Nicotto Town


よしないごと かな


なごり

 あの日



 家族とは思わない 


  ただいま、は言わない


  あの日、その家を出るときに誓った。


 その家は、なじんだ家ではもはやなく、すでに帰る場所でもなかった。

 夜に眠り、朝に出ていく、毎日の一部ではあったが
、夕に帰る場所ではなかった。
 
  帰りたい、とふと呟く、その対象ではなかった。

 帰りたいと思う場所を切望し、切望し、 

 けれど不思議と、家族という一連の馴れ合いを欲しいと思ったことはない。

その人達を、家族と言葉にも心にも思うことはない。

 否定もわざわざしたりはしないが、あれはその塊として、
樽のそこに残った澱のようなもの、あったかもしれない、古いもの。
今は遠く、薄れた何かでしかない。

 上澄みを救って皮をなめし、乾いた面に一枚かぶす。

あの日忘れて置いてきたそれを 
 騙し騙した

 その濁り。 

 あの日の空も顔も心にはなく、
 またいだ敷居の記憶もない。 

 あの日私は 





Copyright © 2025 SMILE-LAB Co., Ltd. All Rights Reserved.