12月自作 『鐘・刀』「見者アドウィナ」前編
- カテゴリ: 自作小説
- 2020/12/31 23:56:53
こんこんと白い雪が降る中、大広場に弔いの鐘が鳴り響く。 正面にそびえる王宮から聞こえるそれは、悲痛な悲鳴のようだ。 嗚咽のごとき、重く低い音色。聞けば聞くほど憂鬱になる―― 西の大国エティア。 王都エルジにて王が急逝したのは、王都で雪まつりが開かれた直後のことであった。...
こんこんと白い雪が降る中、大広場に弔いの鐘が鳴り響く。 正面にそびえる王宮から聞こえるそれは、悲痛な悲鳴のようだ。 嗚咽のごとき、重く低い音色。聞けば聞くほど憂鬱になる―― 西の大国エティア。 王都エルジにて王が急逝したのは、王都で雪まつりが開かれた直後のことであった。...
その晩も女の良人は床から出られず、苦しそうにうんうん唸っていた。 何日も寝たきりのせいで、手足の節々が痛むという。 かわいそうにと女は、娘と一緒に良人の体をさすってやった。 そうして翌日、日が傾くのをじりじりそわそわ待って、市場へ出かけた。 五色の吹き流しが下がるお店に...
火鉢を出したのだけれど、炭がなかった。 ほんわりと柔らかな熱を手のひらに当てるのは心地のよいもの。雪が降ってからなぞと悠長なことを思わずに、毎年蔵から引っ張り出している。 母さんごめんなさいと、娘が厨房で、両手にはあはあと息を吹きかけながら茶碗を洗っていた。吐く息が真っ白だ。 「買いに行...