
しかし昨日の今日、更に初日からたった数日目でいきなり学校を休むなんて、理由を知られれば反感の嵐待ったなしだろう。
サボりで休む、というのだけは俺としても避けたかった。
片親だった俺にとって、学校というのは、通えるだけですごいことだった。だからこそ、勉強だって運動だってそれなりに成果を残してきた。
父親はとかく厳格な人で自身の感情を表に出すことが苦手な人だったから、手放しに褒めてくれることはなかったけど、それでもどこか嬉しそうにはしてくれていたから、きっと俺のしたことは間違ってはないんだろう。
さて、これからのことを軽くシミュレーションしてみる。
昨晩もあの後一睡も出来ず、ベッドで布団に潜り込みながら何度も何度も脳内で反芻してきたことを、今一度おさらいする。
まず、教室についたら、とにかく紘を探して声をかける。
彼のことだから絶対気まずそうにするはず、けど俺はそれを敢えて有耶無耶にはしないで、なんて言うかこう…当たり障りがない理由を付けて、誠心誠意謝ろうと思っていた。
本音は、ちゃんと昨日のことを包み隠さずに打ち明けるのが筋なんだけど、よもや同性の男に対して、やれ笑顔がカワイイだの、紘のその笑顔にドキッとしただのと言ってみろ。この世のゴミ虫を見るような冷ややかな目で見られて、ドン引きされて以降、友達にも戻れないまま終わるのがオチだ。
それは!!それだけは!!なんとしても避けたい!!
俺は何度目かの深呼吸をしてから、教室の扉の取っ手に手をかける。
「………っ、よし。俺ならできる、俺ならできる」
そして、俺は覚悟を決めて扉を開けた。
ダンッ‼︎と突然響いた大きな音。どういう事なのか直ぐには理解出来ずキョトンとしてしまった。
少しして彼が床を叩いた音だったと理解は出来た。
(いきなり床なんて殴ってどうしたんだ?…虫が居たとか!…な訳ないか)
多分、俺の態度が気に障ったんだろう。
久しぶりの高校生活。初日から友人も出来て、友達と好きなゲームを一緒に遊んで…前世含めてもこんなに充実した1日はこれまで無かったから、きっと調子に乗ってしまったんだ。
あまりにも楽しくてつい馴れ馴れしく接してしまったかもしれない。
「ぁ、………うん」
キョトンとしていた俺は彼が颯爽の部屋を出ていくこの瞬間に口を開くことが出来ず、既に彼が出て行った後の扉を見つめながら、小さく「うん」と静かな部屋で呟いた。
別に傷ついちゃいない。
前世含めば俺は中々年齢を重ねているし、こんな事で傷ついても自分が疲れるだけだって知っている。
床を叩いた理由だって実は本当に虫が居たのかも!
(じゃぁなんであんなに慌てて逃げるように出て行った?)
自問自答が繰り返される。
…もう考えるのはよそう。良い答えなんて出やしない。
何だか食欲も一気に失せて、俺はうつ伏せになるようにベッドに身体を沈ませた。
ていうか、紘だってそういう風に笑えるんじゃん。
てっきり、彼は何かを我慢したりして、自分の気持ちを表に出すのが苦手なんだとばかり思っていた。俺らといるときだって、なんとなく無理してる感じがして、まるで愛想笑い…してた、みたいな。
だからかな。彼のそんな無邪気な屈託のない笑顔を見た俺は、
何故だか、胸の辺りがじんわりとあったかくなって、少しドキドキした。少しだけ、本当に少しだけ…彼が、カワイイと…思った。
(…ッはああぁぁぁ!?!?待て待て待て!!何だそれ、何だそれ!!いくらなんでもそれはさすがにないだろ!!俺は男で、紘も男で…確かに顔立ちはどっちかというと少しだけ可愛げがある………ッじゃなくて!!これはマズいだろ!?)
落ち着け、落ち着け俺。クールになれ、向坂洸!!
違う、違うって!!これは何かこう…吊り橋的な、そういうヤツで…
って、おい!!!!それも違うだろ!!
脳内で壮絶なひとり会議を繰り広げていた俺は、思わずダンッ!!と拳で床を殴るように叩いてしまった。あ、やばい。明日、下のヤツに怒られるかも。
ていうか、それより紘のことを怖がらせて…
「…ッ、あー…あー!!悪い!!俺、そろそろ戻るわ!!ごめんな、こんな時間まで紘のこと拘束しちゃって!!ご飯は…また今度!!んじゃ、おやすみ!!」
バタバタ、と俺は少しだけ慌ただしくも言いたいことだけ、捲し立てるように彼に言ってから、返事も待たずに彼の部屋を飛び出した。
いやでも洸ゲームめっちゃ上手いな!!センスある!」
俺は天井を仰ぎ見る彼にニッと無邪気な笑顔を向ける。
教えた分スポンジのように吸収していく彼はかなり良い所までゲームを進めていた。
俺は見て教えるだけだったけれど不思議と一緒にプレイしているような気分だった。
この時間がとても楽しくて、つい俺までゲームに没頭して興奮している。
最初は2人だけの空間に緊張していたのに今はゲームの盛り上がりが上回り、すっかり緊張なんてどこかへ飛んで行ってしまった。
「あ…待って、もうこんな時間か?!」
ははっと笑いながらふと窓の外に視線をやると、外はすっかり暗くなっている事にようやく気が付いた。
今さっきまで夕方だったのにもうこんなに暗いのか…と今度は部屋の中にある壁掛け時計に目をやると、1時間時間が経っていた。
(1時間?!体感だと10分くらいだったのに…!)
楽しい時間というのはあっという間で、自分の想像以上に時間が流れていたのだ。
俺はこんな風に誰かとゲームをして盛り上がるのが前世含めても初めてのことだった。
「夜ご飯食べに行かないと食堂閉まっちゃうな…。
………じゃあそろそろゲームは終わりにしてご飯食べに行こうぜ」
とても楽しい時間だからこそ、少し名残惜しい。本当は「また続きをやろう」と声を掛けたかった。
でも、俺の口からその言葉が出ることは無かった。
それはあくまで俺が客観的に見ていて判断したひとつの観察結果の材料みたいなものだった。では俺は、“向坂洸”はどうなのか。
別に俺は娯楽に全く興味がないみたいな、変に大人ぶったマセたガキというわけではなかったことは予め言っておく。
勘違いしないでほしいのは、別に自分の両親や身内が毒親だったからとか、そういうわけじゃない。むしろ、俺は家族には感謝しているからだ。
では、どうして俺はこんなにも淡白じみているのか。
その理由は割と単純明快で、純粋に自分が心から楽しいと思えるものに出会えなかったからだ。だからなのか、多感な年頃に、周囲が恋だの惚れただのとやたらと色めき立つような状況の中でも、俺は誰か一人に夢中になるようなことはついぞなかったわけだ。だから、自分はいつしか“そういうもの”なんだろうと、己を俯瞰してはそしてとうとう諦めてしまったのだ。きっと自分には、そういった何かに熱中できるような欲も熱量もないのだと。
…結論からいうと、そう決めつけるのはあまりにも浅慮だったということが判明した。
…“佐倉紘”、彼の存在がゆるりゆるりと、けれど着実に俺の中の何かを変えていこうとしているのが手に取るように分かったからだ。
こんな風に、己の脆い部分やデリケートな部分を弄くりまわすようなことをされれば、拒絶反応を起こしてその相手とは関わりたくない、と思うはずなのだ。だけど、俺は不思議と彼に対する嫌悪感などは全くなかった。
それどころか、俺の中にふつふつと湧き上がるのは今まで感じたことのないような探究心と純粋な好奇心。
“佐倉紘という人間を知りたい”…それは、既に俺の中で定着しつつあるもので、どうしてここまで彼という存在に惹かれるのかと、自分自身の明らかな変化にだんだん興味が湧いたのだ。
(知識欲は、際限なく湧くもの…どこかの研究者がよく言ってたな)
そんなこんなで、俺は彼との時間に没頭して気付けば、窓の外から見える空の色が茜色から夜の帳をおろしたような闇色に染まっていた。
「あーっ!くっそー…今のは絶対いけたと思ったのに!!」
何度目かの‘you lose’の画面に思わず天井を仰ぎ見た。
それはあくまで俺が客観的に見ていて判断したひとつの観察結果の材料みたいなものだった。では俺は、“向坂洸”はどうなのか。
別に俺は娯楽に全く興味がないみたいな、変に大人ぶったマセたガキというわけではなかったことは予め言っておく。
勘違いしないでほしいのは、別に自分の両親や身内が毒親だったからとか、そういうわけじゃない。むしろ、俺は家族には感謝しているからだ。
では、どうして俺はこんなにも淡白じみているのか。
その理由は割と単純明快で、純粋に自分が心から楽しいと思えるものに出会えなかったからだ。だかなのか、多感な年頃に、周囲が恋だの惚れただのとやたらと色めき立つような状況の中でも、俺は誰か一人に夢中になるようなことはついぞなかったわけだ。だから、自分はいつしか“そういうもの”なんだろうと、己を俯瞰してはそしてとうとう諦めてしまったのだ。きっと自分には、そういった何かに熱中できるような欲も熱量もないのだと。
…結論からいうと、そう決めつけるのはあまりにも浅慮だったということが判明した。
…“佐倉紘”、彼の存在がゆるりゆるりと、けれど着実に俺の中の何かを変えていこうとしているのが手に取るように分かったからだ。
こんな風に、己の脆い部分やデリケートな部分を弄くりまわすようなことをされれば、拒絶反応を起こしてその相手とは関わりたくない、と思うはずなのだ。だけど、俺は不思議と彼に対する嫌悪感などは全くなかった。
それどころか、俺の中にふつふつと湧き上がるのは今まで感じたことのないような探究心と純粋な好奇心。
“佐倉紘という人間を知りたい”…それは、既に俺の中で定着しつつあるもので、どうしてここまで彼という存在に惹かれるのかと、自分自身の明らかな変化にだんだん興味が湧いたのだ。
(知識欲は、際限なく湧くもの…どこかの研究者がよく言ってたな)
そんなこんなで、俺は彼との時間に没頭して気付けば、窓の外から見える空の色が茜色から夜の帳をおろしたような闇色に染まっていた。
「あーっ!くっそー…今のは絶対いけたと思ったのに!!」
何度目かの‘you lose’の画面に思わず天井を仰ぎ見た。
(ゲーム本当にあんまりやったこと無かったのか。
別に興味なさそうでは無いし……親が厳しかった、とか?)
彼の両親…というか家族構成なんかは何も知らない。ゲームでそれについて語られる場面は無かったから。
俺が知っているのは『高校に進学し、主人公と出会った向坂洸』。
それ以前の彼についての情報は無いに等しいので、何だか新鮮な感じだ。
(俺なんか気付いたらゲームばっかりしている子供だったし、
佐倉絃も…基本外で遊ぶのが好きな子供だったけど、ゲームも割と好きでそれなりに遊んでるしな…)
彼の家庭環境について追求する気は無いが自分がゲーム大好き人間である手前、隣にいるまだ16の少年がゲームを思う存分やった事が無い事実に内心涙ぐんでいた。
『俺だったら絶対耐えられない』と…
勿論、全世界の人間がゲーム好きである訳じゃない。
実際やってみれば彼に合わないことも全然あり得る。ただ今はこの少年にゲームの面白さを少しでも伝えようと心をメラメラと燃やしていた。
─────────
「っあ、次そこ右、右!上ボタン!」
俺の部屋に来てから1時間程経っただろか。窓の外は茜色からすっかり夜の暗さに移り変わっていた。
この1時間で操作を彼に教えつつ、俺もすっかりゲームの夢中になっていた。
少なからず、自分には少しくらいは気を許してもらえてる、と勝手に思っていただけにそんな自意識過剰じみた思考を持っていた自分が何だか恥ずかしくて、同時にいたたまれなくなってしまった。
そりゃまだ出会って間もないんだし、と思う反面、出会い方が割と、というか確実に普通とは随分と違っていたから、その分彼には意識してもらえてるんだと思っていたのだが。
…むしろ、その出会い方がまずかったのかもしれない。
(ファーストコンタクトは大事だって、言うもんなぁ…)
…はた、とそこで俺はまた思考の渦に飲まれてるのに気付いた。
こんな風に、ドツボにハマったり、周囲が見えなくなるくらいに変に考え込みすぎることは今までなかったハズだ。
どうしてか、彼の…紘のことになると、いい加減にはしたくなくて、蔑ろにはしたくなくて、同時に彼のことをもっと知りたいと思った。
だからこそ、今こうして彼の部屋で二人で肩を並べて、ゲームをしようなんてことになってるんだけど。
正直、理由なんて何だってよかったんだろう。
きっと、俺が紘のことを知りたいと思ったから、果たしてそこに下心みたいなのが僅かでもないのかと問われれば、それは今は割愛したい。
聞きたいことは、たぶん他にもある。けど今はその時じゃない気がした。
ならば、彼がいつか自分に心を開いてくれて、その胸の内を明かしてくれるとなった時には、俺は彼の全てを受け入れてやろうと思う。
「モンスター、狩るの?へぇ~…面白そうじゃん!!
俺、ゲームとかあんましやったことないからさ…お手柔らかにな?」
そう言って、俺はにまっとどこかいたずらっ子じみた笑みを浮かべてから彼からゲームの軽い説明を受けつつ、ゲーム画面を見つめた。
俺が緊張しているのとは反対に、いつも通りの輝かしい笑顔を浮かべる洸。
緊張してしまうのは正直仕方ないと割り切れるんだが、いつでも余裕がある彼を見ていると自分が恥ずかしい。
前世を合わせた年齢だと、俺の方が彼よりもうんと年上な筈なのになぁ。
「あ、でも俺これ1個しか持って無いから…
…このゲーム、俺は散々やった事あるし、やってみる?」
俺がこの寮に持って来ているのは、持ち運びの出来る携帯型ゲーム機1つ。
2機あれば通信出来たり、据え置き型のゲーム機なら一緒に遊べたりもするんだが、現状それは難しそうだ。
一緒にゲームをすることは出来ないが、あまりゲームをしている印象のない彼にゲームの楽しさを少しでも伝えられたらそれで良いと思った。
「モンスター出てきて狩るって感じのゲームだけど、案外操作簡単だし初めてでも全然いけるし…
……あ、有名なゲームだしやった事あるかもか!」
言葉で軽く説明しながらゲーム機の電源を付け、ゲームを起動していく。
ただ俺はここで、向坂洸がゲームをしている描写が無かった=ゲーム経験が無いと勝手に解釈して話をしていたことに気がつく。だが早い段階で気がつけたため、違和感のないように言葉を付け足した。
彼がゲーム初心者だと判断できる情報は佐倉絃としては持っていない。
むしろ、ゲームでは描写されていないだけで実際はゲームが好きなのかもしれない。
BLゲーム"らぶスタ"の大ファンだった俺にとって、あのゲームは俺の一部と言っても過言ではない。
だからどうしてもあのゲーム内の情報は頭に過ぎる。
(俺が向坂洸と主人公の出会いをぶち壊してるから…ゲームとは違う世界線なんだろうし、
それにこの世界の人みんな、"キャラクター"じゃなくて、"生きてる"んだって…頭では分かって入るのに…)
この状況に少しは慣れたと思ったが、やっぱりまだ混乱している。
前世の記憶がある内は心からこの世界に溶け込めるような気がしない。
自分の全てを曝け出せる相手なんて出来ないような気がした。
なんだ、やっぱりさっきのは俺の考えすぎだったみたいだ。
そりゃそうだよな、どこからどう見たって目の前にいる、彼は俺と同じ学生なのだ。
年不相応、なんて感じたのはきっと俺が多感な年頃だからだろう。
別に達観しているとは言わないが、やはりこの年齢の男女はいろいろなことに
興味を持ち始める傾向が著しいのだ。
女の子なら噂話とか、メイクだったりファッションだったり、何より恋愛だったり。
男だって女の子と大して変わらないが、思春期というものを迎えれば
自ずと話題の種はそういった会話になりがちである。
俺だって、全くそういう場面に出くわしたことがなかった訳じゃない、ただいつもは
何となく、なあなあに、お得意の笑みを浮かべてはやり過ごしていた。
…まずい。
先ほどまで四人で駄弁りながらごはんを食べていた時とは違って、今は彼と二人だけ。
しかも、ここは彼の部屋であるという、まあ何ともお誂え向きな状況なのである。
(…いやいやいや!!いくら絃が他の奴らとは違って見えるからって、別にそういうのじゃない。
大体俺はこれまでだって、これからだって、恋愛対象は女の子のはずで…)
俺はれっきとした男、もちろん目の前にいる絃だって俺と同じ男だ。
せっかく彼が俺にいろいろと気を利かせてくれているのに、それを無下にする訳にはいかない。
というか、こんな風に変に緊張してるのも多分俺だけなんだろうな。
そう思うと、なんだか悔しいなという気持ちと、その緊張が彼に伝わりませんようにと
願うような気持ちとで、ぐるぐる考えてしまった。
(ダメだ、ダメだ!!何となく、何となくだけどこのままこの思考にハマるのは良くない!!)
俺がこれまでに身につけた勘がそう言っているから、それならばと。
俺は笑顔を浮かべると、努めて明るい声で彼に言った。
「絃の好きなゲームして、遊ぼうぜ!!」
俺結構…ハンティング系とか好きでさ!」
(危ない、向坂洸にBLゲームが好きとは言えない…‼︎)
好きなゲームと言えばBLゲーム。頭の中に当たり前にポンと浮かんで、一度はそのまま口に出そうとする。
だが関係値の浅い人には伝えにくい趣味だし、そもそもそのBLゲームの攻略キャラクターである彼自身にこの趣味を伝えるのは何とも…。
そう思いすぐに口をつぐんで違う答えを用意した。
勿論嘘ではない。某ハンティング系ゲームは俺自身好きだし、何なら佐倉絃でもこの系統のゲームはしている。
ただ佐倉絃としてこの趣味を共有出来る友達を作るのは難しそうだ、と内心肩を落としていた。
「あ、ここ。俺の部屋」
俺は1つの扉の前でぴたりと足を止める。
扉を開いた先は、皆変わりない間取りの部屋なので特に目新しさも無い。
置くものでそれぞれ個性は出るだろうが、まだ寮に入って数日じゃどの部屋も似たような印象だろう。
(…なん、か………俺やったか?!)
2人で部屋の中に入り、俺はベッドに腰を下ろした。対して向坂洸は床に腰を下ろしている。
そんな中で俺の意識は緊張の渦に取り込まれ始めていた。
先ほど4人で居た時は初めての出来事に多少の緊張はあれど、落ち着いていられたと思う。
ただやっぱり、彼と2人で居るこの状況にはまだ緊張をしてしまうようだ。
「………な、何かゲーム、する?!」
(というか、あんまこういうゲーム好きじゃ無いかもだよな…)
けれどゲーム内では向坂洸がゲーム機で遊んでる場面は1度も無かった。
正直これに関しては好き嫌いはわからず、不安に思いながらも俺はゲーム機を手に持って彼に提案をしてみる。
いやまあ、これもひとつの告白じみた事ではあるのだろう。
君と一緒に居たい、とか、そういうのではないにしても、それにしたって
「君のことをもっと知りたい」なんて、今の時代の、ましてや男子高校生が言うだろうか。
けど、多分ここで変に回りくどい言い方をすれば、かえって彼のことを困らせるのは分かっていた。
彼はどこか抜けていて鈍感に見えるだろうが、その実かなり鋭い部分もある。
何より、彼はどちらかというと自身の気持ちより他人の感情の機微に凄く敏感だ。
無意識なのかは分からないが、周りのこともちゃんと見てる、落ち着きもある。
それはまさしく、"年不相応"だと、感じるくらいに。
…考えすぎか。
今俺の目の前にいる彼は紛れもなく、俺と同い年のごく普通な男子高校生であり、
これからきっと俺やあの二人と苦楽を共にできる程の友人になれるだろう。
だからこそ、時折彼がふとした時に見せるどこか憂いを帯びた表情や、やけに達観した
言動をするのは、単純に、彼の生きてきた環境にあるのだろう。
今ここで、仮に俺がそのことについて聞いたって彼はいつもみたいに少し困ったような、
でもどことなく嬉しそうな、何とも言えない不思議な顔しながら誤魔化すんだろう。
何より、今から彼のことが知りたいって言ってる俺が、いきなりそんな質問をするのは
あまりに相手の事情に踏み込みすぎだし、俺としてもナンセンスだった。
(時間は…ある。ここでの生活だってまだ始まったばかりだし。こいつと過ごす時間だって、
何もこれが最後ってわけじゃない。少しずつ、絃のことを知っていきたい)
「…本当に?よかったー、突然だったから断られるかと思ってたよ。
勿論、絃の部屋で構わないよ。へぇ、そのゲームは家から持ってきたのか?」
俺はにっこりと笑みを浮かべながら、とりあえず当たり障りのない質問を彼にしてみた。
とても真剣な表情をしていたし、何だか緊張感のある空気だったせいで『問い詰められるかも』なんて考えてしまっていた。
けれど俺が過剰に不安になっていただけで、無用な心配だったようだ。
ひとまず予想していた内容では無かった事で身体の力がフッと抜けた。
(…俺のことをもっと知りたい?)
子犬のような表情の推しにこんな事を言われて舞い上がらない筈もなく、俺の心臓はバクバクと大きく跳ねていた。
けれどお人好しな向坂洸の事だ。そこに他意は一切無く、ただ俺に気を遣ってくれているに違いないだろう。
ゲーム内でも彼は優しすぎるあまり、相手に勘違いさせてしまう出来事もあった。
彼と友人になりたい俺にとって、前世の記憶は不要なものでしかないが、こういう時は正直前世の記憶があって助かった。彼の事を知っていなければ危うく勘違いをして、恋に落ちてしまう所だった。
(なんか、こういうの初めてだ)
前世で友人はほんの数人いる程度だったが、自身含め活発的な人間は居らず、休日に遊んだりする友人は居ないに等しかった。だから今日いきなりご飯をみんなで食べたり、今こうやって仲良くなろうと言葉を掛けてくれる事も俺にとっては初めての経験で、不思議な気持ちだった。
「…確かにな、俺たちまだ会ったばっかりで…お互い、良く知らないし。
それじゃあ一旦俺の部屋来る?ゲームくらいしかないけど…」
彼の友人になりたい俺としては、気遣いだったとても嬉しい言葉だった。
『お互い良く知らない』と嘘をついていることに罪悪感を感じつつも、自分の部屋に来ないかと提案をしてみることにした。
彼の、絃の、こんな顔を見てしまったから。
おそらく、彼の中で、先ほどの会話が何やら尾を引いているんだろう。
…やはり、今ここで彼に聞くべきなんだろうか。
(…落ち着け俺、これは確実に絃はそれを望んではいないだろ。選択を、間違えるな)
今までだって、俺は何度も選択をしてきた、はずだ。
人生において、いつだって選択の連続。後悔をしない選択をしなさい。
なんて、俺よりいい年して大人ぶった奴らが口を揃えて言う、言葉だ。
後悔、なんてそんなもの後からついてくるから後悔なんだろうが。
先回りして、結果が分かっていればそれなりに、上手に立ち回れるだろう。
けれど、それではつまらないんじゃないか?人生が面白くないんじゃないか?
たった一度の人生だから、悔いがないように生きたい、それは誰しもが思うことだろう。
それは俺だって、そして勿論目の前にいる彼だってきっとそうだ。
人生はイージーモード、敷かれたレールの上をただ歩くだけじゃそれは俺の人生とはいわない。
自分の道は、自分で決める。やりたいことは、やれるうちにやる。
なら、今の俺がするべきことは……
いつになく真剣な眼差しで彼を見つめた俺は、僅かに息を詰まらせた。
言いたいことは、もうとっくに決まってる。
こんな風に躊躇したことなんて、今まで一度だってなかった。
いつだってそうだった、それはまるで…『俺の口から言葉がこぼれ落ちるように』と。
すうっ…と俺は息を吸って、そしてゆっくり吐いていく。
「いや、その……あーほら!!俺たちってまだお互いのことあんまり知らないなって、思って!!
なんていうか…俺としては、絃のことをもっと知りたいかな~…みたいな、さ」
駄目か?みたいな目を、俺は彼に向けた。
それはまさしく、捨てられた子犬みたいに、どこか所在なさげで、不安に瞳が揺れて。
まるで下される判決を待つみたいに、俺は彼からの返答を、緊張した面持ちで待っていた。
あの人がこういう風に言っていた!、と思っていたが実は違った。なんて全然ある。
だから俺も今、動揺してはいけなかった。ケロッと「そうだっけ?」と言ってしまえば良かった。
けれど俺は上手にこの動揺を隠すことが出来なくて、咄嗟に繕った笑顔も不自然だったかもしれないと心配だった。
だが彼はそんな気がしてきたかも、と優しい対応を見せてくれる。
俺は内心ホッとした。俺が気にしすぎているだけで、彼からすれば俺が何か勘違いしているかも、程度にしか考えていないのかもしれない。
「ははっそうだな…!」
(…助かった。これからは絶対気をつけねえと。)
『塵も積もれば山となる』なんて言葉だってある。もし小さな違和感を重ねてしまえば、彼は次に俺という存在に違和感を持ちかねない。
佐倉絃としてこの世界を平和に暮らしたいのなら、前世の記憶を、ゲームの知識を引き出してはいけない。
こんな風に佐倉絃として生きる前は、どうすれば相手からの好感度が上がるか完全把握しているから、ゲームの中に入ったら面白いだろうな〜なんて呑気に思っていた。
だが実際は、この『前世』が呪いのように感じた。向坂洸を人として好きになってしまったから。
友人になりたいからこそ、俺は彼に全てを打ち明けることはきっと出来ない。
今日また夜寝る前に1度頭の中を整理しよう、なんて思っていた矢先、『なあ、絃』と彼から声が掛かる。
安心し切っていた俺の心臓が再び大きく跳ね出した。
もしかして、やっぱり違和感を感じたんだろうか。問い詰めたれたり、するんだろうか。
どんな顔をしてどんな風に誤魔化せばいい?
「……、…あ、ああ!あるけど…どうした?」
俺は笑顔のまま少し首を傾けた。
若干言葉には詰まったが、普通に返事をした…はずだ。
ただあまりにも真剣な表情で彼が俺を見ているものだから、緊張してまた一段階心臓が大きく跳ねた。
あげたかと思えば、俺に見せた笑顔は、まるで取り繕うようなものだった。
瞬間、俺の胸の奥が、ちくりと何か針に刺されたみたいな痛みを覚えた。
(どうして、なんて聞いたら…お前はこたえてくれるのかな。それとも、)
ほんの一瞬、ここでもし彼にこの笑顔の理由(ワケ)を問いただしていれば
俺たちの関係は変わっていたのだろうか。
けれどこの時の俺は、そんな自分の中にできた僅かなわだかまりと、彼への疑念に
無理やり蓋をしてしまった。
この選択が、今の自分にとって最良だったと、正しいことだったのだと、俺は
俺を納得させることに必死で、彼のことに、本当の意味で気付けなかったのかもしれない。
「……そっか!!たしかに、そう言われるとそんな気がしてきたかもなー。
別に絃になら知られてても不都合とかないし、同じ階ならこれからも気軽に遊びに行けるな」
当然、そこには今日知り合ったばかりの相原と町田の顔も思い浮かんだ。
きっと、これから俺と絃とそれから相原と町田の4人でつるんでいくんだろうなって。
正直、学園生活が始まってすぐに交流関係を持つことは難しいことだ。
それこそ、今の自分たちみたいに気軽に、軽口なんかも叩けるような友達と呼べる、
そんな存在を作れたことは、これからの俺のめくるめく学園生活に大きく影響するだろう。
(なんだろ…柄にもなくテンションがあがってる?何となくこのまま、部屋に戻るのが惜しい…)
お互いの自室がある3Fに戻る道を歩きながら、俺は頭を悩ませた。
『もうちょっと君と一緒にいたい』…いや、これは駄目だな。恋人でもあるまいし。
『なあ、ゲームでもして遊ばないか』…そこまで悪くないけど、そもそも絃の好きなものとか
俺はまだ知らないことが沢山あるしな…と、そこまで考えてからハッとした。
知らないなら、知ればいい。
知らないことを、知らないままで終わらせるのはよくない。
やらないで後悔するなら、やって後悔するほうがいい。
「…なあ、絃。……このあと、時間…ある?」
俺は彼の目を真っ直ぐに見つめて、いつになく真剣な面持ちでそう訊ねた。
俺はこの世界の人に『ここはゲームの中の世界で、俺は前世の記憶がある』だなんて言うつもりは無い。
普通に考えて頭がおかしい奴と思われるだろうし、この世界をゲームの中という言葉では片付けられないからだ。
それなのに、俺がやたら自分のことを知っていると向坂洸が気が付いたらどんな感情を向けられるだろうか。
彼とはゲームの人物としてではなくて、平凡な佐倉絃として良い友人になれたら…なんて、今の俺は思っている。
だから、彼には決して悟られてはいけない。そんな中早速口を滑らせてしまったが、彼は驚いた様子を見せながらもあまり追及はしないでくれた事に俺は酷く安堵した。
「……あ、あれ…なんか同じ階って聞いた気がして!
俺の気のせいだったかも!…悪い」
パッと顔を上げた俺は笑顔を繕った。彼の事を勝手に知ってしまっている事も、こうして何も知らないフリをしてることも、優しい彼を騙しているようだ。
俺は気まずくなり最後は視線をずらしながら申し訳無さそうに謝った。
そしてお互い3Fにある自室へと戻るため再び足を進めた。
ともすれば男同士が集まれば、特有の空気感の中での昼食会は滞りなく終わった。
もちろん、その時間の中で今回新しく交流ができた相原や町田とも
随分と仲良くなれたように思う。…それはあくまで俺の憶測に過ぎないかもしれないが。
ともあれ、俺からしてみれば、有意義な時間を過ごせたことには変わりないので
まあ、今後ともこんな感じでゆるくこいつらと付き合っていけたらいいなと漠然と思った。
(強引に誘ったけど…絃のやつも楽しそうにしてたもんな。よかった、よかった)
ちらっ、と絃のほうを盗み見れば、彼は相原と町田を見ながら、何やら不思議な表情を
浮かべては、少し落ち着きがないように思えたがそれは特段気にすることでもないだろう。
仮に何か悩んでるなら、タイミングを見て俺から話を聞いてやればいいし。
その後も、だらだらととりとめのない雑談をしながら駄弁っていると
気付けば外はすっかり日が傾いて茜色に染まり始めていた。
一旦解散、という流れになり相原の部屋にお邪魔する形だった俺たちは
相原の部屋をお暇することになった。
それぞれ自分の部屋に戻る際に、改めて思うがここは本当に敷地内がバカ広い。
ここ1年棟だけでも各々の部屋自体は3F~5Fにあるわけだが。
相原は4F、町田は階段を上がっていったのを見たからおそらくは5Fだろう。
俺は3Fなので、と階段をおりようと足を向けた際に絃から出た言葉。
俺は思わず目を瞬かせてから、そして目をまん丸にした。
「俺…お前に自分の部屋のこと話したことあったっけ…?あーいや、別に
大したことでもないから、忘れてるだけかもだけど…ちょっと驚いたなって」
俺は本当に気にしたわけでもなく、ただ絃が俺のことに関して少しでも
興味を持ってくれているのが嬉しいな、なんて思いながら
それ以上は深く追及することはなかった。
…もし、ここで彼にもう少し踏み込んでいれば、この先の未来は変わったのだろうか。
この時の俺はそんなこと知る由もなかった。
相原は粗暴な所もややあるが根は悪い人では無さそうだ。意外と人情に熱いことも知れたし、町田に関してはクール…だがどこか可愛げもある礼儀正しい人という印象。
タイプの違う2人、幼馴染。顔も整っている2人を見ると俺の腐男子センサーが反応して『もしかするとこの2人…?!』なんて一瞬考えた。
ここは一応BLゲームの世界…ではあるので十分あり得るが、折角出来た友達なのに俺の頭の中で勝手に妄想するのは失礼だろう。
(もし、もしそういう関係なら…最高です!)
俺はグッと涙を堪え、それ以上の考えを持つことをすぐに辞めた。
食事も終わってダラダラと話すうちに外は茜色に染まり始める。
一旦解散するかという話になり、俺と向坂と町田は相原の部屋を出ることになった。
「ま、寮だし多分またその辺で会うだろうけど…一旦またな!洸!絃!
賢人もまた後でなー」
「はいはい。じゃ、2人ともまた」
「ああ…ありがとな。また…」
相原が笑顔でひらひらと手を振ふり、町田は呆れたような返事をした後、俺と向坂にも別れを告げる。
俺はも小さく手を振って、部屋へと向かう彼の背を見送った。
この寮は1年棟で、俺たちの代しか住んでしない。部屋自体は3〜5Fにある。
相原の部屋は4F。町田は階段を登って行ったのできっと5Fに住んでいるんだろう。
俺は3Fに部屋があるので階段の方へと足を進めようとした。
「そうえば俺らは階いっしょだよな」
そう、向坂洸も部屋は3Fなのだ。どうせ戻る方面は一緒だし、黙ったままというのも気まずい。
手軽にあった『同じ階』という話題を口にしてみたが、俺はすぐにハッとする。
彼の口から、住んでる階など聞いていないからだ。
知っているのはゲーム内でそういう"設定"だったからに過ぎなかった。
俺たちの腹を満たしてくれて、そんな楽しい食事の時間を堪能しつつあった俺は、
相原が感心したような面持ちで、俺の容姿について称賛の言葉を口にした。
ごく自然だったけど、どうやら先ほど自分が提案した、「よろしくするなら名前呼びで」という
突拍子もない発言は見事採用されたらしい。
ひとまずそのことには若干の安堵を感じつつ、先ほどの相原の発言を噛み砕いていく。
(…えーと、これは…嫌味?いや、でもそれにしては悪意のようなものは感じないし…うーん、…)
なんて思案を巡らせていたら、今度は町田からも追撃を喰らう羽目になった。
"芸能人"とは、これまた随分と自分の評価が持ち上げられてしまったようだ。
さて、ここでこういった場合に、どういう反応をするのが最適解なのかと
俺は瞬時に脳内をフル回転させることにした。
幸い、俺はこういう場面であってもお互いに角が立たないように、波風を立たせないように
のらりくらりとかわすことは特段苦手というわけではない。
というか、「冷酷な奴か確かめるため」って、おいおい。
たしかに世の中にいる、所謂イケメンというステータスを保持する奴には
自分の容姿を鼻にかけては、何かと突っかかってくる面倒なのもいるらしい。
相原のいうこの言葉も、大方、俺が己の見目の良さゆえに周囲の奴らを見下しているんだろう、
なんてことを考えていたんだろう。
再三言うが、俺は別に変に敵を作りたい訳じゃない。
ただ、分け隔てなく接するから、時折勘違いさせてしまうこともあるけど、
基本的には友好的だと思うし、友達は大事にしたいし、困ってる人がいれば助けたい。
それがごく普通のことで、当たり前なのに、けれどそれが出来ない人も中にはいるわけで
全ての人が純粋な善意だけで生きているわけじゃないのは分かっていた。
でもどうしてかな、だからこそ絃の今の言葉はストンと真っ直ぐに俺の胸に落ちた。
俺は知らず、そんな絃のことを、つい、愛おしさを込めた目で見つめてしまった。
「はは、どうかな。俺はあんまり自分がどうとか、どう見られてるとかは気にしたことないかな。
けど…お前らの言ってくれたことは、素直に嬉しいと思うよ。ありがとな」
前の友達が少なかった"俺"では、入学早々友達を作りこんな風に楽しく時間を過ごせるだなんて想像も出来なかった。
「いや〜それにしても、ほんっと顔整っとるよな、洸!」
食事の最中、相原が感心したような表情で向坂へそう伝える。どうやら名前呼びを互いに了承したらしく「洸」と呼んでいるようだ。
「普通に芸能人かと思ったしな、最初。
別のクラスにも何か派手な芸能人っぽい奴居たよな」
続いて町田。彼が言っている"派手な芸能人っぽい奴"は多分他の攻略キャラクターのことだろう。やはり彼らは特別容姿が整っているようだ。俺と同じく皆もその認識らしい。
「イケメンすぎるからどんな冷酷や奴かと思えば洸いい奴だしよ!!
勝手に疑って悪かった!
欠点はないのかイケメンに!!なあ、絃は知らんかこいつの欠点!!」
悶絶した様子でそう語る相原。最初に向坂へ話しかけたのは『どれほど冷酷な奴か確かめるため』だったようだ。全然失礼ではあるが本人もそれは自覚しているようで申し訳なさそうな表情を浮かべている。
これだけ顔が良いと確かにそういう目線でも見られることも少なくないんだろう。
イケメンの宿命か…なんて呑気に思いながら食事を進めていたところ、突然名指しをされる。
別に許可を取ってもらう必要もないが、俺も下の名前で呼ぶことになっているらしい。
「け、欠点……欠点か…?んー…?」
向坂洸の欠点。ゲームプレイヤーの目線で言えばあるかもしれないが、それを答えるのは違うだろう。
ちゃんと俺の目で見た、まだ出会って少しの彼の欠点を、数秒唸りながら考えた結果
「俺も洸と知り合って少しだから、欠点とかは分かんない…けど、
…本当にいい奴だとは思う」
心の底から、"いい人"という回答しか出てこず、ご希望の欠点を見つけることは出来なかった。
なので、4人で肩を並べながら寮へと戻り、そのまま今回は相原の部屋に集まって
みんなで仲良く昼食をとることになった。
改めて、この寮の設備について俺は驚かされる。
ここに来た初日に荷ほどきついでに簡単に自分の部屋については一通り目を通してはいたものの、
やはり簡易的とはいえ、部屋に台所まで備え付けられているのは、正直有り難すぎると思った。
いろいろあって、成り行きでこの学校に通うことになり、なあなあで寮生活をすることになったが、
これならそこまで苦労はせずにやっていけそうだと思った。
さて、肝心の昼食はどうするかとなったところで、どうやら今回集まったメンバーから、
町田が料理上手だというので、「簡単なものでいいなら」とテンプレートみたいな前置きを挟みつつ、
彼が手料理を振る舞ってくれることになった。
そんな町田に食事を作ってもらっている最中、相原のほうから改めて2人について自己紹介があった。
いいなー、幼なじみか。生憎と俺にはそんな親しくも腐れ縁と呼べるような人物はいないので、
ちょっとだけ相原と町田の関係が羨ましいな、と思ってしまった。
「なあなあ、小中の相原くんと町田くん…あー、これからよろしくするなら真と賢人って呼んでいい?」
もちろん、俺のことも「洸」って呼んでくれたら嬉しいな、とにこっと笑みを浮かべた。
こういう場合、やっぱり何より最初が肝心だと思うんだよね。
おそらく、彼らは絃とは違って対人関係を築く力なんかは強いんだと思うから、
まずはお互いにある程度距離を詰めておくのも仲良くなる手法としては悪くないだろう。
あくまでこれは俺の持論だから、合わないならその時は相手に合わせなくてはならないのだが。
そんな雑談をしていると、これはなんとも鼻腔を…というか、空腹を刺激するいい匂いがしてくる。
見れば、これまた育ち盛りの男子高校生には嬉しい炒め物にチャーハンときたではないか。
なるほど、これは町田は胃袋から掴みに来るタイプと見た、と思わず俺は冷静に分析してしまった。
冷めないうちにと料理を口に運べば素朴ながらもしっかりとした味わいが
口いっぱいに広がる。
「さっすが…やっぱり、これって感じー」
絃と同じく俺も素直に称賛の言葉を述べた。
この寮は部屋にコンパクトだが台所が備え付けられているため、簡単な料理であれば部屋で作ることも可能だ。
食堂が休みの日は自身の部屋で簡単に食事を済ませる者もそれなりにいるだろう。
どうやら町田君が料理上手とのことで、「簡単なものでいいなら」と振る舞ってくれる話になった。
食事を作ってもらっている最中、相原から改めて2人について自己紹介をしてもらった。
フルネームは相原真、そして町田賢人。
相原と町田は小中と同じ学校に通っていたらしく、所謂幼馴染のようだ。
最初こそ、コミュ力が高くキラキラしてるこの2人と仲良くなれる気がしなかったが、実際話をしてみると
相原は本当に気さくな人物で、町田はクールではあるが気遣いの出来る人物に思える。
人を第一印象だけで判断し切ってはいけないと心の底で俺はそっと反省をした。
そんな雑談をしていると料理が出来上がったらしい。ウィンナーや卵、千切りキャベツの炒め物にチャーハン。
素朴ではあるが、匂いからして"絶対に美味しい"と確信出来る品だった。
「いただきます…!」
腹の減っていた俺は目を輝かせてスプーンを手に取りチャーハンを口へ運ぶ。
「ん〜うっま!」
「ん…本当に美味い!町田くん料理上手なんだな」
相原は満面の笑みを浮かべて満足そうに食事を味わっている。俺も想像を超えた美味しさに驚き、町田へ思わず尊敬の眼差しを向けていた。
「…いや、別にそんな」
口では"別に"なんて言っている町田だが、嬉しそうに口角が少し上がっているのがわかる。
何だか年相応らしい反応に俺はつい微笑ましくなって小さく笑みを漏らした。
それでも俺は、彼のこうしたふとしたときに見せる、
ほんの少しぎこちなくて照れたようにはにかむような笑顔が好きだった。
正直なところ、こうして俺といるときみたいにもう少し笑ったりすれば
きっと周りからもとっつきやすい奴なんだろうなと思ってもらえるだろう。
彼だって容姿というか見た目は醜悪というわけでもないし、むしろ整っているほうだ。
それにどことなく可愛げだってあるから、愛想よくさえすれば
友達を作ることだってできるはず…
けれど、俺はそこまで考えたところで何だか胸の奥がもやもやした。
彼が友達に囲まれて楽しそうにしているのはどう考えたって良いことのはずなのに、
俺はなんだかそれがひどく気に入らなかった。
(…俺は、絃にとってどういうポジションの人間なんだろう。
変に絡んでくる面倒くさい奴とか?それとも胡散臭いお節介な奴、とか?)
"友達"…になれたらいいなって思って、俺はあの日の出来事があってから
ことあるごとに彼に構うようになった。
でもそれは俺の一方的な気持ちの押し付けになっていないだろうか?
「…気にすんな。むしろお礼を言うのは俺のほうだから」
…―(…少し、自分の身の振り方を考え直したほうがいいのかもしれないな)
そんな胸の内は誰にも明かすことなく、俺は支度を済ませて鞄を持ち、
彼と一緒に相原と町田が待つほうに足を向けたのだった。
やはり彼としては、良かれと思って俺を誘ってくれたらしい。
『お前もいたらもっと楽しいだろうなと思って』
彼が推しだから。とかそういうのは関係なく、こんな言葉を言ってもらえて嬉しくない訳がなかった。
少なくとも、"前"の俺ではこんな言葉を誰かに言ってもらえたことは無い。
向坂洸は本当にいい奴で、こんな人が友人ならきっと毎日楽しく過ごせるんだろう。
正直まだ、本当の主人公と向坂洸の大事な出会いを俺が奪ってしまって、この先2人が絡むことが俺のせいでなくなってしまったのでは無いか、という懸念はある。
本当なら向坂とはもう関わらない方がこの世界としては正しい判断だと分かっているのに
彼の優しさに徐々に心動かされている俺が居た。
「…よ、用事とか全然無い!大丈夫!
…俺、友達とか作るの昔から苦手だから…逆になんか、…ありがとう」
慌てて首を横にブンブンと振り俯きがちにそう答えたのち、彼の方を見て照れくさそうに小さく笑った。
「じゃあ行こうぜー!」
そして教室の前扉の方から相原が声を掛ける。相原と町田は既に準備を終えているようだった。
俺も再度鞄を持ち直し、向坂と一緒に彼らの方へと足を向けた。
大事だと思っているが、何より何かと気になる彼を
この機会に誘わない訳にはいかないだろうと思い。
しかしながら、半ば無理やりというかほとんど強制連行みたいなものだったので
これはもしかしたらむしろ、絃との距離はあいてしまった感じも
若干否めないが、まあそこは追々修復していけばいいだろう。
何もこれが今生の別れというわけでもあるまいし、これからいくらでも時間はある。
幸い、俺も絃もまだまだうら若き学生の身分だからね。
唐突な俺の提案にも関わらず、快く受け入れてくれた相原くんと町田くんに感謝しつつ、
どうやら食事は寮に戻ってとるらしいので、俺も帰る支度をした。
「絃、無理に誘っちゃったけどもしかして用事とかあったか?
正直、俺としてはお前もいたらもっと楽しいだろうなって思ってさ…」
まあ、お前の意見も聞かずだったからアレだけど、と
俺は少し眉を下げて、困ったように笑いながらぽりぽりと指で頬を掻いた。
「?!?!」
驚きすぎて声が出ない、というのはこの事を言うんだろう。
ひっそり教室から退散しようと思っていたその時、唐突に腕が掴まれる。
そんな事をする人物は1人しか思いつかない。視線を向けた先にいたのは、想像通り向坂の姿だった。
彼は困惑した俺をそのままずるずるとあの2人の生徒の方へ連れていくのだ。
そしてどんな提案をしてくるのかも、大体想像できてしまっていた。
「ん?あ、佐倉くん?で名前合ってるよな?俺は全然いーよ!」
「俺も」
俺を含めて4人で食事をすることを提案した向坂に対して、相原と町田は顔を頷かせ
快く承諾しているように見えた。
(俺が…此処に混ざるのか?)
心内は頭を抱えている俺だが、態々誘ってもらったのにそれを断る勇気は持ち合わせていない。
それに、お人好しな彼のことだ。向坂としては1人で居る俺が可哀想だから誘ってくれたんだろう。
その優しさを無碍にすることも出来ない。
「…じゃ、じゃあ…是非」
はは、と軽く笑みを浮かべながら俺も彼の誘いに乗ることにした。
「オッケ!まあ昼飯っつても俺ら金あんまないし、寮戻って食べるつもりなんだけどね」
「とりあえず全員で帰るか」
考えていることは皆同じようで、今日へ一先ず寮へ戻る生徒が多いようだ。
こうして2人が帰り支度を始め、向坂も同じく寮へ戻るために帰り支度を始めて
明日からの授業の日程だったり、時間割や教科書などの確認事項など諸々の説明がされた。
どうやら今日はこのあと授業などもないらしく、午前中で解散する日程らしい。
ちらっ…と時計に目線を向けると、時刻はお昼の12時前。
俺がこれからお世話になるこの学校は全寮制なので、今日は各々寮に戻って食事を摂るか、
もしくは外食をすることになるのだろう。
教師が一通りの説明を終えてから、「明日からよろしく」と教室を退出した。
とたん、教室内は再び騒がしくなる。
何とはなしに周りを見てみると既にいくつかグループなんかも出来ているみたいで、
「ご飯食いに行こうぜ~」みたいな会話も聞こえた。
さてそんな中、俺はどうしようかなと思案を巡らせた。
生憎、外食などという贅沢なことを気軽にできるほど金銭的に余裕があるわけでもなく。
まあその辺りに関しては追々バイトなんかを検討していた。
とまあ、そんなわけだから自然と今日の昼は寮に戻って摂るかという結論に至るわけで。
必要なものを買い出ししてから自足するか、と思いながら席を立とうとすると
見るからにチャラそうというかまあ雰囲気の軽そうな生徒二人が俺に声をかけた。
内容は極めてよくある「一緒にお食事でもどうですか」みたいなありきたりなお誘い。
正直、俺は悩んだけどここで断るのも気が引けるし、交遊関係を作るのは大事なことだし、と
俺は了承の返事をしかけてふと彼のほうを見ると、こそこそと一人で帰ろうとしてた。
(……そうだ、いいこと思いつーいた)
俺はこそこそと帰ろうとする彼の腕を掴むと、ずるずると引きずるように連れてきて
相原くんと町田くんの前に戻ってきた。
「こいつも一緒に連れていっていいなら、四人でご飯食べに行こうよ」
俺はそう言って、にこっと人好きのする笑みを浮かべてみせた。
時間割、教科書等の確認事項について説明をされた。
今日は授業も無く、午前中で解散する日程らしい。
今は12時前で丁度お昼頃だ。この学校は全寮制なので、今日は寮へ戻って昼食を食べるか
もしくは外食しに行く人も居るだろう。
教師が説明を終え「じゃあまた明日からよろしくな」と教室から出て行った後
教室内がワッ盛り上がりを見せる。
初日にも関わらず既にもう数人でまとまり「なんか食べに行こうぜ〜」と会話をしている人もちらほら。
そんな中、チャラついた雰囲気の2人の生徒が向坂洸の席へと近付いていく。
「向坂くん!俺相原っていうんだけど、よかったらこれから一緒に飯食わねー?」
「俺町田。暇だったら一緒に行こうぜ」
流石に向坂洸には劣っているものの、それなりに外見は整っている、と思う。
ただゲームでは見たことのない顔と名前。彼らも俺(佐倉絃)と同じサブキャラクターなんだろう。
(コミュ力強いなこの人たち。…だが俺にはそんなコミュ力は無い!)
隣の会話に耳だけは傾けていたが、もちろんそこに混ざる気は無い。
類は友を呼ぶ、なんて言うし。きっと向坂にはこういうコミュ力が高いやつの方が一緒に居て楽だろう。
クラスの数人がそれぞれ1人で教室から出ていくこの自然な流れを見て、(よし今帰ろう)と
話かけられる向坂を横目にしながらも、鞄を持ち席から立ち上がった。
俺はそこそこ注目の的になってしまったようだ。
俺としては、周囲のクラスメイトたちに自分のことを知ってほしい、というより
これはほとんど彼に向けて自己紹介をしたようなものだ。
純粋に思ってしまったのだ、彼にはもっと自分のことを知ってほしい、と。
そして叶うなら、彼の事を俺に教えてほしい、って。
正直、少し絡みがあったくらいで友人だなんて呼べる間柄になれたかどうかは怪しい。
何なら、俺はそう思っているだけで彼のほうは単なる他人だと思っている可能性だってある。
俺はきっと彼の事がもっと知りたいんだろう。
これが特別な感情なのかどうかはまだ俺にも分からないけれど、
きっと他のクラスメイトたちに抱くものとは違う気がする。
俺の自己紹介が終わり、次は彼の番だ。
どんな自己紹介をするのだろう、と俺の視線は自然と彼に向いた。
(好きなことはゲーム…男の子だな。甘いもの、好きなんだ…甘党なのかな?)
あとで一通り落ち着いたら、彼に聞いてみようかな。
俺もゲームは別に嫌いじゃないし、好き嫌いはしないから甘いものも平気。
もしかしたら、彼と共通の趣味ができるかも、と思いながら時間が過ぎるのを待った。
だがやはり、このクラスで1番注目を浴びているのは向坂洸であるようだ。
向坂洸へと順番が周り、彼が口を開くまでの少しの合間でクラスメイトの視線は自然と集まる。
集まる視線の中の多くは、『彼が一体どんな自己紹介をするのか』と興味を寄せているように思えた。
黙っていると儚げな美青年に見える彼が人懐こい表情を浮かべるので、クラスメイトからは良い印象を持たれているように見えた。
俺もゲーム初見の時はどんな儚げ青年なんだと思ったが、実際は人当たりの良い人物でギャップを感じたことを思い出す。
今自己紹介を聞いた彼らも似たような心境になっているんだろう。
そうして向坂洸が自己紹介を終え着席したところで、教師が俺へ『次は君の番だよ』という意味を含んだ視線を向ける。
(俺の番か…はあ、)
注目されるのはやはり苦手だ。先程までは抑えられていた緊張がやや高まるのを感じながら、席を立ち上がり、口を開く。
「…佐倉絃です。好きなことは……ゲーム。あと甘い物も好きです。
よろしくお願いします」
無難に好きなものを言っておけば間違いないだろう、と思うが頭に浮かぶのは『BLゲーム』。
だがここでBLゲームが好きです、なんて言う勇気は俺には当然無かった。
そして目立ちもしない無難で普通な俺の自己紹介タイムを無事に終えることが出来た。
聞いているフリをしながら、実際は右から左に流しつつ。
早く終わらないかなー…なんて思いながら、手慰みに自分の髪の毛の毛先を
指に絡めたりして、気もそぞろになり始めた頃、ようやく入学式が終わった。
教室に戻れば、新入生らしい会話で周囲は賑やかになる。
お前どこ中?だの、好きな女の子のタイプはー?だの、まあ男子高校生なら
よくある、ありがちな反応。
青春してんなー、なんてどこか他人事のように思いながらも、俺の視線は
自然と彼のほうに向いた。
そんな中、担任の先生が教室に入ってくれば騒がしかった教室内も少し静かになる。
だがそんなものもつかの間、一人ずつ自己紹介を、なんて言うものだから
また少し生徒たちが騒ぎ始めた。
自己紹介、自己紹介かー…嫌いとか苦手とかそういうのはないけど、
こういうのって初めが肝心だっていうよな。
無難にいくのか、ちょっとはっちゃけてみたりして周りの興味を引くようなことを
織り交ぜてみるのか、自分を言い表す方法なんて人それぞれだ。
とりあえず自分の番が回ってくるまで、他の生徒の自己紹介を聞いてみた。
やっぱり無難に最低限の紹介で済ませる者もいれば、
中には聞いてもいないのに好きな女の子のタイプとかを暴露する生徒もいた。
そして、とうとう自分の番が回ってきた。
俺はガタッと少し音を立てて、椅子から立ち上がるとすぅ…と息を吸って少し間を置く。
自然と周りの視線は俺に集まる。
「…俺は向坂洸っていいます。食べ物の好き嫌いはあんまりしないかなー、犬より猫派。
可愛い子には甘やかしたいより実は甘やかされたいタイプ。仲良くしてねー」
そう言って、お得意の人好きのする笑みを浮かべれば、
俺の元々の容姿の良さも相まって、周囲の熱がなんとなく上がったような気がした。
周囲をチラッと観察してみると、誰とも会話をしていない俺のようなタイプもいれば、「お前どこの中学だった?」なんて新入生にありがちな会話を弾ませている奴もいるようだ。
前の人生では俺は緊張しまくりで誰とも話さず、精神的に疲弊した1日だった事を今でも鮮明に覚えている。
こういう時、自然と会話を弾ませる事が出来る…向坂のような奴が近くの席だと俺みたいな奴には嬉しいだろうな。
それからすぐに担任の教師が挨拶を始めた。それに合わせて雑談の声も収まっていく。
そして教師の挨拶後、「それじゃあ全員、1人ずつ自己紹介していこうか」と発言をした途端、またザワザワと教室が若干賑やかになった。
(っげ…自己紹介…)
人に注目されて発言する。俺の苦手なことの1つだ。前の人生でも自己紹介をする機会はあったが、緊張しすぎているせいなのかその時何を言ったのかはよく覚えていない。
でも今の俺はこの教室にいる生徒たちよりかは長く生きている身。
自己紹介なんてものは、軽く名前と好きなことなんかを言ってしまえばすぐに終わるし、こんな事では緊張はもうしないな、とやっぱり多少なりとも気持ちに余裕を持つ事ができた。
名簿の順番に1人ずつ立ち上がって名前や好きな事、趣味など各々自己紹介をしていく。
名簿の順だと、向坂洸の後に俺が自己紹介をする流れだ。
そしてついに自己紹介は、向坂洸まで順番が回ってきていた。
何気ない話題を振ってみたのだが。
もしかしてかえって彼に緊張を与えてしまっただろうか、と少し反省した。
彼はきっとこうして人との距離感を慎重に見極めることが何より大事なのだと、
たぶんだけど節度とか大切にするタイプなんだと思う。
となれば、もしかすると現在進行形で俺の接し方は悪手なような気がする。
純粋に彼のことが気になった、出会いこそそれなりに刺激的ではあったものの、
これから親しい友人として付き合っていけたらいいなと思うくらいには。
が、しかしここでふと考える。
これは俺の単なる一人相撲なんじゃないかと。
俺は彼と仲良くなりたいと思ってはいるけれど、彼はそうじゃないかもしれない。
むしろ最初に感じたように、彼はどこか俺と距離を置きたがっているように思えたのだ。
(…だからって、友達になれないわけじゃ…ない、よな)
俺は他者の懐に入り込むのはまあまあ得意なほうではある。
きっと少しずつだけど、彼だって俺に心を開いてくれるはず、そんな期待を込めた。
そんな俺の憂いもよそに、新入生には切っても離せない入学式の時間だ。
この学校のお偉いさんのありがたーいお話をなんとなく右から左に聞き流しつつ、
なんとなく彼のほうに目を向けた。
「…ふは、絃のやつ、退屈そうな顔してる。真面目くんかと思ったけど意外とそういう感じなのな」
思わず小さく吹き出して、ぽしょぽしょと呟いたもんだから
隣にいた奴なんかには、何だこいつ、みたいな目で見られてしまった。
そんなこんなで入学式も無事に終えて、軽く伸びをしながら俺は自分の教室へと足を向けた。
彼が先に席に着く様子を見て、自然と自分も彼の隣の席へと座った。
すると彼が"気になる子と席が隣同士だったら"なんて言うものだから、一瞬自分の事を言い当てられたのかと思い緊張して言葉に詰まったが、彼の様子を見ると特に俺のことを言い当てている訳ではなくただの雑談であると理解した。
でも彼の言葉にはしみじみと同感した。今の俺がまさにその状況だったからだ。
画面越しに見ていた俺の推しと喋れるというだけで昨日十分緊張したというのに、今後は席が変わるまでずっと彼の隣で授業を受けるということだ。
俺は遠くから見守っていたいタイプの人間なので今でさえ、現在進行形で心臓バクバクと大きく脈を立てていた。
その後、入学式のため体育館へ移動する時間となる。
新入生は担任の教師に引率され体育館へ移動をした。
前の人生と合わせれば2回目になる高校の入学式だからだろうか、案外あっさりと入学式は終わったように感じた。
入学式ではゲームの主要人物を数人見かけ、(やっぱりここはゲームの中の世界なんだな)と改めて実感をした。
なんていうか、こういうのって自分で言うと僻まれるらしいのだが
俺は外見だけはそれなりに整っているほうだと思う。
別にだからといって、自分の容姿を鼻にかけるようなことはするつもりもないが、
だからこそ俺の周りには割と人が自然と集まってくる。
しかし、そういう奴らは大抵俺の"見た目"しか見ていないので、チャラい奴だったり、
ノリが軽いお調子者だったり、所謂陽キャラとかいう奴が寄ってくる。
(だからかな…無性に俺がこいつのこと、気になるのって…)
正直、絃はそういう見た目だけで寄ってくる奴らとは全く違う。
むしろ俺の内面を見てくれたというか、俺の性格にも気にかけてくれてるような気がする。
だからこそ、俺は彼と一緒にいるのがなんとなく心地いいような気がした。
今すぐには無理でも、少しずつ彼と仲良くなれたらいいなと思うほどには。
そんなことを考えながら、教室に着く。
自分の席は、と黒板に貼られた座席順を見るとどうやら彼とは隣らしい。
まあ名前も近いし、当然といえば当然だろう。
「こういうのってさ、気になる子と席が隣同士だったらちょっとドキドキするよな」
自分の席の椅子に腰かけて、体を彼のほうに向けて、
片腕は頬杖をつきながら、くすくすと笑った。
しかしなんと言うか、やはりこのゲームの主要人物キャラクターはこの世界でも目立つ存在のようだ。
先ほどクラス分けの発表を確認している際にも、ちらっと"向坂洸"以外の主要人物を見かけたからこそ、そう思う。
主要人物である彼らは外見が整っている。だからこそ、周囲から一際目立つ存在なのだ。
この世界でもその認識は共通なようで、彼らを目に留めてしまう人が多いようだ。
昨日少し会話をしてみて向坂洸はいい奴だと思ったが、今はこうやって並んで歩いていると
やっぱり俺とは全く違う世界を生きているように思えた。
教室に辿り着き、前扉から2人で中へと入る。
こうした入学式の日なんかは、大抵席の近い奴と会話をするものだ。
…俺はそもそも緊張して誰とも話さずに初日を終えた記憶があるが。
ともかく、彼も席に着けば自然と近い人と会話を弾ませるだろう。そうして仲のいい奴を見つけてくれればいい。
そう思いながら黒板にはられた席順を見る。
「っと席は…………、……隣、だな」
名簿順が前後だったので正直席が近い気はしていた。
なので「佐倉絃」と「向坂洸」が隣の席だったとしても何ら不思議はない。
どうやら俺が掲げたばかりの目標を達成することは難しいようだ。
たしかに彼の印象としては、俺みたいに進んで人と関わるような性格ではないことは
なんとなく、というか、おおよそ分かってはいた。
というより、どことなく他人と関わることを避けているような素振りだとも思う。
気のせいであればいいのだが、むしろ他人、というより、俺と関わることを
極力避けようとしているような…
え、それはそれで素直に傷付くんだけど、俺はまた無意識に彼に何か嫌なことを
してしまっていたのだろうか?…うーん、心当たりはないけど。
自分と同じクラスだと分かったからか、はたまた、こうしてまた彼と関わりを持つことが
できたのが嬉しかったのか、俺の内心は浮き足立っていた。
まるで好きな人と一緒になれたみたいな…って、いやいや!!彼は別にそういうのじゃないし。
それに俺も彼も男だし同性だし、そもそも俺の恋愛対象はれっきとした女の子。
これはたぶんちょっとした相乗効果みたいな、俗にいう吊り橋効果、みたいな。
なんてひとりで脳内論争を繰り広げつつ、とりあえず彼と一緒に教室に向かおうと
声をかけようとしたら、なんと彼のほうからお誘いをしてくれた。
「…ふはっ、俺もちょうどお前と教室に行こうぜって言おうと思ってたとこ。んじゃ、行くか」
こみ上げる嬉しさを少し抑えつつ、彼と並んで教室へと向かった。
後ろから耳慣れた声が聞こえる。まさしく今頭の中で考えていた彼が側に立っていた。
「っお…はよ。いや俺も、あんまり…」
唐突な事に驚いたが、はは、と軽く笑顔を作りながら挨拶を交わした。
ゲームの登場キャラクターとは極力関わらないと目標を掲げている俺にとってはこの状況は
あまり望ましくない。
周りは人も多くガヤガヤと騒がしいし、この騒がしさに乗じて1人でサッと教室まで行こうかと
考えていたが、それは向坂洸に肩を抱かれた事によって阻止される。
「っ?!あ、あー…そ、そうだな。こちらこそ…よろしく…」
暗い性格な俺はこんな風にフランクな友達が居た経験がない。彼の行動に深い意味は無いんだと
理解はしているが、これは自分と同様、誰でもときめいてしまうだろう。
しかもそんな笑顔向けられたら誰だってイチコロだ。
俺がまだ正真正銘の高校1年生だったらこの時点でちゃんと向坂洸に惚れていたかもしれない。
前世では29歳まで生きており精神的にはもうおじさんと言われても良い年齢だからこそ
高校生の彼を恋愛対象としては見れないし、この状況も「推しがカッコいい」という感情までで抑えられるんだろう。
「…とりあえず、人…多いし教室まで行こうぜ」
同じクラスだと彼も認識した上でバラバラで行こうぜ!とは流石に言いにくい。
ひとまず教室までは一緒に向かおうと思い彼に声をかけた。
ベッドに潜り込んだはいいものの、それからなかなか寝付けなくて
結局眠りについたのは、夜中になる頃だった。
翌朝、遮光カーテンの隙間から差し込む日差しと、念のためとかけておいたアラームの音で
俺は目を覚ました。
ゆっくりと緩慢な動きで体を起こして、まずは体を軽く伸ばす。
少し寝不足気味な頭で、今日の予定を見直してから、朝のルーティンに入った。
朝ごはんを流し込むようにしてから、身支度を済ませて制服に袖を通す。
入学初日から遅刻なんてことは勘弁したいため、少し早めに余裕を持って寮を出た。
新しい友達ができるかな、とか、勉強大丈夫かな、とか浮き足立つ生徒たちに紛れて俺も登校。
まずは下駄箱前に張り出されたクラス分けの表を確認しようと、其方に向かうと
見慣れたばかりの後ろ姿が見えた。
「よう。おはよう、絃。ふわ~…ぁ。俺ちょっと眠れなくてさ…お前はちゃんと寝れた?」
そういえばクラス分けは、と彼の隣に並んで表に目を向けて自分の名前を探す。
すると、なんという偶然なのか、自分の名前のすぐ後ろに彼の名前があるじゃないか。
俺はつい嬉しくなって、思わず彼の肩を抱く。
「おー、おんなじクラスじゃん。よろしくなー」
そう言って、にぱっと人好きのする笑みを浮かべた。
サラリーマンだった俺は死んで、これからは佐倉絃として生きていかなければいけないと。
そしてゲームの登場人物とは極力関わらず、完璧なモブとして過ごしていこうと俺は決心をしていた。
俺みたいにゲーム内容を知っているやつが彼らに介入して主人公ポジションを奪う、というのは俺自身が許せないし、出来れば向坂洸と主人公が無事に結ばれてくれるのが個人的には1番嬉しいからだ。
向坂洸とは友人…のような関係にはなったが、もしこの先喋ることがあっても適度な距離感を保てば問題ないだろう。
ハンガーにかけられた新しい制服に袖を通し入学式へと向けて支度を始める。
まだ沢山不安は多いものの、前世では29歳だった俺がまた今日から3年間勉強の日々を送ることが実は今の所1番憂鬱ではあった。
寮から多くの人が登校する人ごみに俺も紛れる。まずは下駄箱前に張り出されたクラス分けを確認して1度教室に向かうらしい。多くの人で溢れる下駄箱前で俺も自分の名前がどこにあるか必死に探す。
(A組…ない。B……もない。C組…、さ…さ…佐倉あった……向坂洸?!)
1年C組に自分の名前があることを確認したが、俺のすぐ真上に「向坂洸」と名前が書かれていたのだ。
これからゲームの登場人物とは極力関わらないつもりだったが、既に関わりのある向坂洸が同じクラスであることに焦りを感じる。
(……い、や。いやいや…同じクラスだからって何も問題ないだろ。
結局は俺みたいな暗い奴なんかじゃなくてもっと明るいクラスメイトと絡むに違いないし俺はひっそりと目ただず生きるんだ…)
そう自分には言い聞かせるものの、心臓はバクバクと大きく跳ねていた。
合わせて、なんだか照れくさくなって、変に意識してしまった。
こういうのって一度意識してしまうと、どうにも其方にしか気が向いてしまいがちだ。
(相手は男、相手は男…)
まるで自分に言い聞かせるように、何度も心の中でそんなことを唱えては
この妙に落ち着きのない感情を振り切るように、必死に見ないフリをした。
俺がずっとそこに居るからか、それとも彼なりに気を遣ってくれたのか、
彼は一歩踏み出して、俺に食堂に行くように促した。
彼に大事がなかったことからの安堵と、自分自身にあまりお咎めがなかったことへの
安堵の両方なのか、俺のお腹は尚も空腹を訴える。
早いところ、この腹の虫をおさめるためにも、俺は食堂に向かうことにした。
「じゃあな。明日の入学式、寝坊すんなよ。…んじゃ、ゆっくり休んでくれ。おやすみ」
ひらひら、と手を振ってから俺は彼と別れて食堂へと向かったのだった。
彼は俺のことも心配してくれていたから、余計に安心したんだろう。
俺がもし彼の立場だったら相手が大怪我をしないか不安に思っただろうから、その感情はよく理解できる。
「食堂、閉まる前に行ってこいよ。
俺は…部屋戻って休むから…………色々、ありがとな。…じゃあ」
向坂洸が本当にいい奴なんだと対面で実感したためか、彼の和やかな雰囲気につられて俺も軽く笑みを浮かべた。
俺が動けば彼も食堂へ気軽に向かえるだろうと思い一歩を踏み出す。
だが数歩歩んだ後、さっと振り返り改めて彼に感謝を告げ今度こそ自室へと向かった。
結局ゲームに出てきた"詫び"の件も無く、これで向坂洸と俺が今後そうそう関わる機会は無いだろう。
そこにホッと安堵はしているはずなのに、何故かすっきりとしない心持ちだった。
(……何がモヤモヤすんだ?…ああ、主人公との出会いを潰しちゃったから…か?)
本来の主人公との出会いを潰したことに罪悪感は確かに残っていたが、それだけでは説明しきれないような複雑な感情。多分、俺は向坂洸ともっと話をしてみたかったんだと思う。
(……図々しいか、流石に)
ゲームにも登場しないサブキャラクター。俺は彼のような華のある人物と関われる立場じゃないだろう。
自室に戻った俺はベッドに身を投げ、ゆっくりと時間をかけてこの状況に整理をつける。
明日の入学式は特に何事もなく、平和に1日が終わるようにと祈り眠りについた。
そう言って、彼はおそらく無意識だったのだろうが笑みを溢した。
たぶん、今日彼に出会って、初めて彼の笑顔というものを見たような気がする。
だって今まで見てきた顔といえば、赤くなったり青くなったり、
緊張しているような強張った表情ばかりだったから。
なんだろう、そう思うと彼のことをもっと笑顔にしたいと思った。
そしてそれは叶うなら、誰でもない自分が。
どうしてこんな思いを抱いたのか、今の俺には分かるはずもなかった。
当然だ、出会ったばかりの人間の笑顔に心を奪われたような気がしただなんて。
そんな、運命みたいな、あるはずもないことを思ってしまったから。
彼は人と関わることは苦手ではあるけれど、嫌いじゃないと言った。
それは単なる俺の質問に対する体裁のようなものかもしれないけれど、
もし、もしそうならば、これからだって俺と接する機会だってあるのかな。
なんていうか、俺は純粋に彼のことを放っておけなくなってしまったのだ。
別に世話がかかるからとか、危なっかしくて目が離せないとかじゃなくて、
ただ、彼のことを目で追っていたい、彼のことをもっと知りたいと思ったから。
どうしよう、それとなく伝えるべきかと悩んでいたら、
彼からそういえば俺は夕飯を食べに行くところだったんだろうと指摘された。
「…あー、うん。はは、なんか…安心したら腹減ったな」
そう言って笑う俺のお腹が、空腹を訴えるようにきゅるる、と小さく音を鳴らした。
「苦手だけど…別に嫌いじゃないって感じ、かな。
……うん、俺も…そう思う」
佐倉絃は人と関わる事が好きだと答えるだろうが、俺は苦手なタイプの人間。だが人間1人では生きていけないと思うし、気の合う人間とは一緒に居て心地良いものだ。ただ彼の言う通りそういった人間と出会って関係を築くことは案外難しいとも思う。
「…そう、なんだ」
深く考えず質問返しをしてしまった訳だが、彼は自分の名前の由来を俺に教えてくれる。
これはゲームでは出てきたことのない、初めて耳にする情報だった。
「…いい名前だな」
無意識に自然と笑みが溢れる。向坂洸は丁寧で真面目で、主人公にも他のキャラクターにも心が広くとても優しい人物だ。そんなゲームでの彼を知っているからか、心から彼に似合っている名前だと思った。
そんな会話をしている最中、保健室の扉が開く音がする。目を向けるとそこには保険医の姿があった。
頭に氷袋を当てている俺を見て慌てて駆け寄ってきた保健医に俺と洸で経緯を説明する。
ぶつけた頭を見てもらったところ、たんこぶにはなっているがそれ以外は特に問題はないらしい。
もし痛みが治らなければすぐに保険医に伝えるようにとのことだった。
「…ありがとうございました、失礼します…
…そうえば、夕飯食べに行く途中だったんじゃ…まだ時間あるし食堂、行ってきたら?
俺はちょっと部屋で休みたいから戻る、けど…」
保健室から2人で出た後、思い出したように彼に夕飯のことを伝える。
佐倉洸もだが、お互い食堂へ向かう途中だったのだ。俺としては食欲が湧かず自室に戻り1人でこの状況の整理をしたいと考えていた。
しかしもう彼に問いかけてしまったことには変わりないし、後には引けない。
とりあえず彼の返答を待ってみて、反応次第では謝ろう。
そう思っていたのだが。
(…人との繋がりを、大事に出来るように)
彼の名前である、"絃"にはそんな意味が込められているらしい。
ずいぶんと素敵な親御さんだと思った。
人は生きていれば、必ずどこかで人と出会って、そして繋がりが出来るもの。
その一期一会の出会いを大切に出来るかどうかで、
人との接し方だったり、いわば知り合いだったり友達だったりができていくわけだ。
人との繋がりは切っても切れない、確かなもの。
なるほど、彼の名前には、そんな大切な意味が込められていて、
そして彼の両親はそんな風に生きてくれたら、と願ったのだろう。
「…なんか、いいな。そういうの…お前はさ、人と接することは、好き?
誰かと出会って、その人のことを知って、友達になったり、恋人になったり、家族になったり。
繋がりってさ、当たり前のように見えるけど案外難しいもんだよな」
そう言って、にへら、と俺は少しはにかむように笑みを浮かべた。
照れ臭いなって思ったけど、これが今の俺の本心だから、ちゃんと伝えておこうと思った。
「俺の名前、か…そうだな…洸ってさ、水を連想させる漢字らしくてさ。
水が沸き立つさま、とか、水が広く深いさま、とか。だから…なんていうか。
心の広くて優しいやつになってくれ、って意味があるらしくてさ」
ぽりぽり、と指で自分の頬を軽く掻きながら、少し眉を下げて困ったように笑った。
彼は特に深い意味は無く質問をしたのだろう。
問われた後、俺の中にある佐倉絃の記憶がぼんやりと浮かんでくる。
まだ小学生の頃だ。"自分の名前の由来を調べよう"という授業があり母と父に意味を聞いたことがあった。
色々言われたような気もするが流石に記憶が朧げで。でもこれだけはしっかりと覚えていた。
「……人との繋がりを大事に出来るように」
"いと"は人との繋がりという意味もあって、これから出会う人々との繋がりを大事に出来る真っ直ぐな
人間になって欲しいという願いからこの名前は付けられた。
明るく活発で友人も多い"佐倉絃"は、両親が願っていたように人との繋がりを大事にしている人間だと思う。
「…って、意味。……絃って珍しい名前、だよな」
願いを込められたからそう生きなければならない。…とは思わないが
記憶に在る優しい両親の願いに応えてあげられたら、とは思っていた。
「……こ、洸は…なんか意味とかあったり、すんの?」
少しの沈黙にも耐えられなかった俺は言葉につまずきながらも彼に同様の問いかけをしてみた。
提案ではあったものの、彼は俺のこの提案を飲んでくれた。
どうやらこの佐倉絃という人物は押しに弱いらしくて、おそらくだが
人からの頼みごとを断ることが苦手なんだろうなと思った。
(…まあそこにつけこんだようなものだよな、俺だって。でも―)
なんとなく、彼には俺のことをただの同学年の生徒、としてではなくて
向坂洸として、認識してほしかった。
正直なところ、どうしてこんな風に思うのかは俺にもまだ分からない。
けれど悪い気持ちはしないし、どうせなら友達は作っておいて損はないだろう。
とはいっても、彼のほうはまだ遠慮というか緊張しているようだが。
「改めてよろしくな…絃。にしても、佐倉はそんなに珍しい名字でもないけど
絃って名前はあんまり聞かないよな。なんか特別な意味が込められてたりすんの?」
親は子に名前をつけるときに、こうなってほしい、こうでありたい、などといった
願いや祈りを込めることがある、らしい。
ふとそんなことが頭の中に浮かんだので、なら彼も何か意味があるのかなと思って
少しだけ踏み込んだ問いかけをしてしまった。
名字呼びは誰に対しても通常運転だが、同い年である向坂洸に敬語を使っているのはズバリ緊張からであった。
いつも画面上で見ていた好きなキャラクターとごく自然に、気軽に接するだなんて小心者の俺には難しい話だった。
だが付け加えられた"駄目か?"という言葉。
俺はこういった類の言葉には弱い人間で、所謂『押しに弱い・頼み事を断るのが苦手』なタイプだ。
駄目かと聞かれるとこの頼みを断る都合のいい理由など思い付かない。
(駄目な理由もないし、呼び方と話し方がタメ口に変わるだけだし問題ない…よな?)
「いやッ全然!…じゃあ、洸…って呼ぶわ。
俺も佐倉とか、絃…で大丈夫」
首を小さく横に振った後、何だか名前呼びが恥ずかしくて少し照れくさそうに彼の名前を呼んだ。
それなら俺も同じような呼び方で、と思い自分の名前を口にする。
つい彼の要望を聞き入れてしまったが、推しとタメ口で話せて名前も呼べるだなんて前世、ゲームをしていた俺からすれば歓喜でしかない。
無論今の状況では緊張の所為で喜ぶにも喜べない訳だが。
それもそのはずだ。何かしたのかなんてまるで問い詰めるような真似をしてまで
俺はなんとなく彼との関わりをここで途絶えさせたくはなかった。
(何故?それは俺にも分からない…けれど、どうしてこんなに胸の辺りがざわつくんだろう?)
彼とは今回が初対面であり、何かあったとすれば先ほどのことくらいだ。
だのに、このような問いかけをする俺に明らかに困惑している様子の彼は
何かを考え込んでから、ハッとしたような表情を浮かべた。
俺が何かしたわけじゃない。彼はそう言った。
でもさっきのことは、確実に俺が何かしたっていうか、まあ言ってしまえば事故だけど。
狙ってしたことじゃないし、故意のような感情があったわけでもない。本当に偶然だ。
たまたま俺の足元がふらついて、階段から落ちて、そしてたまたまそこに彼がいた。
それだけ、ただそれだけ。なのに…
「…洸でいい。呼び方、名字って何か慣れないし。お前とはタメだし。…駄目か?」
いきなり名前呼びは馴れ馴れしいかな、とは思いつつも
なぜだか彼には自分のことを名字ではなくて名前で呼んでほしかった。
「?何かって…」
自己紹介も一旦終えこれで彼との話は終わりかと思った手前、突然『俺、お前に何かした?』と問いかけられ俺の頭の中に疑問符が浮かぶ。
佐倉絃の記憶を俺は引き継いでいるからこそ、向坂洸との先程の出会い…階段での件は確実に初対面だと言い切れる。
彼が俺に何かしたというのならば階段で下敷きになった件くらい。彼だってそれは分かっていると知っているからこそのような問いかけた投げられた事に一瞬困惑したものの、俺は数秒後に直ぐに気がつくことになる。
(待てよ、俺の態度のせいか…?!)
佐倉絃は温厚で友人も多い人あたりの良い性格だったが、"俺"は暗くて友達も少ない。交流自体もあまり得意では無い人間だ。
俺の根暗な性格に加え怒濤の困惑的な展開により冷静になれていない俺の態度が彼を困らせていたことをようやく自覚し、ハッと気がついた表情を浮かべた後俺は慌てた様子で口を開く。
「っいや…!!何もしてない!してないっす!!
……俺、ちょっと…他の事、で色々悩んでて。向坂…くんがとか全然そういう訳では無いから…」
自分でも整理出来ていないこの状況を誰かに説明出来る訳もなく、ざっくりとではあるが事実を伝えるため他に悩みごとがあったと口にした。
若干ひきつる。ううん、崩してはいけない、崩してはいけないぞ、俺!!
なんとか右手はとってもらえたものの、それも俺が差し出したから
とりあえず握っておくか、みたいな、仕方ないな感がとても拭えない。
(うーん、やっぱり俺嫌われてるのかな…おかしいな、何かした覚えないんだけどな…)
いやまあ、何かしたかしてないかで言えばしたのだろうけど、
どことなく彼からは距離を感じる。
距離感バグってる、って言われるみたいに仲良くなれたらいいなとまでは言わないけど
たぶん最低限の付き合いくらいはあるだろうし、できれば仲良くしておきたい。
俺はどうしたものかと頭を少し悩ませる。
このまま仮に「お詫びさせてくれ」なんて言っても彼のこたえは絶対ノーだ。
少し時間を置く?でもそれこそ本当に関わり自体なくなりそうだし…
…ていうか、そもそもの話だ。
なぜ俺はここまでしてこの目の前の彼にこだわるのだろう?
これが異性とかであれば、介抱してもらった恩だの何だのと何かが始まるかもしれない。
けれど相手はれっきとした男だ、間違いなく俺と同性である。
そして余談だが、俺の恋愛対象は"女性"である。
「うぅーん……なぁ、この際だからもう聞いちゃうけど。俺、お前に何かした?」
俺は彼と向き直り、そして彼の目を見つめてそう問いかけた。
向坂洸から謝罪と詫びをさせて欲しいと言われる。優しい主人公は一度は断りながらもその後提案を受け入れ
そこから2人の接触が増える…という流れだった。
だがしかし俺はまず気絶をしておらず、今"詫び"を言われる前に問題ないと相手にも伝えることが出来た。
これでゲーム展開とは大きく流れも変わるはず。…だが主人公と向坂洸の接触の機会を奪ってしまった俺は罪悪感でいっぱいだった。この先2人はどうなるのだろうか。俺の推しキャラ2人が出会うことはもう無いのだろうか。そう考えていた最中、彼が自分に対して名前を名乗る。
…ゲームと全く同じセリフではないが、ゲーム中でも主人公に名前を名乗り詫びをすると言っていた場面がある。今差し出されている手を握ってしまったらそれは何か始まってしまうのではないだろうかと危惧する。
でも彼は善意でこの行動をしてくれているというのに、この手を取らず「いやそういうの別に良いんで…」とか俺は言うのか?言えるのか?!
だがそうすれば俺は向坂洸からの印象は超最悪になり確実に今後接触する機会はなくなるだろう。
それなら俺は────
「…佐倉、絃です。色々あざす…」
いやそんな相手の善意を無碍に出来る訳が無いだろ!
特に推しの善意だ。それにこの手を握らなかったら俺は多分一生後悔する。
心の中は半泣き状態。俺は肝を冷やしながらも笑顔を作り、彼の右手を軽く握った。
この状況を受け入れていないような…むしろ、この状況を納得していないように見える。
(…もしかして、俺、こいつに嫌われてる…?)
そりゃそうだよな、初対面だし顔も合わせたこともなければ話したこともないやつに
突然抱えられて、保健室まで運ばれて、挙げ句あれよこれよと世話を焼かれても
なんだこいつってなるよな、と思いつつ、ちらっ…と彼を見る。
自分は割かし他人の顔色を窺って相手の心境なんかを汲むのが得意なほうだと
思っていたが、今回ばかりはそうでもなかったらしい。
良く思われていないのなら、あまりつつき回すのも良くないよな、と思い直して、
うん、とひとつ頷くと彼のほうに向き直る。
「俺、向坂洸っていうんだけど。お前、名前は?見た感じ多分俺とタメだよな?
だったら多分これから顔も合わす機会あると思うし。あ、もし今回のことで何かあったら
言ってくれ。お詫びとか、俺にできることならするし」
少々矢継ぎ早にはなってしまったが、とりあえず名前だけは名乗っておいた。
これで、名前も知らないやつから変な気を回された、なんてことにはならないはずだ。
よろしく、という意味を込めて、すっ…と右手を差し出して握手を求めてみる。
もちろん、警戒というか緊張されないように、俺は人好きのする笑みを浮かべていた。
この状況を受け入れていないような…むしろ、この状況を納得していないように見える。
(…もしかして、俺、こいつに嫌われてる…?)
そりゃそうだよな、初対面だし顔も合わせたこともなければ話したこともないやつに
突然抱えられて、保健室まで運ばれて、挙げ句あらよこれよと世話を焼かれても
なんだこいつってなるよな、と思いつつ、ちらっ…と彼を見る。
自分は割かし他人の顔色を窺って相手の心境なんかを汲むのが得意なほうだと
思っていたが、今回ばかりはそうでもなかったらしい。
良く思われていないのなら、あまりつつき回すのも良くないよな、と思い直して、
うん、とひとつ頷くと彼のほうに向き直る。
「俺、向坂洸っていうんだけど。お前、名前は?見た感じ多分俺とタメだよな?
だったら多分これから顔も合わす機会あると思うし。あ、もし今回のことで何かあったら
言ってくれ。お詫びとか、俺にできることならするし」
少々矢継ぎ早にはなってしまったが、とりあえず名前だけは名乗っておいた。
これで、名前も知らないやつから変な気を回された、なんてことにはならないはずだ。
よろしく、という意味を込めて、すっ…と右手を差し出して握手を求めてみる。
もちろん、警戒というか緊張されないように、俺は人好きのする笑みを浮かべていた。
俺は保健室まで運ばれ今はベッドに下ろしてもらっている状態だ。
実際のゲーム中の展開とは違い俺が気絶している訳では無いが、ほぼゲーム通りの展開だと言える。
「っあ…ざす…頭ちょっとぶつけただけで後は全然…」
未だ状況を整理しきれず混乱していた中、彼が氷袋を包んだハンカチを患部に当てたことで
意識がハッと戻される。
少し言葉が詰まるが礼を伝えた後、自分の体に視線をズラし特に怪我が無いことを確認しつつ
問題無いことを伝える。
その直ぐ後、彼に氷袋を持たせたままにするのも申し訳なく思い「自分で持つんで…」と
彼の手から氷袋を受け取り、自身で患部を冷やした。
「…あの、お…・俺ここの人来るの待ってるんで…多分夜飯、食べに行くところだった…すよね。
全然行っていいただいて大丈夫なんで…運んでもらってすみません…」
相手の顔を見て話そうと視線を向けるが美麗な容姿にまた言葉が詰まりほんの少し沈黙が生まれた。
だが直ぐにまた喋り出し自分が平気な事を伝えるがやはり伏目がちになってしまう。
こんなに綺麗な人と会話することなんて人生で初めてだよ!緊張だってするに決まってるだろ!と
心の内は大慌て状態である。
とは思いながらも、やはり先ほど見た感じ頭を打ったように思えるし
念には念を、と保健室で診てもらったほうがいいのではないかというのが俺の判断だった。
とはいえ、無理強いをするのもなんだか可哀想になってきた。
彼はというと、わたわたと手足をばたつかせながら、必死に俺に何かを伝えようとしている。
ていうか、そんなに暴れたら落としそうで困るんだけど。
できれば大人しく運ばれててほしい、目の前の彼は一応怪我人なわけだし。
「ちょ…っそんなに暴れたら落としちゃうから大人しくしててよ。もうすぐ着くし」
じたじたする彼をなんとか宥めつつ、俺は目的地である保健室へと急ぐ。
保健室の扉をガラガラと開けて、声をかけるが中から反応はない。
もしかして、保険医は離席しているのだろうか?困ったな…
とりあえず彼を、保健室のよくあるちょっと固いベッドにおろすと、
保健室の中をぐるりと見て回る。
「とりあえず頭冷やそうか。他に怪我してるところとかないか?」
正直、勝手に物品を拝借するのは気が引けるがやむを得ない。
冷やすものを、と氷をいくつか袋にいれてそれを持参していたハンカチにくるむ。
傷に響かないように気を付けながら、それを彼の打ち付けた患部に優しく当てた。
だがそれは避けたい。何故なら俺は「向坂洸×七海優」の2人が推しであるからだ。
「向坂洸」も魅力的なキャラクターであると思っているが自分がそんな彼と恋をするだなんて非現実的で想像がつかない。
でも、現状実際のゲーム内容とは違う点がある。
下敷きにされた俺が気を失っていない事だ。本来は気を失った七海優を向坂洸が保健室まで運ぶ…という展開。
俺は気を失っていない、頭は…若干痛いが保健室に行く程度でもない。
実際のゲーム展開と少しでも内容が違うのであれば特に恋に発展することも無いのではないか。
必死に今の状況を整理しようと頭の中で考えていたところ、向坂洸が声を掛け俺に手を伸ばす。
優しい人物である彼がこういった行動を取るのも理解は出来るが、この手を取ってしまったらそれこそ何か始まってしまうのでは…と手を取れずにいた。
俺が反応せずにいた所為か、次の瞬間ふわりと身体を持ち上げられる。
「…?…ん?!」
一瞬全く理解が追い付かなかったが直ぐにこの状況を理解した。
おそらく保健室まで運んでくれているんだろう。好きなキャラクターにこんな事をしてもらうだなんて勿論至福なのだがこのままゲーム通り進んでしまうと俺が困る。
「っちょま…待て!!本当に!大丈夫っすマジで一旦下ろして…!!」
もうすぐ保健室へ辿り着く、という所で俺は彼に焦った様子で彼にそう伝えた。
のだが、先ほどから目の前の彼がやけに忙しない。
別に急いているとかそういうわけではなくて、なんていうか、表情が忙しない。
赤くなったり青くなったり、そんな彼のことがなんというか心配になってくる。
もしかして、さっき彼のことを下敷きにしたときに打ちどころでも悪かったのか?
たぶんだけど彼は頭を打ち付けていたような気がする。あまりよく確認できなかったけど。
ということは、その衝撃で何らかの影響が出たのだろうか。
俺は胸を撫で下ろしたのもつかの間、そろり…と目の前の彼に手を伸ばしてみる。
「あの、さ…やっぱり保健室とか行ったほうがいいんじゃない?顔色も悪いし…」
もちろんそれは紛れもなく俺のせいなので、彼を保健室に連れていくくらいはするつもりだ。
そこまで甲斐性なしじゃない、はず。ていうか、そうでもしないと良心が痛む。
ここは人通りも多い場所だったようで、だんだん人が集まってくる。
できれば、こんな初っぱなから注目の的にはなりたくないし、できれば穏便に事を済ませたい。
なので、彼には少し申し訳ないが強行手段に出ることにした。
「……ちょっと、ごめんね」
そう一言断りを入れてから、ひょいっと彼の体を横抱きにした。
同じ男なのに、やけに軽いなと思ったのだが、
そういえばそこまでタッパがあったようにも見えなかった。
ますます心配になってきて、人混みをかき分けるようにして俺は足早に
彼を連れて保健室へと向かった。
頭の整理が全くつかなかった。"俺"は来年三十路の普通のサラリーマンで、確か今日も会社から帰っている途中で…そう、その途中で確かトラックに轢かれそうになって──────
ぼんやりとではあるが、俺はトラックに轢かれて死んでしまったんだと思った。…それで佐倉絃として生まれ変わった?漫画やアニメでよくある"転生"だとでも言うのだろうか。俺がゲームの中へ転生したって?無い無い!…と思考を放棄したくなるがそう出来ない程に"佐倉絃"の記憶が生々しい。サラリーマンをしていた"俺"も、"佐倉絃"も俺自身であると思える。何よりあの「向坂洸」が目の前に存在しているのだ。
顔ちっさ、顔面かっこよ…なんてIQの低い思考に段々と脳内がとらわれている時、「向坂洸」が俺に声をかけてきた。
「!!だっ…だい、じょうぶ…です…、……ん?」
驚き肩をビクッと揺らす。綺麗な顔をした彼にじっと見られるが耐性なんてあるはずがなく、ゆっくりと視線を横へズラしつつ問題ないことを伝えたが、そこで思い出す。
ゲーム内のプロローグで似たような…いや、全く同じイベントがあったことを。
主人公「七海優」が階段から落ちた「向坂洸」に下敷きにされる形で一緒に落下。気を失った七海優を運ぶ向坂洸…これが一番最初の2人の出会いなのだ。だが今下敷きにされたのは俺。でも俺は「七海優」じゃない。
───ある嫌な予感がした俺は、バッと周りを見渡す。
多くの人が1Fの食堂へ向かう途中だったため人通りが多く、落下した俺達を心配して集まった集団の中に"七海優"の姿があったのだ。
「…?…?!」
なんとなくだが理解をした。否してしまった。
本来2人が出会うはずだったこの大事なイベント、俺が主人公の立場とすり替わってしまていることを。
多分だがとんでもない事をしでかしたんだと思った。いや、俺もさっきまでは前世とか知らずにただ夕食を食べに行っていただけなんだが…いや、それでも…
いまだに自分のことを整理しきれていないこと、中途半端に理解をしてしまい不安が募っていることから俺はただ顔を青くしていた。
なんて、頭ではどうでもいいことを考えていた俺は、当然そのまま階段から
ギャグ漫画よろしくなほど盛大に落下した。
先ほど一瞬見えた人影…願わくば気のせいであってほしいと思っていたが
どうやらそういうわけにもいかなかったらしい。
まずい、見事に人を巻き込んでしまったみたいだ。
しかも運が悪いことに俺がその人影を下敷きにするという一番よくない形で、だ。
すぐに退けばよかったのだが、突然のことで頭が追い付かなかったのと
大した怪我はなかったけれど、下手に動いて相手のほうにもし何かあったらと思うと
どうしてか動けなかった。
とりあえず下敷きにしてしまった人影のほうに目を向けて、声をかけようとした俺は
どうやら相手も此方を見ていたようで目と目が合ってしまった。
「っあ~…ごめん、完全に俺の不注意だった、怪我とかない?」
ばっちり目が合ってしまったので、なんとなく逸らすわけにもいかなくて、
じーっとその相手のことを見つめながら、まずは安否を確認することにしたのだった。
数日前から始まった寮生活。部屋の整理や明日から始まる高校生活の準備でまだ友人は作れていないが新しい環境に俺はワクワクが止まらなかった。
明日からは沢山友達も作って勉強も頑張って、高校生活を思う存分に満喫してやろうと俺は意気込んでいた。
「今日の夕飯のメニューは何かな〜…ッわ?!」
ニマニマと口元を緩めながら今日の食堂で出る夕飯について想像を膨らませていた瞬間、後ろから重みを感じる。
誰かが自分より上の段から転倒したんだと頭では理解出来たのだが、あまりに咄嗟のことで受け身を取ることも出来ず、俺は後ろから落ちてきた奴の下敷きになる形でそのまま階段の踊り場まで転倒した。
踊り場に落ちたと同時にゴンッと鈍い音を立て頭に痛みが走る。
脈をうつようなズキズキする痛みと脳みそがグワングワンと揺れている感覚の中、俺は長い夢を見た。
陰気そうな男の話だった。友人はほとんど居らず、暗く大人しい男だがとある趣味があった。
腐男子で「BLゲーム」にのめり込んでいたのだ。男はゲーム攻略をすることが趣味で社会人になってからも帰宅後が必ずプレイするほど。その中でも一番お気に入りだった作品は「らぶスタ」というBLゲームの中でもかなり人気のあった有名ゲームだ。王道の学園ものでありながらもストーリー展開がそれはもう最高なのだ。
特に〝俺〟の推しは主人公である七海優とメイン攻略キャラの向坂洸。この2人のルートがそれはもう最高で…
「……〝俺〟?…ッてぇ〜…」
痛みが落ち着いてきてゆっくりと目を開く。ずいぶん長い夢を見ていたように感じたが、時間にしてはほんの一瞬だったらしい。
頭をぶつけた箇所を手で摩りながらゆっくりと上半身を起こし、俺を下敷きにして落ちてきた奴の顔を見てやろうと相手の顔に視線を移動させた。
「…は?」
思わず小さく声が漏れる。目の前にいたのは先ほど夢で見た…いや、夢ではない。
〝俺〟がプレイしていたBLゲーム。そのゲームの攻略キャラクターである「向坂洸」がそこに居たのだ。
それからはずっと父親と暮らしていた。
不器用ながらも、男手ひとつで俺のことを育ててくれた父親には感謝している。
最初はすれ違うことも多くて、なかなか踏み出せずにいたが
今はなんだかんだ上手くやれている、と思う。家族関係は良好というやつだ。
そんな俺は、今とある郊外にある緑山高等学校というところに入学した。
ここは全寮制の学校、敷地内も整備されているし、必要なものは全て完備されている。
そんな緑山高校の入学式も明日に迫ろうとしている中、
自分の部屋の荷ほどきなども粗方終えて一段落ついた俺は、
何となく学校内を見て回っていた。
「…はー、にしても広いなここ…慣れるまで迷いそう…」
ここ数日、緊張やら何やらで気を張りつめていた俺はろくに寝れてなかった。
そんな風に気が緩んだのがいけなかったみたいだ。
ぐらっと頭が揺れて、足元がぶれる。
あ、やばい。…落ちる。
とっさに踏ん張ろうとしたけど、重力に抗えずに俺はそのまま階段から落ちた。
…一瞬、人影が見えたような気がしたけど、それは気のせいだと思いたい。