Nicotto Town



堕落の口



傾きかけて朱を増した太陽。
夕焼けに染まる歪んだ窓ガラス。
石の階段。闇籠る踊り場。

写真で切り取られたような空間に、闇より深い黒地のスカートが翻る。
木で出来た手すりに白魚のような手が乗せられて、数段低い位置から彼女が此方を見上げている。

長い睫毛。潤を含んだ大きな瞳。
夕焼けで朱に染まる黒い髪。
鼓膜を震わす柔らかな声。

「早く。早くしないと礼拝に間に合いませんわ」

そう笑みを含んで此方を見遣る彼女に、いつも私は心臓が止まりそうになる。

眩暈がしそうな程の美貌。

彼女がこの場に居るだけで、古ぼけた踊り場は一瞬にして芸術に変わってしまう。

姿も、声も、立ち振る舞いも、全てが完璧で、そして美しい。
彼女が通れば皆頭を垂れる。
彼女に囁かれれば皆が従う。

きっと、彼女こそが、
ここを支配する神なのだ。






この季節になれば、日沈の後は驚くほど外気が冷たくなる。
寮から抜け出し礼拝堂の裏へと向かう私は、白い息を視界の端に止めながらひっそりと歩を進めている。


静寂が支配する夜。

大理石で出来た校舎。黒い木々。
まるで口を紡ぐかの様にそれらは何も語らない。
これから行われる事なんて、まるで意に介していないかの様に。


中庭を横切れば、礼拝堂の石壁が見えて来る。
一歩、また一歩と足を進める度にどうしようもなく足が震える。
怖い。あの先へ行くことが怖くてたまらない。

こんな風に恐るなら、軽い気持ちでアレに参加するんじゃなかった。
今更後悔してももう遅いけれど。
興味本位で少しだけ、と足を踏み入れたらそこは地獄だった。
ズブズブと体は沈み込み、もう2度と日常には戻れない。太陽の光は私達には差し込まない。

嗚呼、彼女は魔女だった。
美しい顔で邪悪を呼ぶ魔女。
美しい唇で堕落を囁く魔女。
誰もが彼女に従う。
誰もが彼女に傅く。

だからこそ、一度魅入られたら戻れない。

美しい腕。美しい指先。
潤を含んだ目と、支配する声。

礼拝堂裏で、今日もサバトが始まる。

私たちはただ、貴女に跪く。


___堕落の口

アバター
2016/12/30 13:47
書きかけで放置してるシナリオ案を放り投げる٩( 'ω' )و
完成するのはいつになる事やら。



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