自作2月 鬼 「食堂のおばちゃん」 後編
- カテゴリ: 自作小説
- 2017/02/28 18:02:48
俺が前にもまして疑問符をとばしていると。左翼の料理長がやってきて、ジャルデ陛下がお召しであると告げてきた。
たまごのせ瓶をずいぶん堪能されたから、あたらしいレシピを考えろ、とか、そんな思し召しをいただくのかと思ったら。
「おばちゃん代理。なんかな、ついさっき、こんな報せが届いたんだが」
...
俺が前にもまして疑問符をとばしていると。左翼の料理長がやってきて、ジャルデ陛下がお召しであると告げてきた。
たまごのせ瓶をずいぶん堪能されたから、あたらしいレシピを考えろ、とか、そんな思し召しをいただくのかと思ったら。
「おばちゃん代理。なんかな、ついさっき、こんな報せが届いたんだが」
...
陛下のありがたい思し召しで王宮一階厨房のパン係になって、二週間すぎた。
日がたつにつれ、俺の疑問はいやますばかりだった。なにせ食堂のおばちゃんは、たしかに食堂のおばちゃんのはずなのに、俺のことをまったくすこしも覚えていないようなのだった。
『おばちゃん?!』
『おまえは…&hell...
忘れもしない。あれは五年前のこと。
短い夏のおわりに、両親をなくした。
父はかなりな晩婚で、俺が生まれたときには、すでに五十を越えていたらしい。心臓は丈夫だったが、脳の血管が弱っていたようだ。雪がしんしん降る夜、洗い場でたおれたままいってしまった。
母はうさぎのように、さびしくなると死んでし...
「いーえ、私のことはお気になさらず。まあでも、あの赤いビロードの服を着てくれば、文句なしにあなたの隣に座れたでしょうけどね!」
投げやりな冗談を放つ弟子に、師は思わず苦笑いを漏らした。
「いやいや、あれを着るには育ちすぎだろう」
失礼なもてなしに憤る気持ちは出てこない。弟子が代わりに怒っ...
突然の捕り物のために、ソムニウスと弟子は礼拝堂の片すみに退くのを余儀なくされた。
笑い声すさまじい老婆が地下房へ押し込まれたあと、神官たちは詳しい事情を男たちから聞きだしたのだが、みな口々に喚きたてるうえに訛りがきつい。
そのうえ彼らは時折ちらちらと、黒い衣の導師に怯えた視線を投げてきた。
...