紫丁香花アジト6
- 2021/01/31 21:36:20
紫丁香花アジトです。
紫丁香花専用!
【移動できる場所】
1階:・エントランス(お出迎えしてくれる広めのホール)
・食堂(食材、料理グッズなんでも揃っている。食堂というよりかはキッチン)
・リビング(人数分の椅子やテーブルも用意してある。テレビだってある。紫丁香花の憩いの場)
・会議室(敵をどうやって懲らしめるか。と密かに行われている部屋)
・庭(外を出ると見える、お花がたくさんある綺麗な庭。ガーデニングで花や野菜なども育てることが出来る。お茶会などのための椅子とテーブル付き)
2階:・各自の部屋(個人の部屋で割りと豪華。部屋にはお風呂や、冷蔵庫、ベットなど。色々生活に必要なものがなんでも揃っている)
・大浴場(部屋にも備えてあるが、こっちの方が圧倒的に広い。宝石が散らばっている洞窟のような作りになっている)
・図書室(日本のものから世界のものまで、そして不思議なものまである結構広い図書室 図書館と呼んでもいいぐらいの広さ)
・治療室(怪我や治療が必要な時にはここへ行くと代替は治してくれる)
3階:・大広間(リビングとは別でまた遥かに広い場所。ダンスとかで遊べる場所)
・訓練所(敵より強くなるため備えられた場所。訓練のものならなんでも揃っている)
・道具倉庫(武器の道具、装備などをしまっている薄暗い倉庫)
・プール(屋上で泳げる。そして、屋台や流れるプール付き。結構色んな種類のプールが有る)
・屋上&展望台(この街の景色を見渡せる屋上。気持ちい風が吹いている)
【おりちゃ内の気候】
時刻:朝 天気:雨 季節:夏 気温:26℃
楽器の定期メンテナンスを一通り終えてグッと身体を伸ばすと関節がパキパキと鳴った。そういえば最近はなかなか外にも出ず鍛錬も怠っていたせいか身体が鈍っている気がする。
自室から廊下に出ると、視界の端でメイド服のスカートがひらめいた。
「あれは...」
自由奔放な面々が多く秩序が常に乱れているこの紫丁香花では珍しく、面倒見が良くて几帳面なタイプの......月夜って言ったかな。掃除でもしているのだろうか?
思い返せば周りの人の頼み事を聞いている姿を何度か見たことがあるような。ひとつ頼んでみるか、と思い立ち彼女に近付いて突然話しかけて驚かせないように肩を叩く。
「なあ、良かったら今から鍛錬に付き合ってほしいんだけど」
というかマジックの話題を振ってから急に驚かせて来たりしないんだろうか。その点が心配だ。
すると相手によって驚かせ方が違うらしく、トランプ?を使うといいらしい。
トランプ…?トラックなら聞いたことはあるがトランプという謎すぎる物体を使うらしい。
なんだろう。まさか鳩の名前じゃあるまいし、人物名じゃなさそうだ。
いやもしかしたら名前を知らないだけで持ってるのかもしれない。
しかもマジックを教えるとか言い出している。トランプなんて俺は知らないのに。
でもトランプを知る機会かもしれない。教えてもらう最中にしれっと聞くしかなさそうだ。
すぐに忘れられる感じで、その後に少し多くしゃべるだけ。要するに相手に喋らせないことが大事だ。
これは断る理由がない。
「そうですか?マジックに関しては全くの初心者なので簡単なものがあるならぜひ教えて貰いたいです」
全くの初心者という言葉には自己流でトランプも知らないという意味も込めたがやはり詐欺師の手法。伝わらないのが普通だ。
もしこいつがマジシャンだとしたら、案外似た者同士なのかも知れない。そう思うと何故か少し悲しくなってきた。
大した事はない、と本人がいうのならそうなのだろう。自分は専門家ではないのでこれ以上とやかくいう必要もないしそんなつもりもない。
すると、先程の事についての話になった。
あのサプライズ、彼はかなり驚いてくれたし、もしかしたら他の方法でも期待以上の驚き方を見せてくれるかもしれない。そう思うと今からわくわくする。
「あれですか。先程は薔薇を使いましたが、相手によって出すものを変えたりしてやった事が何回か・・・しかし数える程度ですよ。トランプを使った方が手間もかからず簡単なのでそちらの方がやった事は多いですね」
トランプを使ったマジックなら今すぐにでも出来る。しかし同じ人に短い期間で何度も驚かせてもすぐに慣れて驚かなくなってしまうかもしれない。
こういうのは間が大事。忘れた頃に驚かせる、ようは相手を油断させるのが大事。
そこでリュカはハッとした。もしや先程ので興味が湧いたのではと。
「もしよろしければマジックを教えしましょうか?大丈夫!誰でも出来る簡単な物から教えますので」
目をキラキラと輝かせながら見つめる。
いつか弟子を取るのが夢だった。しかし誰も知りたがらない為未だマジックを教えた相手はゼロ人。
悲しくも断られるのに慣れてしまったが、とりあえず聞いてみた。
苦手な鳩と心臓に悪い輩がダブルパンチしてきている様な可笑しな状況は二度と続かないように願うしかない。
そもそもこいつは急に俺の名前を知ってたり電話中に驚かせてくるというだけで縁を切るべきだった。
初対面の人とはやはり緊張してしまう。
相手とは目を合わせつつ鳩とは上手く視線を逸らせていると相手から肯定の返事が来た。
でもあの変な驚かせ方は本当にマジシャンそのものだ。
凄いと純粋に思う。
すると相手は体調については問題ない事と心配することを話してきた。
「いえいえ別に大した事ないですからご心配なさらなくて結構ですよ。所で先程のサプライズ…は過去に何回かした事がある様な物なのですか?少なくともあまり見ないと思いまして…」
とっさに出た返事にしてはいい方だと思った。だが、少し危ない事を口にしたと思った。
もしかすると俺みたいな貧乏人には見た事ないだけで奴みたいな普通の人は日常茶飯事なのかも知れない。
これはまずい。貧乏人だと分かったら忌み嫌われるかもしれない。
途端に寒気が襲ってきた。
どうやら動物が苦手のご様子、と極夜を見て思った。大抵の人は鳩が礼儀正しくお辞儀をすればつい見てしまうもの。
今までだって様々な人にこうして挨拶をすると面白そうに、興味津々と言った様子で見られた事がある。
まあ特定の動物が苦手という人もいるだろうし別に非難するつもりはない。
「ええ、こちらこそよろしくお願いします」
帽子を被るとその上に乗るよう鳩に指示する。すると言われた通り鳩は帽子の上に乗り休み始める。朝の散歩で疲れてしまったのだろう。
すると極夜から話題を振られた。なんて事ない普通の会話。それでもリュカは嬉しく感じる。
朝は皆まだ起きていない事が多い為、話相手が鳩しかいない。話しかけても鳴いて返事をくれるが何を言っているかは分からない。
「吾は平気ですよ。ただ、雨は嫌いではないですけど、さすがに夏という季節は少々苦手ですかね。体調が優れないのならゆっくり休まれては?もしかしたら夏バテかもしれませんし・・・」
心配そうに見つめる。
何よりも人を驚かすのが好きなリュカでも具合が悪い人がいれば心配くらいはする。
元気がなければ此方が求めているリアクションを取ってくれないからだ。
もう30秒は経っただろうが状況が3分の1程度しか分からず未だに混乱していた。
そして相手はいかにも喜ばしそうに笑ってきた。
こんなにも自分に得が無い奴と出会ったのはこれが初めてな気がする。
というかなぜ自分の名前を奴が知っているんだろうか。
俺は相手の名前を知らないのに。
ともあれ名前を聞いていたはずだと思い出すと見たこともない程の深いお辞儀をされた。
いやもしかしたら俺みたいな貧乏人じゃなきゃ見たことある輩もいるのかもしれないが。
すると相手から名乗られた。
名前が長すぎて覚えきれていないが、リュカ…とは聞き取れた。
そして変な一人称だ。もしかしたら一人称ではないかもしれない。
やはり貧乏人は聞かない事ばっかりだ。
そして鳩が…いや鳩か?がリュカの腕に乗ってお辞儀をしていた。
動物は嫌いだ。軽く身を引いた。
というか鳩って頭いいんだと思う。動物がらみの話になる前にさっさと別の話をしないと耐えきれないかもしれない。
あれほど深々とは行かないものの深めにお辞儀をした。
「そうなのですか。先程は失礼いたしました。僕は貴方がおっしゃった通り、極夜と申します。これからよろしくお願いします、リュカさんと…鳩さん。」
ふと外の方に目をやると未だに雨が凄かった。
天候の話題でも振って話すことない感を出すしかない。
「それにしても雨が凄いし暑いですね。僕は少し体調が優れないのですが、リュカさんは平気ですか?」
言ったところでしまったと思った。相手に答える間を与えてしまったからだ。
軽く作り笑いを浮かべた。それにしても酷い気圧である。
予想していた通りの、いや、期待していた以上の大きな叫び声を上げ驚くのを見て、リュカは満足気に笑って見せた。
驚かせて良かった。まさかこんなにも自分を喜ばせてくれる反応をしてくれるなんて。
彼が状況を把握するの待つと名前を聞かれた。
同じ組織に入っていても毎日顔を合わせるわけでは無いし、他人に興味がなければ名前何て知ろうとも思わないだろう。
リュカは帽子を胸に当て片足を一歩後ろに下げると深々と頭を下げた。まるでショーのカーテンコールなどでしか見ないようなお辞儀だった。
「では、改めてこんにちは。吾はリュカ・M・小鳥遊と申します。此方の鳩は吾の相棒です」
腕を差し出すとそこ鳩が飛び乗る。そしてリュカを見習うようにお辞儀をして見せる。普通の鳩にこんな事は出来ないだろう。
電話の方は全く終わらない。もう飽きてきた。
自分の脳内にはもうほとんど別の事しか入っていない。
相手もある程度疑っていてそのことをひたすらに追及してきている。
雨の気圧で倒れそうになるほど頭が痛い。
電話もそろそろ終わりそうだ。
すると自分の背後から足音が聞こえてくる。
自分に近づくにつれ早くなっているがぶつかられたりしたら仕事が台無しになる。
まさか自分の邪魔をする気ではないだろうなと思っていると視界が赤に染まっていた。
音も凄い。雨の音と頭の痛さに追加されて余計混乱を招いていた。
「わああああああ!?お前何し…」
危ない。いやアウトではあるが。
電話から叫び声が聞こえる。頭が回らない。
とりあえず電話を切った。
さて何と言ったら退散させられるんだろうか。これはどこを突っ込めばいいんだろうか。
というか名前が思い出せない。誰だこいつ。
15秒は経っているだろう。音を立てずに息を吸ってから一息に呟いた。
「随分と急なサプライズですね、ところでお名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
まぁ名前を知ったところで役には立たないだろう。
リュカの周りを一羽の鳩が飛ぶ。名前を呼ぶと差し出した腕に乗り嬉しそうにすり寄って来る。
リュカは今、相棒の鳩に日課の散歩をさせていた。いつも部屋の中にいては息が詰まるというもの。
それが例え雨の日だろうと変わらない。寧ろ鳩は少しだけテンション高めに散歩をしていた。
「そろそろ戻りましょうか。次のマジックも考えたいですし」
帽子を被るとその上に鳩が飛び乗る。雨が降って傘を差しているこの状態で帽子の上に乗られると、その分傘を持ち上げなければならないのだが・・・。
リュカはため息を吐くと部屋に戻ろうと歩き出す。
しばらく歩いていると遠くに人影を見つけた。何やら電話で話をしている様子。
この場合本来であれば邪魔をしないのが正しい。しかしリュカの場合はこれをチャンスととらえる。
「これは驚かせるチャンス!行きますよ♪」
忍び足で背後に近づき帽子を手に突然その人物の目の前に現れると、大きな音と共に帽子から幾本もの薔薇が現れる。ついでに言うと鳩も羽を広げ驚かせようとしている様子だった。
「surprise!こんにちは、極夜さん」
顔を見ると、電話をしていたのは極夜だと分かった。突然の登場に驚いてくれただろうか。
軽く部屋で仮眠を取っていたら電話が鳴りだした。
朝にはあまり強くないので自分の演技力に衰えが掛かっているか心配ではあるものの電話に出てみた。
案の定トリックに引っかかったままの馬鹿からの電話で、朝にはちょうどいい程見事に騙せている。
途中で一瞬トリックに気付く気配こそあったが通信状態のせいにしていた。
ともあれ長く続きそうな電話である。相手がともかくうるさい。
もう少しで終わりそうではあるので一旦廊下に出てきて食堂に出る準備をしておく。
「…はい分かりました。じゃあ今度はこちらで手配しますので」
とは言ったもののまだまだうるさい客である。
頼むから早く終わってほしい。
真衣の話を聞いていると、紡がれていた言葉が突如空咳へと変わる。
彼女は小柄な自分よりもさらに小さい(年齢も性別も違うので当たり前なのだが)ので、多少の心配は無いではないけれども、彼の性格上こういうときにかける言葉のレパートリーが皆無に近く、さらに理由を聞いたところで治してやれるわけでもないので、
「ふうん。休んどけば?」
と顎で近くのソファを指す。
ちらっと横目を見ると雫ちゃんが誰かと話しているのを確認し、誰かまた一人来たんだなとここで知る。本を探しているのに夢中になってて足音なんて全然気づかなかった。
「あ、夜さんこんにちは。本を探しているところなんですけど、なかなか見つからなく__コホッ…コホッ…」
夜さんと目が合ったので軽く挨拶し、彼女の問いかけに答えていた時…タイミング悪く咳が出る。しまった…やっぱり体調はまだ良くないみたいだ。今日は少し落ち着いて散歩とか出来ると思ってたんだけど…
数秒後にやっと咳が止まり、咳払いして何事もなかったかのようにした…かった。
「す、すいません…むせただけですので…心配かけてすいません。少し休めば、大丈夫ですから…」
まだ少し落ち着いていないのか、普段よりかは覇気がない声で言う。
普段から不調に悩まされており、こんなことは今にも起こったことじゃないから大体の周りの反応は予想はつく。きっと大丈夫?と声をかけてくるだろう。それは心配してくれてるし、有り難いことなんだろうけど正直に言って過剰に心配されてしまうと、どうしてもプレッシャーを感じてしまう。そうならないようにも嘘をついて誤魔化す。
私は、一旦本探しを断念して少し休んでいる方がいいかな…
なるほど、わざわざ返す場所を探さなくてもそんな便利な箱があるのか。誰かの能力か?と思いを巡らせつつも指を指された方向を見ると確かに箱があった。
「ありがとう。助かった」
早速返しに行こうと踵を返しかけるが、ふと思い出したように
「アンタたちは何探してんの」
と、雨嶺と隣にいる正岡にチラと視線を戻して言う。
どうやら、本を返しに来たみたいだ。でも、返すとこを知らないってことはこの人が借りた本では無いのかな?と思いながら見せてくれた本の表紙を見る。
表紙は何かわからない文字で書いてあって読めない。
「どこにあったか分からない。けど、あっちに返却する箱があってそこに入れてたら元の場所に帰るよ。」
「!」
落ちた本に視線を落とし、すぐに顔を上げると視線がかちあった。
確か......雨嶺...雫とかいったはず。彼女の少し怯えたような振る舞いにどう答えたものか、と目を合わせたまま数秒考えて
「いや、探すというか返しに来た。......これって元どこにあったやつか分かる?」
と落とした本を拾い上げ、その表紙を彼女に見せる。
本棚の下の列をしゃがみながら探していると後ろからどさどさっと何かが落ちる音がしてビクッと肩を震わした。
ここには私たち2人だけだと思っていたので恐る恐る後ろを振り向いた。するとそこには夜さんがいた。目が合ったので声をかけるべきだとわかっていたがなんて話かければいいかわからず固まってしまった。でも、目が合っているのに無視はだめだと思い、とっさに出たのはあいさつだった。
「こ、こんにちわ、あなたも本を探しに?」
ギ...ギ......ギギィ...
重い扉を軋ませながら開ける。夜はお世辞にも賢いとは言えず、その上図書室に来るほど勤勉でもない。そんな彼が今ここに来ているのはひとえに詩音のせいだった。詩音から「この本返しておいてくれ、どうせ暇だろ」と半ば押しつけられるように渡された分厚い本を仕方なく返しに来たのだった。
「人使いの荒い奴と一緒にいるのはめんどくさいな...」
赤い表紙に金縁の装飾のついたその本はタイトルが英語で綴られているが夜にはなんと読むのか、ましてどういう意味なのか全く分からない。
そのため本を返そうにもジャンルすら分からないので夜は少し顔を顰めた後、図書館の少し奥に進んだ。近くから話し声が聞こえたのでピタと止まり本棚の影からちらりと人影を見る。
途切れ途切れ聞こえる声から察するになにか探しているようだ。
声をかけるべきか悩んでいると、力が抜けたのか手から分厚い本が滑り落ちてしまう。
探す本は推理小説で儚い雰囲気の少女… 真衣ちゃんに続いて推理小説のありそうなコーナーに移動する。面白そうな題名の本も何冊かあり、これから時々来てみようかなと考えながら探した。 頑張って背表紙を見ているが、あまりの本の多さと文字の数で目が回ってきた。
真衣ちゃんの「休憩をしながら」「話しながら」という言葉に耳が反応する。すごく、今、普通の女の子みたいだなぁと思いながら返事をした。
「うん!休憩しながら、話しながらさがそ? 時間は沢山、あるから 」
ん?こういう時って何を話せばいいのだろうか?好きなもの?嫌いなもの?あれ?これでは会話ではなく、自己紹介になってしまう。頭の中がはてなだらけで混乱し、探す手が止まってしまった。
「探す本は推理小説で、儚い雰囲気の雫ちゃんぐらいの少女の表紙が目印なんです。でも、…ここまで来るとなると表紙だけでは広すぎて探すのが大変そうですね…」
表紙とタイトルが分かっているだけでも何時間単位で探すのに時間がかかりそう。
ここからどうやって見つけ出そうか…透視能力のようなものがあればこういう時に使えるし、使い勝手がよかったんだけどタラレバ言っていてもしょうがないか。まぁ、時間はあるしのんびり探そうかな。
推理小説がありそうなコーナーに行き、棚の下からタイトルを流して見ていく。
「少しずつ休憩しながら探しましょうか。話しながらでもい楽しそうですね。ふふふっ」
手伝ってくれている雫ちゃんにも「焦らないでいいからね」と付け加えて言う。やっぱり、少し埃っぽい匂いが鼻につく図書室は居心地いいな。
人に「好き」と言ってもらったのは今までで片手で数えられるほどしかない。この言葉は不思議なくらい心が温まって幸せな気持ちになる。真衣ちゃんに「好き」と言われてからこころなしか、少し顔がほてっているがする。図書館について暖房がきいているせいだろうか?
にしても、本当に広い図書館だ。ぐるっと周りを見渡すが、どこを見ても「本」。本の館みたい…こんなの、目的の本を探すのが相当大変なのではないかと思う反面、宝探しのようでワクワクしてきた。顔がにやけているのではないかと思い、真衣ちゃんのお手伝いをちゃんとする!と密かに心に決めた。
「うん。手伝う。すごく広いね、難しそうな本も綺麗な絵の描いてある本もたくさん…!」
人に「好き」と言ってもらったのは今までで片手で数えられるほどしかない。この言葉は不思議なくらい心が温まって幸せな気持ちになるのか。こころなしか、顔が暑い気がする。図書館について暖房がきいているせいだろうか?
にしても、本当に広い図書館だ。こんなの、目的の本を探すのが大変なのではないかと思う反面、ワクワクしてきたと。もちろん真衣ちゃんのお手伝いはちゃんとする!
「うん。手伝う。すごく広いね、難しそうな本も綺麗な絵の描いてある本もたくさん…!」
後ろ向きの発言をして雫ちゃんを困らせてしまった。
急に他人の話なんて聞かされてもどうでもいいのにと、申し訳ない感情が出てきたが、次の瞬間、彼女はそれを否定して自分を守るように、包むように優しい言葉をかけてくれて自分は気持ちがいっぱいになっていた。こんな私でも仲間がいるんだと確信できた瞬間でもあった。
涙脆かったらここで絶対泣いていたかも。
「…雫ちゃんは優しいですね。ふふふっ、はい、私も雫ちゃんが好きですよ」
嬉しさといつも通りの素直になれない雫ちゃんが可愛くて思わず笑みが溢れていた。変な意味ではないことは分かっていますよという合図で、ライクという意味で微笑みながら彼女に言う。
「雫ちゃん、図書室に付きました。少し探したい本があるので手伝ってもらっていいですか?」
広々い図書館という名のほうが適切な図書室に雫を案内する。本って結構力仕事がいるから大変なんだよね。
実は雫ちゃんにオススメしたい本を探すつもりだということは隠し、彼女に手伝ってもらう。
「む、無理じゃない!…とおもうよ?真衣ちゃん、優しくてきれいだから…」
真衣ちゃんが悲しそうな顔をしていたからなぜか反射的に声が大きくなってしまった。最後のほうは恥ずかしくなりボソボソと声の大きさはしぼんでいった。
私はがっこうに行ってないから1日のほとんどを紫丁香花で過ごす。自分の数少ない友達が悲しい顔をしているのは嫌だ。
「私は、真衣ちゃん、好きだよ?………あ、へ、変な意味はないっ!」
無意識に出た言葉だった。しばらくしたら自分が行った言葉を理解し、とても気恥ずかしくなった。
恋バナの話を聞かれえてアセアセと慌てている動作が可愛いなと彼女を見つめる。その感じだと好きな人いる…のかな?相手は誰だろうと勝手に妄想が始まってしまう。
「ええっ…!えーっと…まだ私はそういう出会いはないですけど…いつか出会えたらななんて思ってます。…こんな私を好きになってくれるなんて多分無理だと思いますけど」
妄想から現実に戻された。自分から恋バナを振ったくせに逆に聞かれるとは思わなかったので少し戸惑ってしまう。とは言っても入退院を繰り返していた自分にとっては学校で友達関係なんて上手く出来てなかったし、今は楽しいけど気になる人はいないので勿体ぶることはないと思ってさらっと言ってしまう。
いつかは運命の人に出会いたい。そんな夢物語なことほんの少しだけ考えてしまう。希望を持ってしまうけど、そんなことは現実に起こらないことは知ってる。分かってる。病弱だし、紫丁香花にいて戦ってるってなると尚更。
ポロッと後ろ向きの発言が口に出る。こんな暗い話なんて…聞かれちゃったなと苦笑した後気を取り直して長い廊下を歩く。 もうそろそろ図書室につきそうだ。
図書室に行くと決まったとたん舞ちゃんの表情が明るくなった。自分もあんな風に花が咲くように笑えたら…みたいな柄にもないことを思いながら舞ちゃんに付いて図書室へ向かった。
「えっと、好きなジャンル… ファンタジーとか、普通の日常みたいな本が好き。」
初めて読んでもらった絵本がファンタジーだった気がする。たしかお姫様が出てきたような…よくおぼえてない。そんんことを考えていると舞ちゃんから恋というワードがでた。
「す、好きな人…?!えっと、スキナヒト…じ、じゃあ舞ちゃんはいるの?」
急に好きな人を聞かれたので頭が真っ白になって思わず質問返しをしてしまった。舞ちゃんにもいるのかな、好きな人…
彼女が図書室へ行ってみたいと言った瞬間、ぱぁーっと表情が明るくなって笑顔になる。読書という好きなものにテンションが上がってふだんの弱々しさが嘘のようにハキハキしている。
「じゃあ図書室へ行きましょう…!」
ここから図書室は上に昇らなければいけないので少し遠い。その間に何も話さないというのも気が落ち着かないので話題をふる。
「雫ちゃんはどういう本がお好きなんですか?ミステリー系、ファンタジー系、ホラーなんかもありますよね。あ、あと恋愛系とか…恋愛といえば雫ちゃんは好きな人とかいるんでしょうか。恋バナ図書室でしちゃいます?ふふふっ」
好きな本のジャンルを聞きたかっただけだがいつの間にか話は脱線している。
雫ちゃんをいじってるわけじゃなくて少しの出来心で聞いてみたかっただけ。恋バナとかそういう青春の話なんて特に命がけで戦っている日々に、恋愛が話題になんて出てきやしないから少し話してみたかった。自分も青春という青春なんてしてきてないから、普通にそういうのができる人が羨ましい。この病気さえなければ。
「うん!図書室、行ってみたい。なにか、オススメおしえてほしい。」
まだ図書館へは言ったことがない。ここは敷地が広すぎてまだ図書室にたどり着いたことがないし、本は好きだけど、読めない字があるから疎遠になっていた。でも真衣ちゃんなら教えてくれそう!とひそかに思った。
やっぱり私の推理は間違いではなかった。どうやらいつも一緒にいる漣さんは今日はいないらしい。雫ちゃんは寂しくないと言っているけど本心は寂しいんだろうなと見透かしているので可愛くて微笑んでしまう。
「そう…ふふふっ じゃあ、良ければ一緒に本読みながらお茶でもしませんか?あ、雫ちゃんが他にやりたいこととかあればそっちの方でいいですけど…」
誰かとお茶しながら本を読むのもいい。本探す時間が省かれるかもしれないし。
「ぐぅ。なんか朝起きたらいなかった。ま、まぁ。別に寂しいとか思ってないし!でも、一言くらい声かけてくれたらいいのに…」
朝起きて、いつもならいたずらしてくるのに今日は何もなくて部屋にこっそり入ったら誰もいなくてもぬけの殻だった。どこにいっているのだろうか?誰かと一緒にいるところをあまり見ないけど…
雨を見て耳を立てていると雫ちゃんの可愛い本当の姿のことを知ってしまったが、今は黙ったままでいよう。
「そう言えば雫ちゃんとよく一緒にいる漣さんは今日はどうしたんですか?」
彼女のいつも隣にいる女性らしい見た目のお兄さんの姿がない。まぁ、まだ朝早いのでまだ寝てるとかそういうのであれば図書室にも行って一人で黙々と読書でもしようかと考える。調べたいものもあったし、読みたい小説もあったのでお昼までは時間が潰せそう。お昼まで雨が止んでくれるといいのだけど。と不安そうにまだ勢いのある雨を見つめる。
真衣さんは少し苦笑いをしながら振り向いた。聞いちゃったのだから正直に答えるしかない。
「えっと、はい。聞かれちゃってます。えっと、今日は雨ですね。のとこから… 雨さんとお話ししてたんだ。私も、氷で作ったぬいぐるみに話しかけて……っ!…」
なぜか真衣さんのゆったりとした雰囲気にのまれてとんでもなく恥ずかしいことを言いかけた。聞こえたかな…と考えながら自分の顔が熱くなっていくのを感じた。
気を紛らわすために、窓の外の雨粒を1つ凍らせてみた。 いつもの通り、床に落ちてチャリンと音を立てて割れた。
真衣さんは少し苦笑いをしながら振り向いた。聞いちゃったのだから正直に答えるしかない。
「うん。聞かれちゃってます。えっと、今日は雨ですね。のとこから… 雨さんとお話ししてたんだ。私も、氷で作ったぬいぐるみに話しかけて……っ!…」
なぜか真衣さんのゆったりとした雰囲気にのまれてとんでもなく恥ずかしいことを言いかけた。聞こえたかな…と考えながら自分の顔が熱くなっていくのを感じた。
シトシトと降る雨を見つめていて話していたら誰かの声が聞こえてくる。声の聞こえる方に振り返ってみると雫ちゃんがいた。
「あ、雫ちゃんおはようございます。えっと…聞かれちゃいましたかね?へへへっ…」
まず彼女に挨拶して、さっきまでの会話を聞かれていたようで少し苦笑いして恥ずかしがる。流石に気味悪いって思われてまずかったかな…なんて不安に思うが彼女の問いかけに答えようとする。
「雨さんとお話してたんです。雨だと気分憂鬱になってしまうけれど、けして雨は悪くはないですよって」
また視線は窓の雨の方を向いて降って来る雨達を優しそうな目で見つめながら話す。きっと今日の雨は悪いことではない。ふぁぁ…少し眠気がしてきたな…
雨の音で普段よりも早く目が覚めたので、アジトの中を一人で歩いていたら小さな声がした。声の方へ向かうと舞衣さんだった。気になったので近づいて声をかけてみる。
「おはようございます。だれと、話、してるの?」
雨は、魔法の遊びがしやすいから嫌いじゃない。でも、屋上に上がって遊ぶことはできない。ん?私、雨の日は好きなのか嫌いなのかよくわからない。こういうのをなんて言うんだろう?
頭がショートしそうだったので考えるのをやめて、舞衣さんの返事を待った。
朝早く起きてお庭にあるお花や野菜たちを窓の外から只々見つめる。外に出てちゃんと観察したいけど、雨が降ってしまってはどうしようもない。
「今日は雨ですね…少し体調が悪い…かも… でも、お花さん達には雨は嬉しいものだから…けして憂鬱な訳ではないですよ、雨さん」
自分の体調は天気で左右されがちだ。特に雨の季節は嫌いだ。気圧の変化で頭痛がしたり、だるかったりするし、じめじめして気分も落ち込んでしまう。天気のせいだってなったら、私の不調の言い訳みたいになってしまう。けど、私の作ってるお野菜さんやお花さんには雨は唯一の恵みだから責められない。けして恨んではないです、ないと困るという思いでぶつぶつと独り言を言っている。
他人からしたら結構、いやかなり気味悪い。
「うん、おやすみ」
雫に手を振り返してすぐに部屋まで戻る。眠いなあ、と思いつつ寝間着に着替えてベッドに飛び込んだ。
【食堂/聡太】
「宴って何の?つーか、一時的とはいえ危ないとこ行ったんだからさっさと寝ろ。ああそれとも、ボクとそんなにお酒が飲みたいんだ?」
宴ってお祭りみたいなもんじゃないのか。二人で宴って寂しいしそもそも俺は未成年なんだけどな。一年くらいは誤差って事か?まあ、とりあえず付き合うかな。そう決めると、ただ一緒に呑むだけじゃつまらないと考えてからかってみた。
先に席を立つ雫と杏奈に手を振り見送った後、大人の宴はまだ終われねえと威勢よく言う。お前は早く寝ろとか誰かに怒られる前に。そんな厳しい言葉言われたらつまらなくなるしさ。
「さて、宴はこれからだぜ!酒だー 聡太もちろんお前も付き合えよ」
自分を置いてどこかへ逃げそうな彼を引き止めるように、無理矢理肩を組んでお酒を注いでいく。一人の宴じゃ寂しいし、宴って呼ばないしな。
「私も足手まといにならないように、頑張る」
そういって杏奈ちゃんのほうを向いて微笑んだ。杏奈ちゃんももう、眠そうだなぁと思いながら歩いているといつの間にか自分の部屋の前についていた。
「じゃあ、今日はおつかれさまだったね。沢山寝て、元気回復させなきゃ。おやすみなさい。」
そういって杏奈ちゃんに手を振って部屋に入っていった。
「うん、寝ようと思う。たくさん寝て次の戦いに備えるの。足手まといにならないようにがんばんなきゃだしね」
そう言いながら目をこする。眠そうな雫ちゃんを見てたらわたしも眠くなってきちゃったなあ、と思うとふは、とあくびが出た。
「おやすみ、なさい。」
そう言って食堂から出るてと杏奈ちゃんが後ろから杏奈ちゃんが来た。杏奈ちゃんももう寝るのかな… と考えているが、自分自身、そろそろ睡魔に負けそう。
「今日は、疲れたね…杏奈ちゃんもこれから寝る?」
「うん、おやすみ!」
そう言って雫に手を振ってからお皿を流し台に持っていく。わたしももう少ししたら寝ようかなあ
【食堂/聡太】
「杏奈さん、そう簡単には夢には嵌まりませんよ。僕を舐めて貰っては困ります。漣さんにでもかけてみればいかかでしょう?悪戯好きですし。そもそも幻覚を自白剤代わりに使わないでくださいね」
嘘つきって会うたびに言われてるしいちいち言う俺も俺だけど。そろそろかからないって学習しろよ。そう思いながら出口の方を見るとふらふらと帰る雫が見えた。
「まあでも、今は遅いですし雫さんを送って貴方もお部屋に戻られた方が良いでしょうね」
そう言うと杏奈は素直にぱたぱたと雫を追いかけていった。よし、上手く追い出せた。
「れーん、美味いのはわかったからがっつくなよ?喉詰まるぞ」
「ん?!」
気づかないうちに眠っていたのか、頭が落ちてきて気が付いた。そしたら杏奈ちゃんが寝てもいいと言ってくれた。どうしようか。みんな帰ってきたことだし寝ようかな…
「うん。そうする。部屋、戻るようにする。」
そういってふらふらと椅子から立って移動し始めた。
「ははっ、そんなこと気にしてたの?別にさ同情でやってるわけじゃないし、自分の意志に従って行動してるまでだ。確かに雫は大切だけど…いや、なんでもねえ。」
雫はもちろんのこと大切だ、大事だ。なにせ俺の妹だしな。だけど、それと同じぐらいにお前も大切なんだよ。って言いかけそうになったが、ここで言うといちゃもんつけられそうだし、微笑みを浮かべで話を終わらせておいた。何むず痒いこと思ってるんだ俺。あいつに変な感情湧くのも…俺らしくないな。
「さて、食べようかな。」
仕切り直しにいただきますをしてほっとけーきという物を食べる。ふぉーくで一欠片を口に頬張る。もぐもぐと数秒食べて驚く。何だこれ…すげえうめぇじゃねえか。味ははちみつとか使われててかすていらに似てるけど何か違うな。どうやら美味しかったらしくすごい勢いでもぐもぐ食べ続けていく。
「うん、ありがとう…!」
どう返せば良いのかわからずあいまいな返事をして、ホットケーキを食べ終わる。お皿はあの人がやってくれるだろうし、と考えていると雫が眠そうにしていることに気づいた。
「雫ちゃん、眠いならお部屋戻る?わたしも漣さんも帰ってきたことだし夜も遅いから寝てもいいと思うよ」
「私は杏奈ちゃんのこと、大切。れんにいのことも、大切…だよ。だからみんなが、帰ってきてくれてよかった。」
そう言ったが、自分で言ったことに照れくさくなって、杏奈ちゃんやれんにいが机のほうに歩いていくのに速足でついて行ってテーブルに座った。杏奈ちゃんも幸せそうにホットケーキを食べている。そんな様子をまた、じーっと眺めていた。しかし疲れが出てきたのか少し瞼が落ちてきてうとうとし始めた。
「みんなが、帰ってきてくれてよかった。私は杏奈ちゃんも大切な人。まぁ、れんにいもいなくなったら困る…けど…」
そういって杏奈ちゃんやれんにいが机のほうに歩いていくのについて行ってテーブルに座った。杏奈ちゃんも幸せそうにホットケーキを食べている。そんな様子をまた、じーっと眺めていた。しかし疲れが出てきたのか少し瞼が落ちてきてうとうとし始めた。
「なら良いけど。純粋に悪かったなって思っただけだ。大事なものを抱えてる奴より抱えてない奴を外に出すべきだから」
俺も杏奈も仲間はいても大切な奴はいねーし、と呟いてホットケーキの皿を漣に突き出す。
「はい、どうぞ。杏奈さんも僕の作った物で良ければ食べてくださいね。最後まで戦闘の場にいらっしゃったと聞きましたし、エネルギーを摂ってしっかり休まなければ」
【食堂/杏奈】
「うん、もらってくるね。あと、帰ってくるの遅くてごめんね。漣さんをわざわざ迎えに来させちやったでしょ?他の人の大事な人をなくしちゃうかもしれないことはわたしは、しちゃいけないってあの嘘つきのおにーさんによく言われてるのに。わたし、あのおにーさんは好きじゃないけどこのことはわたしもわかってるつもりなんだ」
そう言って雫を放すと聡太の方へホットケーキを取りに行く。ついでに能力でもかけてみたが、やはり上手くかからなかった。ほんとに、このおにーさん、能力かかってくれないしいっつも嘘つくし嫌い。でもホットケーキはおいしくて優しい味がした。
ここの連中は年齢層も低くいし、酒飲まない人が多いからなぁ…冷蔵庫を漁ってもいいつまみになりそうなものはなかった。せめてでも冷やっことか胡瓜の漬物とか欲しい。これから外へ買いに行こうかと悩んでいる所髪をグイグイと引っ張るやつがいた。誰だかは大体検討がついている。
「いいい痛い痛いやめろって、髪引っ張んなよ!何、真面目な面して。あ、もしかして俺のこと褒めたいの?そりゃそうだよね、俺が特大の必殺技ですぐ終わらせたからねー あははっ」
こんな事をするのはやっぱり聡太だった。髪を引っ張る手を振り払って怒る。本当にこいつは癇に障るやつだな。なんだか髪が大事って言う女子の気持ちも少し分かった気がする。
普段素直に謝るやつだったっけ?違和感を感じるな、何か虫がいいようにしてる?この後何かあるなと見た。彼の言葉に自意識過剰なジョークを挟む。もちろん必殺技なんてこれっぽっちも出してないけど嘘をついて自分凄いだろアピールをする。
「おー雫元気になったっぽいな。ほっとけーき?また、こっちの世界の物か じゃあ、少し食べよっかな」
雫に待ってて偉い偉いという意味で頭をぽんぽんと優しく撫でる。撫でながらもほっとけーきと聞いて何だろうと考える。最初に浮かんだのがかすていら。けーきというのはここに来て学んだが、ほっとがよくわからない。基本的に西洋のおしゃれなけーきっていうやつは食べないし、そこら辺のはまだ未知のものだ。
お皿を全部しまい終えて、机につこうと思うと、玄関のほうで声がした。2人が帰ってきた!っと思い、走って近寄る。
「杏奈ちゃん!よかった。帰ってくるの遅かったから、心配、した。」
そういって、ぎゅーっと抱きしめた。人にギュってしてもらうのはとても久しぶりな気がした。とても落ち着く。
「れんにいもお帰りなさい。あ、聡太さんのホットケーキ、すごく美味しかったよ。」
お皿を全部しまい終えて、机につこうと思うと、玄関のほうで声がした。2人が帰ってきた!っと思い、走って近寄る。
「杏奈ちゃん、大丈夫?部屋に言って休む?」
そう言いながら杏奈ちゃんに近寄る。とても疲れているように見えるからご飯は起きてからのほうがいいのかと考えていると、れんにいが視界に入った。
「ん。れんにい、おかえり。」
見たところけがはなさそうで安心した。でもそれを表には出さないように斜め下を見て言った。面と向かって言うのはなんかちょっと気恥ずかしい。
「漣さん、ありがとね」
下ろしてもらい、お礼を言うとついて行くように食堂へ向かう。雫ちゃんと嘘つきのおにーさんがいた。とてとてと雫ちゃんの方へ小走りで向かい、ぎゅうと抱きしめる。
「ただいま、雫ちゃん!あ、おにーさん、わたしも戦ったらお腹空いたからなにかちょーだい」
【食堂/聡太】
「わかってますよ。仕事はきちんとします」
笑みを崩さず言うと残りの皿も片付ける。食堂に誰かが来たようなのでそちらを向くと漣と杏奈が帰ってきていた。
「漣さん、杏奈さん、おかえりなさい。無事で良かったです。お腹が空いているのであればホットケーキを焼いたのでどうぞ」
俺が余計な事を言わなかったら漣は別に迎えに行く事はなかったんだろうし、と考えてそっと消耗したであろう分の体力を漣に分けると、冷蔵庫を漁る漣の髪を引っ張り、漣にだけ聞こえるように言う。
「どっか怪我してんなら言えよ。俺が治すから。それと、俺が余計な事言ったからお前も行かなきゃなんなくなったよな。ごめん」
数秒顎に手を当て考え込む。ここで引いたらメイドとしてのプライドが成り下がるのではないか。かと言ってこの人は私の心配をしてくれているのよね。そんなの分かってるわ。ただ私がありがとうなんて言葉が出せないだけで…考え込んだ後、小さいため息をついて喋り始める。
「はぁ…まぁいいわ。そう言うなら貴方の好きなようにやりなさい。ただし、与えられた仕事は自分で片付けることね。別に私が折れたわけではないわ、貴方に反論するのが面倒くさそうだなと思っただけ。じゃあ」
本人はアドバイスしているつもりなのだが、どうしても威圧や軽蔑している様にしか見えない。ありがとうって言うつもりだったのにやっぱり最後の一言は意地悪な毒舌になってしまう。中々素直になれない。ダッサイ…
彼女の放った言葉が空気をピリピリさせる。空気が張り付いた部屋からそれだけを言い残してスタスタと歩いて去っていく。
【エントランス 漣】
月夜が部屋に戻っていった何分後、すぐにアジトに帰ってくる。彼と離れた後も普通に歩いて、あのまま何事もなく無事に帰ってこれた。エントランスでやっと杏奈を背中から降ろしてやる。そして直様食堂の方へ向かう。
「だだいま、お腹空いたー!」
遊びに帰ってきた後の子供がよく言うセリフの王道を大きな声で言う。さっきお酒しか飲んでねぇからお腹ペコペコだー 酒のつまみになるものないかなと冷蔵庫を漁る。
「わかった。あ、真衣さん、おやすみなさい。」
そういって、言われたようにゆっくりお皿を戸棚にしまっていった。そこへ月夜さんが来て、お片づけを代わってくれた。そして、杏奈ちゃんたちはいつ帰ってくるのだろうと不安になった。帰りが遅いけど…大丈夫だろうか…
「おやすみなさい、真衣さん」
月夜につつかれ皿洗いを交代するよう言われるが、彼女は先程まで酷い怪我だったのだから無理をさせるわけにはいかないんじゃないだろうか。
「雑用を任せる方が良いのはわかってるんですけどさっきまで戦闘をしていた方、特に月夜さんは怪我が酷かったんですから先に休んで欲しいです。僕は漣さんと杏奈さんを待つので時間はありますし」
にこやかに提案を拒否してみる。粘られたらその時は話し合いか無法者の紫丁香花らしく手を出すか。手を出すのは『僕』らしくはないからあまりありえないけど。
ホットケーキはふわふわ美味しくて少ししか食べられなかったけど、満腹になった。ホットケーキを作ってくれているときもただ見物してるだけになってしまったけど…
「聡太さんのホットケーキ美味しかったです。皆さんには悪いですけど…先にお部屋に戻ってます。じゃあね…雫ちゃん。聡太さんも月夜さんもまた明日です…」
片付けてくれている聡太や、手伝っている雫ちゃんには悪いけど今は眠たいからお部屋に戻るとする。その場で挨拶をして小さくお辞儀をすると自分の部屋へ戻っていく。今日は疲れたな…いつもよりも早く寝ないと疲れが取れないかも…お腹いっぱいにもなったし…今日はいい夢が見れそう…ふふっ
もう自分の部屋へ行くまでに少し食後の眠気が来ている。階段を駆け上がるのも少し大変だな…
【食堂 月夜】
こいつ見た目の割にはホットケーキの味は美味しくて、どうやって作っているのかと真似してみたいという思いと同時にメイドの名が少しなくなった気がして苛立つ。らずに喜んでもらえるようにスイーツのレパートリーも増やしていこうかしら。
「お皿洗いなら私が引き受けるわ。メイドというのもあるけど、一応…助けてくれたお礼…として。ほら、貴方達は早く他のことをしてなさい。」
食べ終わった自分のお皿を台所へ持ってきて、聡太にその役を奪おうと肘で彼をつついて退かそうとする。もちろんメイドという役割を担っている以上他の人たちに雑用を任せるわけにはいかない。というのもあったけど、この人達が助けてくれたから何か恩は返さなきゃと思い、ここで綺麗に返すとする。ずっと背負っていたら嫌だもの。お礼が負けず嫌いの性格で言いづらく、誤魔化すように彼達を追い払う仕草をした。
「そうですか。でも、ほとんど拭いてしまったのでお皿をしまうのをお願いできますか?」
お手伝いをする、と言ってくれたのでしまうのを任せる。どのお皿も高い棚にはないからしまいやすいはずだ。そう考えてお皿を台に置いた。
「そうですか。でも、ほとんど拭いてしまったのでお皿をしまうのをお願いできますか?」
お手伝いをする、と言ってくれたのでしまうのを任せる。どのお皿も高い棚にはないからしまいやすいはずだ。そう考えてお皿を台に置いた。
「ん。ごめんなさい。あ、お皿拭くのなら、できる。」
じっと見ているのがばれて少し恥ずかしくて下を向いた。そして、話を変えたくて手伝いを申し出た。
たぶん私だって、お皿をふくくらいできる…。できると思う。
「ん。ごめんなさい。あ、お皿拭くのなら、できる。」
じっと見ているのがばれて少し恥ずかしくて下を向いた。そして、話を変えたくて手伝いを申し出た。
たぶん私だって、お皿をふくくらいできる。できる。
「お粗末様でした。片付けておくので、リビングに行ってテレビでも見ててください」
カチャカチャと皿を洗う。夜も更けて来たし外が寒いだけあって水も冷てぇ。さっき使った能力の反動で割と体力も持ってかれたな。うーん、と険しい顔付きに自然となってしまう。ふと、雫が周りを見つめている事に気付き、微笑み返した。
「ふふ、そんなに見つめられると穴が空いちゃいますよ」
「ん。おいしかった~」
お皿に盛ってあったホットケーキはきれいにお腹の中に納まった。やっぱり美味しいものを満足に食べれるっていいなと改めて思った。
「ごちそうさまでした。」
そういってお皿をキッチンに持って行き、また机に戻ってみんなをじっと眺めた。
「いえいえ、どういたしまして」
そう言って自分の分のホットケーキをナイフで切り分ける。バターとシロップは美味いけど明日の楽しみに取っとくか。朝は何でも食べていいって決めてるし。やっぱりホットケーキは簡単に作れるからいいな。ほかほかしてて甘いから疲れた時にも効くなあ。そう思いながら美味しそうにホットケーキを頬張る。
「おお!おいしそう。」
聡太さんがホットケーキをお皿に盛って出してくれた。するとふわっとおいしそうな香りがして思わず声をあげてしまった。ホットケーキにバターとメープルシロップをかけて口に入れた。さっきまでの疲れが落ちていくような甘い、優しい味に顔がほころぶ。
「聡太さん、ほんとにおいしい。ありがとう 」
「ありがとうございます。こっちも出来ましたよ。少なかったら多めに作ったのでおかわりしてくださいね」
そう言って焼けたホットケーキを皿に一枚ずつ盛っていき、余った物は大皿にまとめて盛った。
我ながら良い出来だと思う。半分だけ食べようと思ったけど一枚食べたくなってきたな。いや、駄目だ。
そう考えて自分の皿の前でうーん、と唸る。
「分かった。4つと大きいやつ1つ…」
とつぶやきながら丁度いいお皿を探す。ただ大きいお皿が少し高いところにあり、ちょっと背伸びをして取り、準備をした。
「お皿、準備できました。」
「ふふ、ではお皿を出して頂けますか?僕と雫さん、真衣さん、月夜さんの分のお皿と残った物をまとめておく大皿を一枚お願いします」
そう言って材料をボウルに入れてシャカシャカとかき混ぜる。少し多めに作って漣の分として置いておくか。彼奴なら食いそうだし。
「私、手伝う。何すればいい?」
正直、ホットケーキを自分で作ったことはないけどお手伝いならできる、と思う。ホントに手伝いが必要なのかと思うくらい手際よく準備をしている聡太さんを見ながら質問に答える。
「1枚でいい、です。」
「そうですか。じゃあ、お手伝いもお願いしちゃおうかな、なんて。まあ、冗談ですけどね。疲れてる人にお手伝いはさせませんよ」
そう言いながら、棚からホットケーキミックスを取り調理台に置く。計量カップと牛乳、卵を出してどのくらい作るか考える。えーと、俺の分が一枚。いや、一枚も食べると夜だし、小さめなのを半枚。残りの半分は明日の朝食べるとして、雫と真衣と月夜の分かな。軽く満たせる物って注文だったし一枚で足りるか。一応聞いとこう。
「ホットケーキ、何枚食べたいですか?」
「ん。ホットケーキがいい、です。ありがとうございます。」
ホットケーキはやっぱりバターとメープルシロップが一番合う。あ、でもフルーツもいい。とどうでもいいことを考えていると部屋に戻るかと聞かれた。
「えっと、私も食堂についていきます。作ってもらっているのを見とく、ます。」
そういってゆっくり食堂に向かいながら、気を抜くと変な敬語になっているのに気づいた。またれんにいにからかわれるから直そう。と小さく決心した。
「何か満たせる物ですね。うーん、ホットケーキとかはどうでしょう?確か棚にミックス粉があった筈です。ホットケーキなら冷めても美味しいですしね」
そう言って食堂の方へ歩く。
「あ、お部屋に戻りますか?出来たら呼びますよ」
聡太さんが何か作ってくれると言ってくれた。確かにお腹はすいている。でも、杏奈ちゃんとれんにいがまだ帰ってきていないからか、たくさん食べれる気もしない。
「ありがとうございます。じゃあ、ちょっとお腹を満たせるようなものが食べたい、です。」
ちょっと頭の中で甘いものが食べたい…と思ったが、作ってもらう側だし大抵のものを食べれるので口には出さなかった。
「いえいえ、当然のことをしたまでです。っておい、漣!」
月夜の礼に対する返事をしていると漣が飛び出していった。一人で行きやがって。お前が倒れたら雫も悲しむだろうに。確かに今の俺じゃ能力で体力が削れて助けには行けそうにない。でも俺なら死んでしまっても誰も悲しまないだろうに。そう考えつつも漣の飛び出しに崩された笑顔を貼り付け直して雫達を見守る事にする。
「漣さんも行ってしまいましたし、僕達は大人しくしてましょうか。くたくたでしょうし、夜ですけど何か召し上がりますか?作れる物なら作りますよ」
「いえいえ、当然のことをしたまでです。っておい、漣!」
月夜の礼に対する返事をしていると漣が飛び出していった。一人で行きやがって。お前が倒れたら雫も悲しむだろうに。確かに今の俺じゃ能力で体力が削れて助けには行けそうにない。でも俺なら死んでしまっても誰も悲しまないだろうに。そう考えつつも漣の飛び出しに崩された笑顔を貼り付け直して雫達を見守る事にする。
「漣さんも行ってしまいましたし、僕達は大人しくしてましょうか。くたくたでしょうし、夜ですけど何か召し上がりますか?作れる物なら作りますよ」
「いえいえ、当然のことをしたまでです。っておい、漣!」
礼に対する返事をしていると漣が飛び出していった。一人で行きやがって。お前が倒れたら雫も悲しむだろうに。確かに今の俺じゃ能力で体力が削れて助けには行けそうにない。でも俺なら死んでしまっても誰も悲しまないだろうに。そう考えつつも漣の飛び出しに崩された笑顔を貼り付け直して雫達を見守る事にする。
「漣さんも行ってしまいましたし、僕達は大人しくしてましょうか。くたくたでしょうし、夜ですけど何か召し上がりますか?作れる物なら作りますよ」
れんにいと聡太さんが来てくれた。聡太さんがみんなを回復してくれて、月夜さんの怪我も元通りになって真衣ちゃんの疲労も回復している。
「聡太さん、ありがとうございます。」
れんにいが駆け寄ってきてきてくれた。杏奈ちゃんを迎えに行ってきてくれるらしい。正直自分もついていきたいが、もう疲れ切ってベッドにダイブしたいくらいにつかれている。しかも、ここで休んでいるとを指切りまでして約束してしまったからそうするしかない。
「わかった。ちゃんとここで待ってる。まぁ、杏奈ちゃんの帰りを待ってるんだからね…れんにいは杏奈ちゃんを助けに行くんだかられんにいが怪我しちゃダメなんだよ…」
本当は杏奈ちゃんもれんにいもとても心配だけどなぜか素直に言えない。ダメだなぁと思いながら体を起こし、れんにいを見送った。2人が帰ってくるまでは寝ない。と心に決めた。
れんにいと聡太さんが来てくれた。聡太さんがみんなを回復してくれて、月夜さんの怪我も元通りになって真衣ちゃんの疲労も回復している。
「聡太さん、ありがとうございます。」
れんにいが駆け寄ってきてきてくれて、杏奈ちゃんを助けに行ってくれるらしい。正直自分もついていきたいが、もう疲れ切ってベッドにダイブしたいくらいにつかれている。しかも、ここで休んでいるとを指切りまでして約束してしまったからそうするしかない。
「わかった。ちゃんとここで待ってる。まぁ、杏奈ちゃんの帰りを待ってるんだからね…れんにいは杏奈ちゃんを助けに行くんだかられんにいが怪我しちゃダメなんだよ…」
本当は杏奈ちゃんもれんにいもとても心配だけどなぜか素直に言えない。ダメだなぁと思いながら体を起こし、れんにいを見送った。2人が帰ってくるまでは寝ない。と心に決めた。
れんにいと聡太さんが来てくれた。聡太さんがみんなを回復してくれて、月夜さんの怪我も元通りになっている。
「聡太さん、ありがとうございます。」
れんにいが駆け寄ってきてきてくれて、杏奈ちゃんを助けに行ってくれるらしい。正直自分もついていきたいが、もう疲れ切ってベッドにダイブしたいくらいにつかれている。しかも、ここで休んでいるとを指切りまでして約束してしまったからそうするしかない。
「わかった。ちゃんとここで待ってる。まぁ、杏奈ちゃんの帰りを待ってるんだからね…れんにいは杏奈ちゃんを助けに行くんだかられんにいが怪我しちゃダメなんだよ…」
本当は杏奈ちゃんもれんにいもとても心配だけどなぜか素直に言えない。ダメだなぁと思いながら体を起こし、れんにいを見送った。2人が帰ってくるまでは寝ない。と心に決めた。
「あいつ…」
聡太に騙されイライラしている時に何事かと思って聡太に続いて玄関を見てみると3人の女の子たちが疲れ果てている。その中に雫もいた。今思えば雫だけしか見えてなかった。玄関で倒れている雫にすぐさま駆けつける。
「雫大丈夫か!?良かった、怪我はないみたいだな。こりゃ、派手な騒ぎだなー」
倒れている雫を抱えて名前を呼びかけるけど、ちゃんと息はあるし何も怪我は無いみたいで本当に良かったと安心する。聡太が言うには他に一人の仲間がまだ来ていないらしい。もしかしたら助けが必要になっている状況かもしれない。ここは俺が行くべきだろう。今帰ってきた仲間は疲れているだろうしな。
「俺、杏奈を助けに行ってくるよ。まだ体力あり余ってるし。雫はここで休んどけ、お兄ちゃんとの約束だぞ?」
小指を出して指切りげんまんとお馴染みのメロディーで歌う。雫に付いてきてもらっちゃ困るから約束として固く言い残してから、刀を入っているかどうかを確認してアジトから飛び出す。
【エントランス 月夜】
本当に少しずつだが一歩一歩来てやっとアジトへ戻ってこれた。アジトへ帰ってくると落ち着くようになってしまっている。変な感じ。自分なんてどこにも居場所はないと思っていたのに。そんな事を考えていたら聡太が傷ついている自分に体力を回復してくれていた。
「貴方…あ、ありがとう」
ぎごちながらもお礼を言っておく。やっぱり回復してもらったからか、気分的にも動ける感じがしてきた。かと言ってこれから戦いに行くのは無理があるわ。今日は早く寝て休みたい。
エントランスに着くと倒れている人が三人いた。ああ、さっきまで戦闘してた人達か。一人は漣が大事にしてる子。その子は漣が助けるだろうし、俺はこっちのあからさまに『大怪我です』って感じの人ともう一人の子を助ければ良いんだろう。助けるとか面倒だけどわざわざエントランスに来て見殺しにしたら非難されそうだし。
「お疲れ様です。すみません、僕も参加出来なくて。欠けたものならなおせるので、月夜さんの怪我を治しますね。それと、皆さんにも回復力を分けておきます。戦闘に参加出来なかったのでこれくらいはしないとですよね…」
そう言い、能力をかけていく。体力がめちゃくちゃ削れてる気がするけどまあぎりぎり大丈夫だな。そうしているうちにさっき二度も通信してきた奴がいない事に気付く。
「あれ?いっぴき…んん、じゃなくて一人いらっしゃらないんですね。杏奈さんも確か一緒に居たはずですよね」
エントランスに着くと倒れている人が三人いた。ああ、さっきまで戦闘してた人達か。一人は漣が大事にしてる子。その子は漣が助けるだろうし、俺はこっちのあからさまに『大怪我です』って感じの人ともう一人の子を助ければ良いんだろう。助けるとか面倒だけどわざわざエントランスに来て見殺しにしたら非難されそうだし。
「お疲れ様です。すみません、僕も参加出来なくて。欠けたものならなおせるので、月夜さんの怪我を治しますね。それと、皆さんにも回復力を分けておきます。戦闘に参加出来なかったのでこれくらいはしないとですよね…」
そう言い、能力をかけていく。体力がめちゃくちゃ削れてる気がするけどまあぎりぎり大丈夫だな。そうしているうちにさっき二度も通信してきた奴がいない事に気付く。
「あれ?いっぴき…んん、じゃなくて一人いらっしゃらないんですね。杏奈さんも確か一緒に居たはずですよね」
「はぁ、はぁ。帰った。お疲れ様、です。真衣ちゃん、月夜さん、ついたよ」
やっと帰ってきた。扉を開けたら安心して力が抜けてしまった。でも月夜さんを運んで手当てしてくれる人を探さなきゃ。そう思ったがうまく動かない。真衣ちゃんが苦しそうに倒れてしまった。自分では何もできないのが悔しかったけどもうこれしかないと思い声を出した。
「れんにい、助けて。手伝って。」
大きな声が出なかったので、れんにいに伝わったか分からないが、来てくれる事を願った。
「はぁ、はぁ。帰った。お疲れ様、です。」
やっと帰ってきた。扉を開けたら安心して力が抜けてしまった。でも月夜さんを運んで手当てしてくれる人を探さなきゃ。そう思ったがうまく動かない。真衣ちゃんが苦しそうに倒れてしまった。自分では何もできないのが悔しかったけどもうこれしかないと思い声を出した。
「れんにい、助けて。手伝って。」
声量は小さかった気がしたので、れんにいに伝わったか分からないが、来てくれる事を願った。
「
呆気に取られる漣を見てにやりと笑う。そっちから引っ掛けて来たのにまんまと引っ掛かるとはな。普段からやってると警戒されるけど偶にやると引っ掛かってくれるし。まあ、いつもは俺が引っ掛かってばっかりだけど。
「自分で引っ掛けといてそのリアクションするとか漣、油断しすぎ。そもそも割れてるって言われて時点で俺だったら直せるだろ?はい、ここテストに出んぞーって、痛っ」
欠片に触れた時に手を切り、瞬時に治したが痛いものは痛い。戦うときはアドレナリンとかで痛みづらいんだけどな、と考えているとエントランスの方でどさり、と音がした。
「なーんてな、嘘々。切れてないよ。びっくりした?まあ、漣ならこのくらいのは引っ掛からないよな。あ、誰か帰ってきたみたい。俺、見てくる」
そう言ってコップをテーブルに置くと、逃げるようにエントランスに向かう。
ガチャとドアを開けて、いつもと同じ光景の家が待っていた。ただ、疲れが少し違うだけ。
「はぁ…はぁ…つ、着いたぁ…着きました月夜さん、雫ちゃん。お疲れ様です…良かった」
皆に向けてお疲れ様と言ったが、自分にも言い聞かせる意味で言う。そう言い残して、お行儀が悪いけど玄関に近い廊下でバタリと倒れてしまう。もう疲れた…力が出せないよ。このまま寝てしまいたい。立つ力がない。荒い息遣いで苦しい。苦しいけど、着いたから安心する。もうこれで誰からにも襲われる危険はない。ないけど、月夜さんの手当が必要だよね…でも、今の私には出来っ来ないかな。ふふっ…と少し乾いた笑いでどうしようもない自分に笑いたくなる。
え?と思った瞬間にはパリンという音が部屋に響き渡っていて、もう救うのには遅かった。
「は?な…お前何やってんだよ!」
まさかコップを割られるとは思ってもいなくて、目の前で割られたときは呆気にとられる。こいつは何を考えているのか、どういう思考をしたらコップを割ることになるのか分からないまま割れた破片を見つめ、我に返る。そういや、こいつの能力は確か欠けたものを直せる能力だったよな…まさか!そう、そのまさかだと思った。仕返しに自分の反応を見たかっただけかよ。それだとするならまんまと引っかかった。
クソッ!俺引っかかったのか…いい度胸してんじゃんか。いつか大きいいたずらをしてやると決意をする。
ひび割れたコップじゃないことは流石に棚から出したときに確認しているし演技なんて仕事柄よく見ている。またいつもの冗談を言っているんだなあ、と思い今日は乗ってやることにした。
「いやまあどっちでも良くはないかは微妙だけどさ。ゲ、ホントだ。ボク、気づかなかったよ。手を切るところだった。教えてくれてありがとう、漣。このコップは割って捨てとくね」
そう言うとコップを床に叩きつける。どうだ、びっくりしただろ。どうせ欠けたものは直せるから別にこれで困らないし。漣の反応を待っていると再び通信機が鳴る。うるさ、と呟いて応答と拒否のうち、拒否を選んだ。
彼が愚痴をこぼしている間にグビグビとお酒を飲み続ける。なんかよくわからないけどあいどるってやつも大変なんだな。いつの時代になっても楽は出来ないってことか。愚痴は正直聞いて無かったけど、彼の名前の訂正が入った時にやっと飲むのを止める。
「んー どっちでもいいじゃん。それよりもそのコップ、ひび割れしてるから水なんて注いじゃったら汚れちゃうけどいいの?あ!ほらほら濡れてきてる!」
お酒を飲むのをやめ、コップの方に指をさして危ない!危ない!と彼を促す。驚いた表情で言ったし、きっと効いているだろ。自信のある迫真の演技だ。まぁ、そう言うのも無理はない。何だって嘘なんて何回もついてきたからねー こんな表情を作るのは序の口だよ。
表面上は驚いた表情をしているが、内心はニヤニヤと彼が引っかかるといいなと楽しくしている。
「なんだ、漣か。仕事は今日はもうない。最近売れ始めたからってまだ沢山仕事が貰える程度でもないんだよ。『注目の新人!』みたいな感じで少し出られるだけだし、深夜番組だし。地下アイドルならぬ半地下アイドルだわ」
ぽっと出のアイドルなんか金にならないとでも言わんばかりの扱いだった。楽屋は物置みたいな部屋だったし喋ってる途中でうまくまとめられて俺の出番終わったし。愚痴を零していると漣がお酒を飲み始めたので呆れて、注意する。
「あのさあ、瓶から直飲みはやめろよ。行儀悪いぞ。コップもあるし探せば升くらい出てくるだろ。あ、あと八尋って最初に名乗った俺も悪いけどそれ芸名だから。俺は聡太」
食堂に着くと八尋が先に何かをしていた。まだ自分の存在に気づいていない八尋に食いつくように声をかける。
「おっ、八尋じゃ〜ん。あいどるって仕事終わったのか?」
どうやら今の時代にはあいどるという歌って踊る職業があるらしい。よく分からないけど、俺の時代で言う芸者ってやつか?八尋に声をかけても、目的は忘れずに冷蔵庫から瓶に入っているお酒を手に取り、服に隠し持っている瓢箪に注いでいく。が、どうやら入れられる量が瓶の方が多く瓢箪では足りずに、余った分は瓶にちょくで飲む。なんとも豪快で男らしい飲みっぷり。というか、男だからそれで正解なのか。
通信機がさっき鳴っていたが、無視して冷蔵庫を開けると見事に飲み物が一つもなかった。面倒だが、食堂に行く事にしてパーカーを羽織り、食堂へ行く。
「夕飯は食ったし、この時間から重めのは太るな。炭酸水でいっか」
棚からコップを取り出し、炭酸水を入れて飲んでいると誰か来たようだ。外面繕うのめんどくさ…と思いながらコップを洗う。
今日はお昼から昼寝として寝ていたらいつの間にか夜になっていた。自分の感覚ではそんなに寝ていたとは思わないが、空がそう言っているのだから間違いはない。
「ふぁぁ…眠い…全く雫はどこ行っだんだ?まぁいいや、何か食べ物でも探しに行こーっと」
ぐっすり寝たという証拠である大きなあくびをする。そういや、今日は中々自分の部屋に雫が来なかったな。何かあいつにあったんだろうか?んーまぁ、多分なんとかなるだろうとう思考で心配になる話はここまでにする。
自分にしか聞こえないぐらいの小さい声でお酒〜お酒〜♪と呑気に歌いながら食堂へと向かう。お酒というたったの瓶一つでこんなにウキウキする人は滅多にいない。誰から見ても変わっている人と思われるに違いないだろう。
元気な杏奈ちゃんは張り切って玄関へと走り去ってしまった。雫ちゃんも自分に誘ってくれて向こうへ行ってしまった。
「あ、はい。ふふふっ、元気でいいな…」
先に行った杏奈ちゃんを追いかける雫ちゃんの元気な様子をまるで子を見る親のように温かい目で見て微笑ましくなる。数秒この光景に見入った後彼女を追いかけるように歩く。病気持ちというだけあってここでは彼女たちのようには走れないけど、自分も遅れを取らないよう自分の中では精一杯だった速歩きで外へと続く玄関へ向かっていった。
外に行くと決まったと同時に杏奈ちゃんは走って玄関のほうへ行ってしまった。
一瞬呆然としたが、私も早く行きたかったので急いで追いかけた。
「真衣ちゃん、杏奈ちゃんいっちゃったので…私たちも行きましょう。」
杏奈ちゃん以外の人と話すのはまだ緊張するが、とても話しやすそうな雰囲気な真衣ちゃんはほかの人よりもずっと話しかけやすい。 そう考えながら廊下を走り、杏奈ちゃんに追いついた。
「行くのが決まったことだし、早く行こう!」
どたどた廊下を走って玄関まで行く。普段だったらお行儀が悪いけど人探しだからそうは言ってられないよね。
あ、置いてきちゃった。二人を置いてきてしまったことに気付いて玄関で待つ。
「行くのが決まったことだし、早く行こう!」
どたどた廊下を走って玄関まで行く。普段だったらお行儀が悪いけど人探しだからそうは言ってられないよね。
あ、置いてきちゃった。二人を置いてきてしまったことに気付いて玄関で待つ。
確かにたとえいなかったとしても無駄足にはならないだろうし、どっちみちたいしてすることもない。
〔善は急げ〕だったっけ?なんか行動しろっておじいちゃんが言ってた気もする…
正直、杏奈ちゃん以外の人と話したり、お出かけすることはほとんどなかったので内心少しワクワクしている。それにもし本当にもえさんが困っているなら早く行ってあげたいが、そんなことは恥ずかしくて口には出せない。
「そうだね。一旦そとにでてみよう。瀬戸大橋なら近いしお散歩がてらいってみよう。」
「そうですね…瀬戸大橋を探すのは良い手です。瀬戸大橋なら人はまばらだから見つけやすいでしょうし。雫ちゃんはそのままでお外行ける?寒いだろうから上着着るなら待つから着てきたらいいよ」
人探しなんて正義の味方っぽいなあ。正義と考えると紫陽花が頭に浮かび、ふるふるとかぶりを振った。
あいつらとわたしたちは全然違う。あんな偽善者集団とは違うんだ。
確かにたとえいなかったとしても無駄足にはならないだろうし、どっちみちたいしてすることもない。
〔善は急げ〕だったっけ?なんか行動しろっておじいちゃんが言ってた気もする…
正直、杏奈ちゃん以外の人と話したり、お出かけすることはほとんどなかったので内心少しワクワクしている。それにもし本当にもえさんが困っているなら早く行ってあげたいが、そんなことは恥ずかしくて口には出せない。
「そうだね。一旦そとにでてみよう。瀬戸大橋なら近いしお散歩がてらいってみよう。」
確かにたとえいなかったとしても無駄足にはならないだろうし、どっちみちたいしてすることもない。
〔善は急げ〕だったっけ?なんか行動しろっておじいちゃんが言ってた気もする…
正直、杏奈ちゃん以外の人と話したり、お出かけすることはほとんどなかったので内心少しワクワクしている。それにもし本当にもえさんが困っているなら早く行ってあげたいが、そんなことは恥ずかしくて口には出せない。
「そうだね。一旦そとにでてみよう。瀬戸大橋なら近いしお散歩がてらいってみよう。」
雫ちゃんにもえさんって人とどういう繋がりがあるかを問われてギクッとする。そう聞かれると何も答えられないのが今の現状だ。慌ててなんて答えようと戸惑っていると先に杏奈ちゃんが答えてくれた。
「もえさんが危ないんです…!多分…取り敢えず外に出てみてそれらしき所に行きますか?例えば…近場の瀬戸大橋とか…?」
それに同情するように危ないと言う。どこへ行こうか、それらしき所がどこなのか分からないから問題なのだが…でも助けを求めている限りは何か助けを、行動をしないと自分の中の何かが落ち着かなくなる。まずは行きやすい瀬戸大橋ぐらいを攻めて見て回ろう。
「えーと、真衣さんが急に探そうって言い始めて…んー、多分知らない人、かな。でも、夜だし寒いからお外に居るのは良くないと思うんだ」
誰なのかはわからないけど、寂しがってるのは良くないだろうし考えてる暇があるなら探した方がいいんじゃないかな。
ん?そういや、どんな人か聞いていなかった。まさかの2人とも「もえさん」という人を知らないらしい。
「2人の知り合いじゃなかったら、そのもえさんって人とどういう繋がりがあるんでしょうか?」
真衣ちゃんにははあまり話しかけることができなかったが、いつも見ていたら超が付くほどのド天然さんだな、と感じた。
もしかしたら今回も真衣ちゃんの勘違いなのでは?と思ってきた。
杏奈ちゃんを待っていると雫ちゃんもついてきてくれていた。どうやら人探しに協力してくれるらしい。
「えっと…雫ちゃんも手伝ってくれるんですか?ありがとうございます!」
雫ちゃんにお礼をしてさて、探そうとするがとある事に気づく。ここからどうやってもえさんを探せばいいのか。名前は知ってるけど『もえ』という名前は何人もいるだろうし、顔さえも分からない。
「杏奈ちゃん…ど、どうやって探しましょう…へへっ」
杏奈に助けを求めるように苦笑いしながら気まずく笑う。顔が分からないのにどうやって探そうとしたのか、自分が少し馬鹿らしく思えてきてしまった。
「もえさん?私の知ってる人にはいないけど…」
杏奈は人探しをするといっている。正直暇だし一緒に行こうと思う。
ふと、疑問がわいてきた。誰だかわからないのにどうやって探すのだろう?
「どうしてそのもえさんって人を探すの?よければ私も手伝うよ?」
何だかよくわからないが、寒くて暗い夜に一人ぼっちで迷子になっているんだったら早く探さないと!
人手はたくさんあったほうがいいだろうし
「もえさん?私の知ってる人にはいないけど…」
杏奈は人探しをするといっている。正直暇だし一緒に行こうと思う。
ふと、疑問がわいてきた。誰だかわからないのにどうやって探すのだろう?
「誰だかわからないのにどうやって探すの?あと、どうしてそのもえさんって人を探すの?」
質問攻めになってしまったような気がするが、まぁ気になったのだからしょうがない。
杏奈なら気にせず答えてくれるだろう。
「えーと、もえさん?という人を探しに行くんだ。誰なのかはよくわからないけどこんな暗いし寒い夜は一人だったら怖いだろうから早く探してあげなきゃって思って」
出かける準備をしていると雫ちゃんに声をかけられた。
そういえば、雫ちゃんもわたしが見つけて紫丁香花に誘ったんだっけ…懐かしいなぁ…あ、人を探すのって多い方がいいって聞いたな。
「雫ちゃんも一緒に探しに行く?」
ん?あれは…杏奈ちゃんと真衣さん?
こんな時間に何をしているのだろうと思い近づいた。
「こんな時間にどっか行くの?」
外に行くような用意をしているので何をしに行くのかと気になった。
「待たせちゃってごめんなさい…!取ってきたので外、行きましょう」
上着を取るついでに肩掛け鞄も取ってきた。
中に懐中電灯と上着を入れたから寒かったらこれで暖かくできるし、懐中電灯があると能力が使いやすいし。ないとは思うけど、紫陽花の奴らに会ったら能力がないと難しいよね…
そう考えて深呼吸をしてから言う。
「真衣さんも準備できましたか?」
「あ、はい…待ってますね」
と杏奈に言い、手を振って自分の部屋へと駆け込んでいく杏奈を見送る。そして先程杏奈がぽつと言った一言を考える。そうですよね…そのもえちゃんがどこの誰かが分からないから探そうとしても検討もつかない。本当にどこを行けばいいんだろう… 自分の能力で探せば無駄な動きをしなくてもいいのかな。体力消耗しちゃうけど、でも手助けになれるから頑張るしかない!
「はい。行ってみましょう、外。行くとなるとどこを探したらいいんでしょう?」
外で泣いていたらどうしよう。わたし、泣き止ませるなんてことしたことないし…
何か暖かい羽織れる物も持っておいた方がいいかもしれない。
「あの…真衣さん、わたし上着取ってきますね!」
そう告げて、ぱたぱたと自室へと駆け足で行く。
杏奈ちゃんに聞くと知り合いにはいないと言われた。けど、もしも勘違いでは無ければ本当に危ないかもしれない。手がかりは今ひとつないけど…ここからどうやって見つけよう。
「そうですか…そ、そうですよね!外とか行った方がいいですかね?」
杏奈ちゃんに言われた通り、今は夜だし探さないと可愛そう。丁度今雪も降ってきてるし…外に行くつもりでいるが、彼女の性格上自分で物事を決めるよりかは、誰かに聞いて決めるタイプなので聞いておく。そうでもないとそわそわしてしまうだろう。
「うーん…もえさん、という人はわたしの知り合いにはいないですね…」
なら、もえとは誰なんだろう?真衣さんの知り合いじゃないみたいだしお外にいるのかもしれないし。
「探すなら、早く探してあげないと夜はこわいんじゃないですか…?」
急いでと部屋のドアを開けてちらちらと周りを見渡す。が、次の彼女の一言で動きがピタッと止まる。
「えっと、えっと、もえさんっていないんですか…?勘違いでした…?」
さっきまで慌てているのが収まってしまった。案外にも杏奈ちゃんはあっさりとした対応をしていて自分がおかしいことをしている事に気づく。もしかして自分が勘違いしてるのではと思いだす。よく分からないけど天然とか言われているけど、天然ってなんだろう。これもその天然ってやつだったりするのかな。
「も、もえさんですか?よくわかんないですけどアジトの外、探してみますか?」
取られた手を握り返しながら言う。
もえ、という人が誰なのかはわからないけど探した方がいいのだろう。今は夜だし探すならすぐに探さないと。
「えっと、こういうの確か…もえもえきゅん〜?みたいなのやるって本で見ました。これどういう事なんでしょうね…?」
いつの日か読んだ本で、とある女の子の主人公の友達がメイド姿で指でハートを作ってこんな事を言ってたのを思い出して真似てみたのだが、やっぱりこの意味が分からない。自分で真似してみたら心情が分かるのかなとか思ったんだけどな。まず、もえもえきゅん…?とは何なんだろう。もえもえ…?誰かの名前ですかね?きゅん!は胸が苦しくなるとか…?はっ!もえちゃんって子の命が危ないんですか!?ぇぇぇぇぇぇ…!?
「も、もえちゃんを探さないと…!」
もえちゃんがどこの誰かか分からないけど命が危ないなら助けにいかなきゃ!焦って杏奈の手を取り、急ごうと言う。勿論そんなのないはずなのだが。
「はい、ありがとうございます。ふふ、大丈夫ですよ。わたしがやりたくてやってることなので」
受け取ったタオルでキュッと拭くとボウルを戸棚に戻す。
すると、オムライスが出来たと言われた。やはり、まだ少し子どもらしいところが残っているのか、とてとてとテーブルの方へ小走りで向かうと、自分の分のオムライスにケチャップをハート型になるようにかけた。
慎重にタイミングを見極めながら卵を眺めていた所に彼女にタオルの事を聞かれる。食器を拭くためのタオルだから、流石に台所のタオルじゃダメだな…少し待っててくださいと一言付け足して一回タオルが詰め置かれている洗面所の方へ行く。そして一枚スッと選び、また戻って彼女に渡す。
「えっと…これ使ってください…って何か最後までやってもらって…」
渡した後に気づいたが、休んでてと言ったのにいつの間にか最後まで手伝わされてしまっているではないか。何だか申し訳ないなという気持ちを思ってオムライスの最後の工程へと進んでいく。そっと卵が破けないようにとご飯の上に乗せていく。
「よし…杏奈ちゃん出来ましたよ。後はお好みでケッチャップかければ出来上がりです!」
オムライスの1番大事な所とも言っていい卵も綺麗に盛り付けられたし、後は杏奈ちゃん好みでケッチャップをかければいいだけ。お皿をダイニングテーブルの方へと持っていく。