Nicotto Town


木漏れ日の下


小説【平和を守る事が真実か、武力こそ正義か】(3

「おいロビア! ベルスカ地区が爆撃を受けてるってよ! 兵士の数が足りねぇから援軍要請だ!」

 冷たい肉の塊となった男の死体を眺めながら戦場の音に耳を澄ましていると、同じ兵士であるジェンス・ベクトーラが戦闘機からの爆撃を避けるべく民家に転がり混んできた。土埃で薄汚れた軍服、血塗れの銃、日焼けした浅黒い肌。金髪の短い髪を振り乱し、力ない青い瞳を光らせて叫ぶ。鼓膜を劈く爆音に心臓を揺らし、脳を侵食する滾った血が殺気を膨らませ、自身の中に燃えている興奮は最高潮に達していた。人を殺すという事は、命を奪う、時を止めてしまうという事。それはこの上ない衝撃と罪悪感がある。その感覚がたまらないのだ。冷静さを保ちながら興奮を隠し。確実に時を奪う。表情はどうなっているのだろうか、おぞましく笑っているのか、悲しんでいるのか、怒っているのか。自分でも分からない表情でジェンスに視線を向ける際、目の前の男は、微かに肩を震わせた。

「余計な物を連れてきてくれたな、ジェンス。位置がバレた、ここももう時期攻撃される。今すぐ移動だ……」
 上空を飛んでいる鋼鉄の鷲達は鋭い眼光を光らせて獲物を探している。探している獲物は、自身達。逆賊と呼ばれる者を引き裂く為、鋼鉄の鷲は唸り声を上げて死の攻撃を繰り出してくるのだ。


 青白く荒んだ空を睨みつけると、鋼鉄の鷲達が円を描くようにして舞、地上では飢えた狼たちが餌を求めて走り回る。もうこのエリアは危険だ。恐らくは、エリア61に潜伏していた自国軍人の約半数が殺されている。悍ましく蔓延する血と火薬の臭いに嘔吐しそうだった。自身の後ろを懸命に走るジェンスという名の少年は。
 廃墟と廃墟の間を縫うようにして姿勢を屈めて移動するさなか、足元に転がる死体の山はなんとも悲惨で、少年達の目に影を落としていく。腕、足、首、全てを失って絶命した兵士の亡骸や、逃げ遅れた市民の死体が堆く積み上げられ、まさしく地獄絵図。自身等の腕に残る感覚とは裏腹に、人間の命がいかに呆気ないか感じる瞬間、自身の目に鋭い殺気が宿る。
「おいジェンス、できるだけ姿勢を屈めて目の前の廃墟の中を見てみろ」
「え、なんだよ急に」
 本当にこの男は鈍い。戦場にいながら殺気にすら気づかないとは。それでよく今まで生きてこれたな不思議に思える程だ。自身は、苛立ちを抑える形で目の前の少年の頭を鷲掴み、強引に頭を低くさせてから、姿が見えぬように錆び付いたドラム缶の裏に身を潜めた。廃墟の中には、敵国軍人3人が潜伏していたのだ。

「あの3人は恐らく手だれだ。このエリアの壊滅状態を見る限り、最後の追い込みとして戦い慣れした奴が残る。それに、あいつらの服」
「服?」
「血があまり付着していない。スナイパーなんだよ……あの三人は」
「スナイパーだからって、どうして警戒するんだよ。そんなのいつもいるじゃねぇか」
 そう、確かにスナイパーはいつでもいる。だが、あの三人は、遠距離に有利なスナイパーライフルで近距離戦もやってのけているのだ。少量とはいえ血が付着している軍服が何よりの証拠。スナイパーライフル以外にもハンドガンと僅かなグレネードを所持している可能性が濃厚だ。ここは遠回りをしてと言いたいが。背後にも追ってが来ていた。

「あの三人に挑めば確実にどちらかが負傷する可能性がある……だが、後ろにも敵が迫っているから、ジェンスお前……」
「な、なんだよ」
目の前の少年は怯えた表情でこちらを見据えてくる。子供だ、本当に子供だ。口だけは粋がっていても、脳が着いてこれていない。思わず笑いたくなる表情は、泣く直前の乱れ面。本当に大丈夫なのだろうか。まぁ、いざとなれば……餌として使わせてもらうが。

「死ぬ覚悟あるか?」
「え……」


#日記広場:自作小説

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2012/12/25 13:20
すごい!
がんばりましたね
じっくり読ませてもらいました!

でも、ホント大変そう・・・



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