アスパシオンの弟子22(後編)
- カテゴリ:自作小説
- 2014/10/15 15:01:01
Ego amo te(3)
変身術を覚えた時。俺はとてもうれしかった。
術自体とても高度なものだったし、いろんなものになれるのがすげえ面白かった。俺の前世って一体どんだけ
あるのって感じだった。
どれだけのものになれるのか、夢中で次々試した。
お師匠様も、すごいすごいってすんげえ喜んでくれたしな。
しかし今変じている鳥人になった時、お師匠さまは初めて顔を曇らせた。
『これだけは容易に変じてはならんぞ、エリク。まあ、鳥人の祖先のグライアでも相当危ないがの』
『えっ、どうしてですか?』
『他の神獣たちがざわついて起きてしまうでのう』
『は? 神獣?』
『だっておまえさんのその神気、はんぱではないぞ。それに普通の鳥人には二枚しか翼がないというのに、
おまえさんには六枚もあるじゃないか。そんな鳥人は後にも先にもただひとり――』
だからおまえは十代で導師になれるんだなと、お師匠さまは誇らしげに言ってたな。
魂の積み重ねがハンパじゃないからって。
しかしそんな自覚はまったくねえな。たいそうな悟りなんて何も開いちゃいないと胸張って言えるわ。
俺は城館へ向かって一直線に飛び、大きな窓を勢いで突き破って、バルバドスたちのいる広間に躍りこんだ。
白い羽毛と白い光が当たり一面に飛び散る。自分自身でもめっちゃまぶしい。びっくり顔の白髭領主を
尻目に、俺はバルバドスめがけて突進した。
「お邪魔するぜ!」
まずは奴が常時張ってる魔法結界を、俺の六枚の翼が繰り出す神気のひと薙ぎで砕く。完全な不意打ち
だったので、相手は相当びびったようだ。
生き物のように自在に動く六枚の羽に、黒髭の導師は目を白黒させた。
「なっ……おまえは?! な、何者だ!?」
「バルバドスさん、ちょっと顔貸してくんねえ?」
周囲の導師たちが呪いの韻律を飛ばそうと身構える中、俺はサッと白い翼でバルバドスを拉致って、
窓から飛び立った。
後ろから黒い触手のような呪いの波動が追いかけてきたが、本気モードの俺がそんなちゃちいものに
捕まるわけがない。
「なにをする! 放せ!」
「おいおい暴れるな。落っこちるぜ」
「なぜ絶滅種の鳥人がここにいる! しかも六枚羽だと? ふざけるな!」
「ふざけるなっていわれてもなぁ」
じたばた暴れるバルバドスを二枚の翼で包み、残り四枚の翼で俺は必死に飛んだ。浮遊の韻律と重力
軽減の韻律も併用したから、その速さはウサギを載せて飛んでた時の数倍は出てただろう。
しかし長老級の導師を殺すのは骨が折れる。超めんどくせえ。だからとりあえず操ってるものから物理的に
引き離すのが手っ取り早い。俺は北へ北へとぐんぐん飛んで川をさかのぼり、街から悠に百リーグは離れて
いるだろう湖の上で、ぽいっとバルバドスをほっぽった。
「じゃあなー。ちょいとここらへんで時間潰しといてくれ」
高度五百フィートほどの上空からだが、残念なことに導師だから絶対死なないだろうな。
念のために韻律封じの結界と眠りの韻律をかけてから放逐したが、それでも奴は生き延びることだろう。
だが今、親切にとどめを刺してやってるヒマはない。導師を殺すのってほんと大変なんだぜ。
俺は急いで炎上する湖上の街へ舞い戻った。超めんどくさかったが、本気を出したので一瞬で着いた。
だって俺の羽は、他の鳥人と違って六枚もあるからな。
ああそれでも……間に合わなかった。
時間にすりゃ二十分も経ってないってのに、若い熱血漢ユスティアスは、ハヤト=バーリアルの前に無残な
血だまりを作っていた。
こりゃあ一撃って感じだな。弱すぎだろおい。もちっと持ちこたえろよと思ったが。哀れな熱血漢を責めちゃ
いけねえようだ。ハヤトの魔力が、ともかくバカみたいに強すぎるらしい。
しかしなんともひどい光景だ。黒い魔王。その足元に伸びてる血まみれのウサギ。倒れている若き導師。
傭兵たちと、鋼の獅子の残骸の山……。
こんなの見てると思い出すじゃねえか。遠い昔、血と汗と涙にまみれて戦った記憶を。
また繰り返させるのか? 同じことを。勘弁してくれ。もう引退させてくれよ……。
司令塔を失ったバーリアルは、あからさまにうろたえ始めた。所詮は人為的に作られた兵器、命令するものが
いなくなれば暴走するしかない。
「主人よ……どこだ! 我が主人よ!」
奴は頭を抱えてしゃがみこみ、呻きながら混乱し始めた。魔法の気配が少し弱まってきた。しかしまだまだ
近づけるようなレベルじゃない。超めんどくせえが、満身創痍覚悟で無理やり突っ込むか?
一瞬そう思ったその時。城館からわたわたと、残りの導師どもが出ばってきた。
「主人、か? 違うのか? どこだ! 我が主人は! だせ! 我が前にだせ!」
バーリアルは導師どもを見つけるや、悲鳴をあげながら真空の刃をくりだした。
バルバドスに操られているから自分たちには決して危害を加えない。そう思い込んでいた導師どもは、
想定外の攻撃をかわしきれずにバタバタと倒れた。
混乱するバーリアルはさらに攻撃を繰り出して、とどめを刺そうとした。
その刹那。
「だめ……! ハヤト……!」
ウサギが動いた。もうほとんど、息をしてなかったのに。
「ハヤト……目を覚まして……お願いだから……! わかったよ……なんて言えばいいか、やっとわかっ……
ちくしょう、い、言うからな……言ってやるから……!」
ウサギはそれからひとこと、とある言葉をつぶやいた。
その言葉を聞いたとたん、黒い魔王の動きがぴたりと止まった。
信じられねえ……。みるみる魔法の気配が消えていくじゃねえか。嘘だろおい。
なんなんだ今の言葉。聞き間違いじゃねえよな?
どうしてあんな、神聖語じゃねえごく普通の、なんの力もねえ言葉ひとつで……
「ぺ……ぺぺ? ぺぺ……! 俺のペペ!!!」
ハヤトの目から赤い血の色が消え去った。奴は真っ青な顔で血まみれのウサギを抱き上げた。
俺は身震いしながらもすかさずその場へ突っ込み、ハヤトを拾い上げて空高く舞い上がった。
「ペペ! いやだっ……死ぬな! 目を開けろ! 嘘だろおっ…… ペペ! ぺぺー!!!!」
俺の白い翼に包まれたハヤトは絶叫し、声をあげて泣き出した。奴の腕にきつく抱きしめられてるウサギは、
手足と耳を力なくだらりと垂らし、もうぴくりとも動かなかった。
その息は止まっていて……こと切れていた。
完全に。
読んでくださってありがとうございます。
死んでしまったどころか……ノωノ
ペペさんはかなり大変なことになりそうです。
読んでくださってありがとうございます。
完全に燃え尽きてますね>ω<;
出崎とおるさん風劇画タッチでシーン寸止めですノωノ
――いえ、よくないですよね
たて~たつんだ、ぺぺ
真っ白な灰に…
あ…
読んでくださってありがとうございます。
お話の肝の部分なので、ちょっと劇的になってしまいました^^;
ありがとうございます。
「めんどくせえ」とぼやくわりには、キッチリやってくれる兄弟子さまです。
生前も「めんどくせえ」とぼやきながら、いろいろやらかした実績があるようです^^
次の三章で兄弟子様の過去も描けたらなぁと思います。
がんばります・ω・!
ありがとうございます^^
まだ続いておりましたw
各話10話ほどの4章だてぐらいでまとめたいなぁと思っています。
また読んでくださったらとてもうれしいです^^!
読んでくださってありがとうございます。
三章目突入直前の幕間、そしてお話的には転の部分がこれから始まります。
アスパのテーマのひとつは「生まれ変わり」、「魂は永遠なり」ですが
これから師匠はウサギのために何をするのか……
うまくお話を転がせたらよいなぁと思います。
がんばります・ω・!
ウサギは死んでしまいましたが……
しかし主人公ですから・ω・!
師匠がなんとかするのか、それとも……・ω・。
読んでくださってありがとうございます。
この次は第三章で転の展開です。
上手く転がるといいなぁと思います・ω・
散る。
散る。
散る。
血が、金属片が、生命が。
誰か止めて。
刻を、黒い魔王を。
ウサギが止めた。
約束の言葉。
ウサギの時間も止まった。
・・・
こんな展開が待っていようとは。
超めんどくさくても可能性があればどんどん進む。
兄弟子さまは超すごい人ですねぇ^^
続きがとても楽しみです。
でも、お体第一に^^
嗚呼、ペペさんの魂は今何処。
愛の力は届くのか。
Ego amo te.
続いていたんだ
信じられない予想外の展開です。
ぺぺが物語の舞台から消え去るのは早すぎるような・・・
呪文で甦生できないのでしょうか。
ともあれ、次回がものすごく楽しみです。
もう、釘付け状態です。(*^▽^*)
鶴首してお待ち申し上げます。
まだ死ぬのは早すぎる様な気がします。
七千字強ですが、今回ばかりは省略したくなかったので全部掲載いたしました。
長くてごめんなさい>ω<;