Nicotto Town


koshiのお部屋分家


關西紀行,其之拾壱:南都への路・・・

伏見の地図を見て,気付いたことがある。
とにかく,町名が面白い。
私のような輩には,堪らない。
例えば,銀座とか両替町,瀬戸物町,風呂屋町,納屋町,塩屋町・・・といった職人町・商人町の町名が,今も残っているというのが1つ(本町とか中央・・・とか,つまらん町名に改変されていないのが嬉しい)。
そして,以下のような町名である。
桃山町永井久太郎(堀久太郎と関係があるのか?),桃山長岡越中東町(長岡忠興は越中守だつたのか?),桃山町三河(家康の屋敷跡?),桃山町島津,桃山福島太夫南町,桃山町毛利長門西町,桃山筑前台町,桃山町金森出雲(金森長近は飛騨守だった),桃山羽柴長吉中町(秀吉の初名は高吉だったが),片桐町(且元の屋敷跡か?),桃山町松平筑前(秀吉は,筑前守を濫発した),桃山町本多上野(忠純のことか),桃山町伊賀(忍者町か?),桃山町根来(鉄砲衆の町?),桃山町鍋島,そして桃山町治部少丸(三成の城内屋敷跡?),桃山町正宗(刀工町か?),桃山町井伊掃部東町(井伊直政に敬意を表してか?),桃山町水野左近東町(徳川譜代衆の姓が多いのは,江戸期からか?)・・・といった具合である。
これだけ武将の名の付いた町を持つ町も無いだろう・・・。


伏見城の周辺には,桓武帝と明治帝の陵墓もある。
桓武帝は柏原陵,明治帝は桃山御陵と呼ばれているようだ。
平安,明治という新しい世を導いたそれぞれの天皇が,秀吉の夢の又夢の近くに眠っているというのは,何を示すのだろう・・・。
因みに,酒所伏見の代表的銘柄は,個人的には月桂冠だと思う。
私を日本酒党(正確には冷酒党)にした罪な酒だ・・・。
あれ(と地元の「蔵王」)の 300ml瓶を飲んだことが,そもそもの間違い,ではなく始まりであった・・・。
灘と並んで伏見は,全国区である銘柄を数多く輩出してきたが,黄桜,松竹梅,英勲などは,最もメジャーな存在であろう。
黄桜と松竹梅は,私もよく飲む(と言っても,2Lの紙パックか300ml瓶だが・・・)。


宇治川を渡る頃には,すっかり周囲は住宅地と化していた。
完全に京都ののベッドタウンだろうが,大阪にも十分通える圏内だろう。
宇治を訪れたのは,一昨年の暮れであったが,平等院の門前は瀟洒な門前町が形成され,程良い賑わいが,ちょいとばかり魅力的であった。
宇治茶のペットボトルの自販機が林立していたが,今まで飲んだどのお茶よりも美味に感じられた。
嵯峨嵐山と共に,宇治は大宮人の別荘地であったようで,多くの歌に詠まれた。


朝ぼらけ 宇治の川霧たへだへに あらはれわたる 瀬々の網代木
                                          (権中納言定頼~「千載集」)

わがいほは 都の巽鹿ぞ棲む よをうじやまと 人はいふなり 
                                                        (喜撰法師~「古今集」)


と,咄嗟に百人一首の2首が思い出された。
水量豊かな川と,緑なす山という組み合わせは,日本人ならではの美意識が躍如としていると思う。
古来,豊かな自然と共存共生してきたからこそ,こうした美意識が自然と備わってきたのだろう・・・。


木津川を渡ると(近鉄は渡らないが),いよいよ大和路だ。
尤も,最初の停車駅である高の原は,完全に新興住宅地のど真ん中の駅故に,情緒は無い。
むしろ地図を見て,前方後円墳と溜池が散在する地形を読んでいた方が,楽しいと思う。
そして大和西大寺駅。
奈良線と京都線,橿原線の分岐点である近鉄の要衝であるが,ここを起点に西大寺(東大寺の対象の位置にある寺)と秋篠寺(東洋のミューズと呼ばれた妓芸天が最高)を見て,西の京に向かった3年前は,充実した旅程であった。
一昨年は,ここをベースに平城宮跡を見て,市内へ向かった。
で,今回は乗り換えもなく,近鉄奈良へ一直線だが,この西大寺駅は,駅ビルの食料品売り場が充実していたことを付記しておこう。
さらに,電車の展望デッキも有った。
只の乗り換え地点とするには,惜しい駅である。
但し,平城宮跡を経て,奈良駅へのバスの便は良くないが・・・。


あまりに広大な平城宮跡(の一部)を横切る。
夜にライトアップされる朱雀門が見え,奥に,法隆寺金堂をモチーフにしたという大極殿も分かった。
一昨年は,ここを歩き回って,家族の顰蹙を買ったものだった。
そう考えると,西大寺-秋篠寺-唐招提寺-国立博物館-奈良公園・・・と歩いた3年前の旅程は,確かに充実していた。


感慨に浸る間もなく,あっという間に電車は地下に潜ると,奈良駅に滑り込む。
京都-奈良は近い。
いよいよ,南都の町歩きが始まる。
今回の最大の目当ては,何と言っても十二神将像で有名な新薬師寺。
その奥の白毫寺には,一度訪れたことがあったが,新薬師寺だけは未見であった。
それが故に,期待も膨らむ・・・。
バスプールに家族を待たせ,バスの案内所へ単身走って,子ども用のフリー切符を買う。
250円。
京都同様3回乗れば元を取る・・・。
それにしても人が少ない。
どこに行っても人だらけの京都とは大違いだ。
それが故に,関西への旅行では必ず奈良を訪れることにしている。
京都が純和風の平安千年の都を今に伝えるのに対して,奈良は遣唐使によって齎された大陸の風気を伝える。
どちらが・・・と,言われれば返答に窮するが,近鉄奈良駅から東の奈良公園方面を見て,若草山の頂が確認された瞬間,改めて異郷に来たことを思った。
新幹線を降り,烏丸口から京都タワーに代表される京都駅前を見て,平安の都の空気を感じたのと同種の感慨が,湧き起こっていた・・・。





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