アスパ番外編 ほむらちゃんと私 第2話 (後編)
- カテゴリ:自作小説
- 2016/04/08 07:12:05
『ほ、ほむらさん。あの……』
私は真っ赤な刀身が放つ波動の向こうから、ふんばる剣におそるおそる声をかけました。
『そのお嬢さん困ってますよ? 彼女は、自ら進んでいけにえになりたいのでは?』
『なにをいうのエクスちゃん! そんな運命に甘んじる生き物がこの世にいるなんて、ありえないわっ。生き物なればすべからく、生存本能を持っているものよ。ご主人さまは内心生きたがってる。無理をしてるにちがいないわ!』
でも。でも。メニスはわかりませんが、人間というものはですね。
信じるもののためには、命を賭すことができるのですよ。
それがはたからは理不尽で間違ったものに見えようと、本人にとっては、まごうことなき真実。
本当に納得して、満足して、結果を――運命を、受け入れるのです。
ですから――
『いやよ!』
ほむらさんは取り乱して叫びました。
『いやよ! いや! あたし、もう失いたくないの! ご主人さまを目の前で失うなんて、そんなのもういや!!』
ぱうん、と美しい炎の光輪が真紅の刃から放たれて。
少女を遠巻きに取り囲む兵士たちをさらに押し退かせました。
ほむらさん! だ、だめですよ!
正式に契約していないのでは……その方をご主人さまと呼ぶことすら、許されませんのに。
見て下さいよ、少女の顔を。泣いてますよ!
『なんですって?』
泣いてます。
せっかくここで華々しい最期を、人生のクライマックスを迎えようというのに。ほむらさん、少女は無残にも、あなたに邪魔されてしまったのです。
彼女にとっては、これは大好きな恋人と結ばれて結婚することと同義。
いや、きっとそれ以上に価値あるもの。
彼女の人生における、一番の一大イベント。
だから……
邪魔してはいけません。
止めてはいけません。
それでたとえ、彼女がこの世からいなくなるとしても――
『主人が目の前で死ぬのを見守る? そんなことできない!』
ほむらさんは金切り声をあげました。
『主人持ち剣のくせに、ご主人さまを見殺しにするなんて! そんなこともう二度と! あたしはもう二度とごめんなのよ!』
いいえ。いいえ。たとえその少女が契約をなした主人であったとしても。
主人の望みを叶えてさしあげるのが、我が使命。
私はそう心得ております。
むろん間違った事、悪しき事に陥りし時はお諌めし、正道に戻すのもわれらが努めであ
りましょう。
ですが。
かなしいことですが、これは。この儀式は。
スメルニアにおいては、正義。
蒼き髪の少女の、にごりのない澄んだ瞳をごらんなさい。
りんりんとはなたれる迷いなき信念の精神波を、感じてごらんなさい。
一遍の曇りもない、芯の通った美しい波動を。
ほむらさん。あなたにはつらい過去がおありになるようですが、ご自分の記憶を、望みを、ご主人さまにおしつけてはいけません。
あなたは、ご主人さまを止めてはなりません。
真実、この少女を主人とするならば。
『いやよ!! いや!! 死なせたくないの! 死なせたくない!
ご主人さまはあたしをひろってくださった。 きれいにきれいに磨いて下さった。汚く錆びたあたしをこんなにぴかぴかにしてくださった。深く深く、愛でてくださったの』
「け、剣……それは、打ち捨てられておったうぬを、不憫に思うて……」
少女がおろおろと杖をおろし、剣に近づきました。
いまや泣き声のほむらさんは、ふわんふわんとやわらかな光輪をたえず放っておりました。
『こんなお優しい方をこの世からなくしてしまうなんて、あたしは、絶対いや!!』
ああ……ほむらさんはこの少女に……
蒼い髪のこの少女に、恋をしてしまったのでしょう。
優しくしてくれたこの娘に。
それに過去の記憶もだいぶひきずっているようです。
もしかしたら主人を失ったことで、ひどい境遇に落とされたのかもしれません。
打ち捨てられていたとは、なんとも辛いことです。
しかし主人の意志を無視しておのが欲求を通そうとするとは、主人持ち剣にとっては致命的な欠陥。
もしかしてもう、ほむらさんは古すぎてこわれていらっしゃるのでは……
五万歳、でしたよね。主人百人。
人間の主人はみんな女性――う、うらやま……
ととと、ともかく!
ほむらさんがこのまま少女の邪魔立てをしてしまえば、主人持ち剣としては失格です。
五万年もの寿命を誇る名剣の名声が、このような不祥事で地に落ちてしまうとは。同じ人工精霊剣として、それは心痛い限りです。見ていられません。
耐え難きこの状況を打破するには。
ふむ。
それでは。それでは。
こういたしましょう――!
百の機能《ヘカトンガジェット》起動!
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私はわが脳味噌たる赤き鋼玉を煌めかせ、木造の本殿に向かって紅い光を照射しました。
刹那。
我が身からほとばしった光は、立体的な映像となり。
たちまち、神々しくも美しい、光り輝く幻像がそこにたち現れました。
それはきらきらと黄金色に光る、ある神の姿。
とたんに、スメルニアの兵士たちからどよめきがあがりました。
黒衣の将官も少女も、目をみはって本殿の方を振りむいています。
「ななななんだあれは」「なんという光量!」
「なんと神々しい」「ま、まぶしいぞ」
「なんじゃこれは……!」
そう。この神こそはスメルニアの主神。
輝ける陽の君。
太陽神オオミカミノアメテラス――。
私はひゅんひゅんと刀身をうならせ、幻を照射し続けました。
そしてどうかうまくいきますようにと祈りながら、巨大版メルドルークの美しい声音を我が身から発したのでした。
威厳あるように。
威圧するように。
だれもが、ひれふすように。
『そこな少女よ、死して我のもとへ来たいと望むはそなたか?』
ご高覧・コメントありがとうございます><
主人持ち剣にあるまじき行為なれど。
人造物の型からはみでたほむtらちゃんは
すでに人造物ではなく
一個の生命体、完全なる魂として活動しているのかもしれませんね。
年月を経ると
物に精霊がやどったり、
きつねさんが神様になったり、
そんな進化がほむらちゃんにも起こっているのかもしれません。
ご高覧・コメントありがとうございます><
ほむらちゃんの言葉がしごく正論ですよね。
赤猫は主人の意思を尊重したいようですが、
それは半機械特有の堅苦しい規範(マニュアル)であるのでしょう。
年を重ねているほむらちゃんはさすがに
非常に人間に近い感情をもっているといえます。
境内にうち出でて見れば・・・赤く輝くほむらちゃん・・・
しかも感情率120%で動いています^^;
押すも引くもならない状況を動かすべく、
赤猫剣のくりだしたマルチチャンネルサラウンドつき3D映像投影機能は
吉と出るか凶と出るか・・・
ほむらちゃんと少女と赤猫剣の物語、続きが楽しみです♪
幻影を出しても死する事を止める様に言いましょう。