アスパシオンの弟子⑯ 銀の鳥かご 後編
- カテゴリ:自作小説
- 2014/08/19 19:34:55
その日は、寝苦しい夜になりました。暑気がきつく、病み上がりの僕はぐったり。
「異常気象ですね……」
ヒアキントス様もあまりの暑さに閉口されたのか、白く輝く冷気の球を作り、寝台の枕元に浮かべました。
ひんやりした冷気が、銀の鳥かごの方まで漂ってきます。
ああこれでなんとか、しのげます。ウサギの僕は大の字に伸びて、うつらうつらと眠りに落ちました。
「……なんですって?」
あれ?
ヒアキントス様が、なにやら怖い顔で、バルバドス様との連絡用の水晶玉を覗きこんでいます。
「ユスティアスは街の復興に従事しているはずです」
『一人抜け出して、早馬を借りて我らに追いついてきた。アスパシオンに復讐したいらしい。どうしたものか』
「『バーリアル』と相打ちにさせては?」
冷気の球よりも冷たいヒアキントス様の声が響きます……。
「あとは予定通りに。すなわち北州を蹂躙する白鷹家の導師を倒した英雄たちとして、金獅子家の大公に謁見し。
師の仇を討った若い導師の美談を語るとよろしいかと」
『ふむ。悲劇的に犠牲を出した方が、大公に深く信用されるか。ではそうする』
白鷹家の導師? それは我が師のことでしょうか?
白鷹家とは、北五州の五つの大公家のひとつです。我が師の家はとても貧乏で苦労して、という話をいつも聞かされ
ていたのに。そんなの初耳です。
いずれにしろ。このままでは、みんな殺されてしまいます。
我が師も。ユスティアス様も。そしてたぶん、この僕も。我が師が死んだらきっと……。
恐ろしい話を聞いた翌日。
ヒアキントス様は、弟子のレストに「石皮病」の特効薬だと言って、小さな瑠璃色の小瓶を渡しました。
レストは、パッと目を輝かせました。
「最長老様がわずらっている病の特効薬ですか! きっと大変喜ばれて、お師さまの覚えがめでたくなりますよ」
「いいえ。最長老に渡すのではなく、スポンティウス様の弟子のフェンに、盗んでもらいなさい。薬の効能を説明して、どこかに置き忘れたふりをして、わざと取らせるのです」
「えっ? 盗ませる? 手癖の悪いあいつなら、確かにくすねるでしょうけど……」
「フェンは、実家の白鷹家から取り寄せたと嘘をついて師に渡すでしょう。そしてスポンティウス様は、この薬を最長老様に献上なさるはず」
「は? なぜ手柄を、スポンティウス様に譲るような真似を?」
不満げなレストに、ヒアキントス様はニッコリされました。
「先日、美しい瑠璃石のゲーム盤をいただきましたからね。そのお礼です」
レストは頭から疑問符を飛ばしながら、蒼一色の部屋を出ていきました。
「全く。将来、蒼鹿家の後見となる身なのに。時勢が読めぬとは」
ヒアキントス様は肩をすくめて嘆息し、かごの中の僕を見やりました。
「あなたは、気づいているようですね。虹色の子」
僕は、「きゅう!」と鳴いて震えました。
レストが持っていった薬は、特効薬などではなく……きっと、毒薬です。
フェンはれっきとした、白鷹家のもと第二公子。北方人で金髪の子です。
ヒアキントス様は、すうと涼やかな目を細めました。
「白鷹家傍流庶子のアスパシオンが、金獅子家の統べる北州を破壊し。直系の公子フェンが、金獅子家の後見人
である最長老を暗殺する。となれば、ゆくゆくは、金獅子家と白鷹家の全面戦争が起こるかもしれませんね」
我が師がなんと大公家の血を引く庶子だったとは。びっくりです。
しかし……もし最長老様がいなくなれば、次の最長老となるのは、序列第二位のバルバドス様。七人目の長老の席が、
一人分空きます。ああ、まさか!
「きゅうううう!」
「そうですよ。新しい最長老に、新しい長老として推薦されるのはこの私。そして。金獅子家の大公は、きっと次の後見人に
バルバドス様をご指名なさるでしょう。北州を危機に陥れる『バーリアル』を倒す英雄をね」
五つの大公家は、永年争っています。寺院内でもこの家々の出身者は、互いにいがみあう犬猿の中。金獅子家出身の
最長老様のもとでは、他の大公家出身の方たちはどなたも長老になれていません。
しかし、なんと恐ろしいことを考えるのでしょう。
北五州随一の家である金獅子家を弱らせて。それを白鷹家のせいだと思わせようとするなんて。
両家の間で戦争となれば、おそらく蒼鹿家の利するところとなるに違いありません。
僕はかごに齧りつきました。これは大変な事態です。
ここを出なくては。陰謀に巻き込まれている人に、真実を伝えなければ!
でも銀の檻はとても硬くて、少しも傷つきません。
「無理ですよ。かごの扉にも韻律がかかっています。あなたは死ぬまでウサギのままですよ、ペペ」
大悪人は冷ややかに笑い、勝ち誇った顔で部屋から出ていきました。
ああ、どうしたらここから出られるでしょう。どうやったら……。
午後。ヒアキントス様が瞑想室にこもられている間に、レストが優等生のリンと連れ立って、蒼一色の部屋にやって
きました。
リンは軟膏のツボを抱えています。メディキウム様の弟子である彼は、僕のための薬を持って来てくれたようです。
「これが件のまだらウサギですか」
リンは僕をじっと覗き込みました。レストがくすくす笑います。
「ひどいだろ? ハゲハゲで」
「なんか、仰向けにひっくり返ってますよ?」
「え?」
レストが檻のすきまから指を入れて突っついてきました。
「微動だにしませんね」
「おい、動けよ」
レストがつんつんしてきます。僕は我慢してわざと白目をむきました。するとリンが、とても哀しそうな声で言いました。
「死んでしまったようですね」
とたんにレストはあわてふためきました。
「そ、それは困る! お師さまに怒られる! あの方は、怒ると鬼のようでそれはもう……」
「ふむ。では、我が師に診てもらいましょうか?」
「ああ、頼む!」
レストは僕入りの銀のかごを、救護室にいるメディキウム様のもとへ運び込みました。
白目をむいた僕を見て、メディキウム様は深いため息をつかれました。
「これはもうだめかもしれぬな。心臓をマッサージしてみよう。どれ……む? 入り口が韻律で閉じられておるな。
なぜだ?」
メディキウム様は首を傾げながら、いとも簡単にかごにかけられた魔法を解き。格子の入り口を開けました。
にゅっと入ってくるシワシワの手。
まだ我慢です。かごの外に出されるまで、なんとか白目を……。
「あ。目が動いた?」
う。リンが目ざとく気づいてしまいました。ご、ごめんなさい、こうなったら!
「うがっ!」
僕はメディキウム様の手を思いっきり噛み。導師様がおもわず手をひっこめた隙に、ばねのように後ろ足で
踏み切りました。
「あ! こら! まだら!」
「よかった、息を吹き返したみたいですね」
「よくない!」
「でも、死んでなかったじゃないですか」
「逃げたじゃないか!」
レストとリンが漫才みたいな会話をする中、僕は勢いよくかごから飛び出して。
とっさに後ろ足でそこらへんの花瓶やら薬ビンやらツボやらを蹴り飛ばし、メディキウム様が足止めの呪文を
唱えるのを阻止しました。
「ああ! わしの薬が!」
ごめんなさい! ごめんなさい!
でも、かごに戻るわけにはいかないんです。
僕は救護室から出て。弾丸のように駆け出しました。
寺院の最上階の、最長老様の部屋へ向かって。
⑰へ続く
読んでくださってありがとうございます。
師匠の動きはゴジラ本能ですのでほんとうに読めませんw
周りの勢力は定石どおりに動いてくるのかなと思います^^
あるいは両方とも叩き潰してしまうのか
アスパシオンさんの動向が注目されます
続けて読んでくださってありがとうございます。
寺院はとてもこわーいところです^^;
寺院の中で代理戦争をしていると言った感じです。
寺院も巻き込まれるのでしょうね
大阪弁喋る人=コメディアンみたいな印象が、東にはありますよねー^^;
あと、「だんなさんはヤクザさんですか?」とかも、まだ時々あります汗汗
二章目はびゅんびゅん飛ばします。
着地点までまっしぐら^^
まだまだぐいぐいーといきます~・ω・♪
アスパでは正統なジュブナイルを目指してるつもりです。
が……ヒロインがいないーw
……うん、もうそろそろ、女の子出した方がいいですよね・ω・;
ニンジンにマヨネーズ♪ おおお、大好きです~^^♪
お味噌マヨもおいしぃですよ~^^
家系的に蒼鹿家は代々切れ者揃い、でも北五州で一番勢力があるのは金獅子家のようです。
金獅子家は後世、某神獣憑き帝王を輩出する恐ろしいお家だったりします^^;
いにしえの大公家を相手に、ウサギがどこまでがんばれるでしょうか……(・ω・;
ありがとうございます!
蒼一色の部屋、いつか絵にしてみたいです^^
いつも楽しみにしてくださって、とてもうれしいです。
続きがんばります^^
ありがとうございます。
ウサギの足は速いので、なんとか目的のところには着けるでしょうか。
弟子くんがんばれーですね^^
きんどるー・ω・!
ありがとうございます。
はたして読んで下さる方がおられるでしょうかノωノ
電子書籍出版は、いつかしてみたいです^^
漫才みたいな会話...で思い出す...東京転勤ん期... 大阪市民同士でマジメに
会議進行してたら 漫才みたいでオモロイ と言われた事が多々あった (^_^;)
会議中 誰もウタタ寝しないから 大阪弁は効果絶大じゃった (^_^)v
地元では根暗の部類で中学からダークと呼ばれてたから アッチでは大阪弁の魔力じゃろなぁ
引っぱりますねぇ〜〜。w
大事な人質に、しなびたハーブの葉っぱとは。
ニンジンくらいよこせと言いたくなるのももっともですね^^
ニンジンスティックにマヨネーズをつけながら食べるとおいしいですよねぇ。
さて、着々と進む野望と策謀。
白鷹を犠牲触媒にして金獅子の息の根を止めようという蒼き企み。
それは栄光への階段か、冥府魔道への入り口か。
鍵を握るのは目下逃走中の一羽のウサギ。
あぁ、続きが楽しみです。
北五州の独立を認めた王国の真意も謎ですねぃ・・・
昨夜、コメントを書くつもりで寝落ちてしまいました。(*^▽^*)
今回、素晴らしく良いなぁと思ったのは、情景描写が丁寧だったので
籠のなかの主人公と同じ目線になれたことです。
この展開どうなるのでしょうか。
次回作を早く読みたいですね。
o(^-^)oワクワクしながらお待ち申し上げます。
m(_ _)m
上手く最長老様の所に良ければ良いのですがね・・・。
お題:暑さ対策グッズ
オラに冷気玉を分けてくれー・ω・♪(ドラゴンボール風)