7月自作灯り・天の川 「きらきら精霊燈」(前編)
- カテゴリ:自作小説
- 2016/07/19 14:27:53
きらきら精霊燈――愛打式7401――
(今回はウサギ技師視点のお話です)
塔の屋上で天体望遠鏡をいじってると、ちっさな女の子が俺の作業をのぞきにきた。
うちの料理人の娘だ。
まだ四、五歳ぐらいかな。金髪が長くって眼がくりくりってしてて、むちゃくちゃかわいい。
俺の奥さんはひそかに、「きらきら精霊」とこの子のことを呼んでいる。
奥さんは魔力がバカみたいに強いので、人の魂の状態とかはっきり見えちゃうらしい。
「ウサギさま、それなに?」
女の子は青い目を見開いて興味津々。木の幹ぐらい太くて長くて、でっかい筒を見上げてる。
「星を見る機械さ。ルファの目の膜のでっかい奴を作ってつけてるんだぜ」
「るふぁのめ?」
「うん。遠くのものをでっかく映すことができる義眼なんだけど。そいつを望遠鏡用にでっかくうすくして嵌めてる。拡大膜を何十枚と貼ってるからすごい性能だぜ。見てみるかい?」
空には、満天の星。漆黒の地色に、きらきら銀いろの星がちりばめられている。
「んー、天の川がちょっと見えにくいな」
うっそうと茂った森の中とはちがい、塔は王宮のすぐ隣にある。だから、ちょっと天体観測するにはちょっと明るい。宮殿の常夜灯も街の明かりも、結構な光量だ。
そんなわけで。
「ちょいと北のお山の方に移動すっか」
俺はこのひそみの塔を自走させた。
赤毛の妖精たちに金属伝道管で指示を出して。収納している足の部分をだして。がしがし走らせるんだけども。
「ひえ?! ふあああああ?!」
女の子は目を真ん丸くして、ずずずと走りだす塔のてっぺんにしりもちをついてた。
すごい、すごいと、それはもう大変な驚きよう。
いやぁなんというか、そこまで感心されちゃったら、なんだかこそばゆいよね。
「島要塞ツルギ。同じものを四基、メキドの守りに置いてるんだぜ」
「めきど?」
「南の国だよ。もともとこの塔は、メキドにあってさ。その国を守るために稼動してたんだ。今はエティアに来てるけど、古巣のことは忘れちゃいないよ」
星の観測は重要だ。
空を見れば、この星の状態を的確に読み取ることができる。
空気のにごり具合や星の見え方で、異変が起こればたちどころにわかる。
昔、その観測法を知り合いのメニスの女の子から教えてもらった。
その手の本もかき集めて研究したから、俺はそこそこ星見ってのができる。
でも岩窟の寺院の導師並みに、それで世界情勢や個々人の運勢まで読み取る、という力はさすがにない。
導師の星見の力はかなり特殊なものだ。
「今の時期は流星群が見られるんだ」
あたりはまっくら。はるか遠くに街の明かりがうっすら見えるところで、俺は塔の自走を止めさせて。でっかい望遠鏡の蓋をがちゃこんと開けた。
「ここから見てごらん」
「わあ! 星がおおきくみえる!」
「肉眼だとけむって見えるところも、全部星なんだぜ」
「どこ? どこ?」
はしゃぐ女の子に、天の川を指し示してみせる。
「わあー、ほんと! すごいー! あ! いまのなに? すうって流れていったよ」
おお、流星だ。
きらきら精霊ちゃんは大喜びで、望遠鏡に映るものを見ていた。
願いをかけなきゃと、目を皿のようにして流星がまた現れるのを待ち、きらっと流れていく物が見えるたび、両手を合わせてる。
かわいいなぁ。何をお祈りしてるんだろ。
俺はその隣で、空に浮かぶ赤星と白星の輝度を測っていた。
ここは王都に近いから、さすがに空気はきれいに澄んでいるとは言いがたい。
それでも以前ほぼ同じ地点で観測したよりは、星の輝きが格段にきれいに見えている。
王様に都のごみ処理場の移転と、リサイクル推進を進言したからなぁ。
空気の質がしっかり改善されてて何よりだよ。
「カーリン、寝る時間だよ」
階下から、料理人が娘を迎えに来た。
「はーい」
きらきら精霊ちゃんは素直だ。
すぐさま父親の胸に飛びこんで、よき夢を見るためにベッドへ行った。
あー気になる。
どんな願いことしてたんだろ。
――「かわいいですね」
お。
りん、と澄んだ声がしたので、俺はうさぎの耳をひょこりと動かし、ふりむいた。
そこにすらっとした、長い銀髪の人が立っている。
真っ白な肌。紫の瞳。ゆたっとした――黒き衣。
おお。この人は……!
俺は後ろ足を踏み込み、にこやかに、その人のもとへぴょんと飛んだ。
「奥さんこんばんはっ」
塔の屋上で天体望遠鏡をいじってると、ちっさな女の子が俺の作業をのぞきにきた。
うちの料理人の娘だ。
まだ四、五歳ぐらいかな。金髪が長くって眼がくりくりってしてて、むちゃくちゃかわいい。
俺の奥さんはひそかに、「きらきら精霊」とこの子のことを呼んでいる。
奥さんは魔力がバカみたいに強いので、人の魂の状態とかはっきり見えちゃうらしい。
「ウサギさま、それなに?」
女の子は青い目を見開いて興味津々。木の幹ぐらい太くて長くて、でっかい筒を見上げてる。
「星を見る機械さ。ルファの目の膜のでっかい奴を作ってつけてるんだぜ」
「るふぁのめ?」
「うん。遠くのものをでっかく映すことができる義眼なんだけど。そいつを望遠鏡用にでっかくうすくして嵌めてる。拡大膜を何十枚と貼ってるからすごい性能だぜ。見てみるかい?」
空には、満天の星。漆黒の地色に、きらきら銀いろの星がちりばめられている。
「んー、天の川がちょっと見えにくいな」
うっそうと茂った森の中とはちがい、塔は王宮のすぐ隣にある。だから、ちょっと天体観測するにはちょっと明るい。宮殿の常夜灯も街の明かりも、結構な光量だ。
そんなわけで。
「ちょいと北のお山の方に移動すっか」
俺はこのひそみの塔を自走させた。
赤毛の妖精たちに金属伝道管で指示を出して。収納している足の部分をだして。がしがし走らせるんだけども。
「ひえ?! ふあああああ?!」
女の子は目を真ん丸くして、ずずずと走りだす塔のてっぺんにしりもちをついてた。
すごい、すごいと、それはもう大変な驚きよう。
いやぁなんというか、そこまで感心されちゃったら、なんだかこそばゆいよね。
「島要塞ツルギ。同じものを四基、メキドの守りに置いてるんだぜ」
「めきど?」
「南の国だよ。もともとこの塔は、メキドにあってさ。その国を守るために稼動してたんだ。今はエティアに来てるけど、古巣のことは忘れちゃいないよ」
星の観測は重要だ。
空を見れば、この星の状態を的確に読み取ることができる。
空気のにごり具合や星の見え方で、異変が起こればたちどころにわかる。
昔、その観測法を知り合いのメニスの女の子から教えてもらった。
その手の本もかき集めて研究したから、俺はそこそこ星見ってのができる。
でも岩窟の寺院の導師並みに、それで世界情勢や個々人の運勢まで読み取る、という力はさすがにない。
導師の星見の力はかなり特殊なものだ。
「今の時期は流星群が見られるんだ」
あたりはまっくら。はるか遠くに街の明かりがうっすら見えるところで、俺は塔の自走を止めさせて。でっかい望遠鏡の蓋をがちゃこんと開けた。
「ここから見てごらん」
「わあ! 星がおおきくみえる!」
「肉眼だとけむって見えるところも、全部星なんだぜ」
「どこ? どこ?」
はしゃぐ女の子に、天の川を指し示してみせる。
「わあー、ほんと! すごいー! あ! いまのなに? すうって流れていったよ」
おお、流星だ。
きらきら精霊ちゃんは大喜びで、望遠鏡に映るものを見ていた。
願いをかけなきゃと、目を皿のようにして流星がまた現れるのを待ち、きらっと流れていく物が見えるたび、両手を合わせてる。
かわいいなぁ。何をお祈りしてるんだろ。
俺はその隣で、空に浮かぶ赤星と白星の輝度を測っていた。
ここは王都に近いから、さすがに空気はきれいに澄んでいるとは言いがたい。
それでも以前ほぼ同じ地点で観測したよりは、星の輝きが格段にきれいに見えている。
王様に都のごみ処理場の移転と、リサイクル推進を進言したからなぁ。
空気の質がしっかり改善されてて何よりだよ。
「カーリン、寝る時間だよ」
階下から、料理人が娘を迎えに来た。
「はーい」
きらきら精霊ちゃんは素直だ。
すぐさま父親の胸に飛びこんで、よき夢を見るためにベッドへ行った。
あー気になる。
どんな願いことしてたんだろ。
――「かわいいですね」
お。
りん、と澄んだ声がしたので、俺はうさぎの耳をひょこりと動かし、ふりむいた。
そこにすらっとした、長い銀髪の人が立っている。
真っ白な肌。紫の瞳。ゆたっとした――黒き衣。
おお。この人は……!
俺は後ろ足を踏み込み、にこやかに、その人のもとへぴょんと飛んだ。
「奥さんこんばんはっ」
「ピピさんこんばんは。今宵は落ち星の夜ですね」
えへ。へへへ。そうです奥さん。そうですよお?
いや今夜も一段と、美人ですねー。ふへへ。
「ピピさんは一段と、顔がにやけていますね」
はいそれはもうっ。奥さんの美しさに、俺は顔がだらしなくゆるみますよぉ。
当然ですよぉ。こんなにお美しいメニスですもんねえ。
おお、特製カンテラ持ってるんですねえ? 空っぽのこの中に、落ちてくる星を入れようって寸法ですねえ?
カーリンも一緒に、誘ったらよかったかなぁ。
「子供は寝ないといけない時間ですよ」
いて! いてて! 奥さん痛いですよ。にっこり微笑みながら、俺の耳引っ張らないでくださいよ。
すみませんすみません。二人きりじゃないとダメですよねえ。
逢瀬ってやつですもんね。
いやあ、俺たち、相思相愛ラブラブですね!
「やっと、こちらへ戻ってこれそうです」
おお。ほんとに?
「はい。割れた次元亀裂の修復が、ほぼ済みましたので。あちら側からずいぶんこじ開けられていましたが、大丈夫です。しっかり縫い閉じることができました。これでまた当分、メニスの王を異次元世界に封じ込めておけますよ」
俺と奥さんはその昔、人間を滅ぼそうとしたメニスの王を別の世界に封じたんだけど。
そいつがまた暴れだす気配を見せたんで、奥さんが現場に急行して、ずうっと穴うめ作業してくれてた。俺とこの塔は後方支援してたけど、今回はずいぶん時間がかかったなぁ。
帰ってくるのほんとうれしいよ。奥さんずうっと出張してたから、俺さびしかったわ。
「あらあら。こうして毎日、精神体を送っているじゃないですか。触感や物理感もきちんと送っているはずですけど?」
そうだけどさあ。ちゃんと掴めるし、さわれるけど、それでも奥さん、生身じゃないもん。
いくら魔力がめちゃくちゃ強くって、ほとんど本物みたいな霊体だって言っても、やっぱり違うよ。
それにこんな大サービスしてくれるのは、奥さんだけで。
普段、表に出てるあいつは……
「ハヤトがそわそわしていますよ。赤毛の料理人さんが気になっています」
おっと。噂をすればさっそく。
「だろうなぁ。ほんとうまいんですよぉ、あの赤毛の奴の料理。今朝のニンジンフレンチトーストなんて――」
「ハヤトは、俺の方がニンジン料理をもっとうまく作れると、わめいてますよ」
「え」
ハヤトは……奥さんの中にいるもうひとつの人格だ。
女神のような奥さんとは月とすっぽん。あいつの方は、すんごく嫉妬深くてやばい。
そわそわしてるのは、料理人の料理を食べたいからじゃないって?
そ、それはやべえ。
えへ。へへへ。そうです奥さん。そうですよお?
いや今夜も一段と、美人ですねー。ふへへ。
「ピピさんは一段と、顔がにやけていますね」
はいそれはもうっ。奥さんの美しさに、俺は顔がだらしなくゆるみますよぉ。
当然ですよぉ。こんなにお美しいメニスですもんねえ。
おお、特製カンテラ持ってるんですねえ? 空っぽのこの中に、落ちてくる星を入れようって寸法ですねえ?
カーリンも一緒に、誘ったらよかったかなぁ。
「子供は寝ないといけない時間ですよ」
いて! いてて! 奥さん痛いですよ。にっこり微笑みながら、俺の耳引っ張らないでくださいよ。
すみませんすみません。二人きりじゃないとダメですよねえ。
逢瀬ってやつですもんね。
いやあ、俺たち、相思相愛ラブラブですね!
「やっと、こちらへ戻ってこれそうです」
おお。ほんとに?
「はい。割れた次元亀裂の修復が、ほぼ済みましたので。あちら側からずいぶんこじ開けられていましたが、大丈夫です。しっかり縫い閉じることができました。これでまた当分、メニスの王を異次元世界に封じ込めておけますよ」
俺と奥さんはその昔、人間を滅ぼそうとしたメニスの王を別の世界に封じたんだけど。
そいつがまた暴れだす気配を見せたんで、奥さんが現場に急行して、ずうっと穴うめ作業してくれてた。俺とこの塔は後方支援してたけど、今回はずいぶん時間がかかったなぁ。
帰ってくるのほんとうれしいよ。奥さんずうっと出張してたから、俺さびしかったわ。
「あらあら。こうして毎日、精神体を送っているじゃないですか。触感や物理感もきちんと送っているはずですけど?」
そうだけどさあ。ちゃんと掴めるし、さわれるけど、それでも奥さん、生身じゃないもん。
いくら魔力がめちゃくちゃ強くって、ほとんど本物みたいな霊体だって言っても、やっぱり違うよ。
それにこんな大サービスしてくれるのは、奥さんだけで。
普段、表に出てるあいつは……
「ハヤトがそわそわしていますよ。赤毛の料理人さんが気になっています」
おっと。噂をすればさっそく。
「だろうなぁ。ほんとうまいんですよぉ、あの赤毛の奴の料理。今朝のニンジンフレンチトーストなんて――」
「ハヤトは、俺の方がニンジン料理をもっとうまく作れると、わめいてますよ」
「え」
ハヤトは……奥さんの中にいるもうひとつの人格だ。
女神のような奥さんとは月とすっぽん。あいつの方は、すんごく嫉妬深くてやばい。
そわそわしてるのは、料理人の料理を食べたいからじゃないって?
そ、それはやべえ。
俺は必死に弁明した。
「お、おおお奥さんのニンジンドーナツは最高ですよ? それは大陸で……いや、宇宙で一番ですよ? でもほら、この塔の赤毛の妖精たちが食べる分は、妖精たちが当番で作ってるじゃん? その仕事をさ、専属料理人に一任しようと思って。ジャルデ陛下があいつ使ってって、押し付けてきたからさぁ。も、もちろん俺は奥さんが帰ったら、奥さんが作ったごはんだけ食いますよ。ええ絶対、そうしますよっ」
ペペさんのその後のお話みたいにも見えますね。