Nicotto Town



アスパシオンの弟子23 走馬灯(前編)

 マブシイ……

 ココハ、ドコ?

 

 マッシロ

 ヌクヌク

 キラキラ

 マッシロ

 ヌクヌク

 キラキラ……

 

 

「……おはようございます……お師匠さま」

「おっはよー、お師匠様っ」

「おおハヤト、エリク、いいところへ来た。これはなんだと思うかね?」

 

 ハヤト?

 エリク?

 

「ピンク色で毛が無いから、わからぬかな? 瓶の中で培養していてな。ついさっき外に出したばかりだ。

何の動物の幼体かあててごらん」

 

 ピンクイロ?

 ドーブツ?

 

「どう見てもカメじゃねえなぁ」

「……ウサギ?」

「おお、あたりだハヤト。どうじゃ? 指くらいの大きさしかないじゃろ?」

「……ちっさ……」

 

 ウサギ?

 チッサ……

 

「ハヤト、おぬしにこの仔の世話を任すからの。まずは名前を決めるのじゃ」

「え、俺様がするんじゃないの?」

「エリクは一匹育てあげとるだろう? こんどはハヤトの番じゃ」

「でも俺様が世話させられたのは、ウサギじゃなかったっすよお師匠様。甲羅がハート模様のミドリガメで――」

「……ペペ……にする」

「おい、いきなり決めんなハヤト。もっとよく考えて、超強そうな名前つけてやれよ。てか、とりあえず俺の

ミドリガメのアルティメットギルガメッシュニルニルヴァーナがどうなったか説明させろって」

「……もう何度も、きいた」

「辛気臭い言い方するな。まるで俺のアルティメットギルガメッシュニルニルヴァーナが、もう死んじまったみたい

じゃねえか」

「……逃げられたんでしょ?」

「だから違うって! いいか、アルティメットギルガメッシュニルニルヴァーナは、俺様が逃してやったの。

逃げられたんじゃないの。逃してやったと逃げられた。これ大違いだからな? 俺様とあのカメはなぁ、

ぎっちり抱擁しあって涙流しながら、別れの言葉を言い合って……」

 ハヤト 

 オシショーサマ

 エリク

 ミドリガメ

 アルティメットギ……ギ……

 

「……このウサギ、目があいてない」

「おいこら、聞いてんのかハヤト」

 

 ハヤト

 

「まだ開かんようだ。瓶の外に出て五分では、無理もないのう」

「ペペに……なにをあげればいいですか?」

 

 ぺぺ

 

「赤子が飲むものは、母親のお乳ときまっとるが、しかしこの仔は……」

「……」

「わ、わしを見てもお乳は出んぞハヤト」

「ペペのおかあさん、いない……俺と同じだ」

「ホムンクルス製法で作った体に、人工魂を入れたんじゃ。親がおらんのは仕方のないことじゃな。そうじゃな、

牛のリリアナのお乳を搾って与えるがいいぞ」

「わかりました……」

「ちょっとまてハヤト。俺様とアルティメットギルガメッシュニルニルヴァーナの話は、まだ終わってな……」

「またあとでね、にいさま」

 

 ぺぺ

 オカアサン

 リリアナ

 ハヤト

 アルティメットギルガメッシュ……ニルニルヴァーナ

 

「しばらくは綿にくるんで運ぶがよいぞ」

「はい。ぺぺ、おいで。ゴハンをあげるよ」

 

 ペペ

 ヌクヌク

 フワフワ

 

「俺ハヤト……よろしく」

 

 ハヤト

 

「! 目……ひらいた?」

 

 ハヤト?

 

「あ……目の中に、俺が映ってる」

 

 ハヤト?

 

「でっかい目でかわいいな……」

 

 ……!

 ハヤト!

 ハヤト!

 ハヤト!

 

 

 

 

 そうだった……

 僕は、ウサギだったっけ……

 

 

 僕がこの世でいちばんはじめにみたものは。

 黒い髪の、男の子。

 暗い顔の、男の子……

 

 

  ああでも。ここは、一体どこだろう。

  まぶしくて。ふわふわしていて。暖かくて。とてもなつかしいところ……

 

 

 

 黒い髪の男の子は、ハヤトって名前だった。

 とっても根暗で。無口であんまり喋らなくて。

 寺院で友達はひとりもなく。無愛想な奴で通ってて。

 ウサギの僕に、毎日牛のお乳をくれた。

 お乳がいつしかニンジンに変わったころ。

「鼻水でてる!」

「あ?」 

「ハヤト風邪引いたんじゃないの? フードかぶれよ。あれ? フードやぶれてるじゃん。おいらが縫ってやるよ」

「ありがとペペ」

 面倒を見られるはずの僕はなぜか、ハヤトの面倒を見るようになっていた……。

「なに書いてんのーハヤト?」

「あ……エリクにいさま」

「あー、なにそれ手紙? 隠すなよって……うあ? なんだこれ? 『ハヤトへ、元気ですか』って……ええええ?

 おまえ自分で自分あてに書いてんの? なんで?」

「……」

「あー、もしかしておまえ、他の弟子みたいに、実家から手紙もらえないから? 手紙捏造? うっわなにそれ、

めっさきもいw」

「……」

「ちょ……な、泣くなよ。俺がいじめたみたいじゃねえか」

――「いじめてるわ!」

「うおぶっ! ぺ、ぺぺさんっ? いたいっ! 後ろ足で蹴らないでっ」

「あっちいけエリク! ハヤト、おいらにペンをかせ。おいらがおまえに手紙を書いてやる」 

「え……」

 ハヤトは、すごくさびしがりやで。泣き虫で。

 ほんとにドジで。ほんとに笑わなくって……。

「『ハヤトげんきか、おいらはげんきだ。きょうもおししょうさまにおこられたけど、どんまいだぜ』……へへ、

おいら字も絵もかくのうまいだろ? これ、ハヤトの似顔絵♪」

「にてない……」

「うっそ、にてるだろ」

「なんで……ウサギのくせにペンもてるんだ? 数ヶ月で言葉も文字もすっかり覚えたし」 

「さあ? お師匠様にきいてよ。おいらわかんない。でも、この似顔絵にてるだろ?」

「……こんなに、口開けて笑えない」

「笑えるさぁ♪ ほーら、ぱっかりにっこり♪」

「はがっ!」

 ウサギの僕は、あのときハヤトの口の端を持って、思いっきり引きあげてやったっけ。

 笑い方を教えるために。 


 しかしまぶしいな。

 ほんとここ、どこだろう……。

 

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2014/12/20 15:30
ミコさま

読んでくださってありがとうございます><
お互いを自分の親みたいに思っているような感じなのかなと思います。
性別を越えた、大事な存在のようです^^
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2014/12/10 18:17
変な意味ではなく
相思相愛なのですね
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2014/11/02 10:29
MC202さま

コメントありがとうございます。
ああああ私もよくやりますw
大阪へ帰省すると暑さ・寒さをしのぐためによく地下へ潜るのですが
地上に出るところからしてまずみごとに間違えますOrz
ややこしいねん、です~>ω<
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2014/11/02 10:27
かいじんさま

コメントありがとうございます。
寺院に来る子は王侯貴族の子が多いのですが、
そういう古くて有名な実家ともなるといろいろあるようでございます><
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2014/11/02 10:24
おきらくさま

ありがとうございます^^
お母さんの腕の中にいるような感覚が表現できたらなぁと思いました^^
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2014/11/02 10:24
優(まさる)さま

コメントありがとうございます^^
夢の中かもしれないしもしかすると……・ω・?
臨死体験って本当のところどうなのでしょうね?
本当に魂があっちの世界にいっているのでしょうか・ω・?
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2014/10/31 04:25
「ココハ、ドコ?」 で 連想するのは 大阪駅周辺の地下街の出口を間違った時 ><
百貨店の改装工事が多いから 誤爆しやすいねん >< 今は伊勢丹の工事中
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2014/10/27 22:52
師匠の過去も複雑なんですね・・・
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2014/10/25 08:46
なんか、暖かい^^
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2014/10/24 18:54
これは、夢の中ですかね。




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