10月自作 (月見)「玻璃の珠」後編
- カテゴリ:自作小説
- 2020/10/31 22:26:55
がら開きのトラックの窓から、びゅうびゅう風が吹き込んでくる。
青空の下に、真っ赤な砂漠が広がっている。
道なき道を、トラックは走る。ひたすらに。地平線の向こうを目指して。
つらなる砂丘。孤空を飛ぶ鳥。はるか遠くに、ラクダの列。
えっ? 隊商? これは……夢?
あ……違う。私、夢を叶えたんだ。
一所懸命働いて、お金を貯めて。トルコから始まるトラックツアーに参加したんだっけ。
すごいな、この砂漠。はてしない。どこまでもどこまでも続いてる。
終わりがない。このままずうっと、この景色だといいな。
だって風が気持ちいいんだもの。熱くて乾いてて顔を焼いてくるのに、全然汗が出ない。
窓から身を乗り出す。髪が後ろになびく。
ああこの旅、ずっとずっと続くといいな……。
*** *** *** *** ***
すばらしい色合いの珠ができましたね。
赤の砂漠に蒼の空。渦巻く風の中で輝く魂の、なんと美しいこと。
ええ、作るのは簡単なのです。
思いっ切り、この白銀の管を吹く。
ほんとうにただそれだけで。
種も仕掛けもございませんよ。
一たす一は二であるように、夜が明ければ朝が来るように、
これは当然の結果なのです。
殻は儚く、触れると割れてしまいそうですが、なかなかどうして頑丈なのです。
中にいる者が出たいと思わない限り、珠の中に広がる夢幻は消えないでしょう。
これでおしまいにしたいと思わない限り。
清らかで哀しい魂には、似合いの器だと思いませんか?
そうですよね。今にも消えてしまいそうな、守ってあげたくなるような魂にはうってつけのゆりかごです。大事に抱いてお帰りなさい。
古い器は、どうすればいいかって?
それはあなたにお任せしますよ。
とっておいてもよいし、溶かしてもよいし、なんなりと。
私だったら残しておきたくはありませんね。手首に傷跡がたくさんついた体なんて。
動く手足が必要なら、新しいのを作ります。
ええ、それは吹くだけの珠とは違ってかなり難しいですが。
あなたならきっと作れるようになるでしょう。
お友達を心から心配し、深く愛しているあなたなら。きっと。
がんばってくださいね。大いに期待していますよ。
百年ぶりの弟子たるあなたに、玻璃の光の加護がありますように。
コップかな?