Nicotto Town



アスパシオンの弟子23 走馬灯(後編)

 白い光があふれてる。ここはどこなんだろう?

 だれかといた気がする。

 だれだっけ? 僕、さっきまでどこにいたんだっけ?

 ああ、ハヤトに会いたいな……


 ハヤトはとてもえらい大公の隠し子で。お母さんが死んでから、お城にひきとられたんだそうだ。

 家庭教師は、少しでも笑うと鞭で叩いた。だから笑いたくても、自由に笑えなかったらしい。

 でもハヤトは、実はお笑い芸人の隠れファンだった。

 それが発覚したのは……いつだったっけ?

 ああ、豊穣祭の時だ。

 寺院の秋のお祭りで。弟子たちの間でなんでもやりたい催しができる、年に一度の無礼講。

 そのとき仮装大会をやって、エリクがお笑い芸人リューノゲキリンの扮装をしたんだ。それで、

モノマネをしたんだっけ……。

「激・リーン!」

 集会の広場でエリクが弟子のみんなを笑わせてたら。ハヤトがむっつり怒り出したんだ。

「……にてない」

「え? あれ、だめなの? けっこう面白いじゃん?」

「だめ。ぜんぜん、だめ。ポーズが全然なってないよ」

「まあ、寺院じゃいいとこ雑誌しか手に入らないからなぁ。生公演なんてとても見られないしね」

「リューノゲキリンは、俺んちによくやってきたよ」

 俺んちっていうのはようするに、白鷹家の大公の大きな城で。全然普通の家じゃなくて。

たくさんの音楽家だの芝居一座だの、芸人たちだのが四六時中呼ばれて公演しにきてたらしい。

なんでも、大陸でも指折りの有名どころとは、定期公演契約を結んでたんだとか。 

「じゃあ、ハヤトがやれよ」

「えっ?」

「実際にゲキリンの生公演見てるんだろ? すごいじゃんか。みんなにどんな風か見せてやれよ。おいら、一緒に出てやるからさ」

 ハヤトを舞台にひっぱって。お尻を思いっきり叩いたら。

 そしたら飛び出したんだ。あれが……。

「激・リーン! 激・オコ! 俺のニセモノめ! ひっこめこら!」

「ちょ……ハヤト?! なにそれ! ななななんでやねん!」

 びっくり仰天のエリク。それから舞台は最長老の兄弟弟子の漫才になって、みんな大ウケ。

 ハヤトがひと皮むけたのはあれからで。弟子たちの間で超人気者になった。

 それからしばらく弟子たちの間では、激・リーンポーズがひそかに流行ったっけ。

 蹴鞠の試合にも、優勝したりし始めたなぁ。

 ああでも。ハヤトにはまだまだ必要だった。面倒見てやる人が必要だった。

 だってオネショはなかなか治らなかったし。そばで見てないとニンジンをエリクの皿に入れちゃうし。

ひとりで衣を着れないし。サンダルの紐だって全然結べなかったんだもの。

「靴なんて高価なもの、はけなかったんだよ」

「うそつけ。ハヤトの家は大公家だろ。召使がみんなやってたんだろうが。ほらもう一度、

結んでみて」

「ほんとだよペペ、ごはんもろくに食べられなくてさ。俺も妹もいっつも病気しててコンコン

咳き込んでさあ。だから母さんはいつもかいがいしく看病をしてくれて……」

「おいハヤト! それは俺様んちの話だろーがっ」

 兄弟子のエリクが横から突っ込みを入れると。

 ハヤトはぺろっと舌を出して激・ポーズをかましてた。

 たぶんうらやましかったんだろうな。ものすごく貧乏でも、お母さんがいる家が。

 だから想像の中では、自分の家を兄弟子の家とそっくり同じだってことにしてたんだろう……。


 しかしここはほんと、ぬくぬくあったかいなぁ。

 どうしてここにきたんだっけ?

 ふわふわな白い雲が当たり一面、たくさん浮かんでる。


「ぺぺ! 今日はニンジンスープ作ってみた」

「なにそれハヤト。早く食わせろよ」

「どう? おいしい?」

「うおおおおお! ハヤト最高おおおお!」 


 う……? 何今の。まぼろし?


「ぺぺ! あっついよなぁ。ニンジンカキ氷どう?」

「うひいいい! ハヤト最高おおおお!」


 え……? なんで、記憶がとぎれとぎれに見えてくるの?


「ぺぺー! 俺鍾乳洞に放り込まれちゃうよおおお。なにもしてないのにいい」

「まかせろ! おいらもついてってやる!」


 どうして……次々と、幻みたいにあらわれてくるんだろう?


「……で、かしこまって俺様にご相談というのはなんですかね、使い魔ウサギのぺぺさん」

「エリク……人工の魂でも、生まれ変われるよね?」

「うーん、そりゃなんともいえないなぁ。そのケースの記録は、いまだかつて読んだことねえから」

「おいらウサギだから、アルティメットギルガメッシュニルニルヴァーナとちがって、あんまり長く生きられ

ないってお師匠様が言ってた。でもそれじゃ困るんだ」 

「ほうほう。なんで?」

「ハヤトの面倒見たいんだ。ずっとずっと、見たいんだ。だってハヤト、おいらがいないとてんで

ダメなんだもん」

「あー。そうっすね。えっとまあ……これっていわゆる相思相愛?」

「は?」

「あー、いやこっちの話。そうだなぁ。死んだら、神様にお願いしてみれば? 寿命の永い

生き物に生まれ変わらせて下さいって。人間がいいかな。うん。人間おすすめ。超おすすめ」

「神さまっているの?」

「うーん……いるんじゃね?」

 

 ……まるで本のページをぱらぱらめくっているような感じ。

 どうしてこんなに次から次へと? こういうの、走馬灯のようにっていうんだっけ?


泣くなよハヤト。かわいい顔が台無しだぜ

「だって……ぺぺ、もう手足動かないじゃんか」

すまんなぁ、ご主人様が呼んでるもんでよ。ちょっくら行ってくる

「行くなよぉ……

すぐ戻ってくるから、心配すんなハヤト

「いつ、帰ってきてくれる?」

ま、十年か?

「そんなに待てねえよぉ……」

待っとけ。がまんしろ。ごほうびやるから

「ほ、ほんとに? 約束だぞ? 破ったら承知しないぞ?」

ああ、約束する。ちゃんと待ってろよ相棒

「約束だぞぺぺ。ペペ? ペペ……! おい! いやだ! ぺぺー!!!!」 


 そうだ……僕はあの時……ウサギの天寿を全うして……

 たしかここに……白い雲がたくさんぷかぷか浮かぶここにきたんだっけ……

 ここは……とてもまぶしい。

 白くて。輝いていて。あたたかくて。なつかしいところ。

 声がきこえる。

 とても遠くの、下の方から誰かが叫んでる。でも、よく聞こえない。

 ここはあたたかすぎて、とけてしまいそうだ。

 ほろほろと。とけてなくなっていくような気がする。

 ほろほろ。

 ほろほろ……

 白くて。輝いていて。あたたかくて。なつかしいところ。

 白くて。輝いていて。あたたかくて。なつかしいところ。

 白くて。輝いていて。あたたかくて。なつかしい……

 ほんのりあたたかい光が雲を照らしてる。

 ぶわっと、風が吹き抜けていった。生暖かい風。

 雲の合間に、誰かがいる…… 

「神……さま?」

 ちがう。あれは……なんだか見覚えのある人。

 長く伸ばした白い髭。導師の黒い衣。あ……! あの人は……!

「ご……ご主人様!!」

「やあ」

 ふわふわの白い雲に座っているその人が、立ち上がった。

 その人は、両手を広げて僕を迎えてくれた。

 顔に、満面の笑みを浮かべて。



「おかえり、ぺぺ」



 

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2014/12/05 18:57
ぺぺさんはこうし転生したのですね
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2014/12/05 17:22
スイーツマンさま

はい。これからとんでもない冒険がー^^;
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2014/11/28 18:53
無事に戻れました
次なる冒険が始まるのですね
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2014/11/07 18:50
夏生さま

お忙しい中読んでくださり、そしてコメントをくださりありがとうございます><
死後の世界というと閻魔さまがいて…というような普通はとてもこわいイメージがあるのですが、
なつかしいふるさとのような感じがする所がいいなぁと思い、
ほわほわしたあたたかい世界にしました^^

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2014/11/02 17:37
今晩は!

もっと早くコメントをと思いつつ、時を重ねてしまいました。

年齢とともにこの世ではない別な世界にも目が行くようになり、
興味深く拝読しました。

この現世のしがらみが鬱陶しいときなど、解放された世界が
欲しいなぁと思います。光!・・憧れますね。(*^▽^*)

ファンタジーなのに不思議な味のする一篇ですね。

m(_ _)m
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2014/11/02 10:42
MC202さま

ありがとうございます。
うあああ、なつかしいですw
私当時ジャンプ立ち読みしてましたからよく存じ上げておりま……(ェ
かおりさんのハンマーはほんとにおもそーでしたね^^;
いいカップルだったのに、続編エンジェルハートの設定にびっくりしくしく;;でした。
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2014/11/02 10:38
かいじんさま

ありがとうございます^^
たぶんすんなり帰れないんだろうなぁと思うのですが……
「神さま」を相手にがんばれウサギの巻です^^
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2014/11/02 10:37
よいとらさま

いつも読んでくださってありがとうございます><
天の高みは生き物みんなが通る通過点みたいなところだと
想像しています。とどまる人もいるし、さっさと通り抜けちゃう人もいるだろうなぁと。
待ち合わせもできるかも・ω・?
つづきがんばります・ω・>
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2014/11/02 10:34
龍さま

こんにちはです^^
読んでくださってありがとうございます^^
ねこさんかわいいい>ω<♪
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2014/11/02 10:33
おきらくさま

ありがとうございます><
は、ハンカチを……
なんかほんとに、あったかい感じにしたかったのです。
生きるものみんなの共通の故郷というか通過点というか、なので^^
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2014/11/02 10:31
優(まさる)さま

コメントありがとうございます。
天国なのか地獄なのか、それともまだそこまでいってないのか。
でも魂が通過するところ? ではあるようです。
いろんな人に会えるところなのかもしれません。
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2014/10/31 04:32
「ゲキリン」で連想するのは 「シティーハンター」に頻繁に登場する「xxx㌧」のハンマー
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2014/10/29 23:47
この後、どういう事があって、現世に戻って来るんでしょうか?^^
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2014/10/26 13:39
こんにちは♪

人工魂のペペさんにも還る場所があった。
温かく迎えてくれる人がいる。
「おかえり」
労をねぎらい、再会を喜ぶ魔法の言葉。

僕は孤独じゃない・・・


いつも素敵なお話をありがとうございます。
おかえり、という挨拶の言葉が持つ不思議な力が
心に沁みます。
創造主と再会したぺぺさんの魂の運命やいかに。
「天界編」楽しみにしております^^
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2014/10/25 21:21
こんばんにゃ
  ∧,,∧   
  (◎o◎)
~(_u,uノ 
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2014/10/25 08:51
読んでて、目からお水が…なんでだろ
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2014/10/24 19:00
死後の世界ですかな・・・。

これから、どうなるのですかね。
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2014/10/24 16:49
カテゴリ:いべんと?あれ、なんでしたっけ汗汗
お題:ハロウィンの仮装
いまウサギに確認したところによると、
お笑い芸人リューノゲキリンの扮装というのは、
ドラゴンを模した戦隊ヒーローチックな戦闘スーツだそーです。
兄弟子さまはウサギに手伝わせて、三日間完徹で衣装を作った模様。




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