銀の狐 金の蛇 8話「啓示」(後編)
- カテゴリ:自作小説
- 2017/03/29 18:46:01
眉根を寄せて、顔中皺だらけの最長老が聞いた。
『なぜそなたの母親は、そんなことを?』
『母さまは、夢で、いってたの。絶対ぬいだらだめよって!』
『む……』
――『なんとまあ。あの子、あなたと同じ種類の力の持ち主ですか?』
ハッとするテスタメノスに促されるまでもなく。ソムニウスはすっくと立ち上がり、叫んでいた。
『その子の服を脱がしてはいけませんっ!!』
舞台に向かって朗々と。
『今のその子の言葉は、まさしく啓示! 私も今朝方、しっかと同じ予知夢を見ましたっ!』
必死であった。
『まさにこの子の夢とそっくり同じでした! 私の腕の中に、赤い服を着たこの子が降りて参ったのですっ』
無我夢中であった。
『しかし私から離れて赤い服を脱いだとたん、この子はたちまち血を吐いて死んでしまったのですうっ!』
しかし、嘘八百であった。
『きっとその服は、悪しきものを追い払う力をもっている衣なのです! いつ服を脱いでよいか、この子自身が夢見で判断せねばなりません! むりやり剥ごうものなら、この子はたちまち、病魔か死神に襲われて死んでしまうでしょううううっ!』
本当は、おのれが心臓を抉られて殺されたのだ。この美しい子に。
きっとそうなるだろう。いや、すでにそうなっている。
もう、「心」を奪われている。必死な泣き顔がいじらしくてかわいらしくてたまらない。
あの顔が笑ったら、もっともっとすばらしいだろう……。
『かあさまの服、ぬ、ぬがなくて、いい?』
しゃくりあげながら、美しいその子が舞台から聞いてくる。
ソムニウスはこっくりと、深く大きくうなずいてやった。
『ああ、脱いではいけない。ずっと着ていなさい! 啓示を受けるまで!』
『けいじ?』
『夢で君のお母さまが、脱いでいいと言うまでだ。だが夢の判断はとてもむずかしい! 悪魔が化けて囁く場合もある!』
『あくま、が?』
一瞬ひるんだ子に、ソムニウスはどんと胸打ち請け負った。
まるで雄雄しい英雄のごとくに。
『大丈夫だ! 正しい夢の読み方を、私なら教えてやれる! この私ならっ!』
刹那。その場にいる導師すべてが、一斉に厳しい視線でソムニウスを刺してきた。
だが、異議を唱える者はない。
黒き衣の導師の中で、夢見を名乗る者はただひとり。
偉大なヒュプノウスは去年亡くなってしまったし、このソムニウスひとりしか、弟子をとらなかった。
『長老様方! ですからどうか、この子を私にお預けくださいませ! 夢見の才のある子を、夢見であるこの私に。 この子を、死神から守らせてください!』
舞台の中央で、長老たちが頭を寄せ集める。
『それに私にはまだひとりも弟子がおりません! だれよりも優先権がございますううううっ』
ソムニウスはひるまず大声でたたみかけ、石畳にはいつくばり、平身低頭懇願した。
『どうか! なにとぞ!』
『……よかろう、夢見のソムニウス』
長老たちの輪が崩れる。
最長老が渋々赤い服の子の手を引いて、舞台を降りてくる。長老たちも後ろにぞろぞろ、ついてくる。
ソムニウスの目の前に、苦虫を潰したような顔の最長老が至ると。
長老たちがずらっと横に並び、口々にぼやいた。
『舟に乗せる前に、確かにその力はあると確認していた。しかし……』
『同じ才ある師のもとにつくは、確かに最善ではあるが。しかし……』
『夢の啓示を無視するわけにいかぬが。しかし……』
『金髪ではないから私はいらぬが。しかし君にこんな綺麗な子は、分不相応すぎるという気がするな、脳たりんのチル――いや、ソムニウス』
『皆様、口を閉じられよ』
長老たちからだけでなく。周囲から鋭く厳しい数多の視線が刺してくる中。
『ソムニウス。百万歩譲っておまえのものということにしてやるが、その代わり誓え』
菫の瞳をすうと糸のように細め、最長老レヴェラトールが命じてきた。
顔に幾本もきざまれた深いしわを歪めながら。
『昏くらき深淵の道をたどりて、この子を必ず救うと』
お読みくださりありがとうございます。
ぺぺ作曲アイダさん作詞のあの歌は
寺院では恋の歌として伝わっているもようです・ω・
啓示うまく読み取れるといいのですが
ソムさんにそれができるのかどうか・・;
それとも魂(ほんのう)でなんとかしちゃうのか・・;
お読みくださりありがとうございます。
いい啓示だといいのですが…・ω・`
ひと目見たらその子とわかりぬ。
やっぱりこれにつきますよね^^
啓示ってのはすべてをストレートに伝えてくることは
まずなくて、いろいろと「折りたたまれて」いるので
「嘘八百」も折りたたまれて隠されていたものかもしれませんね^^
その子がそうだと魂が気づく、のですから♪