自作4月 鍵 「桃色綿あめ」 後編
- カテゴリ:自作小説
- 2017/04/30 20:39:27
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(ここからおばちゃん代理視点となります)
「俺もさ、よくわからないのよ」
ウサギ技師が天をつくような塔から望遠鏡を眺める。
ぎろんぎろん見渡して、それからコック姿の赤毛男――すなわち俺に先っぽを向けて。レンズ越しに見える赤い目をぱちくりまばたき。
宿屋で同行者の朝ごはんをずっとまかなってる俺は、毎度エプロンするのもなんなので、この身に一番なじんだコック服をまとって過ごしている。
「赤猫剣がいつ食聖の魂を食ったかとか、そもそも、おたくの騎士団営舎にどうやっていきついたかとかさ。わかんないわ」
ここはメンジェールの観光名所、クリーム塔。まさにそんなまっ白くてとぐろをまいてる、ちょっと茶色だったらやばいんじゃないか? っていう形の塔である。
さすが食の国、メンジェールの都はひと目でそうとわかる景観をもつ。おそらく観光客を招致する目的で、都のところどころにこんな感じのおいしそうなランドマークが建てられているのだ。東の方角に見えるあの塔は、まんまハムサンドだよなぁ……あざやかなオランジュジュースのグラスじゃないか? っていう建物もあるし。凱旋門であろうあれは、どろっとショコラーテがかかったドーナツぽい。
「赤猫ってば、記憶機能が微妙だろ? だから聞いても拉致があかないんだよな」
「ああ、すぐにほら吹き出す感じですよね」
「今度石だけぶっこ抜いて、記憶吸い出そうかなぁ」
「それは荒療治と言う奴では」
「だよな。オリジナルはともかく、記憶覗いたらば、それってあのエクステルに会うってことだからさ。躊躇しちまうんだよ。ほらあの子、ソートくんとさぁ……」
「鼻血出るんで、エクステルさんの話はやめてください」
もろその被害を受けた俺は、いらいら早口で答えた。悠長に観光してる場合じゃないと思うんだが、ウサギと黒髪おじさんは今日ものんきに観光ざんまいだ。
都中、あっちにうろうろこっちにうろろ。北に行ったかと思えば南へ。とおもえばまた戻り。移動自体はせわしない。でも王宮へは少しも近づかない。
「あの。今日もあそこへは」
「まだ行けないな。目標が確定してなくて」
「目標……」
「いやね、すごく厄介なもんだから、下準備中」
下準備って。俺には観光して遊んでるようにしか見えないんだが……
「まぁ、あと2,3日で分かるかな。それよりどう思う?」
「はい?」
「『おいしい焼肉店』と『ごっつおいしい焼肉店』、どっちの焼肉が旨かった? 俺は『おいしい焼肉店』の方が美味だと思ったんだけど」
真剣な顔して何を聞くかと思ったら。思わずこんなことしてる場合じゃないだろと怒鳴りかけた俺の前で、ウサギはカチカチと望遠鏡をちぢめて嘆息した。
「『おいしい焼肉店』は国王陛下がな、経営してるんだよ。『ごっつおいしい』は、王太子な。どちらもメニュー同じだろ? 味も同じって俺の師匠は言うんだけどさ。なんか違うんだよな」
「ああそれは……『ごっつおいしい』の方がコストを如実に削減してると思いますよ」
おばちゃん代理さすがわかるのか、と、ウサギが俺に期待の目を向ける。
二つの店はこの王都でチェーン展開しており、各区にそれぞれ二店ほどある。
ここ数日の晩御飯はどちらかの焼肉店ばかりだった。ウサギは、二つの店を食べ比べしていたってことか。
「メニューは同じ、見た目も同じ。でも肉の味が微妙に違います。どちらも王室の牧場から仕入れられた肉だとは思うんですけど、『ごっつおいしい』の方がコクがない感じでしたね。テールスープやタンも少し苦味が……」
「王太子は自分で自由に出荷できる家畜を持ってるらしい」
「となると、牛の餌を変えさせている可能性がありますね。同じ種類の牛でも食べさせるものが違えば、肉質はかなり変わります。安価な餌を使っているのかも」
「ふーむ。王太子は利益追求型なのかねぇ」
ウサギはなんだか難しい顔。
「自ら作った物だけでなく、作らせるものも味が落ちるとなると……」
なるほどそれで、第二王子殿下を担ぎ出す一派ががんばってるってわけなのか?
ウサギは全面的にエティアのジャルデ陛下に協力してるって俺は思っていたけど。もろ手をあげて、この国の王太子を排することに賛成してるってわけじゃないのかもしれない。
第二王子を全力でよいしょしていいかどうか、慎重に目と舌で確かめてるってことなんだろうか。
「ぺぺ! 焼肉あきたから、今日は卵料理店行こうぜ。『ふわとろぴよちゃん』!」
その店名。卵料理が得意だっていう第三王子が経営してる店じゃないか。
俺の剣を盗んだって時点で、第三王子の印象はすごく悪い。でも実際にはどんな奴なのかっていうと、俺は全然知らない。どんな顔してるかもだ。
「第三王子が徹底して監修! ふわとろオムレツをご堪能くださいだってよぉ。なあ、いこうよぺぺ。俺コレ食いたい~っ」
観光パンフレットふりふり、黒髪おじさんがウサギにねだる。
「もう。お師匠さまはほんと、仕方ないなー」
ええとこれって。おじさんの願いをただかなえてるってだけじゃないよな。違うよな?
「いくぞおばちゃん代理。今日は卵だ」
ウサギは、見極めてるんだよな? 王子たちの人となりを。
「おばちゃん代理、味、覚えておけよ。おまえもしかしたら……」
「はい?」
「いや、大丈夫だとは思うけどさ。念のためにさ。敵の味を知っておけ」
「はいい?」
どういう意味だ? 念のためって。 首をかしげつつクリーム塔を降り、市場にさしかかると。
「あ、お師匠さま。王宮から反応」
「おお? ついにきたか?」
ウサギがおお! と声を上げてもふもふの手にはめてる腕輪を見た。
「猫目さんが放った虫が、見つけたみたいだ」
「よっしゃ!」
猫目さんが? 何を?
「結界大丈夫かなぁ?」
「大丈夫じゃね? この一週間歩きまくって地道に描いたからな。すでに六芒星はできてるから、十分ふんじばれるだろ」
な? な?
俺、頭から疑問符。ウサギと黒髪おじさん、街中を歩いて何を描いてたって? 六芒星ってなんなんだ?
おろおろ二人を見比べる俺の膝小僧を、ウサギがにやりとしながらぱしんと叩く。
「さあ、捕り物がはじまるぜ」
白い前歯、きらりって……無駄にかっこいい顔つきだぞこれ。
「でもその前に、ふわとろオムレツ食う~」
「ぐあ! ほんっとお師匠さまはぁああっ!」
呆然とする俺を尻目に、ウサギと黒髪おじさんはがっつんがっつん、互いのほっぺたをつつきあう攻防を始めるのだった。
あいも変わらず。とても楽しげに。
――桃色綿あめ 了 ――
ウサギ技師が天をつくような塔から望遠鏡を眺める。
ぎろんぎろん見渡して、それからコック姿の赤毛男――すなわち俺に先っぽを向けて。レンズ越しに見える赤い目をぱちくりまばたき。
宿屋で同行者の朝ごはんをずっとまかなってる俺は、毎度エプロンするのもなんなので、この身に一番なじんだコック服をまとって過ごしている。
「赤猫剣がいつ食聖の魂を食ったかとか、そもそも、おたくの騎士団営舎にどうやっていきついたかとかさ。わかんないわ」
ここはメンジェールの観光名所、クリーム塔。まさにそんなまっ白くてとぐろをまいてる、ちょっと茶色だったらやばいんじゃないか? っていう形の塔である。
さすが食の国、メンジェールの都はひと目でそうとわかる景観をもつ。おそらく観光客を招致する目的で、都のところどころにこんな感じのおいしそうなランドマークが建てられているのだ。東の方角に見えるあの塔は、まんまハムサンドだよなぁ……あざやかなオランジュジュースのグラスじゃないか? っていう建物もあるし。凱旋門であろうあれは、どろっとショコラーテがかかったドーナツぽい。
「赤猫ってば、記憶機能が微妙だろ? だから聞いても拉致があかないんだよな」
「ああ、すぐにほら吹き出す感じですよね」
「今度石だけぶっこ抜いて、記憶吸い出そうかなぁ」
「それは荒療治と言う奴では」
「だよな。オリジナルはともかく、記憶覗いたらば、それってあのエクステルに会うってことだからさ。躊躇しちまうんだよ。ほらあの子、ソートくんとさぁ……」
「鼻血出るんで、エクステルさんの話はやめてください」
もろその被害を受けた俺は、いらいら早口で答えた。悠長に観光してる場合じゃないと思うんだが、ウサギと黒髪おじさんは今日ものんきに観光ざんまいだ。
都中、あっちにうろうろこっちにうろろ。北に行ったかと思えば南へ。とおもえばまた戻り。移動自体はせわしない。でも王宮へは少しも近づかない。
「あの。今日もあそこへは」
「まだ行けないな。目標が確定してなくて」
「目標……」
「いやね、すごく厄介なもんだから、下準備中」
下準備って。俺には観光して遊んでるようにしか見えないんだが……
「まぁ、あと2,3日で分かるかな。それよりどう思う?」
「はい?」
「『おいしい焼肉店』と『ごっつおいしい焼肉店』、どっちの焼肉が旨かった? 俺は『おいしい焼肉店』の方が美味だと思ったんだけど」
真剣な顔して何を聞くかと思ったら。思わずこんなことしてる場合じゃないだろと怒鳴りかけた俺の前で、ウサギはカチカチと望遠鏡をちぢめて嘆息した。
「『おいしい焼肉店』は国王陛下がな、経営してるんだよ。『ごっつおいしい』は、王太子な。どちらもメニュー同じだろ? 味も同じって俺の師匠は言うんだけどさ。なんか違うんだよな」
「ああそれは……『ごっつおいしい』の方がコストを如実に削減してると思いますよ」
おばちゃん代理さすがわかるのか、と、ウサギが俺に期待の目を向ける。
二つの店はこの王都でチェーン展開しており、各区にそれぞれ二店ほどある。
ここ数日の晩御飯はどちらかの焼肉店ばかりだった。ウサギは、二つの店を食べ比べしていたってことか。
「メニューは同じ、見た目も同じ。でも肉の味が微妙に違います。どちらも王室の牧場から仕入れられた肉だとは思うんですけど、『ごっつおいしい』の方がコクがない感じでしたね。テールスープやタンも少し苦味が……」
「王太子は自分で自由に出荷できる家畜を持ってるらしい」
「となると、牛の餌を変えさせている可能性がありますね。同じ種類の牛でも食べさせるものが違えば、肉質はかなり変わります。安価な餌を使っているのかも」
「ふーむ。王太子は利益追求型なのかねぇ」
ウサギはなんだか難しい顔。
「自ら作った物だけでなく、作らせるものも味が落ちるとなると……」
なるほどそれで、第二王子殿下を担ぎ出す一派ががんばってるってわけなのか?
ウサギは全面的にエティアのジャルデ陛下に協力してるって俺は思っていたけど。もろ手をあげて、この国の王太子を排することに賛成してるってわけじゃないのかもしれない。
第二王子を全力でよいしょしていいかどうか、慎重に目と舌で確かめてるってことなんだろうか。
「ぺぺ! 焼肉あきたから、今日は卵料理店行こうぜ。『ふわとろぴよちゃん』!」
その店名。卵料理が得意だっていう第三王子が経営してる店じゃないか。
俺の剣を盗んだって時点で、第三王子の印象はすごく悪い。でも実際にはどんな奴なのかっていうと、俺は全然知らない。どんな顔してるかもだ。
「第三王子が徹底して監修! ふわとろオムレツをご堪能くださいだってよぉ。なあ、いこうよぺぺ。俺コレ食いたい~っ」
観光パンフレットふりふり、黒髪おじさんがウサギにねだる。
「もう。お師匠さまはほんと、仕方ないなー」
ええとこれって。おじさんの願いをただかなえてるってだけじゃないよな。違うよな?
「いくぞおばちゃん代理。今日は卵だ」
ウサギは、見極めてるんだよな? 王子たちの人となりを。
「おばちゃん代理、味、覚えておけよ。おまえもしかしたら……」
「はい?」
「いや、大丈夫だとは思うけどさ。念のためにさ。敵の味を知っておけ」
「はいい?」
どういう意味だ? 念のためって。 首をかしげつつクリーム塔を降り、市場にさしかかると。
「あ、お師匠さま。王宮から反応」
「おお? ついにきたか?」
ウサギがおお! と声を上げてもふもふの手にはめてる腕輪を見た。
「猫目さんが放った虫が、見つけたみたいだ」
「よっしゃ!」
猫目さんが? 何を?
「結界大丈夫かなぁ?」
「大丈夫じゃね? この一週間歩きまくって地道に描いたからな。すでに六芒星はできてるから、十分ふんじばれるだろ」
な? な?
俺、頭から疑問符。ウサギと黒髪おじさん、街中を歩いて何を描いてたって? 六芒星ってなんなんだ?
おろおろ二人を見比べる俺の膝小僧を、ウサギがにやりとしながらぱしんと叩く。
「さあ、捕り物がはじまるぜ」
白い前歯、きらりって……無駄にかっこいい顔つきだぞこれ。
「でもその前に、ふわとろオムレツ食う~」
「ぐあ! ほんっとお師匠さまはぁああっ!」
呆然とする俺を尻目に、ウサギと黒髪おじさんはがっつんがっつん、互いのほっぺたをつつきあう攻防を始めるのだった。
あいも変わらず。とても楽しげに。
――桃色綿あめ 了 ――
お読みくださりありがとうございます><
もろ意図的に街に網をはる師匠。
でもやっぱりいつもの通り、楽しんじゃう師匠なのでした^^
来てるところがところだけに、
「楽しみつくすぜ!」みたいな気合がどことなく感じられもします・ω・;
お読みくださりありがとうございます><
もくもくの雲なのかそれとも綿あめで生前のお姿をとっているのか……
リアルな綿あめ……ちょっとこわいかもしれません@@;
お読みくださりありがとうございます><
はい、なにやら不測の事態が起こりそうですね^^
今回はフラグをたてる回? でした。
街を足の向くままに散策していたら、歩いた軌跡が
悪魔か何かの紋章になって呼び出しちゃった、的なことを
意図的に六芒星^^
どんなことでも、地道なことでも楽しくやろう!
見習いたいですねぇ♪
小母ちゃん代理が国持大王に?
次回も期待^^
お読みくださりありがとうございます><
はい^^! 剣もおばちゃん代理もおいしくいただいちゃうような…
グルメ編、戦闘前夜のお話でした。
お読みくださりありがとうございます><
ちょっとあやしげな赤猫さんでした。
今回はオリジナルの方の性格が色濃く出ていたと思います。
お読みくださりありがとうございます><
黒髪おじさんの思考は、ほんとに、ワタシにもよくわかりません……@@;
ぺぺさんたちも
赤猫剣さんも(ゾっ)
可憐なところに邪悪要素がちらり…
黒髪おじさんは・・・。