【石物語】黒衣の魔術師 ①
- カテゴリ:自作小説
- 2017/07/30 01:51:47
どろどろどろどろ。
舞台のすぐ下で太鼓が鳴ります。
火薬が弾ける音とともに突然、舞台に黒い影が現れました。
きなくさい白煙と一緒に顕現したその者は両手を合わせ、客席に向かって深々と頭を下げます。
「みなさまに、太陽と月の恵みがありますように」
黒いターバン。黒服に黒マント。頭に揺れるのは孔雀の羽根。
顔半分を黄金の仮面で隠すその出で立ちは、まるで異国の魔術師。
「はるか東、熱砂の国で編み出されました奇跡を、これよりお届けいたしましょう。思いがけない喜びをあなたに」
魔術師が告げるや、黒い衣からうわっとまっ白な鳥が飛び立ちました。
一体どこから出てきたのでしょう。
手から? 肩から? 頭から?
鳥は何十羽も出てきて、天使の絵が描かれている天蓋を優雅に舞いました。
見上げるお客さんはみんなうっとり。
そんなお客さんたちを眺める私もうっとり。
なぜならここは、大宮殿の中に作られた特設の舞台。真っ青な石である私は、舞台のまんなか、台座に座る猫の首輪に嵌められています。威風堂々と座る猫は遠く遠く、東の国でしか手に入らぬ珍しい種で、青い目にあわいショコラ色の毛並み。客席の方をまっすぐ向いているので、お客さんたちがよく見えるのです。
金の刺繍に銀の刺繍。盛り上がったかつらや衣服を飾るリボン。それから、色とりどりの宝石。
なんてきらきらしているのでしょう。舞台を見ている人々はみんなやんごとなくて、見るもきらびやか。まるで虹色の天。絢爛豪華な花園のよう。
「世界は流転しております。物の形もまたしかり」
どろどろどろどろ。太鼓の音が徐々に大きくなります。
黄金仮面の魔術師は台座の猫を抱き上げ、舞台に押し出されてきた黄金色の檻に入れました。
その直後。檻に大きな布がかけられて、きらきらした人々が見えなくなりました。
私が残念がっていると、檻の床に作られた隠し穴から人の手がのびてきて、ササッと猫を確保。私がついた首輪を外し、別の生きものの首輪にするりとぶら下げました。
そして隠し穴からそのおそろしいものを檻の中に押し上げたのです。
「アブラカタブラ!」
魔術師が呪文を唱え、檻から布をとった瞬間。私を首から下げるものは、ぐおんと吠えました。
艶やかな金のたてがみ。すさまじい咆哮。
輝かしい客席からどよめきがあがります。猫が数拍もしないうちに獅子になったように見えたのですから、みなさまはびっくり。
「おそれることはございません」
黄金仮面の魔術師はおごそかに、きらめかしいお客さんたちに告げました。はっきり、朗々と。
「金の獅子は檻の外へは出られませぬ。百合紋の王国は、獅子の脅威を封じ込めるでしょう!」
――「トレビヤン!」
真正面の貴賓席、ど真ん中にどかりとおすわりになっている御方が、賞賛の言葉を叫びました。
白テンの毛皮を羽織るその人は目をきらきらさせて、拍手をくださいました。
「そうじゃ! イングランドなんぞ、大陸へは渡ってこれぬ!」
ぶっくり太っておられるその方は、この王国で一番えらい御方。百合紋の国の王様です。
この国は何百年もの昔から、海の向こうの獅子の国と大変仲が悪いのです。今も戦になりそうな気配で、宮廷では軍歌がときおり聴こえてくるほど。
ですから黒い魔術師――私のご主人さまは、今日の奇術に戦勝祈願の意味を込めたのでした。
「ボー・トラヴァイユ! わが魔術師よ!」
当時、奇術師は魔術師の格好をして演じるのが定番でした。ゆえにご主人さまはみなさまから見た目どおりに、そう呼ばれておりました。
おそらくだれもが信じていたでしょう。この黒いお方は本当に、魔法を使えるのだと。
獅子を再びかわいらしい猫に戻し、檻から出してやったご主人さまは、いろんな術を披露なさいました。
宙にうく瓶や花。舞い上がるトランプの札。体を分断されてあわてる大男。発射された弾丸を、ご主人さまが手で受け止めたかのように演じると、舞台は大喝采。
そして最後は突然の花火――
「まあ! なんて美しい百合の花」「満開ですわ」
舞台には黄金の百合の形にともる火花がいくつも現れ、煌々と舞台を照らします。
両脇にずらりと並ぶご婦人方に、王様は鼻高々の自慢顔です。
ご主人さまは光の花園の中央で猫を抱き、終幕のお辞儀をいたしました。
舞台は今宵も大成功。
ご主人さまはきっとまた、王様からご褒美をいただくことでしょう。
世にも珍しい品々を。
サークル幻想断片 創作企画
石物語 Les Histoires des Pierres
石物語 第二期 公式サイト
http://cherspierres.blogspot.jp/
文字をラピス色で綴っておられるから
石の気持ちにも入りやすい気がしました。
次はどうなるんだろう~
この題名、違うかもしれないけど
江戸川乱歩を想像しました^^
お読みくださりありがとうございます♪
一緒に魔術師の舞台を見てくださってうれしいです。
こういうの見たいなと思って書きました^^
お読み下さりありがとうございます♪
青字に金、この組み合わせとても好きです。
色彩を感じていただいてとても嬉しいですノωノ
夢物語を炎揺らめき宝石きらめく万座の宴席で聞き入っているかのよう
Beautiful work!
描かれた夢幻の魔法絵錦に喝采です
青地に金の百合紋が入ったきらびやかな衣装をまとった王様が
黒服に黄金仮面のマジシャンの手にする青い石の入った首輪を見つめる。
色彩が鮮やかで素晴らしいです(´☯ω☯) ゚。✧
続きが楽しみo(^-^)o ワクワクッ
ご高覧ありがとうございます♪
二視点混乱するかなとちょっと心配でしたが
舞台と客席、楽しんでいただけて嬉しいです♪
わーいわーい。
ご高覧ありがとうございます♪
舞台楽しんでいただけて嬉しいです♪
花火もどどーん、惜しげなく豪華に~ノωノ
ご高覧ありがとうございます♪
幸運がみなさまにも訪れますように♪
ネコさん、実にネコさんらしい性格かもかもノωノ
ご高覧ありがとうございます♪
URLご紹介感謝ですノωノ*
王様、いろんな国の人を王宮に招いて、この奇術師さんの舞台を見せているのでしょうね。
毎回仕掛けなどなど、いろいろ大掛かりに披露してそうです。
ご高覧ありがとうございます♪
むかしむかし、奇術師さんは魔術師コスチュームで
ショーをするのが定番だったみたいです♪
面白いとのご感想とてもうれしいです;ω;` 感謝♪
ご高覧ありがとうございます♪
金獅子と金百合は昔から仲悪いですよね^^;
タキシードが奇術師の定番コスになったのはかなり近代のことで
それ以前は妖しい魔術師さんコスで妖しいどろどろんショーが一般的だったみたいです。
ということでこのお話、かなり昔のことなのかも…
楽しんでくださったらうれしいです♪
舞台の上から見た 客席と。
どちらの視点も楽しめて 幸せです (´∀`*)
ネコちゃん可愛い☆
あたしも王様たちと一緒に舞台を楽しんだ気になってしまいました。
躍動感のある運びにすっかり魅入られてしまいました(●´ᆺ`)
百合の花を模った花火あたしも見たいなぁw
幸運を運んできてくれますように。
持ち主のネコと奇術師に(●´艸`)
素晴らしい作品ですね。
すごくおもしろい奇術ショーの描写!!
そしてお客様、とくにこの百合の国の王を喜ばせる為に
わざわざ猫を獅子にすりかえるイリュージョンで
獅子(の国)などには負けないと戦勝祈願の意味を込めるっていう
とっても素敵なアイデアだわ!
ラピスさんは こうやってご主人さまの奇術のショーで
いろんな国のいろんな人たちと会えるのねー
素敵だわ♪
幻想断片にも是非作品紹介を!!
http://www.nicotto.jp/user/circle/articledetail?c_id=244198&a_id=2429272
1は面白いですが、2はどうなるのですかね。
そしてそこに絡んでくる百合紋の王――眩く美しいだけではない、なまぐさい政治や人の思惑が絡んだ舞台。
F国とE国って、仲悪いのがお家芸というか、もはや国民性ジョークになっているというか……w
あれくらいの時代かなぁと想像してみるのも愉しいですね、これ。
すっごく楽しいです。ワクワクするなぁ。