2月自作 針 「帰還」
- カテゴリ:自作小説
- 2018/02/28 23:55:01
ちくちく。ちくちく。
きゃ。痛い。痛いです。なにするんですか?!
刀身に走る嫌な感触で、私は目覚めました。
なんでしょう、けっこう素敵に、気持ちよく、みのむしのようにすやすや眠っていましたのに。
私、猫目さんが丹精こめて作って下さった鞘を、被っているはずなのですけど。
黄金牛の高級なめし皮に、黄金の象嵌付き。暑くもなく寒くもなく、ほどよい気温を保つ素敵な服です。かなり分厚くて、ちっとやそっと刺されても全然大丈夫! と思っていたのですが。
ちくちく。ちくちく。
なんですかこれは。針ですか?
あふん。いやん。なんて無体な。ツボ刺激しないでくださいよ、お願いしますよ。
「起きられよ、戦神の剣どの」
ふええ? 誰ですかあなた。あ……
あなたは、私をこの寺院の宝物庫に入れた導師さまですね。
黒き衣の……なんでしたっけ?
「我はルデルフェリオの一番弟子。エンデミオンだ」
き、今日はまた、どういった用件で? なぜに真っ暗闇の宝物庫の中で、私をつんつんするのですか?
「火急の用事ができた。俗界があなたを必要としている。しかし何度呼んでも精霊石が反応せぬので、この長針でエレキテルを流させていただいた」
えっ。エレキ……それって電気ショックってやつじゃないですか。
しかもその針、むちゃくちゃ長っ!
間違って秘孔突かれて心臓止まったらどうするんですか。私、まだ一万と一千六百歳しか生きてないんですよ? 最低五万は超えて、輝くほむらの竜殺し剣さんを見下さないといけないんですよ? だから手荒な真似はどうか、よしてくださいよ。
「猫目という鍛冶師が、迎えに来ている」
え、猫目さんが? ぬう、どういった用件なのですかね。私、ご主人様以外の人には手を貸しませんよ? 契約期間はきっかり一世紀、あと九十七年は、第二十四代目のご主人様のためにしか働けませんからね? 彼のためじゃなかったら、私、てこでも動きません。
「どうやら、あなたの主人だった男が、俗界で問題を起こしているようだ」
む。それならば、重い腰を上げましょう。
あ……ああもうやっぱり、鞘に穴できちゃってるじゃないですか。
なにするんですかもう! 素敵な服がぁー。
「ぬ、なんという軽さ。眠っていた時はびくともしない重さであったのに。」
私の言葉などひとことも聴こえないらしい黒き衣の……なんとかさんは、私を手に取るなりとても驚きました。
「なんとも不思議な剣よ」
そうでしょうそうでしょう、英国紳士は、我が主のためにしか動かないのです。
黒き衣のなんとかさんは、私を両手に捧げ持ち、地上へ昇っていきました。
そう、宝物庫は地下にあるのです。普段は真っ暗、長老の位にある導師しか、入ってこれません。エティアの法廷で私は永遠に封印されるようにと、判決をくだされました。だから眠りは数世紀、あるいはミレニアムに至るのではないかと思っておりましたが。まさかこんなに早く、目覚めさせられるとは。
「赤猫さん!」
私を迎えにきた猫目さんは、船着き場におりまして。とても蒼い顔をしておりました。
「あの……! おばちゃん代理さんが大変なことに……」
なんと?
「我が師や陛下やエティア兵が総出で|全員《・・》取り押さえたのですが、どの人が本物のあの人なのか……どれが真実あの人なのか! 誰も見分けが……。嗅覚のすごい牙王さんが頼みの綱だったのですが、彼女は……」
どうやら我が主は、増殖したようです。
って。猫目さん、顔色が……牙王さんが、どうかしたんですか?
「彼女は、|破壊されて《ころされて》……しまって……」
え?! ころ……?!
あの狼、神獣になったでしょうに。そんな、おいそれと壊されるはず……
「おばちゃん代理さんたちのひとりが……彼女を……。怒り悲しむ人が本物かと思われたのですが、下手人もほかの人たちもみんな泣きじゃくって……わからない……わからないんです! どうか。どうか本物のあの人を見つけてください、赤猫さん!」
大変なことを聞いた私は、柄にもなくおろおろしてしまいました。
牙王はプピだかペピだか言うウサギ技師によって神獣になった、機械の狼です。神獣とは、星をかち割るほどの力を秘めし、聖なるもの。何万何十万という人口を抱えた一国を守護できるほどパワフルな存在なのです。
それが……破壊された?! 我が主の……複製に?!
私を持たない我が主など、ぬ○のふくを着た丸腰の初心者も同然(攻撃力ひ○きのぼう以下)。黄金の狼と、ガチで勝負なぞできるはずがないと思うのですが。
いや、スペックうんぬんする前に、これはおよそありえないことです。
もしまこと我が主の複製ならば、あの黄金の狼を手にかけるなど……できようはずがありません。我が主はあの狼をそれはそれは……
『愛している……はずですが? それなのになぜ?!』
取り乱す猫目さんに連れられて、私はエティア王宮の地下牢へ入りました。
そこには確かに、赤毛の青年がたくさん、たくさんおりました。
唖然とするほど、我が主と同じ顔の人たちが。
彼らはみな、涙を流しておりました。肩を震わせ唇を噛み。頭をかきむしり、また耳を塞ぎ。哀しみに打ちのめされていました。
嗚咽と慟哭が、そこには満ちていました……。
『一体何があったんです?!』
呆然とする私に、猫目さんが慄きながら話して下さいました。
「はじめの刺客は赤毛の少年でした。年齢が違うので、おばちゃん代理さんの偽物だとは分からなかったぐらいです。少年は英雄殺しの遺伝子を駆使し、ジャルデ陛下を暗殺しようとしました……陛下は傷を負われましたが、命に別状はありませんでした。我が師やおばちゃん代理さんが辛くも、その少年を撃退したのです……」
少年はなんと、蛇の王妃さまに化け、神獣の力を駆使して陛下を襲ったのだとか。どこから来たのか口を割らずに、彼は自爆して散ったそうです。
しかし刺客の波はそれだけでは収まらなかったのだと、猫目さんは目を潤ませました。
「今度はこの人たちが……おばちゃん代理さんたちと寸分たがわぬ人たちが、次から次へと……」
そのだれもが、英雄殺しの能力を有し、陛下の命を狙ったそうです。
我が主は一所懸命、偽物を退治しようとしたのですが。
「分身に影響され、本物の代理さんも、英雄殺しの能力に目覚めてしまったらしくて……まぎれて、しまいました……」
つまり。我が主も陛下の命を狙う波に呑まれたと?
「はい……我が師の分析によると、寸分違わぬ分身たちはスメルニアから送られてきているようなのですが。それ以上のことはなにも……それで牙王さんが本物を嗅ぎ当てようとしたのですが……まさかあんなことになるとは……」
ああ……かの国は我が主の細胞をどこかで盗んで、量産したのですね。
「ディーネ……」
「ディーネ……」
「ああ、なぜ俺は……」
「ディーネ……!」
泣きじゃくる「我が主たち」。たしかに塩基が同じとくれば、判別はつきがたいでしょう。
でも……。
『わかりました、任せなさい。今から調べます』
嗚咽する我が主たち。彼らは一体何を見たのか。何をしたのか――
私は猫目さんに言いました。
『今から、食べます。一人残らず』
わが心臓から、くれないの光を放ちながら。
『いただきます!』
――帰還・了――
オリジナルのおばちゃん代理が覚醒…
ここがツボですね^^
主の危機に再び日の目を見る赤猫さん。
一人残らず、って全員複製ってことでしょうか。
それとも何か考えが・・
複製さんも黒い物体Gも同列なのですね^^;
きっと、あとで違う展開になるって分かっていても、
そのまま、ちくちくとしてるのも面白いだろうな~ と^^
鞘に穴開いちゃったのですね。
直しておかないと。
おばちゃん代理はどうなったかですね。
すみません、居なくなる前に読ませて頂きました。