オニトモさん(湖鬼) 「鬼風」(黒の舞師番外)
- カテゴリ: 自作小説
- 2018/03/17 03:46:09
格子をあげると、しののめの空が鮮やかに、薔薇色に染まっているのが見えた。 紫明(しあ)のおろしが、びゅうと吹きこんでくる。 白い寒気が入るやろと身構えた狐目の婦人は、風のぬるさに驚いた。
「なんやこの、柔らかな熱(いき)れは。ぬるすぎやわ」
用意周到、裏地ぶ厚い唐衣をぎっちり重ねた上に、裳ま...
格子をあげると、しののめの空が鮮やかに、薔薇色に染まっているのが見えた。 紫明(しあ)のおろしが、びゅうと吹きこんでくる。 白い寒気が入るやろと身構えた狐目の婦人は、風のぬるさに驚いた。
「なんやこの、柔らかな熱(いき)れは。ぬるすぎやわ」
用意周到、裏地ぶ厚い唐衣をぎっちり重ねた上に、裳ま...
ちくちく。ちくちく。 きゃ。痛い。痛いです。なにするんですか?! 刀身に走る嫌な感触で、私は目覚めました。 なんでしょう、けっこう素敵に、気持ちよく、みのむしのようにすやすや眠っていましたのに。 私、猫目さんが丹精こめて作って下さった鞘を、被っているはずなのですけど。 黄金牛...
ユインから密書が来たその日。夢見の導師と四人の弟子は|朝餉《あさげ》を|絶《た》って、湖の岸辺で鎮魂の歌を歌った。 それは遠くふたご山の小さな邑へ捧げる、哀悼の歌だった。 それからソムニウスはカディヤと私室に入り、最長老に預けていた髪を調べ倒した。あのレヴェラトールのこと、髪になにか施していても不...
夢見の導師は、急いで鉱山の下層にもぐった。(なぜにもっと早く気づかなかったのだ!) 臍をかむ思いで、低木にびっしり咲いている青い花をごっそりつみとる。弟子もフェンも手伝い、みなで懸命に花をとり、いくつものかごに花をいっぱいにした。 その途中で、フェンもたおれた。彼もまた、同じ病に侵されていたのだ。...
「ソム……」 熊の毛皮がもふりと動く。 あたたかな毛の下から、白い腕が伸びてきた。 つややかに光る、くれない色の爪。 寝台にねそべるソムニウスは微笑し、その手をとって口元に近づけた。 やさしく口づけてやると、毛皮の下から甘やかな息がもれてくる。「宿泊代がタダって良いよなぁ...