此岸 - 1
- 2017/03/14 22:29:22
「 Black Maria 」
大きな看板にそう書かれているレンガ造りの少し古びたアパート。
六階建て。壁に貼られたチラシには、
赤いクレヨンで元ある字を塗りつぶし入居者募集と書かれていた。
1階 -
時計店 Bailey Mirror
書店 白鷺堂
2階 -
喫茶店 Rencontre
輸入品店 Modern Hideout
3階 - クラブ
1号室 [ クルト ]
2号室 [ 丑円遊 ]
3号室 [ アリス・オルコット / ユノ・カリスト ]
4号室 [ R=K=Candeloro / Lilow=Chan ]
4階 - ハート
5号室 [ 灰梁 六 ]
6号室 [ Kathleen / BerryBell ]
7号室 [ 霧島弥子 ]
8号室 [ エマ ]
5階 - ダイヤ
9号室 [ Harvest ]
10号室 [ 衣更月薫 ]
11号室 [ Elgar / 市ヶ谷鏡 ]
6階 - スペード
( エレベーターの6階はカードキーを通さないと押す事が出来ない )
12号室 [ クイーン ]
13号室 [ キング ]
屋上 - 集会所
( 屋上はドーム型の屋根になっており、
傍から見れば温室のようにも見える。
其処には全員分の椅子と机があり、会議や暇潰し等に使われる )
* 此方のトピックは基本的に日常ロール専用になります
* ロルは2行~1コメントに収まるまで
* ☆//^^;www等の記号は使用不可
* 確定ロル禁止です。これ一番大切。やめような!!!!!!!!!!!!!!!!
* 幹部キャラ以外は基本的に6階への立ち入りが出来ません
* 100コメントを取った方が次のトピを立てる様にお願いします
「倒れても知りませんからねー?」
眉を下げて心配そうに笑う。
まあ、貧血でふらふらしている自分には言われたくないだろうが。
「あれ、ここで降りるんですね。はあい、…おやすみなさい」
ひらひらと手を振る。彼が視界から消えると、大きくため息をついた。
本当に疲れた。いや、疲れるようなことはしていないのだが、なんだか体が重い。
ルームメイトは黒の駒だったはずだからきっといないだろう。
部屋に入るなりベッドに沈み込み、鍵をかけるのも忘れたまま眠りについた。
[ 喫茶店 - 琳霞 ]
カウンターに頬杖をつくと彼の指さした羽に目をやる。
退屈そうに、…といっても彼女はいつも退屈そうなのだが、その様子で口を開く。
「なら、いいのだけれど」
静かな店内に響く雨音が心地よく耳を撫でる。
この匂いの原因はもう気にしないことにした。
「それじゃあコーヒーを一杯と、サンドイッチでも頂こうかしら」
話し相手は居なくなった。やれやれ、と小さく呟く。雨足は弱まったが、騒がしさは相変わらずだ。
部屋が、音がではない。夜が騒がしいのだ。等と、詩的な事を考えてしまうのは職業病だろうか。
「 ……僕はどうか、退屈なままだと良いんだけど 」
「あらそれは良い案ですわね。でも何処に買いに行きましょうか・・・」
「・・・ならすぐ下の階にある輸入店で宜しいのでは?あそこは品揃いが良いのでお菓子ぐらいあります」
遊からのさわやかな笑みに少し腹を立てながら、アリスからの問いに答える
下の階にある輸入品店。あそこは色んな輸入した物がある。珍しい物から日常品まである
だからあそこにはよく買いに行くのだ。主にアリス様が使うため買いに行くのだが
「でも開いているかしら」
「大丈夫ですよアリス様。僕が知る限りこの時間帯は大抵開いてます」
「 何故それが出来るのを早く言わないんです 」
― 常に、一言も二言も余計なやつである。
含みのある視線を生意気ないちご色の瞳が見つめ返す。早くもそうして貰う心算のようだ。
生憎、歩く事に向いていない可愛らしい靴は鉄の階段に既に滑りかけている事だし。
無表情な口元だが、そのいちご色をした瞳だけはなぜか少し嬉しそうな色をしていた。
店主の予想の斜め上を行っていたことなど露ほども気付かないまま包装を取り出す。
そして取り出した袋・緩和剤などを、スッ…と店主の前に用意して置いた。
私はアルバイトであって、お客様に出すものを包装する重要な任務は店主にある。
…とでも言いたげなほどナチュラルな動作だった。
精密機器を万が一、ドガシャンして弁償するのは嫌だからとかではない。
未熟なアルバイト、それが私。店の看板に傷がつかないように最善の働きをする、それが私。
「この店は品揃えがいいです、ご贔屓に」
ぽつり、とセールストークはしておく。
寝起きでボヤボヤしていた思考が少し覚めてきたので無表情でありつつも気が利いた。
あんまり効果は期待できないところで彼女の気が利いた。
誰だこの黒ずくめをバイトに採用したのは。僕です。
興味を持ってもらえたかと思ったら、次の瞬間にはサービスする事がほぼ確定していた。
されていた、何故だ。いやいいけど。
流石にタダで、なんて抜かす事は言わないだろうし、値下げぐらいで目くじらを立てる程心は狭くない。
驚いたけど。流石に驚いたけれど。
「あー、そうなあ…。」
お化けも真っ青なキャシーの熱意に、まあ、応えられない訳ではない。
ちなみに入荷する際対象商品を調べるのだが、人気不人気のラインはともかく、クオリティの高さとファンの熱意だけは感じられた。
だからか知らないが、普通に買うとちょっとお高め…な、定価である。
…まあ、一度に複数商品を買っていく客は少なくない。
必要そうなものを雑多に取り揃えているのだから、二つ以上購入するのでサービス…なんて、常ではないのだ。
とは言え、期待を裏切らないという行動を求められている事ぐらい、分かっている。
「そうッスね~。じゃ、定価改めサービス価格はこちらで」
ちょっと考えてから、さらさらと値段をメモに書いてカウンターに乗せる。
新作のゲームソフトにしては驚かれる割引きだが、たまにはいいだろうと思った。
”サービス”
その言葉にさらに目を輝かせ、カウンターに身を乗り出した。
「さ、さーびす……いくら…っ」
エマの『店主が』という言葉を受けて
カウンターごしに目の前にいる店主、Harvestに値段を問う。
その形相は長い前髪から垣間見える赤い瞳と相まって最早ホラーだ。
[ 3階廊下 ‐ 丑円遊 ]
「では、お部屋にお邪魔する前に何かお菓子や飲み物を買いに行きませんか?」
嫌がるユノを横目にさわやかな笑顔で提案する。
せっかくならその方が楽しいと思ったのだ。
それに、お邪魔するのにあたって手土産もほしいところである。
ただ今限定の適当なノリによって、自分のお嬢様である彼女の‘あの人‘という呟きを聞くと
この本は第三者が頼んだのだろうという予想が決定的となった。
流石に第二段階になると嫌気が差してくるなぁ、なんて思いつつもここまで来てしまったのだから最後までやろうと、書店へ向かってBerryBellの後をついて行くばかりであった。
そして、その行動の源は何よりも気まぐれであった。喫茶店で一人コーヒーを飲んでいるより興味深いし面白そう。そんな、単純な。
「そうだねぇ、誰だろうねえ。」
さっき建物入口から時計屋へキングが入ってきた所を窓から見かけており
そこから経った時間と予想した滞在時間を比較すると、1階から上がってきているこのエレベーターの中の人はキングの可能性が高いだろうなぁ。と思いつつ其れを一緒にいるチビさんに報告した所で何も変わらないだろうとそのまま螺旋階段へとついて行き続ける。
生憎の雨の中螺旋階段を下りていくのだが、当然自分の足元よりBerryBellの足元の方が気になった。
「今更なのだけれど。」
「俺の能力で一気に本を書店へ転送しましょうか?」
まあ、このまま彼女がすっ転んで泣きべそを見れる可能性を捨てるのは大いに残念ではあるが、この天気で自分も地道に濡れた階段を降りるのかと思うとエレベーターを使っていた王が癇に障る事も無くはなかったからという理由の一言であった。
「その後は俺がキミを運んであげるよ。俺以外人は俺の能力で転送出来ないからね。」
ヘラッと笑った姿は雨空に良く似合った道化姿で。
「そのシリーズ、結構ありますよね」
キャシーが手にとったものと同じ会社が手掛けている作品は多い。
店頭に並んでなかった理由は恐らく店内を見ての通り在庫の多さであろう。
幾つか同じシリーズのものと、同じ会社が出した新作を手に取って並べる。
新作か旧作かの見分けがつかなかった当初とは一味違うエマは入荷日を見る反則技を使っていた。
「良かったら安くしますよ、店主が」
値段設定?知らないよ。
そう暗に言っているが鉄壁の無表情が言うと真面目に言ってるように聞こえる詐欺だ。
コントローラーを買ってくれたのだ、多分サービスするだろう。店主が。
他人任せ?知らないですね。私はただのアルバイトに過ぎませんので。
迷った挙げ句オーブントースターは開けておくことにして、換気扇のスイッチを押す。
本来なら窓を開けるのが最善の策だろうが、如何せん雨が降っているのでそうはいかない。
「客人に手伝わせるなんて。換気扇も回したから、もう大丈夫だ」
くるくると回り始める羽を指差し言う。
水につけたお陰で柔らかくなった水飴を洗い流し、それから。
「……この臭いじゃとても食欲なんて湧かないかも知れないが、何か欲しいものは?」
「…弱った、なァ」
からからと乾いた笑い声を上げながら、彼はエレベーターを降りていく。
此処は5階だが、どうやら5階にも用事があるようだ。
鏡と向かう部屋は別になるのだが。くるり、と革靴が足を揃え振り返る。
「 ……それじゃあ、ご機嫌よう。…また連絡するよ 」
[ ハートの階 廊下 →書店へ向かう階段 - ベリィベル]
「全く、人使いが荒いんですあの人は」
急に脈絡なく喋りだしたのは “ あの人 ” ……… 要するに、今回のお使いの依頼主のことである。
この本を書店に持って行って、などと無責任に頼んだ引きこもり。リーゼアリアの事を指していた。
「エレベータ…今誰かのっていますね。…」
エレベーターの表示ボタンが動いているのを確認すると、彼女は待つのも煩わしいとでも言いたげに
外階段に繋がる扉を足で強引に開けた。それはアパルトメントの一階から四階までを繋ぐ螺旋階段。
雨が鉄の床を叩いているが、申し訳程度に屋根もある。危ないのは雨で滑る足場だろうか。
ベリィベルは一度本の山を床に下ろした。ケープを本の山にかけると、本が濡れない事を確認する。
屋根はあっても、彼女の身長では屋根に届かず本が濡れてしまうことは目に見えていたのだから。
「…弱った、なァ」
からからと乾いた笑い声を上げながら、彼はエレベーターを降りていく。
此処は5階だが、どうやら5階にも用事があるようだ。
鏡と向かう部屋は別になるのだが。くるり、と革靴が足を揃え振り返る。
「 ……それじゃあ、ご機嫌よう。…また連絡するよ 」
[ ハートの階 廊下 →書店へ向かう階段 - ベリィベル]
「全く、人使いが荒いんですあの人は」
急に脈絡なく喋りだしたのは“あの人”…要するに、今回のお使いの依頼主のことである。
この本を書店に持って行って、などと無責任に頼んだ引きこもり。リーゼアリアの事を指していた。
「エレベータ…今誰かのっていますね。…」
エレベーターの表示ボタンが動いているのを確認すると、待つのも煩わしいとでも言いたげに
彼女は外階段に繋がる扉を足で強引に開けた。そこはアパルトメントの一階から四回までを繋ぐ螺旋階段。
雨が鉄の床を叩いているが、申し訳程度に屋根もある。危ないのは雨で滑る足場だろうか。
一度本を床に下ろした。ケープを本の山にかけると、本が濡れない事を確認する。
屋根はあっても、彼女の身長では本が濡れてしまうことは目に見えていたのだから。
「おや、何かいいもの、見つけました?」
キャシーがゲームソフトを手に取ったところ、ワンテンポ遅れて聞いてみる。
慣れないであろうセールストークにも、案外効果はあったらしい。その調子で接客も頑張っていいんだよ。
彼女が手にしたそれは、陳列する際箱を開ければ、少なくない頻度で見かけるシリーズ。
入荷時期と数の都合上で並べられなかった不遇な品物の一つだが、目にとまったらしい。
誤解なきよう言っておくと、言われれば出せるのだ。間違いなく。
自分の体重の半分以上はあったであろう重みから開放され、生き生きとしている相手を見るとまた少し笑った。
「潔くていいなぁ、嫌いじゃないよ。」
本を持っていない暇な左手をズボンのポケットにつっこむ。「承知しました、お嬢様ァ。」引き続きの適当なノリで前を歩く小さなツインテールの少女について行った。
六が人の所謂使いっぱしりに加担するのはあまり普通の事とは思えなくて少し恐怖さえ感じるかも知れない。が、今回のは多分、予想に過ぎないが只の気まぐれで、暇つぶしで、何かしらの興味にそそられたのだろう。
只、其れが正解であったとしても何かしらの裏があるかもしれないという現実はいつ何時も付きまとってはいるのであるが。
自分の体重の半分以上はあったであろう重みから開放され、生き生きとしている相手を見るとまた少し笑った。
「潔くていいなぁ、嫌いじゃないよ。」
本を持っていない暇な左手をズボンのポケットにつっこむ。「承知しました、お嬢様ァ。」引き続きの適当なノリで前を歩く小さなツインテールの少女について行った。
六が人の所謂使いっぱしりに加担するのはあまり普通の事とは思えなくて少し恐怖さえ感じるかも知れない。が、今回のは多分、予想に過ぎないが只の気まぐれで、暇つぶしで、何かしらの興味にそそられたのだろう。
隣を歩きながら、それじゃあ連絡の取りようがないですね、と呟く。
時計の修理なら出来るが、通信機器は専門外だ。そこまで構造に詳しい訳でもない。
「……あらら、本当に大変なんですねー?働きすぎもよくありませんよ?」
心配するように、目を細めて頼りなさそうな笑顔を浮かべた。
くあ、とあくびを一つすると、エレベーターのボタンを押し到着するのを待つ。
[ 喫茶店 - 琳霞 ]
「私は大丈夫よ」
ありがとう、と一つお礼をすると車椅子を進ませる。
ドアが開いた瞬間、廊下よりもダイレクトに匂いが鼻に通ってきた。
「………大変そうね。手伝える事があるなら手伝うわよ」
ずっとカウンターで待っているのは少し申し訳ない気持ちがある。
これはタイミングの問題だし、自分も彼も悪くはないのだが。
「えぇ勿論!良いわよねユノ!」
「ぐっ・・・・か、畏まりましたアリスお嬢様・・・・では参りましょう」
歯を食いしばる様に言うと、言いたい言葉や反論などを無理やり押し殺した
アリスお嬢様のお願いアリスお嬢様の命令。アリスお嬢様に逆らう事なんて許されない・・・そう心の中で思い続ける
そう思っているユノを知ってか知らずかニコニコ笑いながら、自室へ遊を案内するアリス
「 ……いいや?もう、使い物にならないのさ。番いの方がダメになってね 」
― 困ったなあ、と呟くと歩き出す。私室へ向かう、エレベーターの方へだ。
依頼とか?の言葉に、何か考え込むような顔をした。ああ、そうだ。
「 …万に一の可能性だと思いたいが君、明日は休めないかもしれないな。 」
こちらもこんばんは、と軽く会釈する。
外にまで漂ってくる焦げの臭い。中ではきっともっと酷いことが起きているに違いない。
――あの時、店を放置して集会所に行かなければ。雨足が増す前にもっとしっかり換気していれば。締め切られた店内でオーブンを開きっぱなしにしていなければ。
中に入ってもいいかしら、という言葉に、沈みがちな声で返す。
「中はきっと外より焦げ臭いが……それでも良かったら、寄っていってくれ」
外で待たせるのも申し訳ないような気がして、ドアノブを捻る。
「…ええ、こんばんは。」
顔にかかった髪を細い指で払う。
漂っている焦げたような匂い、急いで店に戻ってきた店主。
中で何かあったとしか思えない。オーブンに一体何が…?
「…きっと大変なことが起こっているのでしょうけど……中に入ってもいいかしら?」
無理ならここで待っているけれど、と付け足して首を傾げる。
店員2人が話している。たぶん在庫の話だ。
財布をガウンのポケットにしまいながら、ただそれをぼーっと聞いていたが
ふいに振り返った店主に謝られ、謝ることなどないのにと首を横に振った。
『在庫を見るだけでも掘り出し物、あるかもですよ』
彼女の性格からして、目的を達成した今、すぐにでもまた部屋に引きこもりたかった。
『い、いや…』と言いかけたところでバイトが持ってきてくれた商品に目が留まる。
「こ、これ……新作」
前髪の隙間から覗く真っ赤な瞳が輝く。
手に取ったのはゲームのソフト。
どうやらこのシリーズのファンらしい。
[ 3階廊下 ‐ 丑円遊 ]
「えっ!?…ゴホンコホッ、い、いいのですか?」
一瞬聞き間違えかと思い、『え!?』と大きな声を出してしまった。
それをごまかすように咳ばらいをすると、もう一度聞き返す。
「えっ!?…ゴホンコホッ、い、いいのですか?」
一瞬聞き間違えかと思い、『え!?』と大きな声を出してしまった。
それをごまかすように咳ばらいをすると、もう一度聞き返す。
店員2人が話している。たぶん在庫の話だ。
財布をガウンのポケットにしまいながら、ただそれをぼーっと聞いていたが
ふいに振り返った店主に謝られ、謝ることなどないのにと首を横に振った。
『在庫を見るだけでも掘り出し物、あるかもですよ』
彼女の性格からして、目的を達成した今、すぐにでもまた部屋に引きこもりたかった。
『い、いや…』と言いかけたところでバイトが持ってきてくれた商品に目が留まる。
「こ、これ……新作」
前髪の隙間から覗く真っ赤な瞳が輝く。
手に取ったのはゲームのソフト。
どうやらこのシリーズのファンらしい。
急ぎ足で喫茶店へ向かうと、遠目に人影を見た。
車椅子に腰掛ける女性の姿だ。そこから連想される人物はただ一人。
「……琳霞さん?」
やや確信の持てない声で問いかけるが、更に足を進めれば僅かに表情がはっきりして、しっかりと姿を確認できた。
そして、店の外にまで漂っている焦げ臭い臭いにぎょっとする。
(何故だ?皿は水につけたし、多少の換気もした筈……あっ)
脳裏を開きっぱなしのオーブントースターの姿が過った。
深くため息をつき、右手で顔を覆って俯く。
「オーブン閉め忘れた……」
店主に教えてもらった場所をそそくさと漁る。
お客様の相手に戻った店主を横目に帰っちゃってもまた来るかなと淡い期待。
在庫はどんどんしょb……売っていかないといけない。私の快眠のためにも。
女性では重くて持ち上げられないか?と不安なサイズの箱をどっせいと担ぎ上げて戻った。
「戻りました。お客様、在庫を見るだけでも掘り出し物、あるかもですよ」
セールストークの類は苦手だが精一杯のアピールをした。
壊れたコントローラーを買いに来るぐらいゲーム好きならどうだろうか?と。
純粋な善意から持ってきたのだが、迷惑でなければいい。そう思いながら箱を置いた。
もう既に閉じられたドアを見つめ
「 …行っちゃった。 」
静かになったこの場所には雨音がやけに響いている。
先ほどより随分と雨は強くなっているみたいだ。
「 …雨、止まなさそう。 」
この調子では太陽は拝めそうにないか、と小さくため息を吐いた。
「夢オチじゃないッスよー、ご安心を。補充用は此処で、在庫は―」
あ、そんなに自信はなかったんだな。
この調子で表の方も、とまでは思ったが、あわよくばなんて希な事。
裏の商品を積んだのとは別の…まあ、お客様からは見えないし気付かれない位置を教える。
そうそう、お客様。ちょっと放ったらかしにしてしまっていた。
メモに記してエマに渡しながら、くるりと振り返る。
「あ、っはは、すみません。今日は謝ってばっかりッスね、僕。こんなところ」
まあ、コントローラーを買いに来ただけであるし、そのまま帰ってしまっていても仕方ないが。
「……あら」
雨の音で目がさめた。身支度を終わらせて、
コーヒーでも飲もうと喫茶店に立ち寄ったが、どうやら誰も居ないようだ。
困ったように頬に手を添え、足を組む。
…何やら焦げたような匂いがしてくるが、奥で何かあったのだろうか。
しかし人の気配はない。
行き場を無くしたように入口の側に車椅子を寄せ、誰かしらが来るのを待っていた。
「ん?ああ…いやー、ちょっと寝ちゃってて……」
はは、と困ったように頭を掻く。いつもならもう店を閉じている時間だ。
彼が出たのを確認してから電気を消し、入口の鍵を閉める。
「それ、何かあるんですか?」
彼の手元にある通信端末を覗き込むと、首をかしげながらそう問いかけた。
だれかの連絡待ちですか?依頼とか?と笑いかける。
実際この端末に興味を持ったわけではなく、ただ彼が手で弄んでいたから問いかけただけ。
「 いい物とは何だね、いい物とは 」
妙な喋り方をしてみせるのも照れ隠しの一環だろうか。漸く軽くなった、とほっとした顔をしながら
二つに結った髪を結び、先ほどとは打って変わったような軽快な足取りで先を歩いた。
「 白鷺堂に運びたいので、手伝って欲しいのです 」
その、大量の本は書店に用事のある物らしい。
[ 時計屋 - キング ]
「そうかもね」
茶化す言葉に口元だけが笑うと、だらしない襟を正し入り口へと向かった。
ポケットから何処にも繋がっていない通信端末を手に取ると、
彼は退屈そうに手でそれを弄ぶ。……ああ、壊されたもう片方どうしようかな等と考えながら。
「 こんな時間まで店を開けてるなんて、珍しいじゃないか 」
いやないですよという展開にならなくて少し安堵する。
自分で言うのもなんだが記憶力に自信があるとは嘘でも言えない。
箱に書いてあるラベル表記を覚えていても寝惚けていて夢オチということもしばしばだ。
「良かった。ありましたよね、私の夢オチじゃなくて安心しました」
そして心の中で思っていたことをそのまま口にするあたり脳筋が所以なのだろう。
無表情でうんうんと頷きながら安堵して、「在庫はどこにありましたっけ」と告げる。
裏の商品に関しては頑張って覚える努力をしているが、偶然覚えていたものまでは難しい。
個人的観点から覚えている品は幾つかあれど、その場所までは知らなかった。
「はい、おはようッス。」
色々聞きたい事はあるが、そっと堪える。
というか、寝ていた事についてはこの際何も言わない。
だがあそこでどうやって眠れたのだろう。疑問は尽きない。
客がいる手前、本当に今聞く事でもないのだが。
「ん?あ〜〜ありますねー。」
表の品を一切任せていないと言ったら、少し嘘になる。
と言っても、把握しておいてくれればいい、の範囲だが。
任せている方だけに集中していて何ら問題はなかったが、いきなりそう言われて、一瞬目を丸くしたのは許して欲しい。
「!アリス様夜風や雨は体がお冷えになるので、やはり室内が宜しいかと!」
「・・・ではこうしましょう!遊さん良かったら私達の部屋へ来ませんこと?一緒にプラネタリウムを見れば宜しいですわ」
にこやかに伝えるアリスに対して、絶望的&膝から崩れ落ちるユノ。そんなユノをまったく気にしないアリス
歯を食いしばりながら立ち上がったユノは、アリスの肩を持ち必死に呼びかける
「駄目です駄目です!アリスお嬢様!夜の密室に男二人に女性一人等と!!いえ、僕は慣れているので大丈夫ですが、この男は駄目です!お考え直し下さい!此奴は!アリス様の!ストーカーですよ!!」
「!アリス様夜風や雨は体がお冷えになるので、やはり室内が宜しいかと!」
「・・・ではこうしましょう!遊さん良かったら私達の部屋へ来ませんこと?一緒にプラネタリウムを見れば宜しいですわ」
にこやかに伝えるアリスに対して、絶望的&膝から崩れ落ちるユノ。そんなユノをまったく気にしないアリス
歯を食いしばりながら立ち上がったユノは、アリスの肩を持ち必死に呼びかける
「駄目です駄目です!アリスお嬢様!夜の密室に男二人に女性一人等と!!いえ、私は慣れているので大丈夫ですが、この男は駄目です!お考え直し下さい!此奴は!アリス様の!ストーカーですよ!!」
「………だといいですね」
すう、と目を細めて呟いた。
そろそろ、という言葉を聞き再び時計を見て、雨足の強くなる外に目を移す。
「俺ももう店閉めるんで、よかったら途中まで一緒に戻りましょうよ」
自分も立ち上がると付けていた暖房を消した。
そのままじゃ立って寝ちゃうんじゃないですか?と冗談交じりに笑う。
どうやら彼女は寝起きらしい。
でもなんでこのお店で…?
ああ、この人はここで働いているのか。だから奥で寝て…………寝て…?
「…(サボりだ…)」
いらっしゃいませと会釈するエマに、此方もおどおどとした様子ながらも小さく会釈を返した。
[ 3階廊下 ‐ 丑円遊 ]
「おや、雨のようですね…」
窓についた水滴は、もはや水滴ではなく滝へ変わろうとしている。
これからもっと強くなりそうだ。
こんな空模様では星々どころか月も見えないだろう。
「プラネタリウム…ほうほう、それはいい。ですがせっかくクルトさんが集会場を勧めてくれたんですから
今日は其方に行きませんか?星は今度リベンジいたしましょう 」
2人にさせてなるものか、とばかりにそう提案する。
自らの今の姿とは反対に真面目に頼みを願ってきたBerryBellを見て、はは、と可笑しそうに笑った。
「...そうだねぇ、こんなキミの姿が見納めになるのは少々残念だけど。」
「いいものを見せてもらったし、お手伝い致しますよ。」
わざとらしく敬語使うとひょい、と彼女の持っていた積み上げられた本を片手で持ち「次は身の丈にあった量を持ってくるといいかもしれませんねぇ~、」ポーカーフェイスにいっそうニヤケがついた顔で揶揄うように発した。
塞がれた視界の向こうから、誰かの声が聞こえる。と言っても聞きなれた隣人の声だ。
「 きみ、きみ、ちょっと助けてください」
この本を持つのを…と付け加える。手が震えている辺相当な無理をしているのだろう。
滑稽な姿だが、声は大まじめだ。
[ 時計屋 - キング ]
「……そうだね。明日はゆっくり休めるかな」
今にもこくり、こくりと机に頭から倒れこみそうな状態でそうぼやいた。
釣られたようにあくびを嚙み殺すと、革靴が床を叩く。
そろそろ部屋に…と立ち上がると、再び軽く伸びをした。
「 じゃあ。そろそろ 」
しばらくころころとチョコを舌の上で転がしていたが、飽きてすぐに噛み潰す。
仕事が長引いたのか、そりゃあ大変だな、と思いながらそれを飲み込んだ。
「ふーん…、大変なんですねえ。たまには休んだらどうですか?」
彼の眠たそうな目を見てすぐに疲れは感じ取ることができた。
普通なら部屋で眠る準備をしている時間だ。
先程まで少し寝ていたせいもあり、大きなあくびをすると、眼鏡をあげて滲んだ涙を拭いた。
鍵のついた靴箱を開けて適当な靴を選んで履いた後、靴箱に再び鍵をかけて部屋のドアを開ける。起床の直後といえば普通の人であれば寝癖が少しは気になるかもしれなかったが、彼は生まれてこの方そのような物には無縁であった。
「これは、これは・・・ 今晩は、おちびさん。」
扉を開けると、丁度目に入った動く本の山に少し茶化したような声を掛けた。その本の山で相手の顔が見えないにも関わらず誰だか分かっているような言い方は、常人の考える『身長が低く非力なのだからあの彼女だろう』なんていう推測では無い、もっと別次元のもののように思えた。
鍵のついた靴箱を開けて適当な靴を選んで履いた後、靴箱に再び鍵をかけて部屋のドアを開ける。起床の直後といえば普通の人であれば寝癖が少しは気になるかもしれなかったが、彼は生まれてこの方そのような物には無縁であった。
「これは、これは・・・ 今晩は、おちびさん。」
扉を開けると丁度目に入った安定性の無い動く本の山に声を掛けた。その本の山で相手の顔が見えないにも関わらず誰だか分かっているような言い方は、常人の考える『身長が低く非力なのだからあの彼女だろう』なんていう推測では無い、もっと別次元のもののように思えた。
それでは早いうちにここを立ち去らなければと思う傍らで、喫茶の厨房へ置いてきた皿の事を思い出す。
……そうだ、自分はあれを片付けるために席を立ち、ここまで歩いて来たのではなかったか。
「……それじゃあ、僕はこの辺で。店の仕事が残っているから」
菓子作りに失敗して後始末をしなくちゃいけない、なんて言えるはずもなく。
仕事と言えば耳障りが良いし、あながち間違ってもいないので、茶を濁すような言い回しを利用する。仕事――便利な言葉だ。
今度こそエレベーターのボタンを押し、開いたドアを潜る。
「 …………少しね。仕事が長引いたから 」
目をそらすようにチョコレートを受け取ると、唇が静かに裂けて笑った。
包み紙を捲ると、何度か指でチョコレートを転がしている。
眠たそうな目が、指越しに壁掛けの時を眺めていた。
そうだ、と呟くと視線だけが鏡へと動き、ゆっくりと艶やかな唇が開く。
「 ……明後日からまた忙しくなりそうでね 」
[ ハートの階 廊下 - べリィベル ]
かつ、かつ、と覚束無い小さな足音。それに続く、人間の足音にしては硬質すぎる音。
本の束を抱える一体の人形と、ふらふらと動いている本の山――に見える、本を抱えた少女。
否、少女と呼ぶには恐らく正しくない年齢だが彼女の見た目はまさしく少女その物だ。
「 ……だ、だれか...手伝って…… 」
日の光がない時間。
窓に時々打ち付ける雨音で目が覚める。相変わらずこの世界は温度がはっきりしなく生温い温度の中快適な目覚めとは言えなかったが、起床して一番に目にうつる自分のコレクション達にそんな気分の大半は癒された。
何故こんな時間になっているのか刹那記憶を辿れば、昼間は特に指令も無くする事が無かったので壁を背もたれにしてベッドで座って部屋の刃物を眺めていた事を思い出した。どうやらそのまま昼寝に入ったらしい。
これは我ながら無防備だなと思いながら窓ガラス越しに見える夜雨をぬるりと横目に見たが、部屋の鍵はかかっており、窓や箪笥、机の引き出しまできっちりとかかっていた。
「...目覚ましに珈琲でも飲みに行こうかな、」
少し頭を掻きながらそうぼそりと呟くと背伸びをしてベッドの上から床へと足を下ろした。
「あ、はーい……どうぞ」
彼の手をとりその上に小さなミルクチョコを置く。
その際少し顔が近づいたが、誤魔化すように微笑んですぐに離れた。
「どうしたんですかー?…疲れてるんですか?」
あまり調子がいいようには見えませんけど、と付け加えて隣に座る。
疲れが顔に出るなんて珍しい。でも、そこまで拠点内で顔を合わせている訳でもないから
気のせいかもしれないな、ともう一つチョコを取り出して口に放り込んだ。
「……おはようございます、店長」
ふあ、と小さく欠伸をしながら2人に見つかったのでコソコソせず店内に出ることにする。
ごちゃごちゃしているものを踏まないように身軽に移動しながら控えめに店主の後ろに立つ。
ゴールデンブロンドの髪が朝(?)から眩しいものだと思いながら、お客様に一礼をした。
「いらっしゃいませ、――Kathleen様」
右手を左胸に当てて会釈をする。
その際に背中が物凄く痛かったとかいう内心を鉄壁の無表情が包み込み隠す。
アルビノの兎のような赤色の双眸を見て、やっと名前を思い出したのがギリギリ間に合った。
顔を上げた際にKathleenの手元に見えたコントローラーを見てこれを買いに来たのかと納得。
「このゲーム機のソフト、在庫が固まってるところがありましたよね」
何気なく思い出したことを口に出していた。
確か在庫の山が邪魔で少しだけ片付けをしていたときに見付けたのだ。
「その分大変なんスよね~。何せね、モノが多くって…お?」
予想外にも、魅力を感じるだろうか。
キャシーのその目は、こちらの簡単な説明にも関心を持ってくれているようだ。
自分自身も好きでやっているので、分からなくも無い。
代金を頂いてから、徐に奥に向けて指をさすキャシー。
コントローラーを渡しながら振り返ると、黒いシルエット。…というかバイトだ。
喪服と表すのが多分一番正解に近い、黒のポーンの彼女、エマを、彼もまた程なくして発見した。
「うわっ。そこに居たんスかエマさん」
正しく予想外である。
店の入口から来るのかと思えば、奥から来たのだから。いや、先に入っていればなんら可笑しい事はないが
相手の様子を伺うような色を見せた紫は、透き通ったまま相手を見ている。
「 ……なら、ミルクの方を 」
椅子を引くと少し疲れたような顔をして、その椅子に深く腰掛けた。
足を組みながら目を閉じれば、考えることはひとつだけだ。決して、口には出さないが。
よかった、自分の声も彼に届いていたようだ。
彼の反応に一安心しつつも、騒がしくなるとの言葉を聞き、他人にはわからないであろうほどに小さく顔を歪ませた。
起きてからだいぶ時間が経っているとはいえまだそこまでわいわいとできるほどの元気があるわけではなかったからだ。
ふと眺めた空は闇に染まったように真っ暗になっていた。
「 こんな時間に騒がしくなるなんて珍しい…。 」
そういう自分も普段この時間は眠りについている頃なのだが。
「そのはずだったのだけれど・・・・どうやら星は見えない様ね」
ちょっと苦笑しながら廊下についている窓を見つめる。油混じりの雨が窓に張り付いている
雨が降っているのなら、星空なんて見れないだろうし。ちょっと残念だけど
天気は変えられない。しょうがないか・・・と諦めながら目を伏せがちにそう呟いた
それをみたユノは目を光らせ、バッとアリスの方を振り向いて口を開いた
「アリス様!実は僕部屋で出来るプラネタリウムがあるんです!星空の代わりとして2人で見ませんか!」
「あらプラネタリウムがあるの?見てみたいわね」
「必要なものが…一通り……」
必要なものがすべてある、なんて引きこもりには魅惑の空間である。
できればここで引きこもりたいくらいだ。
なんて頭の中で考えていたが、その考えは漏れなく表情に出ており
宙を見つめた瞳がキラキラと輝いていた。
___それにしても
先ほどから店の奥で物音がしているのは、さすがに気づいていた。
ところがそれがぴたりと止んだ今、音の正体が何だったのか気になって仕方がないのだ。
じっと奥のほうを見つめていると、ふいに黒い影が見えた。
真っ黒な服に包まれたその女性には見覚えがある。確か…同じ黒のポーンだ。
「 …店長さん…」
カウンターにゲーム代分のお金を置くと、奥の彼女を指さして。
目が覚めたのは輸入品店の武器庫であった。
木箱を片付けている最中に疲れたなよっせいと座ったところまでは覚えている。
現在、木箱たちと戯れるかのように囲まれた空間の中でヨガのハラーサナのようなポーズ。
ガタガタと動かしてみるも完全に上半身が…上半身が、抜けない。
試行錯誤していると店のほうから話し声が聞こえてきた。
なんだ店主いるのか、助けを求めようとしたが接客中といった雰囲気がしたので自力で脱出。
要した時間は30分強、体中の骨という骨が悲鳴をあげているのを無視して軽く身嗜みを整える。
さり気なくチラリと奥から店内を覗いてみた。
黒のポーンの……あの、名前が出てこないけど可愛い子って覚えている子と見慣れた店主が見えた。
気付いて欲しいと見つめたのは自分だったが、実際に目が合ってしまうと少し体が強ばる。
なにかの合図をしているような細まった瞳を見て、自分も目を細めた。
「こんばんはー………」
へら、と笑って挨拶を返す。カーテンを閉めると、雨の音が少し遠ざかった。
ほのかな煙草の匂い。自分も吸いたくなってしまったが、ここは店だ。
意識すると口の中が寂しく感じ、ポケットからチョコを取り出すと、ひとつ口に放り込む。
「あ、…いりますか?ミルクチョコと、ビターチョコ、ふたつありますよ」
頼りない笑顔を浮かべてそう問いかけた。
[ 1階 建物入口 - キング ]
視線を感じる、と言うのは一種の表現でなく、皮膚或いは脳が微弱な電極反応を感じ取るからだ。
あくまでそれも一説に過ぎないが、と振り返ると案の定、ナイトと目が合った。
煙草を灰皿に押し付けると目だけが静かに笑い、猫の様に細められる。まるで何かの合図の様。
そのまま店に入っていくと、もう閉じる時間であろう時計屋は未だ其処彼処から針の音が響いて。
「 ……やァ、こんばんは 」
「それじゃ、またね」
ひらりと手を振って彼らを横切るように通り過ぎる。
階段を使って二階へ降りると輸入品店から話し声が聞こえた。
少しだけ気になったが先程のような空気になるのは面倒だとも思えて階段に座り込む。
もう少し降れば1階だが、夜の冷え込む空気が満ちているこの階段付近も中々に落ち着く。
耳を澄ませば雨音が聞こえて、今夜は雨かと壁にもたれかかった。
静かに目を閉じて水の音を聴いていると眠くなってくる。
「ありますよ~。この"Hideout(隠れ家)"には大体、必要とされそうなものが一通り。」
他に3つある店と比較すれば、恐らく一番ごちゃごちゃしているだろう。
整理整頓には苦労するし、在庫の確認は種類の量に比例して手間が増える。
本当に表向きだけなら、バイトはあと一人は欲しかった。いや、そうでなくても割と欲しい。
接客そのものは苦痛ではないので、出来れば几帳面で暇な誰か。とか。
「い、いえ…お気になさらず…」
泣いてもいいかな、なんて心の中で悲痛の思いを叫びつつ
悲し気な笑みを見せた。
しかし、彼が集会所へ行くことを提案しアリスもそれに賛成の意を表すと
先ほどの悲し気な顔が一転、キリッとした表情に。
「もちろん、僕も一緒に行きますよ」
[輸入品店 - Kathleen ]
「…ここ…は、いろんな商品があるんだ…」
彼がゲーム機を探して漁っていた棚。
それらを見て感心したような様子で口にした言葉は、特に答えを待っているわけではない。
ただ思ったことを呟くように零しただけであった。
滅多に部屋から出ない少女は、このModern Hideoutに来るのも初めてに近い。
小さな冒険にでもでたような気分で店内を見渡してみた。
…雨の音が聞こえる。
本当に眠ってしまっていたようだ。雨が地面を叩きつける音で目が覚めた。
ずっと机に突っ伏していたせいか、肩と腰が痛い。
ぐ、と伸びをすると体の関節がばきばきと音を立てた。
「…………そろそろ店閉じようかな…」
そう呟いて立ち上がり、カーテンを閉めようと窓に近づく。
寝起きのぼやけた視界の中に微かなタバコの光が映り、手を止めた。
すぐにキングの彼だと認識し、こっちに気づかないかな、とその姿をジッと見つめる。
弥子にも軽く会釈する。会話の邪魔をしたのではないかと些か不安ではあるが、不快そうな表情はしていないので安堵した。
それから「べつに構わない、読み終えたから」と言って抜き取られたスピンを僅かに引いて見せた。
「騒がしく、か。そうだな、それもあるかもしれない」
同意ともとれる言葉を返し、袖に文庫本を仕舞い込む。
[ スペード13号室→1階 建物入口 - キング ]
「 ……あ、こら待ちたまえ…ああ、もう遅いな。全く。あれじゃあ直せないじゃないか 」
ひとりごちるのはその場には居ないクイーンが相手だ。やれやれ、とため息をついて立ち上がる。
ぐ、っと腕を上げると静かに伸びをした。数時間もこのまま同じ体制とは、案外辛い物。
今日は仕事が増えそうだとうんざりした顔で眼鏡を押し上げる。外の空気でも吸おうと部屋を出た。
→
窓から時計屋と書店の見える一階、玄関先。生憎雨が降っていた様で、余り空気は良くない様だ。
汚染された雨を浴びるのは御免だと、屋根の下でジッポーを点ける。
咥えた煙草に火をつけるとゆっくりと、濁った煙を吐き出した。煙草の燻す甘い香りが鼻腔を擽る。
「 ……あ、こら待ちたまえ…ああ、もう遅いな。全く。あれじゃあ直せないじゃないか 」
ひとりごちるのはその場には居ないクイーンが相手だ。やれやれ、とため息をついて立ち上がる。
ぐ、っと腕を上げると静かに伸びをした。数時間もこのまま同じ体制とは、案外辛い物。
今日は仕事が増えそうだとうんざりした顔で眼鏡を押し上げる。外の空気でも吸おうと部屋を出た。
→
窓から時計屋と書店の見える一階、玄関先。生憎雨が降っていた様で、余り空気は良くない様だ。
汚染された雨を浴びるのは御免だと、屋根の下でジッポーを点ける。
咥えた煙草に火をつけるとゆっくりと、濁った煙を吐き出した。煙草の燻す甘い香りが鼻腔を擽る。
「 やあ。読書かな?邪魔しちゃったね 」
ぎこちなく振り返る薫にそう声をかけると、優雅にひらひらと右手を振った。
特に用事がある訳ではなかったのだが、何となく声を掛けてしまったのだ。
「 今日は、ここの出入りが激しいな。…もうすぐ騒がしくなりそうだし 」
目を閉じる。なにか理由があるわけではないが、騒がしくなりそうだと言う予感は大抵当たる物なのだ。
「あっ、りましたー!お待たせしちゃって申し訳ないッス!」
いまいち誠意が伝わらないような言葉遣いの謝罪。
しかし、発掘したコントローラーをしっかり抱えると、一旦引き出しを閉めてから、カウンターの方に向かう。
梱包はそのまま、見えるようにカウンターの上に置いてから、値段を確認して、キャシーに手招きした。
「うっかり手間の掛かるところに仕舞っちゃいましてねぇー、ゲーム機周りならもう少し上でも良かったッスね?はは!」
値段を提示して、けらけらと苦笑いを浮かべる。
これ以上待たせることが無くて、ほっとした。
聞こえた声に驚いて振り返る。
声の主はついさっきまで本を読んでいた喫茶店の店主のようだ。
いつ移動したのだろうか、全然気がつかなかった。
「 …こんばんは。」
一応自分も挨拶を、と思ったがひとりごとを呟くときのようにぼそりと声を発してしまった。
彼にちゃんと声が届いていたらいいのだけれども。
「ユノも落ち着きなさいね」
「・・・はい・・・大変申し訳御座いませんでした」
ペコッと頭を下げアリスの一歩後ろに下がる。従者たる者主人の前にいることは許されない
アリス自身従者とか主人とかそういう考えはあまりないのだが。ユノは昔からそういう所がある
そしてクルトから発案された集会所という言葉。集会所はこのアパートの最上階
集会所から出て屋上に行けば、星が見えるかもしれない。それならそれでいいだろう
「集会所ですか。良いですね」
「謝らなくてもいいのだけれど…うん、なんかごめんね?」
遊の返答を聞いて自分の発言が『世間一般の常識』ではないものだと何となく察する。
だけれど取り繕うことを苦手とする自分に出来ることと言えば、謝罪を返すぐらいだった。
本心からのごめんねが更に相手を傷付けるやも知れないことなど彼は本当に察せない。
――否、察しようと努力をする必要がないと心の何処かで判断しているのか、自分でも不明である。
今の僕がクルトであるかでさえ不明なのだから、判断基準なんてあったものではない。
「廊下で立ち話するぐらいなら、集会所へ行ったらどうかな?」
ふと提案するように軽く上を指差して温和に微笑んだ。
因みに自分は空気を読んで( ? )喫茶店に行こうと思っていた。
店主がいなかったら屋上コースだが、ずっと読書をしていたせいか2階まで身体を動かしたい。
『ああ、君…紳士と名乗れるのは品格のある男子だけだよ?』
はい、来た。僕の恐れていたものが___
彼の苦笑いと共に放たれた言葉は、僕の心にグサッと音を立てて刺さる。
わかっている、わかっているのだ。彼が本心からそう感じ、何も悪気はなくそう言ったことは。
ただキツい。やぁ~、キツい。「ハイ、すみません」と、それだけ言って
光を映さないこの瞳で、ただただ遠くを見つめる僕だった。
[輸入品店 - Kathleen ]
コクリ、と彼の返事に頷く。
自分に背を向けている彼には見えない、それでも少女はその頷きを言葉に直そうとはしなかった。
フードをもう一度深くかぶり直し、彼の言葉に耳を傾けながら目当ての品が来るのを待つ。
少しして、彼の「あ~」と言う声に視線をカウンターの奥へ向ける。
ソファーから立ち上がり、カウンターへと駆け寄った。
「…あっ…た…?」
『ああ、君…紳士と名乗れるのは品格のある男子だけだよ?』
はい、来た。僕の恐れていたものが___
彼の苦笑いと共に放たれた言葉は、僕の心にグサッと音を立てて刺さる。
わかっている、わかっているのだ。彼が本心からそう感じ、何も悪気はなくそう言ったことは。
ただキツい。やぁ~、キツい。僕は「ハイ、すみません」と、それだけ言って
光を映さないこの瞳で、ただただ遠くを見つめた。
「あちゃー、それは不幸な事故でしたね。罅割れちゃった感じッスかね」
案外底の深い引き出しには、梱包されたままきっちり積まれた商品の数々。
表の整理は今のところバイトに任せていない(店の奥の方はこれの倍以上ある)ので、収納してしまったのは自分自身なのだが、もう少し余裕を持たせても良かったと反省する。
モノに傷が付かないギリギリで、きっちりきっちりと並んでいるそれを崩さないように掻き分ける。
言葉を続ける。
「僕もゲーム機駄目にしちゃう事、割とあるんスよね~。低いところにケース並べて、そこに突っ込んどいたら、最近はマシになりましたよ。っとっと、あ~‥」
言いながら、馴染んだ感触を捉える。
狙った場所は悪くなかった、奥底に突っ込んでいなかったことに感謝する。
それでも、ゲーム機ならもう少し上にしておいて良かった気がした。反省。
「いや、賑やかでいいんじゃないかな?」
微笑ましいものを見るような目で優しげに告げる。
三人に自然な程度に視線を向け「ただ今は夜ということは忘れずにね?」と付け加えた。
若い子についていける自信はあまりないので、差し障りない程度の注意ぐらいしか出来ない。
「ああ、君…紳士と名乗れるのは品格のある男子だけだよ?」
一体、君のどこに品格があるのだろう?と真面目に悩んでいる顔で苦笑いして遊に指摘する。
言っておこう…この男に悪気はない。今一度、言わせて貰うと…この男に、悪気は、ない。
本心からの指摘なのである――余計に性質が悪いともいうが。
「貴様は恰好こそ女のようだが中身はただの変態男だそうだろう!!この獣!!」
アリスの制しも耳に入っていないようで、ユノとの言い争いに終わりは見えない。
そんな中現れたのは優し気な笑みを浮かべる男、クルトだ。
彼の笑み、それはいつだって穏やかそのものだが、僕は少し苦手…というか怖い。
この穏やかな表情のまま、刃物のように鋭い辛辣な言葉を述べてくるのだ。
「…失礼、僕としたことが。このような時間に大声で口論など紳士として恥そのもの。」
クルトに謝罪、そしてそれと共に一礼すると、ユノにも「お前もですよ」なんて
また睨みのきいた表情で言って。
「貴様は恰好こそ女のようだが中身はただの変態男だそうだろう!!この獣!!」
アリスの制しも耳に入っていないようで、ユノと言い争いに終わりは見えない。
そんな中現れたのは優し気な笑みを浮かべる男、クルトだ。
彼の笑み、それはいつだって穏やかそのものだが、僕は少し苦手…というか怖い。
この穏やかな表情のまま、刃物のように鋭い辛辣な言葉を述べてくるのだ。
「…失礼、僕としたことが。このような時間に大声で口論など紳士として恥そのもの。」
クルトに謝罪、そしてそれと共に一礼すると、ユノにも「お前もですよ」なんて
また睨みのきいた表情で言って。
突如聞こえた声に、驚いてボタンを押しかけた手を引っ込める。声を掛けてきたのは、先程の男性だろうか。
それが自身に向けられたものなのか暫し思案して、考えるだけではどうしようもない事に気が付き、ゆっくりと振り返った。
「……こんばん、は」
少々ぎこちなくなってしまったが、礼儀として挨拶を返し、わずかに頭を下げる。
ここで二階のボタンを押して消えるのもなんだかおかしな気がして、手は止まったままだ。
あの噎せ返るような時計の音。少しあの空間が恋しいなと思いながら、彼は向こうへ視線を滑らせる。
誰か来ていた様で。話し込んでいて気付かなかったが、声を掛けようかと迷う。行ってしまっただろうか。
「 ……こんばんは 」
ふわりと其方の方へ、もう聞こえない距離かと少し諦めながら薫の背中を見た。
「クルトさん・・・すみません夜中に・・・ちょっと言い合いが起きてしまって」
苦笑しながら現れたクルトにそう謝る。チラッと横目で見たのはユノと遊
もう少し静かにしてもらいたい。だって夜中だ白がほぼほぼ寝ている人が多いだろう
今は黒の活動時間。白のポーンである私達が起きて居るのも可笑しいのだ
一言で言えば迷惑子の上ない。しかしユノも遊も声を聞いてくれず困っているのだ
何やら廊下が騒がしい、読書中だった彼は栞を挟んで本を閉じる。
ジャケットの内側から取り出した時計が指し示す時刻からして黒が起き始めた頃か。
夕方から読書をしていたら夜だったことから、かなり長い時間だったのだろう。
コキコキと軽く首を鳴らして運動させておきながら、自室から出て廊下を歩いていく。
どうやら只の言い争いのようで、だが何も言わずに通り過ぎるのも変だと思い声をかける。
「其処の廊下で戯れる御三方、どうしたんだい?」
にこ、と優しげに微笑みながら現在の状況を聞いてみることにした。
ぱたり、と本を閉じる。章それぞれが独立した話だからか、読後感は比較的すっきりしている。
そろそろ眠ってしまいたいところだが、こびりついた飴を取るべく喫茶店へ戻らなければならない。
ついでに茶でも入れようかと思い、わずかに歩幅を広くした。
片付けをしてお茶を飲んだら、今日はもう店で一晩明かしてしまおう。部屋に戻るのが億劫だ。
なんて思いつつ、急いで喫茶店へと戻った。
「あぁ一緒に住んでいるともさ!アリス様の愛らしい寝顔も、甘い物を食べている時の幸せそうな顔も全部僕のものさ!」
「はぁ・・・ほら、星空を見に行くのでしょう?行きましょう」
ドヤ顔で言い返すと、アリスの事を話しているせいか少し頬が紅潮している。
そんなユノを見て呆れたようにため息とついて行くようにいうが、勢いのついたユノは止まらない
「何が紳士だ!紳士詐欺だろう!貴様のような変態をアリスお嬢様の近くに置いておけるわけないだろう!何より男と同じ部屋なんて!」
「ユノ。貴方たまに忘れている所がありますけど、貴方も立派な殿方ですからね?」
彼が示したソファーに、おどおどと落ち着きのない様子で腰かける。
ゲーム機が出てくるまでの間、じっとここで待っていればいいのだが
コミュニケーションが苦手な者ほど何か話題をと探してしまうもので。
かと言って特別話す話題もないので口をパクパクとさせていると、彼の方から問いかけがあって。
「こ、壊れた…の。…机、から…落しちゃって…」
カウンターの奥にいる彼に届くように、いつもより少し大きな声で答えた。
[ 3階廊下 ‐ 丑円遊 ]
「何てこと言うんです、僕はそんな小賢しいマネはしません。紳士たるもの、
レディの入浴中や着替えを覗くなんて…そんな…そんな破廉恥なああああっことできるわけないでしょう!! そもそも君の方が心配だ!!一緒に住んでるだろう!?くっ、うらやましい…!!」
ユノの言葉に対して反論していたはずだが、いつの間にかただの嫉妬になり果てていた。
先ほどの笑顔から一変、まるで般若のような面構えだ。
彼が示したソファーに、おどおどと落ち着きのない様子で腰かける。
ゲーム機が出てくるまでの間、じっとここで待っていればいいのだが
コミュニケーションが苦手な者ほど何か話題をと探してしまうもので。
かと言って特別話す話題もないので口をパクパクとさせていると、彼の方から問いかけがあって。
「こ、壊れた…の。…机、から…落しちゃって…」
カウンターの奥にいる彼に届くように、いつもより少し大きな声で答えた。
「コントローラー?はいはーい、ちょっとお待ちください!座っててもいいッスよ~」
息を整えると、顔を上げる。
垂れたゴールデンブロンドを耳に掛けながら、壁際に配置されたソファを手で示して、
カウンターの奥へ入る。
ゴスロリ調の少女、キャシーをちらりと横目に見てから、見える範囲の棚で探す。
表向きは輸入品の、大体あらゆるものを揃えているのだが、その為奥に仕舞っているものも多い。
武器類とは別の棚なのは当然として、必然的に数の多いそれを一人で捌くのは、手馴れていても時間はかかる。
補充用の、一番下の引き出しを開ける。
「壊しちゃったんスか?それとも、ちょっと操作が悪くなっちゃったとかッスかね?」
不愉快だろうか、とは思うものの、無言でガサガサやるのもどうなんだろう。
自分で言うのも何だが、人心掌握に長けている訳ではない。
驚かせてしまった手前、気楽にして欲しければとは思うが、今更な気がしなくもない。
特に答えてもらえなくても構わないという軽いノリで聞きつつ、手を動かした。
「狭いくせに、そこらかしこに時計置いているからね…。」
呆れつつも、本人もそれが嫌だとは思っていなかった。
どこからともなく響いてくる時計の秒針はとても心地よくて。
その音を聞いていると何故だかとても安心する。時計店は弥子のお気に入りの場所の1つでもあるのだ。
ふと人の気配を感じた。Harvestが戻ってきたのかと思ったがどうやら違う人物のようだ。
あれは…喫茶店の店主だろうか。離れたところに座ってしまった為はっきりと認識できない。
しばらくその姿を見つめていたがあまり見つめすぎるのも失礼かと思い再び視線を元に戻した。
「それは何よりです」
さして興味もないようにも感じさせるような声音で頷く。
「――貴方の訛りは相変わらずですね、星が綺麗ということですか?」
Lilowの癖のある英語は正直言って聞き取り難い。
なんと言ったか本気で分からないのか無表情で小首を傾げていた。
遮光カーテンをぴらりと軽くめくってみると綺麗な星空が見れる、天気は晴れた星空ということか。
「オマエの言葉使うなら、“いつも通り”ね」
少女のくらい瞳が己を捉え平坦な声色が紡がれていくのを、男は愉快そうに見ていた。
着替えも終わり準備万端に待っていたことを少し残念に思いながらも感心したように頷く。
「今日もいい天気、晴れて星見えるよ」
アオザイの袖を振りながら、訛りのキツイ英語で外を差す。
もっとも窓の外はくらやみに塗りつぶされているだろうが。
「あら有難う」
「!何を無断で写真を撮っているんだ!アリス様も宜しいのですか?!」
「そりゃ最初は驚きましたが、慣れれば苦ではありませんわ」
ベテランのカメラマンのように撮られたことに対しては、もう慣れてしまっているようだ
あからさまにイラついているユノに対して、ニコニコと微笑んでいるアリス
危機感のないアリスに対して、ユノはまるで訴えるかのように伝える
「慣れではございませんアリスお嬢様!何時か入浴中や着替えなどしている時に盗撮されるかもしれないのですよ!此奴は一人部屋!もし壁中にアリス様の写真とか張られていたらどうするのですか!」
エレベーターを下りたところで、先客がいる事に気付く。
一組の男女だ。気にせず離れた机に向かう。
文庫本のスピンを引き抜き、ページ数を見やる。あと十分も経たないうちに、二章目を読み終えるだろう。
(朝まで待とうと思ったが……見に行ってみるか)
読み終えたら再度水につけた皿を見に行こうと決意し、ぺらりとページを捲った。
「僕はストーカーではありません、彼女の”ファン”です」
自慢げに言う彼、何がそんなに誇らしいのだろうか。
続けて首からさげた一眼レフカメラで1枚、アリスの写真を撮る。
そう、彼女の口角が上がるその瞬間を見逃すわけがなかった。
あまりにも自然に行われたその行為は、まるでベテランのカメラマンのそれだ。
「さあ、星を見に参りましょう」
いつの間にか押していたエレベーターのボタン。
扉が開けば「どうぞ、」と微笑んで。
[ 輸入品店 - Kathleen ]
「…!!」
店員は店の奥から出てくるのだとばかり思っていたから
勢いよく店に入ってきた彼に驚き肩を揺らす。
「…ぁ、…あの……ゲームの…コントローラー…」
彼の息が整うのを待ってから、ポツリポツリと言葉を零す。
[ 集会所-Riesealia ]
「 ……ああ、一階の 」
普段余り立ち寄らない場所の為、彼は何も知らなかった様子だ。
目を閉じると店の内装をゆっくり頭の中に思い出していく。
「 …あの店、色んな所から時計の音がするよね 」
一度、或いは二度。その程度しか入ったことはないが、あの
雨の日のような絶え間ない時計の音が好きだった。
「ほんと…忙しい人。」
コクリと小さく頷き、Riesealiaの呟きに自身もひとりごとのようにポツリ返事をする。
自分の言葉に反応して風のように去って行ってしまったHarvest 。
掴みどころがないなと思ったが彼に限ったことではないか。
「時計店…懐中時計が売ってるところ。」
甘い蜂蜜色の瞳をしているこの彼も、何を考えているのやら。
「言っておくが、そのストーカーと言う言葉思いっきりブーメランだからな。ちなみ僕はストーカーじゃない!アリスお嬢様に忠誠を誓った公式のストーカーだ!非公式の貴様とは違うんだ!」
「いや、ストーカーの時点で公式も非公式もありませんわよ?あとご一緒したいなら構いませんわよ」
ニコッと微笑みながらそういうアリスに、ありえない・・・という顔をするユノ。こんな奴と?みたいな
しかしアリス様の言った事なのだ。忠誠を誓い従者のような関係である自分が口出しして良い事じゃない
あからさまムッスーとした顔をして、渋々了承する
「アリスお嬢様がそうおっしゃるのなら・・・」
「有難うユノ。貴方ならそう言ってくれると思っていましたわ」
「は、はい!このユノ、アリスお嬢様のご命令とあれば・・・な、何でも致します所存!」
「 ……慌ただしいな、彼は。時計うさぎみたいだね 」
くすくすと走り去る背中を見つめながら呟く。二人になってしまった、と弥子を見た。
そうか、彼女も店番をしているひとりだったか。
なんてのんきに考えながらも、脳裏にあるのは納品していない絵本数冊の事だけ。
「 …君、どこの店番だっけ?喫茶店? 」
「バイト…あっ!」
退屈だの、暇だのと抜かして同意するところだった。
弥子が口にしたその一言に、思わず声を上げる。
寝起きて1度、品物の整理はしたが、それきりだ。
散らかしたままにする程杜撰ではないが、誰か来ていたら、大変待たせてしまっているかもしれない。
「わぁあ、やっちまった…。すんません、ちょっと行ってくるッス!」
急ぎ、くるりと踵を返す。
そのまま店へ急いだのは、自分以外のバイトに、接客を任せていないというのもあったからだ。
《輸入品店 -Harvest 》
「わー、すんません!いらっしゃいませ!」
到着してすぐ、人影を見つける。
するりと口から飛び出した言葉と、しかし顔もまともに確認しないで、その場で息を落ち着かせた。
「フッ、お前以外に誰がいるんだこのストーカー」
『それは僕のことか?』と怒りをあらわにするユノに、いつもの如く挑発的な態度をとる。
”ストーカー”なんて言っても、彼には特大ブーメランなのだが。
「なるほど、そうでしたか。僕も丁度眠れなかったので…ご一緒しても?」
まるでキラキラという効果音がつきそうな笑顔。
星を見に行くと言う彼女に、少し首をかしげて問う。
[ 輸入品店 - Kathleen ]
此処までは人に会わずに辿り着くことができた。
しかし、ゲーム機を買うにあたって、店員と話すことは避けて通れない。
引きこもりの少女にとって、それは試練も同然。
一刻も早く目的を達成し、帰還しなければ。
「…す…すみま、せん…」
皿を水につけ、一息吐く。昼間に飴をオーブンへ突っ込んだまま閉店時間まで気付かず、そのまま帰宅してしまったのがいけなかった。
よりにもよって、気が付くのが就寝前だなんて笑えない。
とりあえず、こびりついた飴はどうしようもないので、水につけて明日の朝まで様子を見よう。
電気を消し、店の戸締まりをする。窓からちらりと見えた夜空がいやに綺麗だった。
(……眠れない。星でも見ながら、本でも読むか)
部屋を飛び出した際、無意識に手に持っていた本をちらりと見やり、屋上へ向かう。
だんだん頭の中がはっきりとしだして、そうか、2人は黒だったのかと気づく。
黒が活動しだす時間となるともうだいぶ遅い時間ではないのだろうか。
ふいに自分のバイト先の店主を思い出した。
「 バイト遅刻しなければいいんだけど…。 」
頭の中で考えていたつもりだがどうやら口に出していたようで。
再び眠りにつかなければ遅刻しそうだなとは思ったが生憎先程までの眠気はどこかへ消えてしまった。
少し困ったような表情をしつつこれはしばらく眠ることができなさそうだと一人悶々としていた。
「今日は星が綺麗でしょう?だから少し外へ出て見ようかと思ったのですわ」
「さすがアリス様!星空を眺めようなど美しさの極みでございます!」
夜は黒の時間。その為白のポーンたちは眠っていることが多いのだが
ユノとアリスは星空が綺麗だという事に気づき、アリスの案により星空を見に行くことになったのだ
「 黒は皆、そろそろ起き出す頃かな 」
こうも寝惚けた顔の三人が集まっていると言うのは、恐らくそういう事なのだろう。
ろくに時計も見ていなかった為、正確な時間はわからないのだが。
ざっと二人の顔を見ると、 もう一度頼りない表情で笑ってみせた。
「 今日は依頼もこなそうだし。退屈だなあ 」
ちょうど、昨日で絵本もひとつ書き終えてしまった。納品に行くのを忘れていたが。
それにこの嫌に穏やかな夜は、自分への仕事は回ってこないと決まっている。
「あはは、お揃いッスね!これじゃ、揃って朝日は拝めませんかねぇ?」
けらけらと冗談。
実際、仕事に合わせて行動時間をコントロールすれば、自ずと光が月星のそれになる。
半分ほど人を外れているとは言え、不眠での活動なんてやっていられない。
それでなくても目は覚めてしまうのだが、何事も無ければ重視すべき事柄でもなし。
この男の場合、都合でこうなってはいるのだが。
「あはは、お揃いッスね!これじゃ、揃って朝日は拝めませんかねぇ?」
けらけらと冗談。
実際、仕事に合わせて行動時間をコントロールすれば、自ずと光が月星のそれになる。
半分ほど人を外れているとは言え、不眠での活動なんてやっていられない。
それでなくても目は覚めてしまうのだが、何事も無ければ重視すべき事柄でもなし。
「おいそれは僕の事か?完全に僕の事だな!」
「落ち着きなさいユノ・・・御機嫌よう遊さん。私としてはその立派な一眼レフで何を取っていたのか気になりますわね」
「アリスお嬢様!あの男のやる事です!アリス様の盗撮に違いありません!」
口調こそ丁寧な男性。白い髪の毛を靡かせながら歩いていく美男子と呼べる容姿
アリスも慣れてしまったのか、それとも肝が据わっているのか・・・特に気にしている様子ではない
しかし完全にユノとは仲が悪い様子。まったく・・・少しは仲良くできないのでしょうか
重い戸を押し開けば、頭上で来客を告げる鈴が小気味良く鳴り響く。
今では環境音の一つであるかの様にすっかり気に留めなくなってしまっていたが、今日は違う。
――その鈴が、まるで自身を背後から追い立てているような気がして、首筋を冷たい汗が伝った。
(まずいな……。これはかなりまずい)
カウンターを潜り抜け、その奥のちょっとした調理スペースへ急ぐ。
彼の視線の先には一台のオーブントースター。
ごくりと唾を飲み込み、意を決してオーブンの持ち手を勢いよく引いた。
その中にぽつんと置かれていたのは――茶色く焼け焦げ、カラメルソースのような香りを発する水飴の残骸だった。
「どうもこんばんは、アリスさん。こんな時間に貴方に会えるなんて僕は嬉しいです」
廊下の付きあたりから現れたのは、アリスのストーカー…もとい丑円遊。
白い髪を揺らし、紳士的でさわやかな笑みを見せる彼。
しかし、彼の手にはデジカメ…どころか立派な一眼レフカメラ。
「どこへ行かれるんです?そんな男だか女だかわからない奴をお連れになって…」
”男だか女だかわからない奴”
言わずもがな、ユノの事である。
立場的に彼とは仲が悪い。
「・・・・・・・・・・・・」
「ユノ?如何してどんなにピリピリしているのです?」
「あっ申し訳ございません!その・・・あのストーカーがいる階なので気を抜いてはならないと思い・・・」
ストーカー。それはアリスにストーカーしている丑円遊という男の事だ
何の縁あってか、その男はアリスにストーカーのような行動をしている。
踏んでくださいというMのような発言をするほどの男だ。そんな男をアリス様の傍に置けるか!と思っているユノ
しかし、行き過ぎた愛ならユノだって変わらない。アリスを心の中で『貴方も同じような物でしょうに』と思った
返ってきた2つの声に返事の代わりに軽くお辞儀を返し。
柔らかく微笑んだ彼の獣のような瞳の色は怪しくもお菓子のように甘く見え、美味しそうだなとそっと心の中で思いつつ。
「ん…目が覚めちゃって。」
寝起きだということを当てられ、表情こそ変えなかった弥子だが内心とても驚いていた。
心地よい秒針の音。カウンターに腕を乗せ、そこに顔を伏せる。
一定間隔で鳴り響くそれに身を委ねていた時計屋の店主は、程よい眠気を感じ始めていた。
「………」
ふと顔を上げてみる。長い時間ぼうっとしていたようだ。部屋に戻って寝たい。
だが、重たい体はもう面倒くさい、このままここで眠ってしまっても構わないか、と
勝手に思考を変え、再び顔を伏せてしまっていた。
あろうことか、床に叩きつけられたコントローラーには一部にひどいひびが入っている。
思えば相当使い込んだ物だったし、そろそろ買い替え時かもしれない。
「……しょうが…ない」
心底嫌そうに眉間に皺を寄せる。
重い腰を上げ、その辺に放置されていた黒のフード付きロングガウンを羽織る。
そのフードをさぶり、顔を隠すようにギュッと下に引っ張れば、数か月ぶりに玄関の戸を開けた。
輸入品店に行けば売っているだろうか。
できるだけ早く、人に会わないように。そう心の中で何度も繰り返しながらエレベーターを待った。
「 僕もね、さっき起きたところ。…ああ、こんばんは 」
もうひとり、増えた様だ。そちらにもまた蜂蜜色の瞳を歪め柔らかく微笑んでみせる。
日が落ちて少しの時間も経っていないが、もう完全に月明かりが煌々としている。
彼の蜂蜜色は月の光を受け、表情とは裏腹にまるで獣のような色をしていた。
「 …君も、今起きたって顔してる 」
「はいッス、ビショップでーす。ええ、まあそんなところですかね。」
へらり、と笑う。
君付けされた事は気にせず、消された煙草の先をちらりと見やる。
別にそれに構うほど神経質でも無いが、わざわざ言う事でもない。
傍目に見ても寝起きの眠気を帯びていることに気付かれ、あはは、と年相応に笑う。
入った時、Riesealiaに感じたただならぬものには、触れない。
自分から言い出さない限りは、基本的に流しておくに限る…とは、彼なりの生き方の一つだ。
徐に振り向く。入ってきたのはもうひとり
「こんばんはー。」
そうそう、普通ならこの時間にはこう挨拶をする。
重い腰を上げて着いた先は屋上の集会場。
つい先程まで自室の机の前でうつらうつらしていたが、隣の部屋から聞こえた物音が気になり目が覚めてしまった。
気分転換にと思い来た場所にはすでに先客が。
マイペースな彼女は先客に対し特に気にした様子もないようで。
「 …こんばんは。」
ぼーっとした頭のままそう一言、か細い声で呟くように挨拶をした。
誰かの気配に目を開ける。
既に着替えは済んでおり、整えていないベッドに腰をかけてうたた寝していたらしい。
私のことを〝黒ずくめ〟と呼んだ人物の顔を見て返事をするまでに要した時間は三秒。
「器用貧乏さん、おはようございます―――もう朝ですか」
立ち上がりホルスターを両太腿に巻き付けて武器を装備する。
軽く首をコキッと捻ると小気味のいい音が鳴った。
「いつも通りの睡眠でした。貴方はどうなんですか?」
どこまでも暗い双眸がLilowを見据えた。
建物の廊下は薄暗くひんやりとしている。窓の開いているはずもないのだが、
何処からともなく冷たい風が運ばれてくるようで、思わず身を震わせた。
人気のない廊下を足音もなく男が行く。男の身振りは普通のものであったが、
無音の映画でも再生しているのかと思えるほど、衣擦れの音すらしないのだ。
特に用事があるというわけでもなく、何気なく歩を進めていたようであったが
ふととある部屋の扉の前で立ち止まる。
「おはよーさん、よく眠れたか?黒ずくめチャン」
陽の沈んだ時間に似つかわしくない挨拶に、軽々と木材に響くノック音。
返事もまたず勝手に部屋の扉を開けた。けらけらと可笑しそうな笑い声をあげ口角を吊り上げる。
[ 白鷺堂 - Elgar ]
かちこちと厭に大きく柱時計の音が聞こえる。指先が冷たくなっていくのが分かる。
寒さに体が痛みを訴えるのを、霞がかった眠気でやり過ごしながら背凭れに身を預けた。
読みかけの本をローテーブルに置くと、栞もはさまずに閉じてしまった。
珈琲は入れたが、結局一口も飲まずに冷たくなっている。
じわじわと侵食する寒気、暖房をたくためには立ち上がらねばならないのがひどく億劫に感じた。
「………」
小さな呻吟。ずきりと疼いた右足に、男は不機嫌そうに舌打ちした。
「……ん」
真っ白なレースカーテンつきのベッド。
その中でゆっくりと起き上がるのは1人の少女。
寝ぐせのついたぼさぼさの髪は当分梳いていないようだ。
眠い目を擦り大きく口を開けて欠伸をする。
しばらくして、ベッドの横のテーブルに手を伸ばした。
届くか届かないか、という距離にあるそれはゲームのコントローラー。
自分の腕が伸びそうなほどに手を伸ばすが、生憎あと数センチ届かない。
思い切って身を乗り出してみた。
やっとのことで指先に触れたそれは、まるで少女をからかっているかのように指先から離れ
床へと落ちてゆく。バランスを崩した少女も、それを追うようにして。
ドサッ___
「……い”…ったぁ…」
「 ……、…ああ、…ビショップ君か 」
彼は本来上司に当たる人物だが年下故、ついこう接してしまうのだ。
行けないな、と苦笑いを浮かべつつも軽い会釈を返す。
まだ悪夢が続いていたか、と身構えたのは言うまでもない。
「 君はさっき起きた頃かな 」
くすくす、と寝ぼけた幼な顔をする相手に微笑んで見せると、
相手に配慮してか指先でタバコの火をもみ消した。
「アリスお嬢様。御仕度はお済になられましたでしょうか」
「えぇバッチリですわ。ユノ」
クラブの三号室に暮らしているのは、アリス・オルコットとユノ・カリスト
薔薇をこよなく愛す少女アリスと、そのアリスに敬愛と忠誠を誓っているユノ。
ユノはよく女と間違わられるが、実際はれっきとした男。女性であるアリスと共に暮らしているのは如何な物だが
2人はそんな事気にしてはいないようだ。ユノ自身アリスとは親戚のような間柄なのだ
アリス率いる名門オルコット家、そのオルコット家分家であるカリスト家は大火事に巻き込まれ
ユノ8歳、アリス7歳の時オルコット家にやってきた。その為ユノはアリスに忠誠を誓っているのだが
「アリス様、今日は何処へ参られるおつもりですか?」
「特には・・・散歩のような物ですわ。退屈でしたらユノは此処に残りますか?」
「いえ!アリス様の居る所にいるのが僕の義務です。それに・・・何時あのストーカーが来るか分かりません故・・・」
「ありゃ。」
様相を変えて黒に包まれた時間帯。
眠るにも早いが、起き始めにしては遅いような時分に、彼はたまたまアパート内を彷徨いていた。
殆ど昼夜がひっくり返ってしまったような体内時計を御する事を諦め、数十分前に起床してぼやけ気味の頭を、軽く振る。
腰と足に、ホルスターで固定された銀と黒の拳銃をくっつけて、目覚ましがてら徘徊していたのだ。
一見して年若く、下っ端の射手(ガナー)のようだが実はそうでもない彼は、何の気なしに集会所へ赴いた。
「おはようございまーす。」
思わず口から出た、冒頭のそれ。
お粗末なそれに付け加えるように、Riesealiaに挨拶の言葉を投げ掛けた。
「ありゃ。」
様相を変えて黒に包まれた時間帯。
眠るにも早いが、起き始めにしては遅いような時分に、彼はたまたまアパート内を彷徨いていた。
殆ど昼夜がひっくり返ってしまったような体内時計を御する事を諦め、数十分前に起床してぼやけ気味の頭を、軽く振る。
腰と足に、ホルスターで固定された銀と黒の拳銃をくっつけて、目覚ましがてら徘徊していたのだ。
一見して年若く、下っ端の射手(ガナー)のようだが実はそうでもない彼は、何の気なしに集会所へ赴いた。
「おはようございまーす。」
思わず口から出た、冒頭のそれ。
お粗末なそれに付け加えるように、Riesealiaに挨拶の言葉を投げ掛けた。
[ 集会所-Riesealia ]
冷や汗を強引に拭いながら、疲れたような表情でドーム型の壁に寄りかかっているひとりの男。
額に張り付いた金髪を鬱陶しそうに掻き上げながら、誰もいない会議室で煙草に火をつけた。
また、悪い夢を見たのだ。それだけならば子供かと笑われてしまいそうな話だが
彼にとっては洒落にならない。彼岸の副作用が見せる悪夢は、まさに地獄其の物なのだから。
「 ……やれやれ…。 」