7月自作/砥石 『開けるな危険』(後編)
- カテゴリ: 自作小説
- 2015/07/28 21:03:02
かくしてどろどろの塩漬け魚にまみれた青年は、折れた剣を抱いて野営地から逃げ出した。 とにかく臭いので、敵兵たちはみな臭素爆弾だと思い込んで怯み、すっかり逃げ腰。その隙をついて味方の兵士たちは森の中へ。いや、味方もあまりの臭さにほうほうの体で逃げ出したのだった。 青年自身もひいひい言いなが...
かくしてどろどろの塩漬け魚にまみれた青年は、折れた剣を抱いて野営地から逃げ出した。 とにかく臭いので、敵兵たちはみな臭素爆弾だと思い込んで怯み、すっかり逃げ腰。その隙をついて味方の兵士たちは森の中へ。いや、味方もあまりの臭さにほうほうの体で逃げ出したのだった。 青年自身もひいひい言いなが...
翌日。天の機嫌は悪くなり、夕刻まで豪雨が降り続いた。 街道をわざと避けて行軍していた軍は、たちまち速度を奪われた。草地は豪雨でぬかるみ、泥炭層の土は荷車の足を呑みこんだゆえに。 軍隊は日没までには丈高く防壁を築いた砦に入れるはずだったが、道程の半分ほどしか進めなかった。 司令官は仕方な...
シュッ シュッ シュッ シュッ 砥ぐ。砥ぐ。黒はがね。 シュッ シュッ シュッ シュッ 砥ぐ。砥ぐ。銀の床。 「なんか、刃がつかないなぁ」 出刃包丁をしげしげ眺め、青年は首を傾げる。白いエプロン、白い帽子。赤いネッカチーフ姿で、途方にくれたように空を仰ぐ。 夕闇迫る天は銅(あか...
泉? 泉とは一体? それよりも、僕を救ってくれる人なんているのでしょうか。こんな大失敗をかました僕を、許してやろうなんていう奇特な人なんて。 あのおかしい我が師でさえ、呆れ返っているんじゃ? だから、影も形もなくだんまりなんじゃ? それとも白の導師に完全におかしくされた? ...
「閣下。この件を収めるために、大陸同盟会議が召集されました。閣下はこれより大陸同盟の預かりとなり、国際裁判を受ける事になります。どうか、お覚悟を」 扉ごしのホニバさんの言葉に僕は震え上がりました。 なんという事態。よもや大陸同盟を引っ張り出してしまうなんて……。...