薔薇園へようこそ 「ティリンの竪琴」6
- カテゴリ: 自作小説
- 2017/12/16 10:53:00
また胸が、痛くならないといいけど……
ティリンは他の二人の長老の弟子と一緒にカンテラを掲げ、ひやりと寒くて暗い封印所に降りた。 道中、他の二人はくすくす笑い合って四六時中ぺちゃくちゃ喋っていた。同い年で、仲の良い親友同士らしい。 封印所の中を進み、氷の柱の在る洞窟の...
また胸が、痛くならないといいけど……
ティリンは他の二人の長老の弟子と一緒にカンテラを掲げ、ひやりと寒くて暗い封印所に降りた。 道中、他の二人はくすくす笑い合って四六時中ぺちゃくちゃ喋っていた。同い年で、仲の良い親友同士らしい。 封印所の中を進み、氷の柱の在る洞窟の...
ラデル、エルク、レイス、ジェリ。 赤い薔薇は香りが弱かったが、実に鮮やか。どの株の花も見事に美しかった。 ティリンの師は薔薇の花を摘み、足を洗う湯の中に花びらをちりばめて愛でた。 しかし月が変わって夏が来ても、一番右の薔薇だけは一向に花をつけなかった。 他の薔薇がみな散り。ラヴェンドラの花が終わり...
その日。師は、花畑の世話はよいから休んでいるようにとティリンに命じた。 師が花を摘むそばで、ティリンは竪琴を爪弾いて気分を鎮めた。夢でふしぎな黄金の人につかまれた胸が、なんだかじくじく熱かった。 あの人は、一体だれ? 紫の花畑を見るのが怖くて、ティリンはずっとうつむいていた。 師は花畑の世話をあ...
南風が吹きおりてくる。 円い岩間の花壇一面に咲いている紫の花が、さわさわ揺れる。 紫紺の中には、黒い衣の導師がひとり。身をかがめて花を摘んでいる。 金の髪がまぶしい……。 ティリンは竪琴を奏でる手を止めて、思わず目を閉じた。「どうした?」 花畑から気遣う声が飛んでくる。...
文官に案内された別室には、黒い衣の男がいた。 その男こそ寺院から遣わされてきた導師であり、試験官であった。 生まれて初めて見る導師の前で、ティリンは一生懸命竪琴を爪弾き、歌を唄ってみせた。すると導師は、「素晴らしい、素晴らしい」と目をみはり、細い手を組み合わせてティリンをベタ褒めした。「歌声も素晴...