名前を消した男 17
- カテゴリ：自作小説
- 2011/04/29 22:25:36
僕は寒さを感じた
体はすでに寒さに反応して震えていたが、意識にはのぼってきていなかったのだ
人間の死体を見たのと津波の恐怖が僕を狂わせたのだろう
「寒い」
僕はそう呟いて泥まみれの手袋をした両手を見た
そして左手には拳銃を握っていることに気がついた
その重さが本物の拳銃だということを僕に伝えているがそれが本物だということがまだ分かっていなかった
すべてが悪夢に思える
僕は自分の手から目の前の鉄橋に視線を移した
鉄橋の下は濁ったどぶ河の流れのようになっていた
流れが河口から山なので津波だと分かるが、反対なら
河の氾濫だと錯覚してしまうだろう
やがて河の流れは止まり海に向かっての流れに変わった
浮いている無数の木の破片がその動きを変えたのだ
ぶつかりながら回転し海に向かう木
橋脚にぶつかり止った木に乗り上げる木
僕は振り返り海の方向を見た
そこには浮かぶ木にまじって底を見せた車が浮かび
流れていた
『車が流れた』
僕はそう思った
ガラスを割ったので車の中まで水が流れ込み車の状態が変わり流れ出したのだろう
『トンネルの中に置いた荷物が流されている』
僕は車と木の流れの中に荷物と死体を思い浮かべた
荷物は残り死体は消えることを願っている
自分かってな願いに僕は思わず苦笑した
『勝手な生き物だ』
自分で自分をそう思い自分をあざけったのだ
津波への恐怖がやわらいだのだろう
『寒い』
僕はまたそう感じ歩き始めていた
『とりあえず島越（しまのこし）に行こう』
僕はそう考えトンネルに入った
食欲と性欲ですね
でもお腹がすいていたら性欲は減退するみたいです
３月の東北は、まだまだ寒いでしょう。
北海道では、４月にも雪が降りました ＾＾；