銀の狐 金の蛇 15話 「浮遊」(前編)
- カテゴリ: 自作小説
- 2017/07/01 16:09:52
岩窟の寺院での修行は実に厳しい。 蒼き衣の見習いが導師となるには、数多の試験をこなさねばならない。 十代でなれる者は皆無。二十代前半でなれれば天才とみなされる。 何十段階もある試験の最後には、ほとんどの者が一度ならず足踏みする最後の関門がある。
幽体離脱。
導師たちの間では離脱状態になることを...
岩窟の寺院での修行は実に厳しい。 蒼き衣の見習いが導師となるには、数多の試験をこなさねばならない。 十代でなれる者は皆無。二十代前半でなれれば天才とみなされる。 何十段階もある試験の最後には、ほとんどの者が一度ならず足踏みする最後の関門がある。
幽体離脱。
導師たちの間では離脱状態になることを...
当主さまは私の棺を荷台車に乗せて、王宮から逃げようとしたのです。 突然、当主さまをぶんぶん音を立てる蟲たちが追い立ててきたからです。一体どこから放たれたのか、鉄の殻をもつ蟲たちはとてもたくさんいて、当主さまを取り囲みました。 そうして一斉に歌い出したのですが。 羽音の歌に混じってはっきりと、固い声...
天の涙が私を濡らします。 しとしと、しとしと、私を濡らします。 いいえ。泣いてなどおりません。私はただ、空から降るものを浴びているだけです。 「姫よ。姫」 私の足元にいるものが呻きます。しわだらけの手を伸ばし、私に爪を立てながら。 「姫よ。姫。我の血を吸え」
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