『持つ者の苦悩…』
- カテゴリ:自作小説
- 2018/09/27 23:45:25
藤島奈緒子は閑静な住宅街の2階建てアパートに住んでいた。
今日は、秋雨前線と台風の影響で、朝から一日雨降りである。
午前中は、昨日受けた就職採用面接の嫌な記憶に苛まれ続け、
何をしても、繰り返し憶い出してしまう自分に辟易していた。
階段を上がって最初の部屋だ。東南に窓がある角部屋だから
朝日も入る気持ちのいい1DK。1LDKじゃないの?…と
不動産屋で聞いたら、寝室でないDKが8畳未満ならL無し
というそうだ。ここは寝室6畳DK6畳なので1DKなのだ。
コンビニから戻った奈緒子は、買って来たおでんと缶酎ハイ
を机の上に置いた。情けないな…独身女が四十で無職ってさ。
おでんカップの蓋をあけ、割り箸で摘みながら酎ハイを飲む…
奈緒子はスラリとした人目を引く美人だ。学生時代から男子
や男の先生を見つめるだけで、相手が赤面して緊張する事を
面倒に思っていたが、前の会社では異性の詰め寄りや同性の
嫉妬、嫌がらせに遭って退社していた。かと言って、容姿を
活かす仕事だと…理系の奈緒子には全く向いてないのだった。
昨日の面接…脂ぎった中年男が、奈緒子をあからさまに眺め
回し『独り暮らしは寂しくないかね?』って…何考えてんだ!
化学薬品の研究をする会社が、女を外見で採用してどうする?
後ろ髪をゴムでひっ詰め、地味な服に眼鏡の姿で挑んだのに…
奈緒子は、大学の研究室に残ったほどの化学好きだが、別に
男が嫌いな訳ではなく、自分から求める男がいなかったのと、
縁談話があっても、結婚より目前の研究の方を選んでただけ。
上下ヨレヨレのジャージ姿でパサついた後ろ髪をキャップ帽
の後ろでまとめ、目深に被って顔を隠してもなお、奈緒子は
小顔でスラッと長い手足と程よいバストのいい女。隠せない。
ブランク空いたな、研究職は無理かも…少し酔いが回ってた。
ゴンゴン…『藤島さん、いらっしゃいますか?』玄関ドアか
ら声がする。奈緒子は箸と缶を置いて立ち、モニタを覗いた。
『新聞なら取らないわよ』『山崎です…前の会社の』『…?』
『連絡手段が無く直接伺いました。どこかで話せませんか?』
前の会社の山崎…あぁ、隣の情報処理課に…居たな、山崎課長。
『もう辞めたのです。お引き取り下さい』『事情は調べた上で
伺っております。復職のお願いをしに参りました。どこかで』
『承知しました。2時間後に◯◯で伺います』奈緒子は答えた。
2時間で酔いは醒めるだろうか?奈緒子は身支度を整え、さっ
ぱりした普段着になり、指定した喫茶店に入った。カウンター
にいた中年の男が立ち上がる。『藤島さん、お久しぶりです』
出された名刺を見ると、山崎は基礎研究課の課長になっていた。
奈緒子が元居た所だ。藤島は、まず研究の現場が劇的に変化し
た事から話し始めた。学習型人工知能の急速な発展で、素材の
組合せを試す、膨大な数の仮想実験ができるという。研究員は、
忍耐の要る作業から解放され、高い創造性が必要になった…と。
『会社は学習型AIの活用に舵を切り、情報課は緩い社内管理
やサイト運営で怠けてた分、最先端の勉強で大変な事になった』
『その上、素材研究の勉強もなさる山崎さんは凄いと思います。
とても…私がお役に立つとは思えませんわ』正直な感想だった。
『今のAIの学習量は膨大です。億や兆を超える量も扱えます
しかし、何をどう学ばせるか?知能を育てるには人が必要です。
閃く発想力と取り組む情熱が。…藤島さん、少しも遅くはない。
私らや研究者たちと共に、新しいAIの教育を手伝って下さい
奈緒子は居住まいを正して山崎を見つめた『お話はよく判りま
した。私には勿体ないような、とても魅力的なお話ですけれど』
何か言いかけるのを制し、山崎は少し照れた顔になって話した。
『基礎研究課再編の際、色々調査した結果…元上司小出課長の
パワハラ、セクハラが発覚しまして。あの男は解雇されました。
藤島さんの退職の経緯も察する所となり、研究員の切望もあり
こうして伺っております。女性労働環境の改善も進んでいます』
『私、自信ありません…私になんて…』情けなさに頭が垂れる。
『お願いします、藤島さん』深く頭を下げる山崎。その真剣な
様子に、奈緒子は目頭が熱くなった。情熱を持っているんだわ。
『山崎さん、頭を上げて下さい。お願いしたいのは私の方です。
一生懸命勉強しますから、私を山崎課長の下で働かせて下さい』
『本当ですか?』『えぇ。よろしくお願いします』頭を下げる。
『ありがとうございます』山崎は奈緒子の両手を握って言った。
『そしたら…僕との交際も考えて下さい』『え?』驚く奈緒子。
『落着いてからで結構です。あの…真剣です。突然すみません』
山崎は、少し赤くなってうつむいてしまい、目が上げられない。
『ズルいわ、研究への情熱も本物ですか?』『…も、勿論です』
彼はもう、全身が真っ赤に染まった様子で、固まってしまった。
『からかってごめんなさい。落着いたら、必ずお返事致します』
山崎は、改めて深々と頭を下げて礼を言うと、社へ戻る手続き
を簡単に説明して去った。奈緒子は、突然の復職話と、突然の
交際申込みにしばらく呆然としたが、山崎はいい人だと思った。
翌月、奈緒子は髪をショートにして古巣に戻り、何と半年後に
7つ歳上の山崎と結婚、山崎も初婚だった。こうして仕事人間
の堅物山崎と、研究に没頭する美女奈緒子は良い夫婦になった。
山崎は、奈緒子が研究に情熱を傾ける横顔が好きで、奈緒子も、
山崎が仕事に情熱を傾ける姿が好きという。2人はそれを認め、
尊重し、仕事や研究以外でも大切なものを手に入れたのだった
それもあるかもですね^^可哀想に…やっぱり美人は中身で
見てもらえない^^真面目な小説なんてないですよ。これは、
ただ…作り話というだけです。事実じゃないのだからどんな
解釈しても、登場人物は怒りゃしません。面白くていいです^^
言ってますが、実は美人な奈緒子さんのことが気になっていたのでは
ないでしょうか?わざわざ辞めた人を家まで訪ねていって
また復帰させようとするなんて!それも自分の部署に。
下心が透けて見えるといっては言い過ぎ?!
fumicさん、まじめな小説なのにこんな解釈をしてしまい
ごめんなさい。
まぁ…特に女性は、美し過ぎる可愛い過ぎる…は、衆目を集め
るし、雰囲気の悪い男や変質者の近くでの危険度も増すかと…
『普通ににこやか』『普通に爽やか』位の外見がいいのかな^^
そしてやっぱり、中身で勝負したい!と思うのではないかと。
持ってない自分にとってはうらやましいことでも
その人にとっては悩みの種になることも
ありますよね。持ってるからといって幸せであるとは
限らない。だからあまり人とは比較せずに
自分が持ってるものを大切にしようと思います^^
そうですね、痛い所です^^仮説を…としたけれど、苦しい。
山中教授のIPSや青色LEDも古い期待薄論文から始まる。
奈緒子も躊躇してたし、山崎が発案者に敬意を示した熱意と…(苦しい^^)
本人も、40過ぎなのに勉強し直す大変さを覚悟してるので、
『小説は現実よりも奇なり』と思って大らかに見て下さい^^
近所に、武器と思えずに隠れるように散歩する女性が居ます。
いつも目指し帽でとても地味な服ですが…まるでモデルです^^
それも第一線というのは、現実あり得ないと思うし
40過ぎの人の卒論と言えば20年近く前のモノだから
それが役に立つと言う事も有り得ないと思うけれど・・・・
(ごめん、この辺り、本当に気になってしまうのよ。いくら小説でもありえへん!って)
見た目で人目をひいてしまうことを「生まれながらの武器」と捉えるタイプの女性と
そう思えないタイプといて、そう思えない美しい人は大変かもね。
そうでしょう?山崎課長はいい人なんです。僕ね…頑張って
いる人は、どんな環境でも誰かがきっと見てると思うんです。
綺麗な人は…それだけで妙なリスクも背負ってる気がします…
自分の内実に見合った外見も必要ですよね~~!
てか、山崎課長、いい人や~^^
僕が解説するのも…なんですが、奈緒子はロングの髪が自慢
でした。でも、これから猛勉強して中身で勝負しようとする
奈緒子の、意気込みの決意だろう…と思います^^
何を着てもきれいなんですよね~^^
これからどうするか・・・
そんな時に
前の会社からのお誘い
嬉しかったでしょうね。
ロングの髪を切ったのは
なぜ?
ここで頑張ろうという決心なの?