【石物語】黒衣の魔術師 ②
- カテゴリ:自作小説
- 2017/07/30 01:56:47
「王様からのご褒美すごいわよね。あれ、あなたよりも十倍はでっかい金剛石だったわ」
窓辺に寝そべる猫がぱしんぱしん。尻尾を振りながらにゃあにゃあ。
「とってもきらきらしてた。いいなぁ。あたしにくれないかしら~」
私もいちおう、金色のきらきらが入ってますが…
「そうね。でもあなたには飽きたの~」
ご主人様の猫は大あくび。私がついている首輪を後ろ足でかきかき。
宮廷奇術師であるご主人さまは、宮殿住まい。陛下から続きの部屋を三ついただいています。
初めて陛下の前で「魔法」を披露したのは、五年前。
そのとき王様は刺客に襲われたショックがもとで、臥せっておいででした。
黒いマスクで顔を隠したご主人さまは、大きな寝台が置いてある謁見の間ではなく、こぢんまりとした本物の寝室に通されたそうです。
そこでいくつもいくつも、きらめく星を出してみせたり、引いてもらったカードの数を当てたり。
すると陛下はまるで少年のよう。手を内たたき、顔をきらきらさせて大喜び。でも奇術師が顔を見せないので、無礼をするなと黒いマスクを取るよう命じました。
渋々取られた漆黒の帳の下にあったのは……焼けただれた傷跡でした。
「子供のころ、家が火事になりまして……崩れた家の柱でこのように、頬が切り裂かれ、焼かれたのです」
「なんということじゃ」
哀れに思った王様は、黄金の仮面とこの私、瑠璃の玉をご主人さまに与えました。
遠く東の国から参りました私は、職人の手によって生まれ故郷の装飾模様を施された台座に、はめ込まれております。その模様は魔除けの呪文そのもの。
『思いがけぬ喜びが、あなたを襲いますように』
異国の飾り文字でそう刻まれております。
幸運を呼ぶもの。
生まれ故郷では、私のような青い石はそう信じられているようです。
王様は私をご主人さまに渡しておっしゃいました。
『千の喜び、万の喜びがこの石によって、そなたのもとに呼び寄せられるように』
そのため私は毎日、祈ってまいりました。
どうかご主人様のもとに喜びが次々とやってくるようにと。
幸いにしてご主人様は陛下に大変気に入られましたので、「幸運」をたびたびいただきました。
それは金貨の袋であったり、物であったり。それはそれは豪華な喜びでした。
黒絹の衣。ターバンの真ん中に輝く紫水晶。金象嵌の腰刀。そして、シャムからきた猫――。
「ただいま」
ご主人様が帰ってまいりました。
猫は甘い声で鳴いて主人が撫でにくるのを待ちましたが、黒衣の人は哀しげなためいきをひとつ。
そうしてどさりと、更紗の花模様でうめつくされた寝台に身を投げました。
無造作に黄金の仮面がとられて、がしゃん。
聴こえたのは、床が割れそうな悲嘆の音。
ご主人様は爪をたててつかむように、顔に両手を当てておられました。
「人は私を魔法使いだという。魔法を使って陛下を操り、欲しいものをすべからく得ていると……」
魔法使い。
そう信じられるのは当然です。奇術師は舞台で、魔術師を演じているのですから。
ご主人さまの悩みは魔法使いに見られる、ということではありませんでした。
むしろその逆で、本当の魔法使いであればと願っていたのです。
「私は無力……。もし私がどんな願いもかなえられる魔法使いならば。いの一番に望みを実現させるであろうに」
指から漏れる悲しみの吐息。
空気に溶ける苦痛。
「金剛石の輝きとて、この醜さを消し去ってはくれない……」
――「ああ、またあの女にご褒美の宝石をあげちゃったのね」
撫でられなかった猫が、不機嫌はなはだしくぼやきました。
「決して報われないというのに。あの顔の傷を見たらだれだって……」
ご主人さまの吐息が震えます。ひそかに涙をこぼしているのでしょう。
この方はずっとこんな調子。美しいものを手に入れたらすぐに、「あのひと」へ捧げてしまいます。
そうしてもう何ヶ月も、苦しめられているのでした。
愛という残酷なものに。
サークル幻想断片 創作企画
石物語 Les Histoires des Pierres
石物語 第二期 公式サイト
http://cherspierres.blogspot.jp/
一番欲しいものは簡単には手に入れられないんですね。
相手の悪女(かどうかも謎だけど)とどうなっていくのか
そのお相手とラピスさんがどう関わっていくのか
(自分が恋の相手ならラピスも欲しがりそうです(ΦωΦ)
続きを読むのが楽しみです^^
お読み下さりありがとうございます♪
サプライズなハッピーだと幸せ感倍増ではないかと思って、
ラピスはいつも思いがけない幸運を呼びこもうとがんばるようです。
言葉はほんとに不思議ですよね。
恋はなべて残酷なれど、美なるものに魅了されることはたしかにたしかに!
これほど甘やかなものはないかもノωノ
お読み下さりありがとうございます♪
絵本、なんというお褒めの言葉…感謝ですノωノ
一番はじめは猫さんしか言葉が通じる人がいなかったという。
お相手さんはおっしゃる通り、それもうきっと…♪だと思います。
美しい思いやりですね
言葉には魔力と魂が棲んでいると思います
自らの醜さに苦悩する生き物は輝かしきものに魅了され苦しみですら甘美なのです
ネコちゃんはこんな表情でしゃべっているんだろうなぁ(´ω`*)。o○
と想像が膨らみます.゚+.(´∀`*).+゚.
ご主人さまの恋しいお相手も
きらびやかな美女なんだろうなぁと期待o(^-^)o ワクワクッ
ご高覧ありがとうございます♪
こればかりはラピスの力も及ばないのでしょうか…・ω・`
物理的なものはどんどこ引き寄せそうですが、
人心は難しいのかもしれません。
ネコさん、まさに女王さまですノωノ
そしてツンデレ?
なでてあげると、とろけちゃうかも^^
ご高覧ありがとうございます♪
ネコさんほんと、女王さま気質ですよねー。
モノはなんでも手に入るのに……
カタチのないものを手に入れるのはとてもむずかしいですよね・ω・`
とくに愛ともなれば……
奇術師さん、相手の人はどんな人なのか、悲恋で終わるのか。
これから書いていければと思います・ω・>
ご高覧ありがとうございます♪
>王様に気に入られたら、それを快く思わない人たちはいるわ。
さすが、そうですよね。だいぶ気に入られているようなので、
陰謀などなどに巻き込まれる可能性も今後出て来るのかも。
周囲の人は嘲笑ぎみに貢ぎ場面を見ているのか、
その中に暖かい眼差し、哀しい眼差しはあるのか……
わわ、想像が膨らみます。
ありがとうございますノωノ♪
ご高覧ありがとうございます♪
きっといとしの君を真剣に思っているのでしょうね・ω・`
容姿に阻まれるとは‥美醜は人にとっては大きな判断要素なれど。
愛は実に残酷だと思います。
ご高覧ありがとうございます♪
美味しく文字を食べていただけるなんて、とても嬉しいです;ω;`
奇術師さんが心奪われてる人、誰なのでしょう…
王様、ブルボン家のだれにしましょうか、いまだ物色中です。
プロットにある「病める王様」、なんだか結構いらっしゃるのですw
王様属性全開で行きたいと思います♪
何回もご高覧くださり、ありがとうございます;ω;`(歓喜)
どの王様にしようかまだ悩み中です…(ぇ)w
時代的にブルボン家の誰かなのは確実です・ω・♪
そればかりは どうあっても…><
ネコちゃんしゃべってて 萌え~です( *´艸`)
飽きたとかww
猫ってまさにこんな感じですよね 王さま女王さまw
王様に気に入られてるご主人様は溢れるほどの物は次々と褒美として与えられるのですね。
だけど、魔術師と呼ばれ数々の奇跡を起こして見せる彼にも手に入らないものがある。
いくら美しきものを送ってもすげなくされてしまう。人の気持ちはどうにもできない。
ほんと愛とは残酷ですね。
あぁ そうだ。 黒い魔術師の所有と前の話のコメで書いたけど
黒い装束の魔術師を演じている奇術師だわね。
王様に気に入られたら、それを快く思わない人たちはいるわ。
ラピスさんがたくさんの幸運をもたらせばもたらすほど
ご主人様は別の悩みができるのか。
そしてその幸運によって手に入れた美しいものを
貢いでしまう。
報われないのに・・・って周りが思ってるところも辛いわ。
すごくおもしろい世界観。
また続きが読みたいです!!
時には愛は残酷ですね。
魔術師と呼ばれながらも、本当に欲するものは手に入らない……。
魔術師が恋するあの人ってどんな人だろう? 気になる。
今のところ、一番好きな登場人物は王様ですw
権力者の無邪気さと傲慢さ、って良いですよね。