銀の狐 金の蛇 13話 「開帳」(後編)
- カテゴリ: 自作小説
- 2017/05/31 09:28:22
本当は。師がそんなことを語ってくれた覚えはないし、予言学大全は始めの序文しか読んでいない。
でもたぶん、そんなに的外れなことは言ってないだろう。それが証拠に、勉強家でかの本を熱心に読破した弟子がうんうんと深くうなずいている。
「よいことが起こる?」「それはどんなことですだね?」
おびえる...
本当は。師がそんなことを語ってくれた覚えはないし、予言学大全は始めの序文しか読んでいない。
でもたぶん、そんなに的外れなことは言ってないだろう。それが証拠に、勉強家でかの本を熱心に読破した弟子がうんうんと深くうなずいている。
「よいことが起こる?」「それはどんなことですだね?」
おびえる...
「クラミチの使いが来なさったせいだ!」
その叫びは、礼拝堂にいる人々にたちまち伝染した。
ひとつところではなく、群集のそこかしこから次々と声があがる。
「魚喰らいさまが、婆に力を与えたんだ!」
「そうだそうだ! だから呪いがほんとになったんだ!」
「病がはやったときと、おんなじだ!」
――...
急いで支度を始める師を、弟子が手際よく手伝ってくれた。 否、実のところ師はほとんど何もせず、なされるがまま。弟子はてきぱき師の髪を撫でとかし、濡れた布で師の顔や手足を拭き、黒き衣をかぶせてくれたりと、いたれりつくせり。 帯を締められ、寝台に座して靴紐を結んでもらうなり。『 靴紐は、師が弟子に結ばせ...
「ソム、許して……」 じんわりやけどしそうなほどの手のぬくもりで、ソムニウスは夢から覚めた。「よかった。熱は出てないようですね」 寝床でひたと体を寄せる弟子の白い手が、おのが額に当てられている。 弟子が肌を重ねてひと晩中暖めてくれたおかげで、寝台はぬくぬく。しかして|小部...
夢の中のソムニウスの反応に、親友はくるくるとせわしなく、からめた両の指を回転させた。どうやら、呆れているらしい。
『やっぱりですか……。夜伽はさせない、泊めてもなにもなし。サイアクですね』『ちょ、ちょ、ちょっと待て! み、未成年に耳たぶ齧るなんて、やっていいのか?! て...