オニトモさん(湖鬼) 「鬼風」(黒の舞師番外)
- カテゴリ:自作小説
- 2018/03/17 03:46:09
格子をあげると、しののめの空が鮮やかに、薔薇色に染まっているのが見えた。
紫明(しあ)のおろしが、びゅうと吹きこんでくる。
白い寒気が入るやろと身構えた狐目の婦人は、風のぬるさに驚いた。
「なんやこの、柔らかな熱(いき)れは。ぬるすぎやわ」
用意周到、裏地ぶ厚い唐衣をぎっちり重ねた上に、裳までつけてきた。
ゆえに少々の凍気なぞ、恐るるに足らぬ。
狐目の御方はそんな風に勇ましく思われて、この部屋にお住まいの方を起こすべく、景気よろしく格子をあげたのだが。
「これでは、起きしまへんやんか」
振り返れば、部屋の主は黄金色の髪を流して、心地よき就眠のただなか。いまだ夢幻の世界にたゆたっておられる。
『朝一番に来るのじゃ!』
昨日、臍を噛まれながら涙目で頼まれたゆえ、こうして一番鶏が鳴くと同時に来て差しあげたというのに。その閉じたまぶたが開くよう、わざとどつどつ、床を鳴らして入室したというのに。さらには鼻もつまんでやったのに。
「こらあかん。それにしてもこのぎちぎちの結界。相当な巫女やないと中に入れまへんがな。さすがやわ、袁家のライ姫。だてに百臘かましてまへんな」
臘(ろう)とは、巫女が神殿にて修行する期間を指す。
一臘は一年の四分の一、すなわち百と五日。一年修行すれば、四臘の巫女、三年修行すれば、十二臘の巫女と呼ばれるのだが。
いまだお眠りの方は、百を超える臘をこなしたというお噂。なるほどそのかんばせはかなり、おとなびすぎているように見える。
正確な生年を、まだ聞いたことはない。なれどいわゆる、行かず後家の御歳であるのは間違いなかろう。
ご出身は帝都太陽神殿、三位内の神官位をつとめる品格第一級の袁家の姫なれど、品は采女(うねめ)と最低すれすれ。厄介払いよろしく、太陽神殿がこそっと、この後宮に送りこんだらしい。
御池の向こうの、はじっこもはじっこの殿に住まうにふさわしく、普段は実におとなしく。ひたと貝の口を閉じたように静かで謙虚で、ほとんど動かぬ御方であるのだが。
『おのれこの口惜しさ、いかような呪いにしてくれようか!』
それは完全に猫かぶりであったことが、昨晩判明した。
すめらの宮中では、月に一度、舞会(まいえ)が開かれる。
昨晩は、この殿に住まう婦人たちが、主上の御前にて、舞を披露するお役目をこなした。そこでひとしきり、甲高い嘲笑が響き渡ったのである。
『あらまあ、なんとぶざまな。太陽神殿の舞型はいつ見ても、田植えでもなさっておられるようですわ』
太陽と月と星。
三色(みしき)の神殿は、古来より仲が悪い。とくに太陽と月は、あからさまに足を引っ張り合う犬猿の仲。
それゆえ、もと太陽の巫女たるライ姫は、月神殿より入内したばかりの中宮さまに、ひどく嗤われてしまったのだった。
『ついでに、泥鰌すくいもやって下さるかしら? ほほほほ!』
顔を真っ赤にして、ライ姫はすごすご舞台から降りた。
なれど殿に戻るなり、千の呪詛にて月の中宮さまを呪い倒すわ、やけ食いするわ。くだを巻くわ。
そうして、隣部屋でおなじく采女で最低すれすれの、家格微妙な星の女を呼びつけたのである。
『わらわに、舞を教えるのじゃ! 稽古をつけてたも!』
『なぜうちが?』
『そなた、わざと下手くそに舞っておったじゃろ。主上どころか、だれの目にも止まらぬように。完全に気配を消すごとき、あの、影のうっすい舞をわらわに伝授するのじゃ!』
わざと下手くそに。
看破されたことに驚きつつ、星の女はいぶかしげに首をかしげた。
『ライさま。ここはふつう、月の女の鼻をあかすようなすごい舞を教えろと、ゆうとこちゃいますか?』
『はぁ? なにゆえわらわが、あの女のびっくりあほ顔を拝まねばならぬのじゃ。そんなことわずらはしい(めんどくさい)。あの女には、一日五呪詛で十分であろ』
それよりもう二度と、誰にも絡まれぬようにしたい。そなたのように――
かくして、太陽の神官族たる黄金の髪の人は、眉間にしわ寄せて命じてきたのであった。
『よいな! 朝一番に、わらわの部屋にくるのじゃ! 曇家のジン姫!』
眠りこけているこのお人は、今まで必死に目立たぬようにしていたのだろう。
主上の御前でのあの舞の、冴え冴えたることといったら。
まさしくあれは、天照らしさまの御光そのもの。
何十年と修行する間に体に染み付いた、きらびやかな太陽式の舞。貶めねばと、中宮さまが危機を感じたほどのあれを、この方は隠すことができなかった。
動くと、なんともまばゆい輝きを放ってしまうのだ……。
金のきらめき放つ太陽が、百万億のぼやけた星(またたき)に埋もれたいと願うのはなぜか。
指南を承諾したのは、その理由を知りたくなったからだ。
まさか自分と同じ理由ではあるまい。
「想い人なぞ、いる気配なんてしはらへんもの」
何に操をたてておられるのか、これからゆっくり探るとしよう。
それにしても、吹き込む風のなんとぬるいこと。
まだ桜の蕾は硬いというのに、花の香りがかすかに匂う……
「手順を間違えましたわ。起こしてから、喚ばなあきまへんでしたな」
苦笑まじりに、星の女はあげた格子の向こうにまなざしを向けた。
枝だけの木々の合間に、なぜかほろほろ花びらが舞い落ちているところがある。
目を凝らすとそこには、ぽうとほのかに光る何かがいる。
「しゃあない。舞を人に教えるなんて、初めてのことやもの」
光の中には人のような形をしたものがひとり。舞の扇子をもってふわふわ、くるくる。すでに風をまといて舞っている。
「気配を消す舞。あの鬼から習ったゆうたら、こん人、どないな顔しはるやろか」
春風を送ってくれるとは、気をきかせてくれたのだろう。鬼は主人が凍えぬようにと気遣ってくれたのだ。
しかしこれでは、眠っている人は目覚めない。
星の女はあくびを噛み殺しながら、喚んだ鬼に頼んだ。
「あんさん、すまへんねんけど、冬将軍さまを連れてきてくれへんか?」
ひゅう。
あたりから熱が引いた。
そしてほどなく。
こおっと、刃のような寒気が頬を刺してきた。
花びらの幻が視えたところにちらちらと、白きものがちらついている。
呻くような目覚めの声が背後から聞こえてきたので、星の女はにこりと微笑んだ。
「起きはりましたな」
「ひゃ?! なんじゃこの寒さは。雪か?」
「紫明(しあ)の霜気ですやろなぁ。さあ、さっそく、はじめまひょ」
星の女はぱんとひとつ、手を打った。
澄んだその音は吹いてくる寒風のなかにびんびんと響き、凍みていった。
きらさららと、雪の結晶のように。
――鬼風 了――
鬼さんにお名前いただきました。
湖鬼(うみおに)
ろわさん、ありがとうございます♪
A A A A
ψ( Ф∀Ф )ψ( ´w`)ψ
オニトモ
http://www.nicotto.jp/albumsquare/detail?user_id=1104605&id=13248
鬼さんいらっしゃいませ( ´ω`)❤
こちらに鬼さんが収集されております。
https://sites.google.com/view/dllsgllry/04
お庭で待たずに直接お入りください。
もたもたしてて、ごめんね。
2回目の方まわっていただけますか?
21オニで4つのお部屋とお庭で撮ります^^人数が多いので組み分けしました〜
みうみ/Sianさんはオニトモ2のお部屋にて22時45分から撮影会です
どうぞよろしくお願いします
私も鬼さんになってるのですがこういう風に書けないです(。^。^。)
「行かず後家の御歳」ってwww
こんなすてきな鬼さんのお話が書きたいですわ❤
ライ姫がプリチ〜❤
絡むとめんどくさそうだけど遠くからニマニマ眺めていたい〜♡(。→ˇ艸←)
A A A A
ψ( Ф∀Ф )ψ( ´w`)ψ
https://sites.google.com/view/dllsgllry/04
ステキなお話でしたぁ(*´ω`*)
言葉遣いとか素晴らしいなぁ。
コーデも、みうみさんっぽくてステキです❤
楽しいことは都合ついたら全て遊びたいです❤︎
先ほどのコメント間違いましたー 今日はオニトモ集会はないです><
ごめんね〜 来週やりますね❤︎私が 都合ついたら来てね〜
詳しくはブログで^^b
そして面白い〜
私もお話書けばよかったかな〜
でも、こんなに綺麗には書けなかったのでSianさんのお話読めて幸せです。
今日はよろしくね❤︎
でもいっぱいだから会えるかどうか。。。会えたらラブラブしようね〜
お題で描くの楽しいよね^。^
ライ姫:百臘さま。帝都太陽神殿出身のもと巫女。
狐目の御方(星の女):九十九さま。帝都星神殿出身のもと巫女。
二人がすめらの帝の後宮にいた頃のお話。
すめらは神官=貴族というちょっと特殊な国で、帝のお妃になる人は軒並み、もと巫女です。