3月自作 たんぽぽ 「食聖」3/3
- カテゴリ: 自作小説
- 2017/03/31 03:02:53
夜風が中庭に吹き降りていた、あの夜。
ゴドフリートことフーシュ殿下は、真摯な顔で憂いた。
『ジャルデ陛下に言われた。そなたは信用してよい味方、事情を話してよいと。だから腹を割って話そう。実は……我が兄、王太子フライヒの料理は、どれも塩辛い』
作る者の性格は、如...
夜風が中庭に吹き降りていた、あの夜。
ゴドフリートことフーシュ殿下は、真摯な顔で憂いた。
『ジャルデ陛下に言われた。そなたは信用してよい味方、事情を話してよいと。だから腹を割って話そう。実は……我が兄、王太子フライヒの料理は、どれも塩辛い』
作る者の性格は、如...
『食聖ホーテイはなんでも食べてしまう人だったと、いわれております。
だれもがふだん見むきもしないものでも、おいしく調理してごちそうにしてしまうのです。
そんなホーテイのこどもたちもみな、遺言に従って、名だたる料理人になりました。
そのなかのひとりルーテイは、南の大国バナーラ王の料理人となり、半...
わが名はフーシュ。母国の言葉で「魚」という意味だ。
わが国では、料理の腕、調理の才能こそが何ものにもまさる価値ある技能とされており、食材の名をつける親が実に多い。とくにフライヒとフーシュ、つまり共通語でいうところの「肉」と「魚」は、一、二をあらそう人気の名だ。
肉料理と魚料理、どちらも甲乙つけ...
眉根を寄せて、顔中皺だらけの最長老が聞いた。
『なぜそなたの母親は、そんなことを?』
『母さまは、夢で、いってたの。絶対ぬいだらだめよって!』
『む……』
――『なんとまあ。あの子、あなたと同じ種類の力の持ち主ですか?』
ハッとするテスタメノスに促されるま...
ソムニウスはしばらくの間、思考できなかった。
完全に意識が飛んでいたのだろう。
沈んでいたおのれを引きあげてくれたのは、囁くような歌声だった。
『兄はクラミチ走る森
両のかいなをケガミにくわれた』
どこかでだれかが、歌っていた。
『姉はクラミチ眠る石
両のくるぶしケガミ...