此岸 - 3
- 2017/04/20 23:24:06
「 Black Maria 」
大きな看板にそう書かれているレンガ造りの少し古びたアパート。
六階建て。壁に貼られたチラシには、
赤いクレヨンで元ある字を塗りつぶし入居者募集と書かれていた。
地下1階 - ジャック
B1号室 [ 丹丹 ]
B2号室 [ アンドロメダ ]
B3号室 [ Goth ]
B4号室 [ 遊々 ]
[ 娯楽室 ]
[ 食堂 ]
[ ランドリールーム ]
1階 -
[ 時計店 Bailey Mirror ] 白ナイト / アルバイト 霧島
[ 本屋 ウタタネ書店 ] 白ルーク
2階 -
[ 喫茶店 Mountain ] 黒ナイト / アルバイト 琳霞
[ 輸入品店 Modern Hideout ] 黒ビショップ
全店、営業時間は朝-夕。
メンバーに限り従業員が店に居る場合は終日利用可能。
3階 - クラブ
1号室 [ クルト ]
2号室 [ 丑円遊 ]
3号室 [ アリス・オルコット / ユノ・カリスト ]
4号室 [ Adalgisa / Charles ]
4階 - ハート
5号室 [ Liebe / セレス・クロード ]
6号室 [ Kathleen ]
7号室 [ 霧島弥子 / マグノン・フォティーノ ]
8号室 [ 杜 琳霞 ]
5階 - ダイヤ
9号室 [ エマ / Harvest ]
10号室 [ 鏡 / Messy ]
11号室 [ ]
6階 - スペード
( エレベーターの6階はカードキーを通さないと押す事が出来ない )
12号室 [ クイーン ]
13号室 [ キング ]
屋上 - 集会所
( 屋上はドーム型の屋根になっており、
傍から見れば温室のようにも見える。
其処には全員分の椅子と机があり、会議や暇潰し等に使われる )
サクラ・ポート - 市中
[ 不動産屋 ]
[ 波止場 ]
[ スーパーマーケット ]
* 此方のトピックは基本的に日常ロール専用になります
* ロルは2行~1コメントに収まるまで
* ☆//^^;www♪等の記号は使用禁止です
* 確定ロル禁止です。これ一番大切。
* 幹部キャラ以外は基本的に6階への立ち入りが出来ません
* 100コメントを取った方が次のトピを立てる様にお願いします
彼からのYESの返答に、わずかにではあるが
嬉しそうに微笑む
「よかった…。一緒にいけると、僕も嬉しいですから」
一見近寄り難く感じる外見や能力も、その人物の内面を知ってしまえば
全く気にならなかった。
寝起きの時だけは少々アレだが…
「 Liebeさんと外出するの、初めてですね
…なんだか新鮮というか、楽しみ、です」
普段昼夜逆転の生活から、お互いの時間が合うことは珍しく
元々の内気な性格もあいまって、こういったお誘いはした事が無く
内心は断られたら…と不安だった。
「 寝る前の散歩がてらに…うん、いいね 」
今まさに彼を誘おうとしていたところだったわけで、その彼からの誘いをもちろん断るわけもなく。
「 君さえよければご一緒させてもらおうかな 」
花が咲いたようにふわりと微笑みながら同意を示す。
外に出るのはいつぶりか。
最近は寝て起きて、1人でダーツしたり本を読んだり…何せこの容姿にこの能力だ。
親しいと呼べる人も少なく誰かと共に外へ行くことは滅多にないから。
只買い物へ行くだけだがそれでも新鮮に感じ、遠足へ行く子供のように心の中は浮かれまくっていた。
「……五月蝿いですね。」
書店に入ってきたマグノンは、そう呟く。
どうやら、廊下で起こっているいざこざのことを指しているらしい。
だが、彼女は大して気にすることもなく書店の中を歩いていき、何かを探す。
[ スーパーマーケット前 ― キング ]
― シズカ、よく覚えておきなさい
昔の記憶が交差する。父と呼ぶに相応しいが、ただの一度もそう呼んだ事のない彼の言葉が。
………そうだ、彼はあの時の…………
「 変態!! 」
通行人の視線が集まっている事を気にするようなやつでなかったのが幸いしたのだろう。
何も彼はふざけている訳ではない。きっとない。多分。おそらくは。
『 ……否定…出来ません… 』
無慈悲にも、女…ジンはそう続けた。
ああ、面倒な物を見つけてしまったようだ。とジンはこめかみを押さえた。
目の前にいる黒髪の女性…(にしては背が高い)に自分は見覚え等無いが。
しかし、相手の緊張感を見るにまた面倒事が起こるかも知れない。
腿のホルダーにかけたククリナイフに手を掛ける。若干の傷を負ったまま二度の戦闘は厳しい。
[ スーパーマーケット前 ― キング ]
― シズカ、よく覚えておきなさい
昔の記憶が交差する。父と呼ぶに相応しいが、ただの一度もそう呼んだ事のない彼の言葉が。
………そうだ、彼はあの時の…………
「 変態…!! 」
通行人の視線が集まっている事を気にするようなやつでなかったのが幸いしたのだろう。
何も彼はふざけている訳ではない。きっとない。多分。おそらくは。
『 ……否定…出来ません… 』
無慈悲にも、女…ジンはそう続けた。
【 1階廊下 - Charles 】
「ムカつく、ねえ…」
どこからともなく聞こえてくる破壊音はどうやら彼女の力のようだ。
漸く、というほどではないが己の置かれている状況を把握した。
正直、自身は真正面からやり合える能力でないことは自覚しているし。
何より可燃物が多い場所で使ったら確実に火事になる。
その程度で死ぬような奴らならとっくにくたばっているだろうが。
「ま、ガキに何言われたって痛くも痒くもねえわな」
はン、と鼻で笑った。
大して年も違わないのにこの対応である。
【 スーパーマーケット前 - 博士 】
あの時のと言われても咄嗟に思い出せなかったのは老化のせいではない。
納得したようにふんふん、と数度頷き。
宝石にも似た硝子の瞳は別の色を宿した。
傍らの女であれば見慣れているであろう、玩具を見つけたときの歓喜の色を。
「これはこれは。どこかで見た顔だとは思っていたが」
最早、カップ麺の特売になど興味はないだろう。
ばさりと白衣の裾を翻すと、男は青年の前に立った。
砂糖とミルクが入ったお洒落な瓶を持ってくる。
言われたことならこなせるタイプの店主ですどうも。
どうやらバイトと店主の立場が逆転しているように見えるが気のせいだと思って欲しい。
トーマの席にコーヒーと一緒に運ぶ。
お待たせしました、と言うのも忘れない。実際にお待たせしたのである。
裏に戻ると早速ダメ出しをされた。
なぜだ。誠に遺憾である。苦手なのか、と問われて考えてみる。
「私にとって頭を使うもの全てが不得手ですので何とも」
目をそらす。
冷たい言葉が刺さるが喫茶店の店主になってしまったのは事実なのだ。
そうだ一週間に一日だけ営業にしようかな、などとせこいことを考えながら肯定した。
絶対分かってないなと内心呆れながらお湯を注いでいき、抽出を終える。
サーバーからフィルターを外し、その中身を先程豆だけが入っていたカップに注いだ。
「砂糖とミルクは?」
ナイフとフォークの隣に同じような顔をして並んでいるスプーンには突っ込まないままそう問いかけ、
カップを綺麗なソーサーの上に置く。おまけと言っているが洗い物が増えるだけだ。
まニュー表に目を移したが、最後まで読まずに「何よこれ」と冷たい言葉を放つ。
いや、ワンコインって。このままだと経営破綻してしまう。私がどうにかしなければ。頭が痛い…。
「…………こういうの苦手なの?」
ややぎこちなく振り返った人物に、かすかに笑みを浮かべ
それでも何事も無かったかのように、いつもどおりゆっくりと言葉を紡ぐ。
「お早う、御座います
…日用品を少々…それと、寝るには少し早いので散歩に…。」
そこまで答えて一旦言葉を切る。
少しだけ首をかしげてから、やがて一緒に行かないかと誘ってみる。
「もし、ご迷惑でなければ…ですけど…。」
眩しい太陽の光に眉を顰めて目を開ける。
チカチカと目に痛いのを堪えて軽く目を擦って背伸びをした。
ソファに座って、そのまま寝てしまったのか…と立ち上がったところで腹部に触れる。
血が固まっており、痛みもない。太腿も然り。
「うーん…あんまり寝た気がしない」
それも当然なのだが、髪を乾かさず寝たせいで体が冷えている。
安物の服を脱いで着替え、顔を洗い目を覚まして歯を磨き、髪を櫛でとく。
元からふわふわな髪質のお陰か、寝癖は見事に収まった。
「……角砂糖がそろそろ切れる頃だね」
簡単に淹れた、寝覚めの紅茶を啜りながら呟く。
茶葉は輸入品店で買ったものがまだあるため大丈夫だが…
角砂糖は市中のスーパーマーケットで毎回買っている、丁度良いので今日行こうか。
カップなどを片付けて身形を整え姿見で確認してから、部屋を出て階段を降りていく。
完璧に、そう、娯楽室にいるのは僕だけだと思っていたから。
近づく足音にも気付かずうっかり気を抜いて1人でガッツポーズをしてしまった。
…ああ彼に見られてしまっただろうか、いや見られてしまったに違いない。
恥ずかしさから少しだけぎこちなく振り返るもその顔にはいつもの微笑みを浮かべており。
「 …ああ、セレス君か、おはよう。
そうなんだ、何を買いに行くの? 」
心の中では焦りまくりだが平然を装い掛けられた声に返事を返す。
買い物か…そういえば酒が切れていた気がする。
ついでに買ってきてもらおうか、いやでもたまには外の空気を吸うのもいいな。
時刻は朝。
そろそろ寝る時間だ…うん、丁度いい。
彼さえよければ眠る前の散歩にでも付き合ってもらおうかな。
完璧に、そう、娯楽室にいるのは僕だけだと思っていたから。
近づく足音にも気付かずうっかり気を抜いて1人でガッツポーズをしてしまった。
…ああ彼に見られてしまっただろうか、いや見られてしまったに違いない。
恥ずかしさから少しだけぎこちなく振り返るもその顔にはいつもの微笑みを浮かべており。
「 …ああ、セレス君か、おはよう。
そうなんだ、何を買いに行くの? 」
心の中では焦りまくりだが平然を装い掛けられた声に返事を返す。
買い物か…そういえば酒が切れていた気がする。
ついでに買ってきてもらおうか、いやでもたまには外の空気を吸うのもいいな。
時刻は朝。
そろそろ寝る時間だ…うん、丁度いい。
セレス君さえよければ眠る前の散歩にでも付き合ってもらおうかな。
等しく虚ろな視線は交差する。ジンの方は、相手の事がよくわかっていない様だった。
だがキングが気にしているのは視界に入った見覚えのある女の方ではない。
寧ろその隣、白衣の青年を凝視していた。紫色の瞳を静かに細めると、その唇を開く。
「 ……貴方は、あの時の 」
それは久々に口を突いた二人称。
「蒸らすんですね」
分かってますよ、といったオーラで頷く。
これは彼女が全く分かっていないときの癖である。
ふとメニュー表について聞かれてハッとして先程座ってた客席からバビュンッと取ってくる。
「これがメニュー表です、価格設定もバッチリですよ」
そう言って羊皮紙にボールペンで書いたものをファイルに入れたメニュー表を手渡す。
自称バッチリなメニュー表は如何なるものか。
【ミートパイ・ワンコイン
マフィン・ワンコイン
コーヒー・ワンコイン
紅茶・ワンコイン
お水・タダ(おかわり自由)】
………これでも、頑張ったほうなのだと思って欲しい。
人気のない娯楽室で辺りを見渡す
「 Liebeさん、買い物に行くんですが…」
目的の人物の後ろ姿を見つけ声をかけると
まさにダーツをど真ん中に命中させ、ガッツポーズの最中だった。
タイミングを外した…!と思ったが、取り敢えず用件を告げる。
そう、ありがとうといい手袋を受け取りそれをはめると、粉全体に行き渡る程度のお湯を注ぐ。
「このまま30秒、蒸らすのよ」
頭の中で数を数えながらエマの方へ視線を移す。ちゃんと覚えてくれるだろうか。
これができなくてもせめてコーヒーメーカーくらいは使いこなして欲しいものだが…。
本当にこのままでは店が潰れてしまう。
「…ねえ。メニュー表は作ったの?価格設定は?」
30秒。再び手前のものに視線を移すと、泡が消えないうちに少しずつお湯を注いでいった。
はっ。
最後の記憶を辿りながら、瞬きを数回。
低い棚に手をかけて腰を下ろしたまま、座り込んでいたことに気づく。
カウンターと棚の間でぐっすり寝落ちしていたらしい、フラグとはこれか、畜生め。
幸いにも来客は不在のようで(寝てる間に立ち寄った可能性なんて知らない)、うっかり待たせてしまうことは無かったらしい。
足元には整理用に、一旦取り出して並べた品物。
少しばかり眠気がましになったので、作業を再開する事にした。
というか今日が昇ってる時間だろ。
そりゃあ眠いわけだ、と、記憶もぼんやりした状態で手を動かした。
差し込む光に、億劫そうに目を細める。
とくやることも無く、寝るにはまだ早い…。
買い物にでも行こうかと、のそのそと支度を始める。
「 Liebeさんに声…かけたほうがいいかな?
…娯楽室、だっけ?」
ルームメイトであるLiebe氏に入用な物があるかを尋ねるべく
メモ帳を片手に娯楽室へと足を運ぶ
差し込む光に、億劫そうに目を細める。
いつの間に夜が明けたのだろうか?
このまま二度寝するのも気が引け、買い物にでも行こうかと
のそのそと支度を始める。
「 Liebeさん…起きてます、か?
買い物いくんですが…何か入用でしたら買ってきますが…。」
寝起きの彼をよく知るセレスは、恐る恐る…といった様子で
それでもルームメイトである Liebe氏に声をかける。
「あら?なにやら下の階から物音が・・・」
耳の良いアリスはわずかなメキメキッという音が察知した。下の階で何かが起こっているのだろうか
ユノはそんな音が聞こえなかったのか首を傾げながらアリスの方を見ていた
「そのような音、しましたか?」
「えぇ確かに・・・メキメキッという音がしたのだけど」
「雨の日に野外で読書するのはお勧めできませんよ、本が痛みますので。」
冗談半分の忠告は営業スマイルに彩られている。彩られて、といっても、それは目の前の男と同じかそれ以下に色彩を失ってはいるのだが。
「雨は、嫌いでは、ないですがね。」
ポツリと呟いたのは、無意識か。その顔は一瞬表情を無くして能面のように、それこそさっきの微笑以下に色を失って、そしてまた元の笑みを取り戻した。
陽光が窓から差しているのが見える。
[2F 喫茶店 Mountain - 藤真 ]
若干得意げな言葉にも大した反応を示すことなく、「どうも」と呟くと、トウマはパイを小さく切って口へ運び、咀嚼した。一連の動作は酷く緩慢で、パイを食べ切れそうには見えない。最悪能力を使って食べ切ったフリをしよう、などと考えている。そんなくだらないことに使われる能力も中々可哀想ではある。それに自我は無いとしても。
(あ、意外と美味しいな、これ)
そうは思いつつも、気持ちと身体があまり連動していない彼女の食べているパイは、微妙にしか減少しない。だが時間はある。先ほどまでの小雨は止んだようで、店内には明るい日差しが入り込んできていた。
「雨の日に野外で読書するのはお勧めできませんよ、本が痛みますので。」
冗談半分の忠告は営業スマイルに彩られている。彩られて、といっても、それは目の前の男と同じかそれ以下に色彩を失ってはいるのだが。
「雨は、嫌いでは、ないですがね。」
ポツリと呟いたのは、無意識か。その顔は一瞬表情を無くして能面のように、それこそさっきの微笑以下に色を失って、そしてまた元の笑みを取り戻した。
陽光が窓から差しているのが見える。
[2F 喫茶店 Mountain - 藤真 ]
若干得意げな言葉にも反応を示すことなく、「どうも」と呟くと、トウマはパイを小さく切って口へ運び、咀嚼した。一連の動作は酷く緩慢で、パイを食べ切れそうには見えない。最悪能力を使って食べ切ったフリをしよう、などと考えている。そんなくだらないことに使われる能力も中々可哀想ではある。それに自我は無いとしても。
(あ、意外と美味しいな、これ)
そうは思いつつも、気持ちと身体があまり連動していない彼女の食べているパイは、微妙にしか減少しない。だが時間はある。先ほどまでの小雨は止んだようで、店内には明るい日差しが入り込んできていた。
メキメキ、と彼女の足が触れている床が音を立て窪み始める。
「…っ」
ここで戦ってはいけない。
きっと上司にも怒られてしまうし、何より買ったばかりのゲームが犠牲になってしまう。
抑えて…抑えて___
「……や、やらない…」
一度大きく深呼吸をすれば、床に力なく座り込んだ。
「暴力…しない…。あなたはムカつくけど」
【 スーパーマーケット前 - 博士 】
ゆるりと動く無機の瞳。
太陽の光を浴びてなお、それに光が灯ることはない。
それでいいのではないだろうか。
流石にこの街の人間といえど、彼と一緒くたにされたくはないだろう。
『帰るものか、私は買い物をする』
何とか女の手から逃れて店内に入ろうと策を練り始めたその時。
見覚えのある紫が見えた。
「お湯のスタンバイは出来てます」
かなりいい返事をする。
きちんとお湯は沸いており、火傷をしないようにでかい布手袋を渡す。
なんてやり取りをしているとトーマからの言葉に内心ハテナマークを浮かべた。
脳筋野生児の彼女にとってパイとは素手で食べるものだったからだ。
誰だコイツに店を任せた奴は。上司か。
取り敢えず必要ならば、と銀食器のスプーン・フォーク・ナイフを手に取り
トーマの席に運び、紙ナプキンの上に置く。
「おまけでスプーンもあります」
なんのおまけだ。
そう突っ込める人間はこの喫茶店にいない。
曖昧な答えが耳を擽る。なんだそれ、と小さく笑った顔はまるで悪戯を覚えた子供の様で。
アウトローに欠けた平凡なこの相手を気に入ってしまったようだ。相手には迷惑な事だろう。
「 ああ、本当だ。…雨の方が好きなんだけどな 」
少し残念そうに細められた目はガラスの窓を伝い落ちる雫を目で追っていた。
ああ、この分では日が随分と照るだろうか。
[ スーパーマーケット前 ― 静(ジン) ]
『 今どういう状況かご存知ですか???え?????』
重い。流石に〝これ〟は重い。〝あれ〟のように引きずっていくのは難しいだろう。
ただでさえ悪目立ちするんですから帰りますよ、と告げたところで何かと目があった。
[ 同―キング ]
「 ……あ 」
その女には見覚えが有る。勿論向こうにはないだろう。何故なら見ていたのは眼を介した視界。
部下達と一戦交えた女性。と、隣に居るのはあの時の子供と同じ色彩をした男。
髪と目の色は同じだが、今視界に入っているのは間違いなく成人男性。だが問題はそれではない。
「 ……お前、……は 」
【 1階廊下 - Charles 】
これだから子供の相手は嫌いだ。
そうは言っても当の本人もこの組織の中では年若い方なのだが。
明らかに機嫌を損ねた相手を前にして青年は不快そうに唇を歪ませる。
「やるのか?」
窓が音を立てたのは偶然ではないだろう。
グリーンコーネルピンが不機嫌そうに細められた。
(えっと……)
トウマは困惑した。何故なら彼女は朝食をあまり摂らない種類の人間だったから朝食代わりにコーヒーのみ注文したのに、親切な(?)店主の気遣いで計画がぶち壊されてしまったから、そして目の前に出されたミートパイをどうやって食べるべきかわからなかったからだ。
一つ目の原因はまぁ許容可能だが、二つ目については最早、我慢するだとかそういう問題ではない。
ナイフもフォークもない代わりに、パイは冷たい。これは手で食べれば良いのか?
トウマはパイを食べたことがないというわけではないが、ミートパイを、しかもガッツリ食事系のそれを、素手で食べたことはない。ましてや人前で。だがパイは冷たい。さてこれはやはり手で食べるのが正解か?
「あの、すみません。ナイフとフォーク、頂けますか」
……数秒間の思考の後、結局そう頼んでしまった。
[ ウタタネ書店 - Messy ]
「えぇ、まぁ、そうなんでしょうね、きっと。」
意味の無い微笑みと中身がスカスカの返事をする。
断定しないのは、確かでないから。実際それが嘘だろうが真だろうが、そんなこと、アダルジィザにとってはどうでもいいだろうけれど、癖として染み付いてしまっているものは仕方ない。
「晴れたらしいですね」
僅かに明度が上がったこと、雨音が聞こえなくなったことの2点を統合して生み出されたその結論、それは確かであるようだった。
「…」
くれと言われても絶対に渡すつもりはなかったが、
いらないと言われると、それはそれで癪だ。
自分の事で精一杯の少女には、彼の困惑を察することなどできない。
なんとも荒々しいその言葉にムッとした表情を浮かべる。
そして、その苛立った気持ちを表すかのように、廊下の窓がミシッと音を立てた。
「…」
くれと言われても絶対に渡すつもりはなかったが、
いらないと言われると、それはそれで癪だ。
自分の事で精一杯の少女には、彼の困惑を察することなどできない。
なんとも荒々しいその言葉にムッとした表情を浮かべる。
その苛立った気持ちを表すかのように、廊下の窓がミシッと音を立てた。
「そういう訳じゃ……いった!!」
痛い。いや痛い。事後報告されても困る。痛いなあオイ
だが手当を受けている身だ、騒ぐわけにはいかず腕を出したまま唇をかんだ。
この状況で彼女の物騒な言葉は背筋にくる。……ほんとにお腹じゃなくてよかった。
「赤ん坊扱いとか、じゃ、なくて……」
[ 喫茶店 -- 琳霞 ]
「……いや、間違ってはいないけれど、そうじゃないのよ」
モカ以外ね、と返事をするとなんの種類かもわからない豆をカップから出す。
棚からブルーマウンテンの豆を出すとコーヒーミルに入れて挽き始めた。
「まずこれで豆を挽くの」
くるくると取っ手を回す。コーヒーの良い香りが広がっていく。
これは見えるところに置いてあったはずだが、これをどう使うかが分かっていなかったのだろうか。
そしてサーバーにドリップフィルターをセットすると、挽いた豆を入れる。
「お湯は湧いた?」
黒駒は基本的に夜行性である。
というのは暗黙の承知だったりするらしいが、彼はいつでも寝るし起きる。
今日も今日とてあるじを探していたのだがエレベーターの場所が分からず今に至る。
ぺたぺたと歩き続けて早何時間経った頃だろう、漸く気付いたことがあった。
「……ここは、ここは……外…?」
なんということだろう。朝だ。
気付いたらBlack Mariaから出ていたのか?
自慢ではないが、自分はひとりで外出したことは数少ない。
そして数少ない体験から現在の自分の状況を割り出すことができたのは奇跡的だ。
「……ぼく…まいご………?」
呆然とした声でつぶやく。
ぶわっと溢れる涙は止まることを知らず、ただ宛も分からず歩いた。
歩き続けていないと不安だったからだ。
そしてその行動がアパートから離れていっていることは本人は露程も知らない。
【 1階廊下 - Charles 】
行く手を阻んでいた少女は大人しく道を開けた。
妨害する気は元から毛ほどもないとは露知らず。
「いらねェよ。そんな、何だか判んねえモン」
ハ、と呆れたような息が一つと。
薄い唇を通って出てきたのは困惑を隠すような乱暴な言い分だった。
【 スーパーマーケット前 - 博士 】
〝博士〟と呼ばれたのは緑髪の白衣を着た男だ。
特に何ら変わりのないように見える。
両腕一杯に特売品のカップラーメンを抱えている以外は。
『やめたまえ!痛い!いや、痛覚はないけど何だか痛い気がする!』
同じく中国語で喚きつつも、腕の中の商品は手離さないつもりか。
少なくとも成人男性の行動ではないのだから、辺りに漂う微妙な空気も当然と言えるだろう。
行き交う人々の中で女の指から逃れようと店先で暴れている光景を見た者はそっと目を逸らした。
[ ハート 6号室 - BerryBell ]
「 ……よしよししてお粥でもあーんしてほしいですか?ゴートにいいつけます 」
ピンセットを徐に傷口へねじ込んだ。弾を取り出すとそれを膿皿へ置く。
この分では破片は残っていないだろう。「あ、いたいですよ」と勿論事後報告で付け加えた。
「 おなかでなくて良かったですね。でしたらお魚さんみたいに捌かないといけませんので 」
[ ウタタネ書店 - Adalgisa ]
領収書に書かれた代金をカウンターに置く。少し物珍しそうに本の表紙を撫でた。
本を読みなさいと口煩く父に言われた日は懐かしいが、決して恋しい物では無い。
くす、と血色の悪い唇を歪めるとモノクロームを湛えた瞳は相手を見つめた。
「 本、お好きなんですか 」
「豆とお湯で出来るんじゃないんですか?」
初耳、カルチャーショック。
そんな感傷に浸っているとトウマと琳霞が何か専門用語を使っている。
ホットは分かる。あたたかいものだ。モカ、モカとはなんだ。
モカ……も、もか…?ダメだここは機転をきかせなければ。
「琳霞さんをコーヒー係に一任します」
ここで唐突のぶん投げである。
謝罪代わりに自分が唯一作れるミートパイが保存してある冷蔵庫に向かった。
どうせお客が来なかったら自分で食べようと思って作っていたものだったが味は保証できる。
ケーキを切るように一切れカットして、硝子のコップに氷とレモン風味の水を注ぐ。
「コーヒーが出来るまで、此方サービスです」
トレイに乗せてトウマの席に置く。
見た目も味もまともなミートパイ、程よい柑橘系の風味のする水。
喫茶店改めミートパイ屋にしたいなとか思っていませんよ。
トウマに会釈してから琳霞のほうへ戻る。棚にある豆が届くか分からないからだ。
まるっと投げた本人は私であるが手伝いぐらいは出来るはずだ。はずだ。
(やっぱりわかってなかったのか……)
高速で様々なルートを辿ったトウマの思考は、きっとこの組織の長は天才なんだろうな、というなんだかよくわからない地点へ着地する。
「あぁ、モカは嫌いなんでそれ以外でお願いします」
できればこの店を抜け出したいと思いつつあったが、トウマはおとなしくそうオーダーした。
「分かりましたから、あの、…だから、俺けが人ですよ…………?」
しかも幹部ですよ俺。と言いたげな顔をして上着を脱ぎ、シャツの袖を捲る。
顕になった二つの銃創は、止血もなにもしていなかったせいか傷口付近で血が固まっていた。
傷口からはまだ赤い血液が流れているが、ベッドを汚すほどではない。
「…はい、依頼で……。まあ傷は何ともないんですけど…」
というか何だこの甘い匂い。くらくらする。輸入菓子のような甘ったるい匂い。
しかも内装がすごい。ここ本当にBlack Mariaか?
[ 喫茶店 - 琳霞 ]
「…………豆にお湯を注ごうとしてたの?」
はっきりとしたいい返事を聞いて呆れたように足を組んだ。
同室だった彼女が幹部に昇格したというのは非常に喜ばしい事だが、本当に喫茶店の店主が務まるのか。
コーヒー豆にお湯を注げばコーヒーが出来ると思っている幹部か…
豆の入ったカップを手に取り、ありえないものを見るような目でエマを見つめる。
このまま自分が来なければきっと藤真は豆湯を飲むことになっていた。
タイミングが良いのか悪いのか…と再びため息をつくと、そのまま藤真の方に視線を移す。
「ごめんなさいね。しっかり私が教えておくから。それで、普通にホットコーヒーでいいのかしら」
「ご購入ですか、では領収書をお出ししますのでカウンターまでお願いしますね」
まさか買うとは思っていなかったのでびっくりだ。まぁ余裕があるのだろう、そう思っておこう。
カウンターの下からセピア色に変色している領収書を取り出すと、サラサラと代金やら商品名やら必要事項を書き付けた。特に考えなければならないこともなく、正直楽だなぁ、なんて欠伸を出しそうになったので、慌てて咬み殺す。
「こちらが領収書になります」
領収書をカウンターに出してメシィはニコニコとしている。代金の催促など不要だろうから、ただ待っているのである。
「どうぞ…、」
全て拾い上げると、廊下の端に避けるようにして道をあける。
その時、まるで呪いをかけるかのように「エレベーターのドアに挟まれ」と
何度も繰り返し心の中で唱えたのはちょっとした反抗心から。
ふと、彼の視線に気づく。
ゲームのソフト…を見ている…?まさかこれを狙っていたのか!?
そう大きな勘違いをすると、腕に抱えたそれを真っ黒なガウンの中にサッと隠した
「…あ、あげないから…」
これ以上にない動揺、そして必死な形相で言って。
[ 2F 廊下 ‐ 丑円遊 ]
「(ああ、交渉成立だ)」
アイコンタクトとは此処まで便利なものだっただろうか。
帰ってきた答えに頷き、「フッ」という笑みを零す。
なんていい顔してやがるんだこいつらは。
「そろそろつきますね、大分時間がかかってしまいましたが」
「どうぞ…、」
全て拾い上げると、廊下の端に避けるようにして道をあける。
その時、まるで呪いをかけるかのように「エレベーターのドアに挟まれ」と
何度も繰り返し心の中で唱えたのはちょっとした反抗心から。
ふと、彼の視線に気づく。
ゲームのソフト…を見ている…?まさかこれを狙っていたのか!?
そう大きな勘違いをすると、腕に抱えたそれを真っ黒なガウンの中にサッと隠した
「…あ、あげないから…」
これ以上にない動揺、そして必死な形相で言って。
その頃、皆のサンタさんは道に迷っていた。買い物以前にたどり着かない。
彼には方向感覚と、土地勘と言う物が絶望的にないのだ。ついでに体力も。
「 ……弱ったなア 」
寄り道以前の問題である。おかしいなこの道はさっきも通ったぞ。
誰か適当な人間に道を聞いてみようかと辺りを見回せば、視界に入ったのは―――――
[ スーパーマーケット前 ― 静(ジン) ]
『 は か せ 』
元より少しばかり細い目はにこりと屈託なく微笑んだ。女の指が物凄い力で相手の肩を掴む。
額に青筋を立てんばかりの剣幕で女は博士、と呼んだ人物を捕まえていた。半ば、呆れ顔で。
自室に戻ると報酬が用意されていた。うちのキングはサンタさんだったのか。
しょうもない事を考えながら荷物を置くと、とっとと部屋から退室する。
非常に頭が痛い事だが、この度バイトがバイトじゃなくなった。
曰くゴイスーでファンタティックでワンダホーに幹部に昇格したらしい、英語は適当だ。
まあ要するに幹部になったので、バイトから経営に任命されたらしい。
そんなトントン拍子で同僚になったので、当然ながらバイトなんて続けてもらえる訳もなく。
バイトを雇う前の状況もそんなに悪くはなかったが、暫くキツいかもしれない。
何より人手がある事で、ある程度楽ができるという事を知ってしまった後では尚更。
(バイト募集しよっかな)
━━━等とどうにもならないことを考えながら、店に入って仕事を始める。
と言ってもモノの整理だったり、抜けた人手を穴埋めする為のあれやこれやだ。
ちなみに黒の生活リズムを考えて当然っちゃ当然だが、とても眠い。
どれぐらい眠いかというと、仕事終わりに寝ないで働こうとしてるのだから察して欲しい。
うつらうつらとする意識をほどよく手懐けて、低い棚の整理をする。
カウンターの向こう側なので、うっかり寝てもバレない仕様だ。
【 1階廊下 - Charles 】
英語が、通じた。
何と言えばいいのか、一見して国籍の判別のない少女だったからか。
どうでもいいことに驚いてしまう。
「さっさと退け」
どうでもいい、と言わんばかりに気だるげな声を吐き出す。
黙っていればこの男、絵に描いたような優男だというのに。
散らばっていたゲーム機に目線が移ったりなどしていない。
別に娯楽室にはないそれがちょっと気になってたり、していないのだ。
果たして残念なイケメンとは誰の弁であったか。
【 1階廊下 - Charles 】
英語、通じた。
何と言えばいいのか、一見して国籍の判別のない少女だったからか。
どうでもいいことに驚いてしまう。
「さっさと退け」
どうでもいい、と言わんばかりに気だるげな声を吐き出す。
黙っていればこの男、絵に描いたような優男だというのに。
散らばっていたゲーム機に目線が移ったりなどしていない。
別に娯楽室にはないそれがちょっと気になってたり、していないのだ。
「(良いだろう)」
目線という名のアイコンタクトを取り、冷静に頷く。思考回路が似ている奴とはアイコンタクトだけで瞬時に分かる
しかし、それはアリス限定であり戦闘などで役に立つかと言えばNOだろう。だってアリス様関係ないもん
でも、もしアリスが危険に攫われた時ユノの能力である異世界の境界線は実に強力の物だろう
戦闘向けではないとしても、彼の能力一つで大きく戦局を変えるのだから。特に暗殺向きの能力者だろう
「 何か言いましたか?良いから上着をぬいでください。
嫌だったら切りますのでそのままどうぞ 」
シャキ、と音を立てたのは医療用のハサミ。相変わらず少女は無表情なままである。
甘い香りの充満し(過ぎ)た部屋は、いつもカーテンも締め切ったままになっていた。
「 ……おしごとですか?たたかいましたか? 」
[ ウタタネ書店 - Adalgisa ]
くすくす、と鈴のような声が書店内に響く。聖書を勧められるとは全くの予想外だった。
本はそんなに読まない方。読むのも早くないし、それに活字は億劫なのだ。
だから趣向を変え、珍しく本でもとこの書店に立ち寄った。勧められた三冊を受け取る。
「 〝どれも〟、読んだ事はないな。文字の多い本って余り手に取らない物で……。
じゃあ、此方を三冊とも頂けますか? 」
首にかけたロザリオが、朝の光に反射した。
『邪魔だったんだよ、お前』
その言葉に、ムッとした表情で口を開く。
「…寝たくて寝たわけじゃないもん。」
同じく英語で。
此方に非があるのは言うまでもない。が、それを認めるは少し癪だ。
この少女、「あくまで能力の代償なのだから仕方ないじゃない」とさえ思っている始末。
散らばったゲーム機、そしてそのソフトを1つ1つ拾い上げて
丁寧に汚れをはたいた。
【 1階廊下 - Charles 】
悪意は欠片もなかったが、蹴り飛ばしてしまった。
見下げなくとも此方を見る視線の意図は察せられる。
共有スペースである廊下で寝ることはどう考えても迷惑ではないだろうか。
あくまでそちらに非がある、というスタンスは崩さず。
「邪魔だったんだよ、お前」
公用語の一つである英語で声をかけてみる。
男は、街で葬儀屋を営んでいるという特殊な立場故に。
加えて日本語を話せないという自身の都合から意思疎通が困難なこともあった。
どうだろう、と手探りの対話自体が彼には珍しいことなのだが。
久しぶりの帰宅だというのにトラブルに巻き込まれたような気がして、頭を抱えたい気分だ。
お湯が沸騰する音を聞きながら豆を見詰めていると聞きなれた声に振り返る。
元同室であり、友と呼べる女性の一人であり、今はバイトをして貰っている大恩人だ。
「琳霞さん」
無表情がデフォルトの彼女は表情こそ変えはしないが感情豊かだ。
悲壮感の漂う声音で車椅子の麗人の名を呼ぶ。
そして何をしているのと問われて我に返る。
沸騰するお湯と豆の入ったコップ、そして此方を見るトウマを横目に頷きながら答えた。
「お客様にコーヒーを淹れています」
無駄に、いい、返事だった。
少し明るくなってきた外に目をやりながらがちゃ、と扉を開ける。
バイトをしている義務感というものもあるのだが、何よりも不安なのは店主だ。
この前はコーヒー豆にそのままお湯を注いだし、コーヒーメーカーの使い方すら分からないし、
本当に一人だと何をしでかすかわからない。
客がいたようで、嫌な予感がしてカウンターの向こうに目を向ける。
「………何してるの?」
からからと車輪を動かしカウンターの奥へ行くと、やはりそこには豆の入ったカップがあった。
やっぱり、と重いため息をついた。
「コーヒーを淹れ」るはずだったエマが、「コーヒー(豆)を入れ」始めたことにトウマは呆然とした。
絶対にあれは違う。抽出という化学的な過程を完全に無視している……ように見えるが、もしかしてこれからコーヒーミルやらサイフォンやらを持ってくるのだろうか?もしかしてあれはオーナーの流儀か……?
この間彼女はほぼ無表情である。若干引きつっているようだが、まぁ許容範囲だろう。
というか、豆の種類すら聞かれていないが、それでいいのだろうか?これはもしかして「一見さんお断り」、というやつなのか???
この辺りでトウマは疑念を疑念として捉えることに成功する。が、最終的には少し様子を見ることに決定した。
「コーヒーを淹れ」るはずだったエマが、「コーヒー(豆)を入れ」始めたことにトウマは呆然とした。
絶対にあれは違う。抽出という化学的な過程を完全に無視している……ように見えるが、もしかしてこれからコーヒーミルやらサイフォンやらを持ってくるのだろうか?もしかしてあれはオーナーの流儀か……?
この感彼女はほぼ無表情である。若干引きつっているようだが、まぁ許容範囲だろう。
というか、豆の種類すら聞かれていないが、それでいいのだろうか?これはもしかして「一見さんお断り」、というやつなのか???
この辺りでトウマは疑念を疑念として捉えることに成功する。が、最終的には少し様子を見ることに決定した。
[ 2F 喫茶店 Mountain - エマ ]
「あっはい」
トウマの来店に思わず返事をした。
引き受けたにも関わらず値段設定がわからない。
ワンコインっていっておけばいいかな、と適当に思いながら立ち上がる。
コーヒー、あそこの棚にあったはずだ。
書き物を放置してコーヒー豆の並ぶ棚のほうへ行く。
「少々お待ちください」
すれ違いざまに無表情なまま目礼をする。
カップと謎の機械を前に彼女は己のとるべき行動を実行し始める。
コーヒーを、いれるのが、私の任務だ。
客からも見えるようになっているカウンターでテキパキと準備をする。
カラン、コロン、とコーヒーカップに豆を投下しながら湯をわかしている彼女。
この時点で致命的なミスをしていることに気付いていない。
やっと部屋についたと深いため息をつくと、下から幼い声が聞こえてくる。
そこにはもうひとりの少女の姿があった。彼女と同室の……駄目だ、ぼーっとして名前が出てこない。
依然視界は霞んでいるままだが、嫌悪の目で見られていることはすぐに分かった。
「…え、いや、…お…俺じゃないですって……」
扉を蹴り飛ばした時にこの少女のことも蹴ったのではないか、とも思ったが、
もしかして自分が蹴ったのかもしれない。というか何で廊下で寝ているんだ?
どん、人形に背を押され、そのまま倒れそうになるが咄嗟にベッドに手を付く。
本当に何なんだよこの扱い…と頭まで痛くなってきたが、手当してくれるだけまだいいのだろう。
「け、…怪我人なんですから、もうちょっとやさしく、…」
ああ駄目だ眠い。怪我などどうでもよくなってきた。寝たい、しかし此処は女子の部屋。
女子の部屋で勝手に寝るとかどんな変態だよ…と思いながら強い眠気を堪え、ベッドに座った。
カラン……とベルを鳴らして無言のまま店内に入ると、トウマはカシカシと左のこめかみを掻いてカウンター席に着いた。
何やら書き物をしていたカウンターの中にいる女性、彼女がマスター……じゃないな、オーナー?なんて呼ぶべきなのだろう?
「あの、コーヒー一杯。」
一瞬で代名詞を使わない方向に転換して、トウマは性別を感じさせないハスキーボイスを吐き出した。
__ゴッ
その衝撃はそれほど強いものではなかったが、
少女を眠りから覚ますには十分なものだった。
どうやら自室へ向かう途中、能力の代償である睡魔に襲われたらしい。
どれくらい眠っていたのかは分かりかねるが、少女にとっては特に珍しいことではない。
まさに寝起きといった表情のまま起き上がると、続けて近くにいた彼に視線を向ける。
「今…蹴った……」
床に転がっていた迷惑な障害物。それに予期せず当たってしまったという可能性を考慮せず、
その眼は完全に「無防備な少女を蹴り飛ばした悪人」を見る眼である。
[ 2F 廊下 ‐ 丑円遊 ]
「(後で焼増しだ)」
先ほど自分が撮った写真、そして今ユノが写真に納めたもの
それらを共有しようと。お互い損はない。
大いなる目的のためなら手段は択ばない。それが本当のファンであろう。
そうユノに眼で伝える。口に出さずとも同志には伝わるであろう。
【 1階廊下 - Charles 】
青年は普通に廊下を歩いているつもりだった。
何処かのホテルのような内装を施されたアパートの廊下は上品そのもので。
街の人間が、中に住んでいる者共の正体を知れば火をつけることも厭わなそうな。
とどのつまり、男にとっては色々と気に食わないもので支配された空間である。
居心地の悪さを感じ取り、早足で駆け抜けようとして、ふと。
「あ?」
絨毯に転がる黒い塊が行く手を阻んでいることに気づく。
これは人なのだろうか、否、厳密には人間など一人もいないはずだ。
〝人が床に転がっている〟という経験したことのない場面に出くわした彼は、所謂パニック状態で。
跨ごうとした足が彼女の背、その直下に当ててしまったとしても。
内面の葛藤を知り得る者がいたら、仕方のないことだと慰めるかもしれないが、所詮は仮定の話。
傍から見たら少女を蹴り飛ばした悪人である。
「オススメ、ですか。」
無干渉という決定は一瞬にして覆された。メシィには責任がないので問題ない。
アダルジィザにマザーグースなんか勧めたらどうなるかな?なんて好奇心を押し込めて、つかつかと奥の方の本棚に向かうと、何やら重そうな本を引っ張り出した。実際は見た目ほど重くもないのだが。ただしこれは全編ではなくほんの一部である。
「例えばこれなどいかがです?」
そう言って差し出したのは「旧約聖書・詩篇」だった(勿論英訳版だ)。
「ヤハウェがお気に召さなければ俗に此方でしょうか」
開いた左手にどこからか現れたのは二冊の本。どちらもアガサ・クリスティの著書らしい。「そして誰もいなくなった」、その下に半分隠れているのは「……にして君を離れ」、春にして君を離れ、のようだ。
宗教にミステリなんてチグハグな提案をしたのも、モノクロの背中の大きなケースの中に入っているものは何かなんて、大体想像がつくからだ。もしかしたら今日は入っていないかもしれないが。
「まぁ、長い時を経て遺されているものですからね、どちらを読んでも無意味ではないと思いますよ。」
「 はやくしてください 」
バタン、と小さなヒールが扉を蹴り開ける。同室のキャシーは居ないようだ。
相変わらずぞんざいな態度で入室を促すと、木製の人形が軽く鏡の背を押す。
とうの本人はベッドの下をごそごそと漁っていた。救急箱を出すつもりらしい。
「 赤いシーツの方がぼくのベッドですので、そこに座ってください 」
[ スペード13号室 - キング ]
「 僕は21だぞ 」
子供か。およそ自分の人生の中で幼少時代にそんなことを言われる生活はしていなかったが。
もうそろそろ寝るつもりなのだろう。やれやれ、晴れているし外に出るのは辛いな、なんて。
-
取り敢えず、と部屋を出て外まで来たはいいが果たしてマーケットはどちらだったか。
歩いていれば付くに違いない。街はひとつだし。とタバコに火を点け歩き出した。
「 ……そうだな、あの街灯の続く道を行った筈だ 」
既に真反対を歩いていることを指摘してくれる人間基獄卒はいないのであった。
「ういーッス。それじゃ、失礼しましたー」
指ごと片手をぶんぶん振り払うのは挨拶でしかない、そうだろう?
決して気分だけでも何かをふるい落とす動作ではない。
そんな事を考える奴はきっと自意識過剰だ、つまりただの、挨拶のジェスチャーでしかない。
くるりと背を向け、さっさと退室する。
途中我らがクイーンの名状しがたい表情を見た気がするが、過労だろう。
【 スペード13号室 - クイーン 】
表情に出ない彼女にしては稀有なことに、名状しがたい表情をしていた。
視線が痛いのは決して物理的な意味ではないと思いたい。
「寄り道はするなよ」
そう言って紙片を押しつけるとくるりと踵を返す。
さっさと隣の部屋、自室に戻ったのだろう。
窓の外を見れば太陽が昇ってきているので、それが彼女には耐え難かっただけなのだ。
変なものを見せられたから逃げたとか、そういうことではなく。
【 スペード13号室 - クイーン 】
表情に出ない彼女にしては稀有なことに、名状しがたい表情をしていた。
視線が痛いのは決して物理的な意味ではないと思いたい。
「寄り道はするなよ」
そう言って紙片を押しつけるとくるりと踵を返す。
さっさと隣の部屋、自室に戻ったのだろう。
窓の外を見れば太陽が昇ってきているので、それが彼女には耐え難かっただけなのだ。
【 スペード13号室 - クイーン 】
表情に出ない彼女にしては稀有なことに、名状しがたい表情をしていた。
視線が痛いのは決して物理的な意味ではないと思いたい。
「寄り道はするなよ」
そう言って紙片を押しつけるとくるりと踵を返す。
さっさと隣の部屋、自室に戻ったのだろう。
窓の外を見れば太陽が昇ってきているので、それが彼女には耐え難かっただけなのだ。
変なものを見せられたから逃げた、などという理由ではない。
確証はないけれど。
「ちょ、…ちょっとまって、」
つかつかと前を歩いていく彼女のあとを少し早足で追いかけるが、足元に力が入らない。
時折壁にぶつかりながら、せめて人形だけは見失わないようについていく。
もうちょっとゆっくり歩いてくれたっていいじゃないか、
これでも一応幹部なんですけど、と朦朧とした意識のなか少しの苛立ちを覚える。
「……ちょっと、待って、ください、ってばー………!」
物静かな空間は時に心地よい。沈黙が好きなのだ。それは音の話では、無い。
さらさらと鉛筆が紙の上を走る音。何か書き物でもしているのだろうか。
特に目当ての本がある訳でなく、アダルジィザは鮮やかでない背表紙の列を眺めた。
「 おすすめの本。ありますか 」
ゆっくりとメシィの方に振り返ると、独特な色を湛えた虹彩は音を立てずに笑う。
それは在り来りなセリフ。ただひとと会話がしたかった、それだけなのだが。
[ スペード13号室 - キング ]
今回も、その行為は杞憂に終わったようだった。音も立てずにその瞳から狂気の色は引いていく。
ゆっくり目を閉じ、次に開ける頃には瞳の色も揺らいだ声も元に戻っていた。
「 じゃあ、これで依頼は本当に終わりだ。ご苦労様。君も休むといい 」
視線が痛いとは一種の表現に過ぎないが、しかし強ち間違った話でもないと思う。
何が言いたいかって文字通り視線が痛い。振り返らなくてもクイーンの目つきは想像に易い。
予想外の来客を告げる軋んだ扉の音をいち早く察知して、メシィはビクリと身体を跳ねさせた。しかし客のモノクロ男——アダルジィザが、メシィの姿を目視する前には既に何事も無かったかのような顔で座っていた。
「いらっしゃいませ」
ニコニコと笑みを湛えて言う。しかしそれ以上は干渉しない。アダルジィザの顔を見て、探し物があるわけではなさそうだと感じたからだ。
ツートンカラーから視線を逸らして、一応は仕事をしている体を取り繕うべく、今日するべきこと……というよりかは、今日したいことを書き並べることにした。
先ほどのメモ帳を破って机の端に避け、鉛筆をくるりと器用に回すと、ゆっくりと瞬いて思いつきを書き出していく。
キィ、と扉を開け中に入ってきたのはモノクロームの不思議な色をした男だった。
髪、瞳、睫毛に至るまで。全て左右で白と黒になった人物は何かを背負ったまま。
「 おはようございます 」
明け方の小雨に嫌気がさして、本でも読む気になったのだろう。
アダルジィザは気だるげな笑みを浮かべると書店内をぐるりと見渡した。
「さて、どうしようかな」
パラパラという小雨の音は、久々に戻ってきた自室……ではなく、埃っぽい本棚が並ぶ店——つまりウタタネ書店——の中までは響いてこない。しかしその湿気は何処からか侵入してきて、これはいただけない。本が傷んでしまうこと間違いなしだ。やはり除湿機があった方が良いだろうか、と、カウンターのメモにサラサラと書き付ける。まぁ結局、このメモの存在を忘れる気がしてならないので意味はないのかも知れないが。無いよりはマシ、という奴である。
「あぁ、そうだ。やっぱそうしよ」
誰もいない店内で一人呟いて手を打つと、先ほど書いた「除湿機」という文字を二重線で消して、「木炭と湿度計」と書き換えた。除湿機でこの雰囲気を壊したくなかったらしい。いつか何処かで読んだ本の知識を試してみようというのだろう。
小雨は降り続いている、もしかしたら今日も戦闘が起こるのかも知れない、仮にも幹部なのだから行かなきゃなんねえのかな、久しぶりにダラダラしたかったのに。などと、今までほとんどだらけていたような彼は思った。休暇が好きなようである。それが意味するところはわからないが。
微かな雨の匂いをスッと吸い込むと、メシィはカウンターに伏せて目を閉じた。
誤解されないように言っておくと、真面目なことだ。
目の前の上司は、幹部に、しかも男相手に趣味でこんなことを好き好んで行わない(と信じている)。
なので、この儀式的な一連のサムシングには、真面目に意味がある。
ぶっちゃけそう割り切らないと、ここまで大人しくもしていないのだけれど。
「 Harvest・jongleur 」
言い終える。黙って、待つ。
一度こちらを見つめた目から、目を逸らすことも無く。
一連の行為が終わるのを、ただただ待っていた。
にしても絵面は耐え難いッスね?
誤解されないように言っておくと、真面目なことだ。
目の前の上司は、幹部に、しかも男相手に趣味でこんなことを好き好んで行わない(と信じている)。
なので、この儀式的な一連のサムシングには、真面目に意味がある。
ぶっちゃけそう割り切らないと、ここまで大人しくもしていないのだけれど。
黙って、待つ。
一度こちらを見つめた目から、目を逸らすことも無く。
一連の行為が終わるのを、ただただ待っていた。
にしても絵面は耐え難いッスね?
誤解されないように言っておくと、真面目なことだ。
目の前の上司は、幹部に、しかも同性に趣味でこんなことを好き好んで行わない(と信じている)。
なので、この儀式的な一連のサムシングには、真面目に意味がある。
ぶっちゃけそう割り切らないと、ここまで大人しくもしていないのだけれど。
黙って、待つ。
一度こちらを見つめた目から、目を逸らすことも無く。
一連の行為が終わるのを、ただただ待っていた。
にしても絵面は耐え難いッスね?
「?ユノ何か言ったのですか?」
「ッ!!いえ、何でも!そういえばアリスお嬢様!もう夜が明けてしまいましたが・・・」
「あら・・・私たちは白ですから、何時呼び出されても可笑しくないですわね・・・」
ユノの夜が明けたという言葉に悩みだすアリス。ユノはソッとカメラを握るとシャッターを切る
悩んでいるアリスお嬢様・・・美しい・・・と思いながらシャッターを切る。アリスは目をつむっているため気づかない
音は勿論消しているため、分からない。本当に厄介な人達である
「…」
床に散乱するゲーム機やそのソフト。
その隣には黒いフード付きのガウンを纏った少女が寝そべっている。
廊下のど真ん中で安らかな寝息をたてる彼女は、まるでかの眠り姫の如く…
いや、眠り姫にしては少々薄汚いが…永遠に目を覚まさないのではないかとさえ思わせる。
[ 2F 廊下 ‐ 丑円遊 ]
「それならよかったです。」
紳士的かつ穏やかな笑顔でそう返す。
…が、彼がこのチャンスを逃すはずはない。
手元にはしっかりと一眼レフカメラが握られていた。
そして、「ユノ、煩いですよ」と
まるで彼の心の声が聞こえているかのように言い放つ。
…え?なぜそんなことができたかって?
それはね、不本意ながら彼と自分の思考回路は似通っているようだから!
「 そんな目をしてくれるな、噛み付こうってんじゃないんだから 」
くつくつと喉の奥が嫌味な笑い声を上げる。指先を持ち上げると、自分の目の前へ。
透き通った紫色の瞳がゆっくりと閉じる。そして紅い唇は花弁のように朱く開いた。
「 〝 ユダ、それは何ゆえの裏切りか 〟 」
音もなく開く瞳。それは何処かに満月のような狂気を孕んだ、先程とは違う色だった。
細い瞳孔がハーベストの瞳を真正面から見つめ、月を飲み込むように丸く開いていく。
死人のように冷たい唇は持ち上げた白い指にくちづけを落とす。
「 〝 ユダ、お前の名は 〟 」
「 そんな目をしてくれるな、噛み付こうってんじゃないんだから 」
くつくつと喉の奥が嫌味な笑い声を上げる。指先を持ち上げると、自分の目の前へ。
透き通った紫色の瞳がゆっくりと閉じる。そして紅い唇は花弁のように朱く開いた。
「 〝 ユダ、それは何ゆえの裏切りか 〟 」
音もなく開く瞳。それは何処かに満月のような狂気を孕んだ、先程とは違う色だった。
細い瞳孔がハーベストの瞳を真正面から見つめ、月を飲み込むように丸く開いていく。
「 〝 ユダ、お前の名は 〟 」
「…」
床に散乱するゲーム機やそのソフト。
その隣には黒いフード付きのガウンを纏った少女が寝そべっている。
廊下のど真ん中で安らかな寝息をたてる彼女は、まるでかの眠り姫の如く…
いや、眠り姫にしては少々薄汚いが…永遠に目を覚まさないのではないかとさえ思わせる。
[ 2F 廊下 ‐ 丑円遊 ]
「それならよかったです。」
紳士的かつ穏やかな笑顔でそう返す。
…が、彼がこのチャンスを逃すはずはない。
手元にはしっかりと一眼レフカメラが握られていた。
そして、「ユノ、煩いですよ」と
まるで彼の心の声が聞こえているかのように言い放つ。
…え?なぜそんなことができたかって?
それはね、不本意ながら彼と自分の思考回路は似通っているようだから☆
包帯が巻き終えられるまでに、痛みを訴える悲鳴がもう一つ。
我らがクイーンの説得は非常に単純明快、そしてキングの答えもまた然り。
一瞬だけ重なった痛い痛いダブルコールは、キングがクイーンからメモをひったくった辺りで終わりを迎えた。
ちなみに己の傷も手当が終わり間近だ。
というかもう包帯をくるくる巻いてる段階なので、さっきの扱いを思い出さなければほぼ痛くない。
記憶とは直前のものでも、時に封じ込める必要がある。
「今度は何スかーキング」
言われた通りにしつつ。
またピンセットでこじ開けられたら、今度は反射的に手が出る勢いだ。
先に言っておくと、そうなっても僕の意思ではない。反射だ。いいね?
[ 2F 喫茶店 Mountain - エマ ]
事の始まりは先日の名指し任務のことだった気がする。
店長いなくて棚にならんでるクッキーをもしゃっとしていたときだ。
キングの部屋に呼び出されたあたりから思考放棄していたのだがサラリと昇格を告げられ真顔である。
いつもお前は真顔だろうって?私は感情表現豊かですよ。真顔でも。
部屋も変わるからなどとサラサラ告げられ正直理解が追いつかなかったがとりあえず頷いといた。
そしててんやわんや部屋移動からの
店経営というアルバイトからも昇格――!?
という夢のような夢であって欲しい展開なわけだが
美味しいお菓子を食べたら「ま、いっか」と環境に順応しようと決意した脳筋レディは此方にござい。
「まずはメニュー作成ですね」
ペンを取り、自分が作れるものを書く。
ミートパイ、マフィン……さらさらと筆を滑らせるもここで止まる。
飲み物…紅茶は葉っぱに、珈琲は豆に湯をかけるんだったっけ、いける気がする。
要するにコップに豆・葉っぱを入れて熱湯を注げばいい。
そう分かればメニューに追加である。
オープンの札を下げたまま忘れていることに気付かないまま、本来は客の席でメニューを完成させていた。
再び開いたエレベーター。乗り込むと四階のボタンを押した。自室に行くつもりだろう。
Kathleenは今いるだろうか?突然幹部の一人なんて連れ帰ったらひっくり返るだろうか。
「 ぼくの部屋に救急箱がありますからね 」
エレベーターを降りるとスタスタ歩いていく。その後ろをかこん、かこんと不思議な音で
木製の人形が付いていった。きちんと鏡はついてきているか、それを確認すらせずにだ。
「……おつかい、…そうですか…」
にへら、とぎこちなく笑ってみせる。駄目だ、笑うことすらできなくなってきている。眠たい。
もう朝になりますよ、寝ないんですか?と声を掛けようとしたが、それは彼女の声によって遮られる。
「……あ、…い、いいんですか?すみません……頑張れば歩けます、大丈夫です…」
ぎこちない笑みのままふらふらと歩き、再びエレベーターのボタンを押す。
ああ、よかった。これで自分で手当をしなくて済む。くあ、と大きなあくびをした。
「 おつかいです。おつかいから帰ってきましたら、貴方がここに居ましたので 」
そう言うと鏡の傷口を覗き込む。これはこれは、と少し怪訝な顔をしてみせた。
エプロンを二つ叩くと埃を払落とす。何か古い物でも持ち運んでいたのだろう。
「 しかたないので、手当してあげましょう。歩けますか? 」
「 痛い痛い痛い痛い痛い痛い手首が千切れる骨が軋むとはまさにこう言う事だ痛い 」
異能が使えなくなったらどうしてくれる。真逆この女手首を捻り切るつもりじゃあるまいな。
言葉とは裏腹に思考と言う物は酷く冷静だ。説得(肉体言語)を喰らうのはいつもの事だが。
「 分かったよ!行けばいいんだろ! 」
この組織もうダメです。
人差し指と中指がひったくる様に先程渡されたメモを奪い取る。なんて力なんだまったく。
「 ……ああ、そうだ。手を貸したまえ 」
くるくると丁寧に包帯を巻くと、ハーベストの方に向き直る。
報告を受けたからには、異能で確かめなければならない事がある。それもまたいつもの事。
言葉にならないとはこの事だ。
そして痛い、もう呻き声で耐えるしかない。
なんなら己のリアクションを、特に気にしてもいないのがこの2人だ。うん、いつも通りいつも通り。
いつも通いてぇ
足音にも気づかないままぼうっとして眠気と戦っていたが、甲高い声に驚いてばっと顔を上げた。
声の主とその隣にいる人形をしばらく見つめ、はっとした様子で口を開く。
「………あ、…こんばんは。どうしたんですか……こんな、時間に………」
無理やりいつもの笑顔を作ると、今にも倒れそうな様子で壁から離れた。
自分がいつもふらついているといのは自覚済みだがここまでは酷くない。きっと眠いせいだ。
傷口は大分塞がってきた気がする。気がするだけで実際はわからない。
そういえば、エレベーターは…とそちらを向いたが、閉まっている扉に深い溜息をついた。
【 スペード13号室 - クイーン 】
あの彼女が珍しく、大人しく突き返されたものを受け取った。
ついでとばかりに掴んだ相手の左手首をぎりぎりと捻り上げる。
「それなら仕方ない」
納得のいく答えを出すまで離さないつもりか。
幹部が手当を受けているのも意に介さずに、心ゆくまで暴力に訴える暴挙に出た。
いつも通りと言えばそうなのだが。
ちなみに彼女は読み書きが出来ないので、文字通りの肉体言語である。
「 嫌だね 」
医療用ピンセットで軽く傷口を開いてみる。毒の類いはない。爆発が起こったようだが……
破片やら砂が混じったりもしていない。いやぁ大腿部の血液は新鮮な色をしているなア。
悪気?無いよ勿論
親指の腹に付着した血液を赤い舌が舐めとる。薄いな、なんて他人の気も知らず考えた。
ひとこと軽々しく答えるも、一応はとクイーンの差し出したメモを見る。なんだこれは。
「 ……トマトとケチャップ、卵にマスタードに…なんで僕が行かなきゃならないんだい 」
正確にメモの絵を読み上げていくが、果たして他の人間にその絵が読み取れただろうか。
見る者に寄っては怪文書かなにかに見えるであろうそれを突き返すように彼女へ差し出す。
[ 一階エレベーター前 - BerryBell ]
かこん、かつん、かこん。…こつ
小さな足音についで、不自然な木製の物が歩くような足音。不自然な音はその廊下に響く。
「おやおや、みすごしがたい濡れねずみさんです」
生意気な甲高い声。そこに居たのは小さな少女と、鏡と同じくらいの背丈をした木製人形。
この組織内では特に珍しい光景でもないせいか、静かに相手の方を見ていた。
「そうですnあででででででででででで。あ、どーもクイーン。」
最後まで言わせてくれない。いや、実際止めたわけではないけれど。
事後報告で遠慮なく染み込む消毒液に、口から表情の代わりの訴えが漏れる。
誰だ素直に傷口を見せたのは。そうです僕です畜生ッッッ
感謝してない訳ではないが、如何せんちょっと返事ができない。出来るか、出来ないよ馬鹿!
開いた扉と気配、そして聞こえてきた声にいつもどおりの挨拶。
それこのタイミングで言う?とか、思ってなんかいない。本当だ、心から。
何故ならこの光景、というかこういった空気のやり取り。言うほど珍しくもないのだ。
それにしてもめっちゃしみる。
【 スペード13号室 - クイーン 】
ノックもなしに唐突に扉が開いた。
その奥、廊下に立っているのは金髪の女。
鍵がかかっていないことをいいことに、押し入るつもりでドアノブを掴んだのだろう。
両肩の露出した恰好は、人によっては目に毒だし寒々しいものだ。
「買い物だ」
ずかずかと上がり込むと片手に握られた紙片を突きつける。
無論、この部屋を訪ねてきたからには用事を言いつける相手はキングである。
食堂の備品が切れたからと言って使いっ走りにしていいものではないが。
戦闘に出ず、暇をしているメンバーの一人という失礼な憶測に基づいて彼女はここに来たのだ。
片手の、小さく切り取られたメモ用紙には幾つかの図形らしきものが見て取れた。
備え付けのシャワーで雨水などの汚れを落とし、着替える。
同じ服を何着も持っているが、ストックの数が減ったため注文しなくては。
そう思いながら下を着替え、ワイシャツを着ようと羽織りかけたところで手を止めた。
姿見に映るのは赤黒い脇腹。
焼いたはずだが、シャワーを浴びたことにより血が滲んでいた。
太腿は幸い深くなかったため包帯を巻いただけで済んだが、これはどうしようか。
新しい服までも汚したくはないため、古着で買った安物を着ることにしようと思い直した。
上下がチグハグになってはあれなのでつい先程履いた新品も綺麗に畳んでしまう。
取り敢えず、と巻いた包帯から血が滲む感覚に眉を潜めながらタオルで髪から湿気を取る。
「面倒だね、止血のためにまた焼くのも何だし」
痛みはさして気にしていないのか、珍しく荒っぽい動作で淡藤色の前髪をかき上げる。
ソファに腰をかけ、濡れたままの髪を放置して背もたれに体重を預けて目を閉じる。
このまま休んでいれば傷が塞がるだろう、と。
スプリングに身を委ねてリラックスした。
「えぇ大丈夫ですわ。お気使い感謝します」
ニコッとキラキラしたオーラが舞いそうな笑みを浮かべ、ユノは鼻血が出そうなのを必死に抑える
ユノは『何故ですアリス様!何故その笑みを僕に見せてくれないのですか!そんな男に見せたらアリス様が穢れてしまうぅぅ!』などを馬鹿な事を考えていた。
「アリスさん、寒くはありませんか?この時間は冷えますから。」
店へと向かう最中、ふとそう思い問う。
何なら僕が温めて上げましょうかと言おうと思ったが
どうせユノと喧嘩になるのでやめた。
血の匂い。それに敏いのは獄卒故か、それとも副作用が故か。喉渇いたな。
軽い医術の心得はあるが、今回はその程度で済みそうだなんて考えていた。
「 ……随分、派手にやられた奴も居たようだけど。…ああ、少し染みるよ 」
くすくすと何かを可笑しそうに笑いながらガーゼを取り出す。
少し染みるなんて言う言葉は勿論事後報告で、傷口に消毒液を掛けていった。
幾度かの爆発を受けまだ完全に視界が良好になっていない中、ふらふらになりながらもやっとの思いで此処まで辿り着いた。
もう限界、とでも言うかのように一気に脱力し壁に背中を預けその場へへなへなと座り込む。
ガンガンと頭は痛むし耳鳴りも止まる気配がない。
此の能力が自分にも効果があればいいのに、と恨めしそうに自分の手を見つめた。
「 …なんの役にも立たない癖に 」
こんなものいらない、と顔を歪めたまま言葉を吐き捨てた。
どうせなら自分も戦闘力が上がる能力がよかったと心底思う。
そんな事考えても仕方のない事だと頭ではわかっていてもどうしてもこう思ってしまう。
やり場のない気持ちをどうにかする事も出来ず膝を抱え込んで小さく座り込んだ。
[ 娯楽室 ー Liebe ]
効果音が部屋に鳴り響く。
娯楽室には1人寂しくダーツをする男の姿が。
こんな時間に、と思うかもしれないが昼夜逆転している彼にとっては一般常識等関係ない。
見事ダーツボードのど真ん中に命中させれば指に幾つも嵌められている骸骨型の指輪をキラリと輝かせ、得意げに小さくガッツポーズをしてみせた。
「 まあまあかなあ 」
口ではそう言ったもののど真ん中に命中したのが相当嬉しかったらしく自然と顔が緩んだ。
軍用AI。はて、ぽかん。なるほど。
違法となった科学の産物、暫定的な人間の技術力の頂点のようなもの。
詳細は置いておいて、まあ要するに、昼間には使えそうにない。罰せられるとかたまったもんじゃない。
そういう訳で、驚きよりも耳から素通りするような感覚を感じた。
しかし思い出す限りでは、それで説明のつく局面もいくつかあった。
「あ、はーいッス」
別に隠しきれたとは思っていなかった。
大体そういうのは、ほぼ無駄みたいなものだ。
では何故応急処置をしたのかというと、単純にみっともないからだ。
怪我をした箇所を見せながら、いつもどおりの声色で返事した。
「あら、丹丹ちゃんじゃない!起きたのね!ねぇねぇお話ししない?」
食堂に入ると居たのは一人の少女。うっすら透けたシャツに裸足。寒くないのかしら・・・と思いながら近づく
細い腕によく、そんなに持てるのね。と思いながらニコニコと笑顔を作りながら丹丹に近づく。
何時も寝ている丹丹と喋る時は早々ない。お喋りの相手になって貰おうと思い近づいた
紅茶とクッキーを持ってくると、丹丹の近くの机に置き椅子を引いて、座った
とてつもない量の料理が乗った食器を細い腕で支え歩く。
本人からしたらいつも通りの格好だがうっすら透けたシャツや
ぺたぺたと歩く裸足は明らかに場違いである。
「 .....我开动了 」
料理の乗った皿が細い丹丹の前に並び手を合わせると静かな声で呟いた。
中国語でいただきますという意味だろう。
「本も飽きたし、食堂で紅茶でも飲もうかしらね」
ボソッと呟きながら歩く少女?と思われる女。金色のサンダルを履きながら歩く美女。
雪の紛れれば雪と奪われ、月光を浴びれば溶けてしまう程の美貌を持つ彼女は儚いと言えるだろう
しかし実際は、喜怒哀楽も激しく『儚い』という言葉を一瞬で消し去るほどの活発さを見せる
「あー誰かと喋りたい!一人も良いけれど、一人は一人で退屈なんだよねー」
そうブツブツ言いながら、食堂に行きつき食堂を塞いでいる木製の扉をギィッと音をたて開ける
「やあ、ご苦労様だ」
目眩を強引に押し殺し、足を組み直すと相手を見た。ニィ、と紫色が意地悪く笑う。
言いたい事は眼とか眼とか後眼とか色々あるけれど、まずは報告を受けるのが先だ。
「 ……軍用AI。あれは一種の違法人工知能さ。にしては、随分未熟だった様だがね 」
今や法で厳しく裁かれる存在。安易にそれを披露したのにはなにか理由があるのか。
此方への牽制か、或いはただの馬鹿なのか。いやいや、流石に。
「 ……あの子供、何処かで見た事がある様な…仕草と言い口調と言い……
そんな事より君、怪我をしたね 」
見せたまえ、と相変わらず傲岸な言葉は続ける。手当でもするつもりだろうか。
彼の歩いたとおりに血の雫が地面にぽたりと落ちて続いていた。
この程度の傷で倒れるほど弱い体ではないのだ。銃創など直ぐに治る。
…が、彼は元から血が足りていない。
ふらついたままエレベーターのボタンを押すと、そのまま壁にもたれかかった。
「…普通この程度でふらつくかよ……………」
拠点に戻ってきたことで緊張が一気に解け、眠気が襲ってきたのもあるのだろう、
ぼうっとしてきた頭で少しの苛立ちを覚えながら舌打ちをする。
それにしても、手当は誰に頼もうか。
弾を受けたのが足なら自分でそれなりの手当は出来たが今回は腕だ。
頑張ればまあできるだろうが…面倒だ。ねむい。誰かにやってもらいたい。
そんな事を考えながらぼうっとしていると、いつの間にか到着していたエレベーターの扉が閉まった。
それにすら気づいていない。
裏返した手の甲で、扉を叩く。
程なくして声を掛けると、ノブを捻って開けた。
「失礼します」
任務中借りた通信機を外し、片手に持って入室する。
帰還後、目に見えたところに手当を軽く施したので、まあそんなに時間は経っていない。
一応軽くも傷を負ってるが、五体満足なら問題は無いだろう。
少なくとも、キングの前では。
「一部始終は御覧になったと思うッスけど、一応報告します」
かくかくしかじか。いやちゃんと説明してますよ?
単に纏めるのが面倒臭いだけであって、表記する上での問題だ。細かい事気にしてると禿げるよ?
という訳で、事の報告はちゃんと出来ているのだ。
見えないだけで。
「ーーー…以上ッス。」
見たまま、感じたまま。
こういうのは、もっと得意そうな幹部もいるであろう。
まあしかし、口が達者でも、あまり意味は無い。
真実を滑らかに述べる以外は、何も。
「・・・・・・・・・・・・」
娯楽室に来たのは良いが、ビリヤードなどにも飽きたのかついに持参した本を読みだす
ギリシャ出身のアンドロメダ。月と雪が交じり合って生まれたと称される程の美貌を持つ美女
そんな儚い美貌を持つ癖に、その儚げな容姿を裏切るくらい喜怒哀楽がはっきりしている
出来ればこの先そう長くはないであろう人生で自分の眼球を潰される映像を見る
なんて体験はしてみたくなかったなあ等と顳かみを抑えながら考えていた。
通信機を壊されなかっただけ何処かのクイーンよりは良心が残っていると言える。
「 ……まあ、…言うのは後でも良いかな 」
ひとつ、悩みの種がある。何も仲間が戦っている間、呑気に紫煙を燻らせていた訳ではない。
使いすぎた能力の代償に軽い目眩を覚えながら、彼らの帰りを申し訳程度には待っていた。