此岸 - 14
- 2018/08/09 02:04:36
「 Black Maria 」
大きな看板にそう書かれているレンガ造りの少し古びたアパート。
六階建て。外には螺旋の非常階段がある。壁に貼られたチラシに
赤いクレヨンで元ある字を塗りつぶし入居者募集と書かれていた。
地下1階 - ジャック
[ 医務室 ]
[ 娯楽室 ]
[ 武器庫 ] 娯楽室と似たような内装だが…
[ 食堂 ] 共用のキッチン。ある程度の食材は冷蔵庫、基本は各自持ち込み
[ ランドリールーム ]
[ ボイラー室 ] この最奥にある階段を抜けると地下研究所に繋がっている
1階 -
[ 時計店 Samiel ]
[ 本屋 詞湶堂 ]
2階 -
[ 喫茶店 Mountain ]
[ 輸入品店 Ark ]
全店、営業時間は朝-夕。
メンバーに限り従業員が店に居る場合は終日利用可能。
3階 - クラブ
4階 - ハート
5階 - ダイヤ
6階 - スペード
エレベーターの6階はカードキーを通さないと押す事が出来ない
屋上 - 集会所
屋上はドーム型の屋根で、傍から見れば温室のようにも見える
其処には全員分の椅子と机があり、会議や暇潰し等に使われる
[ 地下研究所 ]
メンバーには知らされて居ない場所。迷い込まない限り入る事は無いだろう。
地下二階 - アルバートの研究所
地下三階 - カラスの研究所 廊下に乾いた血痕が残っており、常に薄暗い場所。
[ 手術室 1 ] 薬品棚に囲まれた部屋。ガートル台や心電計、手術台があり一般的な手術室に酷似
[ 手術室 2 ] 乾いた血痕が手術台や床に残っている。肢枷や拷問器具の様な物も置いてある様子
[ 培養槽 ] 厳重な南京錠により施錠されている
[ 私室 ] 軽く施錠されている。二つ目の私室として使われている様子
[ 地下四階 ] 収容所
サクラ・ポート - 市中
[ 不動産屋 ]
[ 波止場 ]
[ スーパーマーケット ]
* 行動ロルは2行~1コメントに収まるまで
* ☆//^^;www♪等の記号は使用禁止です
* 100コメントを取った方が次のトピを立てる様にお願いします
* 幹部キャラ以外は基本的に6階への立ち入りが出来ません
* 地下研究所に出す際は雑談で一言お声掛け頂けると助かります
* ひとり部屋のキャラクターは自室のロルをお控えください
「え~本当ですか~?」
ンフフという笑い声。この返答に彼は何を思うのか。
探られてしまっても構わない事だが、普段の言動を考えればされるかどうかは さて。
洗剤運びを手伝うついでに商品棚をちらりと眺める。また何か増えてるんだよなぁ
「ん?ああ、ハイ。白い…”雪”ですか?
あ~凄い…、へえ、積もるんスね、此処にも。びっくりびっくり」
おお、寒そう、と。
意味記憶の一つを取り出して返した言葉は、単語にあまり確信を得ていないように見えた。
「え~本当ですか~?」
ンフフという笑い声。この返答に彼は何を思うのか。
探られてしまっても構わない事だが、普段の言動を考えればされるかどうかは さて。
洗剤運びを手伝うついでに商品棚をちらりと眺める。また何か増えてるんだよなぁ
「ん?ああ、ハイ。白い…”雪”ですか?
不在だった時間の話の事っスかね。まあ確かに結構時間は経ってますよね」
おお、寒そう、と。
意味記憶の一つを取り出して返した言葉は、単語にあまり確信を得ていないように見えた。
[ 輸入品店 - カラス ]
「 成程、成程。それは興味深いな 」
トラベルか、トリップか。成程ね、聞くまでも無い。分かっているとも。
等と失礼な事を考えるのもいつもの事ながら、
ついでに商品棚に並ぶ苛性ソーダを手に取った。ココが変だよ輸入品店。
「 マア、特に詮索するような事でもないが君。ところで窓の外を………
窓の外のアレを、君はどう説明するのかな?」
なんの脈絡もなく唐突に、話しを始める程度には驚いていたのだろう。
指した窓の先には一面の白。周りの建物を覆い尽くす白、白い何かだ。
黄昏時、窓から差し込む西日がなんだか心地よくて眠気を誘う。
会計台横の椅子に腰掛け、大きなあくびを。
客もいない、やり残した仕事もないとくれば暇を持て余した店主がすることは1つだ。
「 … 」
椅子に座り腕を組んだまましばらく眠気と戦っていたが
ついに目を閉じ、静かな寝息を立てて眠ってしまったようだった。
判で押したようないつもの格好で、いつもの格好が洗濯機の中をぐるぐる回っているのを見ている。何着も似た服を持つ彼女はそのうち数セットが洗いあがるのを待っていた。
壁にもたれかかりながらポケットから出したのは、先月貰い受けた小さな包み。
「…………」
結局、あれから会う機会がなかったが──配り終えただろうか。
今度会ったときにでも聞こうと一人結論を出した累は、そこでふわと軽い欠伸をした。洗濯機を見ているのは嫌いではないが、それにしたって洗い終わるまでが退屈だ。何かしら本を持ってくるべきだったなと次は大欠伸。
はーいと返事をして歩み寄る。
先月の下旬頃に悪夢じみたものを見た気がするが、恐らく幻覚だろう。
何事も多用すべきではないと頭の中で頷く。最近薬を使った覚えはないのだが。
「え~そんな事ないッスよ。ちょっとブラジル行ってきただけですって」
繰り返すようだが薬を使った覚えはない。
この男の素面が常識的なそれとは大分異なるとしても、流石に正気ではあると信じて欲しい。
にこにこと笑って見せる様は、記憶を遡れば特別おかしいものではなかった。
[ 輸入品店 - カラス ]
卵ボーロを三袋、カゴに入れたところで壁に滑らせる目が彼を捉えた。
声を掛けてきた相手に振り返らないのはもはや特徴とも言うべきか。
「 やあ君、洗剤を運ぶのを手伝ってくれ 」
息をするように他人を顎で使う部分も健在だ。今日も元気な証である。
そして当然のようにカゴを床に置くとカラスは珍しく、相手を振り返った。
「 そう言えば、久々じゃないのかい。てっきり死んだのかとでも思ったが… 」
「お、キング」
先客発見伝。
先日は時期的な勢いで忘れがたい記憶を刻みつけられた。
その為すっかり忘れていたが、この上司とも久し振りの関係だ。
入用なものの見当をつけて輸入品店を訪れれば、気配。
そっと扉を開けて中を見回した時、足音の主はメモを片手に最後の言葉を呟くのが聞こえた。卵ボーロ。
[ 輸入品店 - カラス ]
「 41ショートにRIP弾……それから洗剤と…卵ボーロ………… 」
卵ボーロは勝手に付け加えた。
何やらカオスな買い物メモを片手に店内を歩くヒールの音がひとつ、ふたつ。
重ねる足音はゆったりとしているがそんな彼の白衣は今日もなにやら血腥い。
── 喧騒が終わる ──
[ 喫茶店 / 平坂 ]
「……ああ」
好意には甘えておくべきだと思うが、仮装の準備をしておいても良かったかもしれない。
元の高さに戻った黒真珠が傍らの布を被った少女を見やる。
シーツの裾が汚れてしまっては大変だ、なんて意識するところばかりが大人だ。
「開ける指もない。そう心配してくれるな」
[ 2階廊下 / ミミズ ]
騒ぎに足音が紛れていたからか、結果的に不意打ちのような形で影が姿を現した。
無論、光に弱い女が動き出す時間帯の予測は彼らにとって手慣れたものだろうが。
彼女は、少しの誤解で引き起こされたとはいえ、これがハロウィンであることを知らずにいる。
平たく言えば偶然、通りすがっただけに過ぎないのだから、気づかないのも無理はない。
「また悪巧みかい」
紫眼と赤目の背後に忍び寄る暗闇と共に、アンダルサイトが揺れた。
[ 喫茶店 / 平坂 ]
「……ああ」
好意には甘えておくべきだと思うが、仮装の準備をしておいても良かったかもしれない。
元の高さに戻った黒真珠が傍らの布を被った少女を見やる。
シーツの裾が汚れてしまっては大変だ、なんて意識するところばかりが大人だ。
「開ける指もない。そう心配してくれるな」
[ 2階廊下 / ミミズ ]
騒ぎに足音が紛れていたからか、結果的に不意打ちのような形で影が姿を現した。
無論、光に弱い女が動き出す時間帯の予測は彼らにとって手慣れたものだろうが。
彼女は、少しの誤解で引き起こされたとはいえ、これがハロウィンであることを知らずにいる。
平たく言えば偶然、通りすがっただけに過ぎないのだから、気づかないのも無理はない。
「また悪巧みかい」
紫眼の背後に忍び寄る暗闇と共に、アンダルサイトが揺れた。
[ 喫茶店 / 平坂 ]
「道理か」
好意には甘えておくべきだと思うが、仮装の準備をしておいても良かったかもしれない。
元の高さに戻った黒真珠が傍らの布を被った少女を見やる。
シーツの裾が汚れてしまっては大変だ、なんて意識するところばかりが大人だ。
「開ける指もない。そう心配してくれるな」
[ 2階廊下 / ミミズ ]
騒ぎに足音が紛れていたからか、結果的に不意打ちのような形で影が姿を現した。
無論、光に弱い女が動き出す時間帯の予測は彼らにとって手慣れたものだろうが。
彼女は、少しの誤解で引き起こされたとはいえ、これがハロウィンであることを知らずにいる。
平たく言えば偶然、通りすがっただけに過ぎないのだから、気づかないのも無理はない。
「また悪巧みかい」
紫眼の背後に忍び寄る暗闇と共に、アンダルサイトが揺れた。
「どうも」
と、礼を言いながら、椅子に掛ける。
「えと、それじゃ、紅茶で」
ホットチョコレートにしようかと少し迷ったものの、
甘い菓子に甘い飲み物の組み合わせには抵抗があったのだろう。
やや遠慮がちに紅茶を頼む。
[ 2階廊下 - カラス ]
小さな呻き声と共に唇の端を濡らす赤。何、心配はない。いつもの事だ。
口元を拭う赤い指先に注射器を持ち直すと幾つか咳を零した。
「 話が違うじゃないか……!」
端からそう言う祭りではない、と気付く者は此処に存在するのだろうか。
「 そういう訳なんだ、大人しくしてくれ。大丈夫、きちんと元通りにするよ 」
何がそう言う訳なのか、何をどう元通りにするのか。
納得しているのは本人とアルバートだけだがそれすらいつもの事だった。
じり、と近寄るカラスの手には注射器とメス。そしてハーヴェストの背後には壁。
夕焼け小焼けで日が暮れて__
黄昏時。すれ違ったのは生者か亡者か。
彼の指差した方を見て目を細める。
金髪にあの赤いコート、ハーヴェストだ。
丁度良い遊び相手を見つけたと足音を殺して忍び寄る。
白い指先が彼の喉元を捕らえた頃、振り向きざまに飛んで来た肘鉄。
「 おっ、と 」
後ろに1歩、大きく下がる。巻き添えを食らうのは御免だ。
その表情は実に楽しげで…といっても、その表情はほとんど包帯で隠されているのだが。
「 " トリックオアトリート " だよ、カラス 」
[ ハート6号室 - キャシー ]
「 …そう 」
と、だけ。
相変わらずのそっけない返事にも慣れてきた頃だろうか。
こう見えて内心とてもテンションが上がっていることは
少しだけ口角を上げた口元が語っている。
「 ここ…座って 」
椅子にかけられていた衣類を床へ落とすと、その椅子を引いた。
「 紅茶かコーヒーか、あとは…ホットチョコレート…どれがいい? 」
なんて、最後に付け足したホットチョコレートは
いつもベリィベルが作ってくれるのを見ているだけだから、自分で作ったことはないのだけど。
[ 喫茶店 - ベリィベル ]
「 それは…まあ……無粋なこと聞く大人はつまんないですよ、ヒラサカ 」
仮装をしていない、との言葉に返す少女の声は何かを誤魔化している様。
そして二人が包み紙を受け取った事を確認すると少女は満足そうに笑う。
「 全部で12個、君達が受け取ったのはそのなかの二つです 」
バスケットの中から彼女もひとつ、摘み上げると灯りにそれを透かした。
中は見えないようになっているが……
「 二人とも、僕が全部配り終えるまであけたらダメですからね 」
[ 喫茶店 / 平坂 ]
受け取る二人を満足そうに眺めていた男が、徐に片膝を立てて座った。
彼の身長では相手の声が聞こえない、ということは往々にしてある。
ふと嗅ぎ慣れた匂いが鼻先に漂ったが、気のせいだろう。
今日はまだ解体作業に手をつけていない。
「俺は仮装をしていないが」
趣旨に反してはいないか、と疑問符を浮かべながら伸ばした腕が空を切った。
掴むための指が一本も残っていないのだから当然だ。
何故か悩むような素振りを見せた後、包み紙を押し出して籠の中に落とす方法を選んだようだ。
普段であれば咥えて持ち帰るところだが、少女の前では憚られる。
条件反射というものをご存知だろうか。
簡単に言えば、訓練や経験を重ねた結果に得られる無意識の反射行動のことだ。
パブロフが犬に対して行った実験は非常に有名である。
ハーヴェストという男は、基本は友好的だ。
彼基準で意味の無い暴力を行うことも無ければ、不用意に言葉で罵るような事もしない。
必要な時に、必要なだけ。無駄を好まない性質だ。
故に、言い訳させて欲しい。
背後に急激に接近した気配が、直後に鼓膜を震わせる声によって明らかになったとしても。
「!」
セイッッッ!!という掛け声と共に出た肘鉄は、条件付されたが故の無意識なのだと。
「…………エッ、キング?」
[ 食堂 → 2階廊下 - カラス ]
足音を殺す二人の影は夕焼けに伸びる。異能の眼が捕らえたのは彼の金髪だった。
しかし、朱の中に浮かぶその青年の姿は何処か影を持たない異形の様にも見える。
その何処か異形じみた青年……ハーヴェストの位置を人差し指でアルバートに伝えた。
「 トリックオア……なんだっけ?マアこの際なんだって良いさ、やあ御機嫌よう
悪いねえ今日はこう言う日なんだ。大丈夫、傷は塞ぐよアルバートが…… 」
背後から近寄るカラスの白い指がその喉を捕らえた。
ひた、と冷たい体温は脈の位置を確認する。間違いなく逃げた方が身の為だ。
部屋の光景には特に気にしないようにした。
というより本当に気にしていないかのようだった。
床のものをなるべく踏まないようにしながら少女の後に続く。
「ううん、私の部屋より片付いているほうだよ。」
そんな部屋を眺めながら、そう答える。事実である。
片付けが苦手とか、そういうレベルではなく
ものをもとの場所に戻すことができていないのだ。
[ 喫茶店 / 平坂 ]
徐に、赤毛の男がその場に片膝を立てて座った。
彼の身長では相手の声が聞こえない、ということは往々にしてある。
ふと嗅ぎ慣れた匂いが鼻先に漂ったが、気のせいだろう。
今日はまだ解体作業に手をつけていない。
「ああ。……これも菓子なのか」
伸ばした腕が空を切った。
掴むための指が一本も残っていないのだから当然だ。
何故か悩むような素振りを見せた後、包み紙を押し出して籠の中に落とす方法を選んだようだ。
普段であれば咥えて持ち帰るところだが、少女の前では憚られる。
[ 喫茶店 / 平坂 ]
徐に、赤毛の男がその場に片膝を立てて座った。
彼の身長では相手の声が聞こえない、ということは往々にしてある。
ふと嗅ぎ慣れた匂いが鼻先に漂ったが、気のせいだろう。
今日はまだ解体作業に手をつけていない。
「ああ。……これも菓子なのか」
伸ばした腕が空を切った。
掴むための指が一本も残っていないのだから当然だ。
何故か悩むような素振りを見せた後、包み紙を押し出して籠の中に落とす方法を選んだようだ。
普段であれば咥えて持ち帰るところだが、少女の前では憚られる。
[ 喫茶店 / 平坂 ]
徐に、赤毛の男がその場に片膝を立てて座った。
彼の身長では相手の声が聞こえない、ということは往々にしてある。
ふと嗅ぎ慣れた匂いが鼻先に漂ったが、気のせいだろう。
今日はまだ解体作業に手をつけていない。
「ああ。……これも菓子なのか」
伸ばした腕が空を切った。
掴むための指が一本も残っていないのだから当然だ。
何故か悩むような素振りを見せた後、包み紙を押し出して籠の中に落とす方法を選んだようだ。
真逆。
予想通りの答えに、にっこりと満足そうな笑みで返す。
「 そうこなくっちゃ 」
それにしても、思っていた以上にしっくりくるマント。
加えて唇にひいた紅は鮮やかに妖しさを纏わせた。
まるで本物のヴァンパイアみたいだ。
「 決まり、だね? 」
彼の取り出したメスの1つを手に取ると、その刃を舐めるように指でなぞる。
さあ、” お医者さんゴッコ ” の始まり始まり。
不運な最初の患者は誰ぁれ___?
[ ハート6号室 - キャシー ]
「 ん、 」
いいのかと言う問いに小さく頷いて。
大きな包みを両手に持ったまま、一足先に部屋の奥、
ゴシック調のテーブルやベッドのあるスペースへと歩を進めた。
「 ちょっと物が多い…けど、 」
” ちょっと ” とは。
部屋中の床を覆い隠す程に散らかった服やらお菓子のゴミ。
それらをその一言で片付けるのは最早さすがとしか言いようが無い。
「オデット」
幸いにも口の中だけの声は布に阻まれてモゴモゴとしか聞こえない。
それに、どちらかといえばオディールかもしれない。仮装の色的な意味でも、あと匂いまで精巧すぎる血糊という意味でも。そもそもその扮装は鳥ではないのだから不適切では……布が蠢く。中で軽く首を振っているから。
今はそれよりも目の前の食糧(おやつ)だ。
「感謝する。ありがたく」
布を持ち上げてぬっと突き出した腕が、一袋を掴みカバンの中にそっと入れる。……少し悩んで引っ張りだすとうち一枚に噛り付いた。満足げに口をもぐもぐさせながら残りをカバンへ。
人間関係には疎い。知らぬが仏か無知は罪かは未だわからず、包み紙を覗き込んだ。被り直した布の奥で黒い瞳が軽く瞬きをする。
「……これは」
言いつつもシーツがまた押しあがる。自分に近い方一つに軽く指を掛けて、そっと持ち上げてみた。握りつぶしてしまったら大変だ。
[ 喫茶店 - ベリィベル ]
蝶番よ永遠なれ そしてどうか黒のナイトにバレませんように
そんな淡い希望を胸に抱いたか如何かは分からなかったが、
少女は自分の分のひと袋を取ると満足そうに腕を組む。足元に物騒な物が転がった。
「 ヒラサカもなかなか分かってるですね、吊るすのは見逃してあげます 」
はて、吊るすと言うのは何の事だったか。
頻繁にニュースに耳を傾ける者ならばある程度察しは付いたのだろうが、
そうだ。世の中には知らない方が良い事だって一つや二つや三つ、存在するものだ。
「 それじゃあ、僕からも。ヒラサカと君、ひとつずつ選ぶですよ 」
ポケットから取り出した、お手玉大の包み紙。
中が見えないようになっているのは、どうやらそう言う仕様のようだが……。
[ 食堂 - カラス ]
今からじゃあ、との問いに答えるのはたったひとこと。── 真逆、と。
ふわり、受け取ったマントを羽織ればなかなか様にはなっている物だ。
くつくつ、と笑い声が響くその瞳はさながら玩具を見つけた子供の様に醜悪に。
「 それで?君の言うイタズラって言うのはつまり…… 」
ポケットから滑るように取り出した口紅を慣れた手つきで引く。
義手の右手に持ったのは二本のメス。映りこむ紫色は不敵に輝いていた。
「 お医者さんゴッコとか、如何かな? 」
その同室の方は今は不在らしい。
カツアゲ、と言う言葉に首を傾げたがあまり気にせず。
「…いいの…?」
お茶に誘われて、どう答えたらいいものか迷いながらも
緊張して部屋のほうへ足を運ぶ。
「えっと、お邪魔します」
[ 喫茶店 / 平坂 ]
傍らの布塊から聞き覚えのある声がしたことに黒真珠は丸みを帯びた。
それが緩々と三日月の形に歪む、唇を閉ざしたまま笑っているのだろう。
次いで現れたもう一人、狼の仮装をした少女の方に向き直る。
無論、席を立とうとは思わない。
自分なりに楽しむ準備を済ませたところなのだから。
「見逃してくれないか」
カウンターに置いていた籠の持ち手を腕に通すと二人の前に差し出した。
赤いリボンで封をされている透明な袋の中には、ひしゃげたクッキーが四枚ずつ。
腹を満たすには足りないが、菓子としては程々の大きさだ。
[ 喫茶店 / 平坂 ]
傍らの布塊から聞き覚えのある少女の声がしたことに黒真珠は丸みを帯びた。
それが緩々と三日月の形に歪む、笑っているのだろう。
次いで現れたもう一人の方に向き直る。
無論、席を立とうとは思わない。
自分なりに楽しむ準備を済ませたところなのだから。
「見逃してくれないか」
カウンターに置いていた籠の持ち手を腕に通すと二人の前に差し出した。
赤いリボンで封をされている透明な袋の中には、ひしゃげたクッキーが四枚ずつ。
腹を満たすには足りないが、菓子としては程々の大きさだ。
[ 喫茶店 / 平坂 ]
傍の布塊から聞き覚えのある少女の声がしたことに黒真珠は丸みを帯びた。
それが緩々と三日月の形に歪む、笑っているのだろう。
次いで現れたもう一人、狼の仮装をしたベリィベルの方に向き直る。
無論、席を立つようなことはしない。
自分なりに楽しむ準備を済ませたところなのだから。
「見逃してくれないか」
カウンターに置いていた籠の持ち手を腕に通すと二人の前に差し出した。
赤いリボンで封をされている透明な袋の中には、ひしゃげた形のクッキーが四枚ずつ。
腹を満たすには足りないが、菓子としては程々の大きさだ。
「 ハハハ、オレも気づいたのは昨日でさあ 」
それとも、今からじゃやる気は出ない?
___なんて、わかりきった答えを待つ煽り文句。
確かに、もっと準備期間があれば最高だったと思うけど。
「 ひどいなあ、カラスだって同じようなもんじゃない 」
まあ、否定はしないが。
蛇のような瞳孔に掌の紫眼。彼だって化け物と言うには十分だ。
「 吸血鬼…いいね、キミにぴったりだし。でも、てっきりモンスターなんて何も知らないと思ってたよ 」
キミに映画を観る趣味があったとは。
一緒に見た覚えはないから、ミミズちゃんと見たのかな。それとも一人で?…それはちょっと笑える。
まあそんなことはどうでもよくて、カラスの意外な一面は一先ず置いて話を戻そう。
「 ほら、このマントあげる。多少の仮装道具は買っておいたからね 」
あとはいつも飲んでる輸血パックでも片手に持っておけば完璧だ。もちろん牙は自前で。
[ ハート6号室 - キャシー ]
「 ……! 」
彼女の持つ包装紙を覗き込むなりキラキラと瞳を輝かせる。
口の端からじゅるりと垂れそうになった涎を袖のフリルが拭う。
「 ありがと…。………あ、あの…さ、折角だから…一緒に食べ、ないかな 」
包装紙ごと受け取ると、そう言って部屋に上がるよう促した。
「 べべ……ベリィベルと同室なんだけど…
今はカツアゲ…じゃなくてハロウィンのお菓子をもらいに行ってるみたいで 」
要するにお茶の相手が欲しいと。
[ 喫茶店 - ベリィベル ]
「 お菓子を!出しな!!さーい!!! 」
スカートと共に揺れる尻尾。柔らかな耳。そして鉈をひきずる音。
けたたましい音を立て扉を開いたのは浮かれた仮装の少女だった。
最早脅迫である。赤い絵具……のような物が滴る鉈を平坂へと向けた。
それが本当に絵具か如何か……知らなくていいと言う事もあるだろう。
「 トリックオアトリート!!!!!!!!! 」
しばらく蠢いた布塊は、扉越しの独り言を耳聡く聞きつけた。
シーツから伸びた腕が扉を開けはなつ。
「トリックオアトリートだ、お邪魔します」
明らかに発言の順序を間違えながら、大きな布を被っているとは思えない速度でズルズルとカウンターへにじり寄る。平坂の近くまで来ると、ハロウィンの常套句をもう一度繰り返してその布塊は静止した。
扉の向こうの少女に向かって笑みを作る。
「トリックオアトリート。はい、えぇと、買ってきたよ」
幾つもの袋、包装紙に包まれた箱、全て少女への賞品である。
何を買ったっけ。
チョコレート、キャンディ、クッキーにマシュマロ。
見ているだけで涎が垂れると言うよりは、虫歯になりそうだ。
「ささ、早く、手が疲れちゃって。結構沢山買ってきたんだ。」
[ 喫茶店 / 平坂 ]
少女の予想通り、店内には既に先客がいた。
男が一人、カウンターの下で足首を交差して座っている。
先ほど自身の目の前に置いた籠にはシンプルなラッピングが施された菓子の袋がいくつか。
ハロウィンだからと朝に作ったものだが、その中から取り出したクッキーを噛み砕く。
「味に問題はないが」
元とはいえ料理人、遊びであろうと手を抜いたつもりはなかった。
だからこそ、形がやや歪であること以外はレシピ通りの出来に思える。
何にせよ焼き上がりを見てからここに足を運ぶまで、ずっと悩んでいるのだ。
単なるプライドの問題なのだが。
あの青年ならば、と頭に浮かんだ期待に賭けようとしても、別の心当てが邪魔をする。
[ 食堂 - カラス ]
「 どうしてもっと早く言わなかったんだいそうしたら君、だって、
そうしたら僕はもっと早い内からこの日の為に…… 」
そう、アレとかコレとか注射器とかメスとかチェーンソーとか etc
成程、と一人歪に納得したのは彼が纏う甘い香りに極彩色の壁飾り。
厄介な事にカラスにとっては鉄も砂糖も同じ甘い香りに違いは無いのだった。
「 ?君だって、そんな恰好をしなくても化け物みたいな物じゃないか 」
義手の指先が眼鏡を押し上げる。モンスター、と言えば……
以前、何処かの事務所で見た映画の内容を頭の中で反芻した。そう、あれは…
「 吸血鬼伝説なら知っているよ。マントを着るんだろ? 」
「うーわー」
部屋から階下へ一つずつ、なだらかな重力を受ける。
傾いた陽光に代わって控え目に存在を主張する象徴は、街には既にちらほら。
であれば此処も変わらず、というべきか。近況?報告の内容が和らぐ程度には浮かれた空気。
ハロウィンに限っては何故か橙色がそれらしく見える、何故だろう。
飾られたアパルトメントの内装を辿りながら、特に目的もなく眺めた。
[ 喫茶店 / 平坂 ]
少女の予想通り、店内には既に先客がいた。
男が一人、カウンターの下で足首を交差して座っている。
先ほど自身の目の前に置いた籠にはシンプルなラッピングが施された菓子の袋がいくつか。
ハロウィンだからと朝に作ったものだが、その中から取り出したクッキーを噛み砕く。
「味に問題はないが」
元とはいえ料理人、遊びであろうと手を抜いたつもりはなかった。
だからこそ、形がやや歪であること以外は想定した通りの出来に思える。
何にせよ焼き上がりを見てからここに足を運ぶまで、ずっと悩んでいるのだ。
単なるプライドの問題なのだが。
あの青年ならば、と頭に浮かんだ期待に賭けようとしても、別の心当てが邪魔をする。
コンコン___
二度、ノックの音がした。
今日はハロウィン。こんな日に扉をノックするのは菓子に集る怪物か幽霊の類と決まっている。
だけれどこれは例外。なんせ彼女は自らお菓子を抱えて魔女を訪ねてきたのだから。
顔が覗ける程度に扉を開けると、そこから赤色を覗かせて。
賭けの賞品、”両手いっぱいのお菓子”を持った雷瑠だ。
「 ___トリックオア…トリート…。こんばんは。 」
元より貰えるとわかっているのだが、今日はハロウィン。あえてというやつだ。
コンコン、と二度ノックをする。
住人は娯楽室でゲームをした相手。
「あー、こんばんは…」
持ち掛けられた賭けに「大賛成」したものの、敗戦。
賭けの賞品―お菓子―を両手に部屋までやってきたというわけである。
「 なんだ材質を聞いてたの。 」
だからそうではなくて。
彼らの会話は何時もこう。噛み合わない歯車を無理矢理つなげて回しているような。
しかし彼ら自身がそのことに気づかない。側から見れば大層不思議であろう。
「 いい?カラス、今日はハロウィンって言ってね。
”トリックオアトリート”って唱えながら悪戯をして回る日なんだよ。あとお菓子ももらえる。 」
なんて、多少…或いは大分間違った解釈をさも常識かのように伝える。
勿論彼自身、そう信じて疑っていないようだ。
ちなみにこの赤い液体の染みは地下にあった物を使ったのだが、まあ…恐らく血糊。きっと。恐らく。
鉄の香りがするのはそういう仕様。と…いうことにしよう。だって本物の方が手に入れやすいんだもの。
「 カラス、キミも何か知っているモンスターはいないの?
ハロウィンはモンスターのコスチュームが必要なんだよ 」
[ 食堂 - カラス ]
「 いいや、プラスチックだよ。植物じゃない 」
そんな事は声の主も分かっている筈なのだが、
彼らの会話が常にややズレているのは今に始まった事では無い。
壁に咲いた眼がくるりと周りアルバートの顔をまじまじと見る。
また妙な事を始めたかと振り返る、その顔に紫眼はやや輝いた。
「 血液みたいだ、今度は何をするんだい 」
白い塊が移動している。
よく見たら白い塊はしわくちゃのシーツで、更によく見るとシーツを被った何者かで、もう少しよく見ればシーツを被った小柄な人影。ずるりと音を立てた布塊は喫茶店の扉を前にして止まった。
少し破れた隙間から辺りを窺うもまどろっこしく、布端を持ち上げた姿はいつも通りの黒い帽子に黒のコート。大きな肩かけ鞄だけがいつもと違っていた。目をすうと細めて扉を見据える。
ハロウィン。歯抜けの記憶を埋めるように調べることには、仮装をしトリックオアトリートと唱えるだけでお菓子のもらえる行事。シーツ、お化けの扮装なら簡単だ。
人の多いところを狙って訪れてはみたものの、この中に人はいるだろうか。扉を開けざまに叫ぶべきか、それとも様子を窺うべきか……真剣そのものといった調子で、帽子の代わりにシーツを被り直す。
「……先手必勝だ」
「 何って、カボチャでしょ 」
烟る紫煙を鬱陶しそうに手で攘う。
キャンディポットを手に取る彼の、その後ろ。
呆れ顔とは裏腹に、何やら黙々と作業をしているようだった。
「 よーし、できた。…ね、どう? 」
勢いよく振り返った金髪は白い包帯でぐるぐる巻きにされ、所々赤い染みで汚れていた。
マスク改め包帯に隠れた唇は悪戯にえむ。
[ 食堂 - カラス ]
「 なんだい、これ 」
行儀の悪い咥え煙草の吐き出す紫煙。その奥で呆れ顔がひとつ。
橙色を基調とした極彩色に飾り付けられたアパルトメントの内装に動揺しながらも、
机に置かれていたキャンディポットを手に取る。顔のついたカボチャのデザインだ。
暗闇に光る南瓜達、甘い砂糖菓子の香りに色付けられた
街はそれでも祭り事に浮かれる余裕を残していたらしい。
ハロウィと呼ばれる日
例に漏れずアパルトメントもその空気に浮かれきっていた。
- 10/31 ハロウィン -
- ハロウィンの近付く季節 -
「了解した」
忙しなく辺りを見回し椅子を掴む姿はコマネズミめいていて、それをひょいと担いで持ってくる姿は小動物的な印象をバッサリと打ち消した。
店のものだろう椅子を彼の歩く動線上にガタリと置けば小さく顎に手を当てる。
思えば何故来たのか……勿論、コーヒーとケーキだ。されど店主は不在。
だが幸いにも材料はあるな、と累は思考する。ケーキは難しいかもしれないけれどコーヒーならなんとかなるだろう。紅茶は茶葉を煮出せば作れたのではなかったか。なら、コーヒーも同じ原理で作れるはずだ。
「……その分の料金、鍋、コップ…………」
帽子の隙間から淀んだ目が覗く。豆を煮込む準備を始めんとしてか、コートの袖を軽くたくし上げた。
[ 喫茶店 - カラス ]
「 成程、聞いてないな 」 お互い様である。
とまあ、互いに自らの要求を相手が聞き入れる筈も無いと再確認してから一息。
大人しく見せる気の無い様子である彼に包帯を手渡しながら、ざっと店を見渡した。
店主、基従業員も空のようだが店を空けておくとは不用心だ。
これでは珈琲の一杯も飲めた物ではないが、と言ってこの足で部屋に戻るのも面倒で。
「 ……どうした物かな 」
賭けるものを聞いて驚き、可愛らしいと思ってしまう。
反面、なんだかやる気が出てきたような感じもする。
と言うのも、甘いものは嫌いではないから。
「大賛成!」
お菓子を賭けたゲームとは、なんて平和なのだろう。
手を叩き、少女に笑顔を向けてカードを引くように促す。
[ 喫茶店-シモン ]
1人は身長の問題で、もう1人は、まぁ彼が最初から肩を貸すなんてしてくれるとは思っていなかったので。
2人の様にくすくすとまた笑いが込み上げてきた。これは痛みへの喜びとはまた違う物。
包帯とアンプルを取り出した彼を見たので、自分の足だけで体を進める。
きりきりと体中が痛みを上げた。頑丈なのはこういう時有り難い、これを長く味わえるので。
2人に視線を返さずに、言葉をかける。
「それでは、椅子のひとつか休める場所をください」
口ぶりからして恐らく、帽子を深くかぶった方へと。
「 ん、おぁふみ〜 」
欠伸混じりの聞き取り難い言葉は ”おやすみ” と言いたいようで。
ゆったりとした歩調で先ほど入ってきた入り口を抜け、そのまま廊下へ。
ガラス越しに見えた、ひらりと振られた手に同じようにして返す。
にしても、彼は丁度良い時に帰って来た。
最近は戦闘続きであったから、もしそこで帰っていたら
恐らく少し早く片がつく代わりに怪我人が増えていただろう。
尤も、それが彼にとって良いかは別として、だが。
階段を降りて地下に着けば、ボイラー室の奥にある階段をさらに降る。
此処がオレの城、ちなみに客人はいつでも歓迎。
さて、心置きなく眠るとしよう。
解剖台は少し硬くて寝心地は良いとは言えないけれど。
鬱陶しく点滅する蛍光灯を消して目を閉じた。
[ 娯楽室 ‐ キャシー ]
「 ___かし…。……お、…おかし…が…いい。 」
小さく呟いた ”賭け” の内容。
賭けるにはあまりにも幼稚だと思われるだろうか、と横に視線をそらして。
可能ならばチョコレートと甘いキャンディー、それからチョコチップクッキーと___
ああもう両の手に収まりきれないくらいに欲しい。
「 だめ、__? 」
ボサボサの前髪から赤い瞳を覗かせた。
「 ん、おぁふみ〜 」
欠伸混じりの聞き取り難い言葉は ”おやすみ” と言いたいようで。
ゆったりとした歩調で先ほど入ってきた入り口を抜け、そのまま廊下へ。
ガラス越しに見えた、ひらりと振られた手に同じようにして返す。
にしても、彼は丁度良い時に帰って来た。
最近は戦闘続きであったから、もしそこで帰っていたら
恐らく少し早く片がつく代わりに怪我人が増えていただろう。
尤も、それが彼にとって良いかは別として、だが。
階段を降りて地下に着けば、ボイラー室の奥にある階段をさらに降る。
此処がオレの城、ちなみに客人はいつでも歓迎。
さて、心置きなく眠るとしよう。
解剖台は少し硬くて寝心地は良いとは言えないけれど。
鬱陶しく点滅する蛍光灯を消して目を閉じた。
「そッスか、おやすみなさい。アルバートさん」
ひらりと手を振る。彼は果たしていつ寝ているのか。
その技能の生かせばこんなところ、文字通り息つく暇もなく忙しい時は忙しいだろう。
眠る時間が有る事は喜ばしい。生きる限り、必要なことだから。
己のように 怪我をして当然の 異能を持つ立場にとっては、ありがたくも申し訳ない……
と、思っているかどうかはさておいて(そんな事はあえて特筆すべき事でもない)。
「…ふーん」
たまたま平和な時間に戻ってこられた、とも言える。
それはたまたま、退屈な時間に帰ってきてしまった、とも、言い換えられた。
[ 本屋 詞湶堂 - クィンシー ]
どれもこれも夢物語、そんな冒険譚の本棚をうんざりした様な目で見つめる青年がひとり。
退屈な真夜中にふらりと立ち寄った書店だが、退屈を噛み殺すことは出来なかったようだ。
普段から箱詰めの部屋で文字を書いてばかりの彼が文字に癒されるかと言えば
そんな選択肢が端から間違っているような気がしないでも無いのだが。
「 久々のお暇だってのに、退屈なことで 」
[ 喫茶店 - カラス ]
「 そりゃあそうさ、僕の知らない場所で壊れるだなんて気に入らないからね 」
肩を貸す?誰が?等と考える余地もなく、視線をやったのは累の方だった。
無論体格差を考える限りカラスの方が適任なのだが、飽くまで体格差の話だろう。
「 彼女の言う通りだな。君の性格は分かっている心算だけどね、
それ以上の出血はタフな君らでも流石に不味い。此処は言うことを聞きたまえ 」
君の性格は分かっている心算だ、と彼の言葉に込められたのは
その後の命令もさして聞く気は無いのだろうと言う意味まで含んでの事だ。
やれやれ、とでも言いたげにホルスターから包帯とアンプルを取り出した。
[ 本屋 詞湶堂 ]
どれもこれも夢物語、そんな冒険譚の本棚をうんざりした様な目で見つめる青年がひとり。
退屈な真夜中にふらりと立ち寄った書店だが、退屈を噛み殺すことは出来なかったようだ。
普段から箱詰めの部屋で文字を書いてばかりの彼が文字に癒されるかと言えば
そんな選択肢が端から間違っているような気がしないでも無いのだが。
「 久々のお暇だってのに、退屈なことで 」
[ 喫茶店 - カラス ]
「 そりゃあそうさ、僕の知らない場所で壊れるだなんて気に入らないからね 」
肩を貸す?誰が?等と考える余地もなく、視線をやったのは累の方だった。
無論体格差を考える限りカラスの方が適任なのだが、飽くまで体格差の話だろう。
壁に張り巡らせた異能の眼では無く、双眸の紫眼を向けたのはつまり
見る事を目的としない、彼にとって相槌や合図のみに使われる視線の意図だった。
「 彼女の言う通りだな。君の性格は分かっている心算だけどね、
それ以上の出血はタフな君らでも流石に不味い。此処は言うことを聞きたまえ 」
君の性格は分かっている心算だ、と彼の言葉に込められたのは
その後の命令もさして聞く気は無いのだろうと言う意味まで含んでの事だ。
やれやれ、とでも言いたげにホルスターから包帯とアンプルを取り出した。
[ 喫茶店 - カラス ]
「 そりゃあそうさ、僕の知らない場所で壊れるだなんて気に入らないからね 」
肩を貸す?誰が?等と考える余地もなく、視線をやったのは累の方だった。
無論体格差を考える限りカラスの方が適任なのだが、飽くまで体格差の話だろう。
壁に張り巡らせた異能の眼では無く、双眸の紫眼を向けたのはつまり
見る事を目的としない、彼にとって相槌や合図のみに使われる視線の意図だった。
「 彼女の言う通りだな。君の性格は分かっている心算だけどね、
それ以上の出血はタフな君らでも流石に不味い。此処は言うことを聞きたまえ 」
君の性格は分かっている心算だ、と彼の言葉に込められたのは
その後の命令もさして聞く気は無いのだろうと言う意味まで含んでの事だ。
やれやれ、とでも言いたげにホルスターから包帯とアンプルを取り出した。
[ 喫茶店 - カラス ]
「 そりゃあそうさ、僕の知らない場所で壊れるだなんて気に入らないからね 」
肩を貸す?誰が?等と考える余地もなく、視線をやったのは累の方だった。
無論体格差を考える限りカラスの方が適任なのだが、飽くまで体格差の話だろう。
壁に張り巡らせた異能の眼では無く、双眸の紫眼を向けたのはつまり
見る事を目的としない、彼にとって相槌や合図のみに使われる視線の意図だった。
「 彼女の言う通りだな。君の性格は分かっている心算だけどね、
それ以上の出血はタフな君らでも流石に不味い。此処は言うことを聞きたまえ 」
君の性格は分かっている心算だ、と彼の言葉に込められたのは
その後の命令もさして聞く気は無いのだろうと言う意味まで含んでの事だ。
やれやれ、とでも言いたげにホルスターから包帯とアンプルを取り出した。
[ 本屋 詞湶堂 ]
どれもこれも夢物語、そんな冒険譚の本棚をうんざりした様な目で見つめる青年がひとり。
退屈な真夜中にふらりと立ち寄った書店だが、退屈を噛み殺すことは出来なかったようだ。
普段から箱詰めの部屋で文字を書いてばかりの彼が、文字に癒されるかと言えば
そんな選択肢が端から間違っているような気がしないでも無いダイクロックの瞳を閉じる。
「 仕事の合間ってのは、如何にもぼうっとして 」
[ 喫茶店 - カラス ]
「 そりゃあそうさ、僕の知らない場所で壊れるだなんて気に入らないからね 」
肩を貸す?誰が?等と考える余地もなく、視線をやったのは累の方だった。
無論体格差を考える限りカラスの方が適任なのだが、飽くまで体格差の話だろう。
壁に張り巡らせた異能の眼では無く、双眸の紫眼を向けたのはつまり
見る事を目的としない、彼にとって相槌や合図のみに使われる視線の意図だった。
「 彼女の言う通りだな。君の性格は分かっている心算だけどね、
それ以上の出血はタフな君らでも流石に不味い。此処は言うことを聞きたまえ 」
君の性格は分かっている心算だ、と彼の言葉に込められたのは
その後の命令もさして聞く気は無いのだろうと言う意味まで含んでの事だ。
やれやれ、とでも言いたげにホルスターから包帯とアンプルを取り出した。
[ 本屋 詞湶堂 ]
どれもこれも夢物語、そんな冒険譚の本棚をうんざりした様な目で見つめる青年がひとり。
退屈な真夜中にふらりと立ち寄った書店だが、退屈を噛み殺すことは出来なかったようだ。
普段から箱詰めの部屋で文字を書いてばかりの彼が、文字に癒されるかと言えば
そんな選択肢が端から間違っているような気がしないでも無いダイクロックの瞳を閉じる。
「 仕事の合間ってのは、如何にもぼうっとしていけねえなア 」
[ 喫茶店 - カラス ]
「 そりゃあそうさ、僕の知らない場所で壊れるだなんて気に入らないからね 」
肩を貸す?誰が?等と考える余地もなく、視線をやったのは累の方だった。
無論体格差を考える限りカラスの方が適任なのだが、飽くまで体格差の話だろう。
壁に張り巡らせた異能の眼では無く、双眸の紫眼を向けたのはつまり
見る事を目的としない、彼にとって相槌や合図のみに使われる視線の意図だった。
「 彼女の言う通りだな。君の性格は分かっている心算だけどね、
それ以上の出血はタフな君らでも流石に不味い。此処は言うことを聞きたまえ 」
君の性格は分かっている心算だ、と彼の言葉に込められたのは
その後の命令もさして聞く気は無いのだろうと言う意味まで含んでの事だ。
やれやれ、とでも言いたげにホルスターから包帯とアンプルを取り出した。
[ 本屋 詞湶堂 ]
どれもこれも夢物語、そんな冒険譚の本棚をうんざりした様な目で見つめる青年がひとり。
退屈な真夜中にふらりと立ち寄った書店だが、退屈を噛み殺すことは出来なかったようだ。
普段から箱詰めの部屋で文字を書いてばかりの彼が、文字に癒されるかと言えば
そんな選択肢が端から間違っているような気がしないでも無いダイクロックの瞳は静かに閉じる。
「 仕事の合間ってのは、如何にもぼうっとしていけねえなア 」
陛下と愉快なお仲間様。この場にいるのは、自分を含めて三人。うち、発言者は一名。
どちらがどちらを指すかは、いくら鈍い彼女でも察することは容易だった。なぜって彼は"キング"なのだ……となるともう一つの方は自分だろうな、と頷いてから顎に手をやる。
「愉快か。僕は……」
言葉を拾っては真剣そうにそう言うも、立ち上がる姿に続く疑問は消えた。
目測だがそう動いてはいけない怪我の程度のような、気がする。有事なら違うが今はどう贔屓目に見ても敵の気配と縁遠い。
キャスケットを深く引き下げてから、歩み寄る。
「肩の場合、推測する。曲がる……脇腹が。つまり、位置のせいだ」
要は、背丈の差。実際そこまでの支障はないだろうが、変な姿勢をとらせたら傷口に響くのではないか……なんて意がただしく伝わるか否か。
だからといって隣の彼が肩を貸すのも大概想像がつかないと言うところまでは辛うじて飲み込み、帽子の下からカラスにちらと目を向けた。
引かれたカードがまた裏返されるのをぼんやりと眺める。
突然「賭け」を提案させられ、思わず
「えっ?」と声が出てしまう。所詮これは遊びだと思っていたが故に
自分にとってその言葉は予想外であったからだ。
「うーん…、賭け、賭けかぁ…」
桃色の髪をがりがり掻きながら、考える素振りを見せる。
と、その手が自分の手前のカードを二枚引く。
「いいよ、何賭ける?」
賛成意見を述べる。
カードは別々だったので、元の様に戻して。
[ 喫茶店-シモン ]
二人分の気配と顎を持ち上げる鞭。そのふたつを理解してゆるゆると目を開ける。
何をしているかの問いには応えずにぃと口を動かす。
「これは、“陛下”と、愉快なお仲間様」
敬いの気持ちの籠らない敬称と随分と大雑把な名前で二人を呼ぶ。
開けられた扉を認識して未だに痛みに軋む手足を無理やり動かしてみた。
扉の縁に体を預けるような形で立ち上がる真似をする。酷くなった痛みにくすくすと笑いが漏れた。
「修理をして下さるなんて気味が悪い、ああ、敷くものは要らないので肩を貸して頂けますか」
乾いた血塊の向こう側から新しい血が漏れた気がする。
ぼろぼろと頭と腹から落ちる赤を見ないふりをして心地よい痛みに集中した。
「 そうさせてもらうよ 」
此処の者は皆、簡単には被験体になってくれないことを良く知っている。
カラスなんて何度死の淵に立ったことか。しかしまだ生きている、しぶとい奴だ。
彼ももまた然り。
なんて、その度に治療しているのは自分なのだが、これは意志の矛盾と言うのだろうか。
「 ふぁ…、此処のところ忙しかったから睡眠不足でね。さて、オレは地下で少し寝るよ 」
[ 娯楽室 ‐ キャシー ]
「 ん、 」
最初の2枚は運まかせ。
取り敢えず覚え易いようにと一番手前の角から2つめくってみる。
2枚がそれぞれ別のカードだった事を確認すると、
それらを記憶して再び伏せた。
「 ね、何か…賭けよ 」
への字に結ばれた小さな口が、悪戯に笑む。
「 そうさせてもらうよ 」
此処の者は皆、簡単には被験体になってくれないことを良く知っている。
カラスなんて何度死の淵に立ったことか。しかしまだ生きている、しぶとい奴だ。彼ももまた然り。
なんて、その度に治療しているのは自分なのだが、これは意志の矛盾と言うのだろうか。
「 ふぁ…、此処のところ忙しかったから睡眠不足でね。さて、オレは地下で少し寝るよ 」
[ 娯楽室 ‐ キャシー ]
「 ん、 」
最初の2枚は運まかせ。
取り敢えず覚え易いようにと一番手前の角から2つめくってみる。
2枚がそれぞれ別のカードだった事を確認すると、
それらを記憶して再び伏せた。
「 ね、何か…賭けよ 」
への字に結ばれた小さな口が、悪戯に笑む。
手元のカードを全て並べ終える。
「ふふはは、そっか」
全て裏返しになって並んでいるカードを眺めて笑ながら返す。
互いの記憶力は今のところ分からない。しかし。
聞いた側でありながら、遊びだからと自分は気にしないことにした。
さて、と顔をあげる。
「じゃ、えっと、其方からどうぞ…」
ゲームの開始を告げる声は小さかったものの、
既に楽しげな雰囲気を含んでいた。
「僕結構しぶといんで、根気よく待っててくださいね~」
へらり、と笑う。
七発目に自分の体のどこかを貫く魔弾が、今だ脳も心臓も貫いていないのだ。
運が良いのか悪いのか、銃創を背負いながら今の今まで生きている。
果たしてそれが幸せか、否か。
「へえ。本当大変でしたね、それは。死ななくて何より」
酷い状態なんて、想像がつかないという顔。
吹けば飛ぶ薄い紙片のように語られたそれを、少し異なる反応で重く扱わないように見える赤。
現実離れした現実を頭の中で転がし、瞬く。
「助かるッスよ、アルバートさん。」
まあなんせ、異能を使う限り怪我はつきものなのだ。
「 よっしやった!言質はとったからね? 」
『死後は任せる』と聞くなり大きくガッツポーズ。
無邪気に喜ぶ姿はまるで子供のそれだが、それにしては少々話題が物騒だ。
「 そーなんだよ、そっちもそっちで酷い怪我でさあ。
まあでも、ミミズちゃんが居なかったらカラスも瀕死じゃ済まなかったよねえハハハ 」
笑い飛ばすには些か重たい内容も、彼にかかれば紙切れ同然。
零れ落ちそうに細んだ紅は対の色を内包する瞳を真っ直ぐに見つめた。
「 ま、キミも怪我した時はオレんとこにおいでね 」
[ 娯楽室 ‐ キャシー ]
手際よくシャッフルされ、1枚ずつ並べられて行くカード。
その手元を何気なく見ていると、ふいにかけられた問いに首を傾げた。
「 ん…、わからない。…やったことないから…こういう、みんなでするの 」
普段、記憶力を必要とされているわけでも無し、
勘はいい方だと思うが、神経衰弱ともなれば勘だけを頼りにとは行くまい。
「 よっしやった!言質はとったからね? 」
『死後は任せる』と聞くなり大きくガッツポーズ。
無邪気に喜ぶ姿はまるで子供のそれだが、それにしては少々話題が物騒だ。
「 そーなんだよ、そっちもそっちで酷い怪我でさあ。
まあでも、ミミズちゃんが居なかったらカラスも瀕死じゃ済まなかったよねえハハハ 」
笑い飛ばすには些か重たい内容も、彼にかかれば紙切れ同然。
零れ落ちそうに細んだ紅は対の色を内包する瞳を真っ直ぐに見つめた。
「 ま、キミも怪我した時はオレんとこにおいでね 」
「神経衰弱、分かった」
うきうきとカードをシャッフルし、
手際よく並べていく。
並べながら、何気なく話しかける。
「私は…、あまり記憶力は良くないほうなんだけど…
あなたは…どう?その、カードの位置とか…」
特に細かい事を聞くようでは無く、話のネタのようなものとして。
ふと、少女はいつも何をしているのかも気になったが、それは聞かずに。
「や~ご冗談を!でも死んだらお任せするッスよ」
彼らしい言葉は本気か冗談か。
眉をハの字に、口を大きくして笑って見せる。マスクの裏は笑みかはたまた。
大分粗末に扱われる己の命だが、返した言葉も本心か否か。
「生きてたなら万々歳ッスよ、アルバートさん。
いやでも、そこまで?キングが居るならクイーンも居ましたよね。それでもッスか」
怖いですね~。
肩を竦めて目を見開く。晒された赤い目には一滴垂らされたような緑が混ざる。
あの上司に刃が及んだとなれば、色々な意味で激戦だったのだろう。
「 ハハ、いいよそんなの。それよりオレは、キミが解剖台に上がるってのが良いな 」
出せるものが何もないと残念がるハーヴェストに、冗談めかしにそう返す。
それが本当に冗談なのか或いは本気なのか。浮かんだ三日月はマスクに隠れた。
「 そうそう、労いならカラスに言ってあげてよ。
何か起こる度に瀕死の重症、生きていたのが不思議なくらいなん……………ブェ…ックショイッ 」
途切れた言葉に続いたのはお世辞にも可愛いとは言えないくしゃみ。
きっと誰かが噂話でもしていたのだろうと。
[ 娯楽室 ‐ キャシー ]
ボールを投げられた犬みたい。
と、喉元まで上ってきた言葉は声に成ること無く消えた。
「 二人で…できるの。…ん…神経衰弱とか 」
言われてみればテレビゲームばかりで、
トランプのような大勢でワイワイするような遊びはあまりしない、というかしない。
故に知っているゲームも少なくなるというわけだ。
道端に捨てられる子供はよくあるが、にしては少し背が高い。
なぜ鞭で?と口に出すことはなかった。半分の忘れている常識があるのだろう、あるいは自分に理解できない他所の文法もあるのだ。人皮のランプと同じような具合で。
「見繕うか。敷くもの、床に……」
扉を開けては、床をちらと見て聞いた。ここにあるのは良くてカーテンだろうけれど。
さも嬉しそうな顔をしてカードを取りに行く
緊張が解れたように、自然と明るい表情になった。
大した距離では無いが、落ち着かない様子ですぐにソファに戻る。
先ほどと同じ位置に腰掛けると
少女の方向を向いて「何しようか?」と問う。
[ 喫茶店 - カラス ]
こう言う時はほら、周りを白線で囲むんだろ?何故って昔やられたからね。
アルバートに。
「 こんな所で何してるんだい 」
“ 家具 ”、即ちシモンの顎をくいと持ち上げたのは黒いドルフィンテイルの乗馬鞭。
この様子では、流石の獄卒と言えど限界の二文字も時間の問題なのだろう。
傍目に見ればまるで大切にしていたぬいぐるみに穴でも空いたような顔で
カラスは静かにその傷口を診ていた。申し訳程度には腐っても医者、と言う訳だ。
「 君、扉を開けてくれないかな。彼の傷口を塞がないと 」
つまり全部イカれてるんじゃないか。
彼の話す様子からはこれっぽっちも想像が膨らまないので、どうしようもない。
まあ、アルバートに「そう」言わせる程度にイカれた事件だったのだろう。きっと相当のものだったに違いない。
「イカれた」の連呼でゲシュタルト崩壊が起きる。あ、イカ食べたい。
「最初っから最後まで、頭がおかしかったんスね。
いや、本当に、それは災難でしたね。労わる為にお出し出来る物がないのが残念なくらい」
繊細な絡繰の居住地では、迂闊に出せるものも出せない。
それこそ出せるものといえば、時計くらいだろう。
つまり全部イカれてるんじゃないか。
彼の話す様子からはこれっぽっちも想像が膨らまないので、どうしようもない。
まあ、アルバートに「そう」言わせる程度にイカれた事件だったのだろう。きっと相当のものだろう。
「イカれた」の連呼でゲシュタルト崩壊が起きるのではないか。あ、イカ食べたい。
「最初っから最後まで、頭がおかしかったんスね。
いや、本当に、それは災難でしたね。労わる為にお出し出来る物がないのが残念なくらい」
繊細な絡繰の居住地では、迂闊に出せるものも出せない。
それこそ出せるものといえば、時計くらいだろう。
つまり全部イカれてるんじゃないか。
彼の話す様子からはこれっぽっちも想像が膨らまないので、どうしようもない。
まあ、アルバートに「そう」言わせる程度にイカれた事件だったのだろう。きっと相当のものだろう。
「イカれた」の連呼でゲシュタルト崩壊が起きるのではないか。あ、イカ食べたい。
「最初っから最後まで、頭がおかしかったんスね。
いや、本当に、それは災難でしたね。労わる為にお出し出来る物がないのが残念なくらい」
繊細な絡繰の居住地では、迂闊に出せるものも出せない。
それこそ出せるものといえば、時計くらいだろう。
「 ハハ、御尤も。 」
正確に時を刻む此れ等も、所詮はパーツの集まりに過ぎない。
それが今も昔も人の生活を支配しているというのだから驚きだ。
__なんて、薄暗い地下に籠り昼も夜も忘れて実験に勤む男には大して関係もない話だが。
「 ああ…それはもう。イカれたロボットが突然襲ってきたり、イカれた狐に追われたり、ね。 」
頷いてエレベーターに乗り込む。甘いもの……甘いものは良い、それも非常に。頭も回れば腹も膨れるのだから悪いことなどないだろう。
誰かしらが夜行性であることを祈る目を重く持ち上げて、一秒足らず。もう一度降りた視線が腕へ向き白い手が袖をたぐった、こっちは数秒。
「……こっちだ」
ああ間取りを書いていてよかった。
赤いリボンの端が刺青にちらりと被るのを黒い袖が再度覆い、先導するようにずんずん歩き出す。喫茶店の前まではそうもかからず、
「事件だ。と、言うものなのか、推測……無事か」
倒れる青年を見下ろして、三度まばたいた。
「あは、おセンチですか?アルバートさん。突き詰めれば絡繰ッスよ」
でもまあ、分からない事もない。と続ける。
人間という生活体が定めた定刻の上を堅苦しいステップで通る秒針に、同じように目をやる。
基本的にこれでもか、と騒がなければ時計の音しか聞こえてこない。
久方振りの同僚の呟きの一つを拾い上げて、その顔を見る。
「大分不在でしたからね。僕が居ない間、何か面白い事ありました?」
勢いで声をかけてみたが、やはり人違いではなかったようで良かった。
と言っても、深赤のコートにブロンドの三つ編みなんて
自分が知る限り彼くらいしか思い当たらないが。
「 何時ぶりかなあ。まあオレも地下に籠ってばかりだから似たようなもんだけど 」
最後に顔を合わせたのは何時だったか、
記憶を遡ってみたがちょっとよく覚えていないな。
店内へ一歩、彼の手振に合わせて足を踏み入れると
息を合わせて秒針を刻む数多の時計が出迎えてくれた。
「 …彼らに囲まれてると、何か、すごく酔いそう。 」
ショーケースに並べられた彼ら、もとい懐中時計に視線を落として呟く。
「あ。いらっしゃいまー、」
せー?と疑問形。
ひと束のショッキングピンクが目をひく人物が顔を覗かせる。
ひょろ長い体躯が僅かに扉の隙間から見え、それを追っては顔に視線を戻す。
互いに既知の間柄だ、ウン日振りではあるが。
「おや、アルバートさん。お久し振りッス」
手を振る。どうせなら中にどうぞ、とジェスチャー。
既知とは言え、基本的に神出鬼没と言って差し支えない。
多少驚いてしまったのは仕方ない事だった。
[ 喫茶店-シモン ]
じくじくと頭が痛む。とうに血は止まっているけれど、血の塊が髪で固まって不快だ。
ばりばりという音を耳元で聞きながら動かしにくい指先を動かしてみた。
腹部にも血が固まった感じがする。随分と派手にやってしまったなと。
「あー…楽しかった」
動かない手足をそのまま投げ出してくすくすと笑い声をあげる。
黒い青年がなにかの扉の前でそれを丁度塞ぐように横たわっていた。
「 あっれ、ハーベストくんじゃない 」
扉を開け、ドアの淵に手を掛けながら
店内を覗き込むのは派手なメッシュの入った金髪の男。
一度は時計屋の前を通り過ぎたものの
見覚えのある姿を視界の端に捉えて、数歩下がりながら戻ってきたのだ。
「 あっれ、ハーベストくんじゃない 」
扉を開け、ドアの淵に手を掛けながら店内を覗き込むのは派手なメッシュの入った金髪の男。
一度は時計屋の前を通り過ぎたものの
見覚えのある姿を視界の端に捉えて、数歩下がりながら戻ってきたのだ。
「 あっれ、ハーベストくんじゃない 」
ひょっこりと顔をのぞかせたのは派手なメッシュの入った金髪の男。
一度は時計屋の前を通り過ぎたものの
見覚えのある姿を視界の端に捉えて、数歩下がりながら戻ってきたのだ。
[ 屋上 → 喫茶店 - カラス ]
「 僕も甘い物食べたいナア 」
ゆらり、と歩く様はまるで鏡の向こうが滑る様に。ぼうっと何処かを見る目が笑う。
エレベーターのボタンを押す義手はキシ、と呻いて累も乗り込むようにと促した。
「 誰か、店にいると良いけれど 」
そう、何せ今は月が天辺を過ぎた真夜中だ。誰もいなければ本末転倒なのである。
降りていくエレベーターは二階へ到着するなり、カラスは辺りを見渡した。
「 …………喫茶店、どっちだったっけ 」
酷く、懐かしい感覚を覚える。
最近と言ってはあまりにも長い時間留守にしていた。
諸々の事情を話すと一晩掛けても足りない為に端折ってしまうが、まあ即ち簡単に纏めると「開示する必要のない事情」だ。
そういう訳で長い長い留守を終えて帰ってきたのは真夜中の頃。
適当に荷物を裏に置いて、店内を見回す。
ショーケースに並んだ懐中時計は、一律に時を刻んでいた。
「…え~~~~、っと」
一人の空間で眉間に皺を寄せる。
この後上司へ挨拶に行こうか、このまま朝に向けて眠る支度をしてしまおうか。
[ 屋上 → 喫茶店 - カラス ]
「 僕も甘い物食べたいナア 」
ゆらり、と歩く様はまるで鏡の向こうが滑る様に。ぼうっと何処かを見る目が笑う。
エレベーターのボタンを押す義手はキシ、と呻いて累も乗り込むようにと促した。
「 誰か、店にいると良いけれど 」
そう、何せ今は月が天辺を過ぎた真夜中だ。誰もいなければ本末転倒なのである。
「 フッ、……………ん、いいよ 」
後になるに連れて段々と声が小さくなる彼女に、つい笑みが零れた。
彼女は、何処か自分に似ている気がする。
それ故だろうか、居心地の悪さはもう、殆ど無い。
[ 食堂 / 大島朔良 ]
「…ちが、………違う。影千代」
少年を見ているようで違う青年の瞳は光が差さない水底と似ていた。
だからこそ怖気づいたのではなく、安心する。
彼の動揺そのものが、あの光景をまだ覚えているのだと教えてくれるから。
「怖いなら、……もう一つも潰そうか」
どこにも行かないように、と付け足す唇は自然と弧を描いた。
我ながら馬鹿げた問いだと思う、それでも聞かずにはいられない。
綺麗な蝶を捕まえて標本にしたとして、愛がないとは言い切れないだろう。
「洗濯機。」
あぁ暇つぶしにか…と、すぐに察した。
いや、自分も似たようなものかもしれない。
ふと、ソファから少し離れた方へ視線が行き、
「じゃあ、洗濯終わるまで、私とトランプとか…」
どうかな…と、語尾が小さくなる。
言ってしまってからこれは言う立場が逆ではないかと思ったが、
話すことが無いよりは良いかと考え、少女の返答を待つ
「蛆か。再度湧く、ゼロにしても……近しい。恐らく、手掛かりと」
ここからだと彼の表情はよく見えない。本当に退屈だったのかはぐらかされたのかも分かりにくい……が、それはもはや思考の外へ飛んでいった。
ブンと大きく頷いて慌てて帽子を抑える。
「頼んでいいだろうか。つまり、ええと、ケーキも」
仮にも上司に奢ってもらう気満々らしく、追加までしながら立ち上がる。余りの紙を畳みメモになったものは取り付けペンはポケットへ。机の上に開かれたポップコーンの袋をどうすべきか少し悩んで、そっと両手で持ち上げた。
上を向き大きく開けた口にポップコーンが吸い込まれる。傾けた袋から最後の一粒が口内に飛び込むまでほんの一秒と少し、膨らんだ頰の中身が飲み込まれるまでもう一秒。
拍子に落としたキャスケットを軽くはたいて被り直せば、平気な顔でカラスの方へ歩み寄った。
[ 屋上 - 集会所 / カラス ]
「 蛆でも潰すみたいにかい 」
つ、と屋上の手すりを左手の人差し指がなぞって行く。異能を使っているのだろう。
ふとダメだ、とでも言いたげに首を振る。彼に取っては、意味のある行為だったが
意味を成したところで何か起こると言う訳ではない、ある種彼女らしくない行動だ。
「 妙な事を聞いたね。いや何、退屈だっただけさ。 ……如何だい、珈琲でも 」
らしくない、と言う自覚はあったようだ。
唐突に切り出した言葉はその少女を喫茶店、或いは食堂にでも誘う気なのだろう。
[ 4階7号室前 - ベリィベル ]
「 なあに言ってるですか、遊びに来るって言ったでしょう 」
くすくす、と可笑しそうに笑う声は紛れもなく波止場で会った少女と同じ声だ。
バスケットの中には瓶詰のいちごやさくらんぼ、ママレードがゆるりと揺れる。
「 折角の夜なので、お茶に誘おうと思って 」
入っても?とシャルの背後を指し、いちご色の瞳は悪戯っぽく彼女を見上げる。
それにしてもこの時間にお茶、等とは随分と常識が欠けている……とはいつもの事だが。
扉がノックされた音で頭が冴えた、続けざまに扉の向こうから声をかけられる。
ベッドから腰を上げようとして思わず立ち止まってしまう、チョーカーの金具がカチャリと音を立てた。
「 ベリィベル...? 」
聞き覚えのある声、扉の向こうにいるのはきっと先日出会った少女だろう。
だけど何か違う、そう思いながらも扉にゆっくりと手をかける。
「 ...こんばんは、あの、どうかしましたか...?? 」
そこにいたのは、雰囲気こそ違えどベリィベルだった。肩の力が抜ける。
彼女がバスケットを持っていることに気づき、この部屋に訪れてくれたのかな、とも期待してしまう。
帽子を引き下げて俯いた累は、少しの沈黙のあと話し出す。
「問答か。なぞなぞか。一般論か。あるいは、実体験か。 ……僕ならば、」
コートの右側を摘み、軽く開く。裏地を埋め尽くすような新旧混ざった紙の数々。
カサカサと細かな音を何秒か立てればその手を離した。
「記録を当たる。残した、累の……この場合、過去の己、あるいは知らぬ誰かのもの。捜索すべきだ。まず、つまり……『心当たり』の」
取っ掛かりがないなら総当たりで作るしかない、といった旨。
いくつか書いた紙束を新たにコートへ止めることしばらく。伏せていた視線をのろのろと持ち上げた彼女は思い出したように付け足した。
「あー、もしくは。機を待つ……見つからない場合。案外見つかる。目を瞑ると」
” 誰かと話したかったから ”
その答えを聞いた少女は、目を丸くして
驚いたように相手を見つめた。
何故ならそれが、彼女の考え得る選択肢にはないものだったからだ。
ふと天井から此方へ視線を戻した雷瑠と目が合い、咄嗟に下へ逸らす。
「 わたしは…… 」
ええと、…どうして、だったか。
用事が、あった…そう、その後で何と無く立ち寄ったこの部屋が思いの外居心地がよくて____
「 あ…。洗濯機、回してるんだった 」
つまりはランドリールームで洗濯機を回している間の暇つぶし。
今日は月に数回するかどうかの洗濯デー、ついでにシャワーを浴びた少女の髪が
何時もと違い多少艶めいて、ローズの香りを纏っているのもそういう訳だ。
[ 屋上 - 集会所 / カラス ]
「 ふやけるのかい、人参 」
やや間抜けな会話の相違と共に吸い上げる鉄は冷たく舌を潤した。
しみじみとした様な目で遠くを見るも実際には何も考えて居ない。
それ程に空虚な人物なのだ、彼と言うのは。
ズズ、と音を立てる。即ちダイレクト鉄分接種。
そういう物かい、とひとつ返事を返すが今日の彼はいつにも増して上の空だった。
「 ところで君、これは例えばの話だが……
探し物に心当たりすら無い時、それはどうやって探せばいいのか分かるかい 」
[ 食堂 - クロ ]
「 私が……ああ、…また……間に合わなかったのですね。……… 」
ぐるり、と覗く者を引きずり込みでもするような黒。延々と続く只管の黒色。
伏せた瞳は確かに少年の碧眼を見つめているが、だが決して其方を見ていない。
真直ぐに覗き込んでいる筈が合わない視線は汚泥のような感情を湛えて行った。
「 また……貴方も私を置いて行くのですか、…………“ 貴方も ” 」
[ 4階7号室前 - ベリィベル ]
トン、と2つ小さな手が扉を叩く。片手にはずしりと瓶で沈んだバスケットだ。
蜘蛛糸のような髪が揺れ、扉の向こうへ声が掛かった。
「 “ お隣さん ”、こんばんは……です。ベリィベル、ですよ 」
お隣さん、と呼んだのはこの間で有ったばかりの少女シャルを指しているのだろう。
彼女と出会った時とは随分と口調も雰囲気も変わっているが、それは少女の特性だ。
[ 食堂 / 大島朔良 ]
「何と言ったら君は悲しまないのかな」
それだけが気がかりだった。
自己犠牲的な思考なのかもしれない。
壮絶な痛みではあったが、たかが片目、と軽く見ていることも認めよう。
解釈の相違というものだ。
少年は生きて、青年に会えさえすればそれで構わないのだから。
「僕は……大丈夫」
離れていく彼の手を握ろうと腕を伸ばした。
一つが欠けた翡翠はもう、揺れてはいない。
[ 食堂 / 大島朔良 ]
「何と言ったら君は悲しまないのかな」
それだけが気がかりだった。
自己犠牲的な思考なのかもしれない。
壮絶な痛みではあったが、たかが片目、と軽く見ていることも認めよう。
解釈の相違というものだ。
少年は生きて、青年に会えさえすればそれで構わないのだから。
「僕は……大丈夫」
『何しに来た』と言う質問に対し、
思わず「えっ」と声が出る。
質問自体に驚いたと言うより、少女の発した声に驚いたという方が適切か。
「えぇと、誰かと、話したいなって。」
首を上に向けて答える。
誰かがいなければ成立しない答えではあるが、
事実、話し相手を求めて部屋から出てきたものだったから。
「あなたこそ、何故?」
天井に向いていた視線を、少女へ向ける。
グラスの中の金魚。生食はオススメしないと言いかけて、早とちりだと思い直した。
「雑食らしい。アカムシ、パン、ええと……恐らく、人参も。ふやかせば」
どうしてその野菜をチョイスしたのか、不思議そうにまばたき。
続く金魚のサイズ感について自慢げに胸を張った。累は金魚ではないけれど。
「うまく育てば。 ……成長か。不思議だ、人は」
昔の彼ら、というのは一切想像がつかない奇妙な響きを持っていた。
会話に支障がない程度に離れた椅子を引き、ポップコーンの袋を開けた。コート中のメモをいくつかと白い紙を並べて準備をする。
「大切だ、食事は。鉄分を多く摂ることを推奨する。 ……じきに、成長期も……」
気遣いよりは余計なお世話に踏み込んだ提案。後半は自分に言い聞かせるようではあったが希望的観測にもほどがあった。
沈黙に耐えかねて口を開いた雷瑠。
それは話題に困った時のテンプレートのようなものだった。
天気、天気…。
年中カーテンを閉め切った部屋に閉じこもっているような奴だ、
今日の天候など把握している筈が無かった。
「 えと…、……そうなんだ… 」
ポツリと返した言葉はその後に続くこともなく
またもやしばしの沈黙。
やけに響く時計の秒針音が何時もより大きく感じられる。
と、ふと気になったことを聞いてみる。
「 ね、え…あなたは何しに来たの 」
此処へ来て核を突くような発言。
無愛想な態度も相まって実に悪印象を与えそうなものだが
少女にとっては純粋な疑問であった。
[ 屋上 - 集会所 / カラス ]
「 一ヶ月以上無傷だった試しが無いよ…… 」
義手がキィ、と音を立てる。右手は輸血パックを、そして左手はグラスを持っていた。
中を揺れるように泳ぐのは二匹の金魚。あの状況で如何なったか持ち帰っていた様で。
「 餌?人参は食べるかな。…………30cm? 」
人参とかグリーンピースとかしいたけとかナスとか。そういうの是非食べて欲しい。
等と考えていたところで紫眼はわからない、と言う顔をした。そう。何もわからない。
この小さな魚が30cm?
「 ……そう言う事もあるのかな。僕も昔はミミズより小さかったし…… 」
唐揚げ。唐揚げとな。あの衣を付けて鶏肉をからっと揚げたあれにすると。
まさか色鮮やかなこれが食用だとは思わなかったのだ。カラスの瞳には疑問符が浮かぶ。
「 からあげかあ…… 」 そしてこの瞬間、金魚の名前は決定された。不憫。
「何より」
それなら何よりだ良かった、というのを一単語に込めて頷く。全然良くないことには気がつかない。
突如投げかけられた単語を聞いた累は顔を上げて、少しだけ考えるそぶりを見せた。
「飼育。あー、累は覚えがある。重ねて読んだ。入門書を、以前に……つまり、僕も多少は」
"記憶している"と結んだ彼女は、荷物を机に載せてからいくつかの情報を並べる。
「ガラスの器、に放り込む。金魚鉢だ。水を張って、あー……投入、草をだ。一日一度定刻に餌。肥える。金魚は、三十センチにも……頃合いが来たら」
「食う。累は、推奨する。唐揚げを」
鮮やかな誤答。累は真顔でガッツポーズを決めた。
[ 屋上 - 集会所 / カラス ]
ちぅ、と音を立てて吸い上げられる鉄錆色は血色の悪い唇を紅く濡らした。
異能の使い過ぎはいつものことだが、別段今は喉が渇いている訳でも無い。
単に惰性での吸血と言うのが正しいのだろう。彼は気怠げにメガネを外す。
「 ……僕の事かい?ああ、いつも通りさ 」
いつも通り(平気とは言っていない) そう、いつも通り。エブリデイ血塗れ。
と、ややずれた空気感の会話にも空気を読まない彼は続けた。
「 やァ、ところで君金魚の飼い方って知ってるかい 」
[ 食堂 - クロ ]
重なるのは、待っていてと言った青年の声だった。幻聴だ、と次第に理解する。
震える手が包帯へと伸び、そしてすぐに離れていく。咄嗟に理解したのは傷口。
触れた訳でも、見た訳でも無いが。単純に分かったのは、言葉にするのも億劫な事。
「 ……どうして 」
「あぅ…ど、どうも…」
意識的に笑みを作って、腰掛ける。
何か話すべきか、と思っても、何から話したらよいのか分からず、
同様に黙ってしまう。
それでも、何か話題を提供しなければ居心地が悪く思えてしまって、
「や、その、今日は良い天気だね…」
愛想よく彼女に話しかけたつもりだが、これは話題がひろがらないと
口にしてから気づく。そもそも外の天気確認していない。
きまりが悪そうに視線を彷徨わせる。
ソファーの上で足を抱え、俯いたままの黒い塊。
深く被ったガウンのフードから赤色が覗き見る。
「 ど、どう…ぞ 」
新しいパターン、コミュ障同士の邂逅だ。
暫しの沈黙が場を包む。
少女はこんな時
何か話題を、と考えるタイプではないからか
そのまま黙りこくった。