三月自作 「花『忘れさ草』」
- カテゴリ:自作小説
- 2012/03/01 12:44:29
ワシは悲話がたりの老婆じゃ。
世にも悲しい物語をかたっては人々の心を癒しておる。
今、話すのはある若い男女の、それは悲しい恋物語じゃ。
この紫されこうべの火炎のように、いつ消えるともしれぬ己の魂を見ながら聞くがよい。
その男女の名前はゴォミとコミコじゃ。
二人は幼馴染で、幼い時はいつも二人いっしょに遊んでおった。
二人で遊ぶことがあたり前で、それは二人にとって考えるほどの事でもなかった。
やがて二人は成長して、しだいに二人で居ることも少なく成っていったのじゃ。
人間とはおかしいもので、あたり前があたり前でなくなると、そこで始めて気付くことがある。
ゴォミはコミコのことが好きなのに気付いてしまった。
しかし、若い二人がいっしょに暮らす事は、世間ではまだ許されなかった。
二人は、たまに学校からいっしょに帰るぐらいだったのじゃ。
「コミちゃん、知ってる?忘れな草って花があるの」
「うん、なんかそんな歌があったよね。誰が歌ってる曲だったかしら。忘れちっゃた」
「あはは、忘れないでねって曲なのに忘れるなんておかしい」
「あはは、そうね。でもあんまり興味なかったから」
ゴォミは久しぶりにコミコと帰る学校の帰り道を楽しみにしていた。
「今日朝学校へ行く時に、変なかっこうしたお婆さんがその花を売っていたんだ。恋人を忘れられないようにする花って言って売っていた。誰も買っていなかったけど、今でも売ってるかな。青い小さな可愛い花。売ってたらコミちゃんにプレゼントするね」
「ゴォちゃんのこと忘れる訳ないでしょ。小さい時から兄妹みたいに遊んでいたのだから」
「うん、そうだけど。可愛い花だからプレゼントしておくよ。そんなに高くなかったし。あっ、まだ居る居る、へんなお婆さん。あそこで売ってるんだよ」
ゴォミはコミコの手を掴むと、そこへ気の乗らないコミコを引っ張っていった。
「お婆さん、花、まだある?」
ゴォミが花を売っている老婆の前に行き、そう尋ねた。
「あぁ、まだあるよ。若いのにこの花を買うのかね?」
「この花を買うのに年が関係するの」
「この花には悲しい物語があるのじゃ」
老婆がゴォミに、そう言った。
「ねぇ、どんな話。コミちゃんも聞きたいだろ?」
「うん、聞きたい」
コミコが答えた。
「じゃ、聞かせてやろう」
老婆がそう言って話しを始めた。
「それはドイツの話、昔、ルドルフという騎士が、ドナウ川の岸に咲くこの花を、恋人ベルタにプレゼントしようと岸に降りたのじゃが、足を滑らし川に落ちてしまい流れに飲まれてしまう。ルドルフは流されながらも花を岸に投げ、「僕を忘れないで」と叫んで溺れ死んでしまうのじゃ。残されたベルタはルドルフの墓にその花を供え、彼の最後の言葉をこの花の名前にしたのじゃ。バカな男じゃのう。花のために溺れ死ぬとわ。話を聞いてくれた礼にこの最後の花をくれてやるわ」
老婆は最後に残っていた花をゴォミに渡すと、すぐに何処かに消えてしまった。
「やった~!ただで花もらっちゃた。コミちゃんにプレゼント」
ゴォミはうれしそうに老婆にもらった花をコミコに渡した。
コミコはゴォミに貰った花を大切に育ていた。
ある学校が休みの日である。
試験も終わり時間の空いた二人は、久しぶりに映画を見にいくことになった。
参考書を買いたいと先に街に出掛けたゴォミと、コミコは映画館の前で落ち合うことになっていた。
ゴォミが選んだ映画は、放射線により巨大化した昆虫が人類を襲う映画だが、コミコは恋愛ものの映画がみたかった。
コミコは出掛ける前に、ゴォミにもらった花に水をやり花の匂いをかいだ。
花から、どこか懐かしい匂いがした。
コミコは家を出て街の映画館に行くために電車に乗った。
コミコはここまでは正常だった。
しかし、次ぎの瞬間、何のために電車に乗ったのか思い出せなくなっていた。
それはコミコが嗅いだ花の匂いのせいだった。
老婆がゴォミにわたした花は、忘れな草の花でなく忘れさ草という記憶を障害する匂いをもつ花だったのだ。
コミコは焦った。
何で今、電車に乗っているのか思い出せない。
コミコは次ぎの駅で降り家に帰ってしまった。
約束をすっぽかされたゴォミは、しかたなく一人で映画を見て家に帰ったが、コミコとの久しぶりのデートを楽しみにしていたのでショックが大きく、映画の内容も思いだせないほどだった。
この事件があってから二人の仲は急に下り始めた。
ゴォミはコミコがだんだんと自分に冷たくなっていくような気がして近寄り難くなってしまっていた。
コミコもゴォミの記憶が徐々に消えていくことを不思議に思っていので、ゴォミを思い出そうと、ゴォミにもらった花の匂い必死で嗅ぎ続けていたのだ。
やがてコミコからゴォミの記憶だけが完全に気えた。
そして、ゴォミは失恋のショックでうつ病となり飛び降り自殺をしてしまった。
ワシの悲話はどうじゃった。
悲しく無い奴もいるだろう。
ワシは悲しみの種を撒き続けておる。
いつか、お前にも訪れるのじゃ。
ホラーというか、現実に痴呆の問題として起こっています
パールさんの小説を読みました
忘れたヒトはいつも新しい感覚で新しい恋ができ
忘れられたヒトは古い思い出に縛られて殺人者に
人間とは罪深い生き物ですね
あまり信じない方がお互いのためかも
ほんと!わるい婆さんです!こんな若い二人にあげるなんてっ!
プンプンヽ(`Д´)ノプンプン
失恋したら早く忘れて楽になりたいのに
人間の脳は悲しいことをきっちり覚えてしまいます
皮肉な人間の脳
痴呆になったとき人間は楽しかった思い出と悲しい思い出とどちらを記憶してるか?
興味のあるとこです
きっと悲しい思い出のほうが残る気がします
それ事態が悲しいお話だと思います
造り話なのでお許しくだされ~^^
BENクーさんは純粋ですね
どちらかというと、騙されるタイプ
まだまだ先のお話ですが
長年つれそった奥さんが病気で記憶を無くされるかもしれません
記憶いっぱいの自分と記憶を無くした愛するヒト
それでもBENクーさんはその人につくせます。きっと
はい、あかんでっせです
でも、話の種を考えるのが大変でぇ~す
誰かいい種、教えてくれ~です
それって本当に悲しいですね。
それにしても…
スイーツマンさんの仰る通り、悪い婆さんですね~
鉄拳!
いずれにしても本当に「悲話」で、ゴォミが可哀相でなりません・・・
あんまり蒔き散らすといかんよねぇ? ^^;
悲話語りのばーちゃん・・・。
そのとうり、”た”ぬけです
ご指摘ありがとうございます
読み直してるのですが、自分では”た”入りで読めてしまいます
頭と視覚の錯覚こわいです
修正せずにそのままで
追伸
「コミコもゴォミの記憶が徐々に消えていくことを不思議に思っていので、ゴォミを思い出そうと、ゴォミにもらった花の匂い必死で嗅ぎ続けていたのだ。」の
不思議に思っていので って
不思議に思っていたので、ではないでしょうか?
勿忘草は悲しい花
思い出に生きる人の花です
まだ、思い出に浸ってる時ではありません
思い出を心にしまい込んで進まなければ!
http://www.nicovideo.jp/watch/nm8586888
↑ の勿忘草の歌、きっと最愛の奥さんが痴呆になったご主人の嘆きでしょうね
思い出そうと頑張って匂い嗅いでるあたりがケナゲでちょっとホロリ…
ゴォミくん、ショックは解るけど思い出してもらう努力くらいしようよvv
はい、そのように少し思いました
悲しみに落ち入るように仕掛けをしておき
陥った者の話をする
よく考えてみると、ひどい婆さんです
他人の不幸が蜜の味がする限りこの婆さんの仕事なくなりません
架空婆さんだから成せる技ですね
忘れることは、本人にとっては何でもないこと
でも、覚えている人間にとっては大変なことです
その差は何だろうと思います
きゃ、
悲話がたり婆さん、新しいキャラです
ただのいじわる婆さんかも
感動物になると思っていたら、ホラーに落とすあたりがさすがだわ!
http://www.nicovideo.jp/watch/nm8586888