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読書生活報告トピ 19冊め

投稿者:ヘルミーナ

読んだ本や著者、かんたんな感想や評価を書き込むトピです。
基本的には各自ブログで書き込むのですが、
ブログでは恥ずかしい方は感想もこちらへどうぞ。

本に関係する雑談などもこちらで好いかと思います。
思いっきり話題がそれまくりでなければふつうの雑談も好いかと。

(前トピが埋まったら使ってくださいね)

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2024/04/27 16:24
 岩波新書の『平将門の乱』(福田豊彦著)を読み終えました。
 古書店にもほとんど扱いがないので、しょうがなく図書館で借りたのですが、この本はやはり手許においておきたい一冊。
 
 題名が『平将門の乱』なので、将門公にスポットを当てるというよりも、もっとバックグラウンドを解説、あるいはフィールドワークで証明していく本です。
 
 というのも本書の当時の技術で、将門公が馬を使ったり、その馬具を製鉄して作る、そういう場所への取材とその結果までが書かれているのです。
 
 娶る、という言葉はもともと、辻で女性をかどわかす「女捕《めとり》」が由来とか、意外と知らなかった、将門公の時代よりもずっとあとに平清盛が登場するとか、ほんとトリヴィアルなネタが豊富だし、なにより平易な文章で書かれているのでなにかの合間に読む本としても優れております。
 
 最後のほうで、伝説となる将門公像が書かれているのですが、矢が射られた箇所が「こめかみ」説と「片目(どちらかは本書では不明)」説があり、神田明神では片目だとか……何度も参拝しているのに気づかなかった……orz
 
 将門公を祀っておられる神田明神に参拝したら、成田不動は行っちゃだめ(将門公調伏のためなので)というのは知っておりましたが、足利|鶏足《けいそく》寺も同じ理由でだめなんですね。
 ちなみに神田明神の中の人は、たしか「成田へ行っても大丈夫」みたいな声明を出しているようですけどね。
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2024/04/25 20:12
 『聖なるもの』(ルードルフ・オットー著 岩波文庫)を読み終えました。
 
 神性、宗教性は、「理性」、「精神」など合理的な「概念」でまずは捉えられるものです……でないと語ることができない。なにかを「聖なる」と認知するのは、宗教の不合理な領域というか側面だけです。
 
 でも、「聖なる」は語り得ぬものです。たとえば「善い」と同義のように理解されることがあるも、それは不正確すぎます。
 「善い」という言葉のにプラスしてなにか「余剰部分」。セム語、ラテン語、ギリシャ語で「聖なる」はそういう余剰部分を含むそう。
 
 そして、そういう聖なるものと言葉の余剰部分の流出を、著者オットーはヌミノーゼと呼ぶのです。ヌミノーゼとは神霊的、戦慄すべき神秘、そういった直感ですね。
 
 客観的に与えられたヌミノーゼが引き起こす感情のあとに、被造物者感情がはじめて引き起こされます、とも。あ、この本における宗教的直感などはキリスト教、しかもプロテスタントのことです。だからピンとこない方もいるかも……。
 
 いろいろな定義がありますが、この神論のまとめ方はやられました。「神とは、神自身において完結した一つの事柄である」(本書93ページ)。
 
 しかし、もともとこういうのに興味があるとはいえ、小説のネタとして読み漁るのはいかがなものかと。しかも、ミルチャ・エリアーデの『聖と俗』を読むための準備として。
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2024/04/25 19:53
ジャック&リース 『VIKTOR』 野坂 悦子 (訳) 求龍堂 2023年


午後に図書館へ行って、
予約していた本を借りてきました。
そのうちの一冊です。

絵本ですけど大人の読者を念頭に置いたつくりですし、
わたしも大人に読んでもらいたく思うので。
この場で紹介することにしますね。


https://00m.in/UmmeV


狩人のヴィクトールは、
とうとうチーターを仕留めました。
床に毛皮を敷いてご満悦。
ところが殺されたチーターの仲間たちが気になりはじめ……

ヴィクトールさん、
毛皮をかぶってチーターとして生きることにw

皮肉な末路はたやすく予想のつくものですけど、
結末にひと捻りあって考えさせられます。

わたしたち人間の業っていうか、
弱い相手に対したときの卑しさっていうか。
本質的なものを捉えてると思うんです。

本文の漢字にふりがながないことからも、
大人を意識して作られた本であることが窺えます。

小さい子が手に取っても楽しめるでしょうけど、
わたしは世のクズ大人どもに、
ちったあ、これ読んで反省しやがれと言いたいわ。

反省すべき手合いに、
著者の哀しみと皮肉は届かないのだろうけど!
人間なんて、うんこ(以下略)(U`ェ´)ピャレピャレー
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2024/04/24 22:38
ロアルド・ダール 『飛行士たちの話(新訳版)』  田口 俊樹 (訳)  早川書房 
 2016年(電子版)


本邦では『チョコレート工場の秘密』で知られる、
ロアルド・ダールの第一短編集です。

標題からも察しがつくとおり、
自らの従軍経験を下敷きにした本で、
大人向けに書かれています。

ですので超自然的なできごとは起こりませんけど、
禁欲的で皮肉な筆致は変わりません。
あくまで淡々と、
第二次大戦におけるパイロットたちの日常が綴られます。

ただ、その根底には深い諦観と、
暴力への強い憎しみと憤りがあると感じられました。

村上春樹の『遠い太鼓』にはギリシャ人たちが、
いまでも大戦中のことでドイツ人を恨んでいる……
と書かれていました。

春樹さんはギリシャ滞在中、
現地のひとたちから、いろいろ聞いたそうです。

「カティーナ」など本書に収められた短編のいくつかに、
『遠い太鼓』のギリシャのエピソードを想起させられました。

あと宮崎駿さんの『紅の豚』にそっくりな場面が
「彼らは年をとらない」に登場する……
と思ったら、本書に影響されたと公言しているのだとか。
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2024/04/21 15:41
 『ドイツ・ヴァンパイア怪縁奇談集』(アンソロジー 森口大地編訳 幻戯《げんき》書房刊)を読み終えました。
 
 小説は七篇収録されているのですが、後半のほうが少し洗練されてきて、なかなかよかったです。わたしは買ったとき勘違いしており、「この本は現代ドイツの作家によるヴァンパイアものアンソロジー」かと思っていたのですが、1820~1830年代のドイツ作品だそうです。
 
 ヴァンパイアといえば……のセルビア事件が1725年……8日間に9人が怪死し、皆死の直前に「10日前に死んだ男に殺られた」と、ヴァンパイアといえば吸血ですが、もう一つの大きな属性として、一度死んでいる……ですね。
 
 短編のほうも面白いのですが、さすがに4200円というのは高いなぁ……と思っておりました。なんだけど……ヴァンパイア学者《ヴァンピロロジスト》を自称する編訳者だけあって、かなり長いヴァンパイア考察や作品解題の『ヴァンパイア文学のネットワーク』がなかなか興味深かったです。
 
 もはや現代の神話であり、神話というものはコア部分だけを残していれば外殻や周縁は自由に語られる性質のものですから、いろいろなヴァンパイア像があってしかるべきなのですね。
 
 神話としてのヴァンパイアは史上ニ度その輝きを最大にしたこと。最初はジョン・ポリドリの『ヴァンパイア』(1819年)で次がブラム・ストーカーの『ドラキュラ』(1897年)と。
 
 余談というか、手前味噌な話ですが、エブリスタのホラコン(非公式のホラー小説コンテスト)にエントリした、わたしの『Hg』(2021年)、これを書いた身としてはやはり本書は買って正解でした。ヴァンパイアをめぐるトリヴィアもたくさん掲載されておりますし。
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2024/04/19 14:04
 中勘助さんの『提婆達多《でーばだった》』(岩波文庫刊)を読み終えました。
 『銀の匙』の作者がこんなにえぐい小説を書くとは意外でした……!
 
 もともと悉達多《しっどはーるとは》にヘイトを溜めていた提婆達多《でーばだった》。
 あるとき二つの国の交流で、耶輪陀羅《やしょーどはらー》姫と結婚できる、武芸の競技が開催されます。
 提婆達多《でーばだった》は武芸、腕に覚えがあり、どちらかといえばインテリ肌でインドア派の悉達多《しっどはーるとは》には楽勝で勝てる、そう思っていました。
 
 が、余裕を見せている間にやられ、提婆達多《でーばだった》は敗北を喫し、美しい耶輪陀羅《やしょーどはらー》姫を悉達多《しっどはーるとは》に取られてしまいます。
 
 でも、ご存知のように悉達多《しっどはーるとは》はその後、仏陀となり、宝物も地位や権力も、さらには耶輪陀羅《やしょーどはらー》姫と姫の間にできた子供すら捨ててしまいます。
 
 そこからが、提婆達多《でーばだった》の屈折のはじまりです。最初はただ、悉達多《しっどはーるとは》への報復のように提婆達多《でーばだった》は耶輪陀羅《やしょーどはらー》姫に近づき、けっこう計算して彼女を恋の道に落とします。
 
 だけど、耶輪陀羅《やしょーどはらー》姫の心根や愛情、ただ美しいだけではない姫と逢瀬を重ねるごとに、提婆達多《でーばだった》は本物の愛情に触れていくのです。
 
 どんどんと、悉達多《しっどはーるとは》に何重にも負けたと思い込み、じりじりしてゆく提婆達多《でーばだった》。
 しまいには、陰謀を企て、彼は悉達多《しっどはーるとは》にも近づいていき、その教えにある程度の感銘を受けるのですね。
 
 それもまた「敗北」を感じさせること。
 結局は史実のように、悉達多《しっどはーるとは》に叛旗をひるがえすわけですが……。
 
 当然かもしれませんが、本作では悉達多《しっどはーるとは》の仏教哲学がそれほど描かれません。「彼の嫉妬は交尾している仲間を嗅ぎ出した獣の醜悪な残忍な嫉妬であった」(33P)という憎しみのテンションがえんえんと続きます。
 
 でも、かえって提婆達多《でーばだった》のそういう我執のかたまりが、読む者の内心にある危険な種火を刺激するような作品なのですね。
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2024/04/16 12:15
キム・チョヨプ 『地球の果ての温室で』  カン・バンファ (訳)  早川書房 
 2023年(電子版)


ポスト・アポカリプスものの長編SF小説です。
”ダスト”と呼ばれる有毒な霧が発生。
人類は滅亡の危機に瀕しています。

ダストの毒に耐性を持つ少女ナオミ、
謎の植物モスバナを追う研究者アヨン、
山奥のコロニーを束ねる技術者ジス。

三人の女性の視点から、
数十年間の物語が紡がれます。

設定だけ見ると殺伐とした世界ですけど、
著者の人柄でしょうか?
全体に雰囲気が優しく、
わたしは安心して物語に浸れました。

視点人物の三人をはじめ、
ほぼ女ばかりが登場します。
男たちは端役でしか顔を出しません。

ふしぎと穏やかな空気感は、
男性不在の世界と関係があるのかな。
どうなんだろう。

ナオミ、アヨン、ジスと、
視点人物の交替には物語上の必然性が。
長いスパンで人類の危機を語りつつ
人物やできごとを複眼的に捉えています。

ジスと植物学者レイチェルの、
不器用で一途で屈折した関係に、
わたしは心を掴まれました。

「誰かから心を離すことができない」のと
「自分が自分でしかありようがない」
こととが不可分に結びついてしまってるのって……

せつないね。

韓国のSFはいくつか読みましたけど、
目下これがいちばん、わたしに刺さっています。
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2024/04/12 21:33
 ちょっと具合が悪かったのもあり、再読したくもあり、中井英夫さんの『人外境通信』(講談社文庫刊)を何度目かな? とにかく読み終えました。
 
 中井英夫さんの小粋な「とらんぷ譚」の♥の本です。現在(といってもけっこう昔ですが)、「とらんぷ譚」は♠♣♥♦それぞれ13篇にジョーカー2篇、文庫版全集に収録されてます。
 
 個人的には「とらんぷ譚」の中でもこの『人外境通信』が一番好きかも。とくに後半が。
 同性愛者だった中井英夫さんが、もしかしたら渇望していたのかも? な、彼氏に「筋肉質の白い肌のそこかしこに、脱ぎ棄てた紬の藍が沁みつき、それはほとんど香い立つばかりに思える」など、へたな官能小説よりも官能的な一篇『藍いろの夜』。
 
 じつは画廊からの差出人の名前が字謎《アナグラム》で、猫嫌いの主人公は……な『夜への誘い』、エストラゴン・オウ・ヴィネーグル、よもぎの酢漬け、これを買ってよろこんでいる少年二人を目撃したのがきっかけで、グルメ論と戦争に生きのびた後ろめたさをかかえた語り手が、タイム・スリップしてしまう『美味追真』。ここらがとくに好き。
 
 それと、創元社から文庫で出ている「とらんぷ譚」ではなく、講談社の文庫本を手に取るのは、表紙、本文挿絵が建石修志さんなのも好ましいから。
 
 わたしは読書への目覚めが遅いほうだとたまに書きますが、中井英夫さんの名前を知って、最初に買ったのがこの『人外境通信』でした。やっぱりいいなあ。
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2024/04/09 22:52
ヨン・フォッセ 『だれか、来る』  河合 純枝 (訳)  白水社 2023年


図書館で借りました。

ノルウェーのヨン・フォッセによる戯曲です。
著者は自らを詩人と称しているそうですけど、
なるほど戯曲のかたちを借りた詩と呼べそう。

なんとも奇妙な作品です。
人里離れた海辺に建つ古い家に、
訳ありらしい「彼女」と「彼」が引っ越してきます。
やがて家の元の持ち主だという「男」が現れ……

事件らしい事件は何も起きないんですよ。
「男」が「彼女」に身の上を話し、
電話番号を書いたメモを渡して去っていくだけ。

「彼女」と「彼」が家を買ったいきさつは語られません。
ただ、世間から離れて暮らしたい事情がありそう。

「男」が家を売った事情も未詳なままです。
なぜか家のなかには「男」の祖母のものだという、
尿の入ったおまるが放置されてるんですよ。
祖母は死去していることが「男」の口から語られます。

全体に不穏な空気と死の気配に満ちた作品です。
同時に奇妙なくつろぎと慰安も感じさせます。

優れた水墨画か抽象画のような、
禁欲的で示唆に富んだ世界でした。

いまのところ、ことし読んだ本のベストです。
フォッセが昨年のノーベル文学賞を受けたこと、
大いに頷けます。
***このコメントは削除されています***
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2024/04/09 22:24
ヨン・フォッセ 『だれか、来る』  河合 純枝 (訳)  白水社 2023年


図書館で借りました。

ノルウェーのヨン・フォッセによる戯曲です。
著者は自らを詩人と称しているそうですけど、
なるほど戯曲のかたちを借りた詩と呼べそう。

なんとも奇妙な作品です。
人里離れた海辺に建つ古い家に、
訳ありらしい「彼女」と「彼」が引っ越してきます。
やがて家の元の持ち主だという「男」が現れ……

事件らしい事件は何も起きないんですよ。
「男」が「彼女」に身の上を話し、
電話番号を書いたメモを渡して去っていくだけ。

「彼女」と「彼」が家を買ったいきさつは語られません。
ただ、世間から離れて暮らしたい事情がありそう。

「男」が家を売った事情も未詳なままです。
なぜか家のなかには「男」の祖母のものだという、
尿の入ったおまるが放置されてるんですよ。
祖母は死去していることが「男」の口から語られます。

全体に不穏な空気と死の気配に満ちた作品です。
同時に奇妙なくつろぎと慰安も感じさせます。

優れた水墨画か抽象画のような、
禁欲的で示唆に富んだ世界でした。

いまのところ、ことし読んだ本のベストです。
フォッセが昨年のノーベル文学賞を受けたこと、
大いに頷けます。
***このコメントは削除されています***
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2024/04/09 22:23
ヨン・フォッセ 『だれか、来る』  河合 純枝 (訳)  白水社 2023年


図書館で借りました。

ノルウェーのヨン・フォッセによる戯曲です。
著者は自らを詩人と称しているそうですけど、
なるほど戯曲のかたちを借りた詩と呼べそう。

なんとも奇妙な作品です。
人里離れた海辺に建つ古い家に、
訳ありらしい「彼女」と「彼」が引っ越してきます。
やがて家の元の持ち主だという「男」が現れ……

事件らしい事件は何も起きないんですよ。
「男」が「彼女」に身の上を話し、
電話番号を書いたメモを渡して去っていくだけ。

「彼女」と「彼」が家を買ったいきさつは語られません。
ただ、世間から離れて暮らしたい事情がありそう。

「男」が家を売った事情も未詳なままです。
なぜか家のなかには男の祖母のものだという、
尿の入ったおまるが放置されてるんですよ。
祖母は死去していることが「男」の口から語られます。

全体に不穏な空気と死の気配に満ちた作品です。
同時に奇妙なくつろぎと慰安も感じさせます。

優れた水墨画か抽象画のような、
禁欲的で示唆に富んだ世界でした。

いまのところ、ことし読んだ本のベストです。
フォッセが昨年のノーベル文学賞を受けたこと、
大いに頷けます。
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2024/04/08 21:49
ジョーン・エイキン 『月のケーキ』  三辺 律子 (訳)  東京創元社 2020年


出先で読み終えた図書館の本。
イギリスの小説家ジョーン・エイキンの短編集です。

語り口はフェアリー・テイルなんだけど、
こんにち的な問題を絡ませるのが巧いんですよ。

標題作「月のケーキ」では、
わけありの人物ばかりが暮らす村が舞台です。
祖父の家で暮らすことになった少年トムが主人公。
あるとき謎めいたミセス・リーが
「月のケーキを作る手伝い」を依頼してきました。

ミセス・リーはトムに手伝いを求め、
おじいちゃんはそれを止めようとします。
けど、ふたりとも強要はしないんですね。
最後はトム自身の意思に委ねてきます。

日本の作品だと有無を言わせず、
災厄が降りかかってきたりしそうですよね。
契約とか自由意思を重んじる、
ヨーロッパらしい発想だと感じました。

ふざけてて残酷で優しくて哀しくて、
どのお話も優れた楽しめるものでした。

標題作以外で印象に残っているのは「森の王さま」。
粗暴な森番の父と、薄幸な娘のお話です。
幕切れにわたしは快哉を叫びたくなりましたけど、
これは長いお話の序章みたいにも思えます。
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2024/04/04 22:40
 スタニスワフ・レムの『枯草熱《こそうねつ》』(国書刊行会刊)を読み終えました。正確に言うと、国書刊行会さんのレム・コレクション、『天の声』と『枯草熱』の2in1本を、『天の声』はすでに読んでいるので、やっと一冊読み終えた、という。
 
 で、『枯草熱』は、帯には「確率論的ミステリ」とわかるようなわからないような言葉で紹介されておりますが、単純な話です。
 ナポリで連続怪死事件が続きます。
 死亡したのはほぼ同じ共通点のある男性。40~50代で独身、小金持ち、なぜかナポリ滞在を当初の予定よりも早く切り上げようとする、さらにハゲw
 
 これを調べていき、自分も同境遇に置いてみようじゃないかというのが本書の主人公。ちなみに枯草熱(花粉病)持ちのアメリカ人宇宙飛行士。
 なんとなく、ですが、本編に漂うパラノイア的な感覚は、そして宇宙飛行士という存在が、J・G・バラードっぽくもあります。これを短編に凝縮できたら、みんなバラード作品だと思うような。
 
 落ちがそれでいいのか(←褒めてます)な感じなんだけど、これでいいのでしょう。レムなりのミステリというかアンチ・ミステリ?
 
 それにしても、国書刊行会の『レム・コレクション』もコンプしたいですねー。
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2024/04/04 21:15
トーマス・マン 『だまされた女/すげかえられた首』  岸 美光 (訳)
 光文社古典新訳文庫 2009年(電子版)


トーマス・マンの中編ふたつが入った本。
いずれも愛と性が絡むものです。
マンっていうと、
なんとなく謹厳実直そうなイメージがあったんだけど……

いえ、いずれの作品も性愛に翻弄され、
悩む人間の姿を描くものですから。
やっぱり「きまじめなドイツのおじさん」です。

「だまされた女」は夫に先立たれたロザーリエが、
息子の家庭教師として現れたアメリカ青年に恋をするお話。
てっきりヤンキー野郎のケンが、
ロザーリエを騙して金でも巻きあげるのかと思いきや……

結末に驚かされるのと同時に、
著者が人間に注ぐまなざしの複雑さを感じました。

老いを意識しはじめた人物が、
若者への一方的な恋情に溺れることは珍しくないのかな。

「すげかえられた首」は昔のインドを舞台にした、
奇妙な三角関係のお話です。
親友どうしのシュリーダーマンとナンダは、
揃って美しい娘シーターに恋をします。
やがてシュリーダーマンがシーターと結婚して……

なんとも割り切れない結末が待っています。
男性ふたりはそれなりに存在感がありますけど、
シーターの造形が青年マンガのヒロインみたいな……
都合のいい女にされてるのが、ちょっとなー。
まぁ1940年の作品ですからね。

いずれの作品も主人公たちが理屈っぽいこと!
マン節全開(笑)。
たとえばイギリスの作家
(イーヴリン・ウォーあたり)なら、
もっと軽妙かつ皮肉で底意地の悪い作品にしそうです。

どこか垢抜けないきまじめさ、
安定したドイツ臭を堪能させてもらえました。
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2024/04/03 12:41
 種村季弘さんの『吸血鬼幻想』(河出文庫)を読み終えました。
 およそ吸血鬼に関するネタはこの一冊が網羅しているかもしれません。というぐらい吸血鬼愛に満ちた一冊です。
 
 別にダイレクトに吸血鬼ものではないですが、吸血鬼に限りなく近づいた……あるいは吸血鬼の暗喩ではないか……という作品がいくつか取り上げられておりますが、わたしの好きなロベルト・ムージルの『寄宿生テルレスの混乱』(光文社古典新訳文庫)が挙げられているのは嬉しかったです(なお未読……。ムージルは『特性のない男』が有名すぎますが、そちらも未読)。
 
 文学の中の吸血鬼、現実(歴史的に)の吸血鬼、吸血鬼詩、精神分析、哲学、とにかくあらゆる方向から吸血鬼に関する蘊蓄を傾ける種村季弘さんの筆が冴え渡っております。
 
 血のフェティシズム、嗜血症者《ヘマトフィル》としての吸血鬼、あるいは異常な性愛、屍体性愛《ネクロフィリア》としての吸血鬼。
 澁澤龍彦さんは有名ですが、種村季弘さんもドイツ文学の澁澤さんのようなポジションなので、澁澤龍彦さんがお好きならハマれる一冊かと。
 
 また、種村季弘さんの編集による吸血鬼ものアンソロジー、『ドラキュラ・ドラキュラ』も楽しみです。
 あ、先日、神田神保町の東京堂書店で買ってきた『ドイツ・ヴァンパイア怪縁奇談集』(幻戯書房刊)も読まないと……!
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2024/03/30 20:26
松原 隆彦 『目に見える世界は幻想か? 物理学の思考法』 光文社新書 2017年


とんでもねー本を手に取ってしまいました。
図書館で借りたブツです。

著者は大学で物理学を教える先生。
なんでも一般教養のクラスでは、
物理が泣くほど苦手な学生さんが大勢いて……

よくよく話を聴いてみると、
数式を使った計算が苦痛な場合が多いそうだとか。
で、言葉で説明してあげると、
おもしろさを理解してくれる、と……

甘い言葉に騙されたぜ!
いや、わたしの頭が悪いのか?
なにしろ高校時代、物理や数学は零点でしたからねぇ。
理解のしかたが理解できませんでしたw

この本では、とても抽象的な話題を扱ってるんだけど、
いっさいモデル図の類が出てこないんです。
すべて言葉なのでイメージが湧かず……

アホのわたしには、さっぱり理解できませんでした。
賢いミーナちゃん頼む(涙)。

本書を手に取る場合……
図表をふんだんに掲載した類書
(ブルーバックスなんかのね)を、
もう一冊、用意しておくのが妥当かもしれません。

いちおう理解できた範囲のことを書いておくと……

原子や、それ以上に小さな肉眼では見えない世界では、
常識的な物理法則が通用しないのだそうです。
万有引力の法則とか。

ですから一見するとオカルトのような事態が、
理論的に導き出されるのだといいます。

たとえば人間の意識が世界に物理的な影響を与えるだとか、
わたしたち人間の意識の数だけ世界が存在するとか……
まるでSFですよね。

本書の出だしには天動説と地動説の話が出てきます。
あまり常識を鵜呑みにしたり、
頑なに固執したりする態度は賢明とは言えませんね。
***このコメントは削除されています***
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2024/03/30 20:25
松原 隆彦 『目に見える世界は幻想か? 物理学の思考法』 光文社新書 2017年


とんでもねー本を手に取ってしまいました。
図書館で借りたブツです。

著者は大学で物理学を教える先生。
なんでも一般教養のクラスでは、
物理が泣くほど苦手な学生さんが大勢いて……

よくよく話を聴いてみると、
数式を使った計算が苦痛な場合が多いそうだとか。
で、言葉で説明してあげると、
おもしろさを理解してくれる、と……

甘い言葉に騙されたぜ!
いや、わたしの頭が悪いのか?
なにしろ高校時代、物理や数学は零点でしたからねぇ。
理解のしかたが理解できませんでしたw


(U・ิܫ・ิ)ノ<そらー後者というものだろ?

( ´◕ω◕)<駄犬てめーw


とても抽象的な話題を扱ってるんだけど、
いっさいモデル図の類が出てこないんです。
すべて言葉なのでイメージが湧かず……

アホのわたしには、さっぱり理解できませんでした。
賢いミーナちゃん頼む(涙)。

この本を手に取る場合……
図表をふんだんに掲載した類書
(ブルーバックスなんかのね)を、
もう一冊、用意しておくのが妥当かもしれません。

いちおう理解できた範囲のことを書いておくと……

原子や、それ以上に小さな肉眼では見えない世界では、
常識的な物理法則が通用しないのだそうです。
万有引力の法則とか。

ですから一見するとオカルトのような事態が、
理論的に導き出されるのだといいます。

たとえば人間の意識が世界に物理的な影響を与えるだとか、
わたしたち人間の意識の数だけ世界が存在するとか……
まるでSFですよね。

本書の出だしには天動説と地動説の話が出てきます。
あまり常識を鵜呑みにしたり、
頑なに固執したりする態度は賢明とは言えませんね。
***このコメントは削除されています***
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2024/03/30 20:24
松原 隆彦 『目に見える世界は幻想か? 物理学の思考法』 光文社新書 2017年


とんでもねー本を手に取ってしまいました。
図書館で借りたブツです。

著者は大学で物理学を教える先生。
なんでも一般教養のクラスでは、
物理が泣くほど苦手な学生さんが大勢いて……

よくよく話を聴いてみると、
数式を使った計算が苦痛な場合が多いそうだとか。
で、言葉で説明してあげると、
おもしろさを理解してくれる、と……

甘い言葉に騙されたぜ!
いや、わたしの頭が悪いのか?


(U・ิܫ・ิ)ノ<そらー後者というものだろ?

( ´◕ω◕)<駄犬てめーw


とても抽象的な話題を扱ってるんだけど、
いっさいモデル図の類が出てこないんです。
すべて言葉なのでイメージが湧かず……

アホのわたしには、さっぱり理解できませんでした。
賢いミーナちゃん頼む(涙)。

この本を手に取る場合……
図表をふんだんに掲載した類書
(ブルーバックスなんかのね)を、
もう一冊、用意しておくのが妥当かもしれません。

いちおう理解できた範囲のことを書いておくと……

原子や、それ以上に小さな肉眼では見えない世界では、
常識的な物理法則が通用しないのだそうです。
万有引力の法則とか。

ですから一見するとオカルトのような事態が、
理論的に導き出されるのだといいます。

たとえば人間の意識が世界に物理的な影響を与えるだとか、
わたしたち人間の意識の数だけ世界が存在するとか……
まるでSFですよね。

本書の出だしには天動説と地動説の話が出てきます。
あまり常識を鵜呑みにしたり、
頑なに固執したりする態度は賢明とは言えませんね。
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2024/03/29 22:08
 サンリオ文庫の『ジョン・コリア奇談集II』を読み終えました。これは先月ぐらいに駿河屋で買った中の一冊。『ジョン・コリア奇談集I』は「サンリオSF文庫」、奇談集IIは「サンリオ文庫」。
 ですので、ニ冊書棚に収めると、背の色が違います。
 
 ジョン・コリアはイギリス人の作家なのですが、どうも専業ではなかった模様。専業だったのかもしれませんが、作品の数がけっこう少ないのです。
 
 訳の中西秀男先生がやはりサンリオSF文庫でサキの作品集を訳されているからの連想なのですが、ジョン・コリアはサキの系譜に連なって、なおかつサキよりもブラック・ユーモアあり、小説的技巧あり、そんな感じですね。
 
 小説的技巧……? そうなんです。なにげない箇所にオチへの伏線めいた描写があったり、逆にあえて触れてなかった箇所があとになってけっこう重要なことだったり、けっこう短編なのに情報がぎゅうぎゅう詰めです。
 サンリオ文庫の表4(裏表紙)には、「ありきたりの小説にあきた『すれっからしの読者』向け短編集第二弾」とあり、たしかにスレたわたしも楽しく読めました。
 
 親友ベイツと道楽にあけくれるリングウッドが、たまたま見かけた美女となんとかよさげなムードになり、鼻の下のばしてくっついていくと……な『葦毛のウマの美人』とか、結婚に異常に執着するアンリが出会ったマリーの旦那がじつは……だった『アンリ・モーラーのステッキ』、鉱物学研究所に勤務する「ぼく」と親友のローガンが、過去に殺人の疑惑に晒されたリードとも仲がよくなり、彼の家に招かれて、カクテルを振る舞われ……な『ナツメグをほんの少し』、この辺がとくに面白かったです。
 
 ただ、読みたくなった方には申し訳ないのですが、サンリオSF文庫、サンリオ文庫ともに現在までけっこう別出版社から再発売されておりますが、ジョン・コリアのこれはいまだに再発されておりません……。
 
 興味がありましたら、I、IIと両方、サイト「日本の古本屋」さんか駿河屋で探して買うのがお勧めです。
 それにしても、こんな面白い作品集が読まれていないとは……。
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2024/03/25 14:01
 『斎藤茂吉歌論集』(柴生田稔編 岩波文庫刊)を読み終えました。この本は最近気に入っている、神田神保町の愛書館中川書房で買ったもの。
 
 この歌論集、最初から最後までが書かれた(発表された)順に並べられております。最初の文章がかなり難しいので、投げたくなりましたが、その次からはかなり短歌和歌についての考察だったり、初心者にも役立つことが書かれていて、やはり斎藤茂吉は凄いなと思わされました。
 
 深夜など、神経も過敏になり、観念連合作用が活発になるので、奇抜な表現などをつい使ってしまうものの、その奇抜は表面的であり、あぶないものである(本書収録「童馬漫語」抄より)……嗚呼、胸が痛みます……;;
 
 表記ですが、すべて正統かなづかひなのもいいですね。本当にわたしは正統かなづかひが好きなので、それだけでも甘い点をつけてしまいます。
 
 基本的には、茂吉さんの「実相観入」や「写生」(としての短歌)を称揚し、またその実証、作歌への導きがどの文章にも通奏のように響いております。
 一見、難しそうに思えるこの考えも、生《せい》を写す、ということで、むしろ簡単な原理ではあるものの、これを突き詰めて詠草にするのは只事ではありません。
 
 ただ、やはり短歌を詠む身としては、励まされるような本でした。短歌の鑑賞法としてもいいかと思います。
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2024/03/24 21:31
 『ミハイル・ブルガーコフ作品集 権力への諧謔』(知の新書 ウクライナ応援緊急出版編 文化科学高等研究院出版局刊)を読了しました。
 
 この本は、先日、神田神保町の東京堂書店の三階で発見したもの。
 内容は、かなりマイナーな媒体以外をのぞいて、ほぼ邦訳はされているものの入手困難なもの、または本邦初の翻訳の作品などで構成されております。
 
 短い雑文なども収録されておりますが、メインは短編『モルヒネ』と四幕ものの戯曲『偽善者たちのカバラ』ですね!
 ただし、当時のソヴィエトへの「諧謔」と「風刺」なのですが、幸せなことにその時代のソ連に暮らしたことのない身としては、ちょっと通じにくい味があるのもたしかなんです。
 
 マヤコフスキーはロシア未来派の詩人でしたが、ブルガーコフは神秘主義者……でもなんだかマヤコフスキーに通じるテンションの高さが興味深いです。
 
 ブルガーコフの大傑作、『巨匠とマルガリータ』のほんの一部(第一稿)が読めるのもいいですし、ブルガーコフ・ファンなら新書サイズなのに二千円近いお値段の本書を推します。
 
 表四(裏表紙)に、編集者側による言葉、「ウクライナは非常に文化度の高い国です。ウクライナの平和を願って、ウクライナの大作家ブルガーコフを読むことで、ウクライナ理解の支援を。高度な文化知性は戦争をおこさない」と書かれているのに胸が痛みます。
 本書はウクライナ侵攻の直後に刊行されているのですが(22年4月25日刊行……奥付より)、売り上げはウクライナに寄付だそうです。ブルガーコフ・ファンやちょっと変わった味わいの小説を読みたい向きにはお勧めです。
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2024/03/23 19:38
堀江 貴文 『すべての教育は「洗脳」である~21世紀の脱・学校論~』
 光文社新書 2017年


母にあげるのにブックオフで買ってきました。

著者は学校と徹頭徹尾、反りが合わなかったそうです。
生徒を鋳型にはめて抑圧する日本の学校のありようが、
もともとは工場労働者を育成するためのものだから……
と指摘しています。

バブルくらいまでは機能していた
「いい学校、いい会社」という人生のレールが、
近年の日本においては足枷にしかなっていない、とも。

同様の指摘は上野千鶴子さんが二十年ちょっと前に
『サヨナラ、学校化社会』で行っていました。

著者は実業家としての視点から、
これからの社会ではグローバル化がいっそう進み、
やがては国民国家も形骸化するだろう……と述べています。

超長期的な目で見た場合には、
著者の主張どおりになるのかもしれません。
近年のガンダムに出てくるみたいな、
大きな経済圏がいくつか現れるとか。

ただウクライナやガザの現状を見るかぎり……
国民国家という共同幻想は、
いまだ負の意味で根強い力を失っていませんね。

ともあれ。
学校や会社などの旧弊な枠組みに縛られず、
フットワーク軽くグローバル化の時代を生きよう……
と、いうのが著者の提案です。

最近になって気になることがあり、
まおちといろいろ話してたのですけど……
この本が思わぬヒントをくれました。

「自分と対照的な著者の本を読み、
そこから逆算して参考にする」と、
大原扁理さんの本に書いてあったんですよね。
ホリエモンのものも、よく読むのだとか。

一見して自分とは正反対で、
相容れないように思えるものから、
想定外の気づきを得ることも、あるものです。
まさかホリエモンが(笑)。

ホリエモンありがとう。
***このコメントは削除されています***
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2024/03/23 19:36
堀江 貴文 『すべての教育は「洗脳」である~21世紀の脱・学校論~』
 光文社新書 2017年


母にあげようとブックオフで買ってきました。

著者は学校と徹頭徹尾、反りが合わなかったそうです。
生徒を鋳型にはめて抑圧する日本の学校のありようが、
もともとは工場労働者を育成するためのものだから……
と指摘しています。

バブルくらいまでは機能していた
「いい学校、いい会社」という人生のレールが、
近年の日本においては足枷にしかなっていない、とも。

同様の指摘は上野千鶴子さんが二十年ちょっと前に
『サヨナラ、学校化社会』で行っていました。

著者は実業家としての視点から、
これからの社会ではグローバル化がいっそう進み、
やがては国民国家も形骸化するだろう……と述べています。

超長期的な目で見た場合には、
著者の主張どおりになるのかもしれません。
近年のガンダムに出てくるみたいな、
大きな経済圏がいくつか現れるとか。

ただウクライナやガザの現状を見るかぎり……
国民国家という共同幻想は、
いまだ負の意味で根強い力を失っていませんね。

ともあれ。
学校や会社などの旧弊な枠組みに縛られず、
グローバル化の良い面に乗って生きよう……
と、いうのが著者の提案です。

最近になって気になることがあり、
まおちといろいろ話してたのですけど……
この本が思わぬヒントをくれました。

「自分と対照的な著者の本を読み、
そこから逆算して参考にする」と、
大原扁理さんの本に書いてあったんですよね。
ホリエモンのものも、よく読むのだとか。

一見して自分とは正反対で、
相容れないように思えるものから、
想定外の気づきを得ることも、あるものです。
まさかホリエモンが(笑)。

ホリエモンありがとう。
***このコメントは削除されています***
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2024/03/23 19:35
堀江 貴文 『すべての教育は「洗脳」である~21世紀の脱・学校論~』
 光文社新書 2017年


母にあげようとブックオフで買ってきました。

著者は学校と徹頭徹尾、反りが合わなかったそうです。
生徒を鋳型にはめて抑圧する日本の学校のありようを、
もともとは工場労働者を育成するためのもの……
と指摘しています。

バブルくらいまでは機能していた
「いい学校、いい会社」という人生のレールが、
近年の日本においては足枷にしかなっていない、とも。

同様の指摘は上野千鶴子さんが二十年ちょっと前に
『サヨナラ、学校化社会』で行っていました。

著者は実業家としての視点から、
これからの社会ではグローバル化がいっそう進み、
やがては国民国家も形骸化するだろう……と述べています。

超長期的な目で見た場合には、
著者の主張どおりになるのかもしれません。
近年のガンダムに出てくるみたいな、
大きな経済圏がいくつか現れるとか。

ただウクライナやガザの現状を見るかぎり……
国民国家という共同幻想は、
いまだ負の意味で根強い力を失っていませんね。

ともあれ。
学校や会社などの旧弊な枠組みに縛られず、
グローバル化の良い面に乗って生きよう……
と、いうのが著者の提案です。

最近になって気になることがあり、
まおちといろいろ話してたのですけど……
この本が思わぬヒントをくれました。

「自分と対照的な著者の本を読み、
そこから逆算して参考にする」と、
大原扁理さんの本に書いてあったんですよね。
ホリエモンのものも、よく読むのだとか。

一見して自分とは正反対で、
相容れないように思えるものから、
想定外の気づきを得ることも、あるものです。
まさかホリエモンが(笑)。

ホリエモンありがとう。
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2024/03/23 19:34
堀江 貴文 『すべての教育は「洗脳」である~21世紀の脱・学校論~』
 光文社新書 2017年


著者は学校と徹頭徹尾、反りが合わなかったそうです。
生徒を鋳型にはめて抑圧する日本の学校のありようを、
もともとは工場労働者を育成するためのもの……
と指摘しています。

バブルくらいまでは機能していた
「いい学校、いい会社」という人生のレールが、
近年の日本においては足枷にしかなっていない、とも。

同様の指摘は上野千鶴子さんが二十年ちょっと前に
『サヨナラ、学校化社会』で行っていました。

著者は実業家としての視点から、
これからの社会ではグローバル化がいっそう進み、
やがては国民国家も形骸化するだろう……と述べています。

超長期的な目で見た場合には、
著者の主張どおりになるのかもしれません。
近年のガンダムに出てくるみたいな、
大きな経済圏がいくつか現れるとか。

ただウクライナやガザの現状を見るかぎり……
国民国家という共同幻想は、
いまだ負の意味で根強い力を失っていませんね。

ともあれ。
学校や会社などの旧弊な枠組みに縛られず、
グローバル化の良い面に乗って生きよう……
と、いうのが著者の提案です。

最近になって気になることがあり、
まおちといろいろ話してたのですけど……
この本が思わぬヒントをくれました。

「自分と対照的な著者の本を読み、
そこから逆算して参考にする」と、
大原扁理さんの本に書いてあったんですよね。
ホリエモンのものも、よく読むのだとか。

一見して自分とは正反対で、
相容れないように思えるものから、
想定外の気づきを得ることも、あるものです。
まさかホリエモンが(笑)。

ホリエモンありがとう。
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2024/03/23 15:04
 稲森道三郎著、『中勘助の手紙 一座建立』(中公文庫刊)を読み終えました。
 戦中から戦後にかけてからの静岡県服織村での、期せずして疎開、そして村でののびやかな生活、が著者の解説つきで、中勘助さんののんびりしたユーモアもある葉書や封書のやりとりが楽しめる、中ファンにはたまらない一冊です。
 
 そして! 中勘助さんとその奥様和子さまにも著者は可愛がられるのですが、中さんと和子さまの書簡、なんと正かなづかひなのです……正漢字や正かなづかひを愛するわたしとしては、本書の正かなはなかなか嬉しいものがありました。
 中公文庫編集部のイイ仕事、ですね。
 
 本書でも出てきますが、岩波文庫が★と☆で定価を示していた時代もいいなぁと感じます。ちなみに中さんの『銀の匙』本書で触れているときは☆☆と二つ、四十銭だそうです。
 
 「大衆よ、謙虚と反省と向上を忘れるな。数の力によつて高いものを自分の水準にまでひきさげないやうに戒心せよ」
 
 「信仰と道徳を警戒せよ。これほどたやすく人を過まらせるものはない」
 
 『銀の匙』の作者の内面から出た箴言、これらもよかったです。
 
 79ページ、さりげなく鏡花の『日本橋』について言及されており、ニワカ鏡花ファンにも嬉しかったです。
 まだニワカで読んでいないのですが116ページにも鏡花の『歌行燈』への言及が。
 
 中勘助さんと、著者とのやりとりが、まだ戦後まもなく食料事情もまだたいへんだったころとは思えない、生活の余裕、のどかさを残しております。
 中さんは本当にある意味、ピュアな人だと……ぜんぜん驕ることのない、いい性格の持ち主だったのですね。ユーモアも忘れることなく。こんな本をのんびり読む楽しさは格別です。
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2024/03/21 20:03
 泉鏡花の『日本橋』(岩波文庫)を読み終えました。
 ……絢爛な文章、たっぷりと尺を取って知らず知らずのうちに「異化」となった描写、そしてどうかするとメインキャラを食ってしまうような五十嵐伝吾の人物造形や科白、はじめての鏡花長編、みごとに殺られました……!
 
 ただ、若干、いや結構わかりづらい箇所があります。こういう「読み」があったとは……!!

 http://www2s.biglobe.ne.jp/~ant/nihonbas.html
 
 お千世、お孝、清葉らの描写はもうためいきが漏れるぐらい。わたしも芸妓になって(年齢的に無理w)、実地にこんな世界に身を投じたいとか思っちゃう始末。
 
 生田耕作先生の『黒い文学館』(中公文庫刊)でも、鏡花の反時代性について触れられております。
 鏡花のもっとも勢いがあったときですら、一般的な文壇・読者の受け止められ方はアナクロニックなものであった、と。「大宗鏡花とその鑽仰者」とも生田先生が書くように、もうアナクロ何が悪い、そんな世界です……鏡花とその読者は。
 
 また、当時ノシていた自然主義文学をちょっと茶化してみたという、本書の解説で佐藤春夫が書いているのは違うんじゃないか、と。わたしが自然主義嫌いなせいもあるのですが、それこそ自然主義の権化とも呼べる五十嵐伝吾の「肉慾」などは、べつに自然主義のカリカチュアでもなんでもなく、ただ、作品の中のアクセントのように置かれたのではないかと。
 
 本当に九九九会に入りたい、そんな作品です。
 何度か反復される、「──路地の細路、駒下駄で──」がいつまでも頭に残ります……。
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2024/03/20 20:28
トーマス・マン 『トニオ・クレーガー』  浅井 晶子 (訳)  
 光文社古典新訳文庫 2018年(電子版)


トーマス・マン初期の中編小説。
一週間くらいで読了できました。

先日の『ヴェネツィアに死す』が、
古びた印象を与えるのに対して……
こちらは普遍性を備えていると感じられます。

主人公トニオは裕福な家に生まれ、
長じて小説家として成功します。
著者マンの自伝的要素を多分に含んだ小説だとか。

作中で描かれるのはトニオの少年時代から、
青年時代の終わりにかけてのエピソードです。

前半では、まず少年ハンス、
続いて少女インゲへの激しい恋慕が描かれます。
少年らしい感傷と自意識過剰を、
抒情的に描きだすマンの筆致は巧みです。

わたしは、この小説、
生き難さを抱えている若いひとに、
広く読まれてほしいと強く感じました。

トニオの含羞と不器用さには、
わたし自身も「わがこと」として憶えがあります。
日本で暮らしていると「厨二病」などと、
生き難い若者の葛藤は揶揄されがちです。

ですけど、いつの世にも世界のどこにも、
世の中に居場所がない、他者とわかりあえないと、
ひと知れず内心で悩む若者はいるものですよね。
そうした態度を茶化すことなく描いた、
この小説には読まれ続ける価値があると思えました。

それから青年期の終わりにトニオが自らを、
市民的な幸福(結婚してこどもに恵まれるなど)
とは縁のない人間だと、あらためて認識する場面。

社会の「ふつう」からドロップアウトした、
もしくは、せざるを得ない人物が主人公の小説は、
わが国でも多く書かれ読まれてきました。

太宰治の『人間失格』や色川武大の『狂人日記』を、
わたしはトニオの半生記と重ねて想起したものです。

単純に比較はできないことを承知のうえで言うなら。
アウトサイダーとしてのトニオからは、
太宰や色川の主人公たちより、おっとりした印象を受けます。
作品全体に鷹揚さが感じられるというか……

「ドロップアウト=社会的な死」と看做す態度が、
日本では、いまだに根強く残っているのではないでしょうか。
この点、トニオの物語から、
わたしたち日本人が学ぶべきものは、まだ少なからずありそうです。
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2024/03/20 15:08
 金谷俊一郎先生の『面白いほどよくわかる平家物語』(日本文芸社刊)を読み終えました。
 たしかに現代語訳で全段読めるのでリーダブルだし、ほんとに面白かったですこれ。
 
 平清盛が五十一歳のとき、十四~十六歳の美少年を三百人ほど集め京都の街を歩かせたとか、祇王という十七歳の白拍子……男装の女の子を愛人にしていたとか、いろいろと業の深いおっさんだったというのがまずおかしいw
 
 六十一段、興福寺の声明の現代語訳がまた過剰演出で、平家へのヘイトがこんな言葉で訳されてます。
 「清盛は平家のカスで、武家のゴミクズも同然。仏法・王法の敵でございます。宗派は異なりますが、清盛を討伐するため、援軍いたしましょう」www
 
 また八十一段、これは別に過剰演出ではないのですが、その興福寺の坊さん達が、蹴鞠の鞠に「清盛公の頭」と名付けて遊んでいたとか読んでて吹いちゃったじゃないですかw
 
 それにしても、やはり八歳にして入水された安徳天皇にはなにかこう心が惹き寄せられるものがあります。
 
 なお、この本を刊行した日本文芸社ですが、ここは文芸作品をほぼ出しておらず、けっこう売れ線狙いのものを出しているのですよね。
 で、なんか雰囲気が今ふうじゃないのです。出しているまんが雑誌も『漫画ゴラク』とか……。またこの面白いほどよくわかる~のシリーズにしても装丁が今ひとつダサめ……。
 ただ、そこが一周回って好ましくも思えるのです。ちなみに神保町にあるので、行けば日本文芸社の前ほぼ必ず通ります。
 
 あ、本の内容はたまに過剰演出があるだけで、面白く読めるいい本でした!!
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2024/03/19 21:21
ジハド・ダルヴィシュ 『ナスレディン スープのスープ』 松井裕史 (訳)
 理論社 世界ショートセレクション22巻 2023年


図書館の本です。
レバノンの作家ジハド・ダルヴィシュが、
アラブ・イスラム圏に口承で伝わるお話をまとめたもの。
原書はフランス語で書かれているそうです。

いずれもナスレディン・ホジャという主人公が活躍します。
日本民話の「彦一」や「吉四六」、
アメリカ黒人民話の「うさぎどん」みたいなトリックスターです。
古典落語みたいなお話もありますよ。

この本、愉快なのよー。
一編こっそり引用します。


  オムレツ

  ある日、ナスレディンは近所の人を晩御飯に誘いました。
 パセリとレモンを使って、羊の舌を料理しました。
 近所の人は料理を見て厭そうな顔をしました。
 「いや、これは無理だ!」近所の人は言いました。
 「私は動物の口から出た物は食べないことにしているんだ。
 気味が悪いからね」
 「かまいませんよ。
 ではお尻から出たものでオムレツを作ってあげましょう」
 ナスレディンは答えました。


(U`ェ´)ピャーッハッハッハッ

(U`ェ´)ピャーッハッハッハッハッハッハッ

(U`ェ´)ピャーッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ


この話の怖ろしさは、だ!
ふた通りに解釈できるところよね(U´ェ`)プーッピッピッピ

ともあれ、こういうトボけたお話ばっかり。
昨今、日本で暮らしていると、なんとなく
「イスラム圏のひとたちは怖い」って思いこみがちです。

本質は、わたしたちと変わらない、
愛すべきアホバカマヌケ(褒め言葉ですからね)
の見本市だったりするんだよなー。

わたし、この本ずいぶん気に入りました。
買っちまうかも!?

「世界ショートセレクション」は活字がデカいし、
訳も読みやすくて素敵な本が揃ってます。
わたし理論社の回し者ぢゃあ、ねーからな(U´ェ`)プピピ
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2024/03/19 12:58
 野田隆著『駅を楽しむ! テツ道の旅』(平凡社新書)を読み終えました。
 なにィ、ミーナの奴鉄入ってるのか病院池とか思った方もおられるのかと愚考いたしますが……本書はネットオークションで古本、中古CDなどを売っていたときに、ちょっと面白そうなのでブックオフの100円+TAXの棚から仕入れてみたものです。
 
 今こうして読んでいるというのはまあ、売れなかった、ということなのですが……。
 
 最近は鉄道趣味というと迷惑すぎる「撮り鉄」ばかりクローズアップされていますが、本書が出たのは2007年、まだ一般には「撮り鉄」なんて言葉すら知られていないころじゃないかしら。
 
 この本は「駅鉄」+「乗り鉄」の本ですね。
 駅というのはたしかになんとなく思い入れがこもっちゃう、そんな場所です。
 
 その路線の地図や、実際の写真などをまじえながら、駅と列車そのものに重みを置いた本書は、手軽に鉄道旅行気分が味わえて面白かったですよ。
 
 変わった駅の中でわたしもそこを知っている、あるいは利用したことがある駅もあって(京成金町駅とかね)嬉しかったり。
 
 余談ですが、関西方面に住んでいるお友達が、かなりの多方面マニアさんで、神保町の「趣味の本屋」こと書泉グランデの全階を見たい、というので一緒に地獄巡りをしたことがあるのですが、鉄道フロアは眩暈がするほど濃厚でした……。
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2024/03/19 11:23
丸山 ゴンザレス 『世界の危険思想~悪いやつらの頭の中~』
 光文社新書 2019年


図書館の本。

広い世の中には、
お金のために躊躇なく人を殺したり。
わたしたち日本人の常識からは大きく、
逸脱した価値観のもとで暮らすひとびとがいます。

著者は日本や海外の裏社会や、
治安の悪い地域の取材に携わってきたそうです。
その経験を踏まえて「悪いやつらの頭の中」が、
どうなっているのか紹介する一冊。

興味本位で手に取ったんだけど、ためになる読書でした。

まず良し悪しは別として日本の常識が、
いかに世界の非常識なのか思い知らされます。

これなんか、よく知られた話かもだけど……
海外の観光スポットでにこやかに
¨May I help you?¨なんて声かけてくるヤツは、
ほとんどが犯罪者だと思って差し支えないそうです。

ところが日本人には「断るのは失礼だ」
という意識の持ち主が非常に多く……
結果として詐欺や強盗の被害に遭ってしまうのだとか。

「世界を変えようとするより、まず自分を変えてみよう」。
あとがきでの著者の言葉には深く考えさせられました。

「置かれた場所で咲きなさい」的な主張ではなく、
徹底して自分を軸に生きてみてはどうか、という提案です。

うまくいかない原因を自分以外の人間に求めだしたとき、
ひとは危険思想に染まりはじめるから。
そう著者はいいます。

わたしにも思い当たる節は売るほど、あるわ。
危険思想に染まらないように気をつけよう。
***このコメントは削除されています***
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2024/03/18 21:56
丸山 ゴンザレス 『世界の危険思想』 光文社新書 2019年


図書館の本。

広い世の中には、
お金のために躊躇なく人を殺したり。
わたしたち日本人の常識からは大きく、
逸脱した価値観のもとで暮らすひとびとがいます。

著者は日本や海外の裏社会や、
治安の悪い地域の取材に携わってきたそうです。
その経験を踏まえて「悪いやつらの頭の中」が、
どうなっているのか紹介する一冊。

興味本位で手に取ったんだけど、
ためになる読書でした。

まず良し悪しは別として日本の常識が、
いかに世界の非常識なのか思い知らされます。

これなんか、よく知られた話かもだけど……
海外の観光スポットでにこやかに
¨May I help you?¨なんて声かけてくるヤツは、
ほとんどが犯罪者だと思って差し支えないそうです。

ところが日本人には「断るのは失礼だ」
という意識の持ち主が非常に多く……
結果として詐欺や強盗の被害に遭ってしまうのだとか。

「世界を変えようとするより、まず自分を変えてみよう」。
あとがきでの著者の言葉には深く考えさせられました。

「置かれた場所で咲きなさい」的な主張ではなく、
徹底して自分を軸に生きてみてはどうか、という提案です。

うまくいかない原因を自分以外の人間に求めだしたとき、
ひとは危険思想に染まりはじめるから。
そう著者はいいます。

わたしにも思い当たる節は売るほど、あるわ。
危険思想に染まらないように気をつけます。
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2024/03/17 14:30
堀江 貴文,井川 意高 『東大から刑務所へ』 幻冬舎新書 2017年


これも図書館で借りた本。
元受刑者ふたりが、
刑務所暮らしについて語りあった対談本です。
たぶん類書は、そう無いでしょう(笑)。

読みやすいつくりですけど、いろいろ勉強になりました。

若いころ、仕事で裁判の傍聴をしていた友達がいたんです。
いわく「人間って球体だ」。

外側から加わる力しだいで、
どんな人間でも簡単に転落してしまう。
あたかもボールがコロコロ転がっていくように。

わたしたちの大半は、
裁判や刑務所とは無縁のつもりでいる。
けれど些細なきっかけで被告人になり、
有罪判決を受けて塀の中に……

著者ふたりが、そっくりなことを言ってるんです。
強烈な印象が残りました。

あとホリエモンは思ってたより
「良い意味で常識人」な感じがします。
並外れて頭の回転が早くて目端が利く以外は、
ちょっと俗っぽいお兄ちゃんですね。

対して井川氏は、ちょっと狂ってる感じ。
悪人じゃなさそうだけど。
全体にタガが緩んでるんです。
坊ちゃん育ちのせいでしょうか?
父親にゴルフクラブで殴られながら、
猛勉強させられた話は気の毒でした。

どこの刑務所の食事は不味いとか、
経験者でないとわからない話がいろいろ。
土用の丑の日に、うなぎが出るところもあるのだそうです(笑)。

刑務所には非常に理不尽なところが多く、
あれでは更生に繋がらないだろう……
という指摘には考えさせられました。

あと、さぁ。
これホリエモンが言ってたんだけど。
出所してから連絡を取ってくるムショ仲間には、
つまんねーヤツが多いんだって。

つくづく刑務所って学校とそっくりな!
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2024/03/16 14:39
小泉 悠 『ロシア点描 まちかどから見るプーチン帝国の素顔』  ‎ PHP研究所
 2022年


図書館で借りた本です。
記述が平易だし活字も大きいし、
弱視のわたしフレンドリーで重宝な一冊。

著者はロシアの軍事・安全保障政策の研究者だそうです。
この本は堅苦しいものではなく生活者の目線から、
ロシア社会の雰囲気やロシア人の気質を紹介しています。

国家としてのロシアはときに、とんでもない愚行に及びます。
また政体のありようとロシア人一般のありようが、
どこかで繋がっていることも否定できません。

かといってプーチン政権が全面的にロシア人の代表ではなく、
巷のロシア人たちが悪魔ではないことも事実でしょう。

最後のほうにプーチン大統領の国家観、世界観についての話があり
「なるほど」と頷かされました。

ともあれ良くも悪くも日本人の常識とは大違いです。
油断ならない猜疑心の塊かと思うと、
底抜けのお人好しぶりを発揮するロシア人一般。

ロシア人には弱いひとに優しい傾向があるといいます。
日本人も見習うべきところですね。

またサンクトペテルブルクとモスクワでは、
ずいぶん土地柄が違っているのだといいます。
わたしはベルリンと、
ミュンヘンやワイマールの異質さを想起させられました。

あと彼我の違いで、
いちばん学ぶべきだと強く思ったのは。
「ロシア社会が加点法で回っている」話ね。

「60点で合格できるなら無理してまで、
それ以上を目指す必要はない」。

こういう割り切った合理主義が、
ロシア社会の根底にはあるそうです。

何事も100点満点で完璧なのが、あたりまえ……
な日本とは対照的ですね。
わたしは、ここのところロシアを見習うべきだと思うわ。

ロシアの大衆は日本について詳しくないけど、
なんとなく日本に好感を持ってるのだとか。
ちょっと意外で驚かされました。

大雑把にロシアの「人と社会」を理解するには、
これ以上ないくらいの水先案内人になってくれる一冊です。

この本と『ロシアを決して信じるな』『夕暮れに夜明けの歌を』を、
併せて読むと、なんとなくロシア社会の輪郭が見えてくる……かも。
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2024/03/15 13:23
 泉鏡花の『鏡花短篇集』(岩波文庫)を読み終えました。
 ちょっと前に読了した『外科室・海城発電』に比べると、とっつきやすい作品が多め、という印象です。
 
 『ニ、三羽──十二、三羽』がなにげない雀に関する小説なのですが、いかにも鏡花マジックという感じで、鏡花独特の文体によって雀がまるで別の生き物のように「異化」していくさまが鳥肌ものでした。雀なだけに。
 
 それとやはりこれもケチくさい人物へのあてこすりのような『国定えがく』最後の最後まで、鏡花の美文調と、書物を主人公に返すまいとする平吉の描写が、単なるヒューマンドラマを超えて、なんだか読んでいるこちらがあやしい気分になってしまう……傑作です。
 
 たしかに鏡花作品は、あらすじだったり「物語」レベルだと大したことが起こらなかったり、起きてもほんのわずかな動き、そんななのですが、やはり小説、テクストの力といってもエクリチュールといっても、その魅力、「語る」という力がもう高い電圧を帯びているようで病みつきになります。
 
 そうそう、本書91ページ目に、「ご存知の通り、稲塚、稲田、粟黍の実る時は平家の大軍を走らせた水鳥ほどの羽音を立てて(以下略)」という文章があり、これがなんのことだかをわかったのが嬉しかったり。平維盛さん……。
 
 すらすらと読めるわけではないので、文章の創作に励む向きには、語彙の豊富さも含めてお勧めです。
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2024/03/14 22:27
トーマス・マン 『ヴェネツィアに死す』  岸 美光 (訳)  光文社古典新訳文庫
 2007年(電子版)


『ベニスに死す』という邦題で、
映画好きには広く知られた作品だと思います。
わたしもヴィスコンティの映画版を、
もと松竹の撮影所近くのホールで観ました。
十数年前のことだったかな。

映画では初老の主人公が美少年タッジオに恋をして、
ひたすらに彼の後をつけ回すんですよ。
ただ、くっついて歩くだけで、
それ以上は(声をかけることすら!)しません。

きわめてプラトニックと見るのか、
歳喰ってドンデンが来ちゃった変質者の話と見るか。
映画でタッジオをじっとり見つめるアッシェンバッハが、
わたしの目には後者と映ったことを申し添えます(笑)。

この原作ではアッシェンバッハの内面が丁寧に描かれます。
彼がタッジオに強く惹かれ、
かつ自らの恋情を正当化していくさまが読みとれました。

ギリシャ哲学などからの引用を絡めて衒学的に、
かつドイツ語にありがちな重文・複文を多用しているであろう、
ガッチガチに堅苦しい文体で綴られるんですよね。

この、とっつき難さから、
わたしはトーマス・マンを敬して遠ざけておりました。
けど読んでみると、なかなか、おもしろいです。
古典新訳文庫は訳がこなれており、
読みやすさのおかげもあるでしょうね。

せっかくドイツ文学に興味があるのに、
死ぬまでマンを読まないのも、もったいないよなー。
気難しく見えますけど、懐に入ってみると、
案外に愉快な友達になれる……と、いいんだけど。
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2024/03/14 12:35
 岩波文庫の『中勘助随筆集』(渡辺外喜三郎編)を読み終えました。
 有名な、というより岩波文庫で人気ナンバーワンのこともあった『銀の匙』はなんと夏目漱石に推されて世に出たわけですが、漱石の審美眼はやはり鋭いですね。
 
 きちんと日付を書き込んだ、日記文学のような随筆。
 どうしたらこのような詩的かつ繊細な文章が書けるのでしょうか。
 妹、母親、兄……さまざまな死に立ち会った悲痛な記録でもあります。
 
 小説というよりも詩、自身も詩人として生きていた、そんな方ですが、日記というある意味散文の極地ですら、詩情にあふれており、それがかなり成立するぎりぎりの線で書かれている、そんな感じです。
 ちょっとでもこの文章に加筆でも削除でもしようものなら、あっけなく崩壊してしまいそうな……。
 
 猫好きには短い作品ながらも絶対刺さる『猫の親子』も、精神だか神経を病んでいた実兄について書かれたなかに、ちょっとユーモラスである詩を交えた『遺品』なども、ただの美文ではない証明でしょうね……なにせ「ぴょくり玉うき ぱくり鯉」というフレーズが反復されたりする詩なのですから……。
 
 泉鏡花の作品がそうであるように、本書もまた品切れ中です。
 このような作品がすぐに入手できないのは残念ですね。
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2024/03/13 22:04
シルヴィア・プラス 『メアリ・ヴェントゥーラと第九王国』  柴田 元幸 (訳)
 集英社 2022年


図書館で借りた本です。
何度も読み終えられずに途中で返して、
今回ようやく読了できました。

アメリカの詩人シルヴィア・プラスによる、
短編小説を集めた一冊。

プラスといえば詩人としての評価が固定していますし、
散文では長編『ベル・ジャー』があります。
短編は余技とみなされがちというか、
あまり目立たない業績だったんですよね。

けどハリケーンが来た日の病院を描く
「ブロッサム・ストリートの娘たち」など、
たぶん、どこに出しても通用しそうな優れた作品です。

標題作『メアリ・ヴェントゥーラと第九王国』では、
悪夢のような世界が印象に残ります。
主人公は脱出できたのでしょうか、それとも……

いまより人生の選択肢が限られていた時代の、
若い女性が将来への不安を象徴的に描いた……
とも解釈できますね。

いずれにせよ生きていくことに伴う痛みや、
喪失や不自由さという主題は通底しています。
彼女がもっと長生きして、
たくさんの短編を書いてくれていたら……

と、想像せずにはいられません。

プラスといえば『ベル・ジャー』をはじめて読んだ折のこと。
「あたかもガラスでできた鐘のなかにいて、
自分だけが世界のすべてと隔離されているように感じられた」。

そのくだりが、わたし自身の体験と酷似しており
「シルヴィア・プラスが、わたしとおなじこと言ってる!」
自分の存在そのものが素手で握られたような、
言葉では掬いきれない感慨に身が震えたことが忘れられません。
***このコメントは削除されています***
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2024/03/13 22:02
シルヴィア・プラス 『メアリ・ヴェントゥーラと第九王国』  柴田 元幸 (訳)
 集英社 2022年


アメリカの詩人シルヴィア・プラスによる、
短編小説を集めたものです。

プラスといえば詩人としての評価が固定していますし、
散文では長編『ベル・ジャー』があります。
短編は余技とみなされがちというか、
あまり目立たない業績だったんですよね。

けどハリケーンが来た日の病院を描く
「ブロッサム・ストリートの娘たち」など、
たぶん、どこに出しても通用しそうな優れた作品です。

標題作『メアリ・ヴェントゥーラと第九王国』では、
悪夢のような世界が印象に残ります。
主人公は脱出できたのでしょうか、それとも……

いまより人生の選択肢が限られていた時代の、
若い女性が将来への不安を象徴的に描いた……
とも解釈できますね。

いずれにせよ生きていくことに伴う痛みや、
喪失や不自由さという主題は通底しています。
彼女がもっと長生きして、
たくさんの短編を書いてくれていたら……

と、想像せずにはいられません。

プラスといえば『ベル・ジャー』をはじめて読んだ折のこと。
「あたかもガラスでできた鐘のなかにいて、
自分だけが世界のすべてと隔離されているように感じられた」。

そのくだりが、わたし自身の体験と酷似しており
「シルヴィア・プラスが、わたしとおなじこと言ってる!」
自分の存在そのものが素手で握られたような、
言葉では掬いきれない感慨に身が震えたことが忘れられません。
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2024/03/13 15:23
 網野善彦先生の『異形の王権』(平凡社ライブラリー刊)を読み終えました。
 
 平家・平氏関連の熱が高くなり、で、なにか時代が近い歴史の本ということで、『異形の王権』を手にとって読み始めたのですが……なんですかこの面白さは……!!
 
 文化人類学の山口昌男先生の考えを知っていると楽しさが倍増するかと思うような、「中心と周縁」、「聖と俗」が固定されずに行ったり来たりの運動をするダイナミズム、それが賤民だったりあるいは後醍醐天皇だったりを突き動かすさまは読んでて快感すらおぼえました。
 
 なにせ後醍醐天皇に至っては、現職の天皇でありながら、歓喜天《ガネーシャ》まで祀り、密教の護摩を炊いたりして、倒幕のための呪法まで奏上されるという。
 それにしても後醍醐天皇は、当時の遷代、相伝の論理でいえばかなり天皇でいることが危なかったのです。
 職能、職民という概念が極まりすぎて、後醍醐天皇も「天皇職」という危機にさらされてしまったのですね。なんとかそれに巻き込まれずに済んだのですが。
 
 歴代の天皇の中で、本当に極私的な興味ですが、8歳で入水された安徳天皇に続き、今度は後醍醐天皇がきてます。面白いといってしまっては不敬かもですが、いやーこのあたりの歴史は面白いですね。
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2024/03/12 16:37
 岡本太郎さんの『自分の中に毒を持て (増補版)』(青春文庫刊)を読み終えました。これは先日お買い物のついでに某リサイクルショップの中の新刊書店で買ってきたもの。
 ちなみに本書は玲文堂さんでも見かけたことがあり、買っておけばよかったです……。
 
 まあそれで本書の熱さといったらたまりません! 人の魂を鼓舞させるような熱い言葉……それもこちらには痛いぐらいの……乱れ撃ち。駄目な人間なら、そのマイナスに賭けてみろ、とか普通言えませんよ!
 
 というかパリに渡った岡本太郎さん、「呪われた思想家」ことジョルジュ・バタイユと交流があったというのは驚きでした(バタイユの主催する神聖社会学研究会《コレージュ・ド・ソシオロジー・デ・サクレ》のメンバーにもなっていたとか)。
 なので、岡本太郎さんの言葉にはたしかにバタイユっぽい響きがあるのもたしか。有名な「芸術は、爆発だ」もそうですし。
 
 そもそもわたしが岡本太郎さんに惹かれたのは、彼の絵、「傷ましき腕」が最初でした。ジョアン・ミロのかわいらしい抽象画から抽象画の魅力を知り、その流れで岡本太郎さんの「傷ましき腕」にたどりついたのです。
 この作品はできたら検索して観て欲しいです。
 
 ちなみに岡本太郎さん、スタンダールの『赤と黒』について触れている箇所があるのですが、わたしはコロナ禍前あたりに、異端のフランス文学(マンディアルグやユイスマンス、バタイユ、ジュネ、ラブレーなどなど)への傾倒だけじゃなく、それこそスタンダールやバルザック、ジッドなど、メジャーな仏文学も読んでいこう……と決意してぜんぜん読んでいないという……。
 
 「人間の辛さというのは、つまらぬことでも覚えていること、忘れられないことだと思う」(岡本太郎)
 
 自分にとって攻撃的な過去の記憶の断片が立ち現れてはまた別の断片に切り替わり、パソコンがフリーズしたようになる、そういう辛さもそうですね(パソコンのフリーズは、パソコンがなにもしていないからではなく、計算の速度がエラーで暴走し、なにも受け付けられない状態なのです)。
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2024/03/10 13:21
 保田與重郎《よじゅうろう》先生の『和泉式部私抄』(新学社 保田與重郎文庫刊)を読み終えました。
 
 先日の泉鏡花もそうですが、いまどき、いまさら、という感もあるでしょうが「積み本減らし」でたまたま鏡花や和泉式部への興味が湧いたので読んでみました。
 
 鏡花も正仮名遣い、本書も、というより保田與重郎先生がそもそも日本浪漫派の方なので文章は正漢字・正仮名遣いです。
 正漢字・正仮名遣いだってだけでわたしの採点は異常に甘くなります。
 
 それにしても、和泉式部と清少納言が歌のやりとりをした記録が残っていたり、紫式部とも同時代であったりと、一口に平安時代といえど……かなり長く続いた時代であったのに……もちろん男性の歌人もたくさん輩出されたのですが、女性の文学者の残した凄みに圧倒されます。
 
 「歌は短いから複雑な思想をあらはし得ぬなどと云ふのは思想の生まれる場所を知らず、複雑な思想を生きるすべを知らぬ俗物共の告白にすぎない。疑ふならば法然を見よ、親鸞を見よ、道元を見よ、さらに俗な者は、聖書の中の格言の如き句をみよ」
 
 なんて痛快な言葉でしょうね。和歌(現代の短歌でも)はその三十一《みそひと》文字が小宇宙《ミクロコスモス》なのです。これは短編小説について、篠田節子先生が、けして短編はただの生活の切り取りではない、短編小説もまたひとつの宇宙なのだ、というようなことを書かれておりましたが、まったく同感です。
 
 それにしても、後世の評価は「戀ぐるひ」みたいに思われがちだった和泉式部へのなんと熱い評論なのか、と思います。
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2024/03/09 18:23
 泉鏡花の『外科室・海城発電』(岩波文庫)を読み終えました。
 ずーっと昔に『高野聖』、少し昔にハードカバーで、かなり註解やイラスト図解がていねいな本をのぞけば、ある意味初の鏡花作品集です。
 
 やっと、普通に岩波文庫の鏡花をなんとか読めるレベルに到着。そんな気がします。
 鏡花の作品内容ははっきり言っちゃうと通俗・荒唐無稽、ただし、それを包む文章が、もの凄い熱というか電圧を感じる、だから鏡花だけは実際の作品でそのテクスチャを味わって欲しい、と。
 
 文語体なので、岩波文庫版も正かなづかひなのもよき(ちなみに文語体であれば正かなを用いること、と文部省(文科省)が決めています)。
 
 それにしてもなんという語彙の豊富さと、それを鏤《ちりば》めた文章なんでしょう……いきなりでアレですが、わたしはこの短編集、「琵琶伝」と「化銀杏」が好きです。
 とくに「化銀杏」。廿一(二十一ですね)歳のお貞《てい》と、二階に住んでいる十六歳の芳之助とのやりとり。「ちよいと聞賃《ききちん》をあげるから」と、旦那を呪うに近いお貞の独白がもう読んでいて、文章に酔ってしまえる、最上の文芸作品でした。
 
 有名な「外科室」も「海城発電」も。
 「海城発電」は、なにかSFチックな発電所でも舞台なのかと思ったらさにあらず、海城(という土地?)での電報の発信なので「発電」なんですね。
 
 解説にもあるように、本当に書かれた内容そのものは極端です。
 でもそれをきらびやかな語彙をぶちまけるように書かれたりしたら、わたしも芸者にでもなって鏡花のファンクラブ、九九九会に入りたくなるぐらい。
 
 かなり早いですが、24年前半期の面白かった本トップに来るぐらいの作品集です! ──ちょっと読むのに骨が折れましたけどね。
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2024/03/05 21:21
河合 隼雄 『昔話の深層 ユング心理学とグリム童話』 講談社+α文庫 1994年
 (電子版) 初出は福音館 1977年


著作の多い河合先生。
これは代表作のひとつに推せるのではないでしょうか。

グリム童話を題材に日本の昔話とも比較しながら、
ユング心理学の代表的な概念や考えかたを紹介します。

冒頭の「トルーデさん」からして凄絶な話です。
主人公の少女は両親の制止を聞かず、
魔女とおぼしきトルーデさんに会いに行きます。
彼女の身にふりかかる、とんでもない結末とは……

グリム童話には野趣のあるお話が多くておもしろいけど!
洋の東西を超えて広く読み継がれる理由は、
どこにあるのでしょうか。

本書では、わたしたち人間の無意識の深みにあるイメージ
「元型」をグリム童話が表現しているから……
と解釈しているんです。

たしかに筋だけを見ていると素朴で荒唐無稽で、
文学的な洗練にはほど遠いものが多く見られます。
意識による彫琢とは距離があるからこそ、
荒々しい元型の力を保持しているということですね。

アニマ・アニムスについてのくだりで紹介されていた、
シベリアのこんな昔話にぞっとさせられました。

川向うにある森から美しい女が現れて、
この世のものとは思えない見事な歌声を披露します。
対岸にいた猟師は服を脱いで川に飛び込みました。
ところが女が「死と眠りの歌」を始めたので、
そのまま川の中で猟師は溺死してしまいます。

原著が書かれたのは四十年近く前のことで、
古くなっている箇所も散見されました。
こんにちの視点で読み直される必要があるし、
それだけの価値がある本ではないでしょうか。

福音館から出たハードカバー版には、
巻末に矢川澄子さん訳のグリム童話が掲載されていたそうです。
わたしが読んだ電子版では、
なぜか割愛されていたことが大いに惜しまれます。
***このコメントは削除されています***
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2024/03/05 21:20
河合 隼雄 『昔話の深層 ユング心理学とグリム童話』 講談社+α文庫 1994年
 (電子版) 初出は福音館 1977年


著作の多い河合先生。
これは代表作のひとつに推せるのではないでしょうか。

グリム童話を題材に日本の昔話とも比較しながら、
ユング心理学の代表的な概念や考えかたを紹介します。

冒頭の「トルーデさん」からして凄絶な話です。
主人公の少女は両親の制止を聞かず、
魔女とおぼしきトルーデさんに会いに行きます。
彼女の身にふりかかる、とんでもない結末とは……

グリム童話には野趣のあるお話が多くておもしろいけど!
洋の東西を超えて広く読み継がれる理由は、
どこにあるのでしょうか。

本書では、わたしたち人間の無意識の深みにあるイメージ
「元型」をグリム童話が表現しているから……
と解釈しているんです。

たしかに筋だけを見ていると素朴で荒唐無稽で、
文学的な洗練にはほど遠いものが多く見られます。
意識による彫琢とは距離があるからこそ、
荒々しい元型の力を保持しているということですね。

アニマ・アニムスについてのくだりで紹介されていた、
シベリアのこんな昔話にぞっとさせられました。

川向うにある森から美しい女が現れて、
この世のものとは思えない見事な歌声を披露します。
対岸にいた猟師は服を脱いで川に飛び込みました。
ところが女が「死と眠りの歌」を始めたので、
そのまま川の中で猟師は溺死してしまいます。

原著が書かれたのは四十年近く前のことで、
古くなっている箇所も散見されました。
こんにちの視点で読み直される必要があるし、
それだけの価値がある本ではないでしょうか。

福音館から出たハードカバー版には、
巻末に矢川澄子さん訳のグリム童話が掲載されていたそうです。
わたしが読んだ電子版では、なぜか割愛されていたことが大いに惜しまれます。
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2024/03/05 19:23
 『田辺聖子の万葉散歩』(中公文庫刊)を読了しました。例のリサイクル・ショップの中の新刊書コーナーで買った一冊。
 
 本当に、田辺聖子さんの古典教養と読みやすくかつ流麗な解説の文章には日本人でよかった……という想いがします。
 
 それにしても、岩波新書の斎藤茂吉さん著の『万葉秀歌』は読了したものの、手持ちの本では折口《おりくち》信夫《しのぶ》さんの『口訳万葉集』(上下 これも中公文庫)は上巻の中ほどで読書がストップしており、なんだかんだで恥ずかしいことに万葉集を読破していないのですね……>わたし
 
 それにしても柿本人麻呂や大伴旅人といったメジャーな作者から、あまり有名ではない作者、そもそも詠み人知らずの作品まで、田辺聖子さんの名調子で楽しめます。
 
 短歌(和歌)は脳内にダイレクトに入る音楽、とは倉橋由美子さんの言葉ですが、へんに雅やかだったり、技巧に走りすぎることのない万葉集は、こうした本でダイジェストでいいので味わってほしいですね。
 
 それにしても相聞歌だったり片想いだったり、やっぱり万葉の時代から、いちばんうけるのはやはり「愛」ですね。
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2024/03/04 11:42
 2023年度の夏の岩波文庫復刊フェアで入手した、『カルヴァン小論集』を読み終えました。
 三つの論が収録されているのですが、んー、もっと神学的に突っ込んだものかと思っていたら、わりと一般信徒向けの信仰書といったおむもき。
 
 『聖晩餐について』
 『聖遺物について』
 『占星術への警告』
 
 がその内容なのですが、『聖晩餐について』では、犠牲に捧げられたものを取って食べる、これが新約聖書でキリストが残された命令であり、キリストの「一回性」であること。
 これを無視するのはユダヤ人のやることである、とかなんだかんだ言ってユダヤ人への排斥って(キリストを殺されたからなのでしょうが)やはり根深い問題なのですね。
 
 またキリストや使徒たち、聖者たちの聖遺物を保存するのは尊敬のためであるが、それらの聖遺物の、史実に照らし合わせると、たとえばキリストの聖骸布などは何枚世界にあるのかわからない……。
 そしてさらに、いい加減な古物を誰々のなに、といって持ち上げその教会や修道院の「売り」にするのは偶像崇拝である、と。
 
 要するに、カトリックをディスっているのでしょう。
 カトリックとプロテスタントじゃ全然違いますもんね。前者にはあるマリア様崇拝も、「聖書のみ」がポリシーのプロテスタントにはありませんし……。
 
 文字通りプロテスタントはBookishって印象があります。カール・バルトやルドルフ・カール・ブルトマン、アドルフ・フォン・ハルナック……。実際、信徒の方もいきおい聖書や註解書、信仰書の類ばかり読んでいる……とか。
 一方カトリックのほうは神学も当然ですが、五感に訴えるミサとか前述のマリア様崇拝など、いいのか悪いのか自由な気がします。
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2024/03/01 12:42
 エブリスタのほうで盛り上がっている平家・平氏ですが、『平氏 公家の盛衰、武家の興亡』(倉本一宏著 中公新書)を読み終えました。
 
 まず第一に、固有名詞には全ルビふってほしかったです……というのも記憶力がだめなわたしには、あれ、これなんと読むんだっけ……が多くて;;
 
 やはり、というか神田明神好きにとっては、平将門公の部分にやられました。
 あとはぜんぜんわかっていなかったことも多く、将門公の活躍からその死が935~940年(朱雀天皇)、壇ノ浦での平家の滅亡が1185年……平家とかなり繋がりがあるのでここにポイント当てる!? みたいな感覚なのですが、安徳天皇の8歳での入水《じゅすい》とか、学研のブックス・エソテリカ『天皇の本』がいろいろと参考書になりました。
 
 また、巻末の参考文献にある、岩波新書の『平将門の乱』(福田豊彦著)も欲しくなりました。神田神保町の東京堂になければ、文庫川村にありそうです(註記:ありませんでした……)。
 
 しかし、平家と平氏の違いを踏まえて読むだけで、濃厚な歴史ドラマを味わえた本でもあります。
 
 一口に平氏とはいっても血や土地の源流が異なる平氏もあり、それゆえに抗争沙汰になったりとか……。
 
 しかし最近は中公新書が新書業界ではノシているような感じします。先日読んだ政治と神学をミックスしたような『カール・シュミット』とか、『折口信夫』の本とか。
 岩波新書にも頑張ってほしいのですが、若干リーダブルなのを優先で肝心の中身が……って感もします。でも前述の『平将門の乱』は絶対入手して読みたいですねー。
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2024/02/27 21:12
中村うさぎ マツコ・デラックス 『幸福幻想』 2022年 毎日新聞出版


ふたりが対談形式で回答する人生相談です。
持ってるはずの本が行方不明で、図書館で借りて再読。

もともとは『サンデー毎日』誌の連載記事。
近くのセブンでこれを立ち読みするのが、
わたしのささやかな楽しみのひとつです(笑)。

人生相談にありがちな欠点。
それは相談者と回答者のミスマッチなんだけど!
この本では、ふたりの対談でカバーしてるんですよ。
コロンブスの卵ではないですか。

フリーダムに見えるうさぎさんの暴走を、
常識人マツコさんが止める……
っていうのが基本的な役回り。

ふたりともカッコつけてなくて正直です。
わたしは今回、読み返して、
また得るところがいろいろありました。

特に響いたのは、だ。


 他人と比較するから不幸になる

 正しい人生も間違った人生も存在しない

 迷ったら後悔が少ないほうを選ぼう


このへんのアドバイスかな。
ほんとに、おもしろくてためになるんだよー。
ぜひとも広く手に取られてほしい本です。
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2024/02/23 11:25
日暮 泰文 『ブルース心の旅』 講談社文庫 1984年(電子版)
 (『ノイズ混じりのアメリカ : ブルース心の旅』 冬樹社 1980年 
 を解題のうえ文庫化、電子化したもの)


著者はPヴァイン・レコードの社長だといいます。
デルタ・ブルースの現場探訪や、
ブルースの歴史についてなど。

ばらばらに書かれた原稿だったそうですけど……
およそ半世紀前の日本における、
ブルース受容の状況を伝えてくれる本です。

デルタ(カントリー)・ブルースと、
シカゴ・ブルースの繋がりなど、
知らなかったことが、いくつも。
わたしにとっては得るところの大きな読書でした。

ブルースに絡めて紹介されている、
アメリカ黒人の歴史が、もう凄絶など通り越して、
かける言葉の見つからないようなもので……

奴隷解放後も南部では合法的に、事実上、
黒人を奴隷の立場に留める施策が行われていたんですね。

アーカンソーの刑務所で、
看守によるリンチ殺人が明るみに出たものの、
当局が揉み消してしまったのだとか。

巨大なアメリカ社会の、
底知れない暗部のごくごく一端を垣間見せられたような……

もちろん暗く陰惨な話ばかりではなく、
ブルースという音楽の美しさ愉しさに、
あらためて目を向けさせてくれる好著です。
***このコメントは削除されています***
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2024/02/23 11:23
日暮 泰文 『ブルース心の旅』 講談社文庫 1984年(電子版)
 (『ノイズ混じりのアメリカ : ブルース心の旅』 冬樹社 1980年 
 を解題のうえ文庫化、電子化したもの)


著者はPヴァイン・レコードの社長だといいます。
デルタ・ブルースの現場探訪や、
ブルースの歴史についてなど。

ばらばらに書かれた原稿だったそうですけど……
およそ半世紀前の日本における、
ブルース受容の状況を伝えてくれる本です。

デルタ(カントリー)ブルースと、
シカゴ・ブルースの繋がりなど、
知らなかったことが、いくつも。
わたしにとっては得るところの大きな読書でした。

ブルースに絡めて紹介されている、
アメリカ黒人の歴史が、もう凄絶など通り越して、
かける言葉の見つからないようなもので……

奴隷解放後も南部では合法的に、事実上、
黒人を奴隷の立場に留める施策が行われていたんですね。

アーカンソーの刑務所で、
看守によるリンチ殺人が明るみに出たものの、
当局が揉み消してしまったのだとか。

巨大なアメリカ社会の、
底知れない暗部のごくごく一端を垣間見せられたような……

もちろん暗く陰惨な話ばかりではなく、
ブルースという音楽の美しさ愉しさに、
あらためて目を向けさせてくれる好著です。
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2024/02/22 20:15
 藤枝静男さんの『落第免状』(講談社刊)を読み終えました。これは神田神保町の玲文堂さんの古書目録から買った一冊です。内容は小説じゃなくて随筆。
 
 ただ、前半あたりに作家やらとの付き合いの文章が多く、藤枝さんにとってはものすごい大先輩であったようですが、わたし個人としては志賀直哉とかはっきり書くと読む気にすらならないので……うーん、お好きな方はごめんなさい;;……ちょっとキツかったかな。
 
 後半や小旅行記、または藤枝さんのお好きな古い陶器の話題で、やはり好きなものごとを書くのは誰でも愉しいでしょうから、なにかこちらも読んでて愉しくなるのです。
 
 ……と、古い陶器といえば! 講談社文芸文庫に『空気頭』と2in1でリリースされた『田紳有楽』ですよ! 茶器やぐい飲みなどが擬人化されて金魚を孕ませたり、他の水場や湖へと瞬間移動できるとか……!
 この随筆集はあまり勧められないかもですが、あ、こんなところに藤枝静男さんの「好き」が小説になっているのだなぁ、と>『田紳有楽』。
 本当にもし『田紳有楽』と『空気頭』の本があったら、多少のプレ値はとにかく買っておいたほうがいいです。そのぐらいおかしな小説です……!
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2024/02/15 17:43
ジョゼ・エドゥアルド・アグアルーザ 『過去を売る男』 
 木下 眞穂(訳)  白水社 エクス・リブリス 2023年


アンゴラの小説家による長編。
図書館で借りた本です。

「お子さんに、より良い過去をプレゼントしませんか」。
アルビノの男が著者の夢に現れたそうです。
それをヒントに書かれた作品だといいます。

主人公フェリックス・ヴェントゥーラは、
アンゴラの首都ルアンダに暮らしています。
彼の仕事は「過去を売る」こと。

顧客たちの依頼に応えて、
さまざまな経歴を証拠の品とともに用意します。

長年の内戦が終わったアンゴラでは、
新興のブルジョワジー層が台頭しています。
華やかな過去を欲しがる彼らが、
フェリックスを訪ねるわけです。

あるときフェリックスのもとに、
ひとりの外国人が現れ……

筋書きだけを見るなら、
日本のエンタメ小説家が考えそうな話です。
けれどアンゴラには血みどろの内戦が続いた歴史があり、
それが本作に絵空事を超えた重みを与えています。

本邦のエンタメみたいな、
ウェルメイドな小説じゃないんですよ。
読者は安心して現実に還ってはこられません。

フェリックス宅に棲む「やもり」が語る、
詩的な言葉の裏にある歴史の嘘と悲哀。
それらが作り込まれた筋の巧妙さなどより、
わたしの心を深く打ちました。
***このコメントは削除されています***
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2024/02/14 20:20
ジョゼ・エドゥアルド・アグアルーザ 『過去を売る男』 
 白水社 エクス・リブリス 2023年


アンゴラの小説家による長編。
図書館で借りた本です。

「お子さんに、より良い過去をプレゼントしませんか」。
アルビノの男が著者の夢に現れたそうです。
それをヒントに書かれた作品だといいます。

主人公フェリックス・ヴェントゥーラは、
アンゴラの首都ルアンダに暮らしています。
彼の仕事は「過去を売る」こと。

顧客たちの依頼に応えて、
さまざまな経歴を証拠の品とともに用意します。

長年の内戦が終わったアンゴラでは、
新興のブルジョワジー層が台頭しています。
華やかな過去を欲しがる彼らが、
フェリックスを訪ねるわけです。

あるときフェリックスのもとに、
ひとりの外国人が現れ……

筋書きだけを見るなら、
日本のエンタメ小説家が考えそうな話です。
けれどアンゴラには血みどろの内戦が続いた歴史があり、
それが本作に絵空事を超えた重みを与えています。

本邦のエンタメみたいな、
ウェルメイドな小説じゃないんですよ。
読者は安心して現実に還ってはこられません。

フェリックス宅に棲む「やもり」が語る、
詩的な言葉の裏にある歴史の嘘と悲哀。
それらが作り込まれた筋の巧妙さなどより、
わたしの心を深く打ちました。
***このコメントは削除されています***
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2024/02/14 20:20
ジョゼ・エドゥアルド・アグアルーザ 『過去を売る男』 白水社 エクス・リブリス 
 2023年


アンゴラの小説家による長編。
図書館で借りた本です。

「お子さんに、より良い過去をプレゼントしませんか」。
アルビノの男が著者の夢に現れたそうです。
それをヒントに書かれた作品だといいます。

主人公フェリックス・ヴェントゥーラは、
アンゴラの首都ルアンダに暮らしています。
彼の仕事は「過去を売る」こと。

顧客たちの依頼に応えて、
さまざまな経歴を証拠の品とともに用意します。

長年の内戦が終わったアンゴラでは、
新興のブルジョワジー層が台頭しています。
華やかな過去を欲しがる彼らが、
フェリックスを訪ねるわけです。

あるときフェリックスのもとに、
ひとりの外国人が現れ……

筋書きだけを見るなら、
日本のエンタメ小説家が考えそうな話です。
けれどアンゴラには血みどろの内戦が続いた歴史があり、
それが本作に絵空事を超えた重みを与えています。

本邦のエンタメみたいな、
ウェルメイドな小説じゃないんですよ。
読者は安心して現実に還ってはこられません。

フェリックス宅に棲む「やもり」が語る、
詩的な言葉の裏にある歴史の嘘と悲哀。
それらが作り込まれた筋の巧妙さなどより、
わたしの心を深く打ちました。
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2024/02/10 15:16
 まさかこう来るか、という岩波文庫の『中上健次短編集』(道籏泰三編)を読了しました。
 岩波文庫、数年前から攻めてますね! グスタフ・ルネ・ホッケ、ジュリアン・グラック、サド、ジャン・ジュネ、三島由紀夫、大江健三郎、そしてポスト・フロイト派のジャック・ラカンまで……!
 
 大江はちょっと岩波における例外的な存在だから、生前に岩波文庫入りしましたが、それ以外で現代の国内文学で岩波文庫入りが中上健次は納得です。
 
 読んで思ったのが、前半はけっこう瑞々しい社会への軋轢や憎悪なんですよ。『十九歳の地図』とか。
 後半になると、解説で書かれているように、書かれながら、プロットなどがテクスト内部から自己崩壊していくさまが目立つ作風になっていきます。
 
 中上作品にとって重要な舞台、路地《ロージ》。ただの路地ではなく被差別的な場所なんですよ。
 そこを舞台にして、同じ路地組の連中との交流、女性との互いの身体がぶつかりあって一つになってしまうのではないかと思わせる交接……。
 
 そんなもちろん文学的に書かれた理由も意義もある交接シーン、たぶんほかの岩波文庫の中にはないでしょう。
 あとは、さすがにここには書けませんが、女性のオーガズムを指すある種の俗語三文字とか、こんな言葉岩波文庫だけでなく岩波の出版物でははじめてでは……!?
 
 ラスト三篇、『ラプラタ奇譚』、『かげろう』、『重力の都』は一回読むだけではもったいない、再読・精読すべき作品です。
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2024/02/09 14:46
冬日さつき 『灰かぶり少女のまま』 自費出版?版元記載なし(電子版)


まおちが薦めてくれた散文詩集。
日常のなかの些細なできごとや気づきから、
詩が生まれる瞬間に書き留めたような本です。

「ぬいぐるみが泣いていたから、
布団に入れてあげた」。

そういう感じの詩があって、
わたしはとても気に入りました。

誰もが心の底のほうに澱のように抱えていながら、
気づかなかったり見ないようにしてたりする孤独。
ささやかだけれど確実にそこにあって、
わたしたちひとりひとりを他者と区別するもの。

地面に足をつけて歩いていたはずなのが。
視線を上げて空を見たとき、
何かが、ふわっ、と立ちあがって、
自分の内側と外側が繋がって視界が開ける。

そんな体験を得られたときの情緒を、
たぶん詩情と呼ぶものだろうと思います。

あたりまえに呼吸して、
ときどき足を止めて、
目に入るもの耳に届くものを、
ひっそりゆっくりと慈しんで。

たぶん、そういうところからしか詩情は生まれなくて。
それは「効率」とか「生産性」とか、
それらに魂まで乗っ取られたクズどもとかを、
百万言を費やして罵倒するより有効な抗い否定するやりかたで。

だからこそ、わたしは、ゆっくりと、
まだまだ呼吸することを止めないでいます。
ざまぁ見くされ世の中。
くたばるのは、てめーらだ。

糞を喰らってやがれと叫ぶかわりに、
ぬいぐるみを布団に入れてあげようね。
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2024/02/06 21:14
尾形 真理子 『隣人の愛を知れ』 幻冬舎文庫 2021年(電子版)


小学生から還暦手前まで、
六人の女性たちが交替で主人公を務める長編小説です。
あるエピソードの主役が、
別なところでは脇役として登場して……

人物どうしが思わぬかたちで絡んでいく結構、
フィクションの醍醐味のひとつですね。

同時に考えさせられるところも。
登場人物の多くが問題を抱えているけど、
それは自分を素直に肯定できないからなんですよ。

誰かに愛されているとか、
世の中から認められているとか。
わたしたち人間は知らず知らず、
他者からの承認を生きる拠りどころにしがちです。

けれど先ずは誰よりも自分自身が、
自分の価値を認めて肯定してあげないと。
幸せにはなれないように思えました。

あと、ちょっと気になったこと。
男性陣のクズ率髙し(笑)。

作中いちばんの問題児だろ!と、
わたしに眉をひそめさせた誰かさん。
葛藤を抱えてると匂わせつつ、
核心に触れないまま終わっちゃったんです。
紙幅の関係でしょうか。

それから悪意は感じませんでしたけど、
同性愛を誤解してるように見える部分も。
広い世の中に、ああいうケースがないとは言えないのかな。

ともあれ良くできた映画を観ているようで、
読み進めるのが楽しみな小説でした。
***このコメントは削除されています***
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2024/02/06 21:14
尾形 真理子 『隣人の愛を知れ』 幻冬舎文庫 2021年(電子版)


小学生から還暦手前まで、
六人の女性たちが交替で主人公を務める長編小説です。
あるエピソードの主役が、
別なところでは脇役として登場して……

人物どうしが思わぬかたちで絡んでいく結構、
フィクションの醍醐味のひとつですね。

同時に考えさせられるところも。
登場人物の多くが問題を抱えているけど、
それは自分を素直に肯定できないからなんですよ。

誰かに愛されているとか、
世の中から認められているとか。
わたしたち人間は知らず知らず、
他者からの承認を生きる拠りどころにしがちです。

けれど先ずは誰よりも自分自身が、
自分の価値を認めて肯定してあげないと。
幸せにはなれないように思えました。

あと、ちょっと気になったこと。
男性陣のクズ率髙し(笑)。

作中いちばんの問題児だろ!と、
わたしに眉を顰めさせた誰かさん。
葛藤を抱えてると匂わせつつ、
核心に触れないまま終わっちゃったんです。
紙幅の関係でしょうか。

それから悪意は感じませんでしたけど、
同性愛を誤解してるように見える部分も。
広い世の中に、ああいうケースがないとは言えないのかな。

ともあれ良くできた映画を観ているようで、
読み進めるのが楽しみな小説でした。
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2024/02/06 12:51
 中井英夫さんの文庫版全集、その12、『月蝕領映画館』(創元ライブラリ刊)を読み終えました。
 
 この中井英夫さんの文庫版全集、ほぼ持っているのですが、なぜかこの巻は読んでおらず、もともとわたしの寝室だった部屋に詰め込まれた本の中から発掘して読んだ次第。
 
 中井さんの批評眼がかなりシビアです。しかもまるで新文芸坐のように幅広く観ておられますし……しかもあの中井英夫さんですから、文章もなんだか軽く酔えるような感覚……。
 
 それに中井さんガルボやデートリッヒお好きなのですね。そして表記が「ディートリッヒ」じゃなくて「デートリッヒ」なのもよき。
 
 当然、ニワカのわたしには未見の作品が多く、「これ観たい」という付箋が本にたくさん貼られております。
 
 しかし驚くのが、中井英夫さん、山田風太郎はわかるとして、意外なのが大藪春彦や西村寿行までお好きなんですね。代表作はみな読んだ、と書いてますし。
 あの『幻想文学』誌(ちなみに、ラヴクラフトやクトゥルー特集号)でも、物語性への回帰、とかで胡桃沢耕史がお気に入り……ということが書かれてましたし。
 
 そう、わたしは読むのがもったいなくて、という理由でなかなか手を出せずにいる本がいくつかありますが、中井英夫さんの全集もまたそんな感じです。『とらんぷ譚』をはじめけっこう読んでおりますけどね……。
 
 それにしても本書の帯に書かれた中井英夫さんの言葉、「小説は天帝に捧げる果物、一行でも腐っていてはならない。」という重みをひしひしと感じます。
***このコメントは削除されています***
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2024/02/01 22:56
新保祐司 『ブラームス・ヴァリエーション』 藤原書店 2023年


図書館で借りた本です。

エッセイとしてはおもしろく読めました。
これ評論としては、どうなんだろう。
著者は「文芸批評」と謳っていますけど……

ブラームスの音楽を「近代への挽歌」
と捉える見方には、わたしも同感できます。

ただ、それに続く「現代」の産物を、
無価値と断じるのは乱暴すぎやしませんか。

著者は十二音や無調の音楽とか、
世紀末や表現主義の美術が大っ嫌いな模様です。
わたしも無調とか十二音は苦手なんだけどさ。
ただ、これは言い過ぎではないかと。


> シェーンベルクはレーニンであり、
> ベルクはスターリン、
> ウェーベルンはトロツキーになぞらえることができる。


著者じゃなくセシル・グレイの言葉だそうです。
ベルクって大粛清とか、やらかしましたっけ(笑)?

あとクリムトの「ベートーヴェン・フリース」は
「説明するのも嫌になる」のだとか。

著者の美意識のありように、
わたしは若いころ観た「退廃芸術展」を想起させられました。

傾倒する小林秀雄がセザンヌを好んだからと、
ブラームスに結びつけて論じるくだりも強引です。

わたしもセザンヌの緑色は、
ブラームスの長調に通じる色感だと思うよ?
けどセザンヌみたいな大胆な革新性は、
ブラームスが敬遠したものだよね。

「文芸批評」ってこういうものなの?

天上に憧れる卑小な人間とか、
著者のブラームス観に大筋では共感できたけど……

あと、かつての職場の同僚とか、
お世話になった先人へ思いを馳せる部分には、
きまじめな良心性が感じられました。
これが著者の持ち味で、
同時に限界でもあるのでしょうね
(いかにも日本人のクリスチャンらしいです)。

「年にいちどくらい雨の降る日に、
ブラームスの四番交響曲を聴きたくなります」。
そう葉書に記して寄越したという、
還暦を過ぎた友人の言葉が印象に残りました。

ちなみにブラームスに関する評論で、
いちばん感心させられたのは吉松隆さんのもの。

http://yoshim.cocolog-nifty.com/office/2010/06/post-38d4.html
***このコメントは削除されています***
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2024/02/01 22:56
新保祐司 『ブラームス・ヴァリエーション』 藤原書店 2023年


図書館で借りた本です。

エッセイとしてはおもしろく読めました。
これ評論としては、どうなんだろう。
著者は「文芸批評」と謳っていますけど……

ブラームスの音楽を「近代への挽歌」
と捉える見方には、わたしも同感できます。

ただ、それに続く「現代」の産物を、
無価値と断じるのは乱暴すぎやしませんか。

著者は十二音や無調の音楽とか、
世紀末や表現主義の美術が大っ嫌いな模様です。
わたしも無調とか十二音は苦手なんだけどさ。
ただ、これは言い過ぎではないかと。


> シェーンベルクはレーニンであり、
> ベルクはスターリン、
> ウェーベルンはトロツキーになぞらえることができる。


著者じゃなくセシル・グレイの言葉だそうです。
ベルクって大粛清とか、やらかしましたっけ(笑)?

あとクリムトの「ベートーヴェン・フリース」は
「説明するのも嫌になる」のだとか。

著者の美意識のありように、
わたしは若いころ観た「退廃芸術展」を想起させられました。

傾倒する小林秀雄がセザンヌを好んだからと、
ブラームスに結びつけて論じるくだりも強引です。

わたしもセザンヌの緑色は、
ブラームスの長調に通じる色感だと思うよ?
けどセザンヌみたいな大胆な革新性は、
ブラームスが敬遠したものだよね。

「文芸批評」ってこういうものなの?

天上に憧れる卑小な人間とか、
著者のブラームス観に大筋では共感できたけど……

あと、かつての職場の同僚とか、
お世話になった先人へ思いを馳せる部分には、
きまじめな良心性が感じられました。
これが著者の持ち味で、
同時に限界でもあるのでしょうね
(いかにも日本人のクリスチャンらしいです)。

「年にいちどくらい雨の降る日に、
ブラームスの四番交響曲を聴きたくなります」。
そう葉書に記して寄越したという、
還暦を過ぎた友人の言葉が印象に残りました。

ちなみにブラームスに関する評論で、
いちばん感心させられたのは吉松隆さんのもの。

http://yoshim.cocolog-nifty.com/office/2010/06/post-38d4.html
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2024/02/01 22:54
新保祐司 『ブラームス・ヴァリエーション』 藤原書店 2023年


図書館で借りた本です。

エッセイとしてはおもしろく読めました。
これ評論としては、どうなんだろう。
著者は「文芸批評」と謳っていますけど……

ブラームスの音楽を「近代への挽歌」
と捉える見方には、わたしも同感できます。

ただ、それに続く「現代」の産物を、
無価値と断じるのは乱暴すぎやしませんか。

著者は十二音や無調の音楽とか、
世紀末や表現主義の美術が大っ嫌いな模様です。
わたしも無調とか十二音は苦手なんだけどさ。
ただ、これは言い過ぎではないかと。


> シェーンベルクはレーニンであり、
> ベルクはスターリン、
> ウェーベルンはトロツキーになぞらえることができる。


著者じゃなくセシル・グレイの言葉だそうです。
ベルクって大粛清とか、やらかしましたっけ(笑)?

あとクリムトの「ベートーヴェン・フリース」は
「説明するのも嫌になる」のだとか。

著者の美意識のありように、
わたしは若いころ観た「退廃芸術展」を想起させられました。

傾倒する小林秀雄がセザンヌを好んだからと、
ブラームスに結びつけて論じるくだりも強引です。

わたしもセザンヌの緑色は、
ブラームスの長調に通じる色感だと思うよ?
けどセザンヌみたいな大胆な革新性は、
ブラームスが敬遠したものだよね。

「文芸批評」ってこういうものなの?

天上に憧れる卑小な人間とか、
著者のブラームス観に大筋では共感できたけど……

あと、かつての職場の同僚とか、
お世話になった先人へ思いを馳せる部分には、
きまじめな良心性が感じられました。
これが著者の持ち味で、
同時に限界でもあるのでしょうね
(いかにも日本人のクリスチャンらしいです)。

「年にいちどくらい雨の降る日に、
ブラームスの四番交響曲を聴きたくなります」。
そう葉書に記して寄越したという、
還暦を過ぎた友人の言葉が印象に残りました。

ちなみにブラームスに関する評論で、
いちばん感心させられたのは吉松隆さんのもの。

http://yoshim.cocolog-nifty.com/office/2010/06/post-38d4.html
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2024/01/29 20:27
 吉田秀和さんの『バッハ (増補版)』(河出文庫刊)を読了いたしました。
 
 下げてから上げると、この本はちょっと読みづらいのです。長いセンテンス、かなり頻繁に出現する二重否定……(「驚かないわけにはいかない」みたいな文)。
 
 とはいえ、バッハの魅力に肉迫しつつ、文章は音楽たり得ないもどかしさに満ち満ちた一冊でもあります。
 個々のバッハの作品解説、よい演奏のディスクの紹介がえんえんと続くのですが、わたしはバッハ好きなものの、ずいぶん聴いていない曲やディスクがあるなと猛省しました。
 
 たとえば『マタイ受難曲』。
 このころの音楽は、自己表現というよりは教会のための音楽だったり、『平均律クラヴィーア』や『インヴェンションとシンフォニア』のようにある種の教材だったのですね。
 
 それなのに、音楽の愉しみがぎゅっと詰まっているバッハの楽曲。
 そして、また聴き直してしまう紹介文の巧みさ。
 バッハはまたクラシック入門にもよいし、なんとなくBGMに使っても、クラシック喫茶で聴くように全身全霊をつくしてバッハと対峙するのもよし、バッハの音楽の幾何学的な魅力があますところなく解説されております。
 
 著者はグレン・グールドの演奏もかなりお好きらしいのも嬉しいポイントですね。わたしもグールドの弾くバッハ好きです。
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2024/01/28 22:32
板橋 拓己  『アデナウアー 現代ドイツを創った政治家』 中公新書 2014年(電子版)


旧西ドイツ戦後復興の立役者とされる元首相の評伝です。
まったく知らない人物だったので読んでみました。

できるかぎり中立的な記述を心がけて書かれたようです。
情緒的な評価に偏らず、
かつ読みやすいことに好感が持てます。

権力の座に着いた年齢や来歴、
業績などがヒトラーと対照的な印象を与えます。
いまでもドイツではしばしば両者が比較されるそうです。

瀕死のドイツに自由民主主義体制を整え、
かつての敵国の面々とも緊密な関係を築きました。
こう書くと救国の英雄ですけど……
ダメな部分も多々あったそうですよ。

こうと思いこむと突っ走る強引かつ独善的な性格で、
「下劣な」権力闘争に明け暮れて晩節を汚したといいます。

時代状況が異なれば、どうなっていたか……
と思わせる危なっかしさを抱えた人物と、
わたしには見えました。

「会議で最後まで座っていられること」が、
政治家としての成功の秘訣だと標榜していたアデナウアー。
根気強さと堅実さに裏打ちされた現実主義が、
当時のドイツ社会に必要とされていたのでしょうね。

あとがきで著者が刊行当時の日本における「保守政治家」
の体たらくに慨嘆していたことが印象に残っています。
***このコメントは削除されています***
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2024/01/28 22:14
板橋 拓己  『アデナウアー 現代ドイツを創った政治家』 中公新書 2014年(電子版)


旧西ドイツ戦後復興の立役者とされる元首相の評伝です。
まったく知らない人物だったので読んでみました。

できるかぎり中立的な記述を心がけて書かれたようで、
情緒的な部分が少なく読みやすいことに好感が持てます。

権力の座に着いた年齢や来歴、
業績などがヒトラーと対照的な印象を与えます。
いまでもドイツではしばしば両者が比較されるそうです。

瀕死のドイツに自由民主主義体制を整え、
かつての敵国の面々とも緊密な関係を築きました。
こう書くと救国の英雄ですけど……
ダメな部分も多々あったそうですよ。

こうと思いこむと突っ走る強引かつ独善的な性格で、
「下劣な」権力闘争に明け暮れて晩節を汚したといいます。

時代状況が異なれば、どうなっていたか……
と思わせる危なっかしさを抱えた人物と、
わたしには見えました。

「会議で最後まで座っていられること」が、
政治家としての成功の秘訣だと標榜していたアデナウアー。
根気強さと堅実さに裏打ちされた現実主義が、
当時のドイツ社会に必要とされていたのでしょうね。

あとがきで著者が刊行当時の日本における「保守政治家」
の体たらくに慨嘆していたことが印象に残っています。
***このコメントは削除されています***
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2024/01/28 22:13
板橋 拓己  『アデナウアー 現代ドイツを創った政治家』 中公新書 2024年(電子版)


旧西ドイツ戦後復興の立役者とされる元首相の評伝です。
まったく知らない人物だったので読んでみました。

できるかぎり中立的な記述を心がけて書かれたようで、
情緒的な部分が少なく読みやすいことに好感が持てます。

権力の座に着いた年齢や来歴、
業績などがヒトラーと対照的な印象を与えます。
いまでもドイツではしばしば両者が比較されるそうです。

瀕死のドイツに自由民主主義体制を整え、
かつての敵国の面々とも緊密な関係を築きました。
こう書くと救国の英雄ですけど……
ダメな部分も多々あったそうですよ。

こうと思いこむと突っ走る強引かつ独善的な性格で、
「下劣な」権力闘争に明け暮れて晩節を汚したといいます。

時代状況が異なれば、どうなっていたか……
と思わせる危なっかしさを抱えた人物と、
わたしには見えました。

「会議で最後まで座っていられること」が、
政治家としての成功の秘訣だと標榜していたアデナウアー。
根気強さと堅実さに裏打ちされた現実主義が、
当時のドイツ社会に必要とされていたのでしょうね。

あとがきで著者が刊行当時の日本における「保守政治家」
の体たらくに慨嘆していたことが印象に残っています。
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2024/01/28 11:24
 H・P・ラヴクラフトの『狂気の山脈にて』(南條竹則編訳 新潮文庫刊)を読み終えました。
 
 じつはわたし、ポオもラヴクラフトもなぜか苦手意識があって……だけど、なにかこう必須科目というか、これから先、好きになるんじゃないかという気持ちもあって、手を出したりしております。
 
 で、創元のよりも冊数の少ない、新潮文庫のクトゥルー神話傑作選の本書を読んでみました。
 第一印象は読みづらいw これはまるで澁澤龍彦様の言葉のようですが、「いい悪文」なんですよ。絶対これ、ラヴクラフトの美学に沿って書かれているだろう、と。
 単純に一センテンスが長いとかもあるのですが。
 
 本書収録作品だと、『エーリッヒ・ツァンの音楽』、ちょっと高踏的な『猟犬』(ユイスマンスの名前が出てきて感激!)、ラストを飾る『時間からの影』がとくに好みでした。
 タイトル作の『狂気の山脈にて』もいいのですが、人類史の始まりよりずっと昔に存在していた(あるいはいまだに存在している)、「大きなる古きものら」がちらちら描写されるのが、人類対時空間を超えた存在という無理ゲーきわまりない恐怖を感じます。
 
 さすがコズミック・ホラーといいたいところなのですが、それにたった今、恐怖を感じますとか書いておいてなんですが、この怖さって怖さというよりも不安ですよね。ああ、なんかヤバいもの読んでる感というか。
 
 あの『幻想文学』誌のラヴクラフト(クトゥルー神話)特集を持っているので、それを読んで、新潮文庫の傑作選、『インスマスの影』や『アウトサイダー』に手を出すのもいいですね。
 
 それにしてもクトゥルー神話が新潮文庫の100冊に入ってしまうとは凄い世の中です。
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2024/01/26 15:00
 古今亭志ん生の『志ん生芸談(増補版)』(河出文庫)を読み終えました。
 たしかに落語の神様ですよね。ジャズでいえばチャーリー・パーカー(そのあとにモダン・ジャズを演り尽くすマイルス・デイヴィスのポジションが立川談志さん)。
 
 生い立ちや、噺家としてデビューしてからの極貧生活などなど、おなじネタが反復しちゃう本書は、それでもなぜか、志ん生のあの語り口で脳内再生されちゃいます。
 にしても、もともと池かなにかをごみで埋めたとこの長屋のなめくじが大量に湧いて困っただの、奥様の足になめくじが食いついたなど……壮絶!!
 
 増補版で追加された、志ん生の川柳がまた粋です。
 まあ、当時だからそれも許されたのでしょうが、飲む打つ買うを、奥方になる方にあらかじめいい含め、結婚したその日にもう遊びにいっちゃうとか、立川談志さんの言葉ですが、「落語は人間の業の肯定」ですね。
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2024/01/24 21:57
米原万里 『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』 2001年 角川書店(現KADOKAWA)
(電子版)


著者はロシア語の同時通訳でエッセイスト、ノンフィクション作家。
2006年に56歳で亡くなっています。

チェコスロバキアの在プラハ・ソビエト学校に通っていた、
1960年代前半の思い出と、
後年に再会した友人たちとのエピソードを綴ったノンフィクションです。
リッツァ、アーニャ、ヤスミンカという、3人の同級生たちが登場します。

まず、ひとりひとりのキャラが猛烈に立っていて魅力的です。
「おませ」な半面、地に足の着いたリアリストのリッツァ。
虚言癖があるけど、おっとりした気性で愛されるアーニャ。
クラスいちばんの優等生で画才に恵まれたヤスミンカ。

ソビエト学校は各国の共産党の有力者の子弟が通う、
エリート学校だったんですね。
著者の学校友達トリオも、
ソ連の崩壊や民族紛争の影響を受けています。

日本では情報の少ない東欧
(現地のひとたちは中欧と呼称するそうです)
の現代史を個人の視点から描いており、
非常に興味深く読めました。

共産主義の理想と現実を、
身をもって示した人物のエピソードも登場します。
「革命の闘士」が宮殿みたいなお邸で暮らして、どーするよw

あとレーニンの記録映画を見せられた際に
「レーニンっていい生活してたんだねぇ」。
十歳くらいの年齢で本質を喝破した、
リッツアの眼力には敬服させられました。

労働者の代表を自称したレーニンは恵まれた階層の出身で、
終生、生活には困っていなかったそうです。
人間ってなぁ……(U`ェ´)ピャレピャレー

それとさぁ。
日本に帰ってきた著者が学校でショックを受けたのは。
生徒たちが平然と他人の外見について、
侮蔑的なあだ名を口にしていることでした。
ソビエト学校では一切そういうの無かったんだって。

なんと野蛮な人々かと呆れたそうです。
まったく、この国ときたら(U`ェ´)ピャレピャレー
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2024/01/24 21:56
米原万里 『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』 2001年 角川書店(現KADOKAWA)
(電子版)


著者はロシア語の同時通訳でエッセイスト、ノンフィクション作家。
2006年に56歳で亡くなっています。

チェコスロバキアの在プラハ・ソビエト学校に通っていた、
1960年代前半の思い出と、
後年に再会した友人たちとのエピソードを綴ったノンフィクションです。
リッツァ、アーニャ、ヤスミンカという、3人の同級生たちが登場します。

まず、ひとりひとりのキャラが猛烈に立っていて魅力的です。
「おませ」な半面、地に足の着いたリアリストのリッツァ。
虚言癖があるけど、おっとりした気性で愛されるアーニャ。
クラスいちばんの優等生で画才に恵まれたヤスミンカ。

ソビエト学校は各国の共産党の有力者の子弟が通う、
エリート学校だったんですね。
著者の学校友達トリオも、
ソ連の崩壊や民族紛争の影響を受けています。

日本では情報の少ない東欧
(現地のひとたちは中欧と呼称するそうです)
の現代史を個人の視点から描いており、
非常に興味深く読めました。

共産主義の理想と現実を、
身をもって示した人物のエピソードも登場します。
「革命の闘士」が宮殿みたいなお邸で暮らして、どーするよw

あとレーニンの記録映画を見せられた際に
「レーニンっていい生活してたんだねぇ」。
十歳くらいの年齢で本質を喝破した、
リッツアの眼力には敬服させられました。

労働者の代表を自称したレーニンは恵まれた階層の出身で、
終生、生活には困っていなかったそうです。
人間ってなぁ……(U`ェ´)ピャレピャレー

それとさぁ。
日本に帰ってきた著者が学校でショックを受けたのは。
生徒たちが平然と他人の外見について、
侮蔑的なあだ名を口にしていることでした。
ソビエト学校では一切そういうこと無かったんだって。

なんと野蛮な人々かと呆れたそうです。
まったく、この国ときたら(U`ェ´)ピャレピャレー
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2024/01/22 20:46
ダイアナ・ウィン・ジョーンズ 『九年目の魔法』  浅羽 莢子 (訳)  創元推理文庫
 1994年(電子版)


この本とは紙の文庫で出た折に出会い、
いたく気に入って何度か読み返しています。

とはいっても若いころの話ですから、
とっくに細部が記憶から抜け落ちてしまってまして。
電子書籍で、ひさしぶりの再読でした。

大学生のポーリィはあるとき、
自らの記憶に曖昧な部分があることに気がつきます。
それはチェロ奏者の青年リンさんにまつわるもので……

「女の子の成長物語」と
「超自然が絡むファンタジー」。
いずれか片方だけなら、
ここまで魅力的な物語にはならなかったはずです。
両者が有機的に絡みあって、
著者にしか書き得ない世界に結実しました。

脇役の大人たちが強く印象に残ったのは、
わたしが歳を重ねたせいかもしれません。
ポーリィの母親アイビーは愚痴っぽい人物ですけど
「人生に優しくしてもらえなかった」んですよね。
この言葉には、いろいろ考えさせられました。

敵として登場するハンズドン館の面々に、
単純な悪人が配されていないことに好感が持てます
(この種の作品だと非常に俗っぽくなるから)。
首魁ローレルの手先として暗躍するリーロイさんも、
老いや死に怯える臆病でちっぽけな大人でしかありません。

末永く読み継がれていってほしい名作です。

あと、ひとつだけ気になったこと。
1984年に発表された時点でポーリィが19歳と考えると……

その数年前に彼女の友人たちが、
ドアーズに夢中って時代的にどうなの?
ストーンズやフーのポスターを部屋に貼ってたり。

80年前後のイギリスなら、
XTCとかPILあたり聴いてそうな気がするんだけどな。
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2024/01/19 22:52
武田 惇志, 伊藤 亜衣 『ある行旅死亡人の物語』 毎日新聞出版 2022年(電子版)


アパートの一室で、
高齢の女性が孤独死していました。
3,400万円の現金が手提げ金庫に残されており、
故人の身元を特定できる遺品がありません。

警察は探偵を雇って女性の身辺を洗いました。
ところが収穫はゼロ。
女性の死に事件性が認められなかったことから、
放置された事案にふたりの新聞記者が動きます。

不可解な点が多々あり
「北朝鮮の工作員と関わりがあったのでは」
とまで憶測を呼んだ女性の正体は……

休み返上で自腹を切りながら取材を行った労作。
記者の書いた文章だけに読みやすいです。

亡くなった女性「ちづこさん」のわずかな遺品に
「沖宗」という姓の印鑑があったそうです。
めずらしい名字だったことから突破口が開けます。

ちづこさんの関係先や故郷が、
すこしづつ明らかになっていくんですよ。

ただし最後まで、いくつかの謎は残ったままです。
けど終盤で大学の先生が高額の所持金について
「宝くじに当たったんじゃないですか」
って言ってるんですね(笑)。

案外に不可解な点の大半が、
こういう常識で説明できちゃう真相なのかも。

市井の片隅でひっそり暮らす無名の人物にも、
固有の「かけがえのない」人生があります。

誰のどんな人生とも交換不可能で、
それゆえに価値を備えたもののはずです。

そこに光を当てているから、
わたしは、この本とても良い仕事だと思いました。

墓泥棒のような印象を持つ読者もいるでしょうけど。
わたしは広く読まれていることを好意的に評価します。

ぬいぐるみの犬を「たんくん」と名づけて、
終生、大切に可愛がっていた、ちづこさんのご冥福をお祈りします。
会って、ぬいぐるみ談義に花を咲かせたかったぜ。

表紙の絵でも、ちづこさんと思しき女性が、たんくんを連れてて!
わたしの涙腺を崩壊させやがります。

ちづこさん、たんくんと天国でも仲良くね。
***このコメントは削除されています***
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2024/01/19 22:51
武田 惇志, 伊藤 亜衣 『ある行旅死亡人の物語』 毎日新聞出版 2022年(電子版)


アパートの一室で、
高齢の女性が孤独死していました。
3,400万円の現金が手提げ金庫に残されており、
故人の身元を特定できる遺品がありません。

警察は探偵を雇って女性の身辺を洗いました。
ところが収穫はゼロ。
女性の死に事件性が認められなかったことから、
放置された事案にふたりの新聞記者が目をつけます。

不可解な点が多々あり
「北朝鮮の工作員と関わりがあったのでは」
とまで憶測を呼んだ女性の正体は……

休み返上で自腹を切りながら取材を行った労作。
記者の書いた文章だけに読みやすいです。

亡くなった女性「ちづこさん」のわずかな遺品に
「沖宗」という姓の印鑑があったそうです。
めずらしい名字だったことから突破口が開けます。

ちづこさんの関係先や故郷が、
すこしづつ明らかになっていくんですよ。

ただし最後まで、いくつかの謎は残ったままです。
けど終盤で大学の先生が高額の所持金について
「宝くじに当たったんじゃないですか」
って言ってるんですね(笑)。

案外に不可解な点の大半が、
こういう常識で説明できちゃう真相なのかも。

市井の片隅でひっそり暮らす無名の人物にも、
固有の「かけがえのない」人生があります。

誰のどんな人生とも交換不可能で、
それゆえに価値を備えたもののはずです。

そこに光を当てているから、
わたしは、この本とても良い仕事だと思いました。

墓泥棒のような印象を持つ読者もいるでしょうけど。
わたしは広く読まれていることを好意的に評価します。

ぬいぐるみの犬を「たんくん」と名づけて、
終生、大切に可愛がっていた、ちづこさんのご冥福をお祈りします。
会って、ぬいぐるみ談義に花を咲かせたかったぜ。

表紙の絵でも、ちづこさんと思しき女性が、たんくんを連れてて!
わたしの涙腺を崩壊させやがります。

ちづこさん、たんくんと天国でも仲良くね。
***このコメントは削除されています***
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2024/01/19 22:47
武田 惇志, 伊藤 亜衣 『ある行旅死亡人の物語』 毎日新聞出版 2022年(電子版)


アパートの一室で、
高齢の女性が孤独死していました。
3,400万円の現金が手提げ金庫に残されており、
故人の身元を特定できる遺品がありません。

警察は探偵を雇って女性の身辺を洗いました。
ところが収穫はゼロ。
女性の死に事件性が認められなかったことから、
放置された事案にふたりの新聞記者が目をつけます。

不可解な点が多々あり
「北朝鮮の工作員と関わりがあったのでは」
とまで憶測を呼んだ女性の正体は……

休み返上で自腹を切りながら取材を行った労作。
記者の書いた文章だけに読みやすいです。

亡くなった女性「ちづこさん」のわずかな遺品に
「沖宗」という姓の印鑑があったそうです。
めずらしい名字だったことから突破口が開けます。

ちづこさんの関係先や故郷が、
すこしづつ明らかになっていくんですよ。

いっぽうで謎も残ります。
ただ終盤で大学の先生が高額の所持金について
「宝くじに当たったんじゃないですか」
って言ってるんですね(笑)。

案外に不可解な点の大半が、
こういう常識で説明できちゃう真相なのかも。

市井の片隅でひっそり暮らす無名の人物にも、
固有の「かけがえのない」人生があります。

誰のどんな人生とも交換不可能で、
それゆえに価値を備えたもののはずです。

そこに光を当てているから、
わたしは、この本とても良い仕事だと思いました。

墓泥棒のような印象を持つ読者もいるでしょうけど。
わたしは広く読まれていることを好意的に評価します。

ぬいぐるみの犬を「たんくん」と名づけて、
終生、大切に可愛がっていた、ちづこさんのご冥福をお祈りします。
会って、ぬいぐるみ談義に花を咲かせたかったぜ。

表紙の絵でも、ちづこさんと思しき女性が、たんくんを連れてて!
わたしの涙腺を崩壊させやがります。
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2024/01/18 20:43
 筒井康隆さんと蓮實重彦さんの対談、交互批評、それに往復書簡の『笑犬楼VS.偽伯爵』(新潮社)を読み終えました。
 
 対談は、大江健三郎をめぐるものだったのですね。大江健三郎が『飼育』で芥川賞を取ったときに、「それ以前の慎太郎なにがしとは比較にならぬほど優れた作家だと賛嘆した記憶があります」と大江ファンとしても慎太郎なにがしwが嫌いな人間としても蓮實せんせ、うれしいことを言ってくれます(本書16P)。
 
 さらには、「個人的には民主主義という制度を全く信じていない」(P26)と蓮實さん。もちろん筒井さんも同意見。
 
 さらには、世の中がブラック・ユーモアを許容しない世界になっていくことへの嘆き。そうですよね、なぜかつまらない正義、正論ばかりがまかり通ってしまう。そういう世界はやはり「遊び」「余裕」がないのでしょうね。
 
 溝口健二やシュトロハイムを観てない人とは話をしようとはしなかった、というのは淀川長治先生ですが、胸が痛みます。もっと映画も観ないといけませんね。とりわけ溝口健二は観たい観たい思っているタイミングだったので……。
 
 さらに本書の表4(裏表紙)には、莨《たばこ》を手にしたお二人の写真が……お二人ともダンディです。
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2024/01/15 19:40
 浅田彰の『逃走論 ~スキゾ・キッズの冒険~』(ちくま文庫)を久しぶりに再読しました。
 
 この本は、数日前にXでも話題になった『構造と力 ~記号論をこえて~』(中公文庫)の次に出た浅田彰の著作です。『構造と力』が参考書だとすると、『逃走論』は知的エッセイというか。
 
 もちろん中身は現代思想の本なのですが、出版後、スキゾ(スキゾフレニー(分裂病的))とパラノ(パラノイア(偏執病的))の二項対立で話題になりましたね。
 そうそう、ちくま学芸文庫ではなく、ちくま文庫なのも知的エッセイだからでしょう。
 
 基本的には、パラノイア・ドライブでやってきた現代までの病巣から、スキゾフレニックに逃げよう、という趣旨の本です。
 浅田彰があとがきで書いているように、軽めのエッセイ調から、かなりガチな対談、鼎談《ていだん》まで、雑多な本で、そこが読みどころでもあります。
 
 この本、註釈はそのページの左端に載っているので、しかも親切な註釈ですし、なかなかいいと思います。光文社古典新訳文庫も註釈は同見開き内ですよね。
 
 本書238ページに、柄谷《からたに》行人《こうじん》の発言で、「たかだか西洋近代の数百年で『物語』をバカにしてはいけない」といった趣旨の発言が印象に残ってます。
 「物語の解体」すら「物語」によって可能になるわけで……。
 
 さて、この本、いかにも重みをもった、あるいは圧力をかけてくる「教養主義」からも「逃走」をしようという本ですが、スキゾ/パラノの二項対立はじつはけっこう危険なのではないか、と思います。あ、それは今読み返して、ですね。
 
 弁証法的に、スキゾとパラノを止揚することはできないのかという。
 もっともその後、浅田彰は『必読書150』で、正統派、正攻法による「教養」の側に戻ってきました。それを浅田彰の変節ととらえるか、はたまた現代の知の崩壊ぶりを告げているのか──それは読み手次第ですね──。
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2024/01/13 21:22
米原万理 『ロシアは今日も荒れ模様』 講談社文庫 2001年(電子版)
 初出は日経BPマーケティング(日本経済新聞出版)から1998年


著者はロシア語の同時通訳として活動し、文筆家でもありました。
ロシアの社会文化一般から、
通訳として間近に接した首脳の素顔まで、
幅広く彼の地に材を得たエッセイ集です。

主にソ連崩壊からエリツィン時代、
およそ三十年ちょっと前の話が多いですね。

まずウォトカ(ウオッカ)をめぐる、よもやま話の数々から。
ロシアが規格外の飲酒大国であることが窺えます。
厳しい寒さや格差社会など事情は多々あるようですけど……
あきらかにアルコール依存症だった、
わたしの祖父など可愛いものでしたw

文化や国民性については日本とは対極というか、
なにごとにおいても「中庸」が大の苦手なようです。
良くも悪くも極端に走る傾向が強いのだとか。

バレエの衣装など芸術では極美を手がけながら、
ソ連時代のブテイックに並んだ服は目も当てられないほど
「ダサかった」といいます。

あと「1億5000万総兼業農家」っていうくらい、
本格的な家庭菜園が普及してるのだそうです。
じゃがいもを多くの家庭が自給しており、
食料品店の棚が空でも暴動は起きません。

わたしが好感を抱いたエピソードはというと。
ロシア人は交渉相手が金持ちと見ると、ふっかけます。
逆に貧しい相手からはお金を取らないんだって。
シベリア鉄道で旅行した日本人の若いバックパッカーなど、
ずいぶんロシア人からご馳走してもらったらしいですよ。

ゴルバチョフが国民に不人気で、
エリツィンが大衆から支持を集めた理由に首肯させられました。
大統領に権限を集中させる体制を作ったのはエリツィンで、
現今の状況は当時から準備されていたように思えます。

著者が存命なら……
いまの大荒れなロシアを見て悲しみこそすれ、
喜びはしないでしょうね。
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2024/01/08 13:29
岡野 直 『戦時下のウクライナを歩く』 光文社新書 2023年


図書館で借りた本です。

著者はもと新聞記者で、
ロシア語に堪能なことから単独でウクライナ入りしたそうです。

ちょっと手に取るのをためらう怖い標題ですけど、
著者自身が危険な目に遭うエピソードは出てきません。
慎重に行動して運にも助けられたのでしょうか。

戦争を情報として捉えるのではなく、
現地で暮らしているひとたちの声を集めることに徹しています。
この点で以前に読んだ
『欧州戦争としてのウクライナ侵攻』とは対照的です。

本質的にはわたしたちと変わらないひとびとが、
ミサイルに怯えながらも生活を営んでいます。
いっぽうで大学教員を辞めて前線で戦う女性や、
志願して入隊した神父も登場します。

わたしなどが戦争に行ったら、とても生きていけないだろうな……

善し悪しは別として、
日本人一般との戦争や国防に対する意識の違いを感じました。

この本を読んでいると、
ロシアが鬼畜の集団のように思えてきます。
そのくらい戦争とは理不尽で忌まわしいものです。

多民族国家のウクライナが、
戦争でひとつにまとまってきているとの記述がありました。
集団を束ねるためには、敵の存在が何よりも効果的なようです。
人間ってなぁ……
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2024/01/07 22:20
タリアイ・ヴェーソス 『氷の城』  朝田千惠, アンネ・ランデ・ペータス (訳)
 国書刊行会 2022年(電子版)


おととし読んだ本のうち、
いちばん心に残った一冊を電子で再読しました。

ノルウェーの冬の静けさ、
雪や氷の冷たさがしんしんと心に迫ります。

十一歳のシスの学級に、
転校生ウンがやってきます。
ふたりの少女はおたがいを意識するけれど、
なかなか打ち解けられません。

友達になれたと思ったのもつかのま。
ウンは滝に現れた巨大な「氷の城」へ向かい、
それきり戻ってはきませんでした。

ファンタジーじゃなくてリアリズム小説だけど、
極限まで彫琢された詩的な文体の美しいこと。
凡百のファンタジーを一蹴する幻想の鋭さ深さ。

これはシスが体験する喪失と再生の物語です。
同時にシスとウンは、ひとりの人間が抱えている、
ふたつの側面を象徴しているようにも読めます。

魔性の美しさとしか形容できない、
氷の城に魅せられて還れなくなるウン。
対してシスは精神的な危機を経験するけれど、
両親や友達のいる現世に戻ることができました。

ここまで劇的ではないにせよ。
わたしたち誰もが心の半身を殺して、
大人になるのではないでしょうか。
社会に出ていくというのは、
たぶん、そういうことなのだと思います。

ウンの人生がシスに比べて、
不幸だとは断定できないような気がするんです。
世俗の常識に照らせば気の毒な子でしょうけど。

あとウンが身を寄せていた親戚のおばさんが、
シスを気遣う場面で今回も涙腺を決壊させられました。
おばさんにしか、できなかったんだよね。
シスの魂を救うことは。
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2024/01/04 16:38
 岩崎昶《あきら》著、『映画の理論』(岩波新書)を読み終えました。
 今、この本を覚えている方、知っている方は、もしかしたら『必読書150』(太田出版刊)のいい読者かもしれません。
 
 『必読書150』の座談会で言及されたとおり、はっきりいってマルキシズムばりばりで最後のほうは読めたものではありません。
 日本でも社会主義リアリズムの映画が撮られるように云々と〆られているぐらいです。
 
 映画の初期、ヨーロッパでは絵画を動かすようなものが映画だったのですが、アメリカはそこから隔絶されており、娯楽映画を求められていたというのもあって、映画について零から作っていったそうなのです。
 
 また、初期の映画にとって、絵画的な均整の取れた、安定した構図は基本的にモンタージュ理論などによって否定されていきます。
 たとえば、あえて人物をかしいだ角度からの撮影、クローズアップ、遠距離ショット……などなどが「不安定な構図」になります。
 なぜ不安定な構図がいいかというと、不安定さゆえにその構図は、前カットと次カットの中という文脈においてドラマ性を付与されるのです。
 
 初期の映画について書かれた本書は、なるほどなあと思わせるところがあるものの、冒頭にも書いたように、マルキシズム全開で、ちょっと辟易します。昭和31年刊なので、知識人はだいたいソッチ方面に行っちゃったのでしょうね。
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2023/12/30 23:03
大塚 敦子 『動物がくれる力 教育、福祉、そして人生』 岩波新書
 2023年


図書館で借りた本。
動物が介在することで高い効果を上げている、
教育や医療、福祉などの現場を追ったものです。

「動物が身近にいること」が、
わたしたちの心身に及ぼす良い影響について、
丹念な取材にもとづいて紹介されています。

女の子が犬に読み聞かせをする絵本がありますけど、
アメリカなどでの教育現場では日常的だそうです。

わたしが特に強い印象を受けたのは、
自閉症などの困難を抱える子たちの療育や、
受刑者の生き直しを助ける活動の話でした。

苛酷な環境で育って優しさを知らない子も、
動物と関わることで慈しみを学んでいくといいます。

またアメリカでは刑務所で、
盲導犬の仔犬を育てたり、
保護犬が人間と暮らせるよう訓練したりする活動があります。


> ねえ、どうして私がブルータスにこれほど
> 入れ込んだかわかる?
> ゴミのように扱われるのがどういうことか、
> 私はよく知っているからよ。
> ブルータスはまるで刑務所に来たころの私みたいだった。
> だから、どうしても人を信じる心を取り戻させて
> やりたかったのよ。


極度の人間不信に陥っていた犬のブルータスに、
困難きわまる訓練を成功させた受刑者スーの言葉です。

わたしは涙を禁じ得ませんでした。

著者のあとがきによると愛猫の死に際して、
アメリカでは旅行会社までが家族の死と看做し、
丁重に悼んでくれたのだそうです。

この点で日本は、
まだまだ後進国だと痛感させられます。
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2023/12/30 23:00
東 雅夫 (編)  『恐怖と哀愁の内田百閒』 双葉文庫 2021年(電子版)


高校生のころ中央公論社版の「日本の文学」で、
内田百閒に出会って夢中になりました。

日本三大名文家は鏡花と百閒に、
岡本綺堂か久生十蘭か……などと、
勝手なランキングを捏造して喜んでいたものです(笑)。

百閒作品はあまり電子化が進んでおらず、
今回の短編集を見つけて大喜びで購入しました。

編者は以前にも百閒のアンソロジーを手がけており、
重複を避けたせいでしょう。
「冥途」や「東京日記」が漏れていることが惜しまれます。
あらためて読み返す百閒先生のご本の、
おもしろいこと、おもしろいこと!
やっぱり大変な名文家で小説の名人です。

中央公論社の文学全集では、
百閒の解説を三島由紀夫が担当していました。
「サラサーテの盤」を「恐怖の名品」と評してたんだけど……
当時のわたしは、どこが怖いのかわかりませんでしたw

主人公は大学の先生です。
親しくしていた同僚の中砂(なかさご)が亡くなり、
妻のおふさが頻繁に訪ねてくるようになります。
中砂が貸したままの遺品を返してほしい……と。

それだけの話です。
おふさは恨みごとを口にしたりしません。
ほかの百閒作品、たとえば「東京日記」みたいに、
あからさまな怪異が起こることもありません。

ただ、おふさが何を考えているのか、
主人公にも、わたしたち読者にも、
さっぱり見当がつかないんですね。
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2023/12/30 22:59
主人公の手もとに中砂の辞書があるとか、
サラサーテのレコードがあるとか。
なぜか遺品のありかを正確に押さえています。

やがて、おふさは主人公に
「頭の毛が一本立ちになるような」
事情を話して聞かせてくることに。

これも怪異というより、つかみどころのない話です。
どこまで事実でどこまで作り話か妄想か……
てんで見当がつきません。

わたしは、おふさの人物造形に、
ユングのタイプ論に出てくる
「内向的感情タイプ」という類型を連想させられました。

好き嫌いの評価軸を明確に持っているのですけど、
ふだん外に向かって自分を表現することの希薄なタイプです。
世俗的、常識的な尺度に照らすと、
何を考えているのか察しのつかない人物でしょう。

自分のなかに抱えている少女性に終生、
怯え続けていた三島さんにしてみたら……
おふさのような女性は恐怖以外の何物でも、ありますまい。

長年の疑問が腑に落ちて氷解するようでした。
なるほど「サラサーテの盤」は名品です。

百閒作品の怖さは、
わたしたちの置かれた世界の
「脈絡のなさ」を突きつけてくるところにあります。

「東京日記」や「山高帽子」では、それを怪異として。
「サラサーテの盤」では、おふさという人物として。
描いている点で題材は異なりますけど、
芯の部分では変わっていないんですね。

ほかにインパクトがあったのは「狭筵(さむしろ)」。
百閒自身の幼少期を題材にしたとおぼしき作品ですけど、
もちろん真偽のほどは定かではありません。

近所の金持ちの家の倉で
「何人も見たことのない不思議なけだもの」
が捕まります。

見世物に出された後、
獣は近所のおじさんに預けられるんですね。
語り手の「私」は、
おじさん宅の獣の檻に日参することに。

棒で獣をつついたりして、いじめます。
しだいに獣は元気を無くしていって、
数日すると「だらだら小便をして」
動かなくなってしまいました。

獣……気の毒すぎる(U`;ェ;´U)ピャー

事実を下敷きにしてるなら
前世紀初頭くらいの話でしょうか。
当時の日本人と、
動物との距離感や関わりかたが窺えます。

獣……天国で達者でな(U`;ェ;´U)ピャー
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2023/12/27 21:13
 フィリップ・ホセ・ファーマーのデビュー長編『恋人たち』(ハヤカワ文庫SF刊)を読み終えました。
 
 当時のSF界では、「性」の問題はタブー視されており、そんな中での異星人との性愛関係を描く本作は、一応の眼の肥えた読者にはうけたそうなのですが、SF界の大御所作家たちからはかなりの酷評を叩きつけられたそう。
 
 とはいっても、露骨なラヴシーンはありませんし、かなり筆は抑えめに今読むと感じます。
 
 むしろ、本作全編を通じて描かれる厳格すぎる戒律だらけの宗教に支配されたシグメン社会が怖いを通り越してもはやグロいのです。
 はじめて読む方には、この宗教の社会と、元の奥様とのギスギスした関係、そのやりとりだけで嫌になってしまうかも。
 わたしもかなりひさしぶりに再読して、序盤がこんなにキツいのかとちょっと驚きました。
 
 架空の宗教といえば、フィリップ・K・ディックが上手いのですが、おなじフィリップでもフィリップ・ホセ・ファーマーの架空の宗教は、ヒト科の狂気をあぶりだしているのかもしれませんね。
 
 実際、惑星オザゲン(”Oz” Againからできた固有名詞)で、ジャネットと出会うまでは、主人公ハル・ヤロウの受ける精神的なシグメンのディテールやヒエラルキーなど、かなり読んでいて辛いものがあります。とはいえ、「ざまぁ」な箇所もあるのですが。
 
 でも、性的にユニークな設定と発想は凄いものの、ああ、こうなってしまうのか……という。
 
 かなり昔の翻訳なので、たとえば天使の名称など不明と訳注で書かれている箇所もあります。今でこそサンダルフォンといえば、『新世紀エヴァンゲリオン』でも有名ですが、訳出された昭和55年には天使学の文献などなかったでしょうから。
 
 それにしても、やはりデビュー長編でこれは傑作です。
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2023/12/24 20:18
ハーラン・エリスン編集(小説の寄稿も)の大アンソロジー、『危険なヴィジョン #1』を読み終えました。
 
 まずは本アンソロジーについて。
 ちょうどただの宇宙もの、スペースオペラなど、SFが古臭くなるのを前に、真のフロンティアは人間の想像力や内面だのを扱う、というニューウェーヴSFが勃興しはじめたころ。
 1967年に本書は刊行されました。アンソロジーの「縛り」はとにかく因習の多い旧SF界を支配している「タブー」をぶち壊せ、それだけです。
 
 ちなみに、ご存知の方も多いでしょうが、#1とついているからにはもっと先があるわけで、#1の邦訳後、なぜか? #2、#3(3巻で完結です)は出ませんでした。
 
 #1の邦訳が昭和51年……#1もおそらくいくつかは改訳されて全巻の訳出はたしか令和に入ってからだと思います。
 ただ……#2と#3、とくに#3……の収録作家は魅力的なものの……どうもタブーを壊すとはいっても古びちゃったもの、意気込みだけよくてスベッてしまったもの、結局、#1がもっとも粒ぞろいかもしれません。
 
 三つ紹介します。
 たぶんナノテクノロジーなどで、人類が労働しなくてもほぼよくなった未来。人はくだらないポエムを作ったりなんだり、余暇を活かすというかただれた毎日を送るようになる……堕落として……という少し難解だけど、サブストーリーにもヤバめのネタをちりばめたフィリップ・ホセ・ファーマーの『紫年金の遊蕩者たち』。
 
 やはりかなりの未来? サディスティックなジュリエットは、過去へ行って戻るだけのタイムマシンをあやつるおじいちゃんから、なにしてもかまわない、おもちゃとしてのヒト科を調達してもらい拷問や虐殺を楽しんでいたのだけど、あるとき連れてこられたおもちゃは……というロバート・ブロックの『ジュリエットのおもちゃ』。
 
 郊外に暮らすトレイシー夫妻たちが引き込んでいる時間操作ガス。現在の姿をちょっと昔に変えてくれたりします。その時間操作ガスが事故であたり一面にだだ漏れしちゃったという……ブライアン.W.オールディスの『すべての時間が噴き出た夜』。
 
 そして、新訳、新装丁の#1があるのに旧版を選ぶのは、翻訳家伊藤典夫先生の悪ふざけ、「えっと、あとがきです」からはじまる抱腹絶倒の新井素子さんパロ。
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2023/12/23 15:48
鶴岡 路人 『欧州戦争としてのウクライナ侵攻』 新潮選書 2023年
 

図書館で借りてきた本です。

いやぁ、しんどい読書だったわぁー!
隣国がムチャクチャやってるのが不気味でしかたなく、
情報を整理しておこうと取り寄せてもらったのですけど……

まず内容がそれなりに専門的かつ高度。
もともとは雑誌に発表された論文が大半の模様です。
アホのわたしがついていくのは一仕事でしたw

あと著者に悪意がないのはわかるんだけど、
戦争についての記述が淡々と続くのね。
本のなかではあっさり一行で片づけられてる内容が、
膨大な血と憎悪に裏づけられてると思うと……

つくづく怖いし哀しいね。

それでも得るところは相応にありました。
いますぐ停戦させるべきだという声もありますけど、
いたずらに停戦を急ぐことには危険も伴うそうです。

ロシアが占領地域から自主的に撤退するとは考えられませんし、
停戦になった場合さらなる残虐行為も起こり得るとかで。
難しいですね。

対露的には米欧の協調がそれなりに巧くいっているようです。
反面で欧州には「ロシアはヨーロッパの一部」という認識があり
「くるみ割り人形のないクリスマスはさびしい」。

当然ながらアメリカに、
こういう微妙なロシアとの距離感は存在しないのだとか。

ロシアによるウクライナ侵攻が、
日本人の安全保障意識を高めるとしたら
「何とも興味深い現象であろう」と結ばれています。

世の中って、つくづく悲惨なところだね。
アバター
2023/12/21 22:12
飯塚 信雄 『フリードリヒ大王―啓蒙君主のペンと剣』 中公新書 1993年(電子版)


以前にアリアCDが映像ソフトの投げ売りをやった折
『フリードリヒ大王のコンサート』を買いました。

ゆかりのサンスーシ宮殿での収録です。
エマヌエル・パユのフルート独奏で、
大王に扮した役者さんも犬を連れて登場します。

いったい、どんな王さまだったのか……
気になってたから読んでみました。

フリードリヒ2世は18世紀中葉から後半にかけて在位した、
プロイセンの王です。
哲学者ヴォルテールと親交を結び、
フルートを愛して作曲もよくした啓蒙君主と呼ばれています。

ハプスブルク家の女帝マリア・テレジアをナメてかかり、
七年戦争をおっぱじめた張本人でもありました。

父王は平気で暴力をふるうクズ野郎で、
少年時代のフリードリヒは本気で亡命を考えたそうです。
クズ父にも、ひとつだけ良いところがありました。
決して他国に戦争を仕掛けなかったんです。

息子フリードリヒに対しても
「おまえは決して侵略者になってはいけないよ」
と遺言で戒めていたといいます。

無骨者の父への反発からでしょう。
芸術を愛し「君主は国家第一の下僕」
を信条にしていたフリードリヒだというのに……

王座に着いたと思ったら戦争を始めやがりました。
結果としてプロイセンは欧州の強国にのしあがったけど、
多大な犠牲が伴ったのはお察しのとおり。

フリードリヒの多面的な人物像を、
絶妙な距離感で描出しています。
著者の博学はもちろんですけど、
なかなかの文才にも感心させられました。

この本を読んでると、
権力者が腹のなかで何を考えてるか、
ごく一端ながら想像できるような気がするんです。

理想に燃えていたはずの青年が、
なぜ悲惨な戦争を始めてしまうのでしょう。
わたしたちがフリードリヒ大王の人生から学べることは、
想像以上に多くあるように思われます。

あと後半で強く感じたのですけど、
著者の優しい視線にとても好感が持てました。
遠回しに同性愛を擁護しようとした、
モリエールを賞揚したくだりとか。

昔の新書の良い面を備えた本だと思います。
広く読まれる価値のある一冊です。
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2023/12/21 22:11
飯塚 信雄 『フリードリヒ大王―啓蒙君主のペンと剣』 中公新書 1993年(電子版)


以前にアリアCDが映像ソフトの投げ売りをやった折
『フリードリヒ大王のコンサート』を買いました。

ゆかりのサンスーシ宮殿での収録です。
エマヌエル・パユのフルート独奏で、
大王に扮した役者さんも犬を連れて登場します。

いったい、どんな王さまだったのか……
気になってたから読んでみました。

フリードリヒ2世は18世紀中葉から後半にかけて在位した、
プロイセンの王です。
哲学者ヴォルテールと親交を結び、
フルートを愛して作曲もよくした啓蒙君主と呼ばれています。

ハプスブルク家の女帝マリア・テレジアをナメてかかり、
七年戦争をおっぱじめた張本人でもありました。

父王は平気で暴力をふるうクズ野郎で、
少年時代のフリードリヒは本気で亡命を考えたそうです。
クズ父にも、ひとつだけ良いところがありました。
決して他国に戦争を仕掛けなかったんです。

息子フリードリヒに対しても
「おまえは決して侵略者になっていけないよ」
と遺言で戒めていたといいます。

無骨者の父への反発からでしょう。
芸術を愛し「君主は国家第一の下僕」
を信条にしていたフリードリヒだというのに……

王座に着いたと思ったら戦争を始めやがりました。
結果としてプロイセンは欧州の強国にのしあがったけど、
多大な犠牲が伴ったのはお察しのとおり。

フリードリヒの多面的な人物像を、
絶妙な距離感で描出しています。
著者の博学はもちろんですけど、
なかなかの文才にも感心させられました。

この本を読んでると、
権力者が腹のなかで何を考えてるか、
ごく一端ながら想像できるような気がするんです。

理想に燃えていたはずの青年が、
なぜ悲惨な戦争を始めてしまうのでしょう。
わたしたちがフリードリヒ大王の人生から学べることは、
想像以上に多くあるように思われます。

あと後半で強く感じたのですけど、
著者の優しい視線にとても好感が持てました。
遠回しに同性愛を擁護しようとした、
モリエールを賞揚したくだりとか。

昔の新書の良い面を備えた本だと思います。
広く読まれる価値のある一冊です。
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2023/12/21 21:39
飯塚 信雄 『フリードリヒ大王―啓蒙君主のペンと剣』 中公新書 1993年(電子版)


以前にアリアCDが映像ソフトの投げ売りをやった折
『フリードリヒ大王のコンサート』を買いました。

ゆかりのサンスーシ宮殿での収録です。
エマヌエル・パユのフルート独奏で、
大王に扮した役者さんも犬を連れて登場します。

いったい、どんな王さまだったのか……
気になってたから読んでみました。

フリードリヒ2世は18精機中葉から後半にかけて在位した、
プロイセンの王です。
哲学者ヴォルテールと親交を結び、
フルートを愛して作曲もよくした啓蒙君主と呼ばれています。

ハプスブルク家の女帝マリア・テレジアをナメてかかり、
七年戦争をおっぱじめた張本人でもありました。

父王は平気で暴力をふるうクズ野郎で、
少年時代のフリードリヒは本気で亡命を考えたそうです。
クズ父にも、ひとつだけ良いところがありました。
決して他国に戦争を仕掛けなかったんです。

息子フリードリヒに対しても
「おまえは決して侵略者になっていけないよ」
と遺言で戒めていたといいます。

無骨者の父への反発からでしょう。
芸術を愛し「君主は国家第一の下僕」
を信条にしていたフリードリヒだというのに……

王座に着いたと思ったら戦争を始めやがりました。
結果としてプロイセンは欧州の強国にのしあがったけど、
多大な犠牲が伴ったのはお察しのとおり。

フリードリヒの多面的な人物像を、
絶妙な距離感で描出しています。
著者の博学はもちろんですけど、
なかなかの文才にも感心させられました。

この本を読んでると、
権力者が腹のなかで何を考えてるか、
ごく一端ながら想像できるような気がするんです。

理想に燃えていたはずの青年が、
なぜ悲惨な戦争を始めてしまうのでしょう。
わたしたちがフリードリヒ大王の人生から学べることは、
想像以上に多くあるように思われます。

あと後半で強く感じたのですけど、
著者の優しい視線にとても好感が持てました。
遠回しに同性愛を擁護しようとした、
モリエールを賞揚したくだりとか。

昔の新書の良い面を備えた本だと思います。
広く読まれる価値のある一冊です。
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2023/12/21 21:15
飯塚 信雄 『フリードリヒ大王―啓蒙君主のペンと剣』 中公新書 1993年(電子版)


以前にアリアCDが映像ソフトの投げ売りをやった折
『フリードリヒ大王のコンサート』を買いました。

ゆかりのサンスーシ宮殿での収録です。
エマヌエル・パユのフルート独奏で、
大王に扮した役者さんも犬を連れて登場します。

いったい、どんな王さまだったのか……
気になってたから読んでみました。

フリードリヒ2世は18精機中葉から後半にかけて在位した、
プロイセンの王です。
哲学者ヴォルテールと親交を結び、
フルートを愛して作曲もよくした啓蒙君主と呼ばれています。

ハプスブルク家の女帝マリア・テレジアをナメてかかり、
七年戦争をおっぱじめた張本人でもありました。

父王は平気で暴力をふるうクズ野郎で、
少年時代のフリードリヒは本気で亡命を考えたそうです。
クズ父にも、ひとつだけ良いところがありました。
決して他国に戦争を仕掛けなかったんです。

息子フリードリヒに対しても
「おまえは決して侵略者になっていけないよ」
と遺言で戒めていたといいます。

無骨者の父への反発からでしょう。
芸術を愛し、王の職務は民に尽くすこと、
を信条にしていたフリードリヒだというのに……

王座に着いたと思ったら戦争を始めやがりました。
結果としてプロイセンは欧州の強国にのしあがったけど、
多大な犠牲が伴ったのはお察しのとおり。

フリードリヒの多面的な人物像を、
絶妙な距離感で描出しています。
著者の博学はもちろんですけど、
なかなかの文才にも感心させられました。

この本を読んでると、
権力者が腹のなかで何を考えてるか、
ごく一端ながら想像できるような気がするんです。

理想に燃えていたはずの青年が、
なぜ悲惨な戦争を始めてしまうのでしょう。
わたしたちがフリードリヒ大王の人生から学べることは、
想像以上に多くあるように思われます。

あと後半で強く感じたのですけど、
著者の優しい視線にとても好感が持てました。
遠回しに同性愛を擁護しようとした、
モリエールを賞揚したくだりとか。

昔の新書の良い面を備えた本だと思います。
広く読まれる価値のある一冊です。
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2023/12/21 21:14
飯塚 信雄 『フリードリヒ大王―啓蒙君主のペンと剣』 中公新書 1993年(電子版)


以前にアリアCDが映像ソフトの投げ売りをやった折
『フリードリヒ大王のコンサート』を買いました。

ゆかりのサンスーシ宮殿での録音です。
エマヌエル・パユのフルート独奏で、
大王に扮した役者さんも犬を連れて登場します。

いったい、どんな王さまだったのか……
気になってたから読んでみました。

フリードリヒ2世は18精機中葉から後半にかけて在位した、
プロイセンの王です。
哲学者ヴォルテールと親交を結び、
フルートを愛して作曲もよくした啓蒙君主と呼ばれています。

ハプスブルク家の女帝マリア・テレジアをナメてかかり、
七年戦争をおっぱじめた張本人でもありました。

父王は平気で暴力をふるうクズ野郎で、
少年時代のフリードリヒは本気で亡命を考えたそうです。
クズ父にも、ひとつだけ良いところがありました。
決して他国に戦争を仕掛けなかったんです。

息子フリードリヒに対しても
「おまえは決して侵略者になっていけないよ」
と遺言で戒めていたといいます。

無骨者の父への反発からでしょう。
芸術を愛し、王の職務は民に尽くすこと、
を信条にしていたフリードリヒだというのに……

王座に着いたと思ったら戦争を始めやがりました。
結果としてプロイセンは欧州の強国にのしあがったけど、
多大な犠牲が伴ったのはお察しのとおり。

フリードリヒの多面的な人物像を、
絶妙な距離感で描出しています。
著者の博学はもちろんですけど、
なかなかの文才にも感心させられました。

この本を読んでると、
権力者が腹のなかで何を考えてるか、
ごく一端ながら想像できるような気がするんです。

理想に燃えていたはずの青年が、
なぜ悲惨な戦争を始めてしまうのでしょう。
わたしたちがフリードリヒ大王の人生から学べることは、
想像以上に多くあるように思われます。

あと後半で強く感じたのですけど、
著者の優しい視線にとても好感が持てました。
遠回しに同性愛を擁護しようとした、
モリエールを賞揚したくだりとか。

昔の新書の良い面を備えた本だと思います。
広く読まれる価値のある一冊です。
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2023/12/21 21:13
飯塚 信雄 『フリードリヒ大王―啓蒙君主のペンと剣』 中公新書 1993年(電子版)


以前にアリアCDが映像ソフトの投げ売りをやった折
『フリードリヒ大王のコンサート』を買いました。

ゆかりのサンスーシ宮殿での録音です。
エマヌエル・パユのフルート独奏で、
大王に扮した役者さんも犬を連れて登場します。

いったい、どんな王さまだったのか……
気になってたから読んでみました。

フリードリヒ2世は18精機中葉から後半にかけて在位した、
プロイセンの王です。
哲学者ヴォルテールと親交を結び、
フルートを愛して作曲もよくした啓蒙君主と呼ばれています。

ハプスブルク家の女帝マリア・テレジアをナメてかかり、
七年戦争をおっぱじめた張本人でもありました。

父王は平気で暴力をふるうクズ野郎で、
少年時代のフリードリヒは本気で亡命を考えたそうです。
クズ父にも、ひとつだけ良いところがありました。
決して他国に戦争を仕掛けなかったんです。

息子フリードリヒに対しても
「おまえは決して侵略者になっていけないよ」
と遺言で戒めていたといいます。

無骨者の父への反発からでしょう。
芸術を愛し、王の職務は民に尽くすこと、
を信条にしていたフリードリヒだというのに……

王座に着いたと思ったら戦争を始めやがりました。
結果としてプロイセンは欧州の強国にのしあがったけど、
多大な犠牲が伴ったのはお察しのとおり。

フリードリヒの多面的な人物像を、
絶妙な距離感で描出しています。
著者の博学はもちろんですけど、
なかなかの文才にも感心させられました。

この本を読んでると、
権力者が腹のなかで何を考えてるか、
ごく一端ながら想像できるような気がするんです。

理想に燃えていたはずの青年が、
なぜ悲惨な戦争を始めてしまうのでしょう。
わたしたちがフリードリヒ大王の人生から学べることは、
想像以上に多くあるように思われます。

あと後半で強く感じたのですけど、
著者の優しい視線にとても好感が持てました。
遠回しに同性愛を擁護しようとした、
モリエールを賞揚したくだりとか。

昔の新書の良い面が出た本だと思います。
広く読まれる価値のある一冊です。
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2023/12/15 22:35
岡本 綺堂 『くろん坊』 青空文庫 
 初出1925年(刊行は1933年、底本は1990年。電子版)


日本ではじめて捕物帳を手がけた、
岡本綺堂による怪談です。
わたしは綺堂さんの怪談が大好物でございます。

ある山里に、しばしば、
くろん坊と呼ばれる妖怪めいたものが現れます。

より正確には半人半獣というか。
人間みたいに二足歩行なんだけど、
全身が黒い毛に覆われていて「くろん坊」。

くろん坊は穏やかな性質で、
食べ物と引き換えに力仕事を手伝ってくれたりします。
ある一家が、くろん坊と親しくしていたところ、
思わぬできごとに見舞われ……

「ヒバゴン」みたいなものかもしれませんね。
「アウストラロピテクスの生き残りが日本に!」と、
わたしは妙に感動したのですけど……

これはアレかね。
わたしの妄想だよ?
綺堂さんが参考にした説話があったと仮定するとだ。

定住せず、
山で採集生活を送っている人間の一団がいて。
ときどき里に現れて村人と交流していたのが、
言い伝えられるうち妖怪にされてしまった、とか。

わたしは猿人みたいのが、
日本列島にも棲んでたの希望なんだけどなぁー。
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2023/12/15 22:34
岡本 綺堂 『くろん坊』 青空文庫 
 初出1925年(刊行は1933年、底本は1990年。電子版)


日本ではじめて捕物帳を手がけた、
岡本綺堂による怪談です。
わたしは綺堂さんの怪談が大好物でございます。

ある山里に、しばしば、
くろん坊と呼ばれる妖怪めいたものが現れます。

より正確には半人半獣というか。
人間みたいに二足歩行なんだけど、
全身が黒い毛に覆われていて「くろん坊」。

くろん坊は穏やかな性質で、
食べ物と引き換えに力仕事を手伝ってくれたりします。
ある一家が、くろん坊と親しくしていたところ……

「ヒバゴン」みたいなものかもしれませんね。
「アウストラロピテクスの生き残りが日本に!」と、
わたしは妙に感動したのですけど……

これはアレかね。
わたしの妄想だよ?
綺堂さんが参考にした説話があったと仮定するとだ。

定住せず、
山で採集生活を送っている人間の一団がいて。
ときどき里に現れて村人と交流していたのが、
言い伝えられるうち妖怪にされてしまった、とか。

わたしは猿人みたいのが、
日本列島にも棲んでたの希望なんだけどなぁー。
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2023/12/14 22:11
M.R.ジェイムズ、アルジャーノン・ブラックウッドほか
 『迷いの谷』  平井呈一 (訳)  創元推理文庫 2023年(電子版)


マッケンの『恐怖』に続いて出された、
平井呈一訳の怪奇小説アンソロジーです。

『恐怖』同様に大ボリュームで、
読んでも読んでも、本の続きがなくなりません。
平井信者(笑)には嬉しく愉しい読書でした。

内容はというと、
M.R.ジェイムズとブラックウッドの作品が中心です。

モンタギュウ・ロウズ・ジェイムズは、
1862年に生まれて1936年に没したイギリスの小説家。
本業は大学の先生で、
古文書学と聖書学の権威だったそうです。

執筆はあくまで余技というか、
趣味として愉しんでいたものだといいます。

同世代のマッケン、ブラックウッドとともに人気を博し、
平井さんは「お化けの三人男」と呼んでいました(笑)。
マッケンと並んで、
十代のわたしを虜にした書き手です。

ジェイムズの美質は精緻な様式感にあります。
いずれの作品も古風な怪談ですけど、
それだけに磨きあげられた語りの手腕が光るものです。

古文書の先生だっただけあり、
彼の作品には古書や骨董などが絡むお話が少なくなく、
雰囲気づくりに大いに貢献しているんですよね。

平井さんはジェイムズ作品の解説で
「怪談は、ちょっと昔のことを書くのがいい」
などと怪奇小説の作法を紹介しています。

いずれの作品にも、どこかひとつ、
鍵になる場面を配置できれば成功だそうです。

「消えた心臓」では少年が、
空室に置かれた浴槽を覗きこむ場面。
また「マグヌス伯爵」では、
霊廟の錠前が床に落ちて音を立てる場面だといいます。

世の中に何かを申し立てようとか、
文学上の大きな変革を起こそうとか、
前向きの野心とは無縁に書かれたジェイムズの怪談。
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2023/12/14 22:08
社会性とは無縁であるがゆえの魅力や美しさが、
ここにあると、わたしは思うわけです。

さて、この本の中核を成しているのが、
ブラックウッドの中短編です。
マッケン、ジェイムズと並ぶ「お化けの三人男」のひとり。

アルジャーノン・ブラックウッドは、
1869年生まれで1951年没。
怪奇小説ばかりでなくファンタジーも手がけています。

文士マッケンや学者ジェイムズとは対照的に、
さまざまな職業を転々とした経歴の持ち主です。

わたしは十代のころには
「ブラックウッドは理屈っぽくて、ちょっとな」
と思ってました。

とんでもねーガキの勘違い。
ブラックウッドの真骨頂はなんといっても、
その緻密な心理描写にあります。

彼が着想する怪異そのものは、
さして新鮮味が感じられないっていうか。
むしろ月並みだったり。

ただ、あまり克明に人物の心情を掴みだしてくるから!
読んでるわたしも主人公といっしょに、
生きた人形を目の前にしたり猫族の街に滞在したり。
わが身のことみたいに没入して読んでました。

中学生のわたしが「理屈っぽい」と感じたのは……
ブラックウッドがしばしば作中に挿入する、
怪異についての合理的な説明が、
鬱陶しく思われたのでしょうね。

ブラックウッドは感情で考えるタイプだったのかな。
人物の心理描写が真に迫っているのと対照的に、
オカルト的な設定や理屈づけは型に嵌っている感も。

俗流ユングのタイプ論的に分類するなら……
ブラックウッドが感情型、
彼岸を幻視するマッケンは直観型で、
怪談の様式にこだわるジェイムズは感覚型でしょうか。

ともあれ十九世紀を強く感じさせる、
マッケンやジェイムズらとは対照的に。
ブラックウッドの作風には、
現代に通じる部分があるように思われました。

巻末には平井訳による、
ラフカディオ・ハーンのエッセイが収められています。
こちらも考えさせられ得るところ少なくない内容です。

あらためて十代の自分が、
素敵な出会いに恵まれてたことに感謝しかありません。
お化けの三人男(笑)さんたち、
平井先生、良いお友達でいてくれて、
心から、ありがとう。
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2023/12/14 22:05
世の中に何かを申し立てようとか、
文学上の大きな変革を起こそうとか、
前向きの野心とは無縁に書かれたジェイムズの怪談。

社会性とは無縁であるがゆえの魅力や美しさが、
ここにあると、わたしは思うわけです。

さて、この本の中核を成しているのが、
ブラックウッドの中短編です。
マッケン、ジェイムズと並ぶ「お化けの三人男」のひとり。

アルジャーノン・ブラックウッドは、
1869年生まれで1951年没。
怪奇小説ばかりでなくファンタジーも手がけています。

文士マッケンや学者ジェイムズとは対照的に、
さまざまな職業を転々とした経歴の持ち主です。

わたしは十代のころには
「ブラックウッドは理屈っぽくて、ちょっとな」
と思ってました。

とんでもねーガキの勘違い。
ブラックウッドの真骨頂はなんといっても、
その緻密な心理描写にあります。

彼が着想する怪異そのものは、
さして新鮮味が感じられないっていうか。
むしろ月並みだったり。

ただ、あまり克明に人物の心情を掴みだしてくるから!
読んでるわたしも主人公といっしょに、
生きた人形を目の前にしたり猫族の街に滞在したり。
わが身のことみたいに没入して読んでました。

中学生のわたしが「理屈っぽい」と感じたのは……
ブラックウッドがしばしば作中に挿入する、
怪異についての合理的な説明が、
鬱陶しく思われたのでしょうね。

ブラックウッドは感情で考えるタイプだったのかな。
人物の心理描写が真に迫っているのと対照的に、
オカルト的な設定や理屈づけは型に嵌っている感も。

俗流ユングのタイプ論的に分類するなら……
ブラックウッドが感情型、
彼岸を幻視するマッケンは直観型で、
怪談の様式にこだわるジェイムズは感覚型でしょうか。

ともあれ十九世紀を強く感じさせる、
マッケンやジェイムズらとは対照的に。
ブラックウッドの作風には、
現代に通じる部分があるように思われました。

あらためて十代の自分が、
素敵な出会いに恵まれてたことに感謝です。

お化けの三人男(笑)さんたち、
平井先生、良いお友達でいてくれて、
心から、ありがとう。
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2023/12/14 12:49
 神林長平先生の代表作のひとつ、『戦闘妖精・雪風(改版)』(ハヤカワ文庫JA)をかなりひさしぶりに読み終えました。
 
 なんというか、戦争SFが読みたい気分でもあり、そして、この作品はただの戦争SFではありません。ちょっと哲学的、形而上的な問題を扱っているのです。
 
 あるとき、南極上空にワームホールのような「通路」ができ、そこから機械生命体ジャムが侵攻してきます。
 それをなんとか迎撃したものの、ジャムの脅威は続き、ワームホールを抜けた先の地上に、対ジャムの前線基地をいくつも作ります。
 
 主人公、深井零中尉(序盤では少尉)は、特殊戦部隊、通称ブーメラン部隊に所属し、この隊は他機(通常部隊)とともに作戦におもむき、まだほとんど不明なジャムの情報や戦闘データを持ち帰ってくる部隊です。なので、とにかく基地に帰投するのが最優先、味方の機体が全滅しても、です。
 
 しかし、途中から、ジャムは人類ではなく、人類が作り出した機械、コンピュータを敵として認識しているのではないか、という仮説が。
 それを裏付けるかのように、パイロットが重力で失神してもジャムを殲滅するスーパーシルフィード、パーソナル・ネーム、雪風。
 
 非人間的に見える深井中尉ですが、解説にも書かれているように、深井中尉は雪風への執着など案外人間らしい側面もあります。
 彼の精神的な側面も丹念に描かれ、この連作はラストの衝撃的な展開まで、読んでて引き込まれます。
 それをここで書けないのが残念なくらい。
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2023/12/12 15:04
ジュンパ・ラヒリ 『思い出すこと』 中嶋浩郎 (訳) 新潮クレスト・ブックス
 2023年


ジュンパ・ラヒリさんの著書、
これまで何度かトライしては挫折だったんですよ。
はじめて読了できました。

ラヒリはベンガルにルーツを持つ、ロンドン出身の作家です。
アメリカでデビューして2013年からはイタリア在住。

驚かされるのはイタリアに移り住んでから、
彼の地の言葉で作品を発表するようになったこと。

これまで上梓してきた本と異なり
『思い出すこと』は詩集です。

ローマの家具つきアパートで見つけた
「ネリーナのノート」に書かれていた……
と但し書きがありますけど、
たぶんラヒリ自身の手になるものでしょう。

けど誰が書いたかは本質的な問題ではなくて。
イタリアの市井での暮らしの哀歓が、
素直に綴られています。

わたしが特に強い印象を受け、
かつ好感を抱いた詩を、よっつ引用しますね。



 どの行も途切れ途切れで
 明快だけれど儚い。
 夜明けの光を浴びて
 燃える地平線のように。



 わたしはなにをしただろう?
 まちがった停留所で降りてしまい
 知らない場所で雨の中
 運転手を待つあいだ
 バッグから取り出す本が
 一冊もなかったとしたら。

 かつて車の中から
 黄色い濡れ落ち葉が
 夜中に攣った足のように
 ぶざまに固まって
 落ちている道路を見たとき、
 なぜ涙があふれたのだろう?



 低い放物線を描くイギリスの風景
 緑の草、鮮やかな大地
 暗くぐずついた空
 疑問が解ける。
 枝のそこかしこに最初の開花。



 今朝の川は
 嵐に打たれ、
 薄暗く人けのない島の
 染みで汚れた
 セージ色の板のよう。 
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2023/12/12 15:02
ジュンパ・ラヒリ 『思い出すこと』 中嶋浩郎 (訳) 新潮クレスト・ブックス
 2023年


ジュンパ・ラヒリさんの著書、
これまで何度かトライしては挫折だったんですよ。
はじめて読了できました。

ラヒリはベンガルにルーツを持つ、ロンドン出身の作家です。
アメリカでデビューして2013年からはイタリア在住。

驚かされるのはイタリアに移り住んでから、
彼の地の言葉で作品を発表するようになったこと。

これまで上梓してきた本と異なり
『思い出すこと』は詩集です。

ローマの家具つきアパートで見つけた
「ネリーナのノート」に書かれていた……
と但し書きがありますけど、
たぶんラヒリ自身の手になるものでしょう。

けど誰が書いたかは本質的な問題ではなくて。
イタリアの市井での暮らしの哀歓が、
素直に綴られています。

わたしが特に強い印象を受け、
かつ好感を抱いた詩を、よっつ引用しますね。



 どの行も途切れ途切れで
 明快だけれど儚い。
 夜明けの光を浴びて
 燃える地平線のように。



 わたしはなにをしただろう?
 まちがった停留所で降りてしまい
 知らない場所で雨の中
 運転手を待つあいだ
 バッグから取り出す本が
 一冊もなかったとしたら。

 かつて車の中から
 黄色い濡れ落ち葉が
 夜中に攣った足のように
 ぶざまに固まって
 落ちている道路を見たとき、
 なぜ涙があふれたのだろう?



 低い放物線を描くイギリスの風景
 緑の草、鮮やかな大地
 暗くぐずついた空
 疑問が解ける。
 枝のそこかしこに最初の開花。
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2023/12/11 20:02
中村逸郎 『ロシアを決して信じるな』 新潮新書 2021年


著者は現代ロシア政治と日ロ関係の研究者です。

とはいっても難しい話ではなくエッセイ集。
長年ロシアに渡って遭遇した、
エピソードの数々がまとめられています。

ロシアといえばウクライナ戦争以前にも、
プーチン政権による政敵の毒殺疑惑など……

平均的な日本人の生活感覚に照らすと、
にわかに信じ難いエピソードには不自由しません。

もちろん日常生活も例外ではなく。
空港で預けたはずのトランクが、
とんでもない場所へ届いてしまい泣く泣く回収に赴いたり。

停留所のあったはずの場所でバスが停まらず、
抗議すると運転手が「停留所は存在しない」。
そもそも降車ボタンを押しても、
壊れてて機能しないのだとか。

街中で札束を拾ってあげた相手から、
逆に犯罪者扱いされたり
(ギャングか何かだったのかも)。

さらにロシア人は交渉事に臨むと、
とてつもなく剣呑な相手だといいます。
「まず嘘を吐く」のがロシアでの交渉の常識。
見破られると「嘘に気づいたおまえが悪い」。
いっそ清々しい!

ロシアはきわめて格差の大きな社会です。
ほとんどのロシア人は、
どれほど努力しても裕福にはなれないといいます。

そこで「他人のポケットに手を突っ込んで生きる」。
商店でレジの従業員が釣銭をごまかしたり、
生活のために誰かを騙すような習慣が定着しているのだとも。

いっぽうで底抜けかつ、あけっぴろげな善意を示してくる人物も、
ロシアの市井には少なくないそうです。
良くも悪くもたがが外れているというか、
彼我のスケール感の違いを思い知らされます。

わたしは、これを読んで
「日本に生まれた自分は何と運が良かったか」
と胸を撫でおろしました。

大半の日本人がそう感じることでしょう。
ただ、そこで思考停止してしまうと、
この種の本から学べることは少なくなると思います。

ロシアは大概な国ですけど、
日本もかなり特殊な社会のはずですよね。

「わが国」の物差しが絶対ではないことを、
意識の片隅に留めて生きていったほうが……
長い目で見た場合、不幸になり難いように感じられます。
***このコメントは削除されています***
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2023/12/11 20:00
中村逸郎 『ロシアを決して信じるな』 新潮新書 2021年


著者は現代ロシア政治と日ロ関係の研究者です。

とはいっても難しい話ではなくエッセイ集。
長年ロシアに渡って遭遇した、
エピソードの数々がまとめられています。

ロシアといえばウクライナ戦争以前にも、
プーチン政権による政敵の毒殺疑惑など……

平均的な日本人の生活感覚に照らすと、
にわかに信じ難いエピソードには不自由しません。

もちろん日常生活も例外ではなく。
空港で預けたはずのトランクが、
とんでもない場所へ届いてしまい泣く泣く回収に赴いたり。

停留所のあったはずの場所でバスが停まらず、
抗議すると運転手が「停留所は存在しない」。
そもそも降車ボタンを押しても、
壊れてて機能しないのだとか。

街中で札束を拾ってあげた相手から、
逆に犯罪者扱いされたり
(ギャングか何かだったのかも)。

さらにロシア人は交渉事に臨むと、
とてつもなく剣呑な相手だといいます。
「まず嘘を吐く」のがロシアでの交渉の常識。
見破られると「嘘に気づいたおまえが悪い」。
いっそ清々しい!

ロシアはきわめて格差の大きな社会です。
ほとんどのロシア人は、
どれほど努力しても裕福にはなれないといいます。

そこで「他人のポケットに手を突っ込んで生きる」。
商店でレジの従業員が釣銭をごまかしたり、
生活のために誰かを騙すような習慣が定着しているのだとも。

いっぽうで底抜けかつ、あけっぴろげな善意を示してくる人物も、
ロシアの市井には少なくないそうです。
良くも悪くもたがが外れているというか、
日本とのスケール感の違いを思い知らされます。

わたしは、これを読んで
「日本に生まれた自分は何と運が良かったか」
と胸を撫でおろしました。

大半の日本人がそう感じることでしょう。
ただ、そこで思考停止してしまうと、
この種の本から学べることは少なくなると思います。

ロシアは大概な国ですけど、
日本もかなり特殊な社会のはずですよね。

「わが国」の物差しが絶対ではないことを、
意識の片隅に留めて生きていったほうが……
長い目で見た場合、不幸になり難いように感じられます。
***このコメントは削除されています***
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2023/12/11 19:55
中村逸郎 『ロシアを決して信じるな』 新潮新書 2021年


著者は現代ロシア政治と日ロ関係の研究者だそうです。

とはいっても難しい話ではなくエッセイ集。
長年ロシアに渡って遭遇した、
エピソードの数々がまとめられています。

ロシアといえばウクライナ戦争以前にも、
プーチン政権による政敵の毒殺疑惑など……

平均的な日本人の生活感覚に照らすと、
にわかに信じ難いエピソードには不自由しません。

もちろん日常生活も例外ではなく、
空港で預けたはずのトランクが、
とんでもない場所へ届いてしまい回収に赴いたり。

停留所のあったはずの場所でバスが停まらず、
抗議すると運転手が「停留所は存在しない」。
そもそも降車ボタンを押しても、
壊れてて機能しないのだとか。

街中で札束を拾ってあげた相手から、
逆に犯罪者扱いされたり
(ギャングか何かだったのかも)。

さらにロシア人は交渉事に臨むと、
とてつもなく剣呑な相手だといいます。
「まず嘘を吐く」のがロシアでの交渉の常識。
見破られると「嘘に気づいたおまえが悪い」。
いっそ清々しい!

いっぽうで底抜けかつ、
あけっぴろげな善意を示してくる人物も、
ロシアの市井には少なくないのだそうです。

ロシアはきわめて格差の大きな社会です。
ほとんどのロシア人は、
どれほど努力しても裕福にはなれないといいます。

そこで「他人のポケットに手を突っ込んで生きる」。
商店でレジの従業員が釣銭をごまかしたり、
生活のために誰かを騙すような習慣が定着しているのだとも。

わたしは、これを読んで
「日本に生まれた自分は何と運が良かったか」
と胸を撫でおろしました。

大半の日本人がそう感じることでしょう。
ただ、そこで思考停止してしまうと、
この種の本から学べることは少なくなると思います。

ロシアは大概な国ですけど、
日本もかなり特殊な社会のはずですよね。

「わが国」の物差しが絶対ではないことを、
意識の片隅に留めて生きていったほうが……
長い目で見た場合、不幸になり難いように感じられます。
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2023/12/08 17:48
 もっともメジャーなカルト作家、フィリップ・K・ディック。
 彼の『火星のタイム・スリップ』を読了しました。
 
 買ったとき、10年以上前ぐらい? そして今度と三回読んでいるのですが、今回の読書で、この作品の本当のヤバさに気づきました。。
 
 とりあえず火星に人類が少数ながらも入植できる世界。いちばんの問題である水は、アーニイ・コットの水利労働者組合によって牛耳られ、事実上、アーニイはもっとも火星植民地でお金と権力を握っています。
 
 本作の主人公(……でいいのかな)、ジャック・ボーレンはなんでも修理しちゃう機械のエンジニアです。
 火星にはブリークマンと呼ばれる先住民族がいて、たいへんな目に遭っているブリークマンを見かけたら、ヘリコプターなどは近い機体から救助してあげないといけないという法律があります。
 
 そのブリークマンへの救助で国連から依頼を受け、ジャックとアーニイは出会います……アーニイはパイロットがブリークマンたちの方向に向かおうとすると、パイロットに「そのまま、そのまま」と国際法を破ることまで言ってます。
 
 そして、ブリークマン達に伝わる護符やら特殊な能力。
 ジャックの隣人、ノーバート・スタイナーの息子、マンフレッド。
 彼は分裂病で(まだ統合失調症という正確な名称ではないのですがここらへんどうなっているんでしょう?>新版)、他人とコミュニケーションがとれません。
 
 ほぼ何の価値もない、入植地から離れた場所にあるFDR山脈。
 ここを国連が買い上げるという話を聞いたアーニイは自分が買いたくなります。そして、マンフレッドと、自分の召使いのブリークマンを利用し、時間を遡り、FDR山一帯を先に我が物にしよう……と。
 
 これがかなり雑なメインストーリーのまとめ。
 サブストーリーもなかなかいいんですよ。ジャックの奥さんシルビアの、地球からの貴重な雑貨や食料の商人とのひととき、とか……。
 
 しかも、こんな濃厚な小説が、ある理由で何度も反復したり、マンフレッドが言ったりする「ガブル、ガブル」「ガビッシュ」という彼独自の言葉。この言葉がどんどん一応の「普通の世界」を侵食していくところ……。かなり怖い作品です。
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2023/12/02 17:55
河合隼雄 『家族関係を考える』 講談社現代新書 1980年(電子版)


ユング心理学や箱庭療法などを紹介し、
日本で臨床心理学の礎を築いた……

と、いまさら紹介するのも口はばったい、
河合先生が1980年に出された本です。

きわめて平易な語り口ながら、
内容の厳しさに、わたしは震えあがりました。

もちろん、いたずらに読者を脅しているわけではなく、
家族関係の厳しさ難しさが、
原題の社会においては見え難いものになっている……

そういう危機感から、
読者に警告を送りたかったのではないかと思います。

昔の家父長制のような目に見える理不尽さは後退しました。
けれど「敵」がいなくなったわけではなく、
見えづらいものに姿を変えただけなんですよね。

別なところで著者が家族関係
(夫婦だったかも)について
「あんな、おもろいもん、ほかにありませんよ」
と語っていたことも憶えているんです。

河合先生が「おもろい」と口にする場合
「一筋縄ではいかないが得られるところも大きい」
ことがらだと解釈するのが妥当でしょう。

本の最後あたりで言及される
「見えない同伴者」がきわめて強く印象に残りました。
誰の、どんな人生にも存在するものだそうです。

もちろんオカルト的なものではなく
「意識されない領域まで包含した、魂の全体性」
みたいなものでしょうか。

ひとによっては配偶者や家族を持たないほうが
「見えない同伴者」とより良い関係を築けるのだとか。

また「見えない同伴者」は、
思いもかけない「いけにえ」
を求めてくるものだとも。

忘れずにおきたいです。
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2023/12/02 11:46
 『流れよ我が涙、と警官は言った』(フィリップ・K・ディック著 サンリオSF文庫刊)を読み終えました。
 読後、はあっ、と大きなためいきが。
 個人的なことですが、今、小説が書けなくて焦ったり凹んでいます。
 
 そして、最近は小説らしい小説を読んでおりません。専門書や人文書などのほうばかり読んでいますね……。
 
 なので、大好きなディックの本書を、XX年ぶりに、再読してみたのです。ディック作品の中でも、なんだか彼のセルフカバーのような一冊だと思っていたのですが、なんですかこのひりひりするような現実の崩壊感は……。
 
 主人公ジェイスン・タヴァナーは3000万人が視聴しているTV番組のホスト兼歌手であり、知らない人などいないタレントです。
 ですが、歌手志望のマリリンから恨まれて、カリスト海綿動物を投げつけられます。
 タヴァナーの胸に食い込んだ触手をスコッチで殺したのですが、数本がまだ残っているまま彼は失神します。
 
 目覚めたのは安いホテルの一室で、恐ろしいことにタヴァナーは誰も自分のことを知らない、警察のデータバンクにも登録されていない世界へなぜか投げ込まれます。
 
 そして、かつてタヴァナーと交流のあった者と会ったり電話をしても、誰もタヴァナーのことを知らない……そして第二部から登場する、警察のフェリックス・バックマンに目をつけられ、二十四時間つねに監視を受けるようにまでなってしまいます。
 
 ここらまでがサンリオSF文庫版の表4(裏表紙ね)の紹介文と同じです。とはいってもこれ以上紹介するとネタバレの恐れがあります。
 なぜ、誰に、タヴァナーがこんな目に遭わされたのか。
 
 そのあたりのことはディックにしては比較的描写をしていないのですが、それがかえって、落ちを印象的なものにしております。
 ディック作品には壺がキーになるものがありますが、『ヴァリス』や『銀河の壺直し』などなど……本作にも壺が登場。
 
 ある種の謎解きのような側面もある本作、セルフカバーではなく、やはりディックの面目躍如の一冊です。
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2023/11/26 22:09
 蓮實重彦著、『凡庸さについてお話させていただきます』(中央公論社刊)を読了しました。
 本書はあまりつながりのないほとんどちょっとハードなエッセイ、論考の集成です。
 
 「凡庸さ」、現代は皆が凡庸であること。凡庸さの対極に才能、とか、冴えた、とかそういう語を配置したくなりますが、その構造そのものがもう「凡庸」でしかありません。
 
 「凡庸さ」からいかに逃げるのかが「教育」です(「啓蒙」などではない)。凡庸さに馴れ、馴れていきながら人々がそれに絶望しないための、「教育」。
 社会という場には、そんな凡庸さに絶望することを禁ずる力が働いています。それに馴れていくことが「成熟」にほかならない。
 
 となると、実際に「成熟」は皆していないのではないか、と思います。
 「凡庸さ」とは相対的な差異の場であって、誰が他の誰かより才能があるか冴えているか、その凡庸さの中にどっぷり浸かっているという。
 とか書いているわたしの筆もまた凡庸さから逃れられておりません。
 
 あと、本書の中で、世界の映画祭に関するパートがあるのですが、さすがシネフィルの蓮實先生、これは観たい、この監督は気になる、がたくさん。
 また、あらゆる外国語を習得しても、絶対に身につけることができない、身に付けられることが僥倖のような「映画語」について。
 蓮實中毒者にはたまらない一冊でした。
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2023/11/25 20:11
ダニイル・ハルムス 『ハルムスの世界』 増本 浩子、
 ヴァレリー・グレチュコ (訳)  白水社 2023年


2010年にヴィレッジブックスから刊行された
『ハルムスの世界(現在では絶版)』の増補改訂版です。

ダニイル・ハルムスは旧ソ連の小説家です。
1905年に生まれて42年に亡くなっています。

「不条理の極北」とでも形容すべき、
ごく短い散文作品を残しました。
ロシア・アヴァンギャルドの終焉と呼ばれる、その作風は……

腕も足も腹も背中も背骨も内臓もない男だとか!
ひたすら窓から墜ちて死にまくる老婆たちだとか!
狐に悪態を吐く四本脚の鴉だとか!

わけのわかんない連中が登場して、
理不尽な目に遭ったり遭わせたりして、
唐突に退場していきます。

ごくごく短い作品をひとつ引用しましょう。


  出会い
 
 あるときある人が仕事に出かけて、その途中でもうひとりの人に出会った。その人はポーランド風のパンをひとつ買って、家に帰るところだった。
 結局、それだけのことだ。 


ハルムスの作品ときたら、どれもこれも、こんな感じ。
ふざけてるのか禅の公案なのか。

まじめに解釈するなら彼が生きていた前世紀のソ連は、
きわめて理不尽な世の中だったんですよね。
何ひとつ悪いことなどしていなくても、
密告されて逮捕されたり。

ある意味でハルムスの作品は、
旧ソ連の現実そのまんまでした。
だからこそ当局に目をつけられて、
発禁にされたあげく獄死することになったのでしょうか。

長いこと幻の作家だったハルムスですけど、
こんにちロシアや欧米では広く人気を博しているそうです。

ナンセンス文学として読んでも愉快だし。
わたしたちの誰もが生きざるを得ない現実の理不尽さを、
トボけた姿でつきつけてくれるから……かも、しれませんね。
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2023/11/23 20:47
臼杵 陽 『世界史の中のパレスチナ問題』 講談社現代新書 2013年(電子版)
 

新書ながらけっこうボリュームがあって、
読み進めるのに難儀させられました(笑)。
電子じゃなかったら挫折してたと思います。

昨今ガザが血で血を洗う惨状を呈しています。
古代から今世紀にいたるパレスチナ問題の経緯を、
噛んで含めるように丁寧に論じた本です。

そもそも人間を救済するはずの宗教が、
骨肉の争いを生んでしまうとは何という皮肉……

と、いうのが日本人一般にありがちな、
パレスチナ問題観ではないでしょうか。
わたしも、そうでした。

これ全面的に間違いじゃないけど、
じつは正しくもありません。

近代になって国民国家が形成されて、
宗教を理由にした疎外や争いが深く激しくなります。
歴史を見れば十字軍とか、いろいろありましたけど……
パレスチナ地域では異宗どうしが共存できていたそうです。

かといって前近代に世の中を戻すわけにもいきません。

もし、わたしが異教徒に大切な相手を殺された当事者なら。
間違いなく相手を心から酷く憎悪するはずです。
だからといって現今の争いを放置するべきとも思えません。

かけるべき言葉の見つからない問題です。
近現代の人間社会や、
わたしたち人類の抱える負の部分が腫瘍のように……

顕在化してしまった地域がパレスチナと形容するのは、
不躾なことでしょうか。
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2023/11/22 11:54
 ちまちまと読んでいた、手塚富雄先生の『いきいきと生きよ ゲーテに学ぶ』(講談社現代新書刊)を読み終えました。
 
 ゲーテの名言を、手塚富雄先生が平易に解説してくれる本です。いわゆる処世訓、人生訓な一面もある本で、処世訓や人生訓なんてきくと「ゲッ」と言いたくなる人もいるでしょうが(わたしもそうです)、そこはさすがゲーテと手塚富雄先生。
 
 理想と現実、他人と自己、これらについて、ゲーテの言葉はどっちの極にぶれず、本来の言葉の意味でいう「中庸」を熱烈に人生を過ごした人なのだなぁ、と。
 
 「活動だけが恐怖と心配を追い払う」
 
 「君の頭と心のなかが/きりきり舞いをしているなら/それが何よりめでたい話、/恋にも迷いにも縁のきれた人間は/墓に埋められてしまうがよい。」
 
 「耳目はあざむかない。判断があざむくのだ」
 
 もっともっと紹介したいですが、ただの気のきいた名句、というより、やはりゲーテだけあって深みがあり、またその解説をされる手塚富雄先生の筆もゲーテに寄り添いながら、読者に語りかけてくれる、なかなかの名著だと思います。
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2023/11/21 14:25
 『シネマの快楽』(蓮實重彦+武満徹対談 河出文庫刊)を読み終えました。いやもうお二人のディープすぎるシネフィルぶりに圧倒される一冊でした。それにしても蓮實先生の言葉はなかなか厳しい。
 
 ゴッドフリー・レジオ監督の『コヤニスカッティ』(1983年)への蓮實せんせの言葉が辛辣すぎる! ボーイスカウト的だの規則正しいまじめな人が観ると受けるかも~とか。
 わたしは観たことはないのですが、音楽がフィリップ・グラスで、そのサントラは聴いたことがあります。まあ反復系の現代音楽ですね。シンセの音色はわりかしいいんですが。
 
 あとはこういう本としては、知らない監督や作品を知ることができるというのもいいですね。エットーレ・スコラの『特別な一日』とか。ジャック・ベッケルの『肉体の冠』とか。
 
 そして、読むのがもったいなかったぐらいだった、ダニエル・シュミットやビクトル・エリセについての対談。
 とにかくこのパートだけでもわたしは大満足です。『ミツバチのささやき』と『エル・スール』観かえしたくなりました。
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2023/11/20 11:10
 ライバッハでおなじみスロヴェニア出身の哲学者、スラヴォイ・ジジェクの『事件! 哲学とは何か』(河出書房新社 河出ブックス)を読み終えました。
 
 ジジェクの本を読むのははじめて。現代思想界の狂犬と呼ばれる(わたしだけですが、そう呼んでいるのw)ジジェク、二十代になる前に、あのジャック・デリダの著作をスロヴェニア語に翻訳したのだとか。
 
 ジジェクから離れますが、アレクサンドル・コジェーヴというある意味、今いちばん読みたい哲学者がいます。図書館にも入ってません。
 そのコジェーヴが「現代日本はヘーゲルが夢みた歴史の終焉にもっとも近い」と。
 
 正直なところ、ポスト・フロイト派のジャック・ラカンの理論をベースに論を運ぶジジェクの思想は、ラカンが難解すぎるために、やはりけっこう難しいです。
 
 ただ、事物などを「斜めから」視て、その根底における「事件」を抽出する哲学的操作に唸るばかりでした。
 
 革命や謝罪の時期尚早さの、それゆえ時期尚早なのがかえって役に立つこと。どちらも真の革命、真の友愛にとって、時期尚早なのが必要です。真の革命にはその時期尚早な政治的な事件がなければならない。友愛にとって、なにか失礼をしたときには謝らなければならず、相手がそれを赦した瞬間に相手との関係は元に戻る。
 ……どちらも、最終的にはなにもなかったように終息しますが、なにもなかったように、はその時期尚早な言動が必要なのです。
 
 しかし本書は噛み砕くのが難しく、再読やジジェクの他の本で補うしかないようです。
 
 そして最後に、岩波文庫で新訳のマラルメ詩集が刊行されたときの帯に、浅田彰さんが「(マラルメがリーダブルになって登場)これは事件だ」との言葉が載っておりましたが、ジジェクのこの本を意識したんでしょうね。
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2023/11/16 17:41
 『陥没地帯』(蓮實重彦著 河出書房新社刊)を読了しました。本当はこれ、『オペラ・オペラシオネル』との2in1本です。『オペラ~』はすでに読んだことがあるので『陥没地帯』を。
 
 前半はかなり反復系だし、なにより人称が「非人称」(具体的な話者がわからない)です。
 そして蓮實先生独特の、「。」を打たずににょろ~んと長いセンテンス。
 
 蓮實重彦先生といえば、三島由紀夫賞を受賞されたときに、「80歳のわたしよりもっと若くていい書き手に受賞させろ」だの「フローベールの研究をすれば誰でも『伯爵夫人』のような作品は書ける」(どちらも大意)と言い放ちましたね。
 
 閑話休題。『陥没地帯』は前半の反復(西風と砂への言及など)のときは非人称なのですが、後半に入ると、ところどころ「語り手/話し手」が変わり、前半で出てきた人物の一人称になったりします。
 しかもこの息の長い電圧の高い文章はまた非人称にころころ切り替わったり……。ただし、それほど難解かつ晦渋な作品ではなく、精読すれば楽しめると思います。
 
 たぶん、蓮實先生もちょうどフランスのヌーヴォー・ロマン(アンチロマン)系をたくさんお読みになっていた頃の作品だと思うのですが、とりあえず、アラン・ロブ=グリエやミシェル・ビュトール、クロード・シモンなんかを読む前に味わうのもいいかと。
 
 語り=騙りを一篇の小説に落とし込み、なおかつ、人称を巡る闘争が「まさに読んでいるその中で」起きる小説。思わず唸ります。
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2023/11/14 22:04
アーサー・マッケン 『恐怖』  平井呈一 (訳)  創元推理文庫 2021年(電子版)


本邦にマッケン作品を初紹介した、
平井呈一さんの訳から選ばれた中短編集です。

逐語訳的には批判もあるそうですけど、
平井さんの訳は日本語として魅力的なのです。
平易で親しみやいうえに格調があります。
わたしが知ってる範囲だと、岡本綺堂の文体と似ている気が。

中学生のわたしは平井さん訳の『吸血鬼カーミラ』で、
海外文学の泥沼に落ちましたw

アーサー・マッケンはイギリス
(ウェールズ出身)の小説家です。
1863年に生まれて1947年に亡くなりました。
1867年生まれの夏目漱石と、ほぼ同世代ですね。

マッケンは怪奇小説の書き手として知られ、
ラヴクラフトなどの後進に影響を与えたそうです。

同時に怪談作家の範疇に収まりきらないことも、
また事実であるように思われます。

わたしたち人間が知覚し体験しているのは、
この世界の、ごくごく表層の一片でしかない。
世界の真実とでも呼ぶべきものが、
日常を超えた、いずこかに存在する……

たとえば邪神や魔物の跳梁する異界だったり、
あるいは俗人を導いて開眼させる聖杯伝説だったり。

マッケン作品に共通する世界観を、
乱暴に要約すると上記のようになりそうです。
見方によってはプラトンのイデアみたい?

また漱石の『吾輩は猫である』に出てくるような、
高等遊民が狂言回しを務める作品が多くあったり。
若い銀行員が主人公の作品があったり。

執筆当時のイギリスの世相が反映されている点も、
わたしには興味深く読めました。

標題作の「恐怖」は第一次大戦中に、
ウェールズの寒村を襲った連続不審死事件を扱った中編です。
思いもかけない結末に驚かされます。
戦争や世情に対する著者の意識が反映されているように、
わたしには感じられました。

中学生のころ、
はじめて読んだマッケン作品が「パンの大神」。

外科医レイモンドは手ずから育てた少女メリーに、
ある実験を施します。
実業家のクラークは、その現場に立ち会って……

やがて二十数年を経たロンドン。
「ボーモント夫人」と呼ばれる謎の美女が現れ、
彼女の周辺で怪死事件が相次ぎます。
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2023/11/14 22:04
マッケンの作品って、
怪異の核心に触れず暗示に留めておくんですよね。

昨今のウェルメイドなホラー小説に慣れた読者からは
「大事なところを伏せるなんて狡い」
と批判されることもありそうです。

だが、そこが良いのだよ!
説明されてない部分を妄想する愉しみに、
十代のわたしは時間を忘れたものです。

若いころ夢中になった小説を大人になって再読すると、
がっかりさせられることも、ままあります。
けど再会したマッケン先生の、
格調高い薄気味悪さは変わっていませんでした(笑)。

「パンの大神」では女性の人物造形がよくある「聖母か娼婦」で、
いかにもヴィクトリア朝時代でしたけど……

「白魔」には南條竹則さんによる優れた新訳もあって、
そちらは光文社古典新訳文庫で現役です。
ただ、この作品に関しては圧倒的に、
わたしは平井呈一さんの旧い訳に惹かれました。

原題は¨The White People"。
「白いひとびと」くらいの意味で、妖精のこと。
1890年代後半に書かれて1904年に発表されたそうです。

ある少女が問わず語りにものした手記が中核。
乳母が教えてくれたという、
さまざまなまじないや伝承について紹介されています。
少女は「魔女」として成長していき、やがて……

これは創作ですけど、
ウェールズ版『遠野物語』と呼べそうな内容です。
少女の語りに、平井さんのやわらかい訳文がぴったり。

あとマッケン作品では自然描写が素敵なのです。
少女がさまよう山林の表現には詩的な魅力が感じられました。
怪奇小説の範疇に含まれてますけど、
むしろ牧歌的な美しさが心に残る作品でした。

「マッケンの作品には、
抑圧された性の痕跡がいたるところに感じられる」
と書いたのは誰だったでしょうか

ちなみにヘンリー・ジェイムズの
『ねじの回転』は1898年の発表です。
この作品では幽霊の存在と性的な誘惑の関連が暗示されています。
マッケンの「パンの大神」が1894年、「白魔」が1904年。

この時期はフロイトが現役で、
ニーチェは1900年に亡くなりました。

ヴィクトリア朝の思潮の一端を示す作品として、
マッケンの小説は位置づけられ読まれる価値があると思えます。
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2023/11/14 22:03
アーサー・マッケン 『恐怖』  平井呈一 (訳)  創元推理文庫 2021年(電子版)


本邦にマッケン作品を初紹介した、
平井呈一さんの訳から選ばれた中短編集です。

逐語訳的には批判もあるそうですけど、
平井さんの訳は日本語として魅力的なのです。
平易で親しみやいうえに格調があります。
わたしが知ってる範囲だと、岡本綺堂の文体と似ている気が。

中学生のわたしは平井さん訳の『吸血鬼カーミラ』で、
海外文学の泥沼に落ちましたw

アーサー・マッケンはイギリス
(ウェールズ出身)の小説家です。
1863年に生まれて1947年に亡くなりました。
1867年生まれの夏目漱石と、ほぼ同世代ですね。

マッケンは怪奇小説の書き手として知られ、
ラヴクラフトなどの後進に影響を与えたそうです。

同時に怪談作家の範疇に収まりきらないことも、
また事実であるように思われます。

わたしたち人間が知覚し体験しているのは、
この世界の、ごくごく表層の一片でしかない。
世界の真実とでも呼ぶべきものが、
日常を超えた、いずこかに存在する……

たとえば邪神や魔物の跳梁する異界だったり、
あるいは俗人を導いて開眼させる聖杯伝説だったり。

マッケン作品に共通する世界観を、
乱暴に要約すると上記のようになりそうです。
見方によってはプラトンのイデアみたい?

また漱石の『吾輩は猫である』に出てくるような、
高等遊民が狂言回しを務める作品が多くあったり。
若い銀行員が主人公の作品があったり。

執筆当時のイギリスの世相が反映されている点も、
わたしには興味深く読めました。

標題作の「恐怖」は第一次大戦中に、
ウェールズの寒村を襲った連続不審死事件を扱った中編です。
思いもかけない結末に驚かされます。
戦争や世情に対する著者の意識が反映されているように、
わたしには感じられました。

中学生のころ、
はじめて読んだマッケン作品が「パンの大神」。

外科医レイモンドは手ずから育てた少女メリーに、
ある実験を施します。
実業家のクラークは、その現場に立ち会って……

やがて二十数年を経たロンドン。
「ボーモント夫人」と呼ばれる謎の美女が現れ、
彼女の周辺で怪死事件が相次ぎます。
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2023/11/14 22:01
マッケンの作品って、
怪異の核心に触れず暗示に留めておくんですよね。

昨今のウェルメイドなホラー小説に慣れた読者からは
「大事なところを伏せるなんて狡い」
と批判されることもありそうです。

だが、そこが良いのだよ!
説明されてない部分を妄想する愉しみに、
十代のわたしは時間を忘れたものです。

若いころ夢中になった小説を大人になって再読すると、
がっかりさせられることも、ままあります。
けど再会したマッケン先生の、
格調高い薄気味悪さは変わっていませんでした(笑)。


「パンの大神」では女性の人物造形がよくある「聖母か娼婦」で、
いかにもヴィクトリア朝時代でしたけど……

「白魔」には南條竹則さんによる優れた新訳もあって、
そちらは光文社古典新訳文庫で現役です。
ただ、この作品に関しては圧倒的に、
わたしは平井呈一さんの旧い訳に惹かれました。

原題は¨The White People"。
「白いひとびと」くらいの意味で、妖精のこと。
1890年代後半に書かれて1904年に発表されたそうです。

ある少女が問わず語りにものした手記が中核。
乳母が教えてくれたという、
さまざまなまじないや伝承について紹介されています。
少女は「魔女」として成長していき、やがて……

これは創作ですけど、
ウェールズ版『遠野物語』と呼べそうな内容です。
少女の語りに、平井さんのやわらかい訳文がぴったり。

あとマッケン作品では自然描写が素敵なのです。
少女がさまよう山林の表現には詩的な魅力が感じられました。
怪奇小説の範疇に含まれてますけど、
むしろ牧歌的な美しさが心に残る作品でした。

「マッケンの作品には、
抑圧された性の痕跡がいたるところに感じられる」
と書いたのは誰だったでしょうか

ちなみにヘンリー・ジェイムズの
『ねじの回転』は1898年の発表です。
この作品では幽霊の存在と性的な誘惑の関連が暗示されています。
マッケンの「パンの大神」が1894年、「白魔」が1904年。

この時期はフロイトが現役で、
ニーチェは1900年に亡くなりました。

ヴィクトリア朝の思潮の一端を示す作品として、
マッケンの小説は位置づけられ読まれる価値があると思えます。
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2023/11/11 16:07
 最近けっこうハードコアな感じの中公新書『カール・シュミット ナチスと例外状況の政治学』(蔭山宏著)を読み終えました。
 
 図書館から借りてきた本があるというのに、なにげなく本書序文を読んだら面白くて(難しかったけどね)、図書館から借りてきた本はぜんぜん読んでおりません……。
 
 さまざまな領域での対立が、戦いや混沌に至る前に「例外状況」としてなんらかの「決断」で〆られなければならないというカール・シュミットの思想がメインなのですが、わたしは民主主義論からも面白く読めました。
 
 その一部を、なんとか噛み砕いて並べてみます。
 
 民主主義とは一連の「同一性」であり、その政治には何か実質的な差異があってはならない(支配者も被支配者も区別があってはだめ)。民主主義は「人民」の「意思、委任および信任」であり、人民の自己統治、自己支配である。この意味で民主主義には「内部」しかない。神、形而上学などなど「外部」とは相容れない。
 また、民主主義は自由主義、ファシズム、マルキシズムとも両立する。
 
 独裁は国民の意思を反映する一つの手段で、その点で自由主義より優れている。その意味で独裁は民主主義と矛盾するものではなく、むしろ民主主義を前提としている。
 
 議会制民主主義の問題。多数派の横暴。51%を獲得した支配的党派、合法的権力手段をただ所有しているというだけで完全な有意に。そして多数派は政党でありながら政党であることをやめ、国家そのものになってしまう。
 
 ……カール・シュミットは、完全にナチス寄りの思想家でしたし、また論の運びにも問題が多々ある人だったようですが、「尊敬すべき敵」とまで帯に書かれるほどです。
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2023/11/04 21:44
ディアドラ・サリヴァン 『目覚めの森の美女 森と水の14の物語』  田中 亜希子 (訳)
 東京創元社 2019年(電子版)


ちょっと前にアマゾンで半額セールの対象になってて、
電子で買い直しました。
刊行当時に紙で読んで、とても気に入った一冊です。

内容ほとんど失念してたんですけど……
よく知られた西欧の昔話を、
ずいぶん自由に換骨奪胎した短編集です。

女性を主人公に「あなた」の一人称で語られるものが多く、
詩的な表現が印象に残ります。
著者は詩人でもあるそうです。

ハッピーエンドで終わるものは少なく
「女であること」の呪詛が感じられました。

古典的な昔話、おとぎ話の
「めでたし、めでたし」の根底には、
家父長的なものにとっての「都合の良さ」がある。
著者はそう喝破しているようにも思えますね。

とはいっても頭でっかちな本ではなく、
弱いもの小さいものの視点からの語り直しという性格が強いです。

非常に読み手を選ぶというか、
好き嫌いがはっきり分かれるタイプの本だと感じました。

心に「女こども」が棲んでいる読者は、
この短編集に喝采を送るでしょう。
心に「オッサン」を飼っている読者は、
嫌って本を投げだす確率が高いです。

わたしが、ひとつだけ不満だったのは。
最後に収められた作品の主人公が、
うんと酷い目に遭ってほしかったことね(笑)。

シャーリィ・ジャクスンの
『ずっとお城で暮らしてる』とシンクロできたひと。
この本は、あなたのために書かれたものですよ。
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2023/11/04 11:59
 かなり久しぶりに、宮沢賢治さんの『新編 銀河鉄道の夜』(新潮文庫刊)を読み直しました。
 
 宮沢賢治さん、ここまで考えてここまで書いてしまったら、もうあとは無い、みたいなものを感じます。
 たとえば「よだかの星」。よだかが醜くて鳥仲間から嫌われる、というのはまだわかるのですが、「こんな醜いのなら、もう甲虫なども食べないようにしよう」的なことをよだかが思いますよね。
 これ、かなり追い詰められた感があると思うんです。
 
 最初に読んだXX年前には思わず涙ぐんだ「よだかの星」ですが、再読すると泣いて逃げられない、というか……。
 
 この食べる、ということでいえば、本書最後に収録された「ビジテリアン大祭」もなかなかです。とはいえ、この作品、こんなにベジタリアンとアンチの議論のパートがあったかなぁ、と。
 
 わたしのいい読書案内、『必読書150』(柄谷行人ほか 太田出版刊)でも座談会で建築家の岡崎乾二郎氏が「老人ホーム、ホスピス、葬儀場などの建築案コンペをやると、コンセプトが宮沢賢治、あるいはトトロ」のエントリーが多いって書いてありますが、トトロはまあいいとしても(よくないか)、老人ホームや葬儀場に宮沢賢治はかなりブラック・ジョークな気さえします。
 
 「うわっつら」のふわふわしたムードしか宮沢賢治を読んでいないのだと思います。
 それにまあ宮沢賢治の言語感覚の独特さ、けっこうヤバい書き手だとは思っていたほうがいいようです。
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2023/10/31 22:58
ジェイムズ・スティーヴンズ 『月かげ』  阿部 大樹 (訳)  河出書房新社 2023年


この本も図書館で借りました。

「悪夢のような」という形容は常套的に用いられますけど、
この本くらいにしっくりくる読書体験はめずらしいかも。

ある男との出会ったばかりに、
夫婦の平穏な生活が奇妙な方向へ捩れていく「欲望」。

市井の平凡な人物が、
些細なことから人生の皮肉や悲哀に直面させられる
「狼」「支配人」が特に印象に残りました。

わたしには著者が男性に恋する人物だと感じられます。
十九世紀生まれの哀しさ、
叶わぬ恋情の呪いを美しく綴ったのが標題作ではないかと。

怪異や妖魔は現れませんけど……
どの作品も墨で描かれたような灰白色に彩られた、
不条理な人生の闇へと歩む印象を残していきました。
***このコメントは削除されています***
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2023/10/31 22:57
ジェイムズ・スティーヴンズ 『月かげ』  阿部 大樹 (訳)  河出書房新社 2023年


図書館で借りた本です。

「悪夢のような」という形容は常套的に用いられますけど、
この本くらいにしっくりくる読書体験はめずらしいかも。

ある男との出会ったばかりに、
夫婦の平穏な生活が奇妙な方向へ捩れていく「欲望」。

市井の平凡な人物が、
些細なことから人生の皮肉や悲哀に直面させられる
「狼」「支配人」が特に印象に残りました。

わたしには著者が男性に恋する人物だと感じられます。
十九世紀生まれの哀しさ、
叶わぬ恋情の呪いを美しく綴ったのが標題作ではないかと。

怪異や妖魔は現れませんけど……
どの作品も墨で描かれたような灰白色に彩られた、
不条理な人生の闇へと歩む印象を残していきました。
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2023/10/31 14:55
 マーク・フィッシャーのほとんど彼のブログからの投稿集成、『K-PUNK 夢想のメソッド──本、映画、ドラマ』(Pヴァイン刊)を読み終えました。
 
 本書は先日、リア友Nちゃんと神田神保町の東京堂に行ったとき、新刊書店がずらりと並ぶ、通称「軍艦」に入荷されているのをぱらぱら、すぐに購入を決めた本です。
 
 まず、マーク・フィッシャーが、J・G・バラードをかなりお好きだって段階で、彼のバラードについての文章を読みたくなりました。
 アメリカにウィリアム・S・バロウズという巨頭がいるなら英国にはJ・G・バラード。そのバラードもついポエムを書いて賛美してしまう(『GS』誌 第4号 特集:戦争機械)バロウズ……。
 
 どちらも好きですが、やはりわたしに今でも影響を与え続けている、そもそも小説を書いているのは、バラードの存在ゆえでしょう。
 そのぐらいバラードが好き。
 
 さらに、マーク・フィッシャーはかなり現代思想や哲学も読み込んでおり、キルケゴールやフロイト、さらにはドゥルーズ+ガタリやスラヴォイ・ジジェク、ニック・ランド(この人本書で知ったのですがなかなか面白そうです)なんかを援用して論を展開するのが恰好いい。
 というかわたしもそんな文章をこの375chでやりたいのですが、たぶん無理。
 
 ただ、本書末尾で知ったのですが、マーク・フィッシャー、2017年に鬱病で自殺されているのです……。まだ健在で、本や映画などに愛をもって投稿し続けている……と思っていたのにまさか亡くなっているとは……。
 
 そうそう、本書の書体《フォント》ですが、ひらがながかなり独特の書体を使っており、それもなにやら味でした。
 そもそもどこの出版社の誰だったか、一夜漬け書体といって、実際にかなとカナだけは徹夜で手書きのオリジナル書体を作っていたとか……。
 
 なんだか同人誌を出してて、その装幀や中味のデザインに凝っていた頃を思い出します。
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2023/10/29 20:14
庄野英二 『鹿の結婚式』 創文社 1975年


図書館で借りた本です。

書庫に収められていたものを取り寄せてもらいました。
昭和の時代によく見た貸出カードが、
裏表紙内側に貼られたポケットに入っていたんです。
借りられた痕跡がないんですよ。
気の毒な……

半世紀近く経ついままで、
大事に保管しておいてくれた市の図書館さん、ありがとう。

著者の庄野英二は、庄野潤三のお兄さん。
「メルヘン短編集」と銘打たれた薄手の一冊です。

たぶん心の赴くままに書かれたんだろうな。
ごく短い童話風の短編がいくつか。

老いた鹿の面倒を見てあげた獣医さんが、
結婚式に呼ばれる標題作。
不時着した飛行機の乗組員と乗客が、
ふしぎなホテルに招かれる「アザラシの星」。

著者の心象と風景のスケッチが混交したとおぼしき
「網走」も素敵な掌編でした。

いずれの作品にも心根の優しさが現れています。
ほんとに小さな本です。
いまでは、すっかり忘れられた本です。
でも、だからこそ愛され続けてほしいな。
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2023/10/25 22:34
デイジー・ジョンソン 『九月と七月の姉妹』  市田 泉 (訳)  東京創元社 2023年


図書館で借りた本です。
これ、ことし読んだフィクションではベストかも。

短編「断食」「アホウドリの迷信」で、
わたしの注目を一身に集めてたイギリスの若手小説家といえば。
そうデイジー・ジョンソン。
彼女の長編です。

原題は¨Sisters¨。
勝気で我の強い姉セプテンバーと、
対照的に内気でおとなしい妹ジュライ。
ふたりの共依存関係が描かれます。

セプテンバーは気まぐれで自分勝手。
いつも周囲を翻弄します。
ジュライも意地悪されて困ってること多々。

そういうセプテンバーにも、
けっこう良いところがあるんです。
ジュライがいじめられると、
身体を張って守りに来たり。

セプテンバーにしてみると
「ジュライを好きにしていいのは私だけ!」
なんだろうなーw

ともあれ距離が近くなるほど、
相手の美しい面と醜い面が、
分かち難く一体となって見えてくるものですよね。

閉じた関係における愛憎が巧みに描かれている点、
シャーリー・ジャクスンの
『ずっとお城で暮らしてる』を想起させられました。

この小説、叙述や構成に工夫があります。
最終章の悲哀にわたしは胸を打たれました。
「彼女」の先々の道行きに、
幸多かれと願わずにはいられません。

ひとつだけ残念だったこと。
とにかく活字が小さいんですよ!
東京創元社の本って……

ド近眼で老眼の身には堪えました。
図書館で借りて読んだ本だけど、
とても気に入ったから電子で買い直そうかな。
***このコメントは削除されています***
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2023/10/25 22:08
デイジー・ジョンソン 『九月と七月の姉妹』  市田 泉 (訳)  東京創元社 2023年


図書館で借りた本です。
これ、ことし読んだフィクションではベストかも。

短編「断食」「アホウドリの迷信」で、
わたしの注目を一身に集めてたイギリスの若手小説家といえば。
そうデイジー・ジョンソン。
彼女の初長編です。

原題は¨Sisters¨。
勝気で我の強い姉セプテンバーと、
対照的に内気でおとなしい妹ジュライ。
ふたりの共依存関係が描かれます。

セプテンバーは気まぐれで自分勝手。
いつも周囲を翻弄します。
ジュライも意地悪されて困ってること多々。

そういうセプテンバーにも、
けっこう良いところがあるんです。
ジュライがいじめられると、
身体を張って守りに来たり。

セプテンバーにしてみると
「ジュライを好きにしていいのは私だけ!」
なんだろうなーw

ともあれ距離が近くなるほど、
相手の美しい面と醜い面が、
分かち難く一体となって見えてくるものですよね。

閉じた関係における愛憎が巧みに描かれている点、
シャーリー・ジャクスンの
『ずっとお城で暮らしてる』を想起させられました。

この小説、叙述や構成に工夫があります。
最終章の悲哀にわたしは胸を打たれました。
「彼女」の先々の道行きに、
幸多かれと願わずにはいられません。

ひとつだけ残念だったこと。
とにかく活字が小さいんですよ!
東京創元社の本って……

ド近眼で老眼の身には堪えました。
図書館で借りて読んだ本だけど、
とても気に入ったから電子で買い直そうかな。
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2023/10/23 13:38
 ドン・ラティンの『ハーバード・サイケデリック・クラブ』(フォーテュナ刊)を読み終えました。
 この本は、先日のリア友Nちゃんとの神保町散策で、書泉グランデの4階で見かけ、帰ってきてからネットで買って読んだもの(荷物になっちゃうんで買わなかったんですが書泉グランデさんすみません)。
 
 本書は、知ってる方なら、あああんなだめをこじらせたLSDきち◯いかって感じのティモシー・リアリーや、ラム・ダス(リチャード・アルパート)、それにヒューストン・スミス、アンドルー・ワイルらの、主に60年代での彼らの言動を「小説っぽく書いた」作品です。
 
 要するに、60年代当時、マジック・マッシュルームやLSDなどで人間の意識の拡張を……とかなんとかそういう言説で有名だったハーバード大あがりの4人組を取り扱った本です。
 その中でもティモシー・リアリーの飛び具合はやはり凄まじく、とっくに故人とはいえ、もうちょっと書き込んで欲しかった……宇宙へ行って人間の意識の拡張を目指すS.M.I2.L.E.計画とか……あとはコンピュータが(まだパソコンて通称がたぶんないころ)LSDに取ってかわるとか……。
 
 ラム・ダス以下3人は、ほとんど知らなかったので興味深かったです。ラム・ダスの『覚醒への旅』(平河出版社マインド・ブックス刊)は読んでいたのですが、正直、ティモシー・リアリーなんかも「言動は面白いけど著作はつまらない」って人なので、結局、このハーバード上がりの4人組の人間ドラマ、みたいな本書のほうが面白いとは思います。
 
 そして、ラム・ダスのその『覚醒への旅』にたった6行ですが、イスラムの詩人ルーミーの詩が引用されており、その詩がなんというか言霊エキスみたいのを強く放っているんですね。機会があったら、ルーミーの詩目当てでぜひ!
 
 全然関係ありませんが、Google日本語入力を使っているのですが、最近なんだか効率が悪いなって方おりませんか? わたしはなんだか書いていてイラッとすることがあります。
 クレカなくてもたしか購入>使用できるそうなので、ATOKに戻そうか思案中です。
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2023/10/22 19:35
酒井 啓子 『9.11後の現代史 』 講談社現代新書 2018年(電子版)


きわめて複雑に入り組んだ事情の話ですから、
一読しただけでは理解がおぼついてません。
把握できてる範囲だけ書きますね。

日本でもIS(イスミック・ステイト)の台頭が、
大きく報じられたことは記憶に新しいです。
昨今、国際情勢における台風の目となった感のある中東。

パレスチナ問題や湾岸戦争、
イラク戦争などを積み重ねてきた結果……

「イスラム世界は欧米による犠牲者」という認識が、
アラブ社会で深く共有されるようになりました。
紛争やテロの根源には、これがあると著者は指摘します。

著者がじかに接した昔の中東では、
シーア派もスンナ派も仲良く暮らしていたそうです。
それが血で血を洗う争いに……

まず政治的な対立があり、
それが宗派間の対立を生んでしまったといいます。

わたしたちは好むと好まざるとに関わらず、
国民国家が支配する世界を生きています。
一面で、さまざまな利益を被ったり、
安全を確保できたりしていることは事実です。

いっぽうでパレスチナ問題などに目を向けると、
国民国家がもたらした分断の深さに言葉を失わされます。

最近になってハマス(ハマース)による襲撃があり、
にわかにパレスチナ問題が注目を集めていますけど……
(わたしも一連の報道がきっかけで、この本を買い求めました)

近年の中東は犠牲者意識の競いあいとでも呼べる状況にあり、
パレスチナ問題は以前ほどには強い関心を集めていなかったそうです。

ともあれ。
「ISがダメなら、
イスラエルだってダメなはずじゃないか」。

この言葉がつきつける問いは重いです。
***このコメントは削除されています***
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2023/10/22 19:34
酒井 啓子 『9.11後の現代史 』 講談社現代新書 2018年(電子版)


きわめて複雑に入り組んだ事情の話ですから、
一読しただけでは理解がおぼついてません。
把握できてる範囲だけ書きますね。

日本でもIS(イスミック・ステイト)の台頭が、
大きく報じられたことは記憶に新しいです。
昨今、国際情勢における台風の目となった感のある中東。

パレスチナ問題や湾岸戦争、
イラク戦争などを積み重ねてきた結果……

「イスラム世界は欧米による犠牲者」という認識が、
アラブ社会で深く共有されるようになりました。
紛争やテロの根源には、これがあると著者は指摘します。

著者がじかに接した昔の中東では、
シーア派もスンナ派も仲良く暮らしていたそうです。
それが血で血を洗う争いに……

まず政治的な対立があり、
それが宗派間の対立を生んでしまったといいます。

わたしたちは好むと好まざるとに関わらず、
国民国家が支配する世界を生きています。
一面で、さまざまな利益を被ったり、
安全を確保できたりしていることは事実です。

いっぽうでパレスチナ問題などに目を向けると、
国民国家がもたらした分断の深さに言葉を失わされます。

最近になってハマス(ハマース)による襲撃があり、
にわかにパレスチナ問題が注目を集めていますけど……

近年の中東は犠牲者意識の競いあいとでも呼べる状況にあり、
パレスチナ問題は以前ほどには強い関心を集めていなかったそうです。

ともあれ。
「ISがダメなら、
イスラエルだってダメなはずじゃないか」。

この言葉がつきつける問いは重いです。
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2023/10/19 20:55
 海猫沢めろん先生の『ニコニコ時給800円』を読了しました。これは資料で読んだものではないのです。
 
 先日、リア友のNちゃんと神保町散策をしているときに海猫沢めろん先生の『零式』(ハヤカワ文庫JA)を文庫川村で見つけて、その場では買わなかったものの、なんかこの人面白いかも!? な気がして、とりあえず図書館から借りて読んでみたのがこれ。
 
 「働く」をキー・コンセプトにした短編集です。まんが喫茶、パチンコ屋、アパレルブランドショップ、低農薬(無農薬ではない)農業、そしてオンラインRPGとホームレスのイケメン……。
 
 最初の作品では、個人的には「ふーん、こんなものか」という感覚だったのですが、読み進めると、なんだか右肩上がりによくなってきて、最終話の「ネットワークの王子様」では、「労働」に加え「トピア論」など壮大なヴィジョンが語られます(ユートピア論でないのは、この場合のユーは「どこにも無い」という意味なので)。
 
 全五話、すべて他の作品とのつながりがあります。
 もちろん(?)作者名が作者名なだけに軽い文体が気になるという方もいるでしょうが、最終話だけでも読んでみて欲しい怪作ですね。
 
 ほかの話も、けっこう綿密に取材をされているようです。文庫本も出ているはずなので、気になった方はぜひ! わたしはとりあえずそのうちに『零式』読んでみたいですねー!
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2023/10/19 20:07
酒井 啓子 『<中東>の考え方 』 講談社現代新書 2010年(電子版)


最近のプライム感謝祭で電子版が安くなったので、
思いきって買ってみました。

これは良い本です。
買って正解だったな。
わたしは中東のことを、
ほぼ何ひとつ知らなかったのですけど!

これだけ複雑なことがらを、
ここまでわかりやすく整理してくれた本は、
おそらく他に類がないのでは。

アラブ諸国とイスラエルがうまくいかない理由が、
ようやく呑み込めたように感じられます。

なるほど世界中のユダヤ教徒を、
ひとつの国民として束ねるために……
約束の土地が必要になったわけですか。

わたしたちは国民国家を自明として暮らしてるけど、
それは人為的に作られたものなんですよね。
善し悪しは別としても。

中東が戦乱の絶えない「危険な地域」になったのは、
もとを辿れば冷戦時代のアメリカの関与だそうです。
ソ連への鉄砲玉になってくれる、
子分として中東の国々を使ってたんですね。

十年以上前の本ですけど、
終章で紹介される若い世代とイスラム
(イスラーム)との関わりが印象に残りました。

タリバン(ターリバーン)政権下での女性の暮らしなど、
頑迷固陋として抑圧的な面が伝えられてきますけど……
若者たちが自発的に、
よりカジュアルな宗教生活を選ぶ場合もあるそうです。

わたしたち日本人の大半は中東を
「自分とは無関係で、物騒な地域」
と一括りに看做しがちですけど!

そこで暮らしているのは、
わたしたちと本質的には変わらない人間ですね。
***このコメントは削除されています***
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2023/10/19 20:07
酒井 啓子 『<中東>の考え方 』 講談社現代新書 2010年(電子版)


最近のプライム感謝祭で電子版が安くなったので、
思いきって買ってみました。

これは良い本です。
買って正解だったな。
わたしは中東のことを、
ほぼ何ひとつ知らなかったのですけど!

これだけ複雑なことがらを、
ここまでわかりやすく整理してくれた本は、
おそらく他に類がないのでは。

アラブ諸国とイスラエルがうまくいかない理由が、
ようやく呑み込めたように感じられます。

なるほど世界中のユダヤ教徒を、
ひとつの国民として束ねるために……
約束の土地が必要になったわけですか。

わたしたちは国民国家を自明として暮らしてるけど、
それは人為的に作られたものなんですよね。
善し悪しは別としても。

中東が戦乱の絶えない「危険な地域」になったのは、
もとを辿れば冷戦時代のアメリカの関与だそうです。
ソ連への鉄砲玉になってくれる、
子分として中東の国々を使ってたんですね。

十年以上前の本ですけど、
終章で紹介される若い世代とイスラム
(イスラーム)との関わりが印象に残りました。

タリバン(ターリバーン)政権下での女性の暮らしなど、
頑迷固陋として抑圧的な面が伝えられてきますけど……
若者たちが自発的に、
よりカジュアルな宗教生活を選ぶ場合もあるそうです。

わたしたち日本人の大半は中東を
「自分とは無関係で、物騒な地域」
と一括りに看做しがちですけど!

そこで暮らしているのは、
わたしたちと本質的には変わらない人間なんですよね。
***このコメントは削除されています***
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2023/10/19 20:06
酒井 啓子 『<中東>の考え方 』 講談社現代新書 2010年(電子版)


最近のプライム感謝祭で電子版が安くなったので、
思いきって買ってみました。

これは良い本です。
買って正解だったな。
わたしは中東のことを、
ほぼ何ひとつ知らなかったのですけど!

これだけ複雑なことがらを、
ここまでわかりやすく整理してくれた本は、
おそらく他に類がないのでは。

アラブ諸国とイスラエルがうまくいかない理由が、
ようやく呑み込めたように感じられます。

なるほど世界中のユダヤ教徒を、
ひとつの国民として束ねるために……
約束の土地が必要になったわけですか。

わたしたちは国民国家を自明として暮らしてるけど、
それは人為的に作られたものなんですよね。
善し悪しは別としても。

中東が戦乱の絶えない「危険な地域」になったのは、
もとを辿れば冷戦時代のアメリカの関与だそうです。
ソ連への鉄砲玉になってくれる、
子分として中東の国々を使ってたんですね。

十年以上前の本ですけど、
終章で紹介される若い世代とイスラム
(イスラーム)との関わりが印象に残りました。

タリバン(ターリバーン)政権下での女性の暮らしなど、
頑迷固陋として抑圧的な面が伝えられてきますけど……
若者たちが自発的に、
よりカジュアルな宗教生活を選ぶ場合もあるそうです。


わたしたち日本人の大半は中東を
「自分とは無関係で、物騒な地域」
と一括りに看做しがちですけど!

そこで暮らしているのは、
わたしたちと本質的には変わらない人間です。
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2023/10/19 20:03
酒井 啓子 『<中東>の考え方 』 講談社現代新書 2010年(電子版)


最近のプライム感謝祭で電子版が安くなったので、
思いきって買ってみました。

これは良い本です。
買って正解だったな。
わたしは中東のことを、
ほぼ何ひとつ知らなかったのですけど!

これだけ複雑なことがらを、
ここまでわかりやすく整理してくれた本は、
おそらく他に類がないのでは。

アラブ諸国とイスラエルがうまくいかない理由が、
ようやく呑み込めたように感じられます。

なるほど世界中のユダヤ教徒を、
ひとつの国民として束ねるために……
約束の土地が必要になったわけですか。

わたしたちは国民国家を自明として暮らしてるけど、
それは人為的に作られたものなんですよね。
善し悪しは別としても。

中東が戦乱の絶えない「危険な地域」になったのは、
もとを辿れば冷戦時代のアメリカの関与だそうです。
ソ連への鉄砲玉になってくれる、
子分として中東の国々を使ってたんですね。

十年以上前の本ですけど、
終章で紹介される若い世代とイスラム
(イスラーム)との関わりが印象に残りました。

わたしたち日本人の大半は中東を
「自分とは無関係で、物騒な地域」
と一括りに看做しがちですけど!

そこで暮らしているのは、
わたしたちと本質的には変わらない人間です。
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2023/10/18 20:30
 小説の資料的に、『チョムスキー』(田中克彦著 岩波書店刊)を読み終えました。チョムスキー、今では表記が「ノーム・チョムスキー」ですが、まだ「ノアム・チョムスキー」だった頃の論考じゃないかしら、これ。
 
 今はもうあちこちから叩かれて主張していないのかもしれませんが、チョムスキーは、生成文法の概念を展開しておりました。
 幼児のころより、日本人なら日本語を学ぶ以前に、全世界で普遍的に「現地の言語」を超えた、まるでユングの集合的無意識のような、「先天的な言語、文法」があるのだという。
 
 たしかに、この本を読んでいると、チョムスキーの主張は言語学として甘すぎるんです。詰めが。
 だけど、小説のねたとしてはかなり面白い概念ではないのでしょうか。間違ってはいるんだけど、妙に魅力的な概念というか……。
 
 さて、この本の著者、書かれた当時からいかにも岩波知識人という感じで、はっきり言って左翼です。
 革命やら毛沢東の引用、「ソビエト社会主義文化」、「マル主義」という略称、訳者あとがきの日付にいちいちブレジネフ逝去の日という書き込み──なんというか、お里が知れるというかねえ……。
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2023/10/18 11:13
 コリン・ウィルソンの『サイキック 人体に潜む超常能力の探究と超感覚的世界』(三笠書房刊)を読了しました。
 
 これ、次に書く小説の資料なので、頭にとくに残ったのを書くと、なんかどんな小説なのかがバレちゃいそうですね。バレないかな?
 
 とりあえず本書ではいわゆる「サイコメトリー」の究明にコリンさんは力を込めてます。というよりもサイキック能力のベースには「サイコメトリー」があるのではないか、がコリンさんの考えですね。
 
 しかしまあ、サイキック能力やらについてはフロイトが「オカルティズムの黒い潮流」と呼んだものに対抗せよなんて提唱していたんですね。
 
 それに、例えばこういった超能力や霊媒など、いわゆる正統派の学者などにかかると、なぜか自然な批判が姿をひそめ、妙に感情的に排斥・攻撃をするようになる、それもちょっと怖いですね。
 
 そして、サイコメトリー系の有名どころ、ジェラール・クロワゼなんかはたしか日本でも来日してなにかの犯罪のサイキック調査をしてましたね。
 
 個人的にはちょっと傍系のように扱われているものの、アーカーシャ年代記(アカシック・レコード)というものは未来までものが──すべての事象が記録されているといいます。
 ということは、わたしたちの未来というのも決まっているのか……と。たしかにYouTubeでソレ系の動画を見ていると、ヒト科は思っているよりもずっと、潜在意識での行動・選択が多いと。
 
 自由意思、というものはもしかしたらないのかもしれません。あっても思っているよりもずっと少ない、か。
アバター
2023/10/16 21:26
レイモンド・チャンドラー 『リトル・シスター』 村上 春樹 (訳)  2010年
 (電子版)


フィリップ・マーロウ・シリーズの第5作です。

失踪した兄を探してほしいと、
マーロウのもとを訪れたのは若い女性でした。
彼女オーファメイの特異なキャラクターが、
強烈な印象を残していきます。

これまで読んだかぎりだと……
チャンドラーさんのマーロウ本は、
どれも似たり寄ったりなんですよ。

毎回、事件に首を突っ込んだマーロウが、
あっちへうろうろ、こっちへうろうろ。
へらず口を叩いてはギャングや警官から、
小突き回されたり生命の危険に遭わされたり。

けど、それでいいし、そこがいいんです。
チャンドラーの身上は粋な台詞回しと、
存在感溢れる人物造形にあります。
トリックやストーリーテリングは二の次ね(笑)。

本作に至っては訳者までが
「誰が誰を殺したか見当がつかなくなる」。
文芸的なセンスを味わうべき小説です。

物語の核心に関わってくるためでしょう。
オーファメイの人物像が小出しにされていき、
最後にようやく全体が見えてきます。
もっと出番に恵まれていたなら……

チャンドラー作品に出てくる女性は、
どこかで見たようなステレオタイプが大半です。
このオーファメイは例外的に、
あまり類例のないキャラクターではなかろうか。

執筆当時のチャンドラーは映画に関わっていたそうで、
ハリウッドに対する辛辣で屈折した視線が印象に残りました。
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2023/10/16 21:26
レイモンド・チャンドラー 『リトル・シスター』 村上 春樹 (訳)  2010年
 (電子版)


フィリップ・マーロウ・シリーズの第5作です。

失踪した兄を探してほしいと、
マーロウのもとを訪れたのは若い女性でした。
彼女オーファメイの特異なキャラクターが、
強烈な印象を残していきます。

これまで読んだかぎりだと……
チャンドラーさんのマーロウ本は、
どれも似たり寄ったりなんですよ。

毎回、事件に首を突っ込んだマーロウが、
あっちへうろうろ、こっちへうろうろ。
へらず口を叩いてはギャングや警官から、
小突き回されたり生命の危険に遭わされたり。

けど、それでいいし、そこがいいんです。
チャンドラーの身上は粋な台詞回しと、
存在感溢れる人物造形にあります。
トリックやストーリーテリングは二の次ね(笑)。

本作に至っては訳者までが
「誰が誰を殺したか見当がつかなくなる」。
文芸的なセンスを味わうべき小説です。

物語の核心に関わってくるためでしょう。
オーファメイの人物像が小出しにされていき、
最後にようやく全体が見えてきます。
もっと出番に恵まれていたなら……

チャンドラー作品に出てくる女性は、
どこかで見たようなステレオタイプが大半です。
このオーファメイは例外的に、
あまり類例のないキャラクターではなかろうか。

この時期チャンドラーは映画に関わっていたそうで、
ハリウッドに対する辛辣で屈折した視線が印象に残りました。



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