虹
- カテゴリ:小説/詩
- 2025/07/14 22:54:16
『この黄色いのは?』
『総武線、地下鉄じゃないけど、これに乗ると海へ行けるんだ!』
『わぁー 太平洋ね!』
カラフルな地下鉄の案内図を見ながら君は興奮していた。
『地下鉄の地図ってとてもきれい!
たくさんの色を使って次々に乗りかえていくうちに
迷子になってしまいそう!』
虹からはぐれた色の帯
整頓された机の上が
アスファルトの街だとしたら
地下鉄は長い引き出しのようなもの
乱暴な手つきでしまわれると
中のものはゴチャゴチャになってしまう
つないだ手がなだれ込んで来た人たちで引き裂かれた
『あっ! 押さないで!』
みんな景色も無いのに暗い窓の外を見ているのはなぜ?
目を背け合ったまま虚ろな表情をしているのはなぜ?
小刻みに震える手で何かを耐えているのはなぜ?
あれほど楽しみにしていたのに
現実の地下鉄は色も無く
君は泣きべそだった
どこまでも続く空洞の中をめぐるのは
数え切れない足音の群れと
手から垂れ下がったカバンの波
無表情の人々は
危険で美しい虹に閉じ込められているのも知らず
運ばれていく