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読書生活報告トピ 18冊め

投稿者:ヘルミーナ

読んだ本や著者、かんたんな感想や評価を書き込むトピです。
基本的には各自ブログで書き込むのですが、
ブログでは恥ずかしい方は感想もこちらへどうぞ。

本に関係する雑談などもこちらで好いかと思います。
思いっきり話題がそれまくりでなければふつうの雑談も好いかと。

(前トピが埋まったら使ってくださいね)

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2023/10/14 22:38
佐藤優 『生き抜くための読書術』 扶桑社 2023年


図書館で借りた本。
元外交官の文筆家、佐藤優さんによる人生相談です。

読者の相談に回答するだけでなく、
お薦めの本まで教えてくれて、お得感の高い一冊。
もともとが雑誌の連載のせいか、
ひとつひとつの記事が短めなことが惜しまれます。

人生相談の回答者には、
大きく分けて二種類あると思うんです。
相談者に寄り添うタイプと、
自分の型を持ってるタイプね。

前者の最高峰は、
社会学者の上野千鶴子さんでしょうか。

後者では私小説作家の、
故・車谷長吉さんが他を睥睨しています。

佐藤優さんは後者だと思います。
きまじめな人物なのでしょう。
「これは伝えておかなくては」
という意思が強く出ていて、
相談と嚙みあってないケースが散見されました。

ただ、このタイプはツボにハマると無敵です。
「競争や成績は人間の価値と一切関係がない」
という言葉には深く首肯させられました。
佐藤さんが言ってくれると心強いね!

あと、いちばん響いたのが
「1年に4回もフられて結婚をあきらめました」
という女性への回答。


> 満足に恋愛できない人は宗教の世界に入っても、
> 信仰的充足を得ることは絶対にできません。
(中略)
> あなたが誠実な人だからです。
> 誠実さが質問の行間から伝わってきます。


わたしは人間の善意を無条件で肯定はできないけど、
佐藤さんのこういう言葉には心を動かされました。

あと国際・国内政治についての見解に、
いろいろ教わるところが多かったです。
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2023/10/11 22:57
レイモンド・チャンドラー 『さよなら、愛しい人』 村上 春樹 (訳)  早川書房 2009年
 (電子版)


去年の夏の早川書房バカまつり(わたし命名)で、
買い込んだ村上春樹訳チャンドラーの一冊。
『ロング・グッドバイ』から一年余くらいのブランクで、
読了できました。

やっぱり、おもしろいのよ!
読み始めたら止まりません。

私立探偵とかギャングが出てくる小説なんて、
おっかなくて読めたもんぢゃ、ありゃしねー。
そういう喰わず嫌いで大損してました。
生きてるうちに気づけて幸せです。

主人公マーロウが、まだ若いころのお話です。
壮年期を迎えた『ロング・グッドバイ』ほどには、
ひねくれた印象を与えません。

もちろん、へらず口と虚勢を武器に、
危険な巷を渡っていこうとする、
マーロウ氏の危なっかしさは不変ですけど。

読んでて心配になってくる主人公だわ。
どうして、そこで黙ってらんないんだろうなー。
ビビりのわたしはマーロウにハラハラさせられどおしでした。

今回はムース・マロイと呼ばれる怪力の大男が登場します。
粗暴さのなかに純情さが見え隠れして、
なんとも強烈な印象を残していく人物です。

出番は多くないマロイのキャラクターが、
この小説の成功に貢献している部分は少なくありません。

チャンドラーって人物造形が巧いのよ!
特に、ひと癖ふた癖ある脇役が見事です。
いま目の前にいるみたいに、
チャンドラーの筆で生命を吹きこまれて呼吸を始めます。

プロットの組み立てやミステリーのトリックだけなら、
たぶんレイモンド・チャンドラーは二流の作家でしょう。

けれど他の作家が持ちえない文学的香気を作品に埋め込む、
唯一無比のセンスがチャンドラー作品に不朽の生命を与えています。

訳者の村上春樹が、もっとも影響を受けた書き手こそチャンドラー。
その村上さんのバタ臭さが
「チャンドラーの劣化コピー」に感じられちゃうんだからなー。
これはチャンドラー凄いわ。

マーロウの斜に構えた、皮肉なへらず口に触れるためだけでも!
この本を手に取って損はしないと推したいです。

ただ1940年に発表された作品なので、
いささか差別的な表現が目立つところが惜しまれます。
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2023/10/09 17:47
ピーター・ヘラー 『いつかぼくが帰る場所』  堀川 志野舞 (訳)  早川書房
 2015年(電子版)


2012年に発表された長編小説(邦訳は2015年)です。
伝染病が大流行した後のアメリカが舞台の、ポスト・アポカリプスもの。

原題は¨The Dog Stars¨。
作中で描かれる、主人公と老犬の絆を端的に示したものでしょう。

コロナ禍を予見したような部分もありますけど、
日本では話題になりませんでしたね。

主人公ヒッグはセスナ機「ビースト」のパイロットです。
愛犬ジャスパー、隣人バングリーとともに、
飛行場を拠点に細々と暮らしを繋ぐ日々。
『森の生活』のポスト・アポカリプス版……と、いう趣も。

しばしば無法者たちの襲撃があり、
銃器や戦闘に通じた(元軍人らしい)
バングリーの協力で撃退していきます。

荒っぽい攻防が繰り広げられるあたり、
アメリカらしいなと感じさせられました。
日本からは出てこなそうな世界観です。

血で血を洗う戦いばかりのお話ではなく、
病気で妻を失ったヒッグの孤独が詩的に紡がれるくだりも。

「メーデー、メーデー。寂しくてたまらない」。
ヒッグが飛行中に漏らす言葉が胃の腑に突き刺さりました。
この台詞が後半にかけて、意外な伏線になってきます。

あとバングリーね。
寡黙で皮肉屋だけど地に足の着いた実直な、
愛すべきクソ野郎です。

一見すると粗野な彼が抱える、
驚くほどの繊細さが巧みに掬いあげられていました。
人物造形はステレオタイプなんだけど、
著者は多面性を描くのが上手です。

作中で政治の話はいっさい出てきませんけど!
ヒッグとバングリーは、
民主党支持者と共和党支持者のカリカチュアのようにも。
登場するのが白人ばっかりなのが、ちょっと気になったな。

そうそうバングリーってコミュ障なのよ(笑)。
だけど作中では障害になってないのね。
生きていくのに不自由してないんだもん。

「障害」が「障害」かどうか決めるのは、
世の中が一方的に押しつけてくる、ものさしです。

そして世の中のものさしほど、
あてにならないものも、ありません。
縛られ過ぎてるとバカ見せられて損するよ。
***このコメントは削除されています***
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2023/10/09 17:44
ピーター・ヘラー 『いつかぼくが帰る場所』  堀川 志野舞 (訳)  早川書房
 2015年(電子版)


2012年に発表された長編小説(邦訳は2015年)です。
伝染病が大流行した後のアメリカが舞台の、ポスト・アポカリプスもの。

原題は¨The Dog Stars¨。
作中で描かれる、主人公と老犬の絆を端的に示したものでしょう。

コロナ禍を予見したような部分もありますけど、
日本では話題になりませんでしたね。

ヒッグはセスナ機「ビースト」のパイロットです。
愛犬ジャスパー、隣人バングリーとともに、
飛行場を拠点に細々と暮らしを繋ぐ日々。
『森の生活』のポスト・アポカリプス版……と、いう趣も。

しばしば無法者たちの襲撃があり、
銃器や戦闘に通じた(元軍人らしい)
バングリーの協力で撃退していきます。

荒っぽい攻防が繰り広げられるあたり、
アメリカらしいなと感じさせられました。
日本からは出てこなそうな世界観です。

血で血を洗う戦いばかりのお話ではなく、
病気で妻を失ったヒッグの孤独が詩的に紡がれるくだりも。

「メーデー、メーデー。寂しくてたまらない」。
ヒッグが飛行中に漏らす言葉が胃の腑に突き刺さりました。
この台詞が後半にかけて、意外な伏線になってきます。

あとバングリーね。
寡黙で皮肉屋だけど地に足の着いた実直な、
愛すべきクソ野郎です。

一見すると粗野な彼が抱える、
驚くほどの繊細さが巧みに掬いあげられていました。
人物造形はステレオタイプなんだけど、
著者は多面性を描くのが上手です。

作中で政治の話はいっさい出てきませんけど!
ヒッグとバングリーは、
民主党支持者と共和党支持者のカリカチュアのようにも。
登場するのが白人ばっかりなのが、ちょっと気になったな。

そうそうバングリーってコミュ障なのよ(笑)。
だけど作中では障害になってないのね。
生きていくのに不自由してないんだもん。

「障害」が「障害」かどうか決めるのは、
世の中が一方的に押しつけてくる、ものさしです。

そして世の中のものさしほど、
あてにならないものも、ありません。
縛られ過ぎてるとバカ見せられて損するよ。
***このコメントは削除されています***
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2023/10/09 17:42
ピーター・ヘラー 『いつかぼくが帰る場所』  堀川 志野舞 (訳)  早川書房
 2015年(電子版)


2012年に発表された長編小説(邦訳は2015年)です。
伝染病が大流行した後のアメリカが舞台の、
ポスト・アポカリプスもの。

原題は¨The Dog Stars¨。
作中で描かれる、主人公と老犬の絆を端的に示したものでしょう。

コロナ禍を予見したような部分もありますけど、
日本では話題になりませんでしたね。

ヒッグはセスナ機「ビースト」のパイロットです。
愛犬ジャスパー、隣人バングリーとともに、
飛行場を拠点に細々と暮らしを繋ぐ日々。
『森の生活』のポスト・アポカリプス版……と、いう趣も。

しばしば無法者たちの襲撃があり、
銃器や戦闘に通じた(元軍人らしい)
バングリーの協力で撃退していきます。

荒っぽい攻防が繰り広げられるあたり、
アメリカらしいなと感じさせられました。
日本からは出てこなそうな世界観です。

血で血を洗う戦いばかりのお話ではなく、
病気で妻を失ったヒッグの孤独が詩的に紡がれるくだりも。

「メーデー、メーデー。寂しくてたまらない」。
ヒッグが飛行中に漏らす言葉が胃の腑に突き刺さりました。
この台詞が後半にかけて、意外な伏線になってきます。

あとバングリーね。
寡黙で皮肉屋だけど地に足の着いた実直な、
愛すべきクソ野郎です。

一見すると粗野な彼が抱える、
驚くほどの繊細さが巧みに掬いあげられていました。
人物造形はステレオタイプなんだけど、
著者は多面性を描くのが上手です。

作中で政治の話はいっさい出てきませんけど!
ヒッグとバングリーは、
民主党支持者と共和党支持者のカリカチュアのようにも。
登場するのが白人ばっかりなのが、ちょっと気になったな。

そうそうバングリーってコミュ障なのよ(笑)。
だけど作中では、まったく障害になってないのね。

「障害」が「障害」かどうか決めるのは、
世の中が一方的に押しつけてくる、ものさしです。

そして世の中のものさしほど、
あてにならないものも、ありません。
縛られ過ぎてるとアホだし損するよ。
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2023/10/08 13:56
 次に書く予定の小説の資料本として、前に書泉グランデで買ってきた、大木幸介先生の『やる気を生む脳科学 神経配線で解く『意欲』の秘密』(講談社ブルーバックス刊)を読了しました。
 
 タイトルからして、買ったときの当時のわたしが欲しくて欲しくてしかたのなかった「やる気」をつかめる本、そんな感じです。
 とはいいつつも、まずは脳の仕組みをわかりやすく(とはいっても理系のブルーバックス本なので、正直言うとちょっとむずかしい箇所も)説明してくださり、たとえば記憶や言語を司る海馬、性欲を司る視床下部など、ここらはもしかすると次作に活かせそうです。
 
 思い切ってざっくりと、原始的な脳の部位さらには「やる気」を駆動させるためには、第一に歩くこと、第二によく噛むこと。この二点に尽きる、という本書の結論は意外でした。歩くこと、散歩の効用はいろいろな方が書かれておりますが、食べ物をよく「噛む」というのは……!
 
 ちなみに「好き・嫌い」の脳、扁桃核ですが、嫌いだと判断すると扁桃核以降のプロセスがそこで停止します。
 なので、打ち込みたい、集中したい、とにかくやる気が欲しい、そんな「嫌い」なことに取り組むには、いろいろと思考をめぐらして、「好き」になるしかないんです。なにか胸が痛いですが……。
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2023/10/05 20:15
 ようやっと、資料本の中に混ぜて読んでいた、岡本綺堂さんの『半七捕物帳』六巻(最後です)を読み終えました。
 こういう上質な読み物は、やっぱり小旅行に行くときの特急の車中で読みたくなりますね。
 
 そして半七親分ともこれでお別れです。
 とはいっても、もう一、二巻なんて覚えていないので、折をみては再読したいシリーズだと思っております。
 
 やっぱり江戸ものでなおかつ推理小説、これは面白いです。まだ読まれていない方が羨ましいです。かなりのお勧め。
 六巻では、主人を助けようとした飼い猫が、誤解されて刀で斬られてしまい、その祟りのような事案がおこる「薄雲の碁盤」がとくによかったです。
 
 それと本書のラストで、「白蝶怪《はくちょうかい》」という中編があるのですが、これは半七親分ではなく、そのお父様の代の一篇。なかなか趣向がコッていて、あっという間に読み終えました。
 
 さて、岡本綺堂さんといえば半七親分だけにあらず、怪異譚集『鎧櫃の血』がありますし、岩波文庫の『岡本綺堂随筆集』もあります。こちらももったいないのですぐには読まないつもり。
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2023/10/05 20:06
鈴木大介 『ネット右翼になった父』 講談社現代新書 2023年


図書館で借りた本です。
鈴木大介さんの旧著が、とても参考になるものだったので。
こちらの本も気になっていました。

今回は高次脳機能障害とか、発達障害とは関係ありません。

著者の父親は知的好奇心の旺盛な人物でした。
それが晩年は差別的なヘイトスラングを口にし、
排外的な内容の動画を好んで閲覧していたといいます。

父はほんとうに「ネット右翼」だったのか。
だとしたら何が、父をそうさせたのか。
父の没後に著者は周囲への聴きとりを始め、検証に手を着けます。

これはネット右翼を批判する本ではなく、
親子や家族の分断についての思索の産物です。

「七十代に入ると難しい本が頭に入らなくなるし、
価値観をブラッシュアップしていけなくなる」。

著者の叔父(父の弟)がそう語ったくだりに、
わたしは静かな衝撃を受けました。
この叔父はたいへん柔軟な人物だそうです。

この先、生き続けるなら、
誰にでも、わたしにも平等に老いは訪れます。

余談。
十年ちょっと前のことです。
わたしは父の死に際して、ちょっと風変わりな体験をしました。

あれが父の存在と、わたしを和解させてくれたように感じられます。
***このコメントは削除されています***
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2023/10/05 20:05
鈴木大介 『ネット右翼になった父』 講談社現代新書 2023年


図書館で借りた本です。
鈴木大介さんの旧著が、とても参考になるものだったので。
こちらの本も気になっていました。

今回は高次脳機能障害とか、発達障害とは関係ありません。

著者の父親は知的好奇心の旺盛な人物でした。
それが晩年は差別的なヘイトスラングを口にし、
排外的な内容の動画を好んで閲覧していたといいます。

父はほんとうに「ネット右翼」だったのか。
だとしたら何が、父をそうさせたのか。
父の没後に著者は周囲への聴きとりを始め、検証に手を着けます。

これはネット右翼を批判する本ではなく、
親子や家族の分断についての思索の産物です。

「七十代に入ると難しい本が頭に入らなくなるし、
価値観をブラッシュアップしていけなくなる」。

著者の叔父(父の弟)がそう語ったくだりに、
わたしは静かな衝撃を受けました。
この叔父はたいへん柔軟な人物だそうです。

この先、生き続けるなら、
誰にでも、わたしにも平等に老いは訪れます。

余談。
わたしは父の死に際して、ちょっと風変わりな体験をしました。

あれが父の存在と、わたしを和解させてくれたように感じられます。
***このコメントは削除されています***
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2023/10/05 20:04
鈴木大介 『ネット右翼になった父』 講談社現代新書 2023年


図書館で借りた本です。
鈴木大介さんの旧著が、とても参考になるものだったので。
こちらの本も気になっていました。

今回は高次脳機能障害とか、発達障害とは関係ありません。

著者の父親は知的好奇心の旺盛な人物でした。
それが晩年は差別的なヘイトスラングを口にし、
排外的な内容の動画を好んで閲覧していたといいます。

父はほんとうに「ネット右翼」だったのか。
だとしたら何が、父をそうさせたのか。
父の没後に著者は周囲への聴きとりを始め、検証に手を着けます。

これはネット右翼を批判する本ではなく、
親子や家族の分断についての思索の産物です。

「七十代に入ると難しい本が頭に入らなくなるし、
価値観をブラッシュアップしていけなくなる」。

著者の叔父(父の弟)がそう語ったくだりに、
わたしは静かな衝撃を受けました。
この叔父はたいへん柔軟な人物だそうです。

この先、生き続けるなら、
誰にでも、わたしにも平等に老いは訪れます。

余談。
わたしは父の死に際して、ちょっと風変わりな体験をしました。

あれが父の存在と、わたしを和解させてくれたように感じられます
***このコメントは削除されています***
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2023/10/05 20:04
鈴木大介 『ネット右翼になった父』 講談社現代新書 2023年

図書館で借りた本です。
鈴木大介さんの旧著が、とても参考になるものだったので。
こちらの本も気になっていました。

今回は高次脳機能障害とか、発達障害とは関係ありません。

著者の父親は知的好奇心の旺盛な人物でした。
それが晩年は差別的なヘイトスラングを口にし、
排外的な内容の動画を好んで閲覧していたといいます。

父はほんとうに「ネット右翼」だったのか。
だとしたら何が、父をそうさせたのか。
父の没後に著者は周囲への聴きとりを始め、検証に手を着けます。

これはネット右翼を批判する本ではなく、
親子や家族の分断についての思索の産物です。

「七十代に入ると難しい本が頭に入らなくなるし、
価値観をブラッシュアップしていけなくなる」。

著者の叔父(父の弟)がそう語ったくだりに、
わたしは静かな衝撃を受けました。
この叔父はたいへん柔軟な人物だそうです。

この先、生き続けるなら、
誰にでも、わたしにも平等に老いは訪れます。

余談。
わたしは父の死に際して、ちょっと風変わりな体験をしました。

あれが父の存在と、わたしを和解させてくれたように感じられます。
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2023/10/05 20:03
鈴木大介 『ネット右翼になった父』 講談社現代新書 2023年

図書館で借りた本です。
鈴木大介さんの旧著が、とても参考になるものだったので。
こちらの本も気になっていました。

今回は高次脳機能障害とか、発達障害とは関係ありません。

著者の父親は知的好奇心の旺盛な人物でした。
それが晩年は差別的なヘイトスラングを口にし、
排外的な内容の動画を好んで閲覧していたといいます。

父はほんとうに「ネット右翼」だったのか。
だとしたら何が、父をそうさせたのか。
父の没後に著者は周囲への聴きとりを始め、検証に手を着けます。

これはネット右翼を批判する本ではなく、
親子や家族の分断についての思索の産物です。

「七十代に入ると難しい本が頭に入らなくなるし、
価値観をブラッシュアップしていけなくなる」。

著者の叔父(父の弟)がそう語ったくだりに、
わたしは静かな衝撃を受けました。
この叔父はたいへん柔軟な人物だそうです。

この先、生き続けるなら、
誰にでも、わたしにも平等に老いは訪れます。

余談。
わたしは父の死に際して、
ちょっと風変わりな体験をしました。

あれが父の存在と、
わたしを和解させてくれたように感じられます。
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2023/10/01 21:20
マリアーナ・エンリケス 『寝煙草の危険』 宮崎 真紀 (訳)  国書刊行会 2023年


ここしばらく南米のスペイン語文芸に力を入れてる、
国書刊行会からちょっと前に出たで短編集です。
既刊の『雌犬』とか『兎の島』を読んだところ、
いずれも優れたものでした。

著者エンリケスは
「アルゼンチンのホラープリンセス」の異名を馳せてるのだとか。

たしかに作品の枠組みだけを見ると、
ホラー小説的な印象を受けるのですけど。
わたしはジャンル小説的なホラーとは、
一線を画する印象を受けました。

呪いとか幽霊とかは、
著者が暮らすアルゼンチンの現実を映す鏡なんです。
単純に怖がらせるためではなく
「現実を、よりいっそう現実として」
描きだすためにホラー的な道具立てを用いていると感じられました。

ホラーのふりして文学やってるのね、要するに。

たとえば「ショッピングカート」という作品があります。
ホームレスらしき見知らぬ男が路上で脱糞するんです。
辛くあたった住民たちが、なぜか不幸に見舞われるおはなし。
貧困や犯罪と隣りあわせで生きざるを得ない日常が、
不可解なできごとを通して浮かびあがってくるんです。

ホラー小説の枠組みを巧く借用している点で、
村上春樹とも似ていると感じられました。
ただしエンリケスには、
みずからが生きる社会を描く切実さが感じられます。

末筆だけど装丁が素敵!
この本は紙で、いちど手に取っていただきたいです。
***このコメントは削除されています***
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2023/10/01 21:19
マリアーナ・エンリケス 『寝煙草の危険』 宮崎 真紀 (訳)  国書刊行会 2023年


ここしばらく南米のスペイン語文芸に力を入れてる、
国書刊行会からちょっと前に出たで短編集です。
既刊の『雌犬』とか『兎の島』を読んだところ、
いずれも優れたものでした。

著者エンリケスは
「アルゼンチンのホラープリンセス」の異名を馳せてるのだとか。

たしかに作品の枠組みだけを見ると、
ホラー小説的な印象を受けるのですけど。
わたしはジャンル小説的なホラーとは、
一線を画する印象を受けました。

呪いとか幽霊とかは、
著者が暮らすアルゼンチンの現実を映す鏡なんです。
純粋に怖がらせるためではなく
「現実を、よりいっそう現実として」
描きだすためにホラー的な道具立てを用いていると感じられました。

ホラーのふりして文学やってるのね、要するに。

たとえば「ショッピングカート」という作品があります。
ホームレスらしき見知らぬ男が路上で脱糞するんです。
辛くあたった住民たちが、なぜか不幸に見舞われるおはなし。
貧困や犯罪と隣りあわせで生きざるを得ない日常が、
不可解なできごとを通して浮かびあがってくるんです。

ホラー小説の枠組みを巧く借用している点で、
村上春樹とも似ていると感じられました。
ただしエンリケスには、
みずからが生きる社会を描く切実さが感じられます。

末筆だけど装丁が素敵!
この本は紙で、いちど手に取っていただきたいです。
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2023/09/29 22:24
金谷 展雄 『イギリスの不思議と謎』 集英社新書 2012年(電子版)
 

これは良い本。
平易に書かれてますけど、
内容はしっかりしています。

読みやすい語り口で、
知の世界へ案内してくれること。
そこに新書の真骨頂があるのでは、なかろうか。

謎と不思議といってもオカルトではなく、
イギリス社会の特異さにスポットを当てたものです。

たとえば連合王国の成立など、
ようやっと、わたしでも理解できました。

さらに「紳士」なるものの由来と正体。
なぜ犯罪者が紳士を名乗れたのでしょう。

原文つきで紹介される、
ナーサリー・ライムの奇妙な世界。

イギリスで紅茶が定着し親しまれたいきさつ。

「コックニー」と呼ばれる下町言葉と、
近年のイギリス方言にみられる新たな傾向。

パブリック・スクールの歴史と変遷、などなど。

多くのトピックに階級問題が絡んできます。
日本にも階層や格差はありますけど、
ここまで露骨ではないと感じられました。

片山杜秀さんが
「イギリスは商人の国」と言ってましたっけ。
なるほど理念や原理原則より、
地に足の着いた現実志向が窺えます。

この本を足がかりに、
各分野の本を手に取ってみるのも楽しそう。
不思議と謎の国への優れた水先案内人です。
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2023/09/26 20:39
冨田浩司 『マーガレット・サッチャー 政治を変えた「鉄の女」』 新潮選書
 2018年(電子版)


チャーチルに続いて、現役外交官が手がけた英首相の評伝。

著者はチャーチルに傾倒しているそうです。
対照的にサッチャーは、どうしても好きになれないのだとか。

両者がどう違っていて、
どこに著者が惹かれたり反感を抱いたりしているのでしょう。
興味を惹かれて読んでみたくなりました。

高校を出て浪人していたころだと思います。
ピンク・フロイドの『ファイナル・カット』を聴きました。
歌詞に何度も「マギー」という人物が出てくるんですね。

ああ、このマギーさん、サッチャー首相のことなんだ。
あるとき、そう気づきました。

当時ピンク・フロイドの歌詞を書いていた、
ロジャー・ウォーターズはサッチャーが嫌いだったんですねw
マーク・ノップラーやエルトン・ジョンからも、
サッチャーは辛辣な書かれかたをしています。

当時の西側首脳では、
レーガンやミッテランと相性が良かったのだとか。
どうやら偉丈夫で押し出しが良く、
社交的な男性が好みだったようです。
ちなみに田舎者のコールのことは嫌ってたんだってw

サッチャーは頑固で独断専行。
気に入らない同僚を面罵していじめることも、
少なくなかったようです。

チャーチルみたいなトボけた愛嬌はゼロ。
ひたすら堅物でクソまじめで高圧的。

わたしの大大大大大っ嫌いなタイプだわ……!!!
と思いきや。

弱い立場の相手に、
これ以上ないほどの思いやりを示した現場が、
いちどならず側近に目撃されたとも。
炭鉱夫の妻へお礼の手紙を書いた際の心配りが引かれていました。

やっぱり人間わからないものですね。
政治に関しては抜け目なかった反面、
極端なほど世間知らずな面もあったそうです。

サッチャーが政治に臨んだ際の
「愛されない覚悟」を著者は高く評価していました。

チャーチルの本でも感じたことですけど……
時代の要請に即したリーダーを選び、
潮目が変わると冷徹に退場を迫る。

イギリスの社会は良くも悪くも、
そういうドライでしたたかな性質を備えているようです。
ひるがえって日本は……
彼の国に学ぶべきところが少なくないかも。
***このコメントは削除されています***
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2023/09/26 20:37
冨田浩司 『マーガレット・サッチャー 政治を変えた「鉄の女」』 新潮選書
 2018年(電子版)


チャーチルに続いて、現役外交官が手がけた英首相の評伝。

著者はチャーチルに傾倒しているそうです。
対照的にサッチャーは、どうしても好きになれないのだとか。

両者がどう違っていて、
どこに著者が惹かれたり反感を抱いたりしているのでしょう。
興味を惹かれて読んでみたくなりました。

高校を出て浪人していたころだと思います。
ピンク・フロイドの『ファイナル・カット』を聴きました。
歌詞に何度も「マギー」という人物が出てくるんですね。

ああ、このマギーさん、
サッチャー首相のことなんだ。
あるとき、そう気づきました。

当時ピンク・フロイドの歌詞を書いていた、
ロジャー・ウォーターズはサッチャーが嫌いだったんですねw
マーク・ノップラーやエルトン・ジョンからも、
サッチャーは辛辣な書かれかたをしています。

当時の西側首脳では、
レーガンやミッテランと相性が良かったのだとか。
どうやら偉丈夫で押し出しが良く、
社交的な男性が好みだったようです。
ちなみに田舎者のコールのことは嫌ってたんだってw

サッチャーは頑固で独断専行。
気に入らない同僚を面罵していじめることも、
少なくなかったようです。

チャーチルみたいなトボけた愛嬌はゼロ。
ひたすら堅物でクソまじめで高圧的。

わたしの大大大大大っ嫌いなタイプだわ……!!!
と思いきや。

弱い立場の相手に、
これ以上ないほどの思いやりを示した現場が、
いちどならず側近に目撃されたとも。
炭鉱夫の妻へお礼の手紙を書いた際の心配りが、
例として引かれていました。

やっぱり人間わからないものですね。
政治に関しては抜け目なかった反面、
極端なほど世間知らずな面もあったそうです。

サッチャーの「愛されない覚悟」を著者は高く評価していました。

チャーチルの本でも感じたことですけど……
時代の要請に即したリーダーを選び、
潮目が変わると冷徹に退場を迫る。

イギリスの社会は良くも悪くも、
そういうドライでしたたかな性質を備えているようです。
ひるがえって日本は……
彼の国に学ぶべきところが少なくないかも。
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2023/09/22 21:13
 現代思想と小説。
 その二つを足したら超進化が起こったような作家兼文芸批評家に、モーリス・ブランショという人がいます。わたしはかなりブランショに傾倒しております。
 
 今夜取り上げるのはフランスの哲学者、ジャン・リュック・ナンシーの企画とテクスト、ブランショらの書簡で書かれた『モーリス・ブランショ 政治的パッション』(ジャン・リュック・ナンシー 水声社 批評の小径刊)を再読しました。
 
 初期(三〇年から戦中にかけて)のブランショの政治的スタンスは極右でした。そこで左にはいきませんが、それでも極右から「転向」をしました。
 
 彼はたとえば「フランスの美しい血筋を実際に支配してしまったかのように思われ、あらゆる権力を掌中にしていると思い込んでいる人民戦線の政治家どもには、テロリズムが効果的なのだ」と書きつけたことも。
 ただし、「精神的な革命」からのこういう激烈な言葉も出てきたのでしょう。たとえば現在の日本なら、◯◯◯◯とかさすがに温厚(?)なわたしでも◯◯されちまえ、と思うような。
 
 ブランショをひくジャン・リュック・ナンシーの発言。
 「完璧な革命はその完全さゆえに、曲りなりにも構築され実在しているこの世界の内部からは起こしえないというのであり、そこでブランショは、革命の概念の純化を選び取るのであって、革命がいかに現実を変えるのかと問うのではなく、革命はその本来の力を保つためにいかにあらねばならないかと問いはじめるのである」。
 
 革命だなんだというと左翼っぽいですが、フランスでは違ったのですね。しかし、最初は国際政治の記事を書き、そこから当時のフランスの文芸時評からその独特の批評の仕方をどこでどう身につけたのかさっぱりわかりません。
 
 『必読書150』の中でも、ブランショの『文学空間』が推されてますが、この本はまず、マラルメやリルケ、カフカを読んでいないとキツいです。
 また、『踏みはずし』という文芸時評集がこれまた面白いのですが、この独特の読解方法の仕方、なんとなくジャック・デリダの【脱構築】を彷彿とさせます。
 
 ちなみに、ちくま学芸文庫からブランショの『来るべき書物』も出てますが、ブランショ入門にはこちらもいいかも。
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2023/09/21 20:28
 埴谷雄高《はにやゆたか》さんの詩人や詩についてのエッセイ集、『幻視の詩学 わたしのなかの詩と詩人』(思潮社刊)を読み終えました。
 
 埴谷雄高さんもわりと人に良さをわかって欲しくなる作家で、『死霊《しれい》』、アレ長いし難しいんでしょ!? という方には、ソ連・東欧旅行記の『姿なき司祭』や本書を推したくなります。
 この本は、『死霊』とは違いけっこうわかりやすいのです。新書ですしね。
 
 本書、49頁に、今はもう閉店されてしまった神保町周辺の喫茶店「白十字」の名前がでてきたりします。
 
 基本的にはランボオやボードレール、ポオなどのちょっとボリュームのあるエッセイ、エッセイというか随筆というほうがしっくりくるかしら……が読み応えあります。
 マラルメについてあまり触れられていないのが意外だし、残念なところ。
 
 70頁「ポーは物語の主眼を効果に置いた。小説においては最初の一行から効果を持たぬならば、その作品はすでに失敗であるというのである」
 これはもうハリウッド脚本術と似てますね。書き出しと結尾は本当に難しいです。
 
 そして意外かもですが、わたしはポオ作品とはあんまり合わないようです。「メエルシュトレエムに呑まれて」なんかは好きなのですが(本書の中で埴谷さんも同作品を推されていて嬉しかったです)。
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2023/09/20 22:18
片山杜秀 『片山杜秀のクラシック大音楽家15講』 河出文庫 2023年


図書館で借りた本。
もともとは『文芸別冊』に掲載するため、
語りおろされた記事を集めたものだそうです。

以前に『クラシックの核心』として、
単行本で刊行されたものに内容を追加した文庫版。

作曲家や演奏家に評論家の吉田秀和を加えた、
15人について語られています。

圧倒的な博覧強記はいつもながらですけど、
著者の個人的な体験から始まるものが多く……

メジャーなカラヤンを敬遠して、
チケットをもらえる話を断ってしまったとか。
マンションの一室で営業している、
怪しい輸入盤店で買い物していたとか……

オタクあるある話で笑わせていただきました(U´ェ`)プピプピ

あと十代の片山さんの周囲にいた顔ぶれが愉快です。
バルトークを崇拝してた先輩とか、
修学旅行で寝ないで正座してた友達
(リヒターの大ファン)とか(U´ェ`)プーッピッピッピ

片山さんの美質は個人的な思い入れを大事にしつつ、
広い視野でものごとを見られるところでしょう。

たとえば奇矯な面が強調されがちなグールドの、
クラシック音楽の伝統に根差した面を指摘したり。

もっとも慧眼に唸らされたのは吉田秀和のくだり。
吉田一穂と中原中也という、
親交のあった詩人ふたりを持ちだして論じています。
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2023/09/20 11:08
 例の、「読書ができない症候群」の克服のため、読みやすく良質な本を選んで読んでいるのですが、倉橋由美子さんの『ポポイ』を読み終えました。
 
 話は単純です。
 元首相へ何かを訴えに来た政治団体(?)の二人は、その場で切腹>介錯を遂げます(介錯側は喉を日本刀で斬って自決)。切腹したのは美少年で、元首相の家族がらみの研究所で、首だけの状態でなんとか生きていられる処置をされます。
 
 そして、その状態がどんなものなのか、元首相の孫娘、舞に「首」は機器ごと預けられ、舞は「首」に古代ギリシャ語の感嘆詞「ポポイ」という名前をつけ、奇妙な生活がはじまります。
 
 そしてポポイはだんだん単純な、晩年のウィトゲンシュタインのような断章だけをアウトプットするようになり、最後は……。
 
 本当にこれだけなのですが、猫のトバモリー、犬のグルダ。ここらへんの命名の由来やら、細かいところがわかるとなんだか楽しくなります。
 
 ポポイは途中から、首から下の身体があるような気がしはじめるのですが、おそらく首(脳)だけでは人は生きていけないのでしょうか。
 もともとあまり豊饒な語彙を持っていなさそうなポポイは、「宇宙意識と繋がっている」とかいうのですが、どんどん語彙力の低下があからさまになっていくのです。
 
 そして、いわば上級国民の知性的で優雅な生活を描く「桂子さんシリーズ」の中でも、この作品は短いですし、とにかく読んでいて楽しいのでお勧め……と言いたいところなのですが、たぶん現在では入手困難かも、です。
 
 ちなみに文庫版では現代の仮名遣いに直されてしまっておりますが、もともとの単行本版では正仮名遣ひで書かれております。
 できたら文庫でも正仮名遣ひで通してほしかったですね……。
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2023/09/18 13:44
 ある意味、荒俣先生もよくこんなん出せたな……という『よみがえるカリスマ 平田篤胤』(荒俣宏+米田勝安 論創社刊)を読了しました。
 
 わかる人には平田篤胤大人がどれだけ扱うのにヤバいのかがわかるかと思います。なにせ、理論派系の保守、あるいは右翼の思想的バックボーンはだいたい平田篤胤大人だからです。
 
 でもそこは荒俣宏さん、一応、「国学や神道の巨人」、平田篤胤像だけでなく、とにかくマルチに凄い勉強をしていたという平田篤胤像を五代目のご子孫さんと一緒に語り合ってゆくのですね。
 
 その中でちょっとおもしろかったのが、いわゆる革命や維新ではなくて、学問の成果を民衆に伝え、それで民衆から悪いところは改めていこう、みたいな発想なのですね。
 今はもう無理かもしれませんが、かなりの重大事には、民衆も覚醒するかもしれませんし。いや、覚醒してほしいです。
 
 平田篤胤大人は、中国、インドに関する本から、日本の古史古伝、医学、天文学、地理学、易学、兵学、宗教、哲学……と勉強して著作を発表しているのですから。
 だから、「国学や神道の巨人」は間違ってはいないのですが、もっともっと多面体のような活動をしていたのです。
 
 ちなみに代々木だったかな? に平田神社さんがあるのですが、そこで祀られているのは当然平田篤胤大人です。もちろん勉学の神様みたいな感じで!
 一回参拝したのですが、ビルの一階にある変わった神社さまでした。
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2023/09/18 10:41
パウロ・コニェッティ 『狼の幸せ』  飯田 亮介 (訳)  早川書房 2023年(電子版)


半年前に出た本です。
『帰れない山』が評判になり、
昨年に映画も公開されたパウロ・コニェッティの最新作。

結論から言っちゃうと買ってよかった。
なかなか優れた小説だと思います。

ベタ甘の恋愛小説?と最初は退きかけたけど(笑)。
そんなことは、ありません。

人生に疲れた小説家。
山のレストランで働くウェイトレス。
もと森林監視員。
レストランのオーナー。

彼ら四人が交替で主人公を務める、
三十六章+エピローグから成る長編です。
北斎の富岳三十六景がヒントみたい
(作中で小道具として現れます)。

各人が自らと対話し、
すこしづつ人生を見つめなおしていくお話。
狼も、ちょこっとだけ出てきます。
「狼の幸せ」ってなんぞね?
それは読んでのお楽しみ。

舞台はモンテ・ローザ山塊の麓にある、
集落フォンターナ・フレッダ。
全体に記述があっさりしており、
大きな事件は起きず時間がゆったり流れます。

山の暮らしや登山の不自由さ危険さが語られる場面も。
わたしは超高所恐怖症ですので、
登山の場面が怖くて怖くて困りました(笑)。

あとパウロ・コニェッティさん、
なかなか粋というか匙加減が巧み。

人生の理不尽さを語りながらも、
過度に重くなることはありません。

かと思うとベタベタなロマンスや、
予定調和なハッピーエンドにも流れないのね。

ちょっと村上春樹みたいだな……
と思わされる台詞回しもありました。
春樹さんの硬さがなくて、
身に滲みこんだ自然さを感じさせるのが彼我の違いでしょうか。

あと、わたしは手に取ったことないんだけど、
書影を見るかぎり装丁がとても魅力的なんです。
一見の価値がありそう。
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2023/09/16 21:49
片山杜秀 『革命と戦争のクラシック音楽史』 NHK出版新書 2019年


図書館で借りた本です。

クラシック音楽の歴史といえば。
「教会から王侯貴族、
さらに市民へと聴衆が変わっていって……」

みたいな語りかたが通説になっています。
それはそれで間違ってはいません。

ただ、ふだん見落とされがちというか、
日本では「ないこと」にされがちな側面があって……
それが革命と戦争の影響だそうです。

片山杜秀さんの専門は政治思想史だけあって、
快刀乱麻を断つとは、このことでしょう。
じつに鮮やかに説きあかしてくれます。

社会のあらゆる物事は関連していますから、
革命や戦争が音楽に影響するのも、
当然といえば当然なのでしょうね。

てか、これは表向きの主旨であってだな(笑)。
片山さんは別なところで何度も、
伊福部昭が大好きだと語っているんですね。

小さいころ怪獣映画に夢中で、
ゴジラの音楽を担当した伊福部昭にも傾倒したといいます。

で、その延長でだ。
怪獣映画的な音楽に目がないのだそうです。
具体的には旧ソ連時代の東側の交響曲みたいな、
戦争やマスゲームを想起させるタイプのもの。

戦争も軍隊も集団行動も大嫌いだけど、
なぜか戦争っぽい音楽には目がない……んだって。

大好きな音楽の出自について、
自分の言葉で語ってみたかったのかな。

人間の趣味嗜好って、ふしぎよね(U´ェ`)プピピ
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2023/09/15 17:58
フリオ・リャマサーレス 『黄色い雨』  木村 榮一 (訳)  河出文庫 2017年(電子版)
 単行本(ハードカバー版)は2005年にソニー・マガジンズより刊行


ここ十年くらいに読んだなかで、
特に気に入ってる小説のひとつ。
『黄色い雨』を再読しました。

舞台はピレネーのふもと、
廃村になりかけているアイニェーリェ村。

最後のひとりとなった老人の問わず語りです。
そばにいるのは名のない雌犬だけ。

村を離れていった息子や隣人たちへの屈折した思い、
生命を絶った妻、幼くして病で逝った娘……
誰も彼もが去っていきますけど、
中盤で死者たちが亡霊として戻ってきます。

頑なだった語り手の態度が、
亡霊の出現あたりから微妙に変わりはじめるんです。
追い払うつもりでいた息子に対して、
情を示すようになったり。

「黄色い雨」はポプラの落ち葉。
死と滅びの物語を彩る色の美しさに、
今回も何度も溜息を吐かされました。

感傷的でひとりよがりな話も、
いえなくはないのですけど!

アマゾンの読者レビューに
「現実の限界集落の住人は、もっと陽気なものだ」
と書かれていたんですよ。

そのとおりかもなぁ。
このお話は、あくまで詩人の美しい幻想ということで。
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2023/09/13 22:11
リュドミラ・ウリツカヤ 『ソーネチカ』  沼野 恭子 (訳)  新潮クレスト・ブックス
 2002年


だいぶ前にブックオフか駿河屋で買った紙の本です。

薄くて活字も大きめなんだけど、
ちびちび、だらだら読んでたら数ヶ月かかりましたw

『緑の天幕』のリュドミラ・ウリツカヤが、
1993年に発表した彼女の出世作です。

地味で目立たないソーネチカは本の虫。
本を読みふけっていられれば幸せな彼女の生涯が、
淡々と綴られます。

市井の無名の庶民を主人公に、
憑かず離れずの距離で描くのって難しいことでしょう。

過度に露悪的になったり、
逆に必要以上に理想化したり。

ウリツカヤの美質のひとつは、
作中人物に対する距離感にあると思うんです。

貧乏くじばっかり引いてたように見えるソーネチカ、
案外に彼女の内面は輝く平安で満たされていて。

ああ、地味ぃ~な人生も悪くないな。
それどころか素敵なものだな……って、
じわじわ読後に思わされます。
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2023/09/12 22:56
片山杜秀, 山崎浩太郎, 田中美登里(聞き手) 『平成音楽史』 アルテスパブリッシング
 2019年


これも図書館で借りた本。

平成の三十年間における、
日本のクラシック音楽をめぐる状況が総括されます。

目から鱗が落ちたのが、
アバドの先見性についての指摘。
カラヤンの後任なのに華がないとか揶揄されており、
わたしも地味な指揮者だと思っていました。

けど新しい室内オーケストラを育てることで、
大組織の歯車にならないキャリアを若手に提供し、
かつ未来を見据えた音楽環境を作ってもいたのですね。

わたしはアバドさんをずいぶん見直し……
っていうか自分の不明を恥じるしか。
録音だけ追っていると見えないことも多いです。

日本の状況については
「キッチュ」という言葉を軸に語られていました。

昭和の教条主義的な権威や序列が凋落したのが平成。
それは音楽評論家の宇野功芳が、
幅広く読まれてステータスを獲得した時代だといいます。

昭和のころ宇野さんは、やや地味なポジションにいたんだって。
通俗じゃないけど「ハイカルチャーのミッド」くらいの位置。

昭和の権威とはいくらか距離のあった書き手が、
平成の時代状況との相性の良さからブランド化していった。
その文脈で宇野功芳は司馬遼太郎と似ているのだそうです。
これも目から鱗でした。

あとオウム事件とか佐村河内騒動についても、
いろいろ興味深く言及されています。

わたしがクラシックに親しみはじめた時期の話もあり
(大型店にとても勢いがありましたね)、
とても懐かしく、かつ興味深く読みました。
***このコメントは削除されています***
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2023/09/12 22:55
片山杜秀, 山崎浩太郎, 田中美登里(聞き手) 『平成音楽史』 
 アルテスパブリッシング 2019年


これも図書館で借りた本。

平成の三十年間における、
日本のクラシック音楽をめぐる状況が総括されます。

目から鱗が落ちたのが、
アバドの先見性についての指摘。
カラヤンの後任なのに華がないとか揶揄されており、
わたしも地味な指揮者だと思っていました。

けど新しい室内オーケストラを育てることで、
大組織の歯車にならないキャリアを若手に提供し、
かつ未来を見据えた音楽環境を作ってもいたのですね。

わたしはアバドさんをずいぶん見直し……
っていうか自分の不明を恥じるしか。
録音だけ追っていると見えないことも多いです。

日本の状況については
「キッチュ」という言葉を軸に語られていました。

昭和の教条主義的な権威や序列が凋落したのが平成。
それは音楽評論家の宇野功芳が、
幅広く読まれてステータスを獲得した時代だといいます。

昭和のころ宇野さんは、やや地味なポジションにいたんだって。
通俗じゃないけど「ハイカルチャーのミッド」くらいの位置。

昭和の権威とはいくらか距離のあった書き手が、
平成の時代状況との相性の良さからブランド化していった。
その文脈で宇野功芳は司馬遼太郎と似ているのだそうです。
これも目から鱗でした。

あとオウム事件とか佐村河内騒動についても、
いろいろ興味深く言及されています。

わたしがクラシックに親しみはじめた時期の話もあり
(大型店にとても勢いがありましたね)、
とても懐かしく、かつ興味深く読みました。
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2023/09/11 11:32
koto 『いとエモし。 超訳 日本の美しい文学』 サンクチュアリ出版 2023年


これも図書館で借りて読みました。

日本の古典(おもに和歌)を超訳
(メチャクチャ意訳ね)したものに、
現代的かつ繊細可憐なイラストを添えてあります。

以前に百人一首の現代語訳を、
とても楽しく読みました。

これは一歩進んでエモいです(笑)。
いえ、まじめな話。
「エモい=情緒が深く強く揺り動かされる」
ことであるなら、こんなにエモい本も、めずらしい。

クソヴァカまじめな先生がたが手に取られたら、
頭頂部から何か噴きあげそうですけど。

こういう本もあっていいし、
むしろ必要だと思います。

言葉や時代が違うだけで、
古典の根底にあるのは人間の営みですよね。
文法や単語を身につけるのは後回しでいいから、
まず核心に触れてみるのって素敵なことよ。

教条主義的なきまじめさは、
いったん脇に置いて。
広く手に取られて愛されてほしいです。

あと、わたしはこの本を「エモい」と感じて。
やっぱり自分の深いところに、
日本的な美意識が叩き込まれてるのを思い知らされました。

おなじ詩歌でもコールリッジの「老水夫行」なんかとは、
真逆といっていいくらいに異質な世界ですから。

欧米の詩の理屈っぽさ(例外はあるけど)に対して、
日本の詩は「つかのまのはかなさ」に、
美や真実を見出すものみたいですね。
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2023/09/10 20:39
谷本 真由美 『世界のニュースを日本人は何も知らない2、3』 
 ワニブックスPLUS新書 2020、2021年


図書館で借りた本。
『世界のニュースを日本人は何も知らない』
の続刊、2冊です。

2巻のほうはコロナ禍のさなかに出たもので、
各国のコロナをめぐる態度の違いが中心。

欧州ではコロナに対して杜撰な対応が目立ったといいます。
マスク着用を拒絶する傾向も強く、
これがコロナの蔓延に一役買ってしまったのだとか。

総じてヨーロッパ社会の個人主義的な風潮が、
コロナ禍にあっては裏目に出てしまったようです。

伊藤比呂美さんいわく
「日本人はみんな見えない制服を着ている」。

王谷晶さんいわく
「日本の社会はどこまでいっても小学校の教室」。

わたしは時折、日本のこういう窮屈さが、
心底から厭になることがあります。

ちょっとでも列を乱すと、
誰かがすっとんできて難癖をつけてくる。

それがコロナ禍にあっては奏功したといいますから、
ものごとの評価というのは難しいものですね。

3巻では著者が暮らしているイギリスを中心に、
おもにヨーロッパ社会の
「しょうもなさ」が紹介されています。

著者はかつて宝島社から出ていた『Vow』が大好きで、
ああいう「しょうもない小ネタ」として楽しんでほしいそうです。

ヨーロッパで会社に勤めると、
日本以上にドレスコードがうるさくて苦労するといいます。
特にフランスは煩わしいのだとか。

ドイツ人は欧州一のドケチだとありました。
イタリア人のケチは社会が貧しいからで、
ドイツ人のケチは骨がらみの文化なんだって。

あと近年のイギリスでは、
海外にルーツを持つ人が飛躍的に増えているといいます。

日本のアニメ『プリンセス・プリンシパル』だとか
『憂国のモリアーティ』で見られるような、
白人ばっかりのイギリスは完全に過去のもの。

そうそうイギリスではカレーが大人気で、
日本式のカレールーも評判がいいんだって。

2冊いずれも、やや「日本びいき」的なトーンが目立ちます。
最初に出たものは辛口だったんだけど……
***このコメントは削除されています***
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2023/09/10 20:38
谷本 真由美 『世界のニュースを日本人は何も知らない2、3』 ワニブックスPLUS新書 
 2020、2021年


図書館で借りた本。
『世界のニュースを日本人は何も知らない』
の続刊、2冊です。

2巻のほうはコロナ禍のさなかに出たもので、
各国のコロナをめぐる態度の違いが中心。

欧州ではコロナに対して杜撰な対応が目立ったといいます。
マスク着用を拒絶する傾向も強く、
これがコロナの蔓延に一役買ってしまったのだとか。

総じてヨーロッパ社会の個人主義的な風潮が、
コロナ禍にあっては裏目に出てしまったようです。

伊藤比呂美さんいわく
「日本人はみんな見えない制服を着ている」。

王谷晶さんいわく
「日本の社会はどこまでいっても小学校の教室」。

わたしは時折、日本のこういう窮屈さが、
心底から厭になることがあります。

ちょっとでも列を乱すと、
誰かがすっとんできて難癖をつけてくる。

それがコロナ禍にあっては奏功したといいますから、
ものごとの評価というのは難しいものですね。

3巻では著者が暮らしているイギリスを中心に、
おもにヨーロッパ社会の
「しょうもなさ」が紹介されています。

著者はかつて宝島社から出ていた『Vow』が大好きで、
ああいう「しょうもない小ネタ」として楽しんでほしいそうです。

ヨーロッパで会社に勤めると、
日本以上にドレスコードがうるさくて苦労するといいます。
特にフランスは煩わしいのだとか。

ドイツ人は欧州一のドケチだとありました。
イタリア人のケチは社会が貧しいからで、
ドイツ人のケチは骨がらみの文化なんだって。

あと近年のイギリスでは、
海外にルーツを持つ人が飛躍的に増えているといいます。

日本のアニメ『プリンセス・プリンシパル』だとか
『憂国のモリアーティ』で見られるような、
白人ばっかりのイギリスは完全に過去のもの。

そうそうイギリスではカレーが大人気で、
日本式のカレールーも評判がいいんだって。

2冊いずれも、やや「日本びいき」的なトーンが目立ちます。
最初に出たものは辛口だったんだけど……
***このコメントは削除されています***
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2023/09/10 20:37
谷本 真由美 『世界のニュースを日本人は何も知らない2、3』 ワニブックスPLUS新書 
 2020、2021年


図書館で借りた本。
『世界のニュースを日本人は何も知らない』
の続刊、2冊です。

2巻のほうはコロナ禍のさなかに出たもので、
各国のコロナをめぐる態度の違いが中心。

欧州ではコロナに対して杜撰な対応が目立ったといいます。
マスク着用を拒絶する傾向も強く、
これがコロナの蔓延に一役買ってしまったのだとか。

総じてヨーロッパ社会の個人主義的な風潮が、
コロナ禍にあっては裏目に出てしまったようです。

伊藤比呂美さんいわく
「日本人はみんな見えない制服を着ている」。

王谷晶さんいわく
「日本の社会はどこまでいっても小学校の教室」。

わたしは時折、日本のこういう窮屈さが、
心底から厭になることがあります。

ちょっとでも列を乱すと、
誰かがすっとんできて難癖をつけてくる。

それがコロナ禍にあっては奏功したといいますから、
ものごとの評価というのは難しいものですね。

3巻では著者が暮らしているイギリスを中心に、
おもにヨーロッパ社会の
「しょうもなさ」が紹介されています。

著者はかつての宝島社から出ていた『Vow』が大好きで、
ああいう「しょうもない小ネタ」として楽しんでほしいそうです。

ヨーロッパで会社に勤めると、
日本以上にドレスコードがうるさくて苦労するといいます。
特にフランスは煩わしいのだとか。

ドイツ人は欧州一のドケチだとありました。
イタリア人のケチは社会が貧しいからで、
ドイツ人のケチは骨がらみの文化なんだって。

あと近年のイギリスでは、
海外にルーツを持つ人が飛躍的に増えているといいます。

日本のアニメ『プリンセス・プリンシパル』だとか
『憂国のモリアーティ』で見られるような、
白人ばっかりのイギリスは完全に過去のもの。

そうそうイギリスではカレーが大人気で、
日本式のカレールーも評判がいいんだって。

2冊いずれも、やや「日本びいき」的なトーンが目立ちます。
最初に出たものは辛口だったんだけど……
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2023/09/09 22:35
グアダルーペ・ネッテル 『花びらとその他の不穏な物語』  宇野 和美 (訳)  現代書館
 2022年


メキシコの作家ネッテルの、
日本では2冊目となる短編集です。

いずれの主人公も、
なんらかの執着を抱えて生きています。

たとえば他人のまぶただったり、
別れた恋人だったり、
抜毛症の症状だったり。

なかでも強烈だったのは「花びら」。
この主人公は特殊な感受性の持ち主です。
トイレに残された痕跡から、
未知の相手の心身の状態を把握できます。

立派な変質者ではないか(笑)。
ひとの孤独の深さを垣間見せる、
なかなか優れた短編です。

これと、抜毛症に憑かれた女性の告白
「ベゾアール石」の完成度が一頭抜けていた印象があります。

いずれに作品も、
人間のわかりあえなさを主題にしていました。

わたしが好きなのは「桟橋の向こう側」。
「ほんものの孤独」を探す少女のお話です。

もろに村上春樹フォロワーな「盆栽」も、
なかなかよく書けていました。
(けど、これを読むなら、
ふつうに春樹を読んだほうがいい気も)。
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2023/09/05 20:05
マリーケ・ルカス・ライネフェルト 『不快な夕闇』 國森 由美子(訳) 早川書房
 2023年


オランダの詩人による小説です。
2020年に本書英訳版で国際ブッカー賞。

主人公は十歳の少女ヤス。
両親は敬虔なプロテスタントで、
酪農家を営んでいます。

クリスマスに自分の兎が殺されるかも。
怖れたヤスは、こっそり神に祈ります。

「長兄マティースをかわりに連れていってください」。

その言葉どおり、
マティースはスケートから帰ってきませんでした。

一家が軋みはじめ崩壊していく過程が、
ヤスの一人称で綴られます。

自暴自棄になっていく両親。
粗暴さを増す次兄オブ。
農場の動物たちの死。
ヤスはマティースの死以来、
赤いジャケットを脱げなくなってしまいます。

あと、この本は汚い。
不潔描写が多いって意味ね。
ヤスが自分の鼻くそ食べちゃったりとか。

わたしは食事中に読んだことを、
いちどならず後悔させられました(笑)。

大小便、目くそ鼻くそなどなど頻出。
人間ばかりでなく、
酪農家のお話だから牛がらみのも多し。

けど、こども時代の世界って、
こういう「ばっちいもの」に囲まれてたよね。
そのなかから性への関心が、
頭をもたげてくるさまには頷かされました。

陰惨なばっかりのお話じゃなく、
ヤスの問わず語りは、けっこうトボけてて。
人間ってギリギリな線の上にいるときほど、
ふざけてみせたりするものかも。
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2023/09/03 20:17
ケン・リュウ 『紙の動物園』 古沢 嘉通 (訳、編) 新☆ハヤカワ・SF・シリーズ
 2015年(電子版)


中国生まれアメリカ育ちの小説家、
ケン・リュウの短編を集めた日本オリジナルの本です。

作風の幅がかなり広く、
SFやファンタジーからリアリズム寄りのものまで。

わたしは標題作に心を突かれました。
「すこし、ふしぎ」な折り紙の動物たちを通して、
異なる言葉と文化を生きざるを得なかった、
母と息子の物語が綴られます。

いささか感傷的だと辛口に見る向きもあるでしょうけど、
これは優れた短編だと思いました。

あと強烈な印象を残していったのが「文字占い師」。
現実離れした要素はほとんどなく、
台湾の歴史を踏まえたリアリズム寄りの作品です。
孤独な少女が心を許した、
優しい老人と少年を待つものは……

目を背けたくなるような描写があります。
現実はもっと残酷だったのかもしれません。
それだけに世界の不条理と、
一瞬の心のふれあいの対比が鮮やかでした。

それから掉尾に置かれた「良い狩りを」。
SFとしては、これがいちばん優れているかも。
中国の伝承をひとひねり、ふたひねりして、
意外な結末に着地させます。

いずれの作品も完成度が高く、
一読の価値がある短編集でした。
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2023/09/01 13:39
 先日のおでかけで買ってきた坂本龍一の『音楽は自由にする』(新潮文庫刊)を読了しました。
 坂本の本や追悼特集の雑誌などは買わない、ロスが長引くだけだから、と思ったのですが、この本はけっこう前の(もとの単行本版は2009年刊行)本なので、まぁ、いいか、と。
 
 聞き手の方に話している本なので、なんだか読んでいると坂本教授がわたしに向かってあのぼそぼそしたあの口調で語っているのではないか的妄想が捗りました。
 
 音楽教育を重視する幼稚園時代、小学生時代に作曲の先生に就いたこと、幼き坂本の意志じゃなくて、お母様の力が強くあったのですね。
 幼いころから、YMO結成直前まで(ちょうど本書前半)は読んでいて「そうだったのか」ということも多く面白かったです。
 
 あとはアルバム「Beauty」あたりからはじまった、坂本教授の「ポップ」なものへの執着。これは坂本自身も振り返ってあんまりよく思ってないようなのですが、じつはこれ、リスナーであるわたしにも通じてきて、正直なところ痛々しいのです。
 実際、「ポップ」を目指していた時代のアルバムの中には「Smoochy」や「Heartbeat」のように聴いてもいない盤もあります。
 
 そんなときに、なにげなく依頼を受けてつくった、リゲインのCM曲、「Energy Flow」が大ヒット。と、ほぼ同時にリリースされたほぼピアノ独奏ものの「BTTB」、ここらでわたしもまた坂本龍一の音楽に戻ってきました。
 
 と、とめどなく書いてしまうので、最後に一つ。
 坂本といえばドビュッシーを好き過ぎて自分はドビュッシーの生まれ変わりじゃないかとまで思っていたそうですがw、そんな坂本もいいおっさんになったときに、こう考えたのだそうです──人類史上もっとも洗練されているであろうドビュッシーの音楽にも、当時のフランスの帝国主義、植民地主義という犯罪性が宿っていると──それを忘れてはいけないという──。
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2023/08/29 11:45
岡田 暁生, 片山 杜秀 『ごまかさないクラシック音楽』 新潮選書 2023年


図書館で借りました。
それなりのボリュームがある(340ページ以上)けど、
おもしろくて長さが苦にならなかったな。

博覧強記のひとって、いるものですね。
大学の先生ふたりが、
縦横無尽にクラシック音楽を語りあいます。

「ごまかさないクラシック音楽」。
なんぞね、それ(U´ェ`U)ピャー?

とりもなおさず、こんな本が出るからには。
昨今のクラシック音楽界が
「ごまかし」に満ちている認識があるわけです。

クラシックに限りませんけど、
あらゆる音楽は社会のありようと密接に結びついています。

そこを見ないで、
ただ趣味的に音楽を消費していく聴き手が、
あまりにも多い(わたしも、そうです)。
これが第一の「ごまかし」。

もうひとつ。
西欧クラシック音楽というのは、
とっくの昔に寿命を迎えた芸術分野なのでは、あるまいか。
先入観を排して見ていくと、
そうとしか思えなくなってきます。

ところが諸般の事情から
「まだまだクラシックは元気ですよ!」。
死体にカンフルをブチ込んだゾンビさんたちが、
生きてるふりして市場を闊歩しているわけね。
これが第二の「ごまかし」。

そういう「ごまかし」のヴェールを剥ぎとったら、
いったい何物が顕現してくるのでしょう。

いろんな意味で蒙を啓かれ、
興味の尽きない読書でした。
「社会史と思想から読むクラシック音楽」。
こういう副題をつけてもいい気がします。

著者ふたりの別著も手に取ってみたいです。
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2023/08/23 14:46
 ブライアン・W・オールディスの短編集『爆発星雲の伝説』(ハヤカワSF文庫刊)を読み終えました。
 
 つまらない、面白くない、そんなことではないのですが、ブライアン・W・オールディスはちょっと器用貧乏な方ではないかと思います(非常に失礼)。
 
 どの作品がいいと言われると粒ぞろいで悩みます。宇宙移民を描き、惑星ダンソンがそのうち好きになりますよ的なことをいうダンソン民のケイター。その口車に載せられて……と移民政策をかなり風刺しているような(落ちも凄い)「恵まれないもの」。
 
 惑星カカカカクソー(変な名前ですがなぜこの名前なのかはわかります)で爬虫類っぽい小人たちを相手にまるで映画「地獄の黙示録」のように小人たちに君臨する老人デンジャーフィールド。惑星生態学調査隊の見た、小人たちの儀式は……という、これまた落ちの凄い、だけどグロとかキモい描写の多い、「神様ごっこ」。
 
 ハードSF的な超光速船の港があり、その離発着で惑星の南側がダメになってしまった惑星、タンディ2。時間がそのためころころ変わります。地球へ帰りたがる一家。そしてドロドロした不倫とか……「ああ、わが麗しの日よ!」。
 
 〆を飾る幻想小説っぽい「賛美歌百番」もよかったです。SF好きなら楽しめるはずです。でもSFファン以外の方には癖が強くてお勧めできないかも……。
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2023/08/19 15:32
 プラトンの『ゴルギアス』(岩波文庫刊)を読了しました。
 
 プラトンの活動期はおおまかに三期に分かれるようで、これは初期(遍歴時代)の最後のころに書かれた分水嶺的な作品のようです。『饗宴』や『パイドン』よりは前。ですが、のちの『国家』などにつながるかなり大きくて、根本的な問題を扱っております。
 
 弁論術についての対話なのですが、細かく定義づけを掘り下げていって、相手を論破してしまうソクラテスが若干いやなヤツな感じもします。
 
 とはいえ、ゴルギアスやその弟子ポロス、それにカルリクレス(これ、本書ではルが小さな字体なのですが、正確な発音なのかしら)との知的な格闘技のような妙技は、プラトンにしか書けないかと思います。
 
 衝撃というか、よく言った! と思うのが、多数決が政治的によくないというソクラテス(というかプラトン)の発言。
 およそ2400年も昔に、民主主義の脆弱性を見抜いており、それが結局解決できていない、というのも凄い話です。
 
 プラトンといえば『饗宴』ですが(いや、『パイドン』や『ソクラテスの弁明』かなぁ……)、岩波文庫版の『饗宴』は、時代背景などの説明がまず冒頭に掲載されていて、それがいい導入部になっておりました。
 本書では、紀元前五世紀、アテナイのある公共の建物の広間、としか指定されていないようなものです。
 なのでかなり抽象的な議論である感覚は強いです。とくにカルリクレスとのやりとりは凄味がありました。
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2023/08/16 11:44
冨田 浩司 『危機の指導者 チャーチル』 新潮選書 2011年(電子版)


著者は現役の外交官だといいます。

小学生のころ親戚からもらった本のなかに、
英米の政治家の伝記があったんです。

リンカーンは苦労人でケネディはお坊ちゃま。
ふたりとも優秀だったんだって。
わたしが、ひいきにしていたのはチャーチルさん。
なぜって?

「勉強ができませんでした」って書いてあったからだよ!
(U`ェ´) ケッピャッハーッ!!

本人が自伝のなかでネタ半分に書いてたことらしいです。
じっさいは、それほど悪い成績ではなかったとか。
ただラテン語の勉強は苦手で、
それで大学へ進まずに軍隊へ入ったらしい……とも。

ともあれ。
存命当時のイギリス政界で、はみだし者だったチャーチル。
それが戦争指導者としては類稀な資質を発揮します。

危なっかしいところも多々あった人物ですけど、
最後まで独裁や独善に陥らなかった点には注目すべきでしょう。
同時代の独裁者たちとは、どこが違ったのか……
考えさせられるところです。

わたしが個人的に興味を惹かれたのはチャーチルが、
妻クレメンティンと終生、良好な関係を保ったこと。
それと彼らのこどもたちの多くが、
傍目には苦労の多そうな人生を送ったことでした。

どこか人間的にトボけた味わいがあったチャーチル。
スラムの住人からも「ウィニー爺さん」と慕われたそうです。
会って話を聴くことができるなら、
わたしはヒトラーやスターリンよりチャーチルを選ぶな。
***このコメントは削除されています***
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2023/08/16 11:41

著者は現役の外交官だといいます。

小学生のころ親戚からもらった本のなかに、
英米の政治家の伝記があったんです。

リンカーンは苦労人でケネディはお坊ちゃま。
ふたりとも優秀だったんだって。
わたしが、ひいきにしていたのはチャーチルさん。
なぜって?

「勉強ができませんでした」って書いてあったからだよ!
(U`ェ´) ケッピャッハーッ!!

本人が自伝のなかでネタ半分に書いてたことらしいです。
じっさいは、それほど悪い成績ではなかったとか。
ただラテン語の勉強は苦手で、
それで大学へ進まずに軍隊へ入ったらしい……とも。

ともあれ。
存命当時のイギリス政界で、はみだし者だったチャーチル。
それが戦争指導者としては類稀な資質を発揮します。

危なっかしいところも多々あった人物ですけど、
最後まで独裁や独善に陥らなかった点には注目すべきでしょう。
同時代の独裁者たちとは、どこが違ったのか……
考えさせられるところです。

わたしが個人的に興味を惹かれたのはチャーチルが、
妻クレメンティンと終生、良好な関係を保ったこと。
それと彼らのこどもたちの多くが、
傍目には苦労の多そうな人生を送ったことでした。

どこか人間的にトボけた味わいがあったチャーチル。
スラムの住人からも「ウィニー爺さん」と慕われたそうです。
会って話を聴くことができるなら、
わたしはヒトラーやスターリンよりチャーチルを選ぶな。
***このコメントは削除されています***
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2023/08/16 11:40
冨田 浩司 『危機の指導者 チャーチル』 新潮選書 2011年(電子版)


著者は現役の外交官だといいます。

小学生のころ親戚からもらった本のなかに、
英米の政治家の伝記があったんです。

リンカーンは苦労人でケネディはお坊ちゃま。
ふたりとも優秀だったんだって。
わたしがひいきにしていたのはチャーチルさん。
なぜって?

「勉強ができませんでした」って書いてあったからだよ!
(U`ェ´) ケッピャッハーッ!!

本人が自伝のなかでネタ半分に書いてたことらしいです。
じっさいは、それほど悪い成績ではなかったとか。
ただラテン語の勉強は苦手で、
それで大学へ進まずに軍隊へ入ったらしい……とも。

ともあれ。
存命当時のイギリス政界で、はみだし者だったチャーチル。
それが戦争指導者としては類稀な資質を発揮します。

危なっかしいところも多々あった人物ですけど、
最後まで独裁や独善に陥らなかった点には注目すべきでしょう。
同時代の独裁者たちとは、どこが違ったのか……
考えさせられるところです。

わたしが個人的に興味を惹かれたのはチャーチルが、
妻クレメンティンと終生、良好な関係を保ったこと。
それと彼らのこどもたちの多くが、
傍目には苦労の多そうな人生を送ったことでした。

どこか人間的にトボけた味わいがあったチャーチル。
スラムの住人からも「ウィニー爺さん」と慕われたそうです。
会って話を聴くことができるなら、
わたしはヒトラーやスターリンよりチャーチルを選ぶな。
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2023/08/13 22:11
 田辺聖子先生の『田辺聖子の小倉百人一首』(角川文庫刊)を読了しました。とりあえず日本の古典を読みたい、とか和歌を知りたいという方には真っ先にお勧めしたい本です。
 
 わたしは本書、隙間時間にぽつぽつ読もうとしていたのですが、2/3ぐらいまできて休みながらもパッと全部読んでしまいました。
 
 一首一首がミクロコスモスを構成しているので、早くは読めません。わたしがょゎょゎなので二、三首読むと疲れちゃうのですよ。
 
 めちゃくちゃ古典に造詣の深い田辺先生の名調子で、面白く、かつ、深く一首ずつの解説が楽しめます。
 別にわたしは容色の劣化を嘆くほど外見に恵まれていないのですが、それでも「歳だよなぁ……」っていう劣化にやられているので、やはり百人一首では小野小町のあの有名な、
 
 花の色はうつりにけりないたづらに わが身世《みよ》にふる ながめせしまに
 
 これはしみじみと感じ入りますねー。
 個人的には五十首後半から六十首前半の、和泉式部、紫式部、清少納言、相模、と星座のように並んでいる詠草も好きです。
 
 しかし、どちらかというと、いかにも王朝な時代の技巧的、華やかな和歌よりも、わたしは萬葉集のほうが好きかもしれません。あの斎藤茂吉さんのセレクトと解説による『萬葉秀歌』(上下巻 岩波新書)でしか読んでおりませんが。
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2023/08/10 22:31
谷本 真由美 『世界のニュースを日本人は何も知らない』 ワニブックスPLUS新書 2019年


アマゾンで知って図書館で借りた本。
著者には国連勤務の経験があるそうです。

わたしはNHKが流す海外ドキュメンタリーが好きで、
よく観ます。
それが呼び水になって、
なんとなく国際ニュースにも興味が湧いてきたのですけど……

ふだん新聞やテレビの報道に接していると、
日本では海外の情報が極端に少ないんですよね。
著者によれば受け手の関心が薄いせいだといいます。

数年前に出た本ですけど、
たしかに知らないことだらけ。

日本人一般の抱きがちなイメージとは裏腹に、
ロンドンでは白人が既に少数派だとか。
あとイギリスの治安の悪い地域で、
女子中学生が自宅に機関銃を隠し持ってたそうです。

格差を解消することが貧困層や中間層だけでなく、
ひいては富裕層のためにもなるのだ……
という指摘には頷かされました。

あと諸外国と比較することで、
日本の恵まれた面と、そうでない面がよく見えてきます。

治安の良さが世界トップクラスなことは周知ですけど、
医療や福祉もかなり高い水準だそうです。

安全には恵まれているのに、
日本人の自殺率がきわめて高いことが気になります。
2015年の調査ではロシアやウクライナに次ぐ数字です。
世界で第18位……


https://honkawa2.sakura.ne.jp/2770.html


何が、この国を地獄にしているのでしょうか。
わたしは日本人の「融通の利かなさ」だと思います。

この場で論じきれる問題ではありませんけど……
もっと柔軟になれれば、
誰もが生きやすい社会にできるのに。

読みやすく、いろいろ考える手がかりになります。
この本を足がかりに、
海外事情についての文献を探してみるのも、いいかも。

そうそう。
オランダ人は欧州一(世界一?)のドケチで、
ドイツ人は欧州一(世界一?)のドスケベだそうですよ(笑)。
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2023/08/09 17:36
ファン・ラモン・ヒメーネス 『プラテーロとわたし』 長南 実(訳) 岩波文庫 赤 
 2001年(紙・電子版の両方で読みました)


このところ蒸し暑い日が続いたせいか、
なかなか活字に集中できませんでした。

こういうとき「還れる本」がありがたいです。
『プラテーロとわたし』は宝物のひとつ。

詩人ヒメーネスが銀色のろば、
プラテーロに語りかけて故郷モゲーロでの暮らしを綴ります。

痛いほどに青い空。
色感の豊かさが脳裏を灼きます、いつ読んでも。

あと、この散文詩集は光と影のコントラストが強烈。
それは色のことばかりではなく、人生や世界の光と影。

プラテーロや親戚の子たちを慈しむヒメーネスの、
まなざしは優しいのだけれど。
彼は精神を病んで療養していたのですよね。

地元の糞ガキどもから
「エル・ローコ(狂人)」「ばか」
などと囃したてられたりもしています。

貧しいひとたちの厳しい暮らし、
鞭で打たれる、ろばたち。
人間の気まぐれで撃ち殺されてしまう病気の犬。

そうした影や闇が、
ひときわモゲーロの光を強く感じさせます。
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2023/07/29 17:23
 『パンツを捨てるサル』(栗本慎一郎著 光文社カッパ・サイエンス刊)を読み終えました。
 
 ある意味、新型コロナの蔓延を先取っているかの本。レトロウィルスなどは(エイズウィルスや成人性T細胞白血病(←以下ATLと略称します))、逆転写というメカニズムで自分の遺伝情報をヒトのDNAへ教え込める。今西錦司先生などは『ウィルス進化論』という本まで書かれているとか。
 ウィルスによって起きた病気やその克服の過程が生物に大々的な飛躍を作る。
 
 「快感」がヒトを支配する。快感がセットされればヒトはなんでもやってのける。ナチスよりも酷い毛沢東の文化大革命やポル・ポトのクメール・ルージュによるカンボジア内戦など。思想、理念、正義などは後付けに過ぎない。
 
 この本をパッと要約すれば、ヒトを含む動物は「快感」によって動き、襲いかかった病原菌、ウィルスによって変わった、と。
 
 近代社会の準備。市場社会になってから人口が増えたわけではない。赤ちゃんや子供の死亡率の減少で。
 ちなみにネイティヴ・アメリカンを追い込んだのは騎兵隊の突撃ではなく、白人が欧州から持ち込んだ流感だった。
 
 ATLがかつての日本を襲った可能性。T細胞はヒトの免疫をつかさどるトップの細胞であり、ATLは中央アフリカ、カリブ海諸島など、限られた場所でしか見つかっていない。縄文人の絶滅がこのATLだという説。
 
 現在のヒトがヒト科の「進化最終形態」だと決まったわけではない。ウィルスによってまだ次段階がセットされているのかも。ウィルスという「外部」をヒトは内部に抱え込んでいるため、ヒトDNAは自己完結したものではない。むしろ、異生物との雑種である。ジョルジュ・バタイユは神は「内部」にあるといったが、これを意味しているのか。
 
 わたしの要約は読書ノートにつけたそのまんまの文章なので、わかりづらい箇所などあったらすみません……ほかにもドパミンによる「快楽」の問題など、いろいろ扱っていて面白い本だったです。本当に怖いぐらい。
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2023/07/26 20:33
宝木 範義 『パリ物語』 講談社学術文庫 2005年(電子版)
 初出は新潮選書 1984年


6月に読んだ『ウィーン物語』の著者による、姉妹編です。
歴史と文化をたどるエッセイをまとめ、
パリという街の特徴を伝える本。

エリック・ロメールの映画を観ていると、
パリが舞台になるものが多くあります。
この小汚い街のどこが、そこまで特別なのでしょう(笑)。
興味が湧いてきました。

パリっていうとピサロの絵が思い出されます。
印象派は好んで、この街を画題に選びました。

あたりまえだけど、
近代的なパリは地面から湧いて出てきたものと違うんですね。

ケルト人の城砦に端を発する、
城塞に囲まれた陰鬱な街だったといいます。
それをナポレオン3世の号令のもと、
オスマン男爵が大改造しました。

近代化が急ピッチで進んだ所産として、
わたしたちが絵画や映画で目にするパリが現れたんだって。

たびたび万国博覧会が催され、
パリの文化的なピークは19世紀末から20世紀初頭くらいだったみたい。

この本の内容は40年くらい前の雑誌に連載されたものだけど、
こんにちの欧州の情勢を考えると……

変わらないものと変わりゆくものに、
歴史の無常と人間のしたたかさを痛感させられました。

大きな歴史の流れに目配りしつつ、
街角の個々人の営為を慈しむ内容で好感が持てる本です。
パリに関心をお持ちの向きには、一読をお薦めします。
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2023/07/25 21:13
 伊藤俊治さんの『生体廃墟論』(リブロポート刊)を読み終えました。この人は『裸体の森へ』のほうがたぶん有名。
 
 写真や絵などを通じて、ヒト科がポスト・ヒューマンへと、ただの有機体からサイボーグなどなどへ進化していくのではないか的な考察本。
 
 写真、絵画だと取り上げられるのがギーガー、シンディ・シャーマン、ジョエル・ピーター・ウィトキン、ダイアン・アーバスなどなど。
 写真や絵画論の前半部もかなり面白いのですが、ジョン・C・リリーのLSD話やイルカとのコミュニケーションだの、宇宙進出だのなんというか、現在でいう「トランス・ヒューマニズム」系のぶっとんでいた系、ですね。
 
 過去形で言うのはなんだか現実がそちらの方向に舵を切らなかったこと、もしかしたらちょっと人類には早すぎる考察かもしれません。
 
 小説の資料というかインスピレーションになるかと思って読んでみたのですが、面白いことは面白いです。
 ギーガーといえば、「New York City」だけでも画集を買っておけばよかった……。あとは「エロトメカニクス」とか。ギーガーは抽象画っぽいのが好きです。
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2023/07/24 22:50
マーニー・ジョレンビー 『ばいばい、バッグレディ』 早川書房 2021年


アメリカ人の著者が日本語で書いた小説です。
5年をかけた労作だといいます。

主人公は高校生の相川あけび。
母親は女優で、海外に出奔。
ライターの父親と暮らしています。

あるとき父親が、
大量の鞄類を抱えた「バッグレディ」
を伴って帰宅しました。

バッグレディが詐欺師ではないかと、
あけびは疑いの目を向け……

心苦しいけど、
わたしの感想は厳しいものです。

荒削りを通りこして、
プロットが雑な印象を受けました。

プロの作品として出版する基準には、
達していないようにも思えます。

たとえば……
バッグレディが超自然的な能力を行使したり、
あけびが母親に激しい反発を示したりします。

それではバッグレディとは何者なのか。
あけびの母親は、どれほど酷い人物なのか。
全体に説明が足りなくて感情移入できないんです。
読み手がおいてきぼりにされてる感じがしました。

もっと練りあげれば良い作品になったかも。
「買って読まなくて正解だったな」が、
わたしの正直な感想です。
残念だけど。
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2023/07/21 20:09
アーサー・ビナード 『もしも、詩があったら』 光文社新書 2015年(電子版)


「もしも」という言葉に詩のおもしろさの鍵がある……
それが著者の主張です。

そうか。
もしも、いぬさんが臭くも醜くもなかったら。
いぬさんの顔が、ぶにゅぶにゅしてなくて、
つまんだり、ひっぱったり、つねったりしても、
ちっとも愉快じゃなかったら……

人生のよろこびの何割かが削減されますね。
いや臭くないのは嬉しいかも知らんが。

すみません話が逸れました(U˙ꈊ˙U)。

「もしも」をキーワードに、
古今の英語圏の詩を自ら和訳して紹介してくれるビナードさん。

わたしはキンドル版で読んだのですけど、
これはワンタッチで原文を参照できるのが便利でした。

あとね、この本、あとがきが秀逸なんですよ。
本文がつまらないというわけでは微塵もなくて。
ここまで心を打つあとがき、
そうそう出会えるものでは、ありません。

わたしが人生で出会った、
もっとも素敵なあとがきのひとつかも。

イギリスには「ゴータムの賢者」という言葉があって。
おばかさんのことなんだって。

ジョン王がゴータムの村に宮殿を建てようと考えたとき、
村のひとたちは知恵をめぐらせて、ばかのふりをして……
王さまを呆れさせて農地をぶんどられずに、すみました。

権力者に逆らったら生命がない時代ですものね!

詩が、わたしたちの人生に与えてくれるものは、
ゴータムのおばかさんの知恵とよく似ています。

邪悪なものたちが、おためごかしの言葉を並べて、
わたしたちの人生を略奪しようとするとき。

「効率や便利さって何のため、誰のため?」。
王さまが裸だという核心を衝いてくれるのが詩です。

誰だって、どっかのクズ野郎の権勢欲とか金儲けの、
喰いものにされるために生まれてくるわけじゃない。

いちばん世の中の役に立たなそうなものこそ、
わたしたちの魂には欠かすことができません。
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2023/07/19 11:53
フェルディナント・フォン・シーラッハ 『珈琲と煙草』 東京創元社 2023年


ことし二月に出た、
フェルディナント・フォン・シーラッハの日本最新刊です。

シーラッハさんといえばドイツの刑事事件弁護士で小説家。
関わった事件をヒントにした短編集『犯罪』が、
日本でも評判になりましたね。

この本にも短い文章が多く収録されているのですけど!
従来のものとは、ちょっと傾向が異なります。
エッセイとも小説ともつかない掌編が多いんですよ。

どこまで事実でどこまで虚構か、わかりません。
けど肝要なのは、そこじゃないのね。
この本には、これまでになく、
人間シーラッハの本音が透けてみえるんです。

小さなころの思い出や出世街道から外れた旧友の話。
あるいはウクライナの弁護士や日本人ピアニストとの出会い。
珈琲と煙草が手放せないこと。

また昨今のSNSで目にする自国中心主義的な発言と、
かつてのナチ高官の言葉がそっくりなこと。

シーラッハの法律観、ひいては人間観がうかがえる、
以下の言葉が強く印象に残りました。


> 自然の法則のままに生きるなら、
> 私たちは弱者を殺すことに持てる力を行使するだろう。
> だが私たちは別の選択をした。
> 私たちは法を定め、強者を優遇せず、弱者を守る倫理を生み出した。
> 隣人に敬意を払うこと。
> これこそ、私たちをなによりも人間らしくしているものなのだ。


わたしが、どうして彼の本を手に取らずにいられないのか、
ちょっとだけ、わかったように感じられます。

あと煙草は大の苦手ですけど、
わたしはコーヒーなしで生きていけません(笑)。
ナカマ(U⋆´ェ`*)人(´´ェ`U)ナカーマ
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2023/07/13 13:54
 詩とその批評誌「ユリイカ」の94年10月号、「増頁特集 セリーヌの世界 生誕100年記念」の号を読み終えました。連載や詩などは読まず特集だけですが。
 
 セリーヌ御本人様へのインタビューも良かったし、論考や彼をめぐるエッセイもなかなかよかったです。
 
 とはいえ、国書刊行会から出版されている『セリーヌの作品』シリーズ(ほぼ全集)ですが、訳がこなれておらず、たとえば国書刊行会の版だと『死体派』が正確には『死体学校』が内容に即しているだろうとか。
 仏語なんかわからないわたしにとっては蒙がひらけるような論文も。
 
 ちなみに、セリーヌ自身は自分のことを反戦主義者だと言っています。ただし、はっきりと反ユダヤ主義でもあると。そして、|対独協力者《コラボ》への件については、微妙にナチス支持だった発言も少なくないらしいのです。
 
 わたしは後期のセリーヌの作品に、ナチを罵倒する文章があるように記憶しているのですが……どのみち、セリーヌの場合、単純な反ユダヤ親ナチス、ということではないと思います。
 
 菅野賢治先生のそのあたりをとりあげた論考が一番凄みがありました。
 
 それにしても国書刊行会さんからだから、『セリーヌの作品』も高いんですよ。それでもコンプして読破したいですねー。
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2023/07/12 21:14
先日全巻揃いで購入した、国書刊行会さんの『ドイツ民衆本の世界』、その第1巻「クラーベルト滑稽譚」+「麗わしのメルジーナ」を読了しました。
 
 1巻の、というかシリーズ第1弾として、「クラーベルト滑稽譚」はなかなか面白かったです。ところどころ、プッというかクスリというか軽く笑っちゃうぐらいの。
 
 フランソワ・ラブレーのホラ話的なインテリジェンスも洗練も人類愛もないんですが、「印刷」という技術がどれだけ世界を変えたか……。印刷はなにも本だけではありませんが、本が売れない、本が読まれない、というのはかなり深刻な情況だと思います。
 
 「麗わしのメルジーナ」には、某SNSで使っているハンネと同一名のキャラが出てきてびっくり!
 こちらはキリスト教の教えをじつは再教育させようみたいな通奏低音もあり、なおかつ、文章がけっこう単純なんですが、野趣のようなものがあって、いっそ「物語」も悪くないな、と。
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2023/07/12 17:29
ロアルド・ダール 『少年(新訳版)』  田口 俊樹 (訳) ハヤカワ・ミステリ文庫
 2022年(電子版)


ロアルド・ダールの自伝です。
『チョコレート工場の秘密』で、
日本でも昔から親しまれてますね。

幼少期から高校を卒業して社会に出るまで、
少年時代の思い出が綴られています。
あまり小さいころのことは記憶に残ってないのだとか。

小学生のころ。
駄菓子屋の不潔な婆さんの意地悪に、
著者と仲間たちは悩まされていました。

あるとき、ねずみの死骸を見つけ、
日々の意趣返しを企むのですけれど……

ダールの少年時代は、
だいたい百年くらい前のことです。

驚かされるのは当時の大人たちが揃って、
たいへん底意地悪く暴力的なこと。

躾と称して奮われる暴力は、
どう見ても立派な犯罪でした。

冷淡で残酷だった校長先生は、
なぜか、のちにカンタベリーの大司教に出世。
女王の即位式にまで姿を見せたことに、
たいへん驚かされたと著者は書いています。

さらにパブリック・スクールでは、
上級生たちの暴君っぷりも堂に入ったもので……

つくづく許せませんけど、
救いは著者のカラッとした明るさですね。
大胆で冒険心に富んだ気質は、
お母さんから受け継いだものみたいです。

あと、わたしが内心で快哉を叫ばされたのは、だ。
そこまで権柄ずくで暴力が横行する環境にもかかわらず。
著者が陰湿な風土に染まらず、
つまらない意地悪を悦ぶ人間にならなかったことですよ。

威張っているものにペコペコすることが嫌いで、
学校からのおぼえは、めでたくなかったようです。

ダールさん最高!

なるほど、こういうところに、
ダール作品に登場する邪悪な大人たちのモデルが……
と創作の裏側を覗いた気分にもなりました。

ともあれ。
いつも心にダールさんを住まわせて、
生きていきたいね、わたしゃ。
***このコメントは削除されています***
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2023/07/12 17:28
ロアルド・ダール 『少年(新訳版)』  田口 俊樹 (訳) ハヤカワ・ミステリ文庫
 2022年(電子版)


ロアルド・ダールの自伝です。
『チョコレート工場の秘密』で、
日本でも昔から親しまれてますね。

幼少期から高校を卒業して社会に出るまで、
少年時代の思い出が綴られています。
あまり小さいころのことは記憶に残ってないのだとか。

小学生のころ。
駄菓子屋の不潔な婆さんの意地悪に、
著者と仲間たちは悩まされていました。

あるとき、ねずみの死骸を見つけ、
日々の意趣返しを企むのですけれど……

ダールの少年時代は、
だいたい百年くらい前のことです。

驚かされるのは当時の大人たちが揃って、
たいへん底意地悪く暴力的なこと。

躾と称して奮われる暴力は、
どう見ても立派な犯罪でした。

冷淡で残酷だった校長先生は、
なぜか、のちにカンタベリーの大司教に出世。
女王の即位式にまで姿を見せたことに、
たいへん驚かされたと著者は書いています。

さらにパブリック・スクールでは、
上級生たちの暴君っぷりも堂に入ったもので……

つくづく許せませんけど、
救いは著者のカラッとした明るさですね。
大胆で冒険心に富んだ気質は、
お母さんから受け継いだものみたいです。

あと、わたしが内心で快哉を叫ばされたのは、だ。
そこまで権柄ずくで暴力が横行する環境にもかかわらず。
著者が陰湿な風土に染まらず、
つまらない意地悪を悦ぶ人間にならなかったことですよ。

威張っているものにペコペコすることが嫌いで、
学校からのおぼえはめでたくなかったようです。

ダールさん最高!

なるほど、こういうところに、
ダール作品に登場する邪悪な大人たちのモデルが……
と創作の裏側を覗いた気分にもなりました。

ともあれ。
いつも心にダールさんを住まわせて、
生きていきたいね、わたしゃ。
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2023/07/09 20:19
グレース・マクリーン 『わたしが降らせた雪』 堀川 志野舞 (訳) 早川書房 
 2013年(電子版)


わたしは勝手にアメリカ中西部の話かと思ってたけど!
イギリスで書かれた小説です。

十歳の少女ジュディスはお父さんとふたり暮らし。
原理主義的なキリスト教の一派(エホバの証人のようです)を、
父親は熱心に信仰しています。

この父は極端に頑固で融通がききません。
しばしば布教に出ることもあって、
近隣からは白い目で見られています。

ジュディスは利発な子ながら、
父親に似たのか対人関係に不器用です。
学校では同級の粗暴な少年ニールから、
陰湿ないじめを受けています。

十月のある日ジュディスは、
自分で作った箱庭に綿の雪を降らせました。
すると……

表紙の繊細な美しさとは裏腹に、
父娘がひたすら悪意に痛めつけられるおはなしです。

海の向こうのイングランドでも
「みんなと違う」ものに対して、
人間はとことん残酷になれるようですね。

作中で超自然的なできごとが起こります。
けれどスムーズに問題が解決することは、ありません。

ハリウッド映画とか日本のエンタメ小説みたいな、
親切な作風じゃないんですよ。
この本は日本じゃ売れないだろうな。
むしろ出版できたことが奇跡では、なかろうか。

世界が暴力に満ちて理不尽なら、
信仰も同様に残酷で理不尽です。

著者も原理主義的な信仰を持つ家庭で育ったといいます。
この作品は、書かれなくてはならないものだったのでしょうね。

結末には、ほのかな光が感じられます。

わたしはダグとニールの父子が、
出版できないくらい酷い目に遭ってくれたら、
メチャクチャ嬉しかったんだけど(満面の笑み)!
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2023/07/09 14:20
 『読書会という幸福』(向井和美著 岩波新書刊)を読みました。この本、図書館にあるのですが、だいたい一年前の刊行なのに、ちょくちょく貸出中になっている一冊です。
 なので買っちゃいました。
 
 とにかく、いろいろな形式やメンバーの読書会の魅力が語られている本です。
 ただ、読書会というより、ビブリオバトルなんかにページを割いているのはちょっと……。
 ご存知の方もいるようにビブリオバトルとは、読んだ本のプレゼンをニ名でそれぞれして、「参加者の多数決で勝者が決まる」というものです。せめて三人の審議者で、ボクシングのようにすればいいのに、多数決……。
 本なんて好きに読めばいいし、そこに優劣をつけるのは──たとえプレゼンのスキルが上がるとしても──結局、本嫌いになっちゃうかもしれません。これだから日本の戦後民主主義って嫌なんですよ。
 子供が本から遠ざかるかもなのにね……。
 
 そうそう、この本には読書会のお題になった本がちゃんと書誌情報が載っております。
 知らない本、知ってはいたけれども、こういう本だったのか、読んでみたい! っていうのがけっこう多かったですね。
 
 57Pに、今、中高生に人気があるのは、「五分後にこんな感動を味わえます」と、読む前から糖度を保証してくれる本だ。
 というくだりがあり、これってエブリスタの五分シリーズなんじゃないかと。
 
 しかし、小説を語るときになぜ、それが結局「物語」に還元されてしまうのか。本書の著者もそうです。
 でもまあ、本好き同士、なんだかのほほんと本談義をしているような本で、それはよかったですね。
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2023/07/07 13:19
 筒井康隆先生の『おれに関する噂』(新潮文庫)を読み終えました。
 というか、昨日書いた、マルクスの『経済学・哲学草稿』の読書に疲れたら、筒井さんの短編を一つ……みたいに読んでおりました。
 
 じつはこの作品集、ずーっと前に読んだことがあるのですが、本は売ってしまったので、書い直したところです。
 
 作家と編集者のバトルw「養豚の実際」、いかにもホームドラマ的な家庭の幸福が嫌いな主人公の家族ドラマw「幸福の限界」、『宇宙衛生博覧会』の収録されてもおかしくない(というか若干「顔面崩壊」とネタかぶり)の「怪奇たたみ男」、戦争中のガリビアへ銃の修理のため飛ばされた主人公のドタバタもの「通いの軍隊」。
 全部面白いといえば面白いのですが、以上、今あげた作品が個人的には好きです。
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2023/07/06 14:50
長山靖生 『恥ずかしながら、詩歌が好きです 近現代詩を味わい、学ぶ』
 光文社新書 2019年(電子版)


わたしは詩が好きなつもりでいましたけど。
ひとりの詩人をきちんと読みこんだり、
人脈を追ったりすることは、してきてません。

詩人どうしの関りを軸に、
日本の近代詩歌の歴史を追った本です。

有名詩人や名作傑作ばかり並べるのでも、
マイナー・ポエットに偏るのでもなく。
バランスの良い記述には好感が持てました。

あらためて知らない作品、知らないエピソードばかり。
読んだことあるのは萩原朔太郎くらいだったけど、
彼と三好達治の師弟関係すら知らなかったわ。
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2023/07/06 14:48
あの漱石先生が日露戦争に際して、
褒められない戦争詩を作ってたりしますw
しかも批判されたら、
他人の作品を引き合いに出して貶しやがる。

「あいつの詩よりはマシだろう」ってww

後年の第二次大戦になると、
戦争に関する詩歌が大量に現れたそうです。
いろんな意味で、
つきあうのがしんどい作品が多かったけど……

北原白秋が少年向けに書いた、
戦意高揚詩のムダに勇ましいこと!
ここまでくると痛快です。

そんなに体当たりばっかり、
奨励しなくてもいいと思うが。
どうか。

特に強く印象に残ったのが、
堀辰雄と立原道造のエピソードでした。
このふたり師弟関係だったんですね。
わたし知りませんでしたわー。

立原道造は病弱で、
友人知人に会うと決まって体調を崩したそうです。
そこで執筆に専念しようと、
周囲と距離を置いて盛岡に蟄居します。

ところが詩人仲間の野村英夫が訪ねてきました。
この野村という人物は善人だけれど、
それだけに、いくぶん鈍感なところがあります。

立原は友人の来訪を断れず、
たっぷり二週間の逗留となりました。
その後もちろん立原さん倒れてしまいます。
原稿どころではありません。

野村への恨みごとがノートに記されており、
立原の没後、それが野村本人の目に触れました。

狼狽する野村に対して、
堀辰雄が懐の深いサポートをしてくれたといいます。

ふたりとも孤独でいるべきところ、
いっしょになってしまったのが良くなかった。
立原も君も悪くない。
ただ、めぐりあわせに罪があったのだ……

みたいな感じ。
わたしは堀辰雄というひとが、
小説家にはめずらしく良い意味での大人であることに、
いたく感銘を受けました。

それにしても迷惑な友達の来訪……!
断りきれずにつきあってしまい、
体調を崩した経験が、わたしにもあります。

相手のことが嫌いじゃなくても、
会いたくないときって、あるものです。
けど通じない相手には絶対、通じないんだよなぁ~。

気の毒な立原さん。
なんまんだぶ(U`;ェ;´U)ピャー
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2023/07/02 15:46
ライナー・マリア・リルケ 『マルテの手記』 松永 美穂(訳) 
 光文社古典新訳文庫 2014年(電子版)


「詩人リルケ唯一の長編小説」を読みました。

これ、詩。
詩です。

パリに出てきた青年マルテが、
問わず語りに綴った手記……
っていう体裁をとってるけど。

中身は純然たる詩なんです。
だから筋書きや劇性を期待して手に取ると、
肩透かしを喰らうことになると思います。

逆にイメージの深さにおいては、
さすがに傑出した詩人の手になるものです。
わたしは何度も溜息を吐かされました。

ここにあるのは孤独と腐敗と死の表象。
リルケはふたつの世界大戦を予感していた……
の、でしょうか?
わたしには、わかりません。

いずれにせよ後年、
パウル・ツェランによって刻まれる、
あの無音の絶叫を先取りした何かが。
この本には湛えられています。

ここに横たわっているのは静かな怪物。
ツェランがセーヌ川に身を投げてから、
半世紀以上が経ったいまでも。
じっと、わたしたちを見つめ続けています。

あと以前にも書いたけど、
なぜか、やたら犬が出てきます(笑)。
特に前半で目立ちますね。
飼い主の顔をかぶって出かけたり、してやがる。

リルケさん犬好きだったのかしら。
むしろ嫌いだったのかな?
本人に訊いてみたいけど無理なことが惜しまれますね。

あと翻訳の松永美穂さんによるものに加えて、
精神科医の斎藤環さんが丁寧な解説を寄せています。
『マルテの手記』に病跡学的な見地から光を当てており、
関心を寄せる向きなら一読の価値ありかと。
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2023/07/02 08:14
駒井 稔 『編集者の読書論~面白い本の見つけ方、教えます』 光文社新書
 2023年


古典新訳文庫の創刊に携わった編集者による、エッセイ集です。

さまざまな角度から
「面白い本の見つけ方」を紹介してくれます。
出版社で編集の仕事をしているなかには、
けっこうな博覧強記の人物がいるといいますね。

著者の駒井稔さんも間口が広く、
こんなところに、こんな本が!と、
いちどならず感心させられました。

欧米の著名な出版人や出版社、
世界の魅力的な読書論、
さらには世界の書店と図書館をめぐる話まで……

本好きにとっては、
良き水先案内人になってくれます。

版元が光文社だけに、
古典新訳文庫の話が頻出するのはご愛敬かしら(笑)。
バランスよく他社の本にも紙幅を割いてますけど!
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2023/06/28 16:10
古谷 経衡(ふるや・つねひら) 
 『シニア右翼-日本の中高年はなぜ右傾化するのか』 中公新書ラクレ 2023年


図書館で『ネット右翼になった父』に、
けっこうな数の予約が入っちゃってて……
当分、読めそうにないから、こちらを借りてきました。

著者は若手論客として、
保守論壇に身を置いた経験の持ち主です。

「楯の会」のような場を期待して入った、
保守論壇で出会ったのは高齢者ばかり。

紋切型の差別発言が横行し、
前向きな議論が行われないことに失望して、
離れたといいます。

講演会を聴きに来たり、
論壇誌を買ったりして支えているのも高齢者たちです。
彼らのほとんどがネットに投稿された、
政治的な動画の影響を受けているのだとか。

こうした「シニア右翼」の多さは、
日本に特有の現象だというのが著者の指摘です。

直接の原因としては、
ネットリテラシーの欠如が挙げられていました。
さらに、その背景として、
日本に固有の特殊な社会状況があるそうです。

戦後民主主義は「看板のかけ替え」でしかなく、
本質的なところで戦前の価値観や体制が温存されている。
そう著者は主張します。

印象論ではなく、
具体的な事例を引きながらの議論で説得力がありました。

なるほど日本の世間の窮屈さは、戦前そのまんまだから。
たしかに腑に落ちる指摘です。

政権政党の有力政治家が平然と、
天賦人権説を否定する発言を行う……

本来なら「先進国」では、
ありえない事態だそうですよ
(ネオナチですら天賦人権説は認めるのだとか)。

無関係に見える個別の事例を線で結びつけ、
さらに面を描いていきます。
勉強になる一冊でした。
***このコメントは削除されています***
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2023/06/28 16:06
古谷 経衡(ふるや・つねひら) 『シニア右翼』 中公新書ラクレ 2023年


図書館で『ネット右翼になった父』に、
けっこうな数の予約が入っちゃってて……
当分、読めそうにないから、こちらを借りてきました。

著者は若手論客として、
保守論壇に身を置いた経験の持ち主です。

「楯の会」のような場を期待して入った、
保守論壇で出会ったのは高齢者ばかり。

紋切型の差別発言が横行し、
前向きな議論が行われないことに失望して、
離れたといいます。

講演会を聴きに来たり、
論壇誌を買ったりして支えているのも高齢者たちです。
彼らのほとんどがネットに投稿された、
政治的な動画の影響を受けているのだとか。

こうした「シニア右翼」の多さは、
日本に特有の現象だというのが著者の指摘です。

直接の原因としては、
ネットリテラシーの欠如が挙げられていました。
さらに、その背景として、
日本に固有の特殊な社会状況があるそうです。

戦後民主主義は「看板のかけ替え」でしかなく、
本質的なところで戦前の価値観や体制が温存されている。
そう著者は主張します。

印象論ではなく、
具体的な事例を引きながらの議論で説得力がありました。

なるほど日本の世間の窮屈さは、戦前そのまんまだから。
たしかに腑に落ちる指摘です。

政権政党の有力政治家が平然と、
天賦人権説を否定する発言を行う……

本来なら「先進国」では、
ありえない事態だそうですよ
(ネオナチですら天賦人権説は認めるのだとか)。

無関係に見える個別の事例を線で結びつけ、
さらに面を描いていきます。
勉強になる一冊でした。
***このコメントは削除されています***
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2023/06/28 16:05
古谷 経衡(ふるや・つねひら) 『シニア右翼』 中公新書ラクレ 2023年


『ネット右翼になった父』に、
けっこうな数の予約が入っちゃってて……
当分、読めそうにないから、こちらを借りてきました。

著者は若手論客として、
保守論壇に身を置いた経験の持ち主です。

「楯の会」のような場を期待して入った、
保守論壇で出会ったのは高齢者ばかり。

紋切型の差別発言が横行し、
前向きな議論が行われないことに失望して、
離れたといいます。

講演会を聴きに来たり、
論壇誌を買ったりして支えているのも高齢者たちです。
彼らのほとんどがネットに投稿された、
政治的な動画の影響を受けているのだとか。

こうした「シニア右翼」の多さは、
日本に特有の現象だというのが著者の指摘です。

直接の原因としては、
ネットリテラシーの欠如が挙げられていました。
さらに、その背景として、
日本に固有の特殊な社会状況があるそうです。

戦後民主主義は「看板のかけ替え」でしかなく、
本質的なところで戦前の価値観や体制が温存されている。
そう著者は主張します。

印象論ではなく、
具体的な事例を引きながらの議論で説得力がありました。

なるほど日本の世間の窮屈さは、戦前そのまんまだから。
たしかに腑に落ちる指摘です。

政権政党の有力政治家が平然と、
天賦人権説を否定する発言を行う……

本来なら「先進国」では、
ありえない事態だそうですよ
(ネオナチですら天賦人権説は認めるのだとか)。

無関係に見える個別の事例を線で結びつけ、
さらに面を描いていきます。
勉強になる一冊でした。
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2023/06/26 18:06
 エブリスタのお友達から推してもらった、マルクスの「ケーテツ」こと『経済学・哲学草稿』(岩波文庫)を読了しました。
 
 けして読みやすくはない邦訳、本書最後の1/3あたり、マルクスのヘーゲルやフォイエルバッハ読解を通して、ヘーゲルのエッセンスを読み取ったとか。凄い!
 実際マルクスやヘーゲルの論理性はかなり高いです。そういえば本書の中でもかなり評価されているのがフォイエルバッハです。『フォイエルバッハ・テーゼ』なんて著作もありますし、こちらも読んでおきたい。
 
 フォイエルバッハは、哲学の自己矛盾としてのみ(哲学を)把握している。神学などを否定したあとでそれを肯定する哲学。
 また、物質=、ということはいかなる神も存在しない。が、神学の本質はまだ前提されている。無神論、神学の否定は再び否定される。
 (フォイエルバッハについて、わたしのノートから)
 
 ヘーゲル、その誤りについて。
 ①富や権力など、人間的本質にとって疎外された存在としてとらえる場合、ただの思想形式の中に過ぎない(生活空間(現象学でいう用語として使ってます))している社会の中にいるおいて)。
 ②感性、宗教、国家権力などが精神的な存在という形で現れる。精神だけが人間の真の本質であり、思惟する精神、論理的で思弁的な精神であるから。人間的な性質は、抽象的精神の産物であり、それは思想の中の存在である。
 
 すみません一応こんな読解で……。
 
 ただ、ヘーゲルは、労働を人間の本質として捉えている。労働の否定的な面を見ていない。
 というマルクスの指摘には驚きました。
 
 時代的にあとのこととはいえ、ホイジンガがヒト科について遊ぶ人《ホモ・ルーデンス》、という遊び>文化>精神的進化、という概念を提出してますしねえ。
 それに、三島由紀夫さんも絶賛する『葉隠』には、山本常朝《つねとも》が、「あまり若い人には言わないが、我はなにもせず、横になって呆けるのが好きなり」みたいな文章もあるんです。
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2023/06/23 20:47


 隙間時間なんかで読み進めていた、マルガレーテ・ブーバー=ノイマンの『カフカの恋人 ミレナ』(平凡社ライブラリー)を読了しました。関係ないですが最近Twitterに読了ツイしてませんね。
 
 この本、タイトルがちょっと羊頭狗肉で、ミレナ・イェセンスカーとフランツ・カフカとの付き合いはかなり短いあいだの話です。本書でもそこに触れた箇所はたいしてありません。
 
 ちなみに著者の名前でもしや……と思った方はそのもしやが本当で、著者は、ユダヤ教の宗教学者・哲学者のマルティン・ブーバー(邦訳あり)の息子と結婚していたことがあります。
 
 このドキュメント本、主に舞台はラーヴェンスブリュック女性強制収容所です。不勉強で知らなかったのですが、この女性強制収容所が、アウシュヴィッツのような「絶滅収容所」の次に、酷すぎる施設だったそうです。
 それでもなお、ミレナは収容所勤務のナチスSS隊員などに屈服することなく、著者との友情や、怪我、病気になった収容所ブロックの仲間を助けるべく奔走します。
 
 ミレナも凄いと思うのですが、著者のマルガレーテもミレナや他の収容者のために命をかけて動くのです。
 こんな、もう人類愛という言葉すら突き抜けたような人がいたのですね。そして必ずしもナチスSSの隊員は、ハンナ・アーレントが看破したように、もともと悪人でも残虐でもない、仕事として来ている……ため、多少でも「話の通じる」隊員がいたようです。
 
 しかし、あまりの内容に、この本は偽書説まであったそうですね。
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2023/06/20 22:12
池上 英子 『自閉症という知性』 NHK出版新書 2019年(電子版)


最近にアマゾンで買った電子本を読了。
社会学者が一般向けに書いた新書です。

自閉症スペクトラムの当事者との交流を通し、
いわゆるNT(定型発達者)
とは異質な感受性や知性のありように思いを馳せます。

わたしも自閉傾向が強いと自認しています。
先入観を排そうとする著者の態度に好感が持てました。
貶めるようなところはもちろん、
必要以上に持ちあげることもありません。

ネット上でアバターを使って交流するアメリカ人や、
マンガや音楽で自己表現する日本人など、
さまざまな当事者が登場します。

わたしが発達障害者として、
定型発達者と彼らが大事にしている世界に対して、
つねづね思っていること。

本書中に引かれたテンプル・グランディンの言葉が、
的確に代弁してくれました。
引用しておきます。


> ふつうの人が自閉症の子どもを
>「自分の狭い世界に閉じこもっている」
> と判で押したようにいうのを聞いて、
> いつもなんとなくおかしくなる。

(中略)

> 彼らがほとんど受け入れていない
> 広大な美しい世界があるのだ。

(中略)

> 自閉症の人と動物は、
> ふつうの人には見えない、
> あるいは見ていない視覚の世界を見ている。


アメリカは日本に比べると、
発達障害に対する理解が進んでいるのでは……
そう漠然と思っていました。

地域によっては、
ずいぶん日本より暮らしやすいのかもしれません。
ですけど一般論としては、
まだまだ偏見も無理解も根強くあるのかな。
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2023/06/19 20:28
 とりあえず、国書刊行会さんの50周年企画、『国書刊行会50年の歩み』と一緒に配布された『私が選ぶ国書刊行会の3冊』についてちょこっと書いておこうかも。
 
 なにせアンケに答えている筆者は、大槻ケンヂさんや声優の池澤春菜さんから、奥泉光先生や京極夏彦先生までという、すごい布陣です。
 
 もう創業50周年の版元なので、知らなかった本や、面白そうなコンセプトのシリーズなどなど、この小冊子で知った本も多く、そんな本の箇所には付箋を貼っているんですが、付箋だらけです、もう。
 
 国書さんを知ったのは『ク・リトル・リトル神話体系』あたりだったのですが、そのあとぐらいに『ドイツ民衆本の世界』が出て、「誰が買うのかすごいシブいの出すなあ……」と思っていたんだけど、今、本気で読みたい本になっちゃってます。
 
 イタロ・カルヴィーノ編集の『イタリア民話集』(岩波文庫)、ニコライ・ゴーゴリの『ディカーニカ近郷夜話』(これも岩波文庫)みたく、野趣、とでも形容すべき愛らしい伝承や民話、こういうのなら「物語性」が逆に活きてきます。
 
 『ドイツ民衆本の世界』にも似たような空気を感じるのですが……。あと、国書さんのシリーズとしては、ルイ・フェルディナン・セリーヌの『セリーヌの作品』もあり、こちらもすべて読みたいところ。
 有名な『夜の果ての旅』、『なしくずしの死』は既読なので、リア友Nちゃんは『なしくずしの死』の続編『ギニョルズ・バンド』を読みたいと言っていますし(わたしも読みたいです!)。
 
 とか勝手に筆が進むわ~! とか思っていたら、セリーヌの作品予想していたよりも多かったです。
 
 あと、これも今知ったのですが、タロットカード、だいたい皆さんライダー/ウェイト版を使ってますが、マルセイユ版のタロットの解説本まで出ております。
 これはマルセイユ版のカードと一緒に欲しいですね♪
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2023/06/17 22:18
福村 国春 『夢中になる東大世界史~15の良問に学ぶ世界の成り立ち~』
 光文社新書 2021年(電子版)


東京大学の入試過去問から15を選び、
近代市民社会の形成から現代までを概説したものです。

わたしは高校で世界史を教わりましたけど、
ほとんど記憶にございません。
モヘンジョ・ダロとかハラッパとか、
名前のいくつかを断片的に思いだせる程度。

翻訳ものの小説を読んでいると、
世界史のできごとが絡む場合が多くあります。
『緑の天幕』とか『オルガ』なんか、そうです。

世界史をおさらいしておいたほうが、
本を楽しく読めそうですよね。
しばらく電子積読状態だったけど、
この本は良いものだと思いました。

東大の入試問題って記述式なんですね。
生徒たちが答案を作成する過程を追いながら、
各時代のできごとの関連が頭に入るように書かれています。

わたしが歴史の授業を苦手だったのは、
暗記が死ぬほどダメだからです。

点と点が繋がって線になり、
その線が面を構成していく……
そう捉えると歴史はおもしろいものですね。

あと自分には無関係だと思えていた、
遠い過去かつ外国のできごとが、
暮らしに大きく影響しているのに驚かされます。
これって常識か?w

最後に現代世界の状況、
ヨーロッパとアジア、アフリカの関係について。
非常に巧くまとめてあって勉強になりました。

なるほどアメリカ先生は、
イラクくんに理不尽な体罰を加えてたのね(笑)。

「東大」は良くも悪くも、
極端なバイアスのかかった目で見られがちですけど……
ひとまず先入観を捨てて読まれてはいかがでしょう。
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2023/06/17 20:38
 日本一(世界一かも?)普通じゃない出版社、それでも海外文学マニアや魔術やオカルト好きにはたまらない特殊出版社、国書刊行会さんの配布した小冊子、『国書刊行会50年の歩み』(非売品。タダ!)を読み終えました。
 
 思えばわたしが国書刊行会さんの本を意識することになったのは、アレイスター・クロウリーだのク・リトル・リトル神話、H.P.ラブクラフト……などなどこういうダークサイドからでした。
 それもただ知っている程度だったので、書店にならぶ豪華装丁のそれらの本は、ハッキリ言って怖くw 図書館で借りては「国書刊行会ってとこはなんなんだ……」と思ってました。
 出版社名がまず怖いです。
 
 しかもこの小冊子、中身もけっこう凄い。やはり本当に出版界の狂犬というか、……うーん、いい!
 まず、昔から、編集会議なんてやらなかったそうなんです。社員の方が(それも企画とは関係のない倉庫や在庫管理の方も)企画書を出すと社長が見て、ダメOKをする。
 OKが出ると、翌日からすぐ作業に……
 
 ちょっと意外だったのが、あたりまえのことなので国書さんには失礼ながら、ちゃんと「創る本の予算などはシビア」だってことでしょうか。
 ただ、1,2年のスパンでは考えていないようです。うんと時間が経っても貴重な本として売られていくことを考えている、そんな感じ。
 でも、「ドイツ民衆本の世界」とか出しはじめたときは、「やっぱり国書さんはやることがちがうなあ……」と思ったものです。
  
 国書の営業もまた凄いです。全国の書店や図書館に、軽トラックにたくさんのマニア向けの本を搭載して北から南へ。
 
 さて、わたしが実際に国書さんの本を買ったり意識するようになったのは、「文学の冒険」シリーズでした。
 価格もそう高くはなく、勢いのある現代海外文学のシリーズということで、今でも未読の作品を図書館で借りて読んだりしてます。
 ピンチョンの『重力の虹』が新聞広告に載ったときは、個人的にちょっとした「事件」だと思いました。ほかにもウィリアム・T・ヴォルマンの『ザ・ライフルズ』やイサベル・アジェンデの『エバ・ルーナ』とか。
 
 それにしてもそんなエッジの効いた海外文学を出す一方で、忍術書『万川集海《ばんせんしゅうかい》』を出したり……やはり怪物的な出版社ではあります。
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2023/06/14 20:23
出口 治明 『ぼくは古典を読み続ける 珠玉の5冊を堪能する』 光文社
 2023年(電子版)


光文社古典新訳文庫から5冊を選んで、
読みどころを紹介した講演を書籍化したものです。

なんぢゃ販促パンフみたいなもんかい。
無料で配らんか、こんなん(U`ェ´) ケッピャーッ!!!

そもそも出口治明さんって誰?
ビジネスおぢさん?

っていう感じで。
第一印象はあんまり芳しいものじゃありませんでした。

ちなみに登場するのは、こんな本たちです。


ダーウィン『種の起源』
プラトン『ソクラテスの弁明』
ヴェルヌ『地底旅行』
ロック『市民政府論』
唯円、親鸞『歎異抄』


読んだことあるのは『歎異抄』だけです。
残りは名前だけ知ってるけど……
ちょっと手に取り難いものばかり。

いずれも良い本なのは疑いありませんから、
要旨だけでも知っておきたいと買ってみました。

そしたら非常に良く書けてるのよ。

まず本のチョイスが絶妙。
敬遠されがちな古典といっても、
極端に難解なものは含まれていません。

著者の平明で的確な語り口も秀逸です。
それぞれの本の魅力や、
現代のわたしたちが読む意義に開眼させてくれます。

特に充実していたのは『ソクラテスの弁明』
『市民政府論』『歎異抄』でしょうか。

迷惑がられていたソクラテスにアテナイの市民たちは、
ちゃんとご飯出してあげてたんだってw
だけど、やがて……

ソクラテスが死に追いこまれた過程が、
とても腑に落ちるかたちで紹介されています。

横暴な権力者には退場してもらっていいんだよ。
そう説くロックの『市民政府論』を選んだことに、
著者の社会観が垣間見えました。

出色だったのは『歎異抄』での、
わかりやすくまとめられた仏教史。
この分野について、まったく知らなかっただけに。
非常に勉強になりました。

わたしは古典新訳文庫の愛読者のつもりですけど、
もっぱら文芸ものしか手に取ってこなかったんです。
これを機に視野を広げてみたいな。
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2023/06/11 22:35
松田 広子 『最後のイタコ』 扶桑社 2013年(電子版)


興味本位で手に取ったところ、良い本でした。

恐山の口寄せで知られるイタコ。
現在では数人しか残っていないそうです。
そのイタコの現役のひとりが、
自分の半生と仕事の内実を語りました。

プロの著述家の書いたものではないから、
文章にふくらみがないのは惜しいんだけど……
語り口が丁寧で非常に読みやすいです。

著者の松田さんは幼いころ身体が弱く、
しばしば近隣のイタコのお世話になって育ちました。

神仏の信仰に熱心だった家庭の影響もあってか、
長ずると自然に「将来はイタコになりたい」
と意識するようになったそうです。

中学卒業くらいからイタコの師匠のもとへ出入りして、
高校を出てから正式に弟子入りしたとあります。

師匠は非常に温厚で、
叱られたことはいちどもなかったのだとか。

わたしには優しい師匠の話がとても意外でした。
暴力を振るわれる事例も昭和以前にはあったようです。

師匠から「社会勉強をしなさい」と言われて、
アルバイトの面接を受けたものの落ちまくった……
というエピソードには親近感が持てました(笑)。

あと高校時代にヤンキーのグループから誘われて
「イタコの修業が忙しいから」
と断っていた話が愉快でしたw

イタコといえば口寄せが有名ですけど、
実態はホームドクターとカウンセラーを折半したような……
もっと庶民の生活に身近な存在みたいですよ。
西洋でいったら魔女、ウィッチ・ドクターかな。

街の暮らしからはイタコや魔女がいなくなり、
かわりにカウンセラーのような職業が生まれたのでしょうね。

「マリリン・モンローの霊を呼んでください」とか、
口寄せで興味本位の依頼をされることがあるそうです。
こういうのは無理なんだって。

依頼の当事者と、
ごく近しい相手でないと呼べないそうです。

たぶん、わたしたちが思っているより、
生と死は近いところにあるものじゃないかと感じます。
大半の大人は現世のほうだけ見て生きてるから、
ときどきイタコの口寄せみたいなものが必要になるのかな。

松田さんの文章のあいまに、
学者や郷土史家の解説が挟まれていて勉強になります。
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2023/06/10 21:14
ベルンハルト・シュリンク 『オルガ』  松永 美穂 (訳) 新潮クレスト・ブックス
 2020年(電子版)


ちょっと変わった三部構成から成る長編です。
ひとりの女性の生涯を通して、
20世紀のドイツ社会を通覧する性格を備えています。

一部は三人称によるオルガの誕生から青年期までのお話。
二部ではフェルディナントという男性が登場。
彼の目を通してオルガの壮年期から晩年が語られます。
三部はオルガが恋人ヘルベルトに宛てた書簡です。

恵まれない生い立ちで苦労しながらも、
オルガは実直かつタフに生き抜いていきます。
彼女はポーランド出身ですけど、
ドイツ人の美質的なものを感じさせました。

対照的なのが男性たちの生きかたです。
ヘルベルトには地に足の着かないところがあり、
冒険に憑かれて極地で消息を絶ってしまいます。

オルガが慈しんで面倒を見た少年アイクはナチに入党して……

平凡でつつましい生活を愛したオルガと、
足もとに埋まった宝石に気づけなかったヘルベルトやアイク。

彼らの対照的な生きかたを通して、
著者の深い哀しみや憤りが伝わってくるように感じられました。

意外かつ衝撃的な幕切れで驚かされましたけど、
終生、燃え続けたオルガの静かな怒りの強度が窺えます。

最期に手を握っていてくれるひとがいて、
オルガは幸せだったと思いたいです。
***このコメントは削除されています***
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2023/06/10 21:13
ベルンハルト・シュリンク 『オルガ』  松永 美穂 (訳) 新潮クレスト・ブックス
 2020年(電子版)


ミランダ・ジュライ『いちばんここに似合う人』
リュドミラ・ウリツカヤ『緑の天幕』と、
いっしょに買った本です。

いずれも素晴らしい小説でしたけど、
今回の『オルガ』がいちばん素直に楽しめたかな。

ベルンハルト・シュリンクさん、
日本でも『朗読者』が話題になりましたね。
『オルガ』はちょっと変わった三部構成から成る長編です。
ひとりの女性の生涯を通して、
20世紀のドイツ社会を通覧する性格を備えています。

一部は三人称によるオルガの誕生から青年期までのお話。
二部ではフェルディナントという男性が登場。
彼の目を通してオルガの壮年期から晩年が語られます。
三部はオルガが恋人ヘルベルトに宛てた書簡です。

恵まれない生い立ちで苦労しながらも、
オルガは実直かつタフに生き抜いていきます。
彼女はポーランド出身ですけど、
ドイツ人の美質的なものを感じさせました。

対照的なのが男性たちの生きかたです。
ヘルベルトには地に足の着かないところがあり、
冒険に憑かれて極地で消息を絶ってしまいます。

オルガが慈しんで面倒を見た少年アイクはナチに入党して……

平凡でつつましい生活を愛したオルガと、
足もとに埋まった宝石に気づけなかったヘルベルトやアイク。

彼らの対照的な生きかたを通して、
著者の深い哀しみや憤りが伝わってくるように感じられました。

意外かつ衝撃的な幕切れで驚かされましたけど、
終生、燃え続けたオルガの静かな怒りの強度が窺えます。

最期に手を握っていてくれるひとがいて、
オルガは幸せだったと思いたいです。
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2023/06/05 22:37
ミレーナ・アグス 『祖母の手帖』 中嶋 浩郎 (訳) 新潮クレスト・ブックス 
 2012年


ブックオフで買った本(220円でした)。
病院に持って行きました。
薄手でそこそこ活字も大きく、読みやすかったです。

第二次大戦直後のこと。
語り手の祖母は腎臓結石を患って、
泊りがけの湯治に行きます。

そこで魅力的な傷痍軍人の
「帰還兵」と出会いました。
たがいに家族を持つ身ながら愛しあうことに……

っていう顛末が、
祖母の残した黒い手帖に書きこんであったのね。

なんとヒャッハーで自分勝手な婆だ!
そう眉をひそめる読者が出てきそうです。

ちょっと待って。
このお話には仕掛けがあってだな。

「皮肉」と形容してしまうには優しくて。
「アイロニー」と呼ぶほかないような。
そういう読後感を残していきます。

著者は病めるもの弱いものを否定しません。
その視線の温かさに、
ちょっと涙きそうになりました。

短いわりに叙述の時系列が前後したり、
語り手の「わたし」が母方の、
もうひとりの祖母の話を始めたり。
構成の緩さが若干、惜しいでしょうか。

それでも。
わたしが期待していた以上に素敵な小説です。
通院のお伴にかさばらない本を……
くらいのつもりで買ったんだけど。
いろいろ響きました。

イタリアやフランスでは大評判を呼んだというけど、
日本では、さっぱり話題にならなかったことが惜しまれます。
***このコメントは削除されています***
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2023/06/05 22:36
ミレーナ・アグス 『祖母の手帖』 中嶋 浩郎 (訳) 新潮クレスト・ブックス 
 2012年


ブックオフで買った本(220円でした)。
病院に持って行きました。
薄手でそこそこ活字も大きく、読みやすかったです。

第二次大戦直後のこと。
語り手の祖母は腎臓結石を患って、
泊りがけの湯治に行きます。

そこで魅力的な傷痍軍人の
「帰還兵」と出会いました。
たがいに家族を持つ身ながら愛しあうことに……

っていう顛末が、
祖母の残した黒い手帖に書きこんであったのね。

なんとヒャッハーで自分勝手な婆だ!
そう眉をひそめる読者が出てきそうです。

ちょっと待って。
このお話には仕掛けがあってだな。

「皮肉」と形容してしまうには優しくて。
「アイロニー」と呼ぶほかないような。
そういう読後感を残していきます。

著者は病めるもの弱いものを否定しません。
その視線の温かさに、
ちょっと涙きそうになりました。

短いわりに叙述の時系列が前後したり、
語り手の「わたし」が母方の、
もうひとりの祖母の話を始めたり。
構成のユルさが若干、惜しいでしょうか。

それでも。
わたしが期待していた以上に素敵な小説です。
通院のお伴にかさばらない本を……
くらいのつもりで買ったんだけど。
いろいろ響きました。

イタリアやフランスでは大評判を呼んだというけど、
日本では、さっぱり話題にならなかったことが惜しまれます。
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2023/06/04 14:51
宝木 範義 『ウィーン物語』 講談社学術文庫 2006年
 (電子版・原本は新潮選書より1991年刊、2020年に電子化)


もとは30年以上前に出たものだから、
情報が古いかと迷ったんだけど……

読んでみたら非常に良い本でした。
ハプスブルク家が出てくるような政治の話題から、
文化や風俗までウィーンという街の特徴を網羅しています。

ひとつの街を切り口にして、
幅広い分野を横断的に取りあげた本。
類書がありそうで、なかなか見つからないのでは。

ウィーンだから所縁の音楽家の話も。
ブラームスのお墓はウィーンにあるんですね。
ヨハン・シュトラウス2世と親しかったのは、
ちょっと意外でした。

おもしろく読めて印象に残ったのは、
ウィーンの椅子の話。
この分野で先鞭をつけたのが、
トーネットという会社だそうです。

木を曲げて加工する技術を開発して、
まったく新しい椅子を完成させました。
ウィーン世紀末的な曲線と、
近代的な合理性が手を結んだ産物なのだとか。
たかだか椅子と侮れません。

進取の気性に富んだパリとは対照的に、
保守的な空気を色濃く纏うウィーン。
そういう土地柄だからこそ、
新ウィーン楽派とか青騎士みたいな、
大胆な革新を生んだのではないか……

という指摘には頷かされました。
平易な語り口で読み手を選びませんし、
点と点が繋がって線を描き、その線が面を……
意識のなかで世界が拡がっていく愉しさを体験できます。

部屋に居ながらにして旅へ連れ出してくれる好著です。
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2023/06/02 20:45
テーオドール・シュトルム 『みずうみ/三色すみれ/人形使いのポーレ』
 松永 美穂(訳) 光文社古典新訳文庫 2020年(電子版)


シュトルムの「みずうみ」は日本で人気があり、
何種類もの翻訳が出ています。
この新訳文庫版は松永美穂さんの訳によるものです。

「みずうみ」を読むのは、これで何度目になるのかな。
ラインハルトのひとりよがりに、
あいかわらずイラッとさせられますw

訳者の解説でも触れられてましたけど、
音信不通の二年間にラインハルトは何をしてたんでしょう。
手紙のひとつくらい書けるだろうに……

エリーザベトと結ばれなかったことを、
晩年までひきずってる様子ですから。
ほかに女がいた線は考え難いです(笑)。

立派になった自分を見せて、
エリーザベトを驚かせようと思ったのかな?

1849年の作品、ちょうどブラームスが生きていた時代です。
いろいろな意味で現代とは異質な社会だったことも、
念頭に置いて読むべきではあるんだけど……

あ、シュトルムさんは若い時分、
求婚した女性から断られたんだってw
その傷を昇華させようと(以下略)(U´ェ`)プピピ?

シュトルムは法律家として働きながら、
小説や詩を書いて暮らしました。
経歴だけ見るとホフマンと似てるけど、
シュトルムに奔放さや毒気は希薄です。

こぢんまりした市民生活の哀歓が、
シュトルムの世界の中核を成しています。
ちょっと小津安二郎の映画とも似ていて、
日本人好みなのでしょうね。

「三色すみれ」や「人形使いのポーレ」でも、
描かれるのは市民の生活です。

「三色すみれ」には弦楽四重奏団が、
主人公たちの邸で演奏する場面があります。
ハイドンやモーツァルト、ベートーヴェンは、
この時代のドイツ人には身近な存在だったのかも。

あと「三色すみれ」の冒頭、
留守番中の女の子が庭で遊ぶ描写が美しいです。
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2023/06/01 19:42
田島 木綿子 『海獣学者、クジラを解剖する。
 ~海の哺乳類の死体が教えてくれること~』 山と溪谷社 2021年


アマゾンで見つけて図書館で借りた本。
イラストや写真が多く、
文章も平易で優れた一冊だと思いました。

海生哺乳類の研究者が一般向けに書いたものです。
日本の海岸には頻繁に鯨類が打ちあがり、
年間300件前後に及ぶのだとか。

わたしの生活圏からほど近い鎌倉の由比ガ浜でも、
シロナガスクジラの幼体が見つかったことがあります。
知らなかったわー。

こうした海獣の座礁を「ストランディング」と呼びます。
著者の研究のひとつは、
ストランディングの原因究明だそうです。

複数の理由が絡みあっていることも多く、
原因を特定できずに終わることのほうが多いのだといいます。

ストランディングした鯨の解体、解剖は大変な力仕事。
おまけに臭いが半端なく、
帰りに立ち寄った温泉施設で異臭騒ぎになるんだって。

著者は人間が苦手で動物の研究を志し、
留学したカナダでシャチの姿を目にして虜になりました。

わたしも人間は死ぬほど苦手ですけど、
体力知力の点で海棲哺乳類の研究は無理だと思いますw

幼い鯨の体内からプラスチック片を発見し、
環境問題の深刻な現状を提起したり。
地味で浮世離れしているように見えて、
この分野の研究は社会と密接な関りがあるんですね。

ジュゴンやマナティが人間の船に衝突され、
高い確率で死に至っている話など、
どうにかできないものかと悲しくなります。

海獣類にかぎらず自然保護は経済と対立するものだ。
そういう手短な言及に、
著者の憤りと悲しみを感じるのは、わたしだけでしょうか。
***このコメントは削除されています***
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2023/06/01 19:41
田島 木綿子 『海獣学者クジラを解剖する。
 ~海の哺乳類の死体が教えてくれること~』 山と溪谷社 2021年


アマゾンで見つけて図書館で借りた本。
イラストや写真が多く、
文章も平易で優れた一冊だと思いました。

海生哺乳類の研究者が一般向けに書いたものです。
日本の海岸には頻繁に鯨類が打ちあがり、
年間300件前後に及ぶのだとか。

わたしの生活圏からほど近い鎌倉の由比ガ浜でも、
シロナガスクジラの幼体が見つかったことがあります。
知らなかったわー。

こうした海獣の座礁を「ストランディング」と呼びます。
著者の研究のひとつは、
ストランディングの原因究明だそうです。

複数の理由が絡みあっていることも多く、
原因を特定できずに終わることのほうが多いのだといいます。

ストランディングした鯨の解体、解剖は大変な力仕事。
おまけに臭いが半端なく、
帰りに立ち寄った温泉施設で異臭騒ぎになるんだって。

著者は人間が苦手で動物の研究を志し、
留学したカナダでシャチの姿を目にして虜になりました。

わたしも人間は死ぬほど苦手ですけど、
体力知力の点で海棲哺乳類の研究は無理だと思いますw

幼い鯨の体内からプラスチック片を発見し、
環境問題の深刻な現状を提起したり。
地味で浮世離れしているように見えて、
この分野の研究は社会と密接な関りがあるんですね。

ジュゴンやマナティが人間の船に衝突され、
高い確率で死に至っている話など、
どうにかできないものかと悲しくなります。

海獣類にかぎらず自然保護は経済と対立するものだ。
そういう手短な言及に、
著者の憤りと悲しみを感じるのは、わたしだけでしょうか。
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2023/05/31 22:41
平山瑞穂 『プロトコル』 実業之日本社文庫 2010年 
 (電子版・単行本は2008年、同社刊)


『エンタメ小説家の失敗学』の著者、
平山瑞穂さんの小説です。

執筆の裏側にあった事情や苦労話から、
どんな作品が生まれたのか読んでみたくなって。

「偏屈な人物の一人称で」という、
編集者からのリクエストに応えて書かれた長編です。

ネット通販会社に勤める若手社員、
有村ちさとが社内の派閥争いに巻き込まれた顛末やいかに。

きまじめで融通のきかない人物として描かれるちさとは、
書評家や編集者の女性たちから
「かわいい」と好評だったといいます。

彼女の問わず語りを綴るのは著者にとっても、
楽しめる作業だったそうです。

ノリノリで書いてるのが伝わってくる文章で、
読み手のわたしも楽しく読み進められました。
作中で言及されるほどには、
ちさとが「変わり者」だと思えなかったけど。

結末で、ちょっと意外というか。
やや皮肉な感じのオチがつきます。
誰かを全面的な悪人として描きたくなかったのかな……

わたしは、このオチが気に入りました。
けど一般読者はもっと勧善懲悪寄りなのを好みそうです。

著者がエンタメ文芸の領域でブレイクできなかったことが、
なんとなく、わかるような気がしました。

あと地の文に一人称と三人称が混在してるのが惜しいです。
ひとり語りで説明しきれない部分があるから、
いたしかたないのは、わかるんだけど。

著者はスケジュールの都合で、
不本意な表紙デザインになってしまったことを悔やんでいました。
「プロトコル」っていうコンピュータ用語を標題にしたのも、
作品の内容をイメージし難くて損な選択だったような。

ともあれ勤務時間中に、すけべサイト見てると、
懲戒解雇されちゃうんだね!
会社って怖いところですね(U´ェ`)プピピ
***このコメントは削除されています***
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2023/05/31 22:40
平山瑞穂 『プロトコル』 実業之日本社文庫 2010年 
 (単行本は2008年、同社刊)


『エンタメ小説家の失敗学』の著者、
平山瑞穂さんの小説です。

執筆の裏側にあった事情や苦労話から、
どんな作品が生まれたのか読んでみたくなって。

「偏屈な人物の一人称で」という、
編集者からのリクエストに応えて書かれた長編です。

ネット通販会社に勤める若手社員、
有村ちさとが社内の派閥争いに巻き込まれた顛末やいかに。

きまじめで融通のきかない人物として描かれるちさとは、
書評家や編集者の女性たちから
「かわいい」と好評だったといいます。

彼女の問わず語りを綴るのは著者にとっても、
楽しめる作業だったそうです。

ノリノリで書いてるのが伝わってくる文章で、
読み手のわたしも楽しく読み進められました。
作中で言及されるほどには、
ちさとが「変わり者」だと思えなかったけど。

結末で、ちょっと意外というか。
やや皮肉な感じのオチがつきます。
誰かを全面的な悪人として描きたくなかったのかな……

わたしは、このオチが気に入りました。
けど一般読者はもっと勧善懲悪寄りなのを好みそうです。

著者がエンタメ文芸の領域でブレイクできなかったことが、
なんとなく、わかるような気がしました。

あと地の文に一人称と三人称が混在してるのが惜しいです。
ひとり語りで説明しきれない部分があるから、
いたしかたないのは、わかるんだけど。

著者はスケジュールの都合で、
不本意な表紙デザインになってしまったことを悔やんでいました。
「プロトコル」っていうコンピュータ用語を標題にしたのも、
作品の内容をイメージし難くて損な選択だったような。

ともあれ勤務時間中に、すけべサイト見てると、
懲戒解雇されちゃうんだね!
会社って怖いところですね(U´ェ`)プピピ
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2023/05/31 22:39
平山瑞穂 『プロトコル』 実業之日本社文庫 2010年 (単行本は2008年、同社刊)


『エンタメ小説家の失敗学』の著者、
平山瑞穂さんの小説を読んでみました。

執筆の裏側にあった事情や苦労話から、
どんな作品が生まれたのか読んでみたくなって。

「偏屈な人物の一人称で」という、
編集者からのリクエストに応えて書かれた長編です。

ネット通販会社に勤める若手社員、
有村ちさとが社内の派閥争いに巻き込まれた顛末やいかに。

きまじめで融通のきかない人物として描かれるちさとは、
書評家や編集者の女性たちから
「かわいい」と好評だったといいます。

彼女の問わず語りを綴るのは著者にとっても、
楽しめる作業だったそうです。

ノリノリで書いてるのが伝わってくる文章で、
読み手のわたしも楽しく読み進められました。
作中で言及されるほどには、
ちさとが「変わり者」だと思えなかったけど。

結末で、ちょっと意外というか。
やや皮肉な感じのオチがつきます。
誰かを全面的な悪人として描きたくなかったのかな……

わたしは、このオチが気に入りました。
けど一般読者はもっと勧善懲悪寄りなのを好みそうです。

著者がエンタメ文芸の領域でブレイクできなかったことが、
なんとなく、わかるような気がしました。

あと地の文に一人称と三人称が混在してるのが惜しいです。
ひとり語りで説明しきれない部分があるから、
いたしかたないのは、わかるんだけど。

著者はスケジュールの都合で、
不本意な表紙デザインになってしまったことを悔やんでいました。
「プロトコル」っていうコンピュータ用語を標題にしたのも、
作品の内容をイメージし難くて損な選択だったような。

ともあれ勤務時間中に、すけべサイト見てると、
懲戒解雇されちゃうんだね!
会社って怖いところですね(U´ェ`)プピピ
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2023/05/28 22:34
ローベルト・ゼーターラ― 『野原』 新潮クレスト・ブックス 2022年


図書館で借りました。
著者の本は『ある一生』がとても良かったのですけど……

わたしは、この『野原』を、より気に入りました。
舞台はオーストリアの小さな町です。
住人たちが「野原」と呼ぶ墓地に眠る、
死者たち29人の問わず語りをまとめた短編集。

ひとこと悪態を吐くだけのものもいれば、
生涯をわかりやすく話してくれるものも。
忘れ得ぬできごとについて語るものもいます。

どれも平凡というか、
市井の名も無きひとびとの人生です。
ここには偉人もスターも登場しません。
いちおう市長さんはいるけど期待にたがわぬ俗物っぷりです。

死者たちの問わず語りは唐突に始まり唐突に終わります。
わたしたち誰もの人生が、そうであるように。
わかりやすく嘘に満ちたハッピーエンドはありません。

わたしは、この本の嘘のなさに強く惹かれ、
深く心に響くものを感じました。
いかに惨めでみっともないばかりの人生でも、
死者たちが語ると静かな光を放って見えます。

この本、買って手もとに置きたくなりました。
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2023/05/27 20:52
 太宰治の『グッド・バイ』を読了しました(再再読ぐらい)。
 いつもどおりの、というかいつにもまして魅力的な文章、そこに意図してかしないでか、撒き散らされる太宰の甘えたところと、人間への批評。
 
 それにしても現代的な問題を先取りしている感もあります。
 収録作の「男女同権」ではいわゆる「毒母」を、「饗応夫人」では、やってきたお客を必死になってもてなさないといけないと強迫神経症のようになる奥様を。
 
 この「饗応夫人」、ちょっと映画の「嫌われ松子の一生」みたいです。太宰作品から、映画へとちょっとシフトしちゃいますが、わたし、「嫌われ松子の一生」を映画館で観てしまい、かなり長いこと心理的ダメージが取れませんでした。
 
 この映画を評した当時の友人(あの、人真似ばっかりやって最終的にカメラに落ち着いた奴ね)によると、「よくあるドラマだ」らしいんですが、そう思える神経が皮肉ぬきに羨ましい。
 自分でやってない他人の悪事に、なぜか自分がやったと、そんなふうに生きてゆく松子の……なんていうんでしょうね……人の期待に応えないとダメ、そういう悲惨さに満ち満ちた作品でした。
 
 話を太宰さんに戻します。
 『グッド・バイ』収録作品の「|眉山《びざん》」、太宰のそういう甘ったれた部分と「こういうのを書けばお前ら泣いて読むんだろう」的なエキスがぎゅっと詰まった逸品です。傑作ぞろいの本短編集のなかでも傑作かも。
 
 そして、「フォスフォレッセンス」。
 ウィキペディアより引用すると、
 
 「編集者の野原一夫の語るところによれば、1947年(昭和22年)5月頃、山崎富栄の部屋で太宰と野原がビールを飲んでいると、雑誌『日本小説』の若い編集者の訪客があった。その日が雑誌の締め切り日にあたっていたが、太宰は一行の原稿も書いていなかった。太宰は「口述でやろう」と編集者に提案し、20分ほどしたのちにゆっくりと喋り始める。口述が終わると筆記された原稿に2、3か所手を入れただけで編集者に渡したという」
 
 ですって。
 作家志望だった若き日の(若くはなかったかw)わたしはこの事実を知って、作家になるにはこのぐらいの傑作をパッと口述でできる、そのぐらいじゃないと駄目なんだ……と打ちひしがれ、他にもいろいろと要因はあるものの、結果的に筆を折りました。
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2023/05/27 10:54
ジャン・ジロドゥ 『オンディーヌ』 二木麻里(訳) 光文社古典新訳文庫 
 2008年(電子版)


フーケ(フケー)の『ウンディーネ』を下敷きにした戯曲です。

岩波文庫版『水妖記』の解説に、
『オンディーヌ』に触れた部分がありました。
中学生のわたしはいたく興味をそそられましたけど、
当時この戯曲の日本語訳は手に入り難かったんです。

2008年に古典新訳文庫に入って、
これは読まないと……と思ってたんだけど!
いたずらに時間が経ってしまいました。
ようやく電子書籍で読了です。

水の精と騎士の悲恋物語という大枠は踏襲しつつ
『ウンディーネ』と『オンディーヌ』には、
ひとつ決定的な違いがあります。

前者のヒロインは人間と結ばれることで魂を得て、
まったく別人のような貞淑な女性に変わってしまいます。

後者で水の精の人格が変わることはなく、
自由奔放さは最後まで貫かれます。

フリーダムかつヒャッハーなオンディーヌの言動は、
当然のことながら宮廷の鼻つまみに(笑)。

自ら作りだした些末な約束事にがんじがらめになり、
窒息を余儀なくされている現代人。

オンディーヌの言動ひとつひとつは滑稽に見えて、
わたしたちのありようを映す鏡になっています。

訳者の二木麻里さんによる詳細な解説と、
愛惜のこもったあとがきも印象に残るものでした。

騎士の結婚式の朝オンディーヌが、
海胆と海星の小さな花束を教会の戸口に置いていった……

そのくだりが、わたしの感情を深く強く捕縛してきました。
二木さんは「あまりにもすなおな、けものの愛」
と評しています。
「そんなことができる人間の女はいない」のだそうです。

さて、どうなんだろう。
けものの愛……
***このコメントは削除されています***
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2023/05/27 10:52
ジャン・ジロドゥ 『オンディーヌ』 二木麻里(訳) 光文社古典新訳文庫 
 2008年(電子版)


フーケ(フケー)の『ウンディーネ』を下敷きにした戯曲です。

岩波文庫版『水妖記』の解説に、
『オンディーヌ』に触れた部分がありました。
中学生のわたしはいたく興味をそそられましたけど、
当時この戯曲の日本語訳は手に入り難かったんです。

2008年に古典新訳文庫に入って、
これは読まないと……と思ってたんだけど!
いたずらに時間が経ってしまいました。
ようやく電子書籍で読了です。

水の精と騎士の悲恋物語という大枠は踏襲しつつ
『ウンディーネ』と『オンディーヌ』には、
ひとつ決定的な違いがあります。

前者のヒロインは人間と結ばれることで魂を得て、
まったく別人のような貞淑な女性に変わってしまいます。

後者で水の精の人格が変わることはなく、
自由奔放さは最後まで貫かれます。

フリーダムかつヒャッハーなオンディーヌの言動は、
当然のことながら宮廷の鼻つまみに(笑)。

自ら作りだした些末な約束事にがんじがらめになり、
窒息を余儀なくされている現代人。

オンディーヌの言動ひとつひとつは滑稽に見えて、
わたしたちのありようを映す鏡になっています。

訳者の二木麻里さんによる詳細な解説と、
愛惜のこもったあとがきも印象に残るものでした。

騎士の結婚式の朝オンディーヌが、
海胆と海星の小さな花束を教会の戸口に置いていった……

そのくだりが、わたしの感情も深く強く捕縛してきました。
二木さんは「あまりにもすなおな、けものの愛」
と評しています。
「そんなことができる人間の女はいない」のだそうです。

さて、どうなんだろう。
けものの愛……
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2023/05/26 22:36
平山 瑞穂 『エンタメ小説家の失敗学~「売れなければ終わり」の修羅の道』
 光文社新書 2023年


図書館で借りた本です。
20年近いキャリアの小説家が、
多くの版元から本を出してきた経験を綴っています。

最近では出版社からまったく声がかからなくなり、
週刊誌などのライター業で収入を得ているそうです。

もともと純文学志望だったといいます。
ある時期まで新人賞でも、
あと一歩のところまで進んだのだとか。

応募を繰りかえすうち一次選考にすら残らなくなり、
日本ファンタジーノベル大賞でデビュー。

著者自身が指摘しているとおり、
そもそもエンタメ向きの資質ではなかったと思えます。
「共感」を求める一般読者の需要を、
うまく掴みきれなかったようです。

きまじめさが裏目に……

それでも20年近くにわたって、
有名どころの出版社から本を出し続けてきたんですよね。
立派な経歴です。

やっぱり「運が悪かった」んだと思うのね。
最終的に、それ以外の形容が見つかりません。
毎回あと一歩のところで……

出版業界には、
版元が作家を搾取する歪な力関係があります。
本の売れない時代になり、
いっそう苛酷に書き手を直撃してきた。
そういう時代の証言と読むこともできますね。

ともあれ書き難いことも少なくなかったでしょうに、
正直に本にしてくれた姿勢に好感が持てました。

文芸出版の裏話としても興味深いですし。
本が好きで書くことに関心のある、
すべてのひとへお薦めしたい一冊です。

平山さんの本、キンドルでどれか買って読んでみようかな。
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2023/05/25 22:15
鷺沢萠 『コマのおかあさん』 講談社文庫 2002年
 (単行本は講談社より1998年刊・電子版)


愛犬コマとの暮らしを綴ったエッセイ集です。

「誰も欲しがらないような、
みっともない雑種犬が欲しい」。

そう新聞のインタビューで話したことがきっかけで、
コマが鷺沢さんのもとへやってきたのだとか。

わたしは、このインタビューを読んだ記憶があります。
すっかり内容を忘れてしまってますけど、
雑種犬のくだりだけは鮮明に憶えているんです。

鷺沢萠さんっていうと。
弱冠18歳で新人賞を受けて、芥川賞の候補にもなりました。
教科書にも作品が載っていたそうです。

文壇の若きスターで、わたしなどとは住む世界が違う……
と勝手に思っていたのですけど。

なぁんだ。
わたしと変わんねーこと考えてんぢゃん(笑)。

星回りに恵まれた人生を歩んでいるように見える人物も、
本質的なところでは自分と変わらない人間です。
そこに気づかせてくれた体験でした。

世俗的な名声や肩書のバイアスに対して、
わたしを自覚的にさせてくれたできごとのひとつかも。

あっというまに35歳の人生を駆け抜けてしまった鷺沢さん。
わたしはクリフォード・ブラウンについて、
村上春樹さんの書いていたことを思いだしました。

ある種の人生は、あらかじめ、
長さに耐えられないようプログラムされている……
だったかな?

ともあれ愛すべき雑種コマに翻弄され、
ときに愛想を尽かしかけながらも
「姫」「お嬢」などと呼んでいた鷺沢さんw

コマも現世から旅立ってしまったそうですけど
(犬の寿命を考えたら、ずいぶん長生きしたようです)、
いまごろ、あちらで仲良くしててくれることを祈ります。
***このコメントは削除されています***
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2023/05/25 22:14
鷺沢萠 『コマのおかあさん』 講談社文庫 2002年
 (単行本は講談社より1998年刊・電子版)


愛犬コマとの暮らしを綴ったエッセイ集です。

「誰も欲しがらないような、
みっともない雑種犬が欲しい」。

そう新聞のインタビューで話したことがきっかけで、
コマが鷺沢さんのもとへやってきたのだとか。

わたしは、このインタビューを読んだ記憶があります。
すっかり内容を忘れてしまってますけど、
雑種犬のくだりだけは鮮明に憶えているんです。

鷺沢萠さんっていうと。
弱冠18歳で新人賞を受けて、芥川賞の候補にもなりました。
教科書にも作品が載っていたそうです。

文壇の若きスターで、わたしなどとは住む世界が違う……
と勝手に思っていたのですけど。

なぁんだ。
わたしと変わんねーこと考えてんぢゃん(笑)。

星回りに恵まれた人生を歩んでいるように見える人物も、
本質的なところでは自分と変わらない人間です。
そこに気づかせてくれた体験のひとつでした。

世俗的な名声や肩書のバイアスに対して、
わたしを自覚的にさせてくれたできごとのひとつかも。

あっというまに35歳の人生を駆け抜けてしまった鷺沢さん。
わたしはクリフォード・ブラウンについて、
村上春樹さんの書いていたことを思いだしました。

ある種の人生は、あらかじめ、
長さに耐えられないようプログラムされている……
だったかな?

ともあれ愛すべき雑種コマに翻弄され、
ときに愛想を尽かしかけながらも
「姫」「お嬢」などと呼んでいた鷺沢さんw

コマも現世から旅立ってしまったそうですけど
(犬の寿命を考えたら、ずいぶん長生きしたようです)、
いまごろ、あちらで仲良くしててくれることを祈ります。
***このコメントは削除されています***
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2023/05/25 22:13
鷺沢萠 『コマのおかあさん』 講談社文庫 2002年
 (単行本は講談社より1998年刊)(電子版)


愛犬コマとの暮らしを綴ったエッセイ集です。

「誰も欲しがらないような、
みっともない雑種犬が欲しい」。

そう新聞のインタビューで話したことがきっかけで、
コマが鷺沢さんのもとへやってきたのだとか。

わたしは、このインタビューを読んだ記憶があります。
すっかり内容を忘れてしまってますけど、
雑種犬のくだりだけは鮮明に憶えているんです。

鷺沢萠さんっていうと。
弱冠18歳で新人賞を受けて、芥川賞の候補にもなりました。
教科書にも作品が載っていたそうです。

文壇の若きスターで、わたしなどとは住む世界が違う……
と勝手に思っていたのですけど。

なぁんだ。
わたしと変わんねーこと考えてんぢゃん(笑)。

星回りに恵まれた人生を歩んでいるように見える人物も、
本質的なところでは自分と変わらない人間です。
そこに気づかせてくれた体験のひとつでした。

世俗的な名声や肩書のバイアスに対して、
わたしを自覚的にさせてくれたできごとのひとつかも。

あっというまに35歳の人生を駆け抜けてしまった鷺沢さん。
わたしはクリフォード・ブラウンについて、
村上春樹さんの書いていたことを思いだしました。

ある種の人生は、あらかじめ、
長さに耐えられないようプログラムされている……
だったかな?

ともあれ愛すべき雑種コマに翻弄され、
ときに愛想を尽かしかけながらも
「姫」「お嬢」などと呼んでいた鷺沢さんw

コマも現世から旅立ってしまったそうですけど
(犬の寿命を考えたら、ずいぶん長生きしたようです)、
いまごろ、あちらで仲良くしててくれることを祈ります。
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2023/05/25 22:13
鷺沢萠 『コマのおかあさん』 講談社文庫 2002年(単行本は講談社より1998年刊) 
 (電子版)


愛犬コマとの暮らしを綴ったエッセイ集です。

「誰も欲しがらないような、
みっともない雑種犬が欲しい」。

そう新聞のインタビューで話したことがきっかけで、
コマが鷺沢さんのもとへやってきたのだとか。

わたしは、このインタビューを読んだ記憶があります。
すっかり内容を忘れてしまってますけど、
雑種犬のくだりだけは鮮明に憶えているんです。

鷺沢萠さんっていうと。
弱冠18歳で新人賞を受けて、芥川賞の候補にもなりました。
教科書にも作品が載っていたそうです。

文壇の若きスターで、わたしなどとは住む世界が違う……
と勝手に思っていたのですけど。

なぁんだ。
わたしと変わんねーこと考えてんぢゃん(笑)。

星回りに恵まれた人生を歩んでいるように見える人物も、
本質的なところでは自分と変わらない人間です。
そこに気づかせてくれた体験のひとつでした。

世俗的な名声や肩書のバイアスに対して、
わたしを自覚的にさせてくれたできごとのひとつかも。

あっというまに35歳の人生を駆け抜けてしまった鷺沢さん。
わたしはクリフォード・ブラウンについて、
村上春樹さんの書いていたことを思いだしました。

ある種の人生は、あらかじめ、
長さに耐えられないようプログラムされている……
だったかな?

ともあれ愛すべき雑種コマに翻弄され、
ときに愛想を尽かしかけながらも
「姫」「お嬢」などと呼んでいた鷺沢さんw

コマも現世から旅立ってしまったそうですけど
(犬の寿命を考えたら、ずいぶん長生きしたようです)、
いまごろ、あちらで仲良くしててくれることを祈ります。
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2023/05/21 20:26
E.T.A.ホフマン 『黄金の壺/マドモワゼル・ド・スキュデリ』  大島かおり (訳)  
 光文社古典新訳文庫 2009年(電子版)


先々月だったかに、まとめて買った、
古典新訳文庫のホフマン最後の1冊です。

「黄金の壺」と「マドモワゼル・ド・スキュデリ」
の中編ふたつに短編「ドン・ファン」と、
いくつかの掌編が収められています。

大学生アンゼルムスが美しい緑色の蛇に恋をして、
非現実の世界へと足を踏み入れる「黄金の壺」。
ホフマンの代表作のひとつでしょう。

若いころ、この作品に夢中になって、
何度も読みかえした……と、
河合隼雄さんがどこかで書いていたのを憶えています。

ちょうど「砂男」と対になるというか、
鏡の裏表みたいなお話です。
ここでもホフマンの二面性は健在ですけど、
めでたしめでたしで終わります。

「マドモワゼル・ド・スキュデリ」は、
美しい宝飾品と腕利きの職人をめぐる犯罪小説。
こちらも二面性を感じさせる部分があります。

ホフマンといえば昼は法律家、
夜には作家と、ふたつの顔を使い分けて……
といわれますけど、音楽家でもありました。
オペラの作曲を手がけてもいたそうです。

短編「ドン・ファン」は、
モーツァルトの『ドン・ジョバンニ』をめぐるお話。
19世紀にモーツァルトがどう聴かれていたかを示す、
貴重な資料でもあります。

掌編「クライスレリアーナ」でも音楽を扱っており、
クラシック音楽が好きなら一読の価値ありかも。
シューマンのピアノ曲「クライスレリアーナ」が、
ホフマンの小説に着想を得ていることは有名ですね。
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2023/05/20 20:44
奈倉有里 『夕暮れに夜明けの歌を 文学を探しにロシアに行く』
 イースト・プレス 2021年


著者はロシア語に強い関心を抱き、
彼の地に留学してロシア語とロシア文学を学んだそうです。
この本は当時の経験を綴ったエッセイ集。

サンクトペテルブルクの語学学校で
「文学大学へ進みなさい」
と勧めてくれたエレーナ先生とのやりとりが心に残りました。

雪が降る窓の外に一羽の鳥の姿があり
「あなたは絶対にこの瞬間を忘れないわ」
と言われたそうです。

あたりまえの日常のなかに埋まっている、
宝石の輝きを察知できるひとだったんですね。
エレーナ先生。

ひとによっては看過してしまう美しいものに、
言葉に載せることで永遠の生命を与えられる。
詩の魂を感得してたのだと思います。

この本で、もっとも美しい部分でした。

文学大学で仲良くなったマーシャとの交流とか、
サーカスの少年たちの話とか、
印象に残るエピソードがいくつも。

あと文学大学で批評史を教わった、
アントーノフ先生との別れの場面。

先生はふたりきりで、
丁寧に卒論を講評してくれたのだそうです。

話が終わってから、
ふたりとも長いこと黙ったままで、
何も口にできなかったといいます。

言いたいこと言うべきことが、
あまりに多すぎ大きすぎると、
言葉では間に合わなくなってしまうものです。

そういう沈黙は、
誰のどのような人生にも、
いちどくらい訪れてくるのではないでしょうか。

装丁も内容も美しい一冊でした。
本を愛するひとなら手に取って損はしません。
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2023/05/20 13:22
 辻邦生の『椎の木のほとり』(中央公論社刊)を読了しました。これは初版函装本で全8冊(文庫版は全10冊)の連作短編集です。ある人物の幼児期から晩年にいたるまで(……? まだ読むのが追いついていないので晩年にいたるかはわかりませんが)、いくつもの時間と場所のレイヤーが交差して語られます。
 
 本当に、辻邦生さんは巧みで、一篇一篇で唸りっぱなし。この『椎の木のほとり』だと、国粋的な友人、武井との交友がある話者、あるときに武井の姉の百合江と知り合い、すぐ恋に落ちるのですが、その間に武井は静かに発狂しており……の「霙の街から」。
 
 話者がニューヨークからフランスのル・アーブルへ向かう。パリでの研究が捗り、なおかつそもそも仕事を斡旋してくれたブロック氏の娘、ダニエルとの相互授業(話者はダニエルに日本語や日本文化を教え、ダニエルは話者に仏語とフランス文化を教える)をしてどんどん親密になる。
 「どんな階級な人でもフランスでは生活を楽しみにしているようだ」と話者。けれども、ブロック氏一家はアメリカに亡命することに……。「パリの空、今日も晴れて」。
 
 とりあえず二つほど紹介しましたが、背景にスペイン内戦や第二次世界大戦の頃の作品が多く、ちょっとした処世術から人間論やらがとても丁寧に書かれています。
 「」の中の科白が素敵です。
 
 そして、次の巻『神々の愛でし海』でいよいよ完結。
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2023/05/14 23:00
田中 康弘 『山怪 朱 山人が語る不思議な話』 山と渓谷社 2023年(電子版)


電子本の日替わりセールで購入しました。

著者があちこちの山地を回って、
聴いて回った話だそうです。
最初に出た本がよく売れて、これで4冊目。

今回は東北や北海道の話が多いですね。
和人が多く入ってきた松前半島では狐狸の話が多く、
道北へ向かうと聞かれなくなるんだって。

山で道に迷うと決まって鹿の群れが現れ、
嘲った態度を取られる男性の話が愉快でした。

昭和30年代に小学生の女の子が、
遠足で登った山で行方不明になったそうです。
発見されたら服にたくさんの毛が着いてたのだとか。
狸が何匹もで温めてくれて助かったんだって。


(U・ิܫ・ิ)ノ<良い話だよな!

(๑・㉨・๑)<狸を大切にしてほしい


あと、ぶったまげたのが、
誰もいないはずの山奥でおばちゃんの声がした話。
地元のスーパーの特売品のことを喋ってたそうですw

これは作り話をしようと思って、
考えつくもんぢゃあ、ねーよなー。

山に人間の知らないものが棲んでいるのかどうか、
わかりません。
ただ理屈で説明のつかない体験をするひとが絶えないのは、
事実ですね。

わたしは山に登りたいとは思わないけど、
山の怪談はつくづく興味深いです。
***このコメントは削除されています***
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2023/05/14 22:59
田中 康弘 『山怪 朱 山人が語る不思議な話』 山と渓谷社 2023年(電子版)


電子本の日替わりセールで購入しました。

著者があちこちの山地を回って、
聴いて回った話だそうです。
最初に出た本がよく売れて、これで4冊目。

今回は東北や北海道の話が多いですね。
和人が多く入ってきた松前半島では狐狸の話が多く、
道北へ向かうと聞かれなくなるんだって。

山で道に迷うと決まって鹿の群れが現れ、
嘲った態度を取られる男性の話が愉快でした。

昭和30年代に小学生の女の子が、
遠足で登った山で行方不明になったそうです。
発見されたら服にたくさんの毛が着いてたのだとか。
狸が何匹もで温めてくれて助かったといいます。


(U・ิܫ・ิ)ノ<良い話だよな!

(๑・㉨・๑)<狸を大切にしてほしい


あと、ぶったまげたのが、
誰もいないはずの山奥でおばちゃんの声がした話。
地元のスーパーの特売品のことを喋ってたそうですw

これは作り話をしようと思って、
考えつくもんぢゃあ、ねーよなー。

山に人間の知らないものが棲んでいるのかどうか、
わかりません。
ただ理屈で説明のつかない体験をするひとが絶えないのは、
事実ですね。

わたしは山に登りたいとは思わないけど、
山の怪談はつくづく興味深いです。
***このコメントは削除されています***
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2023/05/14 22:58
田中 康弘 『山怪 朱 山人が語る不思議な話』 山と渓谷社 2023年(電子版)


電子本の日替わりセールで購入しました。

著者があちこちの山地を回って、
聴いて回った話だそうです。
最初に出た本がよく売れて、これで4冊目。

今回は東北や北海道の話が多いですね。
和人が多く入ってきた松前半島では狐狸の話が多く、
道北へ向かうと聞かれなくなるんだって。

山で道に迷うと決まって鹿の群れが現れ、
嘲った態度を取られる男性の話が愉快でした。

昭和30年代に小学生の女の子が、
遠足で登った山で行方不明になったそうです。
発見されたら服にたくさんの毛が着いてて、
狸が何匹もで温めてくれてて助かったんだって。


(U・ิܫ・ิ)ノ<良い話だよな!

(๑・㉨・๑)<狸を大切にしてほしい


あと、ぶったまげたのが、
誰もいないはずの山奥でおばちゃんの声がした話。
地元のスーパーの特売品のことを喋ってたそうですw

これは作り話をしようと思って、
考えつくもんぢゃあ、ねーよなー。

山に人間の知らないものが棲んでいるのかどうか、
わかりません。
ただ理屈で説明のつかない体験をするひとが絶えないのは、
事実ですね。

わたしは山に登りたいとは思わないけど、
山の怪談はつくづく興味深いです。
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2023/05/10 22:17
中山康樹 『ロックの歴史』 講談社現代新書 2014年


図書館で借りた本です。

「ひとまず定説・通説を疑ってかかる」
姿勢に中山さんの本領があり、
わたしも多くを学ばせてもらいました。

「ロックンロールは、いかにしてロックになったか」。
たぶん、この本の肝はここにあると思います。

これまで日本語で読めた類書では、
ビートルズ以前の事情にあまり触れてないんです。
たぶん著者たちが詳しくなかったんだろうな。

昔に深民淳さんの本を読んだらプレ・ビートルズは、
スキッフルについて軽く出てきた程度で。

その点、中山さんはジャズ評論出身なだけありますね。
ビートルズ以前の音楽史が、
非常に整理されており理解しやすかったです。

歴史的に見るとロック音楽には、
他に無い特徴がふたつあります。

ひとつはアメリカとイギリスという、
英語圏のふたつの国の相互作用で成長していったこと。

もうひとつはメディアと資本との関係です。
それらに取り込まれることでロックは、
前世紀後半の北半球で絶大な影響力を獲得しました。

先行するクラシックやジャズなどでは、
ここまでメディアや資本と一体化していません。
カラヤンはそれらと巧みに蜜月を築きましたけど、
クラシック音楽では例外的な存在でしょう。

もはや身近にありすぎて看過されがちな音楽の、
特異さにあらためて目を向けさせてくれる好著です。

名盤カタログ的な内容を期待すると、
肩透かしを喰らうと思います。

歴史や文化の地図にロックを位置づける、
知的感興を期待する向きには強くお薦め。
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2023/05/10 15:25
 フィリップ・K・ディックとロジャー・ゼラズニイ共著の幻の一冊、『怒りの神』を読了しました(サンリオSF文庫刊)。
 
 ポスト・アポカリプスものなんですが、表4(裏表紙)の紹介文がものすごい。
 エネルギー調査開発庁長官カールトン・ルフトオイフェルは、実際の生存者がいなくてもデジタル化された国民のデータがあれば国体(政治的な国ぶりのほうね、体育大会じゃなくて)は護られる、とかなんとかそんなことを言って世界を破滅させるツァーリ・ボンバのような超規模な爆弾を爆発させます。
 
 これ、半分以上作中には出てこない困った「紹介文」なんですよ。
 
 で、いきなり四肢欠損の(義手や義足はあります)画家、ティボール・マクマスターズはルフトオイフェルの肖像画を描いてくれと依頼され、突然変異体だのが跋扈《ばっこ》する地上を牛に車をひかせて進んでいくのですが、どこか牧歌的なムードが。
 
 ちなみに表4の紹介文には「すさまじく暴力的な」と書かれてますが、どうでしょうw
 
 実際のところ、この作品はディックにまだ神学の知識などがなく、書けないところへ、ゼラズニイと数ページ書いては相手に送り、また書いて送り……。
 ディックといえば、やはりディック神学が屹立《きつりつ》している『ヴァリス』が藤野一友さんの絵含めていいのですが、そんなディックも神学に首突っ込んでない時期があったのか、という一冊。
 
 個人的には面白かったのですが、これたぶん復刊されてません。
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2023/05/07 11:55
坂口 恭平 『苦しい時は電話して』 講談社現代新書 2020年(電子版)


近年の新書には読みやすいエッセイが目立ちますね。
玉石混合の印象がありますけど、この本は「玉」の部類でした。

著者は双極性障害の当事者で「いのっちの電話」
というボランティアを行っているそうです。

自分の携帯番号を公開して
「死にたい人であれば誰でもかけることができる」
サービスを無償で提供している話に驚かされました。

「死にたい」波が襲ってきたら……
あくまで当事者目線で平易に体験を述べており、
いろいろ得るところがありました。

わたしの場合「死にたい」ではなく、
過去の被害体験のフラッシュバックが主な症状です。
著者の「反省禁止!」という言葉は、
大いに役に立っています。

そうそう。
つい反省するっていうか、
考えなくていいことまで考えてしまうんですよね。
それで、どんどん意識が悪いほうへ向かってしまいます。

極端にきまじめで向上心の強い気質が、
鬱を招来してしまうのではないか……
と著者は自己分析しています。
鬱病の病前性格ですね。

わたしは……まぁまぁ、まじめな部類かも。
けど、きまじめじゃないし向上心もありません。
努力は死ぬほど嫌いです。

生来あくせくすることが大の苦手でして。
あと、そういう態度で生きるリスクを感知して、
避けるようになった面もあると思います。
わたしの場合、がんばったら生命に関わるからやめとこう、と。

それから治療としての表現や創作への言及が、
わたしには得るところがありました。

あるとき著者は友達に
「鬱で頭のなかが砂漠になった感じがするんだ」
と話したそうです。

「どんな砂漠なのか具体的に知りたい」と言われ、
小説をひとつ書くきっかけになったのだとか。

「死にたい」という主観から、
ほんのすこし距離を置いて眺めてみること。
安心して弱音を吐ける誰かがいること。

これらの大切さを、あらためて考えさせられました。
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2023/04/29 15:07
唯円、親鸞  『歎異抄』 川村 湊 (訳)  光文社古典新訳文庫 2009年(電子版)


母は五木寛之さんのエッセイが好きです。
わたしはきちんと読んだことないけど、
開いたら『歎異抄』の名前が載ってたのを憶えています。

なんとなく気になって、
古典新訳文庫なら読みやすかろうと買ってみました。

小学生のころ母が『学習漫画 日本の歴史』
の本をくれたことがあります。

そこに法然さん親鸞さんの話が載ってました。
盗賊に身ぐるみ剥がれそうになって親鸞聖人
「もちもの全部あげますよ。
良いことも教えてあげましょう」。

ただ「ナムアミダブツ」を唱えれば極楽に行けますよ……
そう諭された盗賊が念仏を口にしていました。

『歎異抄』に書かれてるのは、そういう話です。
「他力本願」でひたすら阿弥陀さまを信心すれば、
極楽往生が約束されてますよ。

「悪人正機」もよく知られてる言葉ですよね。
もちろん「悪いことをしなさい」という教えではなく
(いたずらに他者を傷つける態度を戒めるくだりがあります)
「悪人のほうが善人より、己の罪深さを自覚しやすいから」
救済に近いところにいる……という考えかただそうです。

日本的な母性みたいなものと同時に、
ある意味で非常にアナーキーな印象を受けました。

だって修行とか学問とかで悟りにいたる道を、
思いっきり否定してるんだもんw
どこまでも受け身で阿弥陀さまに任せましょう。

悟りとか救済とかは知識人の専有物じゃないんだよ。
素直に読むかぎり、そう言ってると感じられます。

あと親鸞さんって関西の出身だそうで、
この本は関西弁で現代語訳してあります。

訳者は関西弁ネイティヴじゃないらしく、
ネットの感想には「エセ関西弁」という評価も(笑)。
ネイティヴ関西人の監修を仰げばよかったのに……

三木清とか西田幾多郎は『歎異抄』を大切にしていたそうです。
わたしが意外に感じたのは、
晩年のハイデガーが日記のなかで称揚していること。

他力本願と『存在と時間』は繋がらない先入観があるんだけど、
人間わかりませんね。
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2023/04/29 11:45
 武田泰淳《たいじゅん》さんの『滅亡について 他三十篇』を読み終えました。
 
 武田さんは浄土宗のお坊さんでもあります。
 また、中国文学の研究者でも。実際、わたしも武田さんのこの本を通じて、竹内好《よしみ》先生の本を読みたくなったり、あるいは柄谷行人《からたにこうじん》へのステップになっております。
 
 竹内好さんや魯迅《ろじん》へ向かうのはわかるでしょうが、なぜ柄谷かというと、彼の『マルクス その可能性の中心』のなかに「武田泰淳論」が収録されているからです。
 ちなみに漱石論も二篇>『マルクス その可能性の中心』。この本の2/3ぐらいが「マルクス論」なのですよ。
 
 意外、というかなんというか、武田泰淳は、大衆小説の第一人者のような吉川英治をかなり評価しているんです。
 三島由紀夫さんは、自衛隊の図書館に吉川英治など通俗小説などは置かないで、もっと文学性の高いものを置いてくれ、と書いておりました。わたしも三島さんに同感。
 
 ちなみに武田泰淳さんや竹内好の中国(支那と表記したほうがよいかしら。本当にこの表記に悪いことなどないのです)文学、いや中国そのものへの愛は、文化大革命以前のです。
 
 また六堂《りくどう》を疾駆する愉快な荘子の哲学、などと書かれると荘子も読みたくなりますね。竹内好、魯迅、それに荘子……。いい悪いは別として、読書が散らかした部屋をそのまま体現するような「ほしい本、読みたい本」が増えていきます。
 
 全般的にそう長い文章は収録されておりません。
 でも、武田泰淳の哲学や文章を味わえる良書です。
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2023/04/28 22:53
E.T.A.ホフマン 『砂男/クレスペル顧問官』  大島かおり (訳)  
 光文社古典新訳文庫 2014年(電子版)


先月末だかにまとめて買った古典新訳文庫のホフマン。
2冊目を読了できました。

オッフェンバックのオペラ『ホフマン物語』
の原作短編3つをまとめた本です。
これまで、ありそうで無かった編集かも。

ホフマンの短編、わたしは十代のころ、
岩波文庫の池内紀さん訳で親しみました。

とりわけ強く印象に残ってたのが「砂男」。
今回新訳版で読み返して、
やはり傑作との思いを強くしました。

サイコ・ホラーの元祖に位置づける声もあるそうです。
人間心理の不可解さに踏みこんだ小説として、
詠み継がれる価値があると思います。

幾度も現れる目や眼鏡、望遠鏡のモチーフ。
弁護士コッペリウスと行商人コッポラの奇妙な相似。

ホフマンは二面性の作家です。
昼間は法律家として働き、
夜は文学や音楽に溺れる二重生活を送っていました。
そうした二面性が、
理性と狂気の対立として顕著に表れた作品かと。

「砂男」を傑作たらしめているのは、
合理的な説明を省いていることでしょう。
奇怪なイメージが読者の心に喰い込んで離れません。

「クレスペル顧問官」も池内訳にあった憶えが。
こちらは「砂男」に比べると素直なロマンスです。

「大晦日の夜の冒険」には驚かされました。
シャミッソーの『影をなくした男』へのオマージュで、
しかも『影をなくした男』の主人公がゲスト出演(笑)。

ホフマンとシャミッソーは同時代人で、
交流があったそうです。
ホフマンは『影をなくした男』に感激して
「大晦日の夜の冒険」を書いたのだとか。

岩波文庫の『影をなくした男』、
つい先日にブックオフへ売ってしまったことが惜しまれます。
アバター
2023/04/27 20:33
ヤマザキマリ 『国境のない生き方 私をつくった本と旅 』 小学館新書 2015年


本の話がいろいろ出てくるのが気になり読んでみました。

小さなころ図鑑と『ニルスのふしぎな旅』が、
大のお気に入りだったそうです。
北海道の原野が身近にあり、
冬は狐が氷の上を歩いているのが見えたとか。

十代でイタリアに渡ってから、
知識人のサロンに出入りするように。
安倍公房や三島由紀夫、
ガルシア=マルケスなどを貪り読んだとありました。

追いつめられたときは本に逃げ場や助けを求めるし、
そういうとき読んだものは血肉として残りますね。

「本を読むことは旅に似ている」と、
わたしは日ごろ思っています。
ヤマザキマリさんは脳内と身体の双方で、
世界中を旅しながら生きてるんですね。

わたしの場合、
今生では体力的に旅三昧の生きかたは無理です。
もし来世というものがあるなら、
ヤマザキさんみたいな人生も素敵かもしれません。

最後のほうに、こんなこと書いてあります。
わたしも心底から同感です。


> 単純に地球があって、太陽があって、
> この環境の中で生きていける生命体として、
> 私たちは命を授かったのだから、
> まず「生きてりゃいいんだよ」。これが基本 。

> 生きてていいから、生まれてきたんですよ。

> それなのに、なぜ生きていくのかとか、
> 仕事がどうとか、人間関係がどうだとか、
> (中略)ハナクソみたいなものです。


(U・ิܫ・ิ)ノ<ハナクソに絡めとられないように用心な!
***このコメントは削除されています***
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2023/04/27 20:32
ヤマザキマリ 『国境のない生き方 私をつくった本と旅 』 小学館新書 2015年


本の話がいろいろ出てくるのが気になり読んでみました。

小さなころ図鑑と『ニルスのふしぎな旅』が、
大のお気に入りだったそうです。
北海道の原野が身近にあり、
冬は狐が氷の上を歩いているのが見えたとか。

十代でイタリアに渡ってから、
知識人のサロンに出入りするように。
安倍公房や三島由紀夫、
ガルシア=マルケスなどを貪り読んだとありました。

追いつめられたときは本に逃げ場や助けを求めるし、
そういうとき読んだものは血肉として残りますね。

「本を読むことは旅に似ている」と、
わたしは日ごろ思っています。
ヤマザキマリさんは脳内と身体の双方で、
世界中を旅しながら生きてるんですね。

わたしの場合、
今生では体力的に旅三昧の生きかたは無理です。
もし来世というものがあるなら、
ヤマザキさんみたいな人生も素敵かもしれません。

最後のほうに、こんなこと書いてあります。
わたしも心底から同感です。

> 単純に地球があって、太陽があって、
> この環境の中で生きていける生命体として、
> 私たちは命を授かったのだから、
> まず「生きてりゃいいんだよ」。これが基本 。

> 生きてていいから、生まれてきたんですよ。

> それなのに、なぜ生きていくのかとか、
> 仕事がどうとか、人間関係がどうだとか、
> (中略)ハナクソみたいなものです。


(U・ิܫ・ิ)ノ<ハナクソに絡めとられないように用心な!
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2023/04/26 22:01
藤井 一至 『大地の五億年 せめぎあう土と生き物たち』 
 山と渓谷社 ヤマケイ文庫 2022年(電子版)


二週間くらい前、
電子書籍の日替わりセールで買った本です。
499円でした。

以前から気になってたので、この機会に。
もとはヤマケイ新書の1冊として2015年に出たものだそうです。

身近にあって見過ごされがちな「土」。
土壌研究者が土の歴史や特性を平易に解説してくれてます。

あたりまえに身近にあるものだと思ってましたけど!
生物と土は循環しあう関係を、
気の遠くなるような年月かけて築いてきてたんですね。

前半は地学と古生物学で、
後半は林業と農業のお話になります。
わたしはまったくの門外漢ですので、
全編ただただ、うなずきながら読むばかり。

アマゾンのレビューに目を通すと、
化学肥料の扱いに対する異論が見つかりました。
専門家のあいだでは見解が分かれる問題なのかも。

いずれにせよ町暮らしだと、
園芸くらいでしか触れることのない土。

ありふれて看做されがちですけど、
生物の存在する地球にしか存在しないそうです。

いろいろな意味で蒙を開かれる好著でした。
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2023/04/20 14:54
老松 克博 『空気を読む人 読まない人 人格系と発達系のはなし』 
 講談社現代新書 2021年


精神科の先生が書いた本です。
世のひとびとは大雑把に「人格系」と「発達系」に括れると、
臨床の現場で患者さんと接していて感得したのだとあります。

「人格系」は世の大多数を占める「空気を読むタイプ」。
「発達系」はマイペースな少数派「空気を読まないタイプ」です。

両者は本質的に相容れず、
世の人間関係のトラブルは、
すべて人格系と発達系の対立に端を発しているのだとか。

また、どんな人間でもからなず、
人格系と発達系、双方の傾向を持ちあわせているといいます。
これが本書の肝になる考えかたです。

誰もが心のなかに「もうひとりの自分」を抱えており、
それは現実の自分とはポジとネガの関係にある、
と著者は述べます。

わけもなく腹の立つ相手が、
おそらく誰の人生にも現れるのではないでしょうか。
それは「もうひとりの自分」を相手に投影しているから……
なのだそうです。

わたしはニコタでも、
どうしても我慢ならない人物にひとりふたり遭遇しました。

いけすかない連中ではあったけど、
そこまで酷いことはされてないんですね。
なのに腹が立って腹が立って。

なるほど「もうひとりの自分」ですか……

実践するのは難しそうですけど
「もうひとりの自分」と対話する方法も紹介されています。

対人関係で悩んでいるかたには、
得るところのある本かもしれません。
わたしには予想以上に参考になりました。
***このコメントは削除されています***
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2023/04/20 14:53
老松 克博 『空気を読む人 読まない人 人格系と発達系のはなし』 講談社現代新書
 2021年


精神科の先生が書いた本です。
世のひとびとは大雑把に「人格系」と「発達系」に括れると、
臨床の現場で患者さんと接していて感得したのだとあります。

「人格系」は世の大多数を占める「空気を読むタイプ」。
「発達系」はマイペースな少数派「空気を読まないタイプ」です。

両者は本質的に相容れず、
世の人間関係のトラブルは、
すべて人格系と発達系の対立に端を発しているのだとか。

また、どんな人間でもからなず、
人格系と発達系、双方の傾向を持ちあわせているといいます。
これが本書の肝になる考えかたです。

誰もが心のなかに「もうひとりの自分」を抱えており、
それは現実の自分とはポジとネガの関係にある、
と著者は述べます。

わけもなく腹の立つ相手が、
おそらく誰の人生にも現れるのではないでしょうか。
それは「もうひとりの自分」を相手に投影しているから……
なのだそうです。

わたしはニコタでも、
どうしても我慢ならない人物にひとりふたり遭遇しました。

いけすかない連中ではあったけど、
そこまで酷いことはされてないんですね。
なのに腹が立って腹が立って。

なるほど「もうひとりの自分」ですか……

実践するのは難しそうですけど
「もうひとりの自分」と対話する方法も紹介されています。

対人関係で悩んでいるかたには、
得るところのある本かもしれません。
わたしには予想以上に参考になりました。
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2023/04/19 21:14
ヤマザキマリ 『仕事にしばられない生き方』 小学館新書 2015年


「仕事」と「お金」を軸に、
著者が自らの半生を振り返った語りおろしエッセイです。

平易な本ながら、
考えさせられる事例が少なくありません。

イタリア在住時代に同棲していた詩人が、
慣れない商売で悲惨な結果を招来したくだりなど、
背筋が寒くなります。

世界的な名門として知られるシカゴ大学に職を得た夫が、
見る見る憔悴していった話にも考えさせられますね。

ともあれ、わたしはヤマザキさんの、
気取りのなく正直なところに好感を持ちました。

ひとまず常識と距離を置き「俯瞰で」
ものごとを見ようとする姿勢には、
学ぶべきものがあると思います。

常識や社会通念はうつろいやすいものです
(ここ数年のコンプライアンスをめぐる状況を見てください)。
あまり素直に受け入れてしまうと、
場合によっては不幸に繋がることもあるでしょう。

わたしは何よりも以下の言葉に、
これ以上ないくらい同感です。


> どんな人間だろうと、
> この社会のお役に立つために生まれてきた
> ネジではないのです。


わたしたちは世の中の部品にされるために、
生まれてきて、ここにいるわけでは断じてありません。
(U`ェ´) ケッピャーッ!!!
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2023/04/16 17:17
E.T.A.ホフマン 『くるみ割り人形/ブランビラ王女』  大島かおり (訳)  
 光文社古典新訳文庫 2015年刊(電子版)


今月末くらいに「くるみ割り人形」のDVDが届く予定です。

チャイコフスキーのバレエを人形劇で演じる、
ちょっと変わった映像。
ねずみの王さまが、どう再現されてるのか気になってだな……

そういえば小さいころに抄訳で読んだきり、
ホフマンの原作に触れていません。
ちょうど半額セールに入ってきたから買ってみました。

大筋では一般に知られているとおりです。
くるみ割り人形と、ねずみ一族の確執など、
細かいところはバレエでは省略されているのでは、なかろうか。

ねずみの王さまには「マウゼリンクス夫人」
っていう母親がいるんですね。
DVDが楽しみです。

併録の「ブランビラ王女」。
わけがわからないとネット上でも評判の一編です。
こいつが、なんともサイケデリック。

舞台役者とお針子の恋の物語のはずなんだけど、
いろんな人物が絡んできて、
だんだん誰が誰なのか見当つかなくなってきます。

王女さまや王子さまは一種の象徴で、
ユングの本に出てくる「個性化」の話と受け取るのが妥当かも。
まじめにつきあってると頭ヤられますよ、これw

翻訳者の大島かおりさんは、この本を訳した直後に亡くなったそうです。
ご遺族による控えめな後書きが心に残りました。
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2023/04/09 21:04
 ラカン派精神分析家の斎藤環さんの『戦闘美少女の精神分析』を読了しました。
 
 冒頭の、マニアとおたくの違いからしてなかなか頷けるものがありますね。マニアは……鉄道模型でもプラモデルでも「実体化」されるものへの愛情。
 おたくはアニメでもまんがでも「実体」のないものへの愛。DVDやフィギュア、まんが本という「実体」があるじゃないかというとそうでもありません。
 もっと記号的なものなのです。
 すでにおたくの「虚構化」、それも自分だけの「虚構化」は、コスプレ、パロディ、同人誌、二次創作などなど膨大な情報へ向かいます。
 あたりまえですが現実に暮らしている以上、現実対虚構、となるはずなのですが、現実も、もう「虚構に過ぎない」わけですね。
 
 さらにおたくは、「おたく的重層化」というさまざまな現実から虚構まで、その内側からも外側からも、さきほどの「虚構化」を自在にコントロールできるわけです。
 たとえばまだ幼いアニメキャラを愛していても、それは「虚構化」のレイヤーで済む話で、実際に幼い女の子をどうこうしたい、という欲望のレイヤーはありません(宮崎勤事件はかなりのレアケースです)。
 
 セーラー服の人気について。
 たとえば中学生、高校生のセーラー服姿、これは若い女の子への欲望ではないのですね。
 まずは服装倒錯(実際、セーラー服は軍服ですから)、次に小児性愛、そして同性愛(これももともとは軍服だということで)、幼児は多形倒錯だと看破したフロイトは鋭いです。
 
 こういう戦闘美少女は「戦うことができる」から存在するのではなく、「戦うことによって存在が可能になる」という斎藤先生の言葉には唸りました。
 
 そういえば精神病の一形態に、「過言《ハイパーグラフィア》」というのがあるそうですが、なんと症状「とにかく大量の文字を書く」というものです。なんだか投稿サイトにあるような気がしますね。
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2023/04/07 14:01
フリードリヒ・フケー(フーケ) 『水の精(ウンディーネ)』  識名 章喜(訳)
 光文社 古典新訳文庫 2016年(電子版)


18世紀ドイツロマン派、
騎士の血を引くという著者の手になる、おとぎ話です。

人間と結ばれて魂を得たいと願った水の精と、
若い騎士との悲恋物語。

これ昔は岩波文庫に『水妖記』の邦題で入ってて。
中学生のころ大好きだったんですよ。
ドイツ文学とかドイツ文化に惹かれるきっかけでした。

湖のほとりでつつましく暮らす老夫婦には、
美しい養女ウンディーネがいました。
あるとき道に迷った騎士フルトブラントが現れ……

自然描写、特に暗く不気味な森や、
刻々と表情を変える水の姿が魅力的です。
騎士が森で遭遇する妖魔たちも、
怖ろしげながら、どこか憎めない愛嬌があります。

古い作品だからツッコミどころは多々あるんだけど!
ウンディーネとフルトブラントのすれ違い、
貴族の娘ベルタルダとの三角関係などは普遍的かも。

いたずら好きな不思議ちゃんキャラのウンディーネが、
とにかく活き活きと魅力的に描かれています
(読み手によっては、ただの痛い子かしら)。

これが結婚して魂を得ると、
まったく別人のように貞淑な妻になり下がって(笑)
しまって……

湖畔で過ごしていたころの天真爛漫な奔放さは、
結末の哀しさと対比させる意図で強調されたのでしょうか。

著者フケーの人となりに詳しく触れた解説も充実しており、
古い友達と思わぬかたちで再会できたようで嬉しいです。
古典新訳文庫だけあって訳が読みやすいし。

こうやって読み返すと、
もともと古典だけに古くなりようがありません。
中学生のわたし良い友達に恵まれてたんだな。

人間の友達はクズばっかでしたけどw

なお2021年にはこの本を原作にした
『水を抱く女』という映画が日本でも公開されているそうです。
***このコメントは削除されています***
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2023/04/07 14:00
フリードリヒ・フケー(フーケ) 『水の精(ウンディーネ)』  識名 章喜(訳)
 光文社 古典新訳文庫 2016年(電子版)


18世紀ドイツロマン派、
騎士の血を引くという著者に手になる、おとぎ話です。

人間と結ばれて魂を得たいと願った水の精と、
若い騎士との悲恋物語。

これ昔は岩波文庫に『水妖記』の邦題で入ってて。
中学生のころ大好きだったんですよ。
ドイツ文学とかドイツ文化に惹かれるきっかけでした。

湖のほとりでつつましく暮らす老夫婦には、
美しい養女ウンディーネがいました。
あるとき道に迷った騎士フルトブラントが現れ……

自然描写、特に暗く不気味な森や、
刻々と表情を変える水の姿が魅力的です。
騎士が森で遭遇する妖魔たちも、
怖ろしげながら、どこか憎めない愛嬌があります。

古い作品だからツッコミどころは多々あるんだけど!
ウンディーネとフルトブラントのすれ違い、
貴族の娘ベルタルダとの三角関係などは普遍的かも。

いたずら好きな不思議ちゃんキャラのウンディーネが、
とにかく活き活きと魅力的に描かれています
(読み手によっては、ただの痛い子かしら)。

これが結婚して魂を得ると、
まったく別人のように貞淑な妻になり下がって(笑)
しまって……

湖畔で過ごしていたころの天真爛漫な奔放さは、
結末の哀しさと対比させる意図で強調されたのでしょうか。

著者フケーの人となりに詳しく触れた解説も充実しており、
古い友達と思わぬかたちで再会できたようで嬉しいです。
古典新訳文庫だけあって訳が読みやすいし。

こうやって読み返すと、
もともと古典だけに古くなりようがありません。
中学生のわたし良い友達に恵まれてたんだな。

人間の友達はクズばっかでしたけどw

なお2021年にはこの本を原作にした
『水を抱く女』という映画が日本でも公開されているそうです。
***このコメントは削除されています***
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2023/04/07 13:58
フリードリヒ・フケー(フーケ) 『水の精(ウンディーネ)』  識名 章喜(訳)
 光文社 古典新訳文庫 2016年(電子版)


18世紀ドイツロマン派、騎士の血を引くという著者に手になる、おとぎ話です。

人間と結ばれて魂を得たいと願った水の精と、
若い騎士との悲恋物語。

これ昔から岩波文庫に『水妖記』の邦題で入ってて。
中学生のころ大好きだったんですよ。
ドイツ文学とかドイツ文化に惹かれるきっかけでした。

湖のほとりでつつましく暮らす老夫婦には、
美しい養女ウンディーネがいました。
あるとき道に迷った騎士フルトブラントが現れ……

自然描写、特に暗く不気味な森や、
刻々と表情を変える水の姿が魅力的です。
騎士が森で遭遇する妖魔たちも、
怖ろしげながら、どこか憎めない愛嬌があります。

古い作品だからツッコミどころは多々あるんだけど!
ウンディーネとフルトブラントのすれ違い、
貴族の娘ベルタルダとの三角関係などは普遍的かも。

いたずら好きな不思議ちゃんキャラのウンディーネが、
とにかく活き活きと魅力的に描かれています
(読み手によっては、ただの痛い子かしら)。

これが結婚して魂を得ると、
まったく別人のように貞淑な妻になり下がって(笑)
しまって……

湖畔で過ごしていたころの天真爛漫な奔放さは、
結末の哀しさと対比させる意図で強調されたのでしょうか。

著者フケーの人となりに詳しく触れた解説も充実しており、
古い友達と思わぬかたちで再会できたようで嬉しいです。
古典新訳文庫だけあって訳が読みやすいし。

こうやって読み返すと、
もともと古典だけに古くなりようがありません。
中学生のわたし良い友達に恵まれてたんだな。

人間の友達はクズばっかでしたけどw
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2023/04/06 22:59
一穂ミチ 『光のとこにいてね』 文藝春秋 2022年(電子版)


去年の秋に出て、気になってた本。
電子書籍の半額ポイント還元に釣られて、やらかしましたw

何度もズルズル泣かされて困ったぞw


(U・ิܫ・ิ)ノ<人前で『光のとこにいてね』を読むときは、用心な?


ボランティアに行くという母親に連れられ、
団地を訪れた小学生の結珠(ゆず)。
彼女は、おない歳の少女、果遠(かのん)に出会います。

ふたりは高校生になって再会し、ほどなく、また別離。
大人になって家族を持ってから、また出会うことに……

わたしが知ってる言葉に無理にあてはめるなら
「ソウルメイト」に近いでしょうか。
言葉で掬いきれない関係性のおはなしです。

ひとつ強く印象に残ったのが、
果遠の隣の部屋で暮らしてる、チサさん。
夜の仕事に就いてる女性です。

彼女が果遠に目をかけて、
いろいろ面倒を見て助けてくれるんですよ。

お酒に煙草に向精神薬が手放せず、
腕の内側はリストカットの痕だらけ。
言葉も態度も乱暴だし危ない男を連れこむし。
どう見ても「まっとうな社会人」とは呼べません。

けど、そんなチサさんが果遠のまわりの、
どんな大人より、まっとうな人物としてふるまう皮肉!

生きてるのがしんどい子たちの隣には、
もれなくチサさんがついててくれたら……

そう、これはフィクションなんだけどさ。
ほとんどの子たちはチサさんに出会えないまま、
心で血の涙を流して大人になるのでは、なかろうか。

自分で自分のチサさんになってあげるほか、ないよね。

果音がチサさんとお別れする場面、
もう涙と鼻水でぐぢゃぐぢゃにされたわw
いまだにチサさんのことを考えるだけで泣けてきます。

いつも心にチサさんを。

紙の初版本にはチサさん主役の、
書き下ろしショートストーリーがおまけでついてたそうで……
読めなかったことが惜しまれるぜ。
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2023/04/06 13:58
 筒井康隆さんの『言語姦覚』を読了しました。
 
 ほぼほとんどが2~3ページの短いエッセイや雑文集です。
 冒頭の「現代の言語感覚」の章はかなりのページを割いて、いろいろと考察、批判されています。トータルでこの章は63ページ。これだけのためでも面白い本かと。
 
 冒頭の章、真っ先に掲載されている(そして書き下ろし)「現代の言語感覚」は、当時、よく使われていた語の、発話者の逃げや甘えなど、その内心を腑分けするような論考です。「あのですね」「どうも」「極端に言えば」などなど……けっこうわたしも使う語があり、ぃゃーこれは気をつけないと。
 
 「幕間礼賛」には「すべからく」が出てくるのですが、かなりの文章的ロングパスで、ちゃんと命令として着地させるの言語感覚はお見事! 「しあわせ座長」の章は、演劇に関してです。
 
 さて、「虚構におけるハナモゲラの自己完結性」のなかで、筒井さんがハナモゲラ語(とにかく意味もない響きや字面で笑わすような)でのエロ小説の試みを数行やっております。ちょっと引用するとこんな感じ。(59ページ)
 
 (前略)
 「みねはれたか。け」
 そも婢の研のらけてか。起てか。妖奮の濡れ子の陰たまままちばけると、淫実にか核かとけめた。ほのめらかんだ妖むらかんだ媚の襞をそろれはけて嬉桃亀の嬌は紅姦の臭いられにまとらないぞ。
 
 
 わたしはここで大笑いしちゃったんですが、この「妖奮」って言葉、小説のなかで使ってみたいですw 
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2023/04/03 15:01
リュドミラ・ウリツカヤ 『緑の天幕』 新潮クレスト・ブックス 2021年(電子版)


去年の夏のこと。
半額ポイント還元に釣られて、
アマゾンで4,000円近い電子本をやらかしました。

紙だと800ページ以上あって、
小ぶりな辞書くらいに分厚いのよ!

新潮クレスト・ブックスはどれも活字が小さく……
わたしの目には優しくありません。
この本、紙で買ってたら間違いなく、
読み通せなかったことでしょう。
良い買い物ができました。

先月の前半に読みはじめて、
きのう、ようやっと読了。
1ヶ月くらい、かかりました。
いやはや長かったわぁー。

赤毛の文学少年ミーハ、
写真好きで冒険心に富むイリヤ、
音楽を愛するサーニャ。

3人の少年たちの成長と、
彼らをとりまく人間模様を軸に、
ソ連時代の日常が綴られます。

なにしろ登場人物が多く
(ニックネームで呼ばれることもあって把握に一苦労)、
時系列も行ったり来たりします。
とっつきの良い作品ではありません。

ですけど、ひとたび腰を据えて向きあって、
没入してしまうと手放せなくなります。

ソ連へ心が飛んで行って、
当時のひとびとと起居を共にしてるみたいでした。

素敵なヤツも胸糞悪いゲス野郎も出てきます。
誰もに実在感があって、
ほんとうに間近で呼吸してるみたいでした。

あとピアニストのマリヤ・ユージナとか、
実在の著名人が登場する場面もいくつか。

著者がソ連の抑圧的で理不尽をきわめた体制に、
深い憤りを抱いていることが伝わってきます。

特殊な時代や社会のお話ではなく。
わたしたちのごく身近にも、
この本に書かれているようなことがらが、
しっかりと息づいているように思えてなりません。

お葬式で語られる「緑の天幕」の話がとても美しかったり。
帝政時代から生きてる、
ひいばあちゃんがお墓の移転で大騒ぎして微笑ましかったり。

ロシア社会の懐の深さをかいま見たのと同時に、
わたしたちと変わらない人間が生きていることを痛感させられました。

「ソ連時代とは何だったのか」。
その問いに対する答えの一端が、ここにあります。
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2023/03/31 17:40
室生犀星 『抒情小曲集より』 げみ(絵) 立東舎 乙女の本棚 2021年


十代のころ。
もう中学だったのか高校だったのか、
忘れてしまいました。

本好きの伯母が詩集をくれたんです。
いずれも白鳳社の「青春の詩集」叢書から出たもので、
立原道造と高村光太郎、それに室生犀星でした。

すべて屋根裏のどこかに残っているはずです。
ひととおり読んでみて、どれも素敵だったけど、
当時のわたしの気分とはいささか距離を感じました。

そのころ気に入ってたのが大手卓次とか、
初期の萩原朔太郎だったんですよ。

伯母のくれた詩集は、
どれも微温的で行儀のよいものに映ってしまって。

最近になって「乙女の本棚」
シリーズに『抒情小曲集』の名前を発見。
図書館で借りて読んでみました。

若いころは少々とっつき難かった、
抑制された含羞が好ましいんです。
歳とるのも悪いばっかりじゃありませんね。

気に入ったからアマゾンで買いました。
そしたら、この本だけバカ安いのよ!
定価1,980円が590円(送料込み)……

ほとんどの絵が静かな風景画か、
若い犀星の姿を描いたものなんです。
女の子成分が希薄だから売れてないんだろうな。

「乙女の本棚」シリーズでは、
自分の世界を奔放に展開させる絵師さんが多いなか。

げみさんの担当してる本はいずれも
「作品を最大限、忠実に視覚化」してて好感が持てます。

ともあれ色感がとても素敵だから、
多くの読者に手に取ってほしいです。

この詩など遅い北国の春がどんなものか、
しみじみ心に描いてくれます。


 ふるさと

 雪あたたかくとけにけり
 しとしとしとと融けゆけり
 ひとりつつしみふかく
 やはらかく
 木の芽に息をふきかけり
 もえよ
 木の芽のうすみどり
 もえよ
 木の芽のうすみどり
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2023/03/29 15:22
 Twitterのほうでフライング感想を書きましたが、『GS la gaya sciencia たのしい知識』という現代思想誌の特集号『GS 51/2 ジュネ・スペシャル』を読み終えました。
 
 これ、かなり前からほしかったのですが、古書相場はだいたい2000円ぐらい。駿河屋は珍しく550円と価値をわかってなさげ。
 なので、商品新着のため、注文確定はおろか、商品のピッキングが終わり、代金の振り込みまでかなり緊張しておりました。
 
 文字通り、全部ジャン・ジュネに関する文章で埋め尽くされたジュネ好きにはたまらない逸品です。
 本人へのインタビューも、なんか(あたりまえだけど)ジュネジュネしているし、論考などもかなり気合の入ったものが多いです。難しいけどなんとか読める……みたいな。
 
 ジャン・ジュネはその活動期がわりとはっきり三つに分かれてます。
 最初は、獄中で(……!)書いていたものも含む、詩や小説。有名どころだと『薔薇の奇蹟』、『花のノートルダム』とか(光文社古典新訳文庫に入っているものをチョイスしました)。
 
 そして、サルトルによるジュネ読解『聖ジュネ』が出たために、ジュネ本人が裸にされたようだと思うようになり、しばらく創作活動はとまります。
 
 そして当時のフランスの法律で、どんな小さい罪でも、3回捕まると終身禁固になる法律で、ジュネは拘束されてしまうのですが、サルトルやコクトーらの抗議で、なんとか娑婆に出られることに。
 その後は、岩波文庫にも『女中たち バルコン』のような戯曲の世界へ。ちなみにこの二つの戯曲、とくに「バルコン」ですが、今のコスプレ風俗店を先どったようなのがさすがジュネ。
 
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2023/03/29 15:22
 そして最後はパレスチナ解放運動やブラック・パンサーなど、「政治」への参加、その時代がジュネ逝去まで続きます。
 この時代には、『シャティーラの四時間』、『恋する虜 パレスチナへの旅』などがあるんですが、代表的な『恋する~』は大部の著作で、しかもあまり刷られていないせいか、古書価が5000円程度なら安いほうじゃないかしら。
 
あとは本書の最後のほうで、素敵なプレゼントのように、石井辰彦(無学で知りませんでした)による『男の舌』というジュネ礼賛の短歌が載っております。これがまた傑作です。
 何首か引用いたします。
 
 
 猫の舌もて舐りたし蜜色に濡れて祭りの子の丸裸
 
 男娼の幼さ 幼き唇に銜《くは》へタバコの火の照りかげり
 
 死は一度切りの悦楽 されば戀ふる男の舌のあけぼのの色
 
 
 ジュネのみならず、好きな著作の世界を短歌にするのもいいかもしれませんね。
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2023/03/16 21:53
デイジー・ジョンソン 「断食」  岸本佐知子(訳) 
 『Monkey』第25号 特集「沼地の一ダース」掲載
 スイッチ・パブリッシング  2021年


先日に図書館で借りた『アホウドリの迷信』が、
非常におもしろかったので。

標題作を書いたデイジー・ジョンソンによる、
別の短編が載ってる雑誌のバックナンバーを買いました。

「湿地の一ダース」なる奇特な特集が組まれています。
じめじめした水辺にまつわる短編小説いっぱい!
なんて素敵なんでしょう(U´ェ`)プーッピッピッピ

わたしは自分から沼地になんて決して行きたくありません。
けど、お話の舞台となると別です。
臭ぁい泥に埋もれて、得体の知れない生き物たちが暮らす場所。
想像しただけで、うっとりします(U´ェ`)プピピ

さてデイジー・ジョンソンさんの「断食」。
十代の女の子が、なぜか、
うなぎに変身してしまうお話です。
妹の目線で綴られます。

短くて読みやすいうえに、
なんともストレンジで心惹かれる短編でした。

「食事をやめる」と宣言したケイティ。
彼女の行動や姿はしだいに人間から離れていきます。

訳者の岸本佐知子さんは
「行間が水で満たされてる怖い話」
みたいなことを書いてましたね。

ケイティの変貌を、妹は静かに見守ります。
わたしは岡本綺堂の怪談に、
うなぎの祟りを書いたものがあったのを、
想起させられました。

綺堂作品では、うなぎに憑かれることが
「あさましい」ものと書かれてましたけど。
「断食」ではケイティの変身を、
かならずしも否定的には描いていません。

「ああ、お姉ちゃんが遠くへ行ってしまった」。
そういう感じ。

考えてみると、
わたしたちの誰もが、
そういう体験をして生きてるのでは、なかろうか。

よくよく見知っていると思っていた相手が、
まったく未知の面を見せるようになり、
手の届かない世界の住人になってしまう。

わたしにも幾度か身に憶えがあります。
人間の「わかりあえなさ」を、
巧みに掬いあげた一編ともいえそうです。
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2023/03/11 19:59
デイジー・ジョンソンほか 『アホウドリの迷信』  岸本佐知子, 柴田元幸(訳)
 スイッチ・パブリッシング  2022年
 

図書館で借りてきた本を、
返却日のきょう、ようやく読了できました。

岸本佐知子、柴田元幸の翻訳家ふたりが、
本邦未紹介の英語圏短編を持ち寄ったアンソロジーです。

岸本さん柴田さんは訳文の美しさもさることながら、
作品選定の眼力がほんとうに鋭く。
わたしなど、どれだけお世話になってきてるか。

今回のは特にええで。
「競訳」って謳ってあるだけに、
選りすぐりの狂った短編が顔を揃えてます。
あ、もちろん褒め言葉よ?

狂った短編小説とは、いかなるものか。
わたし好みのSFとも重なるんだけど!

現実の薄皮をひん剥いて、
裏側でむにゅむにゅ蠢いているナニモノかを。
みゅるっ!と引きずり出して見せてくれる短編小説。

その狂いっぷりは躁鬱的な激しさ
(美術に例えると大竹伸朗さんの絵みたいな)ではなく。
寛解してきた感じの緩さ穏やかさがあって、
だけど確実に常識を蹴とばしてる、あの感じ。

わたしが特に頬を緩ませてもらったのは、
サブリナ・オラ・マークの掌編みっつ。
「野良のミルク」「名簿」
「あなたが私の母親ですか?」。

デイジー・ジョンソンの「アホウドリの迷信」、
カミラ・グルドーヴァの「アガタの機械」、
ローラ・ヴァン・デン・バーグの「最後の夜」、
リディア・ユクナヴィッチの「引力」も強く響くものでした。

あと収録作品とか翻訳をめぐる、
訳者ふたりの対談も興味深いものだったし。
そうか、やっぱ細部の書きこみは大切なのか!

たいへん親切なことに岸本さんが、
あとがきで読書案内してくれてるのね。
「この作品が気に入ったら、
つぎは、この本をどうぞ」って。

海外文学と非常識な短編小説が好きなら、
まず手に取って損はしない素敵でキテレツなご本です。
わたしが強くお薦めします(U`ェ´) ケッピャッハーッ!!
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2023/03/03 21:09
リチャード・ブローティガン 『ビッグ・サーの南軍将軍』  藤本 和子 (訳)  
 河出文庫 2005年(電子版)


わたしにとっては、
3冊目のブローティガンです。

こちらも筋らしい筋がなく、
はみだしものたちの日常が綴られる点が
『西瓜糖の日々』と似ています。

反面『西瓜糖』にあった幻想味とか、
抑制されつつ語られた暴力の影は後退しています。

語り手ジェシーと相棒のリー・メロン。
ろくでなし2匹がカリフォルニアの辺境、
ビッグ・サーに小屋を建てて気楽なその日暮らしを送ります。

ふたりの女に2匹の鰐、
精神病院から脱走(笑)してきた社長に無数の蛙たち。
どこからともなく、とぼけた仲間(?)
が合流してくるんです。

ブローティガンは60年代後半に、
ヒッピーたちから絶大な支持を集めたといいます。
この本なんか特に好まれたかもしれません。

カウンターカルチャーが影響力を持っていたのは、
古い価値観や文化の力が強かったからですよね。
ジェシーやリー・メロンみたいに生きられるユートピアを、
当時の若者たちは夢見ていたのでしょうか。

のんびりしたトーンの小説ですけど、
楽天性一辺倒ではないように感じられます。

ガソリン泥棒の少年たちを脅して、
リー・メロンが金を巻きあげたり、
残酷さや暴力の影はところどころに見受けられるんですね。

「いまは毎日を気ままに過ごしてるけど、
いつまでもは続かないだろうな」的な諦観が、
根底に横たわっているように、わたしには読めました。
***このコメントは削除されています***
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2023/03/03 21:08
リチャード・ブローティガン 『ビッグ・サーの南軍将軍』  藤本 和子 (訳)  
 河出文庫 2005年(電子版)



わたしにとっては、
3冊目のブローティガンです。

こちらも筋らしい筋がなく、
はみだしものたちの日常が綴られる点が
『西瓜糖の日々』と似ています。

反面『西瓜糖』にあった幻想味とか、
抑制されつつ語られた暴力の影は後退しています。

語り手ジェシーと相棒のリー・メロン。
ろくでなし2匹がカリフォルニアの辺境、
ビッグ・サーに小屋を建てて気楽なその日暮らしを送ります。

ふたりの女に2匹の鰐、
精神病院から脱走(笑)してきた社長に無数の蛙たち。
どこからともなく、とぼけた仲間(?)
が合流してくるんです。

ブローティガンは60年代後半に、
ヒッピーたちから絶大な支持を集めたといいます。
この本なんか特に好まれたかもしれません。

カウンターカルチャーが影響力を持っていたのは、
古い価値観や文化の力が強かったからですよね。
ジェシーやリー・メロンみたいに生きられるユートピアを、
当時の若者たちは夢見ていたのでしょうか。

のんびりしたトーンの小説ですけど、
楽天性一辺倒ではないように感じられます。

ガソリン泥棒の少年たちを脅して、
リー・メロンが金を巻きあげたり、
残酷さや暴力の影はところどころに見受けられるんですね。

「いまは毎日を気ままに過ごしてるけど、
いつまでもは続かないだろうな」的な諦観が、
根底に横たわっているように、わたしには読めました。
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2023/03/03 21:07
リチャード・ブローティガン 『ビッグ・サーの南軍将軍』  藤本 和子 (訳)  河出文庫
 2005年(電子版)



わたしにとっては、
3冊目のブローティガンです。

こちらも筋らしい筋がなく、
はみだしものたちの日常が綴られる点が
『西瓜糖の日々』と似ています。

反面『西瓜糖』にあった幻想味とか、
抑制されつつ語られた暴力の影は後退しています。

語り手ジェシーと相棒のリー・メロン。
ろくでなし2匹がカリフォルニアの辺境、
ビッグ・サーに小屋を建てて気楽なその日暮らしを送ります。

ふたりの女に2匹の鰐、
精神病院から脱走(笑)してきた社長に無数の蛙たち。
どこからともなく、とぼけた仲間(?)
が合流してくるんです。

ブローティガンは60年代後半に、
ヒッピーたちから絶大な支持を集めたといいます。
この本なんか特に好まれたかもしれません。

カウンターカルチャーが影響力を持っていたのは、
古い価値観や文化の力が強かったからですよね。
ジェシーやリー・メロンみたいに生きられるユートピアを、
当時の若者たちは夢見ていたのでしょうか。

のんびりしたトーンの小説ですけど、
楽天性一辺倒ではないように感じられます。

ガソリン泥棒の少年たちを脅して、
リー・メロンが金を巻きあげたり、
残酷さや暴力の影はところどころに見受けられるんですね。

「いまは毎日を気ままに過ごしてるけど、
いつまでもは続かないだろうな」的な諦観が、
根底に横たわっているように、わたしには読めました。
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2023/03/01 18:12
 トーマス・マンの『魔の山』(岩波文庫版)の下巻をやっと読み終えました。図書館の貸出期間2週間内に1日100ページ読めば大丈夫……と思ってましたがほぼそんな予想どおりにb
 
 もともとマン自体が「時間についての小説である」ようなことを書いていて、壮大な時間論でもある本小説、下巻になってからは小説内時間が異様に遅くなります。
 
 しかしまあ、ドストの作品や埴谷雄高さんの『|死霊《しれい》』がお好きなら、『魔の山』にもハマります、というぐらいに観念的な長い論戦が続いたりしてわたしとしては楽しかったです。
 民主主義を叫ぶセテムブリーニとテロや独裁、好戦(……!)のナフタ。さらにはボスキャラ的なペーペロコルンの参戦……。
 
 ちなみに本作ではシューベルトの音楽がピックアップされる場面があり、「菩提樹」(D911-5)が死へと肉薄してゆくさまが緻密に、主人公、ハンス・カストルプによって聴き取られます。
 やはり、下巻になっても本作の舞台であるサナトリウムは「死と時間のユートピア」です。
 
 そうなんですよ、シューベルトの音楽へわたしが最初に入っていったのは、フリードリヒ・グルダの弾くシューベルトの、「即興曲集」と「楽興の時」にグルダの自作曲が収録された盤でした。
 とくに「楽興の時」のD780-3が可憐な曲想で、まずそこに注目したのですが、とにかくシューベルトの書いた曲はなにかこう死と親和性が高いというか……。
 
 閑話休題《あだしごとはさておき》、雪嵐に襲われたハンス・カストルプの恐怖──ここは本当に読んでいてはらはらしました。ただ、岩波文庫の表紙の文章のように、「雪山で死に直面した~」はそうなのかなぁ……と思います。
 
 最後の最後で、はじめて読んだ方は腰を抜かすかと思います。
 なにせ作者のマンでさえ、序文でハンス・カストルプを「単純な」と書いているからです。
 
 ただし、教養小説《ビルドゥングス・ロマン》がこのような小説なら、ゲーテの『ヴィルヘルム・マイスター』とかも読みたいですねー。
 
 いやもう正直言って、文章を書いている人間がこういうことを書いてはいけないのですが、圧倒されて言葉が出ない、そんな感じでした。若い子にお勧めです……!
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2023/02/28 22:30
村上 春樹 『更に、古くて素敵なクラシック・レコードたち』 文藝春秋 2022年


図書館で借りた本。
『古くて素敵なクラシック・レコードたち』
が好評だったのか、続編です。

ガイドブックではなく、
あくまで個人的な印象と好き嫌いを述べたエッセイ集だと、
著者は前書きで断っています。

わたしが『古くて素敵』シリーズに好感を持ってるのは
「好き嫌いと良し悪しは違う」
ことに、きわめて自覚的なところですね。

誰それの演奏だから無条件に立派だとか
(その逆だとか)いう、
教条主義的な態度を徹底して排しています。
今回はフルトヴェングラーを褒めたりもしてますよ。

印象に残ったところ。

「筋書よりはむしろ、文章の流れに気を配るタイプ」。

イヴ・ナットが弾いたシューマンの
「クライスレリアーナ」を評した言葉です。

なるほどー。
ドイツ系の演奏家は、
もっと物語性を大事にするんだって。

わたしがフランス人の演奏するドイツ音楽に、
惹かれる理由がわかったような気がします。

物語性皆無だと退屈なんだけど……
詩情とか言葉の響きに、より惹かれるから。
かも知らん。

それにしても村上春樹さん。
ずいぶん幅広い作曲家と作品に触れて、
また勘所を押さえた聴きかたをしてるんですね。
あれだけ忙しいというのに!

わたしなど、
ごくごく限られたレパートリーしか聴いてません。
そもそも、きちんと理解できてるか怪しいわw
素直に感心させられました。
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2023/02/20 20:35
諸富 祥彦 『人生に意味はあるか』 講談社現代新書 2005年(電子版)


著者は勤務先の大学で
「生きる意味の有無」をめぐって、
学生たちにディベートをしてもらうそうです。

学生さんの考えた「人生に意味のあるなし」
が導入として置かれていて、
読者もいっしょに考える構成になっています。

「意味なんてなくても生きるし」
とか書いてるヤツいましたw

続いて宗教家や哲学者、
小説家などの著名人による
「人生の意味のありか」が紹介されています。

さすがに、こちらは非常に多様でした。
読んでいて反発をおぼえるもの、
首肯させられるもの。

いくつかの言葉が、
わたしに立ち止まることを余儀なくさせました。
要約すると、おおよそ、
こんなことを言っています。

論理というのは不備なものだから、
あの世や魂を論理でわかろうとすることは、
諦めていただきたい(玄侑宗久)。

私が死んだら、私は完全に消滅し、
この世界の様子をどこかから覗きこむことは、
決してできない(森岡正博)。

最後に著者は自身の考えを置いています。
若いころ「人生に意味はあるのか」
という問いに憑かれてしまい、
自死寸前まで追いつめられたそうです。

最終的に「人生に意味はある」
と考えるようになったといいます。

著者ほど真剣に思いつめませんでしたけど、
わたしも、いくぶん似た体験をしました。

そのせいでしょうか。
「人生の意味は、むこうからやってくるもの」
という著者の言葉には深く首肯させられます。

出世や金儲けといった現世的な価値観に、
知らず知らず、わたしたちは流されがちです。

ときどき足を止めて「人生の意味」
に思いを馳せる時間もあっていいと思います。

後半かなりスピリチュアル寄りの内容で、
わたしは、やや懐疑的な気分で読みました。

オカルトやスピリチュアルを否定はしません。
ただ、こういう領域のことがらを言葉に載せようとすると、
どこかに無理や飛躍が生じて、
嘘に繋がっていくようにも思えてならないのです。

(U・ิܫ・ิ)ノ<魂の取り扱いは慎重にな!
***このコメントは削除されています***
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2023/02/20 20:22
諸富 祥彦 『人生に意味はあるか』 講談社現代新書 2005年(電子版)


著者は勤務先の大学で
「生きる意味の有無」をめぐって、
学生たちにディベートをしてもらうそうです。

学生さんの考えた「人生に意味のあるなし」
が導入として置かれていて、
読者もいっしょに考える構成になっています。

「意味なんてなくても生きるし」
とか書いてるヤツいましたw

続いて宗教家や哲学者、
小説家などの著名人による
「人生の意味のありか」が紹介されています。

さすがに、こちらは非常に多様でした。
読んでいて反発をおぼえるもの、
首肯させられるもの。

いくつかの言葉が、
わたしに立ち止まることを余儀なくさせました。
要約すると、おおよそ、
こんなことを言っています。

論理というのは不備なものだから、
あの世や魂を論理でわかろうとすることは、
諦めていただきたい(玄侑宗久)。

私が死んだら、私は完全に消滅し、
この世界の様子をどこかから覗きこむことは、
決してできない(森岡正博)。

最後に著者は自身の考えを置いています。
若いころ「人生に意味はあるのか」
という問いに憑かれてしまい、
自死寸前まで追いつめられたそうです。

最終的に「人生に意味はある」
と考えるようになったといいます。

著者ほど真剣に思いつめませんでしたけど、
わたしも、いくぶん似た体験をしました。

そのせいでしょうか。
「人生の意味は、むこうからやってくるもの」
という著者の言葉には深く首肯させられます。

出世や金儲けといった現世的な価値観に、
知らず知らず、わたしたちは流されがちです。

ときどき足を止めて「人生の意味」
に思いを馳せる時間もあっていいと思います。
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2023/02/19 14:28
トーベ・ヤンソン 『クララからの手紙』  冨原 眞弓 (訳)  筑摩書房 1996年


ヤンソン晩年の短編集です。
『メッセージ』は著者自選によるアンソロジーだから、
完全新作としては、これが最後のフィクションみたい。

老いに対する皮肉まじりの諦観があるかと思えば、
独立心旺盛な少女の姿が感傷を排して描かれます。

本邦ではムーミン童話のシリーズが髙い人気を保っています。
けれど、どうやら作家ヤンソンの本質は、
日本人好みのウェットな抒情性とは離れたところにある模様。

標題作「クララからの手紙」は、
著者の分身とおぼしき女性の手になる手紙を並べてあります。
どれもドライで辛辣なこと!
「メッセージ」と通じるところのある作品です。

ヤンソンの小説全般について、
底意地の悪さや屈折は希薄なんですね。
乾いたトーンでずけずけものを言います。
だけど裏はありません。

イギリス人の書いた小説、
たとえばイーヴリン・ウォーなんかに強く感じられる、
腹黒さやブラックユーモアとは真逆の世界です。

ヤンソンはモームを読んでいたみたいで、
どの作品だったか言及していたくだりがありましたけど……

それとディスコミュニケーションね。
ヤンソンの短編ではしばしば、
絶望的なくらいに人物たちがすれ違います。

あさっての方角を向きあってて、
会話は絶望的なくらいに噛みあいません。

それを悲しむべきものとして捉えず、
ありのままに、ぬっと突き出してくる正直さ。
わたしは、そこにトーベ・ヤンソンの誠実さを感じました。

たとえば病的なほど、きまじめな従姉が登場する
「カリン、わが友」。

主人公はカリンの融通のきかなさに、
ついていけないものを感じながらも、
けっして否定することはないんですね。

親子の噛みあわなさを描いた
「絵」や「リヴィエラへの旅」もそうです。

掴みどころのない少女に周囲が翻弄される
「エンメリーナ」でも、
誰かが否定されることはありません。

ドライであけすけな物言いの根底にある優しさ。
ヤンソンのいちばんの美質ではないでしょうか。

素敵な作品が揃ってるのに、
日本ではあまり大人向けの小説が読まれないことが惜しまれます。
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2023/02/18 12:27
トーベ・ヤンソン 『メッセージ』  久山 葉子 (訳)  フィルムアート社
 2021年(電子版)


アマゾンで狂ったポイント
(2,800円に対して2,037円ぶん還元)
がついてんのに釣られて買った本。

日本では「ムーミン」シリーズの著者として知られる、
トーベ・ヤンソンが晩年に編んだ自選短編集です。
ちなみにムーミンはまったく出てこないぞ。

一昨年にトーベさんの伝記映画を観て興味が再燃しました。
今回の本には未発表の作品が7編も収められてます。
これは読むしか!

トーベ・ヤンソンの魅力は、
ときに辛辣な率直さにあります。

もちろん他人ばかりでなく、
容赦のない観察眼と洞察は自らにも向けられるのです。

たとえば「リス」。
孤島でひとり暮らしをしている主人公が、
漂着したとおぼしき栗鼠の観察に没頭する話です。

動物に自分を重ねたり、
内心で話しかけたりし始めます。

ここで情緒に溺れないのがヤンソン。
つねに自分を突き放して笑ってるようなところがあります。
「私バカぁ?」みたいなね。

わたしを含めた日本人一般なら、
もっと動物に対して片想いを募らせるっていうか(笑)。
勝手な情緒にズブズブ溺れて、うっとりしてそうですね。

これは人間に対しても、あてはまります。
ヤンソンが終生のパートナーとしていた、
トゥーリッキ・ピエティラをモデルにしたとおぼしき作品
「コニカとの旅」などに顕著です。

おたがい相手を思いやろうとしてるんだけど、
見事なまでに噛みあっていきません。
日本人なら超速攻で関係が壊れそうです。
それで仲良くやれてる距離感がおもしろい。

掉尾に置かれた「メッセージ」は、
著者の電話に残された伝言を並べた作品です。
トゥーティ(トゥーリッキ)や親族からのもの。
出版社などからの事務的なもの。

あいまに何者かが寄越した、
ガチで狂った伝言が入っててだな(笑)。
ヤンソンが「有名人であること」を、どう思っていたかが窺えました。

どれほど才能に恵まれていても、
名声やお金に不自由していなくても。
それらが本質的なところで、
幸福をもたらしてくれるわけではないようです。

しょせん人間は、ただの人間ね。
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2023/02/17 13:43
 トーマス・マンの『魔の山』上巻を読み終えました。岩波文庫版、訳は関泰祐と望月市恵の共訳です。
 
 正直、まだ下巻を40ページほどしか読んでいないのでなんともいえないのですが、やっぱり全編に漂う時間へのこだわりと(実際に書かれた言葉と、マン本人が考えていたであろうことと)、そして死との蜜月関係。
 
 実際に、モーリス・ブランショがリルケ『マルテの手記』の「二重の死」に注目したように、主人公ハンス・カストルプが視る「死」は死体になく、それはあくまでも過去に誰かの入っていた容器のよう、そして意識や続いている思考や感情はどこかに移っており……というのが印象的です。
 
 しかし国際的なスイスのサナトリウム〈ベルクホーフ〉、ここがもう、すべてから隔絶されたような死のユートピアのようなんです。けしてディストピアではないんです。
 
 ハンスが思慕するクラウディア・ショーシャとの会話(仏語でたどたどしくなされる……訳文ではカタカナで表記されてます)はなんだかきゅんとしますし。
 
 あと、訳が古いせいか、キャラの科白で、「とんでもはっぷんよ」というフレーズがあり、笑ってしまいました。シュテール夫人が508ページで言う科白ですw さすがにこれはないだろうw
 
 ちょっと、今考えている小説のなかで神学を出したくて、図書館からソレ系の本を借りてきたいのですが、早く下巻も読了しなくては……。
 
 調べて借りればよかったのですが、新潮文庫版の『魔の山』、訳が高橋義孝先生ではないですか……! あー、そっちで読めばよかった……!!



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