銀の狐 金の蛇 10話「千の花」(中編)
- カテゴリ:自作小説
- 2017/04/24 09:54:49
口元になんとか笑みを作って礼を述べ、夢見の導師は急いで母子の家を出た。
念のため魔法の気配をおろし、指がなくても展開可能な階位の、物理遮断の結界を張る。
淡くまたたく青白い光の膜が、周囲に広がりチリチリかすかな音をたてる。
これでわが身はとりあえず安全だ。一回分の打撃ならこれで防げるだろうし、靴紐もしっかり結ばれている。
導師はさらに韻律を唱え、手のひらに青白い炎のような光の玉を浮かべた。
その光の中に、首から提げた匂い袋をかざす。
『精霊獅子犬! どうかこの匂いの主を探してくれ』
導師のたしなみとして契約している、ささやかな小精霊だ。攻撃力はほとんどないが、五感は鋭い。
光の玉は、蒼い匂い袋の匂いを嗅ぐようにくるくるめまぐるしく回った。それからすぐに、ひゅんと一直線に飛びはじめる。まるで犬のようなしぐさだ。
ソムニウスは、そのあとを追いかけて走り始めた。
「どこだ? カディヤ。私のカディヤ」
ずきずきする包帯頭を手で押さえながら路地を抜け、大通りに出る。光の玉はうろうろさまよいながら、北進する。向かっているところは、このままだと神殿になりそうな勢いだ。
「カディヤ!」
じわりと、ソムニウスの目が潤んだ。
(早く見つけて、抱きしめてやらなければ)
胸がはりさけそうで、いてもたってもいられなかった。
(腕の中に閉じ込めて、囁いてやらなければ)
(愛していると……愛していると……)

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- カズマサ
- 2017/04/25 05:49
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