Nicotto Town



アスパ番外編 ほむらちゃんと私 第2話 (後編)

 
『ほ、ほむらさん。あの……』

 私は真っ赤な刀身が放つ波動の向こうから、ふんばる剣におそるおそる声をかけました。 

『そのお嬢さん困ってますよ? 彼女は、自ら進んでいけにえになりたいのでは?』

『なにをいうのエクスちゃん! そんな運命に甘んじる生き物がこの世にいるなんて、ありえないわっ。生き物なればすべからく、生存本能を持っているものよ。ご主人さまは内心生きたがってる。無理をしてるにちがいないわ!』

 でも。でも。メニスはわかりませんが、人間というものはですね。

 信じるもののためには、命を賭すことができるのですよ。

 それがはたからは理不尽で間違ったものに見えようと、本人にとっては、まごうことなき真実。

 本当に納得して、満足して、結果を――運命を、受け入れるのです。 

 ですから――

『いやよ!』 

 ほむらさんは取り乱して叫びました。

『いやよ! いや! あたし、もう失いたくないの! ご主人さまを目の前で失うなんて、そんなのもういや!!』
 
 ぱうん、と美しい炎の光輪が真紅の刃から放たれて。

 少女を遠巻きに取り囲む兵士たちをさらに押し退かせました。

 ほむらさん! だ、だめですよ! 

 正式に契約していないのでは……その方をご主人さまと呼ぶことすら、許されませんのに。

 見て下さいよ、少女の顔を。泣いてますよ! 

『なんですって?』

 泣いてます。

 せっかくここで華々しい最期を、人生のクライマックスを迎えようというのに。ほむらさん、少女は無残にも、あなたに邪魔されてしまったのです。

 彼女にとっては、これは大好きな恋人と結ばれて結婚することと同義。

 いや、きっとそれ以上に価値あるもの。

 彼女の人生における、一番の一大イベント。

 だから……

 邪魔してはいけません。

 止めてはいけません。

 それでたとえ、彼女がこの世からいなくなるとしても――

『主人が目の前で死ぬのを見守る? そんなことできない!』
 
 ほむらさんは金切り声をあげました。
 
『主人持ち剣のくせに、ご主人さまを見殺しにするなんて! そんなこともう二度と! あたしはもう二度とごめんなのよ!』

 いいえ。いいえ。たとえその少女が契約をなした主人であったとしても。

 主人の望みを叶えてさしあげるのが、我が使命。

 私はそう心得ております。

 むろん間違った事、悪しき事に陥りし時はお諌めし、正道に戻すのもわれらが努めであ
りましょう。

 ですが。

 かなしいことですが、これは。この儀式は。

 スメルニアにおいては、正義。

 蒼き髪の少女の、にごりのない澄んだ瞳をごらんなさい。

 りんりんとはなたれる迷いなき信念の精神波を、感じてごらんなさい。

 一遍の曇りもない、芯の通った美しい波動を。

 ほむらさん。あなたにはつらい過去がおありになるようですが、ご自分の記憶を、望みを、ご主人さまにおしつけてはいけません。

 あなたは、ご主人さまを止めてはなりません。

 真実、この少女を主人とするならば。

『いやよ!! いや!! 死なせたくないの! 死なせたくない! 

 ご主人さまはあたしをひろってくださった。 きれいにきれいに磨いて下さった。汚く錆びたあたしをこんなにぴかぴかにしてくださった。深く深く、愛でてくださったの』

「け、剣……それは、打ち捨てられておったうぬを、不憫に思うて……」

 少女がおろおろと杖をおろし、剣に近づきました。

 いまや泣き声のほむらさんは、ふわんふわんとやわらかな光輪をたえず放っておりました。 

『こんなお優しい方をこの世からなくしてしまうなんて、あたしは、絶対いや!!』


 ああ……ほむらさんはこの少女に……
 
 蒼い髪のこの少女に、恋をしてしまったのでしょう。
 
 優しくしてくれたこの娘に。
 
 それに過去の記憶もだいぶひきずっているようです。
 
 もしかしたら主人を失ったことで、ひどい境遇に落とされたのかもしれません。
 
 打ち捨てられていたとは、なんとも辛いことです。
 
 しかし主人の意志を無視しておのが欲求を通そうとするとは、主人持ち剣にとっては致命的な欠陥。
 
 もしかしてもう、ほむらさんは古すぎてこわれていらっしゃるのでは……
 
 五万歳、でしたよね。主人百人。
 
 人間の主人はみんな女性――う、うらやま……
 
 ととと、ともかく!
 
 ほむらさんがこのまま少女の邪魔立てをしてしまえば、主人持ち剣としては失格です。
 
五万年もの寿命を誇る名剣の名声が、このような不祥事で地に落ちてしまうとは。同じ人工精霊剣として、それは心痛い限りです。見ていられません。

 耐え難きこの状況を打破するには。

 ふむ。

 それでは。それでは。

 こういたしましょう――!
  

 百の機能《ヘカトンガジェット》起動!

  
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 私はわが脳味噌たる赤き鋼玉を煌めかせ、木造の本殿に向かって紅い光を照射しました。
 
 刹那。
 
 我が身からほとばしった光は、立体的な映像となり。
 
 たちまち、神々しくも美しい、光り輝く幻像がそこにたち現れました。
 
 それはきらきらと黄金色に光る、ある神の姿。
 
 とたんに、スメルニアの兵士たちからどよめきがあがりました。
 
 黒衣の将官も少女も、目をみはって本殿の方を振りむいています。

「ななななんだあれは」「なんという光量!」

「なんと神々しい」「ま、まぶしいぞ」

「なんじゃこれは……!」

 そう。この神こそはスメルニアの主神。

 輝ける陽の君。

 太陽神オオミカミノアメテラス――。

 私はひゅんひゅんと刀身をうならせ、幻を照射し続けました。

 そしてどうかうまくいきますようにと祈りながら、巨大版メルドルークの美しい声音を我が身から発したのでした。

 威厳あるように。

 威圧するように。

 だれもが、ひれふすように。



『そこな少女よ、死して我のもとへ来たいと望むはそなたか?』







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2016/04/14 23:26
よいとらさま

ご高覧・コメントありがとうございます><
主人持ち剣にあるまじき行為なれど。
人造物の型からはみでたほむtらちゃんは
すでに人造物ではなく
一個の生命体、完全なる魂として活動しているのかもしれませんね。
年月を経ると
物に精霊がやどったり、
きつねさんが神様になったり、
そんな進化がほむらちゃんにも起こっているのかもしれません。
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2016/04/14 22:45
優(まさる)さま

ご高覧・コメントありがとうございます><

ほむらちゃんの言葉がしごく正論ですよね。
赤猫は主人の意思を尊重したいようですが、
それは半機械特有の堅苦しい規範(マニュアル)であるのでしょう。
年を重ねているほむらちゃんはさすがに
非常に人間に近い感情をもっているといえます。
アバター
2016/04/09 12:14
おはようございます♪

境内にうち出でて見れば・・・赤く輝くほむらちゃん・・・
しかも感情率120%で動いています^^;

押すも引くもならない状況を動かすべく、
赤猫剣のくりだしたマルチチャンネルサラウンドつき3D映像投影機能は
吉と出るか凶と出るか・・・

ほむらちゃんと少女と赤猫剣の物語、続きが楽しみです♪
アバター
2016/04/08 20:26
死ぬ事を許してはいけませんね。

幻影を出しても死する事を止める様に言いましょう。




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