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読書生活報告トピ 17冊め

投稿者:ヘルミーナ

読んだ本や著者、かんたんな感想や評価を書き込むトピです。
基本的には各自ブログで書き込むのですが、
ブログでは恥ずかしい方は感想もこちらへどうぞ。

本に関係する雑談などもこちらで好いかと思います。
思いっきり話題がそれまくりでなければふつうの雑談も好いかと。

(前トピが埋まったら使ってくださいね)

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2023/02/15 23:09
 Twitterでのゆるーいフォロワーさんのツイートで知り、玲文堂さんの目録を見て買った岡潔さんの『春の雲』(講談社現代新書 107番)を読了しました。
 
 著者はもともと凄い数学者です。ニコラ・ブルバキという数学のサークルがフランスにあるのですが、岡潔さんはたった一人でさまざまな数学的難問を解き、やはりブルバキのように複数の筆名ではないかと思われたりしたそう。
 
 そんな方の本だから難しいだろう……数学だし……と思うでしょう。
 でもこの著作は、岡潔さんが日本を憂いて刊行した何冊もの一冊なのです。
 
 ただ、序文には、アメリカの押し付け憲法などについて、「国字問題」の内幕を知って赫怒《かくど》した~と書かれているのですが、本文中に、「正漢字」や「正仮名使ひ」について書かれてはおりません。
 あと、岡潔さん、一時はかなり仏教に惹かれたそうですが、本書でいう「日本人の情緒」は仏教だけではないのではないか、まあ、それはわたしが神道派なのですが……。それに仏教を選ぶなら支那かインドです。
 
 とはいえ、仏教の哲学、仏陀の言葉、仏教建築や仏教美術にもすぐれたものがあるのは認めます。
 
 なんとなくですが、異端の指揮者宇宿《うすき》允人《まさと》さんの、定期的に生のベートーヴェン交響曲を聴いて情緒を正す、そういう教育観みたいなものを連想しました。
 
 さて、講談社現代新書の刊行ナンバー数を↑で書きましたが、1番めが『経済学は難しくない』都留重人、2番めが、なんと|折口《おりくち》信夫《しのぶ》先生の弟子、池田弥三郎先生の『光源氏の一生』だったりします。これ(『光源氏の一生』)も読みたいと思っている一冊──。
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2023/02/11 15:44
リチャード・ブローティガン 『チャイナタウンからの葉書』 池澤 夏樹(訳)
 ちくま文庫 2011年


図書館で借りて読みました。
サンリオから1977年に刊行され、
1990年に再刊された単行本に英文の原詩を追加したものです。

欧米の詩っていうと長くて理屈っぽいイメージがあるけど、
ブローティガンの詩は短くて平易です。
「俳句救急車」っていう標題の作品があるから、
日本の短詩を意識した部分もあるのかな。

日常的な題材を扱いながら、
人生の哀歓みたいなものを切り取る手腕はさすがですね。

あとブローティガンの世界の根底には感傷性があるけど、
飄々と乾いたユーモアの作用で湿っぽくなりません。
このへんは日本の詩人が大いに学ぶべきところでしょう。

訳者の後書きによると、
親しかった俳人の森慎一がブローティガンに傾倒していたとか。
彼は「寡婦の嘆き」という詩がお気に入りだったそうです。

わたしにも、この詩が響きました。


  寡婦の嘆き

 お隣に
 薪を借りにゆくほど
 寒いわけではないけれど。


あとさぁ。
「シドニー・グリーンストリート・ブルース」
っていう詩があるのね。

村上春樹の「シドニーのグリーンストリート」は、
ここから拝借してきてたわけだ。
思わぬ発見でした(笑)。
***このコメントは削除されています***
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2023/02/11 13:57
リチャード・ブローティガン 『チャイナタウンからの葉書』 池澤 夏樹(訳)
 ちくま文庫 2011年


図書館で借りて読みました。
サンリオから1977年に刊行され、
1990年に再刊された単行本に英文の原詩を追加したものです。

欧米の詩っていうと長くて理屈っぽいイメージがあるけど、
ブローティガンの詩は短くて平易です。
「俳句救急車」っていう標題の作品があるから、
日本の短詩を意識した部分もあるのかな。

日常的な題材を扱いながら、
人生の哀歓みたいなものを切り取る手腕はさすがですね。

あとブローティガンの世界の根底には感傷性があるけど、
飄々と乾いたユーモアの作用で湿っぽくなりません。
このへんは日本の詩人が、
覆いに学ぶべきところでしょう。

訳者の後書きによると、
親しかった俳人の森慎一がブローティガンに傾倒していたとか。
彼は「寡婦の嘆き」という詩がお気に入りだったそうです。

わたしにも、この詩が響きました。


  寡婦の嘆き

 お隣に
 薪を借りにゆくほど
 寒いわけではないけれど。


あとさぁ。
「シドニー・グリーンストリート・ブルース」
っていう詩があるのね。

村上春樹の「シドニーのグリーンストリート」は、
ここから拝借してきてたわけだ。
思わぬ発見でした(笑)。
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2023/02/07 14:02
小塩 節(おしお・たかし) 『ドイツを探る―ロマンとアウトバーンの国』 
 光文社文庫 1993年(電子版)


先月の終わりに電子本のセールで、
まとめ買いしたうちの1冊。

ドイツやドイツ語圏の食事や風土、
生活習慣から文化にいたるまで、
日本と比較しながら紹介したエッセイ集です。

著者は戦後日本のドイツ文学者を代表するばかりでなく、
1985年から3年間は当時の西ドイツ公使も務めています。

平易な語り口で読み手を選びません。
それでも通俗に堕すところがないのは、
浩瀚な教養に裏打ちされた深い洞察あってのことでしょう。

気骨あるとか一本筋が通ったとかの形容を用いると、
わたしが死ぬほど嫌いな「昭和の頑固親爺」みたいですね(笑)。

でも小塩先生に限っては、
厳めしく見下したり撥ねつけたりするところが皆無でした。

わたしは先生が担当されたドイツ語のラジオ講座を聴いただけで、
じかにお会いしたことは一切ありませんけど!

朗々とした声の端々から優しさが伝わってきて、
これこそ紳士というものだな……
そう敬服させられたことが印象に残っています。

他人の不幸を喜ぶ¨Shadenfreude
(毀傷のよろこび)¨という言葉に対して
「いけませんね」と眉をひそめておられました。

ゲーテやリルケ、ヘッセ、カロッサなどの詩を朗読されたり、
ヴァイツゼッカー元大統領の演説を聴かせてくれたり。

ヴァイツゼッカーさんとは個人的な親交があったらしく、
非公式の晩餐会に招待された折のことも読めました。
こういう話がさりげなく挟みこまれていても、
まったく鼻につくところがないのが先生の育ちの良さでしょう。

ドイツ語はさっぱり身につきませんでした。
それでも小塩先生のラジオ講座で触れた、
ドイツ文学の記憶はわたしのなかに、きちんと残っています。

リルケの「秋」の一節、
¨Und doch ist einer¨を朗読された声が忘れられません。
いまにして思うと、
クリスチャンの先生らしいチョイスだったと思います。

昨年の5月に亡くなっておられたのですね。
ご冥福を心からお祈りします。
小塩先生ありがとうございました。
安らかにおやすみください
***このコメントは削除されています***
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2023/02/07 14:01
小塩 節(おしお・たかし) 『ドイツを探る―ロマンとアウトバーンの国』 光文社文庫
 1993年(電子版)


先月の終わりに電子本のセールで、
まとめ買いしたうちの1冊。

ドイツやドイツ語圏の食事や風土、
生活習慣から文化にいたるまで、
日本と比較しながら紹介したエッセイ集です。

著者は戦後日本のドイツ文学者を代表するばかりでなく、
1985年から3年間は当時の西ドイツ公使も務めています。

平易な語り口で読み手を選びません。
それでも通俗に堕すところがないのは、
浩瀚な教養に裏打ちされた深い洞察あってのことでしょう。

気骨あるとか一本筋が通ったとかの形容を用いると、
わたしが死ぬほど嫌いな「昭和の頑固親爺」みたいですね(笑)。

でも小塩先生に限っては、
厳めしく見下したり撥ねつけたりするところが皆無でした。

わたしは先生が担当されたドイツ語のラジオ講座を聴いただけで、
じかにお会いしたことは一切ありませんけど!

朗々とした声の端々から優しさが伝わってきて、
これこそ紳士というものだな……
そう敬服させられたことが印象に残っています。

他人の不幸を喜ぶ¨Shadenfreude
(毀傷のよろこび)¨という言葉に対して
「いけませんね」と眉をひそめておられました。

ゲーテやリルケ、ヘッセ、カロッサなどの詩を朗読されたり、
ヴァイツゼッカー元大統領の演説を聴かせてくれたり。

ヴァイツゼッカーさんとは個人的な親交があったらしく、
非公式の晩餐会に招待された折のことも読めました。
こういう話がさりげなく挟みこまれていても、
まったく鼻につくところがないのが先生の育ちの良さでしょう。

ドイツ語はさっぱり身につきませんでした。
それでも小塩先生のラジオ講座で触れた、
ドイツ文学の記憶はわたしのなかに、きちんと残っています。

リルケの「秋」の一節、
¨Und doch ist einer¨を朗読された声が忘れられません。
いまにして思うと、
クリスチャンの先生らしいチョイスだったと思います。

昨年の5月に亡くなっておられたのですね。
ご冥福を心からお祈りします。
小塩先生ありがとうございました。
安らかにおやすみください。
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2023/02/07 11:57
 『ついでにジェントルメン』(柚木麻子著 株式会社文藝春秋)を読了しました。
 たまたま以前、エブリスタと文藝春秋社の『オール讀物』が接点あったとき(今もあるのかな?)なんとなく気になって、適当なバックナンバーを図書館から借りたのが偶然「あたり」な号だったのです。
 
 篠田節子先生の『ボルボ』(のち『田舎のポルシェ』に収録)、そして柚木麻子先生の『渚ホテルで会いましょう』が本書に収録、と。
 『渚ホテルで会いましょう』は、男性の渋みみたいなもの、ダンディズムを若い夫婦の旦那さんに教えてやるという、ちょっと精神的に幼さをまだ残している層に毒をもって書いているような作品でした。ええ、傑作です。
 
 なので、本書でまた『渚ホテルで会いましょう』を読みたくて借りたのですが、なんですかこの短編集は! 冒頭の『Come Come Kan!!』のテンションの高さと株式会社文藝春秋のサロンにある菊池寛像と入賞後、飼い殺しに近い主人公の交流の物語。
 
 そして、大怪作の『エルゴと不倫鮨』!
 外資系の営業部長、東條が、口説いてそのあといただいちゃおうと会員制の高級なお寿司屋さんへ女の子を連れていきます。
 けれどそこへ会員でもなんでもないオバサンが入ってきて、冷たい目やお店の人の迷惑ぶりも構わず注文をしまくります。
 ですが、じつはその注文がいちいち食通が唸るようなものなんですね。しかも、東條が連れてきたような境遇の女の子やら、とにかく女性客はすっかりオバサンの言葉にひそむ食の魅力、食の哲学に蒙を啓かれてしまう……。
 
 これは傑作すぎました。
 ただ、『勇者タケルと魔法の国のプリンセス』は正直、この作者にしては今ひとつ。まあ、そういう作品があってもこれはまだしょうがないのかも。
 
 さて、最後の作品には本書冒頭からの流れで古い時代、喫茶店が「カフェー」だった頃の作品なのですが、冒頭から読んできた人にはなかなか驚き、かつ、うれしい作品。
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2023/02/06 22:28
マリー・ルイーゼ・カシュニッツ 『その昔、N市では』 酒寄 進一(訳) 
 東京創元社 2022年


図書館で借りた本。
ようやっと読み終えて返してきました。

マリー・ルイーゼ・カシュニッツは、
1901年に生まれて1974年に没したドイツの小説家。

書店で見習い修行の後ミュンヒェンの出版社に勤務、
ローマの古書店で働いていた経験があるのだとか。

いずれも10ページ程度の、
短い作品ばかりが収められた日本オリジナル短編集です。
編纂は訳者の酒寄進一さん。

シーラッハの『犯罪』などの翻訳で知られる翻訳家です。
ここしばらくアンソロジーの編纂に凝っているのだとか。
酒寄編のアンソロジーは、いずれも優れたものばかりでした。

ちなみに版元の東京創元社は、
昔にトーマス・オーウェンの『黒い玉』など、
優れた海外文学のアンソロジーや叢書を出していたところです。

さてカシュニッツさんの作品、心理劇的な性格が強いですね。
人間の内奥の矛盾や得体の知れない薄気味悪さを、
無駄のない手捌きで俎上に載せてきます。

「白熊」や「精霊トゥンシュ」のように、
日常へ超現実が侵入してくる話。

あるいは「いいですよ、わたしの天使」のように、
人間心理の不可解な怖さを描く話。

「見知らぬ土地」は現実に起こっても不自然ではなさそう。
サン=テグジュペリの名前が出てきて驚かされました。

ひときわ強く印象に残ったのが標題作
「その昔、N市では」で描かれたディストピアです。
ある意味こんにち、わたしたちが暮らす世界の姿を、
先取りしていたようにも読めます。

カシュニッツにはまだまだ優れた短編があるそうです。
続刊が出ることを期待してやみません。

この本の不満は活字の小さいこと!
ド近眼のわたしには難儀な読書でした。
***このコメントは削除されています***
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2023/02/06 22:25
マリー・ルイーゼ・カシュニッツ 『その昔、N市では』 酒寄 進一(訳) 東京創元社
 2022年


図書館で借りた本。
ようやっと読み終えて返してきました。

マリー・ルイーゼ・カシュニッツは、
1901年に生まれて1974年に没したドイツの小説家。

書店で見習い修行の後ミュンヒェンの出版社に勤務、
ローマの古書店で働いていた経験があるのだとか。

いずれも10ページ程度の、
短い作品ばかりが収められた日本オリジナル短編集です。
編纂は訳者の酒寄進一さん。

シーラッハの『犯罪』などの翻訳で知られる翻訳家です。
ここしばらくアンソロジーの編纂に凝っているのだとか。
酒寄編のアンソロジーは、いずれも優れたものばかりでした。

さてカシュニッツさんの作品は、心理劇的な性格が強いですね。
人間の内奥の矛盾や得体の知れない薄気味悪さを、
無駄のない手捌きで俎上に載せてきます。

「白熊」や「精霊トゥンシュ」のように、
日常へ超現実が侵入してくる話。

あるいは「いいですよ、わたしの天使」のように、
人間心理の不可解な怖さを描く話。

「見知らぬ土地」は現実に起こっても不自然ではなさそう。
サン=テグジュペリの名前が出てきて驚かされました。

ひときわ強く印象に残ったのが標題作
「その昔、N市では」で描かれたディストピアです。
ある意味こんにち、わたしたちが暮らす世界の姿を、
先取りしていたようにも読めます。

カシュニッツにはまだまだ優れた短編があるそうです。
続刊が出ることを期待してやみません。
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2023/02/02 22:05
エルビラ・ナバロ 『兎の島』 宮﨑 真紀(訳) 国書刊行会 2022年


わたしのニコ戦友にして党サークルの管理人、
ミーナちゃんが教えてくださいました。

このところスペイン語圏の翻訳に力を入れている、
国書刊行会から去年に出たものです。

1978年生まれの小説家、
エルビラ・ナバロによる短編集。

いずれも日常的な情景から始まり、
思いがけないできごとが起こります。

モダンホラー的な作法と通じるところがあり、
内容的にも不穏さを強く感じさせるものです。

けど、どちらかといえば不条理純文学かな。
良くも悪くもホラーのような、
ジャンルの約束事には縛られません。

読者を怖がらせるより、
常識や日常の脆さ曖昧さへの気づきを提供したい。
著者の意識は、
そういう方向を目指しているように感じられました。

作家の片耳から、なぜか肢が生えてくる「ストリキニーネ」。
川の中州に放された兎たちに起こった変化を描く「兎の島」。
死んだ母からフェイスブックの友達申請が届く「メモリアル」。
このあたりが特に印象に残りました。

「作家には地図を持って書くタイプと、
羅針盤を持って書くタイプがいる」。
著者の言葉だそうです。
ナバロさん自身は細部を詰めずに書き進める、
羅針盤タイプなのだとか。

最後に、この本は装丁がとても美しいんですよ。
できたら紙のを手に取ってご覧いただきたいです。
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2023/01/31 10:58
リチャード・ブローティガン 『西瓜糖の日々』 藤本 和子(訳) 河出文庫 
 2010年 (電子版)


『ブルースだってただの唄』の著者、
藤本和子さんが訳したものです。

『ブルース』が良い本だったから、
こっちも気になっていました。

とても詩的な小説です。
それは内容ばかりのことではなく、
掌編というか断章というかを、
たくさん集めたスタイルも散文詩に近くて。

ぎりぎり小説の側に踏みとどまってる作品かな。
いちおう、ごくごく、緩やかな筋があって。

語り手の「わたし」や恋人のポーリーヌ、
友人や仕事仲間たちが静かに暮らす
「iDEATH(アイデス)」という世界が舞台です。

住人たちは西瓜糖からさまざまな日用品を作り、
鱒を養殖して穏やかな生活を送っています。

かつて、この世界は人語を喋る虎たちに蹂躙され
「わたし」も両親を虎に喰われてしまいました。

「すまない。こんなこと、したくないんだ」って、
泣きながら両親を喰うんだよ、虎が。
それで「わたし」に算数を教えてくれるのw

悪ふざけみたいで同時にとても哀しい世界です。
アイデスが静謐で優しい場所であればあるほど、
暴力の不穏な影が、その色を濃くしていきます。

この本、わたしにとても響きました。
透明で、うつくしくて、かなしい。

藤本和子さんの翻訳は、
本邦の翻訳史上ひとつのエピックとなったそうです。
細かい言い回しに時代を感じますけど、
作品の体温や息づかいは、いささかも損なわれず伝わります。

柴田元幸さんの解説も平易かつ秀逸なものでした。
この本は1960年代前半に書かれて、
数年後ヒッピーたちのバイブルとして広く愛されたそうです。

あと初期の村上春樹はあきらかに、
この小説から影響を受けていると思います。
どのへんがそうなのか『風の歌を聴け』あたりと、
読み比べてみたら、おもしろいかと。
***このコメントは削除されています***
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2023/01/31 10:57
リチャード・ブローティガン 『西瓜糖の日々』 藤本 和子(訳) 河出文庫 2010年
 (電子版)


『ブルースだってただの唄』の著者、
藤本和子さんが訳したものです。

『ブルース』が良い本だったから、
こっちも気になっていました。

とても詩的な小説です。
それは内容ばかりのことではなく、
掌編というか断章というかを、
たくさん集めたスタイルも散文詩に近くて。

ぎりぎり小説の側に踏みとどまってる作品かな。
いちおう、ごくごく、緩やかな筋があって。

語り手の「わたし」や恋人のポーリーヌ、
友人や仕事仲間たちが静かに暮らす
「iDEATH(アイデス)」という世界が舞台です。

住人たちは西瓜糖からさまざまな日用品を作り、
鱒を養殖して穏やかな生活を送っています。

かつて、この世界は人語を喋る虎たちに蹂躙され
「わたし」も両親を虎に喰われてしまいました。

「すまない。こんなこと、したくないんだ」って、
泣きながら両親を喰うんだよ、虎が。
それで「わたし」に算数を教えてくれるのw

悪ふざけみたいで同時にとても哀しい世界です。
アイデスが静謐で優しい場所であればあるほど、
暴力の不穏な影が、その色を濃くしていきます。

この本、わたしにとても響きました。
透明で、うつくしくて、かなしい。

藤本和子さんの翻訳は、
本邦の翻訳史上ひとつのエピックとなったそうです。
細かい言い回しに時代を感じますけど、
作品の体温や息づかいは、いささかも損なわれず伝わります。

柴田元幸さんの解説も平易かつ秀逸なものでした。
この本は1960年代前半に書かれて、
数年後ヒッピーたちのバイブルとして広く愛されたそうです。

あと初期の村上春樹はあきらかに、
この小説から影響を受けていると思います。
どのへんがそうなのか『風の歌を聴け』あたりと、
読み比べてみたら、おもしろいかと。
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2023/01/30 20:47
 Twitterでのゆるーいフォロワーさんのツイートで知り、玲文堂さんの目録を見て買った岡潔さんの『春の雲』(講談社現代新書 107番)を読了しました。
 
 著者はもともと凄い数学者です。ニコラ・ブルバキという数学のサークルがフランスにあるのですが、岡潔さんはたった一人でさまざまな数学的難問を解き、やはりブルバキのように複数の筆名ではないかと思われたりしたそう。
 
 そんな方の本だから難しいだろう……数学だし……と思うでしょう。
 でもこの著作は、岡潔さんが日本を憂いて刊行した何冊もの一冊なのです。
 
 ただ、序文には、アメリカの押し付け憲法などについて、「国字問題」の内幕を知って赫怒《かくど》した~と書かれているのですが、本文中に、「正漢字」や「正仮名使ひ」について書かれてはおりません。
 あと、岡潔さん、一時はかなり仏教に惹かれたそうですが、本書でいう「日本人の情緒」は仏教だけではないのではないか、まあ、それはわたしが神道派なのですが……。それに仏教を選ぶなら支那かインドです。
 
 とはいえ、仏教の哲学、仏陀の言葉、仏教建築や仏教美術にもすぐれたものがあるのは認めます。
 
 なんとなくですが、異端の指揮者宇宿《うすき》允人《まさと》さんの、定期的に生のベートーヴェン交響曲を聴いて情緒を正す、そういう教育観みたいなものを連想しました。
 
 さて、講談社現代新書の刊行ナンバー数を↑で書きましたが、1番めが『経済学は難しくない』都留重人、2番めが、なんと折口《おりくち》信夫《しのぶ》先生の弟子、池田弥三郎先生の『光源氏の一生』だったりします。これ(『光源氏の一生』)も読みたいと思っている一冊──。
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2023/01/25 21:35
 武田泰淳さんの随筆集、『身心快楽《しんじんけらく》』(講談社文芸文庫)を読了しました。
 支那文学について、交流のあった作家やその作品について、支那への旅行記、僧侶としての思索などなど……そして『滅亡について』という厳しいけれど人類愛を感じる有名な文章……。
 
 僧侶での一宗教人としての悩み(お布施をいただくとか、それがいいのかどうか……など)などの難問の数々、そういうのに関わるのがイヤなら、僧侶をやめたほうがいいとまで。
 「難問の苦痛をたえしのぶこそ、僧侶にとっては無上の快楽であり(後略)」
 
 そしてファンにとってはなかなかに仏教的観点から、そして同じ作家仲間から書かれる三島由紀夫烈士の自決について。
 
 武田泰淳さんの代表作の一つ、『富士』はビール、焼酎、泡盛、日本酒、ドブロク、ウィスキー、高粱酒、老酒、ジン、ウォッカ、ブランデイなど、できるだけ組み合わせの悪いお酒を同時に飲んで書いていたとか……。
 
 高名な『滅亡について』ですが、滅亡は避けられえないとしても、滅亡がまた文化を生み出す、と全的滅亡のなかにもぎりぎりの希望を持っているのですね。
 
 それにしても、神保町に今はミロンガ・ヌォーバという喫茶店があるのですが(今は移転中らしいです)、ミロンガがランボオという店名だったころ、武田氏はそこのウェイトレス百合子さんにプロポーズして、その武田百合子さんも名文を書くようになったとか。
 また娘さんの武田花さんもおられるし、なんとなく島尾敏雄さんみたいですね。おなじ戦後派(?)だし。
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2023/01/25 11:34
手塚富雄 『いきいきと生きよ ゲーテに学ぶ』 講談社現代新書 
 1968年 (電子版)


講談社は商売が巧くて、
絶版の良書を電子で再刊してくれます。

あまり売れなさそうだけど、
読み継がれてほしい本。
去年に読んだ『孤独を生きぬく』もそうでした。

おかげで、わたしのキンドルは講談社の現代新書とか、
文芸文庫だらけで……
岩波とか中公にも見習ってほしいところです。
良い本は資産なんだから、もったいないよね。

今回の本は1968年初版。
管理人でニコ戦友のミーナちゃんは紙で持ってるんだって。

著者は1903年生まれ、83年没のドイツ文学者です。
わたしは「世界の名著」の『ツァラトゥストラ』
の翻訳者として名前を知っていました。

数あるゲーテの著作から心に響く言葉を引いて、
著者がエッセイを添えたものです。

ゲーテといえば詩人で小説家で科学者で政治家……
なんだか巨大すぎ偉大すぎて、
卑小なわたしの目には怪物のように映ります。

著者は「古典主義的な人物」と呼んでいました。
なるほどロマン主義的な過剰を嫌うのがゲーテですね。
穏健でほどよい保守性というか、
調和や抑制と、魂の飛翔とのバランスを重んじたようです。

そんなゲーテさんだから、
とても、ついていけない……
と思わされる立派な言葉もいくつか。

同時になるほどと膝を打たされ、
腑に落とされる至言も少なからずありました。

生前の評価ではシラーの後塵を拝していたそうですけど、
ゲーテの言葉は普遍的な生命力を備えています。


> 人はほんとうに劣悪になると、
> 他人のふしあわせを喜ぶこと以外に
> 興味をもたなくなる。


これ、わたしのことだわ(U´ェ`)プーッピッピッピ


> つねにただ今日という日のつづくことが、
> 「永遠」の存在を保証している。


まおちと美味しくコーヒーが飲める時間を、
慈しめることが「永遠」の存在を保証している。
ぷぷっぴどぅ(ᐡ ´ᐧ ﻌ ᐧ ᐡ)きゅーん

右から左へ売れるタイプの本じゃないけど、
旧制高校的な教養の美しい部分が詰まっています。

講談社さん再刊してくれて、ありがとう。
***このコメントは削除されています***
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2023/01/25 11:33
手塚富雄 『いきいきと生きよ ゲーテに学ぶ』 講談社現代新書 1968年
 (電子版)


講談社は商売が巧くて、
絶版の良書を電子で再刊してくれます。

あまり売れなさそうだけど、
読み継がれてほしい本。
去年に読んだ『孤独を生きぬく』もそうでした。

おかげで、わたしのキンドルは講談社の現代新書とか、
文芸文庫だらけで……
岩波とか中公にも見習ってほしいところです。
良い本は資産なんだから、もったいないよね。

今回の本は1968年初版。
管理人でニコ戦友のミーナちゃんは紙で持ってるんだって。

著者は1903年生まれ、83年没のドイツ文学者です。
わたしは「世界の名著」の『ツァラトゥストラ』
の翻訳者として名前を知っていました。

数あるゲーテの著作から心に響く言葉を引いて、
著者がエッセイを添えたものです。

ゲーテといえば詩人で小説家で科学者で政治家……
なんだか巨大すぎ偉大すぎて、
卑小なわたしの目には怪物のように映ります。

著者は「古典主義的な人物」と呼んでいました。
なるほどロマン主義的な過剰を嫌うのがゲーテですね。
穏健でほどよい保守性というか、
調和や抑制と、魂の飛翔とのバランスを重んじたようです。

そんなゲーテさんだから、
とても、ついていけない……
と思わされる立派な言葉もいくつか。

同時になるほどと膝を打たされ、
腑に落とされる至言も少なからずありました。

生前の評価ではシラーの後塵を拝していたそうですけど、
ゲーテの言葉は普遍的な生命力を備えています。


> 人はほんとうに劣悪になると、
> 他人のふしあわせを喜ぶこと以外に
> 興味をもたなくなる。


これ、わたしのことだわ(U´ェ`)プーッピッピッピ


> つねにただ今日という日のつづくことが、
> 「永遠」の存在を保証している。


まおちと美味しくコーヒーが飲める時間を、
慈しめることが「永遠」の存在を保証している。
ぷぷっぴどぅ(ᐡ ´ᐧ ﻌ ᐧ ᐡ)きゅーん

右から左へ売れるタイプの本じゃないけど、
旧制高校的な教養の美しい部分が詰まっています。

講談社さん再刊してくれて、ありがとう。
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2023/01/22 17:56
 やっと……! 何回挑戦してみてもなにかこう「乗り」の悪かった川端康成作品、それも『掌の小説』(新潮文庫刊)をやっと読み終えました。
 
 若い時に掌編をけっこう書いていたそうですが、やはりエロジジイの印象が強いですね……いや褒めているんですが! 大谷崎のエロが絢爛な印象だとすると、川端康成は……ああ、まだこれ一冊しかないので、それだけで語っちゃうのすみません……やはりなんだか「枯れた」エロなんですよ。
 
 ここでそこに焦点を当ててそう書く!? みたいな箇所が頻出しており、川端康成のエロジジイっぷり面目躍如です。正直、やっと川端康成の好さがわかるようになったのか、他の作品も読みたくなりました。
 
 収録作、『|金糸雀《カナリヤ》』、『人間の足音』、『金銭の道』、『処女作の祟り』、『|舞踊靴《ぶようぐつ》』がとくに面白く、わたしに響きました。
 
 なお、『夫人の探偵』についての感想文の叩き台のような文章が薄っぺらいレポート用紙に書かれたのが入ってました。古本ならではの面白さ。
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2023/01/20 15:03
向後 善之 『人間関係のレッスン』 講談社現代新書 2010年(電子版)


著者は会社勤めの経験があるカウンセラー。
問題を抱えやすい対人関係の持ちようを
4つの類型に分類しています。

「いい人を演じてしまう」
「決められない」
「がんばりすぎる」
「隠れる」。

誰でも多かれ少なかれ、
いずれかの傾向は持ちあわせているのでは。

わたしは「がんばりすぎる」以外、
身に憶えがありました。

またハラスメント対策について、
詳しくページを割いて書かれています。

ハラスメントを行う人物を、
ハラサーと呼ぶのだそうです。

わたしはかつてハラサーに遭遇して、
さんざんな思いをさせられました。
この先もどこでハラサーが現れるかわかりません。
それで参考にしようと、この本を買ったのですけど……

読んでいて過去の経験が蘇り、
猛烈に腹が立ちました(笑)。

ハラサーに出会ってしまったら、
とにかく相手のペースに乗せられてはいけません。
「意識して自分の呼吸を落ちつかせて臨む」など、
具体的な対策が挙げられていました。

ハラサーは極端に頑固で共感性に乏しく、
まともに話して通じる連中ではありません。

奴等は過去に傷つけられた体験を持っており、
目の前の相手に憤りをぶつけてくるのだとか。

なんぢゃい。
要するに、やつあたりかよー。
クソくっだらねー!

小学校時代の担任とかバイト先の店長とか、
みんな気の毒な生き物だったみたいです。
同情がもったいねーから、してやんないけど!

ともあれ。
わたしの場合は対人関係の問題の多くが、
生まれつきの障害に由来しています。
極端に要領が悪いとか何事にも時間がかかるとか。

ですから本書の処方箋を応用しても、
改善することは無理ですね。

最後に載せられていた著者のアメリカでの体験や、
女子高校生ふたりの話が非常に響きました。
共感の大切さを忘れず、
上手に小出しにしていくことが肝要みたいです。
***このコメントは削除されています***
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2023/01/20 15:02
向後 善之 『人間関係のレッスン』 講談社現代新書 2010年(電子版)


著者は会社勤めの経験があるカウンセラー。
問題を抱えやすい対人関係の持ちようを
4つの類型に分類しています。

「いい人を演じてしまう」
「決められない」
「がんばりすぎる」
「隠れる」。

誰でも多かれ少なかれ、
いずれかの傾向は持ちあわせているのでは。

わたしは「がんばりすぎる」以外、
身に憶えがありました。

またハラスメント対策について、
詳しくページを割いて書かれています。

ハラスメントを行う人物を、
ハラサーと呼ぶのだそうです。

わたしはかつてハラサーに遭遇して、
さんざんな思いをさせられました。
この先もどこでハラサーが現れるかわかりません。
それで参考にしようと、この本を買ったのですけど……

読んでいて過去の経験が蘇り、
猛烈に腹が立ちました(笑)。

ハラサーに出会ってしまったら、
とにかく相手のペースに乗せられてはいけません。
「意識して自分の呼吸を落ちつかせて臨む」など、
具体的な対策が挙げられていました。

ハラサーは極端に頑固で共感性に乏しく、
まともに話して通じる連中ではありません。

奴等は過去に傷つけられた体験を持っており、
目の前の相手に憤りをぶつけてくるのだとか。

なんぢゃい。
要するに、やつあたりかよー。
クソくっだらねー!

小学校時代の担任とかバイト先の店長とか、
みんな気の毒な生き物だったみたいです。
同情がもったいねーから、してやんないけど!

ともあれ。
わたしの場合は対人関係の問題の多くが、
生まれつきの障害に拠っています。

ですから本書の処方箋を応用しても、
改善することは無理ですね。

最後に載せられていた著者のアメリカでの体験や、
女子高校生ふたりの話が非常に響きました。
共感の大切さを忘れず、
上手に小出しにしていくことが肝要みたいです。
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2023/01/18 22:25
蔵前 仁一 『旅人たちのピーコート』 講談社文庫 2001年(電子版)


1998年に出た単行本が文庫に落ちたもので、
エッセイ1編が新しく追加されています。

蔵前さんの本には、
アジアやアフリカの旅を綴ったものが多いです。
今回ちょっとめずらしく、
最初の海外だったアメリカ旅行の話が出てきます。

はじめての旅での不安や失敗が瑞々しく描かれ、
現地に居合わせているような気分で読めました。

後年にニューヨークを再訪したときの体験が、
巻末に置かれていて感興を誘われます。

かつては苦痛でしかなかった不安や失敗が、
懐かしくなり年月に思いを馳せざるを得なかった……
みたいな話。

年齢を重ねるのって、そういうことですよね。
若さのかけがえのなさを思い知らされるというか。

かけがえのなさの渦中にいるときは、
ただただ苦しいだけだったりするんだよな。
歳をとるのも悪いばっかりじゃ、なさそうです。

標題作は真冬の寒いアテネで、
旅行者仲間が譲ってくれたピーコートの話。

つくづく人間とは怖ろしいものですけど、
同時に無償の優しさを示すものでもありますね。
***このコメントは削除されています***
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2023/01/18 20:16
蔵前 仁一 『旅人たちのピーコート』 講談社文庫 2001年(電子版)


1998年に出た単行本が文庫に落ちたもので、
エッセイ1編が新しく追加されています。

蔵前さんの本には、
アジアやアフリカの旅を綴ったものが多いです。
今回ちょっとめずらしく、
最初の海外だったアメリカ旅行の話が出てきます。

はじめての旅での不安や失敗が瑞々しく描かれ、
現地に居合わせているような気分で読めました。

後年にニューヨークを再訪したときの体験が、
巻末に置かれていて感興を誘われます。

かつては苦痛でしかなかった不安や失敗が、
懐かしくなり年月に思いを馳せざるを得なかった……
みたいな話。

年齢を重ねるのって、そういうことですよね。
若さのかけがえのなさを思い知らされるというか。

かけがえのなさの渦中にいるときは、
ただただ苦しいだけだったりするんだよな。
歳をとるのも悪いばっかりじゃ、なさそうです。

標題作は真冬の寒いスペインで、
旅行者仲間が譲ってくれたピーコートの話。

つくづく人間とは怖ろしいものですけど、
同時に無償の優しさを示すものでもありますね。
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2023/01/13 23:07
 小鳥遊《たかなし》書房さんの新刊、山野浩一の『花と機械とゲシタルト』を読み終えました。
 
 今や伝説となっている、ニュー・ウェイヴ系のSF専門誌『NW-SF』からの単行本がかなりの高価古書となっているので、まずは『花と機械とゲシタルト』復刊はうれしいですね!
 
 舞台は(作者としては釧路のイメージだそうです)北方の地に存在している「反精神医学」を実践している精神病院。
 そこでは、機械を組み込まれた「我」という無機物……人形なのですが……が象徴的に君臨しております。
 また、医療従事者は「汝」、一般の患者たちは「彼/彼女」と呼ばれたりあるいは三人称のこの言葉を一人称としても使います。
 
 前半は一風変わった人間ドラマ、後半になると「我」の象徴が単なる象徴でなく、個々の人間の心を侵食していきます。
 けっこう似た感想を持たれた方も多く、R.D.レインや木村敏といった精神医学の重鎮の理論や、エヴァンゲリオンの「人類補完計画」や「Serial Experiments Lain」を彷彿とさせる、そんな感じです。
 とりわけ、わたしは旧劇場版エヴァンゲリオンの予告にあった、「溶け合う心が私を壊す」という一節を思い出しました。
 このフレーズは、ジャック・ラカンの「人間オムレツ」という言葉をも思い出させてくれます……人間は殻のない半熟卵で失われた半身と抱き合えばぐしゃぐしゃになってしまうという……。
 
 超越的象徴の「我」といえば、ユダヤ教哲学のマルティン・ブーバーを思い出しますが(とかいいながら未読ですみません)、ブーバーの名前も作中に登場します。
 
 時折、精神病院から「買い出し」にトラックやハーフトラックで移動するのですが、あるときから、その行き先の街が無人になっているという異変が起こります。異変はどんどん街の状態を廃墟に近く変化させていきます。
 街のほうまで「我」が外的な「外宇宙」と「人の心」のぶつかる領域、「内宇宙」に干渉するようになるのです。
 
 さらに、この作品や作者はくだらない理由で酷い目に遭っていたのだとか。新刊としてリリースされてもほぼ黙殺されたとか……。
 そしてこの小鳥遊書房さんにはぜひ山野浩一さんの連作短編『レヴォルーション』も出して欲しいです。
 
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2023/01/13 21:25
江村 洋 『ハプスブルク家の女たち』 講談社現代新書 1993年(電子版)


去年に読んだ『ハプスブルク家』の続編です。

こちらは標題どおり人物が中心で、
より読みやすく親しみやすく感じられました。
事前に『ハプスブルク家』を読んで、
通史を頭に入れておいたほうが楽しい読書になりそう。

長く続いた王朝だけに、
個性豊かな人物がつぎつぎ登場します。
女帝マリア・テレジアや皇后シシィなんかは、
ドイツ語のラジオで教材に出てきたことがあって、
わたしには馴染みのある名前です。
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2023/01/13 21:21
選良意識の塊みたいなのもいれば、
夫や家族との平穏な生活にしか関心のない女性も。

あたりまえだけど王族も生身の人間ですよね。
本質は、わたしたちと何ら変わるところがありません。
それだけに時代の理不尽さや窮屈さが、
気の毒に感じられました。

貴賤結婚の話もいくつか出てきますけど、
ずいぶん苦労を強いられたみたいです。
わたしゃ王室に生まれなくて幸せだぜ(U`ェ´) ケッピャッハーッ!!

あと著者の世代ゆえか、
差別的な表現が散見されるのが惜しまれます。
凄く良い本なだけにね。

多士済々なハプスブルク家の一族縁者が登場する、
そのなかでも。

わたしがもっとも心惹かれたのは、だ。
女帝マリア・テレジアの四女アマーリエ嬢が、
政略結婚させられた
北イタリアのパルマ公フェルナンドさん。

彼が、いかなる人物かと申せば。


> 栗を焼くことと、
> 教会の鐘を鳴らすことがお気に入りの仕事


(U`ェ´)ピャーッハッハッハッ

(U`ェ´)ピャーッハッハッハッハッハッハッ

(U`ェ´)ピャーッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ


ちょっと足りないひとだったの……かも。

ちなみに拙宅の婆に話したところ
「栗を焼くとパチパチいうのが好きだったのでは」。

ぜひとも会って好きなものについて語りあいたいね。


わたくし「やはり犬の耳を噛むことにかぎる」

パルマ公「いや栗を焼いて教会の鐘を鳴らすのが」

わたくし「犬!耳!犬!耳!」

パルマ公「栗!鐘!栗!鐘!」


(U・ิܫ・ิ)ノ<たいがいにしとけよ?


あとさぁ。
皇帝フランツ・ヨーゼフには3人の甥がいて、
兄弟でまったく性質が違ってたそうなのね。

わたしは末弟のフェルディナント・カールが好きです。
大公としての身分も権限もすべて放棄して、
大学教授の娘と結婚したんだって。

フェルディナント・ブルクと名を変えて、
一市民として満ち足りた人生を送ったそうですよ。
ハプスブルク家は彼の名前を宗家の名簿から抹殺。

なんとも、あっぱれではございませんか。
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2023/01/08 14:34
池上 彰 佐藤 優 『日本左翼史』 全3巻 講談社現代新書 2021~22年刊


アマゾンの電子書籍お薦めで知って、
昨年の暮れに図書館から借りてきた本です。
新書ですけど全3巻で、それなりにボリュームがありました。

「戦後左派の源流」「学生運動と過激派」「理想なき左派の混迷」と、
それぞれ副題がつけられています。
例によって活字が小さめで、わたしの目には骨の折れる読書でした。

池上さん佐藤さんの対談で、
1945年から2022年まで日本の左派の歴史を辿ります。

まず著者ふたりの博覧強記ぶりが圧巻。
わたしなど社民党と共産党の違いが、
かろうじて、わかるくらいですから(笑)。

学生運動の活動家の、
ややこしい文章が引用された箇所など、
耐えられずにすっ飛ばして読みましたw

「戦後左派の源流」では、
戦前の講座派と労農派の思想が、
戦後の共産党と社会党に受け継がれた過程について。

「学生運動と過激派」では、
学生運動が先鋭化して暴力に走り、
社会から孤立して支持を失っていく過程について。

「理想なき左派の混迷」では、
あさま山荘事件以後の左派の退潮と、
現在にいたるまで……

が、それぞれまとめられています。

そもそも左派の主張の源流は、
格差や貧困を正そうというものです。
至極まっとうな考えだと思います。

ただ善や正義は人間を狂わせるようです。
学生運動が内ゲバに走って自滅していった、
無益な対立や争いの歴史を見ると……

ひたすら荒涼とした気分を禁じ得ません。
新左翼の凄惨なリンチの話などは、
読んでいて目を背けたくなるものでした。

佐藤優さんは、ふたたび左翼の時代が来ると主張しています。
分断が行きつくところまで行ってしまうと、
既存のシステムを壊そうとするひとびとが現れるそうです。

いまの日本人には思想に対する免疫が、
まったく備わっていません。
だからこそ過去の左翼の失敗から学んでほしく、
これらの本を世に問うたのだとか。

人間には理屈で割り切れない、
ドロドロしたものが備わっていますよね。
そこをすべて捨象しても社会は構築できる……
そう考えてしまうことが左翼の弱さの根本だといいます
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2023/01/08 14:28
わたしも著者たちの主張に心から賛成です。
いずれも広く読まれる価値のある本だと思います。

ところで『日本左翼史』全3巻を通読して、
いちばん熱く心動かされたエピソードはだな。


 > 反対同盟は人糞を詰めたポリ袋を
 >「糞尿弾」「黄金爆弾」と称して
 > 公団の測量班や機動隊に投げつける
 > 激しい抵抗線を展開。


(U`ェ´)ピャーッハッハッハッ

(U`ェ´)ピャーッハッハッハッハッハッハッ

(U`ェ´)ピャーッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ


なんて良いお話なんでしょう!
ぶつけられたヤツ気の毒なwwww

いや、まぢめな話。
う○こ投げるくらいに留めておくべきだと思うのよ。

個人的に酷いことされたわけでもないのに、
誰かに暴力をふるったり生命まで奪ったりとか。

わたしは、そういうの最低最悪だと思います。

昔の過激派の失敗を反面教師に、
世の中への異議申し立ての方法を考えるべし。

これは池上さん佐藤さんのふたりや、
過去の歴史からわたしたちへの宿題でしょう。
難しすぎて、この場では何も言えませんけど。

フランスの五月革命は政治的には失敗に終わりました。
けれど前近代的だった社会に、
平等や公正さを求める気風をもたらしたそうです。

学生運動が先鋭化しすぎて暴力に走ることがなければ、
日本の現状もいくらか違っていたのでしょうか。

佐藤さんは左派の失敗が、
眼前の利益にだけ執着する
「島耕作型のサラリーマン」や、
社会に最低限以上の関心を向けない
「生活保守主義」を生んだと指摘しています。

バブルのころなんかメディアに言われるまま、
右から左へ消費するのが美徳みたいな雰囲気でしたね。

火炎瓶や内ゲバは勘弁ですけど!
お金がすべての新自由主義的な風潮も、
わたしは、どこか深いところで間違っていると思います。

「やっぱり世の中には大きな物語が必要」という佐藤さんの主張……
日本の社会は、それを健全なかたちで回復できるのでしょうか。

残念ながら心もとないな、というのが、
わたしの偽らざる印象です。
***このコメントは削除されています***
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2023/01/08 14:27
わたしも著者たちの主張に心から賛成です。
いずれも広く読まれる価値のある本だと思います。

ところで『日本左翼史』全3巻を通読して、
いちばん熱く心動かされたエピソードはだな。


 > 反対同盟は人糞を詰めたポリ袋を
 >「糞尿弾」「黄金爆弾」と称して
 > 公団の測量班や機動隊に投げつける
 > 激しい抵抗線を展開。


(U`ェ´)ピャーッハッハッハッ

(U`ェ´)ピャーッハッハッハッハッハッハッ

(U`ェ´)ピャーッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ


なんて良いお話なんでしょう!
ぶつけられたヤツ気の毒なwwww

いや、まぢめな話。
う○こ投げるくらいに留めておくべきだと思うのよ。

個人的に酷いことされたわけでもないのに、
誰かに暴力をふるったり生命まで奪ったりとか。

わたしは、そういうの最低最悪だと思います。

昔の過激派の失敗を反面教師に、
世の中への異議申し立ての方法を考えるべし。

これは池上さん佐藤さんのふたりや、
過去の歴史からわたしたちへの宿題でしょう。
難しすぎて、この場では何も言えませんけど。

フランスの五月革命は政治的には失敗に終わりました。
けれど前近代的だった社会に、
平等や公正さを求める気風をもたらしたそうです。

学生運動が先鋭化しすぎて暴力に走ることがなければ、
日本の現状もいくらか違っていたのでしょうか。

佐藤さんは左派の失敗が、眼前の利益にだけ執着する
「島耕作型のサラリーマン」や、
社会に最低限以上の関心を向けない
「生活保守主義」を生んだと指摘しています。

バブルのころなんかメディアに言われるまま、
右から左へ消費するのが美徳みたいな雰囲気でしたね。

火炎瓶や内ゲバは勘弁ですけど!
お金がすべての新自由主義的な風潮も、
わたしは、どこか深いところで間違っていると思います。

「やっぱり世の中には大きな物語が必要」という佐藤さんの主張……
日本の社会は、それを健全なかたちで回復できるのでしょうか。

残念ながら心もとないな、というのが、
わたしの偽らざる印象です。
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2023/01/06 22:07
ジャンニ・ロダーリ (著) 『羊飼いの指輪 ファンタジーの練習帳』
 関口英子(訳) 光文社古典新訳文庫 2011年刊(電子版)


ロダーリさんの本は以前に
『猫とともに去りぬ』を読んでます。
これは印象に残りませんでした。

けど今回のは、おもしろかったわー!
民話や童話みたいな、
ナンセンスな短編を集めた本です。

それぞれのお話に、
結末がみっつづつ用意されてるのよ。
で「好きなの選んでください」。

巻末に、著者が選んだ好きな結末も載ってます。
もともとテレビかラジオの企画で、
こどもたちとロダーリが共同でお話を考えたそうです。
そこから、この本の着想が出てきたんだとか。

こうやって結末を開いておくと
「ふつうの」短編集とは、
まったく印象が違ってきますね。

あれこれ好きなの選んだり、
自分だったら、こんなのがいいとか考えたり。

創作の秘訣というかヒントみたいなものが、
この短編集には隠れてると思います。

わたしは底意地の悪い結末とか、
なんか哀しいのとか好きですね。
やっぱ。
ハッピーエンドつまんねー(U`ェ´) ケッピャーッ!!!
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2022/12/31 21:52
 稲垣足穂さんの『東京遁走曲』(河出文庫刊)を読了しました。これで、全十二冊、河出文庫の『BIBLIA TARUHOROGICA《ビブリア・タルホロジカ》』を読了です!!
 
 本書の内容は、後半のタルホ自叙伝のような作品と、たしかにそれと美少年の組み合わせはきゅん案件よねというモノがちりばめられた素敵な短編です。
 たとえばゴムくさいボート、海外のヨーヨー(?)ディアボロ、キネオラマ『旅順海戦館』、バブリア製の色鉛筆、軍艦、シャヌート式滑翔機、パテェ社の映画、などなど。
 
 また、自伝ふうの作品も凄くて、当時は(当時だからこそ?)タルホさんのあの作風は出版社のお偉方に認められなかったそう。ばーか。といいたいところですが、現在も似たりよったりで、たぶん『一千一秒物語』が新潮文庫で入手できるかどうか、みたいです。
 
 わたしも、神保町の小宮山《こみやま》書店さんで、現代思潮社から刊行されていた『稲垣足穂大全《スンマ・タルホロギカ》』全6巻が5~6000千円で売られており、当時は神保町から自宅に送る手段がなかったため(調べればあったはずですが、この当時は爆買いするならキャリーカート必須)諦めたことがあります。
 小宮山書店さんといえば、小さな落書き?……レオノール・フィニィの描いた、魔女とそのお弟子さんたちの絵に5万という値段がついており、ちょっとした収入があったのでこれは買えばよかった……と思うことも。
 
 閑話休題《あだしごとはさておき》。
 とにかく本を刊行するまでのタルホさんはカストリは飲むけれど、それで借りたお金とか使っちゃうもので、なんと絶食記録が正七日続いたときもあったとか。
 
 この『大貧帳』((C)内田百閒先生)な時代のタルホ自伝も面白く、まちがいなく日本はおろか世界にもこんな作品群を書く人がいないのですが、それなのにタルホさんにはスネた感じとか、狷介孤高なそぶりはまったくないのです。
 
 『稲垣足穂大全《スンマ・タルホロギカ》』の月報で、澁澤龍彦さんが、「これまで、ふやけた文壇小説しか読んだことのなかった諸君は、ここで必ずや、真正の文学作品のきびしさと香気に搏《う》たれ、目から鱗の落ちる思いをするであろう」と書いております。
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2022/12/31 21:16
河合 隼雄 『おはなし おはなし』 朝日文芸文庫 1997年(電子版)


新聞に連載されたエッセイをまとめたものです。
いずれも「おはなし」にまつわる内容で、
平易ながら考えさせられる本でした。

もっとも大事な存在は、
おはなしの主人公にはなれない。
そう著者は言います。

江崎雪子さんの童話
「こねこムー」のシリーズに絡めた指摘です。

主人公は誰もが感情移入しやすいよう、
癖のない人物に造形したほうがいい。

そうした創作上の作法とも読めますし。
あまりに書き手の思いが強く前に出過ぎると、
創作はバランスを欠いたものになってしまう……
と解釈することもできます。

著者は「おはなし」の危険な側面として、
戦時中の「大和魂」や「神国日本」を挙げています。
イデオロギーも、ひとつの物語ですね。
もちろん左右を問いません。

ひとは物語を欠いては生きていけないようです。
また、そこに無自覚なままだと、
思わぬかたちで物語に足をすくわれもします。

物語には、それだけの力があります。
人生を深く豊かにしてもらえるように、
物語とつきあっていきたいです。
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2022/12/30 15:12
ロバート・F.ヤング(著) 『たんぽぽ娘』 伊藤 典夫(編訳)、
 深町眞理子(訳)、山田 順子(訳) 河出文庫 2015年刊(電子版)


2013年に「奇想コレクション」の一冊として出て、
2015年に河出文庫に落ちたものです。

わたしは奇想コレクション版を持ってるけど、
活字が小さくてアバンダンしました。
このたび電子書籍が1,000円を切る値段になってて、
ようやっと読了できたんですよ。

標題作は昔、邦訳がなかなか手に入らず、幻の一編でした。
どこかの古本屋で掲載アンソロジーを見つけるまで、
かなり苦労して探した記憶があります。

思い入れのある本でしたけど、
金策のためにヤフオクで手放してしまいました。

いま読み返しても「たんぽぽ娘」は傑作です。
リリカルな甘さが嫌いでなければ、
またSFが嫌いでなければ。
おそらく誰にでも響くと思います。

ただ、この本に関するかぎり、ほかの作品は玉石混淆。

おバカな少年たちが手作りのロケットで火星をめざす
「第一次火星ミッション」。
謎の放浪者と貧しい家族の交流を描く「荒寥の地より」。

このふたつは優れた短編でした。
特に前者は単なるおふざけに留まらず、
ひと捻りしてあるところに感心させられます。
後者の孤独と優しさも心に滲みます。

逆に箸にも棒にもかからなかったのが
「11世紀エネルギー補給ステーションのロマンス」。
誰だよ、こんなん選んだヤツ……

あと有色人種はほとんど登場しませんし、
同性愛に対する冷ややかな視線も感じました。
ある意味ビーチ・ボーイズの歌みたいな世界です。

ヤングは極端な思想の持ち主ではなかったにせよ、
どちらかといえば保守的な人物だったように感じられます。
「私は共和党支持だけれど、おなじ党派に繰り返し投票はしない」
と本人も公言していたとか。

残りのお話は可も不可もない感じかな。
ヤングは星新一とか村上春樹みたいに、
自分のスタイルを徹底的に磨きぬく短編作家ではありません。
かといってアリス・マンローみたいな、
誰にも真似のできない必殺技を持ってるわけでもないんです。

歴史に残る大作家とは違うけど、
抒情性と優しさで長く愛され続けてほしい書き手ですね。
***このコメントは削除されています***
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2022/12/30 14:05
ロバート・F.ヤング (著) 『たんぽぽ娘』 伊藤 典夫(編訳)、
 深町眞理子(訳)、山田 順子(訳) 河出文庫 2015年刊(電子版)


2013年に「奇想コレクション」の一冊として出て、
2015年に河出文庫に落ちたものです。

わたしは奇想コレクション版を持ってるけど、
活字が小さくてアバンダンしました。
このたび電子書籍が1,000円を切る値段になってて、
ようやっと読了できたんですよ。

標題作は昔、邦訳がなかなか手に入らず、幻の一編でした。
どこかの古本屋で掲載アンソロジーを見つけるまで、
かなり苦労して探した記憶があります。

思い入れのある本でしたけど、
金策のためにヤフオクで手放してしまいました。

いま読み返しても「たんぽぽ娘」は傑作です。
リリカルな甘さが嫌いでなければ、
またSFが嫌いでなければ。
おそらく誰にでも響くと思います。

ただ、この本に関するかぎり、ほかの作品は玉石混淆。

おバカな少年たちが手作りのロケットで火星をめざす
「第一次火星ミッション」。
謎の放浪者と貧しい家族の交流を描く「荒寥の地より」。

このふたつは優れた短編でした。
特に前者は単なるおふざけに留まらず、
ひと捻りしてあるところに感心させられます。
後者の孤独と優しさも心に滲みます。

逆に箸にも棒にもかからなかったのが
「11世紀エネルギー補給ステーションのロマンス」。
誰だよ、こんなん選んだヤツ……

あと有色人種はほとんど登場しませんし、
同性愛に対する冷ややかな視線も感じました。
ある意味ビーチ・ボーイズの歌みたいな世界です。

ヤングは極端な思想の持ち主ではなかったにせよ、
どちらかといえば保守的な人物だったように感じられます。
「私は共和党支持だけれど、おなじ党派に繰り返し投票はしない」
と本人も公言していたとか。

残りのお話は可も不可もない感じかな。
ヤングは星新一とか村上春樹みたいに、
自分のスタイルを徹底的に磨きぬく短編作家ではありません。
かといってアリス・マンローみたいな、
誰にも真似のできない必殺技を持ってるわけでもないんです。

歴史に残る大作家とは違うけど、
抒情性と優しさで長く愛され続けてほしい書き手ですね。
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2022/12/30 14:04
ロバート・F.ヤング (著) 『たんぽぽ娘』 伊藤 典夫(編訳)、深町眞理子(訳)、
 山田 順子(訳) 河出文庫 2015年刊(電子版)


2013年に「奇想コレクション」の一冊として出て、
2015年に河出文庫に落ちたものです。

わたしは奇想コレクション版を持ってるけど、
活字が小さくてアバンダンしました。
このたび電子書籍が1,000円を切る値段になってて、
ようやっと読了できたんですよ。

標題作は昔、邦訳がなかなか手に入らず、幻の一編でした。
どこかの古本屋で掲載アンソロジーを見つけるまで、
かなり苦労して探した記憶があります。

思い入れのある本でしたけど、
金策のためにヤフオクで手放してしまいました。

いま読み返しても「たんぽぽ娘」は傑作です。
リリカルな甘さが嫌いでなければ、
またSFが嫌いでなければ。
おそらく誰にでも響くと思います。

ただ、この本に関するかぎり、ほかの作品は玉石混淆。

おバカな少年たちが手作りのロケットで火星をめざす
「第一次火星ミッション」。
謎の放浪者と貧しい家族の交流を描く「荒寥の地より」。

このふたつは優れた短編でした。
特に前者は単なるおふざけに留まらず、
ひと捻りしてあるところに感心させられます。
後者の孤独と優しさも心に滲みます。

逆に箸にも棒にもかからなかったのが
「11世紀エネルギー補給ステーションのロマンス」。
誰だよ、こんなん選んだヤツ……

あと有色人種はほとんど登場しませんし、
同性愛に対する冷ややかな視線も感じました。
ある意味ビーチ・ボーイズの歌みたいな世界です。

ヤングは極端な思想の持ち主ではなかったにせよ、
どちらかといえば保守的な人物だったように感じられます。
「私は共和党支持だけれど、おなじ党派に繰り返し投票はしない」
と本人も公言していたとか。

残りのお話は可も不可もない感じかな。
ヤングは星新一とか村上春樹みたいに、
自分のスタイルを徹底的に磨きぬく短編作家ではありません。
かといってアリス・マンローみたいな、
誰にも真似のできない必殺技を持ってるわけでもないんです。

歴史に残る大作家とは違うけど、
抒情性と優しさで長く愛され続けてほしい書き手ですね。
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2022/12/24 17:03
 河出文庫から刊行されていた、稲垣足穂さんの【ビブリア・タルホロジカ】のシリーズ、『南方熊楠児《ちご》談義』を読み終えました。
 
 基本的に全編すべて、南方熊楠さん、宮武外骨さん、それにジイドやバートンの書簡や研究、から、清澄さすら感じられる、美少年論やおもに少年愛についての文章です。
 それにしても足穂さんは身の回りにろくに本を置いてなかったという話ですが、なんでしょう、この嫌味にならない衒学趣味や教養は!
 漢詩の白文は出るわ、羅甸《ラテン》語の成句はでるわ、日本語でも難語が出るわで……!
 
 ちょっと、足穂さんの『A感覚とV感覚』を読んでいるとわかりやすいかもですが、こんな一節があります。
 「A感覚を基礎としないようなものは同性愛でも少年愛でもありえない。でなくて何の艶笑花装であり、勇武倫理であろうか?」
 
 また、足穂さんは「男色」という言葉の適当でないことを書かれてます。独語のKnabenliebe、少年の義は含まれているものの、「男としての男」、女色と対比しての言葉が「男色」であると。
 女色という言葉は女性同士の行為をさしているわけではないので。男色という言葉とは意味が違います。
 
 また、バートン卿がアテナイオスのなかで聞いた娼婦の言葉、「少年たちは女に似ている場合だけ美しい」。
 
 ソタディック・ゾーンなる少年愛の広まった地域を次々と紹介していくのですが、もう壮大な少年愛の活字版世界旅行といった趣です。
 
 Effemination、という男子ながら女子に似た姿態をあらわすのをもって満足する、これを「女性的傾向」と呼びます。
 ソタディック・ゾーン内では、そして現代の日本では、男の娘なる概念も生まれ、なんだかもうとっちらかった文章で恐縮ですが、ここらで筆をおきます。
 
 ちょっと補足。
 ユイスマンス(本の表記ではユイスマン)の『底』(La-bas)が邦訳もある『彼方』であることはわかりましたが、ときおり言及されるピエール・ルイが、『女と人形』の作者(邦訳はなんと生田耕作先生です)、ピエール・ルイスじゃないかどうかはちょっとわかりません。
 
 さて、全12冊の河出【ビブリア・タルホロジカ】もあと一冊を残すのみ。次もタルホさん読もうかしら……。
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2022/12/19 22:40
ピラール・キンタナ(著) 『雌犬』 村岡直子(訳) 国書刊行会 2022年刊


コロンビアの作家ピラール・キンタナの代表作だそうです。

太平洋岸の、ジャングルに接した僻地。
夫とともに別荘の管理人をしている中年女、
ダマリスが主人公です。

こどもに恵まれず夫との仲も冷えている、
ダマリスの日常に1匹の仔犬がやってきます。
彼女は犬をチルリと名づけ溺愛するように……

凶暴なジャングルの自然同様に、
ダマリスの抱える鬱屈した母性の荒々しさが描かれます。

特筆すべきは著者の距離感です。
ダマリスの心情や行動を特に否定も肯定もしません。
淡々と寄り添う感じ。

いつしか、わたしはダマリスになり、
ダマリスがわたしになったような気分で読了していました。

万人から愛されるタイプの本ではありません。
おためごかしのハッピーエンドとは無縁ですから。
フィクションだけど嘘のない本です。
事実とは違うけど、ここに書かれてるのは、
ぜんぶ、ほんとうのこと。

ほんとうの毒と力が、
ひとりでも多くの読者に届いてくれることを切望します。
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2022/12/14 20:20
タリアイ・ヴェーソス(著) 『氷の城』  朝田千惠 (訳)/ アンネ・ランデ・ペータス (訳)
 国書刊行会 2022年刊


1963年に発表された長編小説。
ノルウェーの国民的作家で詩人、
タリアイ・ヴェーソスの代表作だそうです。

平易な文体で活字も大きく、
わたしの目でも紙で読めましたけど……
内容はきわめて深いものでした。

『心は孤独な狩人』も強い印象を残していきましたけど、
僅差でこの本が、ことしのマイベスト。

ふだんネタバレを避けて感想を書いています。
今回は部分的に作品の核心に触れますから、
お含みおきのうえで読んでくださいね。

主人公は11歳のシス。
彼女のクラスに転校生のウンがやってきます。

おたがい相手に強く惹かれながら、
なかなか近づいていけません。
ようやくシスがウンの家を訪れると、
翌日に彼女は行方不明になってしまいました。

ウンと交わした「誓い」を大切にするあまり、
シスは自分の殻に閉じこもるようになります。

これは喪失と成長の物語でも、
死と再生の物語でもあります。

十代はじめから前半くらいの、
きわめて難しい時期の心情を巧く掬いあげており、
まず、そのことに感心させられました。

親友になり得る相手を失くした痛みと、
そこから立ち直る過程。
素直に読むなら、そうなります。
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2022/12/14 20:16
わたしはシスとウンがドッペルゲンガーというか、
ひとりの人間の、
ふたつの面を示しているように感じました。

自らのある部分を喪くしてというか殺して、
そうすることでしか、ひとは大人になれない。

ひとりの少女の社会性というか、
外へ向けた顔みたいなものがシス。
ひたすら内面を見つめているのがウン。
彼女の死は仄めかされるだけで明言はされません。

ウンはシスの内面に統合されて、
ひとりの、より完成された人格をめざした……
と解釈することもできますね。

随所に現れる象徴的な表現が、
ひとつひとつ心に響くものでした。
なるほど詩人の書いた小説だなと、
感心させられたことしきり。

あと、わたしが泣けて泣けて困ったのは、
ウンのおばさんがシスを散歩に誘う場面です。

ウンは両親を亡くして、
親戚のおばさんのもとで暮らしていました。

彼女が姿を消してしばらくして、
おばさんはシスに声をかけてきます。

ウンはもう帰ってこないから、
自分は町を出てよそで暮らすことに決めた。

そう話してから
ウンとの「誓い」に縛られているシスに
「おばさんが解放してあげる」
と言うんです。

このやりとりがあってから、
シスはすこしづつ周囲に心を開きはじめます。

親友になり得る相手を亡くしたシスは気の毒です。
けど見方を変えると、
もっと気の毒なのは、おばさんなんですよ。

ずっとひとりで生きてきて、
身を寄せてきた姪も喪ってしまいました。

ふたりの会話は淡々としたものです。
けど、おばさんは内面で
「この子を救えるのは自分だけだ」
と確信してたように思えました。

ずかずか踏みこむことはせず、
自分の痛みそっちのけでシスを案じる。

わたしは「立派な大人」というのは、
億万長者でも天才芸術家でも、
ましてや決して社畜などではなく、
ウンのおばさんのような人物だと思います。

わたしが歳をとったから、
よけいにおばさんに感情移入するのでしょうか。

もし自分がおばさんの立場だったら、
あんなに相応しくふるまえるだろうか。
とても自信がありません。

おばさん達者で暮らせよな!
わたしの魂は、おばさんを忘れないぜ。
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2022/12/14 09:59
帚木蓬生 『ギャンブル依存国家・日本 パチンコからはじまる精神疾患』 
 光文社新書 2014年(電子版)


定期的に読みたくなる怖いもの見たさ本。
『ギャンブル依存とたたかう』の精神科医、
帚木蓬生さんによるものです。

いやもう、どんな事故物件の話よりホラー!
海と山とギャンブル以上に怖いもんねーわ。

ギャンブル依存の悲惨な症例も出てきますけど。
この本では日本社会に根を張る、
ギャンブルの利権構造を紹介することに力点が置かれています。

諸外国と比較して異常な水準で、
日本ではギャンブルが普及しており簡単に賭けられます。

全国津々浦々の街中にあるパチンコ屋は、
コンビニチェーンのローソンと、ほぼ同数なのだとか。

さらに特徴的なのは監督省庁が分散していることだそうです。

パチンコは公安警察、競馬は農水省、
競艇は国交省、競輪とオートレースは経産省、
スポーツくじは文科省……

それぞれが天下り先を担当のギャンブル業界に確保。
なるほど利権が官民に浸透するわけですね。

個人ばかりでなく自治体や国も、
ギャンブルに手を出すと中毒になるようです。

日本は治安の良い社会として、
国際的に認知されています。
暴力や盗みに関しては間違いではないでしょう。

ただしギャンブルに関しては例外で、
世界一、危険な国かも知れません。
規模でいったらマカオが国内にいくつもあるような水準だとか。

誰も守ってくれません。
自分の身は自分で守るしかないですね。
幸いパチンコや競馬は税務署と違って、
関わらないかぎり、お金を取り立てには来ませんから。
***このコメントは削除されています***
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2022/12/14 09:57
帚木蓬生 『ギャンブル依存国家・日本パチンコからはじまる精神疾患』 光文社新書
 2014年(電子版)


定期的に読みたくなる怖いもの見たさ本。
『ギャンブル依存とたたかう』の精神科医、
帚木蓬生さんによるものです。

いやもう、どんな事故物件の話よりホラー!
海と山とギャンブル以上に怖いもんねーわ。

ギャンブル依存の悲惨な症例も出てきますけど。
この本では日本社会に根を張る、
ギャンブルの利権構造を紹介することに力点が置かれています。

諸外国と比較して異常な水準で、
日本ではギャンブルが普及しており簡単に賭けられます。

全国津々浦々の街中にあるパチンコ屋は、
コンビニチェーンのローソンと、ほぼ同数なのだとか。

さらに特徴的なのは監督省庁が分散していることだそうです。

パチンコは公安警察、競馬は農水省、
競艇は国交省、競輪とオートレースは経産省、
スポーツくじは文科省……

それぞれが天下り先を担当のギャンブル業界に確保。
なるほど利権が官民に浸透するわけですね。

個人ばかりでなく自治体や国も、
ギャンブルに手を出すと中毒になるようです。

日本は治安の良い社会として、
国際的に認知されています。
暴力や盗みに関しては間違いではないでしょう。

ただしギャンブルに関しては例外で、
世界一、危険な国かも知れません。
規模でいったらマカオが国内にいくつもあるような水準だとか。

誰も守ってくれません。
自分の身は自分で守るしかないですね。
幸いパチンコや競馬は税務署と違って、
関わらないかぎり、お金を取り立てには来ませんから。
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2022/12/10 22:32
 ロジャー・ゼラズニイの『燃えつきた橋』(ハヤカワ文庫SF)を読了しました。
 
 まずアルキメデスやルソーなどに転生する主人公。そして謎の黒い男。
 黒い男がそうなのですが、彼(彼ら)は地球を発見し、自分たちの棲めるように地球を亜硫酸ガス、窒素酸化物、メチル水銀、四塩化エチレン、四塩化炭素、一酸化炭素、ポリ塩化ビフェニールで満たすよう、地球に住む人類を、こうした毒物などで地球を汚染させるよう誘導していくのです。
 
 そして、デニス・ギースという子供。彼は両親と同じテレパシー能力者なのですが、普通のテレパスとは違い、人の精神を読むことが地球の裏まで可能になります。
 そして、なんだか現代のリアル世界でいるような、過激派環境保護団体【大地の子ら《チルドレン・オブ・アース》】に属する、ロデリック・リーシュマンの話になっていきます。
 
 そしてデニスは月面基地で研究、保護され、ついに時間をも遡ってダ・ヴィンチと自己をだぶらせます。
 そして、段々と快癒していくデニス。
 ここの章も前章もちょっとアクション場面が多いのですが、それがなんだかB級感あふれているというか……。
 
 最後は……書かないほうがいいのかしらね
 世界観、スケールは大きいけれど、ちょっと書いたとおり、B級感が否めません。や、ゼラズニイはけっこうそのB級感がたまらない作家ですが。そのなかでも『燃えつきた橋』はB級のよさですね。だいたい訳者解説すらついてないかわいそうな作品ですし。
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2022/12/09 22:33
イシドロ・リバス 『孤独を生きぬく キリスト教のメッセージ』 講談社現代新書 
 1985年(電子版)


長く日本で暮らしたスペイン人の司祭、
イシドロ・リバス神父によるエッセイです。

もとは1985年に講談社現代新書から出たもので、
紙は絶版になっています。
2004年に新声社から復刊されましたけど、
そちらも現在では入手困難なようです。

あまり売れなさそうだけど、
読み継がれる価値のある本だから……

たぶん出版社は、
そう思って電子で復刊したのだと思います。

非常に得るところのある、良い本でしたので。

著者は多くの日本人が深い
「自己嫌悪」に陥っていると指摘しています。
わたしは、これに深く首肯せざるを得ません。

苦痛になって交流を切った、
もと友人がリアルにもネットにもいます。
彼らに共通するのが非常に低い自己評価でした。

意地悪くあたってきたもの。
自分を大きく見せようと虚勢を張ったり、
会社に滅私奉公したりするもの。

いずれも自分には価値がないと、
深いところで絶望感や虚無感を抱いていたと思います。

心底から愛想が尽きましたけど、
本質的なところで、わたしが彼らを笑えるとは思えません。

やっぱり自己不全感っていうか
「自分に価値などあるのだろうか」っていう、
虚無的な問いかけが奥のほうにあるんですね。

ときに目を背けるため、
ときに答えをさがすために、
わたしは本や芸術に親しんできたように思えます。

著者は、その自己嫌悪を埋めてくれるものが
「神の愛」だというんですね。
人間は神から愛されるために生まれてきて、
それを伝えに来たのがキリストなのだと。

ときには心の裡で「キリスト君」と、
友として呼びかけてみてはどうですか……
とも提案していました。

「キリスト君」には驚かされましたけど(笑)!
それだけキリストが、
わたしたちの近くにいる存在ということでしょう。

誰もが無理してクリスチャンになる必要はありませんけど、
この本はとても大切なことを示唆してくれています。

より良く生きるためには、
自分に価値があることを深く知る必要があるはずです。
***このコメントは削除されています***
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2022/12/09 22:32
イシドロ・リバス 『孤独を生きぬく キリスト教のメッセージ』 講談社現代新書 1985年
 (電子版)


長く日本で暮らしたスペイン人の司祭、
イシドロ・リバス神父によるエッセイです。

もとは1985年に講談社現代新書から出たもので、
紙は絶版になっています。
2004年に新声社から復刊されましたけど、
そちらも現在では入手困難なようです。

あまり売れなさそうだけど、
読み継がれる価値のある本だから……

たぶん出版社は、
そう思って電子で復刊したのだと思います。

非常に得るところのある、良い本でしたので。

著者は多くの日本人が深い
「自己嫌悪」に陥っていると指摘しています。
わたしは、これに深く首肯せざるを得ません。

苦痛になって交流を切った、
もと友人がリアルにもネットにもいます。
彼らに共通するのが非常に低い自己評価でした。

意地悪くあたってきたもの。
自分を大きく見せようと虚勢を張ったり、
会社に滅私奉公したりするもの。

いずれも自分には価値がないと、
深いところで絶望感や虚無感を抱いていたと思います。

心底から愛想が尽きましたけど、
本質的なところで、わたしが彼らを笑えるとは思えません。

やっぱり自己不全感っていうか
「自分に価値などあるのだろうか」っていう、
虚無的な問いかけが奥のほうにあるんですね。

ときに目を背けるため、
ときに答えをさがすために、
わたしは本や芸術に親しんできたように思えます。

著者は、その自己嫌悪を埋めてくれるものが
「神の愛」だというんですね。
人間は神から愛されるために生まれてきて、
それを伝えに来たのがキリストなのだと。

ときには心の裡で「キリスト君」と、
友として呼びかけてみてはどうですか……
とも提案していました。

「キリスト君」には驚かされましたけど(笑)!
それだけキリストが、
わたしたちの近くにいる存在ということでしょう。

誰もが無理してクリスチャンになる必要はありませんけど、
この本はとても大切なことを示唆してくれています。

より良く生きるためには、
自分に価値があることを深く知る必要があるはずです。
***このコメントは削除されています***
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2022/12/09 22:28
イシドロ・リバス 『孤独を生きぬく キリスト教のメッセージ』 講談社現代新書 1985年
 (電子版)


長く日本で暮らしたスペイン人の司祭、
イシドロ・リバス神父によるエッセイです。

もとは1985年に講談社現代新書から出たもので、
紙は絶版になっています。
2004年に新声社から復刊されましたけど、
そちらも現在では入手困難なようです。

あまり売れなさそうだけど、
読み継がれる価値のある本だから……

たぶん出版社は、
そう思って電子で復刊したのだと思います。

非常に得るところのある、良い本でしたので。

著者は多くの日本人が深い
「自己嫌悪」に陥っていると指摘しています。
わたしは、これに深く首肯せざるを得ません。

苦痛になって交流を切った、
もと友人がリアルにもネットにもいます。
彼らに共通するのが非常に低い自己評価でした。

意地悪くあたってきたもの。
自分を大きく見せようと虚勢を張ったり、
会社に滅私奉公したりするもの。

いずれも自分には価値がないと、
深いところで絶望感や虚無感を抱いていたと思います。

著者は、その自己嫌を埋めてくれるものが
「神の愛」だというんですね。
人間は神から愛されるために生まれてきて、
それを伝えに来たのがキリストなのだと。

ときには心の裡で「キリスト君」と、
友として呼びかけてみてはどうですか……
とも提案していました。

「キリスト君」には驚かされましたけど(笑)!
それだけキリストが、
わたしたちの近くにいる存在ということでしょう。

誰もが無理してクリスチャンになる必要はありませんけど、
この本はとても大切なことを示唆してくれています。

より良く生きるためには、
自分に価値があることを深く知る必要があるはずです。
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2022/12/05 13:11
 やっと、というかなんとか無事に、ウィリアム・フォークナーのヨクナパトーファ郡への通時的テクスト旅行から帰ってきました(翻訳:『ポータブル・フォークナー』を読み終えました)!
 
 850ページ近い厚さ、そして7000円超えの価格、正直買えないので、近所の図書館でも入れてくれません。県立の図書館に購入依頼を出して、そのリクから二ヶ月半、忘れたころに近所の図書館にやってきました。
 
 たぶん全編が「架空の土地、米南部のヨクナパトーファ郡もの」だと思います。
 ヨクナパトーファ郡での出来事を、昔から、ほぼ現代(近代のほうが正しいかしら)まで、フォークナーの世界を楽しめるように配列した本です。
 
 厚さがすごいのですが、そのヨクナパトーファ郡ものを楽しむのに、たしかにこの厚さは必要かと思いました。
 しかしまあ、フォークナーは文体に凝る作家なので、作品によっては文章が句点(「。」ね)なしに、読点(「、」です)や2倍ダーシ(「──」です)、2倍3点リーダー(「……」)だけでえんえんと文章をつなげてしまったり……。
 
 フォークナーは、日本人がわかると言います。
 というのも、米南北戦争で、南部は負けたからです。同様に、日本も|米北部白人《ヤンキー》に負けたから。とはいってもフォークナーは奴隷制をよしとは思っていませんでした。
 
 『ポータブル・フォークナー』収録の作品にも、いまだ奴隷のような黒人からも蔑まされる、ダメな白人が描かれたり……。
 
 岩波文庫から、フォークナーの作品集『熊』が出版されておりますが、これ、かなり手を加え、短めの長編ぐらいに書き直された『熊』ロングヴァージョンも楽しめます。
 
 あとは『野生の棕櫚』の二つのストーリーが交互に進行する、その片方、ミシシッピ川の大氾濫とある囚人の必死の努力を取り上げたパートがすべて収録されていたり。
 
 読んでいて、圧倒され、なおかつ、身体的にも疲れますが、予想していたよりも面白かったです。これが気軽に手に取れる値段か、図書館にあるかなら皆様にお勧めしたい一冊ですが……でも図書館にあればぜひ読んでもらいたいと思います。
 ものを書く人間にはいい読書体験になるかとb
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2022/11/30 23:08
カーソン・マッカラーズ(著) 『心は孤独な狩人』 村上春樹(訳) 新潮社 
 2020年(電子版)


長く絶版だった作品です。
訳者は個人的に深い思い入れがあり、
どうしても翻訳したかったと、あとがきにあります。

若干23歳(!)のデビュー作。
けっこうなボリュームで、紙だと、
そこそこの厚みで二段組なんですよ。

ちょっと骨が折れますけど、
じっくりつきあう価値のある本です。
読み手を選ぶけど、
波長が合えば生涯の友になってくれます。

1930年代後半のアメリカ、
南部の小さな町が舞台です。
筋らしい筋はありません。
田舎の町のひと夏が濃密に描かれます。

唖者の男シンガーの周囲に、
町の住人たちが集まってくるんです。

流れ者のアナーキスト、ジェイク。
差別に憤る黒人の医師コープランド。
妻に先立たれるカフェの主人ビフ。
自意識過剰で音楽家に憧れる少女ミック。

彼らは揃って、おそろしく不器用です。
他者とわかりあうことを切望しているにも関わらず。
いえ、だからこそ?
いつも傷つけあいの堂々巡り。
どこにも辿りつけません。

みんな悪人じゃない、むしろ善良で誠実なんです。
だからこそ「心は孤独」。
いま風に形容すれば、
中二病を酷く拗らせたまま歳だけ喰ってる……
みたいなw

あなたの身近にいませんか?
こういう大人。

理不尽で苛酷な世界に傷めつけられる彼らに、
マッカラーズは優しいまなざしを向けています。
けっして意地悪く、
過度に露悪的に描くことはしないんですよ。

いっぽうで感傷に溺れず、
一定の距離を保つバランス感覚が見事です。

どの人物も存在感がありますけど、
中年の男たちジェイクやビフは、
やや類型的に見えなくもありません。

マッカラーズ自らの分身とおぼしき、
ミックの活き活きとした描写は強く心に残りました。
幼なじみのハリーと森へ行く場面のみずみずしさなど、
彼女の存在がこの小説を救っているところがあります。

はみだしものたちに慕われるシンガーも、
ひとり固有の孤独を抱えて生きています。
そして……

読み終えたら、いつまでも、
あなたの心に彼らが住みついて離れないことでしょう。
***このコメントは削除されています***
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2022/11/30 23:07
カーソン・マッカラーズ(著) 『心は孤独な狩人』 村上春樹(訳) 新潮社 
 2020年(電子版)


長く絶版だった本です。
訳者は個人的に深い思い入れがあり、
どうしても翻訳したかったと、あとがきにあります。

若干23歳(!)のデビュー作。
けっこうなボリュームで、紙だと、
そこそこの厚みで二段組なんですよ。

ちょっと骨が折れますけど、
じっくりつきあう価値のある本です。
読み手を選ぶけど、
波長が合えば生涯の友になってくれます。

1930年代後半のアメリカ、
南部の小さな町が舞台です。
筋らしい筋はありません。
田舎の町のひと夏が濃密に描かれます。

唖者の男シンガーの周囲に、
町の住人たちが集まってくるんです。

流れ者のアナーキスト、ジェイク。
差別に憤る黒人の医師コープランド。
妻に先立たれるカフェの主人ビフ。
自意識過剰で音楽家に憧れる少女ミック。

彼らは揃って、おそろしく不器用です。
他者とわかりあうことを切望しているにも関わらず。
いえ、だからこそ?
いつも傷つけあいの堂々巡り。
どこにも辿りつけません。

みんな悪人じゃない、むしろ善良で誠実なんです。
だからこそ「心は孤独」。
いま風に形容すれば、
中二病を酷く拗らせたまま歳だけ喰ってる……
みたいなw

あなたの身近にいませんか?
こういう大人。

理不尽で苛酷な世界に傷めつけられる彼らに、
マッカラーズは優しいまなざしを向けています。
けっして意地悪く、
過度に露悪的に描くことはしないんですよ。

いっぽうで感傷に溺れず、
一定の距離を保つバランス感覚が見事です。

どの人物も存在感がありますけど、
中年の男たちジェイクやビフは、
やや類型的に見えなくもありません。

マッカラーズ自らの分身とおぼしき、
ミックの活き活きとした描写は強く心に残りました。
幼なじみのハリーと森へ行く場面のみずみずしさなど、
彼女の存在がこの小説を救っているところがあります。

はみだしものたちに慕われるシンガーも、
ひとり固有の孤独を抱えて生きています。
そして……

読み終えたら、いつまでも、
あなたの心に彼らが住みついて離れないことでしょう
***このコメントは削除されています***
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2022/11/30 23:06
カーソン・マッカラーズ(著) 『心は孤独な狩人』 村上春樹(訳) 新潮社 
 2020年(電子版)


長く絶版だった本です。
訳者は個人的に深い思い入れがあり、
どうしても翻訳したかったと、あとがきにあります。

若干23歳(!)のデビュー作。
けっこうなボリュームで、紙だと、
そこそこの厚みで二段組なんですよ。

ちょっと骨が折れますけど、
じっくりつきあう価値のある本です。
読み手を選ぶけど、
波長が合えば生涯の友になってくれます。

1930年代後半のアメリカ、
南部の小さな町が舞台です。
筋らしい筋はありません。
田舎の町のひと夏が濃密に描かれます。

唖者の男シンガーの周囲に、
町の住人4人が集まってくるんです。

流れ者のアナーキスト、ジェイク。
差別に憤る黒人の医師コープランド。
妻に先立たれるカフェの主人ビフ。
自意識過剰で音楽家に憧れる少女ミック。

彼らは揃って、おそろしく不器用です。
他者とわかりあうことを切望しているにも関わらず。
いえ、だからこそ?
いつも傷つけあいの堂々巡り。
どこにも辿りつけません。

みんな悪人じゃない、むしろ善良で誠実なんです。
だからこそ「心は孤独」。
いま風に形容すれば、
中二病を酷く拗らせたまま歳だけ喰ってる……
みたいなw

あなたの身近にいませんか?
こういう大人。

理不尽で苛酷な世界に傷めつけられる彼らに、
マッカラーズは優しいまなざしを向けています。
けっして意地悪く、
過度に露悪的に描くことはしないんですよ。

いっぽうで感傷に溺れず、
一定の距離を保つバランス感覚が見事です。

どの人物も存在感がありますけど、
中年の男たちジェイクやビフは、
やや類型的に見えなくもありません。

マッカラーズ自らの分身とおぼしき、
ミックの活き活きとした描写は強く心に残りました。
幼なじみのハリーと森へ行く場面のみずみずしさなど、
彼女の存在がこの小説を救っているところがあります。

はみだしものたちに慕われるシンガーも、
ひとり固有の孤独を抱えて生きています。
そして……

読み終えたら、いつまでも、
あなたの心に彼らが住みついて離れないことでしょう。
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2022/11/30 22:58
田中 貢太郎 『蟇(がま)の血』 青空文庫(電子版)


近藤ようこさんのコミカライズが非常におもしろかったので、
原作を青空文庫で読んでみました。
関東大震災の直前ごろ書かれたそうです。

田中貢太郎作品っていうと……
わたしは高校生のころだったかな。
河出文庫から出ていた『日本怪談全集』を読みました。
いまでいう実録怪談みたいな本で、
これが、おもしろかったのよ!

昨今ではすっかり、
忘れられた作家の仲間入りしてるのが残念です。

田中貢太郎さんは漢籍の素養に富んでいたそうで、
中国の怪談をたくさん訳してるんですよ。
『蟇の血』も、そのあたりからヒントを得たのでしょうか。

高等文官試験を控えた青年、
三島譲は旅先で若い女に出会います。

恵まれない生い立ちのうえ不幸が重なり、
行き場がなく生命を絶つほかない……
女はそう身の上を語りました。

気の毒に思った三島は、
彼女を伴って下宿先に帰ります。

ひとりで先輩の家を訪ねて遅くなった帰り道、
見知らぬ中年の女が道を尋ねてきて
「姉の家」まで同道することになります。

そのまま成り行きでお屋敷に上げられ、
女主人や使用人たちと対面することに。
なんとなく(おぼろげな下心もあって?)
流されるまま行動していたのが、
知らない家に入ると里心がついて帰りたがる……

このへん人情の機微を巧く捉えてますね。
三島は下宿に残してきた若い女が、
気になってしかたなくなります。

ここからは個人的な解釈です。
官僚予備群の青年が、
素性の明らかでない女と出会って恋心を抱く話。
わたしは鴎外の「舞姫」を想起させられました。

ただし似ているのは導入の部分だけで、
そこからの展開は対照的です。
「舞姫」の豊太郎は泣く泣くエリスを捨て、
ドロップアウトを免れます。

三島譲青年はというと、
迷いこんだ見知らぬお屋敷から、
いっこうに帰してもらえません。

なぜか屋敷の住人は老いも若きも女ばかり。
三島はひとりの少年が監禁されているのを見つけて……
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2022/11/30 22:58
「舞姫」は合理性とか中央集権志向とか、
近代を特徴づける価値がストレートに出た作品です。
エリスを捨てる豊太郎の姿と、
非合理的なものを切り捨てる近代が重なります。

これの真逆というか、
ポジとネガみたいな性格のお話が『蟇の血』。

登場する女たちが蛇や狐の眷族らしいと暗示されたり、
三島や読者は掴みどころのない世界へ拉致されます。

さながら悪夢の世界です。
わたしは若い女と屋敷の女主人が、
同一人物の裏表ではないかという印象を受けもしました。
夢のなかなら、いくらでも起き得ることですよね。

女たちも動物たちも近代の合理主義や男性中心主義が、
社会の周縁へと追いやった存在です。
また夢も合理性の重んじられる世界では、
価値のないものと看做されます。

意識の表層だけで生きようとしていた近代人が、
夢に象徴される無意識の世界に復讐される物語。
わたしは『蟇の血』をそう読みました。
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2022/11/23 20:14
 ときどき書いているように、わたしはSF好きですが、そのSFは奇想やセンス・オブ・ワンダーに満ちていないと読みません。
 
 『いかに終わるか 山野浩一発掘小説集』(岡和田晃編 小鳥遊書房)を読了しました。
 山野浩一さんと聞いて、いまどのぐらいのSFファンがピンとくるのかなー……と思います。
 
 SFには音楽みたいに、「ニュー・ウェイヴSF」という潮流がありました。
 SFとはいっても、いかにもSFっぽい外宇宙や未来都市などを舞台に据えていても、そこにSFマインドや奇想、センス・オブ・ワンダーがないとダメ、そんな感触です。
 
 また、そのときのSFの「S」はSpeculative、つまり「思弁」でもあります。
 もともとは、わたしの敬愛するJ.G.バラードやブライアン.W.オールディスらの提唱、実践した新しいSFでした。
 
 そして、本書の山野浩一さんは日本へのニュー・ウェイヴSF紹介や、やはり実践の第一人者でした。
 
 で、この作品集、やはり山野浩一さんもお好きなのか、そのバラード作品を先どったような作品をも書いているところに凄みがあります。
 
 長くなっちゃいましたが、本作品集は、「ブルー・トレイン」、「地獄八景」がもうわたしのツボを刺してきました。ソフトカバーで本体2500円と少し高い本ですが、|小鳥遊《たかなし》書房さんには、同じ山野浩一さんの連作集『レヴォリューション』も出して欲しいです。
 
 ちなみに来月にはおなじ小鳥遊書房さんから、山野浩一唯一の長編、『花と機械とゲシタルト』が出ます。ちょっとでも興味が湧いたら、ぜひ買って読んでみてくださいまし。
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2022/11/17 21:53
 『兎の島』(エルビラ・ナバロ著 国書刊行会刊)を読了しました。スパニッシュ・ホラーと帯なんかには書かれておりますが、恐怖というよりはむしろ不安や不穏な空気、を巧く描いた短編集でした。
 
 まさか現代スペインのホラー作品集が読めるとは思いませんよね(そんな世界があるとも知りませんでした)。で、その作品集がかなり粒ぞろい。さすが国書刊行会さんです。
 
 「ミオトラグス」最初は謎の彼や彼女のこと。彼女はレストランで注文した仔山羊肉じゃないとクレームをつけるものの、厨房の人は否定する。唐突にマヨルカ島の無機的な説明のあと、象皮病のペーター・ヨハン大公のマヨルカ島愛好について。絶滅したはずの動物、ミオトラグスを探しに出かけるも……。
 
 「冥界様式建築に関する覚書」建築を学ぶ彼と、彼にだけ病んだ心を打ち明ける大兄さん──現実だか妄想だかがわからない──は寛解と増悪《ぞうあく》を繰り返す。精神の病み具合を示すディテールや、スペインの教会や神学校の描写、なかなかよかったです。
 
 「メモリアル」個人的にいちばん刺さった作品。亡母からFacebookの友達申請が届く。唯一の画像(もちろん亡母の顔の)のアップロード時刻は、現実に母が死んだ時刻。主人公は母の記憶、このアカウントの監視に明け暮れ、メンタルを病んでしまう。
 そしてときどきアップされる画像は、第三者が撮ったものではない。主人公が気づいたのは、画像は主人公の記憶からの撮影になっていること。
 その説明、解説はないまま作中の世界は終わります。
 
 そうそう、ところどころ、わたしの敬愛しているJ.G.バラードっぽい箇所もあります。
 わたしは図書館で借りて読んだのですが、この短編集は多くの方に読んで欲しいです! そのぐらい良き!
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2022/11/15 22:08
 皆川博子さんの『少年十字軍』を読了しました。
 
 この作品を読むきっかけは、エブリスタのお友達からいただいたコメントからでした。
 第四回十字軍が終わり……少年十字軍が欧州に点在していたら……実際にはエティエンヌ(本作品の十字軍を率いる少年)とドイツのニコラスという少年率いる少年十字軍があったそうです。
 
 作品では、虚実とりまぜて、少年十字軍なのに少女や大人も参加していたり(これは事実です)、少年十字軍の軍勢が数千から2万人になった、とここまで膨らんだようには書かれておりません。虚実とりまぜが巧みですね……!
 
 三章に分かれて書かれているのですが、かなり読みやすく、かつ、面白い展開でした。
 意外かもしれませんがわたしが皆川作品を読むのはこれがはじめて。
 
 エティエンヌの奇蹟を自分のものにし、しまいには自分がエティエンヌだと僭称するレイモン……野生児というかたくましくなおかつ賢いルー(狼の意)……記憶を失くし、死後の虚無を覗いてふたたび地上に戻ってきたガブリエル。
 キャラが立っていましたね。
 
 小説そのものも面白かったのですが、もっと神や神学、要するに当時の民衆のキリスト教ペダントリーをぶちまけて欲しかった。ポプラ社的にはダメだったのかも。
 本書はヤングアダルト勢に向けて書かれたような感じですし。
 
 とにかく「ああ、ここで史実通りか……」となる箇所がそうではない場面、本当にみずみずしく、べつにハッピーエンド至上主義でなくても胸をなでおろします。
 
 蛇足ながら、本書では「子供」という表記を採用しているのはかなり好印象です。なぜかは長くなるので割愛しますが、単純に「交ぜ書き」というものはみにくいものです。
 憂うつ、ら致、まん延、ひっ迫、殺りく……などなど。ルビという素晴らしい文化を衰退させてどうしようというのか。
 
 さらに蛇足、これはわたしの好みですが、「ぎごちない」(「ぎこちない」)を採っているのもよいですね。ちなみにこれは「ぎこちない」でも間違いではありません。
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2022/11/14 15:03
 隙間時間や眠る前にちょろちょろ読んでいた『|文選《もんぜん》 詩篇 (一)』を読み終えました。当たり前ですが漢詩のアンソロジーです。
 
 漢籍といえば、唐詩選や杜甫、李白が浮かびますが、『文選』はもっと昔の作です。けっこう政治的な発言をするようなときに、それを巧く美しい言葉で伝える、そのアンソロジーのようなものです。
 
 また、漱石ファンなら漢籍は避けて通れません。
 というのも漱石は『虞美人草』を書く前に、『文選』を三回通読したそうですから。

 『必読書150』にも『唐詩選』が顔を出しますが、たしかに漢語の語彙を増やすにはうってつけでしょう。

 それにしても、『文選』の編纂が終わったのが、五三六年から五三一年あたり、そこに「書かれた内容に価値があっても、いかに書くかに心しないものは文学としてみなさない」(本書解説388ページ)という「あたりまえのこと」が貫かれていることに、趣味で小説を書いている身でも、なんだか心が震えます。
 
 本書は原詩とかなりわかりやすいその邦訳、語釈などなど「わかりづらい」本ではありません。最初は少し慣れが必要ですが。
 
 そうそう、先程タイトルをあげた『唐詩選』ですが、これは吉川幸次郎+三好達治先生のよい訳と解説でセレクトした『新唐詩選』(岩波新書)がおすすめです。
 
 と、なんかニワカがいろいろ書き散らしましたが、よく李白がお酒で、杜甫はお茶とか形容するじゃないですか、ネットのどこかに書かれておりませんか? あるいは正確に覚えている方、よろしくお願いします……
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2022/11/12 20:20
 アドラー心理学の岸見一郎さんの本、『老いる勇気』を読了しました。
 
 以前買った、脳トレの本がガチ高齢者向けだったので、本書もそうだったらどうしようと思ったのですが、この本はとくに年齢層は決まっていませんが、いや、タイトルで予告されている、というべきか、「『老い』を感じてきた」、「すでに『老い』はじめている」な人への良書だと思います。
 
 例えば、よく生涯学習などと言いますが、これも若いときの勉強と違って、競争や結果出しに晒されることはありませんよね。こういうときもマウンターやスノッブな連中が跋扈しているとはいえども。
 
 これはわたしも身につまされたのが、他者との比較はよくない。誰かを見ながら(理想の自分でもだめです)上へ上へ、じゃなくて、とにかく「前へ」。
 
 三木清さんのノートから引用されたものの孫引きですが、「幸福が『質』的なオリジナルなものであるとし、『成功』は量的で一般的」と。
 
 また、アドラーの言葉も引用しており、「すべての悩みは対人関係の悩み」だと。
 
 まずは生産性という価値観を手放す。それは、存在しているだけでもう幸福だからです。
 
 「自分に価値があると思う時にだけ、勇気を持てる」これもアドラーの言葉です。
 I 課題に取り組む勇気
 II 対人関係に入ってゆく勇気
 (要するに、「自分には価値がある」いうことです)
 
 老いや心の空洞を埋めるために、新たな対象としてクラシックを選びましたが、アリアCDで一年近くクラシックの洋盤、マイナー・レーベル盤を聴いて思いましたが、やはりいいですね。
 一枚一枚、丹念に耳をすますのは。
 流し聴き、じゃなくて本当に盤と向き合うように聴く。
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2022/11/10 17:24
河合隼雄 『こころの読書教室』 新潮文庫 2014年 (電子版)


著者、晩年の講演がもとになっています。
もとは岩波書店から2006年に『心の扉を開く』という題で出た本です。

本好きにとって本の話は何よりのごちそう。
もちろん河合先生も例外ではなくて、
行間から楽しさが伝わってきます。

臨床の現場でのことには守秘義務があるけど、
相手が著作物なら遠慮は要りません。

本のおもしろさに触れながら、
ユング心理学についても理解を深められる、
なんとも重宝な一冊です。

わたしは新聞や週刊誌の人生相談とか、
俗っぽい失敗談や破滅談を好物にしています。

マッチングアプリで出会った女に貢がされて、
人生を棒に振っちゃった会社の重役。

結婚前は絵に描いて額に入れたような紳士だったのが、
入籍したとたん鬼畜に豹変したエリート男。

などなどw

気がついたこと。
ペルソナ(社会的な仮面)に縛られて、
身動きできなくなってる人物が多いんですよ。
三面記事的な事件の当事者にはね。

心がバランスを取ろうとして、
無意識のうちにメチャクチャ始めるんです。
この本読んだら、そこんとこ合点がいきました。

わたしの父もいろいろアレだったんで。
ヤツの内側でナニが起こってたのか……
想像するよすがを、ちょびっと与えられた感じだわ。

あと河合先生は絵本とか童話が大好きなのね。
大人向けの本の解題でも鋭いこと言ってるけど、
こどもの本が出てくるとノリッノリ!
もう止まりません。

それで児童文学の話になると、
言ってることがいちだん深くなるんですよ。

ゴッデンの『ねずみ女房』のくだりなんか、
見事すぎて溜息しか出なかったもん。


> 人間っていうのは、
> 本当に大事なことがわかるときは、
> 絶対に大事なものを失わないと獲得できないのではないか


これ、たぶん、とても正しいです。
河合先生ありがとう。
***このコメントは削除されています***
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2022/11/07 22:43
すみません。

二重投稿しちゃったんだけど、
パソコンの調子が悪いのか削除できないんですよ。

あした以降、復旧したら対応します。
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2022/11/07 22:40
江村 洋  『ハプスブルク家』 講談社現代新書 1990年 (電子版)


これは名著!
碩学が専門分野を噛み砕いて……
っていう「古き良き」新書の典型例でしょう。

数人の王族にスポットを当てることで、
ハプスブルク家の長い歴史を通覧する本です。
行間から題材への愛が感じられます。
けど叙述に品があって押しつけがましくないのね。

文章が格調高めで、っていうか、
難しい言葉や漢字が多用されてて、
ちょっと、とっつきは良くないかも。
わたしも読めない字けっこうあったし。

けど内容そのものは平易です。
ヨーロッパを知るうえで、
ハプスブルク家は避けて通れない存在。
キリスト教が欧州の「心」なら、
ハプスブルクは「背骨」なんだとか。

政略結婚で版図を広げたハプスブルクの一族は、
愚直に約束を守ることを旨としていたそうです。

マキャベリズム的には愚の骨頂なんだって。
けど欧州のどの王家より長続きしましたよね。
うんと長期的には、正直者は馬鹿を見ないのでしょうか。
それとも、たまたま運が良かっただけ?

わたしはドイツ語のラジオ講座を聴いてた折、
教材で何度かハプスブルク家の人物と出会いました。
マリア・テレジアとか皇后エリザベート(シシィ)、
皇帝フランツ・ヨーゼフなど懐かしいです。

ヨーゼフ・ロートの名前は出るだろうな。
そう思ってたらカフカ、ホフマンスタール、
リルケもちらっと顔を出してびっくり。

この分野への入門っていうか
「最初の1冊」として強くお薦めできます。
***このコメントは削除されています***
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2022/11/07 22:39
江村 洋  『ハプスブルク家』 講談社現代新書 1990年 (電子版)


これは名著!
碩学が専門分野を噛み砕いて……
っていう「古き良き」新書の典型例でしょう。

数人の王族にスポットを当てることで、
ハプスブルク家の長い歴史を通覧する本です。
行間から題材への愛が感じられます。
けど叙述に品があって押しつけがましくないのね。

文章が格調高めで、っていうか、
難しい言葉や漢字が多用されてて、
ちょっと、とっつきは良くないかも。
わたしも読めない字けっこうあったし。

けど内容そのものは平易です。
ヨーロッパを知るうえで、
ハプスブルク家は避けて通れない存在。
キリスト教が欧州の「心」なら、
ハプスブルクは「背骨」なんだって。

政略結婚で版図を広げたハプスブルクの一族は、
愚直に約束を守ることを旨としていたそうです。

マキャベリズム的には愚の骨頂なんだって。
けど欧州のどの王家より長続きしましたよね。
うんと長期的には、正直者は馬鹿を見ないのでしょうか。
それとも、たまたま運が良かっただけ?

わたしはドイツ語のラジオ講座を聴いてた折、
教材で何度かハプスブルク家の人物と出会いました。
マリア・テレジアとか皇后エリザベート(シシィ)、
皇帝フランツ・ヨーゼフなど懐かしいです。

ヨーゼフ・ロートの名前は出るだろうな。
そう思ってたらカフカ、ホフマンスタール、
リルケもちらっと顔を出してびっくり。

この分野への入門っていうか
「最初の1冊」として強くお薦めできます。
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2022/11/06 15:27
敬愛している野坂昭如さんの『受胎旅行』(新潮文庫)を読み終えました。Twitter版の読書ツイで画像を載せられないのはぼろぼろでカバーが外れちゃっていることなのです
 
 野坂さんといえばエロ、そんな感じですが、いみじくも澁澤龍彦さんが、「野坂さんのエロは不能がメインに出ている負のエロティシズム」と看破していたのは見事です。
 
 たしかに精力的に女漁り、みたいな話はありませんね。あってもモテているのはいいのに、女性への関心がなくなってしまう作品、「現代好色かたぎ」。
 
 野坂さんの実体験? 女遍歴をでっち上げてつくり話をよその会社でしたりげに語るコンサルタント。褒め言葉で本当にくだらない面白さw
 
 とはいえ、後半から戦後もの(エロあまりなし)はこれこそ実体験でしょうから、気軽には読めませんでした。
 「スケコマシ同盟」みたいなくだらない(褒め言葉)作品があれば、切ないというかほろ苦い作品もあり、「パパが、また呼ぶ」、「子供は神の子」、「浣腸とマリア」(あ、これホモネタあった)「たらちねの巣」、「娼婦焼身」は野坂昭如さんの幅を感じられるかと。
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2022/10/31 20:14
Jam, 名越康文 『多分そいつ、今ごろパフェとか食ってるよ。 孤独も悪くない編』  ‎
 サンクチュアリ出版 2020年(電子版)


ちょっと前に読んだ本の続編です。

コロナ禍で出された本ということもあってか
「孤独」にスポットが当てられています。
前作と同様、著者によるマンガとエッセイを併録。

わたしは孤独が苦にならないっていうか、
むしろ積極的に好きなほうですけど。
これは大人になったから感じることかも。

若いころは誰かに依存したくて、
だけど近づいていくことができませんでした。
やまあらしのジレンマ的な葛藤には、
ずいぶん身に憶えがあります。

あと「自分より大変な人がいるのに
つらいと思ってしまう」という記事が印象に残りました。

何を苦しいと感じるか、
どのくらいのストレスが負担になるのかは、
個々人でまったく異なります……という話です。

やはり若いころ
「その程度のことで音を上げるとは情けない」
「こんなことも我慢できない根性無し」
といった言葉を、周囲から散々ぶつけられました。

辛いものは辛いんだから、どうしようもないじゃないか。
わたしは内心で激しく反発しましたけど、
当時はうまく抗弁できず惨めな思いだけが残ったものです。

おまえは何も間違ってないんだよ。
昔のわたしに、そう言ってやりたいです。
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2022/10/30 18:05
 あの澁澤龍彦さんの『ねむり姫』を○○年ぶりに再読しました。
 拙作、『SOL』を読まれた方なら、わたしのテクスト理論やらなにやらむつかしいことへの耽溺をおわかりでしょうが、そういう小難しいをまったく抜いた、大人のための童話のような作品集です。
 
 フランスでは、ロマン(小説)とレシ(物語、読み物)とけっこうきっちり別れて売られているそうで、本作品集は上質のレシでありましょう。ちなみにわたしの好きなアンドレ・ピエール・ド・マンディアルグもレシ扱いのようで。
 渡仏したことないからわかりませんが……。
 
 収録作6篇、どれも傑作で楽しめますが、個人的には「狐媚記」か「ぼろんじ」がとくに好きです。
 
 北の方が産んでしまった仔狐。
 夫の左少将は怒り狂う、狐を殺せと命じるが、北の方には狐が見える。左少将には婆娑羅趣味があり、収集したコレクションに「狐玉」なるものがあり……(「狐媚記」)
 
 上野の戦争のころ(戊辰戦争のころ)兄の武雄は戦いで死ぬ。兄同様武芸のおぼえのある弟の智雄は、兄を殺した官軍を騙して西へ逃げるため女装をして江戸を発つ。
 一方、以前、悪い侍に絡まれたお馨《けい》は智雄が忘れられず、男装をして旅に出る……(「ぼろんじ」)
 
 狐もの、異性装ものと趣味丸出しですねw
 この本、装丁がまた美しく、誰の装丁かと思ったら、「著者自装」と。文庫版は味のない表紙ですので、古書でぜひ、ピンクと緑の単行本版で愛でてくださいまし。
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2022/10/26 21:04
サラ・ピンスカー 『いずれすべては海の中に』 市田泉(訳) 竹書房文庫 2022年
 (電子版)


池澤春奈さんが新聞の書評で激推ししてて、気になった本。
アメリカの作家でミュージシャン、
サラ・ピンスカーの短編集です。

紙だと456ページと、けっこうボリュームがあります。
わたしはちびちび読んでて、それなりに時間がかかりました。

いずれの作品にも終末感と楽天性が、
独特なバランスでブレンドされてます。

けっこう主人公たち苦労してるし、
あんまし先行きハッピーじゃなさそう。
だけど読後の風通しが良いんですよ。

わたしは陰惨なお話が大好物だけど!
ピンスカー作品のダウナーかつ諦観に裏打ちされた、
独特なポジティヴさには惹かれるものがあります。

これが現在進行形のアメリカの空気感かも。
いちおうジャンル的にはSFなんだけど
良い意味で「文学」と地続きの本ですね。

わたしの大好物、
ジョージ・ソウンダースの書くものに通じる感触です。

あとサラさんのお話で素敵なのは、
余白をほのめかすセンスに恵まれてるとこね。
ぜんぶ説明しきらないで読者の想像に委ねてきます。

「イッカク」なんか読者によっては、
フラストレーションを感じそうですけど。
わたしは大好きなスタイル。

書くべきかどうか、ちょっと迷ったほどに。
同性パートナーとの絆が自然なものと描かれてるのも。
わたし的に大いに好感を抱いたところだと、
つけ加えておきます。

日本だと、まだまだ
「レズビアン」とか「百合」とか、
断りを入れなくちゃ通じない状況だもんなー。

ともあれアメリカSFの美しい収穫です。
海外文学やSFが好きならお試しあれ。
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2022/10/22 15:03
Jam, 名越康文 『多分そいつ、今ごろパフェとか食ってるよ。』  ‎ サンクチュアリ出版
 2018年(電子版)


きのう病院の待合で読み終えた本。
本屋さんの店頭で見かけて
「おもしろそうだな」と思ったけど、
お値段が微妙で棚に戻した記憶があります。

まおちが気に入ってて薦めてくれたから、
電子本の日替わりセールに出たのを買ってみました。
499円也。

標題は嫌いな人物について、
著者が友人から言われたものだそうです。

理不尽に傷つけられたことをくよくよ考えていても、
相手は何とも思っていない、
場合によっては憶えてすらいなかったりする。

たぶん誰の人生にも多かれ少なかれ起き得る皮肉を、
巧く捉えた言葉だと思います。

マンガとエッセイで人間関係の理不尽と、
著者なりの経験と対処について述べられた本です。

わたしに響いたのは、こんなくだり。

嫌いな相手を赦すのも憎み続けるのも、あなたしだい。
どちらも正解ではないから、
あなたが楽になれるほうを選べばいい。

わたしは何か厭なことがあると、
何年も、場合によっては何十年も忘れることができません。
これは体質的なもので変えようがないんです。

また時間とともに怒りや憎しみの質が変わってくることも、
経験から学んだ事実です。

とことん憎み続けて、憎みきってしまえ。
飽きたら自分の心から出て行ってもらえばいい。

あらためて、そう思えました。
人間が苦手なひとに広く一読をお薦めしたいです。

「どうしても反りの合わない相手とは、幸せの担当が違う」。

これも的を射ています。
この世のどこかに幸せを担当している神さまだか、妖精だかがいて。

まったく反りの合わない相手と自分とには、
それぞれ別の担当者がついてる。
そう解釈すると腑に落ちる部分があります。

「大勢での飲み会が生きがい」
「人間、競争して他人を蹴落としてナンボ」
「会社に滅私奉公するために生まれてきた」
「スポーツやアウトドアなしでは生きられない」。

良し悪し以前に、この種の人物とはまったく話が噛みあいません。
なるほど「幸せの担当が違う」んですね。

良い意味での「気の持ちよう」に関するヒントが詰まった本です。
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2022/10/21 11:32
 篠田節子さんの短編集『レクイエム』を読了しました(文春文庫刊)。ちょっと日常から幻想系が侵入してくる、そんな作品が多かったですね。
 
 さすが、というか一篇をのぞいて傑作ぞろいです。
 ガンの夫と、実家(旦那側の)へ行く。そこの義父というより家長と呼んだほうがいいようなムラ社会の縮図のような家。田舎の怖さが活写されている「彼岸の風景」。
 
 いざなぎ景気からバブル崩壊まで、ある茶器を巡って知り合った老人。その老人の息子と結婚し、朋子の「数字としての」会社経営。オイルショックなど危機を乗り越えるも、バブル崩壊ですべてを失ってしまう。これが全速力でフラッシュ・フォワードのように、あるいは眩暈のように突っ走る「ニライカナイ」。
 
 あまり褒められた営業態度でない高級マンションを売り歩く菅本。バブルの頃からの没落。そしてあるとき橋桁の周囲の地面にシートを張って暮らすホームレスを見る。そのホームレスとのコンタクトをとるものの……。「帰還兵の休日」。
 
 正恵は、あるとき団地の自分の部屋近くで弱ったいんこを拾う。張り紙を見てとりに来たのは亜美という少女。亜美は虐待を受けているものの、母や姉をかばう。しまいには冬の夜に全裸で団地の廊下に立たされている……とか。実際の虐待ってこういう、ただ虐待するんじゃなくて、虐待の被害者もストックホルム症候群みたいになるのかな……っていう。淡々とした描写がとにかく不気味な「コンクリートの巣」。
 そうそう、この作品、「子ども」という交ぜ書き表記でなく、きちんと「子供」です。
 
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2022/10/21 11:32

 最後の「レクイエム」がちょっと……なんです。
 新興宗教のお経が「南無妙法蓮華経」、主人公の苗字は「池田」、そしてWWII時代のニューギニアでの酸鼻な体験について。
 某団体と、「ゆきゆきて、神軍」(原一男監督)がすぐちらつきます。
 
 こういったちらつき、篠田さんはときどきやるようで、長編『弥勒』も、カンボジア内戦やクメール・ルージュをある程度知っていれば、ああ、あれね、みたいになってしまうところ。
 
 しかしまあ取り上げるテーマもネタも、そして文章も、圧倒されます。現在のいわゆる純文学よりもはるかに文学のちからを見せつけられるようで……。「中間小説」なんて呼び名はもう古いかもしれませんが、ただのエンターテインメントや純文学ではありません。
 もう篠田節子先生のひとつの世界。蛇足ですがおすすめです。
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2022/10/20 21:49
羽根田 治 『山はおそろしい 必ず生きて帰る! 事故から学ぶ山岳遭難』 幻冬舎新書
 2022年(電子版)


アマゾンの電子本日替わりセールで399円。
怖いもの見たさで買いましたw

以前に甥やリア友が大怪我をしたから、
山の遭難リスク事情を知りたかったこともあります。

結論:死ぬまで山になど登ってたまるものか。
(´ェ`U(   *   ) ケツピャー!

いやもう怖いこと怖いこと。
どんな怪談本も裸足で逃げ出すホラーっぷりです。
『ギャンブル依存とたたかう』と並びますね。
わたし基準では。

「危険を正しく知って備えたうえで、
山に親しんでもらいたい」というのが、
著者の執筆動機だそうですけど……

残念だったな(U`ェ´) ケッピャッハーッ!!
わたくしは死んでも山になど(以下略)。
もう遠目に見るのも厭なくらい山が怖いです。
ギャンブルより、おぞましいかも知らんw

奥秩父の四重遭難事故はマスコミも騒ぎましたし、
ネット上にも記事がたくさんありますね。

著者はオカルトの類は信じない人物ながら、
この遭難現場は評判が悪く近づきたくないそうです。
怪談やオカルトと関係ない本で、
こういう記述に遭遇すると背筋が微妙に寒くなりますw

雷や蜂の事故については、
街場でもそれなりにリスクがありますね。

アウトドアとは無縁のわたしも、
身辺の安全管理について考えさせられました。
アバター
2022/10/19 20:50
 『日航123便 墜落の新事実 目撃証言から真相に迫る』(青山透子著 河出書房新社刊)を読了しました。
 
 かなりの陰謀論ブログなどがありますが、著者は当時の123便CAの同僚で、主に目撃談などから事故から事件へと探っていきます。
 
 まず、かなりの低空を飛ぶ123便をたくさんの方が目撃していること。そして、政府の発表ではもっとあとに飛んでいたはずのファントム戦闘機2機が、墜落までの123便を追いかけていたこと。
 
 さらに、マスコミ各社などは頑として変更しなかったものの、墜落現場は近辺の人たちが正確な位置を報告しているのにまちがった場所を現場として報道し続けました。
 
 そして、これが事件たる所以ですが、どうも当時の演習で使っていた、無人の航空機(オレンジ色)が墜落直前に大勢の方に視認されています。
 まとめると、やはり自衛隊の無人機操縦ミスが123便に衝突し墜落、本来ならもっと早く到達できれば救助できる人もいたはずなのに、在日米軍から救助の提案がきても蹴っていたんです。
 
 さらには、生き残った4人の方々とは違い(123便の後部にいたそうです>生存者)、人が密集しているエリアでは、ガソリンとタールくさい匂いがしたのだとか。ちなみに旅客機の燃料は灯油に似たようなものだそうです。

 それにしても犠牲になられた方へ哀悼の意を表します。まさかわたしが当時好きだった絵師さんが……。
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2022/10/09 22:11
 稲垣足穂さんの『宇宙論入門』を読了しました。
 これでタルホのビブリア・タルホロジカ全12巻制覇まであと2冊!
 
 最初は『一千一秒物語』の異文《ヴァリアント》のようなヴィヴィッドな作品が載っています。後半はもうガチな宇宙論や幾何学の話。「ロバチェフスキー空間を旋《めぐ》りて」や「僕の”ユリーカ”」だけで本書の半分です。
 
 もう素敵なところだけ抜書きしたいです。
 
 「おも立った星座は二十個くらいだから、せめてこれを卒業済みにしなければ、この遊星の住民だとは云えない」(「工場の星」)
 
 「何でも共通していると見え、青い星はペパーミントのにおいがし、赤い星はストロベリーで、黄色いのはレモンのかおり、無色のやつはプレーンソーダに近い」
 「これでわしらが子供のときには、若者たちが娘と涼しい木かげにねころんで語るとき、いいお友だちとしてお星さまはよく馴れた鳩のように人々のポケットへまぎれこんでたまげさせたり、娘の髪かざりになって光ったりしていたものだが(後略)」(「星を喰う村」)

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2022/10/09 22:11

 
 「私はかつて、アメリカに大天文台が多いのは、ニューヨークの相場師が星うらないをして貰いたさに寄付するからだときいたことがある」
 「そう云えば私は箒星の表を見て、そこに並んででいる彗星発見者が申し合わせたように夭折していることを変に思ったが、かれらも又永遠を見た人々だったろう」(「天文学者というもの」)
 
 ユークリッド幾何学の世界では、線路のように平行した二本の線はどこまでいっても交わりませんが、ニコライ・ロバチェフスキー、ベルンハルト・リーマンらの幾何学というか宇宙の説では、交わるものであること。ただし、後半のガチ宇宙論はかなり難しかったです。
 でも、その難しさのなかにいかにもタルホならではの言い回しが活きていて、読まされてしまうのですね。
 
 「僕の”ユリーカ”」に仏の天文学者ラランドが、猫好きなため、勝手に猫座を設けたものの、現在では取り消しになっているとか。
 
 さすが澁澤龍彦さんが「ふやけた文壇小説しか読んだことのなかった諸君は、ここで必ずや、真正の文学作品のきびしさと香気に搏《う》たれ、目から鱗の落ちる思いをするだろう」と書きつけるだけの文学者です>稲垣足穂さん
 
 少年、天体、宇宙、機械、飛行機、宇宙論、弥勒……etc……稲垣足穂さんほど、「好き」を作品に昇華させた人はいないのではないでしょうか。
 「地球にはネクタイを替えにやってきただけ」という人ですし。
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2022/10/08 14:26
トーン・テレヘン 『おじいさんに聞いた話』 長山 さき(訳) 新潮クレスト・ブックス
 2017年(電子版)


本好きなら誰しも、
居心地の良い分野というものがあると思います。

わたしの場合は海外文学がそれです。
翻訳ものの詩や小説を手にできると
「帰ってこられた!」って懐かしい気分になるんですよ。

今回の本は傑作。
名作として読み継がれていくのではないでしょうか。

ロシア革命でオランダに逃れた祖父が、
孫に話して聞かせる体裁の短編集です。

ほとんどの話が陰惨かつ理不尽な終わりを迎えます。
「ハッピーエンドのお話はないの?」
「これはロシアのお話だからね」。

涙を流しながら地上のすべてを喰い尽くす熊のお話あり。
犬に噛みつかれた皇帝が、
ロシアじゅうの犬に報復を企てるお話あり。

奇妙に読後感が優しいんですよ。
たとえばイギリス人が書くブラックユーモアとは、
あきらかに感触が違っているんです。

語られるお話はすべて創作だといいます。
ただし祖父の遺品から出てきたエッセイ集が、
下敷きにされているのだとか。

悲劇でないと語り得ないことというのが、
世の中にはあるはずです。
ラノベ中毒のハッピーエンド原理主義者からは、
汚いものに向ける視線を浴びせられるでしょうけど!

いわゆるバッドエンドを毛嫌いする読み手に、
わたしは言ってやりたい。

「悲しいお話が、かわいそうだろ!
てめーに本好きを名乗る資格なんざ、ねーんだよ。
くたばりやがれ糞が(´ェ`U(   *   ) ケツピャー!」と。
(U`ェ´) ケッピャッハーッ!!

ともあれ、ほんとに良い本です。
心ある読み手に愛され続けることを願ってやみません。
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2022/10/06 15:06
田中 紀子 『ギャンブル依存症』 角川新書 2015年(電子版)


わたしの大事な楽しみのひとつが、
ギャンブル依存についての本を読むことです。

半分は興味本位の怖いもの見たさ。
もう半分はお買い物中毒対策の参考として。
買い物依存については、
ギャンブルほど文献が充実してないんですよね。

今回の本はギャンブル依存症者を身内に持ち、
自らもギャンブルに依存した経験のある、
当事者の手になるもの。

8月に読んだ『ギャンブル依存症からの脱出』
と補完しあうような内容です。
併せて読むと重宝するかも。

『ギャンブル依存症からの脱出』は、
当事者向けの自己管理ノウハウに見るべきものが。

こちらの本は日本社会における、
ギャンブル依存症のありようを概観する性格が強いです。

諸外国では人口に対するギャンブル依存症者の割合が、
だいたい100人にひとりくらいだといいます。

日本は段違いに高くて、
成人の20人にひとりが病的賭博の当事者だとか。
あなたの隣に当事者が(U`ェ´) ケッピャーッ!!!

いえ冗談ではなく。
サンダル履きでパチンコに行けるような、
身近にギャンブルのある社会は特殊なものなんですよ。

本の前半ではギャンブルの絡んだ重大事件が紹介されています。
通り魔事件の加害者が親のギャンブルで苦労を強いられていたり、
思わぬかたちで犯罪に関わっているものですね。

通俗的なイメージとは異なり、
ギャンブル依存症者にはエリートが多いそうです。
『ギャンブル依存症からの脱出』にも類似の記述がありました。

ある程度のお金が自由になること、
理屈を好む分析的な性格の持ち主が多い
(ゲーム的な営為に親しみがち、
ギャンブルにもゲーム性がある)こと、
世間体にこだわり重篤になるまで問題を隠そうとすること……

などが親和性の背景にあるとか。

もちろんエリートだけが依存症になるわけじゃ、ありません。
誰でも用心が必要です。

後半には自助グループの有用性について、
いろいろ具体的に紹介されていました。
何事も当事者でないと、わからない部分がありますね。

わたしはお買い物に気をつけるぜ(U`ェ´) ケッピャッハーッ!!
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2022/10/05 13:53
蔵前 仁一 『いつも旅のことばかり考えていた』 幻冬舎文庫 2003年(電子版)
 

初出は1998年に旅行人から出たもので
『各駅停車で行こう』という標題だったそうです。

鉄道マニアから「電車の本と間違えて買ってしまった」
というクレームが寄せられて改題になったとか。

蔵前さんは人間が苦手なんだって。
旅先でのエピソードを本に書いているから、
そう話すと意外な顔をされたり、
時にはがっかりされたりするといいます。

特に、こどもがダメだそうです。
大人以上に行動が読めないから、わたしもこどもが苦手です。
好き嫌い以前に、どう関わっていいのか見当がつきません。

なんだけど。
この本で特に印象に残ったのは、こどもが出てくる話なんだよな。

ひとつはタイで「画家になりたい」という少年に出会い、
ロットリング・ペンと絵を交換したこと。

もうひとつはベトナムで物売りの子たちにつきまとわれ、
逃げ場がなくなって遊んであげざるを得なくなったこと。
別れ際に煙草を売ろうとした子を、
仲間が「お金をもらうな」と制して1本くれたんだって。

どっちの話でも国籍とか年齢とか関係なくなって、
ただ、ひとりの人間どうしとして交流が生まれてるんです。

たぶん誰のどんな人生にも、
こういう瞬間は訪れ得るのでは、なかろうか。
それをキャッチできるかどうかが、
あるいは人生の質を決めるものなのかも。
***このコメントは削除されています***
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2022/10/05 13:51
蔵前 仁一 『いつも旅のことばかり考えていた』 幻冬舎文庫 2003年(電子版)
 

初出は1998年に旅行人から出たもので
『各駅停車で行こう』という標題だそうです。

鉄道マニアから「電車の本と間違えて買ってしまった」
というクレームが寄せられて改題になったとか。

蔵前さんは人間が苦手なんだって。
旅先でのエピソードを本に書いているから、
そう話すと意外な顔をされたり、
時にはがっかりされたりするといいます。

特に、こどもがダメだそうです。
大人以上に行動が読めないから、わたしもこどもが苦手です。
好き嫌い以前に、どう関わっていいのか見当がつきません。

なんだけど。
この本で特に印象に残ったのは、こどもが出てくる話なんだよな。

ひとつはタイで「画家になりたい」という少年に出会い、
ロットリング・ペンと絵を交換したこと。

もうひとつはベトナムで物売りの子たちにつきまとわれ、
逃げ場がなくなって遊んであげざるを得なくなったこと。
別れ際に煙草を売ろうとした子を、
仲間が「お金をもらうな」と制して1本くれたんだって。

どっちの話でも国籍とか年齢とか関係なくなって、
ただ、ひとりの人間どうしとして交流が生まれてるんです。

たぶん誰のどんな人生にも、
こういう瞬間は訪れ得るのでは、なかろうか。
それをキャッチできるかどうかが、
あるいは人生の質を決めるものなのかも。
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2022/10/05 13:51
蔵前 仁一 『いつも旅のことばかり考えていた』 幻冬舎文庫 2003年(電子版)
 
初出は1998年に旅行人から出たもので
『各駅停車で行こう』という標題だそうです。

鉄道マニアから「電車の本と間違えて買ってしまった」
というクレームが寄せられて改題になったとか。


蔵前さんは人間が苦手なんだって。
旅先でのエピソードを本に書いているから、
そう話すと意外な顔をされたり、
時にはがっかりされたりするといいます。

特に、こどもがダメだそうです。
大人以上に行動が読めないから、わたしもこどもが苦手です。
好き嫌い以前に、どう関わっていいのか見当がつきません。

なんだけど。
この本で特に印象に残ったのは、こどもが出てくる話なんだよな。

ひとつはタイで「画家になりたい」という少年に出会い、
ロットリング・ペンと絵を交換したこと。

もうひとつはベトナムで物売りの子たちにつきまとわれ、
逃げ場がなくなって遊んであげざるを得なくなったこと。
別れ際に煙草を売ろうとした子を、
仲間が「お金をもらうな」と制して1本くれたんだって。

どっちの話でも国籍とか年齢とか関係なくなって、
ただ、ひとりの人間どうしとして交流が生まれてるんです。

たぶん誰のどんな人生にも、
こういう瞬間は訪れ得るのでは、なかろうか。
それをキャッチできるかどうかが、
あるいは人生の質を決めるものなのかも。
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2022/10/02 17:14
蔵前 仁一 『スローな旅にしてくれ』 幻冬舎文庫 2003年(電子版)
 

書きおろしエッセイ集で、
初出は『沈没日記』という標題だったらしいです。

旅行の本とわかり難いという理由から、
改題された模様。

旅行者仲間のスラングみたいなもので、
ひとつところに長く逗留することを
「沈没」と呼ぶのだとか。

蔵前さんは沈没が好きで、
しばしば気に入った場所に長く留まったそうです。

良質な紀行文はSFと似ています。
読者の常識をブチ壊して視野を拡げてくれるところがね。

蔵前さんの本は旅や海外との距離感が絶妙です。
べったりだと鼻につくし、
距離を置きすぎだと味気ないものになってしまいます。

わたしたちが「あたりまえ」だと思いこんでいる、
常識や生活習慣の多くが海外のそれとは異質なこと。
それと自覚できないほど「あたりまえ」に、
外国や外国人に対して偏見や先入観を抱いていること。

あらためて気づかされるところは、少なくありません。

旅行から戻った日本の電車で、
年輩の男性に絡まれ説教された話があります。

外国をふらふら遊び歩いて暮らすとは何事か。
俺の息子など一流商社に就職が決まったんだからな……

やれやれ心底、情けない。
こういうハナクソみてーなオッサンも、
洋の東西を問わず存在するのでしょうか。

あと「コメットさん」を名乗る、
超傍迷惑な日本人旅行者の話が愉快でした。

中国の食堂で勝手に厨房に立ち入って文句をつけ、
腹を立てた従業員が彼の料理にゴキブリを入れたそうです。

悪人ではなさそうですけど、
徹頭徹尾どこまでも非常識で自分勝手。
日本人旅行者のあいだでは有名人かつ鼻つまみだったとか。

これだと世界のどこへ行っても迷惑がられ、
嫌われるの間違いなしだろうな。

言葉や文化は違っても、
人間って根底の部分では相通じるものがあるんですね。

コメットさんが妙に納得させてくれましたw
***このコメントは削除されています***
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2022/10/02 16:16
蔵前 仁一 『スローな旅にしてくれ』 幻冬舎文庫 2003年(電子版)
 

書きおろしエッセイ集で、
初出は『沈没日記』という標題だったらしいです。

旅行の本とわかり難いという理由から、
改題された模様。

旅行者仲間のスラングみたいなもので、
ひとつところに長く逗留することを
「沈没」と呼ぶのだとか。

蔵前さんは沈没が好きで、
しばしば気に入った場所に長く留まったそうです。

良質な紀行文はSFと似ています。
読者の常識をブチ壊して視野を拡げてくれるところがね。

蔵前さんの本は旅や海外との距離感が絶妙です。
べったりだと鼻につくし、
距離を置きすぎだと味気ないものになってしまいます。

わたしたちが「あたりまえ」だと思いこんでいる、
常識や生活習慣の多くが海外のそれとは異質なこと。
それと自覚できないほど「あたりまえ」に、
外国や外国人に対して偏見や先入観を抱いていること。

あらためて気づかされるところは、少なくありません。

旅行から戻った日本の電車で、
年輩の男性に絡まれ説教された話があります。

外国をふらふら遊び歩いて暮らすとは何事か。
俺の息子など一流商社に就職が決まったんだからな……

やれやれ心底、情けない。
こういうハナクソみてーなオッサンも、
洋の東西を問わず存在するのでしょうか。

あと「コメットさん」を自称する、
超傍迷惑な日本人旅行者の話が愉快でした。

中国の食堂で勝手に厨房に入り込んで文句をつけ、
腹を立てた従業員が彼の料理にゴキブリを入れたそうです。

悪人ではなさそうですけど、
どこまでも非常識で自分勝手。
日本人旅行者のあいだでは有名人かつ鼻つまみだったとか。

これだと世界のどこへ行っても迷惑がられ、
嫌われるの間違いなしだろうな。

言葉や文化は違っても、
人間って根底の部分では相通じるものがあるんですね。

コメットさんが妙に納得させてくれましたw
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2022/10/02 15:16
蔵前 仁一 『スローな旅にしてくれ』 幻冬舎文庫 2003年(電子版)
 

書きおろしエッセイ集で、
初出は『沈没日記』という標題だったらしいです。

旅行の本とわかり難いという理由で、
改題されたみたいですね。

旅行者仲間のスラングみたいなもので、
ひとつところに長く逗留することを
「沈没」と呼ぶのだとか。

蔵前さんは沈没が好きで、
しばしば気に入った場所に長く留まったそうです。

良質な紀行文はSFと似ています。
読者の常識をブチ壊して視野を拡げてくれるところがね。

蔵前さんの本は旅や海外との距離感が絶妙です。
べったりだと鼻につくし、
距離を置きすぎだと味気ないものになってしまいます。

わたしたちが「あたりまえ」だと思いこんでいる、
常識や生活習慣の多くが海外のそれとは異質なこと。
それと自覚できないほど「あたりまえ」に、
外国や外国人に対して偏見や先入観を抱いていること。

あらためて気づかされるところは、少なくありません。

旅行から戻った日本の電車で、
年輩の男性に絡まれ説教された話があります。

外国をふらふら遊び歩いて暮らすとは何事か。
俺の息子など一流商社に就職が決まったんだからな……

やれやれ心底、情けない。
こういうハナクソみてーなオッサンも、
洋の東西を問わず存在するのでしょうか。

あと「コメットさん」を自称する、
超傍迷惑な日本人旅行者の話が愉快でした。

中国の食堂で勝手に厨房に入り込んで文句をつけ、
腹を立てた従業員が彼の料理にゴキブリを入れたそうです。

悪人ではなさそうですけど、
どこまでも非常識で自分勝手。
日本人旅行者のあいだでは有名人かつ鼻つまみだったとか。

これだと世界のどこへ行っても迷惑がられ、
嫌われるの間違いなしだろうな。

言葉や文化は違っても、
人間って根底の部分では相通じるものがあるんですね。

コメットさんが妙に納得させてくれましたw
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2022/10/01 19:57
 アンドレ・ピエール・ド・マンディアルグの短編集『燠火』を読み終えました。
 
 けっこう久しぶりの再読ですが、やっぱりよいものはよいのです。
 
 落ちがちょっと以外な、舞踏会にきた少女が迎える運命……「燠火」。少し難解なのですが、妙に惹きつけられる「ロドギューヌ」、文字どおりな「石の女」(ちょっと大きめな石のなかに女性が三人いるのです)。
 
 ここまででもマンディアルグの魅力がきゅーっと詰まっているのですが、ラストの二篇が作者も認めるほどの傑作です。
 まずは「ダイヤモンド」、澁澤龍彦さんまでオマージュで「犬狼都市」を書いたぐらい。ダイヤモンド鑑定士の少女があることがきっかけでダイヤモンドのなかへ入ってしまい、現れたライオンのような男性と……。
 「純潔さや純粋さにも、ある段階があり、それを越えると恐怖を呼びさますものである」(P137)
 この文がまた素敵。
 
 
 そして大傑作「幼児性」。
 小説内時間のなかではジャン・ド・ジュニが、擬《まがい》金髪の娼婦を相手に「励んで」いるのですが、ジュニはもう快感ではなく過去を回想するためにしているような状態なのです。
 そして思い出す家庭教師のニーナ・クリチコワ。
 記憶は断崖から滑落する馬車の事故まで……。
 どんどん観念的になりながらも最後まで「励み」続けています。
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2022/09/29 14:05
蔵前仁一 『あの日、僕は旅に出た』 幻冬舎 2013年(電子版)


滅多にないことなんだけど、
この本がおもしろくて夜更かし。
わたしは寝不足が極端に苦手で、
どんなに楽しい読書でも睡眠を優先させています。

自伝的な性格が強い本です。
前半が旅行作家になるまで、
後半はミニコミから始めた出版社経営の話。

蔵前さんの本は何冊か読んだけど、
わたしには、これがいちばんおもしろかったですね。

藤子不二雄のSF短編に憧れてマンガ家を志していたとか
『ぱふ』の編集部に出入りして樹村みのりさんと仕事をしたとか。
学生時代の意外なエピソードに、まず驚かされました。

ところが持ち込みをした先で、
マンガの現場があまりに出版社主導なことに落胆。
その道をあきらめてデザイナーに転進したそうです。

ちょうどバブル経済にさしかかった好景気の時代で、
出版業界では仕事に困らなかったのだとか。
あまりの忙しさに疲れたころ、
友人の言葉からインド旅行へ出かけることになります。

そこから『ゴーゴー・インド』の出版に繋がり、
やがて「旅行人」という出版社を経営するように。
旅先で出会った奇人変人たちの体験談など、
自分の出したい本を出すために始めたそうです。

わたしは本が大好きですけど、
出版業界のことは何ひとつ知りません。
それだけに蔵前さんの苦労話は興味深く読めました。

あとアフリカの話ね。
すげー、ためになったの。
「貧しくて物騒でライオンや象がいて、
肌の黒いひとたちが暮らしている大陸」。

わたしも含めて大半の日本人はそう思ってるけど、
現実のアフリカは非常に多様なところだといいます。

人種的にも雑多なひとたちが暮らしていて、
マジョリティの黒人も地域によって、
顔つきや肌の色、言葉や文化がまったく違うそうです。
だから「アフリカ系アメリカ人」っていう形容は、
厳密に考えていくと、おかしいのだとか。

だよなぁ。
なにしろ地球の陸地の数分の一を占めてるくらいだし。

もちろん旅行好きが読んでもいんだけど!
わたしみたいなインドア人間、
死ぬまでインドにもアフリカにも行かないつもりのヤツにお薦めかも。

「人生とはたまたまである」って言葉が深く響きました。
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2022/09/29 14:05
たまたまインドで旅日記を盗まれちゃって、
帰国してから思い出して書きなおしたものが
『ゴーゴー・インド』のもとになったり。

好きな本を出したいんだけど、
会社なんか始めると旅に出られなくなる。
どうしよう……と悩んでいたら、
ちょうど仕事を辞めたお兄さんが経営を買って出てくれたり。

「この道ひとすじ死に物狂いでウン十年」みたいなのが、
人生の正解ってされがちなのよ。
日本で暮らしてると。

それが悪いとは言わない。
人生いろいろだもん。
ただ、わたしは人生を決めるのって「たまたま」だと思うのね。

良くも悪くも自分の意思では左右できないものに、
助けられたり弄ばれたりしてフラフラしてるのが、
人間というものでは、なかろうか。

蔵前さんの本には教条主義的な押しつけがましさが皆無で、
わたしは、そこが好きなんだけど。
「たまたま」に謙虚であるがゆえの姿勢なのだろうな。
***このコメントは削除されています***
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2022/09/29 14:04
蔵前仁一 『あの日、僕は旅に出た』 幻冬舎 2013年(電子版)


滅多にないことなんだけど、
この本がおもしろくて夜更かし。
わたしは寝不足が極端に苦手で、
どんなに楽しい読書でも睡眠を優先させています。

自伝的な性格が強い本です。
前半が旅行作家になるまで、
後半はミニコミから始めた出版社経営の話。

蔵前さんの本は何冊か読んだけど、
わたしには、これがいちばんおもしろかったですね。

藤子不二雄のSF短編に憧れてマンガ家を志していたとか
『ぱふ』の編集部に出入りして樹村みのりさんと仕事をしたとか。
学生時代の意外なエピソードに、まず驚かされました。

ところが持ち込みをした先で、
マンガの現場があまりに出版社主導なことに落胆。
その道をあきらめてデザイナーに転進したそうです。

ちょうどバブル経済にさしかかった好景気の時代で、
出版業界では仕事に困らなかったのだとか。
あまりの忙しさに疲れたころ、
友人の言葉からインド旅行へ出かけることになります。

そこから『ゴーゴー・インド』の出版に繋がり、
やがて「旅行人」という出版社を経営するように。
旅先で出会った奇人変人たちの体験談など、
自分の出したい本を出すために始めたそうです。

わたしは本が大好きですけど、
出版業界のことは何ひとつ知りません。
それだけに蔵前さんの苦労話は興味深く読めました。

あとアフリカの話ね。
すげー、ためになったの。
「貧しくて物騒でライオンや象がいて、
肌の黒いひとたちが暮らしている大陸」。

わたしも含めて大半の日本人はそう思ってるけど、
現実のアフリカは非常に多様なところだといいます。

人種的にも雑多なひとたちが暮らしていて、
マジョリティの黒人も地域によって、
顔つきや肌の色、言葉や文化がまったく違うそうです。
だから「アフリカ系アメリカ人」っていう形容は、
厳密に考えていくと、おかしいのだとか。

だよなぁ。
なにしろ地球の陸地の数分の一を占めてるくらいだし。

もちろん旅行好きが読んでもいんだけど!
わたしみたいなインドア人間、
死ぬまでインドにもアフリカにも行かないつもりのヤツにお薦めかも。

「人生とはたまたまである」って言葉が深く響きました。
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2022/09/29 14:03
たまたまインドで旅日記を盗まれちゃって、
帰国してから思い出して書きなおしたものが
『ゴーゴー・インド』のもとになったり。

好きな本を出したいんだけど、
会社なんか始めると旅に出られなくなる。
どうしよう……と悩んでいたら、
ちょうど仕事を辞めたお兄さんが経営を買って出てくれたり。

「この道ひとすじ死に物狂いでウン十年」みたいなのが、
人生の正解ってされがちなのよ。
日本で暮らしてると。

それが悪いとは言わない。
人生いろいろだもん。
ただ、わたしは人生を決めるのって「たまたま」だと思うのね。

良くも悪くも自分の意思では左右できないものに、
助けられたり弄ばれたりしてフラフラしてるのが、
人間というものでは、なかろうか。

蔵前さんの本には教条主義的な堅苦しさが皆無で、
わたしは、そこが好きなんだけど。
「たまたま」に謙虚であるがゆえの姿勢なのだろうな。
***このコメントは削除されています***
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2022/09/29 13:57
蔵前仁一 『あの日、僕は旅に出た』 幻冬舎 2013年(電子版)


滅多にないことなんだけど、
この本がおもしろくて夜更かし。
わたしは寝不足が極端に苦手で、
どんなに楽しい読書でも睡眠を優先させています。

自伝的な性格が強い本です。
前半が旅行作家になるまで、
後半はミニコミから始めた出版社経営の話。

蔵前さんの本は何冊か読んだけど、
わたしには、これがいちばんおもしろかったですね。

藤子不二雄のSF短編に憧れてマンガ家を志していたとか
『ぱふ』の編集部に出入りして樹村みのりさんと仕事をしたとか。
学生時代の意外なエピソードに、まず驚かされました。

ところが持ち込みをした先で、
マンガの現場があまりに出版社主導なことに落胆。
その道をあきらめてデザイナーに転進したそうです。

ちょうどバブル経済にさしかかった好景気の時代で、
出版業界では仕事に困らなかったのだとか。
あまりの忙しさに疲れたころ、
友人の言葉からインド旅行へ出かけることになります。

そこから『ゴーゴー・インド』の出版に繋がり、
やがて「旅行人」という出版社を経営するように。
旅先で出会った奇人変人たちの体験談など、
自分の出したい本を出すために始めたそうです。

わたしは本が大好きですけど、
出版業界のことは何ひとつ知りません。
それだけに蔵前さんの苦労話は興味深く読めました。

あとアフリカの話ね。
すげー、ためになったの。
「貧しくて物騒でライオンや象がいて、
肌の黒いひとたちが暮らしている大陸」。

わたしも含めて大半の日本人はそう思ってるけど、
現実のアフリカは非常に多様なところだといいます。

人種的にも雑多なひとたちが暮らしていて、
マジョリティの黒人も地域によって、
顔つきや肌の色、言葉や文化がまったく違うそうです。
だから「アフリカ系アメリカ人」っていう形容は、
厳密に考えていくと、おかしいのだとか。

だよなぁ。
なにしろ地球の陸地の数分の一を占めてるくらいだし。

もちろん旅行好きが読んでもいんだけど!
わたしみたいなインドア人間、
死ぬまでインドにもアフリカにも行かないつもりのヤツにお薦めかも。

「人生とはたまたまである」って言葉が深く響きました。
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2022/09/28 22:19
伴名 練 『百年文通』 一迅社 2022年 (電子版のみの刊行です)


昨年『コミック百合姫』誌に連載されていた中編小説。
キンドル版のみの販売で、紙は出ていないみたいです。

これがさぁ。
良い本なのよ!
素敵なお話なのよ!

ライトノベルのカテゴリに置かれてましたけど、
勢いで書き飛ばした粗雑さ乱暴さはありません。

旧いお邸に残されていた、これまた古びた机。
その抽斗には、ひとつの秘密がありました。

何か入れるじゃん。
すると百年前の大正時代に届いちゃうんだわ。
過去の人物が現在に何かを送ることもできるのね。

この謎の抽斗を介して、
令和と大正の少女ふたりが文通を始めます。
読者モデルの小櫛一琉(こぐし・いちる)と、
大正時代のお嬢さま日向静(ひなた・しず)。

ほのぼのときめくお話かと思いきや、
予想外の仕掛けがありました。

大正時代のスペイン風邪や、
現在のコロナ禍を巧みに絡ませているんです。

コロナに材を得たフィクションはほかにもありそう。
わたしが読んだのは、これがはじめてです。

机の魔法について詳細が明かされることはありません。
ジャンル的にはSFっていうよりファンタジーだけど、
思考実験的なところからはSFっぽい印象を受けました。

後半の展開が急ぎ気味に感じられた部分も若干。
やや強引に感じられる部分も、なくもないです。
それでも胸をきゅんきゅんさせやがる。

「これが歴史なら、思うさま壊し尽くしてさしあげましょう。
手伝ってくださる?」。

こんなこと言われちゃったらさぁ。
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2022/09/28 21:10
 寺山修司さんの『黄金時代』(河出文庫)を読了しました。
 基本、短歌と詩論の一冊です。
 
 冒頭の現代百人一首は、知っている歌もあれば知らない、しかも秀歌を楽しめるのですが、寺山さんの強引な解釈による解説がかえって面白いw
 
 それにしても本書での寺山さんはすかした言葉というか、はったりの効いた言葉というか、こちらを刺戟する文章が山ほど出てきます。
 
 「原稿用紙の一字分のマス目に一字を起き上がらせる。原稿用紙の一字分のマス目は、ふさがれた窓──何も見えない。原稿用紙の一字分のマス目に、釘のように打ち込まれた一字に帽子をかける。私は私自身の原稿用紙である。書く手は、私を穢し続ける。『歴史の敵は、現在である』と」
 
 また、ジャズ・ファンには嬉しい言葉も。
 「『なぜ、モダンジャズなんかをきくんだね』と私に聞く友人がいる/私がモダンジャズに興味をもつのは、それをきくことが鑑賞ではなく、行為だからである」
 
 この本の刊行時には健在だった中井英夫さんの解説も胸を打つものがあります。余命五年だった寺山さんの「現代百人一首」について、「時間の無駄づかい」と……。
 
 この中井さんの文章もたった数ページにさまざまな短歌論や歌人の代表作が扱われており、こう、全身に「言霊エキス」がきゅーっと染み込むようです。
 
 オクタビオ・パスは詩人にして、詩論の著者であり、その詩論──『泥の子供たち』や『弓と竪琴』など──がありますが、パスは詩よりもその詩論のほうにポエジーがこもってます。
 そんな感じで、この寺山さんの本もまた、短歌論や詩論にもポエジーが宿っております。久しぶりに読んだのですが、やっぱりいいものはいいですね。
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2022/09/27 14:26
ペーター・ヴォールレーベン 『樹木たちの知られざる生活: 森林管理官が聴いた森の声』
 早川書房 2017年(電子版)


ドイツの森林管理官が書いたエッセイです。

樹木も生物だっていうのは、
あくまでも知識のうえでのことで……

岩みたいな「物体」だと、
なんとなく思いこんでいましたけど。
とんでもねー間違いでしたw

弱った仲間を助けたり、
他の種と縄張り争いをしたりするんだって。

ドイツの気候はブナにとって暮らしやすいもので、
森林では他の樹種を圧倒しがちだといいます。
けれど環境が変わると、
ナラなどに簡単に取って変わられるのだとか。

ブナは集団になると強いけど、
孤立していると弱いのだそうです
(日本人みたいですね)。

わたしがいちばん強い印象を受けたのは、
樹木たちが数百年のスパンで生活していることでした。

彼らのものさしから人間の一生を見るなら、
はつかねずみみたいに慌ただしく、
儚いものに映ることでしょう。

樹木たちはめいめい勝手に、
喰うか喰われるかの世界を生きているように見えます。
それでも全体としてみると、
驚くほどみごとに調和しているんですよ。

人間が樹々から学ばなければならないことは、
たくさんあるように思えます。
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2022/09/22 22:22
 みんな大好きコリン・ウィルソン。
 村上柴田翻訳堂企画で復刊した、コリン・ウィルソン『宇宙ヴァンパイアー』を読了しました。
 
 この村上柴田翻訳堂ってなに? って方もおられるでしょうが、村上春樹さんと翻訳家の柴田元幸さんが埋もれた傑作を復刊する企画です。他に読んでみたいのは、フィリップ・ロスの『素晴らしいアメリカ野球』や、C.マッカラーズの『結婚式のメンバー』あたりです。
 あ、ちなみに新潮文庫ですよ!!
 
 この作品、春樹さんと柴田さんの対談でも触れられておりますが、まぁ、文学的にはちょっと落ちるというか、正直に言うとB級作品ですよねw
 でもジャズでもそうなんですが、マイルスやエヴァンスばかりがジャズじゃありません、ちょっとジャズをかじれば、ジャズ入門本には絶対載らない愛すべきB級盤にも惹かれていくのと同様です。クラシックだとカラヤンばかり指揮者じゃない。世界各地のマイナー・レーベルから出てる盤になんとも言えない好さのある演奏があるように。
 
 閑話休題《あだしごとはさておき》、しかしまぁ、人間の生体エネルギー「ライフ・フィールド」を活用・悪用する「ヴァンパイアー現象」をああはじめてこう着地させるかというコリンさんの筆はさすがです──途中、かったるい箇所もあったりするのですがw
 
 でも、生体エネルギーの活用は、お互いのエネルギーの交歓で、悪用はもちろん、被害者のエネルギーだけ吸収して殺してしまう……。
 
 魅力的なのは、途中で登場する、エルンスト・フォン・ガイジャースタムでしょうか? このヴァンパイアー現象を独りで理論化した。若い女の子三人を秘書兼メイドのように雇って生体エネルギーを得て、93歳なのに50歳代にしか見えないという。
 
 そしてラスト近くで語られる人類創世の謎。
 
 栗本薫か中島梓(同一人物ですがw)が「幻想文学」誌で「コリン・ウィルソンは小説を書かなければいい人」とか発言しておりましたがw、そういうところもあります。ちょっと反論できない。
 でもこの作品はなにかこうB級の凄みがあるんですよ、ほんと。
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2022/09/18 21:08
村上春樹 『螢・納屋を焼く・その他の短編』 1984年 新潮社(電子版)


昔のこと。
アルバイトで東京のどこかへ使い走りに出されました。
行った先のことはきれいに忘れてしまったけど、
路傍の古本屋の店先で村上春樹を2冊見つけたんです。

それが『カンガルー日和』と、この『蛍・納屋を焼く~』。
たしかカンガルーが200円で蛍が100円だったかな。

初期の村上春樹の本のなかでは、
わたしは『蛍・納屋を焼く~』がいちばん好きです。

標題作の「蛍」は長めの短編(短めの中編?)で、
長編『ノルウェイの森』のもとになった作品。
「蛍」を軸にエピソードをつけ加えるかたちで
『ノルウェイの森』は書かれています。

『ノルウェイの森』にも素敵なところがいくつかあって、
嫌いな作品ではありませんけど……
わたしは「蛍」のほうが、ずっと好きです。

人間どうしの「わかりあえなさ」とか、
若いひとが死を人生の一部と実感しはじめることとか。
「青年の文学」に普遍的な題材が、
抑制の伴った感傷をまとって綴られています。

「若書き」とまでは言わないけど、
この本に収められたお話からは著者の若さが感じられるんです。
「青さ」と言い換えてもいい、
それがいちばん良いかたちで反映されているのが
「蛍」ではないでしょうか。

わたしは「正しい」っていう言葉が嫌いです。
けど幕切れで「僕」が蛍の消えた夜空を見てる場面。
あそこで終わるのが、このお話は正しいと思うのね。

小林緑も永沢さんもレイコさんも現れない。
わたしは彼らを嫌いじゃないけど、
顔を見せないでいてくれたほうがいい。

そのほうが蒸し暑い夏の夜の孤独を、
かけがえのないものとして切り立たせるから。

『ノルウェイの森』は公式後日談みたいなものでしょう。
わたしは、そう受容しています。
「僕」と「彼女」のその後には、
読者の数だけヴァリエーションがあっていいはずだから。

ふたりは、あれきり二度と会わなかった。
だから「僕」は後年「ワタナベ君」として
『ノルウェイの森』を書いた……そんなふうに妄想してみたり。

ともあれ「蛍」の潔く痛切な幕切れは何物にも替え難いです。
***このコメントは削除されています***
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2022/09/18 20:58
村上春樹 『螢・納屋を焼く・その他の短編』 1984年 新潮社(電子版)


昔のこと。
アルバイトで東京のどこかへ使い走りに出されました。
行った先のことはきれいに忘れてしまったけど、
路傍の古本屋の店先で村上春樹を2冊見つけたんです。

それが『カンガルー日和』と、この『蛍・納屋を焼く~』。
たしかカンガルーが200円で蛍が100円だったかな。

初期の村上春樹の本のなかでは、
わたしは『蛍・納屋を焼く~』がいちばん好きです。

標題作の「蛍」は長めの短編(短めの中編?)で、
長編『ノルウェイの森』のもとになった作品。
「蛍」を軸にエピソードをつけ加えるかたちで
『ノルウェイの森』は書かれています。

『ノルウェイの森』にも素敵なところがいくつかあって、
嫌いな作品ではありませんけど……
わたしは「蛍」のほうが、ずっと好きです。

人間どうしの「わかりあえなさ」とか、
若いひとが死を人生の一部と実感しはじめることとか。
「青年の文学」に普遍的な題材が、
抑制の伴った感傷をまとって描かれています。

「若書き」とまでは言わないけど、
この本に収められたお話からは著者の若さが感じられるんです。
「青さ」と言い換えてもいい、
それがいちばん良いかたちで反映されているのが
「蛍」だと思います。

わたしは「正しい」っていう言葉が嫌いです。
けど幕切れで「僕」が蛍の消えた夜空を見てる場面。
あそこで終わるのが、このお話は正しいと思うのね。

小林緑も永沢さんもレイコさんも現れない。
わたしは彼らを嫌いじゃないけど、
顔を見せないでいてくれたほうがいい。

『ノルウェイの森』は公式後日談みたいなものでしょう。
「蛍」の潔い幕切れは何物にも替え難いです。
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2022/09/18 20:57
あと今回、感心させられたのが「納屋を焼く」の完成度の高さ。
ジャンル小説の枠組み(ゴシック小説的な作法?)
を借りてきて文学的な題材を盛りこむのは村上春樹の得意技です。

「納屋を焼く」の主人公は若い小説家です。
著者の分身かな、と思えるような部分も散見されます。

この「僕」が「彼女」と知りあって親しくなるんです。
ひとまわりくらい歳下の女性で「僕」には妻がいます。
ふたりの関係は年齢の離れた兄妹みたいな感じです。

あるとき「彼女」がふらっとアフリカに行き、
日本人のボーイフレンドを伴って帰国するんです。
「彼」はやり手のビジネスマンらしいのですけど、
あるとき奇妙な話を口にして……

ありふれた日常が不穏な空気をまといはじめます。
そのへんの自然な手際が素晴らしいです。
でも、これはホラー小説じゃなくて、
もっと何か微妙なものを掬いあげようとしてる作品なんですよ。

評価や好き嫌いは読み手によって分かれるかもしれません。
「誰が、そんな面倒な手間かけて納屋なんか燃やすよ!」ってw
アンチ春樹の読者からはツッコミが入りそうですね。

わたしは著者の試みが成功していると思います。
完成度の点では、初期の短編中でも頭抜けているように感じられました。

それから村上春樹っていうと翻訳調のバタ臭い文体。
今回この本を読み返してみて、
あまり文体に癖がないことに気がつきました。

独特のスタイルを確立してはいるんだけど、
後年のものよりプレーンで読みやすいです。
ひとに歴史ありですね。
***このコメントは削除されています***
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2022/09/18 15:06
村上春樹 『螢・納屋を焼く・その他の短編』 1984年 新潮社(電子版)


昔のこと。
アルバイトで東京のどこかへ使い走りに出されました。
行った先のことはきれいに忘れてしまったけど、
路傍の古本屋の店先で村上春樹を2冊見つけたんです。

それが『カンガルー日和』と、この『蛍・納屋を焼く~』。
たしかカンガルーが200円で蛍が100円だったかな。

初期の村上春樹の本のなかでは、
わたしは『蛍・納屋を焼く~』がいちばん好きです。

標題作の「蛍」は長めの短編(短めの中編?)で、
長編『ノルウェイの森』のもとになった作品。
「蛍」を軸にエピソードをつけ加えるかたちで
『ノルウェイの森』は書かれています。

『ノルウェイの森』にも素敵なところがいくつかあって、
嫌いな作品ではありませんけど……
わたしは「蛍」のほうが、ずっと好きです。

人間どうしの「わかりあえなさ」とか、
若いひとが死を人生の一部と実感しはじめることとか。
「青年の文学」に普遍的な題材が、
抑制の伴った感傷をまとって描かれています。

「若書き」とまでは言わないけど、
この本に収められたお話からは著者の若さが感じられるんです。
「青さ」と言い換えてもいい、
それがいちばん良いかたちで反映されているのが
「蛍」だと思います。

わたしは「正しい」っていう言葉が嫌いです。
けど幕切れで「僕」が蛍の消えた夜空を見てる場面。
あそこで終わるのが、このお話は正しいと思うのね。

小林緑も永沢さんもレイコさんも現れない。
わたしは彼らを嫌いじゃないけど、
顔を見せないでいてくれたほうがいい。

『ノルウェイの森』は公式後日談みたいなものでしょう。
「蛍」の潔い幕切れは何物にも替え難いです。
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2022/09/18 15:06
あと今回、感心させられたのが「納屋を焼く」の完成度の高さ。
ジャンル小説の枠組み(ゴシック小説的な作法?)
を借りてきて文学的な題材を盛りこむのは村上春樹の得意技です。

「納屋を焼く」の主人公は若い小説家です。
著者の分身かな、と思えるような部分も散見されます。

この「僕」が「彼女」と知りあって親しくなるんです。
ひとまわりくらい歳下の女性で「僕」には妻がいます。
ふたりの関係は年齢の離れた兄妹みたいな感じです。

あるとき「彼女」がふらっとアフリカに行き、
日本人のボーイフレンドを伴って帰国するんです。
「彼」はやり手のビジネスマンらしいのですけど、
あるとき奇妙な話を口にして……

ありふれた日常が不穏な空気をまといはじめます。
そのへんの自然な手際が素晴らしいです。
でも、これはホラー小説じゃなくて、
もっと何か微妙なものを掬いあげようとしてる作品なんですよ。

評価や好き嫌いは読み手によって分かれるかもしれません。
「誰が、そんな面倒な手間かけて納屋なんか燃やすよ!」ってw
アンチ春樹の読者からはツッコミが入りそうですね。

わたしは著者の試みが成功していると思います。
完成度の点では、初期の短編中でも頭抜けているように感じられました。
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2022/09/18 14:56
村上春樹 『螢・納屋を焼く・その他の短編』 1984年 新潮社(電子版)


昔のこと。
アルバイトで東京のどこかへ使い走りに出されました。
行った先のことはきれいに忘れてしまったけど、
路傍の古本屋の店先で村上春樹を2冊見つけたんです。

それが『カンガルー日和』と、この『蛍・納屋を焼く~』。
たしかカンガルーが200円で蛍が100円だったかな。

初期の村上春樹の本のなかでは、
わたしは『蛍・納屋を焼く~』がいちばん好きです。

標題作の「蛍」は長めの短編(短めの中編?)で、
長編『ノルウェイの森』のもとになった作品。
「蛍」を軸にエピソードをつけ加えるかたちで
『ノルウェイの森』は書かれています。

『ノルウェイの森』にも素敵なところがいくつかあって、
嫌いな作品ではありませんけど……
わたしは「蛍」のほうが、ずっと好きです。

人間どうしの「わかりあえなさ」とか、
若いひとが死を人生の一部と実感しはじめることとか。
「青年の文学」に普遍的な題材が、
抑制の伴った感傷をまとって描かれています。

「若書き」とまでは言わないけど、
この本に収められたお話からは著者の若さが感じられるんです。
「青さ」と言い換えてもいい、
それがいちばん良いかたちで反映されているのが
「蛍」だと思います。

わたしは「正しい」っていう言葉が嫌いです。
けど幕切れで「僕」が蛍の消えた夜空を見てる場面。
あそこで終わるのが、このお話は正しいと思うのね。

小林緑も永沢さんもレイコさんも現れない。
わたしは彼らを嫌いじゃないけど、
顔を見せないでいてくれたほうがいい。

『ノルウェイの森』は公式後日談みたいなものでしょう。
「蛍」の潔い幕切れは何物にも替え難いです。


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2022/09/18 14:53
村上春樹 『螢・納屋を焼く・その他の短編』 1984年 新潮社(電子版)


昔のこと。
アルバイトで東京のどこかへ使い走りに出されました。
行った先のことはきれいに忘れてしまったけど、
路傍の古本屋の店先で村上春樹を2冊見つけたんです。

それが『カンガルー日和』と、この『蛍・納屋を焼く~』。
たしかカンガルーが200円で蛍が100円だったかな。

初期の村上春樹の本のなかでは、
わたしは『蛍・納屋を焼く~』がいちばん好きです。

標題作の「蛍」は長めの短編(短めの中編?)で、
長編『ノルウェイの森』のもとになった作品。
「蛍」を軸にエピソードをつけ加えるかたちで
『ノルウェイの森』は書かれています。

『ノルウェイの森』にも素敵なところがいくつかあって、
嫌いな作品ではありませんけど……
わたしは「蛍」のほうが、ずっと好きです。

人間どうしの「わかりあえなさ」とか、
若いひとが死を人生の一部と実感しはじめることとか。
「青年の文学」に普遍的な題材が、
良質で抑制の伴った感傷をまとって描かれています。

「若書き」とまでは言わないけど、
この本に収められたお話からは著者の若さが感じられるんです。
「青さ」と言い換えてもいい、
それがいちばん良いかたちで反映されているのが
「蛍」だと思います。

わたしは「正しい」っていう言葉が嫌いです。
けど幕切れで「僕」が蛍の消えた夜空を見てる場面。
あそこで終わるのが、このお話は正しいと思うのね。

小林緑も永沢さんもレイコさんも現れない。
わたしは彼らを嫌いじゃないけど、
顔を見せないでいてくれたほうがいい。

『ノルウェイの森』は公式後日談みたいなものでしょう。
「蛍」の潔い幕切れは何物にも替え難いです。
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2022/09/18 14:51
ショーン・タン 『いぬ』 岸本 佐知子(訳) 河出書房新社 2022年


絵本です。
広く読まれてほしいので、この場で紹介することにします。

ショーン・タンは世界レベルで見て、
いま、もっとも旬で尖ってる絵本作家のひとりでしょう。
児童向けっていうより大人に照準を合わせた路線で、
1冊ごとに作風を変えてきます。

けど今回のなんか特に、
小さい子が見ても良さが伝わるかもしれません。

多くのページで、犬と人間が背中合わせに座っています。
原始っぽいのあり戦争を思わせる情景あり。

最後のほうで犬と女性が抱擁しあって、
いっしょに歩きはじめるんですよ。

一枚絵としても完成度が高くて、一見の価値あり。


https://www.shauntan.net/dog-book


それより何より「孤独」のありようを、
巧く掬いあげていることに感心させられました。

全人類この本を手に取るべし。

岸本佐知子さん、あいかわらず良い本を訳してきますね。
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2022/09/17 21:45
『トランス・オブ・ウォー(下、松岡圭祐)』を読み終えました。

 最後の美由紀ちゃんが横笛を吹くシーンは、涙を誘います。

詳しいことはブログにて・・・。
https://www.nicotto.jp/blog/detail?user_id=1519417&aid=71681131
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2022/09/16 20:21
レイ・ブラッドベリ 『火星年代記(新版)』 小笠原 豊樹ほか(訳) ハヤカワ文庫SF 
 2010年刊(電子版)


原著は1950年刊。
この翻訳は1997年に出た改定版を底本にしているそうです。

『火星年代記』には、ちょっとした思い出があります。

まず、この本のエピソードのひとつを、
ラジオドラマで聴いた憶えがあること。
十代のころだったかな。

あとバイオレンス小説の作家(菊地秀行さんだった気が)が
「お勉強のつもりで読んだら、
涙が止まらなくなった」と書いてたこと。

で、遂に読んでみたわけよ。

うわぁー古めかしい。
これ買っちゃったの失敗だったかも。

って思ったわけ当初は。
それが読み進むにつれて、だ。
ごめんなさいブラッドベリさん。
ありがとうブラッドベリさん。
な心情に激変させられてだな……

これは名作です。
断言します。
なるほどバイオレンス作家も泣かされるわけですw

火星に仮託して前世紀中葉のアメリカ白人の、
さらには人類の儚さ愚かさが紡がれます。
さすがに現代ではコンプライアンス的にどうなの
(女性差別だろコレ)っていう部分も散見されました。

けど名作であることは変わらないはずです。

ずっと読み継がれ、
愛され続けることを願って止みません。
***このコメントは削除されています***
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2022/09/16 20:11
レイ・ブラッドベリ 『火星年代記(新版)』 小笠原 豊樹ほか(訳) ハヤカワ文庫SF 
 2010年(電子版)


原著は1950年刊。
この翻訳は1997年に出た改定版を底本にしているそうです。

『火星年代記』には、ちょっとした思い出があります。

まず、この本のエピソードのひとつを、
ラジオドラマで聴いた憶えがあること。
十代のころだったかな。

あとバイオレンス小説の作家(菊地秀行さんだった気が)が
「お勉強のつもりで読んだら、
涙が止まらなくなった」と書いてたこと。

で、遂に読んでみたわけよ。

うわぁー古めかしい。
これ買っちゃったの失敗だったかも。

って思ったわけ当初は。
それが読み進むにつれて、だ。
ごめんなさいブラッドベリさん。
ありがとうブラッドベリさん。
な心情に激変させられてだな……

これは名作です。
断言します。
なるほどバイオレンス作家も泣かされるわけですw

火星に仮託して前世紀中葉のアメリカ白人の、
さらには人類の儚さ愚かさが紡がれます。
さすがに現代ではコンプライアンス的にどうなの
(女性差別だろコレ)っていう部分も散見されました。

けど名作であることは変わらないはずです。

ずっと読み継がれ、
愛され続けることを願って止みません。
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2022/09/14 17:38
大和田 俊之 『アメリカ音楽史 ミンストレル・ショウ、ブルースからヒップホップまで』
 講談社選書メチエ 2011年(電子版)


「擬装」をキーワードに、
アメリカの音楽史(クラシックは除く)を読み解く本です。

白人が黒人に扮したミンストレル・ショウに始まる、
異人種を装うことから生まれる影響関係。
これがアメリカの音楽を特徴づけているのではないか……
っていうのが本書の主張の超おおざっぱな要約(?)。

ちょっと強引かつ頭でっかちと、思えなくもありません。
同時に頷ける部分もありました。

「俺たち黒人が新しいことを始めると、
かならず白人が真似して金儲けの種にしやがる」。

マイルスが自伝で、こんなふうにぼやいてましたっけw
大筋で正しいのですけど、
個別に見ていくと、もっと複雑なんですね。

たとえばギャングスタ・ラップ。
粗野でマッチョなふるまいで知られる分野です。
じつは聴き手の若い白人たちが期待する
「タフな黒人ラッパー像」を演じる部分が少なくないとか。

おおざっぱに括られがちな「正史」から、
こぼれ落ちる細部をまなざしてみよう。
おもしろいものが見えてくるかもよ?

わたしには、そういう提案の本に読めました。
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2022/09/13 20:26
 わたしの小説にも影響を与えた、J.G.バラードの『スーパー・カンヌ』(新潮社刊)を読み終えました。
 
 これは実際にあたっていただくしかないのですが、バラードの前衛的な傑作、『残虐行為展覧会』(米題では『愛とナパーム アメリカ輸出品』)、数行に切り詰められ、濃縮されたものが、そのまま長編に変異した、そんな感じの傑作でした>『スーパー・カンヌ』
 
 舞台はカンヌの郊外、シュペール・カンヌにあるエデン・オランピア。ここではシリコンバレーとドバイが混ざったようなIT、ハイテク、さまざまな「ビジネスパーク」と化しています。
 
 こんな場所に暮らして、いわゆる余暇を楽しむなんて金持ちはおらず、もう本当に仕事ばかりなのです。
 しかし、そんな場所で起きた銃撃事件。
 
 正気な人間が、きらびやかな、殺菌されたようなハイパー都市で暮らしているうちに、誰の無意識にも芽生える狂気。
 
 主人公ポール・シンクレアは、飛行機事故での怪我もあり、またエデン・オランピアにも馴染めずに、銃撃事件を起こした犯人への興味と好奇心がわき、もう公式には片付いたはずの事件の真相を暴こうとしていきます。
 
 そして、じつは裏で糸を弾いているような精神分析医ペンローズ。
 「精神の戦争は、郊外で行われる」とインタビューでバラードが語っておりましたが、知的サスペンスのような味わいもよかったです。
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2022/09/13 17:46
蔵前仁一 『旅がくれたもの』 旅行人  2021年


ひさしぶりに紙の本を読みました。
わたしの電子環境だとモノクロ表示になっちゃうんだけど、
この本はどうしてもカラーで眺めたかったんです。

かつて学生のわたしをインドにおびき出しかけた、
戦犯・蔵前仁一さんがコロナ禍中に出したもの。

コロナで旅に出られなかった時期を巧く使って、
世界各地で出会った「おみやげ」を紹介しています。
名産の織物とか陶磁器、民芸品なんかですね。

わたしは大のモノ好きでして。
よく民芸品のお店に並んでるような、
動物の張り子なんかに目がありません。

ガチで手を出すと地獄を見るの確定ですから、
日ごろ、そうした品には近寄らないようにしています。

蔵前さんはもともとデザイナーかマンガ家志望だったと、
別著で読んだ憶えがあります。
最初の海外旅行もアートを学びにニューヨークへ、でした。

それだけに見る目があって、
おもしろい品物が揃っています。
おうちで手軽に脳内海外モノ旅行できて、
なかなか重宝な本でした。

期待の動物モノは多くなかったんだけど、
メキシコの犬の土人形(獣形?)!
半端ないヘタレっぷりに脳内で変な汁が止まりませんでした。

あれ、どっかのお店に並んでたら、
もう条件反射で財布のヒモが緩みまくるはずです。
くわばらくわばら。

世界は広いって、
視覚的に納得させてくれる楽しい本ですよ。
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2022/09/11 20:33
梅田 孝太 『今を生きる思想 ショーペンハウアー 欲望にまみれた世界を生き抜く』
 講談社現代新書 2022年(電子版)


ショーペンハウアー(ショーペンハウエル)の本、
しばらく前に『読書について』を買ってるんです。
それに手をつける前に、
著者の人となりや思想を知っておきたいと思って。

主著『意志と表象の世界』についての説明、
アホのわたしには、なかなか難しかったです。

だが、しかし。
読んでよかった!と心底まで腑に落ちたポイントひとつ。

ショーペンハウアーは
「生への盲目的意志」という言葉を使います。

「望んだわけでもないのに、
苦に満ちた世界で生きることを自らに強要するもの」。

そのくらいの意味に、わたしには捉えられました。
「意志」から、どのようにして自由になるか……
を生涯にわたって問い続けた思想家のようです。

わたしは本とかCDとか、ぬいぐるみとか買うのを、
どうしても止められません。

そこ!
笑ってんなよ。
大事な話なんだからw

無尽蔵に湧いてくる欲望に翻弄され、
満足を手に入れたと思えば、また渇きに襲われる……

ひとによっては肩書や経歴であったり、
お金や経験であったり、モノであったり。

誰もが「生への盲目的意志」に支配されてる結果!
永遠の堂々めぐりっていうか、
死ぬまで振り回され続けるわけですよ。

すべての人間に例外なく、あてはまることです。
欲望の結果として対立や争いが生まれます。
ホッブズは「万人の万人に対する闘争」
って呼びましたっけ(これは学生時代に教わりました)。

わたしは物心ついてから、ずっと、
他人は(ごく一部を除いて)
悪意に満ちた怪物みたいなものだと思ってきましたけど!

彼らも、わたしと変わらず
「生への盲目的意志」の奴隷でしかなかったんですね。
生まれてはじめて人類全体に、
無条件の共感めいたものを感じた……かも。

ショーペンハウアー先生ありがとう。
(U´ェ`U)ピャー!
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2022/09/10 15:06
寺山修司 『寺山修司全歌集』 講談社学術文庫 2011年(電子版)


昭和後半を駆け抜けた歌人にして劇作家、
寺山修司の全歌集です。

昔、親切にしてくれたミュージシャン夫妻の、
奥さんが若いころ寺山さんに会ったと言ってました。
たしか高校生くらいで寺山にハマり、
ピアノの先生か誰かの伝手で楽屋に入れたんだって。

寺山さん晩年の話だと思います。
サインをもらって握手してきたそうです。

さて全歌集。

寺山修司っていえば早熟の歌人っていうか、
アンファン・テリブル。
高校生くらいのころの歌に、
素晴らしいものがいくつもあります。

たとえば、これ。


 海を知らぬ少女の前に麦藁帽のわれは両手を広げていたり


いまは教科書にも載ってるそうですね。
わたしは「われ」が通せんぼしてる、
好きな子いじめの歌だと思ってたんだけど!

海の大きさを一生懸命に、
説明しようとしてる歌らしいです(笑)。
歌人本人もこの歌が気に入ってたみたいで、
自分のエッセイのなかに引いています。

とにかく天衣無縫。
呼吸するごとに、かけがえのない歌が詠めてしまった。
そういう感じ。

対して大人になってからは、
歌がだんだん苦しくなってくるんです。
頭で作ってる感じのものが目立ちます。

35歳で短歌をやめてしまったそうですけど、
これは続けられないだろうな……
と、いうのがわたしの率直な印象。

若くして完成された才能に恵まれた人物が、
後年になって苦労するケースは音楽家に多いような気がします。
ピアニストのイーヴォ・ポゴレリチとか、
サックス奏者のソニー・ロリンズあたりです。

文筆家ではめずらしいケースかもしれません。
あ、ランボーがいたっけ。

あと犬の出てくる歌が、ちらほらあります。


 冬の犬コンクリートにじみたる血を舐めてをり陽を浴びながら


どうも寺山修司の世界では、
犬は老病死や貧寒を象徴する存在みたいです。
気の毒なやっちゃ。
***このコメントは削除されています***
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2022/09/10 15:01
寺山修司 『寺山修司全歌集』 講談社学術文庫 2011年(電子版)


昭和後半を駆け抜けた歌人にして劇作家、
寺山修司の全歌集です。

昔、親切にしてくれたミュージシャン夫妻の、
奥さんが若いころ寺山さんに会ったと言ってました。
たしか高校生くらいで寺山にハマり、
ピアノの先生か誰かの伝手で楽屋に入れたんだって。

寺山さん晩年の話だと思います。
サインをもらって握手してきたそうです。

さて全歌集。

寺山修司っていえば早熟の歌人っていうか、
アンファン・テリブル。
高校生くらいのころの歌に、
素晴らしいものがいくつもあります。

たとえば、これ。


 海を知らぬ少女の前に麦藁帽のわれは両手を広げていたり


いまは教科書にも載ってるそうですね。
わたしは「われ」が通せんぼしてる、
好きな子いじめの歌だと思ってたんだけど!

海の大きさを一生懸命に、
説明しようとしてる歌らしいです(笑)。
歌人本人もこの歌が気に入ってたみたいで、
自分のエッセイのなかに引いています。

とにかく天衣無縫。
呼吸するごとに、かけがえのない歌が詠めてしまった。
そういう感じ。

対して大人になってからは、
歌がだんだん苦しくなってくるんです。
頭で作ってる感じのものが目立ちます。

35歳で短歌をやめてしまったそうですけど、
これは続けられないだろうな……
と、いうのがわたしの率直な印象。

あと犬の出てくる歌が、ちらほらあります。


 冬の犬コンクリートにじみたる血を舐めてをり陽を浴びながら


どうも寺山修司の世界では、
犬は老病死や貧寒を象徴する存在みたいです。
気の毒なやっちゃ。
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2022/09/09 20:43
カート・ヴォネガット・ジュニア 『スローターハウス5』  伊藤 典夫 (訳) ハヤカワ文庫SF
 1978年刊(電子版)


これは傑作!
読み終えるのが、もったいなかったです。

著者自身の戦争体験を下敷きにしているようですけど、
ナンセンスなSFを絡ませたのが大成功しています。
こういうのを「文学」って呼ぶのではなかろうか。
言葉の本来の意味で。

戦争文学はどうしても重くなってしまいますよね。
この本はドレスデン爆撃とか捕虜体験を扱ってるから、特に。

変な宇宙人とか四次元とかが巧く中和させてるんです。
それでいて悪ふざけ感がないのが凄い。
筋らしい筋がないのに、おもしろいのが立派。
こらーヴォネガットさん偉いわ。

ヴォネガットは十代のころから読みたかった作家です。
本の数が多いので、
なんとなく後回しにしてたら歳を喰っちまいましたw

『チャンピオンたちの朝食』と
『モンキーハウスへようこそ』を持ってたのに……
うっかり処分してしまったことが惜しまれるかぎり。

こんどこそ読もうと買いまくりましたw

そうそう。
村上春樹の初期のスタイルって、
あきらかにヴォネガットを意識してますね。
どこかで指摘されてたけど間違いありません。

「語らねばならないこと」を抱えていたヴォネガットと、
「語ることが特にない」のに書いた村上春樹と。

どちらが良い悪いではなく、
主題は対照的なのがおもしろかったです。
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2022/09/02 19:23
『雪の妖精(川原礫)』を読み終えました。
 クロウくん、カッコよすぎです♪

詳しいことはブログにて・・・。
https://www.nicotto.jp/blog/detail?user_id=1519417&aid=71630071
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2022/08/31 21:50
ロアルド・ダール 『あなたに似た人』I・II  田口 俊樹 訳 ハヤカワ・ミステリ文庫
 2013年刊(電子版)


わたし昔に田村隆一訳で持ってたんだけど、なぜか挫折しちゃったんだよな。
たぶん活字の小ささが厳しかったのかと。

『チャーリーとチョコレート工場』の映画、良くできてましたね。
ロアルド・ダールさん、大人向けの本も書いてます。

底意地の悪いお話ばっかりの、じつに愉快痛快な短編集です。
特異な状況を思いつくセンスにおいて、ダールは他の追随を許しません。

よく知られた短編のひとつであろう「南から来た男」。
のんびりしたプールの情景が、奇妙な男の提案した賭けで一変します。

主人公たちが非日常に翻弄されて本性を露呈させていくのね。
『チョコレート工場』も、そういう話だっけ。
「あなたに似た人」っていう標題が意味深です。

連作短編「クロードの犬」では、
田舎のドッグレースの様子が活写されています。
犬どもがかわいそうだろ!
人間最低。

旧訳にしようか迷ったけど、田口俊樹さんによる新訳で読んでみました。
訳文に癖がなくて広くお薦めできます。

この新訳版は二分冊で、
従来の本には未収録だった作品も収められています。
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2022/08/29 21:24
 今書いている小説「SOL《ゾル》」のなかにはいくつか小説内小説が出てきます。
 
 再読して勉強しないと、と思ったのが、ガヤトリ・C・スピヴァクの『デリダ論』でした(平凡社ライブラリー刊)。
 この本、ジャック・デリダの『グラマトロジーについて』の英訳時につけられた、「長い序文」です(邦訳にして200ページぐらい)。
 
 この本でたとえばデリダの戦術のひとつ、「脱構築」がわかるかどうかは微妙です。(わかるようなわからないようなで、わたしもこういうことです、って人に伝えられないレベル)。
 
 たとえばこんな言葉が出てきます。
 「記号は誤って名付けられた事物であり哲学の最初の問いかけを逃れている」
 これ、横線でしか表現できませんが、本当はバツ印がつけられています。
 
 まるでこの言葉は意味がなくダメな言葉だといわんばかりに。フェミニズム的なんて箇所もありました。
 
 これは最初の言葉に戻ると、事物という言葉になぜバツ印がつけられているかというと、事物、と言ってしまうと事物以外の別の言葉、概念など、新たな問いを呼びこんでしまうのです。
 
 なので、とりあえずは「非・事物」という問いを引き出さないように、でも事物としか、人間の今の言葉では表現できないので、こういう表現をせざるを得ないのですね。
 
 このバツ印を「抹消の線の下」といいます。
 
 この序文、英語圏に紹介されたときすでにスピヴァク自身はこうした哲学的操作に慣れており、またデリダとの関係でニーチェ、フロイト、ハイデガーらをある程度読んでいないとキツい……というものだったそうで。
 
 もちろん、『グラマトロジーについて』(デリダの書いたほう)も邦訳されているのです。
 
 本書についてもうちょっと書きますか……。
 
 形而上学の閉塞。これを問題視したニーチェ、フロイト、ハイデガーは「抹消の下に」の戦略に出ます。ニーチェは「認識」、フロイトは「精神」、ハイデガーは存在論をそのまま「抹消の線」を使って。
 
 この、ある事物の現前を消しながらもそれが読めるようにバツ印をつけて残すという哲学的身振りをデリダもおこないます。
 おこなうのですが、形而上学の囲いからわたしたちを解き放つと同時に、その内部でわたしたちを保護する身振り、でもあります。
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2022/08/27 20:34
フリードリヒ・ニーチェ 『ツァラトゥストラ』上・下 丘沢 静也 訳 
 光文社古典新訳文庫 2010、11年刊(電子版)


預言者ツァラトゥストラの辻説法を中心に、
物語としてまとめられた箴言集です。

論理的な手続きを踏まなくても読めます。
ふだん哲学書に縁のない、
わたしでも通読できました。

特にこの新訳版はカジュアルで親しみやすいです。
わたしは若いころ中央公論社の「世界の名著」版で、
挫折しましたので……

ニーチェは過激な思想家という先入観がありました。
じっさい読んでみると、
ずいぶん女性蔑視的なことを言ってます。
額面どおりに読めば、
暴力礼賛的に解釈できる部分もありますし。

反面けっこうトボけたところもあって、
キリストや聖書をしきりにからかっています。
ろばを拝みはじめる場面では笑わせてもらいました。

ドヤ顔で書いてるんだろうなー、と思う部分あり。
意外におちゃらけてる部分もあり。
著者がなかなか愉快なヤツに感じられて
「精神病院で狂死したニーチェ」像が変わりました。

さすがに詩人哲学者と呼ばれるだけあって、
美しい言葉があちこちで現れて溜息を吐かされます。

わたしは、この本
「すべての常識や道徳を、いちど疑ってごらん」
っていう提案として読みました。
あと「永遠の努力目標」ね。
ツァラトゥストラ自身も、
超人への橋のひとつでしかないのだから。

アル中の祖父はニーチェのどこに惹かれたんだろう。
時間を置いて、また読み返してみたい本です。
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2022/08/27 11:49
 『斜陽』、けっこう複雑な構成ですね。
 ただの一人称小説ではありません。
 主人公、というか話者のかず子さんの独白に書簡体のパートがきたり、七章はほとんど直治《なおじ》の遺書だったり……。
 
 もともと太宰治がインスパイアされたの、著名なチェーホフの『桜の園』なのですが、個人的にはずっと好きな作品です(『桜の園』もいいし、神西清先生の訳も見事なので優劣つけがたいのですが……)。
 
 わたしはメンタルを病んでいたり(それかそんなに重篤ではないいわゆるファッションメンヘラとかね)、とにかく「痛い自分」の存在を肯定したくて、太宰の『人間失格』を手にとる子たちを見てきました。というより、太宰の作品はどれも文章が美しく、せっかく『人間失格』を読むなら太宰そのものにハマってくれないか……と思ってました。
 葉蔵に自分のダメさを投影させて正当化する……といった類の。
 本当にそんな正当化しかできないうちはある意味幸せです。あの太宰治の文章の端々に貴顕《きけん》ならではの苦悩が塗り込められている。その猛毒に気づいたらもう他にも太宰作品に手を出さずにはいられないでしょうから。
 
 『桜の園』よりも一段と顕著なのは、崩壊していくかず子たちのそれぞれ、直治、母、それに洋画家の上原らの没落や崩壊の感覚です。
 やはり、わたしはそういう貴顕、貴族とか憧れがあるのですよ、たぶん。
 だから、『人間失格』をメンヘラであることを正当化してくれる小説と思って読んでいる子たちを笑えないかもしれません。
 
 もちろん、題名からして『斜陽』ですから、いくら貴顕に憧れるとはいっても題名からもう崩壊は決まっているんです。
 それを知ってて、読んでなんだか共感してしまう。
 
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2022/08/27 11:49
 そしてテクストとかエクリチュールとかいろいろな小洒落た言葉がありますが、とにかく文章が巧みです。ナカグロ(ローザ・ルクセンブルクのローザのあとの点)が抜けてますが、ローザ・ルクセンブルクの『経済学入門』(1933年邦訳)や『《《レニン》》選集』、『社会革命』カウツキイなどを読んで、少しそのあとでかず子が妙な高揚というか多幸感を味わう場面は壮絶。
 新潮文庫旧版だと131ページ、まるで蓮實重彦のように句点を極端に打たない長回し、「と、ばか叮寧なお辞儀をして、外へ出て、こがらしに吹かれ、戦闘、開始、恋する、すき、こがれる、本当に恋する」(まだまだ長いです。後略)はある種かず子のエッセンスが詰まっているといってもいいぐらいです。六章で二回、かず子が自分に言い聞かすような「戦闘、開始。」の切り詰められた言葉が、没落しようが貴顕は貴顕、そんな意味とともに、エクリチュール、要は書かれた文章《テクスト》の強度がすさまじいことになっています。
 
 直治の科白、日記や遺書は、かなり確実に太宰治本人の肉声でしょう。
 太宰のようになるにはまずは貴族の出で、そこから意図的・非意図的に転げ落ちてゆく。また、その自分の半身のような人物に自分を託す、そこにはある種の甘えもあるでしょう。それに、自分が没落したのは、周りが悪かったんだ……みたいな……。
 『人間失格』なども、本当は周囲の人間たちに「生まれてすみません」と言わせたい、そんなものがあったのではないかと。
 
 わたしは好きな作家でも、あまりに代表作、有名作になると敬遠するという悪癖がありますが(たとえばヘッセでも『車輪の下』は未読)、『斜陽』はここまで凄いとは予想だにしておりませんでした。
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2022/08/24 10:24
『女が死ぬ』松田青子
を読み終えました。
以下、日記の文章そのままです。



「女らしさ」が、全部だるい。
天使、小悪魔、お人形...
「あなたの好きな少女」を演じる暇はない。
好きに太って、痩せて、がははと笑い、
グロテスクな自分も祝福する。
一話読むたび心の曇りが磨かれる、
シャーリイ・ジャクスン賞候補作「女が死ぬ」を含む53の掌篇集。




を、読んだのよポコU´ェ`)ノ
ちまちま読んで、今朝読了。

なんというか。
あー。
悪くはない。
悪くはないけど、
シャーリイ・ジャクスンの名前を出すほどか?
と言われると、甚だ疑問。

元ネタがわからないと楽しめないお話が
あったりして、
あまり万人にはおススメできない。
(表題作はそれなりに下品だし)

悪くはないけど、心が震えるような
読後感はなかった。残念。

私には、図書館で気が向いたら手に取ってもいいかな、
買うほどではないな…
くらいの相性だった(U´ェ`U)ピャー

読みやすいは読みやすいので、
「ちょっとでも気になった本は片っ端から読むタイプ」
の人は、読んでみてもいいかもしれない。
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2022/08/24 03:48
『消滅~Vanighing Point~(下、恩田陸)』を読み終えました。

読み終わったあとは恩田さんのいつもの切れのある推理には今回はちょっと物足りなさを感じます。

詳しいことはブログにて・・・。
https://www.nicotto.jp/blog/detail?user_id=1519417&aid=71601475
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2022/08/23 20:47
宗像 充 『ニホンオオカミは消えたか?』 旬報社 2017年(電子版)


丹念な取材のもとで執筆された労作です。

日本にいた狼は、
明治時代に絶滅したというのが定説です。
けれど近年まで目撃情報がとぎれず、
正体不明の動物の鮮明な写真も存在します
(「秩父野犬」でググると出てきます)。

ニホンオオカミは絶滅したのでしょうか。
ネッシーなんかと違って、
ある時期まで実在していた証拠のある動物です。

ところが現存する遺留物が古いものばかりで、
記録上の混乱も認められます。
学者どうしの対抗心や虚栄心が作用して、
より問題を錯綜させている面もあるようです。

さらに「ニホンオオカミ」は一種ではなく、
大型のものと小型のものが存在したのではないか……
そういう見解まで出てくるんですよ。

とうとう著者自身が、
犬でも狐でも狸でもない動物と遭遇することに……

追えば追うほど正体がつかめない。
「分類」や「種」は学問上、不可欠の概念です。
けど、それらが足をひっぱる場合もあるんですね。

絶滅も分類も種も、人間が勝手に考えた物差しです。
狼たちは陰で舌を出して笑ってるのかも。
いい迷惑だと呆れてるでしょうか。

わたしが強い印象を受けたのは、
山に捨てられていたハスキー犬を保護した女性の話。

犬といっしょに見たことのない動物がいたのだそうです。
そいつが「この犬を助けてやってくれ」と、
目で訴えてから姿を消したのだとか。

謎の動物が狼でも、そうでなくても。
こういう話に遭遇すると嬉しくなります。
***このコメントは削除されています***
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2022/08/23 20:46
宗像 充 『ニホンオオカミは消えたか?』 旬報社 2017年(電子版)


丹念な取材のもとで執筆された労作です。

日本にいた狼は、
明治時代に絶滅したというのが常識です。
けれど近年まで目撃情報がとぎれず、
正体不明の動物の鮮明な写真も存在します
(「秩父野犬」でググると出てきます)。

ニホンオオカミは絶滅したのでしょうか。
ネッシーなんかと違って、
ある時期まで実在していた証拠のある動物です。

ところが現存する遺留物が古いものばかりで、
記録上の混乱も認められます。
学者どうしの対抗心や虚栄心が作用して、
より問題を錯綜させている面もあるようです。

さらに「ニホンオオカミ」は一種ではなく、
大型のものと小型のものが存在したのではないか……
そういう見解まで出てくるんですよ。

とうとう著者自身が、
犬でも狐でも狸でもない動物と遭遇することに……

追えば追うほど正体がつかめない。
「分類」や「種」は学問上、不可欠の概念です。
けど、それらが足をひっぱる場合もあるんですね。

絶滅も分類も種も、人間が勝手に考えた物差しです。
狼たちは陰で舌を出して笑ってるのかも。
いい迷惑だと呆れてるでしょうか。

わたしが強い印象を受けたのは、
山に捨てられていたハスキー犬を保護した女性の話。

犬といっしょに見たことのない動物がいたのだそうです。
そいつが「この犬を助けてやってくれ」と、
目で訴えてから姿を消したのだとか。

謎の動物が狼でも、そうでなくても。
こういう話に遭遇すると嬉しくなります。
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2022/08/22 17:46
 コリン・ウィルソンの『二十世紀の神秘家 ウスペンスキー』(河出書房新社刊)を読み終えました。
 
 やはり神秘家で、もしかしたらウスペンスキーより有名かも!? というグルジェフの高弟がウスペンスキーです。
 本書では、ウスペンスキーはグルジェフへの接触前にじゅうぶんその思想などを獲得しており、そのグルジェフとの関係があった数年がウスペンスキーをある程度まで制限してしまった、が著者の意見です。
 
 たとえば、グルジェフは自由意志などはない、と語り、一方でウスペンスキーは人間は機械ではない、「自己」は拡張できる、という信念をいだいておりました。
 
 「われわれはあまりに機械的なので、いつのまにか自動的になっている。非常事態や危機によって、われわれは目ざめる。もしこの『自動化』を突き抜ける『目ざまし時計』があれば問題は解決するだろう」(P92)
 
 だから、一部の人はわざと問題や危機を引き起こすのです。ここにグルジェフは着目して、「グループ・ワーク」でワークに参加している者たちが相互に目ざめる、そういう意図を込めて主催しておりました。
 その「ワーク」もけっこう強くユニーク(他とはちがうという意味で使っております)で、失神するほどぐるぐる回るとか、たとえばコップならコップを見つめて、現在の人間の存在からさらに高次な次元を視る、グルジェフが「とまれ」と言ったらとにかく瞬時にして止まらなければならない、とさまざま。
 
 そう、こういう「目ざめた」ときに拡張する意識や恍惚、集中、それらを著者は「X機能」と呼んでおります。が、正直なところ、『フランケンシュタインの城』(平河出版社刊)以降のコリン・ウィルソンのこうした論考本は、もうX機能をからめた著作になっちゃっているんですよ……。
 
 ただ、本書やユングやクロウリーの伝記はX機能云々より前に読むのが面白かったりします。
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2022/08/21 20:35
河本 泰信 『「ギャンブル依存症」からの脱出 
 薬なしで8割治る“欲望充足メソッド”』 SB新書 2015年(電子版)


これも精神科の先生の本です。
わたしはお買い物中毒で困ってるから、
参考にできる部分を探そうと買ってみました。
電子本のセールで440円。

精神科医や心療内科医もさまざまですね。
今回の先生は自閉傾向を自認しており、
他人と共感的に関わることが苦手だそうです。

わたしも自閉傾向の強さを自覚していますけど、
著者が身近にいたら苦手に感じるかもしれません。

きのうおとといの本の先生たちは行間から、
優しさが伝わってくるところがあったんです。
この先生には、それが無いのね。

著者は重度のアルコール依存症で、
自分の経験から得た知見を治療に応用しているそうです。
非自閉/自閉という、
患者のタイプに応じてアプローチを変えるとか。

大酒を飲んで同僚の前で失禁したとか(笑)、
自分の失敗談を隠さず潔い正直さに、
わたしは好感を持ちました。

同時にネットやゲームの依存症、
ひきこもり等に対する態度が、
きわめて冷淡なものに映り反感を抱いたことも、
つけ加えておきます。

著者は自らのアルコール依存の根底に、
名誉欲があることを自覚したと書いています。

ギャンブル依存の患者さんたちも、
自分の抱える欲求に気づくと、
問題行動が解決していく場合が多いそうです。

わたしは……どうなんだろう。
本や音楽は何よりも現実逃避の手段でした。
「他人が知らない世界を知っているぞ」っていう、
劣等感の埋め合わせも、ないわけじゃなかったけど。

基本的には他人や世の中のもたらす恐怖を忘れて、
ありのままの自分に還れる世界が本や音楽だったんです。
そこには競争も暴力もなかったからね。

自分の根底にある欲求に気づいた患者さんたちは、
お小遣いの範囲でギャンブルを楽しめるようになるのだとか。
わたしも物欲と巧くつきあっていかないと。
***このコメントは削除されています***
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2022/08/21 20:34
河本 泰信 『「ギャンブル依存症」からの脱出 薬なしで8割治る“欲望充足メソッド”』
 SB新書 2015年(電子版)


これも精神科の先生の本です。
わたしはお買い物中毒で困ってるから、
参考にできる部分を探そうと買ってみました。
電子本のセールで440円。

精神科医や心療内科医もさまざまですね。
今回の先生は自閉傾向を自認しており、
他人と共感的に関わることが苦手だそうです。

わたしも自閉傾向の強さを自覚していますけど、
著者が身近にいたら苦手に感じるかもしれません。

きのうおとといの本の先生たちは行間から、
優しさが伝わってくるところがあったんです。
この先生には、それが無いのね。

著者は重度のアルコール依存症で、
自分の経験から得た知見を治療に応用しているそうです。
非自閉/自閉という、
患者のタイプに応じてアプローチを変えるとか。

大酒を飲んで同僚の前で失禁したとか(笑)、
自分の失敗談を隠さず潔い正直さに、
わたしは好感を持ちました。

同時にネットやゲームの依存症、
ひきこもり等に対する態度が、
きわめて冷淡なものに映り反感を抱いたことも、
つけ加えておきます。

著者は自らのアルコール依存の根底に、
名誉欲があることを自覚したと書いています。

ギャンブル依存の患者さんたちも、
自分の抱える欲求に気づくと、
問題行動が解決していく場合が多いそうです。

わたしは……どうなんだろう。
本や音楽は何よりも現実逃避の手段でした。
「他人が知らない世界を知っているぞ」っていう、
劣等感の埋め合わせも、ないわけじゃなかったけど。

基本的には他人や世の中のもたらす恐怖を忘れて、
ありのままの自分に還れる世界が本や音楽だったんです。
そこには競争も暴力もなかったからね。

自分の根底にある欲求に気づいた患者さんたちは、
お小遣いの範囲でギャンブルを楽しめるようになるのだとか。
わたしも物欲と巧くつきあっていかないと。
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2022/08/20 22:47
鈴木 裕介  『NOを言える人になる 他人のルールに縛られず、
 自分のルールで生きる方法』 アスコム 2020年 (電子版)


心療内科の先生が書いた本です。
雑誌のサイトで読めた著者のエッセイが、
響くものだったので買ってみました。
読んでみて本書の一部を抜粋したものと判明。

ひとことで言うなら
「世間の呪いから自分を解放してあげよう」。
著者自身の体験や臨床の現場での出会いを踏まえて、
わかりやすく書かれています。

わたしは断り下手で、
嫌いな友達とズルズルつきあって損をした経験があります。
不本意な頼まれごとを巧く断れず、
後悔したひとは少なくないのでは。

他人の悪意や世間の桎梏から、
巧く距離を取るにはどうふるまうのが妥当でしょう。

著者の指摘のひとつが
「身体の訴えを無視せず敏感になること」。

たしかに学生時代は何かしらの症状が心身に出ていました。
無理して嫌いな友達に会った後は、
しばしば熱を出して寝こんだものです。

あらためて気づかされたこと。
「世間の呪い」が深く深く、
自分の心身に叩きこまれ刻みこまれてしまってるんですよ。

わたしは立身出世や効率主義を是とする価値観が大嫌いです。
それでも「これを身につければ役に立つかも」とか……
いつのまにか自分の「好き」や「心地よい」より、
世の中の物差しを優先して考えてしまってた部分がありました。

頭で世間の物差しに反発していても、
いつのまにか無意識に侵入されているのが怖いところです。

もちろん人生には妥協や打算が必要な局面もあります。
「本意ではないけれど世の中に合わせる」と、
自覚できていれば問題はないでしょう。

問題は「自分で選んでる」つもりが知らず知らず
「世間の呪いに選ばされてる」場合ですね。
これは不幸になります。

ときどき立ち止まって、
自分が呪いにかかってないか心の点検が必要です。
そういう意味で、この本はとても役に立ってくれました。

あと驚かされたこと。
きのうの本とそっくりな一節があったんです。
どれほど強そうに見える人間でも、
かならず弱い立場に身を置く局面がやってくる……と。

臨床の現場では、
こうした事例に事欠かないのでしょうね。
***このコメントは削除されています***
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2022/08/20 22:46
鈴木 裕介  『NOを言える人になる 他人のルールに縛られず、自分のルールで生きる方法』
 アスコム 2020年 (電子版)


心療内科の先生が書いた本です。
雑誌のサイトで読めた著者のエッセイが、
響くものだったので買ってみました。
読んでみて本書の一部を抜粋したものと判明。

ひとことで言っちゃうと
「世間の呪いから自分を解放してあげよう」。
著者自身の体験や臨床の現場での出会いを踏まえて、
わかりやすく書かれています。

わたしは断り下手で、
嫌いな友達とズルズルつきあって損をした経験があります。
不本意な頼まれごとを巧く断れず、
後悔したひとは少なくないのでは。

他人の悪意や世間の桎梏から、
巧く距離を取るにはどうふるまうのが妥当でしょう。

著者の指摘のひとつが
「身体の訴えを無視せず敏感になること」。

たしかに学生時代は何かしらの症状が心身に出ていました。
無理して嫌いな友達に会った後は、
しばしば熱を出して寝こんだものです。

あらためて気づかされたこと。
「世間の呪い」が深く深く、
自分の心身に叩きこまれ刻みこまれてしまってるんですよ。

わたしは立身出世や効率主義を是とする価値観が大嫌いです。
それでも「これを身につければ役に立つかも」とか……
いつのまにか自分の「好き」や「心地よい」より、
世の中の物差しを優先して考えてしまってた部分がありました。

頭で世間の物差しに反発していても、
いつのまにか無意識に侵入されているのが怖いところです。

もちろん人生には妥協や打算が必要な局面もあります。
「本意ではないけれど世の中に合わせる」と、
自覚できていれば問題はないでしょう。

問題は「自分で選んでる」つもりが知らず知らず
「世間の呪いに選ばされてる」場合ですね。
これは不幸になります。

ときどき立ち止まって、
自分が呪いにかかってないか心の点検が必要です。
そういう意味で、この本はとても役に立ってくれました。

あと驚かされたこと。
きのうの本とそっくりな一節があったんです。
どれほど強そうに見える人間でも、
かならず弱い立場に身を置く局面がやってくる……と。

臨床の現場では、
こうした事例に事欠かないのでしょうね。
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2022/08/20 16:35
『動乱の序章編(上、佐島勤)』を読み終わりました。

 カタカナ(人名、システム名を含む)名が多くて、ちょっと混乱気味。あと権謀術数のエピソードが多くて、これも混乱気味(笑)

詳しいことはブログにて・・・。
https://www.nicotto.jp/blog/detail?user_id=1519417&aid=71590740
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2022/08/19 21:25
中村 恒子, 奥田 弘美 『心に折り合いをつけて うまいことやる習慣』 すばる舎 
 2018年 (電子版)


1945(昭和20)年生まれの精神科医
(現在はリタイアされてるそうです)が、
人生「うまいことやる」コツを淡々と紹介。

河合隼雄さんの『こころの処方箋』
あたりと近い印象を受けました。

ラディカルといえるくらい、
本質的なところで個人主義的です。

「そのひとの人生は誰にも肩代わりできない」。

優れた心の臨床家は共通して、
こうした人間観を根底のところで保持していますね。

ただ文化庁長官まで昇りつめた河合先生と違って(笑)、
中村恒子先生は無欲なひとみたいです。

精神科の医者になったのもめぐりあわせで、
基本的には生活のため。
仕事が大嫌いではないけれど、
大好きというわけでもない。

人生に高望みせず目の前のことをひとつひとつ片づけ、
一隅を照らす存在であれたなら幸せ。
そういう人間観、人生観、
わたしには響くものがありました。

「どんなに強い人間でも、
かならず弱い側に転落するときが来る」。
この言葉は忘れず肝に銘じておきたいです。
***このコメントは削除されています***
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2022/08/19 21:24
中村 恒子, 奥田 弘美 『心に折り合いをつけて うまいことやる習慣』 すばる舎 2018年
 (電子版)


1945(昭和20)年生まれの精神科医
(現在はリタイアされてるそうです)が、
人生「うまいことやる」コツを淡々と紹介。

河合隼雄さんの『こころの処方箋』
あたりと近い印象を受けました。

ラディカルといえるくらい、
本質的なところで個人主義的です。

「そのひとの人生は誰にも肩代わりできない」。

優れた心の臨床家は共通して、
こうした人間観を根底のところで保持していますね。

ただ文化庁長官まで昇りつめた河合先生と違って(笑)、
中村恒子先生は無欲なひとみたいです。

精神科の医者になったのもめぐりあわせで、
基本的には生活のため。
仕事が大嫌いではないけれど、
大好きというわけでもない。

人生に高望みせず目の前のことをひとつひとつ片づけ、
一隅を照らす存在であれたなら幸せ。
そういう人間観、人生観、
わたしには響くものがありました。

「どんなに強い人間でも、
かならず弱い側に転落するときが来る」。
この言葉は忘れず肝に銘じておきたいです。
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2022/08/18 21:05
 『5分後にときめくラスト』(著者多数 エブリスタ編 河出書房新社刊)を読み終えました。
 
 いやー、もう本当に年甲斐もなくきゅんきゅんしますよね。BGMも坂本教授の「音楽図鑑」から「エチュード」や「セルフ・ポートレート」がぴったり。
 聴けばなるほどな~と納得されると思います。
 
 意外と社会人がメインのキャラが多かったです。中高生向けかなと思っていたのでちょっと意外(hontoの商品対象には「中学生」って書かれてました)。
 
 おなじエブリスタ10期生だし、お互いを知ったのもけっこう早かったので、冒頭を飾るエブ友さんの作品は、なんというか苦難の時期を経ての、今、こうしてアンソロ書籍になる、僭越ないいかただけど、血を吐くような努力をしたのだなぁ、と。
 その頑張りを知っているだけに、わたしまでこの本はうれしい一冊です。
 
 あと、全部が全部ではないのですが、書籍化するときに書き直し要請などあると思うのですが、妄コンの文字量はあまり変わらないのかな?
 この作品はもっと尺をとったほうがずっと「きゅん炸裂」でよかったのではないか……というのもありましたし。
 
 しかし本当に皆さん巧くて、きゅんきゅんしながらいろいろ小説として勉強させてもらいました。
 
 わたしもこういうの書いてみたい、と思うのですが最近いわゆる「白蜜」を書いておりませんね。みんな「黒蜜」ばかりw もう白いのなんて書けないのとちがうか……。
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2022/08/17 20:00
 米批評家、ハロルド・ブルームの『カバラーと批評』(クラテール叢書 国書刊行会刊)を読み終えました。
 カバラーといえばまずユダヤ教の神秘主義ですね。「新世紀エヴァンゲリオン」ですでに予習済みの方も多そう。
 
 というかなぜ、ハロルド・ブルームなのかというのは、まずわたしの好きなトマス・ピンチョンがブルームによって、「現代米文学のなかでもっともすぐれた作家四人」と激賞されたからです。ユダヤ教も気になるところ。
 ちなみに、他の三人は、フィリップ・ロス、ドン・デリーロ、コーマック・マッカーシーです。フィリップ・ロスは昔読んだのですがさっぱりわかりませんでした。
 
 これがブルームのユダヤ教の影響なのかもしれませんが、彼の文章では、真の詩人の存在理由は歴史的に残ること……それも第一の詩人として。
 しかも英文学ではすでにシェイクスピアがいるために、第ニの詩人になるしかありません。
 
 なので、他の詩人は先行している詩人を「読み」そして「誤読」または「曲解」を意図的にしないかぎりそもそも創作も成り立ちません。
 つまり、この文学の世界は「誤読と曲解の歴史」にならざるをえません。
 
 後戻りのできない歴史のなかで、先/後の抗争が行われているといってもおかしくないのですね。
 
 本書144ページから。
 「すべての読解行為は後発性の実地演習であるが、そのような行為はすべて防衛敵なものでもあり、防衛としての読解は、解釈を必然的な曲解としてしまう」
***このコメントは削除されています***
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2022/08/17 20:00
 米批評家、ハロルド・ブルームの『カバラーと批評』(クラテール叢書 国書刊行会刊)を読み終えました。
 カバラーといえばまずユダヤ教の神秘主義ですね。「新世紀エヴァンゲリオン」ですでに予習済みの方も多そう。
 
 というかなぜ、ハロルド・ブルームなのかというのは、まずわたしの好きなトマス・ピンチョンがブルームによって、「現代米文学のなかでもっともすぐれた作家四人」と激賞されたからです。ユダヤ教も気になるところ。
 ちなみに、他の三人は、フィリップ・ロス、ドン・デリーロ、コーマック・マッカーシーです。フィリップ・ロスは昔読んだのですがさっぱりわかりませんでした
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2022/08/16 12:27
『トランス・オブ・ウォー(上、松岡圭祐)』を読み終えました。

2章が終わったあと終わりから5章目ぐらいまで、ずっと自衛隊訓練生の頃と両親が亡くなった話となります。時期としてはヘーメラよりもっと過去の話と思われます。一ノ瀬恵梨香との初めての出会いの話もあります。

詳しいことはブログにて・・・。
https://www.nicotto.jp/blog/detail?user_id=1519417&aid=71577642
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2022/08/13 19:55
『白と黒の相剋(川原礫)』読み終えました。

 プロミとネガ・ビュの会議案はちょっと失敗かな?プロミの大所帯の全ての紹介、覚えきれないよぉ~(涙)

詳しいことはプログにて・・・。
https://www.nicotto.jp/blog/detail?user_id=1519417&aid=71569593
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2022/08/13 15:40
河合隼雄  松岡和子 『決定版 快読シェイクスピア』 新潮文庫 2018年(電子版)


臨床心理学者と翻訳家による対談をまとめた本です。
もとは舞台公演のパンフレットに掲載されていたのだとか。
以前の版には未収録だった「タイタス・アンドロニカス」
についての話が収められています。

わたしは河合先生の本が好きで、
それなりに読みましたし影響も受けました。
ただ亡くなってある程度の年月が経過したいま、
時事的な話題については古くなったと感じます。

その点シェイクスピアは古典中の古典ですから、
いまさら古びることなどありません。
安心して読めて、好奇心を刺激される良い本です。

『ロミオとジュリエット』には種本があるそうです。
もともとジュリエットは16歳という設定だったのを、
シェイクスピアが14歳に改変したといいます。

14歳というのはある意味、
人生でもっとも苛酷な時期にあたるのだとか。
わたしも学生時代いちばんしんどかったのは、
13、4歳くらいのころでした。

いちばんおもしろかったのは
『リチャード3世』をめぐる対談。
リチャードは純粋な悪人として造形されており、
悪についての話がいろいろ出てきます。

「善人は反省しないから怖い」とか
「必死で頑張っている人には、
怨念を晴らしている人が多い」とか。

わたしの好きな『リア王』については、
あまり長く触れられてなかったんだけど……

「裏切りなしで、
ほんとうの意味で自立することはできない」
という言葉が深く刺さってきました。

示唆に富んでおり、いろいろ考えさせられます。
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2022/08/13 15:18
 『本気で作家になりたければ漱石に学べ! 小説テクニック特訓講座中級者編』(渡部直己著 太田出版刊)を通読しました。
 かなり昔……まだ作家志望だったころに……買ったので、けっこう本が年季入っちゃってます。
 
 この本はおなじ太田出版から出ている『それでも作家になりたい人のためのブックガイド』、←こちらが初級編だとすると、『漱石に~』は中級者向けといったところなんでしょうが、後半になるとそもそもこれはどんな技法でどう効果がある、とか読んでいるだけでわからない箇所まである始末。
 今、上級編を足したエディションがあるらしく、上級編をちょっと見てみたいものです。
 
 しかし、『それでも~』は、この『漱石に~』の刊行時点で17刷ですって!
 自分も……もうプロへの道は断念したとはいえ……小説を書いているのでなんか書きづらいのですが、あらためてそんなに「小説を書きたい」って人は多いのですね。
 
 『漱石に~』は、基本的には文芸批評・理論のジャン・リカルドゥーのテクスト理論を応用した本です。元ネタ本はまだ邦訳されていないようですね。
 
 ただ、理論や技法を知っても、それが実践/実戦で役に立つかは別。
 でも知っておくと、こういう文章上の工夫があるんだな、と思える箇所もけっこうあります。
 
 それと、基本的に漱石の文章を題材に、テクスト理論で分析していくのである意味、ちょっと変わった漱石研究の書物、のようにも読めます。
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2022/08/12 20:58
アゴタ・クリストフ 『第三の嘘』 堀 茂樹 訳 早川書房 1992年(電子版)


ベルリンの壁の崩壊後、
国外に去った双子のひとりクラウスが帰郷します。
初老に近い年齢となった彼は病に侵された身で、
ひとめリュカに会いたいと街中を探し回る……

の、ですけど。
クラウスの身の上話は、
前作までの物語とはまったく異なるものなんですよ。

さらに双子のどちらがリュカで、
どちらがクラウスなのか。
それさえ判然としなくなってきます。

クラウスの語る半生は
『悪童日記』とは違う意味で苦渋に満ちたものでした。
一心同体の「ぼくら」として苦難に立ち向かえた
『悪童日記』以上にも気の毒に感じられます。

思うに『悪童日記』があまりに成功してしまったことから、
著者は続編を書くことに、ずいぶん苦労を強いられたのでは。
あたりまえの物語では『悪童日記』は総括できないはずです。

三作を通じて主人公たちの育った
「小さな町」が舞台となっています。

お話のスタイルは変わっても
「小さな町」の歴史を追いかける点にはブレがありません。
生まれ故郷への思いを小説にしてみたかった……
といった著者の言葉に嘘はないのかも。

『第三の嘘』は前二作以上に読み手を選びます。
わたしは素直に楽しんで感銘を受けました。
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2022/08/11 22:29
アゴタ・クリストフ 『ふたりの証拠』 堀 茂樹 訳 早川書房 1991年(電子版)


前作の結末で「ぼくら」は別離します。
ひとりは国外に逃れ、
国内に残ったもうひとりリュカの話が本作です。

『悪童日記』でのアンファン・テリブルっぷりは影を潜め、
リュカは(大筋で)常識をわきまえた青年に成長しています。
障害のある男の子マティアスをひきとって、
溺愛と形容できるほど慈しんで育ててたり。

前作にあった剥き出しの暴力と悪意も抑えられており、
リュカをとりまくひとびとは優しいです。
ただし誰もが戦争の傷痕に深く損なわれています。

人間が虫のように死に、
殺されていった『悪童日記』とは異なりますけれど、
こちらはこちらで不幸な時代の物語です。

気の毒な書店主のヴィクトール、
リュカを支える党幹部のペーテルら、
孤独で心優しい男たちの姿が印象に残っています。

人物に感情移入しやすいぶん、
戦争の傷と全体主義の圧政に生命を削られる悲哀が痛ましいです。

『悪童日記』のクレイジーで、
ピカレスクな味わいはありませんけど。
こちらも良質な小説です。
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2022/08/11 15:21
 河出文庫から、BIBLIA TARUHOLOGIKAというシリーズが出ています。全12冊、タルホの世界を多方向から味わえるなかなか意欲的なものです。
 
 天体、宇宙(時空)論、弥勒菩薩による救済、艦船、いろいろなタルホの好奇心の赴くところ、小説なのか随筆なのかもわからない、どこか柔らかい進行と、逆に硬質な文章と書くときの態度……。
 
 前振りが長くなりましたが、このBIBLIA TARUHOLOGIKAのなかの、『ヒコーキ野郎たち』を読了しました。
 
 タルホにとって飛行機はまず飛ばない、飛んでも事故を起こしてしまいがち、こわれものとしてのヒコーキなのですよね。
 そしてヒコーキの黎明期から第一次世界大戦の直前までがヒコーキの黄金時代だった、と。
 実用になる飛行機はもう機械好きのタルホの好奇心から外れているのです。
 
 本のなかで引用されていた平野萬里の一首の歌が、この本に満ちたヒコーキ愛(哀?)を見事に表現しております。
 
 「野のつきて空のはじまる辺りにてアェロの飛べる秋の夕暮れ」(平野萬里)
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2022/08/10 22:05
アゴタ・クリストフ 『悪童日記』 堀 茂樹 訳 早川書房 1991年(電子版)


舞台は第二次大戦中のハンガリーとおぼしき国の、
片田舎にある「小さな町」。

母親に伴われて双子の少年たちが疎開してきます。
「ぼくら」の一人称で語られるお話です。

「ぼくら」が身を寄せるのは「おばあちゃん」の家。
この祖母が粗野で吝嗇で意地悪で不潔……
まぁ、どうしようもない腐れ婆です。

どうしようもないのは戦争で荒れた
「小さい町」の人心一般も変わりません。
「ぼくら」は悪意と暴力の洗礼に見舞われることに。

ところが、この双子のタフなこと!
鋼の結束と知力と意思で、
襲いかかる理不尽の数々を見事にあしらいます。

目を背けたくなるような話ばかりですけど
「ぼくら」の淡々とした語り口にかかると、
乾いたユーモアすら感じさせます。

一見するとスーパードライです。
けれど注意深く読めば戦争の暴力や社会の理不尽への、
激しい怒りが通奏低音として響いています。

絶対に日本からは出てこない小説です。
これは世界的に読み継がれるべき傑作のひとつでしょう。

残酷な場面が多く、
誰にでもお薦めはできません。
それでも一読の価値があると断言できます。
***このコメントは削除されています***
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2022/08/10 22:05
アゴタ・クリストフ 『悪童日記』 堀 茂樹 訳 早川書房 1991年(電子版)


舞台は第二次大戦中のハンガリーとおぼしき国の、
片田舎にある「小さな町」。

母親に伴われて双子の少年たちが疎開してきます。
「ぼくら」の一人称で語られるお話です。

「ぼくら」が身を寄せるのは「おばあちゃん」の家。
この祖母が粗野で吝嗇で意地悪で不潔……
まぁ、どうしようもない腐れ婆です。

どうしようもないのは戦争で荒れた
「小さい町」の人心一般も変わりません。
「ぼくら」は悪意と暴力の洗礼に見舞われることに。

ところが、この双子のタフなこと!
鋼の結束と知力と意思で、
襲いかかる理不尽の数々を見事にあしらいます。

目を背けたくなるような話ばかりですけど
「ぼくら」の淡々とした語り口にかかると、
乾いたユーモアすら感じさせます。

一見するとスーパードライです。
けれど注意深く読めば戦争の暴力や社会の理不尽への、
激しい怒りが通奏低音として響いています。

絶対に日本からは出てこない小説です。
これは世界的に読み継がれるべき傑作のひとつでしょう。

はっきり好き嫌いの分かれる作品
(残酷な場面が多いです)で、
誰にでもお薦めはできません。
それでも一読の価値があると断言できます。
***このコメントは削除されています***
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2022/08/10 22:02
アゴタ・クリストフ 『悪童日記』 堀 茂樹 訳 早川書房 1991年(電子版)


舞台は第二次大戦中のハンガリーとおぼしき国の、
片田舎にある「小さな町」。

母親に伴われて双子の少年たちが疎開してきます。
「ぼくら」の一人称で語られるお話です。

「ぼくら」が身を寄せるのは「おばあちゃん」の家。
この祖母が粗野で吝嗇で意地悪で不潔……
まぁ、どうしようもない腐れ婆です。

どうしようもないのは戦争で荒れた
「小さい町」の人心一般も変わりません。
「ぼくら」は悪意と暴力の洗礼に見舞われることに。

ところが、この双子のタフなこと!
鋼の結束と知力と意思で、
襲いかかる理不尽の数々を見事にあしらいます。

目を背けたくなるような話ばかりですけど
「ぼくら」の淡々とした語り口にかかると、
乾いたユーモアすら感じさせます。

一見するとスーパードライです。
けれど注意深く読めば戦争の暴力や社会の理不尽への、
激しい怒りが通奏低音として響いています。

絶対に日本からは出てこない小説です。
これは世界的に読み継がれるべき傑作のひとつでしょう。
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2022/08/08 21:19
ミランダ・ジュライ 『いちばんここに似合う人』 岸本 佐知子 訳 新潮クレスト・ブックス
 2010年(電子版)


映画監督でもある、
アメリカの小説家ミランダ・ジュライの短編集です。
日本では『最初の悪い男』がそこそこ話題になりました。

わりと短めの作品が16編、入ってます。
どの作品も世の中から微妙にはぐれて、
なんとなく自分をもてあましてる連中のお話です。

冒頭に置かれた「水泳チーム」など特に、
この本の性格をよく表している作品だと思います。

舞台は海も川も湖もプールもない町。
主人公は若い女性です。
ふとしたことから3人の老人に、
洗面器を使って水泳を教えることに……

掉尾に置かれた「子供にお話を聞かせる方法」は傑作です。
元夫とその妻、ふたりのあいだに生まれた娘。
彼らと主人公の微妙な距離感と、
奇妙なような、そうでもないような成長物語が綴られます。

同性の旧友に恋する女の子の、
なんとも不器用で、ある意味で潔い戦い(?)
を描いた「何も必要としない何か」が響きました。
当事者はしんどいだろうなー。
いい大人になっちまった、わたしには眩しく映ります。

主人公が上司のパートナーを誘惑(?)する
「十の本当のこと」も印象に残っています。
女性どうしの関係性のやわらかな部分が、
巧く掬いあげられていて印象に残りました。

わたしは大好きな本ですけど、
読み手によって響く響かないが明白に分かれそう。
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2022/08/07 21:28
『消滅(上、恩田陸)』を読み終えました。
 
 少し未来の話っぽいです。キャスリンの存在感が凄すぎます(;^ω^)

詳しいことはブログにて・・・。
https://www.nicotto.jp/blog/detail?user_id=1519417&aid=71552312
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2022/08/03 22:20
アイザック・アシモフ 『われはロボット〔決定版〕』 小尾 芙佐 訳 ハヤカワ文庫SF 
 2014年(電子版)


「ロボット工学三原則」の名前は、
いまでも知られてるのでしょうか。

わたしは小学生のころ『鉄腕アトム』を読んだら
「ロボット法」が出てきたのを憶えています。
「アシモフの三原則をまねたものだ」みたいなことを、
著者みずから書いてましたっけ。

ともあれ人間に奉仕するため、
ロボットが守らないといけない規則です。
本書に収められた、どの短編にも、
この三原則が絡んできます。

珍妙な信仰に開眼するロボットあり
(これは書きようによっては怖い話です)。
三原則の裏をかいて、
人間を出し抜こうとするロボットあり。

半世紀以上昔の本で、
さすがに細部は古めかしいです。
それでもロボットを通して「人間とは何者か」
を問い直す思考実験には普遍性があります。

多くの短編で、ロボット心理学者の
スーザン・キャルヴィンが狂言回しとして登場します。
わたしは人間の心を読むロボットが登場する
「うそつき」が特に好きです。

手塚治虫とか星新一あたりに、
絶大な影響を与えてるんじゃないでしょうか、アシモフ。
あらためて読み返して感じました。

決定版と銘打たれてますけど、
訳にいささか古めかしさを感じます。
コンプライアンス的にどうかな?と思う表現もあって、
訳者がご健在なら手を入れていただきたいですね。

それと著者に悪意はないと思うのですけど、
作中でのロボットの描かれかたに
「アンクル・トム」的な部分が散見されました。

わたしは好きなキャラクターだけど、
子守ロボットのロビイなんか、そうですね。

人間を出し抜こうとするロボットの話では、
メルヴィルの「幽霊船」に登場する、
反乱奴隷の首魁を思い出しました。

前世紀中葉のアメリカ白人男性の傲慢が反映されている……
と読めなくもありません。

良くも悪くも、SFも時代を映すのですね。

アシモフがロボットに寄せるオプティミスティックな信頼に触れてから、
昨今の人間世界の情勢に目を転じると……
人間にどれほどの価値があるのか、
疑いたくなることを禁じ得ませんでした。
***このコメントは削除されています***
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2022/08/03 22:19
アイザック・アシモフ 『われはロボット〔決定版〕』 小尾 芙佐 訳 ハヤカワSF文庫 
 2014年(電子版)


「ロボット工学三原則」の名前は、
いまでも知られてるのでしょうか。

わたしは小学生のころ『鉄腕アトム』を読んだら
「ロボット法」が出てきたのを憶えています。
「アシモフの三原則をまねたものだ」みたいなことを、
著者みずから書いてましたっけ。

ともあれ人間に奉仕するため、
ロボットが守らないといけない規則です。
本書に収められた、どの短編にも、
この三原則が絡んできます。

珍妙な信仰に開眼するロボットあり
(これは書きようによっては怖い話です)。
三原則の裏をかいて、
人間を出し抜こうとするロボットあり。

半世紀以上昔の本で、
さすがに細部は古めかしいです。
それでもロボットを通して「人間とは何者か」
を問い直す思考実験には普遍性があります。

多くの短編で、ロボット心理学者の
スーザン・キャルヴィンが狂言回しとして登場します。
わたしは人間の心を読むロボットが登場する
「うそつき」が特に好きです。

手塚治虫とか星新一あたりに、
絶大な影響を与えてるんじゃないでしょうか、アシモフ。
あらためて読み返して感じました。

決定版と銘打たれてますけど、
訳にいささか古めかしさを感じます。
コンプライアンス的にどうかな?と思う表現もあって、
訳者がご健在なら手を入れていただきたいですね。

それと著者に悪意はないと思うのですけど、
作中でのロボットの描かれかたに
「アンクル・トム」的な部分が散見されました。

わたしは好きなキャラクターだけど、
子守ロボットのロビイなんか、そうですね。

人間を出し抜こうとするロボットの話では、
メルヴィルの「幽霊船」に登場する、
反乱奴隷の首魁を思い出しました。

前世紀中葉のアメリカ白人男性の傲慢が反映されている……
と読めなくもありません。

良くも悪くも、SFも時代を映すのですね。

アシモフがロボットに寄せるオプティミスティックな信頼に触れてから、
昨今の人間世界の情勢に目を転じると……
人間にどれほどの価値があるのか、
疑いたくなることを禁じ得ませんでした。
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2022/08/03 17:34
アイザック・アシモフ 『われはロボット〔決定版〕』  小尾 芙佐 訳 2014年(電子版)


「ロボット工学三原則」の名前は、
いまでも知られてるのでしょうか。

わたしは小学生のころ『鉄腕アトム』を読んだら
「ロボット法」が出てきたのを憶えています。
「アシモフの三原則をまねたものだ」みたいなことを、
著者みずから書いてましたっけ。

ともあれ人間に奉仕するため、
ロボットが守らないといけない規則です。
本書に収められた、どの短編にも、
この三原則が絡んできます。

珍妙な信仰に開眼するロボットあり、
三原則の裏をかいて、
人間を出し抜こうとするロボットあり。

半世紀以上昔の本で、
さすがに細部は古めかしいです。
それでもロボットを通して「人間とは何者か」
を問い直す思考実験には普遍性があります。

多くの短編で、ロボット心理学者の
スーザン・キャルヴィンが狂言回しとして登場します。
わたしは人間の心を読むロボットが登場する
「うそつき」が特に好きです。

手塚治虫とか星新一あたりに、
絶大な影響を与えてるんじゃないでしょうか、アシモフ。
あらためて読み返して感じました。

決定版と銘打たれてますけど、
訳にいささか古めかしさを感じます。
コンプライアンス的にどうかな?と思う表現もあって、
訳者がご健在なら手を入れていただきたいですね。

それと著者に悪意はないと思うのですけど、
作中でのロボットの描かれかたに
「アンクル・トム」的な部分が散見されました。

わたしは好きなキャラクターだけど、
子守ロボットのロビイなんか、そうですね。

人間を出し抜こうとするロボットの話では、
メルヴィルの「幽霊船」に登場する、
反乱奴隷の首魁を思い出しました。

前世紀中葉のアメリカ白人男性の傲慢が反映されている……
と読めなくもありません。

良くも悪くも、SFも時代を映すのですね。

アシモフがロボットに寄せるオプティミスティックな信頼に触れてから、
昨今の人間世界の情勢に目を転じると……
人間にどれほどの価値があるのか、
疑いたくなることを禁じ得ませんでした。
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2022/08/03 17:33
アイザック・アシモフ 『われはロボット〔決定版〕』  小尾 芙佐 訳 2014年(電子版)


「ロボット工学三原則」の名前は、
いまでも知られてるのでしょうか。

わたしは小学生のころ『鉄腕アトム』を読んだら
「ロボット法」が出てきたのを憶えています。
「アシモフの三原則をまねたものだ」みたいなことを、
著者みずから書いてましたっけ。

ともあれ人間に奉仕するため、
ロボットが守らないといけない規則です。
本書に収められた、どの短編にも、
この三原則が絡んできます。

珍妙な信仰に開眼するロボットあり、
三原則の裏をかいて、
人間を出し抜こうとするロボットあり。

半世紀以上昔の本で、
さすがに細部は古めかしいです。
それでもロボットを通して「人間とは何者か」
を問い直す思考実験には普遍性があります。

多くの短編で、ロボット心理学者の
スーザン・キャルヴィンが狂言回しとして登場します。
わたしは人間の心を読むロボットが登場する
「うそつき」が特に好きです。

手塚治虫とか星新一あたりに、
絶大な影響を与えてるんじゃないでしょうか、アシモフ。
あらためて読み返して感じました。

決定版と銘打たれてますけど、
訳にいささか古めかしさを感じます。
コンプライアンス的にどうかな?と思う表現もあって、
訳者がご健在なら手を入れていただきたいですね。

それと著者に悪意はないと思うのですけど、
作中でのロボットの描かれかたに
「アンクル・トム」的な部分が散見されました。

わたしは好きなキャラクターだけど、
子守ロボットのロビイなんか、そうですね。

人間を出し抜こうとするロボットの話では、
わたしはメルヴィルの「幽霊船」に登場する、
反乱奴隷の首魁を思い出しました。

前世紀中葉のアメリカ白人男性の傲慢が反映されている……
と読めなくもありません。

良くも悪くも、SFも時代を映すのですね。

アシモフがロボットに寄せるオプティミスティックな信頼に触れてから、
昨今の人間世界の情勢に目を転じると……
人間にどれほどの価値があるのか、
疑いたくなることを禁じ得ませんでした。



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