【過去編】櫻樹弥彦と霧崎晴哉
- 2017/04/18 19:29:17
投稿者:五月雨♪*。
※ここはただいま編集中です。
櫻樹弥彦と霧崎晴哉(時々、本城美幸)
まあ、おそらく霧崎晴哉が黛舞花と出会うまえでしょう。
櫻樹弥彦も牙音という助手は出来ていないですね。
真面目な展開を願い、本編とは違い冬にしましょうか?
ただただ、偶然、どちらかが狙ったわけでもなく。
街で出会う、二人の硲者。
霧崎晴哉が偏食だった理由や、
櫻樹弥彦が変人な理由が解るかも知れませんね?
「別に君が望むような面白い話であるとは限らないけど、それでもいいのかい?」
くだらぬ、ただの人間が妖怪に魅入られただけ。これと言った目的があったわけではなく、何かの罰として呪いを受けたわけでもない。中身の無い物語だと言うのに、それでもこの男は自分の話を望むのだろうか?
首を傾げる、立ったままの弥彦を見上げた。
だが、だからどうした。
常識に捕えられては人類は発達出来ない。新しく進化することはできないではないか。
「可笑しいのは承知済みさ。ささ、君の話を聞かせてくれ」
相手が無理矢理作ったような笑顔に対して弥彦は不気味で心底楽しそうに口角を上げて笑う。貼り付けられたように感情が殺されたその笑顔は彼の本当の心情を隠している用にも思えた。
それでも相手に心情を察されたくないのか無理矢理口角を上げ歪な笑顔を見せる。
「君は何処か可笑しいよ」
なぜ、人間を辞め妖になろうとしたのか。
なぜ、それが自分の身体と妖の身体を入れ替えるという発想に至ったのか。
考える。考えるがすぐに無駄だと判断する。
狂った人間の考えなんて自分には理解できないのだ。
「そうだよ、本当は妖に転生出来ないか試したかったんだけどね、やっぱり人間で産まれたからには妖にはなれないようだ。」
「結局こんな中途半端な生き物に変わり果てたというわけさ」
まあ、別にこの生活に不満があるわけでは無いし。むしろ、妖とも人間とも一緒に暮らせる力を持てたことはとても運が良かったと思っている。硲者になれば、妖からも人間からも情報を得られえる上に材料も2倍手に入れる事が出来るのだから。
「つまり、君は望んで硲者に?」
カサついた喉からでた言葉はそれが精一杯だった。何がしたかったのだろうか、この男は。硲者になって何の得があるのか、生きづらいだけじゃないのか?何故自分の腕を切り落とす等と狂ったような事をしたのか。思考回路は混乱状態で物事を判断する力を無くしている。
馬鹿にしたような晴哉の笑顔にニコリと感情を殺した笑顔で笑いかけ、言う。
「僕の話なんて聞いても面白くないと思うけどなぁ」
晴哉から少し離れると右腕の包帯を雑な動作で解く。下に見えるのは墨で塗りつぶしたように黒く、歪な形をした鬼の腕が取り付けられていた。
「恐らく何らかの戦いで負けたんだろうね!ちょうど息絶えた鬼が旅の途中に落ちていてね!興味半分でそれを自分に移植してみたんだ。」
「不思議だよね、僕は人間でこれは鬼。本来ならば色々と異常が起きて死ぬことだって有り得た状況でこの腕は私の腕として機能し始めた」
「これを移植してからかな?妖の存在を強く感じる事ができるようになったし、山に入っても妖に襲われる事が無くなった」
「そう、僕は鬼の腕を自分の腕の代わりに取り付けることで硲者になったんだ」
これで終わりだよ?
面白くなんて無かっただろう?
と、不気味な笑顔で笑う。
こいつの目的はなんだ?何がしたい、何を考えている?予測不可能な行動に晴哉は混乱半分苛立ち半分で弥彦を睨む。
「そう言うのってさ、自分から言うのが礼儀じゃないの?さっき君がしたようにさ」
ふん、と言いたげに笑いながら言う。
人間に戻れる?そんな事出来るはずがない、どれだけ調べたと思っている。どれだけこの妖力が要らないと思っている?有り得ない事をあたかも可能だと言うような弥彦に苛立ちは募るばかりであった。
不機嫌な様子で言うも弥彦にとってはどうでも良い事。にっこりと笑いながら晴哉に近づく。
例え拒絶されようと関係ない。もっと、よく観察をしなければ。
「じゃあさ、なんで硲者になったか教えてくれない?私は妖や硲者について研究しているんだ。もしかすると人間に戻れるかもしれないよ?」
ただの戯言だった。
人間に戻る方法など知らない。ましてや晴哉が硲者になった経緯を知らないのに人間に戻れるのかなどわかる筈もない。
それでも弥彦はニヤリ、と笑い晴哉に顔を近づける。
演技かかったような口調も、妙な笑顔も、本能が告げている。
こいつとは関わるなと。
笑顔を崩し、不機嫌な様子をあからさまに出し始める。
「そうだね、確かに僕の両親は普通の人間だ。それなのに硲者と呼ばれる存在になった。出来るのであれば人間のままで居たかった!」
愛とか、どうでもいい。
硲者という存在がどれだけ生きづらいのか、知って欲しい。
これ以上硲者を増やさないでほしい。それが僕の思いだった。
なのに、こいつはなんだ?ヘラヘラと笑って。気色が悪い。
何となく、何となくだが硲者になった経緯に辛い過去でもあるのだろうか?それならば尚更気になる。
自分とは違う方法で、違う感情を持った硲者にしか聞けないことは沢山ある。
ニヤリと口角が上がるのを隠しもせずに笑いかける。
「繋がれるさ、愛があるのだから。それに硲者は妖と人間の間に産まれただけではなく種類も増えつつあるんだよ?君もそうだろう?」
睨んでくる晴哉に怯みもせずに伝える。
その表情は晴哉とは違いとても楽しそうに、面白い物を見つけたような笑顔だった。
よく分からない事を言う男だと思った。
首を傾げ、演技をするように高らかと声を上げる弥彦に不審な目を向ける。
繋ぐとはなんだ、元々妖と人は交わってはいけない、それは禁忌だと言われてきた。
その二つの種族を繋ぐとは?
「妖と人は繋がれない。だからこそ硲者は禁忌の間に出来た、存在そのものが禁忌の塊なんじゃないの?」
少なくとも自分はそう思ってきた。
そう思ってきたからこそ、自分が硲者という存在になったのだと誰にも言う事はせずに今まで生きてきたというのに。
ギリ、と奥歯を噛み締め弥彦を睨むように告げる。
何となく予想はしていた言葉。
だが、こうもあっさりと言うものなのかと、考えていた。
それから、こちらの番とでも言うように質問が問いかけられる。
硲者とは何か…
「硲者とは、陰陽二つの世界を行き来出来る唯一の存在。人間でもなく妖怪でも無い新種の一族。と、言うのが書物での情報だけどね」
演技のかかったような台詞を吐き、にこりと笑う。
「硲者とは、妖力・霊力共に使うことが出来、妖と人を繋ぐ生き物だと僕は思っているよ」
これは、僕の考え!と晴哉の反応を伺いながら言う。
一瞬真顔になり、遅すぎる作り笑いで対応。
「死んだよ、僕が幼い頃ね」
別に隠している理由でもないし、聞かれたのなら答えようと思ったのか感情を込めずに言う。
いい思い出が無いという訳でもなく、ただ単に覚えていない方が強いためそんなに悲しいという感情が湧いてこないのだ。
書類を乱雑に退けてそこに腰掛ける。
「じゃあ、僕からの質問なんだけど。硲者ってなんなの?」
首を傾げ、弥彦に向かい笑顔で尋ねる。
自分は硲者だと言われてきたが、それが一体何なのか、どうする事が正しいのか、人間に戻ることは可能なのか、晴哉は硲者という生き物についての知識は皆無であった。
この街には硲者という生き物は噂程度でしか流れておらず、情報を集めることが出来ないでいたのだ。
人の気配は全くない。ここで1人なのだろうか?
そう思い、目に前にいる白髪の不思議な雰囲気を持った青年を見る。
髪が白いせいか病弱そうにも見える様子に少し医者として心配になる。
年齢は幾つなんだろうか……
自分よりは若いと見れる彼の明らかに作り笑いを見ながら考える。
「まあ、そうだね。聞きたいことはたくさんあるんだが……」
ふむ、と右手を口元に持っていき考えるように改めて室内を観察する。
書類は依頼と書かれていたり、殴り書きのようなものまで様々だ。
「君、親御さんは?」
きっと、とても失礼な質問だろうと思いながらも聞かずには居られなかった質問を誤魔化したり、ぼやかしたりせず、単刀直入に言う。
それが晴哉の弥彦に対する印象だった。自分で言えた事じゃないが、気味の悪い笑顔と掴み所のなく突発的な反応に晴哉がニコリと上げた口角を引き攣らせる程だった。
これ以上騒がれるのは避けたいと思った晴哉渋々ながらも弥彦を自分の事務所に招いた。
「それで?何か聞きたい事でもあるんじゃないの?」
ニコっと、営業用の笑顔を浮かべながら弥彦に言う。
事務所の中は解決していない書類で散らかっていて、薄暗い。あるのは辛うじて弥彦と晴哉が座る場所が確保されている程度の隙間だ。
この有様は元々、書類が届くだけや式神が記してきた紙が届くだけなので人はあまり入って来ず客に気を使う必要が無かったからか。
自分とは違い人工的に硲者になった訳では無い者に会えた事や、自分よりも遥かに上回る妖力を感じ好奇心が高まった。
もうじき、その幾つもある何故に対する答えが返ってくる喜びに口角が上がるのだ。
早く行こうとばかりに即座に店の外へと出た弥彦はまだ店の中にいる晴哉に笑いかける。
「さあさあ!早く行こうじゃないか!」
街にはポツポツと人が出てきている中、そんな風に演技かかったような口調で高らかと言う。
恥ずかしさの欠片もないその堂々たる姿に街ゆく人たちは振り返ったり、変な物を見るような視線を送ったりしていた。
これが後に「櫻樹病院の変人」の異名が付くことはまだ、彼は知らない。
面倒臭い事になったと思った。
無理だと言っても引きそうにない相手に出来るだけ感情を察されないように、ニコリと笑う。
だけども、これは硲者について知る良い機会かも知れない。
こちらは硲者についてほとんど何も分かっていない状態だ。
というよりも、街で硲者という存在自体が噂話程度でしか知られたいなかったのだ。
この男ならば、何か知っているかも知れない。
「別にいいけど…」
事務所に来るという事は何か聞きたいことでもあるのだろ。
別にそれはそれで構わないし、こちらも色々と聞きたいことができた。
甘味処のお姉さんに代金を払い立ち上がる。
自分も言えたことではないが無理矢理作ったような笑顔はどことなく違和感を感じる。
この、積極的にグイグイ来る感じも僕は苦手だ。そう思った。
つまり、硲者である事を認めているという事だろう。
ニヤッと笑い、残りの団子を茶と一緒に流し込んだ。
甘い物はやはり苦手だな、とあまり気分が良いとは言えない表情で空になった皿を見つめた。
「晴哉くんだね、少し話がしたいんだ。君さえよければ君の祓い屋を伺っても?」
さっさと、お会計を済ませたあと、未だに座っている晴哉に近ずきそう尋ねる。
思い立ったら直ぐに行動。
生きているうちにやらなければいけない事はたくさんあるのだ、と1分1秒たりとも無駄には出来ない。
相手が硲者だと分かったのならどんな経緯で硲者になったのか、どんな種類なのか、今はそうなっているのか、等など、聞きたいことは山ほどある。
出来る限り相手に不快感を与えないように、気をつけながら口角をあげる。
どうしても、笑うとニコっというよりニヤっとしてしまうのだ。
そちら側が先に自己紹介をしたのだ。
それは、こちら側が答えないといけない雰囲気を作り出す為の物だろう。
晴哉にとってはどうでもいい事で普段であれば絶対に答えることは無かっただろう。
だが硲者の仲間が居ると分れば話は少し違ってくる。
相手が自分は硲者だと言ったという事はこちら側が硲者だと知っていての台詞だろう。
まだ、硲者という種族の街の中では認知度が低いうえに、相手が妖や陰陽師であれば敵視される事だってよくある事だ。
相手が硲者だと分かっているからこそ出来る行動に相手は自分よりも硲者について詳しいのではないかと考えた。
「僕は霧崎晴哉。この街の端で祓い屋をやっている。あとは、まあ、君の想像におまかせするよ」
団子を食いながら眉間に皺を寄せる様子を見て、甘い物が苦手ならわざわざここに来なくてもいいだろう…と思いつつ櫻樹弥彦と名乗った男を見る。
そう簡単に自分の事を教えてくれないのか。防御が硬いな、等と思う。
作られた笑い方といい、質問に質問で返すやり取りといい、自分の情報を出来る限り他人に教えたくないとでも言うのか、他人とは関わりたくないそんな印象を弥彦は持った。
駄目元でもう一度聞いてみようか。断られたら断られたでその時は仕方ないだろう。諦めよう。
そんな軽い気持ちで質問を繰り返す。
出来れば過去の方まで掘り下げたい。
どうして硲者になったのか問いただしたい。
出来るのであればそうしたい、そういう気持ちでいっぱいだった。
「まあ、そうだね。教えて欲しいかな?」
「君が良かったら、でいいけどね?」
そう言いながら、甘く無いもの、として届いた三色団子を食いながら相手の反応を待つ。
仄かな甘味に少々眉を潜めてはお茶で無理矢理胃に流し込むという動作付きで。
それを聞いて先程から気になっていた違和感の理由が解決した。
妙に強く感じた力は霊力や妖力が強い訳では無く、同族だったから…という事か。
どうりで感知する力が殆ど無い自分にも察する事が出来たわけだ。
けれど、こいつは何を考えている?
硲者だとばらして何の得がある?
いや、きっと明確な理由はないのだろう。
そんな風に自己解釈をし、温くなった茶を流し込んだ。
「それって、僕に自己紹介を求めているの?」
相手に向かって笑いかけながら問う。
察しのいい者であればそれが作り笑いだと分かるような少し違和感の残る笑顔だ。
そちらが勝手に自己紹介をしただけなら、こちらが自己紹介をする義務はない。
ただ、求めるのであれば簡単にしようとは思っている。
確かに言われてみればそうだ、初対面の奴に易々と自分の情報を与えるだろうか。
否、霊力・妖力を持ったものは無闇に自分の情報は外には漏らさない。
自分が感知に長けていない者ならなおさらだ。
万が一、自分と敵対する者であれば争いを避ける事が難しくなるからだ。
では、どうするべきか。
「そうかい、だったら僕から自己紹介をするとしよう。私は櫻樹弥彦。硲者で医者になる男だ。」
簡単な話、自分の情報を先に差し出せば良いのだ。
店員が聞いていないような隙を狙って発言する。
弥彦は察知能力が高い。
何時からかは明確に分からないが、気がつけば妖と人間、人間の中でも一般人と陰陽師を見分けることまで可能になっていた。
目の前の男はそれの何処にも属さない。
つまりは、自分と同じ硲者だと確信している状態での自己紹介だった。
こいつは妖か…それとも陰陽師か……。
晴哉に察知能力はほぼ皆無だ、普段仕事の妖討伐は察知能力を持った式神を使い探させている。
だが、この場に呼ぶわけにはいかないだろう。
もし相手が好戦的な者であればこの場で争いが起きても不思議ではない。
相手の様子を伺うように言葉を身長に選ぶ。
「だったら何なの?」
霊力を持っているとは言っていないし、持っていないとも言っていない。
曖昧な返事をし、相手の反応を待つ。
あぁ、せっかくの汁粉が不味くなる……。
そう思いながら、残りの餡子を胃の中へ無理矢理流し込んだ。
しかし、気分は紛れない。
力がある陰陽師や妖ならば、何となく察する事が出来るが、それが妖なのか陰陽師なのか区別することは出来ない程に晴哉の察知能力は低い。
だが、彼はどうだろう。
何故だか、妖や陰陽師とは違う何かを感じる。
決して力が強いわけではないのだがそんな気がして止まないのだ。
相手と目が合うと気分は悪そうに見つめ返されると同時に「なに?」と来た。
ここはなんと答えるべきか…
少し考えて辞めた、どう答えても相手の反応は対して変わらないだろう、と思ったからである。
「いや、気分を害してしまったのなら申し訳ない。」
「ただ、不思議な力を持っている様な気がしましたので」
ニコリ、となるべく邪気が入らない様に笑う。
無邪気とは言い難い笑顔になるのは弥彦の悪い癖だった。
特に、目の前の彼の様に珍しい力を持っている者や、訳ありそうな者には興味本位で突っかかって行ってしまう癖があるのだった。
しかし、包帯や傷のせいでいつも通り歪な笑顔になる。
出来るだけ、本心を隠し答える。
人間でも、妖でも、陰陽師でもない気配を感じ、もしかすると……という気持ちがあったのだ。
それなら別の所に行けばいいのに…
晴哉は甘く煮詰められた餡を啜る。
こんな食事ばかりをしているせいか、体調が優れない日が続くが、何も食べない事に比べればまだマシなほうだろう。
昼からはまた、依頼書を片付け無いとな……
父親が営んでいたという祓い屋を継ぎ、妖の討伐を主にやっているがこの頃は量が多すぎるような気がする。
少し迷惑だから、等という理由で討伐依頼をしてくる人間いるが、その中で晴哉はある一定の数以上人を殺めた妖しか退治しないようにしている。
殺しすぎれば陰陽の調和が崩れる。
そうなれば人間と妖の戦が始まるだろう。
そこでふと、視線を感じる。
先程の包帯男がこちらを見ていた。
晴哉「……なに?」
薄気味悪い男だと思った。
それに、男に見つめられて喜ぶ趣味はない。
鬱陶しいだけだ。
不機嫌な声で遠慮の欠片もなく、男にそう問いかける。
どうやらもう、店はやっているようだ。
店員の1人が出てくるとニコ、と邪気のない笑顔を浮かべる。
弥彦「なるべく甘くないものを」
甘味処に来て甘くないものを頼むとはいかほどか…
店員は少し動揺するような仕草をするがすぐに笑顔で対応し、厨房の方に品物を伝えていた。
先客と、一瞬目が合う。
相手は微妙そうな表情をしたが、何となく、嗚呼、この人も普通の人間じゃないな。
そう思うところがあった。
近すぎず、遠すぎずな位置に座れば先に出された茶を啜る。
こんな包帯だらけの男が入ってきても笑顔を崩さず対応とは、ここの娘は随分と肝が座っているなぁ、と、今更自分が包帯まみれなことに気がついた。
こんな男が入ってきて先客はどのような反応をしているにだろうと何気なく男の方に視線を向ける。
いつも通りの甘味処で汁粉を貪る。
大将とか呼ばれてた人からは若いのにそんなものばかり食べると体に良くない。成長しなくなる。
などと、言われたが余計なお世話だ。
晴哉「僕、甘味しか喉に通らないんだよねぇ」
馬鹿をいえ。
等と言われ笑われるが、事実だ。笑い事などではない。
クソババアのせいで普通の食事は全て身体が拒否するのだ。
特にこれといって考えることも無く、モグモグと喉に詰まりそうな餅を噛んでいた。
その時、普段はこの時間帯には来ないはずの人の声が聞こえる。
そっと、横目で見るが見たことがない顔の男がいた。
別の街から来たのか、僕が知らなかっただけなのか…。
ただ、何となく、とても嫌な予感がしたのは事実だった。
包帯だらけの異常な容姿は妖かと誤解される様な物だが、今はまだ日が昇りきっておらず、そんな時間帯に街を歩く住人など、何処にも居なかった。
サクサクサク、という櫻樹の足音だけが早朝の街に響いていた。
櫻樹に目的などない。
だた、何処か暇を潰せる所を探しているだけだった。
ふと、既に暖簾がかかり営業している事を知らせている店があった。
【甘味処】
甘味はあまり好んで食さ無いが暇を潰すにはちょうど良いだろう。
そう思って櫻樹はガラガラ、と店の戸を開ける。
弥彦「やっているかい?」
人影があったが一応、と言うことで形だけの挨拶をする
寒い、それが起きてすぐの感想だった。
両親は幼い時に死んだ。
祖父母から、育てられたがそこにも居づらくなり、かつて父親がやっていたと言う払い屋を継ぐ様にこの店で一人暮らしを始めた。
まともな食事をする訳がなく、いつも甘味処で甘味を貪り食っている。
晴哉「お腹空いたな」
甘味処に行こう。
着替えを済ませ、店の看板を外出中に変え、まだ人1人と居ない街を歩き出す。
そんな、寒さの中、人気のない山の入口で立ち尽くしている男がいた。
右手はこれでもか、と言うほどに包帯を巻かれており、その他にも首や眼球、チラリと見える胸元にも血の滲んでいる包帯が見える。
不自然にボコボコと歪んでいるのは包帯のせいか ……
弥彦「まだ、足りないよね…」
耳が痛くなる程の、静寂の中、男の声が響いた。
いったい何が足りないというのだろうか。
目の前には小さな白い建物。
これが後の【櫻樹病院】になるのであった。