Nicotto Town



銀の狐 金の蛇 8話「啓示」(後編)


 眉根を寄せて、顔中皺だらけの最長老が聞いた。

『なぜそなたの母親は、そんなことを?』
『母さまは、夢で、いってたの。絶対ぬいだらだめよって!』
『む……』   
――『なんとまあ。あの子、あなたと同じ種類の力の持ち主ですか?』

 ハッとするテスタメノスに促されるまでもなく。ソムニウスはすっくと立ち上がり、叫んでいた。

『その子の服を脱がしてはいけませんっ!!』

 舞台に向かって朗々と。

『今のその子の言葉は、まさしく啓示! 私も今朝方、しっかと同じ予知夢を見ましたっ!』 

 必死であった。

『まさにこの子の夢とそっくり同じでした! 私の腕の中に、赤い服を着たこの子が降りて参ったのですっ』

 無我夢中であった。

『しかし私から離れて赤い服を脱いだとたん、この子はたちまち血を吐いて死んでしまったのですうっ!』

 しかし、嘘八百であった。

『きっとその服は、悪しきものを追い払う力をもっている衣なのです! いつ服を脱いでよいか、この子自身が夢見で判断せねばなりません! むりやり剥ごうものなら、この子はたちまち、病魔か死神に襲われて死んでしまうでしょううううっ!』

 本当は、おのれが心臓を抉られて殺されたのだ。この美しい子に。
 きっとそうなるだろう。いや、すでにそうなっている。
 もう、「心」を奪われている。必死な泣き顔がいじらしくてかわいらしくてたまらない。
 あの顔が笑ったら、もっともっとすばらしいだろう……。

『かあさまの服、ぬ、ぬがなくて、いい?』

 しゃくりあげながら、美しいその子が舞台から聞いてくる。
 ソムニウスはこっくりと、深く大きくうなずいてやった。

『ああ、脱いではいけない。ずっと着ていなさい! 啓示を受けるまで!』
『けいじ?』
『夢で君のお母さまが、脱いでいいと言うまでだ。だが夢の判断はとてもむずかしい! 悪魔が化けて囁く場合もある!』
『あくま、が?』

 一瞬ひるんだ子に、ソムニウスはどんと胸打ち請け負った。
 まるで雄雄しい英雄のごとくに。

『大丈夫だ! 正しい夢の読み方を、私なら教えてやれる! この私ならっ!』

 刹那。その場にいる導師すべてが、一斉に厳しい視線でソムニウスを刺してきた。
 だが、異議を唱える者はない。
 黒き衣の導師の中で、夢見を名乗る者はただひとり。
 偉大なヒュプノウスは去年亡くなってしまったし、このソムニウスひとりしか、弟子をとらなかった。

『長老様方! ですからどうか、この子を私にお預けくださいませ! 夢見の才のある子を、夢見であるこの私に。 この子を、死神から守らせてください!』

 舞台の中央で、長老たちが頭を寄せ集める。

『それに私にはまだひとりも弟子がおりません! だれよりも優先権がございますううううっ』

 ソムニウスはひるまず大声でたたみかけ、石畳にはいつくばり、平身低頭懇願した。

『どうか! なにとぞ!』
『……よかろう、夢見のソムニウス』

 長老たちの輪が崩れる。
 最長老が渋々赤い服の子の手を引いて、舞台を降りてくる。長老たちも後ろにぞろぞろ、ついてくる。
 ソムニウスの目の前に、苦虫を潰したような顔の最長老が至ると。
 長老たちがずらっと横に並び、口々にぼやいた。

『舟に乗せる前に、確かにその力はあると確認していた。しかし……』
『同じ才ある師のもとにつくは、確かに最善ではあるが。しかし……』
『夢の啓示を無視するわけにいかぬが。しかし……』
『金髪ではないから私はいらぬが。しかし君にこんな綺麗な子は、分不相応すぎるという気がするな、脳たりんのチル――いや、ソムニウス』
『皆様、口を閉じられよ』

 長老たちからだけでなく。周囲から鋭く厳しい数多の視線が刺してくる中。

『ソムニウス。百万歩譲っておまえのものということにしてやるが、その代わり誓え』

 菫の瞳をすうと糸のように細め、最長老レヴェラトールが命じてきた。
 顔に幾本もきざまれた深いしわを歪めながら。 



昏くらき深淵の道をたどりて、この子を必ず救うと』




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2017/04/14 12:24
よいとらさま

お読みくださりありがとうございます。
ぺぺ作曲アイダさん作詞のあの歌は
寺院では恋の歌として伝わっているもようです・ω・
啓示うまく読み取れるといいのですが
ソムさんにそれができるのかどうか・・;
それとも魂(ほんのう)でなんとかしちゃうのか・・;
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2017/04/14 12:21
カズマサさま

お読みくださりありがとうございます。
いい啓示だといいのですが…・ω・`
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2017/04/08 11:18
こんにちは♪

ひと目見たらその子とわかりぬ。

やっぱりこれにつきますよね^^

啓示ってのはすべてをストレートに伝えてくることは
まずなくて、いろいろと「折りたたまれて」いるので
「嘘八百」も折りたたまれて隠されていたものかもしれませんね^^

その子がそうだと魂が気づく、のですから♪
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2017/03/30 06:40
未来で良い事が起きれば良いですね。




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