4月自作 桜 『桜の姫』(後編)
- カテゴリ:自作小説
- 2016/04/30 00:43:45
それから永い時間がたったあと。
私はトレジャーハンターの船に引き上げられました。
フジツボだらけの私の首には、フェイディアス様の白い骨の欠片がからみついていました。その腕の部分だけが。
他の部分は波にさらわれたり、魚につつかれたりして、なくなってしまったのです。
私はきれいにされて、いまだに観光地として名高かったかの島で、競売にかけられました。
骸骨に愛された彫像、というふれこみで。
買って下さったのは、皇の国のやんごとなきお方。
黒猫(ヘイマオ)という名で、海の藻屑と消えた彫刻家の伝説をご存知でした。
「かの伝説の彫像は、齢四百年の桜から作られたと言い伝えられていると聞いていたが」
そのお方の額には、花のような形の印がついていて。
「まこと強力な御魂が宿っているようだ」
とても凄まじい魔道の力を持っておられました。
しかも。
「私はやはり、これに惹かれていたのか……。前の生では、魔力などなかったゆえにはっきり気づけなかったが……」
そのお方は。まごうことなく……
「精霊よ。桜の姫よ。どうか私と契約してくれぬか? 未来永劫、私を守ってくれぬか?」
まごうことなく……
『僕はあきらめない。もし生まれ変わったら、君を迎えに……』
それ以来。私は見守ってきました。
何年も。何年も。黒き猫の家を、その当主と共に。
当主様が皇の国を離れ、エティアという国に魔道師として招かれ。年老いて。
その地に骨をうずめたあとも。
『生まれ変わったら、そなたを迎えに……』
当主の魂は、一代あとには必ず、私のもとに戻ってきてくださいました。
当主様はご自分が顕現されるために、子どもを作り、子孫を増やしました。
けれどもそれは私のため。
もし額に印のない、魔力のない子どもが生まれたら。
当主様は私にその血を捧げて下さいます。
何よりも。だれよりも。偉大で強く、美しい精霊に成長するようにと。
「決して許しはすまいぞ」
今日も当主様は、涙の跡でぼこぼこになっている私の頬を撫でて、うっとり囁いて下さいます。
暗闇の中で。
静謐なる祭壇に鎮座する、私の前で。
「このシュヴァルツカッツェの家を乗っ取り、おまえとわしを殺そうとした者どもは、
未来永劫呪ってやる。奴らの子どもが生きのびた痕跡を見つけたと、草から情報
が入った。絶対に見つけだし、その首をここに並べてやろうぞ。
わしの精霊よ。桜の姫よ。今しばらく、待っていておくれ」
はい。
はい、当主様。
いとしいお方。
私は喜びに満ち溢れて答えました。
また、新鮮な血を吸えるのですね。
「そうだよ。わしの姫」
当主様が微笑んで下さいます。私の声がはっきり聞こえるからです。
なんてうれしいことでしょうか。
私は自分の足元を見下ろします。
そこにはふたつ、ミイラと化した首が並んでいます。
いけにえの首。男と女。この家を乗っ取ろうとした者どもです。
ずいぶん前に、私はその血を足元から全部吸い上げてやりました。
おかげでずいぶんと、霊位が上がりました。
偉大なる位階に達する精霊となった暁には。
私は、花を咲かせることでしょう。
薄桃色ではなく真紅の花を、この身から咲かせることでしょう。
そうなれば。
我が全身には熱い血潮がうねり、この身は本物の血肉と化すのです。
私は、本物の乙女になれるのです。
当主様を抱きしめることができる、生きた存在に。
楽しみだこと。
ああその日がどうか一日も早く。
やってきますように。
桜姫 ――了――
ご高覧ありがとうございます><
今回はホラーに挑戦です^^
お互いに一途。互いに相手しか見えていない、
二人だけの世界。
良くも悪くも、桜姫は純粋なのだろうなぁと思います。
ご高覧ありがとうございます><
木の根元に埋められた数多の霊が合体して精霊の一部に。そして力に……^^
黒猫家の守護精霊は相当年季が入っている模様です。
だいぶ血を吸ってますので霊力も相当あるかと思われます。
おばちゃん代理のところの精霊(カーリン)はかなり純粋で不安定なようですが、
太刀打ちできるのでしょうか;
カーリンの方はもともと何に宿っていたのかまだ不明ですが、
かなり歳若い印象があります^^
ご高覧ありがとうございます><
いつものコメディタッチではなく、ホラーに挑戦してみました^^
日本人にとってやはり桜は特別、霊的なものを感じる存在のようです^^
ご高覧ありがとうございます><
一途すぎて怖い彼と精霊の姫、
永い時間を生きているのに、
二人の世界はかくも狭いもののようです><
ご高覧ありがとうございます><
今回はホラーに挑戦してみました^^
黒猫家の精霊はやはり血塗れておりました。
食堂のおばちゃん、たちうちできるのでしょうか>ω<
ご高覧ありがとうございます><
女性のあやかし系といえば、やはり第一に雪女ですよね^^
日本で萌える吸血姫が出てきたのはアニメの「吸血姫・美夕」からでしょうか、
「地獄少女」あたりが、その「萌え怖」な雰囲気を現在に継承していると思います。
会員の皆さまの作品の桜も魅惑と魔性の力にあふれていて、
やはり日本人にとって桜は実に特別な植物、霊性を感じるものなのだと、大変興味深く思いました。
開花前の桜の幹には桜の花を染める色素(桜色)が増えるって話を思い出しました。
魔に惹かれ魔を呼ぶ何かがあっても不思議じゃない気も・・・・。
幼かった想いが育つにつれ鮮血にまみれた想いに変わっていくとは><
本物の血肉をまとった桜姫と永劫の愛を誓った当主様
その日が来ることが平穏な日になるのか
気がかりであります。。。
業そのものは、善悪に応じて果報を生じ、死によっても失われず、輪廻転生に伴って・・・
(ウィキの(業)で検索)
うまく言えないですがそんな様な事を考えた。
いつもとは違うパターン
純愛か悪か?
ヒロインの視点が興味深く感じました
美しい花を咲かせる木の下には、かつて生きていたものが
埋まっているという話がありますね^^
人に限らず鳥だったり猫だったり・・・
美しい花を咲かせる木は、それだけで目立ちますから、
墓標代わりに木の根元へ埋めに来る人もいそうです。
木は美しい花を咲かせることで新たな血を
呼び寄せているのかもしれませんね^^;
そして、
やがて精霊が宿ります・・・
輪廻と永遠の愛というテーマがここでも生きて、
赤毛の青年のお話とのつながりも見える、黒猫家視点のお話を楽しく読みました^^
血染めの花は咲くのか咲かないのか・・・
いつも楽しいお話をありがとうございます♪
なにか棲んでるぞ、みたいな感じ。
Sianさんのいつものお話ではないのですが、楽しめました。
おそろしくもインパクトの強い作品だなあと感心しました
ありがとうございます^^
精霊は具現化しない方が私としては良いですが、吸血鬼は怖いイメージが有ります。