自作8月 氷・城「思い出の城」3/3
- カテゴリ:自作小説
- 2017/08/31 22:34:54
「というわけでその……」
「ああ、結果は、さっき隣の塔に帰っていったウサギたちから聞いとる」
大窓並ぶ謁見の間。玉座に足を組んで座っているジャルデ陛下が、俺にひらひら手を振り苦笑する。
料理大会が終わり、メンジェールの王宮で立太子の式と祝賀会なるものが開かれたあと。
俺は無事帰国し、エティア王の御前に帰参した。
ウサギ技師たちは先に陛下に呼ばれ、なにやらいろいろ話していたのだが、俺と入れ替わりに部屋から辞していった。がんばれよ、とか気をしっかりもてとか言われたけど。うん……。この結果は、たしかに残念といえば残念ではある。
「まあ、さすが食聖だな。何百年もこの大陸に居座っているだけはある」
「みごとな王城のピエスモンテでしたよ……飴にスパイスが効いてまして。いやもう、ひとくち食べたら次から次へと、手を出しちゃうんですこれが」
「食ったのか」
「はい、たっぷりいただきました。いやもう、まじでほっぺたが落ちそうで……」
「なんだそれ、うらやましすぎるぞ」
「す、すみません」
いやもう。さすがおばちゃんだよほんと。
まだまだ俺ごときには、あの隠し味は真似できない――。
料理大会の勝負は拮抗した。
前菜盛り合わせは僅差で第三王子が優勝。超絶ふわとろなオムレットに皆が唸った。
メインの肉料理は第一王子が優勝。じっくり低温で焼いて勝負に出た俺たちだったが、皮のパリパリ度がおばちゃん組には勝てなかった。
そして最後のスイーツ・ピエスモンテ。
これにはだれもが驚いて目を見張った。
「三王子たちは皆同じ、メンジェール城のピエスモンテを作りました。第一王子組は王城の広場で気球を飛ばしましたし、第三王子は庭園の噴水を再現しまして……でも僅差で、ピエスモンテではミニチュア部屋を作った俺たちが優勝しました」
王家は肉料理を重視する。
ゆえに総合優勝は、メインのグリル・イノシカチョウで一位をとったおばちゃん組がもぎとった。
しかし結果はどうあれ――
フーシュ殿下はとても幸せそうだった。第一王子殿下も、第三王子殿下もだ。
三つのお菓子の城の前で、三人は硬く硬く、肩を寄せ合い抱き合っていた。
『気球飛ばしたの、なつかしいな』
『この噴水でよく泳いだよなぁ。それで母上に怒られて』
『ホーテイ! こいつほんと賢かった』
「結果は万々歳ってほどじゃないが。フーシュ殿下は、兄王子が即位したら摂政に任命されることになったそうだな?」
「はい。第三王子殿下も同じ位に昇ります。三人で仲良く、メンジェールを治めるそうです」
「お菓子の王城のおかげで、険悪だった兄弟の仲がもとに戻ったというわけか。寄るべきところや意見は違えど、王国や家族を想う気持ちは同じ。そう気づいたゆえに」
「はい、仰せの通りです。あの方々ならばきっと、エティアやスメルニアを慮るまつりごとを、なさってくれるのではないかと……」
いや、スメルニアは無視していいってばと、ジャルデ陛下は口の中でもごもごつぶやいて。うっほんと咳払いをなさった。
「で、王子たちはいまごろ、食聖さまに尻を叩かれて厨房で修行中か」
「はい。とにかく基礎から叩き直すと。いや、みなさん腕は相当なんですけどね、ほら、やっぱりいちばんてっぺんにいる人ですから、いろいろ見えて、いろいろ教えたくなっちゃうみたいで」
おばちゃんは王子たちを鍛え直すと豪語して、メンジェール王宮に残った。
かの厨房で料理長となり、日々王子たちに料理を教えるという。
それだけがしごく残念だと、ジャルデ陛下はため息をつかれた。
「おばちゃんを雇ってからというもの、メシがうまくてうまくて……そのクオリティが下がると思うとなぁ」
「ぜ、善処しますっ」
「あ、取り戻してきた剣。預かっていいか?」
「はい、どうぞ。寺院に封印というのは、取り消しにはなりませんよね?」
うん、そうなんだなとこくりこくりうなずきながら、陛下は俺が捧げ持つ赤猫の剣を受け取ると。部屋の隅に居並ぶ大臣たちに、意味ありげな目配せを飛ばした。え? と思う間もなく、いかめしいおじさんたちが何人も、俺をぐるりと取り囲む。
「え、えっと? あのこれは?」
「うん、あのな。妃がほら、卵を産んだだろ?」
「はい。本当に、おめでとうございます」
祝辞は開口一番に申し上げたんだけど。俺がもう一度お祝いをいうと、ますます大臣たちが寄ってくる。なんだかみんな、ひどく厳しい顔だ。
「とりあえず牢獄ですかな?」
「いや、まずは尋問」
「自白剤を使いますか?」
「え?! ちょ? ちょちょちょ……」
なにごとかとたじろぐ俺の前に。ジャルデ陛下がのそのそっと玉座から降りてきて。
頬を指でかきながら、もごもご仰った。
「うん、あのな。妃が卵を産んだんだけどな」
「は、はい、それは、おめでとうござ……」
「おまえだって言ってる」
「は?」
「いやそれはちがうだろうと言ったんだが。いやぜったいおまえだと言ってる」
「は……い?」
嫌な予感を感じる間もなく。おそろしい言葉が、困惑顔の陛下から飛び出した。
「卵の父親」
「え……?」
「おまえだそうだ」
「え……ええええええーっ?!」
「いやあ、もちろん冗談だろうとは思うんだが、とりあえず今から事情聴取するから。どこでするかね。やっぱ尋問室か?」
「いやちょ……ちょっと待……いやそれなにかのまちが……」
わかってる、わかってるさとポンポン肩を叩きつつ。ジャルデ陛下は俺の腕をつかみ、ずるずる。
一体何が起きたんだろうと俺は唖然呆然、ただただ、震えるしかなかった。
こうして空おそろしい容疑をかけられた俺は。
無罪証明のため、自分の身元を洗いざらい調べられることになるのだが。
そこでとんでもないことがわかってしまうのだが。
それはまた別の、長い長い物語である。
―― 思い出の城・了 ――
お読み下さりありがとうございます。
剣いわく、
「本名はエク……以下忘れました。英国紳士は最近忘れっぽいのです」
かつて赤猫という名の女の子の魂が某こじらせ系マッドサイエンティストな天才少年によって組み込まれてしまったので、ウサギもおばちゃん代理も赤猫と呼んでいます。
二人共たぶんに、地球生まれのぼけぼけオリジナル人格よりも、
赤猫ちゃんの可憐な人格が表に出てきたらいいなとひそかに期待してるんだと思いますノωノ
お読み下さりありがとうございます。
おばちゃん代理はピンチを呼ぶ男なのかもしれません…
反英雄遺伝子持ちなのに…w
お読み下さりありがとうございます。
卵を産んだガルジューナさまはいったいなにを言ってるのでしょうか…
神獣だけに怖ろしいです@@;
お読み下さりありがとうございます。
フーシュ殿下だけでなく、他の兄弟も…
家族の絆、再確認となりましたノωノ
きっとメンジェールは栄えるのだと思います。
おばちゃん代理の疑いが晴れるといいのですが…
お読み下さりありがとうございます。
とてもめんどくさい話がふってきましたノωノ
なんだか二十四時間労働な気がします。
労災に引っかからないか心配です・・;
お読み下さりありがとうございます。
出崎徹先生風止め絵で勝負場面はストップアウトノωノ
もややん…どうなるでしょうか。
お読み下さりありがとうございます。
なんかあるみたいですw ここにきて貴種流離譚になりそうなフラグですね。
お読み下さりありがとうございます。
王様になるための第二歩目…みたいな試練なのですノωノ
なるほど、黒猫卿の桜姫を灰燼に帰したのは赤猫、と。
こういう物語の緻密な編み込みを見るのは楽しいなぁ、美味しいなぁ(´~`) モグモグ
かけられた容疑はとんでもないですけど、
陛下が怒りよりも困惑が勝っているおかげで、魔女裁判にはならなそう?
そして、剣の「あなたが王になる」という予言がどう絡んでくるのかなぁ。
いやはや、美味しい物語をごちそうさまでした。
おばちゃん代理に
またピンチ……
第四王子の卵……
冤罪がふりかかっていますね
ラスト、恐ろしい疑いがかけられましたね~
とても、読みやすいです!
料理対決は丸く収まりましたが
面倒そうな試練がふりかかってきましたねぇ^^;
休む間もないおばちゃん代理。
これも修行でしょうか・・
次回が楽しみです^^
これからが激闘というところで終わってしまった……
モヤモヤは次回のお楽しみ