自作小説♪ 【再会】 /(紅葉)11月
- カテゴリ:自作小説
- 2013/11/04 15:29:13
気が付くと、雑木林の中を無我夢中で歩いていた。落ち葉がざくざくと音を立てる。まだ信じられないでいる。彼女が死んでしまったことを。
夏に来た時は、青葉が茂って、涼しげで、生き生きとして、とても美しい所だった。今は夕日が辺りを悲しく染めて、紅く色付いた葉が、切なく風に揺れている。
彼女の影を探しに来た。なぜか、ここに来れば会えるような気がして。
切符を買って、急いで乗り込んだ電車は、進むにつれ人が減って、まるで別世界に僕を連れ込んで往くようだった。それでも構わなかった。どんな世界であれ、再び出会えるのなら。
日がかなり沈んで来た。僕は走った。足元の落ち葉が舞う。太陽よ、もう少しだけ時間を下さい。彼女と過ごしたあの日を、どうかもう一度だけ僕に……。
キラリ、と一瞬輝くと、無情にも山の向こうに沈んでしまった。その時。ざぁっと音を立てて、沢山の紅葉が渦巻いた。冷たい秋の終わりの空気が、肌を掠めていく。そしてその向こうに。――彼女がいた。
「実季子!!」
体中から絞り出して、出来るかぎりの大声を上げる。彼女は無数の木の葉の向こう側で、優しく、優しく、微笑んだ。
「行かないでくれ!!」
脚が竦んで動かない。僕が来るのを拒むように、彼女は微笑み続けている。――そして。最後の光の粒が消えてしまうのと同時に、紅葉も、彼女も、消えてしまった。僕はしばらくの間、瞬きすすら出来なかった。
終電になんとか乗り込み、冷えてしまった手足を揉む。車窓から、思い出の景色が反対側に流れていく。不思議と、心は満たされていた。
本当の本当に、最後の一瞬。消えてしまう前に、彼女が言ってくれたような気がした。
“生きて”
と。
一ヶ月前の、まだ秋が始まったばかりの頃、僕の恋人、島田実季子は死んだ。交通事故だった。別れの言葉すら聞けないままで、僕は途方に暮れた。死んでしまおうかとも思った。今日、なぜかあの場所に足が向いたのは、彼女の仕業ではないかと思う。
「ありがとう、実季子。」
温かい息を、手に吹きかけてみる。僕は、生きている。彼女が見られなかった景色、彼女が聴けなかった音楽。彼女が生きられなかった人生。変わりに、なんて、おこがましい事は言えないけれど、生きてみようか。見てみようか。聴いてみようか。
「……実季子。」
その愛しい名前を何度も何度も呟きながら、ガタンゴトンと、揺られる。
ふと気が付くと、ジャケットの左胸ポケットにいつの間にか紅葉が一枚入り込んでいた。そっと取り出して、眺めてみる。また、行ってみよう。あの場所へ。僕はいつまでも、彼女と共にいたい。会えなくてもいい。あの笑顔を忘れないでいよう。
もう一度ポケットにしまい、胸に手を当てた。彼女の鼓動が、微かに甦ったような気がした。僕は、いつまでも隣にいるよ。そう、呟いた。
end
生きる、って大変なことだから。
でも、彼は生きるという選択をした。
その未来が明るい道であるような気がしました。
というところでしょうか
素敵なお話ですね
うまいですね
悲しい、切ないお話だと思いましたが、
>「〜生きてみようか。見てみようか。聴いてみようか。」
のところが前向きでとても好きです(*´∀`)
対比がせつなくって、幻想的な映像が目に浮かびましたw
また春になれば若葉が映えて美しい森に返ることでしょう。
お礼をここに述べさせて頂きます。
とても嬉しいです。
私自身、ものすごくそう感じます。喪ってから生きてくるものがあるように思います。
どこかにまだ生きてるんちゃうかなーって思ってしまうんです。
この先彼がどう生きていくか、見守ってやって下さい。
ニコタをと外部の世界から自分を離し、
大量虐殺の現実と睨め合った私です。
心の中になにかがのこりました。
生きていることの有難さと生きることの無情さは忘れ難い人との別れから学ばされる・・・主人公が恋人の名前を呟きながら彼女の分まで生きようと思う姿に、こんな思いを感じてしまいました。
時間がかかるのでしょうか?・・・とか考えた・・・
そんな思いの伝わる、秋らしいお話で
切なくなりました。
彼女の思いを彼は受け取って
幸せになって欲しいです。
そんな思いを抱きました。
素敵な小説ですね。