自作5月 『燕 「哀しい贈り物」』3/3
- カテゴリ:自作小説
- 2018/05/31 23:02:10
『ぷはー!』
あああ、おいしかったー!
さて、ずいぶん食べさせていただきましたが、残すはあとひとりですね。くふふ。
おびえて壁にすがりつく最後のひとり。赤毛の男に、私はずずずと近づきました。
「く、くるな。頼む。来ないでくれ。みんなをどこへ連れて行ったんだ」
『ああたんに、わかりやすく隣の牢屋に隔離しただけです。しかしね、全員、にせものでした。ということは、あなたこそが我が主ですね?』
「うう……ううう……た、助けてくれ。ディーネ……ディーネ!」
『不可抗力で最愛の人を刺してしまった……大変同情いたしますが、逃げ腰なのはいただけませんね。にせものにまぎれるなんて』
「ま、まぎれる? ちがう俺は……あああ…あああ…」
『大体にして、普通の剣なんて持つからいけないんです。もし私がそばにおりましたら決してこんなことには……申し訳ありません、我が主』
ひとり残ったこの者こそ、正真正銘の我が主。そうにちがいありません。
私はしゃくりあげて泣く我が主に向かって、くれないの光を放ちました。
楽にしてさしあげようとおもったのです。
その慟哭を。その悲しみを。私が食らえば、我が主はとても楽になることでしょう。
『大丈夫ですよ、我が主。ご心配はいりません。今までの食事風景、見てましたでしょ?私、魂を全部食べちゃったりしませんから。それに痛くもかゆくもありませんよ? だいぶお腹もくちてますしねえ。まあどんなにおいしくても、丸呑みにはいたしません。ええたぶん、十中五六。じゅる』
人の魂の荒ぶる怒り。けぶる涙をこぼす悲しみ。
喜びの波動など、この二つにくらぶれば、雲にかくれた陽のひかりです。ほんわりぼやけたものにすぎません。
特に慟哭誘う哀れは、私にとっては至高の美味。うっとり陶酔せずには……ああ、まあその。最後の最後に残った我が主の秋波こそ、この豪華な食事の締めにふさわしいものでしょう。
『我が主。失礼いたします!』
私は主人の魂を吸い込みました。ほわほわおぼろげに明滅するその玉を、くれないの光の渦でからめとり、すうっと我が心臓にとりこみました。
これは本物ですから、私はいままでとは全然別の「私」になるはずです。
きっと北の果ての村の情景が、始めに浮かんで――く――
『誕生おめでとう。すめらの子よ』
……えっ?!
『天照らしさまのご加護が、おまえにあるように』
な……?! まさか。この人も、にせもの?!
食らうために魂と同期した「私」は、周囲を見渡しました。
立ちこめているのは白い煙。きこえてくるのは機械音。蒼い鬼火のようなものが、すっぱだかの「私」の目の前にやってきて、別室にいざない……黒い出荷台に載せ……て……
『うそ!! 工場?! ちょっと待って! 我が主! あなたどこにいるんですか?!』
私は慌てて同期を外し、最後のひとりの魂を吐き出しました。
『違います猫目さん! このひとも、我が主じゃありません!』
まぎれていない? ではどこに?
猫目さんはびっくり仰天。兵士の姿をきょろきょろ探しました。
「そんな! 兵士たちは赤毛の男は全部捕らえたと……い、いますぐ確認しますね!」
なんということでしょうか。まさか我が主がいないなんて。どこかへ消えたなんて。
まさか混乱の中、王宮から逃げ出した? まさかそんな――
『我が主! どこにいるのですか!?』
私は波動を飛ばして、それらしき意識を探しました。
けれども何度呼びかけても、返事は返ってきませんでした。
震える慟哭のかすかな波動すらも。まったく、感じられなかったのでした。
燕 哀しい贈り物・了
ご高覧ありがとうございます><
哀しみが喰われていく…食べる側は同情するどころか嬉々として捕食しております。
今回の食事はかなりのボリュームかつ美味だった模様です・ω・;
この独特な捕食シーン…一万二千歳の剣の真骨頂といえるかと思います。
ご高覧ありがとうございます><
やった・ω・! かいじんさんをおどろかせた…!(にぎりこぶし・ぐぐっ)
ほんとにおばちゃん代理は、いったいどこへ行ってしまったのでしょうね…
ご高覧ありがとうございます。
いやほんとにこの剣にしかできない所業なのだと思います。
ぱくぱくむしゃむしゃ、人の魂を、その哀しみを食べる……
このデリカシーのかけらもないところが機械頭脳を持つ赤猫の最大の特徴であり
負の魅力なのだろうなと思います。
ご高覧ありがとうございます><
今回は記憶の有無が決め手になりましたが、それすらある時点まではまったく同一。
本物との区別は実際、つけられないのでは…中に宿る魂も複製されたのでは…と思わずにはいられません。
剣は本当に淡々と食べますね^^;
ロイハド。サングエ。血、血、血。
一万二千歳の貫禄を見せつけてくれました。
ご高覧ありがとうございます><
切なさ、感じてくださって感謝です><
彼らもまた、まちがいなくおばちゃん代理……
全員処刑されてしまうのでしょうか…
ご高覧ありがとうございます><
いったいどれだけ作ったのか; 人海戦術で攻めてきましたね。
不慮の悲劇を起こしてしまったおばちゃん代理はいずこへ。
見つかるのでしょうか…
ご高覧ありがとうございます><
クローンたちもまごうことなく、おばちゃん代理そのもの……
それを否定したいおばちゃん代理と、否定できなかったディーネ。
悲劇に沈む主人を救うのはやはり……剣なのでしょう。
なにかすごい描写です
汚れ役なのだけれども、爽やかに、始末していくのは、このキャラしかできないところです。
以下
投稿者: 腹筋崩壊参謀 投稿日:2018/06/08 00:16
▼一言
「哀しい贈り物」、読ませて頂きました。
複製人間と意思を持つ剣、誰かに「兵器」として創られた者たち同士、どちらも報われない結末を迎えてしまったのかもしれないですね…。
他の話の方も機会がありましたらまたじっくりと読ませて頂きます。
コピーと、コピー元を分かつ物ってなんでしょうね?
でも、赤猫さんには何かしら感じるところがあるのでしょうかね。
しかし、量産品たちの悲哀と、赤猫さんのケロリとした食事風景……
このギャップにMアンテナが反応しちゃいます。
折り重なり積み重なり降り積もったあまたの悲哀と嘆きが
一顧だにされず、あっけらかんと食われて消費される……
嗚呼、嗚呼、好いなぁ。
何かこう…切ない( ノД`)シクシク…
まだ続きがあるのですね!!!
楽しみにしています^^
さてこれからの展開はどうなるやら・・・。
ただ一つの目的のために大量の献血(?)の成果をもとに作られる大量のクローンたち。
目的とは一見無関係な記憶も一緒に複製されたその先には、
哀しい贈り物と痛々しい光景が・・・
クローンもアンドロイドも感情を持ってしまうと哀しいことに・・・
剣と主の再開はどんな形になるのでしょう。続きが楽しみです^^