自作6月 告白「占いの館 後編」
- カテゴリ:自作小説
- 2018/06/30 23:41:10
なんてこったい。あたしはあんたに、こんな占い小屋に来るんじゃなくて、神殿に行って懺悔しろと言うつもりだったんだがねえ。
まさかこんな、突拍子もないことを聞くことになろうとは。
百年近く生きてきて、こんなにびっくりしたことは初めてだよ。
「俺はどうしても過去へ……戻らないと……絶対に戻らないと……あなたにそれができないのなら……う、ウサギを……ウサギを、探してください。どこにいるのか、その水晶玉で見つけてください。お願いします……お願いします……!」
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「それであんたが、俺がどこにいるか占ったって? ティルエル・ファラーデさん」
おうともさ。失せ物探しは得意なんだよ、ウサギさん。しかしまさかおまえさんがじきじきに、あたしのもとにやって来なさるとはねえ。まあ、虫の知らせはあったけど、こうして現実になるとびっくりだよ。
「お。予見してた?」
もちろんだとも。この水晶玉でちらりと見えたよ。あんたの姿がね。
「すっげえ。あんた、本物の占い師なのか。あ、ごめん、いやその、こういうところのって、ニセモノ多いじゃん?」
いいよいいよ。よく言われることさ。
「なんていうか、えっと、世話かけたね」
赤毛のお兄さんは首尾良くあんたを見つけたんだね。
「うん。もうなんていうの? 生ける屍みたいな感じでふらふらーと、俺の塔にやって来たよ。今はメキドの森深くにある俺の家にさ。いやさ、ざっと四百年ぐらい前にさ……あいつが行方不明になったときね、俺んちの倉庫に置いてたシェルターがなくなったのよ。発動すると地中深く潜って、四百四十四年と四十四日と四十四時間四十四分四十四秒がちがちに固まるって最強のやつ。あ、時間設定はあれね、技術者のシャレっていうかさ、腕を確かめるために設定したもんだから、あんま気にしないで。
で、まさかそれ使用しちゃったのかって大騒ぎして超音波装置で探しまくってたら、三日後にさ、ひょっこりあいつ、戻ってきたのよ。四百四十四年後から帰ってきましたとか、ぼそぼそ言ってさ……あの騒動からうん……四百四十四年たったからさ。あいつが来るのは知ってた、うん」
ウサギさん。あんたは……いったい?
「俺? ただの技師だよ。あ、えっと、年取らなくって死なないタイプのね。なんていうか、ごめんね、ティルエルさん。びっくりしたでしょ。ってことでにんじんクッキーの詰め合わせ……赤毛のあいつに頼まれてさ。お礼言うの忘れてたって。あいつが焼いたもんだよ。味はエティア王宮のお墨付きだぜ」
いやいや、あんたにも相当びっくりだよ。不死身のウサギねえ。あんた、すでに千年くらい生きてそうな雰囲気だね。世の中にはすごいものがいるもんだ。
「まあなんだ、あいつは無事に過去に戻ったから。俺がかつて設置した某所の時の泉に突っ込んでやったんだ。でもさ、あいつディーネのことが起こる前に戻りたがってたけど……泉の不具合でそれは叶わなかったんだよね……ああ、このお茶おいしそうだね、もらっていい?」
あ? ああ、いいよ。どうぞ。
「俺、なんとか泉を直そうとしたんだけどさ。あの時代、なんだか設置場所の磁場かなんかが狂っちまって、あいつが生きてた間は、ついぞ修正できなかったんだよな……あいつには気の毒だったけど……でもまあ……俺は技師だから。なんとかなったよ」
ということは、赤毛のお兄さんは、望みの過去へ行けたのかね。
「いや。時間遡行はあきらめて、別の方法でディーネを……うお! このお茶うまいね。ほんのり甘くって」
なるほど。お兄さんは、幸せになれたんだね。
「なれたのかな……あれが蘇りといえるのかどうか。俺もそういうの経験したけど、あいつのは……どうなんだろう……」
――「ぺぺ! 話終わったか? サーカス始まるぞ! 早く来いって! 早く!」
「あ、ししょー」
おや、お連れさんかい?
「うん。髭ぼうぼうでむさくて、鼻ほじっててごめんねえ」
いやいや、とても気さくそうな人じゃないか。隣のサーカスは大陸一だよ。楽しんでおいで。
サーカスの周りの見世物もおすすめだよ。狼男に大男。かわいい龍蝶もいる。
「|龍蝶《メニス》を見世物に? それ、大陸法違反じゃない? 希少種の保護条例あるっしょ」
条例が適用されるのは純血のやつだけさ。あの龍蝶は混血だよ。鳶色の髪だもの。えらくイイ子でりんごが好きで、くれてやると喜ぶよ。あんたの鼻に、いくらでも口づけを落としてくれるだろうね。ひっひ。
「うんまあ……おすすめありがと」
「ぺぺー! 早くうう! はーじーまーるぅー!」
「へいへい、ししょー了解っす。そんじゃね、ティルエルさん」
ああ、わざわざすまないね。ありがとうよ。
にんじんクッキーか。どれどれ……
ほうこれは……ほろっとしてなんとも良い歯触りだねえ。
む? しかし少々……隠し味の塩がききすぎているような……ふふ、泣きながら作りでもしたのかね。まあでもおいしいよ。
――「ごめん、ください」
おやいらっしゃい、お客さん。ふふ、今日は盛況だねえ。
さあ、そこに座るがいいさ、金髪のお嬢さん。
ずいぶんおどろおどろしい形の椅子だって? 怖がることはない、ただの木彫りだよ。骸骨も悪魔も、あんたに噛みつきゃしないさ。ただの彫り物だからね。サーカスの隣に建ってる場末の占い小屋で使うには、少々豪華すぎるかもしれないが。でも実のところ……
ご高覧・ありがとうございます><
おばちゃん代理もピピウサギに負けず劣らず波瀾万丈であります・ω・;
ご高覧ありがとうございます><
ですです、ウサギの技術力でなんとかなってほしいところであります。
しかしウサギの呟きが気になります…・ω・;
ご高覧ありがとうございます><
アスパの世界では過去改変はどうしたって不可能…
分岐なしの世界でどうやって蘇らせるのか…
うさぎの奥さんはかろうじて救えましたがこちらはどうなるでしょうか…・ω・
ご高覧ありがとうございます><
涙味…おばちゃん代理の嘆きは深し…ノω;`
ご高覧ありがとうございます><
コピーの版元を抑えない限り
またとめどなく増殖おばちゃん代理がやって来るような恐ろしさがありますよね;
これは版元をどうにかしないとです・ω・;
どうにかしよう……うん。
ご高覧ありがとうございます><
>修正力
ですです、アスパの世界はタイムマシンでさかのぼっても過去は絶対に変えられない、というのを
アスパシオンの弟子で書いておりまして、
未来から来たものによって世界線が分岐することは決してありません。
未来のものも、すでに織りなされた時間の錦の一部になります。
金髪のお嬢さん…
ラストの不思議感、感じてくださって嬉しいです。
わーい♪
ご高覧ありがとうございます。
ピピウサギのものは勝手に使っちゃいけませんノωノ
返って早々に、大変なことが待っているのでしょうけれど
残酷な現状が大きく修復されるかなあと期待するところです
七夕伝説は空間の隔たり、こちらは時間の隔たり。
次元としては時間も空間も同じものですが、
越えるための努力の仕方がまるで違います^^;
過去が変えられないなら生きる時間を変えてしまう。
「よみがえり」の別解かもしれませんね^^
う~しょっぱい、いや辛い…
「歴史の修正力」のようなものを感じました。
時間遡行はあきらめて、別の方法でディーネを……ですか。ふむ。
……あれ、最後の金髪のお嬢さんってもしや。
うわぁ、この読了感! うわぁ、うわぁ!
でも、その前に、一波乱ありそうな気も…