Nicotto Town


「なつ・このは・こ」


プレミアムアイテム5月限定第5弾よりお題拝借

お気に入りコーデ

もらったステキコーデ♪:1


「雨と手紙とあまやどり」

学校を出た時には、しとしとと降っていたのに、
急にバケツをひっくり返したような雨に変わった。
遠くで雷鳴も聞こえてくる。
傘にあたる雨粒の音が耳をつんざく。
慌てて、近くのショッピングモールに飛び込んだ。
しっかり雨支度をしてきたのに、
全身ずぶ濡れで、そのまま店の中に入るのはためらわれた。
入り口には同じような人が数人。
地面に跳ね返る大粒の雨をうらめしそうに眺めている。

「すごい雨だね」

聞き覚えのある声に振り向くと、
クラスメイトの高梨くんだった。
傘を手にしていない。
制服からはしたたり落ちる水滴。
タオルを持ってくるんだったな。
貸してあげられたのに。

タオル、買ってこようか?
そう言うと、
一瞬きょとんとしたあと、
「普通、『傘』って言わない?」
と笑われた。

「といっても、これだけ濡れていたら傘は必要ないな」
高梨くんは照れくさそうに頭をかいた。

ちょっと待ってて、と伝えると、私はタオルと傘を買いに店内へ入った。
そのタオルで髪をがしがしと拭きながら、「ありがとう」と笑った。
そのうち、雨はおさまり始め、
雨宿りをしていた人たちは、外へ出て行った。
私と高梨くんも、店を出た。

翌朝は晴れて、教室の中までまぶしい光が入ってくる。
「おはよう」の声とともに、高梨くんが私の席の前に座った。
良かった。風邪はひかなかったみたい。
すると、はい、と小さな封筒を手渡される。
不思議そうな顔をする私に、昨日のお礼、と言われた。
中には、半分に折られた紙が一枚と、図書カードが入っていた。
授業が終わると私は、まず図書室へ行く。
友だちの部活が終わるまで、そこで1人で過ごしている。
私が本が好きって、どうして高梨くんは知っているんだろう。
それに、図書カード、5,000円分のだった。
こんなにもらえない、と言うと、
バイト代が入ったばかりだから気にしないで、と笑顔で答えられてしまった。
高梨くんの目が、手にしている紙をみつめている。
二つ折りになっていたのは、紫陽花の絵柄の一筆箋。

「今日は、2人で図書室へ行かない?
俺も本読むの、好きなんだ」

顔を上げると、高梨くんは耳を赤くして、真面目な顔つきで見返してきた。

「うん」

うまく笑えたかな。
そう答えると、高梨くんは顔いっぱいの笑顔を返してくれた。

この図書券、2人で使おう? と言ったら、
「じゃ、帰りに昨日のショッピングセンターへ行こう」と誘われた。
高梨くんが本好きなのは、知ってた。
だって、あのショッピングモールの本屋でいつも姿を見かけていたから。
その日の授業内容は、ほとんど覚えていない。
どんな本を読むんだろう。
好きな作家さんは誰なんだろう。
私は、上の空で放課後を待ったのだった。

           著:李緒(natu)

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2018/05/31 23:07
スイーツマンさん、ようこそ。
今は雨宿りする場所がたくさんあるから、
昔のような情緒はありませんね(苦笑)。
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2018/05/31 08:24
図書館デート
そこから始まると初々しいですよね




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